衆議院

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第一八〇回

閣第一二号

   原子力安全調査委員会設置法案

目次

 第一章 総則(第一条・第二条)

 第二章 所掌事務及び組織等(第三条−第十四条)

 第三章 原子力事故等調査(第十五条−第二十一条)

 第四章 雑則(第二十二条−第二十七条)

 附則

   第一章 総則

 (目的及び設置)

第一条 原子力の研究、開発及び利用における安全の確保を確実なものとするため、環境省に原子力安全調査委員会(以下「委員会」という。)を置く。

 (定義)

第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。

 一 原子力 原子力基本法(昭和三十年法律第百八十六号)第三条第一号に規定する原子力をいう。

 二 核燃料物質 原子力基本法第三条第二号に規定する核燃料物質をいう。

 三 核原料物質 原子力基本法第三条第三号に規定する核原料物質をいう。

 四 原子力事故 原子力事業所外への放射線又は放射性物質の放出、放射線の影響による人の死傷その他の原子力事業者の原子炉の運転等により生じた事故であって、その発生し、又は発生するおそれがある危害が重大であるものとして、当該危害の内容又は事故の態様に関し環境省令で定める要件に該当するものをいう。

 五 原子力事故等 次に掲げるものをいう。

  イ 原子力事故

  ロ 原子力事故に準ずる事象又は原子力事故に至るおそれのある異常な事象として、その危害の内容又は事象の態様に関し環境省令で定める要件に該当するもの

 六 原子力事業者 次に掲げる者をいう。

  イ 核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(昭和三十二年法律第百六十六号。以下「原子炉等規制法」という。)第十三条第一項の規定に基づく加工の事業の許可(原子炉等規制法第七十六条の規定により読み替えて適用される同項の規定による国に対する承認を含む。)を受けた者

  ロ 原子炉等規制法第二十三条第一項の規定に基づく原子炉の設置の許可(原子炉等規制法第七十六条の規定により読み替えて適用される同項の規定による国に対する承認を含む。)を受けた者(原子炉等規制法第三十九条第五項の規定により原子炉設置者とみなされた者を含む。)

  ハ 原子炉等規制法第二十三条の二第一項の規定に基づく外国原子力船に設置した原子炉に係る許可を受けた者

  ニ 原子炉等規制法第四十三条の四第一項の規定に基づく貯蔵の事業の許可(原子炉等規制法第七十六条の規定により読み替えて適用される同項の規定による国に対する承認を含む。)を受けた者

  ホ 原子炉等規制法第四十四条第一項の規定に基づく再処理の事業の指定(原子炉等規制法第七十六条の規定により読み替えて適用される同項の規定による国に対する承認を含む。)を受けた者

  ヘ 原子炉等規制法第五十一条の二第一項の規定に基づく廃棄の事業の許可(原子炉等規制法第七十六条の規定により読み替えて適用される同項の規定による国に対する承認を含む。)を受けた者

  ト 原子炉等規制法第五十二条第一項の規定に基づく核燃料物質の使用の許可(原子炉等規制法第七十六条の規定により読み替えて適用される同項の規定による国に対する承認を含む。)を受けた者

  チ イからトまでに掲げる者から委託を受けて、核燃料物質又は核燃料物質によって汚染された物(原子核分裂生成物を含む。)の運搬又は貯蔵を行う者

 七 原子力事業者等 次に掲げる者をいう。

  イ 原子力事業者

  ロ 原子炉等規制法第三条第一項の規定に基づく製錬の事業の指定を受けた者、原子炉等規制法第十二条の七第一項に規定する旧製錬事業者等、原子炉等規制法第二十二条の九第一項に規定する旧加工事業者等、原子炉等規制法第四十三条の三の三第一項に規定する旧原子炉設置者等、原子炉等規制法第四十三条の二十八第一項に規定する旧使用済燃料貯蔵事業者等、原子炉等規制法第五十一条第一項に規定する旧再処理事業者等、原子炉等規制法第五十一条の二十六第一項に規定する旧廃棄事業者等及び原子炉等規制法第五十七条の七第一項に規定する旧使用者等

 八 原子炉の運転等 原子力損害の賠償に関する法律(昭和三十六年法律第百四十七号)第二条第一項に規定する原子炉の運転等をいう。

 九 原子力事業所 原子力事業者が原子炉の運転等を行う工場又は事業所(原子炉等規制法第二十三条の二第一項に規定する原子力船を含む。)をいう。

   第二章 所掌事務及び組織等

 (所掌事務)

