会長 | 中山 太郎君 | 自民 | |||
幹事 | 高市 早苗君 | 自民 | 幹事 | 中川 昭一君 | 自民 |
幹事 | 額賀 福志郎君 | 自民 | 幹事 | 葉梨 信行君 | 自民 |
幹事 | 保岡 興治君 | 自民 | 幹事 | 島 聡君 | 民主 |
幹事 | 中川 正春君 | 民主 | 幹事 | 中野 寛成君 | 民主 |
幹事 | 赤松 正雄君 | 公明 | 伊藤 公介君 | 自民 | |
伊藤 達也君 | 自民 | 石川 要三君 | 自民 | ||
石破 茂君 | 自民 | 奥野 誠亮君 | 自民 | ||
金子 一義君 | 自民 | 高村 正彦君 | 自民 | ||
近藤 基彦君 | 自民 | 谷垣 禎一君 | 自民 | ||
谷川 和穗君 | 自民 | 土屋 品子君 | 自民 | ||
中曽根 康弘君 | 自民 | 中山 正暉君 | 自民 | ||
長勢 甚遠君 | 自民 | 西田 司君 | 自民 | ||
平井 卓也君 | 自民 | 森岡 正宏君 | 自民 | ||
山崎 拓君 | 自民 | 渡辺 博道君 | 自民 | ||
大出 彰君 | 民主 | 小林 憲司君 | 民主 | ||
今野 東君 | 民主 | 首藤 信彦君 | 民主 | ||
仙谷 由人君 | 民主 | 筒井 信隆君 | 民主 | ||
中村 哲治君 | 民主 | 永井 英慈君 | 民主 | ||
伴野 豊君 | 民主 | 松沢 成文君 | 民主 | ||
山田 敏雅君 | 民主 | 江田 康幸君 | 公明 | ||
太田 昭宏君 | 公明 | 斉藤 鉄夫君 | 公明 | ||
武山 百合子君 | 自由 | 藤島 正之君 | 自由 | ||
春名 直章君 | 共産 | 山口 富男君 | 共産 | ||
金子 哲夫君 | 社民 | 土井 たか子君 | 社民 | ||
井上 喜一君 | 保守 |
第154回国会では、2月7日の調査会において、「基本的人権の保障に関する調査小委員会」、「政治の基本機構のあり方に関する調査小委員会」、「国際社会における日本のあり方に関する調査小委員会」及び「地方自治に関する調査小委員会」の4つの小委員会が設置され、各小委員会においては、後日、それぞれ参考人を招致して調査が行われた。
また、調査会では、4月25日に「我が国の安全保障」に関する自由討議が、7月25日に各小委員会での調査を踏まえた自由討議が、それぞれ行われた。
さらに、4月22日には沖縄県名護市にて、また、6月24日には北海道札幌市にて、それぞれ、いわゆる地方公聴会が開会された。
なお、閉会中、9月23日から10月5日までの13日間の日程で、調査会の委員(4名)で構成された「衆議院英国及びアジア各国憲法調査議員団」による海外派遣(イギリス、タイ、シンガポール、中国、韓国)が行われた。
第1回は、「新時代の人権保障」について、参考人から、人権保障に関する現行憲法の特徴と限界が示された上で、現行憲法の課題として、国家が積極的に自由を保障する「国家による自由=積極的自由」の必要性、旧来の人権の分類の枠を超えた複合的な人権の理念の必要性、人権の国際的保障と国内的保障の連携の必要性、憲法による国家・市民社会・個人の三面的関係の保障の必要性等が挙げられた。
これに対して、報道の自由とプライバシーの関係、憲法の理念が浸透しなかった理由、国際人権規約と憲法の関係等について質疑がなされた。
参考人質疑を踏まえた自由討議においては、家族や個人のあり方、新しい人権や外国人の人権の保障に関する規定を憲法に明文化することの可否、環境権の憲法上の明文化の必要性等について発言がなされた。
第2回は、「外国人の人権」について、参考人から、外国人は入国や在留の権利がない以上憲法上の権利を享有しないとの解釈を前提に、 [1]外国人を法律によって日本人と同等に扱うことは可能である、 [2]外国人にも日本人と同じ権利をできるだけ認めるべきである、 [3]外国人の地位を憲法に明記しても抽象的規定となり、具体的内容は裁判官の判断に任せることになるが、有権者の代表である国会議員の判断に任せる方が望ましいので、憲法に外国人の地位を明記することには反対であるとの意見が述べられた。
