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第二〇八回

衆第三六号

   インターネット誹謗中傷対策の推進に関する法律案

目次

 第一章 総則(第一条−第八条)

 第二章 インターネット誹謗中傷対策に関する大綱(第九条)

 第三章 基本的施策

  第一節 インターネット誹謗中傷の防止に係る施策(第十条−第十二条)

  第二節 被害者等の救済に係る施策(第十三条−第十六条)

  第三節 電気通信事業者による取組の促進等に係る施策(第十七条−第十九条)

 附則

   第一章 総則

 (目的)

第一条 この法律は、インターネット誹謗中傷による被害が多数発生し、かつ、これが被害者等の人権を著しく侵害する等の問題が深刻化している現状において、インターネット誹謗中傷の防止を図るとともに、インターネット誹謗中傷による被害が生じた場合に迅速かつ確実な救済を図ることが喫緊の課題であることに鑑み、これらの課題に対処するため、インターネット誹謗中傷対策に関し、基本理念を定め、国等の責務を明らかにし、及びインターネット誹謗中傷対策の基本となる事項を定めることにより、インターネット誹謗中傷対策を総合的に推進することを目的とする。

 (定義)

第二条 この法律において「インターネット誹謗中傷」とは、電気通信(電気通信事業法(昭和五十九年法律第八十六号)第二条第一号に掲げる電気通信をいう。以下この項において同じ。)の送信(公衆によって直接受信されることを目的とする電気通信の送信を除く。)による権利利益侵害情報(人に対して誹謗中傷をすること、人を不当に差別すること、人を侮辱すること、人の名誉を毀損することその他の人の権利利益を侵害することを内容とする情報をいう。)の流通をいう。

2 この法律において「インターネット誹謗中傷対策」とは、インターネット誹謗中傷の防止及び被害者等の救済を図るための施策をいう。

3 この法律において「被害者等」とは、インターネット誹謗中傷による被害者及びその家族又は遺族をいう。

 (基本理念)

第三条 インターネット誹謗中傷対策は、国民がインターネットを適切に活用する知識及び能力を習得するとともに、インターネット誹謗中傷を防止することの重要性について国民の自覚を促し、これに対する国民の理解と関心を深めることを旨として行われなければならない。

2 インターネット誹謗中傷対策は、インターネット誹謗中傷が犯罪となる行為をも含む重大な人権侵害であることを踏まえ、インターネット誹謗中傷による被害の状況及び原因、被害者等が置かれている状況その他の事情に応じて、被害者等の救済があらゆる機会において迅速かつ確実に図られることを旨として行われなければならない。

3 インターネット誹謗中傷対策は、国、地方公共団体、電気通信事業(電気通信事業法第二条第四号に掲げる電気通信事業をいう。第十九条において同じ。)を営む者(以下「電気通信事業者」という。)その他の関係する者の相互の密接な連携の下に行われなければならない。

4 インターネット誹謗中傷対策の実施に当たっては、公職にある者等に関する評論をはじめとする自由な表現活動が健全な民主主義の根幹を支えるものであること及びインターネットを通じて多様な情報の自由な流通が確保されることが重要であることに十分配慮されなければならない。

 (国の責務)

第四条 国は、前条の基本理念(次条及び第六条において単に「基本理念」という。)にのっとり、インターネット誹謗中傷対策を総合的に策定し、及び実施する責務を有する。

 (地方公共団体の責務)

第五条 地方公共団体は、基本理念にのっとり、国との適切な役割分担を踏まえて、インターネット誹謗中傷対策に関する自主的な施策を策定し、及び実施する責務を有する。

 (電気通信事業者の責務)

第六条 電気通信事業者は、基本理念にのっとり、その事業活動に関し、自主的かつ積極的にインターネット誹謗中傷の防止及び被害者等の救済に努めるとともに、国及び地方公共団体が実施するインターネット誹謗中傷対策に協力するよう努めなければならない。

 (法制上の措置等)

