第４　憲法調査会

【第159回国会】

１　委員名簿（50人）

会長	中山　太郎君	自民
幹事	近藤　基彦君	自民	幹事	福田　康夫君	自民
幹事	船田　元君	自民	幹事	古屋　圭司君	自民
幹事	保岡　興治君	自民	※幹事	枝野　幸男君	民主
幹事	鈴木　克昌君	民主	幹事	山花　郁夫君	民主
幹事	赤松　正雄君	公明		伊藤　公介君	自民
	岩永　峯一君	自民		大村　秀章君	自民
	倉田　雅年君	自民		河野　太郎君	自民
	柴山　昌彦君	自民		下村　博文君	自民
	棚橋　泰文君	自民		渡海　紀三朗君	自民
	中谷　元君	自民		永岡　洋治君	自民
	野田　毅君	自民		平井　卓也君	自民
	平沼　赳夫君	自民		二田　孝治君	自民
	松野　博一君	自民		森岡　正宏君	自民
	森山　眞弓君	自民		綿貫　民輔君	自民
	伊藤　忠治君	民主		大出　彰君	民主
	鹿野　道彦君	民主		楠田　大蔵君	民主
	玄葉　光一郎君	民主		小林　憲司君	民主
	園田　康博君	民主		田中　眞紀子君	民主
	武正　公一君	民主		辻　惠君	民主
	計屋　圭宏君	民主		古川　元久君	民主
	馬淵　澄夫君	民主		増子　輝彦君	民主
	村越　祐民君	民主		笠　浩史君	民主
	太田　昭宏君	公明		斉藤　鉄夫君	公明
	福島　豊君	公明		山口　富男君	共産
	土井　たか子君	社民

注：※は、会長代理（平成11年７月６日の議院運営委員会理事会における申合せにより、会長が野党第一党の幹事の中から指名）

２　調査の経過

調査は、最高法規としての憲法のあり方に関する調査小委員会、安全保障及び国際協力等に関する調査小委員会、基本的人権の保障に関する調査小委員会及び統治機構のあり方に関する調査小委員会の４小委員会を設け、主に、[1]各小委員会において、特定の憲法上の論点について参考人等又は小委員（基調発言者）から意見を聴取し、これに対する質疑の後、自由討議を行ったうえで、[2]憲法調査会において、小委員会ごとに各小委員長からの調査の概要についての報告を聴取した後、更に自由討議を行うことによって進められた。

最高法規としての憲法のあり方に関する調査小委員会においては、[1]天皇制、[2]直接民主制の諸制度、[3]憲法保障及び[4]憲法と国際法の各論点を取り上げて調査を行った。

安全保障及び国際協力等に関する調査小委員会においては、[1]憲法第９条、[2]国家統合・国際機関への加入及びそれに伴う国家主権の移譲、[3]非常事態と憲法及び[4]地域安全保障の各論点を取り上げて調査を行った。

基本的人権の保障に関する調査小委員会においては、[1]法の下の平等、[2]市民的・政治的自由、[3]公共の福祉、[4]経済的・社会的・文化的自由及び[5]刑事手続上の権利・被害者の人権の各論点を取り上げて調査を行った。

統治機構のあり方に関する調査小委員会においては、[1]司法制度、[2]人権擁護委員会その他の準司法機関・オンブズマン制度、[3]財政、[4]中央政府と地方政府の権限のあり方及び[5]二院制と会計検査制度の各論点を取り上げて調査を行った。

憲法調査会においては、自由討議のほか、「日本国憲法に関する件（科学技術の進歩と憲法）」を議題として、参考人からの意見聴取が行われた。

また、広く国民の各層から日本国憲法についての意見を聴取するため、公聴会（２日間）及び広島県への委員派遣（１日間　地方公聴会）を行った。

３　調査会の議論の概要

各小委員会等において取り上げられた特定の憲法上の論点を中心に、その概要を紹介すれば、おおよそ以下のとおりである。なお、ここでは、憲法調査会及び各小委員会について、以下の略称を用いることとする。

• 憲法調査会………調査会
• 最高法規としての憲法のあり方に関する調査小委員会………最高法規小委員会
• 安全保障及び国際協力等に関する調査小委員会………安保国際小委員会
• 基本的人権の保障に関する調査小委員会………基本的人権小委員会
• 統治機構のあり方に関する調査小委員会………統治機構小委員会

(1)　日本国憲法に関する件（調査会：１月22日）

○自由討議における主な発言内容

• 第９条を改正することの是非
• 自衛隊のイラク派遣と国際法及び憲法との関係
• イラク復興支援の在り方
• 道州制の導入等による地方分権推進の必要性
• 年金制度改革における「国民負担率」の在り方や国の「財政」との関係
• 社会保障制度の充実と第25条の規定の在り方
• 違憲立法審査権の在り方
• 憲法改正手続の在り方及び憲法改正のための国民投票法を整備する必要性

(2)　天皇制（最高法規小委員会：２月５日　調査会：２月26日）

○横田耕一参考人による意見陳述の要点

• 天皇制についても憲法の規範に沿った理解が必要であり、憲法の条項に違反する「伝統」は否定されなければならない。
• 天皇制は、これまで高度な政治的機能を果たしてきたが、近年、その「統合力」は希薄化しつつある。
• 女性による皇位継承は、憲法の下位法である皇室典範を憲法の規範に沿うように改正すれば認められるが、男女差別が依然存在する現状では、更なる「国民統合力」の希薄化を招来する可能性を否定できない。

○主な質疑内容

• 女性による皇位継承を認めることの問題点
• 我が国の歴史や伝統と近代立憲主義とをどのように調和させるか
• 天皇制に関する憲法規範上の意味

○自由討議における主な発言内容

• 女性による皇位継承を認める必要性及びその場合の問題点
• 天皇の国事行為以外の「公的行為」の有する意義
• 我が国の歴史や伝統を尊重することの意義

(3)　憲法第９条（安保国際小委員会：２月５日　調査会：２月26日）

○基調発言者・中谷元小委員（自民）による意見陳述の要点

• 第９条は、戦後大きな役割を果たしてきたが、国際情勢の変化により現実と乖離した。
• 現行憲法下では軍事活動ができないことから、憲法改正により安全保障上の環境整備を図るべきである。また、国連安保理の常任理事国となることで、国連改革及び国際貢献に積極的に寄与すべきである。
• このため、憲法には、自衛権、自衛隊の役割、国際貢献についての権限を明記すべきである。

○基調発言者・松本剛明小委員（民主）による意見陳述の要点

• 政治は時代の要請に応えるべきだが、「法治主義」をおろそかにすべきではない。
• 自衛隊のイラク派遣に関する政府の憲法論議を避けた特措法の構成には無理がある。
• 国連を通じた幅広い国際貢献のためには、[1]憲法解釈の変更、[2]安全保障に関する基本法の制定及び[3]憲法改正という選択肢が考えられる。
• 集団的自衛権を行使できないことは、将来的に、安全保障の選択の幅を狭めたり、外交上の足かせとなる懸念がある。

