第一五九回
参第一八号
地域金融の円滑化に関する法律案
(目的)
第一条 この法律は、地域における金融(以下「地域金融」という。)の円滑化に関し、基本理念を定め、並びに国、地方公共団体及び金融機関の責務を明らかにするとともに、地域金融の円滑化に対する金融機関の寄与の程度に係る評価に資する情報の公表の制度を設けること等を通じて、その推進を図ることにより、金融機関の地域金融に係る業務の適切な運営及び地域経済の活性化を期し、もって国民経済の健全な発展及び国民生活の向上に資することを目的とする。
(定義)
第二条 この法律において「金融機関」とは、次に掲げる者(この法律の施行地外に本店を有するものその他地域金融に係る業務を行わない者として政令で定めるものを除く。)をいう。
一 銀行法(昭和五十六年法律第五十九号)第二条第一項に規定する銀行
二 長期信用銀行法(昭和二十七年法律第百八十七号)第二条に規定する長期信用銀行
三 信用金庫
四 信用金庫連合会
五 労働金庫
六 労働金庫連合会
七 信用協同組合
八 中小企業等協同組合法(昭和二十四年法律第百八十一号)第九条の九第一項第一号及び第二号の事業を行う協同組合連合会
九 農業協同組合法(昭和二十二年法律第百三十二号)第十条第一項第二号及び第三号の事業を行う農業協同組合
十 農業協同組合法第十条第一項第二号及び第三号の事業を行う農業協同組合連合会
十一 水産業協同組合法(昭和二十三年法律第二百四十二号)第十一条第一項第三号及び第四号の事業を行う漁業協同組合
十二 水産業協同組合法第八十七条第一項第三号及び第四号の事業を行う漁業協同組合連合会
十三 水産業協同組合法第九十三条第一項第一号及び第二号の事業を行う水産加工業協同組合
十四 水産業協同組合法第九十七条第一項第一号及び第二号の事業を行う水産加工業協同組合連合会
(基本理念)
第三条 地域金融については、地域において住民、事業者等の金融上の要望にきめ細かに対応し、地域経済の活性化に貢献する等重要な機能を果たすべきものであることにかんがみ、利用者の利便の増進が図られ、地域において社会的に要請されている分野に必要な資金が十分に供給される等その円滑化が図られなければならない。
2 地域金融の円滑化を図るに当たっては、中小企業が地域経済の活性化において果たす役割の重要性にかんがみ、それに対し適切かつ効果的に資金が供給されるよう特に配慮されなければならない。
3 地域金融の円滑化を図るためには利用者が個々の金融機関の業務に係る特性及び実態を簡易に知ることができる環境の整備が重要であることにかんがみ、金融機関に関する情報の開示が図られなければならない。
(国の責務)
第四条 国は、前条の基本理念(次条及び第六条において「基本理念」という。)にのっとり、地域金融の円滑化に関し必要な施策を策定し、及び実施する責務を有する。
(地方公共団体の責務)
第五条 地方公共団体は、基本理念にのっとり、地域金融の円滑化に関し、国の施策に準じた施策及びその他のその地方公共団体の区域の特性に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する。
(金融機関の責務)
第六条 金融機関は、金融業務の公共性にかんがみ、基本理念にのっとり、利用者の利便の増進を図り、地域において社会的に要請されている分野に必要な資金を十分に供給する等地域金融の円滑化に主体的かつ積極的に寄与する責務を有する。
2 金融機関は、地域の中小企業者の事業活動に対する信用の供与に当たっては、基本理念にのっとり、均等な機会を確保するようにすること、経営資源及び事業の成長発展の可能性を適正に評価すること、取引条件を明確にし、適切かつ十分な説明を行う等取引の公正を確保すること、苦情の適切な処理を行うこと等その利便の確保及び業務の適正な実施に特に留意しなければならない。
3 前二項に定めるもののほか、金融機関は、基本理念にのっとり、その業務を行うに際し、国又は地方公共団体が実施する地域金融の円滑化に関する施策に協力する責務を有する。
(年次報告等)
第七条 政府は、毎年、国会に、地域金融の円滑化の状況及び政府が地域金融の円滑化に関して講じた施策に関する報告を提出しなければならない。
2 政府は、毎年、前項の報告に係る地域金融の円滑化の状況を考慮して講じようとする施策を明らかにした文書を作成し、これを国会に提出しなければならない。
(調査及び公表)
第八条 行政庁は、個々の金融機関について、次条第一項の規定により提出される報告書に基づき、地域金融に係る業務の運営に関し、次に掲げる事項の調査を行い、その結果に基づき、毎年一回、地域金融の円滑化に対する寄与の程度に係る評価に資する情報を公表するものとする。
一 地域の住民及び事業者に対する信用の供与の状況に関する事項
二 地域の産業の振興等地域の振興に貢献する業務の状況に関する事項
三 営業所又は事務所その他の施設の設置の状況、利用者の金融上の要望の把握の取組に関する状況その他利用者の利便の増進を図るための業務の状況に関する事項
四 その他地域金融の円滑化に対する寄与の程度に係る評価がなされるに当たり参考となるべき事項
2 前項各号に掲げる事項の細目、公表事項、公表方法その他同項の調査及び公表に関し必要な事項は、政令で定める。
3 内閣総理大臣は、前項の政令の制定又は改廃の立案をしようとするときは、あらかじめ、金融審議会の意見を聴かなければならない。
(報告書の提出)
第九条 金融機関は、各営業年度又は事業年度ごとに、政令で定めるところにより、前条第一項各号に掲げる事項その他の地域金融に係る業務の運営に関する事項で政令で定めるものを記載した報告書を作成し、行政庁に提出しなければならない。
