第一八七回
衆第一五号
非正規労働者の希望に応じた正規労働者への転換の推進及び労働者の職務に応じた待遇の確保に関する法律案
目次
第一章 総則(第一条−第六条)
第二章 基本方針等(第七条・第八条)
第三章 事業主行動計画等
第一節 事業主行動計画策定指針(第九条)
第二節 事業主行動計画(第十条−第十四条)
第四章 非正規労働者の希望に応じた正規労働者への転換の推進及び労働者の職務に応じた待遇の確保のための施策(第十五条−第十七条)
第五章 雑則(第十八条−第二十条)
第六章 罰則(第二十一条・第二十二条)
附則
第一章 総則
(目的)
第一条 この法律は、近年、雇用形態が多様化する中で、雇用形態により労働者の待遇や雇用の安定性について格差が存在し、それが社会における格差の固定化につながることが懸念されていることに鑑み、それらの状況を是正するため、非正規労働者の希望に応じた正規労働者への転換の推進及び労働者の職務に応じた待遇の確保に関し、基本理念を定め、並びに国、地方公共団体及び事業主の責務を明らかにするとともに、基本方針及び事業主行動計画の策定、国及び地方公共団体が講ずる施策等について定めることにより、非正規労働者の希望に応じた正規労働者への転換の推進及び労働者の職務に応じた待遇の確保を重点的に行い、もって国民が安心して暮らすことのできる社会の実現に資することを目的とする。
(定義)
第二条 この法律において「正規労働者」とは、期間の定めのない労働契約を締結している労働者(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和六十年法律第八十八号)第二条第二号に規定する派遣労働者を除く。)であって一週間の所定労働時間が同一の事業所に雇用される他の労働者に比して短くないものをいう。
2 この法律において「非正規労働者」とは、正規労働者以外の労働者をいう。
(基本理念)
第三条 非正規労働者の希望に応じた正規労働者への転換の推進及び労働者の職務に応じた待遇の確保は、次に掲げる事項を旨として行われなければならない。
一 非正規労働者が正規労働者となることを含め、労働者がその意欲及び能力に応じて自らの希望する雇用形態により就労する機会が与えられることにより、その就労についての長期的な展望を持つことができるようにすること。
二 労働者が、その雇用形態にかかわらずその従事する職務に応じた待遇を受けることができるようにすること。
(国及び地方公共団体の責務)
第四条 国及び地方公共団体は、前条の基本理念(次条及び第七条第一項において「基本理念」という。)にのっとり、非正規労働者の希望に応じた正規労働者への転換の推進及び労働者の職務に応じた待遇の確保に関して必要な施策を策定し、及び実施しなければならない。
(事業主の責務)
第五条 事業主は、基本理念にのっとり、非正規労働者の希望に応じた正規労働者への転換の推進及び労働者の職務に応じた待遇の確保に関する取組を自ら実施するよう努めるとともに、国又は地方公共団体が実施する非正規労働者の希望に応じた正規労働者への転換の推進及び労働者の職務に応じた待遇の確保に関する施策に協力しなければならない。
(法制上の措置等)
第六条 政府は、非正規労働者の希望に応じた正規労働者への転換の推進及び労働者の職務に応じた待遇の確保に関する施策を実施するため、必要な法制上、財政上又は税制上の措置その他の措置を講ずるものとする。
第二章 基本方針等
(基本方針)
第七条 政府は、基本理念にのっとり、非正規労働者の希望に応じた正規労働者への転換の推進及び労働者の職務に応じた待遇の確保に関する施策を推進するため、非正規労働者の希望に応じた正規労働者への転換の推進及び労働者の職務に応じた待遇の確保に関する基本方針(以下「基本方針」という。)を定めなければならない。
2 基本方針においては、次に掲げる事項を定めるものとする。
一 非正規労働者の希望に応じた正規労働者への転換の推進及び労働者の職務に応じた待遇の確保に関する基本的な方向
二 事業主が実施すべき非正規労働者の希望に応じた正規労働者への転換の推進及び労働者の職務に応じた待遇の確保に関する取組に関する基本的な事項
三 非正規労働者の希望に応じた正規労働者への転換の推進及び労働者の職務に応じた待遇の確保に関する施策に関する事項
四 前三号に掲げるもののほか、非正規労働者の希望に応じた正規労働者への転換の推進及び労働者の職務に応じた待遇の確保のために必要な事項
3 厚生労働大臣は、基本方針の案を作成し、閣議の決定を求めなければならない。
4 厚生労働大臣は、前項の規定による閣議の決定があったときは、遅滞なく、基本方針を公表しなければならない。
5 前二項の規定は、基本方針の変更について準用する。
(都道府県計画等)
第八条 都道府県は、基本方針を勘案して、当該都道府県の区域内における非正規労働者の希望に応じた正規労働者への転換の推進及び労働者の職務に応じた待遇の確保に関する施策についての計画(以下この条において「都道府県計画」という。)を定めるよう努めるものとする。
