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答弁本文情報

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昭和三十年七月十二日受領
答弁第一九号
(質問の 一九)

  内閣衆質第一九号
    昭和三十年七月十二日
内閣総理大臣 鳩山一(注)

         衆議院議長 (注)谷秀次 殿

衆議院議員(注)山利秋君提出財団医療法人に対する相続税その他課税上の取扱に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。





衆議院議員(注)山利秋君提出財団医療法人に対する相続税その他課税上の取扱に関する質問に対する答弁書



一 財団医療法人が設立の際寄附を受けた財産に対し、相続税法第六十六条第四項の規定(公益を目的とする事業を行う法人に対する財産の増与または遺贈に因り贈与者の親族などの相続税または贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められる場合には、財団を個人とみなして相続税または贈与税を課する旨の規定)を適用することが違法ではないかという疑点について。

1 財団医療法人が設立の際寄附を受けた財産に対し、相続税法第六十六条第四項の規定を適用することが、適法であることについて。
  財団医療法人が設立の際寄附を受けた財産に対し相続税法第六十六条第四項の規定により相続税又は贈与税を課税することは次の理由により適法であると考える。

 (一) 相続税法第六十六条第四項は、法人税法第五条第一項第一号または第三号に掲げる法人その他公益を目的とする事業を行う法人に対する財産の贈与、遺贈または包括遺贈に因り贈与者等の親族その他特別の関係がある者の相続税または贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められる場合には、当該法人を個人とみなして、これに贈与税または相続税を課することを規定している。
    この規定は、昭和二十七年一月一日から設けられたものであるが、その目的とするところは、個人がその財産の所有権を一定の者に帰属させることに因り、通常であれば課されるべき贈与税または相続税の負担を回避することを防止することにある。すなわち、寄附にかかる財産の使用収益から生ずる利益が直接または間接に寄附者の相続人その他の親族などが享受することとなると認められ、またはその寄附にかかる財産が最終的にはこれらの者に帰属することとなると認められるにもかかわらず、寄附の相手方がこれらの者以外の者であつて、しかもその相手方がその財産の寄附についてなんらの課税を受けないとすれば、相続人その他の親族などは、贈与税または相続税を回避する結果となるので、このような場合に、その寄附の相手方を個人とみなして課税しようとするものである。
    現行相続税法は、受贈者または受遺者が個人である場合には、贈与税または相続税を課することとしている。また、会社などの営利法人については、その設立に当つて個人の財産が法人に移転することはもとよりあるけれども、この場合には、同時に必ず当該財産に対応する出資持分の取得があるから、贈与税または相続税回避の問題は生じない。
    そこで、相続税法第六十六条第四項は、このように租税負担回避の原因となる法人として、一般的に「公益を目的とする事業を行う法人」と規定しているのである。

 (二) また、医療法人は、その根拠法である医療法において、営利性の制限(第七条)及び剰余金分配の禁止(第五十四条)を始めとして設立の認可(第四十四条)、定款及び寄附行為の変更の認可(第五十条)、決算の届出義務(第五十一条)、府県知事の報告徴収、業務停止及び設立認可の取消の権限(第六十三条、第六十四条、第六十五条及び第六十六条)が規定され、更に第六十八条において民法第四十条(寄附行為の補充)、第五十九条第三号(監事の報告義務)及び第六十五条(表決権の平等)の規定を準用する等一般の営利法人に比して多くの監督的制限が設けられていて、特に剰余金が禁止されている点からみても、医療法人が「公益を目的とする事業を行う法人」に該当することは、文理上明らかである。

 (三) なお、法令で「公益」という語を用いる場合、その範囲は当該法令の内容により必ずしも同一でないことはむしろ当然であつて、たとえば、税法においても、所得税法施行規則第七条の三第六号は「運輸業、通信業、倉庫業、保管業、ガス業、電気業、水道業及び衛生業」を公益事業に含むと規定し、また、その他の法律においても、労働関係調整法第八条は「運輸事業、郵便電信又は電話の事業、水道電気又は瓦斯供給の事業、医療又は公衆衛生の事業」を公益事業と規定し、公益事業令第二条第二号は「電気事業、ガス事業」を公益事業と規定しているがごとくである。

