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成年後見制度の利用の促進に関する法律案要綱

第一 総則
 一 目的
この法律は、認知症、知的障害その他の精神上の障害があることにより、財産の管理又は日常生活等に支障がある者を社会全体で支え合うことが、高齢社会における喫緊の課題であり、かつ、共生社会の実現に資すること及び成年後見制度がこれらの者を支え   る重要な手段であるにもかかわらず十分に利用されていないことに鑑み、成年後見制度の利用の促進について、その基本理念を定め、国の責務等を明らかにし、及び基本方針その他の基本となる事項を定めるとともに、成年後見制度利用促進会議及び成年後見  制度利用促進委員会を設置すること等により、成年後見制度の利用の促進に関する施策を総合的かつ計画的に推進することを目的とすること。

二 定義
   1 この法律において「成年後見人等」とは、次に掲げる者をいうこと。
@ 成年後見人及び成年後見監督人
A 保佐人及び保佐監督人
B 補助人及び補助監督人
C 任意後見人及び任意後見監督人
2 この法律において「成年被後見人等」とは、次に掲げる者をいうこと。
@ 成年被後見人
A 被保佐人
B 被補助人
C 任意後見監督人が選任された後における任意後見契約の委任者
3 この法律において「成年後見等実施機関」とは、自ら成年後見人等となり、又は成年後見人等若しくはその候補者の育成及び支援等に関する活動を行う団体をいうこと。
4 この法律において「成年後見関連事業者」とは、介護、医療又は金融に係る事業その他の成年後見制度の利用に関連する事業を行う者をいうこと。

三 基本理念
1 成年後見制度の理念の尊重
成年後見制度の利用の促進は、@成年被後見人等が、成年被後見人等でない者と等しく、基本的人権を享有する個人としてその尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい生活を保障されるべきこと〔=ノーマライゼーション〕、A成年被後見人等の意思決定の支援が適切に行われるとともに、成年被後見人等の自発的意思が尊重されるべきこと〔=自己決定権の尊重〕及びB成年被後見人等の財産の管理のみならず身上の保護が適切に行われるべきこと〔=身上の保護の重視〕等の成年後見制度の理念を踏まえて行われるものとすること。
2 地域の需要に対応した成年後見制度の利用の促進
成年後見制度の利用の促進は、成年後見制度の利用に係る需要を適切に把握すること、市民の中から成年後見人等の候補者を育成しその活用を図ることを通じて成年後見人等となる人材を十分に確保すること等により、地域における需要に的確に対応することを旨として行われるものとすること。
3 成年後見制度の利用に関する体制の整備
    成年後見制度の利用の促進は、家庭裁判所、関係行政機関(法務省、厚生労働省、総務省その他の関係行政機関をいう。以下同じ。)、地方公共団体、民間の団体等の相互の協力及び適切な役割分担の下に、成年後見制度を利用し又は利用しようとす る者の権利利益を適切かつ確実に保護するために必要な体制を整備することを旨として行われるものとすること。
 
 四 国等の責務
1 国の責務
国は、三に定める基本理念(以下単に「基本理念」という。)にのっとり、成年後見制度の利用の促進に関する施策を総合的に策定し、及び実施する責務を有すること。
2 地方公共団体の責務
地方公共団体は、基本理念にのっとり、成年後見制度の利用の促進に関する施策に関し、国との連携を図りつつ、自主的かつ主体的に、その地域の特性に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有すること。
3 関係者の努力
成年後見人等、成年後見等実施機関及び成年後見関連事業者は、基本理念にのっとり、その業務を行うとともに、国又は地方公共団体が実施する成年後見制度の利用の促進に関する施策に協力するよう努めるものとすること。
4 国民の努力
国民は、成年後見制度の重要性に関する関心と理解を深めるとともに、基本理念にのっとり、国又は地方公共団体が実施する成年後見制度の利用の促進に関する施策に協力するよう努めるものとすること。
5 関係機関等の相互の連携
    @ 国及び地方公共団体並びに成年後見人等、成年後見等実施機関及び成年後見関連事業者は、成年後見制度の利用の促進に関する施策の実施に当たっては、相互の緊密な連携の確保に努めるものとすること。
    A 地方公共団体は、成年後見制度の利用の促進に関する施策の実施に当たっては、特に、その地方公共団体の区域を管轄する家庭裁判所及び関係行政機関の地方支分部局並びにその地方公共団体の区域に所在する成年後見人等、成年後見等実施機関及び成年後見関連事業者その他の関係者との適切な連携を図るよう、留意するものとすること。

