法律第六十一号(平九・五・二八)
◎南極地域の環境の保護に関する法律
目次
第一章 総則(第一条―第四条)
第二章 南極地域活動計画の確認(第五条―第十二条)
第三章 南極地域における行為の制限
第一節 鉱物資源活動の制限(第十三条)
第二節 動物相及び植物相の保存のための制限(第十四条)
第三節 廃棄物の適正な処分及び管理(第十五条―第十八条)
第四節 南極特別保護地区及び南極史跡記念物の保護のための制限(第十九条・第二十条)
第四章 監督(第二十一条―第二十三条)
第五章 雑則(第二十四条―第二十八条)
第六章 罰則(第二十九条―第三十三条)
附則
第一章 総則
(目的)
第一条 この法律は、国際的に協力して南極地域の環境(これに依存し及び関連する生態系並びにこれとともに包括的に保護されるべき南極地域の固有の価値を含む。以下単に「南極地域の環境」という。)の保護を図るため、南極地域活動計画の確認の制度を設けるほか南極地域における行為の制限に関する所要の措置等を講ずることにより環境保護に関する南極条約議定書(同議定書の附属書Tから附属書Vまでを含む。以下「議定書」という。)の的確かつ円滑な実施を確保し、もって人類の福祉に貢献するとともに現在及び将来の国民の健康で文化的な生活の確保に寄与することを目的とする。
(適用範囲)
第二条 この法律は、日本国民及び日本国の法人並びに日本国内に住所を有する外国人及び日本国内に事務所を有する外国の法人(当該事務所に所属する従業者が当該法人の業務に関し、南極地域活動をし、又は南極地域活動の主宰に関与する場合に限る。)に適用する。
(定義)
第三条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
一 南極地域 南緯六十度以南の陸域(氷棚及びその上空の部分を含む。以下同じ。)及び海域(氷棚の区域については、その下の海中の部分に限る。以下同じ。)をいう。
二 南極地域の固有の価値 南極地域の科学上、歴史上若しくは芸術上の価値又は原生の状態を維持していることの価値をいう。
三 南極地域活動 南極地域においてする科学的調査、観光その他の活動(一定の目的のためにする一連の行為をいう。)をいう。
四 南極地域活動計画 一又は二以上の南極地域活動に係る一の計画をいう。
五 南極特別保護地区 議定書附属書V第三条1又は3の規定により指定された南極特別保護地区であって、総理府令で定めるものをいう。
六 特定活動 南極地域の海域においてする次に掲げる南極地域活動(次に掲げる南極地域活動以外の南極地域活動と一体となって行われるものを除く。)をいう。
イ 南極地域の海域に生息し、又は生育する水産動植物の採捕であって当該採捕を制限し、又は禁止する法令の規定(政令で定めるものに限る。)に反することなく行われるもの及びこれに付随する総理府令で定める行為
ロ 船舶の航行又は航空機の飛行(南極特別保護地区への立入りを除く。)及びこれらに付随する総理府令で定める行為
ハ 科学的調査であってその結果を公表することとされているもの(イに掲げるものを除く。)
七 南極環境構成要素 南極地域の大気、南極地域の水、南極地域に生息し、又は生育する動植物その他の南極地域の環境の構成要素(南極地域の気象その他のこれらの構成要素の現象又は状態を含む。)であって、総理府令で定めるものをいう。
八 南極環境影響 南極地域活動が南極環境構成要素に及ぼす影響をいう。
九 鉱物資源活動 鉱物(石炭、亜炭、石油及び天然ガスを含む。)の探鉱及び採鉱をいう。
十 南極哺乳類 哺乳綱に属する種であってその個体が南極地域に生息するものとして総理府令で定めるものの生きている個体をいう。
十一 南極鳥類 鳥綱に属する種であってその個体が南極地域に生息するものとして総理府令で定めるものの生きている個体をいう。
十二 廃棄物 南極地域の陸域(上空を除く。以下この号において同じ。)において発生し、又は南極地域の陸域に持ち込まれた固形状又は液状の不要物をいう。
十三 南極史跡記念物 議定書附属書V第八条5後段に規定する史跡及び歴史的記念物の一覧表に掲げられた史跡及び歴史的記念物であって、総理府令で定めるものをいう。
(基本的な配慮事項の公表)
第四条 環境庁長官は、議定書の的確かつ円滑な実施を図るため、次条第一項に規定する確認を受けて南極地域活動を主宰する者(以下「主宰者」という。)及び南極地域活動の行為者が南極地域の環境の保護のために配慮しなければならない基本的な事項(以下この条において「基本的な配慮事項」という。)を定めて公表するものとする。
2 環境庁長官は、基本的な配慮事項を定めようとするときは、文部大臣その他関係行政機関の長に協議しなければならない。
3 前二項の規定は、基本的な配慮事項の変更について準用する。
