衆議院

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第二〇四回

参第三五号

   孤独・孤立対策の推進に関する法律案

目次

 第一章 総則(第一条−第八条)

 第二章 実態調査の実施等(第九条)

 第三章 孤独・孤立に関する諸問題に対処するための施策(第十条−第十七条)

 第四章 基本方針等(第十八条・第十九条)

 第五章 実態調査等の結果を踏まえた法制の整備(第二十条)

 第六章 孤独・孤立対策推進本部等

  第一節 孤独・孤立対策推進本部(第二十一条−第三十一条)

  第二節 孤独・孤立対策推進地域協議会(第三十二条)

 附則

   第一章 総則

 (目的)

第一条 この法律は、我が国においては、急速な少子高齢化の進展等最近の社会情勢の変化により社会及び他者との関わりが希薄化し、望まずに孤独になり又は社会的に孤立して必要な支援を受けることができない状態(以下「孤独・孤立」という。)に陥る者が増加し、貧困、虐待、自殺等の重大な問題の増加等のみならず、地域及び国の活力の低下につながることが懸念されるにもかかわらず、現状において孤独・孤立の実態が必ずしも十分に把握されていないこと等に鑑み、孤独・孤立に関する諸問題に対処するための各般の施策(以下「孤独・孤立対策」という。)に関し、基本理念を定め、国の責務等を明らかにし、及び孤独・孤立に関する実態調査の実施その他孤独・孤立対策の基本となる事項を定めるとともに、孤独・孤立対策推進本部を設置すること等により、孤独・孤立対策を総合的かつ集中的に推進することを目的とする。

 (基本理念)

第二条 孤独・孤立対策は、誰もが孤独・孤立に陥ることなく生きることができる社会の実現を目指して、実施されなければならない。

2 孤独・孤立対策は、孤独・孤立の実態に関する調査を行うことによりその実態に即して実施されるとともに、それぞれの施策の有効性等に関する調査研究の成果等を踏まえ、効果的に実施されなければならない。

3 孤独・孤立対策は、孤独・孤立に陥っている者(そのおそれがある者を含む。以下同じ。)をできるだけ早期に発見し、その者について必要な支援が行われるようにすることを旨として、実施されなければならない。

4 孤独・孤立対策は、孤独・孤立に陥る原因及びその態様が年齢、性別、家族構成等により様々であることを踏まえ、それぞれの原因及び態様に応じたきめ細かな対応が行われるようにすることを旨として、実施されなければならない。

5 孤独・孤立対策は、国及び地方公共団体の関係機関相互の密接な連携並びに民間団体及び国民一般の理解と協力の下に、関連分野における総合的な取組として実施されなければならない。

 (国の責務)

第三条 国は、前条の基本理念(次条において「基本理念」という。)にのっとり、孤独・孤立対策を総合的に策定し、及び実施する責務を有する。

 (地方公共団体の責務)

第四条 地方公共団体は、基本理念にのっとり、孤独・孤立対策に関し、国及び他の地方公共団体との連携を図りつつ、その地域の状況に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する。

 (国民の責務)

第五条 国民は、孤独・孤立に関する諸問題に関する理解と関心を深めるとともに、国及び地方公共団体が実施する孤独・孤立対策に協力するよう努めるものとする。

 (孤独・孤立問題啓発月間)

第六条 国民の間に広く孤独・孤立に関する諸問題に関する理解と関心を深めるため、孤独・孤立問題啓発月間を設ける。

2 孤独・孤立問題啓発月間は、八月とする。

3 国及び地方公共団体は、孤独・孤立問題啓発月間の趣旨にふさわしい事業が実施されるよう努めなければならない。

 (財政上の措置等)

第七条 政府は、孤独・孤立対策を実施するため必要な財政上の措置その他の措置を講じなければならない。

 (年次報告)

第八条 政府は、毎年、国会に、我が国における孤独・孤立の状況及び政府が講じた孤独・孤立対策の実施の状況に関する報告書を提出しなければならない。

   第二章 実態調査の実施等

第九条 国は、地方公共団体の協力を得て、孤独・孤立の実態に関する全国的な調査を行わなければならない。

2 国及び地方公共団体は、孤独・孤立に関する指標に関する研究、効果的な孤独・孤立対策の在り方に関する調査及び研究(報道機関、インターネット関係事業者等による孤独・孤立に関する諸問題に対処するための取組の在り方に関する調査及び研究を含む。)その他の孤独・孤立に関する調査及び研究を行うものとする。

3 国及び地方公共団体は、孤独・孤立対策について、先進的な取組に関する情報その他の情報の収集、整理及び提供を行うものとする。

   第三章 孤独・孤立に関する諸問題に対処するための施策

 (早期発見及び支援)

