衆議院

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第31号 平成29年6月2日(金曜日)

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平成二十九年六月二日(金曜日)

    ―――――――――――――

 議事日程 第二十五号

  平成二十九年六月二日

    午後一時開議

 第一 電子委任状の普及の促進に関する法律案(内閣提出)

 第二 天皇の退位等に関する皇室典範特例法案(内閣提出)

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 日程第二 天皇の退位等に関する皇室典範特例法案(内閣提出)

 日程第一 電子委任状の普及の促進に関する法律案(内閣提出)

 刑法の一部を改正する法律案(内閣提出)の趣旨説明及び質疑


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    午後一時二分開議

議長(大島理森君) これより会議を開きます。

     ――――◇―――――

議長(大島理森君) お諮りいたします。

 日程第一は、これを後回しとするに御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

議長(大島理森君) 御異議なしと認めます。よって、日程第一は後回しといたします。

     ――――◇―――――

 日程第二 天皇の退位等に関する皇室典範特例法案(内閣提出)

議長(大島理森君) 日程第二、天皇の退位等に関する皇室典範特例法案を議題といたします。

 委員長の報告を求めます。議院運営委員長佐藤勉君。

    ―――――――――――――

 天皇の退位等に関する皇室典範特例法案及び同報告書

    〔本号末尾に掲載〕

    ―――――――――――――

    〔佐藤勉君登壇〕

佐藤勉君 ただいま議題となりました法律案につきまして、議院運営委員会における審査の経過及び結果を御報告申し上げます。

 本案は、皇室典範第四条の規定の特例として、天皇陛下の退位及び皇嗣の即位を実現するとともに、天皇陛下の退位後の地位その他の退位に伴い必要となる事項について所要の措置を講ずるものであります。

 本案は、去る五月三十一日本委員会に付託され、昨日、菅内閣官房長官から提案理由の説明を聴取し、質疑を行いました。

 質疑終局後、日本共産党から、この法律第一条の趣旨規定について、天皇陛下の象徴としての公的な御活動に言及した部分を削除すること等を内容とする修正案が提出され、趣旨の説明を聴取いたしました。

 次いで、各会派より発言があり、採決いたしましたところ、修正案は賛成少数をもって否決され、本案は全会一致をもって原案のとおり可決すべきものと決しました。

 なお、本案に対し附帯決議が付されました。

 以上、御報告申し上げます。(拍手)

    ―――――――――――――

議長(大島理森君) 採決いたします。

 本案の委員長の報告は可決であります。本案を委員長報告のとおり決するに賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

議長(大島理森君) 起立多数。よって、本案は委員長報告のとおり可決いたしました。

     ――――◇―――――

 日程第一 電子委任状の普及の促進に関する法律案(内閣提出)

議長(大島理森君) 先ほど後回しといたしました日程第一、電子委任状の普及の促進に関する法律案を議題といたします。

 委員長の報告を求めます。総務委員長竹内譲君。

    ―――――――――――――

 電子委任状の普及の促進に関する法律案及び同報告書

    〔本号末尾に掲載〕

    ―――――――――――――

    〔竹内譲君登壇〕

竹内譲君 ただいま議題となりました法律案につきまして、総務委員会における審査の経過及び結果を御報告申し上げます。

 本案は、電子契約の推進を通じて電子商取引その他の高度情報通信ネットワークを利用した経済活動の促進を図るため、電子委任状の普及を促進するための基本的な指針について定めるとともに、電子委任状取扱業務の認定の制度を設ける等の措置を講じようとするものであります。

 本案は、去る五月二十九日本委員会に付託され、三十日高市総務大臣から提案理由の説明を聴取し、昨日、質疑を行い、採決いたしましたところ、本案は全会一致をもって原案のとおり可決すべきものと決しました。

 以上、御報告申し上げます。(拍手)

    ―――――――――――――

議長(大島理森君) 採決いたします。

 本案の委員長の報告は可決であります。本案を委員長報告のとおり決するに賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

議長(大島理森君) 起立多数。よって、本案は委員長報告のとおり可決いたしました。

     ――――◇―――――

 刑法の一部を改正する法律案(内閣提出)の趣旨説明

議長(大島理森君) この際、内閣提出、刑法の一部を改正する法律案について、趣旨の説明を求めます。法務大臣金田勝年君。

    〔国務大臣金田勝年君登壇〕

国務大臣(金田勝年君) 刑法の一部を改正する法律案につきまして、その趣旨を御説明いたします。

 性犯罪は、被害者の心身に多大な苦痛を与え続けるばかりか、その人格や尊厳を著しく侵害する悪質重大な犯罪でありますことから、厳正な対処が求められておりますところ、明治四十年の現行刑法制定以来、基本的にその構成要件が維持されてまいりました現行の罰則では、性交と同等の身体的接触を伴う強制わいせつ事案、親権者等による性交等事案などについて、適正な処罰が困難な場合があるとの指摘がなされております。

 また、現行法に対しては、強姦罪の悪質性、重大性に鑑みると、その法定刑の下限が低きに失して国民意識と合致しない、あるいは、性犯罪が親告罪であることにより、かえって被害者に精神的な負担を生じさせていることが少なくないなどのさまざまな御意見が見られるところであります。

 そこで、この法律案は、性犯罪の実情等に鑑み、事案の実態に即した対処をするため、刑法を改正し、所要の法整備を行おうとするものであります。

 この法律案の要点を申し上げます。

 第一は、現行の強姦罪は、強制わいせつ罪の加重類型と考えられておりますところ、その構成要件を見直し、行為者及び被害者の性別を問わず、暴行または脅迫を用いて肛門性交または口腔性交をする行為等を現行の強姦と同様の重い類型の犯罪として処罰することとした上で、その法定刑の下限を懲役三年から懲役五年に引き上げるとともに、被害者を死傷させた場合の法定刑の下限も懲役五年から懲役六年に引き上げるものであります。また、これにあわせて、強姦罪の罪名を強制性交等罪とするものであります。

 第二は、監護者わいせつ罪及び監護者性交等罪の新設であります。すなわち、十八歳未満の者に対し、その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じてわいせつな行為または性交等をした者に対する罰則を新設することとしております。

 第三は、強姦罪等を親告罪としていた規定を削除して、これらの罪を非親告罪とするものであります。

 第四は、同一の機会に強盗の罪と強制性交等の罪を犯した場合について、現行の強盗強姦罪と同様の法定刑で処罰をすることとするものであります。

 このほか、所要の規定の整備を行うこととしております。

 以上が、この法律案の趣旨であります。(拍手)