第二章 南極地域活動計画の確認
(確認に係る南極地域活動以外の南極地域活動の制限)
第五条 何人も、南極地域においては、第七条第一項各号に掲げる要件に該当する旨の環境庁長官の確認(次項を除き、以下単に「確認」という。)を受けた南極地域活動計画に含まれる南極地域活動以外の南極地域活動をしてはならない。ただし、特定活動については、この限りでない。
2 議定書の締約国たる外国(以下「締約国」という。)の法令であってこの法律に相当するもの(以下「締約国の相当法令」という。)の規定により当該締約国において前項に規定する確認に類する許可その他の行政処分を受けてする南極地域活動又は当該処分を受けることを要しないとされている南極地域活動については、同項の規定は、適用しない。
3 前項に規定する南極地域活動をしようとする者は、あらかじめ、総理府令で定めるところにより、環境庁長官にその旨を届け出なければならない。
(南極地域活動計画の確認の申請)
第六条 南極地域活動計画の確認についての申請(以下この条から第十条までにおいて単に「申請」という。)は、当該南極地域活動計画に含まれる南極地域活動を主宰しようとする者が次に掲げる事項を記載した申請書(以下単に「申請書」という。)を環境庁長官に提出して行わなければならない。
一 主宰者の氏名又は名称及び住所並びに法人にあっては、その代表者及び役員の氏名
二 当該南極地域活動計画の目的
三 当該南極地域活動計画に含まれる南極地域活動の行為者の人数
四 当該南極地域活動計画に含まれる南極地域活動の行為者の氏名が確定している場合にあっては、当該氏名
五 当該南極地域活動計画に含まれる南極地域活動の行為者が当該南極地域活動をその業務に関してする法人がある場合にあっては、その名称及び住所並びに代表者の氏名
六 当該南極地域活動計画に含まれる南極地域活動の目的、時期、場所及び実施方法
七 当該南極地域活動計画に含まれる南極地域活動を構成する行為(次条第一項第一号から第三号までに掲げる要件に関連するものに限る。)の詳細な内容及び当該行為の行為者の氏名が確定している場合にあっては、当該氏名
2 南極地域活動を主宰しようとする者が次の各号のいずれかに該当するときは、確認を受けることができない。
一 この法律の規定に違反して罰金以上の刑に処せられ、その執行を終わり、又はその執行を受けることがなくなった日から起算して二年を経過しない者
二 法人であって、その役員のうちに前号に該当する者があるもの
3 第一項の規定により申請書を環境庁長官に提出する者(以下「申請者」という。)は、当該申請書に係る南極地域活動計画に含まれる南極地域活動の南極環境影響について環境庁長官が定めるところにより調査、予測及び評価を行い、その結果を記載した図書を当該申請書とともに環境庁長官に提出することができる。
4 申請書の様式、記載要領その他の必要な事項は、総理府令で定める。
(南極地域活動計画の確認の基準)
第七条 環境庁長官は、申請に係る南極地域活動計画に含まれるすべての南極地域活動が次の要件に該当すると認めるときは、次条及び第九条に規定する手続に従い確認をするものとする。
一 当該南極地域活動を構成する行為中に第十三条、第十四条第一項、第十六条、第十八条及び第二十条の規定に違反するものがないこと。
二 当該南極地域活動を構成する行為の全部又は一部が第十四条第二項各号に該当する場合には、当該行為の目的が総理府令で定める当該行為の区分ごとに総理府令で定めるもの(科学的調査、教育資料の収集その他これに類する目的に限る。)であり、かつ、当該目的を達成するため必要な限度においてするものであることその他の総理府令で定める条件に適合すること。
三 当該南極地域活動を構成する行為の全部又は一部が南極特別保護地区への立入りに該当する場合には、当該行為が議定書附属書V第六条の指定に係る管理計画に従い南極特別保護地区ごとに総理府令で定める要件に適合すること(当該管理計画が指定されていない南極特別保護地区にあっては、科学的調査のため欠くことができないものであること。)。
四 次項の規定に適合すること。
五 前三号に掲げる南極地域活動のうちその南極環境影響の程度が軽微でないものにあっては、これらの号に規定するところに適合するほか、当該南極環境影響の程度がその時点において国際的に到達されている水準の南極環境影響に関する科学的知見に照らし著しいものとなるおそれがないこと。
2 南極地域活動は、次に掲げるものであってはならない。
一 南極地域の気候の自然な変動に影響を及ぼすおそれのある南極地域活動
二 南極地域の大気の著しい汚染、水質の著しい汚濁(水質以外の水の状態又は水底の底質の著しい悪化を含む。)又は土壌の著しい汚染の原因となるおそれのある南極地域活動
