衆議院

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第28号 令和4年5月19日(木曜日)

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令和四年五月十九日(木曜日)

    ―――――――――――――

 議事日程 第二十三号

  令和四年五月十九日

    午後一時開議

 第一 安定的かつ効率的な資金決済制度の構築を図るための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律案(内閣提出)

 第二 刑法等の一部を改正する法律案(米山隆一君外二名提出)

 第三 刑法等の一部を改正する法律案(内閣提出)

 第四 刑法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整理等に関する法律案(内閣提出)

 第五 農林水産物及び食品の輸出の促進に関する法律等の一部を改正する法律案(内閣提出、参議院送付)

 第六 困難な問題を抱える女性への支援に関する法律案(参議院提出)

 第七 障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策の推進に関する法律案(参議院提出)

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 日程第一 安定的かつ効率的な資金決済制度の構築を図るための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律案(内閣提出)

 日程第二 刑法等の一部を改正する法律案(米山隆一君外二名提出)

 日程第三 刑法等の一部を改正する法律案(内閣提出)

 日程第四 刑法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整理等に関する法律案(内閣提出)

 日程第五 農林水産物及び食品の輸出の促進に関する法律等の一部を改正する法律案(内閣提出、参議院送付)

 日程第六 困難な問題を抱える女性への支援に関する法律案(参議院提出)

 日程第七 障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策の推進に関する法律案(参議院提出)


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    午後一時二分開議

議長(細田博之君) これより会議を開きます。

     ――――◇―――――

 日程第一 安定的かつ効率的な資金決済制度の構築を図るための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律案(内閣提出)

議長(細田博之君) 日程第一、安定的かつ効率的な資金決済制度の構築を図るための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律案を議題といたします。

 委員長の報告を求めます。財務金融委員長薗浦健太郎君。

    ―――――――――――――

 安定的かつ効率的な資金決済制度の構築を図るための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律案及び同報告書

    〔本号末尾に掲載〕

    ―――――――――――――

    〔薗浦健太郎君登壇〕

薗浦健太郎君 ただいま議題となりました法律案につきまして、財務金融委員会における審査の経過及び結果を御報告申し上げます。

 本案は、金融のデジタル化等に対応し、安定的かつ効率的な資金決済制度の構築を図るため、いわゆるステーブルコインへの対応として、電子決済手段の取引等を業として行う者への登録制の導入、及び、マネーロンダリング対策等のため、複数の銀行等の委託を受けて、為替取引のモニタリング等を業として行う者への許可制の導入等の改正を行うものであります。

 本案は、去る五月十日当委員会に付託され、翌十一日鈴木国務大臣から趣旨の説明を聴取し、十三日、質疑を行い、質疑を終局いたしました。十七日採決いたしましたところ、本案は全会一致をもって原案のとおり可決すべきものと決しました。

 以上、御報告申し上げます。(拍手)

    ―――――――――――――

議長(細田博之君) 採決いたします。

 本案の委員長の報告は可決であります。本案は委員長報告のとおり決するに御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

議長(細田博之君) 御異議なしと認めます。よって、本案は委員長報告のとおり可決いたしました。

     ――――◇―――――

 日程第二 刑法等の一部を改正する法律案(米山隆一君外二名提出)

 日程第三 刑法等の一部を改正する法律案(内閣提出)

 日程第四 刑法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整理等に関する法律案(内閣提出)

議長(細田博之君) 日程第二、米山隆一君外二名提出、刑法等の一部を改正する法律案、日程第三、内閣提出、刑法等の一部を改正する法律案、日程第四、刑法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整理等に関する法律案、右三案を一括して議題といたします。

 委員長の報告を求めます。法務委員長鈴木馨祐君。

    ―――――――――――――

 刑法等の一部を改正する法律案(米山隆一君外二名提出)及び同報告書

 刑法等の一部を改正する法律案(内閣提出)及び同報告書

 刑法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整理等に関する法律案及び同報告書

    〔本号末尾に掲載〕

    ―――――――――――――

    〔鈴木馨祐君登壇〕

鈴木馨祐君 ただいま議題となりました三法律案につきまして、法務委員会における審査の経過及び結果を御報告申し上げます。

 まず、内閣提出の刑法等の一部を改正する法律案は、刑事施設における受刑者の処遇及び執行猶予制度等のより一層の充実を図るため、懲役及び禁錮を廃止して拘禁刑を創設するとともに、執行猶予の言渡しをすることができる対象者の拡大等の措置を講ずるほか、近年におけるインターネット上の誹謗中傷を始めとした公然と人を侮辱する犯罪の実情等に鑑み、侮辱罪の法定刑を引き上げようとするものであります。

