衆議院

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第一七一回

衆第二号

   農林漁業及び農山漁村の再生のための改革に関する法律案

目次

 第一章 総則(第一条−第五条)

 第二章 食の安全保障のための改革に関する方針

  第一節 食料自給率の向上等(第六条−第八条)

  第二節 食品の安全性及び消費者の安心の確保(第九条−第十四条)

 第三章 農業の活性化のための改革に関する方針

  第一節 所得補償制度の導入等による農業経営の安定化等(第十五条−第二十条)

  第二節 農地制度の改革及び農業への参入促進(第二十一条−第二十五条)

 第四章 森林の整備及び保全並びに林業の活性化のための改革に関する方針(第二十六条−第三十二条)

 第五章 漁業の活性化のための改革に関する方針(第三十三条−第三十九条)

 第六章 六次産業化の促進等のための改革に関する方針(第四十条−第四十三条)

 附則

   第一章 総則

 (目的)

第一条 この法律は、世界的な食料の供給の不足が将来に向けて更に深刻化することが予想され、また、食品の安全性に対する国民の関心が高まる中で、食料の相当部分を輸入に依存している我が国において、国民が生きていく上で必須の衣食住を賄うとともに、国土や自然環境の保全、水源のかん養、災害の防止、文化の伝承等の多面的な機能を発揮している農林漁業及びその持続的な発展の基盤たる役割を果たしている農山漁村が、人口の減少、高齢化の進展、石油や飼料用の穀物の価格の上昇等により危機的な状況にあることにかんがみ、農林漁業及び農山漁村の再生のための改革について、その基本理念及び方針、国及び地方公共団体の責務その他の基本となる事項を定めることにより、農林漁業及び農山漁村の再生のための改革を総合的に推進し、もって国民生活の安定向上及び国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。

 (基本理念)

第二条 農林漁業及び農山漁村の再生のための改革は、農林漁業が人間の生活の維持のために不可欠な衣食住、エネルギー等のすべてを賄うことができる唯一の産業であるとともに、農山漁村が、農林漁業の基盤となるだけでなく、農山漁村における様々な活動を通じて豊かな人間性や創造性を養う場となることにかんがみ、農林漁業及び農山漁村が持続的に発展することにより、将来にわたる豊かな国民生活の基盤の確立に寄与することを旨として行われなければならない。

2 農林漁業及び農山漁村の再生のための改革は、国民に対し食料の安定的な供給を行うことができるよう、主要な農畜産物については、目標を定めてその生産の確保を図るとともに、水産物については、適切な資源管理を行うことによりその生産の確保を図ることを旨として行われなければならない。

3 農林漁業及び農山漁村の再生のための改革は、農林水産物の生産及び流通に関する体制を見直すとともに、農林水産物の生産から食品の販売に至る一連の食品供給の行程(以下「食品供給行程」という。)の各段階において適切な措置を講ずることにより、消費者の求める食品の品質の向上並びに食品の安全性及び食品に対する消費者の安心の確保を図り、食料自給率の向上に資することを旨として行われなければならない。

4 農林漁業及び農山漁村の再生のための改革は、農林漁業及び農山漁村の有する農林水産物の供給の機能以外の多面的な機能が将来にわたって適切かつ十分に発揮されることを旨として行われなければならない。

5 農林漁業及び農山漁村の再生のための改革は、農林漁業が多面的な機能を有する国の根幹的な産業であるにもかかわらず、天候その他の自然的条件によって大きな影響を受けること、国内の他の産業と比較して生産性が低いこと等にかんがみ、国が必要な関与を行うことにより農林水産物の生産の確保が図られることを旨として行われなければならない。

6 農林漁業及び農山漁村の再生のための改革は、農山漁村において、その地域の特性を生かして、農林水産物を生産することと併せて、それらを素材として加工することにより付加価値を創出し、さらに、それを流通させ、又は販売するなど、地域社会全体における第一次産業としての農林漁業並びにこれに関連する第二次産業及び第三次産業に係る事業の有機的な連携により総合的かつ一体的な産業化が図られること(以下「六次産業化」という。)を促進すること等により、農山漁村の活性化を図り、自立した経済社会生活圏の形成に寄与することを旨として行われなければならない。