     ――――◇―――――

 刑法の一部を改正する法律案(内閣提出)の趣旨説明に対する質疑

議長(大島理森君) ただいまの趣旨の説明に対して質疑の通告があります。順次これを許します。井出庸生君。

    〔井出庸生君登壇〕

井出庸生君 民進党、信州長野の井出庸生です。

 ただいま議題となりました性犯罪規定について刑法の一部を改正する法律案について、会派を代表して質問させていただきます。(拍手)

 冒頭、先日の共謀罪の強行採決に断固抗議をいたします。

 性犯罪の罰則等については、平成十六年、第百六十一回国会で、衆参両院の法務委員会の附帯決議の中で、性的自由の侵害に係る罰則のあり方について、さらなる検討が求められました。また、平成二十二年十二月には、第三次男女共同参画基本計画が閣議決定をされ、強姦罪の非親告罪化、性交同意年齢の引き上げ、構成要件の見直し等を検討することとされました。

 さらに、本法案が法制審で議論されていた昨年から、性暴力の被害当事者の方々が、当事者の声を聞いてほしいと今日まで活動をされてきました。長い活動の御労苦に深く感謝を申し上げます。

 本法案の議論は、苦しみの中から声を上げられた方、さらに、声を上げることができなかった多くの方々、御家族、被害者に寄り添い、支援に当たってこられた関係者の方々の努力の結実です。その本法案審議よりも共謀罪を先行させた政府・与党に強く抗議をするとともに、私は、当事者の声を受けとめ、本法案に一層の改善を求めてまいります。

 フランスの学者ジョルジュ・ヴィガレロの書いた「強姦の歴史」という本には、画期的と評される一九七八年の強姦裁判、エクスの裁判に関する言葉として、被害者が、強姦、それは破壊でした、私たちそのものを破壊することでしたと、被害者の弁護人は、強姦の日から、彼女たちは内面に入り込んで離れない死を抱えて生きなければならないのですと、それぞれ述べていた旨書かれています。強姦が魂の殺人と言われるゆえんです。

 強姦罪は、制定当時、家父長制度を前提とし、夫に従属する妻の保護を目的としたと言われています。戦後、この価値観は否定され、判例、通説では、強姦罪の保護法益は性的自由の侵害とされています。

 今回の法改正で、強姦罪の構成要件から「女子を姦淫した」との規定が削除され、被害者の性別を問わないこととした点や、強姦罪の処罰対象となる行為を拡張した点は、実態に即したものと言えます。しかし、被害者が性交と同程度の深刻な被害を負ったとしても、男性の性器ではない、指や異物の膣、肛門への挿入行為は、強姦罪改め強制性交等罪になっても規定はされませんでした。

 そこで、強制性交等罪の保護法益は何か、伺います。

 本法案の保護法益は、性的自由のみにとどまるのか、それとも、先ほど提案理由説明で言及をされた、被害者の人格や尊厳、心身を守ることも保護法益とするのか、端的に答弁を求めます。

 被害者の立場に立てば、指や異物を膣、肛門へ挿入される行為は、性的な侵襲があったという点で、深い傷を負う強姦と変わりません。被害者の人格や尊厳、心身を守ることも保護法益とするのであれば、これらの行為も強制性交等罪とするべきとの立論も十分考えられますが、見解を求めます。

 本改正案においても、強制性交等罪は、暴行または脅迫が要件となっています。強姦は不同意だけでは成立をせず、被害者の抗拒を著しく困難ならしめる程度の暴行または脅迫を用いることが要件とされる、これまでの考え方が維持されてきました。

 十四歳の女の子が恐怖の余り抵抗ができなかったことをもって、暴行、脅迫要件を満たさず、強姦罪が成立しないとの判例があります。恐怖で身がすくむ、殺されるかもしれないと思って抵抗できない、これは被害者に起こる普通の反応です。恐怖の余りフリーズをする、あるいは解離症状が起きる、こうした反応と、強姦罪の構成要件に暴行、脅迫要件を課すことの合理性についてどのようにお考えですか。

 現行刑法は、百七十七条で強姦罪、百七十八条第二項で準強姦罪を規定しています。強姦と準強姦の違いは構成要件です。強姦は暴行、脅迫、準強姦は心神喪失もしくは抗拒不能に乗じる、またはそうした状態にさせることが構成要件です。

 しかし、強姦と準強姦の法定刑は同じです。強姦も準強姦も、ともに強姦です。強姦と準強姦を一つにして、暴行、脅迫を抗拒不能、心神喪失に陥らす行為の例示とし、強制性交等罪、準強制性交等罪の新たな構成要件として、抗拒不能を中心に一本化した規定をすることは十分検討に値すると提案をしますが、見解を求めます。

 十三歳と規定をされている性交同意年齢の引き上げについては、本法改正には盛り込まれておりません。問題としたいのは、同意とは何かということです。

 臨床心理士の藤岡淳子さんの本「性暴力の理解と治療教育」には、真の同意に必要な六つの要件が挙げられています。

 一つ、同意とは、年齢、成熟、発達レベル、経験に基づいて、指示された何らかの性行為が何であるかを理解していること。二つ、提示されたことへの反応について社会的な標準を知っていること。三つ、生じ得る結果や他の選択肢を認識していること。四つ、同意するのもしないのも同様に尊重されるという前提があること。五つ、自発的決定であること。六つ、精神的、知的な能力があること。まとめますと、同意する内容を理解し、対等性があり、強制性がないという条件がそろって初めて真の同意と言えます。

 性交同意年齢は、女性の身体的成長時期などから十三歳と定められたと聞いていますが、十三歳が、さきの六要件を満たす同意が可能と考えるかどうか、見解を求めます。

 同意に関連して、性教育は十分と言えるのか。私は、小中高校で、それぞれで広く使用されている教科書の性教育について文部科学省から説明を受けました。教科書には、主に男女の身体的特徴の観点からの記載があります。また、中学、高校では、お互いの理解、尊重についても多少の記述があります。

 性交年齢が低年齢化していると言われる中、本法案の改正を機に、同意や相手を尊重することなど、男女間の心の部分について、性教育で一層取り組むよう通達を出すことが、性犯罪、性暴力、性非行を少しでも減らすことにつながると考えます。通達を御検討いただけますでしょうか。

 本改正案では、監護者わいせつ罪及び監護者性交等罪が新設されます。本人からの被害申告や暴行、脅迫要件を満たさなくても、現に監護する者による性的虐待に対して刑事罰を問うことができます。

 現に監護する者の典型例として、実親や養親等が挙げられるとのことですが、先ほどの真の同意の観点から考えますと、子供は生活の全てを親に依存する存在です。対等性はなく、強制性があり、それらの行為について真の同意は考えられない関係です。本改正案には「影響力があることに乗じて」と規定がありますが、内縁も含めて、親であれば、その立場をもって影響力があることに乗じてと解釈をし、他の要素を必要としないと考えてもよろしいでしょうか。

