衆議院

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第1 平成19年の国会の動き

1 国会の召集及び会期

平成19年には、第166回国会(常会)、第167回国会(臨時会)及び第168回国会(臨時会)が召集された。

第166回国会は、平成19年1月25日に召集され、会期は6月23日までの150日間であったが、12日間延長され、7月5日までの162日間となった。

第167回国会(臨時会)は、平成19年8月7日に召集され、会期は同月10日までの4日間であった。

第168回国会は、平成19年9月10日に召集され、会期は11月10日までの62日間であったが、35日間の延長及び31日間の再延長により、平成20年1月15日までの128日間となった。

2 国会の主な動き

(1) 概況

【第166回国会(常会)】

第166回国会は、平成19年1月25日に召集された。

召集日には、本会議において、議席の指定が行われた後、災害対策特別委員会外6特別委員会が設置された。また、4月13日には、教育再生に関する特別委員会が設置された。

この国会においては、教育再生関連法案をはじめ、公務員制度改革関連法案、労働法制改正関連法案、行政改革関連法案、駐留軍再編特措法案、イラク支援特措法改正案、また、継続審査となっていた国民投票法案及び少年法等改正案などの審議が大きな焦点になった。

このほか、政治家の資金管理団体の事務所費をめぐる「政治とカネ」の問題で、政治資金の透明化に向けた取組として政治資金規正法の見直しが議論された。また、社会保険庁の年金保険料の納付記録漏れ問題が発覚したことを受け、被害者を救済する年金時効撤廃特例法案が提出され、社会保険庁を廃止・解体する法案とともに議論された。

(施政方針演説及び代表質問)

1月26日の本会議において、安倍内閣総理大臣の施政方針演説、麻生外務大臣の外交演説、尾身財務大臣の財政演説及び大田経済財政政策担当大臣の経済演説の政府4演説が行われた。

安倍内閣総理大臣は冒頭で、「美しい国、日本」の実現に向けて、時代の荒波に耐えうる新たな国家像を描いていくことこそが私の使命であると述べ、憲法を頂点とした戦後レジームを大胆に見直していくことを表明した。

その上で、「美しい国」を実現するには、その基盤として、活力に満ちた経済が不可欠であるとの認識を示し、成長の実感を国民が肌で感じることができる新成長戦略を推進していくと述べた。

また、再チャレンジ支援策として、若者の雇用機会の確保や、経済的に困難な状況にある勤労者の底上げを目指した最低賃金制度の見直しなどを明らかにした。

行財政改革の推進では、財政の無駄を無くすとの基本方針の下、歳出・歳入一体改革を行っていくこと、また、公務員制度改革などを実施し、それでも対応しきれない負担増に対しては、消費税を含む税体系の抜本的改革に取り組んでいく考えを示した。

安倍内閣総理大臣が、「内閣の最重要課題」と位置付ける教育再生では、子どもたちに公共の精神や道徳、地域や国への愛着・愛情などの価値観を教えることが、「日本の将来にとって極めて重要」と述べ、教育の基本にさかのぼった改革を推進し、「教育新時代」を築いていくことを明らかにした。また、教育改革を実効あるものとするため、学力向上に向けた「ゆとり教育」の見直しなど、公教育の再生を行っていくことを強調した。

このほか、地域活性化対策、「日本型の社会保障制度」の構築に向けた改革、少子化に対する本格的な戦略の構築等に取り組んでいく考えを示した。

外交・安全保障では、「世界の平和と安定に一層貢献するため、時代に合った安全保障の法的基盤を再構築する必要がある」と述べ、集団的自衛権行使に関する研究を進める考えを表明したほか、北朝鮮問題では、拉致問題の解決に向けた総合的な対策を進めていく考えを明らかにした。

また、事務所費問題など「政治とカネ」問題を踏まえた政治資金制度の在り方についての議論や、「憲法改正の議論を深めるべきだ」として、憲法改正の手続を定めた国民投票法案の今国会成立に強い期待を示した。

これに対する本会議の代表質問は、1月29日及び30日の両日行われ、教育改革、公務員制度改革、労働法制の見直し、政治資金問題などについて議論が展開された。

参議院においては、同月30日及び31日に代表質問が行われた。

(平成18年度補正予算及び平成19年度総予算審議)

集中豪雨や学校の耐震化対応などの災害対策、新型インフルエンザ対策、いじめや児童虐待対策などを講じる平成18年度補正予算及び歳出削減方針の下、効率的な予算配分に配慮した平成19年度総予算は、1月31日に予算委員会で提案理由の説明が行われた。

平成18年度補正予算は、同委員会の審査を経て、2月2日の本会議において可決され、同月6日の参議院本会議において可決、成立した。

その後、平成19年度総予算の質疑に入り、集中審議、公聴会、分科会等を含む同委員会の審査を経て、3月3日の本会議で記名投票の結果、可決され、同月26日の参議院本会議において可決、成立した。

(主な議案の審議)

第164回国会に提出され継続審査となっていた、憲法を改正する際の投票権者の年齢等などの具体的手続を定めた国民投票法案(議員立法)は、日本国憲法に関する調査特別委員会の審査を経て、4月13日の本会議で修正議決され、5月14日の参議院本会議において可決、成立した。【詳細は、(7)憲法改正国民投票法関係参照】

また、同じく第164回国会に再提出され継続審議となっていた、少年犯罪の凶悪化や低年齢化に対応するため、14才未満の少年について少年院送致の保護処分を可能にすることなどを盛り込んだ少年法改正案は、法務委員会の審査を経て、4月19日の本会議で修正議決され、5月25日の参議院本会議において可決、成立した。 【詳細は、(4)少年法等改正関係参照】

安倍内閣総理大臣が「内閣の最重要課題」と位置付けた教育再生に向け、教育目標の見直しや学校の組織運営体制の強化、教育委員会制度の改革及び教員免許の更新制度の導入などを図る教育再生関連法案が提出された。同改正案は、教育再生に関する特別委員会の審査を経て、5月18日の本会議で可決され、6月20日の参議院本会議において可決、成立した。 【詳細は、(3)教育再生関連法関係参照】

社会保険庁の不祥事を受け、同庁を廃止・解体し、特殊法人「日本年金機構」を創設する日本年金機構法案及び年金支給漏れの問題を受け、時効の特例を設けて被害者を救済する年金時効撤廃特例法案(議員立法)が提出された。両法律案は、厚生労働委員会の審査を経て、6月1日の本会議で可決され、同月30日の参議院本会議において可決、成立した。 【詳細は、(2)社会保険庁改革・年金記録問題関係参照】

官製談合の温床とされる国家公務員の天下り規制強化と、能力・実績に基づく人事評価制度の導入を盛り込んだ国家公務員法等改正案が提出された。同改正案は、内閣委員会の審査を経て、6月7日の本会議で可決され、同月30日の参議院本会議において可決、成立した。 【詳細は、(8)公務員制度改革関係参照】

昨年5月に日米両政府が合意した在日米軍再編計画を着実に実施するため、基地や訓練施設の移転などの負担を受け入れる関係自治体に対する交付金の拡充制度などを盛り込んだ駐留軍再編特措法案が提出された。同法律案は、安全保障委員会の審査を経て、4月13日の本会議で可決され、5月23日の参議院本会議において可決、成立した。同法律案は10年間の時限立法。 【詳細は、(5)在日米軍再編関係参照】

簡素で効率的な政府を実現するための行政改革推進法に基づく、政策金融改革関連5法案及び特別会計に関する法律案等行政改革関係法案が提出された。株式会社日本政策金融公庫法案及び株式会社日本政策金融公庫法の施行に伴う関係法律の整備に関する法律案は、内閣委員会の審査を経て、4月26日の本会議で可決され、5月18日の参議院本会議において可決、成立した。地方公営企業等金融機構法案は、総務委員会の審査を経て、5月10日の本会議で可決され、同月23日の参議院本会議において可決、成立した。株式会社日本政策投資銀行法案は、財務金融委員会の審査を経て、5月24日の本会議で可決され、6月6日の参議院本会議において可決、成立した。株式会社商工組合中央金庫法案は、経済産業委員会の審査を経て、4月26日の本会議で可決され、5月25日の参議院本会議において可決、成立した。特別会計に関する法律案は、財務金融委員会の審査を経て、3月6日の本会議で可決され、同月26日の参議院本会議において可決、成立した。 【詳細は、(6)行政改革関係参照】

昨年末以降、政治家の資金管理団体の事務所費をめぐる、いわゆる「政治とカネ」の問題を受け、政治資金の透明化策として、5万円以上の経常経費支出に領収書添付を義務付ける政治資金規正法改正案(議員立法)が提出された。同改正案は、政治倫理・公職選挙法改正特別委員会の審査を経て、6月14日の本会議で可決され、同月29日の参議院本会議において可決、成立した。

7月末に自衛隊のイラク派遣の期限切れを迎えるイラク復興支援特別措置法の期限を2年延長する改正案が提出された。同改正案は、テロ・イラク特別委員会の審査を経て、5月15日の本会議で可決され、6月20日の参議院本会議において可決、成立した。

北朝鮮問題では、昨年10月の北朝鮮の核実験実施を受けて発動した、外為法及び特定船舶入港禁止法に基づく制裁措置(北朝鮮からの輸入規制及び船舶の入港禁止等)の期限を半年間延長する承認案件が提出された。両案件は、経済産業委員会及び国土交通委員会の審査を経て、それぞれ5月24日及び29日の本会議で承認され、6月13日及び7月1日の参議院本会議において承認された。

また、北朝鮮による拉致問題等の人権侵害の改善に向け、政府の対北朝鮮施策に対する留意規定を追加した北朝鮮人権法改正案(議員立法)が提出された。同改正案は拉致問題特別委員会の審査を省略して、6月19日の本会議で可決され、同月29日の参議院本会議において可決、成立した。

このほか、現下の経済・経済状況等を踏まえ、持続的な経済社会の活性化を実現するための平成19年度税制改正関連法案、広域的地域活性化のための基盤整備を推進する広域的地域活性化基盤整備法案等の地域活性化関連法案、安倍政権が掲げる再チャレンジ政策として、労働環境の改善や雇用ルールの見直しなど、労働法制の改正を図る関連法案のうち、パートタイム労働者の処遇改善を図る短時間労働者雇用管理改善法改正案などが成立した。

また、継続審査となった法律案としては、最低賃金の底上げや残業代の割増率の引上げを盛り込んだ労働基準法改正案等の関連法案、外交・安全保障政策の機能を強化するため、国家安全保障会議(JNSC)創設を柱とする安全保障会議設置法改正案、内容を捏造した番組を放送した放送局に再発防止計画の提出を求める行政処分の新設などを盛り込んだ放送法改正案、年金の官民格差是正のため、共済年金を廃止し厚生年金に統合する年金一元化法案などがある。

決議案について主なものは、河野洋平衆議院議長の不信任決議案が6月19日提出され、翌20日の本会議において否決、また、安倍内閣不信任決議案が同月29日提出され、同日の本会議において否決された。

※ 委員会における審査等については、「第3 委員会の概況」参照

(その他)

3月28日、災害対策特別委員会において、同月25日に発生した平成19年能登半島地震による被害状況等について、政府から説明を聴取した。また、4月2日、被害状況等の調査のため、委員派遣が行われた。

4月12日、来日中の中国の温家宝国務院総理(首相)が、中国首相として初めて国会演説を行った。

(会期末)

6月22日の本会議において、今国会の会期を7月5日まで12日間延長することが議決された。

会期最終日の7月5日、本会議において閉会中審査の手続や請願の採択等が行われ、第166回国会は終了した。

(成立した主な法律案等)

今国会成立した法律案は、内閣提出が90件、議員提出が23件であった。前記以外の主なものとして、内閣提出法律案では、雇用保険法等改正案、防衛省設置法等改正案、犯罪収益移転防止法案、更生保護法案、戸籍法改正案、地方公共団体財政健全化法案、住民基本台帳法改正案、刑事訴訟法等改正案、刑法改正案等である。

議員提出法律案では、海洋基本法案、児童虐待防止法改正案、映画盗撮防止法案、カネミ油症事件仮払返還債権免除特例法案、公職選挙法改正案等である。

条約では、武力紛争時の文化財保護条約、核テロ防止国際条約等19件が承認された。

(第166回国会閉会後)

7月29日、第21回参議院議員通常選挙が行われた。

【第167回国会(臨時会)】

第167回国会は、7月29日に行われた第21回参議院議員通常選挙を受け、8月7日に召集された。

召集日には、本会議において、議席の指定が行われ、会期が8月10日までの4日間と議決された後、災害対策特別委員会外5特別委員会が設置された。

8月7日、経済産業委員会及び災害対策特別委員会において、7月16日に発生した平成19年新潟県中越沖地震による被害状況等について、政府から説明を聴取した。また、8月9日、両委員会においてそれぞれ被害状況等の調査のため、委員派遣が行われた。

会期最終日の8月10日、本会議において閉会中審査の手続等が行われ、第167回国会は終了した。

【第168回国会(臨時会)】

第168回国会は、平成19年9月10日に召集された。

召集日には、本会議において、議席の指定が行われ、会期が11月10日までの62日間と議決された後、議院運営委員長外15常任委員長辞任に伴う選挙が行われ、引き続き、災害対策特別委員会外5特別委員会が設置された。

次いで、安倍内閣総理大臣の所信表明演説が行われたが、同月12日に安倍内閣総理大臣が辞任を表明したため、所信表明演説に対する本会議の代表質問が取りやめになるなど、国会の日程は一時空白状態になった。

同月25日、本会議において内閣総理大臣の指名の投票が行われ、記名投票の結果、福田康夫君338、小沢一郎君117、志位和夫君9、福島みずほ君7、綿貫民輔君5、無効1で福田康夫君が内閣総理大臣に指名された。

なお、参議院においては、同日、小沢一郎君が内閣総理大臣に指名されたため、両院協議会を開いて協議したが成案を得ず、憲法の規定に基づき福田康夫君が内閣総理大臣に指名された。

この国会においては、11月1日に期限が切れるテロ対策特措法の延長問題が最大の焦点になったのをはじめ、第166回国会で改正された政治資金規正法の見直しや継続審査となっていた雇用ルールを見直す労働関連法案、大規模自然災害の被災者を支援する被災者生活再建支援法改正案などが審議されたほか、年金、薬害肝炎問題などが議論された。

(所信表明演説及び代表質問)

10月1日、衆参両院の本会議において、福田内閣総理大臣の所信表明演説が行われた。

福田内閣総理大臣は冒頭で、自民党総裁選の実施に伴う国会運営の混乱を謝罪するとともに、今後、「誠実な国会対応に努めていきたい」と述べた。

続けて、先の参議院議員通常選挙の結果を踏まえ、両院で議決が異なる場合、国として新しい政策を進めていくことが困難になるとして、「野党と重要な政策課題について、誠意をもって話し合いながら国政を進めていきたい」との姿勢を示した。

また、国民の信頼なくして、どのような政策も必要な改革も実現することは不可能として、「政治や行政に対する信頼を取り戻すことが、喫緊の課題である」と表明した上で、政治資金問題に言及し、政治資金の透明性をさらに高めるため、今後、「野党と十分に議論したい」との意向を示すとともに、まず閣僚から襟を正すべくとして、「問題を指摘された場合には説明責任を尽くすよう閣僚に徹底した」と述べた。

消費税を含む税体系の抜本的改革の問題については、歳出改革・行政改革を実施しても対応しきれない負担増に対し、安定的な財源を確保するため、「今後、早急に国民的合意を目指して、本格的議論を進めていく」との方向性を示した。

年金をめぐる諸問題については、「組織や運用の見直しなどを行い着実に解決していく」と述べるとともに、年金制度改革では、長期的な視野に立った制度設計が不可欠であるとして、与野党の立場を超えた議論の再開に期待を示した。

構造改革で生じた格差問題については、「実態から決して目をそらさず、改革の方向性は変えずに、生じた問題には一つ一つきちんと処方せんを講じていく」と述べるとともに、ばらまきでない地方再生への構造改革を進めていく考えを表明した。

外交では、海上自衛隊のインド洋における支援活動の継続と、北朝鮮問題の早急な解決を「直面する喫緊の課題」として挙げた上で、テロ特措法に基づく支援活動は、国際社会において果たすべき責任であるとして、「活動を継続することの必要性を国民や国会によく説明し、ご理解を頂くよう全力を尽くします」と述べ、活動の継続を訴えた。

また、北朝鮮問題の解決については、北朝鮮の非核化に向けた国際社会との連携強化と拉致被害者の早期帰国を実現して、不幸な過去を清算して国交正常化を図るべく、最大限努力するとの意向を表明した。

さらに、「日米同盟の強化とアジア外交の推進の共鳴」として、アジア外交を積極的に進める姿勢を示し、中国との戦略的利益に立脚した互恵関係や韓国との未来志向の信頼関係の強化を表明した。

むすびでは、国民の目線に立った改革を続行していくに当たって、「自立と共生を基本に」を掲げ、自助努力を基本としながらも、温もりのある政治を行っていくと述べた。

これに対する本会議の代表質問は、同月3日及び4日の両日行われ、総理の政治姿勢やインド洋での海上自衛隊の支援活動、政治資金、消費税を含む税制の抜本的改革、年金問題、沖縄戦をめぐる教科書検定問題などについて議論が展開された。

参議院においては、同月4日及び5日に代表質問が行われた。

(主な議案の審議)

