第一八六回
衆第二三号
アレルギー疾患対策基本法案
目次
第一章 総則(第一条−第十条)
第二章 アレルギー疾患対策基本指針等(第十一条−第十三条)
第三章 基本的施策
第一節 アレルギー疾患の重症化の予防及び症状の軽減(第十四条・第十五条)
第二節 アレルギー疾患医療の均てん化の促進等(第十六条・第十七条)
第三節 アレルギー疾患を有する者の生活の質の維持向上(第十八条)
第四節 研究の推進等(第十九条)
第五節 地方公共団体が行う基本的施策(第二十条)
第四章 アレルギー疾患対策推進協議会(第二十一条・第二十二条)
附則
第一章 総則
(目的)
第一条 この法律は、アレルギー疾患を有する者が多数存在すること、アレルギー疾患には急激な症状の悪化を繰り返し生じさせるものがあること、アレルギー疾患を有する者の生活の質が著しく損なわれる場合が多いこと等アレルギー疾患が国民生活に多大な影響を及ぼしている現状及びアレルギー疾患が生活環境に係る多様かつ複合的な要因によって発生し、かつ、重症化することに鑑み、アレルギー疾患対策の一層の充実を図るため、アレルギー疾患対策に関し、基本理念を定め、国、地方公共団体、医療保険者、国民、医師その他の医療関係者及び学校等の設置者又は管理者の責務を明らかにし、並びにアレルギー疾患対策の推進に関する指針の策定等について定めるとともに、アレルギー疾患対策の基本となる事項を定めることにより、アレルギー疾患対策を総合的に推進することを目的とする。
(定義)
第二条 この法律において「アレルギー疾患」とは、気管支ぜん息、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、花粉症、食物アレルギーその他アレルゲンに起因する免疫反応による人の生体に有害な局所的又は全身的反応に係る疾患であって政令で定めるものをいう。
(基本理念)
第三条 アレルギー疾患対策は、次に掲げる事項を基本理念として行われなければならない。
一 アレルギー疾患が生活環境に係る多様かつ複合的な要因によって発生し、かつ、重症化することに鑑み、アレルギー疾患の重症化の予防及び症状の軽減に資するため、第三章に定める基本的施策その他のアレルギー疾患対策に関する施策の総合的な実施により生活環境の改善を図ること。
二 アレルギー疾患を有する者が、その居住する地域にかかわらず等しく科学的知見に基づく適切なアレルギー疾患に係る医療(以下「アレルギー疾患医療」という。)を受けることができるようにすること。
三 国民が、アレルギー疾患に関し、適切な情報を入手することができるとともに、アレルギー疾患にかかった場合には、その状態及び置かれている環境に応じ、生活の質の維持向上のための支援を受けることができるよう体制の整備がなされること。
四 アレルギー疾患に関する専門的、学際的又は総合的な研究を推進するとともに、アレルギー疾患の重症化の予防、診断、治療等に係る技術の向上その他の研究等の成果を普及し、活用し、及び発展させること。
(国の責務)
第四条 国は、前条の基本理念(次条において「基本理念」という。)にのっとり、アレルギー疾患対策を総合的に策定し、及び実施する責務を有する。
(地方公共団体の責務)
第五条 地方公共団体は、基本理念にのっとり、アレルギー疾患対策に関し、国との連携を図りつつ、自主的かつ主体的に、その地域の特性に応じた施策を策定し、及び実施するよう努めなければならない。
(医療保険者の責務)
第六条 医療保険者(介護保険法(平成九年法律第百二十三号)第七条第七項に規定する医療保険者をいう。)は、国及び地方公共団体が講ずるアレルギー疾患の重症化の予防及び症状の軽減に関する啓発及び知識の普及等の施策に協力するよう努めなければならない。
(国民の責務)
第七条 国民は、アレルギー疾患に関する正しい知識を持ち、アレルギー疾患の重症化の予防及び症状の軽減に必要な注意を払うよう努めるとともに、アレルギー疾患を有する者について正しい理解を深めるよう努めなければならない。
(医師等の責務)
第八条 医師その他の医療関係者は、国及び地方公共団体が講ずるアレルギー疾患対策に協力し、アレルギー疾患の重症化の予防及び症状の軽減に寄与するよう努めるとともに、アレルギー疾患を有する者の置かれている状況を深く認識し、科学的知見に基づく良質かつ適切なアレルギー疾患医療を行うよう努めなければならない。
(学校等の設置者等の責務)
第九条 学校、児童福祉施設、老人福祉施設、障害者支援施設その他自ら十分に療養に関し必要な行為を行うことができない児童、高齢者又は障害者が居住し又は滞在する施設(以下「学校等」という。)の設置者又は管理者は、国及び地方公共団体が講ずるアレルギー疾患の重症化の予防及び症状の軽減に関する啓発及び知識の普及等の施策に協力するよう努めるとともに、その設置し又は管理する学校等において、アレルギー疾患を有する児童、高齢者又は障害者に対し、適切な医療的、福祉的又は教育的配慮をするよう努めなければならない。
