法律第二号(平二〇・一・一六)
◎特定フィブリノゲン製剤及び特定血液凝固第\因子製剤によるC型肝炎感染被害者を救済 するための給付金の支給に関する特別措置法
フィブリノゲン製剤及び血液凝固第\因子製剤にC型肝炎ウイルスが混入し、多くの方々が感 染するという薬害事件が起き、感染被害者及びその遺族の方々は、長期にわたり、肉体的、精神的苦痛を強いられている。
政府は、感染被害者の方々に甚大な被害が生じ、その被害の拡大を防止し得なかったことにつ いての責任を認め、感染被害者及びその遺族の方々に心からおわびすべきである。さらに、今回の事件の反省を踏まえ、命の尊さを再認識し、医薬品による健康被害の再発防止に 最善かつ最大の努力をしなければならない。
もとより、医薬品を供給する企業には、製品の安全性の確保等について最善の努力を尽くす責 任があり、本件においては、そのような企業の責任が問われるものである。
C型肝炎ウイルスの感染被害を受けた方々からフィブリノゲン製剤及び血液凝固第\因子製剤 の製造等を行った企業及び国に対し、損害賠償を求める訴訟が提起されたが、これまでの五つの地方裁判所の判決においては、企業及び国が責任を負うべき期間等について判断が 分かれ、現行法制の下で法的責任の存否を争う訴訟による解決を図ろうとすれば、さらに長期間を要することが見込まれている。
一般に、血液製剤は適切に使用されれば人命を救うために不可欠の製剤であるが、フィブリノ ゲン製剤及び血液凝固第\因子製剤によってC型肝炎ウイルスに感染した方々が、日々、症状の重篤化に対する不安を抱えながら生活を営んでいるという困難な状況に思いをいた すと、我らは、人道的観点から、早急に感染被害者の方々を投与の時期を問わず一律に救済しなければならないと考える。しかしながら、現行法制の下でこれらの製剤による感染 被害者の方々の一律救済の要請にこたえるには、司法上も行政上も限界があることから、立法による解決を図ることとし、この法律を制定する。
(趣旨)
第一条 この法律は、特定C型肝炎ウイルス感染者及びその相続人に対する給付金の支給に関し 必要な事項を定めるものとする。
(定義)
第二条 この法律において「特定フィブリノゲン製剤」とは、乾燥人フィブリノゲンのみを有効 成分とする製剤であって、次に掲げるものをいう。
一 昭和三十九年六月九日、同年十月二十四日又は昭和五十一年四月三十日に薬事法の一部を 改正する法律(昭和五十四年法律第五十六号)による改正前の薬事法(昭和三十五年法律第百四十五号。以下「昭和五十四年改正前の薬事法」という。)第十四条第一項の規定に よる承認を受けた製剤
二 昭和六十二年四月三十日に薬事法及び医薬品副作用被害救済・研究振興基金法の一部を改 正する法律(平成五年法律第二十七号)第一条の規定による改正前の薬事法(以下「平成五年改正前の薬事法」という。)第十四条第一項の規定による承認を受けた製剤(ウイル スを不活化するために加熱処理のみを行ったものに限る。)
2 この法律において「特定血液凝固第\因子製剤」とは、乾燥人血液凝固第\因子複合体を有 効成分とする製剤であって、次に掲げるものをいう。
一 昭和四十七年四月二十二日又は昭和五十一年十二月二十七日に昭和五十四年改正前の薬事 法第十四条第一項(昭和五十四年改正前の薬事法第二十三条において準用する場合を含む。)の規定による承認を受けた製剤
二 昭和六十年十二月十七日に平成五年改正前の薬事法第二十三条において準用する平成五年 改正前の薬事法第十四条第一項の規定による承認を受けた製剤(ウイルスを不活化するために加熱処理のみを行ったものに限る。)
3 この法律において「特定C型肝炎ウイルス感染者」とは、特定フィブリノゲン製剤又は特定 血液凝固第\因子製剤の投与(獲得性の傷病に係る投与に限る。第五条第二号において同じ。)を受けたことによってC型肝炎ウイルスに感染した者及びその者の胎内又は産道に おいてC型肝炎ウイルスに感染した者をいう。
(給付金の支給)
第三条 独立行政法人医薬品医療機器総合機構(以下「機構」という。)は、特定C型肝炎ウイ ルス感染者(特定C型肝炎ウイルス感染者がこの法律の施行前に死亡している場合にあっては、その相続人)に対し、その者の請求に基づき、医療、健康管理等に係る経済的負担 を含む健康被害の救済を図るためのものとして給付金を支給する。