これに対して、外国人の人権保障のあり方、定住外国人への参政権付与の是非、難民受入れ体制のあり方、国籍決定の基準等について質疑がなされた。
参考人質疑を踏まえた自由討議においては、在日韓国・朝鮮人等に対する政府の排他的姿勢を正す必要性、戦後補償の不備の問題を検討する必要性、二重国籍の容認等について発言がなされた。
第3回は、「新しい人権」について、参考人から、「新しい人権」として挙げられている法益は、私権又は私法上の法処理による保護が可能であるので「基本的人権」とする必要性が低く、憲法に規定することは「人権のインフレ化」、「統治の過剰」等を招くおそれがあるとの認識の下、 [1]まず、私権又は私法上の法処理により法益保護を図るべきで、それができない場合は法律の制定により解決すべきである、 [2]仮に、憲法上の権利と認定するには、権利の外延と内包が明確であること等が必要であるとの指摘がなされた。
これに対して、権利の本質、参考人が考える「新しい人権」の内容、憲法に新たな義務規定を設けることの是非、環境権規定を法律で具体的に定める必要性等について質疑がなされた。
参考人質疑を踏まえた自由討議においては、夫婦別姓制度の問題、憲法に明文化する方法によらず解釈によって「新しい人権」を充実させていく必要性等について発言がなされた。
第4回は、「基本的人権の保障」について、参考人から、 [1]「権利」とは共同体の歴史、文化、伝統の中で生成されてきたものである、 [2]「平和で秩序ある国家」があってはじめて「権利」が保障されるため、「公共の福祉」の解釈に当たって「国家及び公共の利益」や「道徳」を明確に位置づけるべきである、 [3]「国防の義務」や「家族の尊重」を憲法に明記すべきである等の意見が述べられた。
これに対して、「人権」が濫用されている現状、日本の共同体的背景としての文化の本質、国防義務の重要性、立憲主義の意味、憲法上の義務規定の必要性等について質疑がなされた。
参考人質疑を踏まえた自由討議においては、環境保持義務の検討の必要性、匿名の抗議行動による表現の自由の侵害のおそれ、マイノリティー層への差別の解消のための施策の必要性、武力攻撃事態対処法案の合憲性への疑義等について発言がなされた。
第5回は、「労働基本権と雇用対策」について、参考人から、公務員の争議行為が法律で禁止されていることは憲法28条に照らすと問題であり、また、憲法27条1項は、政府に [1]国民が完全就業できる体制を作ること、 [2]失業者に就業の機会を与えること、[3]失業者に生活資金を給付することを義務づけていると解釈できることから、政府は、これらの趣旨を踏まえた雇用対策をとるべきである等の意見が述べられた。
これに対して、公務員に争議権を付与することの是非、公務員制度改革のあり方、ワークシェアリングの導入方法、労働者を保護するための法整備の必要性等について質疑がなされた。
参考人質疑を踏まえた自由討議においては、憲法で保障された勤労の権利及び労働基本権を実現させる必要性、在留外国人の人権保障のあり方を検討する必要性、憲法改正の是非等について発言がなされた。
第1回は、「議院内閣制のあり方」について、参考人から、現在の日本のような「積極国家」における政策推進には、内閣が「統治」し、国会がこれを「コントロール」する中で政治のリーダーシップが発揮されることが必要であり、そのためには、国民が選挙を通じて、「政策プログラム」とその実行主体である「首相」とを一体のものとして事実上直接的に選ぶ「国民内閣制」(議院内閣制の直接民主政的な運用形態)の導入が有用である等の意見が述べられた。
これに対して、「国民内閣制」を導入した際の国会や与党の役割の変化や三権分立との整合性、首相公選制との相違点等について質疑がなされた。
参考人質疑を踏まえた自由討議においては、民意の反映という観点から統治機構を考えることの重要性、憲法論議を進めるに当たって留意すべき点等について発言がなされた。
第2回は、「統治機構を再検討する視点」について、参考人から、我が国の議院内閣制の運用上の問題について指摘がなされた上で、その改革へ向けた提言として、制度面では、内閣における国務大臣の分担管理原則の克服、政策決定手続の一元化、国会の行政に対するチェック機能の強化が、また、慣習面では、政党・指導者・政策を一体として選ぶ選挙、与党の意思決定機関と内閣の重合、与党の所属議員が内閣の一員として政策形成に当たるような党運営、透明で開かれた与党の党首選出等が、それぞれ挙げられた。