第十条 国及び地方公共団体は、孤独・孤立に陥っている者を早期に発見するとともに、その相談に適切に応じることその他それぞれの状況に応じた必要な支援をきめ細かく行うことができるよう、地域の様々な主体の連携による見守り体制の構築、相談その他の支援を行う窓口の周知、様々な相談に一元的に応じ適切に対応するために必要な体制の整備、相談その他の支援を行う者の多様性の確保その他の必要な施策を講ずるものとする。

2 前項の施策を講ずるに当たっては、インターネットその他の高度情報通信ネットワークを有効かつ適切に活用するものとする。

 (誰もが社会とのつながりを確保しつつ日々の生活を送ることができる環境の整備)

第十一条 国及び地方公共団体は、誰もが孤独・孤立に陥ることなく日々の生活を送ることができるよう、就労の支援、文化、スポーツ、レクリエーション等に関する行事を体験する機会の提供、周囲の者と相互に支え合いながら生活することのできる住環境の整備その他の誰もが社会とのつながりを確保しつつ日々の生活を送ることができる環境の整備に関し必要な施策を講ずるものとする。

 (国民の理解と関心の増進)

第十二条 国及び地方公共団体は、国民が孤独・孤立に関する諸問題に関する理解と関心を深めることができるよう、広報活動等を通じた知識の普及及び啓発その他の必要な施策を講ずるものとする。

 (民間団体の活動の支援)

第十三条 国及び地方公共団体は、孤独・孤立に陥っている者の早期発見及び支援、誰もが社会とのつながりを確保しつつ日々の生活を送ることができる環境の整備等について民間団体が行う活動を支援するため、助言及び指導、情報の提供、財政上の措置その他の必要な施策を講ずるものとする。

 (技術の開発及び普及)

第十四条 国は、孤独・孤立対策の効率的かつ効果的な実施に資する高度な技術の開発の推進及びその成果の普及に関し必要な施策を講ずるものとする。

 (人材の確保等)

第十五条 国及び地方公共団体は、孤独・孤立対策に係る人材の確保、養成及び資質の向上に関し必要な施策を講ずるものとする。

 (連携の強化)

第十六条 国及び地方公共団体は、国及び地方公共団体の関係機関、学校、医療機関、特定非営利活動法人(特定非営利活動促進法(平成十年法律第七号)第二条第二項に規定する特定非営利活動法人をいう。第三十二条において同じ。)等の民間団体その他の多様な主体が相互に連携して孤独・孤立に関する諸問題に対処することができるよう、これらの者の間の連携の強化を図るために必要な施策を講ずるものとする。

 (実態調査等の結果を踏まえた施策の充実)

第十七条 第十条から前条までに定めるもののほか、国及び地方公共団体は、第九条第一項の実態に関する調査又は同条第二項の調査及び研究(以下「実態調査等」という。)の結果を踏まえて必要があると認めるときは、孤独・孤立に関する諸問題に対処するための施策が一層充実したものとなるよう、必要な施策を講ずるものとする。

   第四章 基本方針等

 (基本方針)

第十八条 政府は、孤独・孤立対策の総合的な推進を図るため、前二章に定める施策の実施に関する基本的な方針(以下「基本方針」という。)を定めなければならない。

2 内閣総理大臣は、孤独・孤立対策推進本部の作成した基本方針の案について閣議の決定を求めなければならない。

3 内閣総理大臣は、前項の規定による閣議の決定があったときは、遅滞なく、基本方針を公表しなければならない。

4 政府は、実態調査等の結果を踏まえて必要があると認めるときは、速やかに基本方針を変更するほか、前章に定める施策の実施状況についての調査、分析及び評価を踏まえ、適宜、基本方針に検討を加え、必要があると認めるときは、これを変更するものとする。

5 第二項及び第三項の規定は、基本方針の変更について準用する。

 (都道府県計画等)

第十九条 都道府県は、基本方針及び地域の実情を勘案して、当該都道府県における前二章に定める施策の実施に関する計画(次項及び第三項において「都道府県計画」という。)を定めるよう努めるものとする。

2 市町村は、基本方針(都道府県計画が定められているときは、基本方針及び都道府県計画)及び地域の実情を勘案して、当該市町村における前二章に定める施策の実施に関する計画(次項において「市町村計画」という。)を定めるよう努めるものとする。

3 都道府県又は市町村は、都道府県計画又は市町村計画を定め、又は変更したときは、遅滞なく、これを公表するよう努めるものとする。

   第五章 実態調査等の結果を踏まえた法制の整備

第二十条 政府は、次に掲げる者が孤独・孤立に陥ることがないよう必要な支援を受けることができるようにするための制度の在り方について、実態調査等の結果を踏まえ、速やかに検討を加え、その結果に基づいて必要な法制の整備を行うものとする。

