衆議院

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第二一〇回

衆第四号

   特定財産損害誘導行為による被害の防止及び救済等に関する法律案

目次

 第一章 総則(第一条・第二条)

 第二章 特定財産損害誘導行為による被害の防止(第三条−第六条)

 第三章 特定財産損害誘導行為による被害の救済

  第一節 特定財産損害誘導行為による意思表示の取消し等(第七条−第十条)

  第二節 特別補助(第十一条−第十八条)

 第四章 特定財産損害誘導行為による被害者等の保護に資する相談体制の整備等(第十九条−第二十一条)

 第五章 雑則(第二十二条・第二十三条)

 第六章 罰則(第二十四条−第二十六条)

 附則

   第一章 総則

 (目的)

第一条 この法律は、特定財産損害誘導行為により多くの者の財産に著しい損害が生じていること並びに特定財産損害誘導行為の被害者及びその家族等(以下この条及び第二十条において「被害者等」という。)にこれらの損害に起因して家庭環境の著しい悪化その他の生活の全般にわたる多様で深刻な被害が発生していることに鑑み、特定財産損害誘導行為を禁止し、特定財産損害誘導行為を行う者に対してその中止等を勧告し又は命ずる措置を定めるとともに、特定財産損害誘導行為による意思表示の取消し等に関する制度及び特別補助に関する制度を設け、あわせて特定財産損害誘導行為による被害者等の保護に資する相談体制の整備等について定めることにより、特定財産損害誘導行為による被害の防止及び救済を図ること等を目的とする。

 (定義等)

第二条 この法律において「特定財産損害誘導行為」とは、人に対し、次に掲げる行為その他の人の自由な意思決定を著しく困難とするような状況を惹起させる違法若しくは著しく不当な行為(以下「困難状況惹起行為」という。)を行い、又は困難状況惹起行為により惹起された状況を利用して、その人の財産に著しい損害を生じさせることとなる財産上の利益の供与を誘導することをいう。

 一 次に掲げる方法により、人に著しい不安又は恐怖を与える行為

  イ 暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段を用いること。

  ロ 霊感その他の合理的に実証することが困難な特別な能力による知見として、そのままではその人に重大な不利益を与える事態が生じる旨を示すこと。

 二 その所属する組織、働きかけの目的等を告知しないこと等による注意力の低下に乗じる等心理学に関する知識及び技術をみだりに用い、又は人の知慮浅薄若しくは心神耗弱に乗じて、その人の心身に重大な影響を及ぼす行為

2 前項の著しい損害に該当するかどうかの判断は、標準的な年収を得る者においてはその財産上の利益の供与に係る額がその者の年間の可処分所得の額の四分の一に相当する額を超える額となるかどうかを目安の一つとして、財産上の利益の供与を誘導された者の資産及び収入の状況、生活の状況その他の諸事情を考慮して行われるものとする。

   第二章 特定財産損害誘導行為による被害の防止

 (特定財産損害誘導行為の禁止)

第三条 何人も、特定財産損害誘導行為をしてはならない。

 (特定財産損害誘導行為を行う者に対する措置)

第四条 内閣総理大臣は、特定財産損害誘導行為を行う者に対し、特定財産損害誘導行為の中止、その被害の再発を防止するための措置その他の必要な措置をとるべきことを勧告することができる。

2 内閣総理大臣は、前項の規定による勧告を受けた者が、正当な理由がなくて当該勧告に係る措置をとらなかったときは、その者に対し、期限を定めて、当該措置をとるべきことを命ずることができる。

3 内閣総理大臣は、前項の規定による命令をしたときは、その旨を公示しなければならない。

 (報告の徴収及び立入検査)

第五条 内閣総理大臣は、特定財産損害誘導行為による被害の防止のため必要があると認めるときは、特定財産損害誘導行為を行う者(特定財産損害誘導行為による被害の防止のため特に必要があると認める場合においては、特定財産損害誘導行為を行った者から当該特定財産損害誘導行為により供与を受けた財産上の利益の全部又は一部を供与された者その他の特定財産損害誘導行為を行う者と密接な関係を有する者として政令で定める者を含む。以下この項において同じ。)に対し報告若しくは帳簿、書類その他の物件の提出を命じ、又はその職員に特定財産損害誘導行為を行う者の事務所、事業所その他その事業を行う場所に立ち入り、帳簿、書類その他の物件を検査させ、若しくは従業員その他の関係者に質問させることができる。