 次に、内閣提出の刑法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整理等に関する法律案は、刑法等の一部を改正する法律の施行に伴い、関係法律の規定の整理等を行うものであります。

 次に、米山隆一君外二名提出の刑法等の一部を改正する法律案は、最近におけるインターネット上の誹謗中傷による被害の実情に鑑み、人の内面における人格に対する加害の目的でこれを誹謗し、又は中傷する行為についての処罰規定を整備する等の所要の措置を講じようとするものであります。

 以上三法律案は、去る四月二十一日、本会議において趣旨説明及び質疑が行われた後、本委員会に付託されました。

 翌二十二日古川法務大臣及び提出者鎌田さゆり君からそれぞれ趣旨の説明を聴取し、二十六日から質疑に入り、同日参考人から意見を聴取しました。

 五月十三日、内閣提出の刑法等の一部を改正する法律案に対し、立憲民主党・無所属から、侮辱罪の法定刑引上げについて、懲役、禁錮を削除することを内容とする修正案が提出され、趣旨の説明を聴取した後、三法律案及び同修正案を一括して質疑を行いました。

 昨十八日、内閣提出の刑法等の一部を改正する法律案に対し、自由民主党、立憲民主党・無所属、日本維新の会、公明党及び国民民主党・無所属クラブの共同提案により、侮辱罪の法定刑引上げの規定について、施行後三年を経過したときに検証する規定を追加する修正案が提出され、趣旨の説明を聴取した後、三法律案及び両修正案について一括して質疑を行い、質疑を終局しました。

 質疑終局後、三法律案及び両修正案について一括して討論を行い、順次採決の結果、まず、米山隆一君外二名提出の刑法等の一部を改正する法律案は賛成少数をもって否決すべきものと決しました。次に、内閣提出の刑法等の一部を改正する法律案については、立憲民主党・無所属提案に係る修正案は賛成少数をもって否決され、自由民主党、立憲民主党・無所属、日本維新の会、公明党及び国民民主党・無所属クラブの共同提案に係る修正案及び修正部分を除く原案はいずれも賛成多数をもって可決され、修正議決すべきものと決しました。次に、内閣提出の刑法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整理等に関する法律案は、賛成多数をもって原案のとおり可決すべきものと決しました。

 なお、内閣提出の刑法等の一部を改正する法律案に対し附帯決議が付されたことを申し添えます。

 以上、御報告申し上げます。(拍手)

    ―――――――――――――

議長(細田博之君) 討論の通告があります。順次これを許します。階猛君。

    〔階猛君登壇〕

階猛君 立憲民主党の階猛です。

 立憲民主党・無所属を代表し、政府提出の両法案に反対、立憲民主党提出の対案に賛成の立場から討論を行います。(拍手)

 なお、便宜上、政府案を侮辱罪厳罰化法案、立憲案を加害目的誹謗等罪法案と言います。

 さて、ネットを使った匿名の情報発信で他人を誹謗中傷し、相手の心身にダメージを与える事件が後を絶ちません。女子プロレスラーの木村花さんのように、自殺に至った悲惨なケースもあります。こうした卑劣な行為に適切に制裁を加え、再発を防ごうとする目的について、政府と我が党との間に違いはありません。

 問題は、目的達成のための手段です。

 政府の侮辱罪厳罰化法案は、刑法の中で、現状、最も軽い、拘留又は科料という侮辱罪の法定刑に、三十万円以下の罰金や一年以下の懲役若しくは禁錮を加え、厳罰化するものです。しかし、この厳罰化の内容でなぜ必要十分なのかについては、名誉毀損罪の法定刑とのバランスを取るといった形式的な説明しかしていません。

 政府・与党は、厳罰化によって公訴時効の期間が一年から三年に延びる、犯人を検挙しやすくなるというメリットを主張しています。しかし、従来の刑に三十万円以下の罰金を加えるだけで、公訴時効の期間は同様に延長されるのです。

 むしろ、一年以下の懲役若しくは禁錮を法定刑に加えれば、刑事訴訟法上の逮捕要件が緩和されます。侮辱罪について、公権力や私人による現行犯逮捕が頻発するおそれが生じます。そうなれば、表現の自由が萎縮し、刑事司法の混乱が生じることは火を見るより明らかです。