2 前条第三項の規定は、前項の政令の制定又は改廃の立案をしようとする場合について準用する。
(利用者による適切な評価に資するための措置)
第十条 行政庁は、地域金融の円滑化に対する金融機関の寄与の程度が利用者により適切に評価されることに資するため、専門的な知識経験に基づき当該寄与の程度に係る評価を行い、その情報を公表する民間団体等に対し、情報の提供を行う等必要な措置を講ずるものとする。
(金融機関の合併等に対する利用者の意見の反映)
第十一条 金融機関の合併、分割、営業の譲渡又は譲受け、解散その他の金融機関の組織又は営業若しくは事業の範囲の変更が地域における資金の円滑な需給、利用者の利便等に支障を生ずることがあることにかんがみ、これらの行為のうち行政庁の認可を要するものについては、当該行政庁は、その認可に係る審査に際し、必要に応じ、公聴会の開催その他の適切な方法により、これらの行為がそれらに及ぼす影響に関し利用者の意見を聴く機会を設けるものとする。
(苦情処理体制の整備等)
第十二条 金融機関は、地域金融に係る業務の適切な運営を確保するよう、利用者との間の取引に関して生じた苦情を適切かつ迅速に処理するために必要な体制の整備等を図るものとする。
2 国及び地方公共団体は、金融機関における地域金融に係る業務の適切な運営の確保に資するため、金融機関と利用者との間の取引に関して生じた苦情が適切かつ迅速に処理されるようにするために必要な措置を講ずるよう努めなければならない。
(主管行政庁等)
第十三条 この法律における行政庁は、第十一条の場合を除き、次の各号に掲げる区分に応じ、当該各号に定める行政庁とする。
一 第二条第一号から第四号まで、第七号及び第八号に掲げる金融機関 内閣総理大臣
二 第二条第五号及び第六号に掲げる金融機関 内閣総理大臣及び厚生労働大臣
三 第二条第九号から第十四号までに掲げる金融機関(次号に掲げるものを除く。) 内閣総理大臣及び農林水産大臣
四 第二条第九号、第十一号及び第十三号に掲げる金融機関のうち一の都道府県の区域を超えない区域を地区とするもの並びに同条第十号、第十二号及び第十四号に掲げる金融機関のうち一の都道府県の区域の一部をその地区の全部とするもの 当該金融機関の監督を行う都道府県知事
2 内閣総理大臣は、この法律による権限(政令で定めるものを除く。)を金融庁長官に委任する。
3 金融庁長官は、政令で定めるところにより、前項の規定により委任された権限の一部を財務局長又は財務支局長に委任することができる。
4 第二項の規定により金融庁長官に委任された権限及びこの法律による厚生労働大臣の権限に属する事務の一部は、政令で定めるところにより、都道府県知事が行うこととすることができる。
5 この法律(前項を除く。)の規定により都道府県が処理することとされている事務は、地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第二条第九項第一号に規定する第一号法定受託事務とする。
(経過措置)
第十四条 この法律の規定に基づき政令を制定し、又は改廃する場合においては、その政令で、その制定又は改廃に伴い合理的に必要と判断される範囲内において、所要の経過措置(罰則に関する経過措置を含む。)を定めることができる。
(罰則)
第十五条 第九条第一項の規定による報告書の提出をせず、又は当該報告書に記載すべき事項を記載せず、若しくは虚偽の記載をしてその書類の提出をした者は、百万円以下の罰金に処する。
2 法人の代表者、代理人、使用人その他の従業者が、その法人の業務に関し、前項の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人に対しても、同項の刑を科する。
附 則
(施行期日)
第一条 この法律は、公布の日から起算して六月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。
(報告書の提出に関する経過措置)
第二条 第九条第一項の規定は、金融機関のこの法律の施行の日(次項において「施行日」という。)以後に終了する各営業年度又は事業年度に係る同項に規定する報告書について適用する。
2 施行日の属する営業年度又は事業年度における第九条第一項の規定の適用については、同項中「各営業年度又は事業年度ごとに」とあるのは、「この法律の施行の日からその日の属する営業年度又は事業年度の終了の日までの期間について」とする。
(政令への委任)
第三条 前条に定めるもののほか、この法律の施行に関し必要な経過措置は、政令で定める。
(地方自治法の一部改正)
第四条 地方自治法の一部を次のように改正する。
別表第一に次のように加える。
地域金融の円滑化に関する法律(平成十六年法律第▼▼▼号) |
この法律(第十三条第四項を除く。)の規定により都道府県が処理することとされている事務 |
(金融庁設置法の一部改正)
第五条 金融庁設置法(平成十年法律第百三十号)の一部を次のように改正する。
第七条第一項第七号中「第六条」の下に「並びに地域金融の円滑化に関する法律(平成十六年法律第▼▼▼号)第八条第三項(同法第九条第二項において準用する場合を含む。)」を加える。
理 由
金融機関の地域金融に係る業務の適切な運営及び地域経済の活性化を期するため、地域金融の円滑化に関し、基本理念を定め、並びに国、地方公共団体及び金融機関の責務を明らかにするとともに、地域金融の円滑化に対する金融機関の寄与の程度に係る評価に資する情報の公表の制度を設けること等により、その推進を図り、もって国民経済の健全な発展及び国民生活の向上に資することとする必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。