2 前項の規定により立入検査をする職員は、その身分を示す証明書を携帯し、関係者に提示しなければならない。

3 第一項の規定による権限は、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない。

 (権限の委任等)

第六条 内閣総理大臣は、この章の規定による権限(政令で定めるものを除く。)を消費者庁長官に委任する。

2 前項の規定により消費者庁長官に委任された権限に属する事務の一部は、政令で定めるところにより、都道府県知事又は消費生活センター(消費者安全法(平成二十一年法律第五十号)第十条の二第一項第一号に規定する消費生活センターをいう。)を設置する市町村の長が行うこととすることができる。

3 この章の規定による権限の行使に当たっては、国民の権利を不当に侵害しないように留意しなければならない。

   第三章 特定財産損害誘導行為による被害の救済

    第一節 特定財産損害誘導行為による意思表示の取消し等

 (特定財産損害誘導行為による意思表示の取消し)

第七条 特定財産損害誘導行為によりその財産上の利益の供与を目的とする法律行為の意思表示をした者は、当該意思表示を取り消すことができる。

 (解釈規定)

第八条 前条の規定は、同条に規定する意思表示に対する民法(明治二十九年法律第八十九号)第九十六条及び消費者契約法(平成十二年法律第六十一号)第四条の規定の適用を妨げるものと解してはならない。

 (取消権を行使した者の返還義務)

第九条 民法第百二十一条の二第一項の規定にかかわらず、特定財産損害誘導行為によりその財産上の利益の供与を目的とする法律行為をした者であって反対給付を受けたものは、第七条の規定により当該法律行為の意思表示を取り消した場合において、給付を受けた当時その意思表示が取り消すことができるものであることを知らなかったときは、当該法律行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。

 (供与した財産上の利益の取戻し)

第十条 特定財産損害誘導行為によりその財産上の利益の供与を目的とする行為であって法律行為でないもの(以下「利益供与事実行為」という。)をした者は、当該利益供与事実行為に相当する法律行為の意思表示の取消しの例により、その財産上の利益を取り戻すことができる。

    第二節 特別補助

 (特別補助開始の審判等)

第十一条 困難状況惹起行為を受け、自己の財産に著しい損害を生じさせる財産上の利益の供与を誘導されるような精神状態にある者又はそのような精神状態に陥るおそれが極めて高い者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、民法第十条に規定する後見人、同条に規定する後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、特別補助開始の審判をすることができる。

2 特別補助開始の審判を受けた者は、被特別補助人とし、これに特別補助人を付する。

3 家庭裁判所は、必要があると認めるときは、被特別補助人、その親族若しくは特別補助人の請求により又は職権で、特別補助監督人を選任することができる。

 (特別補助人の同意を要する旨の審判等)

第十二条 家庭裁判所は、前条第一項に規定する者又は特別補助人若しくは特別補助監督人の請求により、被特別補助人が次の各号のいずれにも該当する行為(第十七条第二項において「同意請求対象行為」という。)のうち特定の行為をするにはその特別補助人の同意を得なければならない旨の審判をすることができる。

 一 民法第十三条第一項第二号から第五号まで及び第十号に掲げる行為

 二 その相手方が特定財産損害誘導行為を行う者又はその関係者である行為(相手方のない法律行為又は利益供与事実行為であって、これらの者に財産上の利益を供与するものを含む。)

2 特別補助人の同意を得なければならない法律行為であって、その同意又はこれに代わる許可(第十八条第一項の規定によりその例によることとされる民法第十七条第三項の規定による同意に代わる許可をいう。次項において同じ。)を得ないでしたものは、取り消すことができる。

3 特別補助人の同意を得なければならない利益供与事実行為であって、その同意又はこれに代わる許可を得ないでしたものは、当該利益供与事実行為に相当する法律行為の意思表示の取消しの例により、その財産上の利益を取り戻すことができる。

 (特別補助開始の審判の取消し)

第十三条 第十一条第一項に規定する原因が消滅したときは、家庭裁判所は、同項に規定する者又は特別補助人若しくは特別補助監督人の請求により、特別補助開始の審判を取り消さなければならない。

 (特別補助人及び特別補助監督人の欠格事由)