 さらに、教師による、被害生徒等の意思に反した性交等も、逆らうこと自体が被害者の生活基盤を失うおそれがある場合には、この規定が適用される可能性はありますか。

 幼いころの近親者による性的虐待は、生涯にわたり大きな影響を与えます。現行法では、強姦罪の公訴時効期間は十年、強制わいせつ罪は七年ですが、未成年への強姦行為等については、成人した後に被害を認識できるようになる可能性もあります。時効を延ばすことについては、証拠の散逸等から否定的な考えもありますが、児童ポルノ被害の深刻化などに鑑みれば、被害者が成人もしくは自立してからでも被害申告ができるように、未成年者を対象に、時効を一定年数停止することも重要な検討事項と考えますが、見解を伺います。

 全く根拠のない、強姦神話と呼ばれるものがあります。例えば、強姦の加害者のほとんどは見知らぬ人であるという話です。しかし、平成二十六年の強姦の検挙件数に占める被害者と面識がある容疑者の割合は五〇・九%となっています。

 先月二十九日、東京霞が関の司法記者クラブで一人の女性が記者会見をしました。報道によりますと、女性は知り合いの著名なジャーナリストから性暴力を受け、警察が準強姦容疑で捜査をしたものの不起訴となったため、不起訴処分を不服として検察審査会へ審査を申し立てたということです。

 この事件を最初に提起した週刊新潮によると、著名なジャーナリストには準強姦容疑で逮捕状が出たものの逮捕に至らず、警視庁の当時の刑事部長が、私が決裁した、自分として判断した覚えがあるなどと週刊誌の直接取材に答えています。

 管轄の警察署を超えて警視庁幹部が判断をすることには元警察関係者からも疑問の声が上がっています。不起訴となっているこの事件は、警視庁の刑事部長が判断を下す特別な捜査本部体制が最初からしかれていたのでしょうか。国家公安委員長に答弁を求めます。

 検察審査会への審査の申し立ては、公正な捜査を尽くしてほしいという願いにほかなりません。

 被害者にとって、性暴力が犯罪であるかどうかは、被害者の回復に大きな影響を与えると言われています。有罪になれば、自分が悪いのではなくて加害者に責任があると、より明確に思うことができ、また、不十分ながらも公的サポートを受けることができます。刑事や検察官が頑張っている姿に力をもらえると、性暴力と刑法を考える当事者の会代表山本潤さんは著書の中でこのように述べています。

 会見を開いた女性には、励ましの声がある一方、会見時の服装など、事件と無関係の批判も見られます。性暴力や性犯罪の被害者への支援は、社会を挙げて取り組むべきものです。

 国家公安委員長には、この事件について、捜査のいきさつを検証し、説明する責任がございます。個別の案件にはコメントを控えるという答弁では、これまでの捜査の公正さを証明することはできません。国家公安委員長に、事実関係の確認と、捜査のいきさつを検証する意思はあるか、答弁を求めます。

 本法案では、強姦罪等が非親告罪となりました。被害者のプライバシーをどのように守るのか、答弁を求めます。

 また、幼い子供の性犯罪被害、虐待事案の際に、子供の負担にならないようにしつつ、正確な供述を得ていくための司法面接の導入の必要性について見解を伺います。

 性犯罪には、厳正な処罰と被害者への適切な支援が必要です。被害者支援のためのワンストップ支援センター設置を強力に推進する法案を、昨年、五野党で共同提案いたしました。本法案とともに、この性暴力被害者支援法案もセットで成立をさせていただき、両輪で被害者を支えるべきと考えますが、見解を伺います。

 性暴力被害の当事者として、多くの困難を乗り越えてこられ、また被害者支援にも取り組んできた山本潤さんは、被害者が認められていない社会の実態について、次のように述べております。彼らは知らないだけなのだ、そのような恐怖を感じる世界があることを想像もできないだけなのだと。

 この言葉と真摯に向き合って、性暴力、性犯罪が少しでもなくなるよう、本法案にとどまらず、教育、被害者支援など、多岐にわたって論点を深めてまいります。

 以上で質問を終わります。(拍手)

    〔国務大臣金田勝年君登壇〕

国務大臣(金田勝年君) 井出庸生議員にお答えを申し上げます。

 まず、強制性交等罪の保護法益についてお尋ねがありました。

 強姦罪の保護法益については、一般に、性的自由または性的自己決定権と解されていると承知をしており、強制性交等罪の保護法益についても同様と考えております。

 強制性交等罪などの性犯罪は、被害者の人格や尊厳を著しく侵害するものであると認識をしております。もっとも、刑法上の罪の保護法益は、一定程度具体化された利益として把握されていると考えられます。そして、被害者の人格や尊厳を侵す犯罪は性犯罪に限られないことからも、人格や尊厳を性犯罪の保護法益とするのは抽象的に過ぎると考えられます。

 次に、強制性交等罪の処罰対象となる行為の範囲についてお尋ねがありました。

 ただいま答弁しましたように、強制性交等罪の保護法益は、性的自由または性的自己決定権であると考えております。

 膣や肛門への異物等の挿入行為については、異物にもさまざまなものがあり、その被害の重大性が一律に性交等と同等とまでは言いがたいことから、強制性交等罪の処罰対象とはしておりません。

 なお、御指摘の行為に対しては、強制わいせつ罪等により、事案の実態に即した対処がなされるべきであると考えております。

 次に、暴行または脅迫を強制性交等罪の構成要件とすることの合理性についてお尋ねがありました。

 強姦罪における暴行または脅迫は、その保護法益である性的自由または性的自己決定権を侵害する行為であることを示す客観的な要件であり、その程度は、反抗を著しく困難ならしめる程度のものであれば足りると解されております。具体的には、被害者の年齢、精神状態のほか、行為の場所の状況、時間等諸般の事情を考慮し、御指摘のように被害者が恐怖感から抵抗できない場合においても、事案に即した適切な判断がなされているものと考えております。

 このような客観的な要件を定めていることには合理性があると考えております。

 次に、現行法の強姦と準強姦を一本化すべきではないかとのお尋ねがありました。

 現行法における強姦罪と準強姦罪との区別は適切に機能しているものと考えられますので、直ちに御指摘のような改正が必要とは考えておりません。

 次に、十三歳の者が性交に同意することが可能であるかについてお尋ねがありました。

 十三歳の者の心身の発育の程度には個人差があると思われますが、現行刑法は、十三歳未満の者については、暴行、脅迫がなくても、一律に、同意の有無を問わず強姦罪が成立するとしているものであります。

 この年齢を引き上げることは、若年者の性的自由を過度に制約する側面がある一方、未成熟な児童については児童福祉法や条例により保護が図られていることなどを考慮し、今回の改正案では、この年齢の引き上げを行うこととはしておりません。

