第一八〇回
参第一五号
平成二十三年東京電力原子力事故に係る健康調査等事業の実施等に関する法律案
目次
第一章 総則(第一条・第二条)
第二章 健康調査等事業の実施(第三条−第十九条)
第三章 健康調査の結果の施策への反映等(第二十条・第二十一条)
第四章 罰則(第二十二条)
附則
第一章 総則
(目的)
第一条 この法律は、平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う東京電力株式会社福島第一原子力発電所の事故(次条において「平成二十三年東京電力原子力事故」という。)により当該原子力発電所から放出された放射性物質による被ばくに関し、周辺住民等の不安の解消及び継続的な健康管理を図り、あわせて放射線が人の健康に与える影響に関する科学的知見の充実及び活用を図るため、健康調査等事業を実施するとともに、健康調査の結果の施策への反映等について定めることを目的とする。
(定義)
第二条 この法律において「周辺住民等」とは、平成二十三年三月十一日以後に福島県又は指定都道府県(第六条第一項の規定により政令で指定された都道府県をいう。以下同じ。)の区域内に居住し、又は滞在した者(その居住又は滞在の間においてその者の胎児であった者を含む。)であって、その居住又は滞在(胎児にあっては、その母の居住又は滞在)の間の平成二十三年東京電力原子力事故により当該原子力発電所から放出された放射性物質による被ばく放射線量(同条及び第七条において「平成二十三年東京電力原子力事故に係る被ばく放射線量」という。)が政令で定める基準を超えたものをいう。
2 この法律において「健康調査等事業」とは、次に掲げる事業をいう。
一 平成二十三年東京電力原子力事故に係る放射線による周辺住民等の健康への影響に関する調査(以下「健康調査」という。)を行う上で必要な地域ごとの放射線量の調査及びその結果の公表
二 健康調査並びにその経過及び結果の公表
三 周辺住民等の健康管理と放射線が人の健康に与える影響に関する国際的に卓越した研究とを併せ行う拠点の整備
第二章 健康調査等事業の実施
(健康調査等事業の総合的実施)
第三条 国は、これまで原子力政策を推進してきたことに伴う社会的な責任を負っていることに鑑み、健康調査等事業を総合的に実施するものとする。
(基本方針)
第四条 政府は、健康調査等事業の実施に関する基本的な方針(以下この条及び第九条第一項において「基本方針」という。)を定めなければならない。
2 基本方針は、次に掲げる事項について定めるものとする。
一 健康調査を行う上で必要な地域ごとの放射線量の調査に関する基本的事項
二 健康調査に関する基本的事項
三 周辺住民等の健康管理と放射線が人の健康に与える影響に関する国際的に卓越した研究とを併せ行う拠点の整備に関する基本的事項
四 その他健康調査等事業の実施に関し必要な事項
3 経済産業大臣及び文部科学大臣は、基本方針の案を作成し、閣議の決定を求めなければならない。
4 経済産業大臣及び文部科学大臣は、基本方針の案を作成しようとするときは、あらかじめ、厚生労働大臣その他関係行政機関の長に協議するとともに、福島県知事及び指定都道府県の知事(以下「指定都道府県知事」という。)の意見を聴き、その意見を尊重しなければならない。
5 経済産業大臣及び文部科学大臣は、第三項の規定による閣議の決定があったときは、遅滞なく、基本方針を公表しなければならない。
6 前三項の規定は、基本方針の変更について準用する。
(地域ごとの放射線量の調査)
第五条 経済産業大臣及び文部科学大臣は、次条第一項の都道府県の指定並びに第八条第一項第一号及び第二号の被ばく放射線量の推計の基礎とするため、平成二十三年三月十一日以後における地域ごとの放射線量の調査を行い、その結果を公表するものとする。
(健康調査を行うべき都道府県の指定)
第六条 前条の規定による調査の結果、福島県以外の都道府県においても、平成二十三年三月十一日以後にその区域内に居住し、又は滞在した者(その居住又は滞在の間においてその者の胎児であった者を含む。)であって、その居住又は滞在(胎児にあっては、その母の居住又は滞在)の間の平成二十三年東京電力原子力事故に係る被ばく放射線量が第二条第一項の政令で定める基準を超えたものがあると認められるときは、当該都道府県を健康調査を行うべき都道府県として政令で指定するものとする。
