第二一七回
閣第四二号
民事裁判情報の活用の促進に関する法律案
(目的)
第一条 この法律は、デジタル社会の進展に伴い民事裁判情報に対する需要が多様化していることに鑑み、民事裁判情報の活用の促進に関し、国の責務、法務大臣による基本方針の策定、民事裁判情報を加工して第三者に提供する業務等を行う法人の指定等について定めることにより、民事裁判情報の適正かつ効果的な活用のための基盤の整備を図り、もって創造的かつ活力ある社会の発展に資することを目的とする。
(定義等)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 民事裁判情報 民事訴訟手続及び行政事件訴訟手続において作成された次に掲げる電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に記録されている事項に係る情報をいう。
イ 電子判決書(民事訴訟法(平成八年法律第百九号)第二百五十二条第一項に規定する電子判決書をいい、同法第二百五十三条第二項の規定により裁判所の使用に係る電子計算機(入出力装置を含む。)に備えられたファイル(以下この号において単に「ファイル」という。)に記録されたものに限る。)
ロ 民事訴訟法第二百五十四条第二項の電子調書(同法第百六十条第二項の規定によりファイルに記録されたものに限る。)
ハ 電子決定書(民事訴訟法第百二十二条において準用する同法第二百五十二条第一項の規定により作成された電磁的記録をいい、同法第百二十二条において準用する同法第二百五十三条第二項の規定によりファイルに記録されたものに限る。)であって、法令の解釈適用について参考となる裁判に係るものとして法務省令で定めるもの
二 保有民事裁判情報 第五条第二項に規定する指定法人が第七条第一項の規定により最高裁判所から提供を受けた電磁的記録に記録されている民事裁判情報であって、当該指定法人が保有しているものをいう。
三 仮名加工民事裁判情報 保有民事裁判情報に含まれる特定の個人(当該保有民事裁判情報に係る裁判をした裁判官その他この号に規定する措置を講じなくてもその権利利益を害するおそれが少ないと認められる者として法務省令で定める者を除く。以下この号及び第十三条において同じ。)の氏名、生年月日その他の特定の個人を識別することができることとなる情報及び個人識別符号(個人情報の保護に関する法律(平成十五年法律第五十七号)第二条第二項に規定する個人識別符号をいう。以下この号において同じ。)の全部又は一部を削除する措置(当該情報及び個人識別符号を復元することのできる規則性を有しない方法により他の情報に置き換えることを含む。)を講じて他の情報と照合しない限り特定の個人を識別することができないように保有民事裁判情報を加工して得られる情報をいう。
四 民事裁判関連情報 民事裁判情報に関連する情報であって、当該民事裁判情報に係る裁判について上訴があった旨その他の民事裁判情報の活用の促進に資するものとして法務省令で定めるものをいう。
2 法務大臣は、前項第一号ハ又は第四号の法務省令を制定し、又は改廃する場合においては、あらかじめ、最高裁判所の意見を聴かなければならない。
(国の責務)
第三条 政府は、この法律の目的を達成するため、民事裁判情報の活用の促進のための施策を策定し、及び実施するとともに、最高裁判所その他の関係者と協力して、当該施策の適切な実施に必要な措置を講ずるよう努めるものとする。
2 最高裁判所は、民事裁判情報の活用の促進を図るため、民事裁判情報を記録した電磁的記録の提供その他の必要な措置を講ずるものとする。
(基本方針)
第四条 法務大臣は、民事裁判情報の活用の促進に関する基本的な方針(以下この条及び第八条第一項において「基本方針」という。)を定めなければならない。
2 基本方針においては、次に掲げる事項を定めるものとする。
一 民事裁判情報の活用の促進の意義に関する事項
二 民事裁判情報の活用の促進のための施策に関する基本的な事項
三 保有民事裁判情報の管理及び提供に関する基本的な事項
四 前三号に掲げるもののほか、民事裁判情報の活用の促進に関する重要事項
3 法務大臣は、基本方針を定めるときは、あらかじめ、最高裁判所の意見を聴かなければならない。
4 法務大臣は、基本方針を定めたときは、遅滞なく、これを公表しなければならない。
5 前二項の規定は、基本方針の変更について準用する。
(指定等)
第五条 法務大臣は、一般社団法人、一般財団法人その他営利を目的としない法人であって、次に掲げる要件を備えるものを、その申請により、全国に一を限って、次条第一項各号に掲げる業務(以下「民事裁判情報管理提供業務」という。)を行う者として指定することができる。
一 民事裁判情報管理提供業務を適正かつ確実に行うのに必要な経理的基礎及び技術的能力を有するものであること。