五 法制上の措置等
政府は、第二に定める基本方針に基づく施策を実施するため必要な法制上又は財政上の措置その他の措置を速やかに講じなければならないこと。この場合において、成年被後見人等の権利の制限に係る関係法律の改正その他の第二に定める基本方針に基づく施策を実施するため必要な法制上の措置については、この法律の施行後三年以内を目途として講ずるものとすること。

六 施策の実施の状況の公表
政府は、毎年一回、成年後見制度の利用の促進に関する施策の実施の状況をインターネットの利用その他適切な方法により公表しなければならないこと。

第二 基本方針
成年後見制度の利用の促進に関する施策は、成年後見制度の利用者の権利利益の保護に関する国際的動向を踏まえるとともに、高齢者、障害者等の福祉に関する施策との有機的な連携を図りつつ、次に掲げる基本方針に基づき、推進されるものとすること。
 一 成年後見制度の理念の尊重に係る基本方針
 1 成年後見制度の三類型が適切に選択されるための方策の検討
   成年後見制度を利用し又は利用しようとする者の能力に応じたきめ細かな対応を可能とする観点から、成年後見制度のうち利用が少ない保佐及び補助の制度の利用を促進するための方策について検討を加え、必要な措置を講ずること。
   2 権利制限に係る制度の見直し
   成年被後見人等の人権が尊重され、成年被後見人等であることを理由に不当に差別されないよう、成年被後見人等の権利に係る制限が設けられている制度について検討を加え、必要な見直しを行うこと。
   3 成年被後見人等であって医療、介護等を受けるに当たり意思を決定することが困難なものの支援
     成年被後見人等であって医療、介護等を受けるに当たり意思を決定することが困難なものが円滑に必要な医療、介護等を受けられるようにするための支援の在り方について、成年後見人等の事務の範囲を含め検討を加え、必要な措置を講ずること。
   4 成年被後見人等の死亡後における成年後見人等の事務の範囲の見直し
   成年被後見人等の死亡後における事務が適切に処理されるよう、成年後見人等の事務の範囲について検討を加え、必要な見直しを行うこと。
   5 任意後見制度の積極的な活用
         成年後見制度を利用し又は利用しようとする者の自発的意思を尊重する観点から、任意後見制度が積極的に活用されるよう、その利用状況を検証し、任意後見制度が適切にかつ安心して利用されるために必要な制度の整備その他の必要な措置を講ずるこ   と。
6 国民に対する周知等
 成年後見制度に関し国民の関心と理解を深めるとともに、成年後見制度がその利用を必要とする者に十分に利用されるようにするため、国民に対する周知及び啓発のために必要な措置を講ずること。

