半島振興法の一部を改正する法律案要綱
第一 総則的事項
一 目的規定の改正
半島地域が担う我が国及び国民の利益の保護及び増進に重要な役割として、自然環境及び良好な景観の保全並びに多様な再生可能エネルギーの導入及び活用を追加するとともに、広域的かつ総合的な対策は、地域における創意工夫を生かし、半島地域と継続的な関係を有する半島地域外の人材を含む多様な主体の連携及び協力を促進しつつ行うべきことを明記し、この法律の目的として、半島防災(半島地域におけるその地理的特性を踏まえた防災をいう。以下同じ。)の推進を図り、あわせて地方における活力ある社会経済の創出及びその再生(二1において「地方創生」という。)に資することを追加すること。 (第一条関係)
二 基本理念の新設
半島地域の振興のための施策は、次に掲げる事項を基本理念として行われなければならないこと。
1 半島地域における産業基盤及び生活環境の整備等が他の地域に比較して低位にあることに鑑み、これらの整備等を推進することにより地域住民の生活の向上を図るとともに、地方創生の一環として、多様な主体の連携及び協力の促進、半島地域における定住の促進等を通じて、個性豊かで活力に満ちた自立的な地域社会が実現されることを旨とすること。
2 半島地域が国土の保全、自然環境及び良好な景観の保全、多様な再生可能エネルギーの導入及び活用、多様な文化の継承、自然との触れ合いの場及び機会の提供、食料の安定的な供給等我が国及び国民の利益の保護及び増進に重要な役割を担っていることに鑑み、その役割が十分に発揮されるよう、半島地域の地理的及び自然的特性を生かし、その魅力の増進を図ることを旨とすること。
3 半島地域は三方を海に囲まれる等国土資源の利用の面における制約があることに鑑み、災害が発生した場合において住民が孤立することを防止するための施策等を推進するとともに、これらを含む半島防災のための施策が国土強靱(じん)化の理念を踏まえ着実に実施されることを旨とすること。
(新第一条の二関係)
三 国及び都道府県の責務の新設
1 国は、二の基本理念にのっとり、半島地域の振興のために必要な施策を総合的かつ積極的に策定し及び実施する責務を有すること。 (新第一条の三第一項関係)
2 都道府県は、二の基本理念にのっとり、その区域の自然的社会的諸条件に応じた半島地域の振興のために必要な施策を策定し及び実施するよう努めるとともに、半島地域をその区域に含む市町村相互間の広域的な連携の確保及びこれらの市町村に対する半島地域の振興のために必要な情報の提供その他の援助を行うよう努めるものとすること。 (新第一条の三第二項関係)
第二 半島振興基本方針及び半島振興計画
一 半島振興基本方針の新設
1 主務大臣は、半島振興対策実施地域の振興を図るため、半島振興基本方針を定めるものとすること。
(新第二条の二第一項関係)
2 半島振興基本方針に定めるべき事項
半島振興基本方針は、次に掲げる事項について定めるものとすること。
(1) 意義及び方向に関する事項
半島振興対策実施地域の振興の意義及び方向に関する事項
(2) 条件不利の是正に関する事項
@ 交通通信の確保に関する事項
基幹的な道路、港湾、空港等の人の往来及び物資の流通に資する交通施設並びに通信施設の整備その他の半島振興対策実施地域と国内の地域との間及び半島振興対策実施地域内の交通通信の確保に関する基本的な事項
A 産業基盤の整備等に関する事項
イ 農林水産業、商工業、情報通信業その他の産業の振興及び観光の開発に関する基本的な事項
ロ 雇用機会の拡充、職業能力の開発その他の就業の促進に関する基本的な事項
B 生活環境の整備等に関する事項
イ 水資源の開発及び利用に関する基本的な事項
ロ 生活環境の整備に関する基本的な事項
ハ 医療の確保等に関する基本的な事項
ニ 介護サービス及び障害福祉サービス等の確保等に関する基本的な事項
ホ 高齢者及び児童の福祉その他の福祉の増進に関する基本的な事項
ヘ 教育及び文化の振興に関する基本的な事項
(3) 地域資源の活用に関する事項
@ 自然環境の保全及び再生に関する基本的な事項
A 再生可能エネルギーの利用の推進に関する基本的な事項
(4) 交流の促進及び人材の育成等に関する事項
@ 国内及び国外の地域との交流の促進に関する基本的な事項
A 移住、定住及び特定居住の促進、人材の育成並びに関係者間における緊密な連携及び協力の確保に関する基本的な事項
(5) 半島防災のための施策に関する事項
水害、風害、地震災害その他の災害を防除するために必要な国土保全施設等の整備及び防災体制の強化その他の半島防災のための施策に関する基本的な事項 (新第二条の二第二項関係)