三 南極地域の大気の組成を変化させ、土地(海底を含む。)若しくは氷床の形質を著しく変更し、又は河川、湖沼等の水位若しくは水量に著しい増減を及ぼすおそれのある南極地域活動
四 南極地域に生息し、又は生育する動植物の種について、その種の個体の主要な生息地又は生育地を消滅させるおそれのある南極地域活動、種の存続に支障を来す程度にその種の個体の数を著しく減少させる南極地域活動その他のその種の個体の生息状態又は生育状態に著しく影響を及ぼすおそれのある南極地域活動
五 南極地域の固有の価値であって重要なものを有する地域において、当該価値を著しく減ずるおそれのある南極地域活動
(南極地域活動計画の確認)
第八条 環境庁長官は、申請書が提出された場合において、当該申請書に係る南極地域活動計画に含まれる南極地域活動が前条第一項各号に掲げる要件に該当するかどうかの審査を適正に行うため必要があると認めるときは、申請者に対し、相当な期限を付して、書面をもって、次に掲げる措置をとるべきことを命ずることができる。この場合において、当該書面には、当該措置をとるべき理由を付さなければならない。
一 申請書を訂正すること。
二 第六条第三項に規定する図書を提出すること。
三 第六条第三項に規定する図書の記載事項の修正又は補充を行うこと。
2 前項の規定による命令があった場合において、申請者が同項の期限までに当該命令に係る措置をとらないときは、環境庁長官は、当該申請を却下しなければならない。
3 環境庁長官は、申請書が提出された場合において、申請に係る南極地域活動計画が次の各号に掲げるものに該当すると認めるときは、それぞれ当該各号に定める措置をとらなければならない。
一 それに含まれるすべての南極地域活動が前条第一項各号に掲げる要件に該当する南極地域活動計画 当該南極地域活動計画の確認をし、その旨を書面をもって申請者に通知すること。
二 それに含まれるすべての南極地域活動が前条第一項第一号から第四号までに該当し、かつ、それに含まれる南極地域活動の全部又は一部が同項第五号に掲げる要件に該当しないおそれがあることから締約国の政府並びに日本国内及び日本国外の一般の意見を求める必要がある南極地域活動計画 次条の規定による措置をとる旨及びその理由を書面をもって申請者に通知すること。
三 前二号に掲げるもの以外のもの 当該南極地域活動計画の確認を拒否し、その旨及びその理由を書面をもって申請者に通知すること。
4 環境庁長官は、前項の規定による措置をとろうとする場合において必要があると認めるときは、総理府令で定めるところにより、当該南極地域活動計画に含まれる南極地域活動について、南極地域に関し専門の学識経験のある者の意見を聴くことができる。
5 環境庁長官は、南極地域の環境を保護するため必要があると認めるときは、その必要の限度において、第三項第一号の規定による確認に係る南極地域活動計画に含まれる南極地域活動(その南極環境影響が極めて軽微なものを除く。)について南極環境構成要素(あらかじめ環境庁長官が通知する南極環境影響に係るものに限る。)の観測又は測定を総理府令で定めるところにより行いその結果を環境庁長官に報告すること、南極地域において環境庁長官の権限を行う職員との間の連絡手段を確保することその他の条件を付することができる。
6 第三項第二号の規定による通知について不服がある者は、行政不服審査法(昭和三十七年法律第百六十号)に基づく異議申立てをすることができる。
7 申請者は、申請に係る南極地域活動計画について確認をし、又は確認を拒否した旨の通知を受けるまでは、いつでも申請を取り下げることができる。
(南極地域活動計画の縦覧等)
第九条 環境庁長官は、前条第三項第二号に定める措置をとった日から起算して二週間以内に、申請に係る南極地域活動計画について、総理府令で定めるところにより、総理府令で定める事項を公告し、及び当該公告の日から起算して三十日間、当該南極地域活動計画に係る申請書及び第六条第三項に規定する図書を縦覧に供し、並びに当該南極地域活動計画についての意見を求めるため議定書附属書I第三条2に規定する事項を記載した包括的な環境評価書を作成して締約国の政府及び議定書第十一条の環境保護委員会に送付する手続をとらなければならない。
2 何人も、前項の規定により縦覧に供された南極地域活動計画について、同項の規定による公告の日から、同項の縦覧期間の満了の日の翌日から起算して六十日を経過する日までの間に、環境庁長官に対し、南極地域の環境の保護の見地からの意見を、意見書の提出により述べることができる。
