盗難自動車等の処分の防止に関する法律案
目次
第一章 総則(第一条・第二条)
第二章 盗難自動車等の処分の防止のための特定自動車等解体保管業に係る措置(第三条―第十五条)
第三章 自動車等の盗難の防止に資する情報の周知(第十六条)
第四章 雑則(第十七条―第二十二条)
第五章 罰則(第二十三条―第二十八条)
附則
第一章 総則
(目的)
第一条 この法律は、自動車等の窃取を防止するためには盗難自動車等の処分を防止することが重要であることに鑑み、特定自動車等解体保管業について自動車等の受取りの相手方の氏名等の確認を義務付ける等の措置を講ずること等により、自動車等の窃取の防止に資することを目的とする。
(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 自動車 道路運送車両法(昭和二十六年法律第百八十五号)第二条第二項に規定する自動車をいう。
二 自動車等 自動車及び自動車の部品(自動車又は自動車の部品が切断された後に残存する物を含む。)をいう。
三 盗難自動車等 窃取された自動車等をいう。
四 特定自動車等解体保管業 自動車等の解体(自動車等から自動車の部品を分離し、又は自動車等を切断することをいう。次条第一項及び第二十二条において同じ。)又は保管を行う事業をいう。
第二章 盗難自動車等の処分の防止のための特定自動車等解体保管業に係る措置
(特定自動車等解体保管業の届出)
第三条 特定自動車等解体保管業を営もうとする者は、国家公安委員会規則で定めるところにより、事業所(自動車等の解体又は保管を行う施設をいう。以下この章において同じ。)ごとに、氏名又は名称、住所、事業所の所在地、規模及び設備の概要その他国家公安委員会規則で定める事項を、当該事業所の所在地を管轄する都道府県公安委員会(以下この章及び第十七条において「公安委員会」という。)に届け出なければならない。この場合において、その届出には、国家公安委員会規則で定める書類を添付しなければならない。
2 前項の規定による届出をした者は、当該届出に係る事業所の所在地における特定自動車等解体保管業を廃止したとき又は同項の規定により届け出た事項(事業所の所在地を除く。)に変更があったときは、国家公安委員会規則で定めるところにより、その旨を公安委員会に届け出なければならない。この場合において、その届出には、国家公安委員会規則で定める書類を添付しなければならない。
(届出番号等の通知)
第四条 公安委員会は、前条第一項の規定による届出があったときは、当該届出に係る事業所を識別するための番号、記号その他の符号(次条第一項において「届出番号等」という。)を当該届出をした者に通知しなければならない。
(氏名等の表示)
第五条 第三条第一項の規定による届出をした者は、国家公安委員会規則で定めるところにより、事業所ごとに、公衆の見やすい場所に、その氏名又は名称、届出をした公安委員会の名称及び届出番号等(次項において「氏名等」という。)を表示しなければならない。
2 第三条第一項の規定による届出をした者は、その事業の規模が著しく小さい場合その他の国家公安委員会規則で定める場合を除き、国家公安委員会規則で定めるところにより、その氏名等を電気通信回線に接続して行う自動公衆送信(公衆によって直接受信されることを目的として公衆からの求めに応じ自動的に送信を行うことをいい、放送又は有線放送に該当するものを除く。第十六条において同じ。)により公衆の閲覧に供しなければならない。
(名義貸しの禁止)
第六条 第三条第一項の規定による届出をした者は、自己の名義をもって、他人に特定自動車等解体保管業を営ませてはならない。
(本人確認)
第七条 特定自動車等解体保管業を営む者は、自動車等の受取りを行おうとするときは、当該受取りの相手方から身分証明書等(身分証明書、運転免許証、行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(平成二十五年法律第二十七号)第二条第七項に規定する個人番号カードその他の相手方の住所、氏名及び年齢又は生年月日を証する資料(一を限り発行され又は発給されたものに限る。)をいう。)の提示を受けることその他の国家公安委員会規則で定める方法により、当該受取りの相手方の本人特定事項(当該相手方が自然人である場合にあっては氏名、住居(本邦内に住居を有しない外国人で国家公安委員会規則で定めるものにあっては、国家公安委員会規則で定める事項)、生年月日及び職業をいい、当該相手方が法人である場合にあっては名称及び本店又は主たる事務所の所在地をいう。次条第一項において同じ。)の確認(以下この章において「本人確認」という。)を行わなければならない。ただし、過去に受取りの相手方となったことがある者からの受取りを行う場合であって当該受取りに係る代金の支払をその者の預金又は貯金の口座への振込みにより行うときその他の国家公安委員会規則で定める場合は、この限りでない。
