衆議院

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第14号 令和4年3月31日(木曜日)

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令和四年三月三十一日(木曜日)

    午前九時開議

 出席委員

   委員長 上野賢一郎君

   理事 井上 信治君 理事 工藤 彰三君

   理事 平  将明君 理事 藤井比早之君

   理事 森山 浩行君 理事 足立 康史君

   理事 國重  徹君

      赤澤 亮正君    伊東 良孝君

      石原 宏高君    金子 俊平君

      小寺 裕雄君    小森 卓郎君

      杉田 水脈君    鈴木 英敬君

      高木  啓君    永岡 桂子君

      平井 卓也君    平沼正二郎君

      松本  尚君    宮路 拓馬君

      宗清 皇一君    山田 賢司君

      山本 左近君    吉川  赳君

      和田 義明君    大串 博志君

      鈴木 庸介君    堤 かなめ君

      中谷 一馬君    本庄 知史君

      山岸 一生君    阿部  司君

      浅川 義治君    堀場 幸子君

      河西 宏一君    平林  晃君

      浅野  哲君    塩川 鉄也君

      緒方林太郎君    大石あきこ君

    …………………………………

   内閣府大臣政務官     小寺 裕雄君

   内閣府大臣政務官     宮路 拓馬君

   内閣府大臣政務官     宗清 皇一君

   参考人

   (東京大学東洋文化研究所准教授)         佐橋  亮君

   参考人

   (同志社大学名誉教授)  村山 裕三君

   参考人

   (東京大学公共政策大学院教授)          鈴木 一人君

   参考人

   (東北大学名誉教授)   井原  聰君

   内閣委員会専門員     近藤 博人君

    ―――――――――――――

委員の異動

三月三十一日

 辞任         補欠選任

  和田 義明君     山本 左近君

  中谷 一馬君     鈴木 庸介君

同日

 辞任         補欠選任

  山本 左近君     小森 卓郎君

  鈴木 庸介君     中谷 一馬君

同日

 辞任         補欠選任

  小森 卓郎君     和田 義明君

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律案(内閣提出第三七号)

 経済安全保障に関する諸施策の実効的かつ総合的な推進に関する法律案(足立康史君外二名提出、衆法第一〇号)


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     ――――◇―――――

上野委員長 これより会議を開きます。

 内閣提出、経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律案及び足立康史君外二名提出、経済安全保障に関する諸施策の実効的かつ総合的な推進に関する法律案の両案を一括して議題といたします。

 本日は、両案審査のため、参考人として、東京大学東洋文化研究所准教授佐橋亮君、同志社大学名誉教授村山裕三君、東京大学公共政策大学院教授鈴木一人君、東北大学名誉教授井原聰君、以上四名の方々から御意見を承ることにいたしております。

 この際、参考人各位に一言御挨拶申し上げます。

 本日は、御多用中のところ本委員会に御出席を賜りまして、誠にありがとうございます。両案について、それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお述べいただき、審査の参考にいたしたいと存じますので、よろしくお願いいたします。

 次に、議事の順序について申し上げます。

 佐橋参考人、村山参考人、鈴木参考人、井原参考人の順に、お一人十分程度御意見をお述べいただき、その後、委員の質疑に対してお答えをいただきたいと存じます。

 なお、参考人各位に申し上げますが、御発言の際にはその都度委員長の許可を得て御発言くださるようお願い申し上げます。また、参考人は委員に対して質疑をすることができないこととなっておりますので、あらかじめ御承知おき願いたいと存じます。

 それでは、佐橋参考人にお願いいたします。

佐橋参考人 おはようございます。東京大学東洋文化研究所准教授の佐橋と申します。

 本日は、お招きいただきまして、ありがとうございます。

 米ソ冷戦が終結を迎えた頃から、世界には、グローバル化、さらにはロシアや中国との国際協調への前向きな期待が存在した時代がございました。しかし、過去十年ほどで、そうした前向きな期待を持つには厳しい国際環境が出現しております。

 従来の先進国以外の国の台頭により、世界のパワーバランスが変化しただけではなく、国際秩序の在り方への不満や拡張主義が具体的な形となって表れるようになりました。

 第四次産業革命と言われるほど先端技術の発展が著しく、それらの軍事活動や情報活動への応用が危惧されるようにもなりました。米中の技術競争の激しさは、各国政府や民間企業の研究開発費の増大だけではなく、中国による技術の移転や窃取を増やす結果にもなりました。また、経済における依存関係を利用して相手に強要を迫る行為も実例が積み重ねられてきました。

 こうした状況において、いわゆる海洋や宇宙、サイバーなどにおける安全保障空間だけでなく、経済安全保障の考え方が、日本だけでなく欧米や中国において強調されるようになったことは不思議なことではありません。

 安全保障とは、時代を映す鏡であり、その時々の国際環境の中で、各国政府が喫緊に、又は長期的に、優先して考えるべき課題に焦点を当てていくものです。あえてアメリカの例を申し上げれば、九〇年代にその関心は地域紛争でしたが、同時多発テロにより、テロリズム及び大量破壊兵器の拡散防止に急に変化をいたしました。何から、何を、何で守るか、安全保障を考える上でのフレームワークですが、それぞれが不断に変わることが安全保障の難しさであります。

 今この瞬間において、ロシアのウクライナ侵攻が喫緊の課題であり、国際秩序を国際的な連携によって守るべきことは言うまでもありません。他方で、長期的な課題として、我が国の主権や領土の一体性、国民の生命財産及び国家の繁栄を守るためには、経済社会面での相互依存を活用して他国を脅かしたり、さらには攻撃することが十分に考えられることから、軍事力による抑止や外交だけではなく、経済活動、科学技術分野を含めた体制を整えることが重要になっています。