7 農林漁業及び農山漁村の再生のための改革は、地域の地理的及び自然的特性を生かした農林漁業の展開を基本とするとともに、我が国の農林漁業が家族経営、法人による経営等の経営形態が異なる生産者や様々な経営規模の生産者など多様な生産者により、及びその連携の下に担われていること等を踏まえ、農林漁業の経営形態、経営規模等についての生産者の主体的な判断に基づく様々な農林漁業に関する取組を支援することを旨として行われなければならない。

8 農林漁業及び農山漁村の再生のための改革は、改革の実現のために必要な措置について広く国民の理解が得られるようにするとともに、適切な情報の公開によりその透明性及び公正性が確保されることを旨として行われなければならない。

 (国及び地方公共団体の責務)

第三条 国は、前条の基本理念(以下「基本理念」という。)にのっとり、農林漁業及び農山漁村の再生のための改革に関する施策を総合的に策定するとともに、生産者その他の関係者の協力を得つつ、その施策を実施する責務を有する。

2 地方公共団体は、基本理念にのっとり、国との連携の下に、農林漁業及び農山漁村の再生のための改革に関し、その地域の特性に応じた施策を策定するとともに、生産者その他の関係者の協力を得つつ、その施策を実施する責務を有する。

 (法制上の措置等)

第四条 政府は、農林漁業及び農山漁村の再生のための改革に関する施策を実施するため必要な法制上、財政上、税制上又は金融上の措置その他の措置を講じなければならない。

 (改革の実施及び目標時期)

第五条 農林漁業及び農山漁村の再生のための改革は、基本理念にのっとり、次章から第六章までに定める改革に関する方針に基づき行われるものとし、そのために必要な措置は、この法律の施行後四年を目途として段階的に講ぜられるものとする。

   第二章 食の安全保障のための改革に関する方針

    第一節 食料自給率の向上等

 (食料自給率の目標)

第六条 国は、世界的な食料の供給不足等の状況にかんがみ、国民に対する食料の安定的な供給の確保を図るため、食料自給率の向上を図るものとし、その目標は、食料として供給される熱量を基準として算定される比率で、この法律の施行の日の属する年度から十年度を経過した年度においては五十パーセントに達するようにするとともに、更に十年度を経過した年度においては六十パーセントに達するようにするものとする。

 (食料自給率の目標達成のための取組の推進等)

第七条 国は、前条の食料自給率の目標を達成するには農業経営等の安定が不可欠なものであることにかんがみ、農産物等の生産者の所得を補償するための制度等を導入するとともに、輸入された農産物等との競争力を確保するため、農業生産等の効率化を図るための技術開発等を推進するものとする。

2 国は、食料自給率の向上を図る上で食料の消費の状況を改善することが特に重要であることにかんがみ、食育の推進、食生活の改善、食品に係る資源の有効な利用の確保、食品に係る廃棄物の排出抑制等の取組を促進するものとする。

3 国は、農産物等の輸出を積極的に行うことが食料の生産量の増大に資することにかんがみ、輸出先の消費者の需要に即した農産物等の安定的な供給のための取組その他の輸出の振興のための取組を促進するものとする。

 (国内生産を基本とする食料の安定的な供給の確保)

第八条 国は、食料の安定的な供給の確保については、農産物等の国内生産を基本としつつ、これと輸入及び備蓄とを適切に組み合わせて行うものとし、特に、現下の穀物をめぐる世界の情勢及び米が国内自給が可能な貴重な農産物であることを踏まえ、水田の機能の最大限の活用を図ること等により食料の安定的な供給が確保されるよう、次に掲げる措置を講ずるものとする。

 一 米について、その生産量を抑制するために他の作物を栽培すること等を求める生産調整は廃止し、第十六条第一項に定めるところにより、生産数量の目標を設定するものとすること。

