衆議院

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第21号 平成31年4月25日(木曜日)

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平成三十一年四月二十五日(木曜日)

    ―――――――――――――

 議事日程 第十四号

  平成三十一年四月二十五日

    午後一時開議

 第一 業務等における性的加害言動の禁止等に関する法律案(西村智奈美君外五名提出)

 第二 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律の一部を改正する法律案(岡本充功君外五名提出)

 第三 労働安全衛生法の一部を改正する法律案(西村智奈美君外五名提出)

 第四 女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律案(内閣提出)

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 日程第一 業務等における性的加害言動の禁止等に関する法律案(西村智奈美君外五名提出)

 日程第二 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律の一部を改正する法律案(岡本充功君外五名提出)

 日程第三 労働安全衛生法の一部を改正する法律案(西村智奈美君外五名提出)

 日程第四 女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律案(内閣提出)

 国有林野の管理経営に関する法律等の一部を改正する法律案(内閣提出)の趣旨説明及び質疑


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    午後一時二分開議

議長(大島理森君) これより会議を開きます。

     ――――◇―――――

議長(大島理森君) この際、新たに議席に着かれました議員を紹介いたします。

 第四十九番、沖縄県第三区選出議員、屋良朝博君。

    〔屋良朝博君起立、拍手〕

     ――――◇―――――

 日程第一 業務等における性的加害言動の禁止等に関する法律案(西村智奈美君外五名提出)

 日程第二 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律の一部を改正する法律案(岡本充功君外五名提出)

 日程第三 労働安全衛生法の一部を改正する法律案(西村智奈美君外五名提出)

 日程第四 女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律案(内閣提出)

議長(大島理森君) 日程第一、西村智奈美君外五名提出、業務等における性的加害言動の禁止等に関する法律案、日程第二、岡本充功君外五名提出、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律の一部を改正する法律案、日程第三、西村智奈美君外五名提出、労働安全衛生法の一部を改正する法律案、日程第四、内閣提出、女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律案、右四案を一括して議題といたします。

 委員長の報告を求めます。厚生労働委員長冨岡勉君。

    ―――――――――――――

 業務等における性的加害言動の禁止等に関する法律案及び同報告書

 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律の一部を改正する法律案及び同報告書

 労働安全衛生法の一部を改正する法律案及び同報告書

 女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律案及び同報告書

    〔本号末尾に掲載〕

    ―――――――――――――

    〔冨岡勉君登壇〕

冨岡勉君 ただいま議題となりました各案について、厚生労働委員会における審査の経過及び結果を御報告申し上げます。

 まず、内閣提出の女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律案について申し上げます。

 本案は、女性を始めとする多様な労働者が活躍できる就業環境を整備するため、所要の措置を講じようとするもので、その主な内容は、

 第一に、行動計画の策定や女性の職業選択に資する情報公表義務の対象を常時雇用する労働者の数が三百人を超える事業主から百人を超える事業主に拡大すること、

 第二に、国の施策として、職場における労働者の就業環境を害する言動に起因する問題の解決を促進するために必要な施策を充実することを明記すること、

 第三に、事業主に対して、パワーハラスメントを防止するため、相談体制の整備等の雇用管理上必要な措置を講ずることを義務づけること

等であります。

 次に、西村智奈美君外五名提出の業務等における性的加害言動の禁止等に関する法律案について申し上げます。

 本案は、性別に関する差別的意識等に基づく業務等における性的加害言動、いわゆるセクシュアルハラスメントが従業者等の生活に深刻な影響を及ぼしていることに鑑み、所要の措置を講じようとするもので、その主な内容は、

 第一に、従業者等は、業務等における性的加害言動をしてはならないこと、

 第二に、国は、業務等における性的加害言動の禁止に関し、業務等における性的加害言動の具体的内容等を定めた指針を作成すること

等であります。

 次に、岡本充功君外五名提出の雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律の一部を改正する法律案について申し上げます。

 本案は、セクシュアルハラスメント等を効果的に防止できるよう、所要の措置を講じようとするもので、その主な内容は、

 第一に、事業主は、その雇用する労働者に対するセクシュアルハラスメント及び妊娠、出産等に係るハラスメントに関して対処方針等の周知、公正な立場による相談体制の整備等の措置を講じること、

 第二に、厚生労働大臣がセクシュアルハラスメント及び妊娠、出産等に係るハラスメントに関する事業主が講ずべき措置等に関する指針を定めるに当たっては、被害者の利益の保護に特に配慮すること

等であります。

 次に、西村智奈美君外五名提出の労働安全衛生法の一部を改正する法律案について申し上げます。

 本案は、パワーハラスメント及び消費者対応業務に係るハラスメントにより労働者の職場環境が害されることを防止するため、所要の措置を講じようとするもので、その主な内容は、

 第一に、事業者は、パワーハラスメント及び消費者対応業務に係るハラスメントの防止措置を講じなければならないこと、

 第二に、厚生労働大臣は、これらの措置に関する指針を定めること

等であります。

 各案は、去る四月十二日の本会議において趣旨説明が行われた後、同日本委員会に付託されました。

 本委員会におきましては、同日根本厚生労働大臣並びに提出者西村智奈美君、大西健介君及び尾辻かな子君からそれぞれ提案理由の説明を聴取した後、十六日から質疑に入り、同日参考人から意見を聴取するなど審査を行い、十九日に質疑を終局いたしました。

 昨日、内閣提出法律案に対し、日本共産党から修正案が提出され、趣旨説明を聴取しました。

 次いで、各案及び修正案について討論を行い、順次採決を行った結果、議員提出の三法律案はいずれも賛成少数をもって否決すべきものと議決し、日本共産党提出の修正案は賛成少数をもって否決され、内閣提出の法律案は賛成多数をもって原案のとおり可決すべきものと議決した次第であります。

 なお、内閣提出の法律案に対し附帯決議を付することに決しました。

 以上、御報告申し上げます。(拍手)

    ―――――――――――――

議長(大島理森君) 討論の通告があります。順次これを許します。山本和嘉子君。

    〔山本和嘉子君登壇〕

山本和嘉子君 立憲民主党・無所属フォーラムの山本和嘉子です。

 私は、会派を代表して、議員提出の三法律案について、賛成の立場で討論を行います。(拍手)

 討論に当たり、冒頭、一言申し上げます。

 現在、我が国の内外に課題は山積しています。不透明さが増す経済情勢、十月に控える消費税の引上げ、六月合意断念と報道されている北方領土問題など、挙げれば切りがありません。いずれも総理大臣の考えを直接国会でお聞きしなければならない重要な問題です。加えて、聞くにたえない暴言、失言が相次ぎ、大臣や副大臣が次々に辞任していく始末です。

 こうした状況にもかかわらず、野党が求める予算委員会の集中審議の開催を政府・与党はなぜか拒否し続けています。これこそ究極の審議拒否です。政府・与党は審議拒否の真っただ中なのです。

 与党の皆さん、あれこれおっしゃるのなら、審議拒否などせずに予算委員会を開いたらどうでしょうか。原発ゼロ法案の審議にも応じたらどうでしょうか。このことは、あえて申し上げておきます。

 加えて、自民党の萩生田幹事長代行のあの発言は一体何なんでしょうか。ワイルドな憲法審査を進めていくなど、与党の責任ある立場の人間が発するべき言葉ではありません。さらに、何の権限があるのか、消費税増税延期だの、解散に触れるだのに至っては、言語道断の発言と断ずる以外にありません。このことも改めて申し上げ、討論に入ります。

 我が国の労働力人口が減少に向かう中で、女性の職業生活における活躍の推進及びハラスメント対策の強化は重要な課題です。

 職場におけるいじめ、嫌がらせを理由とする都道府県労働局への相談件数とともに、精神障害に係る労災認定件数が増加の一途をたどっており、また、ハラスメントを苦にした自殺まで発生していることから、ハラスメント対策は喫緊の課題と言えます。

 政府提出の法律案において、パワーハラスメント防止のため、相談体制の整備等の雇用管理上必要な措置を事業主に義務づけること、労働者がハラスメントに対して事業主に相談したこと等を理由とする不利益取扱いの禁止を規定したことは、昨今、セクシュアルハラスメントやパワーハラスメントが日々報道され、社会問題となっている中で、一歩前進していると評価することはできます。

 しかし、政府提出の法律案には不十分な点があることを指摘しなければなりません。

 その第一は、セクシュアルハラスメントの禁止が規定されていないということです。

 セクシュアルハラスメントは、個人の人格を大きく傷つけ、許してはいけない行為であるという認識が十分に浸透しておらず、依然としてセクシュアルハラスメントによる被害は後を絶ちません。

 外務省の女性職員が、在イラン大使館勤務時代、当時の駐イラン日本大使から性暴力の被害を受けたとして、刑事告訴する事件もありました。

 一昨日のニュースでも、鹿児島県垂水市で女性市議が初めて誕生することが決まった市議選をめぐって、自民党の男性市議が、告示前、やりにくい、下手な言葉を言えばセクハラ、パワハラと言われるおそれもあると語り、批判を浴びました。

 セクシュアルハラスメントの被害に悩んでいる労働者等をこれ以上ふやさないためにも、セクシュアルハラスメントの禁止を法制化すべきです。私たち野党四党が提出した業務等における性的加害言動の禁止等に関する法律案、いわゆるセクハラ禁止法案は、明確にセクシュアルハラスメントを禁止するということになっております。

 また、近年、就職活動中の学生やフリーランス、自社の労働者以外の者がセクシュアルハラスメントの被害者となる事件が報道されており、これらの問題への対処が急務となっております。

 政府提出の法律案では就職活動中の学生等が対象とされておらず、この点も不十分と言わざるを得ません。野党四党が提出したセクハラ禁止法案では、就職活動中の学生等の従業者となろうとする者及びフリーランスがセクシュアルハラスメントの禁止の対象に含まれることを明確にしています。

 第二に、政府提出の法律案には、消費者対応業務に係るハラスメント、いわゆるカスタマーハラスメントの防止対策が盛り込まれておりません。

 長時間拘束や激しい暴言に代表される、顧客などからの迷惑行為は、労働者を苦しめる大きな要因となっており、UAゼンセンの調査によると、接客対応を行っている労働者約五万件のアンケート、その回答の中、約七割が顧客からの著しい迷惑行為を経験していることが示されております。その中に約二万件もの記述式の回答が寄せられているそうで、内容は、おまえはばかか、謝るしかできないのか、言葉がわからないのかなど、そのような暴言を一時間近くも言われた、あるいは、商品不良のため返金を実施した際、丁寧に謝罪しても納得されず、土下座での謝罪を要求されるなどの悪質クレームが報告されています。

 政府は、みずから提出した法律案にカスタマーハラスメントの防止対策を規定しない理由について、通常のクレームと迷惑行為との判断が難しいことを挙げ、カスタマーハラスメント対策は法案成立後の指針で対応すると答弁しています。

 しかし、きょうもどこかでカスタマーハラスメントが発生しており、その被害を防止するためには、指針に明記することだけでは不十分です。私たち野党四党が提出した労働安全衛生法改正案では、カスタマーハラスメントの防止対策を事業主に義務づけております。

 また、他社の労働者に対するパワーハラスメントに関し、野党四党が提出した労働安全衛生法改正案では、パワーハラスメントの防止対策を加害者側の事業主にも義務づけています。

