衆議院

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第一七一回

参第一六号

   水俣病被害の救済に関する特別措置法案

目次

 前文

 第一章 総則(第一条・第二条)

 第二章 水俣病被害者給付金(第三条─第十六条)

 第三章 医療費等

  第一節 通則(第十七条─第二十六条)

  第二節 医療費(第二十七条─第三十一条)

  第三節 療養手当及び特別療養手当(第三十二条・第三十三条)

  第四節 雑則(第三十四条─第三十七条)

 第四章 審査請求(第三十八条・第三十九条)

 第五章 健康管理事業等(第四十条−第四十四条)

 第六章 調査研究(第四十五条)

 第七章 費用(第四十六条─第四十八条)

 第八章 雑則(第四十九条─第五十六条)

 第九章 罰則(第五十七条・第五十八条)

 附則

 水俣湾及び水俣川並びに阿賀野川に排出されたメチル水銀により発生した水俣病は、八代海の沿岸地域及び阿賀野川の下流地域において、甚大な健康被害と環境汚染をもたらすとともに、長年にわたり地域社会に深刻な影響を及ぼし続けた。水俣病が、今日においても未曾有の公害とされ、我が国における公害問題の原点とされるゆえんである。

 水俣病被害に関しては、公害健康被害の補償等に関する法律の認定を受けた者に対し補償が行われてきたが、その認定に係る判断条件は本来水俣病の被害者として認められるべき者を対象とするには十分ではなく、また、認定業務も様々な問題を抱えたまま遅々として進まなかった。それゆえに、水俣病の被害者が多大な苦痛を強いられるとともに、水俣病被害についての無理解が生まれ、平穏な地域社会に不幸な亀裂がもたらされた。

 平成十六年には、水俣病関西訴訟の最高裁判所判決により、公害健康被害の補償等に関する法律の認定に係る判断条件を満たさない者も水俣病の被害者とし、原因事業者のみならず国等も損害賠償責任を負うこととする判断が示され、また、この判決を契機として水俣病の被害者として救済を求める者が急増した。にもかかわらず、その後も十分な救済措置は講じられず、水俣病被害の全容を明らかにするための調査すら実施されていない。水俣病の公式確認から五十年以上が経過した今もなお、様々な症状に苦しむ多くの水俣病の被害者が救済を求め続けている。

 我々は、こうした状況を招いたことを深く反省し、平成十六年の最高裁判所判決により示された判断を重く受け止め、水俣病の被害者すべてについて救済を図らなければならない。

 ここに、我が国における公害問題の原点である水俣病の問題について、原因事業者のみならず国及び関係する県も責任を負うべきことを踏まえ、その抜本的な解決を図ることを決意し、水俣病被害の回復と地域社会の絆の修復を希求して、この法律を制定する。

   第一章 総則

 (趣旨)

第一条 この法律は、水俣病被害の救済を図るため、水俣病被害者給付金及び医療費等の支給について必要な事項を定めるとともに、健康管理事業、特定疾病多発地域居住者等の健康に係る調査研究等について定めるものとする。

 (定義等)

第二条 この法律において「水俣病被害者」とは、次に掲げる者であって特定疾病にかかったものをいう。ただし、その特定疾病につき、公害健康被害の補償等に関する法律(昭和四十八年法律第百十一号。以下「公害健康被害補償法」という。)第四条第二項の認定を受けた者(公害健康被害補償法その他の法令の規定により同項の認定を受けたものとみなされる者を含む。)及び旧公害に係る健康被害の救済に関する特別措置法(昭和四十四年法律第九十号)第三条第一項の認定を受けた者(公害健康被害補償法の施行の日において同項の認定を受けている者を除く。)を除く。

 一 基準日(第三項第一号に掲げる地域にあっては昭和四十三年十二月三十一日をいい、同項第二号に掲げる地域にあっては昭和四十年十二月三十一日をいう。)以前に、特定疾病多発地域に居住し、通勤し、又は通学すること等により、水俣湾若しくは水俣川又は阿賀野川に排出されたメチル水銀により汚染された魚介類を多量に摂取したと認められる者

