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法律第九十一号(平二三・八・五)

  ◎平成二十三年原子力事故による被害に係る緊急措置に関する法律

 (趣旨)

第一条 この法律は、平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電施設の事故(以下「平成二十三年原子力事故」という。)による災害が大規模かつ長期間にわたる未曽有のものであり、これによる被害を受けた者を早期に救済する必要があること、これらの者に対する特定原子力損害の賠償の支払に時間を要すること等の特別の事情があることに鑑み、当該被害に係る対策に関し国が果たすべき役割を踏まえ、当該被害に係る応急の対策に関する緊急の措置として、平成二十三年原子力事故による損害を填補するための国による仮払金の迅速かつ適正な支払及び原子力被害応急対策基金を設ける地方公共団体に対する補助に関し必要な事項を定めるものとする。

 (定義)

第二条 この法律において「特定原子力損害」とは、平成二十三年原子力事故による損害であって原子力事業者(原子力損害の賠償に関する法律(昭和三十六年法律第百四十七号)第二条第三項に規定する原子力事業者をいう。以下同じ。)が同法第三条第一項の規定により賠償の責めに任ずべきものをいう。

 (仮払金の支払)

第三条 国は、この法律の定めるところにより、特定原子力損害であって政令で定めるものを受けた者に対し、当該特定原子力損害を填補するためのものとして、仮払金を支払う。

2 前項の規定に基づき国が行う仮払金の支払は、特定原子力損害を受けた者の早期の救済のために迅速なものであり、かつ、国民負担の観点から適正なものでなければならない。

 (仮払金の額)

第四条 仮払金の額は、その者が受けた前条第一項に規定する特定原子力損害につき、当該者が提出した政令で定める資料に基づき、政令で定める簡易な方法により算定した当該特定原子力損害の概算額に十分の五を下らない政令で定める割合を乗じて得た額とする。ただし、当該者が当該資料を提出することが困難であると認められるときは、政令で定めるところにより、当該者が居住する地域又は事業を営む地域、当該特定原子力損害の種類等の事情に基づいて推計した当該特定原子力損害の額に当該割合を乗じて得た額とする。

2 前条第一項及び前項の政令は、原子力損害賠償紛争審査会が定める特定原子力損害の賠償に係る原子力損害の賠償に関する法律第十八条第二項第二号の指針に定められた事項に基づき、かつ、特定原子力損害を受けた者の早期の救済に資するものとなるように定めるものとする。

 (仮払金の支払の請求)

第五条 仮払金の支払を受けようとする者は、政令で定めるところにより、主務大臣にこれを請求しなければならない。

2 仮払金の支払を受ける権利を有する者について相続、合併又は分割(その者が受けた第三条第一項に規定する特定原子力損害に係る事業を承継させるものに限る。)があった場合において、その者が死亡、解散又は分割の前に仮払金の支払を請求していなかったときは、その者の相続人、合併後存続する法人若しくは合併により設立された法人又は分割により当該事業を承継した法人は、自己の名で、その者の仮払金の支払を請求することができる。

3 前項の規定により仮払金の支払を受けることができる同順位の相続人が二人以上あるときは、その一人がした請求は、全員のためその全額につきしたものとみなし、その一人に対してした支払は、全員に対してしたものとみなす。

 (書類の作成等についての援助)

第六条 地方公共団体及び農業協同組合、漁業協同組合、商工会議所、商工会その他の事業者を直接又は間接の構成員とする団体は、仮払金の支払の請求を行う者の便宜を図るため、当該請求を行うに当たって必要となる書類の作成等について、必要な援助を行うよう努めるものとする。

 (資料の提供その他の協力等の求め)

第七条 主務大臣は、仮払金の支払を迅速かつ適正に行うため必要があると認めるときは、地方公共団体、当該原子力事業者その他公私の団体に対し、資料の提供その他必要な協力又は確認を求めることができる。

 (事務の処理等)

第八条 仮払金の支払に関する事務の一部は、政令で定めるところにより、都道府県知事が行うこととすることができる。

2 前項の政令を定めるに当たっては、都道府県知事に過重な負担を課することのないよう十分に配慮するものとする。

3 主務大臣又は第一項の規定により仮払金の支払に関する事務の一部を行う都道府県知事は、政令で定めるところにより、仮払金の支払に関する事務の一部(会計法(昭和二十二年法律第三十五号)に基づく支出の決定及び交付の事務を除く。)を、その事務を行うのにふさわしい者として政令で定める者に委託することができる。

4 主務大臣又は第一項の規定により仮払金の支払に関する事務の一部を行う都道府県知事は、前項に規定する政令で定める者に対し、仮払金の支払に必要となる資金を交付することができる。

5 前項の規定により資金の交付を受けた者は、会計法第十七条の規定により資金の交付を受けた職員とみなし、同法、予算執行職員等の責任に関する法律(昭和二十五年法律第百七十二号)その他関係法令の適用を受けるものとする。この場合において、必要な読替えは、政令で定める。

