衆議院

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第一九六回

衆第七号

   原発廃止・エネルギー転換を実現するための改革基本法案

目次

 前文

 第一章 総則(第一条−第七条)

 第二章 原発廃止・エネルギー転換を実現するための改革の目標(第八条)

 第三章 原発廃止・エネルギー転換を実現するための改革の基本方針(第九条−第十二条)

 第四章 原発廃止・エネルギー転換改革推進計画(第十三条)

 第五章 原発廃止・エネルギー転換改革推進本部(第十四条−第二十三条)

 第六章 雑則(第二十四条・第二十五条)

 附則

 我が国は、今次の大戦において、原子爆弾の投下により未曽有の惨禍を被ったが、昭和三十年の原子力基本法の制定以来、原子力の平和的利用の名の下に原子力発電を推進してきた。原子力発電には、安全性の問題のみならず、使用済燃料及び放射性廃棄物の処分方法、労働者の被ばくの危険性等の問題がある。それにもかかわらず、発電に要する経費が安価である、二酸化炭素を排出しない、核燃料サイクルによりエネルギーを無限に得られる等の主張は、原子力発電に関する諸問題から国民の目をそらし、殊更に強調された原子力発電の安全性は、日本の原子力発電所で事故は発生しないとの安全神話を生み出した。

 しかし、平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う東京電力株式会社福島第一原子力発電所の事故は、原子力発電に依存する経済社会の構造に抜本的な改革を迫るものとなった。当該事故による原子力災害により多数の住民が避難を余儀なくされ、放射性物質による汚染に起因して住民の健康上の不安も生じている。今や安全神話は崩壊し、原子力発電は計り知れないほど重大な危険を伴うものであるとの認識が広がっている。

 こうした現実に直面した今日、我々には、これまでの国の原子力政策が誤りであったことを認め、これに協力して日本の経済社会を支えてきた地域の経済の発展を促進しつつ、全ての実用発電用原子炉等を速やかに停止し、及び計画的かつ効率的に廃止するとともに、電気の需要量の削減及び再生可能エネルギー電気の供給量の増加によりエネルギーの需給構造を転換し、持続可能な社会を実現する責務がある。

 原発廃止・エネルギー転換の実現は、未来への希望である。原発廃止・エネルギー転換を実現することにより、環境と調和のとれた新しい経済社会を創造するとともに、そのために創出される新技術を通じて原子力発電所のない世界の実現に貢献することができる。さらに、原発廃止・エネルギー転換の実現による脱炭素化の促進は、地球規模の緊要な課題である気候変動の問題の解決に資するものとなる。

 ここに、原発廃止・エネルギー転換を実現するための改革を総合的かつ計画的に推進するため、この法律を制定する。

   第一章 総則

 (目的)

第一条 この法律は、原発廃止・エネルギー転換を実現するための改革に関し、基本的な理念及び方針を定め、国等の責務を明らかにし、並びに原発廃止・エネルギー転換改革推進計画の策定等について定めるとともに、原発廃止・エネルギー転換改革推進本部を設置することにより、原発廃止・エネルギー転換を実現するための改革を総合的かつ計画的に推進することを目的とする。

 (定義)

第二条 この法律において「原発廃止・エネルギー転換」とは、全ての実用発電用原子炉等が廃止されるとともに、電気の需要量の削減及び再生可能エネルギー電気の供給量の増加によりエネルギーの需給構造が転換されることをいう。

2 この法律において「実用発電用原子炉等」とは、実用発電用原子炉(核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(昭和三十二年法律第百六十六号)第四十三条の四第一項に規定する実用発電用原子炉をいう。第四条第二項及び第九条第二項第二号において同じ。)及び高速増殖炉(国立研究開発法人日本原子力研究開発機構法(平成十六年法律第百五十五号)第二条第五項に規定する高速増殖炉をいう。)をいう。

3 この法律において「再生可能エネルギー電気」とは、再生可能エネルギー源(太陽光、風力その他非化石エネルギー源のうち、エネルギー源として永続的に利用することができると認められるものをいう。以下同じ。)を変換して得られる電気をいう。

 (基本理念)

第三条 原発廃止・エネルギー転換を実現するための改革は、次に掲げる事項を基本として行われるものとする。

 一 電気の安定供給の確保を図りつつ、全ての実用発電用原子炉等の運転を速やかに停止し、及び全ての実用発電用原子炉等を計画的かつ効率的に廃止すること。

 二 エネルギーの使用の合理化等により、電気の需要量を削減すること。

 三 自然環境及び生活環境の保全に配慮しつつ、再生可能エネルギー電気の供給量を増加させること。

 (国の責務)

第四条 国は、前条の基本理念(次条において単に「基本理念」という。)にのっとり、これまで原子力政策を推進してきたことに伴う国の社会的な責任を踏まえ、原発廃止・エネルギー転換を実現するための改革を推進する責務を有する。

2 国は、原発廃止・エネルギー転換を実現するための改革に当たって生じ得る実用発電用原子炉を設置している電気事業者(電気事業法(昭和三十九年法律第百七十号)第二条第一項第十七号に規定する電気事業者をいう。以下同じ。)等の損失に適切に対処する責務を有する。