 二 前号に掲げる者が同号の魚介類を多量に摂取したと認められる時期以降の時期にその者の胎児であった者

2 この法律において「特定疾病」とは、次に掲げる疾病であって、メチル水銀中毒以外の原因によることが明らかであるもの以外のものをいう。

 一 四肢末梢優位又は全身性の触覚又は痛覚の感覚障害

 二 口の周囲の触覚又は痛覚の感覚障害

 三 舌の二点識別覚の障害

 四 求心性視野狭窄

 五 大脳皮質障害による知的障害、精神障害又は運動障害

3 この法律において「特定疾病多発地域」とは、次に掲げる地域をいう。

 一 八代海の沿岸地域のうち特定疾病が多発した地域として政令で定める地域

 二 阿賀野川の下流地域のうち特定疾病が多発した地域として政令で定める地域

4 環境大臣は、前項第一号及び第二号の政令の制定又は改廃に当たってその立案をするときは、関係県知事及び関係市町村長の意見を聴かなければならない。

   第二章 水俣病被害者給付金

 (水俣病被害者給付金の支給)

第三条 水俣病被害者(水俣病被害者がこの法律の施行の日(以下「施行日」という。)前に死亡している場合にあっては、その遺族)に対し、水俣病被害者給付金を支給する。

2 水俣病被害者給付金の支給を受ける権利の認定は、これを受けようとする者の請求に基づいて、環境大臣が行う。

3 水俣病被害者給付金(死亡した水俣病被害者に係るものを除く。)の支給を受けようとする者は、環境省令で定めるところにより医師が作成した診断書を提出しなければならない。

4 環境大臣は、第二項の認定を行おうとする場合において、当該水俣病被害者給付金の請求に係る疾病にかかった者が水俣病被害者に該当する者であることを証する確定判決又は和解、調停その他の確定判決と同一の効力を有するものがあるときは、これを踏まえて、当該認定を行うものとする。

5 環境大臣は、第二項の認定を行おうとする場合において、特定疾病にかかったと認められるかどうかに関し主治の医師の診断があるときは、その判断を尊重するものとする。

6 環境大臣は、第二項の認定を行おうとするときは、特定疾病にかかったと認められるかどうかに関し、中央環境審議会の意見を聴かなければならない。

 (遺族の範囲及び順位等)

第四条 水俣病被害者給付金の支給を受けることができる遺族の範囲は、施行日前に死亡した水俣病被害者(以下「施行前死亡者」という。)の死亡の当時における配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあった者を含む。以下同じ。)、子(施行前死亡者の死亡の当時胎児であった者を含む。)、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹とする。

2 水俣病被害者給付金の支給を受けることができる遺族の順位は、前項に規定する順序とする。

3 水俣病被害者給付金の支給を受けることができる同順位の遺族が二人以上あるときは、その一人のした水俣病被害者給付金の支給の請求は、全員のためその全額につきしたものとみなし、その一人に対してした前条第二項の認定は、全員に対してしたものとみなす。

 (遺族からの排除)

第五条 次に掲げる者は、水俣病被害者給付金の支給を受けることができる遺族としない。

 一 施行前死亡者を故意に死亡させた者

 二 水俣病被害者給付金の支給を受けることができる先順位又は同順位の遺族となるべき者を故意に死亡させた者

 (請求期限)

第六条 水俣病被害者給付金の支給の請求は、施行日(施行日以後に特定疾病にかかった者にあっては、当該特定疾病にかかったと認められる日の翌日)から起算して五年以内に行わなければならない。

2 前項の期間内に水俣病被害者給付金の支給の請求をしなかった者には、水俣病被害者給付金を支給しない。

 (水俣病被害者給付金の額)

第七条 水俣病被害者給付金の額は、三百万円とする。

 (水俣病被害者給付金の支給を受ける権利の承継)

第八条 水俣病被害者給付金の支給を受ける権利を有する者が死亡した場合において、その者がその死亡前に水俣病被害者給付金の支給の請求をしていなかったときは、その者の相続人は、自己の名で、当該水俣病被害者給付金の支給を請求することができる。

2 第四条第三項の規定は、前項の規定により水俣病被害者給付金の支給を受けることができる同順位の相続人が二人以上ある場合について準用する。

 (損害賠償がされた場合等の調整)

第九条 水俣病被害者給付金の支給事由と同一の事由について、国、特定疾病多発地域をその区域に含む県(以下「特定県」という。)又は特定疾病多発地域において特定疾病が発生する原因となったメチル水銀を水俣湾若しくは水俣川若しくは阿賀野川に排出した事業者(以下「原因事業者」という。)により損害のてん補がされた場合においては、国は、その価額の限度で水俣病被害者給付金を支給する義務を免れる。