○主な質疑内容

• 集団的自衛権の保持及びその行使を憲法上明記することの是非
• 自衛隊を海外に派遣する場合の国会承認の在り方
• 自衛隊の海外への「派遣」と「派兵」との関係

○自由討議における主な発言内容

• 集団的自衛権についての国際法上の位置づけ
• 集団的自衛権及び集団安全保障について憲法上に規定を設けることの是非
• 自衛隊を海外に派遣する際の武器使用基準の在り方
• 国際法及び憲法から見た自衛隊のイラク派遣の是非
• 国際協調主義と日米同盟との関係

(4)　法の下の平等（基本的人権小委員会：２月19日　調査会：２月26日）

○内野正幸参考人による意見陳述の要点

• 人権の領域では、憲法改正よりも、憲法に基づく諸施策の充実を図るべきである。
• 憲法第14条に謳う「平等」の観念は「形式的平等」であり、「実質的平等」を実現する役割は、主に立法政策に期待されている。
• 民間社会における差別の問題は、憲法を間接適用することで対応はできるが、私人間における差別禁止のルール作りは必要である。

○主な質疑内容

• 形式的平等及び実質的平等と憲法上の要請
• 議員定数不均衡の問題について、両院で異なった取扱いを可とする理論的根拠
• 公立学校における男女別学の是非

○自由討議における主な発言内容

• 憲法改正により、個人情報保護等の「新しい人権」についての規定を設ける必要性
• 人権規定の私人間効力についての考え方
• 実質的平等を実現するための施策としてのアファーマティヴ・アクション導入の検討
• 一票の格差を是正する必要性

(5)　司法制度（統治機構小委員会：２月19日　調査会：２月26日）

○市川正人参考人による意見陳述の要点

• 「裁判を受ける権利」とは、裁判へのアクセスの実質的保障を含む、適正な手続による裁判を受ける権利や公権力による権利侵害に対して実効的救済を受ける権利を意味する。また、司法制度改革においては、人的基盤の拡充が重要である。
• 利用しやすい司法の実現には、[1]裁判へのアクセスの拡充及び[2]行政訴訟制度の大胆な改革が必要である。
• 裁判員制度の導入に異論はないが、司法の「非民主的性格」を踏まえ、憲法と法律のみに従い公平な手続のもとで判断するという裁判の性格に配慮する必要がある。

○主な質疑内容

• 法曹の質を確保するための方策
• 裁判員制度と被告人の裁判を受ける権利の保障や我が国の社会的土壌との関係
• 現行憲法の指向する「司法」の性質
• 違憲審査制の活性化のための方策及び現行憲法下での抽象的違憲審査の可否
• 行政訴訟の迅速な解決の必要性

○自由討議における主な発言内容

• 裁判員制度に対する評価、国民の司法参加の在り方
• 現在の最高裁判所を巡る諸問題
• 参議院に憲法裁判所の機能を付与することの可能性

(6)　国家統合・国際機関への加入及びそれに伴う国家主権の移譲（安保国際小委員会：３月４日　調査会：３月18日）

○ベルンハルド・ツェプター参考人による意見陳述の要点

• 欧州統合が「欧州諸国間の戦争を二度と起こさない」との教訓のもとで進められ、欧州に平和や経済的繁栄をもたらした。
• 欧州統合の推進力は、協力・競争・連帯であり、ＥＵ立法は、加盟国の国内法に対するＥＵ法の優位や、意思決定を可能な限り市民に近いところで行うとする原則等に基づいている。
• ＥＵ統合の深化と拡大は加盟国の憲法の適合化を要求したが、主権の一部移譲を受け入れる政治社会文化の存在がこれを可能にした。
• 現在、討議の過程にあるＥＵ憲法草案は、ＥＵの民主的正当性を強化し、ヨーロピアン・アイデンティティの必要性を強調し、透明で包括的な法体系を提示している。
• 欧州の経験はそのまま他の地域のモデルにはならないが、統合の手法や手続等は参考になろう。

○主な質疑内容

• ＥＵにおける安全保障・防衛政策の方向性
• 基本権憲章、国民投票制度、「欧州オンブズマン」制度等の内容
• ヨーロピアン・アイデンティティの具体的内容
• イラク戦争に対する欧州各国の態度の不一致から得た教訓
• ＥＵ憲法の制定による国家観・憲法観の変化

○自由討議における主な発言内容

• 欧州との比較からアジアの地域安全保障を構築する必要性やその際の考慮事項
• 平和主義を踏まえた北東アジアにおける安全保障対話の必要性
• 地域安全保障と集団安全保障及び集団的自衛権との関係

(7)　直接民主制の諸制度（最高法規小委員会：３月４日　調査会：３月18日）

○井口秀作参考人による意見陳述の要点

• 現行憲法のもとでは、[1]住民投票の充実、[2]諮問型の国民投票及び[3]一定の要件下での国民発案による立法が導入可能な直接民主制の手法と考えられる。
• 直接民主制の諸制度は、国民主権の具体化及び民主主義の強化に重要な役割を果たすものであるが、あくまでも一つの手段に過ぎない。また、直接民主制の導入ですべてが解決できるかのような過大な期待はすべきではない。
• 直接民主制の導入に当たっては、直接民主制に堪え得るような議会、政党、司法の整備が必要であり、それは日本国憲法の理念の具体化にほかならない。

○主な質疑内容

• 直接民主制を導入するに当たっての留意点
• 直接民主制を導入することの意義
• 日本国憲法の理念を具体化することの必要性

○自由討議における主な発言内容

• 直接民主制と間接民主制（議会制）との関係
• 我が国においても直接民主制を導入する必要性
• 憲法改正のための国民投票法を早期に制定する必要の有無

(8)　人権擁護委員会その他の準司法機関・オンブズマン制度（統治機構小委員会：３月11日　調査会：３月18日）

○宇都宮深志参考人による意見陳述の要点

• 諸外国のオンブズマン制度には、立法府に所属し、政治的には独立であって、非強制的な勧告権限を有する等の特徴があり、その主な機能は、行政統制・行政監視、苦情の受理及び処理、行政改善である。
• 我が国へのオンブズマン制度の導入は、憲法改正によらなくとも法律の整備によって可能である（憲法第16条の請願権を具体化するものとして正当化される。）。
• その場合、行政監視機能が有効に働くことから、行政府型よりも議会型のオンブズマンが望ましい。

○主な質疑内容

• オンブズマンを設置する必要性の有無
• オンブズマン制度について憲法上に明文規定を設けることのメリット・デメリット
• オンブズマンの任命に当たって、党派性を排除することの可能性
• オンブズマンについての組織の在り方、権能等の具体像