 このほか、セクシュアルハラスメント等に対し、事業主の措置義務が十分に履行されていない、行政救済機関が十分に活用されていないなど、男女雇用機会均等法は運用面でも多くの課題が指摘されております。特に、厚生労働委員会での議論においては、相談窓口を設置している企業の割合や、窓口担当者に対する研修を実施している企業の割合が低いことなどが指摘されており、運用の改善は急務と言えます。

 政府提出の法律案は、女性活躍の推進に関する情報公表への取組などが不十分ではありますが、ハラスメント対策と同様に、現行の取組よりは前進している点は評価できます。しかし、国際社会では、ILO総会での仕事の世界における暴力及びハラスメントに関する条約の採択に向け、活発な議論が行われるなど、職場におけるあらゆるハラスメントを禁止する方向に進んでいるのです。

 野党四党提出の法律案は、こうした国際社会の流れに沿っており、また、ハラスメントの対策の充実、運用の改善に大いに資するもので、全ての働く人が自分の能力を最大限発揮できる社会を実現するために必要不可欠な、そして快適な職場環境を整備するものであり、政府案以上にすぐれた内容であることを申し上げ、私からの賛成の討論とさせていただきます。

 御清聴ありがとうございました。(拍手)

議長(大島理森君) 高木美智代君。

    〔高木美智代君登壇〕

高木美智代君 公明党の高木美智代です。

 公明党を代表し、政府提出の女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律案について、賛成の立場から討論をいたします。(拍手)

 本法案は、女性を始めとする多様な労働者の就業環境の整備に向けて、我が国を次のステージに進める、そのための重要なステップと言えます。

 本法案においては、女性活躍に関する行動計画策定等の義務について対象企業の拡大を図るほか、職業生活に関する機会の提供と職業生活と家庭生活の両立の両面からの情報公表の強化を行うこととしており、これにより、より多くの企業において、各企業の課題に応じた女性活躍の取組が進むことが期待されます。

 その一方で、今般、行動計画策定等の義務が拡大される中小企業に対しては、働き方改革に取り組まれている中で実効性のある対応を進めていただくためにも、十分な配慮や支援を行うことが必要です。

 本法案では、行動計画策定等の義務の対象拡大の施行時期について、公布後三年以内の政令で定める日とし、十分な準備、周知期間を設けていることは評価できます。

 政府に対しては、それまでの間、セミナーの開催や事例集の策定等の周知、広報等を始めとする十分な支援が行われることを求めます。

 職場におけるハラスメントは、労働者の尊厳や人格を傷つけるなど、人権にかかわる許されない行為であり、企業にとっても、人材の能力の発揮が妨げられ、損失につながるものです。

 本法案において、パワーハラスメント防止対策を初めて法制化し、その定義を示した上で、予防から事後の対応まで一連の措置を事業主に義務づけたことは、パワハラの根絶に向けた重要な一歩と言えます。

 本法案に基づき、指針の策定に当たっては、職場で適切な指導や人材育成が円滑に行われるよう留意しつつ、パワーハラスメントの基本的な考え方や具体例等を示すことにより、企業において実効性のある取組が進められることが期待されます。

 さらに、指針において、顧客や取引先等からの迷惑行為についても、企業の望ましい取組を示し、関係省庁等と連携して周知啓発する方針を政府が明確にしたことは、対策を前進させるものとして評価します。

 加えて、性的指向や性自認に関するハラスメントについても、政府が指針などによる明確化や周知啓発の方策をしっかりと検討する方針を明確にしたことは重要です。

 審議においては、全てのハラスメント行為そのものの禁止や、雇用関係のないフリーランスや就職活動中の学生等に対するセクハラ等の防止についても議論を行いました。

 本法案では、セクハラ等は行ってはならないものであり、他の労働者に対する言動に注意を払うよう努めるべきであることを国、事業主及び労働者の責務として明確化するほか、労働者が事業主にセクハラ等の相談を行ったことを理由とした不利益取扱いの禁止等の規定を整備したことは重要な点です。

 政府においては、これらを踏まえ、社内のハラスメント防止はもとより、フリーランスや就職活動中の学生等に対するセクハラ等の防止についても、積極的に周知啓発を進めていただき、実効性を確保することを求めたいと思います。

 なお、本法案の審議中に行われた統一地方選後半戦において、我が党の女性候補者比率は三六%であったことを申し添えます。

 最後に、野党提出の三法案に対して見解を異にするため反対であることを申し述べた上で、政府提出法案を成立させ、女性活躍を更に加速化するとともに、働き手や働き方が多様化する中で、誰もが安心して活躍できる就業環境を整備していくことが必要であることを申し上げ、討論といたします。

 ありがとうございました。(拍手)

議長(大島理森君) 小宮山泰子君。

    〔小宮山泰子君登壇〕

小宮山泰子君 私は、国民民主党・無所属クラブを代表し、ただいま議題となりました野党四会派提出、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律の一部を改正する法律案、業務等における性的加害言動の禁止等に関する法律案、労働安全衛生法の一部を改正する法律案について、賛成の立場から討論を行います。(拍手)

 七十三年前、昭和二十一年四月十日、戦後初の第二十二回衆議院議員総選挙の結果、女性議員三十九名が誕生いたしました。明治から今日まで、日本で女性参政権や権利を守るために闘ってきた全ての先達に心から敬意と感謝をいたします。

 本日は、平成で最後の本会議討論となりますが、残念ながら、日本は女性活躍とは言い切れない現状にいまだあることを指摘しなくてはなりません。

 連合が二〇一七年に行ったハラスメントと暴力に関する実態調査によれば、職場でいずれかのハラスメントを受けた、見聞きした人は半数を超え、この調査では、職場のハラスメントが原因で、仕事のやる気がなくなったりミスやトラブルが多くなったりした、心身に不調を来した、仕事をやめた、仕事をかえたなどといった生活上の変化が起き、ハラスメントが働く人に深刻な影響を与えている実態が浮き彫りとなりました。

 また、UAゼンセンのアンケート調査では、客からの迷惑行為に遭遇した人の割合が七割を超えるなどと、悪質クレームも深刻な社会問題となっております。

 女性の活躍を推進するためだけでなく、全ての働く人が心身ともに健康で、安心して働くことができるようにするため、ハラスメント対策の強化は喫緊の課題であります。

 また、世界共通の課題としてハラスメント根絶が求められている中、昨年、国民民主党などが参議院にパワハラ規制法案を提出いたしましたが、与党はこれを否決し、パワハラ対策に後ろ向きな姿勢が明らかとなりました。

 政府が今国会にセクハラ、パワハラ対策を盛り込んだ女性活躍推進法等改正案を提出したことは一定程度評価したいと思いますが、残念ながら、法案には不十分な点が見られます。会社間のパワハラ、セクハラへの対応が不十分であること、悪質クレームから労働者を保護するための措置を講ずる義務を事業者に課していないこと、就職活動中の学生やフリーランスで働く人に対するセクハラ問題を放置していること、セクハラ行為を禁止していないことなどです。

 一方で、国民民主党・無所属クラブなど野党四党が提出したセクハラ規制強化法、セクハラ禁止法案、パワハラ規制法案は、セクハラ、マタハラ、パワハラ、悪質クレームから働く人をしっかり守る法案となっております。

 セクハラ規制強化法案は、会社間のセクハラ、マタハラ対策を抜本的に強化するものとなっております。具体的には、被害者の事業主から加害者の事業主にセクハラを行わないように求める義務を課すことや、加害者側の事業主に、加害者であるみずからの社員に対し、セクハラを行わないようにするため必要な措置をとる義務を課しております。

 例えば、元請企業の社員が下請企業の社員にセクハラ行為をした場合、下請企業の事業主は、取引をとめられることを、ちゅうちょすることが想定されますが、セクハラ規制強化法案には、被害者側の企業が厚生労働大臣に措置を求め、厚生労働大臣が加害者側の企業に助言、指導、勧告等を行うという仕組みが盛り込まれております。この仕組みによって、取引上など立場の弱い企業が立場の強い企業に対してセクハラ行為を行わないように求めることができる、実効性が担保された法案と言えます。

 また、セクハラ禁止法案は、企業、組織に属していない就職活動中の学生やフリーランスで働く人に対するセクハラも含め、セクハラ行為を禁止するものであり、セクハラ根絶のために不可欠な法案です。

 さらに、パワハラ規制法案には、会社内でのパワハラだけでなく、取引先などほかの会社からのパワハラや悪質クレームについて、労働者を保護するための必要な措置を講ずることを事業者に義務づけることが盛り込まれております。

 野党四会派提出三法案は、全ての人が安心して働き、自分の能力を生かす社会を実現するために必要不可欠な法案であり、賛成いたします。

 委員会質疑の際に、岡本充功委員の、女性の活躍とはどういうことか、何を指すのかとの問いに、根本大臣は、職業生活において活躍することと答弁を繰り返しておりました。女性がみずから能力を十分に発揮して生き生き働くためにも、ハラスメントをなくすことが重要であります。

 政府提出法案は、野党四会派提出法案と比べて具体策が見劣りするものとなっておりますが、ハラスメントが深刻な問題となっている現状に鑑みると、働く人のためには一歩でも対策を進めることは必要であると考え、政府提出法案にも賛成することといたしました。

 委員会の審議等の大臣答弁、また附帯決議にあったように、性的指向、性自認に関して、アウティング等もハラスメントとして位置づけを、指針での明示、対策を確実に盛り込むことも要望させていただきます。

 さて、女性活躍をめぐる政府・与党の対応に一言申し上げます。

 第百八十七回国会で初めて女性活躍推進法案が提出された当初、女性活躍担当大臣は置いても、一般法扱いで、本会議登壇も予定されておりませんでした。私は、議院運営委員会理事会で、政府は、女性活躍は重要と言いつつも、青少年対策特別委員会を廃止してまで特別委員会を設置して議論した地方創生法案が重く扱われているのとは対照的に、女性を軽んじているとして、登壇案件にすることを要求し、何とか本会議にかかることとなりました。

 このとき、地方創生法は成立に至りましたが、解散・総選挙となり、女性活躍推進法案は審議未了、廃案となりました。

 そもそも、本法案が提示された当時、女性活躍推進法をつくるなら、男性の家庭生活における活躍推進法も政府は同時に提出すべきではないかなどといった会話も交わしておりました。

 当時から、政府・与党が、本気で女性の活躍の推進というよりも、労働力として女性の利用をしたいとの印象は拭えぬままにおります。

 しかし、女性活躍と銘打った法律をつくったのが、あの時代の男性の都合とか、そんな時代があったのかと笑い話にできるよう、今国会の議論が共同参画社会の実現に遠くない時期につながることを期待しております。かつ、現実に向けてさらなる前進をさせていきたいと考えております。

 最後に、国民民主党は、引き続き、ハラスメントのない社会、真のジェンダーフリー社会の実現に向けて、ハラスメント規制の強化、待機児童問題を解消するための保育所の整備や保育士の抜本的処遇改善、子育てや介護と仕事との両立を実現させる長時間労働規制のさらなる強化などに全力を挙げて取り組む所存であることを申し述べ、討論を終わります。

 御清聴ありがとうございました。(拍手)

議長(大島理森君) 高橋千鶴子君。

    〔高橋千鶴子君登壇〕

高橋千鶴子君 私は、日本共産党を代表して、ただいま議題となりました女性活躍推進法等改正案について、反対の討論を行います。(拍手)

 セクハラ被害を告発するミー・トゥー運動の広がりやILO条約採択への動きなど、包括的なハラスメント規制が世界の流れとなっています。しかしながら、本法案は声を上げてきた人たちの期待を大きく裏切るものとなりました。