2 特定自動車等解体保管業を営む者は、自動車等の受取りの相手方の本人確認を行う場合において、会社の代表者が当該会社のために当該特定自動車等解体保管業を営む者との間で受取りに係る取引を行うときその他の当該特定自動車等解体保管業を営む者との間で現に当該取引の任に当たっている自然人が当該相手方と異なるとき(次項に規定する場合を除く。)は、当該相手方の本人確認に加え、当該取引の任に当たっている自然人についても、前項の国家公安委員会規則で定める方法により、本人確認を行わなければならない。
3 自動車等の受取りの相手方が国、地方公共団体、人格のない社団又は財団その他政令で定める者である場合には、当該相手方のために当該受取りに係る特定自動車等解体保管業を営む者との間で現に当該受取りに係る取引の任に当たっている自然人を受取りの相手方とみなして、第一項本文の規定を適用する。
(本人確認記録の作成等)
第八条 特定自動車等解体保管業を営む者は、本人確認を行った場合には、直ちに、国家公安委員会規則で定める方法により、当該本人確認に係る本人特定事項、当該本人確認のためにとった措置その他の国家公安委員会規則で定める事項に関する記録(次項及び第二十五条第二号において「本人確認記録」という。)を作成しなければならない。
2 特定自動車等解体保管業を営む者は、本人確認記録を、当該本人確認記録に係る受取りの行われた日から三年間保存しなければならない。
(自動車検査証等の確認等)
第九条 特定自動車等解体保管業を営む者は、第七条に定めるもののほか、自動車の受取りを行おうとするときは、当該受取りの相手方から当該自動車に係る道路運送車両法第六十条の自動車検査証その他の国家公安委員会規則で定める書類(以下この条及び第二十五条第三号において「自動車検査証等」という。)の提示を受け、当該自動車検査証等に当該自動車の所有者として記録され又は記載された者の確認を行わなければならない。
2 特定自動車等解体保管業を営む者は、前項の規定により提示を受けた自動車検査証等の写しを作成し、これを当該自動車検査証等に係る自動車の受取りの行われた日から三年間保存しなければならない。
(取引記録の作成等)
第十条 特定自動車等解体保管業を営む者は、自動車等の受取り又は引渡しを行った場合には、直ちに、国家公安委員会規則で定める方法により、次に掲げる事項に関する記録(次項及び第二十五条第四号において「取引記録」という。)を作成しなければならない。
一 相手方の氏名又は名称及び住所
二 受取り又は引渡しの年月日
三 自動車等の品目及び数量
四 自動車等の特徴
五 前各号に掲げるもののほか、国家公安委員会規則で定める事項
2 特定自動車等解体保管業を営む者は、取引記録を、当該取引記録に係る受取り又は引渡しの行われた日から三年間保存しなければならない。
(警察官への申告)
第十一条 特定自動車等解体保管業を営む者は、取引の態様その他の事実に照らして、受取りに係る自動車等が盗難自動車等に由来するものである疑いがあると認めたときは、直ちに、警察官にその旨を申告しなければならない。
(指示)
第十二条 公安委員会は、特定自動車等解体保管業を営む者又はその代理人、使用人その他の従業者(次条及び第二十八条において「代理人等」という。)がその営み又は従事する特定自動車等解体保管業に関し、この法律若しくはこの法律に基づく命令又は他の法令の規定に違反したと認める場合において、当該特定自動車等解体保管業を利用した盗難自動車等の処分を防止するため必要があると認めるときは、当該特定自動車等解体保管業を営む者に対し、本人確認の確実な実施を図るための措置その他の必要な措置をとるべきことを指示することができる。
(営業停止命令)
第十三条 公安委員会は、特定自動車等解体保管業を営む者若しくはその代理人等がその営み若しくは従事する特定自動車等解体保管業に関しこの法律若しくはこの法律に基づく命令若しくは他の法令の規定に違反したと認める場合において当該特定自動車等解体保管業を利用した盗難自動車等の処分を防止するため特に必要があると認めるとき又は特定自動車等解体保管業を営む者が前条の規定による指示に違反したと認めるときは、当該特定自動車等解体保管業を営む者に対し、六月を超えない範囲内で期間を定めて、当該特定自動車等解体保管業の全部又は一部の停止を命ずることができる。
