衆議院

メインへスキップ



答弁本文情報

経過へ | 質問本文(HTML)へ | 質問本文(PDF)へ | 答弁本文(PDF)へ
昭和五十二年三月四日受領
答弁第五号
(質問の 五)

  内閣衆質八〇第五号
    昭和五十二年三月四日
内閣総理大臣 福田赳夫

         衆議院議長 保利 茂 殿

衆議院議員石野久男君提出関西電力(株)美浜原子力発電所第一号炉燃料棒折損事故に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。





衆議院議員石野久男君提出関西電力(株)美浜原子力発電所第一号炉燃料棒折損事故に関する質問に対する答弁書



一、十二(1)、(7)及び(8)並びに十三(1)(a)及び(b)、(2)並びに(3)について

 関西電力(株)美浜発電所において昭和四十八年に発生した同発電所第一号機の燃料体の損傷事故及びこれに関する同社の措置については、科学技術庁及び通商産業省において、それぞれ昭和五十二年二月三日付けで文書をもつて同社に対し厳重に注意を喚起し、強く反省を促すとともに、再びこのような事態を繰り返さないよう同社の保安管理体制の総点検等について指示を行つたところである。
 科学技術庁及び通商産業省においては、その後更に本件について検討を重ねた結果、同社が当該事故について報告を行わなかつたことは、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(以下「原子炉等規制法」という。)第六十七条及び電気事業法第百六条の報告を怠つたものであると考え、同社に対し、更に次の措置を講ずることとした。

1 同社に対し、事故原因の詳細な究明及びこれに伴う事後措置が完了するまでの間、美浜発電所第一号機の運転再開を延期すべきことを指示する。

2 原子炉等規制法及び電気事業法の規定に違反した者であつて、主任技術者免状の交付を受けているものに対しては原子炉等規制法第四十一条第三項及び電気事業法第五十五条の規定に基づき、その免状の返納を命ずる手続をとることとする。

3 本件に関する当時の同社内の責任体制を明らかにし、その対応につき遺漏なきを期するよう2の措置と併せて指示する。

4 昭和五十二年二月三日付けをもつて同社に対し指示した事項については、早急にその措置を講ずるよう重ねて指示する。
  なお、原子炉等規制法第六十七条及び電気事業法第百六条に係る違反の点については、既に三年間の公訴時効が完成しているため、現時点では、これを訴追することができない。
  科学技術庁及び通商産業省においては、原子炉等規制法及び電気事業法に基づき、定期検査、立入検査、報告徴収等を行うとともに、従来より原子力発電所における軽微な故障についても、これを報告し所要の措置を講ずるよう指導してきている。
  しかしながら本件については、昭和四十八年以来同社からの報告がなく、適切な行政的対応が遅れたものであり、極めて遺憾である。
  このため、科学技術庁及び通商産業省においては、次の措置を講ずることにより監督を強化する所存である。
 1 通商産業省においては、省内の配置転換を含めて電気工作物検査官の増強を図り、電気事業法に基づく定期検査の実施に関し、同検査官の立会回数及び立会い下における検査項目を増加する等定期検査の一層の充実を図ることとする。
 2 科学技術庁及び通商産業省においては、原子力発電所に対する立入検査を強化し、保安規定の遵守状況、主任技術者の職務遂行状況等に関する監督に万全を期することとする。
 3 科学技術庁及び通商産業省においては、原子炉設置者たる電気事業者に対して報告義務を遵守させることはもとより、運転上その他原子力発電所の工事、維持及び運用に係る軽微な故障についても報告させるよう更に一層指導することとする。

二について

 安全性を確保しつつ原子力開発を円滑に進めていく上には、国民の信頼感を得つつ進めることが何よりも重要であるが、この意味において、本件が国民の原子力開発に対する信頼感にいささかも影響を与えるものであつてはならないと考える。
 今後、かかることのないよう同社に対し、厳正な措置をとることとした次第である。

三について

 原子炉設置者の「技術的能力」の有無については、原子炉の設置から運転にわたる全過程において、原子炉を取り扱つていく上での適確な能力を有するか否かを、設置者の人的、組織的な実態を総合的に審査することにより判断するものであるが、このような観点から同社についても十分総合的に審査した結果「技術的能力」があると認めて原子炉の設置を許可したものである。
 本件に関し、同社が講じた措置については、保安管理上適切さを欠く点があつたと考えるが、同社のこれまでの発電用原子炉の建設及び運転に関する経験を全体的に考えれば、本件によつて、直ちに同社の総合的な「技術的能力」を否定するまでに至るものとは考えられない。