2 経済産業大臣及び文部科学大臣は、前項の都道府県を指定する政令の制定又は改廃の立案をしようとするときは、あらかじめ、当該都道府県知事の意見を聴かなければならない。
(健康調査の実施)
第七条 福島県知事は、周辺住民等のうち平成二十三年三月十一日以後の福島県の区域内における居住(胎児にあっては、その母の居住)の間の平成二十三年東京電力原子力事故に係る被ばく放射線量が第二条第一項の政令で定める基準を超えた者に係る健康調査を行う。
2 指定都道府県知事は、周辺住民等のうち平成二十三年三月十一日以後の当該指定都道府県の区域内における居住(胎児にあっては、その母の居住)の間の平成二十三年東京電力原子力事故に係る被ばく放射線量が第二条第一項の政令で定める基準を超えた者に係る健康調査を行う。
3 経済産業大臣及び文部科学大臣は、周辺住民等のうち前二項に規定する者以外の者に係る健康調査を行う。
(健康調査の内容)
第八条 前条の規定による健康調査の内容は、対象となる者の同意を得て行われる次に掲げる調査(第二号から第五号までに掲げる調査にあっては、第一号の被ばく放射線量の測定及び推計の結果周辺住民等に該当すると認められる者に係るものに限る。)及びその結果の分析とする。
一 周辺住民等に該当するかどうかを判断するために必要な被ばく放射線量の測定及び推計(労働安全衛生法(昭和四十七年法律第五十七号)に基づき放射線業務に従事する労働者に対して行われる被ばく放射線量の測定その他の経済産業省令・文部科学省令で定める被ばく放射線量の測定が別に行われている場合にあっては、当該被ばく放射線量の測定の結果の調査。次号において同じ。)
二 定期的な被ばく放射線量の測定及び推計
三 生涯にわたる定期的な健康診断(別に行われる健康診断の項目と重複する項目については、対象となる者が受診を希望しない場合には、当該別に行われる健康診断の結果の調査)
四 生涯にわたるがんその他の政令で定める疾病への罹 五 死亡の原因の調査
2 前項第三号に掲げる健康診断には、甲状腺がんその他放射線が特に子どもの健康に与える影響として懸念される政令で定める疾病に関し必要な検診を含むものとする。
(実施計画)
第九条 福島県知事、指定都道府県知事並びに経済産業大臣及び文部科学大臣は、基本方針に基づき、第七条の規定による健康調査の実施に関する計画(以下この条において「実施計画」という。)を定めなければならない。
2 実施計画は、次に掲げる事項について定めるものとする。
一 前条第一項第一号に掲げる被ばく放射線量の測定及び推計の対象となる者並びにその方法
二 前条第一項第三号に掲げる健康診断の項目及び方法
三 その他第七条の規定による健康調査の実施に関し必要な事項
3 福島県知事及び指定都道府県知事は、実施計画を定め、又はこれを変更しようとするときは、あらかじめ、経済産業大臣及び文部科学大臣に協議し、その同意を得なければならない。この場合において、経済産業大臣及び文部科学大臣は、同意をしようとするときは、厚生労働大臣その他関係行政機関の長に協議しなければならない。
4 経済産業大臣及び文部科学大臣は、実施計画を定め、又はこれを変更しようとするときは、あらかじめ、厚生労働大臣その他関係行政機関の長に協議しなければならない。
5 福島県知事、指定都道府県知事並びに経済産業大臣及び文部科学大臣は、実施計画を定め、又はこれを変更したときは、遅滞なく、これを公表しなければならない。
(健康診断等に関する記録の保存)
第十条 福島県知事、指定都道府県知事並びに経済産業大臣及び文部科学大臣は、第八条第一項第一号から第三号までに掲げる調査を行ったときは、経済産業省令・文部科学省令で定めるところにより、当該調査に関する記録を保存しなければならない。
(健康診断等の結果の通知)
第十一条 福島県知事、指定都道府県知事並びに経済産業大臣及び文部科学大臣は、経済産業省令・文部科学省令で定めるところにより、第八条第一項第一号から第三号までに掲げる調査を受けた者に対し、当該調査の結果を通知しなければならない。
(事務の委託)
第十二条 福島県知事、指定都道府県知事並びに経済産業大臣及び文部科学大臣は、第七条の規定による健康調査の実施に関する事務のうち政令で定めるものについては、大学その他の研究機関であって次に掲げる要件に該当するものとして福島県知事が指定するもの(以下「指定研究機関」という。)に委託することができる。
一 当該事務の実施に関し専門的な能力を有すること。