今国会の最大の焦点となった、11月1日に失効したテロ対策特措法に代わる、インド洋での海上自衛隊の補給支援活動を再開させるための新テロ対策特措法案が、テロ・イラク特別委員会の審査を経て、同月13日の本会議で記名投票の結果、可決され参議院に送付されたが、平成20年1月11日の参議院本会議において否決され、衆参両院で異なる議決がなされた。このため同法律案は憲法第59条第2項の規定に基づき、同日の本会議において出席議員の3分の2以上の多数をもって再可決され、成立した。【詳細は、(11)テロ対策特措法関係参照】

年金問題では、企業の保険料未払いで未納扱いとなった、いわゆる「消えた年金」の被害者を救済する厚生年金保険給付特例法案(議員立法)が、厚生労働委員会の審査を経て、12月4日の本会議で修正議決され、同月12日の参議院本会議において可決、成立した。

なお、第166回国会で成立した日本年金機構法のうち、被保険者から徴収した保険料の使途条項を修正し、年金給付以外への流用を禁止することとする与党提出の国民年金事業運営改善法改正案については、11月2日の参議院本会議で可決され衆議院に送付された民主提出の改正案とともに継続審査となった。 【詳細は、(2)社会保険庁改革・年金記録問題関係参照】

労働関連法案では、継続審査になっていた最低賃金の底上げを図る最低賃金法改正案と雇用条件などの基本ルールを盛り込んだ労働契約法案が厚生労働委員会の審査を経て、11月8日の本会議で修正議決され、同月28日の参議院本会議において可決、成立した。

なお、残業代の割増率を引き上げる労働基準法改正案は、継続審査となった。 【詳細は、(10)労働条件に関するルールの見直し関係参照】

継続審査となっていたNHKの不祥事防止などを図るため、NHK経営委員会の監督権限強化などを柱とする放送法改正案が、総務委員会の審査を経て、12月11日の本会議で修正議決され、同月21日の参議院本会議において可決、成立した。焦点となっていた捏造番組を流した放送局に対する行政処分条項は修正案で削除された。 【詳細は、(9)放送・通信制度改革等関係参照】

「政治とカネ」の問題では、国会議員の政治団体をめぐる不祥事続発を踏まえ、更なる透明化を図るため、第166回国会で改正された政治資金規正法を見直し、政治団体の人件費を除く全領収書の公開や第三者機関を新設して政治資金収支報告書の監査を行うことを柱とする再改正案(議員立法)が提出された。

同改正案は、政治倫理・公職選挙法改正特別委員会の審査を経て、12月20日の本会議で可決され、翌21日の参議院本会議において可決、成立した。

地震や台風などの大規模自然災害の被災者に対する支援金の使途範囲を拡充した被災者生活再建支援法改正案(議員立法)が11月9日の参議院本会議で可決され、衆議院に送付された。同改正案は、災害対策特別委員会の審査を経て、同日の本会議で可決、成立した。

薬害肝炎問題をめぐる厚生労働省の対応のずさんさに批判が集まる中、薬害C型肝炎訴訟の和解協議で原告側が求める被害者全員を一律救済する薬害C型肝炎感染被害者救済特措法案(厚生労働委員長提出)が、平成20年1月8日の本会議で可決され、同月11日の参議院本会議において可決、成立した。

また、薬害被害者に限らず肝炎患者を広く救済する与党提出の肝炎対策基本法案は継続審査となった(民主が参議院において提出した特定肝炎対策緊急措置法案は同院において継続審査となった。)。

また、継続審査となっていた外交・安全保障政策に関する首相官邸の司令塔機能の再編・強化を図るため、国家安全保障会議を創設する安全保障会議設置法改正案は審査未了となった。

(北朝鮮問題)

北朝鮮問題では、昨年10月の北朝鮮の核実験を受けて実施中の外為法及び特定船舶入港禁止法に基づく制裁措置(北朝鮮からの輸入及び船舶の入港禁止等)の期限を半年間延長する承認案件が提出された。両案件は、経済産業委員会及び国土交通委員会の審査を経て、ともに11月2日の本会議で承認され、同月14日の参議院本会議において承認された。制裁延長は今年4月に続き2度目となる。

また、米国の北朝鮮に対するテロ支援国指定解除の動きに反対する決議が、12月5日の拉致問題特別委員会で議決された。

(その他)

9月25日、自由民主党福田康夫総裁と公明党太田昭宏代表との間で連立政権維持に関する合意が交わされた。

(会期末)

11月9日の本会議において、今国会の会期を12月15日まで35日間延長することが議決された。

12月14日の本会議において、今国会の会期を平成20年1月15日まで31日間再延長することが議決された。

会期最終日の平成20年1月15日、本会議において閉会中審査の手続や請願採択等が行われ、第168回国会は終了した。

(成立した主な法律案等)

本国会成立した法律案は、内閣提出法律案が14件、議員提出法律案が12件であった。前記以外の主なものとしては、内閣提出法律案では、社会福祉士及び介護福祉士法等改正案(継続)、消費生活用製品安全法改正案、電気用品安全法改正案、気象業務法改正案、温泉法改正案、銃刀法及び武器等製造法改正案等である。議員提出法律案では、身体障害者補助犬法改正案、中国残留邦人自立支援法改正案、振り込め詐欺被害者救済法案、老人福祉法改正案、被爆者援護法改正案、行政書士法改正案等である。

第166回国会開会式
第166回国会開会式

(2) 社会保険庁改革・年金記録問題関係

(ア 国会で議論されるに至った経緯)

(ア) 社会保険庁改革

平成16年の年金制度改革は、厳しい年金財政状況の下、保険料の負担増と給付減を求める内容であったため、年金制度改革関連法案の立案時から、保険料財源を年金福祉施設など年金給付以外に充てることの問題や国民年金の未加入・保険料未納の問題、保険料の納付率の低下問題などが大きく取り上げられていた。また、年金制度改革関連法案の国会審議などにおいては、それらに加えて、社会保険庁の業務や職員のモラルに係る種々の問題が指摘された。

このような問題により、社会保険庁のみならず年金制度自体に対する国民の信頼が失墜し、この失われた国民の信頼を回復するためには、組織改革を含めた社会保険庁の抜本的改革が必要であるとの指摘が各方面から強くなされるようになった。

こうした状況を受け、政府及び与党内で検討が進められた結果、年金事業の運営主体を国家行政組織法上の「特別の機関」とすることなどを内容とする「ねんきん事業機構法案」及び「国民年金事業等の運営の改善のための国民年金法等の一部を改正する法律案」の両法律案が平成18年の第164回国会に提出され、審議が始められた。

しかし、国民年金保険料の納付率向上が強く求められ、数値目標も設定される中、平成16年10月以降市町村から被保険者の所得情報を入手できるようになり、保険料の免除・猶予対象者の把握が可能になったことを背景に、被保険者本人からの申請がないにもかかわらず社会保険事務所において免除承認手続を行うという不適正事務処理が明らかになった。こうした事態などを受けて、両法律案は衆議院において継続審査となった。

この国民年金保険料の免除等に係る不適正事務処理問題によって、社会保険庁の内部統制の欠如などの問題が依然として解消されていないことなどが明らかになったため、与党内において「ねんきん事業機構法案」の内容を見直す議論が高まった。安倍内閣総理大臣からも解体的出直しにふさわしいかどうかを党においても検討するよう指示があったことを受け、与党内で議論が行われた結果、平成18年12月に「社会保険庁改革の推進について」が取りまとめられ、社会保険庁を廃止し、解体し、公的年金の運営業務は新たな非公務員型の公的新法人に担わせることなどを内容とする関連法案を次期通常国会に提出することとなった(両法律案は第165回国会において審査未了)。

その後、政府において日本年金機構法案及び国民年金事業等の運営の改善のための国民年金法等の一部を改正する法律案が取りまとめられ、第166回国会に提出された。

一方、民主から、年金制度の安定性・持続性を高め、制度に対する国民の信頼を回復することを目的に、社会保険庁の解体・歳入庁の設置、保険料の流用禁止、後述の年金記録問題の解消に向けた全記録の調査の実施等を内容とする歳入庁設置法案、国民年金事業及び厚生年金保険事業の適切な財政運営に資するための国民年金法及び厚生年金保険法の一部を改正する法律案及び公的年金制度に対する国民の信頼の回復を図るための年金個人情報関係調査の実施等に関する法律案が提出された。

(イ) 年金記録問題

国民年金保険料の免除等に係る不適正な事務処理は、社会保険庁における年金記録の管理が適正に行われていないのではないかとの不安を国民に与えた。さらに、年金額が変更された件数や年金記録についての相談件数が多数に上っているとの報道があったことなどから、社会保険庁で本来管理されているべき保険料納付記録が失われていたり、誤っているのではないかとの疑念も広がった。

また、平成19年2月14日に報告された「国民年金・厚生年金の納付した保険料の記録が消滅する事案等に関する予備的調査についての報告書」において、平成9年に導入された各年金制度共通の基礎年金番号にいまだ統合されていない厚生年金・国民年金の記録が約5,000万件存在することや、社会保険庁側には資料がないものの被保険者側が保有する資料に基づいて年金額を訂正した事例があることなどが明らかになったことなどから、第166回国会においては社会保険庁改革関連法案の審議を中心に、年金記録をめぐる様々な問題が取り上げられた。その議論の過程で、社会保険オンラインシステム上の記録の入力ミス等が多数あることや、記録が訂正されたとしても5年以上前の分は会計法の規定によって時効で支払われないといった問題なども指摘されたことなどから、年金記録問題は社会的にも大きな関心事項となっていった。

こうした状況の中、政府において年金記録問題への対応策が示されるとともに、与党から、年金記録が訂正され年金額が増加した場合にその一部が時効で消滅しないことなどを内容とする厚生年金保険の保険給付及び国民年金の給付に係る時効の特例等に関する法律案が提出された。

なお、年金記録問題をめぐっては、社会保険庁改革関連法案等の衆議院通過後も、厚生労働委員会等において多くの質疑がなされ、それを受けて、政府・与党においても追加の対応策が取りまとめられた。

(ウ) 参議院議員通常選挙後の動向

第166回国会閉会後の平成19年7月に行われた参議院議員通常選挙では、記録問題をはじめとする年金制度の在り方が争点の1つとなった。 こうした状況の下、第168回国会において、民主から、年金保険料を給付以外には充当しないことを内容とする国民年金事業等の運営の改善のための国民年金法等の一部を改正する法律の一部を改正する法律案(選挙後の第167回国会に提出され、未了となったものと同内容)が、与党が過半数割れとなった参議院に提出・可決され、衆議院に送付された。

一方、与党からは、年金教育・広報等の事業について、施設の建設等を行わないことを条文上明記すること等を内容とする国民年金事業等の運営の改善のための国民年金法等の一部を改正する法律の一部を改正する法律案が提出された。

また、政府の年金記録問題への対応策に基づき、年金記録の訂正に関し国民の立場に立って公正な判断を示す場として年金記録確認第三者委員会が総務省に設置されたが、事業主が従業員から厚生年金保険料を天引きしていながら社会保険庁に納付していない事案については、現行制度内での対応に限界があるとされていた。そのため、そうした事案の救済を図る措置を講ずるため、与党から、厚生年金保険の保険給付及び保険料の納付の特例等に関する法律案が提出された。

(イ 関連議案の概要)

(ア) 日本年金機構法案(内閣提出)

公的年金制度の運営体制を再構築し、国民の信頼の確保を図るため、社会保険庁を廃止し、新たに年金事業の運営業務を行う非公務員型の公法人として日本年金機構を設立するほか、厚生労働大臣の運営責任等の規定を整備するものである。

(イ) 国民年金事業等の運営の改善のための国民年金法等の一部を改正する法律案(内閣提出)

被保険者の届出手続の簡素化、保険料の納付方法の多様化等、保険料の納付を促進するための施策を導入するほか、福祉施設規定を廃止するとともに、年金事務費の一部に保険料財源を充当できることとする等の措置を講じようとするものである。

(ウ) 歳入庁設置法案(山井和則君外5名提出)

国の歳入に係る業務及び年金の支給に係る業務等の適正かつ効率的な運営を図り、国民の信頼を確保するため、社会保険庁を廃止して、国税庁と統合し、新たに内閣府の外局として歳入庁を設置するものである。

(エ) 国民年金事業及び厚生年金保険事業の適切な財政運営に資するための国民年金法及び厚生年金保険法の一部を改正する法律案(山井和則君外5名提出)

年金事業の適切な財政運営に資するため、年金保険料を年金給付以外の支出に充てられないよう、福祉施設規定を削除するものである。

(オ) 公的年金制度に対する国民の信頼の回復を図るための年金個人情報関係調査の実施等に関する法律案(山井和則君外5名提出)

公的年金制度に対する国民の信頼の回復を図るため、社会保険庁による年金個人情報の管理の実態、すべての年金個人情報が事実と合致しているかどうかに関する調査等を適切に実施するものである。

(カ) 厚生年金保険の保険給付及び国民年金の給付に係る時効の特例等に関する法律案(石崎岳君外4名提出)

年金記録の訂正に伴う増額分の年金のうち時効消滅した年金額について、時効の特例を設けて支給することとするとともに、正確な年金個人情報の整備に関する政府の責務規定等を定めるものである。

(キ) 国民年金事業等の運営の改善のための国民年金法等の一部を改正する法律の一部を改正する法律案(参議院提出)

年金保険料を年金事務費及び年金教育・広報等の事業に要する費用に充てず、事業に要する経費は国庫で負担することとするものである。

(ク) 厚生年金保険の保険給付及び保険料の納付の特例等に関する法律案(大村秀章君外6名提出)

年金記録確認第三者委員会において事業主が厚生年金の保険料を源泉控除していながら社会保険庁に納付していないとされた事案について、保険給付を行うとともに、事業主に保険料納付を勧奨し、納付を申し出ない事業主名等を公表した上でなお納付しない場合に国がその保険料相当額を負担する等の措置を講じるものである。

(ケ) 国民年金事業等の運営の改善のための国民年金法等の一部を改正する法律の一部を改正する法律案(大村秀章君外6名提出)

年金教育・広報等の事業について、施設の建設等を行わないことを条文上明記するほか、年金事業運営経費の国庫及び保険料の財源ごとの使途を国会に報告することとするものである。

(ウ 審議経過)

(ア) 第166回国会

内閣提出の2法律案は、平成19年3月13日に提出され、また、山井和則君外5名提出の3法律案は5月7日に提出された。同月8日の本会議において5法律案についての趣旨説明の聴取及び質疑が行われ、同日、厚生労働委員会に付託された。

同委員会においては、同月9日、提案理由の説明を聴取した後、質疑に入り、同月22日には、学者や社会保険労務士、弁護士などの参考人からの意見聴取及び参考人に対する質疑が行われた。また、同月25日には、安倍内閣総理大臣に対する質疑が行われた後、内閣提出の2法律案について質疑終局の動議が提出され、可決された。次いで、採決の結果、内閣提出の2法律案はいずれも賛成多数で原案のとおり可決すべきものと議決された。

石崎岳君外4名提出の法律案は、5月29日に提出され、同日、厚生労働委員会に付託された。

同委員会においては、同月30日、提案理由の説明を聴取し、質疑が行われた後、質疑終局の動議が提出され、可決された。次いで、採決の結果、同法律案は賛成多数で原案のとおり可決すべきものと議決された。

6月1日の本会議において、内閣提出の2法律案及び石崎岳君外4名提出の法律案はいずれも可決された。

参議院においては、6月30日の本会議で、内閣提出の2法律案及び石崎岳君外4名提出の法律案はいずれも可決され、成立した。

なお、山井和則君外5名提出の3法律案は、いずれも衆議院において審査未了となった。

(イ) 第168回国会

参議院提出の法律案は、平成19年9月14日に提出され、11月2日の参議院本会議で可決され、衆議院に送付された。また、大村秀章君外6名提出の2法律案のうち、イ(ク)の法律案は11月2日に、イ(ケ)の法律案は同月6日にそれぞれ提出された。3法律案は同月13日、厚生労働委員会に付託された。

同委員会においては、同月14日、提案理由の説明を聴取し、同月21日から質疑に入った。同月28日、大村秀章君外6名提出のイ(ク)の法律案に対して、民主から修正案が提出され、趣旨の説明を聴取した。12月4日、同法律案について質疑を終局し、民主提出の修正案の撤回を許可した後、国が保険料相当額を負担した場合は、国が事業主に対して金銭の請求権を取得すること、年金記録確認第三者委員会の調査審議結果や事業主の保険料納付状況などを国会に報告することを内容とする修正案が全会派共同で提出され、趣旨の説明を聴取した。次いで、内閣の意見を聴取した後、採決の結果、同法律案は全会一致で修正議決すべきものと議決された。

同日の本会議において、同法律案は修正議決された。

参議院においては、12月12日の本会議で、同法律案は可決され、成立した。

なお、参議院提出の法律案及び大村秀章君外6名提出のイ(ケ)の法律案は、いずれも衆議院において継続審査となった。

(エ 主な質疑事項)

(ア) 第166回国会

内閣提出の2法律案に対する主な質疑事項は、[1]年金運営の新組織を非公務員型の組織とする理由、[2]機構が自ら行う業務と外部委託する業務の振り分け等を検討する第三者機関の役割の重要性、[3]機構の業務に対する政府の管理監督責任を担保する方法、[4]国民健康保険の短期被保険者証の法定化により収納対策が一層強化され低所得者の受診機会が失われる懸念、[5]社会保険料の滞納処分を受けた場合に登録等を認めないこととする職種に他の国家資格を除外して社会保険労務士を対象とした理由、[6]保険医療機関等が保険料を長期にわたり滞納した場合に事業者の指定等を認めない仕組のねらい、[7]年金事務費への保険料充当を恒久化する理由等であった。