(法制上の措置等)
第十条 政府は、アレルギー疾患対策を実施するため必要な法制上又は財政上の措置その他の措置を講じなければならない。
第二章 アレルギー疾患対策基本指針等
(アレルギー疾患対策基本指針の策定等)
第十一条 厚生労働大臣は、アレルギー疾患対策の総合的な推進を図るため、アレルギー疾患対策の推進に関する基本的な指針(以下「アレルギー疾患対策基本指針」という。)を策定しなければならない。
2 アレルギー疾患対策基本指針は、次に掲げる事項について定めるものとする。
一 アレルギー疾患対策の推進に関する基本的な事項
二 アレルギー疾患に関する啓発及び知識の普及並びにアレルギー疾患の予防のための施策に関する事項
三 アレルギー疾患医療を提供する体制の確保に関する事項
四 アレルギー疾患に関する調査及び研究に関する事項
五 その他アレルギー疾患対策の推進に関する重要事項
3 厚生労働大臣は、アレルギー疾患対策基本指針を策定しようとするときは、あらかじめ、関係行政機関の長に協議するとともに、アレルギー疾患対策推進協議会の意見を聴くものとする。
4 厚生労働大臣は、アレルギー疾患対策基本指針を策定したときは、遅滞なく、これをインターネットの利用その他適切な方法により公表しなければならない。
5 厚生労働大臣は、適時に、アレルギー疾患対策基本指針に基づくアレルギー疾患対策の効果に関する評価を行い、その結果をインターネットの利用その他適切な方法により公表しなければならない。
6 厚生労働大臣は、アレルギー疾患医療に関する状況、アレルギー疾患を有する者を取り巻く生活環境その他のアレルギー疾患に関する状況の変化を勘案し、及び前項の評価を踏まえ、少なくとも五年ごとに、アレルギー疾患対策基本指針に検討を加え、必要があると認めるときには、これを変更しなければならない。
7 第三項及び第四項の規定は、アレルギー疾患対策基本指針の変更について準用する。
(関係行政機関への要請)
第十二条 厚生労働大臣は、必要があると認めるときは、関係行政機関の長に対して、アレルギー疾患対策基本指針の策定のための資料の提出又はアレルギー疾患対策基本指針において定められた施策であって当該行政機関の所管に係るものの実施について、必要な要請をすることができる。
(都道府県におけるアレルギー疾患対策の推進に関する計画)
第十三条 都道府県は、アレルギー疾患対策基本指針に即するとともに、当該都道府県におけるアレルギー疾患を有する者に対するアレルギー疾患医療の提供の状況、生活の質の維持向上のための支援の状況等を踏まえ、当該都道府県におけるアレルギー疾患対策の推進に関する計画を策定することができる。
第三章 基本的施策
第一節 アレルギー疾患の重症化の予防及び症状の軽減
(知識の普及等)
第十四条 国は、生活環境がアレルギー疾患に及ぼす影響に関する啓発及び知識の普及、学校教育及び社会教育におけるアレルギー疾患の療養に関し必要な事項その他のアレルギー疾患の重症化の予防及び症状の軽減の適切な方法に関する教育の推進その他のアレルギー疾患の重症化の予防及び症状の軽減に関する国民の認識を深めるために必要な施策を講ずるものとする。
(生活環境の改善)
第十五条 国は、アレルギー疾患の重症化の予防及び症状の軽減に資するよう、大気汚染の防止、森林の適正な整備、アレルギー物質を含む食品に関する表示の充実、建築構造等の改善の推進その他の生活環境の改善を図るための措置を講ずるものとする。
第二節 アレルギー疾患医療の均てん化の促進等
(専門的な知識及び技能を有する医師その他の医療従事者の育成)
第十六条 国は、アレルギー疾患に関する学会と連携協力し、アレルギー疾患医療に携わる専門的な知識及び技能を有する医師、薬剤師、看護師その他の医療従事者の育成を図るために必要な施策を講ずるものとする。
(医療機関の整備等)
第十七条 国は、アレルギー疾患を有する者がその居住する地域にかかわらず等しくそのアレルギー疾患の状態に応じた適切なアレルギー疾患医療を受けることができるよう、専門的なアレルギー疾患医療の提供等を行う医療機関の整備を図るために必要な施策を講ずるものとする。
2 国は、アレルギー疾患を有する者に対し適切なアレルギー疾患医療が提供されるよう、独立行政法人国立成育医療研究センター、独立行政法人国立病院機構の設置する医療機関であって厚生労働大臣が定めるもの、前項の医療機関その他の医療機関等の間における連携協力体制の整備を図るために必要な施策を講ずるものとする。
第三節 アレルギー疾患を有する者の生活の質の維持向上
第十八条 国は、アレルギー疾患を有する者の生活の質の維持向上が図られるよう、アレルギー疾患を有する者に対する医療的又は福祉的援助に関する専門的な知識及び技能を有する保健師、助産師、管理栄養士、栄養士、調理師等の育成を図るために必要な施策を講ずるものとする。