2 国、特定県又は原因事業者が国家賠償法(昭和二十二年法律第百二十五号)、民法(明治二十九年法律第八十九号)その他の法律による損害賠償の責任を負う場合において、国が水俣病被害者給付金を支給したときは、同一の事由については、国、特定県又は原因事業者は、その価額の限度でその損害賠償の責任を免れる。

3 公害健康被害補償法第三条第一項に規定する補償給付を支給する場合において、水俣病被害者給付金の支給がされたときは、同一の事由については、県知事(公害健康被害補償法第四条第三項の政令で定める市にあっては、当該市の長とする。第二十条第二項において同じ。)は、その価額の限度で当該補償給付を支給する義務を免れる。

 (不正利得の徴収)

第十条 偽りその他不正の手段により水俣病被害者給付金の支給を受けた者があるときは、環境大臣は、国税徴収の例により、その者から、その支給を受けた額に相当する金額の全部又は一部を徴収することができる。

2 前項の規定による徴収金の先取特権の順位は、国税及び地方税に次ぐものとする。

 (受給権の保護)

第十一条 水俣病被害者給付金の支給を受ける権利は、譲り渡し、担保に供し、又は差し押さえることができない。

 (公課の禁止)

第十二条 租税その他の公課は、水俣病被害者給付金として支給を受けた金銭を標準として、課することができない。

 (水俣病被害者給付金の支給を受けた者等に対する報告の徴収等)

第十三条 環境大臣は、この章の規定を施行するため必要があると認めるときは、水俣病被害者給付金の支給を受け、又は受けようとする者に対し、報告又は文書その他の物件の提出を求めることができる。

 (受診命令)

第十四条 環境大臣は、第三条第二項の認定に関し必要があると認めるときは、当該認定に係る水俣病被害者給付金の支給を受け、又は受けようとする者に対し、環境大臣の指定する医師の診断を受けるべきことを命ずることができる。

 (診断を行った者等に対する報告の徴収等)

第十五条 環境大臣は、第三条第二項の認定に関し必要があると認めるときは、当該認定に係る水俣病被害者給付金の支給の請求について診断を行った者又はこれを使用する者に対し、その行った診断につき、報告若しくは診療録その他の物件の提示を求め、又は当該職員に質問させることができる。

2 前項の規定により質問をする職員は、その身分を示す証明書を携帯し、関係人に提示しなければならない。

3 第一項の規定による質問の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解してはならない。

 (環境省令への委任)

第十六条 この章に定めるもののほか、水俣病被害者給付金の支給の手続に関し必要な事項は、環境省令で定める。

   第三章 医療費等

    第一節 通則

 (この章の規定による給付の種類等)

第十七条 水俣病被害者に対し、その特定疾病等(特定疾病その他メチル水銀中毒にみられる症状として政令で定める症状を示す疾病であってメチル水銀中毒以外の原因によることが明らかであるもの以外のものをいう。以下同じ。)について、この章の規定により支給される給付は、次に掲げるとおりとする。

 一 医療費

 二 療養手当

 三 特別療養手当

2 環境大臣は、前項の政令の制定又は改廃に当たってその立案をするときは、中央環境審議会の意見を聴かなければならない。

 (認定等)

第十八条 環境大臣は、前条第一項各号に掲げる給付(以下「医療費等」という。)の支給を受けようとする者の申請に基づき、その者が水俣病被害者である旨の認定を行う。

2 第三条第三項の規定は前項の認定(第二十条を除き、以下この章において「認定」という。)を受けようとする者について、第三条第四項から第六項までの規定は認定について、それぞれ準用する。この場合において、同条第四項中「当該水俣病被害者給付金の請求」とあるのは、「当該認定の申請」と読み替えるものとする。

3 環境大臣は、認定を行ったときは、当該認定を受けた者(以下この章において「被認定者」という。)に対し、水俣病医療手帳を交付する。

4 認定は、その申請のあった日にさかのぼってその効力を生ずる。

第十九条 認定の申請をした者が認定を受けないで死亡した場合において、その死亡した者が前条第一項の規定により認定を受けることができる者であるときは、環境大臣は、その死亡した者の配偶者、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹であって、その死亡した者の死亡の当時その者と生計を同じくしていたものの申請に基づき、その死亡した者が認定を受けることができる者であった旨の決定を行う。