 経済活動は極めて広範であるため、経済安全保障を広く概念定義することもありますが、重要なことは、増大する脅威が何か、いかなる手段がそのために新たに必要かという点に常に着目することだと考えております。

 そのように考えますと、今回の経済安全保障推進法案は、立法化がまず求められる分野を進めていくものと評価をしております。

 法案の具体的分野について申し上げていきます。

 まず、特定重要物資についてです。

 特定重要物資のサプライチェーンは、既に民間企業によって組み上げられてきたものです。民間企業の調達多様化に向けた努力を支援することが重要となります。アメリカでは、産業政策と経済安全保障の垣根が下がっており、サプライチェーンの海外投資を実質的には減らすような方策まで議論されておりますが、それは別の政策論であります。経済合理性との均衡を図るためにも、まずは海外を含めた多様化努力が望ましいと考えます。

 また、重要物資の特定においては、有識者の意見を重視すること、また、欧米の政策は一つの参照点だとしても、日本の産業構造にとって想定されるものは別であることも想定すべきだと考えております。

 サプライチェーンは、企業にとって重要な営業秘密を含む可能性があり、相手企業もある話です。アメリカ政府も、罰則により提供させているのではなく、あくまでも働きかけて提供を受けています。日本の制度においても、企業が自ら協力していく形で進めることが望ましいと思います。

 重要物資に関しては、有事を念頭に置いたシミュレーションの必要を述べておきたいと思います。

 ウクライナへのロシア侵攻後もエネルギーや穀物の需給変化が話題になりましたが、例えば台湾海峡における有事が発生した場合、世界のサプライチェーンが寸断されるリスクは極めて大きいものになります。大まかな試算はありますが、より具体的なシミュレーションとシナリオ検討が必要となります。先進国とロシア、中国の対立構図が固定化することが恐れられている中、サプライチェーンリスクを具体的なシナリオから点検し、それをもって海外ビジネスの在り方を産業界と考案していくアプローチが必要だと考えます。

 基幹インフラについてです。

 基幹インフラの防護については、既にインフラ施設が攻撃された事例が多々観察されていることから、備えとして極めて重要となります。電力、水道、パイプライン、鉄道システムなどが近年でも被害を受けております。ランサムウェアによる攻撃も増えています。

 備えを高めることは当然としても、インフラを提供する民間企業や各種団体の経済負担が大きいことも事実です。重要なことは、それら主体の負担感を低下させ、経済活動の予見可能性を上げることにあります。政府が可能な限り事前に相談を受け、望ましい設備や維持管理の在り方について具体的に示すことが重要です。企業に責任を転嫁するだけではなく、政府がリスク評価、モニタリングを行い、場合によっては、サイバーセキュリティーを含む投資のための民間企業への補助金を与えることが望ましいのではないでしょうか。

 官民技術協力についてです。

 ポイントは、産官学の三者が協力し合うメカニズムとして有効に機能するかにあります。そのためには、いわゆるシンクタンクが重要になってきます。従来の機関だけでなく、より幅広い調査を行う機関を設置するというアイデアが重要だと考えます。

 ただ、最大の問題は人材です。先端技術だけでなく、安全保障や社会実装に軸足を置いた研究者をどのように確保し、育てていけるかが鍵ではないでしょうか。どのように若手の研究者を引きつけることができるのか、長くとどまっていただき、本人のためになる経験を蓄積できるのか、長期的な視点が強く求められます。

 また、いわゆるミッション型の技術開発は重要ですが、二点のみ留保させてください。

 第一に、大企業の参画は重要ですが、それに加え、スタートアップ企業を競わせるような仕組みも必要だと思います。アメリカでは国土安全保障省などがそのような取組をしております。

 第二に、科学技術には基盤が必要であり、日本政府全体として、科学技術の振興、理系人材の処遇改善を更に推進していただきたいと思います。

 非公開特許制度についてです。

 人材育成の必要は、非公開特許に関しても当てはまります。二次審査に携わることができる人材を長期的に育成するための制度が必要でしょう。

 今回はかなり分野を絞って制度をスタートさせることになりますが、今後、制度を拡充、拡大させていく場合には、制度の存在によって指定のおそれがある分野の技術開発を止めてしまい、他国との競争でむしろ劣位になり、究極的な目標が達成できないおそれがあることに留意してほしいと思います。コストの回収や、将来的にその企業又は開発者の名声が確保できる仕組みが望ましいと思います。

 最後に、経済安全保障に関する取組で最も重要なことは、取組を国家戦略の中に確固として位置づけ、その上で確保される継続性にあります。

 内閣総理大臣が主導する国家安全保障戦略において、経済安全保障の政策的な全体像が示されること、そこに社会各セクターを代表する有識者の考えが取り込まれることは、合意形成としても非常に重要です。

 今回の法案の外になりますが、攻めの経済外交、政府としての経済インテリジェンス機能の確立、そのインテリジェンスの民間への提供可能性の模索、諸外国との経済安全保障における連携さらには支援、こういったことに十分配慮して戦略が組み立てられることに期待をしております。

 また、これは必ずしも狭い意味での経済安全保障ではありませんが、人権侵害が著しい国と向かい合うために必要な人権外交や人権に関するインテリジェンス機能、また政府と民間の連携の在り方についても、新たな国際環境と向かい合う中で重要なテーマであり、最後に強調させていただければと思います。

 以上となります。ありがとうございました。(拍手)