これに対して、政治主導の下における政官関係のあり方、イギリス型議院内閣制における国会の役割等について質疑がなされた。
参考人質疑を踏まえた自由討議においては、統治機構の改革のあり方、内閣総理大臣のリーダーシップのあり方等について発言がなされた。
第3回は、「両院制と選挙制度のあり方」について、参考人から、両院制を維持すべきであるとの認識の下、これを意義あるものとするため、両院組織法(議員選挙法)をできるだけ異なった原理に基づくものにすべきであるとの指摘がなされた。その上で、参議院に期待される役割を選挙制度に反映させることや、内閣総理大臣の指名権を衆議院のみに認めることについての意見が述べられた。
これに対して、あるべき選挙制度の姿、両院制の意義、政党政治のあり方等について質疑がなされた。
参考人質疑を踏まえた自由討議においては、民意の反映という観点から両院組織法を考える必要性、両院制の意義と選挙制度の関係等について発言がなされた。
第4回は、「司法審査制度のあり方」について、参考人から、「司法審査」権限が適切に行使されていないとの認識の下、裁判所は民主政過程に不可欠な権利を厳格な審査を通じて擁護する責任を有する一方、その他の権利については国会により制定された法律が尊重されるべきで、これにより国民の権利が侵害された場合には、選挙を通じて是正が図られるべきとの「プロセス的司法審査理論」が示された。
これに対して、司法のよって立つ正当性の根拠、憲法裁判所設置の是非、「統治行為論」に対する評価等について質疑がなされた。
参考人質疑を踏まえた自由討議においては、憲法改正手続の厳格さと司法消極主義との関わり、憲法裁判所設置の是非等について発言がなされた。
第5回は、「明治憲法体制下の統治構造」について、参考人から、憲法論議は「国柄」に関する論議でなければならず、明治憲法にはその点において学ぶべきものがあるとの認識が示された。また、日本国憲法の定める象徴天皇制は、君主を「目に見える統合の象徴」とする英国流を取り入れるとともに、また、明治憲法体制における立憲君主制をも受け継いでいるとの意見が述べられた。
これに対して、明治憲法に内在した欠陥、歴史や伝統等の「国柄」についての教育の必要性、象徴天皇制に対する評価等について質疑がなされた。
参考人質疑を踏まえた自由討議においては、我が国古来の知恵や思想を生かした平和の構築等新たな憲法を制定する際に盛り込まれるべき普遍的理念等について発言がなされた。
ウ 国際社会における日本のあり方に関する調査小委員会
第1回は、「PKO、PKFを中心とした国際協力のあり方」について、参考人から、我が国は憲法の理念に基づき国際協力を積極的に行うべきであり、また、紛争の未然防止、紛争の平和的解決、紛争後の社会経済発展の支援こそ、積極的な協力が可能かつ必要な分野である等の意見が述べられた。
これに対して、日本の国際協力のあり方、PKO等の国際協力を行うに当たっての憲法上の問題、PKOの実情等について質疑がなされた。
参考人質疑を踏まえた自由討議においては、国際協力を推進するに当たっての憲法改正の要否、自衛隊の憲法上の位置づけ、我が国の国連安全保障理事会常任理事国入りに関する問題等について発言がなされた。
第2回は、「FTAを中心とした国際社会における日本のあり方」について、参考人から、我が国は、FTAによりWTOを補完する「重層体制」への移行が必要であり、また、主体的なFTA交渉を通じて国際的なリーダーシップをとるべきである等の意見が述べられた。
これに対して、多様な国々が存在するアジアにおける経済統合プロセスに我が国が参加することの困難性、FTAが経済分野にとどまらない地域統合に発展する際に問題となる国家主権と憲法との関係等について質疑がなされた。
参考人質疑を踏まえた自由討議においては、経済問題への対処のあり方、FTAを推進するに当たって国民の「福利」や伝統・文化等に根差す農業に配慮する必要性等について発言がなされた。