山井和則君外5名提出の3法律案に対する主な質疑事項は、[1]歳入庁の設置により保険料の納付率向上や徴収業務の効率化が図られるとする根拠及び職員の身分が公務員のままとなることの妥当性、[2]歳入庁設置による経費削減効果、[3]歳入庁設置法案による不祥事防止策の内容、[4]年金給付以外への年金保険料流用を防止する必要性、[5]社会保険庁から新組織への移行により基礎年金番号に未統合の記録の調査等の作業が中断される懸念、[6]年金記録問題の実態調査を行う必要性等であった。

また、石崎岳君外4名提出の法律案に対する主な質疑事項は、[1]対象者からの申請を待つのでなく社会保険庁が通知を行う必要性、[2]年金記録が訂正されない限り特例措置の対象とされないことの妥当性、[3]領収書等が無く年金記録の訂正が見込まれない者の救済に向けて保険料納付の有無の立証責任は社会保険庁が負う必要性等であった。

なお、その他の年金記録問題に関する主な質疑事項は、[1]基礎年金番号に統合されていない年金記録の実態を解明する必要性及び問題の解消に向けて積極的に取り組む必要性、[2]社会保険オンラインシステムに収録されていない記録の件数及びその原因を究明する必要性、[3]年金記録の確認のために早急に本人に記録を送付する必要性、[4]年金額の裁定変更が多数行われている理由、[5]オンラインシステム上の記録の誤りを早急に訂正する必要性、[6]歴代社会保険庁長官の責任の在り方、[7]年金記録問題に係る被害者の救済に向けて社会保険庁が積極的に取り組む必要性、[8]年金記録確認第三者委員会の法的根拠及び社会保険審査会との関係等であった。

(イ) 第168回国会

大村秀章君外6名提出のイ(ク)の法律案に対する主な質疑事項は、[1]事業主が社会保険庁に保険料を納付していない場合に保険料相当額を国庫負担する根拠、[2]廃業した事業主に特例納付保険料の納付を勧奨する具体的方法、[3]社会保険庁と事業主の間で保険料納付の有無が明らかでない事案について記録訂正後も責任の所在を調査する必要性等であった。

大村秀章君外6名提出のイ(ケ)の法律案に対する主な質疑事項は、[1]専ら相談等の事業の用に供するための施設の取得等は行わない旨を明記した理由、[2]「専ら」と規定したことにより保険料財源が施設関係の費用に充当される可能性、[3]本法律案における年金事務費等の無駄遣いを排除する仕組みの内容等であった。

参議院提出の法律案に対する主な質疑事項は、[1]新たに一般会計で負担することになる約2,000億円の財源確保策及び特別会計で生じる余裕金の使途、[2]本法律案の通称に、「流用」という文言を使用することの妥当性、[3]年金事務費等の財源を国庫負担とすることによって無駄遣いがなくなるとする提出者の見解の妥当性等であった。

(3) 教育再生関連法関係

(ア 国会で議論されるに至った経緯)

(ア) 内閣提出法案

教育再生を最重要課題とする安倍内閣の下、平成18年10月10日、教育再生会議が、閣議決定により設置された。安倍内閣総理大臣は、質の高い教育の実現と学力の向上、規範意識の育成、家庭・地域の教育力向上を大きな改革の柱と位置付け、その具体策についての幅広い検討を教育再生会議に要請した。

第165回臨時国会において、改正教育基本法が成立し、同法に基づく教育改革が展開されることになった。教育再生会議は、同法の審査過程で議論となった、いじめによる自殺及び高等学校等の必履修科目の未履修、そしてこれらの問題への対応や責任体制をめぐって批判を浴びた学校や教育委員会の在り方についても検討を行い、平成19年1月24日、「社会総がかりで教育再生を−公教育再生への第一歩−」(第一次報告)と題した提言を公表した。

第一次報告のうち、教育再生のための「緊急対応」の具体化について、安倍内閣総理大臣から指示を受けた伊吹文部科学大臣は、2月6日、学校教育法、地方教育行政の組織及び運営に関する法律、教育職員免許法の改正に向けた審議を中央教育審議会に要請した。中央教育審議会では、今までの審議や教育再生会議の報告を踏まえ、集中的に審議を行い、3月10日、「教育基本法の改正を受けて緊急に必要とされる教育制度の改正について」を答申として取りまとめた。

政府では、以上のような経緯を踏まえて、立案作業を行い、3月30日、学校教育法等の一部を改正する法律案、地方教育行政の組織及び運営に関する法律の一部を改正する法律案及び教育職員免許法及び教育公務員特例法の一部を改正する法律案の3法律案を国会に提出した。

(イ) 民主提出法案

民主では、2月9日、日本国教育基本法案を再提出するとともに、その具体化を図る法律案の作成について、党内において協議を重ね、4月17日、政府の教育職員免許法及び教育公務員特例法の一部を改正する法律案の対案となる教育職員の資質及び能力の向上のための教育職員免許の改革に関する法律案、昨年の日本国教育基本法案の審議の際に参議院に提出した法律案を基礎とした地方教育行政の適正な運営の確保に関する法律案及び学校教育の環境の整備の推進による教育の振興に関する法律案を学校教育力の向上3法律案として、国会に提出した。

(イ 関連議案の概要)

(ア) 学校教育法等の一部を改正する法律案(内閣提出)

学校教育の充実を図るため、義務教育として行われる普通教育の目標を定めるとともに、学校の種類ごとの目的等に係る規定を整備するほか、学校の運営及び指導体制の充実を図るため、所要の措置を講ずるもので、その主な内容は、

 義務教育として行われる普通教育は、教育基本法が規定する義務教育の目的を実現するため、本法に定める義務教育の目標を達成するよう行われるものとすること

 副校長、主幹教諭及び指導教諭の職務について定めるとともに、これらを幼稚園、小学校、中学校、高等学校、中等教育学校及び特別支援学校に置くことができるものとすること

 幼稚園、小学校、中学校、高等学校、中等教育学校及び特別支援学校は、当該学校の教育活動その他の学校運営の状況について評価を行い、教育水準の向上に努めるとともに、保護者及び地域住民等との連携及び協力の推進に資するため、当該学校に関する情報を積極的に提供するものとすること

 大学は、文部科学大臣の定めるところにより、当該大学の学生以外の者を対象とした特別の課程を編成し、これを修了した者に対し、修了の事実を証する証明書を交付することができるものとすること

等である。

(イ) 地方教育行政の組織及び運営に関する法律の一部を改正する法律案(内閣提出)

地方教育行政について、その自主的かつ主体的な運営を推進するとともに、緊急の必要がある場合等における国の関与の手続を整備するため、所要の措置を講ずるもので、その主な内容は、

 地方公共団体における教育行政は、教育基本法の趣旨にのっとり、国との適切な役割分担及び相互の協力の下、公正かつ適正に行われなければならないこととすること

 県費負担教職員の同一市町村内の転任については、市町村教育委員会の内申に基づき、都道府県教育委員会が行うものとすることとすること

 教育委員会の法令違反や怠りによって、生徒等の教育を受ける権利が明白に侵害されている場合、文部科学大臣は、教育委員会が講ずべき措置の内容を示して、地方自治法に定める「是正の要求」を行うものとすること。また、同様の理由により、緊急に生徒等の生命・身体を保護する必要が生じ、他の措置によってはその是正を図ることが困難な場合、文部科学大臣は、教育委員会に対し「指示」ができることとすること

 都道府県知事は、私立学校に関する事務を管理し、執行するに当たり、必要と認めるときは、当該都道府県教育委員会に対し、学校教育に関する専門的事項について助言又は援助を求めることができることとすること

等である。

(ウ) 教育職員免許法及び教育公務員特例法の一部を改正する法律案(内閣提出)

教員の資質の保持と向上を図るため、免許更新制を導入するとともに、分限免職処分を受けた教員の免許状の効力を失わせることとするほか、児童等に対する指導が不適切な教員の指導の改善を図るために必要な措置に係る規定を整備する等のもので、その主な内容は、

 普通免許状及び特別免許状に、10年間の有効期間を定めること

 普通免許状又は特別免許状の有効期間は、その満了の際、その免許状を有する者からの申請により更新することができることとすること

 免許管理者は、申請があった場合には、免許状更新講習の課程を修了した者又は知識技能その他の事項を勘案して免許状更新講習を受ける必要がないものと免許管理者が認めた者である場合に限り、免許状の有効期間を更新するものとすること

 公立学校の教員が分限免職の処分を受けたときは、その免許状はその効力を失うこととすること

 公立の小学校等の教諭等の任命権者は、幼児、児童又は生徒に対する指導が不適切であると認定した教諭等に対し、指導改善研修を実施しなければならないこととすること。また、指導改善研修の終了時に指導の改善の程度に関する認定を行わなければならないこととすること

等である。

(エ) 日本国教育基本法案(鳩山由紀夫君外5名提出)

教育の目的を明らかにするとともに、学ぶ権利の保障を施策の中心に据えつつ、適切かつ最善な教育の機会及び環境の確保及び整備、教育現場の自主性及び自律性の確保その他教育の基本となる事項を定めるもので、その主な内容は、

 教育の使命として、人間の尊厳と平和を重んじ、生命の尊さを知り、真理と正義を愛し、美しいものを美しいと感ずる心を育み、創造性に富んだ、人格の向上発展を目指す人間を育成すると同時に、日本を愛する心を涵養し、祖先を敬い、子孫に想いをいたし、伝統、文化、芸術を尊び、学術の振興に努め、他国や他文化を理解し、新たな文明の創造を希求すること

何人に対しても、生涯にわたって、学ぶ権利を保障すること

 国及び地方公共団体は、それぞれの子どもに応じた教育の機会及び環境の確保・整備を図るものとし、国は、普通教育の最終的責任を有すること

 幼児期の教育及び高等教育について、無償教育の漸進的な導入に努めること

 生命及び宗教に関する教育について、生の意義と死の意味の考察、宗教的な伝統や文化に関する基本的知識の修得、宗教の意義の理解及び宗教的感性の涵養は、教育上尊重されなければならないこと

 地方公共団体が行う教育行政は、その長が行わなければならないこととするとともに、その設置する学校には保護者等が参画する学校理事会を設置し、主体的かつ自律的な運営を行うものとすること

 教育予算の安定的確保のため、公教育財政支出について、国内総生産に対する比率を指標とすること

 教育基本法(平成18年法律第120号)は廃止すること

等である。

(オ) 教育職員の資質及び能力の向上のための教育職員免許の改革に関する法律案(藤村修君外2名提出)

質の高い学校教育を実現するためには、高い資質及び能力を有する教育職員が学校教育に携わることが不可欠であることにかんがみ、教育職員の免許状の制度の改革について基本的な理念及び方針を定めるもので、その主な内容は、

 教諭の普通免許状は、専門免許状及び一般免許状に区分すること

 教諭の一般免許状は、修士の学位を有し、かつ、教諭としての職務をつかさどるために必要な資質及び能力を修得するために必要と認められる1年間の教育実習その他の教科及び教職に関する科目の単位を教職大学院等において取得した者等に授与すること

 普通教育に関し国が最終的な責任を有することにかんがみ、普通免許状は、文部科学大臣が授与するものとすること

 普通免許状(専門免許状を除く。)及び特別免許状については、原則として、10年ごとに、当該免許状を有する教育職員として特に必要とされる知識及び技能に関する講習、模擬授業を中心とする演習等からなるおおむね 100時間の講習を受講した上その修了の認定を受けない場合には、失効するものとすること

等である。

(カ) 地方教育行政の適正な運営の確保に関する法律案(牧義夫君外2名提出)

地方公共団体における教育行政の適正な運営の確保を図るため、地方公共団体による教育機関の設置及び学校理事会、教育監査委員会等に関し必要な事項を定めるもので、その主な内容は、

 地方公共団体が設置する学校(大学及び

高等専門学校を除く。)には、当該学校の運営に関する重要事項を協議する機関として、学校理事会を置かなければならないものとすること

 都道府県、市町村等に、当該地方公共団体の長が処理する教育に関する事務の実施状況に関し必要な評価及び監視等を行う教育監査委員会を設置するものとすること

 学校における教育課程、学習指導等学校教育に関する専門的事項の指導に関する事務に従事する指導主事を、都道府県には置くものとし、市町村には置くことができるものとすること

等である。

(キ) 学校教育の環境の整備の推進による教育の振興に関する法律案(笠浩史君外2名提出)

教育の振興に資するため、学校教育の環境の整備に関し、基本方針を定め、並びに国及び地方公共団体の責務を明らかにするとともに、学校教育環境整備指針及び学校教育環境整備計画を策定し、学校教育の環境の整備を推進するもので、その主な内容は、

 学校教育の環境の整備は、多様な教育機会の提供、きめ細かな教育指導の充実、安全、快適な学校教育のための諸条件の整備等を旨として行うことを基本方針とすること

 国及び地方公共団体は、日本国教育基本法第19条に規定する教育予算の確保、充実の目標を踏まえ、整備指針及び整備計画を達成するため、必要な財政上の措置等を講ずること

等である。

(ウ 審議経過)

平成19年3月30日、内閣から、学校教育法等の一部を改正する法律案等の3法律案が提出されたことを受けて、4月13日、教育再生に関連する諸法案を審査するため、委員45人よりなる教育再生に関する特別委員会が設置された。

同月17日、民主から、教育職員の資質及び能力の向上のための教育職員免許の改革に関する法律案等の3法律案が提出された。

内閣提出3法律案及び民主提出3法律案は、4月17日の本会議における趣旨説明及び質疑を経て、翌18日、教育再生に関する特別委員会に付託され、同日、同委員会において提案理由の説明が行われた。なお、2月9日に民主から提出された日本国教育基本法案も、上記6法案とともに、4月18日、同委員会に付託された。

同委員会においては、同月20日、内閣提出3法律案及び民主提出4法律案を一括して質疑に入って以降、5月17日の質疑終局に至るまで、政府並びに衆法提出者に対する質疑、参考人12名に対する質疑、合計4か所におけるいわゆる地方公聴会の開催や、公聴会の開催など、60時間を超える審査が行われた。

5月17日、質疑終局後、7法律案を一括して討論を行い、順次採決した結果、民主提出4法律案は、いずれも賛成少数をもって否決、内閣提出3法律案は、いずれも賛成多数をもって原案のとおり可決すべきものと議決された。なお、内閣提出3法律案に対し、附帯決議が付された。翌18日の本会議においては、民主提出4法律案は、いずれも賛成少数をもって否決され、内閣提出3法律案は、いずれも賛成多数をもって可決された。

参議院においては、6月20日の本会議で、内閣提出3法律案は可決され、成立した。

(エ 主な質疑事項)

内閣提出3法律案に対する主な質疑事項は、[1]義務教育の目標規定の基本的考え方、[2]規範意識を明記する理由、[3]副校長等新しい職の役割、[4]新たに規定した文部科学大臣による「是正の要求」及び「指示」が地方分権の趣旨に反する懸念、[5]私学に対する行政の関与の在り方、[6]教員免許更新制導入に伴う費用負担の在り方、[7]法定研修(10年経験者研修)と免許状更新講習との関係、[8]指導が不適切な教員の認定に当たっての公平性の確保策等であった。

民主提出4法律案に対する主な質疑事項は、[1]免許状取得の基礎資格を修士課程修了者に限定するなど、民主案における教員養成の考え方、[2]10年毎に100時間の講習を実施することの現実性、[3]専門免許状の取得要件を8年の実務経験としている理由、[4]民主案における教育の政治的中立性の確保策、[5]教育監査委員会を公選制としなかった理由、[6]教職員の人事権を市町村に委譲することによる懸念等であった。

(4) 少年法等改正関係

(ア 国会で議論されるに至った経緯)

(ア) 青少年育成施策大綱の策定等

平成15年当時の少年非行の動向は、少年人口に占める刑法犯の検挙人員の割合が増加し、強盗などの凶悪犯の検挙人員が高水準で推移していた。また、長崎市における中学1年の少年(当時12歳)による幼児誘拐殺害事件など、深刻な事件が発生していた。

このような状況を踏まえ、平成15年12月9日、政府の青少年育成推進本部は、「青少年育成施策大綱」を策定した。

同大綱においては、[1]触法少年(14歳に満たないで刑罰法令に触れる行為をした少年)の事案について、警察機関が必要な調査を行うことができる権限を明確化するための法整備について検討すること、[2]触法少年についても、早期の矯正教育が必要かつ相当と認められる場合に、少年院送致の保護処分を選択できるよう、少年院法の改正を検討すること、[3]保護観察中の少年について、その遵守事項の遵守を確保し、指導を一層効果的にするための制度的措置について検討することが示された。

また、同月18日、政府の犯罪対策閣僚会議が取りまとめた「犯罪に強い社会の実現のための行動計画」においても、非行少年の保護観察の在り方の見直し、触法少年事案に関する調査権限等の明確化について検討することが取り上げられた。

(イ) 法制審議会への諮問及びこれに対する答申

「青少年育成施策大綱」及び「犯罪に強い社会の実現のための行動計画」において取り上げられた事項は、いずれもかねてから、立法的手当を望む声があったこともあり、少年非行の現状に適切に対処するため、少年法などを早急に整備する必要があるとして、平成16年9月8日、法務大臣から法制審議会に対し、少年法等の整備のための要綱(骨子)が諮問された。