○自由討議における主な発言内容

• オンブズマン制度と行政相談制度との関係
• 両院の行政監視に関する委員会の機能を強化する必要性
• オンブズマン制度を創設する必要性

(9)　市民的・政治的自由（基本的人権小委員会：３月11日　調査会：３月18日）

○野坂泰司参考人による意見陳述の要点

• 思想・良心の自由は、人間存在にとって根源的な自由であり、現行憲法の規定は、旧憲法下において思想の自由が抑圧された苦い経験に対する反省に基づくものである。
• 信教の自由は、思想の自由と並び人権宣言の中核をなす最も重要な人権である。ただし、内心の自由たる信仰の自由は絶対的に保障されるが、信仰に基づく行為の自由は、必要不可欠な公共的利益を達成するための最小限度の制約に服するものである。
• 信教の自由の保障を促進又は補強するために政教分離の原則があり、憲法上「厳格な分離」が要求されていることに疑いの余地はないが、判例の「目的効果基準」はその客観性に問題があり、本格的な再検討がなされるべきである。

○主な質疑内容

• 「目的効果基準」と内閣総理大臣の靖国神社参拝との関係
• 政教分離原則に反する行為に対する訴訟を可能とする制度の検討の是非
• 思想信条を理由として裁判員を辞退できるとしたことに対する評価

○自由討議における主な発言内容

• 政教分離原則と制度的保障との関係
• ボン基本法に謳われているドイツの「闘う民主制」にならい、内心の自由に対する制限を設けることの可能性
• 内閣総理大臣の靖国神社参拝に関する問題

(10)　憲法保障（最高法規小委員会：３月25日　調査会：４月８日）

○説明者・竹崎博允最高裁判所事務総長による説明の要点

• 最高裁判所の裁判官は、一人当たり年間約2,000件の事件に関与しており、多忙であることは否めないが、いかに多忙であれ、憲法判断が不可能ということはないというのが、現在の最高裁判所裁判官の大方の意見であると考える。
• 我が国の司法予算は国家予算の0.4％であり、それを司法が十分に機能していない原因とみる向きもあるが、司法制度の機能については、一つ一つの事柄について法の要請が果たされているか否かの分析的検討が不可欠である。
• 「２割司法」という言葉は、国民の２割程度しか一生のうち司法制度に関わらないとの趣旨でマスコミによって使われたのが始まりであるが、この用語は厳格に捉えるべきではなく、むしろ紛争解決の手段としての司法作用の充実強化の要請を指摘するものとして理解すべきである。

○笹田栄司参考人による意見陳述の要点

• 最高裁判所の現状については、[1]多くの上告事件を抱えていること、[2]大法廷への回付が少ないこと、[3]これまでに５種６件しか法令違憲判決を出していないこと、[4]憲法規定を正面に押し出すことなく、法律レベルで解決を図るケースがあること、[5]憲法裁判の前提となる「裁判を受ける権利」の保障に関しては、理論レベルが昭和35年以来停滞していることが認識できる。
• 違憲審査制の活性化を図るための試みとしての上告制限や憲法裁判所設置論には、問題点もある。私見では、最高裁判所の「上告審機能」と「違憲審査機能」とを分離すべきと考える。
• 違憲審査制が停滞している現状については、立法による改革を図るべきであり、最高裁判所の機構改革による大幅な負担軽減、最高裁判所裁判官任命諮問委員会の設置及び最高裁判所裁判官国民審査制の改革等の複合的なプランが考えられるべきである。

○主な質疑内容

• 我が国の司法制度が抱えている問題点
• 憲法裁判所を設置することの是非
• 司法制度改革の在り方

○自由討議における主な発言内容

• 最高裁判所の機構改革の在り方
• 司法機能が健全であることの必要性
• 憲法裁判所を設置する必要性
• 憲法第81条が謳う違憲立法審査権の趣旨

(11)　非常事態と憲法（安保国際小委員会：３月25日　調査会：４月８日）

○小針司参考人による意見陳述の要点

• 非常事態への対処に関して現行憲法は極めて謙抑的であり、非常事態における人権制約の法理は「公共の福祉」に見出すほかなく、また、非常事態法制の構築に当たっては、人権保障の在り方が多様かつ複雑になっている点を考慮しなければならない。
• 現行憲法における個人主義的世界観からは、国家は個人の生命、身体及び財産を保護してこそ、その支配を正当化できる。
• 「国→地方公共団体→国民」から「国民→地方公共団体→国」という防衛観の視座の転換が必要であり、また、有事にあってこそ有事法制が効果を発揮し、国民の生命、身体及び財産を守り、国家の安全を確保することから、非常事態への対処は憲法典に明記されるべきである。

○松浦一夫参考人による意見陳述の要点

• 諸外国では、民間防衛が軍事的防衛と平時の災害救助を結びつける分野として考えられている。
• 特に、ドイツでは、基本法（憲法）上「防衛」を、「市民の保護を含む防衛」と位置づけ、「軍事的防衛」と、国民保護を含む「非軍事的防衛」を合わせた「総合防衛」が緊急事態法制の基礎となっている。
• その中で、[1]「市民保護再編法」で「自己防衛」を市民保護の基本とし、公的機関はそれを補完するものとされている点、[2]ボランティア組織が防災組織として国の災害救助体制を支えるほか、有事においても国民保護に当たることとされている等重要な存在として位置づけられている点は、我が国においても参考になる。

○主な質疑内容

• 非常事態に関する規定を憲法上に明記する必要性及びその規定の仕方
• 国民保護法案についての評価及び私権制限に関する憲法上の根拠
• 非常事態法制の検討に当たって、諸外国の憲法等が規定する諸条件を考慮する必要性

○自由討議における主な発言内容

• 非常事態に関する規定を憲法上明記することの是非
• 国民保護法案の実効性
• 国会による自衛隊に対する監視・規制の在り方
• 国民の安全を確保することについての議論の必要性

(12)　公共の福祉（基本的人権小委員会：４月１日　調査会：４月８日）

○松本和彦参考人による意見陳述の要点

• 人権と公共の福祉の関係を巡る争いは、問いの立て方を巡る争いであった。通説的見解は、「人権」対「公共の福祉」の「二項対立図式」により、「人権は公共の福祉によって制限できるか」及び「人権を制限する公共の福祉とは何か」との問題設定を行ってきた。
• 「二項対立図式」の問いを「正当な『目的』を達成するための正当な『手段』による規制」の問いへと立て直し、規制の「目的」と「手段」を細やかに検討することにより、公共の福祉を重視しつつ人権を尊重することが可能となる。
• 誰がこの「問い」に答えるのかについては、「議会」が人権と公共の福祉の調整を「法律の形式」で行うことが特に重要である。

