衆議院

メインへスキップ



答弁本文情報

経過へ | 質問本文(HTML)へ | 質問本文(PDF)へ | 答弁本文(PDF)へ
昭和四十八年十二月二十八日受領
答弁第四号
(質問の 四)

  内閣衆質七二第四号
    昭和四十八年十二月二十八日
内閣総理大臣 田中(注)榮

         衆議院議長 前尾繁三郎 殿

衆議院議員小林進君提出主権の侵害に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。





衆議院議員小林進君提出主権の侵害に関する質問に対する答弁書



一について

 ベン・バルカ事件は、フランスとモロッコという我が国の友好国の間に発生した古い事件であり、また、現在は両国関係が正常に復しているため、事件の経緯につきあまりに詳細にわたつて明らかにすることは外交上適当ではないので、政府の承知しているところを主要点について、次のとおり回答する。

(一) 一九六六年一月一七日、死体となつて発見されたのはべン・バルカ氏ではなく、事件に関連する情報提供者ジョルジュ・フィゴン氏(Georges Figon)であつた。ベン・バルカ氏の生死は今なお確認されていない。

(二) 一九六六年一月、フランス政府は駐モロッコ仏大使を召還し、次いでモロッコ政府は駐仏モロッコ大使を召還したが、国交断絶は行われなかつた。フランス政府がモロッコのウフキール内相及びドリミ国家保安部長に対して国際逮捕状を発したことは政府としても承知しているが、質問主意書に言及されている一九六六年の裁判ののち、一九六七年六月に最終判決が行われ、右によれば、出廷に応じなかつたウフキール内相は無期懲役の宣告を受けたが、ドリミ国家保安部長は無罪の宣告を受けた。
    また、フランス、モロッコ間で新たに大使を交換することが決定されたのは、質問主意書にある一九六八年八月ではなく、一九六九年一二月と承知している。いずれにせよ、事件発生の四年後、種々の経過を経てフランス、モロッコ間の関係は正常に復したのであるが、ベン・バルカ事件については前述のとおり、結局、被害者の生死が確認されていない。

二について

(1) 外交官の身分を有している者の駐在国における行為がすべて公権力の行使であるとは考えられない。
    外交官の行為が公権力の行使にあたるか否かを判別する基準としては、一般的にはその行為が本国の法令による権限に基づいて当該外交官が行う職務行為であるか否かが問題なのであり、このような行為である限り、当該外交官が本国政府(上級機関)から、格別の指示を得ているか否かは関係がない。
    外交官の権限に基づかない行為ではあるが、実質的には外交官としての公的地位に密接に関連したものであり、表見的には外交官の権限に基づく行為とみられるような場合には、かかる行為は公権力の行使であるとみなされる。外交官が私人を強制的に連行するような行為をもつて、外交官としての公的地位に密接に関連しているということ、又は、表見上、外交官の権限に基づく職務行為と推断することは妥当でない。

(2) 外交官の、法令による権限に基づく職務行為について本国政府の指令の有無は関係がないことは前述のとおりであるが、本国政府の指令があつた場合には、その行為は当然にその外交官の職務行為ということとなるところ、そのような指令の存在は、指令があつたとの明白な証拠を入手するか、あるいは、相手国が指令を出したことを認める場合に確認される。

(3) 外交官の行為が公権力としての「外観」を有している場合についての政府の考え方は、二(1)後段のとおりである。

(4) 外交交渉において、当事国がそれぞれの立場に立つて、自らの主張を行う場合に相手国に対し、ある事項について挙証しなければならない国際法上の義務を負担するとか、挙証を要求する国際法上の権利を有するとかということはない。

三について

 「金大中氏は、出国も含めて自由が保障されている」ことは、日韓間で明確に了解されたことである。
 大平外務大臣が李(注)前駐日大使に対して「一日も早く金大中氏を出国させることが望ましい」旨要請したのは、かかる了解を再確認した上で、もし伝えられているように本人が出国を希望しているのであれば了解が速やかに実行されることが望ましいとの考えを述べたものである。

四について

(イ) 国際責任が生じた場合にいかなる措置が責任解除措置としてとられるかについては、事案の性質、内容に応じて、外交交渉で合意されるのが国際的な慣行である。

(ロ) 本件については、政府としては、韓国による日本の主権の侵害があつたと断定すべき証拠がなく、これに対し、韓国は、金大中氏拉致行為は、公権力の行使ではないとの立場をとつた。かかる状況にかんがみ、政府としては、主権侵害が明らかになつた時には、それに応じた責任追及を行う権利を留保した上で、韓国側が少なくとも外国に滞在する自国外交官を監督する義務を怠つた責任について、事件がもたらした反響の重要性を考慮しつつ、前記の国際的な慣行にしたがつて外交的決着をつけたものである。

 右答弁する。




経過へ | 質問本文(HTML)へ | 質問本文(PDF)へ | 答弁本文(PDF)へ
衆議院
〒100-0014 東京都千代田区永田町1-7-1
電話(代表)03-3581-5111
案内図

Copyright © Shugiin All Rights Reserved.