衆議院

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第一八三回

参第二七号

   体罰等の防止に関する対策の推進に関する法律案

目次

 第一章 総則(第一条−第六条)

 第二章 体罰等の防止に関する施策(第七条・第八条)

 第三章 体罰等の防止に関する措置(第九条−第十六条)

 第四章 教員等の指導についての留意事項等(第十七条)

 附則

   第一章 総則

 (目的)

第一条 この法律は、体罰等の防止に関する対策に関し、基本理念を定め、国及び地方公共団体等の責務を明らかにするとともに、体罰等の防止に関する対策の基本となる事項を定めることにより、体罰等の防止に関する対策を総合的に推進し、あわせて教員等の指導についての留意事項等を定め、もって児童生徒等の権利利益の擁護並びにその健全な心身の成長及び人格の形成に資することを目的とする。

 (定義)

第二条 この法律において「体罰等」とは、教員等がその職務に関して児童生徒等に対して行う身体に対する侵害行為、肉体的苦痛を与える行為、暴言その他の教育的指導の範囲を逸脱する行為をいう。

2 この法律において「児童生徒等」とは、小学校、中学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校(幼稚部を除く。)及び高等専門学校並びに専修学校(以下「学校」という。)に在学する児童、生徒又は学生をいう。

3 この法律において「教員等」とは、学校の校長、教員若しくは職員であって児童生徒等に対する指導を行うもの又はこれらの者以外の者であって学校の教育活動において児童生徒等に対する指導を行うもの(第六条第三項において「外部指導者」という。)をいう。

4 この法律において「保護者」とは、次の各号に掲げる児童生徒等の区分に応じ、当該各号に定める者をいう。

 一 未成年である児童生徒等 当該児童生徒等に対して親権を行う者(親権を行う者のないときは、未成年後見人)

 二 成年に達した児童生徒等 当該児童生徒等が父母その他の在学中に必要な連絡を受ける者としてその在学する学校に届け出た者

 (基本理念)

第三条 体罰等の防止に関する対策は、体罰等が、教育活動において適切と認められる効果を有しない上、児童生徒等の尊厳及び健全に成育する権利を害するものであるとの認識の下に、児童生徒等の権利利益を擁護することを旨として行われなければならない。

2 体罰等の防止に関する対策は、教員等の指導力(児童生徒等に対する指導を効果的に行う能力をいう。以下同じ。)の向上及び児童生徒等に対する組織的な指導の充実に資することを旨として行われなければならない。

 (国及び地方公共団体の責務)

第四条 国は、前条の基本理念(次項において「基本理念」という。)にのっとり、体罰等の防止に関する対策を総合的に策定し、及び実施する責務を有する。

2 地方公共団体は、基本理念にのっとり、体罰等の防止に関する対策に関し、国と協力しつつ、当該地域の状況に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する。

 (学校の責務)

第五条 学校は、体罰等が、教育活動において適切と認められる効果を有しない上、児童生徒等の尊厳及び健全に成育する権利を害するものであることについて教員等の認識を深めるために必要な措置を講ずるものとする。

2 学校は、体罰等の防止に資するよう、児童生徒等に対して組織的な指導を行うための体制及び教員等相互間の連絡体制の整備に努めなければならない。

3 学校は、体罰等防止委員会(第十五条第一項の体罰等防止委員会をいう。第九条第二項において同じ。)、法務局又は地方法務局、都道府県警察、児童生徒等の権利利益の擁護に資する活動を行う民間団体その他の関係者と連携を図りつつ、体罰等の早期発見に取り組むとともに、体罰等が疑われる事実を把握したときは、適切かつ迅速にこれに対処するものとする。

 (教員等の責務)

第六条 教員等は、体罰等が、教育活動において適切と認められる効果を有しない上、児童生徒等の尊厳及び健全に成育する権利を害するものであることについての認識を深めるものとする。

2 学校の校長及び教員は、指導力の向上のため、絶えず研究と修養に努めなければならない。

3 学校の職員であって児童生徒等に対する指導を行うもの及び外部指導者は、指導力の向上に努めなければならない。

   第二章 体罰等の防止に関する施策

 (教員等の指導力の向上等)

第七条 国及び地方公共団体は、教員等の指導力の向上及び児童生徒等に対して組織的な指導を行うための体制の充実を図るため、研修の充実、児童生徒等に対する指導の実施に関する基準の策定及びその公表その他の必要な施策を講じなければならない。

2 国は、体罰等の防止に関する対策の策定及び実施に資するため、教員等の行為が体罰等に該当するかどうかを判断するための基準に関する事項を定めるものとする。

 (調査研究の推進等)