3 環境庁長官は、第一項に規定する包括的な環境評価書に対する締約国の政府の意見若しくは前項の意見の内容に照らし南極地域の環境を保護するため必要があると認めるとき、又は議定書附属書T第三条5若しくは6の規定に従うため必要があると認めるときは、申請者に対し、相当な期限を付して、書面をもって、当該南極地域活動計画について必要な修正を行うべきことを命ずることができる。この場合において、当該書面には、当該修正を行うべき理由を付さなければならない。
4 前条第二項の規定は、前項の規定による命令について準用する。この場合において、同条第二項中「当該命令に係る措置をとらない」とあるのは、「第九条第三項の規定による命令に係る修正を行わない」と読み替えるものとする。
5 環境庁長官は、第三項の規定による命令に係る修正後の南極地域活動計画(同項の規定による命令をしない場合にあっては、第一項の規定による公告に係る南極地域活動計画)が第七条第一項各号に掲げる要件に該当すると認めるときは、当該南極地域活動計画の確認をし、その旨を書面をもって申請者に通知しなければならない。
6 前条第五項の規定は、前項の規定による確認について準用する。
(承継)
第十条 申請者に代わって申請中の南極地域活動計画に係る南極地域活動を主宰しようとする者は、総理府令で定めるところにより、環境庁長官に届け出て、その申請者の地位を引き継ぐことができる。
2 申請者について相続又は合併があったときは、相続人(相続人が二人以上ある場合において、その全員の同意により当該申請の手続を承継すべき相続人を選定したときは、その選定された者)又は合併後存続する法人若しくは合併により設立された法人は、その申請者の地位を承継する。
3 前項の規定により申請者の地位を承継した者は、総理府令で定めるところにより、遅滞なく、その旨を環境庁長官に届け出なければならない。
4 第一項の規定は確認を受けた南極地域活動計画に係る主宰者となろうとする者について、第二項の規定は確認を受けた南極地域活動計画に係る主宰者について準用する。この場合において、第一項中「環境庁長官に届け出て」とあるのは「環境庁長官の承認を受けて」と、第二項中「その申請者」とあるのは「環境庁長官の承認を受けて、その主宰者」と、「承継する」とあるのは「承継することができる」と読み替えるものとする。
(行為者証の交付等)
第十一条 申請書を提出した時に第六条第一項第四号又は第七号に規定する氏名が確定していなかった場合には、申請者又は主宰者は、南極地域活動計画に含まれる南極地域活動が開始される日(当該南極地域活動計画に含まれる南極地域活動が二以上である場合にあっては、それらが開始される日のいずれか早い日。以下この条において「計画開始日」という。)の三十日前までに、当該氏名を確定し、これを環境庁長官に届け出なければならない。
2 第六条第一項第四号若しくは第七号に規定する氏名又は同項第五号に掲げる事項に変更があった場合には、申請者又は主宰者は、計画開始日の三十日前までに、その旨を環境庁長官に届け出なければならない。
3 前二項の規定は、当該南極地域活動計画に含まれる一の南極地域活動が開始される日が計画開始日から起算して六月を経過した日以後の日である場合における当該南極地域活動の行為者の氏名及び当該南極地域活動に係る第六条第一項第五号に掲げる事項については、適用しない。
4 前項の場合においては、主宰者は、当該南極地域活動が開始される日の三十日前までに、当該南極地域活動の行為者の氏名及び当該南極地域活動に係る第六条第一項第五号に掲げる事項を環境庁長官に届け出なければならない。
5 環境庁長官は、主宰者から申請があったときは、総理府令で定めるところにより、当該主宰者に対し、その者の主宰する南極地域活動の行為者について、その南極地域活動が確認を受けた南極地域活動計画に含まれるものであることを証明する行為者証の交付をするものとする。
6 主宰者又は確認を受けた南極地域活動計画に含まれる南極地域活動の行為者は、前項の行為者証を亡失し、又は同項の行為者証が滅失したときは、総理府令で定めるところにより、その行為者証の再発行を受けることができる。
7 確認を受けた南極地域活動計画に含まれる南極地域活動の行為者は、南極地域において、第五項の行為者証を携帯しなければならない。
(主宰者の責務)
第十二条 主宰者は、確認を受けた南極地域活動計画に含まれる自己の主宰する南極地域活動の行為者に対し、少なくとも当該南極地域活動に係る第六条第一項第六号及び第七号の事項について説明し、その他この法律又はこれに基づく命令の規定に違反しないように必要な指導を行わなければならない。
第三章 南極地域における行為の制限
第一節 鉱物資源活動の制限
第十三条 何人も、南極地域においては、鉱物資源活動をしてはならない。ただし、科学的調査であってその結果を公表することとされているものについては、この限りでない。
第二節 動物相及び植物相の保存のための制限
