山村振興法の一部を改正する法律案要綱
第一 総則的事項
一 目的規定の改正
山村の役割として、農林水産物の供給、生物多様性の確保及び地球温暖化の防止を明記するとともに、この法律の目的として、山村の自立的かつ持続的な発展を促進すること及び地域の特性を生かした産業の成長発展等により経済力の培養を図ることを明記し、山村への移住、山村における定住等及び地域間交流の促進を図ることを明確にすること。 (第一条関係)
二 基本理念の改正
1 山村の振興は、山村における農林水産業の生産活動及び農業者その他の地域住民による山村の有する多面的機能の発揮に資する共同活動の継続を図ることを旨として行われなければならないことを追加すること。 (第二条の二第一項関係)
2 山村の振興は、山村における持続可能な地域社会の維持及び形成がなされるよう行われなければならないものとするとともに、山村への移住並びに山村における定住及び特定居住並びに地域間交流の促進を図ることを旨として行われなければならないことを追加すること。(第二条の二第二項関係)
三 山村振興の目標の改正
1 交通の確保に関する目標に住民の日常的な移動のための交通手段の確保を追加するとともに、通信の確保に関する目標にデジタル社会の形成の促進を追加すること。
(第三条第一号及び新第一号の二関係)
2 産業の振興に関する目標に、農林水産業の生産性の向上並びに農業生産の基盤及び林業生産の基盤の整備及び保全を追加すること。 (第三条第三号関係)
3 災害の防除に関する目標に、防災体制の強化を追加すること。 (第三条第四号関係)
4 住民の福祉の向上に関する目標に障害福祉サービスの確保、児童の福祉の増進及び子育て環境の確保を追加するとともに、この目標を住民の生活の安定と福祉の向上に関する目標に改めること。
(第三条第五号関係)
5 新たな目標として、山村への移住並びに山村における定住及び特定居住の促進、地域間交流の促進、地域社会の担い手となる人材の育成等を図ることにより、多様な人材を確保し及び育成することを追加すること。 (第三条新第六号関係)
四 国の責務に係る改正
国は、基本理念にのっとり、山村振興の目標を達成するため、山村の振興のために必要な施策を総合的に策定し及び実施する責務を新設し、税制上の措置を講ずるよう配慮することを追加すること。
(第四条関係)
五 地方公共団体の責務に係る改正
都道府県は、山村の振興のため、市町村相互間の広域的な連携の確保及びこれらの市町村に対する必要な情報の提供その他の援助を行うように努めなければならないことを追加すること。(第五条関係)
第二 山村振興基本方針及び山村振興計画
一 山村振興基本方針の改正
1 山村振興基本方針に定めるべき事項の改正
山村振興の目標の改正に合わせ、山村振興基本方針に定めるべき事項を追加すること。
(第七条の二第二項関係)
2 山村振興基本方針が調和すべき計画の追加
山村振興基本方針は、防災基本計画、国土強靱(じん)化基本計画及び水循環基本計画とも調和したものでなければならないこと。 (第七条の二第三項関係)
二 山村振興計画に定めるべき事項の改正
山村振興の目標の改正に合わせ、山村振興計画に定めるべき事項を追加すること。
(第八条第二項関係)
第三 配慮規定の充実
一 交通通信関係
1 地域旅客運送サービスの持続可能な提供の確保等に関する配慮規定の新設
国及び地方公共団体は、振興山村における住民の自立した日常生活及び社会生活の確保並びに利便性の向上、振興山村内の交流及び振興山村とその他の地域との交流の促進等を図るため、地域旅客運送サービスの持続可能な提供及び物資の流通の確保について適切な配慮をするものとすること。
(新第十七条の二関係)
2 情報の流通の円滑化及び通信体系の充実に関する配慮規定の改正
配慮規定の目的として、情報通信技術の利用の機会の他の地域との格差の是正、農林水産業の振興、地域公共交通の活性化及び再生、物資の流通の確保並びに医療及び教育の充実を図ること並びに振興山村におけるデジタル社会の形成に資するようにすることを追加するとともに、配慮事項として、先端的な情報通信技術の活用の推進を追加すること。 (第十八条関係)
二 産業振興関係
1 農林水産業その他の産業の振興に関する配慮規定の新設
p 国及び地方公共団体は、振興山村の特性に即した農林水産業の振興を図るため、生産基盤の強化、地域特産物の開発並びに生産、流通及び消費の増進並びに観光業との連携の推進について適切な配慮をするものとすること。 (新第十八条の二第一項関係)