法制審議会に諮問された要綱(骨子)は、

[1]触法少年及びぐ犯少年(家出癖・不良交友などの事由があり、その性格又は環境に照らして、将来、罪を犯し、又は刑罰法令に触れる行為をするおそれのある少年)に係る事件の調査、[2]14歳未満の少年の保護処分の見直し、[3]保護観察における指導を一層効果的にするための措置等から構成されていた。

法制審議会は、諮問の内容が非常に専門的なものであり、慎重な調査審議が必要なことから、「少年法(触法少年事件・保護処分関係)部会」を設置の上、調査審議することとした。同部会は、平成16年10月8日から平成17年1月21日まで6回にわたる審議を行い、審議の結果を要綱に取りまとめ、法制審議会は、同年2月9日、法務大臣に答申した。

なお、法制審議会に諮問された要綱(骨子)には、公的付添人制度については含まれていなかったが、諮問された触法少年に関する保護処分の在り方の見直しと公的付添人制度は関連を有することから、審議の結果、答申の附帯決議の形で、一定の条件の下、家庭裁判所が、職権で、少年に弁護士である付添人を付することができる制度を導入することが提案された。

(ウ) 国会への法律案の提出等

a 平成17年の法律案提出及び審査未了

上記の附帯決議を含めた法制審議会の答申をもとに立案作業が進められ、第162回国会、平成17年3月1日、少年法等の一部を改正する法律案は、内閣提出法律案として、国会に提出された。

同年6月14日、本会議において趣旨説明及び質疑が行われ、法務委員会に付託されたが、委員会では審査に入ることなく、同年8月8日の衆議院解散により、審査未了となった。

b 平成18年の法律案提出

政府は、上記法律案が審査未了となったため、第164回国会、平成18年2月24日、上記法律案と同様の内容の少年法等の一部を改正する法律案を国会に提出した。

(イ 関連議案の概要)

少年法等の一部を改正する法律案(内閣提出)

近年、少年人口に占める刑法犯の検挙人員の割合が増加し、強盗等の凶悪犯の検挙人員が高水準で推移している上、触法少年による凶悪重大な事件も発生するなど、少年非行が深刻な状況にあることにかんがみ、少年非行の現状に適切に対処するとともに、国選付添人制度を整備するため、少年法、少年院法及び犯罪者予防更生法等を改正し、所要の法整備を行おうとするもので、その主な内容は、

 触法少年の事件について警察官による任意調査及び押収等の強制調査等の手続を、ぐ犯少年の事件について警察官による任意調査の手続をそれぞれ整備するとともに、警察官は、調査の結果、家庭裁判所の審判を相当とする一定の事由に該当する事件については児童相談所長に送致しなければならないこととし、児童相談所長等は、一定の重大事件に係る触法少年の事件については、原則として家庭裁判所送致の措置をとらなければならないこととすること

 14歳未満の少年について、家庭裁判所が特に必要と認める場合には、少年院送致の保護処分をすることができることとすること

 遵守事項を遵守しなかった保護観察中の者に対し、保護観察所の長が警告を発することができることとした上、なおその者が遵守事項を遵守せず、保護観察によってはその改善更生を図ることができないと認めるときは、家庭裁判所において少年院送致等の決定をすることができることとするほか、少年院及び保護観察所の長が保護処分中の少年の保護者に対し、指導、助言等をできることとすること

 一定の重大事件について、少年鑑別所送致の観護措置がとられている場合において、少年に弁護士である付添人がないときは、家庭裁判所が職権で少年に弁護士である付添人を付することができることとすること

等である。

(ウ 審議経過)

少年法等の一部を改正する法律案は、第164回国会、平成18年2月24日に提出され、6月16日、院議により法務委員会の閉会中審査に付された。

第165回国会においては、同年9月26日に同委員会に付託され、11月14日の本会議において趣旨説明の聴取及び質疑が行われたが、委員会では審査に入ることなく継続審査となった。

第166回国会では、平成19年3月23日、法務委員会において、長勢法務大臣から提案理由の説明を聴取し、同月28日、質疑に入った。

4月11日、喜連川少年院などへの視察が行われ、同月13日、参考人から意見を聴取するとともに、厚生労働委員会との連合審査会が開催された。

同日、本法律案に対し、民主から、[1]触法少年に係る事件について警察官等の調査を限定すること、ぐ犯少年に係る事件の調査に関する規定を削除すること、一定の重大事件に係る触法少年の事件についての児童相談所長等の家庭裁判所送致の措置に係る規定を削除すること、[2]少年院送致の下限年齢をおおむね14歳とすること、[3]遵守事項を遵守しなかった保護観察中の者に対する家庭裁判所の少年院送致等の決定に関する規定を削除すること、[4]国選付添人の選任は、少年がその選任に係る事件について審判を終局させる決定前に釈放されたときも効力を失わないこととすること等を内容とする修正案が提出された。

同月18日、本法律案に対し、与党提案により、[1]警察官は、客観的な事情から合理的に判断して、触法少年であると疑うに足りる相当の理由のある者を発見した場合において、必要があるときは、事件について調査をすることができるものとするとともに、ぐ犯少年に係る事件の調査に関する規定を削除すること、[2]少年院送致の下限年齢をおおむね12歳とすること、[3]遵守事項を遵守しなかった保護観察中の者に対する家庭裁判所の少年院送致等の決定の要件を明確化すること、[4]国選付添人の選任は、少年がその選任に係る事件について審判を終局させる決定前に釈放されたときも効力を失わないこととすること等を内容とする修正案が提出された。

同日、与党提案に係る修正案の提出者から趣旨の説明を聴取し、原案及び同修正案に対する質疑が行われた後、質疑終局及び討論省略の動議が提出され、可決された。

次いで採決の結果、民主の提案に係る修正案は、賛成少数をもって否決され、与党提案に係る修正案並びに修正部分を除く原案は、いずれも賛成多数をもって可決され、本法律案は修正議決すべきものと議決された。

同月19日の本会議において、本法律案は修正議決された。

参議院においては、5月25日の本会議で可決され、成立した。

(エ 主な質疑事項)

主な質疑事項は、[1]14歳未満の少年の非行の動向及び本法律案提出の背景、[2]少年事件への対応の在り方、[3]触法少年事件について警察官の調査権限を認める理由、[4]被暗示性等の少年の特性に配慮した調査の在り方、[5]ぐ犯少年である疑いのある者に対する警察官の調査権限付与の是非、[6]触法少年事件のうち一定の重大事件について原則家庭裁判所送致とする理由、[7]国選付添人の解任時期、[8]保護観察中の遵守事項違反を理由とする少年院送致等の是非、[9]少年院送致の下限年齢、[10]少年院と児童自立支援施設の役割分担等であった。

(5) 在日米軍再編関係

(ア 国会で議論されるに至った経緯)

冷戦が終結し、世界的な規模の武力紛争が生起する可能性は遠のいたが、他方、国際テロ、大量破壊兵器及び弾道ミサイル拡散といった新たな脅威が顕在化している。米国は、こうした新たな安全保障環境での課題に対処するため、軍事技術の進展を活用し、より機動性の高い態勢の実現を目標に、世界に展開する米軍の態勢の見直しに着手し、我が国を含む同盟国や友好国等との協議を進めている。

このような中、日米両国は、平成14年12月にワシントンで行われた日米安全保障協議委員会(以下「「2+2」会合」という。)の共同発表において、新たな安全保障環境における防衛態勢を見直す必要性を踏まえて、両国の役割・任務、兵力及び兵力構成といった問題を議論することに言及した。これを受け、日米間で防衛態勢の見直しに関する協議が開始された。

平成17年2月にワシントンにおいて行われた「2+2」会合では、日米両国は、両国が追求すべき地域及び世界における「共通の戦略目標」を確認し、日米、特に自衛隊と米軍の役割・任務・能力や、在日米軍の兵力構成見直しについて協議を進めていくことで一致した。

また、同年10月の「2+2」会合において「日本の防衛及び周辺事態への対応」、「国際的な安全保障環境の改善のための取組」という2つの分野に重点を置いて検討した結果、自衛隊と米軍の間の役割・任務・能力に関し、2国間の安全保障・防衛協力の態勢を強化するための不可欠な措置並びに米海兵隊の再編を含む在日米軍の兵力態勢の再編に関する勧告等を内容とする「日米同盟:未来のための変革と再編」(以下「共同文書」という。)がまとめられた。

平成18年4月7日、在日米軍再編問題の最大の課題ともいえる普天間飛行場の移設問題について、政府と受入先の名護市との間で、2本の滑走路をV字型に配置する代替施設を建設することに合意し、また、同月23日には、在沖米海兵隊のグアム移転経費について、施設及びインフラの整備費算定額102.7億ドルのうち、60.9億ドルを日本側が負担することで合意した。これらを受け、同年5月1日の「2+2」会合において、日米両政府は在日米軍の再編についての最終合意に達し、その内容と実施日程を定めた「再編実施のための日米のロードマップ」(以下「最終取りまとめ」という。)が発表された。

最終取りまとめには、抑止力の維持に関するものとしてキャンプ座間に所在する在日米陸軍司令部の改編及び沖縄のキャンプ・ハンセンや嘉手納飛行場における施設・区域の日米共同使用等が、また、地元負担の軽減に関するものとして普天間飛行場の移設・返還、在沖米海兵隊要員とその家族のグアムへの移転及び厚木飛行場から岩国飛行場への空母艦載機の移駐等が盛り込まれた。

この最終取りまとめを受け、政府は5月30日、「在日米軍の兵力構成見直し等に関する政府の取組について」を閣議決定し、共同文書及び最終取りまとめにおいて承認された在日米軍再編に関する措置等を政府として的確かつ迅速に実施していくこととした。

同年12月15日には、「在日米軍の兵力構成見直し等に関する政府・与党協議会」が開催され、次期通常国会において、[1]負担が増加する地元市町村に対する新たな交付金の交付のための措置、[2]在沖米海兵隊のグアム移転を推進するため必要となる国際協力銀行の業務に関する特例等の措置、[3]その他、在日米軍の再編を実施するために必要な事項を盛り込んだ時限立法の整備について合意し、同日、内閣官房長官が発表した。

こうした経緯を経て、政府は駐留軍等の再編の円滑な実施に関する特別措置法案を第166回国会に提出した。

(イ 関連議案の概要)

駐留軍等の再編の円滑な実施に関する特別措置法案(内閣提出)

在日米軍の再編に当たり、住民の生活の安定に及ぼす影響の増加に配慮することが必要と認められる防衛施設の周辺市町村に対し交付金の交付等の特別の措置を講じ、併せて沖縄県の住民の負担を軽減するとの観点から在沖米海兵隊のグアム移転を促進するための国際協力銀行の業務の特例等を定めるもので、その主な内容は、

 住民の生活の安定に及ぼす影響の増加に配慮することが必要な駐留軍等の再編が行われる防衛施設の周辺地域の市町村に対し、住民の生活の利便性の向上及び産業の振興に寄与する事業に係る経費に充てるため、駐留軍等の再編の実施に向けた措置の進捗状況に応じ、再編交付金を交付することができるものとすること

 駐留軍等の再編による影響が著しい再編関連特定周辺市町村を含む区域について、再編関連振興特別地域として指定され、当該地域の振興を図るため再編関連振興特別地域整備計画が決定された場合には、当該計画に基づく事業について、その要する経費に係る国の負担・補助割合の特例等を設けること

 駐留軍等の再編に伴い米国において実施される事業で駐留軍の米国への移転を促進するために必要なものに係る資金の貸付け等を国際協力銀行に行わせるとともに、これに対する政府による財政上の措置を講ずることができるよう、国際協力銀行法の特例を設けること

 駐留軍等の再編に当たり、国は、駐留軍等労働者の雇用の継続に資するよう技能教育訓練その他の適切な措置を講じること

等である。

(ウ 審議経過)

駐留軍等の再編の円滑な実施に関する特別措置法案は、平成19年2月9日に提出され、3月23日の本会議において趣旨説明の聴取及び質疑が行われ、同日、安全保障委員会に付託された。

同委員会においては、同日、本法律案について提案理由の説明を聴取し、同月27日から質疑に入った。4月10日には、参考人からの意見聴取及び参考人に対する質疑が行われた。同月12日、質疑を終局し、本法律案は賛成多数をもって原案のとおり可決すべきものと議決された。翌13日の本会議において、本法律案は可決された。

参議院においては、5月23日の本会議で可決され、成立した。

(エ 主な質疑事項)

主な質疑事項は、[1]在日米軍再編に伴う経費の総額、[2]在沖米海兵隊のグアム移転経費を我が国が負担することの妥当性、[3]在沖米海兵隊のグアム移転経費に関する日本側負担額の算定根拠、[4]国際協力銀行が行う駐留軍再編促進金融業務に係る出融資償還の確実性、[5]再編交付金の交付基準、[6]再編交付金の交付により在日米軍再編の促進を図る手法の妥当性、[7]本法律案で政令に委任されている事項の具体的内容、[8]沖縄県や名護市及び岩国市などと緊密な協議を行う必要性、[9]キャンプ座間へ米陸軍第1軍団司令部が移転する理由及びその意図、[10]駐留軍等労働者に係る措置の具体的内容等であった。

(6) 行政改革関係

(ア 国会で議論されるに至った経緯)

(ア) 政策金融改革

政策金融とは、政策的な意義が高いものの、民間金融機関のみでは十分な対応が困難な分野に対し、出融資や債務保証等の金融的手法を通じて資金供給を行うことにより、特定の政策目的の実現を図るものである。このような政策金融の実施機関としては、現在、国民生活金融公庫、農林漁業金融公庫、中小企業金融公庫、国際協力銀行、沖縄振興開発金融公庫、日本政策投資銀行、商工組合中央金庫及び公営企業金融公庫の8機関があり、これら8機関による貸付残高は約90兆円(平成17年3月末)となっている。

我が国の政策金融については、諸外国に比べ規模が大きく、かつ時系列的に増大傾向にあったことが金融資本市場の資源配分機能を歪めてきたとの指摘があり、これまでに経済財政諮問会議等において、政策金融の在るべき姿についての検討が行われてきた。

これらの検討を踏まえ、今後の行政改革の進め方を網羅した「行政改革の重要方針」(平成17年12月24日閣議決定)において、政策金融改革の方向性が示され、この中で、政策金融は3つの機能、すなわち、[1]中小零細企業・個人の資金調達支援、[2]国策上重要な海外資源確保、国際競争力確保に不可欠な金融、[3]円借款(政策金融機能と援助機能を併せ持つ)、に限定し、それ以外は撤退することとし、平成20年度から新体制に移行すること等とされた。

また、第164回国会に成立した「簡素で効率的な政府を実現するための行政改革の推進に関する法律」(以下「行政改革推進法」という。)においては、上述の「行政改革の重要方針」を踏まえ、政策金融改革の趣旨及び基本方針が示されるとともに、現行の政策金融機関について、[1]国民生活金融公庫、農林漁業金融公庫、中小企業金融公庫及び国際協力銀行は平成20年度において新政策金融機関に統合、[2]沖縄振興開発金融公庫は沖縄振興計画終了後(平成24年度以降)に新政策金融機関に統合、[3]国際協力銀行の業務のうち、国際金融等業務は新政策金融機関に承継、海外経済協力業務は国際協力機構(JICA)に承継、[4]日本政策投資銀行及び商工組合中央金庫は完全民営化、[5]公営企業金融公庫は平成20年度において廃止、との方針が示された。

政府においては、行政改革推進法の制定を受けて、政策金融の詳細な制度設計に向けた検討が行われ、平成18年6月27日、「政策金融改革に係る制度設計」(政策金融改革推進本部及び行政改革推進本部決定、以下「制度設計」という。)が策定された。

これらの行政改革推進法及び制度設計に基づき政策金融改革に関する各法律案の立法作業が進められ、株式会社日本政策投資銀行法案及び株式会社商工組合中央金庫法案は平成19年2月13日に、地方公営企業等金融機構法案は同月23日に、株式会社日本政策金融公庫法案及び株式会社日本政策金融公庫法の施行に伴う関係法律の整備に関する法律案は同月27日に、それぞれ閣議決定され、国会に提出された。

(イ) 特別会計改革

特別会計については、財政再建や行政の効率化の要請が高まる中、固有の財源を有することによって不要不急の事業が展開されている、数が多数に上り国民による監視が不十分となって無駄な支出が行われやすい等、多くの問題点が指摘され、平成15年以降、財政制度等審議会等において特別会計の見直し論議が行われてきた。

それまでの議論を踏まえ、「行政改革の重要方針」において、他の行政改革の重要課題と併せて、特別会計の見直しに向けた政府の基本方針が示された。さらに、行政改革推進法の中で、特別会計改革については、[1]特別会計の統廃合等により、31特別会計を3分の1から2分の1程度に縮減する、[2]資産・負債、剰余金・積立金等のスリム化により、今後5年間で20兆円程度の財政健全化に寄与する、[3]5年ごとに個々の特別会計の存続の必要性を検討すること等とされた。

これを受けて、特別会計改革の着実な実施のための特別会計に関する法律案が平成19年1月25日に閣議決定され、国会に提出された。

(イ 関連議案の概要)