第十四条 何人も、総理府令で定める検査を受けている場合その他総理府令で定める場合を除き、生きていない哺乳綱又は鳥綱に属する種の個体(これらの個体の一部を含むものとし、これらの加工品を除く。)を南極地域に持ち込んではならない。
2 何人も、南極地域においては、次に掲げる行為をしてはならない。
一 南極哺乳類若しくは南極鳥類を捕獲し、若しくは殺傷し、又は南極鳥類の卵を採取し、若しくは損傷すること(特定活動に係る行為又は確認を受けた南極地域活動計画に含まれる南極地域活動を構成する行為(締約国の相当法令の規定により当該締約国において当該行為に関する許可その他のこれに類する行政処分を受けてする行為を含む。次号及び第三号において「確認行為」という。)に該当するものを除く。)。
二 次に掲げる場合以外の場合において、生きている生物(ウイルスを含む。)を南極地域に持ち込むこと(確認行為に該当するものを除く。)。
イ 食用に供するために酵母その他の菌類又は植物を持ち込む場合
ロ イに掲げるもののほか、南極環境影響の程度が軽微な場合として総理府令で定める場合
三 前項又は前二号に掲げるもののほか、南極地域に生息し、又は生育する動植物の生息状態又は生育状態及び生息環境又は生育環境に影響を及ぼすおそれのある行為
(特定活動に係る行為又は確認行為を除く。)
3 南極地域に動植物(これらの個体の一部及び加工品を含む。)を持ち込んだ者は、南極地域の動物相又は植物相の保存に支障を及ぼすことがないよう、当該動植物を適切に管理するように努めなければならない。
第三節 廃棄物の適正な処分及び管理
(廃棄物の発生の抑制等)
第十五条 何人も、南極地域においては、廃棄物の発生の抑制に努めるとともに、発生した廃棄物を南極地域から除去するように努めなければならない。
(廃棄物の処分の制限)
第十六条 何人も、南極地域においては、次の各号のいずれかに規定する方法による場合を除き、廃棄物を焼却し、埋め、排出し、若しくは遺棄し、又はその他の方法による廃棄物の処分をしてはならない。
一 固形状の廃棄物であって可燃性のもの(政令で定めるものを除く。)の陸域における焼却による処分であって、総理府令で定める焼却の方法に関する基準に従ってするもの
二 液状の廃棄物(ふん尿を含むものとし、政令で定めるものを除く。以下この条において「液状廃棄物」という。)であって、氷床に覆われ、かつ、海岸又は氷棚の先端から内陸の方向に遠く隔たった地域として総理府令で定める地域において発生するものの当該地域における埋立てによる処分であって、総理府令で定める埋立ての方法に関する基準に従ってするもの
三 液状廃棄物であって人の日常生活に伴って生ずるものその他の政令で定めるものの陸域から海域への排出であって、総理府令で定める排出の方法に関する基準に従ってするもの
四 前号に掲げる液状廃棄物の処分に伴って生ずる汚泥(総理府令で定めるものに限る。)の船舶から海域への排出であって、海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律(昭和四十五年法律第百三十六号)の規定に従ってするもの
五 廃棄物を除去することによる南極環境影響の程度がそれを遺棄することによる南極環境影響の程度よりも大きいと認められる場合として総理府令で定める場合における当該廃棄物のその場への遺棄
六 前各号に掲げるもののほか、液状廃棄物の陸域における処分又は陸域から海域への排出であって、南極地域において行為をする上でやむを得ず、かつ、南極環境影響の程度が軽微であるものとして総理府令で定めるもの
(廃棄物の適切な保管)
第十七条 何人も、廃棄物が南極地域から除去され、又は前条各号に掲げる廃棄物の処分がされるまでの間は、廃棄物が飛散し、流出し、又は地下に浸透しないよう、適切な場所又は施設において適切に保管するように努めなければならない。
(ポリ塩化ビフェニル等の持込みの禁止)
第十八条 何人も、南極環境影響の程度が軽微な場合として総理府令で定める場合を除き、ポリ塩化ビフェニル(別名PCB)その他廃棄物となった場合における除去又は処分の南極環境影響の程度が著しい物として政令で定めるものを南極地域に持ち込んではならない。
第四節 南極特別保護地区及び南極史跡記念物の保護のための制限
(南極特別保護地区への立入りの制限)
第十九条 何人も、特定活動としてする立入り、確認を受けた南極地域活動計画に含まれる南極地域活動に係る立入り及び締約国の相当法令の規定により当該締約国において当該立入りに関する許可その他のこれに類する行政処分を受けてする立入りに該当する場合を除き、南極特別保護地区に立ち入ってはならない。
(南極史跡記念物の除去等の禁止)
第二十条 何人も、南極史跡記念物を除去し、損傷し、又は破壊してはならない。
第四章 監督
(報告徴収)