上野委員長 ありがとうございました。

 次に、村山参考人にお願いいたします。

村山参考人 同志社大学の村山と申します。よろしくお願いいたします。

 本日は、長きにわたり経済安全保障に関わってきました研究者としての立場から意見を述べさせていただきます。

 レジュメに沿って話をいたします。

 一番目が法案の意義というところなんですけれども、まず、経済安全保障の日本にとっての重要性ということですが、日本は軍事力に制限をかけた通商国家であり、他国が軍事力で考えるところも、経済力、技術力で何ができるかを考えなくてはならないということです。

 これは、言葉で言うのは非常に簡単なんですけれども、実は非常に難しい作業です。といいますのも、ほかの国で、歴史的に見ても、このようなことを行った国というのは余りないんですね。しかし、日本ではこれに取り組まなきゃならない。それに当たって、この法案というのは極めて重要というふうに考えております。

 それは、三つあります。

 一つ目ですけれども、法律による制度化により、経済安全保障に中長期的に取り組める体制が整備されるということです。

 今までも経済安全保障の政策はありました。これはどういうふうにして対応してきたかといいますと、ほとんどが予算措置だけでした。例えば、九・一一テロ後、テロ対策機器の開発をやったんですけれども、これは既存の枠組みの中の予算をつけてやったということなんですよね。ということは、予算がなくなると終わってしまうということなんです。ところが、今回は法律になっていますので、中長期的に経済安全保障に取り組める。これは非常に重要と考えます。

 二つ目が、関係省庁に横串を刺す形で政府が一体として取り組むことが可能になる。

 経済安全保障ですので、経済と安全保障、これはいろいろな分野にまたがるわけです。したがって、こういう形で法律にすると、政府が一体として取り組める体制になるということです。

 三つ目です。日本の経済安全保障政策の全体像は、この法案に加えて、既存の安全保障貿易管理、外資規制、これは外為法ですね、それから国家安全保障戦略における経済安全保障の位置づけを合わせて、総合的に捉える必要があるということです。

 したがって、この法案というのは、まさに経済安全保障政策の途上でありまして、これは何としても国家安全保障戦略につなげていかなきゃならないということです。特に、その国家安全保障戦略においては、防衛産業技術基盤をいかに強化するとか、そういう具体的なことを書き込んでいかないと駄目だと思うんですね。それに行く道筋をつけたのがこの法案というふうに私は考えております。

 二つ目が、国際環境の変化と経済安全保障、今なぜ必要かということです。

 実は、グローバル化の時代には、この種の法律の必要性は低かったんですね。これはどういうことかといいますと、他国を自由貿易の輪の中に入れることが日本の国益に寄与していた。ということは、経済的な相互依存が進めば平和になるという考え方だったんですね。したがって、相互依存が進めば戦争のコストが高くなるから平和になるという、これが支配的な考え方でした。

 ところが、これはトランプ政権の頃から変わってきまして、懸念国に依存することは非常に危険なんじゃないかというふうに考え方の大勢が変わってきたんですね。

 それを踏まえてですけれども、国際環境の変化、米中の覇権競争、ウクライナ、ロシア問題などにより、日本の存在感を高めるためには、自由貿易を守りつつも、適切な技術・経済管理と技術育成を組み合わせ、戦略的不可欠性を高めることが必要な時代になったということです。

 この戦略的不可欠性というのはどういうことかといいますと、他の国から見て決定的に重要と思われる分野における国際的な競争力というふうに考えております。したがって、ここに日本がいないと絶対困るよ、そういう立場に日本が立つことは極めて重要であるというふうに考えております。

 したがって、こういう大きな国際環境の変化があって、この法案の重要性というのが出てきたというふうに私は考えております。

 それで、具体論ですけれども、私の専門である二つの分野についてコメントをさせていただきたいと思います。

 まず、重要技術の開発支援ですけれども、これは、四つの中でも私は一番重要性が高いというふうに考えています。特に、その戦略的不可欠性を確立するためには、これをちゃんと確立しないと駄目だということなんですね。

 それで、どういう順番になるかといいますと、まず、シンクタンクによる重要技術の特定があります。それから、その次に、協議会における技術シーズとニーズのマッチングですね。それから三番目が、経済安保重要技術育成プログラムによる予算措置。それから、社会実装、これは政府と民間の開発スパイラル、これは後で説明しますけれども、こういう流れの構築が必要というふうに考えております。

 実は、今若干混乱しているのは、順番が逆になってしまったんですね。最初にこの経済安保重要技術育成プログラムというのが出てきて、二千五百億だとか、それを五千億にするとかいう話が出てきましたよね。これはもう動いております。それで、今回の法案によって、協議会を設立するということが出てきました。それにプラス、シンクタンクをつくる。これは、完成するのは二、三年後ということですので、先になります。

 実は、一番最初に置かなきゃいけないのはシンクタンクなんですけれども、これはもう逆転しているということなんですよね。だから、何よりも早くシンクタンクを設立して、こういう流れを早くつくらなきゃならないということです。

 それで、もう一点重要なのが、政府と民間の開発スパイラルということです。

 これは、お金をつけて政府のニーズに合った技術を開発するだけではなくて、それを民間企業はマーケットに出して、それを製品化するということなんですね。製品化することによって、それがマーケットに回ります。それが、よりよい技術になるわけですね。そういうよりよい技術を更に政府が調達できるような形にするということで、政府と民間の間でスパイラルを回すということです。そうすることによって、これは経済にとってもいいし安全保障にとってもいい、そういう両立ができる、こういうスキームをつくるべきというふうに考えています。