第三条 委員会は、次に掲げる事務をつかさどる。

 一 原子力の安全の確保に関する規制その他の施策又は措置に関し、原子力基本法第二条の基本方針を踏まえ、その実施状況に関する調査を行うこと。

 二 前号の調査の結果に基づき、原子力の安全の確保を確実なものとするため必要があると認めるときは、講ずべき施策又は措置について環境大臣若しくは原子力規制庁長官に対し勧告し、又は関係行政機関の長に意見を述べること。

 三 原子力事故等の原因及び原子力事故等により発生した被害の原因を究明するための調査(以下「原子力事故等調査」という。)を行うこと。

 四 原子力事故等調査の結果に基づき、原子力事故等の防止及び原子力事故等が発生した場合における被害の軽減のため講ずべき施策又は措置について環境大臣若しくは原子力規制庁長官又は関係行政機関の長に対し勧告すること。

 五 原子力事故等の防止及び原子力事故等が発生した場合における被害の軽減のため講ずべき施策又は措置その他原子力の安全の確保を確実なものとするため講ずべき施策又は措置について環境大臣若しくは原子力規制庁長官又は関係行政機関の長に意見を述べること。

 六 前各号に掲げる事務を行うために必要な基礎的な調査及び研究を行うこと。

 七 その他法律によりその権限に属させられた事項を処理すること。

 (職権の行使)

第四条 委員会の委員は、独立してその職権を行う。

 (組織)

第五条 委員会は、委員五人をもって組織する。

2 委員のうち二人は、非常勤とすることができる。

 (委員の任命)

第六条 委員は、委員会の所掌事務の遂行につき科学的かつ公正な判断を行うことができると認められる者のうちから、両議院の同意を得て、環境大臣が任命する。

2 委員の任期が満了し、又は欠員を生じた場合において、国会の閉会又は衆議院の解散のために両議院の同意を得ることができないときは、環境大臣は、前項の規定にかかわらず、同項に定める資格を有する者のうちから、委員を任命することができる。

3 前項の場合においては、任命後最初の国会で両議院の事後の承認を得なければならない。この場合において、両議院の事後の承認を得られないときは、環境大臣は、直ちにその委員を罷免しなければならない。

4 次の各号のいずれかに該当する者は、委員となることができない。

 一 破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者

 二 禁錮以上の刑に処せられた者

 三 原子力事業者等若しくは原子力事業所における原子炉の運転等に使用する設備に係る工事(溶接を含む。)の請負若しくは設計その他環境省令で定める役務の提供若しくは当該設備の製造、改造、整備若しくは販売の事業を営む者又はこれらの者が法人(国立大学法人法(平成十五年法律第百十二号)第二条第一項に規定する国立大学法人、地方独立行政法人法(平成十五年法律第百十八号)第六十八条第一項に規定する公立大学法人及び私立大学(学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第二条第二項に規定する私立学校である大学をいう。)を除く。)であるときはその役員(いかなる名称によるかを問わず、これと同等以上の職権又は支配力を有する者を含む。)若しくはこれらの者の使用人その他の従業者

 四 前号に規定する原子力事業者等の団体の役員(いかなる名称によるかを問わず、これと同等以上の職権又は支配力を有する者を含む。)又は使用人その他の従業者

 (任期)

第七条 委員の任期は、三年とする。ただし、補欠の委員の任期は、前任者の残任期間とする。

2 委員は、再任されることができる。

3 委員の任期が満了したときは、当該委員は、後任者が任命されるまで引き続きその職務を行うものとする。

 (罷免)

第八条 環境大臣は、委員が第六条第四項各号のいずれかに該当するに至ったときは、これを罷免しなければならない。

2 環境大臣は、委員が心身の故障のため職務の執行ができないと認めるとき、又は委員に職務上の義務違反その他委員たるに適しない非行があると認めるときは、両議院の同意を得て、これを罷免することができる。

 (服務)

第九条 委員は、職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後も、同様とする。

2 委員は、在任中、政党その他の政治的団体の役員となり、又は積極的に政治運動をしてはならない。

3 常勤の委員は、在任中、環境大臣の許可のある場合を除くほか、報酬を得て他の職務に従事し、又は営利事業を営み、その他金銭上の利益を目的とする業務を行ってはならない。

 (給与)

第十条 委員の給与は、別に法律で定める。

 (委員長)

第十一条 委員会に委員長を置き、委員の互選によって常勤の委員のうちからこれを定める。

2 委員長は、会務を総理し、委員会を代表する。

3 委員長に事故があるときは、あらかじめその指名する常勤の委員が、その職務を代理する。

 (会議)

