答弁本文情報
昭和五十九年八月二十一日受領答弁第四六号
内閣衆質一〇一第四六号
昭和五十九年八月二十一日
衆議院議長 ※(注)永健司 殿
衆議院議員高沢寅男君提出非人道的な兵器である核兵器に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。
衆議院議員高沢寅男君提出非人道的な兵器である核兵器に関する質問に対する答弁書
一及び二について
広島市及び長崎市に対する原子爆弾の投下は、老幼婦女子を含む広い範囲にその害が及ぶ人道上極めて遺憾な事態を生ぜしめたものであり、国際法上の観点からも問題となり得る点があつたので、交戦状態にあつた当時これに強く抗議したものであり、また、ポツダム宣言受諾を表明した詔書においても、これについて人道上の観点からの見解を表明したものであり、これらは当然であつたと考えている。
なお、原子爆弾の投下は、国際法違反であるとはいい切れないが、国際法の根底にある基本思想の一たる人道主義に合致しないものであるとの意味において国際法の精神に反するというのが、従来からの政府の見解である。
御指摘の訴訟は、原子爆弾投下によつて被害を受けたとする原告らが国の平和条約の締結によつて米国に対する損害賠償請求権を喪失するという損害を被つたことを理由として、国家賠償法に基づく損害賠償ないしは憲法に基づく損失補償等を求めたものであつたが、原告等の請求を棄却するとの判決が出された。このため、被告国側としては、判決理由の一部に政府の見解と異なるものがあつたとしても、訴訟法上、上訴することが許されず、また、原告側が上訴しなかつたために、本件判決は確定するに至つたものである。したがつて、国が上訴しなかつたからといつて、国が御指摘の原子爆弾の投下行為は国際法に違反するとの判断を認めたということではない。
政府としては、核の惨禍が再び繰り返されるようなことがあつてはならず、核兵器の廃絶は人類共通の究極目標であると認識している。同時に、現在の国際社会の平和と安全が核を含む抑止力により保たれていることも否定できない現実である。かかる現実を踏まえれば、実効ある具体的な核軍縮措置を着実に積み重ねていくことが肝要であり、政府としては、今後とも、このための積極的な努力を続けていく所存である。