第3回は、「国際社会における日本のあり方全般」について、参考人から、我が国は、日米安保条約のあり方を見直すとともに、専守防衛を維持しつつ、東アジア地域において予防外交の理念に基づく多国間フォーラムの形成を図るべきである等の意見が述べられた。
これに対して、日米関係や多国間フォーラムのあり方、9条をはじめとする憲法改正の是非、有事法制関連3法案の問題点等について質疑がなされた。
参考人質疑を踏まえた自由討議においては、集団的自衛権の行使の是非、我が国の安全保障のあり方、平和憲法を生かす方向性等について発言がなされた。
第4回は、「日本の安全保障のあり方全般」について、参考人から、我が国の安全保障のあり方について、国際環境の変化に対応してきたドイツを見習い普通の民主主義国家へ脱皮すべきであり、また、日米の安全保障関係において、我が国は徐々に片務性から双務性の方向に進むべきである等の意見が述べられた。
これに対して、集団的自衛権に関する憲法改正の是非、今後の日中関係及び米中関係、非核三原則に対する認識等について質疑がなされた。
参考人質疑を踏まえた自由討議においては、非核三原則の意義、有事における我が国の対処のあり方等について発言がなされた。
第5回は、「EU憲法制定の動きと各国憲法」について、参考人から、EU統合過程における経験を踏まえた上での日本に示唆的な事項として、各国間協力が不可欠となっている現在においてはEUのメカニズムが参考となり、また、協議を通じて公序を築いてきたEUの形成過程は国際協調主義のあり方の参考となる等の意見が述べられた。
これに対して、EU統合過程への各加盟国の対応、EUの今後の動向、アジア地域における共同体の設立の可能性等について質疑がなされた。
参考人質疑を踏まえた自由討議においては、積極的な外交の展開、地域共同体の存在等を踏まえた憲法論議の必要性や政治のあり方等について発言がなされた。
エ 地方自治に関する調査小委員会
第1回は、「地方分権改革と道州制・連邦制」について、参考人から、先般の地方分権改革後の課題として、税・財政面での権限移譲等について指摘がなされた上で、社会サービス提供能力が持てるように基礎自治体を再編し、規模を拡大した北欧型制度を目指すべきとの意見が述べられた。また、憲法の改正が必要な連邦制を導入せずとも、執行面での地方の裁量を認め、中央の決定に対して地方が影響を及ぼす制度を整えることで分権が可能であるとの意見が述べられた。
これに対して、国主導の「上から」の市町村合併の推進の是非、地方自治体の財源のあり方、地方自治体の適性規模等について質疑がなされた。
参考人質疑を踏まえた自由討議においては、地方自治体の首長の多選禁止の検討の必要性、住民投票制度の導入の是非、永住外国人への地方参政権付与の問題等について発言がなされた。
第2回は、「市町村合併をはじめとする分権改革の課題」について、参考人から、 [1]地方への税財源の移譲等を進めていくべきである、 [2]現在の行政サービス水準の維持、人口減少、高齢化社会への対応等の要請から市町村合併を推進する必要があり、個々の自治体の事情に応じたきめ細かい対応が必要である、 [3]合併が進んだ後の市町村と都道府県との関係のあり方も慎重に検討すべきであるとの意見が述べられた。
これに対して、地方自治体への税財源移譲、市町村合併の進め方、憲法における地方自治の規定の意義等について質疑がなされた。
参考人質疑を踏まえた自由討議においては、道州制の導入の推進、国から地方への税財源移譲、ボランティア団体やNPOと地方自治体の協働の必要性等について発言がなされた。
第3回は、「地方自治と地方財政」について、参考人から、地方分権を進めるためには、地方への税・財源移譲及び地方政府間の財政格差の是正のための制度が不可欠であり、そのためには、個人所得税と消費税の地方への移譲により、地方に課税権や決定権がない「集権的分散システム」から、地方が課税権や決定権を有する「分権的分散システム」へ移行することが重要であるとの意見が述べられた。
これに対して、国と地方の税・財源配分のあり方、地方政府間の財政調整制度のあり方等について質疑がなされた。
参考人質疑を踏まえた自由討議においては、国主導による市町村合併推進政策の適否、有事法制によって地方自治が阻害される懸念等について発言がなされた。