四について

(1)及び(2) 当初の予定では、昭和四十八年三月十五日に発電を停止して定期検査を実施したのち、同年五月二十九日に発電を再開することとしていたが、定期検査中に発見された蒸気発生器の細管減肉に係る修理作業に日時を要したため、同年八月十日になつて発電を開始した。

(3) 定期検査に要する業務量はぼう大であるため、その実施に当たつて、通商産業省においては、主要な検査項目について電気工作物検査官による立会検査を実施し、その他の検査項目については、電気事業者が自ら行つた点検及び測定の結果をチェックしている。
    美浜発電所第一号機に係る昭和四十八年の定期検査においては、蒸気発生器、原子炉圧力容器、一次系配管等を中心に当初予定した検査項目に従い、立会検査を実施した。

五について

 昭和五十一年十二月以降同社から事情を聴取したところによれば、同社が燃料棒破損を発見した経緯は次のとおりである。

(1) 昭和四十八年四月四日二十一時三十五分ごろ、燃料体の炉心から燃料プールへの移送作業中に同社の燃料管理担当者が双眼鏡により燃料体番号を確認した際、C三十四燃料体の燃料棒に折損があることを発見した。
    当時、燃料体検査については、同社が自ら行つた検査結果を報告させることとしていたため、通商産業省の電気工作物検査官は立ち会つていなかつた。

(2) 同社は、C三十四燃料体の損傷を発見したとき、直ちに、発電所内外の環境、燃料体移送作業員の被曝状況及び燃料取扱装置の作動状況について点検を行い問題の生じていないことを確認した。
    なお、(1)で述べたとおり、通商産業省の電気工作物検査官はこれに立ち会つていなかつた。

(3) 折損した燃料体C三十四は炉心のバッフル板のコーナー部に位置し、その二面がバッフル板と接している。C三十四を構成する燃料棒のうち、バッフル板の最コーナー部に位置しているもの一本が上端から下に約八十センチメートル、その隣の一本が一番目と二番目の支持格子の間の部分から下に約九十センチメートルにわたつて欠落していた。
    なお、折損部分の寸法については昭和五十一年十二月以降通商産業省において調査した結果、判明したものである。

(4) 被覆管及びペレットの破片は、原子炉容器フランジ部、炉心バッフル支持板、下部炉心支持板、原子炉容器底部等に散乱して発見された。

(5) 当初の同社からの事情聴取では明らかでなかつたが、その後科学技術庁及び通商産業省において行つた立入調査等により被覆管の破片のうち、回収された部分の長さは約百五十センチメートル、未回収の部分の長さは約二十センチメートル、また、ペレットの破片については、回収された部分の重さは約五百グラム、未回収の部分の重さは約七百グラムであることが判明した。

(6) 被覆管、ペレット等の破片の回収作業は、つかみ工具及びエダクタ装置を用いて昭和四十八年四月十一日から十七日、同年五月十四日及び十五日並びに同年五月二十二日及び二十三日の三回にわたつて行われた。この作業に従事した作業員は十八人であつた。

(7) 回収作業中の作業現場における空間線量率及び一次冷却水の全放射能濃度は、それぞれ三ないし五ミリレントゲン毎時、千分の四マイクロキュリー毎立方センチメートル前後であり、回収作業中及びその前後を通じて特段の変化は認められなかつた。
    なお、定期検査中においては原子炉の運転を停止していたため特に一次冷却水の核種分析は実施していない。

(8) 美浜発電所第一号機は、昭和四十八年三月に原子炉の運転が停止され、定期検査のための作業が開始された。
    定期検査中に同発電所第一号機に係る作業を行つた者の被曝線量は別表第一に示すとおりである。なお、同年四月から五月にかけて行われた回収作業に従事した者の被曝線量は別表第二に示すとおりである。