 二 米粉、飼料その他の主食としての用途以外の用途に利用される米について、計画的な生産及び流通が行われるよう、必要な措置を講ずるものとすること。

 三 世界的な食料の供給の不足等の状況を踏まえ、凶作、輸入の途絶等の不測の要因により国内における需給が相当の期間著しくひっ迫し、又はひっ迫するおそれがある場合においても、国民生活の安定等に著しい支障を生じないよう、主要農産物(第十五条第一項に規定する主要農産物をいう。以下この条において同じ。)であって主食としての役割を果たしているものについて、必要な数量の備蓄を行うものとすること。

 四 前号の備蓄に係る主要農産物については、一定の保有期間を経過したときは、飼料、外国に対する援助その他の用途に利用するものとすること。

    第二節 食品の安全性及び消費者の安心の確保

 (食品安全行政の一元化等)

第九条 国は、食品の安全性の確保等の課題に迅速かつ適切に対応することができる体制を整備するため、食品の安全性の確保等に関する事務及び事業の一元化並びに食品安全委員会の機能の強化を図るものとする。

 (トレーサビリティシステムの導入の促進等)

第十条 国は、食品に関する情報提供を促進し消費者の食品の選択等に資するとともに、食品に関する事故等が発生した場合に迅速かつ適確に対応するための措置の実施の基礎とするため、食品供給行程における食品の移動履歴等が適切に管理されることにより、食品に関する情報を追跡し、及び()2 国は、前項の措置の実施状況を踏まえつつ、食品関連事業の健全な発展、食品に起因する衛生上の危害の発生の防止等の観点から、食品供給行程の各段階に係る食品関連事業者に対し、すべての食品について、この法律の施行後五年を目途として、仕入先、仕入日、販売先、販売日その他の食品に関する事故等が発生した場合に食品の回収及び原因の究明を適切に行うために必要な基礎的な情報についての記録の作成及び保存並びに緊急時における国及び地方公共団体への情報提供を義務付けるとともに、当該記録の作成及び保存がされていない食品について、必要に応じ、販売、輸入等に関する規制を行うものとする。

3 国は、食品の生産又は製造若しくは加工の過程での衛生管理や品質管理を行うため、適切な農業生産を実施するための生産過程の管理の手法や、危険を分析し、その結果に基づき、危険の発生を防止するために重要な事項について重点的に管理する方式による食品の製造過程の管理の高度化の手法について、前項の義務付けの実施時期を踏まえ、その採用の義務付けを図るものとする。

 (加工食品の原材料原産地の表示義務の拡大)

第十一条 国は、食品の表示が消費者の選択及び食品の安全性の確保において重要な役割を果たしていることにかんがみ、表示をすることが特に困難である場合を除き、加工食品(製造又は加工された飲食料品をいい、飲食料品を製造し、若しくは加工し、一般消費者に直接販売する場合又は製造若しくは加工された飲食料品を設備を設けて飲食させる場合における当該飲食料品を含む。)について、その主要な原料又は材料の原産地の表示を義務付けるものとする。

 (遺伝子組換え食品等についての表示義務の拡大等)

第十二条 国は、消費者の選択に資する観点から、第十条第二項の義務付けの実施時期を踏まえ、遺伝子組換え作物に係る食品について、遺伝子組換え作物の使用の有無等の表示の義務付けを図るとともに、クローン動物に由来する食品についても、その旨の表示の義務付けを図るものとする。

 (消費期限等の設定根拠に関する資料の提示等)

第十三条 消費期限(定められた方法により保存した場合において品質が急速に劣化しやすい食品について、その方法により保存した場合において、腐敗、変敗その他の品質の劣化に伴い安全性を欠くこととなるおそれがないと認められる期限をいう。以下同じ。)又は賞味期限(消費期限に係る食品以外の食品について、定められた方法により保存した場合において、期待されるすべての品質の保持が十分に可能であると認められる期限をいう。)の表示を行う者は、当該表示の裏付けとなる科学的かつ合理的な根拠を示す資料を作成してこれを保存するとともに、一般消費者等の求めがあるときは、当該資料を提示しなければならないものとする。

