衆議院

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第一六六回

衆第一三号

   雇用基本法案

目次

 第一章 総則(第一条−第六条)

 第二章 雇用基本計画(第七条・第八条)

 第三章 基本的施策(第九条−第二十条)

 附則

   第一章 総則

 (目的)

第一条 この法律は、雇用に関する施策について、基本理念を定め、並びに国、地方公共団体及び事業主の責務を明らかにするとともに、雇用に関する施策の基本となる事項を定めることにより、雇用に関する施策を総合的かつ計画的に推進し、もってすべての労働者が、生涯にわたって、生きがいを持って働き、豊かで安心して暮らすことのできる社会の実現に寄与することを目的とする。

 (施策の基本理念)

第二条 雇用に関する施策は、すべての労働者が、公正な労働条件の下、人としての尊厳を重んじられ、安心して働くことができる環境を整備することを旨として講ぜられなければならない。

2 雇用に関する施策は、すべての労働者が、適切な職業能力の開発等の機会を与えられ、その有する能力を有効に発揮し、充実した職業生活を送ることができるようにすることを旨として講ぜられなければならない。

3 雇用に関する施策は、長期の安定した雇用を基本として、労働者が安心して働き、その有する能力を有効に発揮することができるようにするとともに、労働者が人生の各段階において、その働き方を多様な就労形態の中から主体的に選択することができるようにすることを旨として講ぜられなければならない。

4 雇用に関する施策を講ずるに当たっては、労働者の職業選択の自由を尊重しなければならず、また、事業主の雇用の管理についての自主性を尊重するよう配慮しなければならない。

 (国の責務)

第三条 国は、前条の施策の基本理念(次条において「基本理念」という。)にのっとり、雇用に関する施策を総合的に策定し、及び実施する責務を有する。

 (地方公共団体の責務)

第四条 地方公共団体は、基本理念にのっとり、雇用に関する施策に関し、国と協力しつつ、当該地域の実情に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する。

 (事業主の責務)

第五条 事業主は、労働者が安心して働き、その有する能力を有効に発揮することができるよう、国又は地方公共団体が実施する雇用に関する施策に協力するとともに、必要な雇用環境の整備に努めるものとする。

 (法制上の措置等)

第六条 政府は、雇用に関する施策を実施するため、必要な法制上又は財政上の措置その他の措置を講じなければならない。

   第二章 雇用基本計画

 (雇用基本計画の策定等)

第七条 政府は、雇用に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、雇用基本計画(以下「基本計画」という。)を策定しなければならない。

2 基本計画に定める事項は、次のとおりとする。

 一 雇用に関する施策についての基本的な方針

 二 雇用の動向に関する事項

 三 雇用に関し、政府が総合的かつ計画的に講ずべき施策

 四 前三号に掲げるもののほか、雇用に関する施策を総合的かつ計画的に推進するために必要な事項

3 厚生労働大臣は、基本計画の案を作成して閣議の決定を求めなければならない。

4 厚生労働大臣は、基本計画の案を作成する場合には、あらかじめ、関係行政機関の長と協議し、及び都道府県知事の意見を求めるとともに、その概要について労働政策審議会の意見を聴かなければならない。

5 厚生労働大臣は、第三項の規定による閣議の決定があったときは、遅滞なく、基本計画の概要を公表しなければならない。

6 前三項の規定は、基本計画の変更について準用する。

 (関係機関への要請)

第八条 厚生労働大臣は、必要があると認めるときは、関係行政機関の長に対して、基本計画の策定のための資料の提出又は基本計画において定められた施策であって当該行政機関の所管に係るものの実施について、必要な要請をすることができる。

   第三章 基本的施策

 (若年者への就業支援)

第九条 国は、若年者の職業の安定を図るため、若年者が契約の期間を定めないで雇用されることを推進することその他の若年者の雇用形態及び就業形態の改善を促進するために必要な施策を講ずるものとする。

2 国は、若年者の職業人となろうとする意識を高めるため、学校、産業界、地域社会、民間団体等が連携して職業教育、職業訓練、就業の相談等を行う体制を整備するために必要な施策を講ずるものとする。

3 国は、若年者について、どのような職業に就くためにも必要とされる基礎的能力を含めた職業能力の開発及び向上が図られるようにするため、各人の希望する職業に必要な技能及び知識に関し、若年者からの相談に応じ、必要な情報の提供、指導及び助言又は職業訓練を行うために必要な施策を講ずるものとする。