3 主務大臣は、半島振興基本方針を定めようとするときは、関係行政機関の長に協議するとともに、国土審議会の意見を聴かなければならないこと。 (新第二条の二第三項関係)
4 主務大臣は、半島振興基本方針を定めたときは、遅滞なく、これを公表しなければならないこと。
(新第二条の二第四項関係)
二 半島振興計画に関する規定の改正
1 半島振興計画の作成
半島振興計画の作成について努力義務化すること。 (第三条第一項関係)
2 半島振興計画の作成の要請等
(1) 半島地域市町村は、当該半島振興対策実施地域に係る半島振興計画が作成されていない場合には、単独で又は共同して、関係都道府県に対し、当該半島振興対策実施地域に係る半島振興計画を作成することを要請することができること。この場合においては、当該半島地域市町村に係る半島振興計画の案を添えなければならないこと。 (第三条新第三項関係)
(2) (1)による要請があったときは、都道府県は、速やかに、当該要請に係る半島振興対策実施地域に係る半島振興計画を作成しなければならないこと。 (第三条新第四項関係)
(3) 半島地域市町村は、(1)の案を作成しようとするときは、あらかじめ、その半島振興対策実施地域の住民の意見を反映させるために必要な措置を講ずるものとすること。 (第三条新第五項関係)
(4) (1)の案の提出を受けた都道府県は、半島振興計画を作成するに当たっては、当該案の内容をできる限り反映させるよう努めるものとすること。 (第三条新第六項関係)
3 半島地域市町村相互間の広域的な連携の確保等についての記載
半島振興計画に定めるべき事項を記載するに当たっては、半島地域市町村相互間の広域的な連携の確保及びこれらの半島地域市町村に対する半島地域の振興のために必要な情報の提供その他の援助についても、必要に応じて記載するよう、努めるものとすること。 (第三条新第七項関係)
4 半島振興計画の提出等
(1) 都道府県は、半島振興計画を作成したときは、直ちに、これを主務大臣に提出するとともに、その内容を関係市町村に通知しなければならないこと。 (第三条新第八項関係)
(2) 主務大臣は、(1)により半島振興計画の提出があった場合においては、直ちに、その内容を関係行政機関の長に通知しなければならないこと。この場合において、関係行政機関の長は、当該半島振興計画についてその意見を主務大臣に申し出ることができること。 (第三条新第九項関係)
(3) 主務大臣は、(1)により提出された半島振興計画が半島振興基本方針に適合していないと認めるときは、当該都道府県に対し、これを変更すべきことを求めることができること。
(第三条新第十項関係)
(4) 主務大臣は、(1)により提出された半島振興計画について(3)による措置を執る必要がないと認めるときは、その旨を当該都道府県に通知しなければならないこと。 (第三条新第十一項関係)
5 半島振興計画に定めるべき事項の追加
半島振興計画に定めるべき事項として、次に掲げる事項を追加すること。
(1) 基本的方針等
@ 半島振興対策実施地域の振興の基本的方針に関する事項
A 半島振興対策実施地域の振興に関する目標
B 計画期間
(2) 条件不利の是正に関する事項
@ 交通通信の確保に関する次に掲げる事項
イ 人の往来及び物資の流通に資する交通施設の整備に関する事項
ロ 情報通信業の振興に関する事項
A 生活環境の整備等に関する次に掲げる事項
イ 介護サービス及び障害福祉サービス等の確保等に関する事項
ロ 児童の福祉の増進に関する事項
(3) 地域資源の活用に関する次に掲げる事項
@ 自然環境の保全及び再生に関する事項
A 再生可能エネルギーの利用の推進に関する事項
(4) 移住、定住及び特定居住の促進、人材の育成並びに関係者間における緊密な連携及び協力の確保に関する事項
(5) 半島防災のための施策に関する事項
(6) 半島振興計画の達成状況の評価に関する事項 (第四条第一項関係)
6 半島振興計画が調和すべき計画の追加
半島振興計画は、国土強靱化基本計画及び水循環基本計画とも調和したものでなければならないこと。 (第四条新第二項関係)
第三 半島振興対策実施地域に対する配慮規定の充実
一 交通通信の確保
1 地域公共交通の活性化及び再生に関する配慮規定の改正
配慮規定の目的として物資の流通の確保を追加するとともに、配慮事項として、交通施設の整備及び保全を追加するほか、地域公共交通の例示として鉄道を明記すること。 (第十二条の二関係)
2 情報の流通の円滑化及び通信体系の充実に関する配慮規定の改正