 二 地域の需要に対応した成年後見制度の利用の促進に係る基本方針
1 地域住民の需要に応じた利用の促進
 成年後見制度の利用に係る地域住民の需要に的確に対応するため、地域における成年後見制度の利用に係る需要の把握、地域住民に対する必要な情報の提供、相談の実施及び助言、市町村長による後見開始、保佐開始又は補助開始の審判の請求の 積極的な活用その他の必要な措置を講ずること。
 2 地域において成年後見人等となる人材の確保
地域において成年後見人等となる人材を確保するため、成年後見人等又はその候補者に対する研修の機会の確保並びに必要な情報の提供、相談の実施及び助言、成年後見人等に対する報酬の支払の助成その他の成年後見人等又はその候補者に対す  る支援の充実を図るために必要な措置を講ずること。
  3 成年後見等実施機関の活動に対する支援
 1及び2の措置を有効かつ適切に実施するため、成年後見人等又はその候補者の育成及び支援等を行う成年後見等実施機関の育成、成年後見制度の利用において成年後見等実施機関が積極的に活用されるための仕組みの整備その他の成年後見等実  施機関の活動に対する支援のために必要な措置を講ずること。

三 成年後見制度の利用に関する体制の整備に係る基本方針
   1 関係機関等における体制の充実強化
  成年後見人等の事務の監督並びに成年後見人等に対する相談の実施及び助言その他の支援に係る機能を強化するため、家庭裁判所、関係行政機関及び地方公共団体における必要な人的体制の整備その他の必要な措置を講ずること。
   2 関係機関等の相互の緊密な連携の確保
  家庭裁判所、関係行政機関及び地方公共団体並びに成年後見人等、成年後見等実施機関及び成年後見関連事業者の相互の緊密な連携を確保するため、成年後見制度の利用に関する指針の策定その他の必要な措置を講ずること。

第三 成年後見制度利用促進基本計画
一 成年後見制度利用促進基本計画の策定
政府は、成年後見制度の利用の促進に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、成年後見制度の利用の促進に関する基本的な計画(以下「成年後見制度利用促進基本計画」という。)を定めなければならないこと。
 二 成年後見制度利用促進基本計画において定める事項
成年後見制度利用促進基本計画は、次の事項について定めるものとすること。
1  成年後見制度の利用の促進に関する目標
2  成年後見制度の利用の促進に関し、政府が総合的かつ計画的に講ずべき施策
3  1及び2に掲げるもののほか、成年後見制度の利用の促進に関する施策を総合的かつ計画的に推進するために必要な事項
三 閣議の決定
   内閣総理大臣は、成年後見制度利用促進基本計画の案につき閣議の決定を求めなければならないこと。
四 成年後見制度利用促進基本計画の公表
内閣総理大臣は、三による閣議の決定があったときは、遅滞なく、成年後見制度利用促進基本計画をインターネットの利用その他適切な方法により公表しなければならないこと。

第四 成年後見制度利用促進会議
一 設置
内閣府に、特別の機関として、成年後見制度利用促進会議(以下第四において「会議」という。)を置くこと。

二 所掌事務等
1  会議は、次に掲げる事務をつかさどること。
@  成年後見制度利用促進基本計画の案を作成すること。
A  成年後見制度の利用の促進に関する施策について必要な関係行政機関相互の調整をすること。
B  @及びAに掲げるもののほか、成年後見制度の利用の促進に関する基本的事項の企画に関して審議するとともに、成年後見制度の利用を促進するための施策の実施を推進し、並びにその実施の状況を検証し、評価し、及び監視すること。
  2 会議は、次に掲げる場合には、成年後見制度利用促進委員会の意見を聴かなければならないこと。
      @  成年後見制度利用促進基本計画の案を作成しようとするとき。
      A  1Bの検証、評価及び監視について、それらの結果の取りまとめを行おうとするとき。

三 組織等
 1 会議は、会長及び委員をもって組織すること。
 2 会長は、内閣総理大臣をもって充てること。
3 委員は、次に掲げる者をもって充てること。
@ 内閣官房長官
A 特命担当大臣のうちから、内閣総理大臣が指定する者
B 法務大臣
C 厚生労働大臣
D 総務大臣
E @からDまでに掲げる者のほか、関係行政機関の長のうちから内閣総理大臣が指定する者
 4 1から3までに定めるもののほか、会議の組織及び運営に関し必要な事項は、政令で定めること。