 このような我が党の指摘に対し、政府・与党も、侮辱罪による現行犯逮捕は実際上想定されないとの政府統一見解を示しました。この点は評価します。ただし、二年前には、検察官の任期延長はできないという政府見解が国民の知らぬ間に勝手に変更されるという事件がありました。今回の政府統一見解を遵守するよう厳しく求めます。

 また、政府は、厳罰化を行うことで、ネット上の誹謗中傷を行おうとする者に対し、威嚇、抑止効果が働くと説明します。しかし、そもそも、現時点でネット上の誹謗中傷による被害が年間どれぐらい発生しているのか、政府は把握していません。侮辱罪厳罰化法案が施行されてネット上の誹謗中傷が減るのか増えるのかすら、答弁できていません。威嚇、抑止効果が働くという政府の説明は、単なる希望的観測にすぎません。

 一方、侮辱罪の実行行為である侮辱とは、他人に対する軽蔑の表示を意味します。ネット上でよく見られる、○○は死ねばいいのにといった個人の主観的な意見や感想はこれに当たらないため、幾ら厳罰化しても侮辱罪で処罰できないのです。

 このように、侮辱罪厳罰化法案のメリットや効果は疑わしい反面、デメリットや弊害は法務委員会での審議を通じて浮き彫りになりました。それは、ネット上であれリアルな世界であれ、いかなる言動が侮辱罪の構成要件に当たるかについて明確な基準はないということです。しかも、名誉毀損罪と異なり、表現の自由を保護するための違法性阻却事由を定める規定も侮辱罪にはないのです。一般国民は、どこまでが正当な表現行為で、どこからが違法な表現行為に当たるのか、事前に予測できません。

 例えば、街頭演説やデモ行進において、政治家や一般市民が、細田議長は無責任な人間だとか、細田議長は欲張りだとか、細田議長は女性を弄んでいると言い放った場合、侮辱罪で処罰されるのか。これは、まさに出たとこ勝負、捜査司法機関の胸先三寸です。

 一方、細田議長のような公職にある人物に対し、事実を摘示した上でこのような発言をしたとします。その場合は、その事実が真実である場合はもちろん、真実だと信じたことに相当な理由があれば処罰されないことが刑法や判例で確立しています。

 つまり……(発言する者あり)よく聞いてください。やじはやめてください。誹謗中傷、やめてください。

 つまり、衆議院小選挙区の十増十減の根拠となったアダムズ方式を採用する法案を国会に提出しておきながら十増十減案に反対する細田議長は無責任だと述べたり、物価高でも賃金が増えない国民が多い中、議長になっても毎月歳費は百万円しかないと愚痴を言う細田議長は欲張りな人間だと述べたり、女性記者に対してセクハラ発言を行った細田議長は女性を弄んでいると述べたりした場合は、名誉毀損罪でも侮辱罪でも処罰されないのです。

 同じ議長の名誉を害する発言であるにもかかわらず、前提となる事実に触れていれば合法、触れなければ侮辱罪に当たるかもしれないということです。明らかにバランスを失しており、健全な民主主義の発展にとって不可欠な、権力者への批判を無用に萎縮させかねません。

 政府は、侮辱罪厳罰化法案が成立しても侮辱罪の処罰範囲は変わらず、権力者への批判を萎縮させることはないとします。しかし、そもそも、現在の処罰範囲がどうなっているか、明らかにしていません。よって、意味がありません。

 これまでは、侮辱罪の法定刑が軽かったので実害はほとんどありませんでした。しかし、侮辱罪の厳罰化がなくても、他の理由でもって、街頭演説で安倍首相にやじを飛ばした一般市民がその場から排除され、一時監視されるという事件も起きています。こうした状況で厳罰化を行い、国民の人権をより強く制約しようとするのであれば、侮辱罪の処罰範囲がどうなっているのか、明確な判断基準を示すべきです。

 更に言えば、今回の政府案では、懲役及び禁錮を廃止し、改善更生を図るために必要な指導を行い得る拘禁刑というものを創設します。厳罰化によって、侮辱罪を犯した者にも拘禁刑が科されるようになります。権力者を批判して拘禁刑になった者にはどのような指導がなされるのでしょうか。現在のロシアや戦前の日本を考えると、不安の念を抱かざるを得ません。