配慮規定の目的として地域公共交通の活性化及び再生、物資の流通の確保、災害情報の収集及び提供の円滑化並びに半島地域におけるデジタル社会の形成を追加するとともに、配慮事項として先端的な情報通信技術の活用の推進を追加すること。 (第十三条関係)
二 産業基盤の整備等
1 農林水産業その他の産業の振興に関する配慮規定の改正
配慮規定の目的として半島振興対策実施地域の特性に即した農林水産業その他の産業の競争力の強化を追加するとともに、農林水産業の振興等を図るための配慮事項として水産動植物の生育環境の保全及び改善を追加すること。 (第十三条の二関係)
2 就業の促進に関する配慮規定の改正
配慮規定の目的である就業の促進について農林水産業その他の産業への就業であることを明記するとともに、配慮に際し、情報通信技術の進展、その活用による場所に制約されない働き方の普及等の社会の変化にも留意すべき旨を追加すること。 (第十三条の三関係)
三 生活環境の整備等
1 生活環境の整備に関する配慮規定の改正
配慮規定の目的として持続可能な地域社会の維持及び形成の促進等を追加するとともに、配慮事項である住宅等の整備に空家の活用によるものを含むことを明記し、配慮事項として地域における住民の生活及び産業の振興の拠点の形成を図るための施策の充実を追加すること。 (第十三条の四関係)
2 医療の確保に関する配慮規定の改正
(1) 医療を確保するための配慮事項として、情報通信機器を活用した診療及びそのための施設の設置を追加すること。 (第十三条の五第一項関係)
(2) 国及び地方公共団体は、半島振興対策実施地域の無医地区以外の地区において医療の提供に支障が生じている場合には、必要な医師若しくは歯科医師又はこれを補助する看護師の確保、定期的な巡回診療、保健師の配置、情報通信機器を活用した診療及びそのための施設の設置、医療機関の協力体制の整備等により当該地区における医療の充実が図られるよう、適切な配慮をするものとすること。 (第十三条の五新第二項関係)
3 介護サービスの確保等に関する配慮規定の改正
(1) 介護サービスの確保等を図るための配慮事項である介護サービスに従事する者の確保について、その手段として、介護サービスに関する知識及び技術の習得の促進等を通じた地域の人材の活用等を明記するとともに、配慮事項として介護ロボット等の導入を追加すること。
(2) 配慮規定の目的として障害者及び障害児に係る障害福祉サービス等の確保等を追加するとともに、その確保等を図るための配慮事項として、障害者及び障害児に係る障害福祉サービス等の提供、当該障害福祉サービス等に従事する者の確保、当該障害福祉サービス等に係る事業所等の整備並びに提供される当該障害福祉サービス等の内容の充実を追加すること。 (第十三条の六関係)
4 高齢者の福祉の増進に関する配慮規定の改正
配慮規定の目的として児童の福祉の増進を追加するとともに、その増進を図るための配慮事項として児童福祉施設の整備を追加すること。 (第十四条関係)
5 教育の充実に関する配慮規定の新設
(1) 国及び地方公共団体は、半島振興対策実施地域において、その教育の特殊事情に鑑み、学校教育及び社会教育(情報通信技術の活用によるものを含む。)の充実に努めるとともに、地域社会の特性に応じた生涯学習の振興に資するための施策の充実について適切な配慮をするものとすること。
(新第十四条の二第一項関係)
(2) 国及び地方公共団体は、子どもの心身の健やかな成長に資するため、半島振興対策実施地域の区域外に居住する子どもが豊かな自然環境、伝統文化等を有する半島地域の特性を生かした教育を受けられるよう適切な配慮をするものとすること。 (新第十四条の二第二項関係)
四 地域資源の活用
1 自然環境の保全及び再生に関する配慮規定の新設
国及び地方公共団体は、海岸漂着物等の処理その他の半島振興対策実施地域及びその周辺の海域における自然環境の保全及び再生(自然景観の保全を含む。)に資するための措置について適切な配慮をするものとすること。 (新第十四条の三関係)
2 再生可能エネルギーの利用の推進に関する配慮規定の新設
国及び地方公共団体は、半島振興対策実施地域において、その自然的特性を生かしたエネルギーを利用することが、その経済的社会的環境に応じたエネルギーの安定的かつ適切な供給の確保及びエネルギーの供給に係る環境への負荷の低減を図る上で重要であること並びに土地、水、バイオマスその他の地域に存在する資源を活用した再生可能エネルギーの利用が地域経済の発展に寄与することに鑑み、地域の実情に応じた再生可能エネルギーの効果的かつ効率的な活用の観点から行う再生可能エネルギーの供給体制の整備に必要な支援その他再生可能エネルギーの利用を推進するために必要な支援等の施策の充実について適切な配慮をするものとすること。 (新第十四条の四関係)