第五 成年後見制度利用促進委員会
 一 設置
  1 内閣府に、成年後見制度利用促進委員会(以下第五において「委員会」という。)を置くこと。
   2 委員会は、次に掲げる事務をつかさどること。
      @ 次に掲げる重要事項に関し、自ら調査審議し、必要と認められる事項を内閣総理大臣又は関係各大臣に建議すること。
   ア 成年後見制度の利用の促進に関する基本的な政策に関する重要事項
   イ 成年後見制度の利用の促進を図る上で必要な環境の整備に関する基本的な政策に関する重要事項
 A 内閣総理大臣又は関係各大臣の諮問に応じ、@に規定する重要事項に関し、調査審議すること。

二 資料の提出要求等
   委員会は、その所掌事務を遂行するため必要があると認めるときは、関係行政機関の長に対し、報告を求めることができるほか、資料の提出、意見の開陳、説明その他必要な協力を求めることができること。

三 組織等
1 委員会は、委員十人以内で組織するものとし、委員は、成年後見制度に関して優れた識見を有する者のうちから、内閣総理大臣が任命するものとすること。委員の任期は、第七の一ただし書の政令で定める日までとすること。
2 特別の事項を調査審議させるため必要があるとき又は専門の事項を調査させるため必要があるときは、委員会に、臨時委員又は専門委員を置くことができるものとすること。臨時委員又は専門委員の任期は、それぞれ当該特別の事項又は当該専門の事項の   調査に要する期間とすること。
3 委員会の事務を処理させるため、委員会に、独自の事務局を置くものとし、当該事務局に、事務局長その他所要の職員を置くものとすること。
4 1から3までに定めるもののほか、委員会に関し必要な事項は、政令で定めること。

第六 地方公共団体の講ずる措置
 一 市町村の講ずる措置
1 市町村は、成年後見制度利用促進基本計画を勘案して、当該市町村の区域における成年後見制度の利用の促進に関する施策についての基本的な計画を定めるよう努めるとともに、成年後見等実施機関の設立等に係る支援その他の必要な措置を講ずるよ    う努めるものとすること。
2 市町村は、当該市町村の区域における成年後見制度の利用の促進に関して、基本的な事項を調査審議させる等のため、当該市町村の条例で定めるところにより、審議会その他の合議制の機関を置くよう努めるものとすること。

 二 都道府県の講ずる措置
    都道府県は、市町村が講ずる一の措置を推進するため、各市町村の区域を超えた広域的な見地から、成年後見人等となる人材の育成、必要な助言その他の援助を行うよう努めるものとすること。

第七 施行期日等
 一 施行期日
   この法律は、公布の日から起算して一月を超えない範囲内において政令で定める日から施行するものとすること。ただし、三及び四は、同日から起算して二年を超えない範囲内において政令で定める日から施行するものとすること。
  二 検討
認知症である高齢者、知的障害者その他医療、介護等を受けるに当たり意思を決定することが困難な者が円滑に必要な医療、介護等を受けられるようにするための支援の在り方については、第二の一3による検討との整合性に十分に留意しつつ、今後検討が
加えられ、その結果に基づき所要の措置が講ぜられるものとすること。
  三 成年後見制度利用促進会議及び成年後見制度利用促進委員会の廃止
     第四の成年後見制度利用促進会議及び第五の成年後見制度利用促進委員会は、廃止すること。
  四 成年後見制度利用促進会議及び成年後見制度利用促進専門家会議の設置
     1 政府は、関係行政機関相互の調整を行うことにより、成年後見制度の利用の促進に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、成年後見制度利用促進会議を設けるものとすること。
2 関係行政機関は、成年後見制度の利用の促進に関し専門的知識を有する者によって構成する成年後見制度利用促進専門家会議を設け、1の調整を行うに際しては、その意見を聴くものとすること。
3 成年後見制度利用促進会議及び成年後見制度利用促進専門家会議の庶務は、厚生労働省において処理すること。

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