国による全ての水俣病の被害者の救済の実現に向けた給付金等の支給に係る制度の創設に関する法律案
(趣旨)
第一条 この法律は、水俣病関西訴訟最高裁判所判決(最高裁判所平成一三年(オ)第一一九四号、第一一九六号、同年(受)第一一七二号、第一一七四号同一六年一〇月一五日第二小法廷判決をいう。)において水俣病の被害の拡大を防止できなかったことについて国の責任が認められたことを受けて、国が全ての水俣病の被害者の救済を図るべきであったにもかかわらず、その後制定された水俣病被害者の救済及び水俣病問題の解決に関する特別措置法(平成二十一年法律第八十一号)による救済も十分なものではなかったため、救済されるべき者がなお取り残されていることに鑑み、国による全ての水俣病の被害者の救済の実現に向けて、公害健康被害の補償等に関する法律(昭和四十八年法律第百十一号。次条第一号及び第六号において「公害健康被害補償法」という。)による認定を受けた者に対する補償と相まって水俣病の被害者の救済を図るための給付金、療養費及び療養手当(以下「給付金等」という。)の支給に係る制度を創設するために必要な基本的事項を定めるものとする。
(基本方針)
第二条 給付金等の支給に係る制度の創設は、次に掲げる事項を基本として行われるものとする。
一 給付金等の対象者は、次に掲げる者であって、特定症状を呈したもの(公害健康被害補償法第四条第二項の規定に基づく水俣病の認定を受けた者を除く。)とするものとすること。
イ 八代海の沿岸地域及びその周辺の地域にあっては昭和四十九年十二月三十一日以前に、新潟県内の阿賀野川の流域及びその周辺の地域にあっては昭和五十三年十二月三十一日以前に、これらの地域に居住し、通勤し又は通学していたこと等(第三号において「居住等」という。)により、水俣湾若しくは水俣川又は阿賀野川に排出されたメチル水銀により汚染された魚介類(ロ及び第三号において「汚染魚介類」という。)を多量に摂取したと認められる者
ロ イに掲げる者が汚染魚介類を多量に摂取したと認められる時期以降の時期にその者の胎児であった者
二 前号の特定症状とは、次に掲げる症状であって、メチル水銀中毒以外の原因によることが明らかであるもの以外のものをいうものとすること。
イ 四肢末梢(しよう)優位又は全身性の感覚障害
ロ 口の周囲の触覚又は痛覚の感覚障害
ハ 舌の二点識別覚の障害
ニ 求心性視野狭窄(さく)
ホ 大脳皮質障害による知的障害、精神障害、運動障害又は感覚障害
ヘ 小脳性の運動失調、構音障害又は聴力障害
ト イからヘまでに掲げるもののほか、水俣病の診療に係る医学的知見を踏まえ、メチル水銀中毒により生ずることが認められる症状
三 イ及びロに掲げる区域に昭和四十九年十二月三十一日以前に一年以上居住していた者並びにハに掲げる区域に昭和五十三年十二月三十一日以前に一年以上居住していた者については、居住等により汚染魚介類を多量に摂取したと認められる者とみなすものとすること。
イ 熊本県の区域のうち、水俣市、葦北郡芦北町、同郡津奈木町、天草市(楠浦町、御所浦町、倉岳町、栖本町、新和町及び河浦町に限る。)、八代市(二見洲口町に限る。)及び上天草市(姫戸町及び龍ヶ岳町に限る。)の区域
ロ 鹿児島県の区域のうち、阿久根市、出水市、出水郡長島町及び伊佐市の区域
ハ 新潟県の区域のうち、新潟市、阿賀野市、五泉市及び東蒲原郡阿賀町の区域
四 第一号イの地域の範囲については、同号イの時期における魚介類の流通の状況その他の経済的社会的状況を考慮して定めるものとすること。
五 給付金等の申請の期限は、設けないものとすること。
六 第一号の給付金等の対象者に該当するかどうかの判断については、国による後天性水俣病の判断条件についての昭和五十二年七月一日付けの通知及び公害健康被害補償法に基づく水俣病の認定における総合的検討についての平成二十六年三月七日付けの通知により示された公害健康被害補償法第四条第二項の規定に基づく水俣病の認定に係る判断条件にとらわれることがあってはならないものとすること。
七 給付金等とその支給事由と同一の事由による損害の補等との間においては、必要な調整が行われるものとすること。
八 国が全ての水俣病の被害者の救済を図るべきであったにもかかわらず、救済されるべき者がなお取り残されていることに鑑み、これらの者の救済が迅速かつ確実に図られるよう、給付金等の支給に要する費用は国が支弁するものとすること。この場合において、国は、水俣病が生ずる原因となったメチル水銀を排出した事業者に対し、負担を求めることができるものとすること。
九 全ての水俣病の被害者の救済及び水俣病の被害の全体像の解明に資するよう、八代海の沿岸地域及びその周辺の地域又は新潟県内の阿賀野川の流域及びその周辺の地域に居住等をしていた者を対象とした検診その他の健康に係る調査(以下この号において「住民健康調査」という。)並びにメチル水銀が人の健康に与える影響に関する疫学調査その他の調査研究が、国、これらの地域をその区域に含む県及び医療機関その他の関係団体の緊密な連携により、速やかに行われるものとすること。この場合において、住民健康調査については、その対象となる者等の秘密又は私生活若しくは業務の平穏が害されることがないよう適切に配慮するとともに、救済されるべき者が確実に救済を受けることに資するよう、必要に応じ、住民健康調査を受けた者に対しその結果が提供されるようにするものとすること。
(法制上の措置等)
第三条 政府は、速やかに、前条の基本方針に基づき、給付金等の支給に係る制度(その申請に係る認定制度を含む。)の創設のために必要な法制上及び財政上の措置その他の措置を講じなければならない。
2 政府は、前項の措置を講ずるに当たっては、水俣病の被害者、その家族その他の関係者との協議の場を設ける等これらの者の意見を反映させるために必要な措置を講ずるものとする。
附 則
この法律は、公布の日から施行する。
理 由
水俣病関西訴訟最高裁判所判決において水俣病の被害の拡大を防止できなかったことについて国の責任が認められたことを受けて、国が全ての水俣病の被害者の救済を図るべきであったにもかかわらず、その後制定された水俣病被害者の救済及び水俣病問題の解決に関する特別措置法による救済も十分なものではなかったため、救済されるべき者がなお取り残されていることに鑑み、国による全ての水俣病の被害者の救済の実現に向けて、給付金等の支給に係る制度を創設するために必要な基本的事項を定める必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。