(ア) 政策金融改革関連5法案(内閣提出)

a 株式会社日本政策金融公庫法案

行政改革推進法に基づき、国民生活金融公庫、農林漁業金融公庫、中小企業金融公庫及び国際協力銀行を解散し、新たな政策金融機関として株式会社日本政策金融公庫(以下「公庫」という。)を設立することとし、その目的、業務の範囲等に関する事項を定めるもので、その主な内容は、

(a) 政府は、常時、公庫の発行済株式の総数を保有していなければならないものとすること

(b)公庫は、国民一般、農林水産業者及び中小企業者等に対して資金を貸し付ける業務、中小企業者等に対する貸付債権等の証券化を支援する業務、国際協力銀行業務、危機対応円滑化業務等を行うこと

(c) 国民生活金融公庫、農林漁業金融公庫、中小企業金融公庫及び国際協力銀行は、公庫の成立の時(平成20年10月1日)において解散するものとし、その一切の権利及び義務は、国が承継する資産を除き、その時において公庫が承継するものとすること

等である。

b 株式会社日本政策金融公庫法の施行に伴う関係法律の整備に関する法律案

株式会社日本政策金融公庫法の施行に伴い、恩給法その他の関係法律の規定を整備するとともに、所要の経過措置を定める。

c地方公営企業等金融機構法案

行政改革推進法に基づき、公営企業金融公庫を廃止するとともに、地方公共団体の資本市場からの資金調達を補完するため、長期かつ低利の資金の融通等の業務を行う地方公営企業等金融機構(以下「機構」という。)を設立し、その組織、業務の範囲等に関する事項を定めるもので、その主な内容は、

(a) 機構は、地方六団体の代表者が発起人となり、地方公共団体の出資をもって設立すること

(b) 機構は、地方公共団体の公営企業及び臨時三事業に係る地方債の資金貸付を行う他、地方公共団体に対する資金調達に関する情報の提供、助言その他の支援を行うこと

(c) 公営企業金融公庫は、平成20年10月1日に解散するものとし、その一切の権利及び義務は、国が承継する資産を除き、解散時において機構が承継するものとすること

等である。

d 株式会社日本政策投資銀行法案

行政改革推進法に基づき、日本政策投資銀行を完全民営化するとともに、その長期の事業資金に係る投融資機能の根幹を維持するため、日本政策投資銀行を解散して新たに株式会社日本政策投資銀行(以下「新会社」という。)を設立し、その目的、業務の囲等に関する事項を定めるもので、その主な内容は、

(a) 完全民営化の実現に向けて経営の自主性を確保しつつ、長期の事業資金に係る投融資機能の根幹を維持し、もって長期の事業資金を必要とする者に対する資金供給の円滑化及び金融機能の高度化に寄与することを新会社の目的とすること

(b) 譲渡性預金等の受入れ、資金の貸付け、資金の出資等を行うことを新会社の業務とすること

(c) 新会社設立後、市場動向を踏まえつつ、おおむね5〜7年後を目途として、政府保有株式の全てを処分し、その後、直ちに本法律を廃止するための措置等を講ずること

等である。

e 株式会社商工組合中央金庫法案

行政改革推進法に基づく完全民営化の実現に向けて、商工組合中央金庫に対する国の関与を縮小して経営の自主性を確保する措置を講じるとともに、主として中小規模の事業者を構成員とする団体及びその構成員に対する金融の円滑化を図るため、必要な業務を行う株式会社商工組合中央金庫の目的、業務の範囲等に関する事項を定めるもので、その主な内容は、

(a) 株式会社商工組合中央金庫が完全民営化するまでの移行期について、株主資格の制限、業務範囲の見直し、商工債の発行維持、政府出資のかなりの部分の準備金化等の措置を講ずること

(b) 現行の商工組合中央金庫が株式会社へ「転換」するため、「転換計画」の主務大臣認可の義務付け、株式の発行・割当、政府出資資産の精査・不要分の国庫納付等の措置を講ずること

(c) 政府は、株式会社商工組合中央金庫の完全民営化に当たって、その円滑な運営に必要な財務基盤を確保するための措置を構ずるとともに、中小企業団体及びその構成員に対する金融機能の根幹を維持するための措置を講ずること

等である。

(イ) 特別会計に関する法律案(内閣提出)

 行政改革推進法に基づき、特別会計の廃止及び統合、一般会計と異なる取扱いの整理、企業会計の慣行を参考とした特別会計の財務情報の開示その他所要の措置を講ずるもので、その主な内容は

 行政改革推進法において定められている特別会計の廃止及び統合をすべて盛り込み、31ある特別会計を平成23年度までに17とすること

 剰余金の処理や借入金規定等の一般会計と異なる取扱いを整理するため、各特別会計法ごとに個々に定められていた会計手続を横断的に見直し、第1章総則に各特別会計に共通する規定を定め、第2章各節に各特別会計ごとの目的、管理及び経理についての規定を定めること

 資産及び負債の状況その他の決算に関する財務情報を企業会計の慣行を参考として作成、開示することを法定化する等、特別会計に係る情報開示を進めるための規定について整備すること

等である。

(ウ 審議経過)

(ア) 政策金融改革関連5法案(内閣提出)

株式会社日本政策金融公庫法案及び株式会社日本政策金融公庫法の施行に伴う関係法律の整備に関する法律案は、平成19年2月27日に提出され、3月29日の本会議において趣旨説明の聴取及び質疑が行われた後、同日、内閣委員会に付託された。

同委員会においては、同日、提案理由の説明を聴取し、4月4日から質疑に入り、10日に経済産業委員会との連合審査会、11日に学識経験者等4名の参考人からの意見聴取及び参考人に対する質疑、18日に財務金融委員会との連合審査会が行われた後、24日、質疑を終局し、討論・採決の結果、両法律案は賛成多数をもって原案のとおり可決すべきものと議決された。なお、両法律案に対して、附帯決議が付された。

同月26日、本会議において、両法律案は、いずれも可決された。

参議院においては、5月18日の本会議でいずれも可決され、成立した。

地方公営企業等金融機構法案は、平成19年2月23日に提出され、4月19日の本会議において趣旨説明の聴取及び質疑が行われた後、同日、総務委員会に付託された。

同委員会においては、同日、提案理由の説明を聴取し、4月24日から質疑に入り、5月8日、質疑を終局し、討論・採決の結果、本法律案は賛成多数をもって原案のとおり可決すべきものと議決された。なお、本法律案に対して、附帯決議が付された。

同月10日、本会議において、本法律案は可決された。

参議院においては、同月23日の本会議で可決され、成立した。

株式会社日本政策投資銀行法案は、平成19年2月13日に提出され、4月25日に財務金融委員会に付託された。

同委員会においては、27日に提案理由の説明を聴取し、5月8日から質疑に入り、23日に質疑を終局し、討論・採決の結果、本法律案は賛成多数をもって原案のとおり可決すべきものと議決された。

同月24日、本会議において、本法律案は可決された。

参議院においては、6月6日の本会議で可決され、成立した。

株式会社商工組合中央金庫法案は、平成19年2月13日に提出され、4月10日の本会議において趣旨説明の聴取及び質疑が行われた後、同日、経済産業委員会に付託された。

同委員会においては、11日に提案理由の説明を聴取し、18日から質疑に入り、25日に質疑を終局し、討論・採決の結果、本法律案は賛成多数をもって原案のとおり可決すべきものと議決された。なお、本法律案に対して、附帯決議が付された。

同月26日、本会議において、本法律案は可決された。

参議院においては、5月25日の本会議で可決され、成立した。

(イ) 特別会計に関する法律案(内閣提出)

特別会計に関する法律案は、平成19年1月25日に提出され、2月22日の本会議において趣旨説明の聴取及び質疑が行われた後、同日、財務金融委員会に付託された。

同委員会においては、27日に提案理由の説明を聴取し、28日から質疑に入り、3月2日に質疑を終局し、採決の結果、本法律案は賛成多数をもって原案のとおり可決すべきものと議決された。

同月6日、本会議において、本法律案は可決された。

参議院においては、同月26日の本会議で可決され、成立した。

(エ 主な質疑事項)

政策金融改革関連5法案に対する主な質疑事項は、[1]政策金融改革の意義及び理念、[2]政策金融の統廃合に伴う効果、[3]株式会社日本政策金融公庫の貸付残高の縮減目標設定の妥当性、[4]同公庫の役員等への天下り防止策、[5]地方公営企業等金融機構の設立・運営・業務範囲の在り方、[6]同機構の財務基盤の確保措置・残余財産の最終的な帰属先、[7]日本政策投資銀行の民営化の意義、[8]同銀行の完全民営化後のビジネスモデルの在り方、[9]商工組合中央金庫の株式会社化に際し特別準備金とする額、[10]同金庫の完全民営化後における中小企業向け金融機能維持のための必要な措置の在り方等であった。

特別会計に関する法律案に対する主な質疑事項は、[1]特別会計統廃合後の検討方針、[2]剰余金及び積立金の在り方、[3]財務情報の開示に向けた取組等であった。

(7) 憲法改正国民投票法関係

(ア 国会で議論されるに至った経緯)

(ア) 憲法改正手続法の必要性

憲法第96条第1項は、「この憲法の改正は、各議院の総議員の3分の2以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。」と規定しており、憲法を改正するためには、改正の発議手続に関する国会関係の法規と国民投票に関する法律を整備することが不可欠である。これら憲法改正のための手続法は、憲法附属法ともいうべき重要な法律ではあるが、憲法の施行後60年間制定されていなかった。今般、憲法改正手続法が制定されたことにより、現行憲法下において、初めて憲法の改正が法律上可能となったものである。

(イ) 昭和27年〜28年の国民投票法案の動き

憲法改正手続法制定の必要性は早くから認識されており、日本が独立を回復した昭和27年には、その動きが具体化した。同年12月に第3次選挙制度調査会が「日本国憲法の改正に関する国民投票制度要綱」を答申、これを受けて当時の自治庁が「日本国憲法改正国民投票法案」を作成し、翌28年1月にこれを閣議に提出した。

しかし、時代は朝鮮戦争の最中、警察予備隊の保安隊への改組や破壊活動防止法の制定の直後という当時の憲法情勢のもとで、時の吉田内閣は、最終的にこの法律案の閣議決定を見送ることとした。当時の報道によれば、内閣に憲法改正の意図があるとの誤解を避けたため、とされる。

これ以後、憲法改正問題そのものは何度か盛り上がりを見せるものの、憲法改正の手続法の制定に向けた動きは具体化することはなく、平成時代にまで至ることとなる。

(ウ) 両議院の憲法調査会における調査と法律案の提出

平成12年1月、日本国憲法について広範かつ総合的に調査を行うため、衆参両議院に憲法調査会が設置され、日本国憲法の下で初めて、憲法改正の発議権を有する国会に憲法論議の「器」となる機関が設けられた。これを受け、超党派の議員連盟、与党協議会など、憲法改正国民投票法案に関する具体的な動きが始まった。

平成17年4月、衆議院憲法調査会は5年余にわたる調査をまとめた報告書を議長に提出したが、その中では、憲法改正手続法の早急な整備を求める意見が多数意見とされ、「現在の憲法調査会の基本的枠組みを維持しつつ、これに憲法改正手続法の起草及び審査権限を付与することが望ましい」とする提言が行われた。

これを受け、同年9月召集された第163回国会において、衆議院に国民投票法制に係る議案の審査・起草権限を有する日本国憲法に関する調査特別委員会が設置された。

同特別委員会においては、国民投票法制に関して委員間の自由討議や参考人からの意見聴取が行われ、また、平成18年以降は理事懇談会で論点整理の議論が重ねられた。こうした議論の結果を踏まえ、第164回国会において、同年5月26日、与党案及び民主党案が相次いで提出されるに至ったのである。

(イ 関連議案の概要)

(ア) 日本国憲法の改正手続に関する法律案(保岡興治君外5名提出)

日本国憲法第96条に定める憲法改正について、国民の承認に係る投票に関する手続を定めるとともに、あわせて憲法改正の発議に係る手続の整備を行おうとするもので、その主な内容は、

 国民投票は、国会が憲法改正を発議した日から起算して60日以後180日以内において、国会の議決した期日に行うものとすること

 日本国民で年齢満20年以上の者は、国民投票の投票権を有するものとすること

 投票の方式は、憲法改正案に対し、賛成するときは○の記号を、反対するときは×の記号を自書するものとし、白票は、無効票とするものとすること

 国民投票において、憲法改正案に対する賛成の投票の数が有効投票の総数の2分の1を超えた場合は、当該憲法改正について国民の承認があったものとすること

 選管職員等の投票事務関係者のほか、裁判官、検察官、警察官等の特定公務員についても、在職中、国民投票運動をすることができないものとすること

 公務員等及び教育者は、その地位を利用して国民投票運動をすることができないものとすること

 組織により多数の投票人に対して行う買収・利害誘導、公務員等の職権濫用による国民投票の自由妨害、投票の秘密侵害等について罰則規定を設けるものとすること

 憲法改正の発議のために国会法の一部を改正すること

(a) 議員が憲法改正原案を発議するには、衆議院においては議員100人以上、参議院においては議員50人以上の賛成を要するものとすること

(b) 憲法改正原案の発議に当たっては、内容において関連する事項ごとに区分して行うものとすること

(c) 各議院に憲法審査会を設けるものとすること

 憲法改正案広報協議会、国民投票無効の訴訟制度その他所要の規定の整備を行うこと

 この法律は、一部を除き、公布の日から起算して2年を経過した日から施行するものとすること

等である。

(イ) 日本国憲法の改正及び国政における重要な問題に係る案件の発議手続及び国民投票に関する法律案(枝野幸男君外3名提出)

 日本国憲法第96条に定める憲法改正についての国民の承認に係る投票及び国政における重要な問題に係る案件についての国民の賛否の投票に関する手続を定めるとともに、あわせて憲法改正の発議及び国政問題に係る案件の発議に係る手続の整備を行おうとするもので、その主な内容は、

 憲法改正国民投票は、国会が憲法改正を発議した日から起算して60日以後180日以内において、国会の議決した期日に行うものとすること

 日本国民で年齢満18年以上の者は、憲法改正国民投票の投票権を有するものとすること。なお、国会の議決により、当該国民投票に限り、日本国民で年齢満16年以上満18年未満の者も国民投票の投票権を有するものとすることができるものとすること

 投票の方式は、憲法改正案に対し賛成するときは○の記号を自書し、憲法改正案に対し反対するときは何らの記載をしないものとすること

 憲法改正国民投票において、憲法改正案に対する賛成の投票の数が投票総数の2分の1を超えた場合は、当該憲法改正について国民の承認があったものとすること

 選管職員等の投票事務関係者は、在職中、国民投票運動をすることができないものとすること

 公務員等の職権濫用による国民投票の自由妨害、投票の秘密侵害等について罰則規定を設けるものとすること

 国会が、国会法の規定により国政問題に係る案件を発議したときは、国政問題国民投票を行うものとし、その結果は、国及びその機関を拘束しないものとすること

 憲法改正及び国政問題に係る案件の発議のために国会法の一部を改正すること

(a) 議員が憲法改正原案及び国政問題に係る案件に係る議案を発議するには、衆議院においては議員100人以上、参議院においては議員50人以上の賛成を要するものとすること

(b) 憲法改正原案の発議に当たっては、内容において関連する事項ごとに区分して行うものとすること

(c) 各議院に憲法審査会を設けるものとすること

 国民投票広報協議会、国民投票無効の訴訟制度その他所要の規定の整備を行うこと

 この法律は、一部を除き、公布の日から起算して2年を経過した日から施行するものとすること

 国は、この法律の公布の日後速やかに、選挙権を有する者の年齢を定める公職選挙法、成年年齢を定める民法その他の法令の規定について検討を加え、その結果に基づいて、この法律の施行の日までに、必要な法制上の措置を講ずるものとすること

等である。

(ウ 審議経過)

両法律案は、第164回国会、平成18年5月26日に提出された。6月1日の本会議においてそれぞれ趣旨説明の聴取及び質疑が行われ、同日、日本国憲法に関する調査特別委員会に付託後、直ちに両法律案の提出者から提案理由の説明を聴取した。第164回国会では両法律案は会期中に結論を得るに至らず、継続審査となった。

第165回国会では、10月26日、両法律案について再度提案理由の説明を聴取した後、同委員会に両法律案審査のため日本国憲法の改正手続に関する法律案等審査小委員会が設置され、両法律案の審査が行われた。同小委員会においては、4回にわたり延べ21人の参考人を招致し、参考人からの意見聴取及び小委員と参考人との懇談という形での質疑応答が行われた。12月14日の委員会では、こうした同委員会及び同小委員会での議論を踏まえ、両法律案の提出者から、それぞれ修正意見が述べられ、両法律案の隔たりは小さくなったものの、第165回国会では両法律案は会期中に結論を得るに至らず、継続審査となった。

第166回国会においては、両法律案の提案理由説明の聴取を省略して直ちに審査に入り、平成19年3月22日に公聴会が、同月28日には新潟県及び大阪府においていわゆる地方公聴会が、4月5日には再び公聴会が開催された。

同月12日、両法律案並びに与党提出の併合修正案(3月27日提出)並びに民主提出の修正案(4月10日提出)について一括して質疑が行われ、質疑を終局した。その後、両法律案について内閣の意見を聴取した後、採決が行われ、民主提出の修正案は賛成少数をもって否決、与党提出の併合修正案は賛成多数をもって可決された(併合修正案の概要は本項末尾に掲載)。翌13日、本会議において両法律案は修正議決され、併合された一の法律案として参議院に送付された。