第十四条 次に掲げる者は、特別補助人又は特別補助監督人となることができない。

 一 困難状況惹起行為を受けてその影響の下にある者

 二 被特別補助人に対して訴訟をし、又はした者並びにその配偶者及び直系血族

 三 民法第八百四十七条第一号から第三号まで及び第五号に掲げる者

 (特別補助人に代理権を付与する旨の審判)

第十五条 家庭裁判所は、第十一条第一項に規定する者又は特別補助人若しくは特別補助監督人の請求により、被特別補助人のために特定の法律行為(特定財産損害誘導行為による財産上の被害の防止又は回復に関するものに限る。)について特別補助人に代理権を付与する旨の審判をすることができる。

 (管轄)

第十六条 特別補助開始の審判事件は、被特別補助人となるべき者の住所地を管轄する家庭裁判所の管轄に属する。

2 特別補助に関する審判事件は、特別補助開始の審判事件を除き、特別補助開始の審判をした家庭裁判所(抗告裁判所が特別補助開始の裁判をした場合にあっては、その第一審裁判所である家庭裁判所)の管轄に属する。ただし、特別補助開始の審判事件が家庭裁判所に係属しているときは、その家庭裁判所の管轄に属する。

 (特別補助開始の審判事件を本案とする保全処分)

第十七条 家庭裁判所(本案の家事審判事件が高等裁判所に係属する場合には、その高等裁判所。次項において同じ。)は、特別補助開始の申立てがあった場合において、被特別補助人となるべき者の財産の管理(特定財産損害誘導行為による被害の防止又は回復に関するものに限る。以下この項において同じ。)のため必要があるときは、申立てにより又は職権で、担保を立てさせないで、特別補助開始の申立てについての審判が効力を生ずるまでの間、財産の管理者を選任し、又は事件の関係人に対し、被特別補助人となるべき者の財産の管理に関する事項を指示することができる。

2 家庭裁判所は、特別補助開始及び特別補助人の同意を得なければならない行為の定めの申立てがあった場合において、被特別補助人となるべき者の財産の保全のため特に必要があるときは、当該申立てをした者の申立てにより、特別補助開始の申立てについての審判が効力を生ずるまでの間、被特別補助人となるべき者の財産上の行為(同意請求対象行為であって、当該特別補助人の同意を得なければならない行為の定めの申立てに係るものに限る。)につき、前項の財産の管理者の特別補助を受けることを命ずることができる。

 (他の法令の準用等)

第十八条 特別補助については、第十一条から第十五条までの規定によるほか、民法の補助に関する規定(同法第十五条第二項、第十七条第二項、第十九条、第八百七十六条の九第二項において準用する第八百七十六条の四第二項及び第九百六十二条を除く。)の例による。この場合において必要な読替えその他必要な事項は、政令で定める。

2 特別補助の審判の手続については、前二条の規定によるほか、家事事件手続法(平成二十三年法律第五十二号)の補助に関する規定の例による。この場合において必要な読替えその他必要な事項は、最高裁判所規則で定める。

3 特別補助の登記については、後見登記等に関する法律(平成十一年法律第百五十二号)の補助に関する規定の例による。この場合において必要な読替えその他必要な事項は、政令で定める。

4 前三項に規定するもののほか、補助に関する法令であって政令で定めるものについては、政令で定めるところにより、特別補助を補助と、被特別補助人を被補助人と、特別補助人を補助人と、特別補助監督人を補助監督人とそれぞれみなして、これらの法令を準用する。

   第四章 特定財産損害誘導行為による被害者等の保護に資する相談体制の整備等

 (実態調査)

第十九条 政府は、特定財産損害誘導行為による被害の実態を明らかにし、その被害を未然に防止するため必要な調査を行い、その結果をインターネットの利用その他適切な方法により公表しなければならない。

 (相談体制の整備等)

第二十条 国及び地方公共団体は、特定財産損害誘導行為による被害者等の適切かつ迅速な保護及びその負担の軽減に資するよう、被害者等に関する各般の問題について一元的にその相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他必要な措置を講ずるものとする。

2 国及び地方公共団体は、被害者等の支援に関する業務を行う関係機関及び民間団体の間の連携の強化、関係する職員の研修、民間団体の支援その他被害者等の支援のために必要な措置を講ずるよう努めなければならない。

 (被害の発生を未然に防止するための教育及び啓発)