3 国は、原発廃止・エネルギー転換を実現するための改革を推進するに当たっては、原子力発電所等の周辺の地域の経済に及ぼす影響に十分に配慮しなければならない。

 (地方公共団体及び電気事業者等の責務)

第五条 地方公共団体及び電気事業者等は、基本理念にのっとり、国による原発廃止・エネルギー転換を実現するための改革の推進に協力する責務を有する。

 (法制上の措置等)

第六条 政府は、第三章に定める基本方針に基づく施策を実施するため必要な法制上、財政上、税制上又は金融上の措置その他の措置を講じなければならない。この場合において、第九条に定める基本方針に基づく施策を実施するため必要な法制上の措置については、この法律の施行後二年以内を目途として講ずるものとする。

 (年次報告)

第七条 政府は、毎年、国会に、原発廃止・エネルギー転換を実現するための改革に関する施策の実施の状況に関する報告書を提出しなければならない。

   第二章 原発廃止・エネルギー転換を実現するための改革の目標

第八条 政府は、この法律の施行後五年以内に、全ての実用発電用原子炉等の運転が廃止されることを目標とするものとする。

2 政府は、一年間における電気の需要量について、平成四十二年までに平成二十二年の一年間における電気の需要量からその百分の三十に相当する量以上を減少させることを目標とするものとする。

3 政府は、一年間における電気の供給量に占める再生可能エネルギー電気の供給量の割合について、平成四十二年までに百分の四十以上とすることを目標とするものとする。

   第三章 原発廃止・エネルギー転換を実現するための改革の基本方針

 (全ての実用発電用原子炉等の計画的かつ効率的な廃止)

第九条 政府は、これまで原子力政策を推進してきたことに伴う国の社会的な責任を踏まえ、実用発電用原子炉等の廃止並びに使用済燃料及び放射性廃棄物の管理及び処分に関する国の関与の在り方その他の全ての実用発電用原子炉等の計画的かつ効率的な廃止のための方策について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講じなければならない。

2 政府は、全ての実用発電用原子炉等の計画的かつ効率的な廃止を推進するため、次に掲げる措置を講ずるものとする。

 一 原子力災害対策(原子力災害対策特別措置法(平成十一年法律第百五十六号)第六条の二第一項に規定する原子力災害対策をいう。)を重点的に実施すべき区域の住民の安全を確保するものとすること。

 二 実用発電用原子炉を運転することができる期間の延長を認めないものとすること。

 三 実用発電用原子炉等の設置の許可及び増設を伴う変更の許可を新たに与えないものとすること。

 四 使用済燃料及び放射性廃棄物の管理及び処分は適正な方法によるものとし、使用済燃料の再処理は行わないものとすること。

 五 実用発電用原子炉等を廃止し、又は使用済燃料の再処理の事業を廃止しようとする者に対し、必要な支援を行うものとすること。

 六 電気のエネルギー源について、再生可能エネルギー源、可燃性天然ガス等の原子力以外のエネルギー源の利用への転換を図るものとすること。

 七 新たな産業の創出、電気事業者の事業の継続等により、原子力発電所等の周辺の地域の経済の振興及び雇用の確保を図るものとすること。

 (電気の需要量の削減)

第十条 政府は、電気の需要量を削減するため、次に掲げる措置を講ずるものとする。

 一 国等によるその設置する施設におけるエネルギーの使用の合理化を推進するものとすること。

 二 事業者によるエネルギーの使用の合理化の円滑な実施を促進するものとすること。

 三 建築物のエネルギー消費性能の更なる向上を図るものとすること。

 四 熱についてエネルギー源としての再生可能エネルギー源及び廃熱の利用を促進するものとすること。

 五 国内の地域に存するエネルギー源から得られ、又は製造されたエネルギーのその地域における利用を促進するものとすること。

 (再生可能エネルギー電気の供給量の増加)

第十一条 政府は、再生可能エネルギー電気の供給量を増加させるため、次に掲げる措置を講ずるものとする。

 一 国等によるその設置する施設における再生可能エネルギー電気の利用を推進するものとすること。

 二 電気についてエネルギー源としての再生可能エネルギー源の利用を促進するものとすること。

 三 送電に係る事業と配電に係る事業の分離、電力系統の適正化等により再生可能エネルギー電気の供給を促進するものとすること。

 四 地域の住民又は小規模の事業者の再生可能エネルギー電気の利用又は供給に係る自発的な協同組織の発達を図るものとすること。

 (研究開発の推進等)

第十二条 政府は、原発廃止・エネルギー転換を実現するための改革を推進するため、実用発電用原子炉等の廃止及び再生可能エネルギー源の利用に関する研究開発その他の先端的な研究開発の推進並びにその成果の普及、研究者の養成その他の必要な措置を講ずるものとする。

   第四章 原発廃止・エネルギー転換改革推進計画

第十三条 原発廃止・エネルギー転換改革推進本部は、この法律の施行後一年を目途として、前章に定める基本方針に基づき、原発廃止・エネルギー転換を実現するための改革の推進に関する計画(以下この条及び第十五条第一号において「原発廃止・エネルギー転換改革推進計画」という。)を定めなければならない。