第八条 国は、体罰等の防止に関する対策の策定及び実施に資するため、体罰等の事例についての調査研究を推進するものとする。

2 国及び地方公共団体は、教員等の指導力を向上させるための施策を講ずるに当たっては、前条第二項の規定により定められた基準に関する事項を踏まえるとともに、前項の調査研究により得られた知見を適切に活用するものとする。

   第三章 体罰等の防止に関する措置

 (体罰等の早期発見等)

第九条 学校は、体罰等を早期に発見するため、児童生徒等に対する質問票を用いた定期的な調査その他の適切な措置を講ずるものとする。

2 学校の設置者は、児童生徒等及びその保護者からの体罰等に係る通報及び相談を受けるための体制を整備するとともに、体罰等防止委員会、法務局又は地方法務局、都道府県警察、児童生徒等の権利利益の擁護に資する活動を行う民間団体その他の体罰等に関する相談を受ける機関等を周知するものとする。

 (体罰等の実態の把握)

第十条 学校は、教員等に対して体罰等が疑われる事実を発見した場合に校長に直ちに報告するよう求める等、体罰等の実態を把握するために必要な措置を講ずるとともに、当該措置の内容を当該学校の設置者に報告するものとする。

2 学校の校長は、教員等から体罰等が疑われる事実を発見した旨の報告を受けた場合その他の体罰等が疑われる事実を把握した場合には、直ちに当該学校の設置者に報告するものとする。

3 学校の設置者は、その設置する学校の校長に対して体罰等が疑われる事実を把握した場合に直ちに報告するよう求める等、体罰等の実態を把握するために必要な措置を講ずるものとする。

 (学校による体罰等への対処)

第十一条 学校は、体罰等が疑われる事実を把握したときは、速やかに、体罰等の有無についての調査を行うとともに、その結果を当該学校の設置者に報告するものとする。

2 学校は、体罰等があると認めたときは、体罰等を行った教員等の指導力の改善を図るための措置その他の体罰等の再発防止のために必要な措置を講ずるとともに、当該措置の内容を当該学校の設置者に報告するものとする。

3 学校は、体罰等があると認めたときは、児童生徒等の発達又は心理に関し専門的な知識を有する者の協力を得つつ、体罰等を受けた児童生徒等又はその保護者に対し、必要な支援その他の措置を行うものとする。

4 学校は、教員等の行為が体罰等に該当するかどうかを判断するに当たっては、当該行為の目的及び態様、当該行為が行われた際の状況、当該行為の起因となった児童生徒等の行為の内容及び性質、当該児童生徒等の年齢及び心身の発達状況その他の事情を総合的に考慮するものとする。

 (学校の設置者による体罰等への対処)

第十二条 学校の設置者は、体罰等が疑われる事実を把握したときは、速やかに、自ら体罰等の有無についての調査を行い、又はその設置する学校に対し体罰等の有無についての調査報告を求めるものとする。

2 学校の設置者は、体罰等があると認めたときは、体罰等を行った教員等の指導力の改善を図るための措置、人事に関する権限の適切な行使その他の体罰等の再発防止のために必要な措置を講ずるものとする。

3 学校の設置者は、体罰等があると認めたときは、必要に応じ、その設置する学校に対し、必要な支援を行い、又は必要な措置を講ずることを指示するものとする。

4 前条第四項の規定は、学校の設置者が教員等の行為が体罰等に該当するかどうかを判断する場合について準用する。

 (事実関係を正確に把握するための調査体制の整備)

第十三条 学校及びその設置者は、第十一条第一項又は前条第一項の規定により体罰等が疑われる事実に係る調査を行う場合において隠蔽を防止しつつ事実関係を正確に把握するため、複数の者によって調査を行う体制を整備するものとする。

2 学校及びその設置者は、第十一条第一項又は前条第一項の規定により体罰等が疑われる事実に係る調査を行う場合において隠蔽を防止しつつ事実関係を正確に把握するため、公正な第三者が参加して調査を行う体制を整備するよう努めるものとする。

 (保護者に対する情報提供)

第十四条 学校及びその設置者は、体罰等が疑われる事実に関係する児童生徒等の保護者に対し、適時に、かつ、適切な方法で、その事実に関する情報の提供を行うものとする。

 (体罰等防止委員会)