 次に、監護者性交等罪における要件の認定に関するお尋ねがありました。

 監護者性交等罪は、行為者が十八歳未満の者を現に監護する者であることが要件であります。その上で、十八歳未満の者を現に監護する者であれば、一般に、その十八歳未満の者に対して、監護する者であることによる影響力があるものと考えており、その影響力を及ぼしている状態で性交等をすれば、監護者が影響力があることに乗じていると言えると考えております。

 次に、教師に対し監護者性交等罪が成立する場合があるかとのお尋ねがありました。

 監護者性交等罪の、現に監護する者に当たるか否かは、個別の事案における具体的な事実関係により判断されるものでありますが、一般的には、現に生活全般にわたって依存、被依存ないし保護、被保護の関係が認められ、かつ、その関係に継続性が認められることが必要であると考えております。

 その上で、一般論として申し上げれば、教師については、通常は、生徒との間に生活全般にわたる依存、被依存ないし保護、被保護の関係が認められないことから、現に監護する者に当たらない場合が多いものと考えられます。

 次に、未成年者を被害者とする性犯罪の公訴時効を停止する制度の導入についてお尋ねがありました。

 時の経過による証拠の散逸等に基づく法的安定の要請と犯人処罰の要請の調和という公訴時効制度の趣旨等に鑑みますと、未成年者を被害者とする性犯罪についてのみ公訴時効を停止する制度を設けることについては、慎重な検討を要するものと考えております。

 次に、性犯罪が非親告罪化された場合における犯罪被害者の保護のための方策についてお尋ねがありました。

 強姦罪等を非親告罪としても、事件の処分等に当たっては被害者の心情に適切な配慮がなされるものと考えており、また、公判等の刑事手続においては、ビデオリンク方式による証人尋問等の被害者のプライバシーを保護するための方策が活用されることとなると考えております。

 次に、司法面接の導入についてお尋ねがありました。

 現行法のもとでも、例えば、被害児童の事情聴取に際し、児童相談所、警察及び検察の三者において協議を実施し、いずれかが代表して、司法面接の手法を活用した聴取を行う取り組みを積極的に進めており、引き続きこのような取り組みを進めてまいります。

 最後に、性暴力被害者の支援に関する法律案をあわせて成立させるべきではないかとのお尋ねがありました。

 性暴力被害者支援に関する法律案は、議員提案により既に本院に提出されているものと承知をいたしております。国会における法案審議のあり方につきましては、国会においてお決めいただく事柄であり、法務大臣として申し上げるべきことではないと考えております。

 いずれにせよ、政府として、引き続き性犯罪被害者支援のための取り組みを進めることは重要であると考えております。(拍手)

    〔国務大臣松野博一君登壇〕

国務大臣(松野博一君) 井出議員から一つ御質問がございました。

 同意や相手を尊重することなど、男女間の心の部分について、性教育で一層取り組むよう通達を出すことを検討していただけないかとのお尋ねでございますが、性に関する適切な態度や行動の選択について理解するためには、学校における性に関する指導は重要であると認識をしています。

 これまで、文部科学省では、学校における性に関する指導が適切に実施されるよう、教職員を対象とした研修会の実施、各地域における学校保健に関する課題解決に向けた取り組みに対する財政支援等を行ってきたところです。

 文部科学省としては、引き続き、御提案の通達を発出することの検討も含め、学校における性に関する指導の充実に努めてまいります。(拍手)

    〔国務大臣松本純君登壇〕

国務大臣(松本純君) 警視庁において捜査した刑事告訴事件に関する捜査体制についてお尋ねがありました。

 まず、警察署が行っている捜査に関して、警察本部が適正捜査の観点から指導等を行うのは通常のことであり、お尋ねのような特別な捜査本部体制がなければ指導等ができないものではありません。

 特に、専門性の高い性犯罪の捜査に関しましては、その適正確保等のため、全ての都道府県の警察本部に専門の指導官が置かれ、平素から警察署の捜査幹部への指導等に当たっているところであります。

 次に、同告訴事件に関する事実関係の確認及び検証についてお尋ねがありました。

 お尋ねの事件の事実関係については、警視庁において、告訴を受理し、法と証拠に基づき必要な捜査を遂げた上で、関係書類及び証拠物を東京地方検察庁に送付したものであり、また、送付を受けた検察庁においても必要な捜査が行われたものと承知しています。

 警視庁において必要な捜査が尽くされ、また、検察庁で不起訴処分となっていることなども踏まえ、検証を行うことは考えておりません。(拍手)

    ―――――――――――――

議長(大島理森君) 國重徹君。

    〔國重徹君登壇〕

國重徹君 公明党の國重徹です。

 私は、公明党を代表し、ただいま議題となりました刑法の一部を改正する法律案について質問をいたします。(拍手)

 それまでの自分は死んでしまった。被害者のこのような声に象徴されるように、性犯罪は魂の殺人です。

 人間としての尊厳を踏みにじる暴挙の最たるもので、被害に遭ったときだけではなく、その後の被害者の人生に長きにわたって深い傷跡を残す卑劣かつ重大な犯罪です。

 今般の法改正は、制定から百十年が経過した刑法の性犯罪に関する規定を被害の実情に即したものとする極めて重要なものです。

 この改正の大きな後押しとなった力、それは、心身ともに筆舌に尽くしがたい苦痛を受けながらも、自分と同じような苦しみを味わう人を少しでも減らしたい、こういった思いで性犯罪被害の実態を訴え続けた被害者の方々の存在でした。

 この思いを胸に、以下、具体的な改正事項について質問をいたします。

 まず、本改正案では、強姦罪の構成要件を見直すとともに、その法定刑を引き上げています。

 現行刑法が制定された明治時代はいまだ男性中心の社会であり、その中で強姦罪は、被害者は女性のみ、行為は姦淫のみが処罰の対象とされていました。これはともすれば、家父長制度を前提とした、女性の貞操の保護をも念頭に置いた、社会的な性秩序を維持するためのものと受け取られることもありました。

 しかし、あくまで強姦罪の保護法益は性的自由や性的自己決定権であり、これは、全ての人の人格や尊厳に根差す重要な権利です。意に反する性行為によって人格や尊厳がじゅうりんされるのは、女性のみならず、男性や性的マイノリティーの方々であっても同じです。男性のレイプ被害についてのアメリカの調査によると、PTSDの発症率は女性の場合とほとんど変わらない、むしろ男性の方が高いという結果も出ています。

 今回の改正案では、被害者はその性別を問わず、性的マイノリティーの方々を含むあらゆる人を対象にしています。また、強姦罪の罪名を強制性交等罪に改め、処罰の対象となる行為を、膣性交に限らず、それに類する肛門性交や口腔性交にまで拡大し、その法定刑の下限を懲役三年から懲役五年に引き上げております。これらの改正は、性犯罪についての考え方そのものを変える意義あるものと受けとめています。