第十二条 委員会は、委員長が招集する。

2 委員会は、委員長及び二人以上の委員の出席がなければ、会議を開き、議決をすることができない。

3 委員会の議事は、出席者の過半数でこれを決し、可否同数のときは、委員長の決するところによる。

4 委員長に事故がある場合の第二項の規定の適用については、前条第三項の規定により委員長の職務を代理する常勤の委員は、委員長とみなす。

 (専門委員)

第十三条 委員会に、専門の事項を調査させるため、専門委員を置くことができる。

2 専門委員は、学識経験のある者のうちから、委員会の意見を聴いて、環境大臣が任命する。

3 専門委員は、非常勤とする。

 (職務従事の制限)

第十四条 委員会は、委員又は専門委員が原子力事故等の原因(原子力事故等により発生した被害の原因を含む。第二十条第一項第四号において同じ。)に関係があるおそれのある者と密接な関係を有すると認めるときは、当該委員又は専門委員を当該原子力事故等に関する原子力事故等調査に従事させてはならない。

2 前項の委員は、当該原子力事故等調査に関する委員会の会議に出席することができない。

   第三章 原子力事故等調査

 (原子力事故等調査)

第十五条 委員会は、原子力事故等調査を行うため必要があると認めるときは、次に掲げる処分をすることができる。

 一 原子力事業者、原子力事故等により発生した被害の拡大の防止のための措置を講じた者その他の原子力事故等の関係者(以下単に「関係者」という。)から報告を徴すること。

 二 原子力事業所その他の原子力事故等の現場、原子力事業者の事務所その他の必要と認める場所に立ち入って、帳簿、書類その他の原子力事故等に関係のある物件(以下「関係物件」という。)を検査し、関係者に質問し、又は試験のため必要な最小限度の量に限り、核原料物質、核燃料物質その他の必要な試料を収去すること。

 三 関係者に出頭を求めて質問すること。

 四 関係物件の所有者、所持者若しくは保管者に対し当該物件の提出を求め、又は提出物件を留め置くこと。

 五 関係物件の所有者、所持者若しくは保管者に対し当該物件の保全を命じ、又はその移動を禁止すること。

 六 原子力事業所その他の原子力事故等の現場に、公務により立ち入る者及び委員会が支障がないと認める者以外の者が立ち入ることを禁止すること。

2 委員会は、必要があると認めるときは、委員又は専門委員に前項各号に掲げる処分をさせることができる。

3 前項の規定により第一項第二号に掲げる処分をする者は、その身分を示す証票を携帯し、かつ、関係者の請求があるときは、これを提示しなければならない。

4 第一項又は第二項の規定による処分の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない。

 (調査等の委託)

第十六条 委員会は、原子力事故等調査を行うため必要があると認めるときは、当該原子力事故等調査に係る調査又は研究の実施に関する事務の一部を、独立行政法人(独立行政法人通則法(平成十一年法律第百三号)第二条第一項に規定する独立行政法人をいう。第二十二条において同じ。)、一般社団法人若しくは一般財団法人、事業者その他の民間の団体又は学識経験を有する者に委託することができる。

2 前項の規定により事務の委託を受けた者若しくはその役員若しくは職員又はこれらの職にあった者は、当該委託に係る事務に関して知り得た秘密を漏らしてはならない。

3 第一項の規定により事務の委託を受けた者又はその役員若しくは職員であって当該委託に係る事務に従事するものは、刑法(明治四十年法律第四十五号)その他の罰則の適用については、法令により公務に従事する職員とみなす。

 (原子力事故等の発生の通報)

第十七条 環境大臣は、原子力災害対策特別措置法(平成十一年法律第百五十六号)第十条第一項の規定による通報があったとき、又は原子力事故等が発生したことを知ったときは、直ちに委員会にその旨を通報しなければならない。

 (環境大臣の援助)

第十八条 委員会は、原子力事故等調査を行うため必要があると認めるときは、環境大臣に対し、原子力事故等についての事実の調査又は物件の収集の援助その他の必要な援助を求めることができる。

2 環境大臣は、前項の規定により原子力事故等についての事実の調査の援助を求められた場合において、必要があると認めるときは、その職員に第十五条第一項第二号に掲げる処分をさせることができる。

3 環境大臣は、原子力事故等が発生したことを知ったときは、直ちに当該原子力事故等について事実の調査、物件の収集その他の委員会が原子力事故等調査を円滑に開始することができるための適切な措置をとらなければならない。

4 環境大臣は、前項の規定による措置をとるため必要があると認めるときは、その職員に第十五条第一項各号に掲げる処分をさせることができる。

5 第十五条第三項及び第四項の規定は、第二項又は前項の規定により職員が処分をする場合について準用する。

 (原因関係者等の意見の聴取)