第二十一条 環境庁長官は、この法律の施行に必要な限度において、主宰者又は南極地域において行為をする者に対し、当該行為の実施状況その他必要な事項について報告を求めることができる。
(立入検査)
第二十二条 環境庁長官は、この法律の施行に必要な限度において、その職員に、南極地域にある建築物、日本船舶若しくは日本航空機で前条に規定する者が管理するものに立ち入らせ、車両、帳簿書類その他の物件を検査させ、又は関係者に質問させることができる。
2 議定書第十四条2に規定する監視員は、議定書で定める範囲内で、南極地域にある建築物、船舶若しくは航空機で前条に規定する者が管理するものに立ち入り、車両、帳簿書類その他の物件を検査し、又は関係者に質問することができる。
3 第一項の規定による立入検査をする職員は、その身分を示す証明書を携帯し、関係者に提示しなければならない。
4 第一項の規定による権限は、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない。
(措置命令)
第二十三条 環境庁長官は、南極地域において行為をする者が第十三条、第十四条第一項若しくは第二項、第十六条若しくは第十八条から第二十条までの規定に違反し、又は第七条第二項各号のいずれかに該当する行為をし、又はしようとする場合(次項に規定する場合を除く。)において、南極地域の環境の保護のために必要があると認めるときは、当該行為をし、若しくはしようとする者又は主宰者に対し、当該行為の中止を命じ、又は相当の期限を定めて、原状回復を命じ、若しくは原状回復が著しく困難である場合に、これに代わるべき必要な措置をとるべきことを命ずることができる。
2 環境庁長官は、確認の時には予想することができなかった南極地域の環境の変化又は確認の時になかった南極地域の環境の科学的知見の充実により、確認を受けた南極地域活動計画に含まれる南極地域活動が第七条第二項各号のいずれかに該当することとなった場合において、南極地域の環境を著しく損ね、又は損ねるおそれがあるために当該南極地域活動を放置することができないと認めるときは、当該南極地域活動の主宰者又は当該南極地域活動を構成する行為をし、若しくはしようとする者に対し、当該南極地域活動又は当該行為の中止を命じ、その他南極地域の環境を保護するために必要な措置を命ずることができる。
3 環境庁長官は、第一項の規定により原状回復又はこれに代わるべき必要な措置をとるべきことを命じた場合において、当該命令をされた者がその命令に係る期限までにその命令に係る措置をとらないときは、自ら原状回復をし、又は原状回復が著しく困難である場合に、これに代わるべき必要な措置をとるとともに、その費用の全部又は一部をその者に負担させることができる。
第五章 雑則
(適用除外等)
第二十四条 この法律の規定は、放射性物質による南極地域の大気の汚染、水質の汚濁(水質以外の水の状態又は水底の底質の悪化を含む。)及び土壌の汚染並びにそれらの防止のための措置については、適用しない。
2 南極地域の海域における船舶及び航空機から当該海域への廃棄物の排出並びに南極地域の海域にある船舶における廃棄物の焼却については、第二十二条第一項の規定は、適用しない。
3 緊急時における人の生命又は身体の保護のため行う行為その他緊急やむを得ない事由があるものとして総理府令で定める行為に該当する行為については、第五条第一項及び第三項、第十一条第七項、第十四条第一項及び第二項、第十六条並びに第十八条から第二十条までの規定は、適用しない。
4 前項に規定する行為をした者は、総理府令で定めるところにより、当該行為が終了した後、遅滞なく、環境庁長官に対し、当該行為をした旨及びその実施状況を報告しなければならない。
(周知)
第二十五条 国は、南極地域において行為をする者その他の関係者に議定書及びこの法律(これに基づく命令及び環境庁長官の定めを含む。)の要旨の周知を図るため、適当な措置をとるものとする。
(権限の委任)
第二十六条 環境庁長官は、あらかじめ指定するその職員に、南極地域において、第十一条第五項若しくは第六項又は第二十三条第一項若しくは第二項の規定による権限を行わせることができる。
2 前項の職員は、その身分を示す証明書を携帯し、関係者に提示しなければならない。
(経過措置)
第二十七条 この法律の規定に基づき命令を制定し、又は改廃する場合においては、その命令で、その制定又は改廃に伴い合理的に必要と判断される範囲内において、所要の経過措置(罰則に関する経過措置を含む。)を定めることができる。
(総理府令への委任)
第二十八条 この法律に定めるもののほか、この法律の実施のための手続その他この法律の施行に関し必要な事項は、総理府令で定める。
第六章 罰則