 最大の問題は、ハラスメント行為を規定し、法的に禁止する規制がないことです。そのために、ハラスメントがあったと認めてもらうこと自体が困難です。今回、パワハラについて事業主の防止措置義務や行政ADRの対象としましたが、現状のセクハラ対策にパワハラを並べたにすぎません。

 現に、防止措置義務があってもセクハラ被害は後を絶たず、都道府県労働局に寄せられたセクハラ相談のうち、行政救済に進んだものが余りにも少なく、指導に従わなかった場合の企業名の公表は一件もありません。被害者が事業主に相談したことによる不利益取扱いの禁止を規定したことは当然ですが、現状を大きく変えるものではなく、独立した救済機関が必要です。

 また、パワハラは過労死や精神障害の大きな要因の一つです。厚労省は、業務上適正な範囲の指導かパワハラかの判断が難しいとして要件を狭めており、まるで許せるパワハラがあると言っているようなものです。

 ILO条約案では、求職、離職も含む労働者、フリーランス、アルバイト、顧客、患者など、対象を幅広く定義しています。この点でも、法案は極めて不十分です。

 次に、女性活躍推進法について、一般事業主行動計画の策定義務の対象を百一人以上に拡大したことは当然ですが、情報公表項目を一項目から二項目にふやしたのみです。国連の女性差別撤廃条約は結果の平等を求めており、その重要な指標が男女の賃金格差だということは厚労省も認めました。男女の賃金格差を始め、少なくとも厚労省が把握を必須としている基礎項目は全て公表するべきです。

 セクハラ罪はない、はめられたなどと開き直る大臣発言は、それ自体がセクハラであることを知るべきです。世界経済フォーラムによるジェンダーギャップ指数は百四十九カ国中百十位にとどまり、たび重なる国連の勧告にも耳をかさない日本は、完全にハラスメント後進国です。世界に女性活躍をアピールする前に、まずILO水準の法案を出し直すべきであると指摘をし、私の討論を終わります。(拍手)

議長(大島理森君) 重徳和彦君。

    〔重徳和彦君登壇〕

重徳和彦君 社会保障を立て直す国民会議の重徳和彦です。

 政府提出の女性活躍推進法改正案に対する野党四会派の対案への賛成討論をいたします。(拍手)

 野党案は、この社会の深刻な課題に正面から向き合い、就職活動中の学生やフリーランス等の個人事業者をもセクハラから守り、取引先や顧客もパワハラ規制の対象とするなど、政府案よりも格段にすぐれたものと評価しており、賛成いたします。

 パワーハラスメント対策は、働き方改革の本丸であり、パワハラ対策を通じ、ハラスメントそのものの根絶だけでなく、我が国の働き過ぎの職場慣行を是正し、長時間労働の縮減や有給休暇の取得などの職場風土の改善につながるものと期待しています。

 なお、厚生労働委員会の審議では、女性の活躍を阻む要因として介護離職の問題が取り上げられ、介護の受皿となる施設整備が進まず、介護休業の取得率も低下する現状が問題視されました。介護離職ゼロを掲げる政府の現状認識と解決への姿勢がまだまだ不足していることを指摘しておきます。

 さて、本日は平成最後の本会議です。

 私は、国会のあり方を議論する超党派の「平成のうちに」衆議院改革実現会議のワーキングチームの末席に参画させていただきましたが、お世辞にも十分な成果が得られたとは言えません。

 国民が期待する国会とは、党首討論をゴールデンタイムのテレビで見て現内閣と政権交代後の未来の内閣の違いを吟味でき、予算委員会では大切な税金の使い道を厳しく審議し、政府の不祥事があれば、真相解明のための委員会で参考人を次々呼んでがんがん追及してうみを出し切る、スピード感と迫力のある言論の府ではないでしょうか。

 実現会議では、一遍にそこまでたどり着けずとも、第一歩となる改革案を実現するための提言を出しましたが、その道のりすら果てしなく遠いものでした。

 議院運営委員会の皆様の御理解をいただき、ペーパーレス化の一部の実現などのめどは立ちましたが、妊娠、出産で出席できない女性議員が遠隔で投票する仕組みの導入は見送られました。本日の本会議にも、出席できない産休中の女性議員が現におられます。昨年、政治分野における女性参画の推進を立法した当の国会が女性議員の議決権の重みを受けとめずして、誰が受けとめるのでしょうか。

 この壇上に設置された、残り時間を示す高性能なデジタル時計が目に見える最大の改革の成果だと言わざるを得ないこの国会の現状を、私は地元で自虐的に国会恥ずかし話と紹介しております。

 しかし、それは平成の時代までの話であります。令和の時代には、各党各会派の幹部、中堅、若手の皆さんが一致して国会改革に取り組み、令和の国会はちょっと違うねと言われるようになるでしょう。

 私の夢を申し上げて、平成最後の討論を終わります。

 ありがとうございました。(拍手)

議長(大島理森君) これにて討論は終局いたしました。

    ―――――――――――――

議長(大島理森君) これより採決に入ります。

 まず、日程第一ないし第三の西村智奈美君外五名提出、業務等における性的加害言動の禁止等に関する法律案外二案を一括して採決いたします。

 三案の委員長の報告はいずれも否決であります。この際、三案の原案について採決いたします。

 三案を原案のとおり可決するに賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

議長(大島理森君) 起立少数。よって、三案とも否決されました。

 次に、日程第四、内閣提出、女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律案につき採決いたします。

 本案の委員長の報告は可決であります。本案を委員長報告のとおり決するに賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

議長(大島理森君) 起立多数。よって、本案は委員長報告のとおり可決いたしました。

     ――――◇―――――

 国有林野の管理経営に関する法律等の一部を改正する法律案(内閣提出)の趣旨説明

議長(大島理森君) この際、内閣提出、国有林野の管理経営に関する法律等の一部を改正する法律案について、趣旨の説明を求めます。農林水産大臣吉川貴盛君。

    〔国務大臣吉川貴盛君登壇〕

国務大臣(吉川貴盛君) 国有林野の管理経営に関する法律等の一部を改正する法律案につきまして、その提案の理由及び主要な内容を御説明申し上げます。

 我が国の森林については、戦後造成された人工林が本格的な利用期を迎えております。この森林資源を伐って、使って、植えるという形で循環利用していくことで、先人の築いた貴重な資産を継承、発展させることが、これからの森林・林業政策の主要課題であります。

 こうした課題に対応するため、昨年の第百九十六回国会で成立した森林経営管理法においては、経営管理が不十分な民有林を意欲と能力のある林業経営者に集積、集約化する新たな森林管理システムを構築することとされております。

 この新たな森林管理システムを円滑に実施し、こうした林業経営者を育成するためには、安定的な事業量の確保が必要となります。そのためには、民有林からの木材供給を補完する形で、国有林から、長期、安定的に林業経営者が樹木を採取できるよう措置することが有効であります。

 このような認識の下、効率的かつ安定的な林業経営の育成を図るため、国有林野の一定区域において、国有林野の公益的機能の維持増進や地域の産業振興等に配慮した上で、木材の需要者と連携する事業者が、一定期間、安定的に樹木を採取できる権利を創設するとともに、併せて、川上側の林業と木材の需要拡大を行う川中、川下側の木材関連産業の連携により木材の安定供給を確保する環境整備を行うため、この法律案を提出した次第であります。

 次に、この法律案の主要な内容につきまして御説明申し上げます。

 第一に、樹木採取権の設定についてであります。

 農林水産大臣は、効率的かつ安定的な林業経営の育成を図るため、国有林野の一定の区域を樹木採取区として指定した上で、当該区域において生育している樹木を、一定の期間、安定的に採取する権利として、樹木採取権を設定することができるものとしております。

 第二に、樹木採取権の設定を受ける者の選定についてであります。

 樹木採取権の設定を受ける者については、農林水産大臣が公募を行い、公募に応じた者のうちから、森林の経営管理を効率的かつ安定的に行う能力を有することや、民有林からの木材の供給を圧迫することがないよう林業経営者が川中、川下側の木材関連業者と連携すること等を条件とした上で、地域における産業の振興への寄与の程度等を勘案し、選定するものとしております。

 第三に、樹木採取権の行使についてであります。

 国有林野の公益的機能の維持増進等を図るため、樹木採取権の設定を受けた者は、事業を開始する前に、施業の計画や現行の国有林における伐採のルールなど樹木の採取の具体的な条件等を定めた契約を五年ごとに農林水産大臣と締結しなければならないものとしております。この契約に係る重大な違反があったとき等の場合は、農林水産大臣は樹木採取権を取り消すことができるものとしております。

 第四に、樹木の採取跡地における植栽についてであります。

 農林水産大臣は、樹木採取区内の樹木の採取跡地において国有林野事業として行う植栽の効率的な実施を図るため、樹木採取権者に対し、当該植栽をその樹木の採取と一体的に行うよう申し入れるものとしております。

 第五に、木材の安定取引に取り組む事業者に対する金融上の措置についてであります。

 独立行政法人農林漁業信用基金は、林業経営者と川中、川下側の木材関連業者が、木材の需要の開拓等に関する事業計画を共同で作成し、都道府県知事等の認定を受けた場合に、その計画に係る事業に必要な資金の供給を円滑にするため、資金の貸付け及び債務の保証を行うものとしております。

 以上が、この法律案の提案の理由及び主要な内容であります。

 何とぞ、慎重に御審議の上、速やかに御可決いただきますようにお願いを申し上げます。(拍手)

     ――――◇―――――

 国有林野の管理経営に関する法律等の一部を改正する法律案(内閣提出)の趣旨説明に対する質疑

議長(大島理森君) ただいまの趣旨の説明に対して質疑の通告があります。順次これを許します。金子恵美君。

    〔金子恵美君登壇〕

金子恵美君 立憲民主党・無所属フォーラムの金子恵美です。

 ただいま議題となりました国有林野の管理経営に関する法律等の一部を改正する法律案につきまして、会派を代表して質問いたします。(拍手)

 冒頭、東日本大震災、原発事故の被災地を代表して申し上げます。

 東京オリンピック・パラリンピックの開催まで四百六十日を切りましたが、本当に復興五輪となるのでしょうか。担当大臣が差しかえられても、安倍内閣に対する不信感は払拭されません。

 今般の韓国による日本産水産物等の輸入規制に関するWTO上級委員会の報告書を見ても、国際社会の中で日本に向けられる目は厳しさを増しています。隠蔽、改ざん、偽装が横行する国というイメージにより国際社会で受け入れられていないと言わざるを得ません。

 福島県では、農畜産物、水産物の徹底した検査体制を持ち、安全、安心を発信するために血のにじむような努力をしてきました。それをないがしろにすることを断じて許すわけにはいきません。安倍内閣が本当に被災地に寄り添っているというのなら、国を挙げて本気で被災地の農林水産業の再生に向けての取組を進めるよう、強く求めます。

 質問に入ります。

 我が国の国土の二割、森林面積の三割を占める国有林野は、国土の保全、水源の涵養、生物多様性の保全を始め、広く国民全体の利益につながる公益的機能を有しています。

 森林の有する公益的機能を確保するとともに、厳しい状況にある林業を活性化することは、我が国の森林・林業にとって喫緊の課題です。

 国有林野事業は、平成十年度の抜本的改革で、公益的機能の維持増進を旨とする管理経営方針に大きく転換し、平成二十五年度には、公益重視の管理経営を一層推進するとともに、一般会計で行う事業に移行しました。