(報告徴収及び立入検査)
第十四条 公安委員会は、この章の規定の施行に必要な限度において、特定自動車等解体保管業を営む者に対し、その事業に関し報告若しくは資料の提出を求め、又は警察職員に、事業所若しくは事務所に立ち入り、自動車等、帳簿、書類その他の物件を検査させ、若しくは関係者に質問させることができる。
2 前項の規定により立入検査をする警察職員は、その身分を示す証票を携帯し、関係者に提示しなければならない。
3 第一項の規定による立入検査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解してはならない。
(盗難自動車等に関する情報の提供)
第十五条 公安委員会は、特定自動車等解体保管業を利用した盗難自動車等の処分の防止に資するため、第三条第一項の規定による届出をした者に対し、盗難自動車等に関する情報を電子メール(特定電子メールの送信の適正化等に関する法律(平成十四年法律第二十六号)第二条第一号に規定する電子メールをいう。)の送信、印刷物の配布その他の適切な方法により提供するよう努めなければならない。
第三章 自動車等の盗難の防止に資する情報の周知
第十六条 警視総監又は道府県警察本部長、方面本部長及び警察署長は、自動車等の盗難の防止に資する情報を、電気通信回線に接続して行う自動公衆送信の利用、印刷物の配布その他の適切な方法により、自動車等の所有者その他の自動車等につき盗難に遭うおそれが大きい者に周知するよう努めなければならない。
第四章 雑則
(関係行政機関への照会等)
第十七条 公安委員会は、この法律の規定に基づく事務に関し、関係行政機関又は関係地方公共団体に対し、照会し、又は協力を求めることができる。
(方面公安委員会への権限の委任)
第十八条 この法律の規定により道公安委員会の権限に属する事務は、政令で定めるところにより、方面公安委員会に委任することができる。
(経過措置)
第十九条 この法律の規定に基づき政令又は国家公安委員会規則を制定し又は改廃する場合においては、それぞれ政令又は国家公安委員会規則で、その制定又は改廃に伴い合理的に必要とされる範囲内において、所要の経過措置(罰則に関する経過措置を含む。)を定めることができる。
(国家公安委員会規則への委任)
第二十条 この法律に定めるもののほか、この法律の実施のための手続その他この法律の施行に関し必要な事項は、国家公安委員会規則で定める。
(適用除外)
第二十一条 この法律は、道路運送車両法第七十八条第四項に規定する自動車特定整備事業者が同法第四十九条第二項に規定する特定整備として行う特定自動車等解体保管業については、適用しない。
2 次の各号に掲げる規定は、当該各号に定める者については、適用しない。
一 第三条の規定 使用済自動車の再資源化等に関する法律(平成十四年法律第八十七号)第二条第十七項に規定する関連事業者(次項において単に「関連事業者」という。)
二 第十一条の規定 古物営業法(昭和二十四年法律第百八号)第十五条第三項の規定により警察官に申告しなければならない場合における同法第二条第三項に規定する古物商(次項において単に「古物商」という。)
3 次の各号に掲げる規定は、当該各号に定める事項又は措置については、適用しない。
一 第七条の規定 関連事業者が使用済自動車の再資源化等に関する法律第八十一条第一項、第三項、第七項若しくは第十項の規定により情報管理センター(同法第百十四条に規定する情報管理センターをいう。次号において同じ。)に報告しなければならない場合において報告した事項又は古物商が古物営業法第十五条第一項の規定により措置をとらなければならない場合においてとった措置
二 第十条の規定 関連事業者が使用済自動車の再資源化等に関する法律第八十一条第一項から第三項まで若しくは第六項から第十二項までの規定により情報管理センターに報告しなければならない場合において報告した事項又は古物商が古物営業法第十六条本文の規定により帳簿等に記載をし、若しくは電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によって認識することができない方法をいう。)により記録をしておかなければならない場合において当該記載若しくは当該記録をした事項