第4回は、「地方分権を実現するための諸課題」について、参考人から、 [1]自治体が、多様性、地域性を持つ組織等を設けられるよう地方自治法の画一的な規定を改正すべきである、 [2]独立行政委員会の委員を公選にすべきである、 [3]多様で自主的な地方議会のあり方を認めるべきである、 [4]地方財政は自治体の政策選択に対し中立であるべきである、 [5]法人事業税への外形標準課税の導入、あるいは、法人事業税の国への移譲及び個人所得税の地方への移譲を行うべきである等の指摘がなされた。
これに対して、政府による市町村合併推進策の評価、地方の税・財源のあり方、教育分野における地方分権、鳥取県西部地震の際の住宅再建支援策の評価、地方自治体が国際交流に果たす役割等について質疑がなされた。
参考人の質疑を踏まえた自由討議においては、地方への権限移譲の必要性、住宅再建等の被災者支援の必要性、有事法制が地方自治を侵害するおそれ等について発言がなされた。
第5回は、「三重県における『生活者起点』の観点からの取組み」について、参考人から、「生活者起点」の理念を重視する認識に立って三重県が実践している、 [1]政策形成過程の積極的な「情報提供」、 [2]民間企業の経営手法に倣った「ニュー・パブリック・マネジメント(NPM)」の導入として、業績評価型行政の実施等について説明がなされ、また、今後、我が国は、各地方の特色を生かした「モザイク国家」を目指し、地方の発展を図るべきとの意見が述べられた。
これに対して、地方への税・財源移譲の方策、NPMに対する評価、県庁内の意識を改革することに伴う困難、道州制を念頭に置いた都道府県のあり方等について質疑がなされた。
参考人質疑を踏まえた自由討議においては、中央省庁職員の地方自治体への出向の是非、国会での決算審議の充実の必要性、道州制導入の是非等について発言がなされた。
4月25日の調査会においては、沖縄地方公聴会への派遣委員からそれぞれ発言がなされた後、「我が国の安全保障」について自由討議が行われた。そこで表明された委員の主要な意見を論点ごとに概説する。
(ア)安全保障のあり方
安全保障のあり方については、 [1]平和を所与のものと考えることは誤りであり、国家は、万が一の場合に備えて、国家の独立や国民の生命・財産を守ることのできる体制を整えておかなければならない、 [2]力の空白地帯を作らないというパワー・バランスにより平和が保たれている国際社会の実態を踏まえるべきである、 [3]一定の武力が平和の構築に寄与していることや日米安保条約や駐留米軍基地の存在により我が国の平和が保たれてきた事実を踏まえて今後の安全保障に関する議論をすべきである等の、安全保障論議の前提認識が示された。また、独立国としての安全保障の基本体系を憲法上明記すべきであるとの意見や、国連を中心とした国際平和に向けた協力体制に積極的に参加することを憲法上明記すべきとの意見等、憲法を改正すべきとの立場からの意見が述べられる一方、冷戦崩壊後、安全保障の考え方は軍事ブロックの対立・均衡から多国間の信頼と強調に基づく安全保障へと変化しており、これは憲法の理念に沿うものである等の現行憲法を生かしていくべきとの立場からの意見が述べられた。
(イ)平和主義
平和主義については、無責任な平和観念が存在するとの意見があった一方で、現行憲法においては平和と安全に係る明確な理念が示されているとの意見が述べられた。また、平和構築に積極的な協力を惜しまないという理念を付加すべきとの意見、平和憲法の精神を具現化する方法として北東アジア非核地帯の創設等が挙げられるとの意見、我が国は大量破壊兵器の根絶を目指し世界の先頭に立つべきとの意見等が述べられた。
(ウ)自衛権・自衛隊
自衛権については、主として集団的自衛権について、個別的自衛権と集団的自衛権を区別することなく「自衛権」を規定し、その行使の内容は政治判断によるものとすべきとの意見、集団的自衛権に係る内閣法制局の解釈は合理的な理由が明らかでないとの意見、集団的自衛権の行使は解釈論で対応するよりも憲法に明文化すべきであるとの意見等が述べられた。このほか、自衛権の発動としての交戦権を行使できることを憲法に明記すべきとの意見等が述べられた。
