第一六四回
衆第一六号
がん対策基本法案
目次
第一章 総則(第一条―第五条)
第二章 基本的施策(第六条―第十三条)
第三章 がん対策の推進に関する計画(第十四条)
第四章 がん対策推進本部(第十五条―第二十四条)
附則
第一章 総則
(目的)
第一条 この法律は、がん患者の数が増加しており、国民の疾病による死亡の原因に占めるがんの割合が大きなものとなっている等がんが国民の健康にとって重大な問題となっている現状において、適切ながんに係る医療(以下「がん医療」という。)が提供される体制を整備することが緊要な課題となっていることにかんがみ、がん対策に関し、基本理念及び施策の基本となる事項を定め、国及び地方公共団体の責務を明らかにし、並びにがん対策の推進に関する計画の作成について定めるとともに、がん対策推進本部を設置することにより、がん対策を総合的かつ計画的に推進することを目的とする。
(基本理念)
第二条 がん対策は、次に掲げる事項を基本理念として行われなければならない。
一 がん患者に対し、その病状、治療方法等についての適切な説明がなされることにより、がん患者の理解と自己決定に基づいたがん医療が提供されるようにすること。
二 がん患者に対し、系統的に収集され、整理され、及び評価されたその時点において最新のがん医療に関する情報に基づいた適切ながん医療が提供されるようにすること。
三 外国において、有用であるとの知見が得られたがん医療が、我が国においてできる限り提供されるようにすること。
四 がん患者に対しがん医療を提供するに当たっては、可能な限り、がん患者の苦痛を軽減すること及び身体の機能の低下を防止すること、がん患者及びその家族からの相談に応ずること、がん患者の日常生活への適応を円滑にするためのリハビリテーションを実施すること等により、がん患者及びその家族が日常生活の質をできる限り良好な状態に保つことができるよう配慮がなされること。
五 がんに関する調査研究が促進されることにより、がんの予防、診断及び治療に関する方法の開発等が行われるようにすること。
(国の責務)
第三条 国は、前条の基本理念(次条において「基本理念」という。)にのっとり、積極的にがん対策を推進する責務を有する。
(地方公共団体の責務)
第四条 地方公共団体は、基本理念にのっとり、国と協力しつつ、当該地域の状況に応じたがん対策を推進する責務を有する。
(法制上の措置等)
第五条 政府は、がん対策を実施するため必要な法制上又は財政上の措置その他の措置を講じなければならない。
第二章 基本的施策
(医療機関の整備等)
第六条 国及び都道府県は、がん患者がその居住する地域にかかわらず等しくそのがんの状態に応じた適切ながん医療を受けることができるよう、がん患者に対する専門的ながん医療の提供、医療従事者に対する研修等について各都道府県の中核的な役割を担う医療機関、がん患者に身近な地域においてがん患者に対する専門的ながん医療の提供等を行う医療機関その他のがん患者に対する専門的ながん医療の提供等を行う医療機関の整備を図るために必要な施策を講ずるものとする。
2 国及び地方公共団体は、国立がんセンター、前項の医療機関その他の医療機関ががん患者に対し適切ながん医療を提供することができるよう、これらの医療機関の間における連携協力体制の整備を図るために必要な施策を講ずるものとする。
3 国は、がん患者に対し適切ながん医療が提供されることを確保するため、国立がんセンター及び第一項の医療機関並びにそれらが提供するがん医療に関する客観的な評価が行われるための制度を整備するものとする。
(専門的な知識及び技能を有する医師その他の医療従事者の養成)
第七条 国及び地方公共団体は、がん医療に携わる専門的な知識及び技能を有する医師その他の医療従事者の養成を図るため、大学(大学院を含む。)における医師の養成のための教育課程の編成を見直すこと、医師に対する専門的ながん医療に関する研修の機会を確保すること、がん患者の看護に関する専門的な知識及び技能を有する看護師その他の専門的な知識及び技能を有する医療従事者を養成することその他の必要な施策を講ずるものとする。
2 国及び地方公共団体は、前項の施策を講ずるに当たっては、抗がん剤による治療を専門的に行う医師並びに放射線による治療を専門的に行う医師及び放射線治療の品質管理を専門的に行う者が十分に確保されること等により、がん患者に対しこれらの治療が適切に提供される体制が確保されるよう特に配慮するものとする。
(がん登録の実施)
第八条 国及び都道府県は、がん医療の向上に役立てるため、すべてのがん患者(がん患者であった者を含む。以下この条及び第二十条第二項第三号において同じ。)に係るがんの診断、治療の経過及び結果その他のがん患者に係る事項の登録を行う制度の実施に関し必要な施策を講ずるものとする。