二 役員又は職員の構成が民事裁判情報管理提供業務の公正な遂行に支障を及ぼすおそれがないものであること。
三 民事裁判情報管理提供業務以外の業務を行っている場合は、その業務を行うことによって民事裁判情報管理提供業務が不公正になるおそれがないものであること。
四 第十八条第一項の規定により指定を取り消され、その取消しの日から五年を経過しない者でないこと。
五 役員のうちに次のいずれかに該当する者がないこと。
イ 拘禁刑以上の刑に処せられ、その刑の執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から五年を経過しない者
ロ この法律の規定に違反したことにより罰金の刑に処せられ、その刑の執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から五年を経過しない者
2 法務大臣は、前項の規定による指定をしたときは、当該指定を受けた者(以下「指定法人」という。)の名称及び主たる事務所の所在地並びに当該指定をした日を公示するものとする。
3 指定法人は、その名称又は主たる事務所の所在地を変更しようとするときは、変更しようとする日の二週間前までに、その旨を法務大臣に届け出なければならない。
4 法務大臣は、前項の規定による届出があったときは、その旨を公示するものとする。
5 指定法人は、役員を選任し、又は解任したときは、遅滞なく、その旨を法務大臣に届け出なければならない。
(業務)
第六条 指定法人は、この法律及び第八条第一項に規定する業務規程の定めるところにより、次に掲げる業務を行うものとする。
一 広く一般の需要に応ずるに足りる仮名加工民事裁判情報に係るデータベースを整備するため、保有民事裁判情報を整理し、及び加工して仮名加工民事裁判情報を作成すること。
二 仮名加工民事裁判情報を利用しようとする者に対し、仮名加工民事裁判情報を電磁的方法(電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であって法務省令で定めるものをいう。)により提供すること。
三 保有民事裁判情報、第二条第一項第三号に規定する措置によって保有民事裁判情報から削除した情報(第二十条において「削除情報」という。)、第十三条第一項の規定により行った加工の方法に関する情報、仮名加工民事裁判情報及び次条第二項に規定する収集整理した民事裁判関連情報(以下「保有民事裁判情報等」という。)を管理すること。
四 前三号に掲げる業務に附帯する業務を行うこと。
2 指定法人は、民事裁判情報管理提供業務のほか、仮名加工民事裁判情報及び次条第二項に規定する収集整理した民事裁判関連情報(第十二条において「仮名加工民事裁判情報等」という。)を利用して司法制度の充実に資する調査及び研究の業務を行うことができる。
(情報提供の求め等)
第七条 指定法人は、民事裁判情報管理提供業務を行うため、最高裁判所に対し、最高裁判所規則で定めるところにより、第二条第一項第一号イからハまでに掲げる電磁的記録(民事訴訟法第九十二条第一項その他の法令の規定により同法第四十五条第五項第二号に規定する電磁的訴訟記録の閲覧等の請求が制限される部分を除く。)に記録されている事項を記録した電磁的記録の提供を求めることができる。
2 指定法人は、民事裁判情報管理提供業務を行うため、民事裁判関連情報を収集整理し、及び仮名加工民事裁判情報を利用しようとする者に対して、当該収集整理した民事裁判関連情報を提供するよう努めるものとする。
(業務規程)
第八条 指定法人は、基本方針に従って、民事裁判情報管理提供業務に関する規程(以下この条及び第十八条第一項第四号において「業務規程」という。)を定め、法務大臣の認可を受けなければならない。これを変更しようとするときも、同様とする。
2 業務規程には、次に掲げる事項を定めておかなければならない。
一 保有民事裁判情報の加工の方法に関する事項
二 仮名加工民事裁判情報の提供を内容とする契約(第十条及び第十二条において「情報提供契約」という。)の締結に関する事項
三 保有民事裁判情報等の漏えい、滅失又は毀損の防止その他の保有民事裁判情報等の安全管理に関する事項
四 料金に関する事項
五 苦情の処理に関する事項
六 前各号に掲げるもののほか、民事裁判情報管理提供業務の実施に必要な事項として法務省令で定める事項
3 法務大臣は、第一項の認可をした業務規程が民事裁判情報管理提供業務の適正かつ確実な実施上不適当となったと認めるときは、指定法人に対し、その業務規程を変更すべきことを命ずることができる。
(事業計画等)
第九条 指定法人は、毎事業年度、事業計画及び収支予算を作成し、当該事業年度の開始前に(第五条第一項の規定による指定を受けた日の属する事業年度にあっては、その指定を受けた後遅滞なく)、法務大臣の認可を受けなければならない。これを変更しようとするときも、同様とする。