 他方、我が党提出の加害目的誹謗等罪法案は、表現の自由の萎縮を避け、インターネット上の誹謗中傷行為につき、適切に刑事、民事の制裁を加えられるようにするものです。この法案は、侮辱罪には当たらない他人を傷つける悪質な言動についても処罰範囲を明確にした上で処罰し、表現の自由に配慮した要件や特則を設けています。侮辱罪厳罰化法案よりも害が少なく益が多いことは明らかであり、我が党の法案の方が優れています。

 最後に、昨日は五月十八日でした。この五月十八日という日付は、国会の名誉を守った日として私にとって忘れられない日です。

 検察官の任期延長ができないという政府解釈を国会に無断で変えたことを正当化する一昨年の検察庁法改正案、名古屋入管でウィシュマさんが死に至った真相を国会に隠蔽したまま入管の権限、裁量を強めようとした昨年の入管法改正案、いずれの法案もこの五月十八日に政府が成立を断念しました。両法案とも法務省が所管し、私は、法務委員会の野党筆頭理事として、同志とともに法案の問題点を指摘し、成立させるべきではないと強く主張しました。もしもこれらの法案の成立を許していれば、政府による国会への侮辱行為を容認してしまい、我が国の憲政史上に汚点を残すところでした。

 そうした事態を食い止めるために大きな役割を果たしたのは、SNSや街頭を通じて多くの方々が政府を批判する声を上げたことであります。侮辱罪厳罰化法案が成立すれば、こうした健全な政府批判が萎縮し、政府による国会、ひいては国民へのいわば侮辱行為がまかり通ってしまう危険があるのです。

 本日、我が党の加害目的誹謗等罪法案が受け入れられず、問題の多い侮辱罪厳罰化法案は抜本的な修正が加えられずに衆議院で通過する情勢となっています。痛恨の極みですが、まだ参議院の審議があります。

 憲法で保障された基本的人権の中でも、民主主義と自己実現の見地から、優越的地位にある表現の自由。一旦、権力者によって踏みにじられたら、取り戻すことは困難な表現の自由。この重要で壊れやすい人権である表現の自由を我が党は守りつつ、卑劣な誹謗中傷には被害者とともに戦い、厳しい制裁を加えていくために全力を尽くすことを誓います。

 昨年、一昨年と、国会での数の力で劣っていても、民意の力で間違った法案は正すことができるということが証明されました。このことを今ネット上で御覧になっている皆さんにもお伝えし、立憲民主党へのお力添えを心よりお願いして、私の討論を終わります。

 御清聴ありがとうございました。(拍手)

議長(細田博之君) 守島正君。

    〔守島正君登壇〕

守島正君 日本維新の会、守島です。

 私は、会派を代表して、政府提出の刑法等の一部を改正する法律案及び刑法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整理等に関する法律案に対して賛成、立憲民主党提出の法律案に反対の立場から討論いたします。(拍手)

 今回の大きな改正点の一つ目である、犯罪者の処遇を一層充実させ、立ち直りを後押しするための諸制度の導入に関して、まず、懲役と禁錮を廃止し、新たに拘禁刑を創設することについては、懲役と禁錮という二つの刑が創設された明治時代と現在では、刑罰に関する社会的な認識や期待される効果が大きく異なっております。昔は懲らしめとしての要素が強かったものが、今では再犯防止や更生といった役割が強く求められるようになっています。

 改善更生を図るため、必要な作業を行わせ、又は必要な指導を行う拘禁刑の創設により、個々の受刑者の心身の状態その他の特性に応じた更生プログラムが実施できるようになることに加え、刑務作業以外の様々な処遇の選択肢を増やすことは、近年の高齢受刑者が増加しているという刑務所の実態に合致したものであると考えております。

 また、十分な教育を受けることがなかった受刑者に、刑務作業だけを行わせるのではなく、刑務所内で出所後の社会生活や就労に必要な基礎的学力を身につける教育を受けさせることが可能となります。

 加えて、今回の改正案では、執行猶予制度の拡充や、刑事施設内や社会内処遇の充実化等を図ることも規定されており、検挙者に占める再犯者の割合、いわゆる再犯者率の高さが長年の懸案となっていることを鑑み、今回の刑法改正がこうした課題の解決に向けた糸口になることを期待いたします。