自衛隊については、国民の生命・財産を守るものとして自衛隊を憲法上明確に位置づけ、これに文民統制を及ぼすべきとの意見があった一方で、自衛隊が存在するという憲法の理念に反する現状を憲法の理念に沿った形で解消する必要があるとの意見等が述べられた。
(エ)日米安保条約
日米安保条約については、同条約や駐留米軍基地の存在は、国際法上、集団的自衛権の行使に該当するものであり、「集団的自衛権は行使できない」とする解釈をとり続けることは無制限に米国の要求に応じる結果になるとの意見、有事を招来させる可能性のある日米同盟のあり方を見直すべきであるとの意見、日米同盟等は憲法の理念に反しており、憲法の理念に沿った形で解消する必要があるとの意見等が述べられた。
(オ)国際協力
国際協力については、憲法上に民主化支援、予防外交、市民による平和活動等を導き出す具体的な規定がなく、前文に定める高い精神性をどう具体化するかを盛り込む必要があるとの意見、我が国の平和構築に向けた努力は、憲法の精神を生かしたものとなっていないとの意見等が述べられた。また、国連のアジア本部を沖縄に誘致すべきとの意見が述べられた。
(カ)有事法制
有事法制については、危機的事態に際しての対応を考えることが政治の責務であるとの意見、「有事」の各段階に応じた体系的な法整備を図るべきとの意見、問題が生じるたびに個別の法律を制定する従来の手法では効果的対応が困難であり、有事等への対応は憲法に明文化すべきであるとの意見があった一方で、日本国憲法の下では有事法制は許されないとの意見、日常の不断の平和的努力によって有事に至らせないことが政治の役割であるとの意見が述べられた。
また、今国会に提出された有事法制関連3法案については、あいまいな要件で国民の自由・人権を制限する仕組みになっている、米国への協力体制を整備するものであり、国民を巻き込む恐れがある等の批判的な意見が述べられたほか、米軍の日本国内での円滑な活動を確保するため、米軍との関係について優先的に検討すべきとの意見、武力攻撃事態法案に定める首相の代執行的な権限に関し、憲法の定める地方自治の観点から議論する必要があるとの意見、有事における国民の権利制限については、「公共の福祉」とは別の形での判断に基づくべきであるとの意見等が述べられた。
(キ)その他
以上の論点のほか、憲法調査会の常設化に関する意見、憲法に関する国民的な議論が不十分との意見、国民や世界から見て日本の行動基準が明確に分かるような憲法とすべきとの意見等が述べられた。
7月25日の調査会においては、各小委員長から小委員会における調査の経過及びその概要の報告があり、その後、各小委員会の調査を踏まえ、委員間の自由討議が行われた。そこで表明された委員の主要な意見を小委員会のテーマごとに概説する。
(ア)基本的人権の保障
基本的人権の保障については、伊藤参考人の意見を聴き、国防の義務を明記する必要を感じたとの意見、札幌地方公聴会ではアイヌ民族に対する差別等憲法が守られていない実態について意見が述べられており、調査会はこのような意見に耳を傾けるべきであるとの意見、科学技術の進展の下における生命倫理と学問の自由との関係について検討すべきとの意見等が述べられた。
(イ)政治機構のあり方
政治機構のあり方については、まず、首相公選制導入の是非に関し、これを導入し首相がリーダーシップを十分に発揮できる環境整備をすべきとの意見があった一方で、議院内閣制の下での首相のリーダーシップ強化を検討すべきとの意見が述べられた。また、両院制に関しては、衆参の機能分担を明確にし、議員の選出方法に違いを設けるべきとの意見、政治改革を進めるためにも二院制について議論する必要があるとの意見等が述べられた。このほか、憲法の基本原則を変える必要はなく、選挙制度や違憲審査制のあり方等、憲法の理念が生かされていない事項について、憲法の理念を具現化する努力が必要であるとの意見等が述べられた。
(ウ)国際社会における日本のあり方
国際社会における日本のあり方については、一国平和主義から脱却し、世界の平和にどのように貢献するかを考える必要があり、9条2項について議論すべきとの意見があった一方で、憲法の全体構造から、9条1項と2項は不可分一体のものであり、9条や国連憲章の理念を広めることが重要であるとの意見が述べられた。