2 前項の申請は、同項に規定する死亡した者の死亡の日から六月以内に限り、することができる。

3 第一項の決定があったときは、同項に規定する死亡した者は、認定を受けたものとみなす。

 (公害健康被害補償法との関係)

第二十条 第十八条第一項の認定は、水俣病被害者がその特定疾病につき公害健康被害補償法第四条第二項の認定を受けたとき(公害健康被害補償法その他の法令の規定により同項の認定を受けたものとみなされるときを含む。)は、その効力を失う。

2 公害健康被害補償法第三条第一項に規定する補償給付を支給する場合において、医療費等の支給がされたときは、同一の事由については、県知事は、その価額の限度で当該補償給付を支給する義務を免れる。この場合において、国は、当該県知事が当該補償給付を支給する義務を免れた価額の限度で、当該県知事に対し、当該医療費等の価額に相当する金額を求償することができる。

 (医療費等の支給の請求等)

第二十一条 医療費等の支給の請求は、認定の申請がされた後は、当該認定前であっても、することができる。

2 医療費等を支給する旨の処分は、その請求のあった日にさかのぼってその効力を生ずる。

 (未支給の医療費等)

第二十二条 医療費等の支給を受けることができる者が死亡した場合において、その死亡した者に支給すべき医療費等でまだその者に支給していなかったものがあるときは、その者の配偶者、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹であって、その者の死亡の当時その者と生計を同じくしていたものは、自己の名で、その支給を請求し、当該医療費等の支給を受けることができる。

2 前項の規定により医療費等の支給を受けることができる者の順位は、同項に規定する順序による。

3 第一項の規定により医療費等の支給を受けることができる同順位者が二人以上あるときは、その一人がした請求は、全員のためその全額につきしたものとみなし、その一人に対してした支給は、全員に対してしたものとみなす。

 (医療費等の支給の免責)

第二十三条 医療費等の支給事由と同一の事由について、国、特定県又は原因事業者により損害のてん補がされた場合においては、国は、その価額の限度で医療費等を支給する義務を免れる。

 (他の法令による給付との調整)

第二十四条 医療費は、被認定者に対し、特定疾病等について、健康保険法(大正十一年法律第七十号)その他の政令で定める法律(以下「健康保険法等」という。)及び公害健康被害補償法以外の法令(条例を含む。)の規定により医療に関する給付が行われるべき場合には、その給付の限度において、支給しない。

2 療養手当及び特別療養手当は、被認定者に対し、同一の事由について、公害健康被害補償法以外の法令による給付で政令で定めるものが行われるべき場合には、その給付に相当する金額として政令で定めるところにより算定した額の限度において、支給しない。

 (準用)

第二十五条 第十条から第十二条までの規定は、医療費等について準用する。

 (環境省令への委任)

第二十六条 この章に定めるもののほか、認定の申請その他の医療費等の支給の手続に関し必要な事項は、環境省令で定める。

    第二節 医療費

 (医療費の支給)

第二十七条 環境大臣は、被認定者が、特定疾病等につき、健康保険法第六十三条第三項第一号に規定する保険医療機関又は保険薬局その他病院、診療所(これらに準ずるものを含む。)又は薬局であって環境省令で定めるもの(これらの開設者が診療報酬の請求及び支払に関し第二十九条第一項に規定する方式によらない旨を環境大臣に申し出たものを除く。以下「保険医療機関等」という。)から次に掲げる医療を受けたときは、当該被認定者に対し、その請求に基づき、医療費を支給する。この場合において、被認定者が第十九条第一項の決定に係る死亡した者以外の者であるときは、当該被認定者が水俣病医療手帳を提示して医療を受けたときに限り、医療費を支給するものとする。

 一 診察

 二 薬剤又は治療材料の支給

 三 医学的処置、手術及びその他の治療

 四 居宅における療養上の管理及びその療養に伴う世話その他の看護

 五 病院又は診療所への入院及びその療養に伴う世話その他の看護

 六 移送

 (医療費の額)

第二十八条 前条の規定により支給する医療費の額は、当該医療に要する費用の額から、特定疾病等につき、健康保険法等の規定により被認定者が受け、又は受けることができた医療に関する給付の額を控除して得た額とする。