○主な質疑内容

• メディアの表現の自由と個人のプライバシー権との調整の在り方
• 人権に対する「法律による留保」についての理論の意義及び現状
• 「公共の福祉」を巡る議論の現状等

○自由討議における主な発言内容

• 市民の安全・秩序維持等の公共の福祉のための施策と市民の人権の調整
• 法律によって議会が権利調整を行い得るか否か
• 裁判所が科学技術の進展に見合った権利調整を行い得る能力を持つ必要性

(13)　財政（統治機構小委員会：４月１日　調査会：４月８日）

○碓井光明参考人による意見陳述の要点

• 国民主権の一環としての国民財政主義を実現するためには、国民に対し財政情報を提供する必要がある。
• 財政に関する規定の多くは議会の裁量に委ねてよく、「健全財政主義」を憲法に規定することで財政統制を図ることは、事実上困難である。
• 健全財政の確保のため、予算単年度主義を原則としつつ、複数年度予算や予算繰越しの弾力化によって「予算単年度主義の弊害」を回避すべきである。
• 財政統制については、[1]行政自身の統制としては財務省の役割が大きく、また、[2]会計検査院は、憲法上、国会の附属機関とすることは想定されていない。
• 「住民訴訟」に相当する国レベルの「国民訴訟」は検討に値する。また、国会自身も財政統制の制度的在り方を継続的に検討し、報告書を公表する等の努力を期待する。

○広井良典参考人による意見陳述の要点

• 我が国の社会保障制度の特徴は、[1]小規模、[2]年金の比重が大きく福祉の比重が小さいこと、[3]財源は社会保険を中心に保険と税が渾然一体であること等である。
• 社会保障の基本理念は、憲法第13条が保障する自己実現の機会としての自由を制度的に保障するものである。
• その方向性としては、リスクの予測が困難な医療・福祉を厚く、年金は私的なものを拡充する「医療・福祉重点型」が妥当であり、財源として、消費税、相続税、環境税が検討されるべきである。
• 「公・共・私」の役割分担の在り方や環境との調和も視野に入れつつ、「持続可能な福祉国家・福祉社会」の追求が社会保障の基本課題である。

○主な質疑内容

• 複数年度予算を編成する必要性
• 健全財政主義を憲法上に明記することの是非
• 社会保障に関する憲法上の規定の在り方
• 国民負担率の現状及び将来の水準として許容される範囲
• 我が国が目指すべき福祉国家のモデル

○自由討議における主な発言内容

• 財政民主主義を改めて憲法上位置づける必要性
• 私学助成との関係から、憲法第89条を削除又は改正する必要性
• 憲法第25条に謳う社会保障の権利・国の責務の視点から、年金制度を検討する必要性

(14)　科学技術の進歩と憲法（調査会：４月15日）

○木村利人参考人による意見陳述の要点

• 私は、「いのち」の問題を、さまざまな研究領域の枠を超えた「超学際的」学問として把握し直す「バイオエシックス」の構築を試みてきた。
• 現在、先端生命科学技術の分野では、「公開の場」で一般市民を含めさまざまな分野の専門家の協力によってガイドラインが作られるようになってきている。
• 米国では、法が社会に影響を与えて積極的に変化させるという発想があり、例えば、ハーバード・ロー・スクールでは、500年の過去と未来を展望する歴史的スケールでの研究や議論がなされている。
• 医療分野では、患者自身が自らの医療情報を入手したうえで、自分のいのちに関する選択やリスクについての最終的「価値判断」を自ら行う「インフォームド・コンセント」が求められる時代になっている。
• 我々は、現在の日本を考えるだけではなく、100〜200年先の日本を見据えて、人権・平和・人間の尊厳の方向性を考えていかなければならない。

○主な質疑内容

• 先端生命科学技術に対する日米欧の法制の態度が異なっていることの背景
• 医療の現場におけるカルテの開示の限界領域
• 宗教的土壌という観点から見たバイオエシックス
• 科学者が、科学者として、また、一人の人間として負う社会的責任
• フランスの生命倫理法に謳われている「人体の人間宣言」のような枠組みを我が国においても作る必要性

(15)　地域安全保障（安保国際小委員会：４月22日　調査会：６月３日）

○菊池努参考人による意見陳述の要点

• アジア太平洋地域の安全保障を考えるに当たっては、国際社会との協力・協調関係の重視、軍事力だけではなく経済活動等の総合的な取組、テロ等の新しい脅威への対応が重要である。
• そのための施策として、[1]地域安全保障の環境整備としての同盟の機能強化、[2]政府間又は官民合同での地域安全保障対話の拡大、[3]内政への地域諸国による共同介入・共同関与が挙げられる。
• 自由貿易協定（ＦＴＡ）は、地域経済の安定化や国境を越えた利害の共有等のプラス面を持つ反面、締結国間の利益の不均衡を生じさせることによる国内政治の対立を惹起させる等のマイナス面を有することから、多少の効果は期待できるが、過剰な期待はできない。

○主な質疑内容

• アジア地域の安全保障の在り方
• ＦＴＡ締結によって我が国の経済的プレゼンスが高まることに対するアジア諸国の受け止め方
• 東南アジア友好協力条約の果たす役割
• 多国間の協調的安全保障を重視する必要性
• 北朝鮮問題を巡る６か国協議と地域安全保障との関係

○自由討議における主な発言内容

• 地域安全保障の観点からのＦＴＡを推進する必要性
• 冷戦後における平和的な外交手段を充実させる必要性
• 環境や食料等バランスのとれた安全保障への取組
• アジア太平洋地域における我が国の貢献の在り方

(16)　憲法と国際法（最高法規小委員会：４月22日　調査会：６月３日）

○齊藤正彰参考人による意見陳述の要点

• 従来は憲法と条約が矛盾・衝突するケースが重要な論点となったが、憲法と国際人権条約とは人権保障を目指すという点で共通しており、完全な矛盾・衝突は多くはない。
• 法律に対する条約の優位は、憲法の「国際主義」を基調として他の憲法の諸原理との調和を求めた結果と解するのが整合的である。
• 現状において、国内裁判所は、国際人権条約の活用に積極的であるとは言えない。
• 国際人権条約の国内実施に当たっては、国際人権条約の内容を違憲審査制の枠組みで実現する「違憲審査制とのすり合わせ」として、国際人権条約の憲法解釈の基準への援用及び国際人権条約違反を理由とする最高裁判所への上訴の容認が必要である。
• 国際人権規約（自由権規約）の規約人権委員会の意見、見解等を国内裁判所において可能な限り顧慮することは、条約の誠実な遵守を謳う憲法第98条第２項の要請に適うものである。

○主な質疑内容

• 憲法・法律と条約とが矛盾した場合の解消方法
• 現在の国会承認を要する条約の範囲についての妥当性
• 条約に対する留保を付する際の判断権の所在
• 国際人権条約の国内への直接適用の必要性