また、唯一の被爆国として核廃絶を世界に訴えることが必要との意見、国際社会における日本のプレゼンスを十分示せないのは憲法の条文が足かせになっているためであるとの意見、我が国は国際社会における責務を果たす形での難民政策をとるべきとの意見等が述べられた。
(エ)地方自治
地方自治については、地方分権改革の推進に当たり、地方の独自性と国土の均衡ある発展とのバランスを踏まえるべきとの意見、今後、地方が自己実現し国が発展していくためには、地方分権の推進が必要であるとの意見、もはや延々と議論する場合ではなく、事務と財源を移譲し、地方が主体性と自己責任を持てるよう改革を行うべきとの意見等が述べられた。
このほか、道州制について具体的な議論を早急にすべきとの意見、国主導の「上からの市町村合併」や道州制の導入は地方自治をゆがめるものであるとの意見等が述べられた。
(オ)その他
その他、憲法改正手続、小委員会形式による調査に対する評価、今後の憲法調査会における議論の進め方等について意見が述べられた。
第154回国会中に行われた2回の地方公聴会は、それぞれ、「日本国憲法について(21世紀の日本と憲法)」をテーマに開催された。各地方公聴会における議論の概要は、以下のとおりである。
ア 沖縄地方公聴会
意見陳述者からは、 [1]憲法9条は国民の命そのものであるから、政治家は憲法を尊重擁護し、また、我が国は平和国家のモデルとして、9条の精神を世界に広めるべきであるとの意見、 [2]先の沖縄戦の教訓は、軍事力で国民の生命は守れないということであり、個人の尊厳の観点からも、非武装平和主義を体現する憲法9条を守るべきであるとの意見、 [3]交戦権は国の当然の権利であり、また、武力の裏づけなくしては国家の独立と平和は維持できないので、憲法9条を改正すべきであるとの意見、 [4]憲法及び教育基本法の基本理念である個人の尊厳が普及徹底するよう、国会議員、教員等は、憲法の個人の尊厳を尊重擁護すべきであるとの意見、 [5]学ぶことは義務ではなく権利であるので、奉仕活動の義務化は行うべきではなく、また、ボランティア活動では、地域に支えられて地域とともに生きる関係が重要であるとの意見、 [6]戦争放棄の理想は保持しつつ、必要最小限の自衛力の行使及びその際の国民による直接的コントロールを憲法に明記し、また、立法権と行政権の完全な分立、地方自治の充実を憲法に明記すべきとの意見等が述べられた。
その後、委員から、我が国の安全保障体制、自衛隊及び日米安全保障条約の合憲性、9条以外の条項に関する改正の是非、災害時の自衛隊の役割、国家による国民の安全保護のあり方、非軍事面での国際貢献、日米地位協定の見直し、有事法制の問題点、教育問題等について質疑が行われた。さらに、傍聴者6人から意見が述べられた。
イ 札幌地方公聴会
意見陳述者からは、 [1]日本の伝統、文化を踏まえた普遍的価値を基本理念とする新憲法を制定し、21世紀初頭の世界秩序の維持に積極的に貢献するべきであるとの意見、 [2]日本は、憲法前文及び9条の徹底した平和主義の理念を貫いて、政治的にも経済的にも自立した国になるべきであるとの意見、 [3]憲法9条の改正や有事法制を検討するよりも、アイヌ民族に対し、反省とより温かい目をもって民族政策を展開すべきであるとの意見、 [4]憲法14条に保障された男女平等を実現させるためには、女性に正当な権利が保障されるように、今後一層の法整備や意識改革が必要であるとの意見、 [5]憲法9条は、我が国が世界に誇りを持って提示し得る手本というべきものであり、これを堅持すべきであるが、国民投票制度の導入、憲法裁判所の設置、大統領制の導入など、現行憲法には改善すべき余地もあるとの意見、 [6]21世紀にこそ憲法の平和主義の理念が発揮されるべきであり、また、憲法を守り、人権を守るためには司法制度改革が不可欠であるとの意見等が述べられた。
その後、委員から、北海道における国際化の問題、9条と自衛隊との関係、日本における国際貢献のあり方、日本の非核政策、司法制度改革、女性の社会進出、教育改革、農業政策等について質疑が行われた。さらに、傍聴者2人から意見が述べられた。