2 国は、アレルギー疾患を有する者に対しアレルギー疾患医療を適切に提供するための学校等、職場等と医療機関等との連携協力体制を確保すること、学校等の教員又は職員、事業主等に対するアレルギー疾患を有する者への医療的、福祉的又は教育的援助に関する研修の機会を確保すること、アレルギー疾患を有する者及びその家族に対する相談体制を整備すること、アレルギー疾患を有する者についての正しい理解を深めるための教育を推進することその他のアレルギー疾患を有する者の生活の質の維持向上のために必要な施策を講ずるものとする。
第四節 研究の推進等
第十九条 国は、アレルギー疾患の本態解明、革新的なアレルギー疾患の予防、診断及び治療に関する方法の開発その他のアレルギー疾患の罹2 国は、アレルギー疾患医療を行う上で特に必要性が高い医薬品、医療機器及び再生医療等製品の早期の医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和三十五年法律第百四十五号)の規定による製造販売の承認に資するよう、その治験が迅速かつ確実に行われる環境の整備のために必要な施策を講ずるものとする。
第五節 地方公共団体が行う基本的施策
第二十条 地方公共団体は、国の施策と相まって、当該地域の実情に応じ、第十四条から第十八条までに規定する施策を講ずるように努めなければならない。
第四章 アレルギー疾患対策推進協議会
第二十一条 厚生労働省に、アレルギー疾患対策基本指針に関し、第十一条第三項(同条第七項において準用する場合を含む。)に規定する事項を処理するため、アレルギー疾患対策推進協議会(次条において「協議会」という。)を置く。
第二十二条 協議会の委員は、アレルギー疾患を有する者及びその家族を代表する者、アレルギー疾患医療に従事する者並びに学識経験のある者のうちから、厚生労働大臣が任命する。
2 協議会の委員は、非常勤とする。
3 前二項に定めるもののほか、協議会の組織及び運営に関し必要な事項は、政令で定める。
附 則
(施行期日)
第一条 この法律は、公布の日から起算して一年六月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。ただし、附則第三条の規定は、独立行政法人通則法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備に関する法律(平成二十六年法律第▼▼▼号)の公布の日又はこの法律の公布の日のいずれか遅い日から施行する。
(厚生労働省設置法の一部改正)
第二条 厚生労働省設置法(平成十一年法律第九十七号)の一部を次のように改正する。
第四条第一項第十七号の三の次に次の一号を加える。
十七の四 アレルギー疾患対策基本法(平成二十六年法律第▼▼▼号)第十一条第一項に規定するアレルギー疾患対策基本指針の策定に関すること。
第六条第二項中「肝炎対策推進協議会」を
「 |
肝炎対策推進協議会 |
|
|
アレルギー疾患対策推進協議会 |
」 |
に改める。
第十一条の四の次に次の一条を加える。
(アレルギー疾患対策推進協議会)
第十一条の五 アレルギー疾患対策推進協議会については、アレルギー疾患対策基本法(これに基づく命令を含む。)の定めるところによる。
(独立行政法人通則法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備に関する法律の一部改正)
第三条 独立行政法人通則法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備に関する法律の一部を次のように改正する。
目次中「第百三十六条」を「第百三十六条の二」に改める。
第八章中第百三十六条の次に次の一条を加える。
(アレルギー疾患対策基本法の一部改正)
第百三十六条の二 アレルギー疾患対策基本法(平成二十六年法律第▼▼▼号)の一部を次のように改正する。
第十七条第二項中「独立行政法人国立成育医療研究センター」を「国立研究開発法人国立成育医療研究センター」に改める。
附則第二条のうち厚生労働省設置法第十一条の四の次に一条を加える改正規定中「第十一条の四」を「第十一条の三」に改め、第十一条の五を第十一条の四とする。
理 由
アレルギー疾患が国民生活に多大な影響を及ぼしている現状及びアレルギー疾患が生活環境に係る多様かつ複合的な要因によって発生し、かつ、重症化することに鑑み、アレルギー疾患対策を総合的に推進するため、アレルギー疾患対策に関し、基本理念を定め、国、地方公共団体、医療保険者、国民、医師その他の医療関係者及び学校等の設置者又は管理者の責務を明らかにし、並びにアレルギー疾患対策の推進に関する指針の策定等について定めるとともに、アレルギー疾患対策の基本となる事項を定める必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。