二 法人にあっては、その役員又は法人の種類に応じて経済産業省令・文部科学省令で定める構成員の構成が当該事務の公正な実施に支障を及ぼすおそれがないものであること。
三 前号に定めるもののほか、当該事務が不公正になるおそれがないものとして、経済産業省令・文部科学省令で定める基準に適合するものであること。
2 指定研究機関は、前項の規定により福島県知事、指定都道府県知事並びに経済産業大臣及び文部科学大臣から健康調査の実施に関する事務を委託されたときは、これらを一体的かつ効率的に行うものとする。
3 指定研究機関は、福島県知事、指定都道府県知事並びに経済産業大臣及び文部科学大臣に対し、経済産業省令・文部科学省令で定めるところにより、第一項の規定により委託された健康調査の実施に関する事務について、報告を行うものとする。
4 第一項の規定により委託された健康調査の実施に関する事務に従事した者は、正当な理由がなく、その実施に関して知り得た秘密を漏らしてはならない。
(国の援助)
第十三条 経済産業大臣、文部科学大臣及び厚生労働大臣は、福島県知事及び指定都道府県知事に対し、第七条第一項及び第二項の規定による健康調査の実施について必要な助言その他の援助を行うよう努めるものとする。
(資料の提出その他の協力)
第十四条 福島県知事、指定都道府県知事、経済産業大臣及び文部科学大臣並びに指定研究機関は、第七条の規定による健康調査の実施に関し必要があると認めるときは、国の行政機関及び地方公共団体の長、医療機関その他の関係者に対して資料の提出その他の必要な協力を求めることができる。
(費用の負担等)
第十五条 第七条の規定による健康調査の実施に要する費用は、国が負担する。
2 国は、前項の費用のうち、原子力損害の賠償に関する法律(昭和三十六年法律第百四十七号)第二条第三項に規定する原子力事業者が同法第三条第一項の規定により賠償の責めに任ずべき損害に係る費用について、適切に損害賠償請求権を行使するものとする。
(事務の区分)
第十六条 第七条第一項、第九条から第十一条まで、第十二条第一項及び第十四条の規定により福島県が処理することとされている事務並びに第七条第二項、第九条から第十一条まで、第十二条第一項及び第十四条の規定により指定都道府県が処理することとされている事務は、地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第二条第九項第一号に規定する第一号法定受託事務とする。
(健康調査の経過及び結果の公表)
第十七条 経済産業大臣及び文部科学大臣は、政令で定めるところにより、定期的に、第七条の規定による健康調査の経過及び結果を公表するものとする。
2 前項の規定による公表に当たっては、個人情報の保護に留意しなければならない。
(健康管理及び研究の拠点整備)
第十八条 国は、指定研究機関について、医療従事者の資質の向上、多数の研究機関の研究者等の能力の活用等により、周辺住民等の健康管理と放射線が人の健康に与える影響に関する国際的に卓越した研究とを併せ行う拠点としての整備を行うものとする。
(政令への委任)
第十九条 この章に定めるもののほか、健康調査等事業の実施に関し必要な事項は、政令で定める。
第三章 健康調査の結果の施策への反映等
(健康調査の結果の施策への反映)
第二十条 国は、第七条の規定による健康調査の結果に基づき、放射線による人体の障害の防止及び放射線被ばくをした者の医療等に関し、必要な施策を講ずるものとする。この場合において、国は、放射線が人の健康に与える影響の評価及び必要な施策に関し、国民の意見を反映し、関係者相互間の情報及び意見の交換の促進を図るため、必要な措置を講ずるものとする。
(国際的な連携の確保)
第二十一条 国は、第七条の規定による健康調査の結果の提供等による被ばく放射線量の限度に関する国際的な基準の確立への寄与その他の放射線による人体の障害の防止に関する国際的な連携の確保のために必要な措置を講ずるものとする。
第四章 罰則
第二十二条 第十二条第四項の規定に違反して秘密を漏らした者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
附 則
(施行期日)
第一条 この法律は、公布の日から起算して一月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。
(経過措置)
第二条 この法律の施行に関し必要な経過措置は、政令で定める。
(地方自治法の一部改正)
第三条 地方自治法の一部を次のように改正する。
