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第一六四回

衆第一七号

   小児医療提供体制の確保等のために緊急に講ずべき施策の推進に関する法律案

 (目的)

第一条 この法律は、我が国における急速な少子化の進展及び小児医療を取り巻く状況の変化等により国民が必要とする小児医療の提供の確保が困難となっている現状において、次代の社会を担う子どもの命を守る役割を担う小児医療の充実が喫緊の課題となっていることにかんがみ、小児医療提供体制の確保等に関し基本理念及び国等の責務を明らかにするとともに、小児医療提供体制の確保に関する基本方針及び医療計画の策定並びにその実施に必要な国の財政上の措置等について定めることにより、良質かつ適切な小児医療を効率的に提供する体制の確保等を図り、もって国民の健康の保持に寄与することを目的とする。

 (基本理念)

第二条 良質かつ適切な小児医療を効率的に提供する体制の確保(以下「小児医療提供体制の確保」という。)は、地域の実情に配慮しつつ、小児医療を担う医療従事者及び施設を効率的に配置しその重点化を推進することにより小児医療提供施設(小児に係る医療提供施設(医療法(昭和二十三年法律第二百五号)第一条の二第二項に規定する医療提供施設をいう。)をいう。以下同じ。)の相互間の機能の分担及び業務の連携を図るとともに、小児医療に関し、救急医療が必要なときはいつでも安心してその提供を受けることができること及びそのために必要な情報が提供されることを旨として行われなければならない。

2 小児医療提供体制の確保は、国と地方公共団体が連携して取り組むとともに、国による財政上の支援その他の必要な支援の下に行われなければならない。

3 小児医療提供体制の確保は、地域の実情に配慮するとともに、小児医療提供施設、医療従事者の養成に関係する機関及び医療従事者等の理解と協力を得つつ、その連携が図られることを旨として行われなければならない。

4 小児医療提供体制の確保は、小児医療を担う医療従事者の確保及び配置並びに労働時間の管理等が適切に行われることにより小児医療に係る事故の発生の防止が図られることを旨として行われなければならない。

 (国の責務)

第三条 国は、前条に定める基本理念(以下「基本理念」という。)にのっとり、地方公共団体の自主性を尊重しつつ、小児医療提供体制の確保等に関する施策を総合的に策定し、及び実施する責務を有する。

 (地方公共団体の責務)

第四条 地方公共団体は、基本理念にのっとり、地域の実情に配慮しつつ、小児医療提供体制の確保に関する施策を策定し、及び実施する責務を有する。

 (小児医療提供施設の開設者及び管理者の責務)

第五条 小児医療提供施設の開設者及び管理者は、第九条第二項に規定する小児医療計画の達成の推進に資するため、小児医療連携体制(小児医療提供施設の相互間の機能の分担及び業務の連携を確保するための体制をいう。以下同じ。)の確保のために必要な協力をするよう努めるものとする。

 (医療従事者の責務)

第六条 医師、歯科医師その他の医療従事者は、第九条第二項に規定する小児医療計画に基づく施策の実施に協力するよう努めなければならない。

 (財政上の措置等)

第七条 政府は、小児医療提供体制の確保等に関する施策を実施するため必要な財政上の措置その他の措置を講じなければならない。

 (小児医療提供体制の確保に関する基本方針)

第八条 厚生労働大臣は、小児医療提供体制の確保を図るための基本的な方針(以下「基本方針」という。)を定めるものとする。

2 基本方針においては、次に掲げる事項について定めるものとする。

 一 小児医療提供体制の確保のため講じようとする施策の基本となるべき事項

 二 小児医療提供施設の相互間の機能の分担及び業務の連携の推進に関する基本的な事項

 三 小児医療を受ける者及びその家族等に対する小児医療提供施設の機能(以下「医療機能」という。)に関する情報の提供の推進に関する基本的な事項

 四 小児医療を担う医師、歯科医師その他の医療従事者の確保に関する基本的な事項

 五 その他小児医療提供体制の確保に関する重要事項

3 厚生労働大臣は、基本方針を定め、又はこれを変更したときは、遅滞なく、これを公表するものとする。

 (小児医療提供体制の確保に関し医療計画において定める事項)