 昨今頻発している自然災害への対応や地球温暖化防止の観点からも、国有林野の有する公益的機能の適切な発揮がますます求められています。

 また、林業の推進と森林資源の適切な管理を実現するためには、低迷する林業の活性化を図る中で、地域の産業振興への一層の寄与、山村における継続的、安定的な雇用の創出を実現する必要があります。

 まず、本法律案の検討経緯についてお尋ねいたします。

 未来投資戦略二〇一七は、昨年の通常国会で成立し、本年四月一日に施行された森林経営管理法、すなわち民有林における新たな森林管理システムの端緒となったほか、国有林野について、民間事業者が長期、大ロットで伐採から販売までを一括して行うことについて、民間事業者等からの提案の公募を実施することを挙げていました。

 一年後の未来投資戦略二〇一八では、国有林野の一定区域について、公益的機能を維持しつつ、民間事業者が長期、大ロットで立木の伐採、販売ができる権利を得られるよう、通常国会に向けて国有林野関連の所要の法律案を整備する、なお、公共施設等運営権制度の活用がより効果的で必要な場合は、あわせてPFI法についても所要の措置を講ずるとされ、未来投資会議の取りまとめが本法律案の提出につながったことは明白であります。

 本法律案は、このように官邸主導で提出されており、国民共通の財産である国有林野の適切な管理、公益的機能の維持増進や地域振興、山村振興への寄与等国有林野の使命、役割の視点に立っていない産業政策であり、PFI法の流れの中で国有林を民間開放するものではないですか。

 未来投資戦略の策定や本法律案の提出に至る検討経過について、詳細にお答えください。

 林業経営者の経営の安定は重要な課題ですが、それは国有林を民間開放することで達成されるべきことなのでしょうか。いかがですか。

 国有林野の管理経営の目標についてお尋ねいたします。

 国有林野の管理経営の目標は、国土の保全その他国有林野の有する公益的機能の維持増進を図るとともに、あわせて、林産物を持続的かつ計画的に供給し、及び国有林野の活用によりその所在する地域における産業の振興又は住民の福祉の向上に寄与することにあるものとするとされています。

 激甚な山地災害が多発する中、国有林野は、国土の保全を始めとする公益的機能の維持増進をより一層明確にし、引き続き、国が責任を持って一体的に管理経営する必要があります。

 国有林野に、一定期間、安定的に樹木を採取できる権利を民間事業者に設定できることとする本法律案は、公益重視の管理経営の推進という流れに逆行するもので、国有林野の管理経営の目標のうち、林産物の供給にのみ焦点を当てたものとなっているのではありませんか。公益的機能の維持増進や地域における産業の振興又は住民の福祉の向上をどう担保するのですか。明確な答弁を求めます。

 樹木採取権の存続期間についてお尋ねいたします。

 本法律案では、樹木採取権として、意欲と能力のある林業経営者に一定期間、安定的に国有林野の樹木を採取する新たな権利を創設するとし、その存続期間は五十年以内とされています。

 五十年もの存続期間を設定することは、国民共通の財産である国有林野を誰が責任を持って適正に管理していくのかを曖昧にするのではありませんか。

 樹木採取権の存続期間は、地域の林業事業体を育成する観点から、地域の実情を踏まえた期間とするべきです。当面の間、十年程度で運用していくとのことですが、本法律案では五十年以内とした理由をお答えください。

 樹木採取区の指定及びその規模についてお尋ねいたします。

 本法律案では、樹木の採取に適する相当規模の森林資源が存在する一団の国有林野の区域であって、国有林野事業及び民有林野に係る施策を一体的に推進することにより産業の振興に寄与すると認められるものであること等に該当するものを樹木採取区として指定することができることとされています。

 樹木採取区は、地域の実情を踏まえ、従来国有林野事業で行っている立木販売事業や伐採請負事業、さらには民有林の経営に影響を生じさせない区域や規模で指定する必要があると考えます。政府は、当面十地区程度でスタートすることを検討しているようですが、樹木採取区を指定する基準、一地区当たりの規模について、具体的にお答えください。

 公募についてお伺いします。

 本法律案では、樹木採取権の設定を受ける者を公募で選定することとされています。

 その選定に当たっては、森林の経営管理を効率的かつ安定的に行う能力を有することや、川中、川下側の木材関連業者と連携すること等を条件とした上で、地域における産業の振興への寄与の程度等を勘案することとされています。

 政府は、投資のみを目的とする者は対象とならない、民有林からの供給を圧迫しないと説明していますが、この選定条件で、これらが確実に担保されるでしょうか。

 また、産業振興への寄与の程度として、雇用の増大等の指標が考えられますが、地域外の大企業が入ってきて、一時的には多少雇用がふえたとしても、樹木採取権が切れた途端に撤退し、解雇されるようなことがあっては、地域の産業の振興への寄与とは言えません。

 地域における産業の振興への寄与の程度をどのように評価しようとしているのか、お答えください。

 再造林についてお伺いいたします。

 本法律案では、農林水産大臣は、樹木採取権者に対し、植栽をその樹木の採取と一体的に行うよう申し入れるものとされています。

 樹木採取権に基づき樹木が採取された跡地に植栽される樹木は、あくまで国有財産となります。このため、法律上、再造林を樹木採取権者に義務づけることは難しいようですが、重要なのは、確実に再造林が行われることです。

 政府は、運用により樹木の採取と再造林を一体的に行うことを確保するつもりのようですが、運用や契約で確実な再造林が担保できるのでしょうか。国有林野が公益的機能を継続して発揮していくためには、確実かつ適切な再造林が必須であり、その再造林を申し入れるというのでは余りに頼りない気がいたしますが、政府の見解を求めます。

 山村の振興についてお尋ねいたします。

 現在、山元の林業経営は不振が続き、林業労働力が不足しています。また、材価の低迷により、中小企業の製材工場は年々減少し、山村は疲弊しています。

 さらに、国の事業発注は、かつての随意契約から一般競争入札に移行し、一部で総合評価の手法が取り入れられているものの、価格競争は、長期的視野を持って地域の森林を守ってきた林業事業体の経営を危うくしています。

 このような中、提出された本法律案は、経済至上主義、大規模企業優先の考え方であり、地域の林業事業体の育成につながらないばかりか、山村の疲弊に拍車がかかるおそれがあるのではないですか。

 必要なことは、林業における地元雇用が安定的に確保されるなど、山村地域の振興に貢献できる対策ではないですか。民有林施策も含めた山村振興の方策についてお伺いいたします。

 林業労働者の確保、育成についてお尋ねいたします。

 林業労働者の雇用の実態は、林業作業の季節性や事業主の経営基盤の脆弱性等により、不安定なものとなっています。また、依然として日給制が大勢を占めている、賃金水準が、労働災害の発生率が全産業平均の十五倍という危険な労働に見合ったものとはなっていないなど、多くの問題を抱えています。

 林業労働者の確保、育成に向けて、雇用の安定化と労働条件の改善、安全な労働環境の確保など、国が責任を持って林業労働の環境整備を進めていくことが必要ではありませんか。林業を真に魅力ある産業とするための政府の決意と方策を伺います。

 国有林野事業の管理経営の実施体制の強化について伺います。

 国有林野事業については、地域の森林・林業への支援及び国有林の有する公益的機能の維持増進を確実に推進していくため、必要な財政上の措置を講ずることが不可欠です。さらに、現場管理の実態を踏まえた組織体制の強化、人材の確保、技術の継承を図っていく必要があると考えます。政府の見解をお伺いいたします。

 最後に、福島における森林の再生についてお伺いいたします。

 平成二十八年三月、復興庁、農林水産省、環境省の三省庁により、福島の森林・林業の再生に向けた総合的な取組が取りまとめられ、これにより実施されている里山再生モデル事業では、地域の要望を踏まえて選定したモデル地区において、里山再生を進めるための取組が総合的に推進されています。

 政府は、このモデル事業の成果について、いつごろ取りまとめ、今後どのように森林・林業の再生に結びつけていくのか、お伺いいたします。

 東日本大震災、原発事故の発災から八年が経過し、十年間の復興期間も残り二年となりました。政府は、本年三月、復興・創生期間における東日本大震災からの復興の基本方針の全部を変更する閣議決定を行いましたが、福島の復興再生は中長期的対応が必要であり、復興・創生期間後も引き続き国が前面に立って取り組むことが求められています。

 我が会派は、誰一人取り残さない、被災地の全ての人に光を当てる真の復興再生に向けて全力で取り組んでいることを申し上げ、私の質問といたします。(拍手)

    〔国務大臣吉川貴盛君登壇〕

国務大臣(吉川貴盛君) 金子議員の御質問にお答えいたします。

 本法律案の検討経緯についてのお尋ねがありました。

 本法律案につきましては、一昨年、閣議決定された未来投資戦略二〇一七に基づき実施した、国有林野の木材販売についての民間事業者からの改善提案において、現行よりも長期にわたり樹木を伐採できる制度の創設の希望が多数寄せられたことから、それらの提案を踏まえ、林政審議会において十分に審議をいただき、政府として本法律案を提出したものであります。

 林業経営者の経営の安定に向けましては、林業の成長産業化と森林資源の適切な管理に向けた森林経営管理制度が円滑に機能することが重要であります。

 このため、民有林を補完する形で、本法律案の樹木採取権制度により、意欲と能力のある林業経営者が長期的に安定した事業量を確保できるようにする考えであります。

 なお、本法律案におきましては、国が国有林野の管理経営の主体であることに変わりはなく、PFI法に基づく公共施設等運営権のように施設の運営を事業者に委ねる仕組みとは異なっております。

 公益的機能の維持増進や地域産業の振興についてのお尋ねがありました。

 本法律案におきましては、樹木採取権者は事業を開始する前に、権利の行使方法等を定めた五年ごとの契約を農林水産大臣と締結することとしております。

 この契約により、樹木採取権者の施業の計画は、現行の国有林の伐採のルールにのっとり、農林水産大臣の定める基準や国有林野の地域管理経営計画に適合しなければならないこととしており、このような仕組みによって公益的機能の確保が図られるものと考えています。

 また、樹木採取権者の選定に当たっては、樹木料の算定の基礎となる額や事業の実施体制、地域の事業振興に対する寄与の程度といった事項を勘案して評価することとしています。

 具体的には、地域における雇用の増大への取組や地域における事業の実績などを評価することを想定しており、地域における産業の振興や住民の福祉の向上といった国有林野の管理経営の目標に沿ったものとしているところであります。

 樹木採取権の存続期間の上限の考え方についてのお尋ねがありました。

 樹木採取権については、国の財産である国有林の樹木を独占的に採取する権利であり、その存続期間が過度に長期に及ぶことは望ましくなく、一般的な人工林の造林から伐採までの一周期が五十年程度であることから、その存続期間の上限を五十年としているものであります。

 このような中、地域の意欲と能力のある林業経営者の育成や地域の産業振興への寄与の観点から、これらの林業経営者が対応しやすい規模に鑑み、その期間は、十年を基本として運用していく考えであります。

 また、国有林野の適正な管理に関して、樹木採取権者は、農林水産大臣と五年ごとに具体的な施業の計画等を内容とする契約を締結しなければ樹木の採取はできないこととしています。

 これにより、国として、その時々における情勢や計画制度との整合性を図りつつ、国民共通の財産である国有林の公益的機能の維持増進を担保するものであり、権利の期間を通じて適切に事業が実施されるよう措置しているところであります。