 続いて、二つ目の大きな改正点は、悪質な誹謗中傷行為を抑止するために、侮辱罪の法定刑を引き上げることです。

 近年、インターネット上の誹謗中傷が横行し、その被害者が回復できないほどの精神的なダメージを負うことで自殺にまで追い込まれるという悲劇も生じており、ひいては被害者の家族や関係者まで心ない誹謗中傷の標的にされるケースが多発する等、大きな社会問題となっています。

 事実を摘示しないで公然と人を侮辱する罪である侮辱罪も、明治以来、古くからある罪刑ですが、インターネットが普及した現在では、公然と侮辱するという概念はこれまでと大きく異なるものとなっております。

 日常生活での不満に対する憂さ晴らし、あるいは自分勝手な正義感を振りかざすなど、侮辱行為に及ぶ動機は様々ですが、公然とこれらの言動を行うのであれば、かつては、当然、相応の対応、反撃等を覚悟せねばならず、これが一つの抑止効果となっておりました。

 ところが、匿名性が高いインターネットの普及によって、侮辱する側は、大した罪の意識もないまま手軽に、そして自らの姿を見せないまま侮辱の言動に及ぶことが多くなっている上、インターネットは拡散するスピードが速く、影響する範囲も全世界に及ぶことから、侮辱を受けることの被害はかつて考えられなかったほど甚大なものとなっております。

 このSNSの誹謗中傷によりプロレスラーの木村花さんが若くして命を閉ざされて二年になろうとしておりますが、この間、こうしたネットの誹謗中傷に対して様々な活動をなされてきた木村花さんのお母様の響子さんは、被害者は普通の生活ができないほど心が壊されていると訴えております。

 被害者は、心に深い傷を負うだけではなく、その被害を止めようとすると、膨大な手間と時間、費用を費やさなければなりませんが、たとえ侮辱罪で有罪になったとしても、現行法では、侮辱に対する罰則は三十日未満の拘留又は一万円未満の科料とされており、加害者の責任と被害者の心理的、金銭的負担のバランスが著しく取れていないのが現状です。

 例えば、木村花さんが亡くなった事例では、投稿者は侮辱罪で有罪となりましたが、略式命令の内容は科料九千円というもので、多くの国民から余りにも軽過ぎるとの声が出されたことは当然であると感じるとともに、木村響子さんも、言論の自由は尊重されるべきだが、それに見合った責任も伴わせるべきという旨を語られておりました。

 法定刑を、拘留、科料に加え、一年以下の懲役、禁錮又は三十万円以下の罰金に引き上げる今回の改正案により、被害実態と刑罰のバランスが現状よりは適正化されるため、卑劣な言動の抑止に一定程度はつながると考えるとともに、公訴時効を一年から三年に延ばすことに関しても、匿名性に隠れて人を誹謗中傷する者を特定するための時間の確保など、逃げ得を許さないためにも有効な手段であると考えます。

 しかしながら、同時に考慮すべきことは、今回の厳罰化によって、民主主義の根幹であり、憲法に保障されている言論、表現の自由を萎縮させてはならないということであり、法務委員会の審議の中でも、侮辱罪の処罰範囲が不明確であることや、正当で自由な言論活動が阻害される可能性を排除し切ることができないという意見を始め、数々の課題、問題が指摘されてきました。

 よって、本法改正案の附則において、インターネット上の誹謗中傷対策への適正な対処ができているかどうかや、表現の自由等の制約になっていないか等、施行後三年経過時に検証を行うといった委員会修正が加えられたことを踏まえ、法の運用に当たっては、十分な留意を求めるとともに、与野党で共同提案、採択された附帯決議を重く受け止めていただくことをお願いいたします。

 また、立憲民主党提出の対案に関しては、侮辱罪の法定刑引上げだけでは的確に対応できないインターネット上の誹謗中傷等への対策として加害目的誹謗等罪の創設などを提案されたものと理解する次第ですが、その趣旨にあるように、内面における人格を保護法益とする規定を追加してしまうと、侮辱罪とは犯罪としての構成要件が異なるため、処罰される表現行為が広がることで、逆に表現の自由が侵害されるおそれもあります。

 加えて、加害目的誹謗等罪においては、刑法二百三十条の二と同様の特例を定め、真実性の証明により、名誉毀損罪と同様に違法性阻却ができるとされていますが、事実を摘示しない場合は違法性が阻却されず、必ずしも政治的な言論が保護されるわけではありません。