2 指定法人は、毎事業年度、事業報告書及び収支決算書を作成し、当該事業年度の終了後三月以内に、法務大臣に提出しなければならない。
(契約の締結及び解除)
第十条 指定法人は、情報提供契約の申込者がその申込みに関し偽りその他不正の行為を行ったとき、その他法務省令で定める正当な理由があるときを除き、情報提供契約の締結を拒絶してはならない。
2 指定法人は、情報提供契約を締結した者の契約上の義務違反により契約関係を継続し難い重大な事由があると認められるとき、その他法務省令で定める正当な理由があるときを除き、情報提供契約を解除してはならない。
(業務の休廃止)
第十一条 指定法人は、法務大臣の許可を受けなければ、民事裁判情報管理提供業務の全部又は一部を休止し、又は廃止してはならない。
2 法務大臣が前項の規定により民事裁判情報管理提供業務の全部の廃止を許可したときは、当該許可に係る指定は、その効力を失う。
3 法務大臣は、第一項の許可をしたときは、その旨を公示しなければならない。
(保有民事裁判情報等の目的外使用の禁止)
第十二条 指定法人の役員若しくは職員その他の従業者又はこれらの者であった者は、保有民事裁判情報等を、民事裁判情報管理提供業務の用に供する目的以外に使用してはならない。ただし、第六条第二項に規定する業務を行うために仮名加工民事裁判情報等を使用するとき及び情報提供契約を締結した者に対して民事裁判関連情報の提供を行うときは、この限りでない。
(仮名加工民事裁判情報の作成等)
第十三条 指定法人は、仮名加工民事裁判情報を作成するときは、他の情報と照合しない限り特定の個人を識別することができないようにするために必要なものとして法務省令で定める基準に従い、保有民事裁判情報を加工しなければならない。
2 指定法人は、仮名加工民事裁判情報を取り扱うに当たっては、法令に基づく場合を除き、当該仮名加工民事裁判情報の作成に用いられた保有民事裁判情報に係る特定の個人を識別するために、当該仮名加工民事裁判情報を他の情報と照合してはならない。
(委託)
第十四条 指定法人は、法務省令で定めるところにより、民事裁判情報管理提供業務の一部を、法務大臣の承認を受けて、他の者に委託することができる。
2 前項の規定による委託を受けた者は、当該委託を受けた民事裁判情報管理提供業務の一部を、指定法人の同意を得て、他の者に再委託することができる。この場合において、指定法人は、あらかじめ、当該再委託について法務大臣の承認を受けなければならない。
3 第十二条の規定は、前二項の規定により委託若しくは再委託を受けて行う民事裁判情報管理提供業務に従事する者又はこれらの者であった者について準用する。
(帳簿の備付け等)
第十五条 指定法人は、法務省令で定めるところにより、帳簿(その作成に代えて電磁的記録の作成がされている場合における当該電磁的記録を含む。第十七条第一項及び第二十一条第一項第二号において同じ。)を備え付け、民事裁判情報管理提供業務に関する事項で法務省令で定めるものを記載し、又は記録し、及びこれを保存しなければならない。
(監督命令)
第十六条 法務大臣は、民事裁判情報管理提供業務の適正な実施を確保するため必要があると認めるときは、指定法人に対し、その業務に関し監督上必要な命令をすることができる。
(報告及び検査)
第十七条 法務大臣は、民事裁判情報管理提供業務の適正な実施を確保するため必要があると認めるときは、指定法人に対し、その業務の状況に関し必要な報告を求め、又はその職員に、指定法人の事務所に立ち入り、業務の状況若しくは設備、帳簿、書類その他の物件を検査させ、若しくは関係者に質問させることができる。
2 前項の規定により立入検査をする職員は、その身分を示す証明書を携帯し、関係者にこれを提示しなければならない。
3 第一項の規定による立入検査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解してはならない。
(指定の取消し等)
第十八条 法務大臣は、指定法人が次の各号のいずれかに該当するときは、その指定を取り消し、又は期間を定めて民事裁判情報管理提供業務の全部若しくは一部の停止を命ずることができる。
一 民事裁判情報管理提供業務を適正かつ確実に実施することができないと認められるとき。
二 この法律の規定又は当該規定に基づく命令若しくは処分に違反したとき。
三 第五条第一項第五号に掲げる要件に該当しないこととなったとき。
四 第八条第一項の規定により認可を受けた業務規程によらないで民事裁判情報管理提供業務を行ったとき。
2 法務大臣は、前項の規定による処分をしたときは、その旨を公示しなければならない。