(9) 同社が定期検査に際して提出した文書には、上記(1)から(8)までの経緯は記載されていない。

六について

 昭和四十八年の定期検査においては、燃料検査として、炉心に装荷されていたすべての燃料体についてペリスコープ又は水中テレビによる外観検査及びシッピング法による漏えい検査を同社に実施させ、同社から報告された結果を通商産業省においてチェックすることとしていた。このため、通商産業省の電気工作物検査官はこの燃料検査には立ち会つていなかつた。同社は、C三十四を含め百二十一体の燃料体についてこれらの検査を実施した結果、第一領域の四十一体中二十体にコラップス(つぶれ)、第一領域の四十一体中三体、第三領域の四十体中一体に漏えいがある旨通商産業省に報告した。

七について

 昭和四十八年の定期検査時に第一領域の燃料体四十一体のうち中心燃料体を除く四十体について燃料交換を行うことがあらかじめ予定されていたが、右の六についてで述べたように、第一領域の一部の燃料体にコラップス又は漏えいが認められたため、第一領域の燃料体四十一体をすべて取り替えるとともに、第三領域C三十三燃料体に漏えいが認められたため、C三十三燃料体及びこれと対称の位置にあつたC三十燃料体を取り替えた。
 このほかに、昭和四十八年当時同社から通商産業省に対して行われた報告では、CO九燃料体を中心燃料体として用いることとしたため、これと対称の位置にあつたC三十四燃料体を取り替えたとしている。
 なお、燃料体の装荷作業は、昭和四十八年四月十九日から四月二十六日にかけて行われる予定であつたが、実際の作業は同年六月十八日から六月二十三日にかけて行われた。

八について

(1) 本件については、昭和四十八年以来同社からの報告がなく、通商産業省においては昭和五十一年十二月三日に行つた立入調査によつて初めてその実態を承知したものである。

(2)及び(4) 通商産業省においては、まず、昭和四十八年当時の一次冷却水中の放射能濃度等について、昭和五十一年八月二十五日の衆議院科学技術振興対策特別委員会における石野委員の質疑の後直ちに同社に対し資料の提出を指示し、同年九月二十四日に同社から受理したデータを検討したところ質疑において指摘されたような燃料溶融事故の発生は認められなかつた。
    次いで、燃料体の損傷の有無を確認するため、目視による外観検査のほか、ペリスコープ及び水中テレビにより、使用済燃料の詳細な調査を行うこととし、十月から十一月にかけて作業員の手配、調査機器の組立て及び据付け等にとりかかるよう指示した。また、その際水中に置かれた使用済燃料の外観検査の一環として写真撮影をも行い得るよう、水中照明の据付けを行うとともに、水面の波を抑える方法を検討させた。
    他方、この間において詳細調査を最も効果的に行うため必要な水中テレビについては既存の装置が不調であることが判明したため、その修理の可能性を検討させるとともに、既に新規に発注済みであつた装置の納入時期の繰上げを図らせることとした。
    この結果水中テレビについては既存装置の修理は困難であり、同年十二月末に繰上納入されることとなつた新しい装置を待つ以外に方法がないことが十一月末に明らかとなつたため、とりあえず十二月三日に立入調査を行い、外観検査及びペリスコープによる観察を実施したものである。

(3) 同社は、通商産業省の立入調査までの間、燃料溶融事故については明確に否定しており、また、燃料体の損傷事故については何らの説明も行わなかつた。

九について

 同社は本件燃料体の損傷事故を発見した際、当時美浜発電所に来所していたWH社の技術者を通じてこれをWH社に報告している。その結果、WH社から、スペインのゾリタ発電所における燃料体の損傷事故と同様に、本件がバッフル板の隙間からの水流によつて生じたものであるとの連絡を受け、昭和四十八年五月十九日から二十一日までの間、水中遠隔操作によりエアハンマーを用いてバッフル板の間隙を調整した。これらの経緯については、昭和五十一年十二月三日に行われた通商産業省の立入調査以前には、同社から、通商産業省に対し何らの報告もなくその後の同社からの事情聴取において初めて報告されたものである。
 本件と同様の事故については、右に述べたスペインのゾリタ発電所のほか、昭和五十年末にアメリカのポイントビーチ発電所においても発見されており、我が国でも昭和五十一年十一月に同社高浜発電所第二号機の定期検査中に発見されている。
 なお、美浜発電所第一号機のC三十三燃料体に生じたピンホールは、燃料棒の製作時に被覆管内に混入した湿分が原子炉の運転中に被覆管の材料として用いられているジルカロイを水素化し、脆化させたことによるものであると考えられる。