 (輸入食品に係る検査体制の強化等)

第十四条 国は、外国から輸入される食品について、国内で生産される食品と同等の安全性の確保を図るため、食品等の輸入に際しての安全性を確保するための措置の実施状況の届出の義務付けその他の必要な措置を講ずるものとする。

2 国は、有用な植物を害する動植物及び家畜の伝染性疾病の国内におけるまん延を防止し、食品の安全性の確保に資するため、外国から輸入される動植物についての検査体制の充実、家畜の飼養に係る衛生管理の強化、所有する伝染性疾病にかかっている家畜を法令の規定により処分した者に対する支援措置の充実その他の必要な措置を講ずるものとする。

3 国は、食品の安全性の確保に資するため、我が国に食品を輸出する国と協定を締結し、その国に職員を駐在させて、その国からの輸出食品に係る農林水産物に関して必要な査察を行わせる等の措置を講ずるものとする。

   第三章 農業の活性化のための改革に関する方針

    第一節 所得補償制度の導入等による農業経営の安定化等

 (定義)

第十五条 この節において「主要農産物」とは、米、麦、大豆その他食料自給率の向上並びに地域社会の維持及び活性化その他の農業の有する多面的な機能の確保に資する農産物をいう。

2 この節において「主要畜産物」とは、牛肉、牛乳、乳製品その他食料自給率の向上並びに地域社会の維持及び活性化その他の農業の有する多面的な機能の確保に資する畜産物をいう。

 (生産数量の目標の設定)

第十六条 国、都道府県及び市町村は、食料の国内生産の確保及び農業者の経営の安定を図り、食料自給率の目標の達成に資するため、毎年、農業者の意向を踏まえ、相互に連携して、それぞれ、主要農産物及び主要畜産物の種類ごとに生産数量の目標を設定するものとする。

2 国、都道府県及び市町村は、前項の生産数量の目標(以下「生産数量の目標」という。)を設定したときは、その達成に努めるものとする。

 (農業に係る所得補償制度の導入)

第十七条 国は、我が国の食料自給率の向上に資するとともに、農業の有する多面的な機能が将来にわたって適切かつ十分に発揮されるようにするため、生産数量の目標に従って販売に供する目的で主要農産物を生産する農業者に対し、その所得を補償するため、生産に要する費用と販売価格との差額を基本として算定される額の交付金を交付する制度を導入するものとする。

2 前項の交付金の額の算定については、主要農産物の品質、新たな販売の方式の導入や新たな加工品の開発等の取組、生産に係る経営規模の拡大及び環境の保全に資する度合並びに主食用の米に代わる農産物(米粉、飼料、バイオ燃料(農林漁業有機物資源のバイオ燃料の原材料としての利用の促進に関する法律(平成二十年法律第四十五号)第二条第二項に規定するバイオ燃料をいう。以下同じ。)その他の主食としての用途以外の用途に供される米を含む。)の生産の要素を勘案して行うものとする。

 (畜産業に係る所得補償制度の導入等)

第十八条 国は、畜産業について、耕畜連携(農産物の生産者(以下この項において「耕作農業者」という。)が生産した飼料作物を畜産物の生産者(以下この項において「畜産農業者」という。)に供給すること、畜産農業者から提供された(たい)2 前項の交付金の額の算定については、新たな販売の方式の導入や新たな加工品の開発等の取組及び環境の保全に資する度合のほか、必要に応じて主要畜産物の品質及び生産に係る経営規模の拡大の要素を勘案して行うものとする。

3 国は、世界の飼料の需給及び貿易が不安定な要素を有しており、国内における畜産物の安定的な供給を確保する上で飼料の自給度の向上を図ることが重要な意義を有することにかんがみ、畜産物の品質への影響等畜種ごとの特性を考慮しつつ、稲わらの飼料としての効率的な利用の推進、飼料に適した米の生産の促進等米の飼料としての利用の推進、飼料用の穀物を含む飼料用植物の品種改良等、給()4 国は、第一項の制度が導入されるまでの間において生じた配合飼料の価格の高騰等の状況に対応するため、必要な措置を講ずるものとする。