2 市町村は、基本方針(都道府県計画が定められているときは、基本方針及び都道府県計画)を勘案して、当該市町村の区域内における非正規労働者の希望に応じた正規労働者への転換の推進及び労働者の職務に応じた待遇の確保に関する施策についての計画(次項において「市町村計画」という。)を定めるよう努めるものとする。
3 都道府県又は市町村は、都道府県計画又は市町村計画を定め、又は変更したときは、遅滞なく、これを公表しなければならない。
第三章 事業主行動計画等
第一節 事業主行動計画策定指針
第九条 厚生労働大臣は、事業主が非正規労働者の希望に応じた正規労働者への転換の推進及び労働者の職務に応じた待遇の確保に関する取組を効果的に実施することができるよう、基本方針に即して、事業主行動計画(事業主が実施する非正規労働者の希望に応じた正規労働者への転換の推進及び労働者の職務に応じた待遇の確保に関する取組に関する計画をいう。以下同じ。)の策定に関する指針(以下「事業主行動計画策定指針」という。)を定めなければならない。
2 事業主行動計画策定指針においては、次に掲げる事項につき、事業主行動計画の指針となるべきものを定めるものとする。
一 事業主行動計画の策定に関する基本的な事項
二 非正規労働者の希望に応じた正規労働者への転換の推進及び労働者の職務に応じた待遇の確保に関する取組の内容に関する事項
三 その他非正規労働者の希望に応じた正規労働者への転換の推進及び労働者の職務に応じた待遇の確保に関する取組に関する重要事項
3 厚生労働大臣は、事業主行動計画策定指針を定め、又は変更したときは、遅滞なく、これを公表しなければならない。
第二節 事業主行動計画
(事業主行動計画の策定等)
第十条 事業主(国及び地方公共団体を除く。以下同じ。)であって常時雇用する労働者の数が三百人を超えるものは、事業主行動計画策定指針に即して、事業主行動計画を定め、厚生労働省令で定めるところにより、厚生労働大臣に届け出なければならない。これを変更したときも、同様とする。
2 事業主行動計画においては、次に掲げる事項を定めるものとする。
一 当該事業主における雇用管理並びに当該事業主の事業に従事する労働者の雇用形態及び待遇に関する現状の概要
二 計画期間
三 非正規労働者の希望に応じた正規労働者への転換の推進及び労働者の職務に応じた待遇の確保に関する取組の実施により達成しようとする目標
四 実施しようとする非正規労働者の希望に応じた正規労働者への転換の推進及び労働者の職務に応じた待遇の確保に関する取組の内容及びその実施時期
3 第一項に規定する事業主は、事業主行動計画を定め、又は変更しようとするときは、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者の意見を聴くよう努めるものとする。
4 第一項に規定する事業主は、事業主行動計画を定め、又は変更したときは、厚生労働省令で定めるところにより、これを労働者に周知させるための措置を講じなければならない。
5 第一項に規定する事業主は、事業主行動計画を定め、又は変更したときは、厚生労働省令で定めるところにより、これを公表しなければならない。
6 事業主であって常時雇用する労働者の数が三百人以下のものは、事業主行動計画策定指針に即して、事業主行動計画を定め、厚生労働省令で定めるところにより、厚生労働大臣に届け出るよう努めなければならない。これを変更したときも、同様とする。
7 第三項の規定は前項に規定する事業主が事業主行動計画を定め、又は変更しようとする場合について、第四項及び第五項の規定は前項に規定する事業主が事業主行動計画を定め、又は変更した場合について、それぞれ準用する。
(基準に適合する事業主の認定)
第十一条 厚生労働大臣は、前条第一項又は第六項の規定による届出をした事業主からの申請に基づき、厚生労働省令で定めるところにより、当該事業主について、非正規労働者の希望に応じた正規労働者への転換の推進及び労働者の職務に応じた待遇の確保に関する取組に関し、当該取組の実施の状況が優良なものであることその他の厚生労働省令で定める基準に適合するものである旨の認定を行うことができる。
(認定事業主の表示等)
第十二条 前条の認定を受けた事業主(次条において「認定事業主」という。)は、商品、役務の提供の用に供する物、商品又は役務の広告又は取引に用いる書類若しくは通信その他の厚生労働省令で定めるもの(次項において「商品等」という。)に厚生労働大臣の定める表示を付することができる。
2 何人も、前項の規定による場合を除くほか、商品等に同項の表示又はこれと紛らわしい表示を付してはならない。
(認定の取消し)
第十三条 厚生労働大臣は、認定事業主が次の各号のいずれかに該当するときは、第十一条の認定を取り消すことができる。
一 第十一条に規定する基準に適合しなくなったと認めるとき。
二 この法律又はこの法律に基づく命令に違反したとき。
三 不正の手段により第十一条の認定を受けたとき。