2 原発廃止・エネルギー転換改革推進計画は、次に掲げる事項について定めるものとする。

 一 全ての実用発電用原子炉等の計画的かつ効率的な廃止に関する事項

 二 電気の需要量の削減に関する事項

 三 再生可能エネルギー電気の供給量の増加に関する事項

 四 前三号に掲げるもののほか、原発廃止・エネルギー転換を実現するための改革の推進のために講ずべき措置その他の必要な事項

3 原発廃止・エネルギー転換改革推進本部は、原発廃止・エネルギー転換改革推進計画を定めたときは、これを内閣総理大臣に報告しなければならない。

4 内閣総理大臣は、前項の規定による報告があったときは、原発廃止・エネルギー転換改革推進計画を国会に報告するとともに、その要旨を公表しなければならない。

5 前二項の規定は、原発廃止・エネルギー転換改革推進計画の変更について準用する。

   第五章 原発廃止・エネルギー転換改革推進本部

 (設置)

第十四条 原発廃止・エネルギー転換を実現するための改革を総合的かつ計画的に推進するため、内閣に、原発廃止・エネルギー転換改革推進本部(以下「本部」という。)を置く。

 (所掌事務)

第十五条 本部は、次に掲げる事務をつかさどる。

 一 原発廃止・エネルギー転換改革推進計画を策定し、及びその実施を推進すること。

 二 前号に掲げるもののほか、原発廃止・エネルギー転換を実現するための改革に関する施策であって基本的かつ総合的なものの企画に関して審議し、及びその施策の実施を推進すること。

 (組織)

第十六条 本部は、原発廃止・エネルギー転換改革推進本部長、原発廃止・エネルギー転換改革推進副本部長及び原発廃止・エネルギー転換改革推進本部員をもって組織する。

 (原発廃止・エネルギー転換改革推進本部長)

第十七条 本部の長は、原発廃止・エネルギー転換改革推進本部長(以下「本部長」という。)とし、内閣総理大臣をもって充てる。

2 本部長は、本部の事務を総括し、所部の職員を指揮監督する。

 (原発廃止・エネルギー転換改革推進副本部長)

第十八条 本部に、原発廃止・エネルギー転換改革推進副本部長(次項及び次条第二項において「副本部長」という。)を置き、国務大臣をもって充てる。

2 副本部長は、本部長の職務を助ける。

 (原発廃止・エネルギー転換改革推進本部員)

第十九条 本部に、原発廃止・エネルギー転換改革推進本部員(次項において「本部員」という。)を置く。

2 本部員は、本部長及び副本部長以外の全ての国務大臣をもって充てる。

 (資料の提出その他の協力)

第二十条 本部は、その所掌事務を遂行するため必要があると認めるときは、関係行政機関、地方公共団体及び独立行政法人(独立行政法人通則法(平成十一年法律第百三号)第二条第一項に規定する独立行政法人をいう。)の長並びに特殊法人(法律により直接に設立された法人又は特別の法律により特別の設立行為をもって設立された法人であって、総務省設置法(平成十一年法律第九十一号)第四条第一項第九号の規定の適用を受けるものをいう。)、認可法人(特別の法律により設立され、かつ、その設立に関し行政官庁の認可を要する法人をいう。)及び電気事業者の代表者に対して、資料の提出、意見の表明、説明その他の必要な協力を求めることができる。

2 本部は、その所掌事務を遂行するため特に必要があると認めるときは、前項に規定する者以外の者に対しても、必要な協力を依頼することができる。

 (事務局)

第二十一条 本部に、その事務を処理させるため、事務局を置く。

2 事務局に、事務局長その他の職員を置く。

3 事務局長は、本部長の命を受け、局務を掌理する。

 (主任の大臣)

第二十二条 本部に係る事項については、内閣法(昭和二十二年法律第五号)にいう主任の大臣は、内閣総理大臣とする。

 (政令への委任)

第二十三条 この法律に定めるもののほか、本部に関し必要な事項は、政令で定める。

   第六章 雑則

 (原発廃止・エネルギー転換を実現するための改革の推進を担う組織の在り方に関する検討)

第二十四条 政府は、原発廃止・エネルギー転換を実現するための改革の推進を担う組織(本部を除く。)の在り方について検討を加え、その結果に基づいて必要な法制上の措置を講ずるものとする。

 (国民の理解を深める等のための措置)

第二十五条 政府は、教育活動、広報活動等を通じて、原発廃止・エネルギー転換を実現するための改革に関し、国民の理解を深めるとともに、国民の協力を求めるよう努めなければならない。

   附 則

 この法律は、公布の日から施行する。ただし、第四章及び第五章の規定は、公布の日から起算して一月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。


     理 由

 原発廃止・エネルギー転換を実現するための改革に関し、基本的な理念及び方針を定め、国等の責務を明らかにし、並びに原発廃止・エネルギー転換改革推進計画の策定等について定めるとともに、原発廃止・エネルギー転換改革推進本部を設置することにより、原発廃止・エネルギー転換を実現するための改革を総合的かつ計画的に推進する必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。

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