○自由討議における主な発言内容

• 国際人権条約を批准する際における政府の主体的判断の必要性
• 条約が遵守されていない国際状況に対する懸念
• 憲法と条約の関係を明確にする必要性
• 条約の承認を国会の主導により行うことの必要性

(17)　中央政府と地方政府の権限のあり方（統治機構小委員会：５月20日　調査会：６月３日）

○辻山幸宣参考人による意見陳述の要点

• 地方分権一括法の制定後も、依然、通達に代わる通知・勧告や、政省令等によって地方自治体は拘束されている。中央と地方の権限配分は、基礎的自治体において実施・執行されないこととされた事務を、より広域的な政府の事務として配分すべきである。
• 憲法上の規定の不備が地方自治の発展を阻害しているとの認識はないが、あえて憲法改正を行うとすれば、[1]首長と議会の関係を二元制とするか一元制とするかについて、地方自治体の選択に委ねること及び[2]米国諸州で採用されているチャーター制を導入することが考えられる。
• 連邦制を採用しない以上、ナショナル・ミニマムを保障するための財源は、中央政府が調整義務を負わざるを得ない。
• 地方自治体の適正規模は、実現可能な自治の内容を権限、財源、事務量との兼ね合いで考えるべきであり、「道州制」の概念も明確にせずに、市町村合併を推進する現状には懸念がある。

○主な質疑内容

• 地方税の税率を地方自治体の裁量に委ねることの是非
• 連邦制を採用するとした場合に、憲法改正ではなく新憲法の制定によるべきか否か
• シティー・マネージャー制度の導入の是非
• 憲法第８章が地方自治に果たしている役割
• 道州制を想定した場合における道州の権能

○自由討議における主な発言内容

• 多様な地方自治体の在り方を検討する必要性
• 首長の多選禁止等を検討する必要性
• 交通・通信手段の発達に伴い、都道府県の境を越た生活圏が成立していることを考慮する必要性
• 行政統制の見地から地方分権を推進する必要性
• 市町村合併の進め方についての問題点

(18)　経済的・社会的・文化的自由（基本的人権小委員会：５月20日　調査会：６月３日）

○野呂充参考人による意見陳述の要点

• 土地所有権とは、土地という財産に特有な普遍的制限を伴うもので、一般的な経済的自由の理論では解消できない特殊性がある。
• 土地所有権に関連した都市計画法制、都市景観法制及び財産権保障の在り方についての日独比較からは、以下の諸点が重要であると考えられる。
• 都市計画法制に関し、新規開発・建築について、ドイツでは「計画なければ開発なし」の原則が妥当するのに対し、我が国では「開発・建築自由」の原則が妥当する。
• 都市景観法制について、ドイツでは[1]法律に基づく地域限定のない醜悪化の禁止と[2]市町村の条例に基づく積極的な景観保護・形成の「二段階規制システム」が採られているのに対し、我が国では都市計画法に定める美観地区等の制度はあるが「計画なければ開発なし」の原則を前提としていないため、十分な活用がなされていない。
• 憲法による財産権保障とまちづくりについて、日本国憲法第29条とボン基本法第14条の規定に実質的な差異はないと考えられるが、ドイツの判例が所有権の限界又は社会的制約を具体的に判断する際、「土地の社会的制約」の強調及び「状況拘束性理論（土地の社会的拘束の内容・程度は、当該土地の置かれた状況、従来の利用の態様等によって異なるという考え方）」に基づいている。

○主な質疑内容

• 財産権における「公共の福祉」概念の変化
• 「都市計画権」を憲法に明記することの要否
• 都市計画権限における我が国とドイツの地方分権の差異
• 環境保護の責任について規定するボン基本法第20a条は、我が国における人権の観念を転換させるうえで参考になり得るか否か

○自由討議における主な発言内容

• 圏央道の土地収用に関する東京地方裁判所の判決に対する評価と批判
• 憲法第29条の「公共の福祉」に、まちづくりに伴う人権制約を含めて考える必要性
• 計画段階からの住民参加の必要性等の都市計画と景観保護の在り方

(19)　刑事手続上の権利・被害者の人権（基本的人権小委員会：５月27日　調査会：６月３日）

○田口守一参考人による意見陳述の要点

• 基本的人権に関する条文（30か条）中、刑事手続条項が10か条にも及ぶことは、比較憲法的にも珍しく、日本国憲法は刑事手続規範を重視していることがわかる。
• 今後の刑事手続における人権を考える際、被疑者等の具体的な自己決定を尊重するという「積極的人権」をも保障していくことが大きな課題である。
• 被害者の人権については、その法的地位を考えるうえで、[1]被害者保護の必要性、[2]被害者の手続参加及び[3]被害者の救済の３点が問題であり、法改正等による改善が図られているが、これを新たに憲法に規定することには慎重であるべきである。

○主な質疑内容

• 死刑制度を存続させることの是非
• 裁判員制度に対する評価
• 被疑者の取調べにおける弁護人の立会権を保障する必要性
• 被害者の人権を保護する必要性

○自由討議における主な発言内容

• 死刑制度の存廃
• 裁判官と国民との間にある感覚のずれと再教育の必要性
• 司法制度改革審議会に見られる司法制度改革の思想に対する危惧
• 憲法の刑事手続規定の制定過程と意義の重要性
• 刑事手続の運用を職権主義から当事者主義へ転換する必要性
• 裁判員制度が機能し得るような環境整備を図る必要性

(20)　二院制と会計検査制度（統治機構小委員会：５月27日　調査会：６月３日）

○説明者・森下伸昭会計検査院長による説明の要点

• 会計検査院が国の財政監督機関として、客観、中立の立場で厳正、公平にその職務を遂行するためには、独立性の確保が何よりも重要である。独立性を保障するための措置としては、[1]人事権の独立、[2]規則制定権の保持及び[3]二重予算制度がある。
• 会計検査院は独立機関であるが、[1]検査官任命についての国会の同意、[2]会計検査院の作成する決算検査報告の国会への提出、[3]会計検査院長の国会への出席・説明、[4]国会による検査要請等、国会と密接な関係を有している。
• 会計検査結果を制度、予算等に反映させるため、[1]会計検査院の検査結果が決算検査報告により国会に報告され国会における決算審査の際の重要な資料とされ、[2]会計検査院が改善の処置を要求した事項及び意見を表示した事項の事後処置状況の把握・決算検査報告への掲記がなされ、[3]財務省主計局等との連絡会が開催されている。
• 主要国の会計検査院の性格を見ると、米国は実質的に連邦議会の附属機関、英国は下院の官吏である院長を補佐する機関、ドイツは独立機関、フランスは司法機関としての性格を有する独立機関である。