 樹木採取区指定の基準と規模についてのお尋ねがありました。

 樹木採取区指定の基準については、杉、ヒノキ、カラマツなど一般的に流通している樹種の生産可能な人工林であること、権利期間にわたり採取に適した樹木の資源量を平準的に確保するために必要な面積を有していること等を想定しています。

 樹木採取区の規模については、地域の意欲と能力のある林業経営者が対応できるよう、当面は、一カ所数百ヘクタール程度の樹木採取区を十カ所程度、合計数千ヘクタール程度をパイロット的に指定し、取組を進めてまいります。

 樹木採取権の設定を受ける者についてのお尋ねがありました。

 樹木採取権の設定を受ける者は、森林組合、素材生産業者、自伐林家など都道府県が公表する意欲と能力のある林業経営者又はそれと同等の能力がある者であることを要件とすることから、投資のみを目的とする者は対象となりません。

 また、民有林からの木材の供給を圧迫しないためには、木材の新規の需要先が確保されることが重要であるため、丸太を利用する製材工場といった木材利用事業者等、製材工場などの製品を利用する工務店といった木材製品利用事業者等との協定などにより、木材の安定的な取引関係を確立することが確実と認められることを要件としております。

 さらに、地域における産業振興への寄与の程度については、素材生産量の増加を通じた雇用の増大、事業所の有無や事業の実績などについて、樹木採取区の所在する地域における取組を評価する考えです。

 植栽についてのお尋ねがありました。

 樹木採取権については、区域内の樹木を伐採することのみを権利の対象とし、伐採後の植栽は国が責任を持って行うことにより、その樹木は国有林として管理することとしております。

 他方、伐採後の植栽を低コストで効率的に実施するためには、樹木採取権者が伐採と一貫して植栽作業を行うことが望ましいと考えております。

 したがって、本法案における、「植栽をその樹木の採取と一体的に行うよう申し入れるものとする。」との規定に基づき、国が樹木採取権者を公募する際に、樹木採取権者が植栽の作業を行う旨申し入れることとしております。

 国は、この申入れに応じ、申請した者の中から樹木採取権者を選定することとなることから、樹木採取権者により確実に植栽が行われることとなります。

 山村地域の振興対策についてのお尋ねがありました。

 今回の仕組みにおいては、樹木採取区は、地域の意欲と能力のある林業経営者が対応できる規模を基本とすることとしています。

 また、樹木採取権者の選定に当たっても、樹木料の高低だけでなく、雇用の増大を始めとする地域への貢献度合いなどを総合的に評価するなど、大企業を優先するものではなく、地域の林業経営者の育成につなげていきたいと考えております。

 このような本法案の制度に加え、山村の所得、雇用の増大を実現するため、林業の成長産業化を図るとともに、森林の観光資源としての活用の推進、まきや炭、山菜等の地域資源の付加価値向上、地域住民等が行う里山林の保全、森林資源の利活用等の取組を支援することにより、山村地域の振興を図ってまいります。

 林業労働者の確保、育成についてのお尋ねがありました。

 林業従事者の確保、育成を図るためには、林業従事者の所得の向上や雇用の安定化、安全な職場の確保など労働条件の改善を図っていくことが極めて重要であると考えています。

 このため、農林水産省としては、林業の成長産業化を図り、林業経営体の収入をふやすとともに、素材生産から造林、保育まで、一年を通じた複数の林業作業に対応できる現場技能者の育成を支援するほか、高性能林業機械の活用への支援等を行ってきたところですが、さらに、安全な労働環境の確保のため、林業の現場への巡回指導や安全教育に対する支援等に加え、伐木等作業の無人化に向けた林業機械の開発等にも取り組むこととしています。

 国有林野の管理経営の実施体制の強化についてお尋ねがありました。

 国有林野の管理経営に関する基本方針を定める国有林野管理経営基本計画におきまして、国有林野事業については、公益重視の管理経営を一層推進することとしております。

 また、我が国の林業成長産業化に貢献するため、意欲と能力のある林業経営者の育成支援や市町村林務行政に対する技術的支援などに取り組むこととしております。

 こうした取組を着実に推進するため、必要な予算の確保に努めるとともに、国有林野の管理経営のみならず、民有林の指導やサポートに必要な技術や能力を持った人材の育成や確保に取り組む所存でございます。

 里山再生モデル事業についてのお尋ねがありました。

 平成二十八年三月に取りまとめた福島の森林・林業の再生に向けた総合的な取組に基づき、住居の近隣の森林の除染、間伐等の森林整備等を関係省庁が連携して行う里山再生モデル事業を実施しているところでございます。

 本事業につきましては、事業実施により得られた除染や森林整備等の知見を整理して、平成三十一年度内を目途にその成果を取りまとめ、福島の森林・林業の再生に向けた的確な対策の実施に反映をしてまいりたいと考えております。(拍手)

    〔議長退席、副議長着席〕

    ―――――――――――――

副議長(赤松広隆君) 緑川貴士君。

    〔緑川貴士君登壇〕

緑川貴士君 杉の人工林面積全国一の秋田県に住んでいます、国民民主党の緑川貴士です。

 議題となっています法律案につきまして、国民民主党・無所属クラブを代表いたしまして質疑をいたします。(拍手)

 私が住んでいる秋田県の北部には、一級河川である米代川が流れ、日本海に注がれています。豊富な天然杉の産地でもあり、江戸時代には、その流域に生い茂る秋田杉を丸太にして、山の上流部から、それをいかだに組んで、川下へと流しながら運んでいきました。いかだは一定の水量がなければ利用できず、川の流量がふえる雪解けから田植前までは、米代川はいかだのラッシュになったと言われ、木材や荷物の積卸しのために船場が整備されるなど、地域の林業が人々の交流や経済活動を活発にいたしました。

 時代は下って、若葉のみずみずしさ、そして、木が芽吹いて、鮮やかな新緑がまぶしい、山笑う季節がことしもめぐってまいりましたけれども、この四月も雪が降った秋田県では、雪化粧した山林で家族経営をなりわいとして間伐を行っているきょうだいの姿がありました。

 すらりと高く、真っすぐに伸びた人工林は、蒸し暑い夏も、寒さでいてつく冬も、人の手によって、下草刈りやつる草の除去、間伐といった地道な施業の上に成り立つ、山の宝であります。

 適切に手入れされている山がある一方で、人手不足が一層深刻になり、施業が行われなくなった森林が増加することで森の中が暗くなり、足元の植生が育たず、土壌の流出や生物多様性の喪失の懸念も指摘されています。

 国内では、森林資源の過少利用の問題点が色濃くなり、資源の持続的な利用が、令和の新たな時代に残した大きな課題である一方、本改正案をつくる過程では、未来投資会議の委員が国有林改革を盛んに主張していたことを受けて、当時の林政審議会施策部会の土屋俊幸部会長は、トップダウンで政策の枠組みが決まってしまったというのが現実にあると思います、専門の方でない方が、かなりこういう突っ込んだ戦略を出してきて、それを受けて我々が、若しくは林野庁、農林水産省が新たな政策を検討していかなくてはならない状況というのは、やはり転倒していると私は思います、正しい政策のあり方ではないと、昨年十一月の部会で発言されています。

 転倒しているという声のあった検討のプロセスが果たして適切であったのか、政府の見解を求めます。

 国土のおよそ三分の二が森林に覆われ、そのうちのおよそ三割を占める国有林は、水源の涵養や二酸化炭素の吸収源といった公益的な機能を担っています。改正案では、国有林の一定区域において、一定の期間、安定的に樹木を採取できる権利を意欲と能力のある林業経営者に設定できるとしていますが、国有林野の管理経営の目標の一つである、国土の保全その他国有林野の有する公益的機能の維持増進に向けた対策は十分とは言えません。

 今回の改正に当たり、意欲と能力のある林業経営者への権利の設定がこうした目標にどのように沿うものになるのか。また、この仕組みを運用した結果として、それぞれの林業経営者が思い思いに樹木をとって利益を得たとしても、国有林の管理経営のあり方を変更させるほどの影響はなく、これまでどおり国が責任を持って一体的に国有林を管理し、公益的機能は維持できるとお考えでしょうか。その理由とあわせて御説明を求めます。

 そもそも、国有林の九割が保安林であり、木の伐採方法や土地の形質の変更については一定の制限や義務が課せられた森林であります。保安林をこの仕組みの対象とすることがあり得るのか。あり得るとすれば、樹木の採取というこの物権的な権利を事業体に付与してまで国有林をその区域の対象とすることが適切であるというふうにお考えでしょうか。お答えください。

 公益的な機能は、子供たちの自然体験や自然学習に活用される面からも重要であります。学校と森林管理署などが協定を結び、こうした森林環境教育が行われていますが、その実施回数はふえる傾向にはあっても、活動に参加する子供たち全体の数は、少子化の中においては特に減っており、おととしの参加人数は、前の年の十万八千人から二万人減少して、およそ八万八千人でした。

 このほか、木の文化を支える森など、国民参加の森づくりを進める事業を含め、本改正案がこれらの活動に今後どのように影響するのか、吉川大臣に伺います。

 改正案では、樹木を採取できる権利を林業経営者に設定する際の条件として、民有林材の供給を圧迫しないように、川中、川下事業者との連携により、安定的な取引関係を確立することなどを求めていますが、それは、例えば素材生産者の事業規模が大きいことをもって安定的と評価をするんでしょうか。あるいは、川上から川下までを一体的にカバーできるような、企業グループなどが想定されているんでしょうか。また、安定的な取引関係があることによって、なぜ圧迫しないと言えるんでしょうか。政府の見解を伺います。

 この仕組みは、民有林で経営基盤が安定しない事業体のステップアップの場としても想定していると政府は説明をしますが、そもそもの前提として、一定規模以上の機械設備と人手があることによる効率的な素材生産が求められています。

 大きな事業体ばかりではない、中小の素材生産者や自伐林家も想定をしているとすれば、そうした事業体の育成に確実につながるものにしていくために、具体的にどのような措置を検討しているんでしょうか。御答弁を求めます。

 政府は緑の雇用事業などによって若手林業者の育成を図りますが、地元の林業経営者にお話を聞けば、炎天下の木の植付けや下刈りといった過酷な肉体労働を要する現場では、若手の確保が依然として大きな課題であります。頼りである熟練した技能を持つ従業員も高齢化して就業の継続ができないなど、リタイアの年齢が他の一次産業よりも早いことも担い手の減少に拍車をかけています。また、長年使用してきた作業機械も老朽化し、更新の時期を迎えても、設備投資が難しい状況であり、たとえ経営に意欲があったとしても、生産性が上がりにくい構造的な問題が立ちはだかっています。

 先ほど触れました、価格競争力の大きさが前提となる安定的な取引関係の確保を参入の条件とするのは相当にやはり厳しいというふうに考えますが、現場の実情を踏まえ、大臣の御認識を伺います。

 むしろ、民有林材の供給を圧迫しないという目的であれば、例えば、林齢の高い木材が求められる付加価値の高い伝統工芸品用として国産材を供給し、今後のインバウンド向けの工芸品需要の増加に対応させるなど、民有林材とのすみ分けを図った供給体制にしていくことで、事業規模や価格競争力のみにとらわれない、事業体の生産性をカバーできるような観点も重要であるというふうに考えますが、大臣の御認識を伺います。

 林野行政の総合的な政策を方向づける森林・林業基本計画によれば、山村等における就業機会の創出と所得水準の上昇をもたらす産業へと転換することを通じて、これによって林業の成長産業化を目指すというのがその趣旨です。