第七条 政府は、インターネット誹謗中傷対策を実施するために必要な法制上、財政上又は税制上の措置その他の措置を講じなければならない。

 (年次報告)

第八条 政府は、毎年、国会に、インターネット誹謗中傷による被害の状況及びインターネット誹謗中傷対策の実施の状況に関する報告を提出するとともに、これを公表しなければならない。

   第二章 インターネット誹謗中傷対策に関する大綱

第九条 政府は、インターネット誹謗中傷対策の総合的な推進を図るため、インターネット誹謗中傷対策に関する大綱(以下この条において単に「大綱」という。)を定めなければならない。

2 大綱は、次に掲げる事項について定めるものとする。

 一 インターネット誹謗中傷対策に関する基本的な方針

 二 インターネット誹謗中傷の防止に係る施策に関する事項

 三 被害者等の救済に係る施策に関する事項

 四 電気通信事業者によるインターネット誹謗中傷の防止及び被害者等の救済に資する取組の促進等に係る施策に関する事項

 五 前各号に掲げるもののほか、インターネット誹謗中傷対策を総合的に推進するために必要な事項

3 総務大臣は、大綱の案につき閣議の決定を求めなければならない。

4 総務大臣は、大綱の案を作成しようとするときは、あらかじめ、関係行政機関の長に協議しなければならない。

5 政府は、大綱を策定したときは、遅滞なく、これを国会に報告するとともに、インターネットの利用その他適切な方法により公表しなければならない。

6 前三項の規定は、大綱の変更について準用する。

   第三章 基本的施策

    第一節 インターネット誹謗中傷の防止に係る施策

 (インターネット誹謗中傷の防止に関する教育の推進等)

第十条 国及び地方公共団体は、国民が広くインターネット誹謗中傷を防止することの重要性に関する理解と関心を深めるよう、学校教育、社会教育及び家庭教育におけるインターネット誹謗中傷の防止に関する教育の推進その他の必要な施策を講ずるものとする。

 (インターネット誹謗中傷の防止等に関する広報啓発)

第十一条 前条に定めるもののほか、国及び地方公共団体は、インターネット誹謗中傷が被害者等の心身に及ぼす影響、インターネット誹謗中傷を防止することの重要性、インターネット誹謗中傷に係る相談制度又は救済制度等についての広報その他の啓発活動を行うものとする。

 (インターネット誹謗中傷を行った者に対する指導等)

第十二条 国及び地方公共団体は、インターネット誹謗中傷の再発を防止するため、インターネット誹謗中傷を行った者に対する医学的又は心理学的知見に基づく指導を行う体制の整備その他の必要な施策を講ずるものとする。

    第二節 被害者等の救済に係る施策

 (相談及び情報の提供等)

第十三条 国及び地方公共団体は、被害者等が直面している各般の問題について、相談に応じ、必要な情報の提供及び助言を行い、関係行政機関を紹介する等必要な施策を講ずるものとする。

 (損害賠償の請求についての援助等)

第十四条 国及び地方公共団体は、インターネット誹謗中傷による被害に係る損害賠償の請求の適切かつ円滑な実現を図るため、被害者等の行う損害賠償の請求についての援助その他の必要な施策を講ずるものとする。

 (保健医療サービス及び福祉サービスの提供)

第十五条 国及び地方公共団体は、被害者等が心理的外傷その他インターネット誹謗中傷により心身に受けた影響から回復できるようにするため、その心身の状況等に応じた適切な保健医療サービス及び福祉サービスが提供されるよう必要な施策を講ずるものとする。

 (相談、捜査、公判等に職務上関係のある者における対処)

第十六条 国及び地方公共団体は、被害者等からの相談、その被害に係る刑事事件の捜査又は公判等に職務上関係のある者において、被害者等の名誉又は生活の平穏その他被害者等の人権に十分配慮しつつ、インターネット誹謗中傷に係る事案への迅速かつ確実な対処がされるよう、被害者等の心身の状況、その置かれている環境等に関する理解を深めるための訓練及び啓発、専門的知識又は技能を有する職員の配置その他の必要な施策を講ずるものとする。