○只野雅人参考人による意見陳述の要点

• 単一国家における二院制の場合、第二院の独自性が問題となる。また、世界全体では一院制を採用する国が多数であるが、人口が一定規模（１千万人）以上になると二院制が採用される傾向にある。
• 参議院の独自性の発揮のためには、[1]政党本位の選挙制度の改革を再検討すること及び[2]国会法ではなく議院規則によって議院の組織を定めることが必要である。
• 参議院の役割としては、多様な民意を反映して、長期的な視野に立った調査活動を行い、行政に対するコントロール機能を持つことが期待される。
• 衆議院は予算審議、参議院は決算審査という役割分担は、権限の弱い参議院が有効な統制をすることができるのかという懸念から、好ましいものではない。また、憲法政策的に見て、現行の二院制は是認できる。

○主な質疑内容

• 両院の選挙制度の在り方
• 参議院の存在意義
• 両院の役割分担の在り方
• 会計検査院を国会の附属機関とすることの是非
• 会計検査院による決算検査の観点及び会計検査院の独立性

○自由討議における主な発言内容

• 二院制を維持する必要性
• 憲法の規範に照らして現状を見ることの必要性
• 二院制のメリットを活用する必要性
• 両院の選挙制度や機能を見直す必要性
• 一院制への移行を検討する必要性

(21)　日本国憲法に関する件（調査会：６月10日）

○自由討議における主な発言内容

• 憲法改正のための手続法を制定する必要性
• 我が国の国際軍縮への取組等を国内にもアピールする必要性
• さまざまな改革の提案について、憲法改正により行うべきものと法律の改正等により行うべきものとを整理する必要性
• 未来志向の憲法論を展開する必要性
• 憲法の諸原則を活かしていくことの必要性
• 日本の伝統や文化等を踏まえた新憲法を制定すべきこと
• 憲法と現実の間に生じている問題を改正により解消する必要性
• 憲法問題については拙速を避けて国民的議論を展開する必要性
• 憲法改正で新たな義務を国民に課すことへの疑問
• 国会による条約の承認手続を見直す必要性
• 議会制民主主義を健全に機能させるための方策
• 第９条を改正して自衛権や国際貢献を明記する必要性
• 女性に皇位継承権を認めることの是非
• 「公共の福祉」についての考え方
• 憲法の制定過程を調査することの意義

４　公聴会等の議論の概要

(1)　公聴会

第１回〈５月12日　午前〉

○猪口邦子公述人による意見陳述の要点

• 我が国は、国際安全保障分野の多国間外交の場において評価されている。
• 憲法の検討に当たっては、戦後日本の国家や社会の努力への評価と、そうした努力がもたらした世界における貴重な存在感についての深い認識を出発点とすべきである。
• 第９条に掲げられた考え方は国際社会で広く知られ、特別の評価を獲得している。
• 我が国は、自国の在り方を過小評価するのではなく、むしろ国際社会への啓発力を信じて積極的に発信し、また日本の姿勢を肯定的に受け止める各国の多様性の受容をより積極的に外交を通じて評価していくべきである。
• 今後、国民世論が憲法の修正を求める場合に、第９条の基本を維持しつつ、平和国家として保持する自衛のための実力組織につき簡潔に言及する可能性は研究するに値する一方、個別法で扱うべき範囲の事柄を憲法に織り込むことや今後の国際情勢や国連の活動の方向性を予断して複雑な修正を試みることには慎重であるべきである。

○川本裕子公述人による意見陳述の要点

• 経済的自由に関する制限は、これまでのところ大過なく運用されてきている。
• 経済政策について憲法で事細かに規定すべきではない。
• 憲法には「財政赤字を出さない」ではなく、「財政赤字を隠さない」ということを規定すべきである。
• 最終的に国民負担となるような政府活動については、政府の情報公開義務を憲法上明記すべきである。
• 大きな一票の格差があることにより、国会が公共政策決定の責任主体となる前提条件が満たされていない等と考えられることから、議員定数の不均衡の見直しを図るべきである。

○井ノ川金三公述人による意見陳述の要点

• 「二院制の見直し」に当たっては、国会の機能を効率的に発揮させるためにどのようにすべきかを出発点にする必要があり、特に参議院の在り方が問題となる。
• 予算審議は衆議院、また、決算審査は参議院の専権として権能を分けるべきである。
• 最高裁判所長官の任命手続、大赦・特赦等の手続等の司法に関わる権限を参議院に移すべきである。
• 参議院の独自性を出す方向での見直しができないのであれば、一院制とすることもやむを得ないと考えられる。
• 州制へ移行するような場合には、参議院を道州の代表で構成される新しい第二院とすることも考えられる。

○主な質疑内容

• 人間の安全保障の憲法上の位置づけ
• 健全財政に関する規定を憲法上規定することの是非
• 二院制と連邦型分権国家との関係
• 国連の集団安全保障と憲法との関係
• 政府の情報公開に対する義務や責任を憲法上規定することの是非
• 多国間主義と米国の単独行動主義との関係
• 平和的生存権についての見解

第１回〈５月12日　午後〉

○小熊英二公述人による意見陳述の要点

• 憲法制定に際して占領軍のイニシアティブは強かったが、当時の保守陣営からもお概ね歓迎されたことを考えれば、「押し付け」という評価をすべきではない。
• 米国は、冷戦と朝鮮戦争をきっかけに対日政策を日本の非武装化から反共同盟国として再軍備させる方針に転換したが、この再軍備要求は、革新側のみならず保守政界の一部からも米国の「傭兵化」という反発を招いた。
• 第９条の改正は、[1]米国政府の対日軍事要求をエスカレートさせる可能性、[2]日本の軍事大国化を警戒する米国の世論及び周辺諸国の反発を招く可能性及び[3]アジア諸国を刺激する可能性がある。
• また、「自主憲法制定」という感情的な議論ではなく、国際社会

○船曳建夫公述人による意見陳述の要点

• 第９条は、米国の利益と人類の理想主義とが合わさった産物で、その当時の独立国家ならば当然有する「交戦権」を認めないという、特異な成り立ちを持つこととなった。
• また、第９条は、日米安全保障条約と対で意味をなすように作られており、平和憲法たる日本国憲法だけで戦争の抑止力になってきたと考えるのは正しくはない。
• 冷戦の終結により、米国による日本の防衛が疑うべくもない前提であった状況はなくなり、ここに至って、第９条の議論は実質を帯びてきている。
• 現在、戦争は、その戦争テクノロジーの進歩により、先進国間に限っていえば、すでに実質的に不可能な国家的活動であり、交戦権は不要であるばかりでなく、自衛以外の戦争を導きかねない危険なものである。
• よって第９条を改正することは、ここ200年ほどの「産業文明初期の国家と戦争の在り方」と論理的整合性があるだけで、日本国の将来的な国益とはならない。
• これまで積み重ねてきた第９条の議論は大きな財産であり、それを基礎として今後も議論を積み上げることが、真に世界から敬意を払われる国家となる道である。