 そこで、金田法務大臣に、改めて、強姦罪の構成要件や法定刑を見直した趣旨について答弁を求めます。

 次に、暴行、脅迫要件に関して伺います。

 強制性交等罪が成立するための要件として、強姦罪と同じく、暴行または脅迫が必要とされております。

 この点、被害者の方々からは、抵抗できなかったがゆえに暴行、脅迫が認定されなかった、被害に直面した際に生じる生理的反応や心理状態が理解されていないなどといった意見があり、暴行、脅迫要件の撤廃を望む声が上がっております。

 他方で、暴行、脅迫の有無の認定については、実務上、周囲の状況、相手方との人間関係、被害者の年齢、事件に至るまでの経緯など、さまざまな要素を考慮して判断することとされており、被害者が抵抗できなかった場合でも、暴行、脅迫が認められる例もあります。このようなことに鑑みれば、まずは、暴行、脅迫をいかに的確に認定するか、ここがポイントになると考えます。

 そこで、被害者の方々の声を真摯に受けとめ、被害者の心理状態等に関する調査研究をより一層推進すること、そして、裁判官、検察官などに対し、これらの知見を踏まえた研修の充実を一層図っていくことが必要と考えます。金田法務大臣の見解を伺います。

 監護者わいせつ罪、監護者性交等罪に関して伺います。

 本改正案では、家庭内での性的虐待に厳正に対処すべく、全く新しい刑法上の罰則、具体的には、親などの監護者が、十八歳未満の子供に対し、その影響力に乗じてわいせつな行為や性交等を行った場合の罰則を新設しております。

 家庭における性的虐待は、より被害が潜在化、継続化する傾向にあり、最も安全であるはずの場所を奪われた子供たちは、性的な発達を含め、人間としての成長過程全体が大きくダメージを受けることになります。

 社会全体で子供への性的虐待をなくす努力がなされないのであれば、それは加害者を暗黙のうちに許容したのと同じことです。今般の監護者性交等罪などの創設は、子供に対する性的虐待が絶対に許されない犯罪であるという強いメッセージを社会に発することになります。

 金田法務大臣にお伺いします。

 強制性交等罪や強制わいせつ罪とは別に、監護者性交等罪などを創設した趣旨は何なのか。また、監護者性交等罪などのように被害者が子供である場合には、捜査の過程において、事情聴取の負担を軽減するなど、子供の特性を踏まえた特段の配慮が必要と考えますが、これに関する見解、取り組みについて答弁を求めます。

 性犯罪が親告罪であるがために、被害者は加害者の起訴、不起訴をみずから決めざるを得ないなどの精神的負担をこうむってきました。そこで、本改正案では、性犯罪を非親告罪化することとしております。

 もっとも、現行法で親告罪としている趣旨は、事件を公にしたくないという被害者の存在も考慮し、その意思を尊重する点にあります。

 そこで、非親告罪とされた後も、事件の処分や捜査、公判の各過程において、被害者のプライバシーや心情への配慮は十分になされる必要があると考えますが、この点に関する金田法務大臣の見解を伺います。

 性犯罪への対策については、これまで政府一体となって、第三次犯罪被害者等基本計画に基づいてさまざまな施策を講じてきました。実効的な対策を講じるためには被害の実態の把握が不可欠ですが、被害が顕在化しにくい性犯罪に関する実態調査をするに当たっては、より細やかな配慮が必要です。

 この点、例えば、内閣府では男女間における暴力に関する調査を実施してきたものの、従来の調査票では、女性に対してのみ、無理やり性交されたかどうかを質問するなど、不十分な点も見受けられます。

 そこで、今回の法改正を踏まえ、女性のみならず、男性や性的マイノリティーの方々を含めた性犯罪、性暴力被害の実態をより正確に把握すべく、調査対象や調査項目のさらなる充実を検討し、性犯罪の対策を一層強力に推進すべきと考えます。これに対する見解、決意について、男女共同参画を担当する加藤大臣、犯罪被害者施策を担当する松本国家公安委員長の答弁を求めます。

 結びに、本法案の審議を通じて、性犯罪被害の実態、被害者の痛みに対する理解が深まり、その支援の重要性が改めて認識されることを期待するとともに、全ての人の性が尊重し合える社会を築くため全力で邁進することを誓い、私の質問といたします。

 ありがとうございました。(拍手)

    〔国務大臣金田勝年君登壇〕

国務大臣(金田勝年君) 國重徹議員にお答えを申し上げます。

 まず、強姦罪の構成要件と法定刑の見直しの趣旨についてお尋ねがありました。

 強姦罪は、女子に対する姦淫、すなわち性交のみを対象としておりますが、肛門性交や口腔性交については、性交と同等の悪質性、重大性が認められると考えられること、性交等の被害によって身体的、精神的に重大な苦痛を受けることには性差がないと考えられることから、強制性交等罪には肛門性交、口腔性交も含むこととした上、行為者及び被害者の性別も問わないことといたしました。

 また、強姦罪の法定刑に対する近時のさまざまな御意見や量刑の実情等を踏まえ、強姦罪の法定刑の下限を懲役五年に引き上げることといたしました。

 次に、被害者心理に関する調査研究の推進及び研修の充実についてお尋ねがありました。

 強姦罪における暴行または脅迫の程度は、判例上、反抗を著しく困難ならしめる程度のものであれば足りると解されておりますが、その認定に当たっては、被害者の心理状態を適切に考慮することが重要であるとの指摘があります。

 被害者心理に関する調査研究を推進するとともに、それらの専門的知見をも踏まえた研修等を実施することは、被害者の心理状態等についてさらに理解を深めるために有用であると考えており、その充実を図ってまいりたいと考えております。

 次に、監護者性交等罪を創設する趣旨と捜査における年少の被害者への配慮についてお尋ねがありました。

 監護者性交等罪は、監護者が十八歳未満の者に対して、暴行や脅迫を用いることなく性交等を繰り返す事案があるという実態に即した対処をするため、暴行、脅迫を要件とせず、監護者であることによる影響力があることに乗じて性交等をした場合に、強制性交等罪と同様に処罰するために設けるものであります。

 被害者が児童である場合における配慮については、例えば、事情聴取に際しまして、児童相談所、警察及び検察の三者の間において協議をし、いずれかが代表して聴取を行って、被害児童の負担を軽減するなどしておる次第であります。監護者性交等罪の被害者につきましても、このような取り組みがより一層推進されるものと考えております。

 最後に、性犯罪の非親告罪化後における被害者のプライバシーや心情への配慮についてお尋ねがありました。

 御指摘のとおり、性犯罪につきましては、事件の内容等が公になることを望まない被害者もおられることなどから、事件の処分等に当たって、被害者のプライバシーや心情に配慮することなどが重要であるものと認識をいたしております。