 これは十分可能ですので、早くこういう体制に持っていってほしいというのが、この重要技術の開発支援ということです。

 二番目の重要物資の安定供給ということなんですけれども、これも非常に重要です。重要ですけれども、多くの部分は民間企業が、事業継続計画、BCPの一環として対処しているということなんですね。だから、これは企業がずっとやっているし、企業にはサプライチェーンの専門家もいるわけですよね。その中で、なぜ政府がここに関与するかということをはっきりさせなきゃならない。だから、民間だけでは十分ではない部分が当然あります。それは一体どういう分野でなぜなのかというのを、しっかりこれから考えていかなきゃならないかと思います。

 これは今の法案とはちょっと関係は薄いんですけれども、例えば防衛分野。これは国家安全保障戦略を策定するときには考えなきゃならないと思うんですけれども、例えば防衛分野は、装備品のサプライチェーンの中で、非常に重要な部分で懸念国に依存しているものがある。それで、何か起こったときに、その懸念国からの供給が止まってしまう。ということは、装備品が造れなくなってしまうわけですね。こういう場合を防ぐためには、絶対政府が関与しなきゃならないということですね。これがまず出発点としてあるんですけれども、それはどの辺りまで一体政府は関与すべきかというのをしっかりと考えていかなきゃならないというふうに思っております。

 いずれにしても、経済安全保障というのは、細部において経済的利害と安全保障的利害をいかにバランスさせるかというのが要諦になります。それで、場合によっては、できればこれを両立させるという形に持っていくということですね。先ほど言いました技術開発体制というのは、そういうことができる分野です。

 だから、こういう形で細部においていろいろな知恵を絞っていかなきゃならないというのが、この経済安全保障の特徴です。もちろん、その大戦略というのも大切かも分からないんですけれども、細部でしっかりと、経済と安全保障を見据えて、本当に専門家がここでバランスを取るようにしていくというのが、この経済安全保障の重要な部分というふうに考えております。

 いずれにしても、私は、この法案は極めて重要というふうに思っております。特に、経済力を安全保障のために使うというのが、こういう発想が今まで日本になかったわけですよね。これが実現することによって、日本の安全保障政策の一つの転換点になる、そういう重要な法案というふうに私は考えております。

 以上です。(拍手)

上野委員長 ありがとうございました。

 次に、鈴木参考人にお願いいたします。

鈴木参考人 皆様、おはようございます。東京大学の鈴木でございます。

 本日、私からは、この経済安全保障推進法案に関するコメントとして、三点お話をさせていただきたいというふうに考えております。

 まず第一に、経済安全保障の概念の整理の問題、そして第二に、経済安全保障と自由貿易の関係について、そして三つ目に、経済安全保障とまた異なるコンセプトであるエコノミック・ステートクラフトというものとの関係についてお話しさせていただきたいと思います。

 まず第一に、この経済安全保障に関する様々な議論の混乱といいますか、定義に関わる問題、これは、様々なところで、この国会の中でも、また有識者の中の議論でも、経済安全保障って一体何なんだということが多く議論されています。その混乱の原因を私なりに考えてみたところ、これは三つのコンセプトが一つの経済安全保障という枠組みにあるので分かりにくいのではないかというふうに考えておりますので、少しそれを整理したところをお話しさせていただきます。

 一つが、いわゆるサプライチェーンないしは供給の安全保障ということで、これは、エネルギーですとか食料のほかにも、様々な素材ですとか、サプライチェーン全体ですね、これが、国際的な関係が深まっていく、相互依存が深まっていく中で、敵対的な国家、関係の悪い国家にもそうしたサプライチェーンを依存している状態、これは、国家の安全保障、経済的な関係をスムーズに行っていくことに対するリスクということになっている。

 逆に言えば、そうした依存関係が、チョークポイント、要するに首を絞めたらそこで首が絞まってしまう、死んでしまうような、そういう相手の肝になるポイントというのを握っている状態。これは、二〇一〇年、日本が中国との関係で、中国がレアアースの輸出を禁止した、こういうことがありましたけれども、まさにこれが、レアアースがチョークポイントということになっていて、こうした供給の安全保障というのが必要である、こういう議論があります。これは、現在の法案の中では、サプライチェーンの強靱化という形で対処するということになっているわけです。

 もう一つが、技術の不拡散に関する安全保障という問題がありまして、これは、伝統的に安全保障貿易管理と言われる分野において、貿易などを通じ、つまり経済的な手段を通じて、国家にとって重要な技術、これは他国の安全保障に関わるような技術ですね、かつては大量破壊兵器、核兵器や生物化学兵器などが問題になっていましたけれども、近年では、こうした安全保障に関わる技術が、AIですとかロボティクス、それからバイオテクノロジー、いろいろな分野において安全保障に関わる技術というのが非常に多岐にわたるようになってきた。しかもそれは、軍民融合という形で、軍事的に利用することも、そして民間で利用することも両方可能なものである。ですから、民間の貿易を通じて相手の国家に技術が渡って、それが安全保障上の懸念になるということが起こり得るということから、技術の安全保障、技術管理が大事だということで、経済安全保障の中にこれが含まれた。

 ただし、これは、サプライチェーンの話と技術管理の話というのは、基本的には同じ経済に関わる問題ですけれども、ベクトルが違うというか見ているところが違うということで、ここが一つ混乱の原因になっているのではないかというふうに思います。

 また、先ほど佐橋参考人等からお話もあったとおり、人権の問題などを含めて、今、他国に対して経済的な圧力をかける、そうした政治的な目的のために経済的な手段を使うという、これはまた後にエコノミック・ステートクラフトとしてお話しさせていただきますが、こうしたことが起こっていることが、これからの経済の安全保障上の問題、つまり、他国の政治的圧力のために経済を使われてしまう、そこからどういうふうに、この問題、我が国の能力を高めていくのか、どうやって守りを固めていくのか、こういうことが重要だという、この三つが経済安全保障の大きな枠の中に入っているがゆえに、どれが経済安全保障なのか、議論をするときも、皆さんが使っている経済安全保障という言葉がばらばらになっている。