 今回の改正によって、林業にかかわる地域の雇用そして賃金にどういった効果をもたらし、雇用の受皿をどのように担保していくんでしょうか。お聞かせください。

 都市部から山村に移り住んで林業を始める二十代から三十代の若者がふえる傾向にもある中、自伐林業と区別されるものとして、森林を所有していない移住者の若者がその家族や仲間で林業を行う自伐型林業というものがあります。

 基本計画に示される、地域林業の発展、山村の振興という観点からも、本改正案を通じて自伐型林業を志す若者の林業経営への支援を行って、過疎対策、移住政策にもつなげていくべきであるというふうに考えますが、御見解を伺います。

 木材の供給先との連携についてお尋ねをいたします。

 国産材の利用割合は近年高まっているところですが、住宅を建てる材料として国産材を使用する場合には割高であると業者に言われ、外材を勧められるということも聞かれます。

 住宅用に国産材を利用することについて、関連業者にその使用を促す場合の課題をどのように認識しているでしょうか。石井国土交通大臣に伺います。

 また、住宅建材としての国産材の需要拡大に向け、建材の不燃化の取組も重要でありますが、燃えにくくするための薬剤をしみ込ませた不燃木材などが使われた多くの施設で、その薬剤の一部が外に浮き出る白華現象が起きていることがわかっています。専門家からは、防火性能が落ちているおそれがあると指摘されていますが、今後の政府の対応について石井大臣に伺います。

 樹木を採取できる区域を指定する基準としては、樹木の採取に適する相当規模の森林資源が存在する一団の国有林野区域であることを条件としていますが、樹木の種類も林齢構成も地域によってばらつきがあり、イメージが湧きません。

 一カ所当たりの伐採面積の上限を五ヘクタールとするなど、現行の伐採ルールの遵守を求めるとしていますが、これ以上の広さが可能かなどを含めて、区域の指定の具体的な基準について吉川大臣に伺います。

 また、このほかの指定基準として、森林の状態が良好であり、急傾斜地や林道から離れた奥山ではないことも挙げられています。こうした場所は伐採後の搬出が困難な側面があることは確かですが、多面的機能を維持するための立木の伐採はやはり必要であるというふうに考えます。

 これらを指定対象から外すということはどのような意味を持っているんでしょうか。吉川大臣にお尋ねいたします。

 おととし七月に発生した九州北部豪雨では、過去最大級と言われる流木災害も発生しています。

 戦後の造林運動の中で、火山灰の地質から成るもろい地盤の上にも、杉やヒノキなど、挿し木から育ち、根を深く張らない針葉樹が植林され、それらが成長しても適切な手入れがなされないことで災害の危険性が高まっている箇所がありますが、こうした箇所を政府はどこまで把握しているでしょうか。また、これらの国有林は、今回の指定区からは外すのか、あるいは、災害の発生を防ぐために、むしろ指定区として設定をするのか、御認識を伺います。

 国有財産である樹木の伐採後の造林については、法律上の義務づけができないことから、本改正案では、農林水産大臣が樹木採取権者に対して伐採と造林を一体として行うように申し入れるとしています。

 しかし、これはあくまで申入れであり、造林を受託する樹木採取権実施契約を締結して対応するとしていますが、それが公益的機能を維持するための再造林に確実につながるものになるのか、また、再造林が進まない場合、国としてどのような措置を講じるおつもりか、御答弁を求めます。

 政府は、平成八年から、花粉をほとんど出さない少花粉杉や花粉を全く出さない無花粉杉といった新たな品種の杉の開発を支援しながら植えかえを進めていますが、全国の杉の人工林のうち、昨年度までに植えかえられた面積はわずか〇・三%にとどまっています。

 もちろん、食生活の変化や大気汚染、喫煙なども花粉症患者の増加に影響していると言われますが、国産材を使うことが花粉症対策になりますと林野庁は強調しており、国有林の中長期的な活用を図る中で、飛散する花粉の量の増加を抑えるために、植えかえを含めた花粉の発生源対策を加速させていくべきであるというふうに考えますが、政府の見解を伺います。

 攻めの農林水産であるとか成長産業化などと勇ましい言葉が躍った平成の時代でありますが、一体誰のための見直しであり、地域に何をもたらすのか。理念ばかりが先行し、言葉のごまかしが繰り返された時代であったと後世言われないような、地域の実態に即した林業改革と、林業の多様な担い手に支援が行き届く道筋が描かれることを強く求めて、質問を終わります。(拍手)

    〔国務大臣吉川貴盛君登壇〕

国務大臣(吉川貴盛君) 緑川議員の御質問にお答えいたします。

 本法律案の検討プロセスについてのお尋ねがありました。

 本法律案につきましては、一昨年、閣議決定された未来投資戦略二〇一七に基づき実施した、国有林野の木材販売についての民間事業者からの改善提案において、現行よりも長期にわたり樹木を伐採できる制度の創設の希望が多数寄せられたことから、それらの提案を踏まえまして、林政審議会において十分に審議をいただき、政府として本法律案を提出したものであり、検討のプロセスは適切であったと考えております。

 公益的機能の維持についてのお尋ねがありました。

 本法律案におきましては、樹木採取権者は事業開始前に、権利の行使方法等を定めた契約を農林水産大臣と締結することとしております。

 この契約により、樹木採取権者の施業の計画は、国有林の伐採のルールにのっとり、農林水産大臣の定める基準や国有林野の地域管理経営計画に適合しなければならないこととしており、このような仕組みによって公益的機能の確保を図りつつ、国が責任を持って一体的に国有林野の管理経営を行ってまいります。

 樹木採取区の指定についてのお尋ねがありました。

 保安林においては、その指定の目的に応じた立木の伐採方法等を定めた指定施業要件の範囲で伐採を行うことは可能であり、保安林での樹木採取区の指定はあり得るものであります。

 樹木採取権者は、この保安林の指定施業要件に基づき伐採を行うため、保安林の指定の目的が損なわれない仕組みとなっております。

 子供たちの自然体験や自然学習などの活動との関係についてのお尋ねがありました。

 子供たちの自然体験等を推進する観点から、地域との協定等により、こうした活動が行われている森林において、樹木採取区を設定することは想定していません。

 このような考えのもと、国有林における木の文化を支える森づくりや森林環境教育といった取組は引き続き積極的に推進する考えであります。

 樹木採取権の設定についてのお尋ねがありました。

 権利の設定を受けようとする者に対しては、川中、川下事業者との協定などにより、木材の安定的な取引関係を確立することが確実であることを確認する考えにあり、事業者の規模や形態は問わない考えであります。

 また、このような安定的な取引関係により木材の新規の需要先が確保されていれば、民有林からの木材の供給を圧迫しないものと考えます。

 中小の林業経営者の育成についてのお尋ねがありました。

 今回の仕組みについては、樹木採取区は、地域の意欲と能力のある林業経営者が対応できる規模を基本とすることとしております。

 また、樹木採取権者の選定に当たっては、樹木料の高低だけではなく、地域への貢献度合いなどを総合的に評価するとともに、複数の中小事業者が協同組合等として申請することも可能としています。

 このように、今回の仕組みは、大企業優先ではなく、中小規模を含めた地域の林業経営者の育成に貢献する措置であると考えております。

 樹木採取権の要件についてのお尋ねがありました。

 国産材の需要を拡大していくためには、川上、川中、川下のサプライチェーンを構築していく必要があり、市場を介さず川上、川中の協定による直送方式の木材供給や、川上、川中、川下の事業者が連携した、顔の見える木材での家づくりなどの取組が進められており、安定的な取引関係の確保を条件としても対応できるものと考えています。

 民有林材とのすみ分けについてのお尋ねがありました。

 意欲と能力のある林業経営者からは、国有林に対して、長期的に安定した事業量を確保できることが求められており、付加価値の高い伝統工芸品用等の木材の供給が求められているわけではないことから、このことによる民有林材とのすみ分けは想定はしていません。

 また、樹木採取権者の選定に当たっては、地域への貢献度合い等を総合的に評価することとしており、事業規模や価格競争力のみで選定することにはならないと考えています。

 地域の林業の雇用との関係についてのお尋ねがありました。

 本法案の樹木採取権の設定を受けた事業者は、確実な事業量の見通しが得られることにより、人材や機械といった経営基盤が強化され、事業の拡大や生産性の向上が図られると考えています。

 これらにより、樹木採取権者が地域の雇用の受皿となるとともに、従事する方の賃金の改善につながると考えています。

 本法案による自伐林家への支援についてのお尋ねがありました。

 樹木採取権の設定を受ける者については、森林経営管理法に基づき、都道府県が公表する意欲と能力のある林業経営者などとしており、自伐林家についても対象となるものと考えております。

 今回の仕組みにより、自伐林家を含め、地域の林業経営者が長期的に安定した事業量を確保できるようにすることで、林業の成長産業化や山村振興に貢献するものと考えております。

 樹木採取区の指定についてのお尋ねがありました。

 樹木採取区については、樹木の採取に適する相当規模の森林資源が存在する一団の国有林野の区域等の基準に該当するものとし、当面は一カ所数百ヘクタール程度とする考えです。

 この中で、実際に伐採を行う場合には、国有林野の伐採のルールにのっとり、一カ所当たりの皆伐面積の上限を五ヘクタールとし、尾根や渓流沿い等には保残帯を設置すること等を遵守させる考えです。

 急傾斜地での伐採の必要性についてのお尋ねがありました。

 急傾斜地や林道から離れた森林については、木材生産を行っても採算が合わないことから、樹木採取区の指定の対象から外すこととしています。

 なお、このような箇所で公益的機能の発揮のため間伐等伐採が必要な場合は、森林整備事業により保育間伐等を行う考えでございます。

 災害の危険性が高い箇所の把握状況と樹木採取区としての扱いについてのお尋ねがありました。

 国有林においては、地質条件等に鑑み、山地災害の発生により被害のおそれがある等の箇所を把握した上で、重視する機能に応じて森林を区分して、管理経営を行っております。

 災害の危険性が高い森林については、樹木採取区の指定の対象外とする考えでございます。

 植栽についてのお尋ねがありました。

 植栽を低コストで効率的に実施するため、樹木採取権者が伐採と一貫して植栽作業を行うことが望ましいことから、法律案の、申し入れるとの規定に基づき、国が公募する際、樹木採取権者が植栽作業を行う旨申し入れることとしております。

 国は、申入れに応じた者の中から樹木採取権者を選定するため、樹木採取権者が確実に植栽を行うこととなります。

 仮に、事故等により樹木採取権者が行えない場合も、国が他の事業者に委託をすることにより、責任を持って植栽を実施いたします。

 花粉発生源対策についてのお尋ねがありました。

 杉花粉症は、国民の三割が罹患しているとも言われ、社会的、経済的にも大きな影響を及ぼしていることから、政府を挙げて対応すべき重大な課題であると認識をしています。

 このため、農林水産省では、花粉発生源対策として、花粉を大量に飛散させる杉、ヒノキ人工林の伐採、利用と植えかえの促進、花粉の少ない苗木の生産拡大、花粉飛散抑制技術の開発を進めているところでございます。

 さらに、今後、杉、ヒノキ人工林の伐採と花粉の少ない苗木への植えかえを促進していくためには、切って、使って、植えるといった、森林資源の循環利用を確立し、林業の成長産業化と森林資源の適切な管理を実現していくことが不可欠であり、これらの実現を図りつつ、国有林、民有林ともに花粉発生源対策を着実に進めてまいります。(拍手)