 検察当局においては、これまでも被害者の意思を丁寧に確認するなどしてきたものと承知しておりますが、性犯罪が非親告罪化された後においても、今回の改正の趣旨を踏まえ、一層の配慮に努めることになるものと考えております。(拍手)

    〔国務大臣加藤勝信君登壇〕

国務大臣(加藤勝信君) 國重議員より、性犯罪、性暴力被害の実態調査における調査対象や調査項目の充実についてお尋ねがございました。

 性犯罪や性暴力は、性別を問わず、人権を著しく踏みにじるものであり、決して許される行為ではありません。

 ただいま御指摘のありました男女間における暴力に関する調査については、本年度実施をすることとしておりますが、その実施に当たっては、本改正案の趣旨も踏まえ、調査対象や調査項目について所要の見直しを行うこととしております。

 今後とも、性犯罪、性暴力被害の実態把握に努めるとともに、被害者支援の充実に取り組んでまいります。(拍手)

    〔国務大臣松本純君登壇〕

国務大臣(松本純君) 女性のみならず、男性や性的マイノリティーを含めた性犯罪被害のより正確な把握についてのお尋ねがありました。

 犯罪被害者等施策は、犯罪被害者等が置かれている状況や必要としている支援等、その実態を踏まえて推進することが重要であると認識しております。

 昨年四月に策定され、平成三十二年度末までを計画期間とする第三次犯罪被害者等基本計画においても、犯罪被害者等の状況把握等のための調査実施に向けた検討が盛り込まれております。

 性別を問わず、性犯罪被害は潜在化しやすく、調査対象者の抽出に工夫を要するとともに、調査の実施に当たっては、被害者の心情等に十分配慮する必要があるなど、今後検討すべき課題があるものの、引き続き正確な犯罪被害者の実態把握に努め、その結果を踏まえ、関係省庁と連携し、適切な犯罪被害者等施策の推進に努めてまいります。(拍手)

    ―――――――――――――

議長(大島理森君) 池内さおり君。

    〔池内さおり君登壇〕

池内さおり君 私は、日本共産党を代表して、強姦罪の構成要件及び法定刑を改めて強制性交等罪とするなどの刑法改正案について質問をいたします。(拍手)

 まず、日本の性犯罪の現状についてです。

 性暴力は魂の殺人と言われています。被害者の心身、生活全般に長期の深刻な打撃を与え、PTSDをも発症させます。

 しかし、被害申告できる人はごくわずかで、二〇一四年の内閣府調査で、異性から無理やり性交された経験のある女性のうち、警察への相談は四%にすぎません。被害者数は、実に推計年間十六万人に上りながら、警察に届けられるのは数%、検挙、起訴されて有罪が言い渡される加害者は五百人にとどまっています。重大なことは、圧倒的多数の被害が見えなくさせられていることです。

 先日、検察審査会に申し立てた詩織さんは、レイプの被害に遭ったことで、性犯罪の被害者を取り巻く法的、社会的状況が、被害者にとってどれほど不利に働くものか痛感したと述べています。告訴をし、逮捕状が出ていたにもかかわらず、加害者は逮捕もされず、不起訴とされたというのです。大多数の加害者が野放しにされています。この現実をどう認識していますか。関係大臣の答弁を求めます。

 現行刑法は、百十年前、家父長制のもとで、女性が無能力者とされていた時代に制定されました。強姦罪の保護法益は、性的秩序の維持や貞操の保護というものでした。この規定は今日まで抜本改正がないまま運用されてきました。戦後、個人の尊厳、男女平等を定めた日本国憲法のもと、保護法益は性的自由などとする解釈に変更されてきましたが、同じ条文で異なる保護法益を実現することは不可能なのです。

 現に、最も権威のある教科書とされた「注釈刑法」一九六五年版は、「些細な暴行・脅迫の前にたやすく屈する貞操の如きは本条によつて保護されるに値しない」としていました。こうした考え方が、今日でも、司法、捜査当局に大きな影響を与えているのではありませんか。

 今回の改正に当たり、保護法益を性的自由にとどめず、心身の完全性、人間の尊厳、人格そのものを脅かす性的暴行からの保護と、抜本的に改めるべきではないですか。

 国連は、女性に対する暴力を定義し、性に基づく一切の暴力を根絶する姿勢を明確にしました。さらに、ジェンダーバイアス、性差別に基づく偏見を取り除き、真に被害者の視点に立ち、各国は法改正をこの三十年間積み重ねてきたのです。我が国刑法が規範としてきたドイツでも、昨年、被害者の明示的な意思に反すれば、暴行、脅迫要件は不要、このような改正が行われました。各国の動向をどう認識していますか。

 我が国は、国連諸機関から、構成要件の見直し、夫婦間強姦規定の明示、十三歳以上とされている性交同意年齢の引き上げ等の勧告を繰り返し受けてきました。どのように受けとめ、実現するおつもりですか。

 被害を訴え出るまでには長い時間を要します。公訴時効の撤廃、あるいは未成年が成人するまで時効を停止するなど、欧米諸国や韓国並みの制度にするべきではありませんか。

 性暴力の根絶は、社会の意識変革なしにはあり得ません。ワンストップ支援センターを国連が求める二十万人に一カ所設置することは急務です。加害者への適正な処罰、刑務所内外での更生プログラムの制度化、警察、検察、裁判官へのジェンダー教育の抜本的強化を求めます。

 最後に、世界経済フォーラムが公表したジェンダーギャップ指数で、我が国は百四十四カ国中百十一位と極めて不名誉な位置にあります。個人の尊厳は、あらゆるセクシュアリティーを生きる人々に保障されなければなりません。今回の改正を第一歩に、さらなる改正を求め、質問を終わります。(拍手)

    〔国務大臣金田勝年君登壇〕

国務大臣(金田勝年君) 池内さおり議員にお答えを申し上げます。

 まず、性犯罪の被害者による被害申告等の状況についてお尋ねがありました。

 警察に認知されていない性犯罪の件数については把握することが困難でありますが、性犯罪は特に被害が潜在化しやすい犯罪であると認識をしております。

 性犯罪の加害者に対し適正な刑事処分を行うことは重要であり、被害者のプライバシーの保護や心情への配慮を徹底することなどを含め、被害が潜在化しないよう取り組みを進めることが重要であると考えております。

 次に、検察当局による性犯罪事件の処理に関するお尋ねがありました。

 個別事件における捜査の具体的内容についてはお答えを差し控えますが、一般論として申し上げれば、検察当局は、事件の処理に際しましては、所要の捜査を遂げた上、法と証拠に基づいて適正に対処しているものと承知をいたしております。