2 前項の医療に要する費用の額は、健康保険の療養に要する費用の額の算定方法の例により算定するものとする。ただし、現に要した費用の額を超えることができない。

 (保険医療機関等に対する医療費の支払等)

第二十九条 被認定者が、水俣病医療手帳を提示して、特定疾病等について保険医療機関等から医療を受けた場合においては、環境大臣は、医療費として当該被認定者に支給すべき額の限度において、その者が当該医療に関し当該保険医療機関等に支払うべき費用を、当該被認定者に代わり、当該保険医療機関等に支払うことができる。

2 前項の規定による支払があったときは、当該被認定者に対し、医療費の支給があったものとみなす。

3 健康保険法等の規定による被保険者又は組合員である被認定者が、特定疾病等について保険医療機関等から医療を受ける場合には、健康保険法等の規定により当該保険医療機関等に支払うべき一部負担金は、健康保険法等の規定にかかわらず、当該医療に関し環境大臣が第一項の規定による支払をしない旨の決定をするまでは、支払うことを要しない。

第三十条 環境大臣は、前条第一項の規定による支払をなすべき額を決定するに当たっては、社会保険診療報酬支払基金法(昭和二十三年法律第百二十九号)に定める審査委員会、国民健康保険法(昭和三十三年法律第百九十二号)に定める国民健康保険診療報酬審査委員会その他政令で定める医療に関する審査機関の意見を聴かなければならない。

2 国は、前条第一項の規定による支払に関する事務を社会保険診療報酬支払基金、国民健康保険団体連合会その他環境省令で定める者に委託することができる。

 (緊急時等における医療費の支給の特例)

第三十一条 環境大臣は、被認定者が緊急その他やむを得ない理由により保険医療機関等以外の病院、診療所又は薬局その他の者から第二十七条各号に掲げる医療を受けた場合において、その必要があると認めるときは、同条の規定にかかわらず、当該被認定者に対し、その請求に基づき、医療費を支給することができる。

2 環境大臣は、第十九条第一項の決定に係る死亡した者以外の被認定者が水俣病医療手帳を提示しないで保険医療機関等から第二十七条各号に掲げる医療を受けた場合において、水俣病医療手帳を提示しなかったことが緊急その他やむを得ない理由によるものと認めるときは、同条の規定にかかわらず、当該被認定者に対し、その請求に基づき、医療費を支給することができる。

3 第二十八条の規定は、前二項の医療費の額の算定について準用する。

4 第一項及び第二項の医療費の支給の請求は、その請求をすることができる時から二年を経過したときは、することができない。

    第三節 療養手当及び特別療養手当

 (療養手当の支給)

第三十二条 環境大臣は、被認定者が特定疾病等について第二十七条各号に掲げる医療を受けており、かつ、その病状の程度が政令で定める病状の程度に該当するものであるときは、当該被認定者に対し、その請求に基づき、その病状の程度に応じた政令で定める額の療養手当を支給する。

2 前項の政令で定める病状の程度及び政令で定める額は、それぞれ公害健康被害補償法第四十条第一項の政令で定める病状の程度及び政令で定める額と同等のものとなるよう定めるものとする。

3 前条第四項の規定は、療養手当の支給の請求について準用する。

 (特別療養手当の支給)

第三十三条 環境大臣は、被認定者に対し、その請求に基づき、特別療養手当を支給する。

2 特別療養手当は、月を単位として支給するものとし、その額は、一月につき、一万円とする。

3 特別療養手当の支給は、第一項の請求があった日の属する月の翌月から始め、支給すべき事由が消滅した日の属する月で終わる。

4 特別療養手当は、毎年二月、四月、六月、八月、十月及び十二月の六期に、それぞれの前月及び前々月の分を支払う。ただし、前支払期月に支払うべきであった特別療養手当又は支給すべき事由が消滅した場合におけるその期の特別療養手当は、その支払期月でない場合であっても、支払うものとする。

    第四節 雑則

 (被認定者等に対する報告の徴収等及び受診命令に関する準用)

第三十四条 第十三条の規定は認定又は医療費若しくは療養手当の支給について、第十四条の規定は認定について準用する。この場合において、第十三条中「この章」とあるのは「次章」と、第十四条中「当該認定に係る水俣病被害者給付金の支給」とあるのは「当該認定」と読み替えるものとする。