2 前項の施策を講ずるに当たっては、登録された情報がその利用目的の達成に必要な範囲を超えて用いられることがないようにする等がん患者に係る個人情報の保護が図られるようにしなければならない。
(がん情報ネットワークの構築等)
第九条 国及び地方公共団体は、医療機関ががん医療に関する情報を共有し、及びがん患者等に対しがん医療に関し必要な情報を提供することができるよう、がん医療に関するデータベースの整備、医療機関においてがん医療に関する情報を専門的に取り扱うために必要な知識及び技術を有する者の養成その他の医療機関の間におけるがん情報ネットワークの構築を図るために必要な施策を講ずるものとする。
2 国及び地方公共団体は、第六条第一項の医療機関においてがん患者及びその家族からの相談に応ずるための窓口が設置され、当該窓口において前項のがん情報ネットワークを利用して適切な相談が行われるよう必要な施策を講ずるものとする。
(緩和医療の提供の確保等)
第十条 国及び地方公共団体は、がん患者の苦痛の軽減を目的として行われる医療(以下この条及び第十四条第二項第七号において「緩和医療」という。)が適切に行われることによりがん患者及びその家族が日常生活の質をできる限り良好な状態に保つことができるようにすることの重要性にかんがみ、緩和医療に関する知識の普及、緩和医療に関する専門的な知識及び技能を有する医師、看護師その他の緩和医療に従事する医療従事者の養成、医療従事者に対する緩和医療に関する研修の機会の確保その他の医療機関における適切な緩和医療の提供の確保のために必要な施策を講ずるものとする。
2 国及び地方公共団体は、末期のがん患者がその人生の最後まで適切ながん医療を受けることができるよう、専ら末期のがん患者に対し適切に緩和医療を含めたがん医療を提供することができる医療機関の整備及び末期のがん患者が居宅において適切な緩和医療を含めたがん医療を受けることができるようにするための地域における連携協力体制の整備を図ることその他の必要な施策を講ずるものとする。
(調査研究の促進等)
第十一条 国及び都道府県は、がんの本態解明、革新的ながんの予防、診断及び治療に関する方法の開発その他のがんの罹患率及びがんによる死亡率の低下に資する事項についての調査研究が促進され、及びその成果が普及されるよう必要な施策を講ずるものとする。
2 国は、先端的ながんの治療方法に関する調査研究の成果の諸外国への紹介等がん対策に関する国際協力の推進のために必要な施策を講ずるものとする。
(がんの早期発見及び予防)
第十二条 国及び地方公共団体は、がんの早期発見に資するよう、がん検診の有効性を検証すること並びに有効性が認められたがん検診の普及及び受診率の向上を図ること、がん検診に携わる医療従事者に対する研修を実施することその他のがん検診の充実のために必要な施策を講ずるものとする。
2 国及び地方公共団体は、がんの罹患率の低下に資するよう、がんの予防に関する知識の普及、がんの予防法の確立、たばこに係る税の税率の引上げ等により喫煙者数の減少を図ることその他のがんの予防を推進するために必要な施策を講ずるものとする。
(抗がん剤等の治験等の促進)
第十三条 国は、外国において有用であるとの知見が得られた抗がん剤等であって我が国において使用された場合には健康保険法(大正十一年法律第七十号)第六十三条第一項の療養の給付又は同法第八十六条第一項の特定療養費の支給その他これらに準ずる医療に関する給付の対象とならないものの使用に係るがん患者の経済的負担が過大となっていることにかんがみ、これらの抗がん剤等の治験の促進等これらの抗がん剤等が使用されたときに同項の特定療養費の支給その他これに準ずる医療に関する給付がされるようにするために必要な施策を講ずるとともに、有効性、安全性等に関する事項の審査が迅速に行われるよう必要な施策を講ずるものとする。
第三章 がん対策の推進に関する計画
第十四条 がん対策推進本部は、この章の定めるところにより、がん対策の推進に関する計画(以下「推進計画」という。)を作成しなければならない。
2 推進計画は、次に掲げる事項について定めるものとする。
一 がん対策を推進するために政府が総合的かつ計画的に実施すべき施策に関する基本的な方針
二 がん医療を提供する医療機関の整備の推進に関し政府が総合的かつ計画的に講ずべき施策
三 がん医療を提供する医療機関及びそれが提供するがん医療に関する客観的な評価の実施に関し政府が総合的かつ計画的に講ずべき施策
四 がん医療に携わる専門的な知識及び技能を有する医師その他の医療従事者の養成に関し政府が総合的かつ計画的に講ずべき施策
五 がん登録の実施に関し政府が総合的かつ計画的に講ずべき施策
六 がん情報ネットワークの構築に関し政府が総合的かつ計画的に講ずべき施策