○山崎正和公述人による意見陳述の要点

• 憲法改正の議論を、例えば、戦後の民主主義か戦前の愛国心か、占領軍による憲法か自主憲法かなど、イデオロギー的対立と重ね合わせてはならないと考えている。
• 当面の緊急課題は、[1]日本が自衛権を持つことを明示するかどうか及び[2]世界の平和維持に貢献する用意のあることを宣明するかどうかの２点であって、論議はこれに集中して実務的、具体的に行われるべきであり、憲法改正の包括的な議論は避けるべきである。
• 憲法改正を容易にする改正を行い、米国のように個別的な憲法修正条項の制定を可能にする道を開くべきである。

○主な質疑内容

• 国会や議員選出の在り方に関する憲法上の規定ぶり
• 愛国心について憲法上規定することの是非
• 東アジア地域共同体を形成するに当たっての課題
• 我が国の今後の対外政策の在り方
• テロに対する国際的防衛同盟を創設することに対する見解
• 多国間主義の見地から見たヨーロッパ・アジアにおける平和と安全保障の構築

第２回〈５月13日〉

○吉田健一公述人による意見陳述の要点

• 米国により引き起こされたイラク戦争は、違法な戦争であり、この違法な戦争への協力を目的とする自衛隊のイラク派兵は、第９条及び第98条第２項に違反するものである。
• 政府は、海外での武力行使はしないから合憲とする自らの説明すら投げ捨て、戦闘行為を展開している米英軍の物資輸送や武器を持った米兵の輸送まで行い、武力行使に加担しているが、これは立憲政治の基本を無視するもので許されない。
• 憲法の平和主義を活かし、軍事に頼らない平和な国際関係の実現を追求することが日本の課題である。
• 憲法「改正」により環境権やプライバシー権などの新しい人権を明記しようとする動きがあるが、現行憲法を活かし、保障されている基本的人権の充実を図り実現していくことをまず考えるべきである。

○安保克也公述人による意見陳述の要点

• テクノロジーの急激な進歩により、世の中は変化しており、新しい時代の憲法を論じるときには、技術進歩に関する情報を収集したうえで論じる必要がある。
• 憲法については、[1]情報の収集、分析、保全等のための法整備等と合わせた第21条の改正の必要性、[2]サイバー戦をも視野に入れ、「日本の主権及び独立を保障し、領土を保全し、国民の基本的人権を擁護することを使命とする」軍事組織を保有するための第９条改正の必要性、[3]国民の平穏の保障及び福祉の増進、侵略戦争の放棄及び国力に応じた国際平和協力への貢献等を前文に盛り込む必要性がある。

○日高明公述人による意見陳述の要点

• 私は、前文の掲げる理念を根づかせていくことが重要であると考える。
• 前文に謳う「平和的生存権」は、「人間の安全保障」につながる先見性を持ったものである。
• 前文及び第９条に謳う平和主義は、今日の国際社会を導く強力な理念となりつつあり、その実現こそが政治の最大の課題であると考えられる。
• 我が国は、憲法に平和的生存権を掲げているからこそ、世界の平和と安定のために積極的に寄与していくことができるのであって、前文や第９条の改正によっては、平和な社会を構築することはできない。
• むしろ、日本が世界に先駆けて戦争の放棄を鮮明にしたことの正しさをこそ誇るべきであって、憲法の精神を尊び、これを次代へつなげていくことが我々の選択すべき唯一の道であると確信する。

○主な質疑内容

• 国民投票法の制定や憲法改正手続要件の緩和に対する見解
• 憲法裁判所設置の是非
• 日米同盟と国際協調主義との関係
• 国際貢献について憲法上規定することの是非
• 世界における我が国憲法の位置づけや役割
• 米軍基地による公害と環境権等人権との関係
• 21世紀における我が国の国家像

(2)　委員派遣（広島県）

○各意見陳述者（６名）による意見陳述の要点

• 現在、失業問題が深刻である等、憲法第27条や第25条に反する状況にあり、これらの規定を実現するための諸施策により景気回復を図ることができる。憲法改正を議論する前に政府に憲法を遵守させ、人権を侵害させないようにすることが国会の役目である。戦争が最大の人権侵害であり、人権保障のために第９条は絶対に変えてはならない。
• 国家主権の侵害に対処するための備えをし、また、我が国の歴史、伝統、文化等の国家としてのアイデンティティを明確化すべきである。積極的な平和活動を実施すべきことを踏まえ、前文の全面改正や第９条第２項の削除等の憲法改正をすべきである。
• 自分が被爆の苦しみを乗り越えることができたのは平和主義を謳った憲法があったからである。我が国は、第９条を堅持し、平和外交を基調とする全方位外交を果敢に展開しなければならないのであり、憲法、とりわけ、第９条の見直しには断固反対である。
• 憲法は、日本が半世紀以上前、アジア諸国を侵略し、大きな戦争を引き起こしたことに対する反省と二度と戦争をしないという誓いのもとに生まれたものであるが、自衛隊のイラク派兵等はそれをないがしろにするものである。悲惨な戦争の体験、人類の自由を求める闘いの到達点が書き込まれている憲法は、まったく変える必要がない。
• 地方自治の課題として、地方の自主自立の精神と自己責任を確立する必要性、国と地方の業務分担の見直しと地方財政の再構築の必要性、地方行政の重層構造等の簡素化の必要性が指摘できる。憲法の地方自治の規定をより具体的に規定し直す必要があり、また、道州制ひいては連邦制の導入も検討されるべきである。
• 憲法は、制定過程に問題があること、施行後60年近い時が経過したことの２点から改正が必要である。特に、統治機構については、議員の選出方法が酷似する二院制の見直し、形骸化している最高裁判事の国民審査の廃止、「地方自治の本旨」の具体化が必要である。

○主な質疑内容

• 教育の在り方
• 国と地方の役割分担
• 道州制と二院制の関係
• 核抑止論を乗り越えるための理論構成
• 憲法の平和主義への思い
• 日本のアイデンティティと第９条との関係

５　公述人・参考人・意見陳述者等

[1]　公述人

出頭年月日	職業	氏名	意見を聞いた問題
平成16. 5.12	上智大学法学部教授	猪口 邦子君	日本国憲法に関する件について
	早稲田大学大学院教授	川本　裕子君
	元群馬県林業改良普及協会事務局長	井ノ川　金三君
	慶應義塾大学総合政策学部助教授	小熊　英二君
	東京大学大学院教授、文化人類学者	船曳　建夫君
	東亜大学学長	山崎　正和君
平成16. 5.13	弁護士	吉田　健一君
	日本電子専門学校専任講師	安保　克也君
	元四国学院大学大学院生	日高　明君