 (医療費等の支給の一時差止め)

第三十五条 環境大臣は、医療費等の支給を受けることができる者が、前条の規定により読み替えて準用する第十三条の規定により報告若しくは文書その他の物件の提出を求められて、正当な理由がなくこれに従わず、若しくは虚偽の報告をし、若しくは虚偽の記載をした文書を提出し、又は正当な理由がなく前条の規定により読み替えて準用する第十四条の規定による命令に従わないときは、その者に対する当該医療費等の支給を一時差し止めることができる。

 (保険医療機関等に対する報告の徴収等)

第三十六条 環境大臣は、第二十九条第一項の規定による保険医療機関等に対する医療費の支払に関し必要があると認めるときは、保険医療機関等の管理者に対して必要な報告を求め、又は当該職員に、保険医療機関等についてその管理者の同意を得て、実地に診療録その他の帳簿書類を検査させることができる。

2 第十五条第二項の規定は前項の規定による検査について、同条第三項の規定は前項の規定による権限について準用する。

3 環境大臣は、保険医療機関等の管理者が、正当な理由がなく第一項の規定による報告の求めに応ぜず、若しくは虚偽の報告をし、又は正当な理由がなく同項の同意を拒んだときは、当該保険医療機関等に対する医療費の支払を一時差し止めることができる。

 (診療を行った者等に対する報告の徴収等)

第三十七条 環境大臣は、認定又は医療費若しくは療養手当の支給に関し必要があると認めるときは、当該認定の申請に係る診断若しくは当該医療費若しくは療養手当に関する診療、薬剤の支給若しくは手当を行った者又はこれを使用する者に対し、その行った診断又は診療、薬剤の支給若しくは手当につき、報告若しくは診療録その他の物件の提示を求め、又は当該職員に質問させることができる。

2 第十五条第二項の規定は前項の規定による質問について、同条第三項の規定は前項の規定による権限について準用する。

   第四章 審査請求

 (審査請求)

第三十八条 水俣病被害者給付金の支給に係る処分又は第十八条第一項の認定若しくは医療費等の支給に係る処分については、公害健康被害補償不服審査会に対し、審査請求をすることができる。

2 前項の審査請求についての行政不服審査法(昭和三十七年法律第百六十号)第三十一条の規定の適用に関しては、同条中「その庁の職員」とあるのは、「審査員又は専門委員」とする。

3 第一項の審査請求については、公害健康被害補償法第百六条第三項、第百三十一条、第百三十三条及び第百三十四条の規定を準用する。この場合において、公害健康被害補償法第百三十一条中「認定又は補償給付の支給」とあるのは「水俣病被害の救済に関する特別措置法第三条第一項の水俣病被害者給付金の支給又は同法第十八条第一項の認定若しくは同項に規定する医療費等の支給」と、公害健康被害補償法第百三十四条中「この款」とあるのは「水俣病被害の救済に関する特別措置法第三十八条第三項において読み替えて準用する第百三十一条」と読み替えるものとする。

 (審査請求と訴訟との関係)

第三十九条 水俣病被害者給付金の支給に係る処分又は第十八条第一項の認定若しくは医療費等の支給に係る処分の取消しの訴えは、当該処分についての審査請求に対する公害健康被害補償不服審査会の裁決を経た後でなければ、提起することができない。

   第五章 健康管理事業等

 (健康管理事業)

第四十条 都道府県知事は、水俣病被害者(その特定疾病につき公害健康被害補償法第四条第二項の認定を受けた者(公害健康被害補償法その他の法令の規定により同項の認定を受けたものとみなされる者を含む。)を含む。次条において同じ。)の保健指導、健康診査その他の健康管理に関する事業を行うものとする。

 (相談事業)

第四十一条 都道府県は、水俣病被害者の心身の健康、日常生活その他の事項に関する相談に応ずる事業を行うことができる。

 (第二条第一項各号に掲げる者に対する事業)

第四十二条 都道府県は、前二条に定めるもののほか、第二条第一項各号に掲げる者の健康診査その他の健康管理に関する事業及びその心身の健康に関する相談に応ずる事業を行うことができる。

 (国の援助)