参議院においては、5月14日、本会議にて可決され、成立した。

(参考)日本国憲法の改正手続に関する法律案・日本国憲法の改正及び国政における重要な問題に係る案件の発議手続及び国民投票に関する法律案に対する併合修正案(保岡興治君外4名提出)

与党案及び民主案の両法律案を併合して一案とする修正案で、その主な内容は、

 国民投票の対象は、憲法改正国民投票に限定することとした上で、いわゆる憲法問題予備的国民投票制度について、検討条項を附則に置くものとすること

 投票権者は、投票権年齢を満18年以上とした上で、満18年以上満20年未満の者が国政選挙に参加することができるまでの間、投票権年齢を満20年以上とする旨の規定を附則に置くものとすること

 投票用紙への賛否の記載方法は、あらかじめ投票用紙に印刷された賛成・反対の文字を○で囲む方式に変更した上で、賛成の投票数が賛成の投票数と反対の投票数の合計数の2分の1を超えた場合に、国民の承認があったものとすること

 国民投票運動が禁止される特定公務員の範囲は、選管職員等に限るものとすること

 公務員等及び教育者の地位利用による国民投票運動の制限については、地位利用の範囲を明確にした上で存置するものとし、これに違反した場合にも罰則を設けないものとすること

 公務員の政治的行為の制限について、国は、公務員が国民投票に際して行う憲法改正に関する賛否の勧誘その他意見の表明が制限されることとならないよう、検討の上、必要な法制上の措置を講ずる旨附則に規定するものとすること

 組織的多数人買収罪は、適用対象及び要件を限定した上で存置するものとすること

 テレビや新聞等における無料広告枠において、賛成意見・反対意見を「公正かつ平等」に扱うものとすること

 テレビ・ラジオにおける有料広告の禁止期間を国民投票の期日前2週間に延長するとともに、放送事業者は、国民投票に関する放送については、放送法の規定の趣旨に留意するものとする旨の規定を設けるものとすること

 施行を公布の日から起算して3年を経過した日とするものとし、それまでの間は、憲法審査会は「調査」に専念することを明記すること

等である。

(エ 主な質疑事項)

両法律案に対する主な質疑事項は、[1]憲法改正手続法の整備の要否、[2]憲法改正手続法の整備に向けた幅広い合意形成の必要性、[3]憲法改正に係る予備的な国民投票制度の導入の是非、[4]投票権者の年齢、[5]公務員等・教育者による国民投票運動の制限、[6]組織的多数人買収罪及び利害誘導罪の要件、[7]政党のテレビ・ラジオ無料放送枠の割当基準、[8]投票日直前の国民投票運動の広告放送の制限、[9]最低投票率制度の導入の是非、[10]国民投票の「過半数」の意義、[11]投票用紙の記載方法の在り方、[12]憲法改正の限界を超える改正の是非及び改正された場合の対処の仕方、[13]憲法審査会の所管事項及び調査・審査の在り方、[14]憲法改正案の発議方法、[15]広報協議会の構成等であった。

(8) 公務員制度改革関係

(ア 国会で議論されるに至った経緯)

(ア) 公務員制度改革

近年、行政システム全般の改革が急速に進展しており、行政の組織及び運営を担う国家公務員の人事管理の在り方についても、新たな時代に相応しいものに改めていく必要が生じている。加えて、押し付け的あっせんによる公務員の再就職や官製談合に対する国民からの強い批判を踏まえ、公務員の再就職の適正化を図り、国民の信頼を回復することが喫緊の課題となっている。

このような諸課題の解決に向けて歴代内閣において公務員制度の抜本的な見直しについての検討が続けられてきた。

平成12年12月には様々な分野の行政改革を集中的・計画的に進めるための方針を示した「行政改革大綱」が閣議決定され、この中で、「国家公務員、地方公務員制度の抜本的改革」として、公務員への信賞必罰の人事制度の実現、再就職に関する合理的かつ厳格な規制など、6項目の改革を推進することとされた。

政府においては、同大綱を踏まえ、行政改革推進事務局(以下「行革事務局」という。)を中心に改革の具体化に向けた検討が進められ、平成13年12月、「公務員制度改革大綱」が閣議決定された。

同大綱においては、公務員制度の全般的な改革項目とその方向性が明示されるとともに、制度全体の基礎となる国家公務員法の改正について、平成15年中を目標に国会に提出するとの方針が示された。

これを受け、行革事務局を中心に法案化等に向けた検討が進められたが、関係団体等との調整が整わず、平成15年中の国家公務員法改正案の提出は見送られ、引き続き検討されることとなった。

(イ) 「行政改革の重要方針」と行政改革推進法

平成16年12月、「今後の行政改革の方針」が閣議決定され、国家公務員制度改革について、制度設計の具体化と関係者間の調整を進め、改めて公務員制度改革関連法案の国会提出を検討することとされ、一方で、現行制度の枠内で実施可能なものについては、早期に実行に移し、改革の着実な推進を図ることとされた。

また、平成17年12月には「行政改革の重要方針」が閣議決定され、[1]能力・実績主義の人事管理の徹底等の観点に立った公務員制度改革について、できる限り早期に具体化を図ること、[2]労働基本権や人事院制度等を含めた公務員制度についても、幅広い観点から検討を行うこと、[3]人事評価の試行などの取組を進めること等の方針が示された。

さらに、平成18年5月には、同方針で定める改革の着実な実施のための基本的な改革の方針、推進方策等を盛り込んだ「簡素で効率的な政府を実現するための行政改革の推進に関する法律」(行政改革推進法)が成立し、能力及び実績に基づく人事管理、退職管理の適正化並びにこれらに関連する事項について、できるだけ早期にその具体化のために必要な措置を講ずること等とされた。

(ウ) 安倍内閣における取組状況

安倍内閣総理大臣は平成19年1月、第166回国会の施政方針演説において、公務員制度改革について、[1]新たな人事評価を導入して能力本位の任用を行うこと、[2]官民の人事交流をさらに推進すること、[3]予算や権限を背景とした押し付け的なあっせんによる再就職を根絶するため、厳格な行為規制を導入することを表明した。

これを踏まえ、経済財政諮問会議等において、公務員制度改革の具体化に向けた検討が進められるとともに、政府・与党間において、新人材バンクの創設を含む公務員制度改革の法案化に向けた協議が重ねられ、4月13日、「公務員制度改革に関する政府・与党合意」が公表された。

この中では、[1]能力本位の任用制度の確立、新たな人事評価制度の構築等を内容とする「能力・実績主義」、[2]各府省等による再就職あっせんの禁止、官民人材交流センター(仮称)の創設、現職・退職職員への行為規制等を内容とする「再就職に関する規制」を柱とする法律案の骨子概要が示され、当該事項を内容とする国家公務員法等改正案を速やかに提出することとされた。

さらに、専門スタッフ職の実現、公募制の導入、官民交流の抜本的拡大等、公務員の人事制度全般の課題について、総合的・整合的な検討を進めることとし、国家公務員制度改革基本法(仮称)を平成20年の通常国会に向けて立案・提出することとされた。

(エ) 国家公務員法等の一部を改正する法律案等の提出

政府においては、「公務員制度改革に関する政府・与党合意」に基づき、能力・実績主義、再就職に関する規制を柱とする国家公務員法等改正案の立法作業が行われ、国家公務員法等の一部を改正する法律案が平成19年4月24日に閣議決定され、翌25日、国会に提出された。

一方、5月9日、民主から国家公務員の離職後の就職に係る制限の強化その他退職管理の適正化等のための国家公務員法等の一部を改正する法律案、特殊法人等の役職員の関係営利企業への就職の制限等に関する法律案、独立行政法人通則法の一部を改正する法律案が国会に提出された。

(イ 関連議案の概要)

(ア) 国家公務員法等の一部を改正する法律案(内閣提出)

国家公務員に係る制度の改革を進めるため、人事評価制度の導入等により能力及び実績に基づく人事管理の徹底を図るとともに、離職後の就職に関する規制の導入、再就職等監視委員会の設置等により退職管理の適正化を図るほか、官民人材交流センターの設置により官民の人材交流の円滑な実施のための支援を行う等のもので、その主な内容は、

a 再就職に関する規制の改正等

(a) 内閣総理大臣は、職員の離職に際しての離職後の就職の援助等を行うものとし、当該事務を内閣府に置く官民人材交流センターに委任すること

(b) 職員は、職員又は職員であった者について、営利企業及び非営利法人(以下「営利企業等」という。)に対し再就職あっせんを行ってはならないものとすること

(c) 職員は、利害関係企業等に対し、離職後に当該利害関係企業等若しくはその子法人の地位に就くことを目的として、自己に関する情報を提供し、若しくは当該地位に関する情報の提供を依頼し、又は当該地位に就くことを要求し、若しくは約束してはならないものとすること

(d) 職員であった者であって離職後に営利企業等の地位に就いている者は、離職前5年間に在職していた局等組織に属する役職員又はこれに類する者として政令で定めるものに対し、国、特定独立行政法人若しくは都道府県と当該営利企業等若しくはその子法人との間で締結される売買、貸借、請負その他の契約又は当該営利企業等若しくはその子法人に対して行われる行政手続法第2条第2号に規定する処分に関する事務であって離職前5年間の職務に属するものに関し、離職後2年間、職務上の行為をするように、又はしないように要求し、又は依頼してはならないものとすること

(e) 内閣府に、再就職等監視委員会を置くこととし、同委員会に、再就職等監察官を置くものとすること

b能力・実績主義

(a) 職員の採用後の任用、給与その他の人事管理は、職員の採用年次及び合格した採用試験の種類にとらわれてはならず、一定の場合を除くほか、人事評価に基づいて適切に行われなければならないものとすること

(b) 内閣総理大臣は、職員の採用、昇任、降任及び転任に関する制度の適切かつ効果的な運用を確保するための基本的な方針の案を作成し、閣議の決定を求めなければならないものとすること

(c) 職員の昇任及び転任は、任命権者が、職員の人事評価に基づき、任命しようとする官職の属する職制上の段階の標準的な官職に係る標準職務遂行能力及び当該任命しようとする官職についての適性を有すると認められる者の中から行うものとすること

(d) 職員の人事評価は、公正に行われなければならないものとすること

(e) 職員の執務については、その所轄庁の長は、定期的に人事評価を行わなければならないものとし、人事評価の基準及び方法に関する事項その他人事評価に関し必要な事項は、人事院の意見を聴いて、政令で定めるものとすること

c 特定独立行政法人の役職員への規定の準用・適用

独立行政法人通則法において、特定独立行政法人の役職員について、国家公務員法の退職管理に関する規定を準用・適用するとともに所要の規定の整備を行うものとすること

等である。

(イ) 国家公務員の離職後の就職に係る制限の強化その他退職管理の適正化等のための国家公務員法等の一部を改正する法律案(馬淵澄夫君外4名提出)

国の行政機関等の業務の公正な執行の確保等に資するため、国家公務員の離職後の就職に係る制限の強化、職員による他の役職員の再就職に係る依頼等の禁止及び早期退職勧奨慣行の禁止その他の退職管理の適正化等に関する措置を講ずるもので、その主な内容は、

a 早期退職勧奨の禁止

任命権者は、一定の場合を除き、職員に対して、定年退職日前に退職することを勧奨してはならないものとすること

b 再就職の制限の強化

(a) 職員が営利企業の地位でその離職前5年間に在職していた人事院規則で定める国の機関、特定独立行政法人又は都道府県警察と密接な関係にあるものに就くことを制限する期間について、離職後2年間を離職後5年間とすること

(b) 職員は、一定の場合を除き、離職後5年間は、非営利法人等の地位で、その離職前5年間に在職していた人事院規則で定める国の機関、特定独立行政法人又は都道府県警察と密接な関係にあるものに就くことを承諾し、又は就いてはならないものとすること

c 政府によるあっせんの禁止

職員は、職員又は職員であった者について、営利企業及び非営利法人等(以下「営利企業等」という。)に対し再就職あっせんを行ってはならないものとすること

d 退職職員による働きかけ行為の禁止

職員であった者であって離職後に営利企業等の地位に就いている者は、離職前5年間に在職していた局等組織に属する役職員等に対し、国、特定独立行政法人若しくは都道府県と当該営利企業等若しくはその子法人との間で締結される売買、貸借、請負その他の契約又は当該営利企業等若しくはその子法人に対して行われる行政手続法第2条第2号に規定する処分に関する事務であって離職前5年間の職務に属するものに関し、離職後10年間、職務上の行為をするように、又はしないように要求し、又は依頼してはならないものとすること

e 独立行政法人の役員の服務等

(a) 特定独立行政法人の役員は、一定の場合を除き、離職後5年間は、法人その他の団体の地位で、その離職前5年間に在職していた特定独立行政法人等と密接な関係にあるものに就くことを承諾し、又は就いてはならないものとすること

(b) 特定独立行政法人の役職員について、国家公務員法の退職管理に関する規定を準用・適用するとともに所要の規定の整備を行うものとすること

等である。

(ウ) 特殊法人等の役職員の関係営利企業への就職の制限等に関する法律案(馬淵澄夫君外4名提出)

特殊法人等の業務の適正な運営の確保等に資するため、特殊法人等の役員及び職員について、その離職後、特殊法人等と密接な関係にある特定の私企業の地位に就くことの制限に関する措置及び再就職者による依頼等の規制に関する措置を定めるものである。

(エ) 独立行政法人通則法の一部を改正する法律案(馬淵澄夫君外4名提出)

独立行政法人の業務運営における自主性を高める等のため、役員に係る兼職の制限の強化等の措置を講ずるものである。

(ウ 審議経過)

内閣提出法律案及び民主提出3法律案は、5月15日の本会議において趣旨説明の聴取及び質疑が行われ、同日、内閣委員会に付託された。

同委員会においては、同月16日、提案理由の説明を聴取した後、18日から質疑に入った。29日には参考人からの意見聴取及び参考人に対する質疑が行われ、6月1日には、安倍内閣総理大臣に対する質疑が行われた。同月6日、質疑を終局し、討論・採決の結果、民主提出3法律案はいずれも否決すべきものと議決され、内閣提出法律案は賛成多数をもって原案のとおり可決すべきものと議決された。

翌7日の本会議において、民主提出3法律案はいずれも否決され、内閣提出法律案は可決された。

参議院においては、6月30日の本会議で、内閣提出法律案は可決され、成立した。

(エ 主な質疑事項)

内閣提出法律案に対する主な質疑事項は、[1]官民人材交流センター(以下「センター」という。)の運営の在り方、[2]センターを設置する理由、[3]有識者懇談会の構成見通しと明示の必要性、[4]人事評価(能力・実績主義)の運用の在り方、[5]「渡り」の実態把握の必要性、[6]早期退職勧奨慣行の是正、[7]官民人事交流の推進、[8]公務員制度改革の全体像を明示する必要性、[9]キャリアシステムによる弊害の有無及び抜本的見直しの必要性等であった。

また、民主提出3法律案に対する主な質疑事項は、[1]早期勧奨退職の廃止による公務員の人件費総額上昇の見通し、[2]能力・実績主義を附則で規定した理由、[3]再就職に関する事後規制により官民人材交流が阻害される懸念、[4]新規採用の抑制による影響の有無、[5]天下り規制による具体的経費削減効果、[6]国家公務員倫理審査会による規制の実効性、[7]能力・実績主義の徹底と労働組合の主張との整合性、[8]公務員制度全体の改革についての提出者の認識等であった。

(9) 放送・通信制度改革等関係

(ア 国会で議論されるに至った経緯)

(ア) 放送、通信制度改革

通信、放送のデジタル化やIP化等情報通信分野を取り巻く環境が大きく変化する中、新しい時代に対応した通信・放送法制の見直しが必要との指摘がなされた。また、日本放送協会(NHK)では相次ぐ不祥事に対する批判から受信料の不払等が急増し、同協会の組織や受信料制度の在り方に関する議論が高まった。

こうした状況を踏まえ、平成18年1月から「通信・放送の在り方に関する懇談会」(総務大臣の懇談会)において、通信と放送の融合・連携の進展に対応した法体系の見直しや日本放送協会の抜本的改革について検討が進められ、同年6月に報告書を取りまとめた。一方、与党においても通信・放送制度改革について検討が進められていたことから、政府・与党間において協議が行われ、通信・放送制度の改革について合意がなされた(通信・放送の在り方に関する政府与党合意)。この合意には、[1]日本放送協会の経営委員会の抜本的改革、協会保有のチャンネル数の削減、国際放送の強化、受信料支払の義務化等、[2]マスメディア集中排除原則の緩和、[3]通信と放送に関する総合的な法体系の検討等が盛り込まれた。

総務省はこれを受け、平成18年9月に放送・通信分野の改革に関する工程プログラムを策定し、具体的な制度改正に着手した。

(イ) 虚偽の内容の放送を行った放送事業者の再発防止計画の提出に係る制度の導入

関西の準キー局の放送事業者が制作し、全国で放映された番組において、事実の捏造等があったことが明らかになった。同番組をきっかけに取り上げた食材の値上がり等が生じ、さらに過去においても事実の捏造等があったことが判明した。このため、総務大臣は、予算委員会等において、番組捏造問題等の再発防止策について、法改正を含め検討すると言及した。すなわち、放送法等に違反した放送事業者への対応として、行政指導の他には電波停止あるいは免