 次のスライドですけれども、この中で重要になってくるのが、依存と脆弱性の関係だと思います。

 つまり、経済安全保障の鍵となるのは、他国に依存すること、特に、特定の国家に、とりわけ敵対的な関係にある国家に特定の品目を依存している状態というのが望ましくないということで、これはまさにサプライチェーンの問題として、この依存をいかに減らしていくのかということがこれからの経済安全保障の鍵になるというのと同時に、経済的な関係が深まっていくことによる技術の拡散、これをどうやって防いでいくのかということが重要な鍵になっていくのではないかというふうに考えております。

 次の論点であります経済安全保障と自由貿易の問題についてお話しさせていただきます。

 経済安全保障において、自由貿易との関係は、実は、これは対立ないしはなかなか矛盾する関係にあるだろうというふうに考えております。

 経済的な合理性を追求するものとして、これまで戦後長い間、自由貿易体制というのが国際経済秩序の枠組みにあったわけですけれども、それは比較優位に基づく生産の集中や特化をもたらし、それは場合によっては政治体制やイデオロギーや軍事的な対立、そういったものを含む相手とも経済関係を結ぶということを許容してきた、そういう側面があります。

 他方、現在の経済安全保障の問題というのは、政治的、安全保障上の合理性を含んだもの、つまり、自らの国家に対して敵対的な国家ないしはリスクのある場所、そういったところに生産ないしはサプライ、経済関係を結ぶこと、これに抵抗するないしはそれに対するリスクを回避するということが目的になっていきます。これは言い方を変えると、自由貿易にさお差す行為ということにもなるわけです。

 ですので、経済安全保障を進めていく上で、我が国が、CPTPPを始めとして自由貿易ルールに基づく経済秩序、こういったものを進めていく立場として、このバランスをどうやって取っていくのかということが重要になってくるかと思います。

 参考のところでつけました、WTOそれからCPTPPのところで安全保障例外ということをスライドでつけておきましたけれども、これら安全保障例外は、読んでいただくと分かると思うんですが、なかなか解釈が限定的である。特にWTOのガット二十一条というのはそういう状態になっているということで、安全保障だから、国家の国益に関わる問題だからということで自由貿易と経済安全保障の問題を折り合いをつけるということはなかなか容易ではないということですから、この経済安全保障推進法案の中でもかなりの神経を使って調整をされているということは理解はしておりますけれども、やはり、この点、引き続き重要なポイントとして示させていただきたいと思っております。

 三つ目の論点ですけれども、エコノミック・ステートクラフトということをちょっと御紹介しておきたいと思います。

 先ほども少しお話ししましたが、これは、他国の脆弱性を狙い撃ちにして、政治的意思や価値、これを強要することであります。つまり、ある国が経済的な手段を使って他国に自国のやり方を押しつける、こういうことになります。

 これはやり方は様々ありまして、例えば、現在ロシアに対して行っている経済制裁、これもエコノミック・ステートクラフトの一種です。停戦をしろ、戦争をやめろという政治的な意思を伝え、そして圧力をかけるために経済制裁というのをかけております。北朝鮮に対する経済制裁もそうであります。

 他方、経済援助において、例えばこういうことをすれば援助するとか、援助においてコンディショナリティーをつける、いろいろな条件をつけていくというのも、これも一種のエコノミック・ステートクラフトというふうに考えることができます。

 しばしば問題になるのは、これまでは自由貿易の枠組みの中ではこうした国家の権力を行使する形で経済的な行為を阻害することは認められてこなかったわけですけれども、近年、それを積極的に行うような国が出てきているということが大きな問題になっております。つまり、経済的な手段、特に経済力の大きな国、そういった国々が、自国の経済の、ここに市場の重力、マーケットグラビティーと書きましたが、多くの国がその国に輸出することを依存している、それが結果として、輸入を禁止するという形で経済的圧力をかけるということがございます。

 例えばですけれども、中国は、オーストラリアとの関係で、オーストラリアの石炭、鉄鉱石、それから農産品、また、ノーベル平和賞の受賞に関することで、ノルウェーからサーモンを買わないといったようなことが現実として起きております。

 こうしたエコノミック・ステートクラフトというのは、まさに経済的手段を使って政治的な圧力をかけることなわけですけれども、これをきちんと対処しておかないと、我々は他国のそうした経済的圧力に屈する可能性がある。

 そうした経済的圧力を受けないようにするためにも経済安全保障というのは極めて重要な問題になるんだということで、この経済安全保障法案、今この時期に議論されていることは大変重要なことだと考えておりますし、また、そのために、自由貿易の価値を守りながら、同時に、我が国の経済的な安定、そして、他国の政治的な圧力に屈しないようなそうした政策、法律の運用を目指していただきたいというふうに考えております。

 私からは以上です。ありがとうございました。(拍手)

上野委員長 ありがとうございました。

 次に、井原参考人にお願いいたします。

井原参考人 おはようございます。井原でございます。

 本日は、この審議の場に参考人として意見を述べる機会を与えていただきまして、感謝申し上げます。また、立憲民主党や他の野党の御配慮に感謝申し上げます。

 私の専門は、科学史、技術史でございます。歴史の見地から、この国の科学技術政策や学術体制、あるいは若手研究者の養成というふうなことに関心を持ってこれまで見てきました。在職中は先端分野の融合領域研究の若手研究者の養成に関わってきたこともあり、そうした経験から意見を述べさせてもらおうと思います。