第九条 都道府県は、基本方針に即して、かつ、地域の実情に応じて、医療計画(医療法第三十条の三第一項に規定する医療計画をいう。以下同じ。)において、小児医療提供体制の確保に関し、次の事項を定めるものとする。 

 一 中核小児科センター(三次医療圏(医療法第三十条の三第二項第二号に規定する区域をいう。)において主として高度な小児医療を提供する病院(同法第一条の五第一項に規定する病院をいう。以下同じ。)をいう。以下同じ。)の整備に関する事項

 二 地域小児科センター(二次医療圏(医療法第三十条の三第二項第一号に規定する区域をいう。)において主として入院治療を必要とする小児医療を提供する病院をいう。以下同じ。)の整備に関する事項

 三 前二号に掲げる施設以外の小児医療提供施設の整備に関する事項

 四 良質かつ適切な小児救急医療を効率的に提供する体制の確保(以下「小児救急医療提供体制の確保」という。)に関する次の事項

  イ 中核小児科センターにおける小児三次救急医療(地域小児科センターでは対応することが困難な特に重症の小児救急患者に対して提供される高度な医療をいう。)の提供の確保に関する事項

  ロ 地域小児科センターにおける小児二次救急医療(入院治療を必要とする重症の小児救急患者に対して提供される医療をいう。)の提供の確保に関する事項

  ハ 中核小児科センター又は地域小児科センターに近接して設置される施設における中核小児科センター又は地域小児科センター以外の小児医療提供施設の医師の協力等による小児一次救急医療(外来の小児救急患者に対して提供される医療をいう。以下同じ。)の提供の確保に関する事項

  ニ イからハまでに掲げるもののほか、小児救急医療提供体制の確保に関し必要な事項

 五 小児医療提供体制の確保に係る小児医療連携体制に関する事項

 六 小児医療連携体制における医療機能に関する情報の提供の推進に関する事項

 七 小児医療を担う医師、歯科医師その他の医療従事者の確保に関する事項

 八 前各号に掲げるもののほか、小児医療提供体制の確保に関し必要な事項

2 都道府県は、前項の小児医療提供体制の確保に関する事項を定める医療計画(以下「小児医療計画」という。)を作成するに当たっては、小児医療提供施設の管理者その他の関係者の意見を聴くものとする。

 (小児医療提供体制に関する施策)

第十条 国及び地方公共団体は、中核小児科センター、地域小児科センター及びこれらに近接して設置される小児一次救急医療を提供する施設において、小児医療に関し、救急医療が必要なときはいつでも安心してその提供を受けることができる体制を確保するために必要な措置を講ずるものとする。

2 国及び地方公共団体は、小児医療を受ける者及びその家族等の不安を軽減し、又は小児科を有する病院への小児医療を受ける者の過度の集中を防止して適切な小児医療の提供に資するため、小児救急医療に関する電話等による相談体制の整備その他の正確かつ適切な情報の提供体制を確保するために必要な措置を講ずるものとする。

3 国及び地方公共団体は、小児救急医療の充実を図るため、小児医療提供施設への輸送等の小児医療連携体制(救急医療用の機器を装備したヘリコプター等により小児救急患者を輸送し、かつ、その輸送中に医療を行う体制を含む。)の確保、当該輸送に当たる救急隊員に対する研修その他の必要な措置を講ずるものとする。

4 国及び地方公共団体は、小児医療を担う医療従事者及び施設を効率的に配置しその重点化を推進することにより地域的に適切な小児医療の提供の確保について小児医療を受ける者及びその家族等に不安が生じ若しくは生ずるおそれがある場合又は過疎地域等において適切な小児医療の提供の確保に支障が生じ若しくは生ずるおそれがある場合には、その地域の実情に応じた小児医療連携体制の確保その他のその地域において適切な小児医療の提供を確保するために必要な措置を講ずるものとする。

 (小児医療提供施設に対する助成等)