 (野菜、果樹等に係る支援制度)

第十九条 国は、野菜、果樹等に係る支援制度について、経営の安定の確保、競争力の強化、消費者の需要に即した商品の安定的な供給等を図る観点から、必要な見直しを行うものとする。

 (直接支払等による農業集落等への支援)

第二十条 国は、農業生産の維持及び増進に資するとともに、農業及び農村の有する多面的な機能が将来にわたって適切かつ十分に発揮されるようにするため、次に掲げる方針に従い、農業集落等への法律に基づく支援措置を講ずるものとする。

 一 集落が行う農地、農業用の水路等の保全、管理等の取組について、交付金を交付する制度を設けること。

 二 環境保全型農業に取り組む農業者に対し、第十七条第二項の交付金の額の算定において環境の保全に資する度合の要素を勘案して行うこととの調整に留意しつつ、交付金を交付する制度を設けること。

 三 山間地及びその周辺の地域その他の地勢等の地理的条件が悪く、農業の生産条件が不利な地域(以下「中山間地域等」という。)における生産条件の格差を是正するため、中山間地域等において農業生産活動を行う農業者に対し、交付金を交付する制度を設けること。

2 国は、前項に掲げるもののほか、農村地域の活性化を図るため、農村地域における就業機会の拡大、教育及び医療サービスの向上、公共施設等への移動の利便の増進その他の生活の質の向上を図るために必要な支援を行うものとする。

    第二節 農地制度の改革及び農業への参入促進

 (農地総量の設定)

第二十一条 国は、農地が現在及び将来の国民のための貴重な資源であり、農業生産の基盤として不可欠な資源であることにかんがみ、食料自給率の目標を達成するとともに、食料自給力(凶作、輸入の途絶等の不測の要因により国内における需給が相当の期間著しくひっ迫し、又はひっ迫するおそれがある場合においても国民が最低限度必要とする食料を供給することができることをいう。)を有することとなるよう、確保すべき農地の面積の目標となる数量(以下「農地総量」という。)を設定するものとする。

 (農地制度の抜本的な改革)

第二十二条 国は、将来に向けて、農地総量の確保を図りつつ、農業の一層の活性化を図るため、農地の所有者又は農地を使用収益する権原を有する者(以下「農地所有者等」という。)に対し農地を有効に利用する義務を課するとともに、農地について農地以外の用途に転用することを厳格に規制することを前提とした上で、意欲を有する者ができる限り農業に参入することができるよう、現行の農地制度について抜本的な見直しを行うものとする。

第二十三条 国は、前条の抜本的な見直し(以下「抜本的見直し」という。)に当たっては、縦割り行政の下での土地利用の計画に関する諸制度等が無秩序な農地の転用等の増大に影響を与えたことにかんがみ、農地として利用すべき区域を確保するため、現行の土地利用に関する諸制度を見直し、農業生産を目的とする土地利用とそれ以外の土地利用とを一体的かつ総合的に行うことができる計画を策定する制度の創設その他必要な措置を講ずるものとする。

 (農地制度の当面の改革)

第二十四条 国は、抜本的見直しが行われるまでの間、現行の農地制度を基本としつつ、遊休農地(農業経営基盤強化促進法(昭和五十五年法律第六十五号)第五条第二項第四号ハに規定する遊休農地をいう。以下同じ。)について農業上の利用を増進するため、農地所有者等が農地を有効に利用する責務を有することを前提として、遊休農地が一定の猶予期間内に農地所有者等によって有効に利用されないこと等の一定の要件を満たす場合において直ちに利用権を設定する制度を設けること、遊休農地の農地所有者等を確知することができない場合における当該遊休農地の適切な管理のための制度を設けること等の必要な措置を講ずるものとする。

第二十五条 国は、抜本的見直しが行われるまでの間においても農業生産力の増進を図るため、農業を担おうとする者については、所得、経営規模等を要件とせず、農業生産に関する意欲と能力を有する者の参入を促進することを基本とし、次に掲げる措置を講ずるものとする。