第二十一条 国及び地方公共団体は、特定財産損害誘導行為による被害者がその被害を認識することが困難であること等に鑑み、学校をはじめ、地域、家庭、職域その他の様々な場を通じて、特定財産損害誘導行為による被害の発生を未然に防止するために必要な事項に関する国民の十分な理解と関心を深めるために必要な教育活動及び啓発活動の充実を図るものとする。

   第五章 雑則

 (関係行政機関の連携協力)

第二十二条 内閣総理大臣及び関係行政機関の長は、第二章の規定による権限の行使が円滑に行われるとともに、特定財産損害誘導行為を組織的に行う法人その他の団体が適切に監督されるよう、情報交換を行い、相互に緊密な連携を図りながら協力しなければならない。

 (政令への委任)

第二十三条 この法律に定めるもののほか、この法律の実施のため必要な事項は、政令で定める。

   第六章 罰則

第二十四条 第四条第二項の規定による命令に違反したときは、その違反行為をした者は、二年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。

第二十五条 第五条第一項の規定による報告若しくは物件の提出をせず、若しくは虚偽の報告若しくは虚偽の物件の提出をし、又は同項の規定による検査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、若しくは同項の規定による質問に対して答弁をせず、若しくは虚偽の答弁をしたときは、その違反行為をした者は、一年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。

第二十六条 法人(法人でない団体で代表者又は管理人の定めのあるものを含む。以下この項において同じ。)の代表者若しくは管理人又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務又は財産に関して、次の各号に掲げる規定の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、当該各号に定める罰金刑を科する。

 一 第二十四条 三億円以下の罰金刑

 二 前条 同条の罰金刑

2 法人でない団体について前項の規定の適用がある場合には、その代表者又は管理人が、その訴訟行為につき法人でない団体を代表するほか、法人を被告人又は被疑者とする場合の訴訟行為に関する刑事訴訟に関する法律の規定を準用する。

   附 則

 (施行期日)

第一条 この法律は、公布の日から起算して二月を経過した日から施行する。ただし、次の各号に掲げる規定は、当該各号に定める日から施行する。

 一 附則第三条及び第五条の規定 公布の日

 二 第三章第二節の規定 公布の日から起算して一年を経過した日

 (経過措置)

第二条 第七条の規定は、この法律の施行の日(以下この条において「施行日」という。)前に行われた特定財産損害誘導行為により施行日以後にその財産上の利益の供与を目的とする法律行為の意思表示がされた場合にも適用する。

2 第十条の規定は、施行日前に行われた特定財産損害誘導行為により施行日以後に利益供与事実行為がされた場合にも適用する。

 (検討)

第三条 国は、この法律の公布後一年以内を目途に、次に掲げる事項について検討を加え、その結果に基づいて、必要な法制上の措置その他の措置を講ずるものとする。

 一 困難状況惹起行為を行い、又は困難状況惹起行為により惹起された状況を利用して人の生命、身体その他の権利利益を侵害するよう誘導する行為による被害の実情を踏まえた、これらの被害の防止及びその被害者の支援並びに当該行為の規制の在り方

 二 特定財産損害誘導行為を組織的に行う法人の解散命令に係る制度その他の特定財産損害誘導行為を組織的に行う法人に対する規制の在り方

 (消費者庁及び消費者委員会設置法の一部改正)

第四条 消費者庁及び消費者委員会設置法(平成二十一年法律第四十八号)の一部を次のように改正する。

  第四条第一項第十三号の四の次に次の一号を加える。

  十三の五 特定財産損害誘導行為による被害の防止及び救済等に関する法律(令和四年法律第▼▼▼号)の規定による特定財産損害誘導行為(同法第二条第一項に規定するものをいう。)による被害の防止及び救済等に関すること。

 (関係法律の整備)

第五条 この法律の施行に伴う関係法律の整備については、別に法律で定める。


     理 由

 特定財産損害誘導行為により多くの者の財産に著しい損害が生じていること並びに特定財産損害誘導行為の被害者及びその家族等にこれらの損害に起因して家庭環境の著しい悪化その他の生活の全般にわたる多様で深刻な被害が発生していることに鑑み、特定財産損害誘導行為による被害の防止及び救済を図る等のため、特定財産損害誘導行為を禁止し、特定財産損害誘導行為を行う者に対してその中止等を勧告し又は命ずる措置を定めるとともに、特定財産損害誘導行為による意思表示の取消し等に関する制度及び特別補助に関する制度を設け、あわせて特定財産損害誘導行為による被害者等の保護に資する相談体制の整備等について定める必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。

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