    〔国務大臣石井啓一君登壇〕

国務大臣(石井啓一君) 緑川貴士議員にお答えをいたします。

 住宅において国産材の使用を促す場合の課題についてお尋ねがありました。

 我が国の森林資源が本格的な利用期を迎える中、住宅に国産材を活用することによる木材需要の拡大は、林業の成長産業化や地域の活性化といった観点からも重要な課題であると認識をしております。

 一方、住宅事業者に対するアンケートによりますと、国産材を使用しない理由といたしまして、外国産材に比べて、価格が高い、必要なときに必要な量が確保できない等の課題が挙げられております。

 国土交通省といたしましては、これらの課題も踏まえながら、木材供給から木材加工、設計、施工等の関係事業者がグループを形成して取り組む、良質な木材住宅の供給に対する支援を推進しているところであります。

 引き続き、農林水産省とも連携しつつ、国産材を使用した良質な木造住宅の供給を促進してまいります。

 次に、白華現象に対する今後の対応についてお尋ねがありました。

 不燃木材について、防火性能を高めるために浸潤させていた薬剤成分の一部が、湿度の変化等に伴って木材の表面に浮き出る、いわゆる白華現象が生じる場合があることについては承知をしております。

 当該現象が及ぼす影響に関し、防火性能に係る建築基準法に基づく指定性能評価機関において、実験を行った結果、白華現象を人工的に発生させた不燃木材における防火性能への影響は認められなかった旨が報告をされております。

 このため、現段階においては、国として、白華現象が生じたことをもって防火性能に問題があるとは考えておりませんが、今後とも、関連する技術開発の動向を踏まえつつ、建築物における防火性能の確保に取り組んでまいります。(拍手)

    ―――――――――――――

副議長(赤松広隆君) 稲津久君。

    〔稲津久君登壇〕

稲津久君 公明党の稲津久です。

 私は、自由民主党、公明党を代表して、ただいま提案されました国有林野の管理経営に関する法律等の一部を改正する法律案について質問をします。(拍手)

 森林は、国土の保全、水源の涵養、地球温暖化の防止、林産物の供給等の多面的機能を持ち、国民生活、経済に多大な貢献をしています。

 このような状況のもと、森林・林業基本計画においては、林業、木材業の成長産業化を早期に実現することを重要視しており、農林水産省始め関係機関や業界を挙げて、国産材の安定供給と需要の拡大に取り組んでいるところです。

 昨年成立した森林経営管理法による新たな森林管理システムでは、経営管理が不十分な民有林を、意欲と能力のある林業経営者に集積、集約することとしました。

 今般、林業の成長産業化を図り、林業経営者を育成するためには、民有林からの木材供給を補完する形で、国有林から長期的、安定的に木材を供給し、林業経営者を支えることが必要として、本法律を改正することとしたものと承知をしております。

 そこで、以下、順次、農林水産大臣にお伺いします。

 まず、林業の成長産業化について伺います。

 森林・林業基本計画においては、林業及び木材産業を安定的に成長発展させ、山村等における就業機会の創出と所得水準の上昇をもたらす産業へ転換することとされています。

 国有林野事業及び本法律案による措置が林業の成長産業化にどのように貢献していくと考えているのか、所見を伺います。

 林業及び木材産業を成長産業化するためには、国産材の利用を促進するとともに、木材の輸出を拡大することが急務です。

 我が国の木材輸出額は二〇一三年以降増加し、二〇一八年には三百五十一億円、対前年比で七%の増となっており、期待が寄せられているところでありますが、品目別では、こん包材や土木資材向けの低価格、低質な丸太が四割を占め、輸出国も中国や米国等に集中しています。

 今後、付加価値の高い木材製品の輸出拡大と新たな輸出先国の開拓を講じるべきと考えますが、見解を伺います。

 林業、木材業の成長産業化に関連して、東京オリンピック・パラリンピックによる木材振興について伺います。

 開催を明年に控え、いよいよ各競技のイベントが始まり、本番に向けての準備が加速化しています。本大会は、日本の魅力を発信することを重要視し、日本食の提供や食文化への対応とともに、木材の利用促進を図ることとしています。

 日本の建具、家具、木の文化を国内外に発信し、同時に耐震性、耐火性、耐久性等を有した木材加工や建築の技術、品質やデザイン性のすぐれた合板など日本の木材製品のPRを積極的に展開し、国内での木材の利用拡大及び輸出振興等を図る絶好のチャンスと捉え、取組を推進すべきと考えますが、見解を伺います。

 次に、樹木の採取区の指定について伺います。

 本法律案において、農林水産大臣は、効率的で安定的な林業経営の育成を図るため、樹木の採取に適する相当規模の森林資源が存在する一団の国有林の区域であり、民有林と一体的に施策が推進でき、地域の産業に貢献できる等の基準に該当するものを樹木採取区の指定にすることができるとしています。

 概念として示してはいますが、具体的に、「樹木の採取に適する」や「相当規模」、「一団」の示す区域とはどのような区域を指すのか、また、どの程度樹木採取区を設定しようと考えているのか、伺います。

 次に、樹木採取の権利について伺います。

 本法案では、樹木採取権の設定を受ける者は、民有林からの木材の供給を圧迫しないため、木材利用事業者等、いわゆる川中や、木材製品利用事業者等、いわゆる川下との連携により、木材の安定的な取引関係を確立することが確実と認められること等の基準に適合しなければならないとしています。そして、この条件は、木材採取権の設定を受ける者の必須条件とされています。

 そこで、伺います。

 川中、川下との連携により、木材の安定的な取引関係を確立することが確実と認められることが、民有林からの供給を圧迫しないこととなる理由についてお答えください。また、木材の安定的な取引関係の確立にどのような計画性が求められるのか、見解を伺います。

 本法案では、農林水産大臣は、当該樹木採取区に係る樹木採取権者に対し、植栽をその樹木の採取と一体的に行うよう申し入れるものとするとしています。伐採した直後に跡地に残された枝や葉を除去して地ならしをし、植栽をすることにより、作業コストを大幅に縮減することができ、大宗の樹木採取区で伐採と造林の一貫作業が行われることは有効と考えます。

 本規定に基づき、樹木採取権者に伐採とあわせて確実に造林してもらうためにどのような手だてを講じるのか、お答えください。

 伐採後の植栽の際に、針葉樹などの育成単層林を整備して森林資源の循環利用を図ることだけではなく、育成複層林への転換を提案したいと思います。

 従来の林業では、伐期を迎えた人工林は一斉に切り出す、いわゆる皆伐方式が主流でしたが、近年は、必要な分だけ伐採し、そこに新たに苗木を植える育成複層林施業がふえてきています。このことにより、大きな木を伐採しても小さな木が残り、常に山が緑化していることで、森林の持つ公益的、多面的機能が発揮されます。また、針葉樹の人工林に広葉樹を導入する針広混交林をつくることによって、一層の機能効果が期待されます。

 育成複層林の導入を積極的に講ずるべきと考えますが、見解を伺います。

 次に、林業機械の導入、開発について伺います。

 高性能林業機械の導入は昭和六十年代に始まり、近年では、フォワーダー、プロセッサー、ハーベスター等を中心に増加しており、二〇一七年度の全国における保有台数は、合計で、前年比九%増の八千九百三十九台となっています。

 このように、伐採や集材などの作業の機械化については進展が見られるものの、植栽などの造林は依然として手作業によるものが多く、機械化がおくれています。

 また、我が国の森林は急峻な山間部に多く分布することから、急傾斜地等における効率的な作業システムに対応した次世代の架線系林業機械の開発が求められています。

 ロボット技術の活用等による再造林の作業を省力化する機械の開発について、今後の取組を伺います。また、あわせて、ドローン、ICTを使ったスマート林業の考え方についても見解を伺います。

 最後に、林業、木材業の人材育成について伺います。

 林業、木材産業の幅広い知識と確実な技術を身につけ、地域に根差した人材を育成するために、林業関係の学校や研修機関の設立が相次いでいます。これまでも、林野庁の補助事業として全国森林組合連合会が実施をし、林業作業士や現場管理責任者等の育成を行う緑の雇用事業や、厚生労働省の委託事業として同連合会が実施し、就業研修を行う林業就業支援講習などが行われ、成果を得ています。

 一方で、道府県独自の取組として、林業大学校等の開設が相次いでおり、目的や研修内容もバラエティーに富み、若手林業技術者の確保、育成に貢献しています。また、就業希望者や林業関係者のみならず、地方創生にも寄与するとして自治体の注目も寄せられています。

 林業大学校等について、現在の開校状況と今後の予定、農林水産省の支援や今後の方向性についても答弁を求め、私の質問を終わります。

 御清聴ありがとうございました。(拍手)

    〔国務大臣吉川貴盛君登壇〕

国務大臣(吉川貴盛君) 稲津議員の御質問にお答えいたします。

 林業の成長産業化にどのように貢献するのかについてお尋ねがありました。

 国有林野事業につきましては、公益重視の管理経営の一層の推進とともに、民有林に係る施策との連携を図りつつ、その組織、技術力、資源を活用して林業の成長産業化の実現に貢献していくこととしております。

 このような中、この四月より、林業の成長産業化と森林資源の適切な管理に向け、森林経営管理制度が民有林に導入されたことから、国有林としても、本制度が円滑に機能するよう積極的に支援していく考えでございます。

 具体的には、制度のかなめとなる意欲と能力のある林業経営者の育成が必要であることから、本法案の樹木採取権制度により、意欲と能力のある林業経営者が長期的に安定した事業量を確保できるようにすることで、林業の成長産業化に貢献するものと考えております。

 木材輸出についてのお尋ねがありました。

 我が国の木材輸出額は、平成二十五年以降、六年連続で増加しており、平成三十年は対前年比七%増の三百五十一億円となりました。品目別には丸太が四割を占め、輸出先別では、中国、韓国、フィリピン、台湾、米国で九割を占めています。

 農林水産省では、丸太中心の輸出から付加価値の高い製品輸出への転換を進めるとともに、新たな輸出先国の開拓のために、日本産木材を使用したモデル住宅等による展示や、セミナーの開催等による高付加価値木材製品のプロモーション活動、輸出向け製品の規格検討や、設計・施工マニュアルの作成、木造軸組み構法の講習会を開催、製材、合板やプレカット加工等の企業連携への支援等に取り組むこととしております。

 今後とも、ジェトロなど輸出関連団体等と連携して、付加価値の高い木材製品の輸出促進とともに、新たな輸出先国の開拓に積極的に取り組んでまいります。

 木材製品の国内外に向けたPRについてのお尋ねがありました。

 東京オリンピック・パラリンピックに向けては、現在建設中の新国立競技場に四十七都道府県から調達した木材が利用されているほか、多くの会場整備において木材が使用されているところです。

 また、それらの施設の中には、内装に木を使うとともに、貴賓室や受付において木製家具等を導入する施設もあり、来訪者に木の魅力を伝えようとしているところです。

 これから、オリンピック・パラリンピックに向け増加が予測される訪日観光客を含め、選手、観客、関係者の皆様に、日本の木の文化や建築技術、すぐれたデザインの木材製品をPRすることで、木材の利用拡大や輸出振興等を図ってまいります。

 樹木採取区の指定についてのお尋ねがありました。

 樹木の採取に適する相当規模の森林資源が存在する一団の国有林野の区域については、杉、ヒノキ、カラマツ、トドマツなど一般的に流通している樹種の生産可能な人工林であること、権利期間にわたり採取に適した樹木の資源量を平準的に確保するために必要な面積を有していること、一定期間、機械や土場を移転させずに、効率的に事業を実施できる程度の林分のまとまりが確保できること等の基準に相当する森林を想定しています。