6 農業協同組合、漁業協同組合その他の政令で定める団体は、他の法律の規定にかかわらず、第三項の規定による事務の委託を受け、当該事務を行うことができる。

7 第三項の規定による事務の委託を受けた者若しくはその役員若しくは職員又はこれらの者であった者は、正当な理由なしに、その委託を受けた事務に関して知り得た秘密を漏らしてはならない。

8 都道府県知事が第一項の規定により仮払金の支払に関する事務の一部を行い、又は第三項の規定によりその委託を行う場合においては、国は、予算の範囲内で、政令で定めるところにより、当該事務の処理及び委託に要する費用の全部を負担する。

9 前項に規定する場合においては、国は、同項に定めるもののほか、当該都道府県に対し、その円滑な実施を図るために必要な支援その他の措置を講ずるものとする。

10 関係行政機関の長は、仮払金の支払に関し、主務大臣、第一項の規定により仮払金の支払に関する事務の一部を行う都道府県知事又は第三項の規定による事務の委託を受けた者に協力するものとする。

 (損害賠償との関係)

第九条 第三条第一項に規定する特定原子力損害を受けた者又は第五条第二項の規定により自己の名で仮払金の支払を請求することができる者が当該特定原子力損害の賠償(これに相当する金銭の支払として政令で定めるものを含む。)を受けたときは、その価額の限度において、仮払金を支払わない。

2 国は、仮払金を支払ったときは、その額の限度において、当該仮払金の支払を受けた者が有する特定原子力損害の賠償請求権を取得する。

3 前項の場合において、国は、速やかに当該損害賠償請求権を行使するものとする。

 (仮払金の返還)

第十条 仮払金の支払を受けた者は、その者に係る特定原子力損害の賠償の額が確定した場合において、その額が仮払金の額に満たないときは、その差額を返還しなければならない。

 (不正利得の徴収)

第十一条 偽りその他不正の手段により仮払金の支払を受けた者があるときは、主務大臣は、国税徴収の例により、その者から、その支払を受けた仮払金の額に相当する金額の全部又は一部を徴収することができる。

2 前項の規定による徴収金の先取特権の順位は、国税及び地方税に次ぐものとする。

 (仮払金の支払を受ける権利の保護)

第十二条 仮払金の支払を受ける権利は、譲り渡し、担保に供し、又は差し押さえることができない。

 (税制上の措置)

第十三条 国及び地方公共団体は、特定原子力損害を受けた者の置かれている状況に配慮し、その支払を受けた仮払金について必要な税制上の措置を講じなければならない。

 (原子力被害応急対策基金)

第十四条 地方公共団体が、平成二十三年原子力事故による被害について原子力災害対策特別措置法(平成十一年法律第百五十六号)又は関係法令の規定に基づいて地方公共団体が行う応急の対策に関する事業及び特別会計に関する法律(平成十九年法律第二十三号)第八十五条第四項の財政上の措置の対象となり得る地方公共団体の事業(その区域内の経済社会若しくは住民の生活への平成二十三年原子力事故による影響の防止若しくは緩和又はその影響からの回復を図るために行う応急の対策に関する事業に限る。)に要する経費の全部又は一部を支弁するため、地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第二百四十一条の基金として、原子力被害応急対策基金を設ける場合には、国は、予算の範囲内において、その財源に充てるために必要な資金の全部又は一部を当該地方公共団体に対して補助することができる。

2 前項の規定は、地方公共団体がその経費を原子力被害応急対策基金から支弁して特定原子力損害に係る措置を講じた場合において、国が当該原子力事業者に対して、同項の規定により補助した額に相当する額の限度において求償することを妨げるものではない。

3 国は、第一項の規定の運用に当たっては、関係地方公共団体の意見に配慮するものとする。

 (主務大臣)

第十五条 この法律における主務大臣は、文部科学大臣及び特定原子力損害を受けた事業者の事業を所管する大臣その他の政令で定める大臣とする。

 (政令への委任)

第十六条 この法律に定めるもののほか、この法律の実施のための手続その他この法律の施行に関し必要な事項は、政令で定める。

 (罰則)

第十七条 第八条第七項の規定に違反した者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。

   附 則

 (施行期日)

1 この法律は、公布の日から起算して四十五日を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。

 (適用)

2 第三条第一項の規定は、同項に規定する特定原子力損害を受けた者であってこの法律の施行前に死亡し、又は合併若しくは分割の対象となったものについても適用する。

 (財源の確保)

3 国は、仮払金の支払及び原子力被害応急対策基金を設ける地方公共団体に対する補助に要する費用の財源の確保に資するため、国の資産、剰余金及び積立金の活用、歳出の見直しその他の措置に努めるものとする。

 (検討)

4 国は、この法律の施行後おおむね二年以内に、平成二十三年原子力事故に係る原子力事業者による損害賠償の支払の状況、この法律の施行の状況等を踏まえ、この法律の規定について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。

5 原子力損害の賠償に関する制度については、原子力損害を受けた者の早期の救済に資するものとなるよう、速やかに検討が加えられ、その結果に基づいて必要な措置が講ぜられるものとする。

(財務・文部科学・内閣総理大臣署名) 

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