[2]　参考人等（意見又は説明を聴取した小委員（基調発言者）、最高裁判所当局者及び会計検査院長を含む。）

　○憲法調査会

出頭年月日	職業	氏名	調査案件
平成16. 4.15	元早稲田大学教授、早稲田大学国際バイオエシックス・バイオ法研究所元所長	木村　利人君	日本国憲法に関する件（科学技術の進歩と憲法）

　○最高法規としての憲法のあり方に関する調査小委員会

出頭年月日	職業	氏名	調査案件
平成16. 2. 5	流通経済大学法学部教授、九州大学名誉教授	横田　耕一君	最高法規としての憲法のあり方に関する件（天皇制）
平成16. 3. 4	大阪産業大学人間環境学部助教授	井口　秀作君	最高法規としての憲法のあり方に関する件（直接民主制の諸制度）
平成16. 3.25	最高裁判所事務総長	竹崎　博允君	最高法規としての憲法のあり方に関する件（憲法保障）
	北海道大学大学院法学研究科教授	笹田　栄司君
平成16. 4.22	北星学園大学経済学部助教授	齊藤　正彰君	最高法規としての憲法のあり方に関する件（憲法と国際法）

○安全保障及び国際協力等に関する調査小委員会

出頭年月日	職業	氏名	調査案件
平成16. 2. 5	（基調発言者）	中谷　元君 （自民）	安全保障及び国際協力等に関する件（憲法第９条）
	（同上）	松本　剛明君 （民主）
平成16. 3. 4	駐日欧州委員会代表部大使	ベルンハルド・ツェプター君	安全保障及び国際協力等に関する件（国家統合・国際機関への加入及びそれに伴う国家主権の移譲）
平成16. 3.25	岩手県立大学総合政策学部教授	小針　司君	安全保障及び国際協力等に関する件（非常事態と憲法）
	防衛大学校助教授	松浦　一夫君
平成16. 4.22	青山学院大学国際政治経済学部教授	菊池　努君	安全保障及び国際協力等に関する件（地域安全保障）

　○基本的人権の保障に関する調査小委員会

出頭年月日	職業	氏名	調査案件
平成16. 2.19	中央大学（法科大学院開設準備室）教授	内野　正幸君	基本的人権の保障に関する件（法の下の平等）
平成16. 3.11	学習院大学法学部長	野坂　泰司君	基本的人権の保障に関する件（市民的・政治的自由）
平成16. 4. 1	大阪大学大学院高等司法研究科教授	松本　和彦君	基本的人権の保障に関する件（公共の福祉）
平成16. 5.20	関西大学法科大学院教授	野呂　充君	基本的人権の保障に関する件（経済的・社会的・文化的自由）
平成16. 5.27	早稲田大学法学部・法務研究科教授	田口　守一君	基本的人権の保障に関する件（刑事手続上の権利・被害者の人権）

○統治機構のあり方に関する調査小委員会

出頭年月日	職業	氏名	調査案件
平成16. 2.19	立命館大学法学部教授	市川　正人君	統治機構のあり方に関する件（司法制度）
平成16. 3.11	東海大学政治経済学部教授	宇都宮　深志君	統治機構のあり方に関する件（人権擁護委員会その他の準司法機関・オンブズマン制度）
平成16. 4. 1	東京大学大学院法学政治学研究科教授	碓井　光明君	統治機構のあり方に関する件（財政）
	千葉大学法経学部教授	広井　良典君
平成16. 5.20	(財)地方自治総合研究所理事・主任研究員	辻山　幸宣君	統治機構のあり方に関する件（中央政府と地方政府の権限のあり方）
平成16. 5.27	会計検査院長	森下　伸昭君	統治機構のあり方に関する件（二院制と会計検査制度）
	一橋大学大学院法学研究科助教授	只野　雅人君

[3]　意見陳述者

期日	職業	氏名	意見を聴取した問題
平成16. 3.15	公務員	佐藤　周一君	日本国憲法について（特に、非常事態（安全保障を含む）と憲法、統治機構（地方自治を含む）のあり方及び基本的人権の保障のあり方）
	広島大学大学院教授、医師	秀　道広君
	元広島平和記念資料館館長	高橋　昭博君
	団体職員	平田　香奈子君
	社会福祉法人みどりの町理事長	岡田　孝裕君
	岡山県議会議員	小田　春人君

６　委員派遣

派遣期間	派遣地名	派遣目的	派遣委員
平成16. 3.15	広島県	日本国憲法に関する調査	８人

７　小委員会・公聴会

[1]　小委員会

小委員会	設置年月日	構成	開会年月日	調査案件
最高法規としての憲法のあり方に関する調査小委員会	平成16. 1.22	小委員15人	平成16. 2. 5	最高法規としての憲法のあり方に関する件（天皇制）
			平成16. 3. 4	最高法規としての憲法のあり方に関する件（直接民主制の諸制度）
			平成16. 3.25	最高法規としての憲法のあり方に関する件（憲法保障）
			平成16. 4.22	最高法規としての憲法のあり方に関する件（憲法と国際法）
安全保障及び国際協力等に関する調査小委員会	平成16. 1.22	小委員15人	平成16. 2. 5	安全保障及び国際協力等に関する件（憲法第９条）
			平成16. 3. 4	安全保障及び国際協力等に関する件（国家統合・国際機関への加入及びそれに伴う国家主権の移譲）
			平成16. 3.25	安全保障及び国際協力等に関する件（非常事態と憲法）
			平成16. 4.22	安全保障及び国際協力等に関する件（地域安全保障）
基本的人権の保障に関する調査小委員会	平成16. 1.22	小委員15人	平成16. 2.19	基本的人権の保障に関する件（法の下の平等）
			平成16. 3.11	基本的人権の保障に関する件（市民的・政治的自由）
			平成16. 4. 1	基本的人権の保障に関する件（公共の福祉）
			平成16. 5.20	基本的人権の保障に関する件（経済的・社会的・文化的自由）
			平成16. 5.27	基本的人権の保障に関する件（刑事手続上の権利・被害者の人権）
統治機構のあり方に関する調査小委員会	平成16. 1.22	小委員15人	平成16. 2.19	統治機構のあり方に関する件（司法制度）
			平成16. 3.11	統治機構のあり方に関する件（人権擁護委員会その他の準司法機関・オンブズマン制度）
			平成16. 4. 1	統治機構のあり方に関する件（財政）
			平成16. 5.20	統治機構のあり方に関する件（中央政府と地方政府の権限のあり方）
			平成16. 5.27	統治機構のあり方に関する件（二院制と会計検査制度）

注：会長及び会長代理は、小委員会に出席できることとなっている。

[2]　公聴会

開会承認要求 年月日	承認年月日	公聴会を開いた案件	意見を聞いた問題	開会年月日
平成16. 3.23	平成16. 3.23	日本国憲法に関する件	日本国憲法に関する件について	平成16. 5.12 平成16. 5.13