(事業主に対する国の援助)
第十四条 国は、第十条第一項若しくは第六項の規定により事業主行動計画を策定しようとする事業主又はこれらの規定による届出をした事業主に対して、事業主行動計画の策定、労働者への周知若しくは公表又は事業主行動計画に基づく措置が円滑に実施されるように相談その他の援助の実施に努めるものとする。
第四章 非正規労働者の希望に応じた正規労働者への転換の推進及び労働者の職務に応じた待遇の確保のための施策
(国による支援等)
第十五条 国は、非正規労働者の希望に応じた正規労働者への転換の推進及び労働者の職務に応じた待遇の確保のため、これに関する取組を実施する事業主に対する支援その他の必要な施策を実施するものとする。
2 地方公共団体は、国の施策に準じて、非正規労働者の希望に応じた正規労働者への転換の推進及び労働者の職務に応じた待遇の確保のため、これに関する取組を実施する事業主に対する支援その他の必要な施策を実施するよう努めるものとする。
(調査研究等)
第十六条 国は、労働者の雇用形態の実態、労働者の雇用形態による職務の相違及び賃金、福利厚生その他の待遇の相違の実態、労働者の雇用形態の転換の状況等について調査研究を実施するほか、非正規労働者の希望に応じた正規労働者への転換の推進及び労働者の職務に応じた待遇の確保に関する国内外の情報の収集、整理及び提供を行うものとする。
(啓発活動)
第十七条 国及び地方公共団体は、非正規労働者の希望に応じた正規労働者への転換の推進及び労働者の職務に応じた待遇の確保について、国民の関心と理解を深め、かつ、その協力を得るとともに、必要な啓発活動を行うものとする。
第五章 雑則
(報告の徴収並びに助言、指導及び勧告)
第十八条 厚生労働大臣は、この法律の施行に関し必要があると認めるときは、第十条第一項に規定する事業主に対して、報告を求め、又は助言、指導若しくは勧告をすることができる。
(権限の委任)
第十九条 第十条から第十三条まで及び前条に規定する厚生労働大臣の権限は、厚生労働省令で定めるところにより、その一部を都道府県労働局長に委任することができる。
(政令への委任)
第二十条 この法律に定めるもののほか、この法律の実施のため必要な事項は、政令で定める。
第六章 罰則
第二十一条 第十二条第二項の規定に違反した者は、三十万円以下の罰金に処する。
2 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、前項の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、同項の刑を科する。
第二十二条 第十八条の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者は、二十万円以下の過料に処する。
附 則
(施行期日)
第一条 この法律は、公布の日から施行する。ただし、第三章(第九条を除く。)、第五章(第二十条を除く。)及び第六章の規定並びに附則第三条の規定は、平成二十八年四月一日から施行する。
(検討)
第二条 政府は、この法律の施行後五年を経過した場合において、この法律の施行の状況を勘案し、必要があると認めるときは、この法律の規定について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。
(社会保険労務士法の一部改正)
第三条 社会保険労務士法(昭和四十三年法律第八十九号)の一部を次のように改正する。
別表第一第二十号の十九の次に次の一号を加える。
二十の十九の二 非正規労働者の希望に応じた正規労働者への転換の推進及び労働者の職務に応じた待遇の確保に関する法律(平成二十六年法律第▼▼▼号)
(厚生労働省設置法の一部改正)
第四条 厚生労働省設置法(平成十一年法律第九十七号)の一部を次のように改正する。
第四条第一項第四十一号の次に次の一号を加える。
四十一の二 非正規労働者の希望に応じた正規労働者への転換の推進及び労働者の職務に応じた待遇の確保に関する法律(平成二十六年法律第▼▼▼号)第七条第一項に規定する基本方針の策定及び推進に関すること。
第二十一条第一項中「から第四十七号」を「、第四十二号から第四十七号」に改める。
理 由
近年、雇用形態が多様化する中で、雇用形態により労働者の待遇や雇用の安定性について格差が存在し、それが社会における格差の固定化につながることが懸念されていることに鑑み、それらの状況を是正するため、非正規労働者の希望に応じた正規労働者への転換の推進及び労働者の職務に応じた待遇の確保に関し、基本理念を定め、並びに国、地方公共団体及び事業主の責務を明らかにするとともに、基本方針及び事業主行動計画の策定、国及び地方公共団体が講ずる施策等について定めることにより、非正規労働者の希望に応じた正規労働者への転換の推進及び労働者の職務に応じた待遇の確保を重点的に行う必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。