第二一九回
参第四号
防諜に関する施策の推進に関する法律案
目次
第一章 総則(第一条−第十一条)
第二章 基本的施策(第十二条−第十五条)
第三章 集中的に講ずべき施策(第十六条−第十九条)
附則
第一章 総則
(目的)
第一条 この法律は、国際情勢の複雑化、情報通信技術等の活用の進展等に伴い、防諜(ちよう)に係る機能の強化が喫緊の課題となっていることに鑑み、防諜に関する施策に関し、基本理念を定め、国及び地方公共団体の責務等を明らかにするとともに、施策の基本となる事項及び集中的に講ずべき施策について定めることにより、防諜に関する施策を総合的に推進し、もって我が国及び国民の安全の確保に資することを目的とする。
(定義)
第二条 この法律において「防諜」とは、次に掲げる活動(第四条及び第十七条において「諜(ちよう)報等」という。)であって外国により行われるものによる悪影響を防止することをいう。
一 公になっていない情報のうちその漏えいが我が国の安全保障に支障を与えるおそれがあるものを取得するための活動その他の不当な活動であって、我が国及び国民の安全を著しく害し、又は害するおそれのあるもの
二 虚偽の情報の発信その他の不当な方法により我が国における公職の選挙、国民投票その他の投票又は国若しくは地方公共団体の政策決定に不当な影響を及ぼす活動であって、直接又は間接に、我が国及び国民の安全を害し、又は害するおそれのあるもの
(基本理念)
第三条 防諜に関する施策は、国際情勢の変化及び情報通信技術等の活用の進展に的確に対応することを旨として行われなければならない。
2 防諜に関する施策の策定及び実施に当たっては、国民の基本的人権を不当に侵害するようなことがあってはならず、国民の知る権利の保障に資する報道又は取材の自由に十分に配慮しなければならない。
第四条 何人も、諜報等を行い、又はこれを助けてはならない。
(国の責務)
第五条 国は、前二条の基本理念(次条及び第七条において「基本理念」という。)にのっとり、自らの事務及び事業に関し防諜のための措置を講ずるとともに、防諜に関する施策を総合的に策定し、及び実施する責務を有する。
2 国の関係行政機関は、防諜に関する施策の実施に関し、相互に連携を図りながら協力しなければならない。
(地方公共団体の責務)
第六条 地方公共団体は、基本理念にのっとり、自らの事務及び事業に関し防諜のための措置を講ずるとともに、国が実施する防諜に関する施策に協力しなければならない。
(事業者の努力)
第七条 事業者は、基本理念にのっとり、その事業に関し管理する情報についての防諜の重要性を自覚するとともに、国が実施する防諜に関する施策に協力するよう努めるものとする。
(国際的な連携の強化)
第八条 政府は、防諜に係る機能の強化を図るため、外国政府又は国際機関との情報の交換その他国際的な連携の強化に努めるものとする。
(法制上の措置等)
第九条 政府は、防諜に関する施策を実施するため必要な法制上又は財政上の措置その他の措置を講じなければならない。
(防諜基本方針)
第十条 政府は、防諜に関する施策を総合的に推進するための基本的な方針(以下この条において「防諜基本方針」という。)を定めなければならない。
2 防諜基本方針は、次に掲げる事項について定めるものとする。
一 防諜の意義に関する事項
二 防諜に関する施策に関する基本的な方針
三 防諜に関する施策の策定及び実施に関し配慮すべき事項
四 防諜に関する国民の理解と関心の増進に関する事項
五 前各号に掲げるもののほか、防諜に関する施策に関する重要事項
3 内閣総理大臣は、防諜基本方針の案を作成し、閣議の決定を求めなければならない。
4 内閣総理大臣は、前項の規定による閣議の決定があったときは、遅滞なく、防諜基本方針を公表しなければならない。ただし、防諜に関する施策の効果的な実施に支障を生ずるおそれがあると認めるときは、その一部を公表しないことができる。
5 政府は、国際情勢の変化、情報通信技術等の活用の進展その他の防諜に関する状況の変化を勘案し、おおむね三年ごとに防諜基本方針に検討を加え、必要があると認めるときは、これを変更するものとする。
6 第三項及び第四項の規定は、防諜基本方針の変更について準用する。
(年次報告)
第十一条 政府は、毎年、国会に、政府が講じた防諜に関する施策について報告しなければならない。
第二章 基本的施策
(国民の理解と関心の増進)
第十二条 国は、防諜に関する国民の理解と関心を深めるよう、防諜に関する教育及び啓発の推進その他の必要な施策を講ずるものとする。
(研究開発の推進等)
第十三条 国は、防諜に資する情報通信技術その他の技術の研究開発及び当該技術の実証の推進を図るために必要な施策を講ずるものとする。