許取消し以外の行政処分がないことから、報道の自由を冒さないような形で同種の事案の再発防止の検討を指示したことを明らかにした。

このような指示を受け、総務省において検討がなされた結果、虚偽の説明により事実でない事項を事実であると誤解させるような放送であって国民生活に悪影響を及ぼすものを行ったと認めるとき等に、放送事業者に対し、再発防止計画の策定及びその提出を求めることができる制度を、放送法を改正して盛り込むことにした。なお、この制度の導入については、報道機関等から放送事業者の報道の自由、番組編集権などを侵害する危険性があるとの指摘がなされた。

(ウ) 電気通信事業者に対する業務改善命令の要件の見直し

平成18年、IP電話サービス等を提供する電気通信事業者が、一般投資家等から事業資金を不正に募集し、詐欺罪等で摘発される事件が発生した。総務省は摘発前に同事業者に対し、電気通信事業法に基づき報告聴取、立入検査を行い、これを踏まえ、利用者保護の観点から行政指導を行ったが、資金の募集方法等について同法に基づく業務改善命令は発動しなかった。

現行電気通信事業法では、電気通信サービスを利用している利用者の利益が阻害された場合には総務大臣が業務改善命令を発動することができることになっているが、当該事案のように資金調達方法が不適切である場合は要件としていない。したがって同事業者に対して、一般投資家等の被害拡大防止のために同法に基づいた業務改善命令の発動は行われなかったのである。

しかしながら、電気通信事業を所管する行政としての対応は充分であったかとの指摘があり、総務大臣は同種の事件の再発防止策の検討を指示した。

(エ)放送法等の一部を改正する法律案の提出

以上の経過を踏まえ、政府において放送法、電波法、電気通信事業法等の改正が検討され、その結果、放送法等の一部を改正する法律案として取りまとめられ、第166回国会に提出された。

(イ 関連議案の概要)

放送法等の一部を改正する法律案(内閣提出)

通信・放送分野の改革を推進するため、日本放送協会に係る事項等放送制度を改正するとともに、電波利用をより迅速かつ柔軟に行うための手続きを創設する等の所要の改正を行おうとするもので、その主な内容は、

(ア) 放送法の一部改正関係

 日本放送協会の経営委員会について、監督権限の明確化、一部委員の常勤化、議決事項の見直し等を行うとともに、経営委員から構成される監査委員会の設置、外部監査の導入等を行うこと

 日本放送協会は、放送した放送番組等を電気通信回線を通じて一般の利用に供する業務を行うことができることとし、当該業務に係る経理は、特別の勘定を設けて整理しなければならないこととすること

 日本放送協会の国際放送の業務を邦人向け及び外国人向けの別に規定し、それぞれに適合した番組準則を適用するとともに、外国人向けの映像国際放送について番組制作等を新法人に委託する制度を設けること

 国際放送の命令放送制度について「命ずる」との文言を「要請する」に改め、日本放送協会はこれに応じるよう努めるものとすること

 複数の地上系一般放送事業者の子会社化を可能とする認定放送持株会社制度を導入すること(マスメディア集中排除原則の緩和)

 相当数の有料放送契約を代理等する有料放送管理業務を行おうとする者は、その旨を届け出るとともに、業務の適正かつ確実な運営を確保するための措置を講じなければならないこととすること

 虚偽の説明により事実でない事項を事実であると誤解させるような放送により、国民生活に悪影響を及ぼすおそれ等がある場合、総務大臣は、放送事業者に再発防止計画の提出を求めることができることとすること(なお、総務大臣は本会議趣旨説明等において、BPO(放送倫理・番組向上機構)による自主的な再発防止の取組が十分機能している間は、本制度の規定を適用しないことを明らかにした)

(イ) 電波法の一部改正関係

 実験無線局について、電波の利用の効率性に関する試験又は電波の利用の需要に関する調査に専用する無線局を含めるとともに、名称を実験等無線局に改めること

 無線局に係る電気通信事業紛争処理委員会による斡旋・仲裁の制度を創設すること

(ウ) 電気通信事業法の一部改正関係

電気通信事業の運営が適切かつ合理的でないため電気通信の健全な発達等に支障が生ずるおそれがあるときに、電気通信事業者に対する業務改善命令が行い得るよう、その要件を見直すこと等である。

なお、上記(ア)gの総務大臣による放送事業者への再発防止計画の提出要求については、BPOによる自主的な再発防止の取組が十分機能している間は、本制度の規定を適用しないこととされていた。また、日本放送協会の受信料については、現行の契約締結義務を支払義務に改めるための関係規定の改正も検討された。この検討の過程において、政府は、支払義務化に改める条件として受信料の2割程度の引下げを求めた。これに対して日本放送協会は、受信料の引下げについて明確にしなかったため、本法律案における受信料の支払義務化は、見送られた。

(ウ審議経過)

放送法等の一部を改正する法律案は、第166回国会の平成19年4月6日に提出され、5月22日の本会議において趣旨説明の聴取及び質疑が行われ、同日、総務委員会に付託された。同国会において、同法律案の審査は行われず、第168回国会まで継続された。

第168回国会において、11月29日に総務大臣から提案理由の説明を聴取した後、直に質疑に入り、12月4日には参考人からの意見聴取及び参考人に対する質疑が行われた。同日の参考人質疑終了後、自民、民主及び公明三会派共同の修正案が提出された。

同修正案の内容は、[1]日本放送協会の経営委員会の権限の明確化、経営委員の個別放送番組の編集への関与の禁止等、[2]国際放送を日本放送協会に要請する際の総務大臣の指定事項の限定、[3]総務省令に委任されている認定持株会社における議決権の保有割合の上限の限定、[4]虚偽の内容の放送を行った放送事業者の再発防止計画の提出等に関する規定の削除等であった。同日、修正案提出者から趣旨説明を聴取した後、原案及び修正案を一括して質疑を行い、質疑を終局した。

同月6日、討論を行った後、採決を行った結果、同法律案は賛成多数をもって修正議決すべきものと議決された。なお、同法律案に対し附帯決議が付された。

同月11日の本会議において、同法律案は修正議決された。

参議院においては、12月21日の本会議で、本法律案は可決され、成立した。

(エ 主な質疑事項)

主な質疑事項は、[1]関連のない法律改正事項を一つの法律案にまとめて提出することの妥当性、[2]本法律案の修正後もなお積み残されている課題、[3]経営委員会に監査委員会を設置する理由及び監査委員会の役割、[4]経営委員会が執行部の作成した次期経営計画案を承認しなかった経緯、[5]法律案成立後に日本放送協会が総務大臣からの国際放送の実施要請を拒否することの可否、[6]新しい映像国際放送の実施時期及び今後の予算措置の在り方、[7]マスメディア集中排除原則の緩和に伴いキー局によるローカル局の支配強化の懸念及びローカル局の存在意義、[8]番組捏造を行った放送事業者に対するBPOの機能強化措置の内容、[9]再発防止計画の提出に係る規定が削除された場合においてBPOの措置が十分に機能しなかった場合における行政処分の在り方、[10]電気通信事業法を改正して一般投資家の保護を図ろうとする意図等であった。

(10) 労働条件に関するルールの見直し関係

(ア国会で議論されるに至った経緯)

少子高齢化が進展し労働力人口が減少する中で、就業形態の多様化、個別労働関係紛争の増加、長時間労働者の割合の高止まり、ワーキングプアといわれる低所得者層の増加等の問題が顕在化しており、これら問題に対応した労働環境を整備するため、労働条件に関するルールの見直しが急務となっていた。

(ア) 労働契約法制・労働時間法制の在り方に関する検討

我が国の労働契約に関するルールは、実定法上は労働基準法や民法などに部分的に規定されているに過ぎず、その多くは判例法理にゆだねられてきた。しかし、近年、就業形態・就業意識の多様化に伴う労働条件決定の個別化の進展、経営環境の急激な変化、労働組合の組織率が20%を切るなど集団的労働条件決定システムの機能低下やそれらに伴う個別労働関係紛争が増加しているという状況の下で、紛争の解決や未然防止に資する体系的で分かりやすい労働契約に関するルールの整備が求められるようになった。平成15年の労働基準法改正に際しては、衆参両院の厚生労働委員会で、「労働契約について包括的な法律を策定するため、専門的な調査研究を行う場を設けて積極的に検討を進め、その結果に基づき、法令上の措置を含め必要な措置を講ずること」とする附帯決議が付された。

また、労働時間の状況についてみると、厳しい社会経済情勢の下、子育て世代の男性を中心に長時間労働者の割合の高止まりや過重労働による労働者の心身の健康障害が増加するなどの問題が生じており、長時間労働の抑制を図ることが課題となっていた。さらに、ホワイトカラー労働者の増加に対応して、労働時間の長短ではなくその成果や能力などにより評価する制度が求められるようになった。

このような状況を踏まえ、厚生労働省は、「今後の労働契約法制の在り方に関する研究会」及び「今後の労働時間制度に関する研究会」を開催し、それぞれ報告書を平成17年9月、平成18年1月に取りまとめた。この報告を受け、厚生労働大臣は、労働政策審議会に、平成17年9月28日付けで、「今後の労働契約法制の在り方について」、平成18年2月8日付けで、「今後の労働時間法制の在り方について」をそれぞれ諮問した。諮問を受け、同審議会労働条件分科会(以下「労働条件分科会」という。)は、合わせて28回にわたり議論を行い、平成18年12月27日、「今後の労働契約法制及び労働時間法制の在り方について(報告)」を取りまとめ、同日、労働政策審議会から厚生労働大臣に答申を行った。

この答申を受け、厚生労働大臣は、平成19年1月25日、労働契約の基本的なルールを定める労働契約法を制定することを内容とする、「労働契約法案要綱」及び[1]長時間労働者に対する割増賃金率の引上げ、[2]年次有給休暇制度の見直し、[3]自己管理型労働制(いわゆるホワイトカラー・エグゼンプション)の創設、[4]企画業務型裁量労働制の見直し等を内容とする、「労働基準法の一部を改正する法律案要綱」を労働政策審議会に諮問した。2月2日、同審議会は、「労働契約法案要綱」については、おおむね妥当である旨答申したが、「労働基準法の一部を改正する法律案要綱」については、労働者代表委員が認められないとした[3]及び[4]並びに使用者代表委員が認められないとした[1]に関する部分を除き、おおむね妥当である旨答申した。

[3]については、平成18年秋以降、新聞等の報道で大きく取り上げられるようになり、「残業代不払い制度」、「過重労働を助長するもの」との批判が噴出した。このため、与党は、同制度の導入については国民の理解が十分に得られるに至っていないと判断、平成19年2月6日、労働者側が反対していた[3]及び[4]に関する部分については第166回国会に提出しないことで合意した。

政府は労働政策審議会の答申及び与党合意に基づき、労働契約法案及び労働基準法の一部を改正する法律案を取りまとめ、第166回国会に提出した。

一方、民主は、21世紀の雇用社会にふさわしい労働契約のルールとして、労働契約の締結、変更及び終了に至る各段階における権利義務を明確化する労働契約法案を取りまとめ、第168回国会に提出した。

(イ) 最低賃金制度の在り方に関する検討

最低賃金制度とは、国が法的強制力をもって賃金の最低限を規制し、使用者は、その金額以上の賃金を労働者に支払わなければならないとする制度であり、我が国では、地域別最低賃金、産業別最低賃金及び労働協約に基づく地域的最低賃金が設けられていた。

このうち産業別最低賃金については、経済団体等から、すべての労働者を対象とする地域別最低賃金に屋上屋を架すものであるとして、その廃止が要望されていた。また、地域別最低賃金については、生活保護の水準を下回るケースがあるとの問題が指摘されていた。

こうした中、平成16年3月、政府は、「規制改革・民間開放推進3か年計画」を閣議決定し、産業別最低賃金制度の在り方を平成16年度中に検討するとした。

同年9月、厚生労働省は、「最低賃金制度のあり方に関する研究会」を開催、平成17年3月に報告書を取りまとめ、産業別最低賃金の廃止を含めた抜本的な見直しの必要性、単身独身者について、地域別最低賃金が少なくとも生活保護水準を下回らないようにすることの必要性等を提言した。

このような実情を踏まえ、平成17年4月、厚生労働大臣は、「今後の最低賃金制度の在り方について」を労働政策審議会に諮問した。労働条件分科会に設置された最低賃金部会では、公益委員から産業別最低賃金を廃止し職種別設定賃金を創設する等とする試案が示されたが、合意に至らなかった。平成18年12月27日、最低賃金部会は、産業別最低賃金を民事的なルールに改める、地域別最低賃金の決定基準について生活保護との整合性も考慮する必要があることを明確にする等を内容とする報告書を取りまとめ、同日、労働政策審議会から厚生労働大臣に答申した。

この答申を受け、厚生労働大臣は、「最低賃金法の一部を改正する法律案要綱」を取りまとめ、平成19年1月29日、労働政策審議会に諮問した。同日、同審議会は、おおむね妥当である旨答申した。

政府はこの答申を受け、最低賃金法の一部を改正する法律案を取りまとめ、第166回国会に提出した。

一方、民主は、最低賃金が低いことが、ワーキングプアが増加する要因の一つとなっているとして、すべての労働者が安心して働き、生計を立てられる公正な賃金を保障する全国最低賃金制度を創設する等を内容とする最低賃金法の一部を改正する法律案を取りまとめ、第166回国会に提出した。

(イ 関連議案の概要)

(ア) 労働契約法案(内閣提出)

個別労働関係紛争の解決や未然防止に資するため、労働契約は、労働者及び使用者の自主的な交渉の下で、合意により成立し、又は変更されるとする原則、就業規則との関係等の労働契約に関する基本的なルールを定めるものである。

(イ) 労働基準法の一部を改正する法律案(内閣提出)

1か月80時間を超える時間外労働について、法定割増賃金率を2割5分から5割に引き上げるとともに、現在、原則として日単位で取得することとされている年次有給休暇について、労使協定により、5日分は時間単位での取得を可能とするものである。

(ウ) 最低賃金法の一部を改正する法律案(内閣提出)

地域別最低賃金について、全国各地域ごとに決定を義務付け、生活保護との整合性も考慮するよう決定基準を明確化するとともに、罰金額を引き上げるほか、産業別最低賃金について、最低賃金法の罰則の適用がない民事的なルールに改めるものである。

(エ) 最低賃金法の一部を改正する法律案(細川律夫君外2名提出)

全国最低賃金制度を創設するとともに、全国最低賃金を超える額で地域最低賃金を決定することができるようにするほか、当該最低賃金は、労働者とその家族の生計費を基本とするよう最低賃金の決定基準の見直しを行うものである。

(オ) 労働契約法案(細川律夫君外3名提出)

労働契約に関する紛争を防止するため、21世紀の雇用社会にふさわしい労働契約における公正かつ透明な民事上のルールとして、労働契約の締結、変更及び終了に至る各段階における権利義務を明確化するものである。

(ウ 審議経過)

第166回国会、内閣提出の3法律案は、平成19年3月13日に提出され、5月24日の本会議において趣旨説明の聴取及び質疑が行われ、同日、厚生労働委員会に付託された。

同委員会においては、同月25日、提案理由の説明を聴取し、6月1日から質疑に入ったが、結論を得るに至らず、継続審査となった。

また、民主提出の最低賃金法の一部を改正する法律案は、5月23日に提出され、7月3日、厚生労働委員会に付託されたが、審査に入ることなく継続審査となった。

参議院議員通常選挙が行われたことを受けて開かれた第167回国会では、継続審査になっていた4法律案は審査に入ることなく、引き続き継続審査となった。

第168回国会、民主提出の労働契約法案は、9月28日に提出され、10月31日、厚生労働委員会に付託された。

同日、同委員会においては、民主提出の2法律案の提案理由の説明を聴取し、11月2日に5法律案の質疑に入った。同月7日、民主提出の2法律案の撤回を許可し、内閣提出の労働契約法案及び最低賃金法の一部を改正する法律案の質疑を終局した。次いで、与党及び民主の共同提案により、労働契約法案に対して、均衡待遇についての原則及び仕事と生活の調和についての原則を追加する修正案が、最低賃金法の一部を改正する法律案に対し、労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう、生活保護との整合性に配慮することとする修正案が、それぞれ提出され、趣旨の説明を聴取し、討論・採決の結果、両法律案はいずれも賛成多数で修正議決すべきものと議決された。

同月8日の本会議において、両法律案はいずれも修正議決された。

参議院においては、同月28日の本会議で、両法律案はいずれも可決され、成立した。

なお、労働基準法の一部を改正する法律案は、継続審査となった。

(エ 主な質疑事項)

内閣提出の3法律案に対する主な質疑事項は、[1]個人請負など経済的従属関係にある者を労働契約法で保護する必要性、[2]就業規則による労働条件の不利益変更が容易に行われる懸念、[3]労働契約法に労働者間の均等待遇を規定する必要性、[4]時間外労働の割増賃金率の引上げを月80時間超とした理由、[5]割増賃金率の引上げ分に代えて付与される有給休暇の付与方法、[6]年次有給休暇を時間単位で取得可能とする理由、[7]生活保護の水準を下回っている都道府県の地域別最低賃金を引き上げる必要性、[8]最低賃金の引上げに当たって地域の経済力や中小企業への影響に配慮する必要性、[9]産業別最低賃金に最低賃金法の罰則を適用しないこととする理由、[10]最低賃金の履行確保策等であった。