第十九条 委員会は、原子力事故等調査を終える前に、原子力事故等の原因又は原子力事故等により発生した被害の原因に関係があると認められる者に対し、意見を述べる機会を与えなければならない。

2 委員会は、必要があると認めるときは、原子力事故等調査を終える前に、意見聴取会を開き、関係者又は学識経験のある者から、当該原子力事故等に関して意見を聴くことができる。

3 委員会は、発生した原子力事故等のうち、国民が一般的関心を有するものと認められるものについては、前項の意見聴取会を開かなければならない。

 (報告書等)

第二十条 委員会は、原子力事故等調査を終えたときは、当該原子力事故等に関する次の事項を記載した報告書を作成し、これを環境大臣に提出するとともに、公表しなければならない。

 一 原子力事故等調査の経過

 二 認定した事実

 三 事実を認定した理由

 四 原因

2 委員会は、前項の報告書を作成するに当たり、少数意見があるときは、当該報告書にこれを付記するものとする。

3 委員会は、原子力事故等調査を終える前においても、原子力事故等が発生した日から一年以内に原子力事故等調査を終えることが困難であると見込まれる状況にあることその他の事由により必要があると認めるときは、原子力事故等調査の経過について、環境大臣に報告するとともに、公表するものとする。

 (環境大臣等への勧告)

第二十一条 委員会は、原子力事故等調査を終えた場合において、必要があると認めるときは、その結果に基づき、原子力事故等の防止又は原子力事故等が発生した場合における被害の軽減のため講ずべき施策又は措置について環境大臣若しくは原子力規制庁長官又は関係行政機関の長に勧告することができる。

2 環境大臣若しくは原子力規制庁長官又は関係行政機関の長は、前項の規定による勧告に基づき講じた施策又は措置について委員会に通報しなければならない。

   第四章 雑則

 (関係行政機関等の協力)

第二十二条 委員会は、その所掌事務を遂行するため必要があると認めるときは、環境大臣若しくは原子力規制庁長官、関係行政機関の長、関係地方公共団体の長、関係する独立行政法人の長又は関係する地方独立行政法人(地方独立行政法人法第二条第一項に規定する地方独立行政法人をいう。)の理事長に対し、資料又は情報の提供その他の必要な協力を求めることができる。

 (政令への委任)

第二十三条 この法律に定めるもののほか、委員会に関し必要な事項は、政令で定める。

 (不利益取扱いの禁止)

第二十四条 何人も、第十五条第一項若しくは第二項又は第十八条第二項若しくは第四項の規定による処分に応ずる行為をしたことを理由として、解雇その他の不利益な取扱いを受けない。

 (罰則)

第二十五条 第十六条第二項の規定に違反した者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

第二十六条 次の各号のいずれかに該当する者は、三十万円以下の罰金に処する。

 一 第十五条第一項第一号若しくは第二項又は第十八条第四項の規定による報告の徴取に対し虚偽の報告をした者

 二 第十五条第一項第二号若しくは第二項若しくは第十八条第二項若しくは第四項の規定による検査若しくは試料の提供を拒み、妨げ、若しくは忌避し、又はこれらの規定による質問に対し虚偽の陳述をした者

 三 第十五条第一項第三号若しくは第二項又は第十八条第四項の規定による質問に対し虚偽の陳述をした者

 四 第十五条第一項第四号若しくは第二項又は第十八条第四項の規定による処分に違反して物件を提出しない者

 五 第十五条第一項第五号若しくは第二項又は第十八条第四項の規定による処分に違反して物件を保全せず、又は移動した者

第二十七条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、前条の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対して、同条の刑を科する。

   附 則

 (施行期日)

1 この法律は、平成二十四年四月一日から施行する。ただし、第六条第一項中両議院の同意を得ることに係る部分は、公布の日から施行する。

 (最初の委員の任命)

2 この法律の施行後最初に任命される委員会の委員の任命について、国会の閉会又は衆議院の解散のために両議院の同意を得ることができないときは、第六条第二項及び第三項の規定を準用する。

 (政令への委任)

3 前項に定めるもののほか、この法律の施行に関し必要な経過措置は、政令で定める。


     理 由

 原子力の研究、開発及び利用における安全の確保を確実なものとするため、原子力の安全の確保に関する施策又は措置の実施状況及び原子力事故等の原因等について調査その他の事務を行うことを任務とする原子力安全調査委員会を設置することとし、その所掌事務、組織等を定める必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。

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