(人材の育成及び確保)
第十四条 国は、防諜に係る専門的な知識又は技術を有する人材を育成し、及び確保するために必要な施策を講ずるものとする。
(諸外国の実態の調査等)
第十五条 国は、防諜に係る機能の強化に資するよう、諸外国における防諜に係る制度及び体制並びにそれらの運用等について、実態の調査並びに情報の収集、整理及び分析を行うものとする。
第三章 集中的に講ずべき施策
(外国から指示等を受けた者が行う活動の透明性を確保するための制度の創設)
第十六条 外国から指示、請託等を受けた者が行う、我が国における公職の選挙、国民投票その他の投票又は国若しくは地方公共団体の政策決定に影響を及ぼすおそれのある活動の透明性を確保するため、その者がその活動を行う場合に国に当該活動の内容その他必要な事項の届出をさせ、及びその者が行った当該活動の内容を定期的に報告させるとともに、当該届出をしないで当該活動に従事した者及び当該報告をしなかった者を処罰することとする制度を創設するものとし、政府は、この法律の施行後二年以内に、そのために必要な法制上の措置その他の措置を講ずるものとする。
(外国からの指示等による公職の選挙等に不当な影響を及ぼす行為等に関する罰則の整備に関する検討)
第十七条 政府は、この法律の施行後二年以内を目途として、外国から指示、請託等を受けた者が虚偽の情報の発信その他の不当な方法により我が国における公職の選挙、国民投票その他の投票又は国若しくは地方公共団体の政策決定に不当な影響を及ぼす行為であって、我が国及び国民の安全を害し、又は害するおそれのあるものその他外国から指示、請託等を受けた者が行う諜報等による悪影響を防止するために必要な罰則(実行の着手前の行為を処罰するための罰則を含む。)の整備について検討を行い、その結果に基づいて必要な法制上の措置を講ずるものとする。
(内閣情報調査局の設置に関する基本方針)
第十八条 別に法律で定めるところにより、次項に規定する事務を行わせるため、内閣官房に、内閣情報調査局を置くものとする。
2 内閣情報調査局は、次に掲げる事務をつかさどるものとし、当該事務の効率的かつ円滑な遂行が確保されるよう編成するものとする。
一 内閣法(昭和二十二年法律第五号)第十二条第二項第二号から第五号までに掲げる事務のうち特定秘密(特定秘密の保護に関する法律(平成二十五年法律第百八号)第三条第一項に規定する特定秘密をいう。)の保護に関するもの
二 内閣法第十二条第二項第二号から第五号までに掲げる事務のうち防諜に関するもの
三 内閣の重要政策に関する情報のうち防諜に関する情報の集約、整理及び分析並びに関係機関に対する提供に関する事務
四 内閣法第十二条第二項第六号に掲げる事務
3 内閣情報調査局に、内閣官房長官及び内閣官房副長官を助け、命を受けて局務を掌理する職として、内閣情報調査局長を置くものとする。
4 内閣情報調査局は、できるだけ早期に設置することとし、政府は、前三項に定めるところにより、内閣情報調査局を設置するために必要な措置について検討を行い、可能な限り早い時期に法制上の措置を講ずるものとする。
(防諜に関する施策の策定及び実施の適正の確保)
第十九条 政府は、政府による防諜に関する施策が第三条の基本理念にのっとって策定され、及び実施されているかどうか等を独立した公正な立場において検証し、及び監察することのできる新たな機関の設置その他の防諜に関する施策の策定及び実施の適正を確保するために必要な方策について検討を行い、その結果に基づいて可能な限り早い時期に必要な措置を講ずるものとする。
附 則
(施行期日)
1 この法律は、公布の日から施行する。
(国外の情報の収集等において中心的な役割を果たす新たな行政組織の設置に関する検討)
2 政府は、この法律の施行後速やかに、外交、安全保障(経済施策によるものを含む。)、危機管理等に関連する国外の情報の収集及び分析を実施する上で中心的な役割を果たす新たな行政組織を設置することについて検討を行い、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。
理 由
国際情勢の複雑化、情報通信技術等の活用の進展等に伴い、防諜(ちよう)に係る機能の強化が喫緊の課題となっていることに鑑み、我が国及び国民の安全の確保に資するため、防諜に関する施策に関し、基本理念を定め、国及び地方公共団体の責務等を明らかにするとともに、施策の基本となる事項及び集中的に講ずべき施策について定めることにより、防諜に関する施策を総合的に推進する必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。