    第三節 電気通信事業者による取組の促進等に係る施策

 (電気通信事業者による取組の促進)

第十七条 国及び地方公共団体は、電気通信事業者が行うインターネット誹謗中傷の防止及び被害者等の救済に関し、インターネット誹謗中傷による被害に関する相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備、インターネット誹謗中傷の防止に関する取組の実施の状況の公表その他の電気通信事業者による取組を促進するために必要な施策を講ずるものとする。

 (関係機関と特定電気通信役務提供者との連携強化等)

第十八条 国及び地方公共団体は、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(平成十三年法律第百三十七号)の規定による特定電気通信による情報の送信を防止する措置及び開示の請求に基づく発信者情報の開示が円滑かつ確実に実施されるよう、インターネット誹謗中傷対策に関する事務をつかさどる国又は地方公共団体の機関(以下この条において「関係機関」という。)と特定電気通信役務提供者(同法第二条第三号に掲げる特定電気通信役務提供者をいう。以下この条において同じ。)との連携の強化、関係機関からの要請に応じて特定電気通信役務提供者が特定電気通信(同法第二条第一号に掲げる特定電気通信をいう。)による情報の送信を防止する措置を講じた場合における当該特定電気通信役務提供者の当該措置により送信を防止された情報の発信者(同条第四号に掲げる発信者をいう。)に生じた損害に係る賠償責任の制限その他の必要な施策を講ずるものとする。

 (外国会社の登記の適正化)

第十九条 国は、日本において継続して電気通信事業に関する取引をしていると認められる外国会社(会社法(平成十七年法律第八十六号)第二条第二号に掲げる外国会社をいう。)の業務の実態を踏まえ、当該外国会社について同法の規定による外国会社の登記の適正化が図られるよう必要な施策を講ずるものとする。

   附 則

 (施行期日)

第一条 この法律は、公布の日から施行する。

 (被害者等に対する給付金の支給に係る制度の導入)

第二条 政府は、被害者等が受けた被害による経済的負担の軽減を図るため、被害者等に対する給付金の支給に係る制度の導入について、当該給付金の支給に係る財源に係る関係事業者の負担の在り方を含めて検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。

 (被害者等の実効的な救済を図るための損害賠償に係る制度の導入)

第三条 政府は、インターネット誹謗中傷による被害が深刻化している状況に鑑み、諸外国における損害賠償の状況も踏まえ、侵害された権利の価値自体を賠償する責めに任ずべき損害とする制度その他の被害者等の実効的な救済を図るための損害賠償に係る制度の導入について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。

 (侮辱罪に係る公共の利害に関する場合の特例の創設)

第四条 政府は、刑法(明治四十年法律第四十五号)第二百三十一条の罪への厳正な対処が図られることにより自由な表現活動が妨げられることのないようにする観点から、当該罪に係る公共の利害に関する場合の特例を創設することについて検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。

 (インターネット誹謗中傷に関する相談、調査並びに被害の救済及び予防に関する事務をつかさどる行政組織の設置)

第五条 政府は、専門的知見に基づき中立公正な立場からインターネット誹謗中傷に関し、相談、調査並びに被害の救済及び予防に関する事務をつかさどる行政組織の在り方について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。


     理 由

 インターネット誹謗中傷による被害が多数発生し、かつ、これが被害者等の人権を著しく侵害する等の問題が深刻化している現状において、インターネット誹謗中傷の防止を図るとともに、インターネット誹謗中傷による被害が生じた場合に迅速かつ確実な救済を図ることが喫緊の課題であることに鑑み、これらの課題に対処するため、インターネット誹謗中傷対策に関し、基本理念を定め、国等の責務を明らかにし、及びインターネット誹謗中傷対策の基本となる事項を定めることにより、インターネット誹謗中傷対策を総合的に推進する必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。

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