民主提出の2法律案に対する主な質疑事項は、[1]最低賃金の決定基準を労働者とその家族の生計費のみとした理由、[2]最低賃金の大幅な引上げが雇用情勢の悪化を招く懸念、[3]最低賃金の大幅な引上げに伴い実施するとしている中小企業支援策の財源及びその効果、[4]解雇要件の厳格化により企業倒産が増加する可能性、[5]転勤や出向の際に当事者の同意及び労働者代表との協議を使用者に義務付けることの妥当性、[6]有期労働契約に関する締結事由の制限や差別的取扱禁止の規定が雇用情勢の悪化を招く懸念等であった。

(11) テロ対策特措法関係

(ア 国会で議論されるに至った経緯)

平成13年9月11日のアメリカ合衆国において発生したテロリストによる攻撃等に対応して行われる国際連合憲章の目的達成のための諸外国の活動に対して我が国が実施する措置及び関連する国際連合決議等に基づく人道的措置に関する特別措置法案(以下「旧テロ対策特別措置法」という。)は、平成13年9月11日の米国における同時多発テロを契機とした国際的なテロリズムの防止・根絶のための国際社会の取組に積極的かつ主体的に寄与し、我が国を含む国際社会の平和及び安全の確保に資する目的で、同年10月5日、2年間の時限立法として第153回国会に提出された。その後、国会の事後承認及び武器弾薬の外国領域における陸上輸送禁止などを付加する修正を経て、10月29日に成立、11月2日に公布、同日施行された。同法はまた、テロによる脅威の除去のための諸外国の活動が継続していることを踏まえ、平成15年10月に2年間、平成17年10月及び平成18年11月にはそれぞれ1年間延長された。平成19年11月1日をもって期限を迎える同法は、当初さらなる延長が予定されていた。しかし、同年7月の参議院議員通常選挙において、同法の延長に反対する野党が多数を制したこと、及び、内閣総理大臣が交代したことによって延長法案の提出時期を逸してしまい、たとえ提出されても審議中に旧テロ対策特別措置法自体が失効してしまう事態を想定せざるを得なくなっていた。

このため、政府は、新法により対応することとし、同年10月17日、海上阻止活動への補給支援により、国際的なテロリズムの防止・根絶のための国際社会の取組に引き続き寄与し、我が国を含む国際社会の平和及び安全の確保に資することを目的とするテロ対策海上阻止活動に対する補給支援活動の実施に関する特別措置法案を第168回国会に提出した。

(イ 関連議案の概要)

テロ対策海上阻止活動に対する補給支援活動の実施に関する特別措置法案(内閣提出)

我が国がテロ対策海上阻止活動を行う諸外国の軍隊その他これに類する組織(以下「諸外国の軍隊等」という。)に対し旧テロ対策特別措置法に基づいて実施した海上自衛隊による給油その他の協力支援活動が国際的なテロリズムの防止及び根絶のための国際社会の取組に貢献し、国際連合安全保障理事会決議第1776号においてその貢献に対する評価が表明されたこと等を踏まえ、我が国が国際的なテロリズムの防止及び根絶のための国際社会の取組に引き続き積極的かつ主体的に寄与しようとするもので、その主な内容は、

 政府は、この法律に基づく補給支援活動を適切かつ迅速に実施することとし、同活動の実施は、武力による威嚇又は武力の行使に当たるものであってはならず、同活動は、我が国領域並びに戦闘行為が行われていないインド洋等(その上空を含む。)及び外国の領域(当該外国の同意がある場合に限る。)において実施するものとすること

 補給支援活動とは、自衛隊がテロ対策海上阻止活動に係る任務に従事する諸外国の軍隊等の艦船に対して実施する自衛隊に属する物品及び役務の提供(艦船若しくは艦船に搭載する回転翼航空機の燃料油の給油又は給水を内容とするものに限る。)に係る活動をいうものとすること

 内閣総理大臣は、補給支援活動を実施するに当たっては、あらかじめ、補給支援活動に関する実施計画(以下「実施計画」という。)の案につき閣議の決定を求めなければならないものとすること

 内閣総理大臣は、実施計画の決定又は変更があったときは、その内容を、補給支援活動が終了したときは、その結果を、遅滞なく、国会に報告しなければならないものとすること

 補給支援活動の実施を命ぜられた自衛隊の部隊等の自衛官は、自己等又はその職務を行うに伴い自己の管理の下に入った者の生命等の防護のためやむを得ない必要があると認める相当の理由がある場合には、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で、武器を使用することができるものとすること

 この法律は、公布の日から施行し、施行の日から起算して1年を経過した日に、その効力を失うこと。ただし、その日より前に、補給支援活動を実施する必要がないと認められるに至ったときは、速やかに廃止すること。なお、1年を経過する日以後においても必要があるときは、別の法律により、1年以内の期間を定めて、その効力を延長することができるものとすること

等である。

(ウ 審議経過)

テロ対策海上阻止活動に対する補給支援活動の実施に関する特別措置法案は、平成19年10月17日に提出され、同月23日の本会議で趣旨説明の聴取及び質疑が行われ、同日テロ・イラク特別委員会に付託された。

同委員会においては10月24日、本法律案について、提案理由の説明を聴取し、同月26日、福田内閣総理大臣の出席を求め質疑に入った。同月29日に、防衛省問題について、守屋前防衛事務次官に対する証人喚問が行われ、11月5日には参考人(拓殖大学大学院教授森本敏君、軍事アナリスト小川和久君、医療法人健祉会理事長レシャード・カレッド君、東京外国語大学大学院教授伊勢崎賢治君)からの意見聴取及び質疑が行われた。さらに、同月7日、秘密会において参考人(元防衛庁海上幕僚監部防衛部防衛課長寺岡正善君)に対する質疑が行われた後、防衛省問題について集中審議が行われた。

11月12日、締めくくり質疑を行い、質疑を終局し、討論・採決の結果、本法律案は賛成多数をもって原案のとおり可決すべきものと議決された。

翌13日の本会議において、討論の後に記名投票が行われた結果、本法律案は可決(賛成327票、反対128票)された。

参議院においては、平成20年1月11日の本会議で否決され、同日、衆議院に返付された。これを受けて、同日、本会議において、まず、本法律案の再議決を求める動議が提出され、討論・採決の結果、賛成多数で可決された。続いて、本法律案の採決が記名投票により行われた結果、出席議員の3分の2以上の多数で再び可決(賛成340票、反対133票)され、憲法第59条第2項により、本法律案は成立した。

(エ 主な質疑事項)

主な質疑事項は、「旧テロ対策特別措置法における実績等」については、[1]国連安保理決議があれば武力を行使する活動への参加が憲法違反ではないとの考え方に対する外務大臣の見解、[2]安全保障に関する法体系の中で本法律案だけ国会承認規定がないことに対する見解、[3]これまで6年間の我が国の活動に対する国際社会からの評価、[4]アフガニスタン本土で自衛隊が支援活動を行う場合、武器使用等の面で課される法律上の制限、[5]本法律案においてイラク作戦と関わりがあると懸念されるペルシャ湾が活動地域に含まれる理由、[6]本法律案成立後直ちに補給支援活動を再開し、活動の中断期間を短くするための方策、[7]不朽の自由作戦−海上阻止活動(OEF−MIO)に並列してイラクの自由作戦(OIF)等複数の任務を行う艦船に対し給油することの可否、[8]テロ対策特措法に基づく給油支援のための燃料調達を行う商社名を公表する必要性、[9]本法律案が参議院で否決された場合に衆議院で再議決される妥当性、[10]本法律案審議の障害となっている守屋前防衛事務次官をめぐる問題及び給油量取違え問題に対する防衛大臣の認識等であった。

「前防衛事務次官の証人喚問」については、[1]本法律案審議時に不祥事問題で時間を割かねばならないことに対する証人の責任、[2]過去5年間に防衛専門商社山田洋行元専務から受けたゴルフ及び飲食接待の回数並びに不適切な関係を続けた理由、[3]偽名でゴルフをした事実並びに自衛隊員倫理法及び自衛隊員倫理規程違反の認識の有無、[4]元専務から証人の夫人及び娘への贈答や資金提供の有無、[5]証人と元専務との宴席において防衛庁長官経験者等が同席した事実の有無、[6]山田洋行との契約について具体的な便宜を図った事実の有無、[7]GE(ゼネラル・エレクトリック)社の代理店契約が山田洋行から日本ミライズに変更された際の関与の有無、[8]次期輸送機(CX)エンジン調達の選定過程において日本ミライズを採用するよう支持した事実の有無、[9]山田洋行のフレア発射装置に係る水増し請求事件への関与実態及び甘い処分となった理由、[10]退職金返還の意思の有無等であった。

「海上自衛艦の航泊日誌破棄及び補給艦の給油量訂正並びに給油燃料転用疑惑問題」については、[1]防衛省に文書管理のための多重チェックシステムをつくる必要性、[2]公開した航泊日誌のほとんどを黒塗りした理由を具体的に説明する必要性、[3]航泊日誌の永久保存を検討する必要性、[4]「文民統制の徹底を図るための抜本的対策検討委員会」メンバーに第三者を入れる必要性、[5]これまでの補給活動が米国の戦争支援となっていることへの疑念、[6]アフガニスタン空爆に日本の給油燃料が使用されていることに違和感を持つ国民感情に対する内閣総理大臣の所見、[7]米海軍補給艦「ペコス」への給油量と当時のキティホークの作戦行動を政府が確認した事実の有無、[8]給油量が80万ガロンと判明したにも関わらずキティホークがOEF従事中に当該燃料を消費したと判断した理由、[9]帰途にある艦船に給油することの妥当性、[10]これまでの給油燃料がイラク作戦へ転用されなかったことの確認方法及び転用を防ぐための今後の方針等であった。

「アフガニスタン情勢」については、[1]内戦等で30年前からアフガニスタンの政情が安定しない理由に関する政府の分析、[2]米国及びNATOのアフガニスタン派遣に係る国際法上の根拠、[3]9.11後の米軍のアフガニスタン攻撃が自衛権行使のための急迫性及び均衡性の要件を欠くとする考えに対する外務大臣の見解、[4]米国のOEF及び国際治安支援部隊(ISAF)における敵の概念、[5]米軍がOEFで捕えたアルカーイダ及びタリバンを不法戦闘員としてグアンタナモ基地に拘束していることに対する政府の見解、[6]アフガニスタン開戦以降の多国籍軍の空爆による民間人の被害者数、[7]アフガニスタンにおける我が国の民生支援の内容及び「テロとの闘い」によって民生面で改善した事項、[8]治安情勢の悪化により撤退、活動の停止を余儀なくされているNGOに対する政府の支援策、[9]アフガニスタン復興のため平和構築と和解のプロセスを促進する非軍事的政策に転換する必要性、[10]ISAFへ自衛隊を派遣する可能性の有無等であった。

「防衛装備品の調達問題」については、[1]防衛省における山田洋行の全受注額に占める随意契約の割合及び省全体の契約に占める随意契約の割合、[2]山田洋行及び日本ミライズへの天下り人数、[3]山田洋行がBAE社のものとして防衛庁に出した見積書の真偽、[4]装備審査会議録がないとする理由及び同会議の開催頻度、[5]過大請求の再発防止のための審査機能及び過大請求発覚時の対応策、[6]守屋前事務次官の証人喚問を受けて装備調達方法の改善を含めた新たな対策を検討する必要性、[7]自衛隊員倫理規程違反のおそれがある場合に退職金の支払いを凍結する仕組みの有無、[8]防衛監察本部の構成員中、防衛省以外のメンバーを増員し機能をより強化することに対する防衛大臣の見解、[9]防衛装備品調達における商社の介在を通関、為替業務に限ることとしてその対価を払う方法に変えるべきとの意見に対する政府の見解、[10]防衛関連会社からの接待に関する防衛省職員への調査方針等であった。

「国際平和協力のための一般法(恒久法)」については、[1]国際平和活動に自衛隊が参加するための原理、原則を確立する必要性、[2]一般法において自衛隊が活動できる範囲に関する内閣総理大臣の所見、[3]自衛隊を活用した国際貢献の在り方について与野党で議論し合意点を得る必要性、[4]武器使用基準の今後の在り方に対する防衛大臣の見解、[5]自衛隊員がアフガニスタン本土で活動する上で安全確保の観点から障害となる問題点、[6]自衛隊員によるいわゆる駆け付け警護の合憲性に対する内閣法制局の見解、[7]国際平和協力のための自衛隊海外派遣に国連決議を必須条件とする考え方に対する政府の見解等であった。

3 国政選挙結果

(1) 平成19年4月統一補欠選挙

平成19年4月22日、参議院福島県選挙区、同沖縄県選挙区において補欠選挙(4月5日告示)が行われた。選挙結果は次のとおりである。

なお、衆議院議員の補欠選挙は、補欠選挙の対象となる欠員がないため実施されなかった。

参・福島県選挙区(佐藤雄平君18.10.23辞職)
立候補者数 3人 投票率 56.72%
当選人 増子 輝彦君(民主党)
参・沖縄県選挙区(糸数慶子君18.11.2公職選挙法 第90条による退職)
立候補者数 3人 投票率 47.81%
当選人 島尻 安伊子君(諸派)

(2) 第21回参議院議員通常選挙及び統一補欠選挙

第21回参議院議員通常選挙は、平成19年7月12日に公示され、同月29日を投票日として実施された。今回の通常選挙を前に、いくつかの選挙制度の改正が行われた。

[1]在外投票の対象選挙の拡大

在外投票は、平成12年に導入されて以来、投票の対象選挙を比例代表選挙に限って実施されてきたが、平成17年9月の最高裁判決(※)を受け、選挙区選挙も在外投票の対象とした。

[2]マニフェストの頒布場所の拡大

街頭演説を行うことができる場所を増加することにより、いわゆるマニフェストの頒布場所が拡大した。

[3]選挙区別議員定数の変更

栃木県選挙区及び群馬県選挙区の議員数をそれぞれ4人から2人に、千葉県選挙区の議員数を4人から6人に、東京都選挙区の議員数を8人から10人に変更した。

※最高裁判決(大法廷、平成17年9月14日)

遅くとも、本判決言渡し後に初めて行われる衆議院議員の総選挙又は参議院議員の通常選挙の時点において、在外選挙の対象となる選挙を両議院の比例代表選挙に限定する規定は、憲法に違反する。

今回の通常選挙の改選議席は、選挙区が73、比例代表が48、計121であり、それに対し、立候補者は、選挙区が218人、比例代表が159人、計377人(うち女性の立候補者は91人)であった。党派別内訳は表1のとおりである。

競争率は選挙区で2.99倍、比例代表で3.31倍であり、当選人数の党派別内訳は表2のとおりである。

(表1)党派別立候補者数


選挙区 比例代表
自由民主党 48 35 83
民主党 45 35 80
公明党 5 17 22
日本共産党 46 17 63
社会民主党 14 9 23
国民新党 9 14 23
新党日本 0 3 3
維新政党・新風 7 3 10
9条ネット 1 9 10
共生新党 5 5 10
女性党 0 12 12
諸派 4 0 4
無所属 34 - 34
218 159 377


(表2)党派別当選人数


選挙区 比例代表
自由民主党 23 14 37
民主党 40 20 60
公明党 2 7 9
日本共産党 0 3 3
社会民主党 0 2 2
国民新党 1 1 2
新党日本 0 1 1
無所属 7 - 7
73 48 121


自由民主党及び公明党の連立与党は、自由民主党が改選64議席から37議席に、公明党が改選12議席から9議席へ議席を減らし、合わせて46議席となり、改選121議席の過半数に達しなかった。さらに、非改選の57議席を合わせても103議席となり、全242議席の過半数に達しなかった。

一方、野党各党は、民主党は改選32議席から60議席へ大幅に議席を増やし、非改選と合わせて参議院第1党となった。日本共産党は改選5議席から3議席に、社会民主党は改選3議席から2議席に議席を減らし、国民新党は改選2議席を確保した。また、新党日本が新たに1議席を確保した。

女性の当選人は26人で、前回の15人よりも11人増となった。

今回の通常選挙は、本年4月の統一地方選挙に引き続いて行われる選挙のため、投票率の低下が懸念されたが、選挙区58.64%、比例代表58.63%であり、前回通常選挙の選挙区56.57%、比例代表56.54%をわずかではあるがそれぞれ上回る結果となった。

また、同日、衆議院岩手県第1区及び同熊本県第3区において補欠選挙(7月17日告示)が行われた。選挙結果は次のとおりである。

衆・岩手県第1区(達増拓也君19.3.22公職選挙 選挙法第90条による退職)
立候補者数 3人 投票率 61.05%
当選人 階 猛君(民主党)
衆・熊本県第3区(松岡利勝君19.5.28死去)
立候補者数 4人 投票率 70.88%
当選人 坂本 哲志君(無所属)


なお、荒井正吾君(自民、参議院奈良県選挙区、19.3.9辞職)及び柏村武昭君(自民、参議院広島県選挙区、19.3.25公職選挙法第90条による退職)の欠員に伴う補欠選挙については、参議院議員の任期満了前6か月以内に補欠選挙事由が発生したため、実施されなかった。

衆議院議員及び参議院議員の補欠選挙は、原則として年2回、4月及び10月の第4日曜日に統一して行われるが、参議院議員の任期が終わる年において、衆議院議員の補欠選挙は、例外的に当該通常選挙の期日にも行うこととされている。



(3) 平成19年10月統一補欠選挙

衆議院議員及び参議院議員の補欠選挙は、補欠選挙の対象となる欠員がないため実施されなかった。



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