 一 農業経営基盤強化促進法第四章の三に規定するもののほか、農用地区域(農業振興地域の整備に関する法律(昭和四十四年法律第五十八号)第八条第二項第一号に規定する農用地区域をいう。以下同じ。)以外の区域であって農業の振興を図る必要があると認められる区域において、耕作の継続を条件として、農業生産法人(農地法(昭和二十七年法律第二百二十九号)第二条第七項に規定する農業生産法人をいう。)以外の法人に農用地(農業経営基盤強化促進法第四条第一項第一号に規定する農用地をいう。)の貸付けをすることができるようにするために必要な措置を講ずること。

 二 農用地区域以外の区域であって農業の振興を図る必要があると認められる区域における農地法第三条の規定による許可については、同条第二項第五号に定める農地等に係る権利の取得のための最低限度の面積の要件の適用を除外するために必要な措置を講ずること。

   第四章 森林の整備及び保全並びに林業の活性化のための改革に関する方針

 (木材自給率の目標)

第二十六条 国は、林業を振興することにより地域の再生を図るため、我が国の木材の自給率については、この法律の施行の日の属する年度から十年度を経過した年度においては五十パーセントに達するようにすることを目標とするものとする。

 (雇用機会の増大)

第二十七条 国は、次条から第三十二条までに定める措置その他の山村の活性化に資する措置を総合的かつ有効適切に講ずることにより、山村等における雇用機会の増大を図るものとする。

 (直接支払等による適正な森林管理の促進)

第二十八条 国は、森林の有する林産物の供給の機能だけでなく、国土の保全、水源のかん養、地球温暖化の防止等の多面的な機能が将来にわたって適切かつ十分に発揮されるようにするとともに、気候変動に関する国際連合枠組条約の京都議定書第三条の規定に基づく約束の履行にも資するよう、森林の所有者に対して森林の適正な管理を義務付けることを前提とした上で、森林を適正に管理する森林の所有者等に対して、森林の適正な管理に必要な費用に相当する額の交付金を交付する制度を導入するものとする。

2 国は、森林の所有者による森林の整備及び保全が困難となっている現状にかんがみ、森林組合、素材生産業を営む者等の民間の団体等(以下この項において「民間の団体等」という。)による森林の整備及び保全を促進するため、民間の団体等の育成、必要な人材の育成その他の必要な措置を講ずるとともに、民間の団体等による森林の整備及び保全が困難な場合には、国において適正な森林の整備及び保全を行う等必要な措置を講ずるものとする。

 (木材産業の活性化のための基盤整備等)

第二十九条 国は、森林の所有者、森林組合、木材産業に属する事業を営む者等による、作業路網の計画的な整備、木材に係る伐採、運搬等を行うための高性能な機械の導入、零細で多段階な木材の流通の体制の見直し、木材についてのトレーサビリティ(木材に関する情報を追跡し、及び遡及して把握することができることをいう。)を確保すること等により適正な森林管理の下で生産された木材であることを証明するシステムの導入等を促進することにより、木材の生産、加工及び流通の効率化並びに競争力の強化を実現し、木材産業の活性化を図るものとする。

 (木質バイオマスの活用の推進)

第三十条 国は、エネルギー自給率の向上及び地球温暖化の防止に資するため、バイオマス(動植物に由来する有機物(原油、石油ガス、可燃性天然ガス及び石炭並びにこれらから製造される製品を除く。)をいう。以下同じ。)のうち木に由来するものの活用を図るために必要な措置を講ずるとともに、その供給を支える役割を担う山村の活性化を推進するものとする。

 (国有林野事業の改革)

第三十一条 国は、国有林野が国民共通の財産として適正に管理されることを通じて公益的機能を発揮することが求められており、かつ、国有林野事業の実施により林産物の供給及び地域の活性化等に寄与することが期待されていることにかんがみ、農林水産行政と環境行政を一体的に推進する観点から国有林野事業の組織及び事業の在り方を抜本的に見直し、国有林野事業の全般について、国が直接行うことを維持しつつ、一般会計において経理される事業への移行等の必要な措置を講ずるものとする。