七 がん患者に対する適切な緩和医療の提供の確保に関し政府が総合的かつ計画的に講ずべき施策
八 がん患者及びその家族が日常生活の質をできる限り良好な状態に保つことができるようにすることに関し政府が総合的かつ計画的に講ずべき施策
九 がんに関する調査研究の促進に関し政府が総合的かつ計画的に講ずべき施策
十 がん検診の充実に関し政府が総合的かつ計画的に講ずべき施策
十一 前各号に定めるもののほか、がん対策を政府が総合的かつ計画的に推進するために必要な事項
3 推進計画に定める施策については、原則として、当該施策の具体的な目標及びその達成の時期を定めるものとする。
4 がん対策推進本部は、第一項の規定により推進計画を作成したときは、遅滞なく、これをインターネットの利用その他適切な方法により公表しなければならない。
5 がん対策推進本部は、適時に、第三項の規定により定める目標の達成状況を調査し、その結果をインターネットの利用その他適切な方法により公表しなければならない。
6 がん対策推進本部は、がん医療に関する状況の変化を勘案し、及びがん対策の効果に関する評価を踏まえ、少なくとも三年ごとに、推進計画に検討を加え、必要があると認めるときには、これを変更しなければならない。
7 第四項の規定は、推進計画の変更について準用する。
第四章 がん対策推進本部
(設置)
第十五条 がん対策を総合的かつ計画的に推進するため、内閣に、がん対策推進本部(以下「本部」という。)を置く。
(所掌事務)
第十六条 本部は、次に掲げる事務をつかさどる。
一 推進計画を作成し、及びその実施を推進すること。
二 前号に掲げるもののほか、がん対策に係る施策で重要なものの企画に関する調査審議、その施策の実施の推進及び総合調整に関すること。
(組織)
第十七条 本部は、がん対策推進本部長、がん対策推進副本部長及びがん対策推進本部員をもって組織する。
(がん対策推進本部長)
第十八条 本部の長は、がん対策推進本部長(以下「本部長」という。)とし、内閣総理大臣をもって充てる。
2 本部長は、本部の事務を総括し、所部の職員を指揮監督する。
(がん対策推進副本部長)
第十九条 本部に、がん対策推進副本部長(以下「副本部長」という。)を置き、国務大臣をもって充てる。
2 副本部長は、本部長の職務を助ける。
(がん対策推進本部員)
第二十条 本部に、がん対策推進本部員(以下「本部員」という。)を置く。
2 本部員は、次に掲げる者をもって充てる。
一 本部長及び副本部長以外のすべての国務大臣
二 がん医療に関し優れた識見を有する者のうちから、内閣総理大臣が任命する者
三 がん患者及びその家族又は遺族を代表する者のうちから、内閣総理大臣が任命する者
(資料の提出その他の協力)
第二十一条 本部は、その所掌事務を遂行するため必要があると認めるときは、関係行政機関、地方公共団体、独立行政法人(独立行政法人通則法(平成十一年法律第百三号)第二条第一項に規定する独立行政法人をいう。)及び地方独立行政法人(地方独立行政法人法(平成十五年法律第百十八号)第二条第一項に規定する地方独立行政法人をいう。)の長並びに特殊法人(法律により直接に設立された法人又は特別の法律により特別の設立行為をもって設立された法人であって、総務省設置法(平成十一年法律第九十一号)第四条第十五号の規定の適用を受けるものをいう。)の代表者に対して、資料の提出、意見の表明、説明その他必要な協力を求めることができる。
2 本部は、その所掌事務を遂行するため特に必要があると認めるときは、前項に規定する者以外の者に対しても、必要な協力を依頼することができる。
(事務)
第二十二条 本部に関する事務は、内閣官房において処理し、命を受けて内閣官房副長官補が掌理する。
(主任の大臣)
第二十三条 本部に係る事項については、内閣法(昭和二十二年法律第五号)にいう主任の大臣は、内閣総理大臣とする。
(政令への委任)
第二十四条 この法律に定めるもののほか、本部に関し必要な事項は、政令で定める。
附 則
この法律は、公布の日から起算して三月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。
理 由
がんが国民の健康にとって重大な問題となっている現状において、適切ながん医療が提供される体制を整備することが緊要な課題となっていることにかんがみ、がん対策を総合的かつ計画的に推進するため、がん対策に関し、基本理念及び施策の基本となる事項を定め、国及び地方公共団体の責務を明らかにし、並びにがん対策の推進に関する計画の作成について定めるとともに、がん対策推進本部を設置する必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。