第十五条 体罰等の防止に資するため、都道府県の教育委員会の附属機関として体罰等防止委員会を置く。

2 体罰等防止委員会の委員は、人格が高潔で、教育又は児童生徒等の権利利益の擁護に関し専門的知識を有する者のうちから、都道府県の教育委員会が任命する。

3 体罰等防止委員会は、次に掲げる業務を行うものとする。

 一 体罰等に関する通報を受け、又は相談に応じること。

 二 通報又は相談のあった体罰等に関する事案について、必要に応じて速やかに当該事案に係る学校及びその設置者(当該学校が国立大学法人法(平成十五年法律第百十二号)第二条第一項に規定する国立大学法人又は独立行政法人国立高等専門学校機構の設置する学校である場合にあっては当該事案に係る学校及びその設置者並びに文部科学大臣、当該学校が地方独立行政法人法(平成十五年法律第百十八号)第六十八条第一項に規定する公立大学法人の設置する学校である場合にあっては当該事案に係る学校及びその設置者並びに次条第二項の地方公共団体の長、当該学校が学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第二条第一項に規定する国及び地方公共団体以外の者の設置する学校である場合にあっては当該事案に係る学校及びその設置者並びに次条第三項の所轄庁)に対し情報の提供を行うこと。

 三 都道府県の教育委員会の要請に応じ、当該都道府県が設置する学校における体罰等に関する事案について調査を行うこと。

 四 都道府県の教育委員会に対し、当該都道府県が設置する学校における体罰等の問題の解決を図るための方策の提言を行うこと。

 五 都道府県の教育委員会の諮問に応じ、都道府県の教育委員会が体罰等の防止に関し当該都道府県の区域内の市町村に対して行う指導、助言及び援助について意見を述べること。

 六 都道府県の教育委員会の要請に応じ、都道府県の教育委員会が体罰等の防止に関し当該都道府県の区域内の市町村に対して行う指導、助言又は援助の実施に資するため、当該都道府県の区域内の市町村が設置する学校における体罰等に関する事案について、地方教育行政の組織及び運営に関する法律(昭和三十一年法律第百六十二号)第五十三条第一項の規定に基づく調査を行うこと。

 七 前各号に掲げるもののほか、都道府県の教育委員会規則によりその権限に属させられた事項を処理すること。

4 前二項に定めるもののほか、体罰等防止委員会の組織及び委員その他体罰等防止委員会に関し必要な事項については、都道府県の教育委員会規則で定める。

 (地方公共団体以外の者が設置する学校に対する措置)

第十六条 文部科学大臣は、国立大学法人法第二条第一項に規定する国立大学法人又は独立行政法人国立高等専門学校機構の設置する学校に在学する児童生徒等について体罰等により生じている状況が深刻かつ重大なものであると認めるときは、当該学校による当該体罰等に関する事案への対処に関し、当該学校の設置者に対し、報告を求めるとともに、必要な措置をとるべきことを要請することができる。

2 地方公共団体の長は、地方独立行政法人法第六十八条第一項に規定する公立大学法人の設置する学校に在学する児童生徒等について体罰等により生じている状況が深刻かつ重大なものであると認めるときは、当該学校による当該体罰等に関する事案への対処に関し、当該学校の設置者に対し、報告を求めるとともに、必要な措置をとるべきことを要請することができる。

3 学校教育法第二条第一項に規定する国及び地方公共団体以外の者の設置する学校の設置者の所轄庁(私立学校法(昭和二十四年法律第二百七十号)第四条に規定する所轄庁である文部科学大臣又は都道府県知事をいい、構造改革特別区域法(平成十四年法律第百八十九号)第十二条第二項に規定する学校設置会社又は同法第十三条第二項に規定する学校設置非営利法人にあっては、それぞれ同法第十二条第一項又は同法第十三条第一項の認定を受けた地方公共団体の長(高等専門学校については、文部科学大臣)とする。)は、当該学校に在学する児童生徒等について体罰等により生じている状況が深刻かつ重大なものであると認めるときは、当該学校による当該体罰等に関する事案への対処に関し、当該学校の設置者に対し、報告を求めるとともに、必要な措置をとるべきことを要請することができる。

   第四章 教員等の指導についての留意事項等

第十七条 教員等は、体罰等を行っていない場合であっても教員等の指導が児童生徒等の心身に深刻な影響を及ぼす場合があることに留意しつつ、児童生徒等に対する指導を行うよう努めるものとする。

2 教員等は、児童生徒等に対する指導を行うに当たっては、児童生徒等の特性に応じた指導の方法をとるよう努めるほか、指導を受けた後の児童生徒等の心情にも配慮するよう努めなければならない。

3 国は、国及び地方公共団体が行う教員等の指導力を向上させるための施策の充実に資するため、教員等の指導が児童生徒等の心身に深刻な影響を及ぼした事例についての調査研究を推進するものとする。

   附 則

 この法律は、公布の日から起算して三月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。


     理 由

 児童生徒等の権利利益の擁護並びにその健全な心身の成長及び人格の形成に資するため、体罰等の防止に関する対策に関し、基本理念を定め、国及び地方公共団体等の責務を明らかにするとともに、体罰等の防止に関する対策の基本となる事項を定めることにより、体罰等の防止に関する対策を総合的に推進する等の必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。

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