 次に、強姦罪の保護法益と条文の位置のあり方等についてお尋ねがありました。

 強姦罪等の性犯罪の保護法益については、現在、一般に、性的自由または性的自己決定権と解されており、刑事事件の実務もそのような解釈に基づいて運用されており、保護法益に関するかつての考え方が強姦罪の解釈に影響しているものではないと認識をいたしております。

 また、刑法典は必ずしも保護法益ごとに章立てされているものではないこと等から、現時点で、強姦罪等の条文の位置を変更する必要はないものと考えております。

 さらに、強制性交等罪などの性犯罪は、被害者の人格や尊厳を著しく侵害するものであると認識しておりますが、刑法上の罪の保護法益は、一定程度具体化された利益として把握されているものと考えられます。そして、被害者の人格や尊厳を侵す犯罪は性犯罪に限られないことからも、人格や尊厳を性犯罪の保護法益とするのは抽象的に過ぎると考えられるわけであります。

 次に、諸外国における性犯罪の罰則の改正の動向に関するお尋ねがありました。

 諸外国の法制度を網羅的に把握しているものではありませんが、例えば、ドイツでは、昨年、暴行、脅迫がなくても、被害者の認識可能な意思に反して性的行為を行うなどした場合には処罰を可能とする規定が新設されたものと承知をしております。

 もっとも、我が国においても、被害者の拒絶の意思が認識可能なほどにあらわれている状況で性交等に及んだ場合には、その過程での行為が暴行または脅迫と認められるものと考えられますので、ドイツのような法改正が我が国においても有効であるかについては、その運用の実情を見る必要があるものと考えております。

 今後も、諸外国の法改正の動向については、適切に把握してまいりたいと考えております。

 次に、強姦罪の構成要件の見直し等に関する国際機関からの指摘に関するお尋ねがありました。

 今回の改正案は、国際機関からのさまざまな指摘をも考慮したものであり、例えば、強姦罪の構成要件の見直し、性犯罪の非親告罪化等については、国際機関からの指摘に沿ったものとなっております。

 また、国際機関からの指摘があった事項のうち、今回の改正案に取り入れていないものもありますが、立案の過程におきましては、それらの指摘も十分に考慮し、検討の対象としたものと認識をしております。

 次に、性犯罪の公訴時効の撤廃や停止についてお尋ねがありました。

 時の経過による証拠の散逸等に基づく法的安定の要請と犯人処罰の要請の調和という公訴時効制度の趣旨に鑑みますと、性犯罪についてのみ公訴時効を撤廃し、または未成年の被害者の事件についてのみ公訴時効を停止することについては、慎重な検討を要するものと考えます。

 最後に、性暴力の根絶に向けた取り組みなどについてお尋ねがありました。

 性犯罪の根絶に向けた各種の取り組みを推進していくことは重要であると考えております。

 法務省としても、性犯罪者の再犯を防止するため、刑事施設及び保護観察所において、性犯罪を行った者に対する処遇プログラムを実施しているところであり、今後ともプログラムの着実な実施に努めてまいります。

 さらに、検察官等が性犯罪の捜査や公判を適切に行うための教育や研修等も重要であり、その充実に引き続き取り組んでまいります。(拍手)

    〔国務大臣加藤勝信君登壇〕

国務大臣(加藤勝信君) 池内議員より、性暴力の被害者の相談の現状に関する認識についてお尋ねがございました。

 性犯罪や性暴力は、人権を著しく踏みにじる、決して許されない行為であります。

 内閣府の調査では、異性から無理やりに性交された被害経験のある女性のうち約七割は誰にも相談しておらず、その心理的な状況から、相談できずに一人で抱え込んでいる、そうした状況にあると認識しております。

 政府では、第四次男女共同参画基本計画に基づき、被害を訴えることをちゅうちょせずに必要な相談を受けられるような相談体制の整備や、被害者の心身回復のための被害直後及び中長期の支援が受けられる体制整備などに取り組んでいるところであり、引き続き、関係省庁とも連携して、適切に対応してまいります。

 また、ワンストップ支援センターの早期設置などについてお尋ねがありました。

 政府では、現在、性犯罪や性暴力の被害者に対し、心身の負担を軽減するため、第四次男女共同参画基本計画に基づき、被害直後から相談を受け、医療的な支援、心理的な支援などを可能な限り一カ所で提供するワンストップ支援センターの設置を促進しております。

 今年度予算において、性犯罪・性暴力被害者支援交付金を新たに設けたところであり、この交付金を活用し、全都道府県でのワンストップ支援センターの早期設置とその安定的な運営を図るとともに、関係機関との連携の強化など、今後とも引き続き、地域の実情に応じた被害者支援の充実に取り組んでまいります。(拍手)

    〔国務大臣松本純君登壇〕

国務大臣(松本純君) 性犯罪の被害を届け出ることができない方々が多くいる現実についてお尋ねがありました。

 性犯罪の被害者は、精神的なダメージなどから被害申告をためらう場合も多く、性犯罪は特に被害が潜在化しやすい犯罪であります。

 警察においては、被害が潜在化しないよう、警察本部や警察署の性犯罪捜査を担当する係への女性警察官の配置促進、性犯罪被害者に対する相談体制の充実などを進めており、引き続きこれらの取り組みを推進するよう警察を指導してまいります。

 次に、性犯罪の加害者に関する認識についてお尋ねがありました。

 性犯罪を犯した者は、再び類似の事件を起こす傾向が強いことなどから、犯行を抑止するため、迅速に捜査を進めることが重要であります。

 性犯罪の捜査に当たっては、大きな精神的ダメージを受けている被害者の心情に寄り添い、被害者の負担をできる限り小さくするよう心がけながら、必要な証拠の収集、確保に向け、迅速かつ適正な捜査を推進するよう、引き続き警察を指導してまいります。

 警察官へのジェンダー教育について御質問がありました。

 警察では、性犯罪捜査における被害者への対応を初めとするさまざまな活動において、人権に配慮した適切な対応をとることが求められております。

 このため、警察では、警察学校や職場での教育など、さまざまな機会を捉えて、人権に配慮した活動についての教育を行っているところであり、今後とも推進してまいりたいと考えております。(拍手)

    ―――――――――――――

議長(大島理森君) 木下智彦君。

    〔木下智彦君登壇〕

木下智彦君 日本維新の会、木下智彦です。

 ただいま議題となりました刑法の一部を改正する法律案について質問いたします。(拍手)

 我が党は、政治理念として、自立する個人、自立する地域、自立する国家の実現を掲げており、個人がお互いに自立した存在として尊重し合い、お互いの人格を尊厳あるものとして認め合う社会が必要であると認識しております。