3 地域文化の振興等に関する配慮規定の改正
国及び地方公共団体が適切な措置が講ぜられるよう努めるべき対象として、地域の風土等により形成された景観地の保存及び活用を追加すること。 (第十五条関係)
五 交流の促進及び人材の育成等
1 観光の振興及び交流の促進に関する配慮規定の改正
半島振興対策実施地域の活性化に資するための配慮事項である観光の振興について、その手段として、地域の特性を生かした観光地、高い国際競争力を有する観光地その他の魅力ある観光地の形成等を明記すること。 (第十五条の二関係)
2 移住等の促進、人材の育成並びに関係者間における緊密な連携及び協力の確保に関する配慮規定の新設
国及び地方公共団体は、地域における創意工夫を生かしつつ、半島振興対策実施地域の持続的発展が図られるよう、多様な人材の確保に資する移住、定住及び特定居住の促進、地域社会の担い手となる人材の育成並びに年齢、性別等にかかわりなく、多様な住民、特定非営利活動法人、事業者その他の関係者間における緊密な連携及び協力を確保することについて適切な配慮をするものとすること。
(新第十五条の三関係)
六 半島防災等
1 防災対策の推進に関する配慮規定の改正
配慮規定の目的として災害の軽減及び地域経済の円滑な運営が著しく阻害されることの防止を追加し、国土強靱化の観点を踏まえるべきことを明記するとともに、配慮事項として次に掲げる事項その他の半島防災のための施策の推進及びその実効性の確保を追加すること。
(1) 道路、港湾等の交通施設、水道、下水道等の供給施設及び処理施設並びに再生可能エネルギー等を活用した非常用電源設備の整備
(2) 施設及び設備の応急の復旧、緊急輸送の確保その他の災害応急対策並びに災害復旧を迅速かつ的確に実施するための体制の整備及び関係行政機関の連携の強化 (第十五条の四関係)
2 感染症が発生した場合における生活に必要な物資の確保等に関する配慮規定の新設
国及び地方公共団体は、国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼすおそれのある感染症が発生したことにより、半島振興対策実施地域と当該半島振興対策実施地域以外の地域との間の人の往来又は物資の流通が停滞し又は制限された場合には、当該半島振興対策実施地域において住民の生活の安定及び地域経済の円滑な運営が著しく阻害されるおそれがあることに鑑み、当該場合における住民の生活に必要な物資の確保及び事業活動の継続について適切な配慮をするものとすること。
(新第十五条の五関係)
3 生産機能及び生活環境の整備等が特に低位にある集落への配慮規定の新設
人口の著しい減少等に伴って地域社会における活力が低下し、生産機能及び生活環境の整備等が他の集落に比較して特に低位にある半島振興対策実施地域内の集落をその区域に含む半島地域市町村は、当該集落において、住民の福祉を増進する目的をもってその利用に供するための施設、郵便局等の活用等により、住民が日常生活を営むために必要な環境の維持等が図られるよう、適切な配慮をするものとすること。この場合において、国及び都道府県は、当該半島地域市町村からの相談に応じ、必要な情報の提供、助言を行う者の派遣その他の援助を行うよう努めなければならないこと。
(新第十五条の六関係)
第四 その他
一 協議会の設置
半島振興対策実施地域をその区域に含む都道府県、半島地域市町村又は半島振興対策実施地域の振興に取り組む団体等は、半島振興対策実施地域の広域的かつ総合的な振興の推進に関し必要な協議を行うための協議会を組織することができること。 (新第十五条の七関係)
二 主務大臣の追加
半島振興基本方針及び半島振興計画に係る主務大臣に、内閣総理大臣を追加すること。
(第十九条第二項関係)
第五 期限の延長
半島振興法の有効期限を令和十七年三月三十一日まで十年間延長するものとすること。
(附則第二項関係)
第六 施行期日等
一 施行期日
この法律は、令和七年四月一日から施行すること。ただし、第五及びこれに伴う規定の整備については、公布の日から施行すること。 (改正附則第一条関係)
二 検討
国は、この法律の施行後五年を経過した場合において、この法律による改正後の半島振興法の施行の状況について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとすること。
(改正附則第三条関係)
三 経過措置等
所要の経過措置を定めるとともに、所要の規定を整備すること。