3 第一項の規定による指定の取消しが行われた場合において、当該指定の取消しに係る法人は、法務省令で定めるところにより、その管理に係る保有民事裁判情報等を法務大臣が第五条第一項の規定により新たに指定する指定法人に速やかに引き継がなければならない。
4 前項に定めるもののほか、第一項の規定による指定の取消しが行われた場合における民事裁判情報管理提供業務の引継ぎその他の必要な事項は、法務省令で定める。
(法務省令への委任)
第十九条 この法律に定めるもののほか、民事裁判情報管理提供業務に関し必要な事項は、法務省令で定める。
(罰則)
第二十条 次に掲げる者が、その業務に関して知り得た保有民事裁判情報(第二条第一項第三号に規定する措置によって削除し、又は他の情報に置き換えることが予定されている情報に限る。)、削除情報又は第十三条第一項の規定により行った加工の方法に関する情報(その情報を用いて削除情報を復元することができるものに限る。)を自己若しくは第三者の不正な利益を図る目的で提供し、又は盗用したときは、一年以下の拘禁刑若しくは五十万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一 指定法人の役員若しくは職員その他の従業者又はこれらの者であった者
二 第十四条第一項若しくは第二項の規定により委託若しくは再委託を受けて行う民事裁判情報管理提供業務に従事する者又はこれらの者であった者
第二十一条 次の各号のいずれかに該当する場合には、当該違反行為をした者は、三十万円以下の罰金に処する。
一 第十一条第一項の許可を受けないで民事裁判情報管理提供業務の全部を廃止したとき。
二 第十五条の規定に違反して、帳簿を備え付けず、帳簿に記載せず、若しくは記録せず、若しくは虚偽の記載若しくは記録をし、又は帳簿を保存しなかったとき。
三 第十七条第一項の規定による報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、又は同項の規定による検査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、若しくは同項の規定による質問に対して陳述をせず、若しくは虚偽の陳述をしたとき。
2 法人(法人でない団体で代表者又は管理人の定めのあるものを含む。以下この項において同じ。)の代表者若しくは管理人又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、前項の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、同項の刑を科する。
3 法人でない団体について前項の規定の適用がある場合には、その代表者又は管理人がその訴訟行為について法人でない団体を代表するほか、法人を被告人又は被疑者とする場合の刑事訴訟に関する法律の規定を準用する。
附 則
(施行期日)
第一条 この法律は、公布の日から起算して九月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。ただし、第六条、第七条、第八条第三項、第九条第二項、第十条から第十八条まで、第二十条及び第二十一条の規定は、公布の日から起算して二年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。
(民事裁判情報管理提供業務の準備行為)
第二条 指定法人は、前条ただし書に規定する規定の施行の日前においても、民事裁判情報管理提供業務の実施に必要な準備行為をすることができる。
(調整規定)
第三条 この法律の施行の日が民事訴訟法等の一部を改正する法律(令和四年法律第四十八号)の施行の日前である場合には、同法の施行の日の前日までの間は、第二条第一項第一号中「民事訴訟法」とあるのは、「民事訴訟法等の一部を改正する法律(令和四年法律第四十八号)第二条の規定による改正後の民事訴訟法」とする。
(法務省設置法の一部改正)
第四条 法務省設置法(平成十一年法律第九十三号)の一部を次のように改正する。
第四条第一項第二十五号の二の次に次の一号を加える。
二十五の三 民事裁判情報の活用の促進に関する法律(令和七年法律第▼▼▼号)の規定による民事裁判情報管理提供業務を行う法人の監督に関すること。
(検討)
第五条 政府は、附則第一条ただし書に規定する規定の施行後五年を経過した場合において、この法律の施行の状況について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。
理 由
民事裁判情報の適正かつ効果的な活用の促進を図るため、国の責務及び法務大臣による基本方針の策定について定めるとともに、民事裁判情報を加工して第三者に提供する業務等を行う法人の指定に関する制度を創設する等の措置を講ずる必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。