 一 家庭において育児、介護その他の家事を過重に負担する生徒、児童等

 二 望まずに妊娠して出産する女性及びその子

2 前項に定めるもののほか、政府は、実態調査等の結果を踏まえ、制度の整備により支援すべき孤独・孤立に陥っている者があると認めるときは、その支援に関し必要な法制の整備を行うものとする。

   第六章 孤独・孤立対策推進本部等

    第一節 孤独・孤立対策推進本部

 (設置)

第二十一条 孤独・孤立対策を総合的かつ集中的に推進するため、内閣に、孤独・孤立対策推進本部(以下「本部」という。)を置く。

 (所掌事務)

第二十二条 本部は、次に掲げる事務をつかさどる。

 一 基本方針の案の作成及び実施の推進に関すること。

 二 関係行政機関が基本方針に基づいて実施する施策の総合調整及び実施状況の評価に関すること。

 三 前二号に掲げるもののほか、孤独・孤立対策で重要なものの企画及び立案並びに総合調整に関すること。

2 本部は、次に掲げる場合には、あらかじめ、孤独・孤立対策推進会議の意見を聴かなければならない。

 一 基本方針の案を作成しようとするとき。

 二 前項第二号の評価について、その結果の取りまとめを行おうとするとき。

3 前項(第一号に係る部分に限る。)の規定は、基本方針の変更の案の作成について準用する。

 (組織)

第二十三条 本部は、孤独・孤立対策推進本部長、孤独・孤立対策推進副本部長及び孤独・孤立対策推進本部員をもって組織する。

 (孤独・孤立対策推進本部長)

第二十四条 本部の長は、孤独・孤立対策推進本部長(以下「本部長」という。)とし、内閣総理大臣をもって充てる。

2 本部長は、本部の事務を総括し、所部の職員を指揮監督する。

 (孤独・孤立対策推進副本部長)

第二十五条 本部に、孤独・孤立対策推進副本部長(以下「副本部長」という。)を置き、内閣官房長官、孤独・孤立対策担当大臣(内閣総理大臣の命を受けて、孤独・孤立対策の総合的かつ集中的な推進に関し内閣総理大臣を助けることをその職務とする国務大臣をいう。)、厚生労働大臣及び文部科学大臣をもって充てる。

2 副本部長は、本部長の職務を助ける。

 (孤独・孤立対策推進本部員)

第二十六条 本部に、孤独・孤立対策推進本部員(次項において「本部員」という。)を置く。

2 本部員は、本部長及び副本部長以外の全ての国務大臣をもって充てる。

 (資料の提出その他の協力)

第二十七条 本部は、その所掌事務を遂行するため必要があると認めるときは、関係行政機関の長及び地方公共団体の長に対して、資料の提出、意見の表明、説明その他必要な協力を求めることができる。

2 本部は、その所掌事務を遂行するため特に必要があると認めるときは、前項に規定する者以外の者に対しても、必要な協力を依頼することができる。

 (孤独・孤立対策推進会議)

第二十八条 本部に、第二十二条第二項(同条第三項において準用する場合を含む。)に規定する事項を処理するため、孤独・孤立対策推進会議(次項及び第三項において「推進会議」という。)を置く。

2 推進会議は、孤独・孤立対策に関連する分野に関する学識経験者のうちから内閣総理大臣が任命する委員十人以内で組織する。

3 推進会議の委員は、非常勤とする。

 (事務)

第二十九条 本部に関する事務は、内閣官房において処理し、命を受けて内閣官房副長官補が掌理する。

 (主任の大臣)

第三十条 本部に係る事項については、内閣法(昭和二十二年法律第五号)にいう主任の大臣は、内閣総理大臣とする。

 (政令への委任)

第三十一条 この法律に定めるもののほか、本部に関し必要な事項は、政令で定める。

    第二節 孤独・孤立対策推進地域協議会

第三十二条 地方公共団体は、地域における孤独・孤立対策の効果的な推進を図るため、単独で又は共同して、国及び地方公共団体の機関、特定非営利活動法人等の民間団体並びに学識経験者その他の者であって、孤独・孤立対策に関連する分野の事務に従事するものにより構成される孤独・孤立対策推進地域協議会を置くよう努めるものとする。

   附 則

 (施行期日)

1 この法律は、公布の日から施行する。ただし、第四章及び第六章の規定は、公布の日から起算して一月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。

 (この法律の失効)

2 この法律は、この法律の施行の日から起算して十年を経過した日に、その効力を失う。


     理 由

 孤独・孤立対策を総合的かつ集中的に推進するため、孤独・孤立対策に関し、基本理念を定め、国の責務等を明らかにし、及び孤独・孤立に関する実態調査の実施その他孤独・孤立対策の基本となる事項を定めるとともに、孤独・孤立対策推進本部を設置する等の必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。

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