 (地域材の利用の拡大)

第三十二条 国及び地方公共団体は、地域で生産された木材を当該地域において適切に利用すること(以下この条において「地域材の利用」という。)が地球温暖化の防止、地域の活性化及び木材の利用に関する我が国の伝統のある生活文化の振興に寄与することにかんがみ、庁舎その他の公共施設等における地域材の利用を推進すること、住宅における地域材の利用を促進すること等により地域材の利用の拡大を図るよう努めるものとする。

   第五章 漁業の活性化のための改革に関する方針

 (総漁獲可能量の設定及び漁獲可能量の割当て等)

第三十三条 国は、水産資源が生態系の構成要素であり、限りあるものであることにかんがみ、水産資源の適切な保存及び管理に資するため、第四項の調査及び研究の結果に基づき、排他的経済水域等(海洋生物資源の保存及び管理に関する法律(平成八年法律第七十七号)第二条第一項に規定する排他的経済水域等をいう。以下同じ。)において採捕することができる水産資源の種類ごとの年間の数量の最高限度としての数量(以下「総漁獲可能量」という。)を設定するものとする。ただし、科学的知見の蓄積が不十分であること等の理由により総漁獲可能量の設定が困難な水産資源にあっては、その種類ごとに、総漁獲可能量の設定に代えて、漁業者団体等が策定する資源管理に関する計画(以下「資源管理計画」という。)の基準を設定するものとする。

2 国は、総漁獲可能量が設定された水産資源の漁獲を行う漁業者について登録の制度を設け、その登録を受けた漁業者に、その登録に係る水産資源について、総漁獲可能量を踏まえ、漁業者ごとの排他的経済水域等において採捕することができる年間の数量の最高限度としての数量(以下「漁獲可能量」という。)の割当てを行うことができるようにするため必要な措置を講ずるものとする。

3 国は、前二項の措置を実施するため、水産資源の適切な保存及び管理の観点から、漁業生産に関する基本的制度その他の関連制度について、必要な見直しを行うものとする。

4 国は、水産資源の適切な保存及び管理に資するため、地方公共団体と連携し、排他的経済水域等における水産資源に関する調査及び研究その他必要な措置を講ずるものとする。

 (漁業に係る所得補償制度の導入等)

第三十四条 国は、漁獲可能量の割当て又は資源管理計画を遵守して操業を行う漁業者が、国民共通の財産である水産資源の管理を行っていること並びに国民への食料の安定供給並びに環境の保全、海難救助その他の漁業及び漁村の有する多面的な機能の発揮において重要な役割を担っていることにかんがみ、当該漁業者に対して、生産に要する費用と漁業収入との差額を基本として算定される額の交付金を交付する制度を導入するものとする。

2 国は、前項の制度が導入されるまでの間において生じた燃油の価格の高騰等の状況に対応するため、必要な措置を講ずるものとする。

 (漁場環境の保全及び整備)

第三十五条 国は、水産資源の回復に資するため、藻場又は干潟の造成その他の漁場環境の保全及び整備のために必要な措置を講ずるほか、水域の環境と密接な関係を有する地域の森林の保全及び整備のために必要な措置を講ずるものとする。

 (水産資源の保存及び管理のための輸入の制限等)

第三十六条 国は、第十条第二項の輸入の制限が行われる場合のほか、水産資源の適切な保存及び管理に重大な支障を与え、又は与えるおそれがある場合において、特に必要があると認めるときは、漁業者その他の関係者の意見を踏まえ、水産物の種類を定めて、当該水産物についての保存及び管理が不適切な国からの輸入の制限その他必要な措置を講ずるものとする。

 (直接支払による漁業集落に対する支援)

第三十七条 国は、漁業生産の維持及び増進を図るとともに、漁業及び漁村の有する多面的な機能が将来にわたって適切かつ十分に発揮されるようにするため、集落が行う漁場の生産力の増進に関する取組に対し、交付金を交付する制度を設けるものとする。

 (内水面漁業に対する支援)