2 法人税法上医療法人と公益法人との取扱に差異がある点および相続税法上公益を目的とする事業の用に供する財産が非課税となつているのにかかわらず、医療事業の用に供する財産がこれに該当していない点からみて医療法人は、相続税法第六十六条第四項にいう「公益を目的とする事業を行う法人」に該当しないのではないかとの点について。
  法人税法上医療法人と公益法人との取扱に差異があることおよび相続税法上医療法人が第六十六条第四項の公益を目的とする事業を行う法人に該当するものであることは、次の理由により適法であると考える。

 (一) 法人税法第五条の規定が民法第三十四条に規定する公益法人に対し、原則として、課税していないのは、その公益性によるとともに、その非収益性に着目しているからであると思われる。それであればこそ、公益法人であつても収益事業から生ずる所得に対しては、課税する建前をとつているのである。医療法人については、その公益性はともかく、その性格上収益性がないとみるわけにはいかないので法人税法においても、特別の取扱をしていないものである。

 (二) 相続税法第十二条第一項第三号及び第二十一条の三第一項第三号の規定は、公益を目的とする事業の用に供する財産のすべてを非課税としているのではなく、そのうち「政令で定めるもの」がその公益を目的とする事業の用に供する財産だけに限られているのである。
    しかして、これらの規定に基く政令においては、慈善、学術、宗教等社会通念として収益性のない事業の用にもつぱら供する財産をその範囲に入れているのであつて、社会通念としても現実問題としても収益性をもつている医療法人の事業の用に供する財産はこの範囲に入らないものであつて、当然課税対象となる。

3 財産を医療法人に寄附すれば、相続の場合相続財産はそれだけ減少するが、そのことは当初から財団医療法人制定の目的であつたこと及び財団が解散してその財産が個人に帰する場合には、相続税の身替り税金として所得税がかかることとなるから、医療法人に対する財産の寄附は、不当に相続税を減少する結果となるとはいい切れないとの点について、医療法人に対し財産を寄附することに因り、寄附者の親族その他特別の関係がある者の相続税又は贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められる場合というのは、当該寄附した財産の所有権が公益を目的とする事業を行う法入に移つているにかかわらず、当該財産の使用収益から生ずる利益が、直接又は間接に、寄附者の親族その他特別の関係のある者が享受する結果となると認められる場合又は当該法人が解散したときにおける当該寄附財産がこれらの者に帰属する結果となると認められる場合を指すのであるから、財団が解散した場合の所得税の問題や財団医療法人制定の目的とは無関係である。

二 財団医療法人が解散して個人経営となつた場合又は社団に改組した場合に、行政上特別措置をとつたことが違法ではないかとの疑点について。

 財団医療法人が解散して個人経営となつた場合又は社団に改組した場合の法人税及び所得税についてとつた取扱は、次の理由により行政上特に妥当性を欠くものと思われない。
 相続税法第六十六条第四項の規定は、一に述べた趣旨により、昭和二十七年における相続税法改正の際に制定され、昭和二十七年一月一日以後行われた相続、贈与又は遣贈について適用されることとなつたところが、同規定の施行当初に設立された医療法人のほとんど全部が、同条の規定のあることを知らず又はその趣旨を十分に理解しなかつたため同規定の適用を受けるべき形態にあつた。
 しかして、漸次同規定の趣旨を理解するに及んで、これらのものはあらかじめ同規定の趣旨を理解していた場合には当然、財団医療法人を設立せずに社団組織の医療法人を設立するかまたは個人経営であつたものとし、法人を解散して従前の個人経営に復帰するかまたは財団組織を持分の定のある社団法人に変更した場合には、これらの実情を勘案して同条の規定を適用しないことに取り扱うことを要請するに至つた。
 国税庁としては、これらの事情を十分検討した結果、同条の規定は、単に相続税または贈与税の負担を不当に減少することを防止することが目的であつて、上述のような事情のもとにおいて財団医療法人が解散または組織変更に因り不当に租税負担を減少せしめる結果となることを改めた場合においても、なおかつ形式的、機械的に同条の規定を適用することはかえつて同条の本来の趣旨を逸脱するとも考えられたので、行政上特別の措置を講じて、これらの財団医療法人で社団に組織変更しまたは個人に復帰したものについては、当初かち社団組織による医療法人を設立しまたは個人経営のままであつたものとして同条の規定を適用しないものとするとともに、法人税および所得税の取扱においても、当初から社団組織による医療法人を設立しまたは個人営業のままであつた場合の負担とできるだけ同一となるよう、必要な調整を加えたのである。御質問の諸点は、すべて右の法人税および所得税の調整措置に関する事項である。

 右答弁する。




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