 樹木採取区の指定については、地域における国産材供給量増大等のニーズも踏まえ、当面は、一カ所数百ヘクタール程度の樹木採取区を十カ所程度、合計数千ヘクタール程度をパイロット的に指定し、取組を進めてまいります。

 樹木採取権の設定についてのお尋ねがありました。

 民有林からの木材の供給を圧迫しないためには、木材の新規の需要先が確保されていることが重要です。このため、丸太を利用する製材工場といった木材利用事業者等、製材工場などの製品を利用する工務店といった木材製品利用事業者等との協定などにより、木材の安定的な取引関係を確立することが確実と認められることを要件としたものであります。

 権利の設定を受ける者に対しては、木材の安定的な取引関係の確立に関する事項として、取引先ごとに、樹種や用途、量等について、当面五年間の計画の提出を求める考えでございます。

 植栽についてのお尋ねがありました。

 樹木採取権については、区域内の樹木を伐採することのみを権利の対象とし、伐採後の植栽は国が責任を持って行うことにより、その樹木は国有林として管理することとしております。

 他方、伐採後の植栽を低コストで効率的に実施するためには、樹木採取権者が伐採と一貫して植栽作業を行うことが望ましいと考えております。

 したがって、本法案における、植栽をその樹木の採取と一体的に行うよう申入れをするものとするとの規定に基づき、国が樹木採取権者を公募する際に、樹木採取権者が植栽の作業を行う旨申し入れることとしております。

 国は、この申入れに応じ、申請した者の中から樹木採取権者を選定することとなることから、樹木採取権者により確実に植栽が行われることとなります。

 育成複層林の導入についてのお尋ねがありました。

 平成二十八年に策定された森林・林業基本計画においては、それぞれの森林に期待される機能や自然条件等に応じて、多様で健全な森林へ誘導することとしています。

 具体的には、約一千万ヘクタール存在する育成単層林のうち、将来的には、約三百五十万ヘクタールを育成複層林に誘導することを目指しており、森林整備事業によって取組を推進しているところでございます。

 戦後に造成された人工林が利用期を迎えている中、この資源を循環的に利用しながら、多様な樹種や階層から成る複層林化を推進し、公益的機能の一層の発揮を図る所存でございます。

 林業機械の開発、スマート林業についてのお尋ねがありました。

 林業における伐採、搬出などの素材生産における作業の負担軽減については、高性能林業機械の導入等により進めているところでございますが、急峻な地形への対応や、植林、下刈りなどの造林作業について機械化が進んでいないことが大きな課題と認識をいたしております。

 このため、急傾斜地での作業の安全性、生産性を向上させる架線系の搬出用林業機械、苗木植栽ロボットや造林作業の労働負荷を軽減するアシストスーツなど、伐採、造林の各作業に対応した機械の開発を進めてまいります。

 また、林業の効率化に向けては、近年発展が目覚ましいドローンやICT等の先端技術の活用が有効であると考えており、これらを活用するスマート林業の取組をあわせて進め、林業の成長産業化につなげてまいりたいと考えます。

 林業大学校の開校状況についてのお尋ねがありました。

 林業技術者、技能者を育成する、いわゆる林業大学校については、平成二十三年度に全国で六校であったものが、その後、毎年のように新設され、現在、十八校が設置、運営されているところでございます。また、来年以降も、北海道を始め、複数の開校が予定、検討されていると承知をいたしております。

 農林水産省としては、林業大学校の指導力向上のため、森林技術総合研修所での教職員の研修受入れや講師の派遣、林業大学校における林業普及指導員による技術指導への支援を行うとともに、林業大学校で学ぶ青年に対し、緑の青年就業準備給付金を支給しているところでございます。

 林業の成長産業化に向けて、林業の人材育成対策は重要と考えており、緑の雇用事業による新規就業者に対する研修等の対策とあわせ、今後とも、都道府県と連携しながら支援を行ってまいります。(拍手)

    ―――――――――――――

副議長(赤松広隆君) 田村貴昭君。

    〔田村貴昭君登壇〕

田村貴昭君 日本共産党の田村貴昭です。

 私は、日本共産党を代表して、国有林野の管理経営に関する法律等の一部を改正する法律案について質問します。(拍手)

 本法案の目的は、昨年の通常国会で成立した森林経営管理法の、意欲と能力のある伐採業者の育成にあります。

 昨年の審議の際、農林水産省は、全国の森林所有者へのアンケート結果として、森林所有者の八四%が経営意欲が低いとする資料を提出しました。しかし、実際には、森を頑張って守っていきたいと考える所有者が八六%に上っていたことが明らかになり、資料の捏造を認め、撤回しました。全国の森林所有者を経営の意欲が低いと決めつけたことを反省すべきであります。改めて農林水産大臣の認識を伺います。

 森林経営管理法は、森林所有者に経営の意欲がないと認定すれば、その同意なしに森林の経営管理権を取り上げて伐採業者に手渡し、大規模に伐採させてしまうものです。本法案は、そうした伐採業者に対し、国有林の樹木採取権、すなわち伐採権を与えることで経営を支援しようとするものであります。

 重大なことは、最長五十年間に及ぶ排他的な伐採権を与えることです。しかも、広範囲に樹木を皆伐することが前提となっています。さらに、伐採業者には、伐採権だけを与え、伐採後の植林と森林の再生を義務づけていません。申し入れるとしているだけです。なぜ、伐採業者に森林の再生を義務づけないのですか。これでは対象となる国有林がはげ山になってしまうのではありませんか。

 大規模な皆伐が何をもたらすのか。高性能林業機械により効率的に伐採を行うには、大きな林道を造成することが必要となります。大きな林道は、土砂崩れや雨による表土の流出を引き起こし、川底の上昇を招いて河川の氾濫につながり、国土の荒廃を招くのではありませんか。

 そもそも、戦後の大規模伐採による森林資源の枯渇と輸入自由化の推進が林業の衰退と山村の過疎を招きました。大規模伐採で使える木材がなくなってから五十年余りを経た今、ようやく森林が回復し、良質の木材が供給できるようになってきたのです。

 五十年で皆伐を行う、短伐期皆伐施業を繰り返せば、再び森林資源を枯渇させることになります。戦後の林政の失敗から学ぶべきであり、同じことを繰り返してはなりません。

 本法案で伐採権者になれるのは、事実上、短伐期皆伐施業の業者に限定されてしまいます。しかし、全国には、間伐を繰り返しながら、百年、二百年かけて価値の高い森をつくり、持続可能な林業を目指す自伐林家の方々がたくさんおられます。こうした長伐期多間伐の施業にこそ光を当てるべきであり、地元に根差して頑張っている自伐林家や国有林を専門に仕事をしてきた小規模の事業者などに国有林の仕事を任せていくべきではありませんか。

 最後に、国有林は、水源を涵養し、土砂災害を防ぎ、生物多様性を守り、二酸化炭素を吸収して気候温暖化を防止し、国民の健康と文化に寄与するという、公益的機能を有しています。この機能を守るためにも、短伐期皆伐施業に偏重する森林政策を改め、持続可能な林業を目指すべきであることを強調し、質問を終わります。(拍手)

    〔国務大臣吉川貴盛君登壇〕

国務大臣(吉川貴盛君) 田村議員の御質問にお答えいたします。

 昨年の森林経営管理法案の審議の際の説明資料の修正についてのお尋ねがありました。

 森林経営管理法案の審議の際の説明資料の修正については、資料のもととなった調査結果のデータそのものを修正したものではなく、その整理の仕方について正確性を期したものでございます。

 したがって、我が国の森林の適切な管理を図るためには、現に経営管理が不十分な森林について経営管理の集積、集約化を図ることが課題であり、その実現のためには、これらの森林を、経営規模の拡大を志向する者を中心とした担い手につなぐという必要性が変わるものではないと考えております。

 植栽についてのお尋ねがありました。

 樹木採取権は、事業者が一定の期間、公益的機能の確保等の観点から国が定めるルールにのっとり樹木を伐採する権利であり、伐採後の植栽は国が責任を持って行うことにより、その樹木は国有林として管理することとしております。

 他方、伐採後の植栽を低コストで効率的に実施するためには、樹木採取権者が伐採と一貫して植栽作業を行うことが望ましいと考えております。

 したがって、本法案における、「植栽をその樹木の採取と一体的に行うよう申し入れるものとする。」との規定に基づき、国が樹木採取権者を公募する際に、樹木採取権者が植栽の作業を行う旨申し入れることとしております。

 国は、この申入れに応じ、申請した者の中から樹木採取権者を選定することとなることから、樹木採取権者により確実に植栽が行われることとなります。

 林道についてのお尋ねがありました。

 林業の成長産業化を実現するためには、高性能林業機械の導入と林道等の路網の整備を進め、木材生産や造林コストの削減を図ることが重要です。また、森林資源の適切な管理のためにも、路網が不可欠です。

 林道の整備に当たっては、地形に沿った線形にするとともに、必要最小限の道幅とするなど、崩れにくく、丈夫で簡易なものとなるよう努めているところでございます。

 農林水産省としては、林業の成長産業化と森林資源の適切な管理を実現するため、引き続き適切な林道の整備を推進してまいります。

 森林資源の管理についてのお尋ねがありました。

 我が国の森林は、戦後の荒廃林地への復旧造林、戦後の復興や高度経済成長を支える木材を供給するための拡大造林などの後、数十年の歳月を経て、資源が充実し、主伐期を迎えつつあります。

 この豊富な森林資源は、若い林が非常に少なく資源構成に偏りがあることから、伐期が到来した資源を適時に伐採し、その後、再造林を行うことにより、切って、使って、植えるといった循環利用を進めていく必要があります。

 また、自然的条件などによっては、長伐期による森林経営が適している場合もあり、一律に五十年での皆伐のみを進めるのではなく、地域の実情に応じた適切な資源管理を図ることが重要と考えています。

 国有林専門の小規模事業者などに国有林の仕事を任せていくべきとのお尋ねがありました。

 今回の新たな仕組みについては、現行の入札による方式を引き続き基本とした上で、今後供給量の増加が見込まれる国有林材の一部について導入することとしております。

 また、樹木採取権者の選定に当たっては、樹木料の高低だけではなく、地域への貢献度合いなどを総合的に評価するとともに、複数の中小事業者が協同組合等として申請することも可能としています。

 このように、今回の仕組みは、中小規模を含めた地域の林業経営者の育成に貢献する措置であると考えております。

 国有林の皆伐施業についてのお尋ねがありました。

 国有林野事業においては、公益的機能の維持増進を図るとともに、林産物を持続的かつ計画的に供給するという目標のもと、個々の国有林において、水源涵養や山地災害防止等、重視すべき機能に応じて、皆伐施業だけでなく、長伐期化や複層林化、針広混交林化など、多様な森づくりに取り組んでいるところでございます。(拍手)

副議長(赤松広隆君) これにて質疑は終了いたしました。

     ――――◇―――――

副議長(赤松広隆君) 本日は、これにて散会いたします。

    午後三時十五分散会

     ――――◇―――――

 出席国務大臣

       厚生労働大臣  根本  匠君

       農林水産大臣  吉川 貴盛君

       国土交通大臣  石井 啓一君

 出席副大臣

       農林水産副大臣 小里 泰弘君


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