第四十三条 国は、前二条の事業が円滑に行われるよう、都道府県に対する必要な助言、情報の提供その他の援助を行うものとする。

 (特別の負担をした水俣病被害者等に対する措置)

第四十四条 国は、水俣病被害の実態を明らかにするための諸活動について特別の負担をした水俣病被害者又はその遺族として環境大臣が認める者に対し、その負担を補うために必要な措置を講ずるものとする。

   第六章 調査研究

第四十五条 国は、特定疾病多発地域に居住していた者及びその子孫(以下この条において「特定疾病多発地域居住者等」という。)の健康に係る調査研究その他メチル水銀が健康に与える影響及びこれによる症状の治療に関する調査研究を積極的かつ速やかに行い、その結果を公表するものとする。

2 前項の公表に当たっては、特定疾病多発地域居住者等又はその家族の秘密又は私生活若しくは業務の平穏が害されることがないよう適切な配慮がされなければならない。

3 国は、第一項の調査研究の結果を踏まえ、特定疾病多発地域居住者等のメチル水銀中毒による健康被害の救済に関し、特定疾病の範囲の拡大その他の必要な措置を講ずるものとする。

4 特定県は、第一項の調査研究に協力するものとする。

   第七章 費用

 (国の支弁等)

第四十六条 国は、水俣病被害者給付金及び医療費等の支給に要する費用を支弁する。

2 環境大臣は、水俣病被害者給付金の支給に要する費用の負担の方法及び割合について、特定県及び原因事業者と協議の上、その同意を得て、基準を定めるものとする。

3 環境大臣は、水俣病被害者給付金を支給したときは、特定県及び原因事業者に対し、当該水俣病被害者給付金の支給に要する費用に関し前項の基準に基づき負担すべきものとして算定した額を求償することができる。

 (都道府県の支弁)

第四十七条 都道府県は、第四十条から第四十二条までの規定により都道府県が行う事業に要する費用を支弁する。

 (健康管理事業に要する費用の交付等)

第四十八条 国は、政令で定めるところにより、前条の規定により都道府県が支弁する第四十条の規定により行う事業に要する費用を交付する。

2 国は、予算の範囲内において、都道府県に対し、前条の規定により都道府県が支弁する第四十一条及び第四十二条の規定により行う事業に要する費用の一部を補助することができる。

   第八章 雑則

 (公務所等への照会)

第四十九条 環境大臣は、この法律の施行に関し必要があると認めるときは、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる。

 (期間の計算)

第五十条 この法律又はこの法律に基づく命令に規定する期間の計算については、民法の期間の計算に関する規定を準用する。

 (戸籍事項の無料証明)

第五十一条 市町村長(特別区及び地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第二百五十二条の十九第一項に規定する指定都市においては、区長とする。)は、環境大臣又は水俣病被害者給付金若しくは医療費等の支給を受けようとする者に対して、当該市(特別区を含む。)町村の条例で定めるところにより、水俣病被害者給付金の支給を受ける権利を有する者若しくは有していた者若しくは施行前死亡者又は第十八条第一項の認定を申請しようとする者、同項の認定を受けた者(死亡した者を含む。)、水俣病被害者であった者で同項の認定を受けないで死亡したもの若しくは医療費等の支給を受けることができる者の戸籍に関し、無料で証明を行うことができる。

 (権限の委任)

第五十二条 この法律に規定する環境大臣の権限の一部は、環境省令で定めるところにより、地方環境事務所長に委任することができる。

 (都道府県が処理する事務)

第五十三条 この法律に規定する環境大臣の権限に属する事務の一部は、政令で定めるところにより、都道府県知事が行うこととすることができる。

 (事務の区分)

第五十四条 第四十条の規定により都道府県が行うこととされている事務は、地方自治法第二条第九項第一号に規定する第一号法定受託事務とする。

 (経過措置)

第五十五条 この法律に基づき命令を制定し、又は改廃する場合においては、その命令で、その制定又は改廃に伴い合理的に必要と判断される範囲内において、所要の経過措置を定めることができる。

 (環境省令への委任)

第五十六条 この法律に定めるもののほか、この法律の実施に関し必要な事項は、環境省令で定める。

   第九章 罰則

第五十七条 次の各号のいずれかに該当する者は、二十万円以下の罰金に処する。

 一 第十三条(第三十四条において準用する場合を含む。)の規定により報告又は文書その他の物件の提出を求められて、これに従わず、又は虚偽の報告をし、若しくは虚偽の記載をした文書を提出した者