 このように、立憲案に関しては、法技術的な問題が解消されておらず、議論が未成熟ということもあり、残念ながら、現状においては賛成いたしかねます。

 最後に、日本維新の会としては、今回の刑法改正に関しては賛意を示すものの、インターネットの誹謗中傷対策としては、これで十分という見解には立っておらず、刑法の範囲に限定されない、インターネット誹謗中傷防止施策や被害者の救済施策、事業者の取組促進等施策など、総合的なインターネット上の誹謗中傷対策を推進するための維新独自法案を去る五月十二日に提出しております。こうした我々提案の施策を迅速、確実に図っていく決意を改めて表明するとともに、本法律案の成立後も引き続いてのインターネット上の誹謗中傷問題解決に向けた包括的な議論、施策を与野党一丸となって進めていくことをお願いいたしまして、私の賛成討論といたします。

 御清聴ありがとうございました。(拍手)

議長(細田博之君) 本村伸子君。

    〔本村伸子君登壇〕

本村伸子君 私は、日本共産党を代表して、刑法等の改定案に反対の討論を行います。(拍手)

 本法案は、侮辱罪の法定刑に懲役、禁錮を追加する等の厳罰化をするものです。悪質な誹謗中傷対策として持ち出されたものですが、言論、表現を処罰の対象としながら、具体的にどのような表現が侮辱に当たるのかは、審議を通じても全く明らかになっておりません。

 侮辱罪は、一八七五年に布告された讒謗律に由来し、新聞紙条例とともに、自由民権運動の弾圧に用いられました。

 今日においても、北海道警察やじ排除事件に見られるように、捜査当局が政治的な表現の自由を侵害しています。地裁判決は警察の行為を違憲、違法と判断しましたが、政府は全く反省しておりません。

 権力者や政府の政策に対する批判、批評を侮辱と認定し、捜査当局が恣意的な判断をしないとなぜ言えるのでしょうか。

 しかも、本法案は、現行犯逮捕や教唆、幇助をした人の処罰を可能としています。例えば不起訴になったとしても、現行犯逮捕のインパクトは自由な言論、表現に対する脅威となり、言論活動の萎縮を招くことは明らかです。到底許されるものではありません。

 本法案は、現行の懲役刑と禁錮刑を廃止し、新たに拘禁刑を創設します。現行法は、懲役については作業を義務づけていますが、禁錮については作業を義務づけておりません。ところが、本法案は、刑事施設長が自由裁量で全ての受刑者に対して作業と指導を義務づけます。一九〇七年に制定された刑法典の刑罰体系を根本から変え、厳罰化するという重大な改定です。

 国連が被拘禁者処遇の最低基準を示したネルソン・マンデラ・ルールズは、犯罪をした人が社会に再統合されるようにすることが必要であると、刑務当局に対して、受刑者に適切かつ利用可能な教育そして職業訓練、作業その他援助を提供する義務を課しています。ゆえに、日本における作業の強制に対して、国連社会権規約委員会は、矯正の手段又は刑としての強制労働を廃止し、関係規定を修正、廃棄するよう勧告しているのです。

 作業、指導を強制することは、受刑者の社会復帰に効果がないだけではなく、矯正実務にも大きな影響を及ぼします。

 本法案は国際的な人権保障の流れに逆行するものであり、断じて認められないということを強調し、討論といたします。(拍手)

議長(細田博之君) これにて討論は終局いたしました。

    ―――――――――――――

議長(細田博之君) これより採決に入ります。

 まず、日程第二、米山隆一君外二名提出、刑法等の一部を改正する法律案につき採決いたします。

 本案の委員長の報告は否決であります。この際、原案について採決いたします。

 本案を原案のとおり可決するに賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

議長(細田博之君) 起立少数。よって、本案は否決されました。

 次に、日程第三、内閣提出、刑法等の一部を改正する法律案及び日程第四、刑法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整理等に関する法律案の両案を一括して採決いたします。

 日程第三の委員長の報告は修正、日程第四の委員長の報告は可決であります。両案を委員長報告のとおり決するに賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

議長(細田博之君) 起立多数。よって、両案とも委員長報告のとおり議決いたしました。

     ――――◇―――――

 日程第五 農林水産物及び食品の輸出の促進に関する法律等の一部を改正する法律案(内閣提出、参議院送付)