別表第一に次のように加える。
平成二十三年東京電力原子力事故に係る健康調査等事業の実施等に関する法律(平成二十四年法律第▼▼▼号) |
第七条第一項、第九条から第十一条まで、第十二条第一項及び第十四条の規定により福島県が処理することとされている事務並びに第七条第二項、第九条から第十一条まで、第十二条第一項及び第十四条の規定により指定都道府県が処理することとされている事務 |
(住民基本台帳法の一部改正)
第四条 住民基本台帳法(昭和四十二年法律第八十一号)の一部を次のように改正する。
別表第一の九十の項の次に次のように加える。
九十の二 経済産業省又は文部科学省 |
平成二十三年東京電力原子力事故に係る健康調査等事業の実施等に関する法律(平成二十四年法律第▼▼▼号)による同法第七条第三項の健康調査の実施に関する事務であつて総務省令で定めるもの |
別表第三の十二の項の次に次のように加える。
十二の二 福島県知事又は平成二十三年東京電力原子力事故に係る健康調査等事業の実施等に関する法律第二条第一項に規定する指定都道府県の知事 |
平成二十三年東京電力原子力事故に係る健康調査等事業の実施等に関する法律による同法第七条第一項又は第二項の健康調査の実施に関する事務であつて総務省令で定めるもの |
別表第五第十六号の次に次の一号を加える。
十六の二 平成二十三年東京電力原子力事故に係る健康調査等事業の実施等に関する法律による同法第七条第一項又は第二項の健康調査の実施に関する事務であつて総務省令で定めるもの
(福島復興再生特別措置法の一部改正)
第五条 福島復興再生特別措置法(平成二十四年法律第▼▼▼号)の一部を次のように改正する。
第四条第四号中「若しくは第五項」を削り、同号イ中「第二十七条の四第一項又は同法」を削り、同条第五号中「又は第五項」を削る。
第二十六条の見出しを「(健康調査等の実施)」に改め、同条中「福島県」を「前項に定めるもののほか、福島県」に、「健康管理調査(被ばく放射線量の推計、子どもに対する甲状腺がんに関する検診その他の健康管理を適切に実施するための調査をいう。以下同じ。)」を「健康管理を適切に実施するための調査(以下「健康管理調査」という。)」に改め、同条を同条第二項とし、同条に第一項として次の一項を加える。
国及び福島県は、原子力発電所の事故に係る放射線による健康への影響に関し、平成二十三年東京電力原子力事故に係る健康調査等事業の実施等に関する法律(平成二十四年法律第▼▼▼号)で定めるところにより、被ばく放射線量の推計、子どもに対する甲状腺がんに関する検診その他の調査を行うものとする。
第二十七条中「環境省令」を「経済産業省令」に改める。
第二十九条中「評価」の下に「(平成二十三年東京電力原子力事故に係る健康調査等事業の実施等に関する法律の規定によるものを除く。)」を加える。
第三十七条中「国は、」の下に「第二十六条第一項及び」を加える。
附則第四条の前の見出しを削り、同条を次のように改める。
第四条 削除
附則第五条に見出しとして「(調整規定)」を付する。
附則第十一条のうち住民基本台帳法別表第三の二十一の二の項の次に一項を加える改正規定中「(平成二十四年法律第▼▼▼号)」を削り、同改正規定の前に次のように加える。
別表第三の十二の二の項の次に次のように加える。
十二の三 福島県知事 |
福島復興再生特別措置法(平成二十四年法律第▼▼▼号)による同法第二十六条第二項の健康管理調査の実施に関する事務であつて総務省令で定めるもの |
附則第十一条中住民基本台帳法別表第三に一項を加える改正規定を次のように改める。
別表第五第十六号の二の次に次の一号を加える。
十六の三 福島復興再生特別措置法による同法第二十六条第二項の健康管理調査の実施に関する事務であつて総務省令で定めるもの
附則第十一条中住民基本台帳法別表第五に一号を加える改正規定を削る。
理 由
平成二十三年東京電力原子力事故により当該原子力発電所から放出された放射性物質による被ばくに関し、周辺住民等の不安の解消及び継続的な健康管理を図り、あわせて放射線が人の健康に与える影響に関する科学的知見の充実及び活用を図るため、健康調査等事業を実施するとともに、健康調査の結果の施策への反映等について定める必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。
この法律の施行に伴い必要となる経費
この法律の施行に伴い必要となる経費は、約千五百億円の見込みである。