 二 第十五条第一項若しくは第三十七条第一項の規定により報告若しくは診療録その他の物件の提示を求められて、これに従わず、若しくは虚偽の報告をし、又はこれらの規定による質問に対して、答弁せず、若しくは虚偽の答弁をした者

第五十八条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関して、前条第二号の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、同条の刑を科する。

   附 則

 (施行期日)

第一条 この法律は、公布の日から起算して六月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。ただし、次条の規定は、公布の日から施行する。

 (施行前の準備)

第二条 第二条第三項第一号及び第二号の政令の制定の立案については、環境大臣は、この法律の施行前においても関係県知事及び関係市町村長の意見を聴くことができる。

2 第十七条第一項の政令の制定の立案については、環境大臣は、この法律の施行前においても中央環境審議会の意見を聴くことができる。

 (地方自治法の一部改正)

第三条 地方自治法の一部を次のように改正する。

  別表第一に次のように加える。

水俣病被害の救済に関する特別措置法(平成二十一年法律第▼▼▼号)

第四十条の規定により都道府県が行うこととされている事務

 (社会保険診療報酬支払基金法の一部改正)

第四条 社会保険診療報酬支払基金法の一部を次のように改正する。

  第十五条第二項中「又は障害者自立支援法(平成十七年法律第百二十三号)第七十三条第三項」を「、障害者自立支援法(平成十七年法律第百二十三号)第七十三条第三項又は水俣病被害の救済に関する特別措置法(平成二十一年法律第▼▼▼号)第三十条第一項」に、「又は障害者自立支援法第七十三条第四項」を「、障害者自立支援法第七十三条第四項又は水俣病被害の救済に関する特別措置法第三十条第二項」に改め、同条第四項中「厚生労働大臣」を「厚生労働大臣、環境大臣」に改める。

 (住民基本台帳法の一部改正)

第五条 住民基本台帳法(昭和四十二年法律第八十一号)の一部を次のように改正する。

  別表第一中百二十二の項を百二十三の項とし、百二十一の項を百二十二の項とし、百二十の項を百二十一の項とし、百十九の項の次に次のように加える。

百二十 環境省

水俣病被害の救済に関する特別措置法(平成二十一年法律第▼▼▼号)による同法第十七条第一項各号に掲げる給付の支給又は同法第十八条第一項の認定に関する事務であつて総務省令で定めるもの

 (公害健康被害の補償等に関する法律の一部改正)

第六条 公害健康被害の補償等に関する法律の一部を次のように改正する。

  第百十一条中「及び石綿による健康被害の救済に関する法律(平成十八年法律第四号)第七十五条第一項第一号」を「、石綿による健康被害の救済に関する法律(平成十八年法律第四号)第七十五条第一項第一号及び水俣病被害の救済に関する特別措置法(平成二十一年法律第▼▼▼号)第三十八条第一項」に改める。

 (環境基本法の一部改正)

第七条 環境基本法(平成五年法律第九十一号)の一部を次のように改正する。

  第四十一条第二項第三号中「及び愛がん動物用飼料の安全性の確保に関する法律(平成二十年法律第八十三号)」を「、愛がん動物用飼料の安全性の確保に関する法律(平成二十年法律第八十三号)及び水俣病被害の救済に関する特別措置法(平成二十一年法律第▼▼▼号)」に改める。

 (環境省設置法の一部改正)

第八条 環境省設置法(平成十一年法律第百一号)の一部を次のように改正する。

  第四条第十一号の次に次の一号を加える。

  十一の二 水俣病被害の救済に関すること。


     理 由

 水俣病の公式確認から五十年以上が経過した今もなお、様々な症状に苦しむ多くの水俣病の被害者が救済を求め続けている状況にかんがみ、水俣病の問題について原因事業者のみならず国及び関係する県も責任を負うべきことを踏まえ、水俣病の被害者すべてについて救済を図るため、水俣病被害者給付金及び医療費等の支給について必要な事項を定めるとともに、健康管理事業、特定疾病多発地域居住者等の健康に係る調査研究等について定める必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。


   この法律の施行に伴い必要となる経費

 この法律の施行に伴い必要となる経費は、初年度約二百五十八億円の見込みである。

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