 本法案が抑止しようとする性犯罪は、人間の尊厳を無視し、個人の自己決定権をじゅうりんし、被害者の心身に深い傷を負わせるものであります。さきに述べた理念からいって、性犯罪は最も忌まわしい犯罪の一つであり、社会からの根絶を目指すべきものであると考えております。

 本法案により、性犯罪が厳罰化される方向で刑法が抜本的に改正されることは高く評価いたします。

 過去には、強姦罪の構成要件として男性器の女性器への挿入であることを逆手にとり、より量刑の軽い強制わいせつ罪等に当たることを認識して肛門性交のみを行う連続犯が存在するなどした中、その構成要件と法定刑を見直したこと、従来の強姦罪を非親告罪にしたこと、監護者について犯罪を新設したこと等、本法案の基本的な方向性についてはおおむね妥当なものと考えております。

 その上で、幾つか質問させていただきます。

 まず、強姦罪等における暴行、脅迫という要件についてです。

 現行法の判例では、強姦罪等が成立するためには、被害者の反抗を著しく困難にする程度の暴行、脅迫が必要となっております。この点につき、要件として厳し過ぎるのではないかと指摘もありますが、本法案では文言上の変更はありません。

 法務大臣にお伺いいたします。

 本法案の強制性交等罪の「暴行又は脅迫」という文言の解釈は、現行法の強姦罪と強制わいせつ罪における「暴行又は脅迫」の解釈と同じく、被害者の反抗を著しく困難にする程度のものに限られるのでしょうか。もしそうならば、要件として範囲が限定的で、犯罪の抑止と被害者保護に欠けるところはないでしょうか。被害者の同意の有無が重要と考えるのであれば、より軽度の暴行、脅迫の場合等にも強制性交等罪を認めるべき場合があるのではないでしょうか。

 同様に、本法案での準強制わいせつ罪、準強制性交等罪の要件が、現行法と同じく、心神喪失もしくは抗拒不能に乗ずること、またはその状態にさせることとなっております。

 法務大臣にお伺いします。

 この要件も、同意のない性的接触を防ぐという目的からすれば、狭過ぎるのではないでしょうか。心神耗弱もしくは抗拒困難に乗ずるといった要件にすることも検討するべきではないでしょうか。

 従来、強姦罪の前提として、男性が女性に対する行為を対象としていたが、性交の行為自体を主体的に行った者を処罰の対象とすることで、男女の区別なく加害者、被害者にもなり得る改正案は、犯罪の多様性に対応するものとして評価できます。しかし、女性に対する行為を女性が行った場合は、性器の挿入行為自体が不可能な中、器具、手指などによる挿入行為があっても、当該罪の対象行為とはならない。

 さらに、男児に対する性的虐待についての精神的影響は比較的に高いとの研究結果もある中、性的虐待は魂の殺人と言われる極めて卑劣な犯罪と認識されているのであれば、十三歳未満の子供に、医療用目的等以外での器具、手指などを使用した挿入行為も、被害者が男児、女児にかかわらず、当該罪の対象とするべきではないでしょうか。子供たちに対する卑劣な行為としてさまざまな態様が考えられる中、当該処罰行為の範囲を広げることが必要なのではないでしょうか。法務大臣の見解をお聞かせください。

 最後に、今回の法改正では刑罰の対象とならなかった行為によって、同意のない性的接触で心身の深い傷を負った人につき、できるだけ性的犯罪被害者と同様のサポートをすべきと考えますが、国家公安委員長の御認識をお伺いいたします。

 我が党は、個人の自立を訴える政党として、個人の人格をお互いに尊重し合える社会や法制度の実現を目指してまいります。

 以上、ありがとうございました。(拍手)

    〔国務大臣金田勝年君登壇〕

国務大臣(金田勝年君) 木下智彦議員にお答えを申し上げます。

 まず、強制性交等罪における暴行または脅迫の程度についてお尋ねがありました。

 強姦罪における暴行または脅迫の程度は、判例上、反抗を著しく困難ならしめる程度のものであれば足りると解されております。具体的には、被害者の年齢、精神状態のほか、行為の場所の状況、時間等諸般の事情を考慮して、事案に即した適切な判断がなされているものと考えております。

 御指摘のように、より軽度な暴行等が用いられた場合にも強制性交等罪が成立すると考えることについては、暴行または脅迫が要件とされている趣旨をも踏まえ、慎重な検討が必要であると考えております。

 次に、準強制性交等罪の成立範囲を拡張することについてお尋ねがありました。

 裁判例によれば、心神喪失に該当しない場合であっても、当該具体的な事情のもとにおいて、物理的、身体的あるいは心理的に抵抗できないか、または抵抗することが著しく困難な状態であれば抗拒不能に当たると解されており、これには、被害者を欺く行為により錯誤に陥れて抵抗することが著しく困難な心理状態にすることなどを含むとされております。

 御指摘が、このような抗拒不能に該当しない場合も処罰することを意図するものであれば、その適否については慎重な検討が必要であると考えられます。

 最後に、年少の被害者に対する強制性交等罪の処罰対象となる行為についてお尋ねがありました。

 今回の改正案におきましては、濃厚な身体的接触を伴う性交渉を強いられる、膣内、肛門内または口腔内に陰茎を入れる行為を強制性交等罪の対象としました。

 御指摘の異物等を膣または肛門に入れる行為については、異物にもさまざまなものがあり、その被害の重大性が一律に性交と同等とまでは言いがたいことから、強制性交等罪の処罰対象とはしておりません。この点は、被害者が十三歳未満の者であっても同様であると考えております。

 なお、御指摘の行為に対しましては、強制わいせつ罪等により、事案の実態に即した対処がなされるべきであると考えられます。(拍手)

    〔国務大臣松本純君登壇〕

国務大臣(松本純君) 今回の改正では刑罰の対象とならない、同意のない性的接触で心身に深い傷を負った方へのサポートについてお尋ねがありました。

 警察では、御相談があった場合には、まずはよくお話を伺い、その上で、仮にお尋ねのような犯罪の被害に当たらないと認められる場合であっても、相談者の心情や事案の内容に応じ、適切な機関、団体等を紹介するなどしています。

 今後とも、心身に深い傷を負った方に対しては、そのお気持ちに配慮して対応するよう警察を指導してまいります。(拍手)

議長(大島理森君) これにて質疑は終了いたしました。

     ――――◇―――――

議長(大島理森君) 本日は、これにて散会いたします。

    午後二時二十三分散会

     ――――◇―――――

 出席国務大臣

       総務大臣    高市 早苗君

       法務大臣    金田 勝年君

       文部科学大臣  松野 博一君

       国務大臣    加藤 勝信君

       国務大臣    菅  義偉君

       国務大臣    松本  純君

 出席副大臣

       法務副大臣   盛山 正仁君


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