q pに定めるもののほか、国及び地方公共団体は、振興山村の特性に即した産業の振興を図るため、生産性の向上、産業の振興に寄与する人材の育成及び確保、起業を志望する者に対する支援、先端的な技術の導入並びに産業間の連携の推進について適切な配慮をするものとすること。
(新第十八条の二第二項関係)
2 森林の整備及び保全の推進等に関する配慮規定の新設
国及び地方公共団体は、振興山村における森林の適正な整備及び保全の推進等により山村の有する多面的機能が持続的に発揮されるよう、地域の特性に応じた造林、保育及び伐採の計画的な推進並びに森林病害虫の駆除及びそのまん延防止並びに建築物等における木材の利用の促進について適切な配慮をするものとすること。 (新第十八条の三関係)
3 就業の促進に関する配慮規定の新設
国及び地方公共団体は、振興山村の住民及び振興山村への移住又は振興山村における定住若しくは特定居住をしようとする者の振興山村における就業の促進を図るため、良好な雇用機会の拡充並びに実践的な職業能力の開発及び向上(高齢者を対象とするものを含む。)のための施策の充実について適切な配慮をするものとすること。 (新第十八条の五関係)
三 災害防除等関係
1 防災に関する施策の推進に関する配慮規定の新設
国及び地方公共団体は、山村が厳しい自然条件の下にあること及び国土強靱化の観点を踏まえ、災害を防除し及び軽減するため、並びに災害が発生した場合において住民が孤立し、及び地域経済の円滑な運営が著しく阻害されることを防止するため、振興山村において、次に掲げる事項その他の防災に関する施策の推進及びその実効性の確保について適切な配慮をするものとすること。
p 道路等の交通施設、水道、下水道等の供給施設及び処理施設、国土保全施設、避難施設、備蓄倉庫、防災行政無線設備、人工衛星を利用した通信設備その他の防災に関する施設及び設備の整備
q 防災上必要な教育及び訓練の実施
r 被災者の救難、救助その他の保護、施設及び設備の応急の復旧、緊急輸送の確保その他の災害応急対策並びに災害復旧を迅速かつ的確に実施するための体制の整備及び関係行政機関の連携の強化
(新第十八条の六関係)
2 感染症が発生した場合等における住民の生活の安定等に関する配慮規定の新設
国及び地方公共団体は、国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼすおそれがある感染症が発生した場合等においても、振興山村の住民が他の地域の住民とできる限り同様の生活の安定及び福祉の向上に係るサービスを享受できるよう適切な配慮をするものとすること。 (新第十八条の七関係)
四 住民の生活の安定と福祉の向上関係
1 厚生関係に関する配慮規定の改正
p 医療の確保に関する配慮規定の改正
@ 無医地区の医療を確保するための配慮事項として、振興山村に係る遠隔医療の実施及びそのための施設の設置を追加すること。 (第十九条第一項関係)
A 国及び地方公共団体は、振興山村の無医地区以外の地区において医療の提供に支障が生じている場合には、必要な医師若しくは歯科医師又はこれを補助する看護師の確保、定期的な巡回診療、保健師の配置、振興山村に係る遠隔医療の実施及びそのための施設の設置、医療機関の協力体制の整備等により当該地区における医療の充実が図られるよう適切な配慮をするものとすること。
(第十九条新第二項関係)
q 介護給付等対象サービス等の確保等に関する配慮規定の改正
@ 介護給付等対象サービス等の確保等に関する配慮規定について、介護給付等対象サービス等に従事する者の負担の軽減に資する機器等の導入を追加すること。 (第十九条の二第一項関係)
A 国及び地方公共団体は、振興山村における障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に規定する障害福祉サービス及び相談支援並びに児童福祉法に規定する障害児通所支援等(以下「障害福祉サービス等」という。)の確保及び充実を図るため、障害福祉サービス等に従事する者の確保、障害福祉サービス等に係る事業を行う事業所等の整備及び提供される障害福祉サービス等の内容の充実について適切な配慮をするものとすること。
(第十九条の二新第二項関係)
r 児童福祉施設の整備等に関する配慮規定の新設
国及び地方公共団体は、振興山村における児童の福祉の増進及び子育て環境の確保を図るため、児童福祉法に規定する児童福祉施設(qのAの障害福祉サービス等に係る事業を行う事業所等に該当するものを除く。)の整備等について適切な配慮をするものとすること。
(第二十条新第二項関係)
s 保健医療サービス等を受けるための住民負担の軽減に関する配慮規定の新設