議長(細田博之君) 日程第五、農林水産物及び食品の輸出の促進に関する法律等の一部を改正する法律案を議題といたします。

 委員長の報告を求めます。農林水産委員長平口洋君。

    ―――――――――――――

 農林水産物及び食品の輸出の促進に関する法律等の一部を改正する法律案及び同報告書

    〔本号末尾に掲載〕

    ―――――――――――――

    〔平口洋君登壇〕

平口洋君 ただいま議題となりました法律案につきまして、農林水産委員会における審査の経過及び結果を御報告申し上げます。

 本案は、農林水産物及び食品の輸出の更なる拡大を図るため、農林水産物又は食品の輸出先国での需要の開拓等の業務を行う団体の認定制度の創設、輸出事業計画の認定を受けた者に対する金融上の措置の拡充等を行うとともに、日本農林規格の制定対象への有機酒類の追加等の措置を講ずるものであります。

 本案は、去る四月八日参議院から送付され、五月十日本委員会に付託され、翌十一日金子農林水産大臣から趣旨の説明を聴取し、昨十八日質疑を行いました。質疑終局後、採決いたしましたところ、本案は全会一致をもって原案のとおり可決すべきものと議決した次第であります。

 なお、本案に対し附帯決議が付されました。

 以上、御報告申し上げます。(拍手)

    ―――――――――――――

議長(細田博之君) 採決いたします。

 本案の委員長の報告は可決であります。本案は委員長報告のとおり決するに御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

議長(細田博之君) 御異議なしと認めます。よって、本案は委員長報告のとおり可決いたしました。

     ――――◇―――――

 日程第六 困難な問題を抱える女性への支援に関する法律案(参議院提出)

 日程第七 障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策の推進に関する法律案(参議院提出)

議長(細田博之君) 日程第六、困難な問題を抱える女性への支援に関する法律案、日程第七、障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策の推進に関する法律案、右両案を一括して議題といたします。

 委員長の報告を求めます。厚生労働委員長橋本岳君。

    ―――――――――――――

 困難な問題を抱える女性への支援に関する法律案及び同報告書

 障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策の推進に関する法律案及び同報告書

    〔本号末尾に掲載〕

    ―――――――――――――

    〔橋本岳君登壇〕

橋本岳君 ただいま議題となりました両案について、厚生労働委員会における審査の経過及び結果を御報告申し上げます。

 まず、困難な問題を抱える女性への支援に関する法律案について申し上げます。

 本案は、困難な問題を抱える女性への支援に関し、基本理念を定め、国等の責務を明らかにするとともに、女性相談支援センターの設置、女性相談支援員の配置及び女性自立支援施設の設置等について規定するほか、教育及び啓発、調査研究の推進等について定めようとするものであります。

 本案は、参議院提出に係るもので、去る四月十三日本委員会に付託され、昨日、参議院厚生労働委員長代理者参議院議員山本香苗君から趣旨の説明を聴取し、採決の結果、本案は全会一致をもって原案のとおり可決すべきものと議決した次第であります。

 次に、障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策の推進に関する法律案について申し上げます。

 本案は、障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策に関し、基本理念を定め、国等の責務を明らかにするとともに、障害者による情報取得等に資する機器等の開発及び提供に対する助成、障害者が防災及び防犯に関する情報を迅速かつ確実に取得できるようにするための体制の整備充実等の基本的施策を定めようとするものであります。

 本案は、参議院提出に係るもので、去る四月十三日本委員会に付託され、昨日、参議院厚生労働委員長代理者参議院議員川田龍平君から趣旨の説明を聴取し、採決の結果、本案は全会一致をもって原案のとおり可決すべきものと議決した次第であります。

 なお、本案に対し附帯決議を付することに決しました。

 以上、御報告申し上げます。(拍手)

    ―――――――――――――

議長(細田博之君) 両案を一括して採決いたします。

 両案の委員長の報告はいずれも可決であります。両案は委員長報告のとおり決するに御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

議長(細田博之君) 御異議なしと認めます。よって、両案とも委員長報告のとおり可決いたしました。

     ――――◇―――――

議長(細田博之君) 本日は、これにて散会いたします。

    午後一時四十分散会

     ――――◇―――――

 出席国務大臣

       法務大臣   古川 禎久君

       厚生労働大臣 後藤 茂之君

       農林水産大臣 金子原二郎君

       国務大臣   金子 恭之君


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