 極めて重要な法案ですが、具体的内容については政省令、業法等で示されるということで、国会での議論は内容がないというふうなことで、是非民主的な手続の面からの工夫をしていただきたい、こういうふうに思います。

 法案の二つの性格ということで、一つの方がどうもはっきりしてこない。今、特定重要物質の安定供給、特定社会基盤役務は有事に備えよというわけですが、その有事とは何かが語られずに、有事に対処する国家安全保障戦略、防衛大綱、中期防衛整備計画が大いに関係するものと思いますが、これとの関わり、これとどうすり合わせていくのかがないまま議論が進んでいくことに非常に不安を感じます。

 現在、経済の喫緊の課題とされている安定供給やサイバー攻撃問題ですが、これは盛んに議論がされております。しかし、防衛問題について、DARPAに似せた組織までつくろうという議論が進んでいるわけですが、御承知のように、アメリカの経済安全保障の肝は防衛問題です。本法案は具体的な内容が書き込まれていませんのでよく分かりませんが、防衛上、軍事上の優位性、不可欠性をどのように強化していくのか、その問題を含めるような内容が読み取れないということでございます。

 そこで、私は、多少なりともそれと関わる読み方をこの法案の中で議論をしてみたいというふうに思います。

 第六十一条に、特定重要技術の研究開発のために、研究代表者の同意の下で、内閣総理大臣と協議して、関係大臣も加わる協議会を組織するとされていますが、プロジェクトごとにこれだけ大げさな組織がなぜ必要なのかが不明であります。

 協議会は、科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律により、国の資金で行われる研究開発を対象にすると言っていますけれども、この活性化法は、若年研究者等の能力の活用の促進に必要な施策を講ずるものとするという、若手研究者の能力活用を主眼としたものです。若手研究者育成は必要ですが、特定重要技術開発は若手にだけ負わせるのでしょうか。

 また、伴走支援するということですが、防衛省が伴走支援すれば、防衛研究、軍事研究推進とはなりませんでしょうか。現在進行中の防衛技術研究推進制度では軍事研究ではないからと説明してきましたが、これを撤回しなければならないんじゃないか、それどころか、国が提起する研究課題で、特定重要技術課題の場合は、場合によっては防衛や軍事研究になることを明示する必要が出てくるのではないか、こんなふうにも思います。

 六十二条の七項には、正当な理由なく、当該事務に関して知り得た秘密を漏らし、又は盗用してはならないとして、違反者には罰則を科しています。これは研究開発を促進するための協議会のメンバーに課せられたものですが、この協議会からの離脱が自由なのか否かも大きな問題になります。

 ユネスコの科学及び科学研究者に関する勧告というのがございます。「「軍民両用」に当たる場合には、科学研究者は、良心に従って当該事業から身を引く権利を有し、並びにこれらの懸念について自由に意見を表明し、及び報告する権利及び責任を有する。」とあります。これに照らしたとき、特定重要技術に関わる若手研究者は、罰則のある守秘義務の手前、この権利と責任を放棄しなければなりません。この勧告との対応が必要だと思いますが、一顧だにされておりません。

 国から与えられた課題研究型研究で社会実装まで行う、産学連携で企業と大学との共同研究では、実は見えない壁が研究エリアに張られています。お互いに自由な議論もできない、そういう研究エリアがたくさんあります。他分野の新鮮な考え方の交流や研究会、国際交流など研究を醸成するコミュニケーションもなく、先細ることがよくよく見受けられます。

 野依良治さんが委員長を務めた建議文書があります。学術研究の特性について次のように提起しています。学術研究に従事する者が自らの内在的動機に基づき行う研究は尊重されるべきである、これにより全体として研究の多様性が確保されるのである。

 研究の多様性こそ研究力の基盤であります。伴走支援して社会実装を迫る研究の進め方は、厳に私は戒められなければならないというふうに考えております。若者は窒息しかねません。各省庁が社会実装に向けて支援伴走する方式は人材養成にはならないのではないかと思います。

 国大協の調査によれば、二〇一八年現在ですが、国立大学の四十歳未満の若手研究者は、実は六〇%がパートタイマーです。能力の活用以前に、常勤の若手研究者の母数を増やすことが喫緊の課題になっております。

 調査研究についてですが、六十四条に、これはシンクタンクを法的に位置づけるものと理解しておりますが、何をどう調査研究するのか。大学、研究機関などで進められている業績評価に関わる個人情報を含むデータまでを調査対象にしてAIで監視するような調査研究だとすれば、国家によって監視されることになりかねません。問題は非常に大きいと思います。

 一方、経産省では既に、「経済産業政策の重点」ということで、法案を先取りしたような提起で大学等の管理体制構築などが提示されていて、現行の安全保障輸出管理の現場の混乱が予想されます。

 ここで想定されるシンクタンクは、CSTIに直結し、日本学術会議や大学、研究機関までを下位のシンクタンク化するのではないかという危惧があります。特に、学位授与機能まで持たせてはという議論も含まれてあり、学術研究体制に大きな変化を求める議論があるとすれば、余りにも問題が大きいと思います。

 特許の問題ですが、特許制度は科学や技術の発達に欠かせない制度として定着してきました。私は、特許制度は、単に知財の問題ではなく、学術研究体制や産業や文化の一部であると考えております。

 保全指定については事前審査を行うのでしょうが、忌避できる環境がつくられるのか否か、軍民両用のものの場合、その特許が保全指定され産業化できない不利益を十全に保障されるのか否か、損失額の査定を支払う方の国が行うということで公正さが保たれるのか。原子力災害賠償の問題事例が想起されますが、大きな問題が含まれていると思います。