4 国は、若年者の有する能力が正当に評価され、その評価が就職活動において適切に利用されることにより若年者の就業が促進されるよう、実践的な職業能力の評価のために必要な施策を講ずるものとする。

 (女性への就業支援)

第十条 国は、雇用の分野における男女の平等な機会及び待遇の確保を図るために必要な施策を充実するものとする。

2 国は、女性の職業の安定を図るため、妊娠、出産、育児又は介護を理由として休業又は退職した女性の雇用の継続又は円滑な再就職の促進、母子家庭の母及び寡婦の雇用の促進その他の女性の就業を促進するために必要な施策を講ずるものとする。

 (高年齢者等への就業支援)

第十一条 国は、高年齢者の職業の安定を図るため、定年の引上げ、継続雇用制度の導入等の円滑な実施の促進、再就職の促進、多様な就業機会の確保その他の高年齢者がその年齢にかかわりなくその意欲及び能力に応じて就業できるようにするために必要な施策を講ずるものとする。

2 国は、中年齢労働者(四十五歳以上五十五歳未満の労働者をいう。以下同じ。)が高齢期における職業生活の充実を図ることができるようにするため、中年齢労働者の高齢期における職業生活の設計についての相談に応じ、必要な情報の提供、助言その他の必要な施策を講ずるものとする。

3 国は、定年退職者その他の高年齢退職者がその居住する地域において就業することを促進するため、当該地域の産業におけるこれらの者の能力の積極的な活用を図ることに資する活動に対する支援その他の必要な施策を講ずるものとする。

4 国は、高年齢者の有する熟練した技能及びこれに関する知識を継承させるための定年の引上げ、継続雇用制度の導入等の取組を充実させることが高年齢者の職業の安定に資するものであることにかんがみ、中小企業における技能の円滑な継承を促進するために必要な施策を講ずるものとする。

 (障害者への就労支援)

第十二条 国は、障害者の職業の安定を図るため、雇用の促進、職業リハビリテーションの推進その他の障害者がその職業生活において自立することを促進するために必要な施策を講ずるものとする。

 (被生活保護者等への就業支援)

第十三条 国は、生活保護を受けている者等の自立を支援するため、民間団体との緊密な連携の下、これらの者の個々の事情に対応した、その意欲及び能力に応じた就業の機会の確保、就業の相談及びあっせんその他の必要な施策を講ずるものとする。

 (地域雇用開発の促進)

第十四条 国は、地域的な雇用構造の改善を図るため、雇用機会が不足している地域の自立的発展に必要な人材の育成及び確保、当該地域の特性に応じた自発的な雇用機会の創出の支援その他の当該地域における労働者の雇用を促進するために必要な施策を講ずるものとする。

 (職業能力開発の促進)

第十五条 国は、労働者がその長期にわたる職業生活においてその有する能力を有効に発揮することができるよう、技術の進歩、産業構造の変動等に即応した多様な職業訓練の充実等に関し必要な施策を講ずるものとする。

2 国は、労働者が自ら職業能力の開発及び向上を図ることができるようにするため、労働者の相談に応じ、必要な情報の提供、助言その他の業務を行うカウンセラーの養成等に関し必要な施策を講ずるものとする。

 (外国人の労働に関する環境の整備)

第十六条 国は、我が国産業の国際競争力の強化等による経済社会の活力の向上を図るため、高度の専門的な知識又は技術を有する外国人労働者の受入れの促進、専門的な知識又は技術を有する外国人留学生の我が国における就職に関する支援の拡充その他の必要な施策を講ずるものとする。

2 国は、外国人労働者の労働条件の改善、労働に関する法令を遵守させるための外国人労働者を雇用する事業所に対する監督の強化その他の外国人労働者の労働環境の整備に必要な施策を講ずるものとする。

3 国は、外国人労働者が我が国において安心して働くことができるよう、外国人労働者の子に対する教育の充実を図るとともに、外国人労働者が日常生活又は社会生活を円滑に営むことができるようにするための必要な情報の提供、助言等の充実に関し必要な施策を講ずるものとする。

4 国は、研修及び技能実習のための外国人の受入れに関し、その趣旨に照らして、その運用の改善、違法行為に対する監督の強化等必要な施策を講ずるものとする。

 (公正な働き方の確保)