2 給付金の支給を受ける権利を有する者が死亡した場合においてその者がその死亡前に給付金 の支給の請求をしていなかったとき(特定C型肝炎ウイルス感染者が慢性C型肝炎の進行により死亡した場合を含む。)は、その者の相続人は、自己の名で、その者の給付金の支 給を請求することができる。
3 給付金の支給を受けることができる同順位の相続人が二人以上あるときは、その一人がした 請求は、全員のためその全額につきしたものとみなし、その一人に対してした支給は、全員に対してしたものとみなす。
(給付金の支給手続)
第四条 給付金の支給の請求をするには、当該請求をする者又はその被相続人が特定C型肝炎ウ イルス感染者であること及びその者が第六条第一号、第二号又は第三号に該当する者であることを証する確定判決又は和解、調停その他確定判決と同一の効力を有するもの(当該 訴え等の相手方に国が含まれているものに限る。)の正本又は謄本を提出しなければならない。
(給付金の請求期限)
第五条 給付金の支給の請求は、次に掲げる日のいずれか遅い日までに行わなければならな い。
一 この法律の施行の日から起算して五年を経過する日(次号において「経過日」とい う。)
二 特定フィブリノゲン製剤又は特定血液凝固第\因子製剤の投与を受けたことによってC型 肝炎ウイルスに感染したことを原因とする損害賠償についての訴えの提起又は和解若しくは調停の申立て(その相手方に国が含まれているものに限る。)を経過日以前にした場合 における当該損害賠償についての判決が確定した日又は和解若しくは調停が成立した日から起算して一月を経過する日
(給付金の額)
第六条 給付金の額は、次の各号に掲げる特定C型肝炎ウイルス感染者の区分に応じ、当該各号 に定める額とする。
一 慢性C型肝炎が進行して、肝硬変若しくは肝がんに罹患し、又は死亡した者 四千万 円
二 慢性C型肝炎に罹患した者 二千万円
三 前二号に掲げる者以外の者 千二百万円
(追加給付金の支給)
第七条 機構は、給付金の支給を受けた特定C型肝炎ウイルス感染者であって、身体的状況が悪 化したため、当該給付金の支給を受けた日から起算して十年以内に新たに前条第一号又は第二号に該当するに至ったものに対し、その者の請求に基づき、医療、健康管理等に係る 経済的負担を含む健康被害の救済を図るためのものとして追加給付金を支給する。
2 第三条第二項及び第三項の規定は、追加給付金の支給について準用する。
(追加給付金の支給手続)
第八条 追加給付金の支給の請求をするには、特定C型肝炎ウイルス感染者の身体的状況が悪化 したため新たに第六条第一号又は第二号に該当するに至ったことを証明する医師の診断書を提出しなければならない。
(追加給付金の請求期限)
第九条 追加給付金の支給の請求は、特定C型肝炎ウイルス感染者の身体的状況が悪化したため 新たに第六条第一号又は第二号に該当するに至ったことを知った日から起算して三年以内に行わなければならない。
(追加給付金の額)
第十条 追加給付金の額は、特定C型肝炎ウイルス感染者が新たに該当するに至った第六条第一 号又は第二号の区分に応じ、当該各号に定める額から第三条第一項の規定により支給された給付金の額(既に追加給付金が支給された場合にあっては、同項の規定により支給され た給付金の額と第七条第一項の規定により支給された追加給付金の額の合計額)を控除した額とする。
(損害賠償がされた場合等の調整)
第十一条 給付金又は追加給付金(以下「給付金等」という。)の支給を受ける権利を有する者 に対し、同一の事由について、国又は製造業者等(特定フィブリノゲン製剤又は特定血液凝固第\因子製剤について昭和五十四年改正前の薬事法第十四条第一項(昭和五十四年改 正前の薬事法第二十三条において準用する場合を含む。)若しくは平成五年改正前の薬事法第十四条第一項(平成五年改正前の薬事法第二十三条において準用する場合を含む。) の規定による承認を受けた者又はその者の業務を承継した者をいう。以下同じ。)により損害のてん補がされた場合においては、機構は、その価額の限度において給付金等を支給 する義務を免れる。
2 国又は製造業者等が国家賠償法(昭和二十二年法律第百二十五号)、民法(明治二十九年法 律第八十九号)その他の法律による損害賠償の責任を負う場合において、機構がこの法律による給付金等を支給したときは、同一の事由については、国又は製造業者等は、その価 額の限度においてその損害賠償の責任を免れる。
(非課税)
第十二条 租税その他の公課は、給付金等を標準として、課することができない。
(不正利得の徴収)