 また、保全指定から離脱して、その特許を取らずに実施に移すケースがあれば、国家と国民の安全を脅かす技術が流出することになります。秘密特許に大きな穴が空いていると言えます。公開を原則とする特許制度に軍事機密を持ち込むことが矛盾であります。軍事技術は本来、秘匿とノウハウで処理すべきではないかと考えるものであります。

 大学発ベンチャービジネスがたくさん生まれ始めています。特に、宇宙、海洋、量子、電磁気、サイバー、センサー分野の先端分野での活動が盛んになっていますが、秘密特許や特定重要技術としての囲い込みがこの分野の成長を鈍化させる、そういう危惧を抱いております。

 言い足りないことを含めて、主な問題点はお配りしてある資料の末尾にまとめて書いてあります。

 以上、多くの問題が、二つ、つまり重要技術の問題と特許の問題の中にも見出すことができますので、抜本的な見直しを求めるものでございます。

 なお、与えられました時間の関係で、維新の会の提案に言及できませんでしたことをおわびいたします。

 御清聴ありがとうございました。(拍手)

上野委員長 ありがとうございました。

 以上で各参考人からの御意見の開陳は終わりました。

    ―――――――――――――

上野委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。

 質疑の申出がありますので、順次これを許します。伊東良孝君。

伊東(良)委員 おはようございます。

 四人の参考人の先生には、大変お忙しい中こうしておいでいただき、また、貴重な研究やあるいは御経験を踏まえた御意見を今お聞かせをいただきました。本当に心から感謝を申し上げる次第であります。

 この委員会も相当数開かれておりまして、もうかれこれの時間もたつわけでありますけれども、危惧する点、あるいはまた先生方からの御経験をお伺いしたい点等々ありますので、どうぞよろしくお願いいたします。

 ただ、一人十五分しか持ち時間がないものですから、なかなか掘り下げてあるいは広範囲にということにもならないということで、お許しをいただきたいと思います。

 さて、ロシアによるウクライナへの侵略につきましては、国際秩序の根幹を揺るがす行為でありまして、断じて許すことのできないことでございます。しかしながら、これにより世界で、外交や防衛、あるいはまた経済安全保障に対する考え方、見方、理解度、さらにはその関心等が大きく増大をいたしました。国民にも広く共有されるようになったのではないかというふうに思います。最近の国際情勢を踏まえますと、我が国の経済安全保障法制の整備は時宜を得たものであり、喫緊の課題であった、このように思うところでもあります。

 佐橋参考人にお伺いをいたしますけれども、参考人はこれまで、アメリカ等々外国とのおつき合いや、あるいはまた、外交戦略を始めとして国際政治情勢等を御研究されてきたと伺っているところであります。先ほどもお考えを基本的にはお聞かせいただきましたけれども、今般の経済安全保障の法制の重要性について是非御見解をお聞かせをいただきたいというふうに思います。

佐橋参考人 伊東委員の御質問にお答えしたいと思います。

 経済安全保障の重要性についてなんですが、これは、私たちの国際政治の世界では相互依存の武器化という言葉を使うこともございます。すなわち、グローバル化とは、圧倒的に速く深く相互依存が進む現象であり、過去三十年以上にわたり続いてきたわけですが、そういったものを、言ってみれば自らの政治的意図のために利用する国が増えてきた、これを相互依存の武器化というふうにいいます。

 そして、実際に各国の実例を見ても、非常にそういった行為が増えているのは間違いがありません。相手から技術を不公正なやり方で獲得するだけではなく、相手に対して経済やエネルギーの力を使って強要をするということが大変目立っております。また、そういった有事、ケースですね、事例というものは実際に積み重なってきているわけです。

 安全保障の発想に最も重要なことは、可能性を、確率を論じることではなく、最悪に備える、そしてシナリオを考えることにあります。そういった点から考えても、備えを高めることは非常に重要であり、そうした行為が行われ難い環境を、体制を構築していくこと、そして、起きた場合の備え、これを構築していくことが重要であり、経済安全保障は非常に推進されるべき課題だと理解しております。

伊東(良)委員 ありがとうございます。

 政府は、国際情勢の複雑化、社会構造の変化等々に対応すべく、この政治課題に対応するために今回この経済安全保障推進法案を提出したところでありまして、この法案の骨子は四本柱から成っておりまして、サプライチェーンの強靱化、基幹インフラの安全性、信頼性の確保、また先端的な重要技術についての官民協力、そして四本目に特許出願の非公開化といった、四つの制度を整備するものであります。

 この四本柱の一本ごとにこの委員会で議論をされてきたところでもありまして、それぞれ、危惧される点、問題点、あるいは皆さんの賛否両論なる意見をいただいたところでありますけれども、この四本の柱ごとに議論されてきたわけでありますけれども、この四本柱の妥当性あるいはまたその課題について、佐橋参考人の御見解をお伺いしたいと思います。これは相当な中身になるものですから、簡略に御説明をお願いできればありがたいというふうに思います。

佐橋参考人 ありがとうございます。

 今、喫緊の課題、そしてまた長期的にも重要な課題として経済安全保障であるのは、技術流出の防止、他国の経済強要行為に動じない重要物資等のサプライチェーン確保、サイバー攻撃や有事に狙われる基幹インフラの防護、先端技術の開発などです。このうち、技術流出の防止については、いわゆる研究インテグリティー、公正の確保や、みなし輸出制限の強化といった政策的措置が既に取られております。

 今回の法律で、今委員が御指摘の四分野が選ばれているということは、その意味でも非常に時宜を得たことと理解しております。

 あえて、これを超えてやってほしいことを申し上げると、冒頭にも申し上げましたけれども、やはり科学技術立国としての基盤をつくってほしいということ、そして、国際経済秩序の構築、これも非常に重要な話として、経済安全保障戦略又は国家安全保障戦略における経済安全保障に関する言及の中で是非論じていただきたいと思っております。

