刑事訴訟法の一部を改正する法律案
刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)の一部を次のように改正する。
第二十条に次の一号を加える。
八 裁判官が再審又は再審の請求の手続について、当該再審若しくは再審の請求に係る被告事件の裁判又はその裁判の基礎となつた取調べに関与したとき。ただし、受託裁判官として関与した場合は、この限りでない。
第二十六条第一項中「第二十条第七号の規定を除いて、裁判所書記にこれを」を「第二十条(第七号及び第八号に係る部分に限る。)の規定を除き、裁判所書記官に」に改める。
第四百四十四条の次に次の五条を加える。
第四百四十四条の二 再審の請求を受けた裁判所は、再審請求人等(再審の請求をした者又はその弁護人をいう。以下この編において同じ。)の申立てにより又は職権で、再審の請求の手続を行う期日を指定し、又はこれを変更することができる。
前項の期日には、検察官を出席させることができる。
第一項の期日は、これを再審請求人等及び前項の規定により出席させる検察官に通知しなければならない。
第四百四十四条の三 前条第一項の期日においては、裁判長が手続を指揮する。
前条第一項の期日における手続については、裁判所の規則の定めるところにより、調書を作成しなければならない。
第四百四十四条の四 再審の請求を受けた裁判所は、検察官、司法警察職員その他の公務員が保管する当該再審の請求に係る被告事件に関する証拠又は送致書類等目録(事件の送致に関する準則に基づき司法警察職員が職務上作成することを義務付けられている書面であつて、送致された書類及び証拠物に関し、その標目、品名等を記録したものをいう。)(検察官以外の公務員が保管するものにあつては、検察官が入手することができるものに限る。以下この編において「検察官保管証拠等」という。)であつて、当該再審の請求の理由に関連すると認められるものについて、再審請求人等から開示の請求があつた場合においては、次に掲げるときを除き、決定で、検察官に対し、再審請求人等に対する開示を命じなければならない。この場合において、裁判所は、開示の時期若しくは方法を指定し、又は開示の条件を付することができる。
一 再審の請求が不適法であるとき。
二 再審の請求に理由がないことが明らかなとき。
三 再審の請求の理由と開示の請求に係る検察官保管証拠等との関連性の程度その他の開示の必要性の程度並びに開示によつて生じるおそれのある弊害の内容及び程度を考慮して相当でないと認めるとき。
再審請求人等は、前項の開示の請求をするときは、次に掲げる事項を明らかにしなければならない。
一 開示の請求に係る検察官保管証拠等を識別するに足りる事項
二 再審の請求の理由と開示の請求に係る検察官保管証拠等との関連性その他の開示の必要性
第一項の開示は、検察官保管証拠等を閲覧する機会(弁護人に対しては、閲覧し、かつ、謄写する機会)を与える方法によりするものとする。
再審の請求を受けた裁判所は、第一項の開示の請求について決定をするときは、検察官の意見を聴かなければならない。
第一項の開示の請求についてした決定に対しては、即時抗告をすることができる。
第四百四十四条の五 再審の請求を受けた裁判所は、検察官保管証拠等について、再審請求人等に対する開示の必要性の程度並びに開示によつて生じるおそれのある弊害の内容及び程度を考慮して相当と認めるときは、職権で、決定で、検察官に対し、再審請求人等に対する開示を命ずることができる。この場合においては、前条第一項後段の規定を準用する。
前項の開示については前条第三項の規定を、前項の決定については同条第四項及び第五項の規定を準用する。
第四百四十四条の六 再審の請求を受けた裁判所は、第四百四十四条の四第一項又は前条第一項の決定をするに当たり、必要があると認めるときは、検察官に対し、検察官保管証拠等の提示又は検察官保管証拠等であつて裁判所の指定する範囲に属するものの標目を記載した一覧表の提示を命ずることができる。この場合においては、裁判所は、何人にも、当該検察官保管証拠等又は当該一覧表の閲覧又は謄写をさせることができない。
前項の規定は、第四百四十四条の四第五項(前条第二項において準用する場合を含む。)の即時抗告が係属する抗告裁判所について準用する。
第四百五十条の次に次の一条を加える。
第四百五十条の二 第四百二十八条第二項、第四百三十三条第一項及び前条の規定にかかわらず、検察官は、第四百四十八条第一項の決定に対しては、第四百二十八条第二項の異議の申立て、第四百三十三条第一項の抗告及び即時抗告をすることはできない。
附 則
(施行期日)
第一条 この法律は、公布の日から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。
(検討)
第二条 政府は、この法律の施行後三年を目途として、捜査機関が作成した書類及び収集した証拠物の目録の作成及び保存の在り方、再審の請求をしようとする者に対する検察官保管証拠等(この法律による改正後の刑事訴訟法(次条において「新法」という。)第四百四十四条の四第一項に規定する検察官保管証拠等をいう。)の開示の在り方等について検討を加え、その結果に基づいて必要な法制上の措置その他の措置を講ずるものとする。
(経過措置)
第三条 新法の規定は、この法律の施行の際現に係属している再審及び再審の請求の手続についても、適用する。
(関係法律の整備)
第四条 この法律の施行に伴う関係法律の整備については、別に法律で定める。
理 由
再審制度によって冤(えん)罪の被害者を適正かつ迅速に救済し、その基本的人権の保障を全うする観点から、再審又は再審の請求に係る被告事件の裁判に関与した裁判官の除斥及び忌避、再審の請求の手続における検察官保管証拠等の開示命令等について定めるとともに、再審開始の決定に対して検察官の不服申立てを認めないこととする必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。