第十一条 国は、小児救急医療を提供する施設その他の小児医療計画において小児医療に関し社会的役割を担うこととされている小児医療提供施設に対し、その経営基盤を安定させるために必要な助成措置を講ずるものとする。

2 前項に規定するもののほか、国は、小児医療計画の達成を推進するため、都道府県に対し、当該小児医療計画に基づく事業に要する費用について、必要な助成措置を講ずるものとする。

3 国は、中核小児科センター又は地域小児科センターに近接して設置される施設における小児一次救急医療の提供に協力する診療所(医療法第一条の五第二項に規定する診療所をいう。)等に対し、当該協力が円滑に行われるよう必要な支援を行うものとする。

 (小児救急医療を担う医師の過労等による医療事故の発生の防止)

第十二条 小児救急医療を提供する施設の管理者は、小児救急医療を担う医師の勤務の実態にかんがみ、当該医師の過労等による小児医療に係る事故の発生の防止に資するため、適切な労働時間の設定、交替制による勤務とすること等の必要な措置を講じなければならない。

 (小児医療を担う人材の養成及び確保)

第十三条 国は、小児救急医療に係る診療において頻繁に関わる負傷又は疾病に適切に対応できるような基本的な診療能力を有する医師を養成するため、臨床研修の充実等の施策を講ずるものとする。

2 国は、小児科を専門とする医師以外の医師も小児一次救急医療の提供を行うことができるよう、小児科を専門とする医師以外の医師に対する研修等の施策を講ずるものとする。

3 国は、小児医療を担う医師の確保に資するため、医業を行っていない医師の医業への復帰を促進するために必要な施策を講ずるものとする。

4 国は、小児医療の充実を図るため、小児救急医療に係る看護に関する専門的な知識及び技能を有する看護師その他の医療従事者の養成及び資質の向上並びにその活用のために必要な施策を講ずるものとする。

 (小児医療に係る健康保険等の診療報酬の見直し)

第十四条 政府は、小児医療が夜間又は休日における診療の必要性が高いこと、他の医療と比べ多くの時間と労力を必要とすること等の特殊性を有すること及び小児医療の提供の確保が必要であることを踏まえ、小児医療に係る健康保険等の診療報酬に関し、適正な評価がなされるよう必要な見直しを行うものとする。

2 政府は、小児医療に係る健康保険等の診療報酬に関し、小児に対する診療上必要とされる育児又は健康に関する指導その他の小児医療と密接な関係を有する育児又は健康に関する指導が適切に反映されるよう必要な見直しを行うものとする。

   附 則

 (施行期日)

第一条 この法律は、平成十九年四月一日から施行する。ただし、次条及び附則第三条の規定は、公布の日から施行する。

 (平成二十年度以降における小児に係る医療費の負担の軽減等)

第二条 政府は、義務教育就学前の小児に係る医療費については、平成二十年度以降健康保険法(大正十一年法律第七十号)等の医療保険各法における被保険者等の負担をなくするために必要な措置を講ずるものとする。

2 政府は、義務教育就学後義務教育終了前の小児に係る医療費については、平成二十年度以降健康保険法等の医療保険各法における被保険者等の負担割合を一割とするために必要な措置を講ずるものとする。

 (検討)

第三条 政府は、この法律の施行後五年を目途として、この法律の施行の状況等を勘案し、子どもの医療、保健及び福祉に関する施策がその出生から思春期まで一貫した視点の下で総合的に策定されるような法制の整備を含め、ワークライフバランス(適切な仕事と生活の調和をいう。)の改善が可能となるような雇用環境の整備等による小児医療を担う医師の確保その他の小児医療提供体制の在り方等について検討を行い、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。


     理 由

 我が国における急速な少子化の進展及び小児医療を取り巻く状況の変化等により国民が必要とする小児医療の提供の確保が困難となっている現状において、次代の社会を担う子どもの命を守る役割を担う小児医療の充実が喫緊の課題となっていることにかんがみ、良質かつ適切な小児医療を効率的に提供する体制の確保等を図るため、小児医療提供体制の確保に関する基本方針及び医療計画の策定並びにその実施に必要な国の財政上の措置等について定める必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。

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