第二十九条 次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
一 第十三条、第十四条第一項若しくは第二項(第三号を除く。)、第十八条又は第二十条の規定に違反した者
二 第十六条の規定に違反する行為(南極地域の海域における船舶及び航空機から当該海域への廃棄物の排出並びに南極地域の海域にある船舶における廃棄物の焼却を除く。)をした者
三 第十九条の規定に違反した者
四 第二十三条第一項又は第二項の規定による命令に違反した者
第三十条 次の各号のいずれかに該当する者は、六月以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
一 第五条第一項の規定に違反して、確認を受けた南極地域活動計画に定められた南極地域活動(同条第二項に規定する南極地域活動を含む。)をすべきこととされている場所以外の場所に立ち入り、又は当該南極地域活動をすべきこととされている時期以外の時期に当該南極地域活動に係る場所に立ち入り、若しくは残留する行為(前条第三号に該当する行為を除く。)をした者
二 偽りその他不正の手段により確認を受けた者
第三十一条 第五条第三項の規定による届出をしないで同条第二項に規定する南極地域活動をすべきこととされている場所に立ち入った者は、五十万円以下の罰金に処する。
第三十二条 次の各号のいずれかに該当する者は、二十万円以下の罰金に処する。
一 第八条第五項(第九条第六項において準用する場合を含む。)の規定により確認に付された条件に違反した者
二 第十一条第七項の規定に違反した者
三 第二十一条の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者
四 第二十二条第一項又は第二項の規定による立入検査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、又は質問に対して陳述をせず、若しくは虚偽の陳述をした者
第三十三条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、第二十九条から前条までの違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対して各本条の罰金刑を科する。
附 則
(施行期日)
第一条 この法律は、次の各号に掲げる規定ごとに、それぞれ当該各号に定める日から施行する。
一 第一章(第四条を除く。)、第二章(第五条第一項及び第十一条第七項を除く。)、第二十五条、第二十七条、第二十八条、第三十条第二号、次条並びに附則第三条、第八条及び第十条から第十二条までの規定 議定書(議定書附属書Vを除く。)が日本国について効力を生ずる日(以下「議定書発効日」という。)
二 第二十条、第二十九条第一号(第二十条に係る部分に限る。)及び附則第五条の規定 議定書附属書Vが日本国について効力を生ずる日から起算して六月を経過した日
三 第五条第一項、第十一条第七項、第十四条第二項、第十九条、第二十九条第一号(第十四条第二項(第三号を除く。)に係る部分に限る。)及び第三号、第三十条第一号、第三十二条第二号並びに附則第六条及び第七条の規定 議定書発効日から起算して一年を経過した日
四 前三号に掲げる規定以外の規定 議定書発効日から起算して六月を経過した日
(南極地域の動物相及び植物相の保存に関する法律の廃止)
第二条 南極地域の動物相及び植物相の保存に関する法律(昭和五十七年法律第五十八号)は、廃止する。
(経過措置)
第三条 前条の規定による廃止前の南極地域の動物相及び植物相の保存に関する法律(以下「旧法」という。)第三条第一項各号に掲げる行為及び同条第二項に規定する行為については、旧法第二条から第四条まで、第五条(第二項を除く。)、第六条及び第九条から第十一条までの規定は、附則第一条第三号に定める日の前日までの間は、なおその効力を有する。この場合において、これらの規定中「外務大臣」とあるのは「環境庁長官」と、「外務省令」とあるのは「総理府令」とする。
2 附則第一条第一号に掲げる規定の施行の際現に受けている旧法の規定による許可その他の処分は、前項の規定によりなおその効力を有するものとされる旧法の規定による許可その他の処分とみなす。
3 附則第一条第一号に掲げる規定の施行前に旧法第五条第一項の規定により外務大臣に提出された申請書は、第一項の規定によりなおその効力を有するものとされる旧法第五条第一項の規定により環境庁長官に提出されたものとみなす。