第十三条 偽りその他不正の手段により給付金等の支給を受けた者があるときは、機構は、国税 徴収の例により、その者から、その支給を受けた給付金等の額に相当する金額の全部又は一部を徴収することができる。
2 前項の規定による徴収金の先取特権の順位は、国税及び地方税に次ぐものとする。
(特定C型肝炎ウイルス感染者救済基金)
第十四条 機構は、給付金等の支給及びこれに附帯する業務(以下「給付金支給等業務」とい う。)に要する費用(給付金支給等業務の執行に要する費用を含む。以下同じ。)に充てるため、特定C型肝炎ウイルス感染者救済基金(次項において「基金」という。)を設け る。
2 基金は、次条の規定により交付された資金及び第十七条第二項の規定により納付された拠出 金をもって充てるものとする。
(交付金)
第十五条 政府は、予算の範囲内において、機構に対し、給付金支給等業務に要する費用に充て るための資金を交付するものとする。
(厚生労働大臣と製造業者等との協議)
第十六条 厚生労働大臣は、給付金支給等業務に要する費用の負担の方法及び割合について、製 造業者等と協議の上、その同意を得て、あらかじめ基準を定めるものとする。
(拠出金)
第十七条 機構は、給付金等を支給したときは、給付金支給等業務に要する費用に充てるため、 当該支給について特定C型肝炎ウイルス感染者が投与を受けたものとされた特定フィブリノゲン製剤又は特定血液凝固第\因子製剤に係る製造業者等に、前条の基準に基づき、拠 出金の拠出を求めるものとする。
2 製造業者等は、前項の規定により拠出金の拠出を求められたときは、機構に対し拠出金を納 付するものとする。
(厚生労働省令への委任)
第十八条 この法律に定めるもののほか、給付金等の支給の請求の手続その他この法律を実施す るため必要な事項は、厚生労働省令で定める。
附 則
(施行期日)
第一条 この法律は、公布の日から施行する。
(特定フィブリノゲン製剤等の納入医療機関の公表等)
第二条 政府は、特定フィブリノゲン製剤又は特定血液凝固第\因子製剤が納入された医療機関 の名称等を公表すること等により、医療機関による当該製剤の投与を受けた者の確認を促進し、当該製剤の投与を受けた者に肝炎ウイルス検査を受けることを勧奨するよう努める とともに、給付金等の請求手続、請求期限等のこの法律の内容について国民に周知を図るものとする。
(給付金等の請求期限の検討)
第三条 給付金等の請求期限については、この法律の施行後における給付金等の支給の請求の状 況を勘案し、必要に応じ、検討が加えられるものとする。
(C型肝炎ウイルスの感染被害者に対する支援等)
第四条 政府は、C型肝炎ウイルスの感染被害者が安心して暮らせるよう、肝炎医療の提供体制 の整備、肝炎医療に係る研究の推進等必要な措置を講ずるよう努めるものとする。
(独立行政法人医薬品医療機器総合機構法の一部改正)
第五条 独立行政法人医薬品医療機器総合機構法(平成十四年法律第百九十二号)の一部を次の ように改正する。
附則第十八条及び第十九条を次のように改める。
(給付金等の支給の業務)
第十八条 機構は、第十五条並びに附則第十五条第一項及び前条第一項に規定する業務のほ か、当分の間、次の業務を行う。
一 特定フィブリノゲン製剤及び特定血液凝固第\因子製剤によるC型肝炎感染被害者を救 済するための給付金の支給に関する特別措置法(平成二十年法律第二号。以下「C型肝炎感染被害者救済法」という。)第三条第一項の給付金の支給を行うこと。
二 C型肝炎感染被害者救済法第七条第一項の追加給付金の支給を行うこと。
三 C型肝炎感染被害者救済法第十七条第二項の拠出金の受入れを行うこと。
四 前三号に掲げる業務に附帯する業務を行うこと。
2 機構は、前項の業務については、特別の勘定を設けて経理しなければならない。
3 第一項の業務は、第四十五条第二号の規定の適用については、第十五条第一項第一号に掲 げる業務とみなす。
(特定C型肝炎ウイルス感染者救済基金)
第十九条 機構は、前条第一項の業務に要する費用(その執行に要する費用を含む。)に充て るために特定C型肝炎ウイルス感染者救済基金を設け、C型肝炎感染被害者救済法第十四条第二項の規定において充てるものとされる金額をもってこれに充てるものとす る。
2 機構は、前条第一項の業務を廃止する場合において、前項の基金に残余があるときは、当 該残余の額を国庫に納付しなければならない。
(厚生労働・内閣総理大臣署名)