(条例との関係)
第二十二条 この法律の規定は、地方公共団体が、この法律に規定するもののほか、自動車等の解体又は保管を行う者による自動車等の受取り又は引渡しに関し条例で必要な規制を定めることを妨げるものではない。
第五章 罰則
第二十三条 第十三条の規定による命令に違反したときは、当該違反行為をした者は、一年以下の拘禁刑若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
第二十四条 次の各号のいずれかに該当する場合には、当該違反行為をした者は、六月以下の拘禁刑若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一 第三条第一項の規定による届出をしないで特定自動車等解体保管業を営んだとき。
二 第六条の規定に違反したとき。
第二十五条 次の各号のいずれかに該当する場合には、当該違反行為をした者は、六月以下の拘禁刑又は三十万円以下の罰金に処する。
一 第七条第一項若しくは第二項又は第九条第一項の規定に違反したとき。
二 第八条第一項の規定に違反して本人確認記録を作成せず、若しくは虚偽の本人確認記録を作成し、又は同条第二項の規定に違反して本人確認記録を保存しなかったとき。
三 第九条第二項の規定に違反して自動車検査証等の写しを作成せず、若しくは虚偽の自動車検査証等の写しを作成し、又は自動車検査証等の写しを保存しなかったとき。
四 第十条第一項の規定に違反して取引記録を作成せず、若しくは虚偽の取引記録を作成し、又は同条第二項の規定に違反して取引記録を保存しなかったとき。
第二十六条 次の各号のいずれかに該当する場合には、当該違反行為をした者は、三十万円以下の罰金に処する。
一 第三条第一項の規定による届出に関し虚偽の届出をし、又は同項の添付書類であって虚偽の記載のあるものを提出したとき。
二 第三条第二項の規定に違反して届出をせず、若しくは虚偽の届出をし、又は同項の添付書類であって虚偽の記載のあるものを提出したとき。
三 第十四条第一項の規定による報告若しくは資料の提出をせず、若しくは虚偽の報告をし、若しくは虚偽の資料を提出し、又は同項の規定による検査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、若しくは同項の規定による質問に対して答弁をせず、若しくは虚偽の答弁をしたとき。
第二十七条 第五条の規定に違反したときは、当該違反行為をした者は、十万円以下の罰金に処する。
第二十八条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人等が、その法人又は人の業務に関し、第二十三条から前条までの違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、各本条の罰金刑を科する。
附 則
(施行期日)
第一条 この法律は、公布の日から起算して三月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。ただし、附則第三条の規定は、公布の日から施行する。
(経過措置)
第二条 この法律の施行の際現に特定自動車等解体保管業を営んでいる者は、この法律の施行の日から起算して三月を経過する日までの間は、引き続き当該特定自動車等解体保管業を営むことができる。
2 前項の場合における第三条第一項の規定の適用については、同項中「特定自動車等解体保管業を営もうとする者は」とあるのは、「この法律の施行の際現に特定自動車等解体保管業を営んでいる者は、この法律の施行の日から起算して三月を経過する日までに」とする。
(政令への委任)
第三条 前条に定めるもののほか、この法律の施行に関し必要な経過措置(罰則に関する経過措置を含む。)は、政令で定める。
(検討)
第四条 政府は、この法律の施行後三年を目途として、第二章の規定の実施状況を勘案し、必要があると認めるときは、当該規定について検討を加え、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。
理 由
自動車等の窃取を防止するためには盗難自動車等の処分を防止することが重要であることに鑑み、特定自動車等解体保管業について自動車等の受取りの相手方の氏名等の確認を義務付ける等の措置を講ずる等の必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。