十並びに十二(5)及び(6)について

 美浜発電所では、運転中は原子炉出口から一次冷却水の試料を採取して、全放射能の濃度については一日一回、よう素百三十一の濃度及び同位体比については週二回測定するほか、必要に応じ核種分析を実施し、これを記録している。昭和四十五年十一月の営業運転開始から昭和四十八年三月の定期検査開始までの記録によれば、その大部分の期間において運転中の一次冷却水中の全放射能の濃度は五ないし一〇マイクロキュリー毎立方センチメートル、よう素百三十一の濃度は〇、一マイクロキュリー毎立方センチメートル前後、よう素の同位体比は十分の一前後で推移しており、美浜発電所の保安規定に定められている運転中の一次冷却水中のよう素百三十一の濃度の限度五マイクロキュリー毎立方センチメートルを十分に下回つている。
 これらの記録からみて、特に昭和四十八年に一次冷却水中の放射能濃度が上昇したことは認められないが、現在運転中の他の発電用原子炉に比べ、比較的高い水準で推移していることは事実であり、これは、C三十四燃料体の損傷及び六についてで述べたような燃料体四体の漏えいによるものと推定される。
 また、昭和四十八年一月によう素百三十一のピークが記録されているが、同じ時期の全放射能の濃度には特に変化が認められないので、この時点において燃料体の急激な損傷事故が生じたものとは考えられない。
 なお、本件燃料体の損傷が生じ、一次冷却水中に放射能の放出があつた時点については、これらの記録のみからは推定し難く、現在詳細調査を継続中である。

十一について

(1) 気体及び液体廃棄物については、各々その放出源、すなわち排気筒及び排水口において、モニタにより放射能濃度を常時監視している。また、発電所の敷地境界付近では、モニタリングポストを設け、当該地点の外部線量率を監視している。これによつて放出された放射性物質の濃度が周辺監視区域境界において、法令等で定められている基準を下回つていることを確認している。

(2) 美浜発電所放水口周辺のホンダワラ中のコバルト六十及びマンガン五十四については、同発電所からの排液による寄与があるものと考えられる。なお、このホンダワラ中のコバルト六十及びマンガン五十四の量は極めて微量であり、環境安全上問題はないと考えている。

(3) 美浜発電所第一号機からの放射性液体廃棄物の核種別の放出状況は別表第三に示すとおりである。

(4) 原子力発電所からの放射性廃棄物の放出については、(1)で述べたとおり、放出源において監視を行つており、安全監視上、問題はないと考えている。

十二(2)から(4)までについて

 美浜発電所第一号機の昭和四十八年の定期検査については、原子力発電技術顧問会において、昭和四十八年三月に当該定期検査において重点を置くべき事項等に関して検討を行い、その後四月から十月まで六回にわたつて、定期検査結果等に関して検討を行つている。
 その際、燃料についてはコラップスについて、ペレットの稠密化による影響等、蒸気発生器については蒸気発生器の運転計画等の検討資料が提出されている。
 なお、定期検査に関する資料の一つとして一次冷却材放射能濃度(よう素百三十一)の推移に関する資料が提出され、これに基づいて検討が行われたが特に問題とされなかつた。

十三(1)(c)について

 原子炉等規制法は、発電用原子炉の設計及び工事の方法等に係る安全規制について同法の適用を除外し、電気事業法によることとしているが、これは、二重規制を避けるとともに、原子炉を含めた原子力発電所を構成するすべての電気工作物に係る安全規制を一括して電気事業法に基づいて行うための措置であつて、安全性確保の点で問題があるとは考えていない。

 右答弁する。


別表第1

美浜発電所第1号機における第二回定期検査期間中の作業者の被曝線量



別表第2

回収作業従事者の被曝線量



別表第3

美浜発電所第1号機からの放射性液体廃棄物の核種別の放出状況(昭和48年)





経過へ | 質問本文(HTML)へ | 質問本文(PDF)へ | 答弁本文(PDF)へ
衆議院
〒100-0014 東京都千代田区永田町1-7-1
電話(代表)03-3581-5111
案内図

Copyright © Shugiin All Rights Reserved.