第十七条 国は、同一の価値の労働には同一の待遇を確保すべきとの観点から、労働者の雇用形態にかかわらず、その均等な待遇を確保するために必要な施策を講ずるものとする。

2 国は、契約の期間を定めて雇用される者の多くが不安定な雇用状態にあることにかんがみ、当該契約の期間を定めて雇用される者の雇用の安定を図るために必要な施策を講ずるものとする。

3 国は、年金制度、医療保険制度及び雇用保険制度について、労働者の雇用形態の選択に中立的なものとする観点から、制度の見直しその他必要な施策を講ずるものとする。

4 国は、一般労働者派遣事業(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律(昭和六十年法律第八十八号)第二条第四号に規定する一般労働者派遣事業をいう。以下この項において同じ。)について、一般労働者派遣事業に係る派遣労働者の不安定な雇用状態を踏まえ、その見直しを行うものとする。

 (安全と健康の確保)

第十八条 国は、職場における労働者の安全と健康を確保するため労働災害の防止に関する施策を充実するとともに、快適な職場環境の形成を促進するための施策を充実するものとする。

2 国は、労働者がその健康を保持することができるよう、長時間労働の是正、年次有給休暇の取得の促進その他必要な施策を講ずるものとする。

 (ワークライフバランスの確保)

第十九条 国は、すべての労働者がそのワークライフバランス(仕事と育児、介護等の家庭生活、修学、社会的活動への参加等の社会生活その他の生活の適切な調和をいう。)を保つことができるよう、労働条件の改善、就業環境の整備等に関し必要な施策を講ずるものとする。

2 国は、前項の施策を講ずるに当たっては、労働者が人生の各段階において多様な就労形態を主体的に選択することができるようにするため、労働者の事情に応じた勤務時間の短縮に関する制度の導入その他就労形態の多様化を促進するよう配慮するものとする。

 (雇用機会の確保)

第二十条 国は、労働者がその有する能力を有効に発揮し、豊かで安心して働くことができるよう、安定した雇用が確保される求人の開拓、雇用情報の収集及び提供等に関し必要な施策を講ずるものとする。

2 国は、離職を余儀なくされる労働者の円滑な再就職を促進するために必要な施策を講ずるものとする。

3 国は、労働者の就労場所の多様化を促進することが新たな就労の機会の創出に資することにかんがみ、情報通信ネットワークを利用した在宅勤務の充実その他就労形態の多様化等のために必要な施策を講ずるものとする。

   附 則

 (施行期日)

第一条 この法律は、公布の日から施行する。

 (雇用対策法の一部改正)

第二条 雇用対策法(昭和四十一年法律第百三十二号)の一部を次のように改正する。

  目次中「第二章 雇用対策基本計画(第八条・第九条)」を「第二章 削除」に、「第四章 技能労働者の養成確保等(第十六条・第十七条)」を「第四章 削除」に改める。

  第一条第一項中「国が、雇用に関し、その政策全般にわたり、必要な施策を総合的に」を「求職者及び求人者に対する指導、求職者等に対する職業転換給付金の支給並びに離職を余儀なくされる労働者の再就職の援助を促進するための措置等を」に改め、同条第二項を削る。

  第三条から第五条までを次のように改める。

 第三条から第五条まで 削除

  第二章を次のように改める。

    第二章 削除

 第八条及び第九条 削除

  第四章を次のように改める。

    第四章 削除

 第十六条及び第十七条 削除

 (厚生労働省設置法の一部改正)

第三条 厚生労働省設置法(平成十一年法律第九十七号)の一部を次のように改正する。

  第四条第一項第四十号の次に次の一号を加える。

  四十の二 雇用基本法(平成十九年法律第▼▼▼号)第七条第一項に規定する雇用基本計画の策定及び推進に関すること。

  第四条第一項第五十二号を次のように改める。

  五十二 削除

  第四条第一項第六十二号中「第五十二号」を「第五十三号」に改める。

  第九条第一項第四号中「労働基準法」を「雇用基本法、労働基準法」に改める。


     理 由

 すべての労働者が、生涯にわたって、生きがいを持って働き、豊かで安心して暮らすことのできる社会の実現に寄与するため、雇用に関する施策について、基本理念を定め、並びに国、地方公共団体及び事業者の責務を明らかにするとともに、雇用に関する施策の基本となる事項を定めることにより、雇用に関する施策を総合的かつ計画的に推進する必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。

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