第三十八条 国は、内水面漁業の健全な発展が国民への多様な水産物の供給、農山漁村地域の振興等に資することにかんがみ、内水面漁業に係る水産資源の維持又は増大を図るために必要な支援を行うものとする。

 (養殖業に対する支援)

第三十九条 国は、養殖業の健全な発展が漁業生産の増大、消費者の需要に即した水産物の安定的な供給等に資することにかんがみ、長期的に安定した養殖生産の維持又は増大を可能とするために必要な支援を行うものとする。

   第六章 六次産業化の促進等のための改革に関する方針

 (六次産業化の促進)

第四十条 国は、六次産業化を促進することにより、生産活動に伴い創出される付加価値のうちより多くの部分が農山漁村に帰属し、農林漁業の活性化と農山漁村の再生が図られるとともに、食品の安全性の確保及び安心して消費できる食品の供給並びに食料自給率の向上に貢献するだけでなく、化石燃料の消費の削減、二酸化炭素を吸収し及び固定化する役割の発揮並びに再生が可能なエネルギーの供給という観点から地球温暖化の防止に寄与することが期待されることにかんがみ、農山漁村地域において当該地域の農林水産物の特徴を利用して行われる商品の開発、生産又は需要の開拓等の促進、必要な人材の育成のための支援、地方公共団体と六次産業化に係る事業者の団体等との連携の確保の促進その他の六次産業化の促進のために必要な措置を講ずるものとする。

 (バイオマス産業の振興等)

第四十一条 国は、農林漁業における稲わら等の未利用の資源や食品に係る廃棄物の活用等を基本としつつ、併せて遊休農地等において生産されたバイオマスであって食料としての供給に適さないものを活用することにより、バイオマスに関する産業の振興を図るとともに、農山漁村地域において生産されたバイオ燃料やバイオマスを原材料とする製品を当該地域において積極的に利用することを促進し、農山漁村地域をバイオマスの活用の先進的な地域とすることにより、農山漁村の活性化を図るものとする。

 (教育等の場としての農山漁村の活用)

第四十二条 国は、心身の健康の保持増進、農作業等の体験を通じた教育的効果等の農林漁業及び農山漁村の有する機能にかんがみ、農山漁村に滞在しつつ行う農林漁業に関する体験活動、自然体験活動等の促進、医療及び介護の分野におけるこれらの機能の活用に係る施設の整備その他農山漁村を教育、医療又は介護の場として活用する取組を積極的に支援するものとする。

 (農業協同組合等の改革)

第四十三条 国は、農業協同組合、漁業協同組合、森林組合等(以下「農業協同組合等」という。)が六次産業化の推進に当たり重要な役割を果たすべきものであることにかんがみ、引き続き事業の統合的かつ一体的な運営を確保するほか、事業運営の透明性の確保のための措置、政治的中立の確保のための措置その他の農業協同組合等の事業の改革を推進するために必要な措置を講ずるものとする。

2 国は、農林漁業者の多様な需要に対応した事業が農業協同組合等によって適切かつ機動的に実施されるようにするため、新たな農業協同組合等の設立が円滑に行われるよう、その設立に際しての農業協同組合中央会等の関与に係る手続の見直しその他の必要な措置を講ずるものとする。

   附 則

 この法律は、公布の日から施行する。


     理 由

 世界的な食料の供給の不足が将来に向けて更に深刻化することが予想され、また、食品の安全性に対する国民の関心が高まる中で、食料の相当部分を輸入に依存している我が国において、国民が生きていく上で必須の衣食住を賄うとともに、国土や自然環境の保全、水源のかん養、災害の防止、文化の伝承等の多面的な機能を発揮している農林漁業及びその持続的な発展の基盤たる役割を果たしている農山漁村が、人口の減少、高齢化の進展、石油や飼料用の穀物の価格の上昇等により危機的な状況にあることにかんがみ、農林漁業及び農山漁村の再生のための改革について、その基本理念、方針等を定めることにより、農林漁業及び農山漁村の再生のための改革を総合的に推進する必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。

衆議院
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