国及び地方公共団体は、振興山村と他の地域との間の保健医療サービス、介護サービス及び保育サービスを受けるための条件の格差の是正を図るため、振興山村における住民がこれらのサービスを受けるための住民の負担の軽減について適切な配慮をするものとすること。
(新第二十条の二関係)
2 地域文化の振興等に関する配慮規定の改正
地域文化の振興等に関する配慮規定について、保存及び活用の対象に、建造物その他の有形の文化的所産、山村における年中行事等に関する風俗慣習、民俗芸能等、山村における城跡その他の遺跡及び山村の風土等により形成された景観地を追加するとともに、講ずる措置として担い手の育成を追加すること。 (第二十一条関係)
3 鳥獣被害の防止に関する配慮規定の改正
p 配慮規定の目的に住民の安全の確保を追加するとともに、配慮事項として、鳥獣の捕獲、防護柵の設置等及びこれらに寄与する人材の育成及び確保を追加すること。
(新第二十一条の二第一項関係)
q 国及び地方公共団体は、捕獲した鳥獣を地域における資源として有効に活用することができるよう、その食品等としての利用の促進について適切な配慮をするものとすること。
(新第二十一条の二第二項関係)
4 教育環境の整備に関する配慮規定の改正
振興山村の区域の内外に居住する子どもが山村の特性を生かした教育を受けられるようにする旨を追加すること。 (新第二十一条の三第二項関係)
五 山村への移住並びに山村における定住及び特定居住の促進等関係
1 移住等の促進に資する生活環境の整備に関する配慮規定の新設
国及び地方公共団体は、振興山村への移住並びに振興山村における定住及び特定居住並びに振興山村における持続可能な地域社会の維持及び形成の促進に資するため、住宅等の整備(空家の活用によるものを含む。)、水の確保、汚水及び廃棄物の処理、振興山村において住民が日常生活を営むために必要な環境の持続的な確保に資する地域的な共同活動への支援その他の快適な生活環境の確保を図るための施策の充実について適切な配慮をするものとすること。 (新第二十一条の四関係)
2 移住又は特定居住をしようとする者の来訪及び滞在の促進に関する配慮規定の新設
国及び地方公共団体は、振興山村への移住及び振興山村における特定居住の促進を図るため、振興山村への移住又は振興山村における特定居住をしようとする者への情報の提供、便宜の供与その他の振興山村への移住又は振興山村における特定居住をしようとする者の来訪及び滞在の促進について適切な配慮をするものとすること。 (新第二十一条の五関係)
3 都市と山村の交流等に関する配慮規定の改正
国及び地方公共団体が山村の有する多面的機能等を含め山村に対する国民の理解と関心が深まるよう努める旨を追加するとともに、健康的でゆとりのある生活に資するため余暇を利用した山村への滞在の機会を提供する事業活動の促進その他の都市等と山村との間の交流の促進について配慮する旨を明記すること。 (新第二十一条の六関係)
4 地域社会の担い手となる人材の育成等に関する配慮規定の新設
国及び地方公共団体は、地域における創意工夫を生かしつつ山村の自立的かつ持続的な発展が図られるよう、地域社会の担い手となる人材の育成並びに年齢、性別等にかかわりなく、多様な住民、特定非営利活動法人、特定地域づくり事業協同組合、事業者その他の山村との関わりを持つ者との間の緊密な連携及び協力を確保することについて適切な配慮をするものとすること。
(新第二十一条の七関係)
六 その他
1 自然環境の保全及び再生に関する配慮規定の新設
国及び地方公共団体は、振興山村における自然環境の保全及び再生(自然景観の保全を含む。)に資するための措置について適切な配慮をするものとすること。 (新第二十一条の八関係)
2 規制の見直しに関する配慮規定の新設
国は、国が行う規制の見直しに関する提案の募集に応じてその全部又は一部の区域が振興山村である地方公共団体から提案があったときは、山村の振興を図るため、振興山村の自然的経済的社会的諸条件及び地域社会への影響を踏まえ、当該提案に係る規制の見直しについて適切な配慮をするものとすること。 (新第二十一条の九関係)
第四 期限の延長
山村振興法の有効期限を令和十七年三月三十一日まで十年間延長するものとすること。
(附則第二項関係)
第五 施行期日等
一 施行期日
この法律は、令和七年四月一日から施行すること。ただし、第四及びこれに伴う規定の整備については、公布の日から施行すること。 (改正附則第一条関係)
二 経過措置等
所要の経過措置を定めるとともに、所要の規定を整備すること。