第四条 附則第一条第四号に定める日から同条第三号に定める日の前日までの間における前条第一項の規定の適用については、同条中「旧法第二条から第四条まで」とあるのは「旧法第二条第四項、第三条、第四条」と、「規定中」とあるのは「規定中「南極地域」とあるのは「南極地域の環境の保護に関する法律(平成九年法律第六十一号。以下「南極環境保護法」という。)第三条第一号に規定する南極地域」と、「南極哺乳類」とあるのは「南極環境保護法第三条第十号に規定する南極哺乳類」と、「南極鳥類」とあるのは「南極環境保護法第三条第十一号に規定する南極鳥類」と、」とする。
第五条 附則第一条第二号に定める日から同条第三号に定める日の前日までの間における前条の規定の適用については、同条中「旧法第二条第四項、第三条」とあるのは「旧法第三条」と、「南極鳥類」と、」とあるのは「南極鳥類」と、「特別保護地区」とあるのは「南極環境保護法第三条第五号に規定する南極特別保護地区」と、」とする。
第六条 附則第一条第三号に掲げる規定の施行の際現に南極地域において南極地域活動をしている者が最初に南極地域から出るまでの間に南極地域においてする南極地域活動については、第五条第一項及び第十一条第七項の規定は、適用しない。
2 前項に規定する者が附則第三条第一項の規定によりなおその効力を有するものとされる旧法第四条第三号の許可(附則第三条第二項の規定によりみなされたものを含む。)を現に受けている場合における当該許可に係る行為及び前項に規定する者がする旧法第四条第一号及び第二号に掲げる行為については、第十四条第二項及び第十九条の規定は、適用しない。
3 第一項に規定する者は、総理府令で定めるところにより、同項に規定する南極地域活動が終了した後、遅滞なく、環境庁長官に対し、総理府令で定める事項を報告しなければならない。
4 前項の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者は、二十万円以下の罰金に処する。
第七条 附則第一条第二号に定める日が同条第三号に定める日後である場合における同号に定める日から同条第二号に定める日の前日までの間のこの法律の規定の適用については、第三条第五号中「議定書附属書V第三条1又は3の規定により指定された南極特別保護地区であって、」とあるのは「生態系の保存が学術的に特に重要なものとして議定書第一条(c)の南極条約協議国会議が指定した地区で」と、「第七条第一項第三号中「議定書附属書V第六条の指定に係る管理計画に従い南極特別保護地区ごとに総理府令で定める要件に適合すること(当該管理計画が指定されていない南極特別保護地区にあっては、科学的調査のため欠くことができないものであること。)」とあるのは「南極特別保護地区の生態系の保存に支障を及ぼすものでないことその他の総理府令で定める条件に適合すること」とする。
第八条 附則第二条及び次条の規定の施行前にした行為並びに附則第二条の規定の施行後附則第三条第一項の規定によりなおその効力を有するものとされる旧法第九条から第十一条までの規定の失効前にした行為に対する罰則の適用については、なお従前の例による。
(海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律の一部改正)
第九条 海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律の一部を次のように改正する。
第十条第二項第四号中「定めた廃棄物」の下に「、南極地域の環境の保護に関する法律(平成九年法律第六十一号)第十六条第四号に規定する汚泥」を加える。
(環境庁設置法の一部改正)
第十条 環境庁設置法(昭和四十六年法律第八十八号)の一部を次のように改正する。
第四条第七号中「及び絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(平成四年法律第七十五号)」を「、絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(平成四年法律第七十五号)及び南極地域の環境の保護に関する法律(平成九年法律第六十一号)」に改める。
(環境庁設置法の一部改正に伴う経過措置)
第十一条 前条の規定による改正後の環境庁設置法第四条第七号の規定の適用については、附則第一条第一号に定める日から同条第三号に定める日の前日までの間は、「及び南極地域の環境の保護に関する法律(平成九年法律第六十一号)」とあるのは、「並びに南極地域の環境の保護に関する法律(平成九年法律第六十一号)及び同法附則第三条第一項の規定によりなおその効力を有するものとされる旧南極地域の動物相及び植物相の保存に関する法律(昭和五十七年法律第五十八号)」とする。
(外務省設置法の一部改正)
第十二条 外務省設置法(昭和二十六年法律第二百八十三号)の一部を次のように改正する。
第四条第四十五号を削り、同条第四十六号を同条第四十五号とする。
(内閣総理・外務大臣臨時代理・運輸大臣署名)