伊東(良)委員 今回の委員会の議論の中では、本当にこの四本柱だけでいいのか、ほかにもっと必要な分野はないのか、そういった危惧をされる議員がたくさんいらっしゃいました。この点につきましても、四分野以外の分野ということで、もし先生の方でお考えがあればお聞かせいただきたいと思います。佐橋参考人、お願いします。

佐橋参考人 この四分野から始めるということで、それには非常に合理性があると思っております。

 それに加えてというふうにいいますと、もう既に政策的措置が取られているんですが、サイバーセキュリティーの強化は非常に重要だと思いますし、また科学技術の基盤強化というのも重要だと思います。こういったことに対しても措置が取られることが望ましいとは思っておりますが、それはこの四分野の重要性を下げるものではいささかもないというふうに理解しております。

伊東(良)委員 ありがとうございます。

 それで、現在、コロナ禍において世界的なサプライチェーンの脆弱性リスクが顕在化をしているわけであります。政府がサプライチェーンの強靱化に取り組む意義と目的につきまして、佐橋参考人の御見解をお伺いしたいと思います。

佐橋参考人 御質問ありがとうございます。

 サプライチェーンは、有事によって寸断される可能性もあれば、平素からサイバー攻撃の脅威にさらされてもおります。これは諸外国の研究を見ていただければ非常にはっきりするんですが、サプライチェーンに対する攻撃というのは極めて過去数年で増加しております。ランサムウェアなんかもかなり使われております。そういった中で、サプライチェーンの強靱化というのは非常に重要だというふうに思います。

 また、そもそも日本は、特定重要物資の内容はまだ特定されておりませんが、例えばレアアースを一つ取ってみても、中国に過度に依存しております。本当に過度に依存しているわけです。そして、その対応策としては、備蓄だとか都市鉱山というのもありますが、なかなか心もとないところがある。じゃ、代替的な物資の開発ということになります。これは、民間企業も努力をしているようですけれども、かなりの時間を要するというふうに聞いております。

 そう考えますと、政府と民間がやはり一丸となって、備蓄を含めてできる限りのことを今やっていくしかないというのがこのサプライチェーンに対する一つの答えになるのではないのかな、そして、代替的な物資の開発なども、可能であれば後押しするということが望ましいのではないかと考えます。

伊東(良)委員 ありがとうございます。

 もう一本の柱になっております基幹インフラに対するサイバー攻撃の危険性でありますが、これは実際にもう世界各地で起きているわけであります。基幹インフラの役務の安定的な提供に対する外部からの妨害行為を未然に防ぎ、これに対処する必要性について、佐橋参考人の御見解をお伺いしたいと思います。

佐橋参考人 ありがとうございます。

 基幹インフラは本当にかなり多くの脅威にさらされておりますし、有事の場合もサイバー攻撃においても、非常に相手国に深刻な被害を与えることから、狙われやすいターゲットになるわけです。

 実際に非常にサイバー攻撃の数は近年増えているわけですけれども、実例として大規模なものを挙げても、例えば、台湾のエネルギー企業、イスラエルの水道システム、ウクライナの電力施設、アメリカのパイプライン、非常に大きな基幹システムが狙われてきました。

 そして、流出した、ある現状への不満が強いとされる国の部隊資料になりますけれども、そこには、世界的に使用されている貨物船や建物の空調システム、燃料ポンプを狙ったサイバー攻撃の計画が記されておりました。

 このように、基幹インフラがターゲットになっているということは明らかであり、そして、止まった場合の経済社会への甚大な被害ということを考えても、平素から準備することが重要だと思います。

伊東(良)委員 政府は、四本柱の法制化に当たりまして、今お話がありますように、サプライチェーンの特定重要物資、あるいは基幹インフラの対象事業、事業者、あるいは重要設備、さらには特定重要技術、特許の保全審査の対象技術について、今回、法案の成立後に、政令、省令、そして基本方針、基本指針によりそれらを絞り込んでいく、こうされているわけであります。

 この点につきましてもこの委員会の中で大いに議論がなされたところでございまして、あらゆる事項を全て法律に規定することはなかなか現実的ではない中で、どこまでこうしたものを後々に絞り込んでいくかというところが出てまいりました。

 私どもといたしましても、法律上可能な限りこれは明確化をしていただいた上で下位法令等への委任事項を設けておりますけれども、これは一面やむを得ないところであるのは仕方ないのでありますけれども、この妥当性についてどうお考えか、お伺いしたいと思います。

佐橋参考人 ありがとうございます。

 やはり、例えば特定重要物資を一つ取ってみても、何がそれに当たるのかというのは今後の情勢次第で変化する可能性が大いにあるものです。また、例えばアメリカ、例えばEUの実例に従って選べばいい、そういうものでもないわけです。日本には日本の産業構造がございます。

 そういったことを考えますと、やはり時代の状況、その時々の状況に合わせて機動的に選ばれるということは非常に重要になってくるわけです。政省令で記載がされていく、決められていく、又は政府の計画の中で決められていくということは、私は理にかなっていると思っています。重要なことは、法律に何かのリストを記載して、それに縛られることで法律の目的が達成されないということを防ぐことだと、一人の国際政治学者としては思っております。

 ただし、注記が必要でして、そういった例えば特定重要物資の特定だとかを始めとした実際の物事の決定のときには、セクターを代表する有識者の意見がしっかりと反映される仕組みが確保されなければいけない。ここに関しては重要で、それが合理的な判断につながっていくんだというふうに思っております。

伊東(良)委員 用意した質問は以上なのでありますけれども、せっかく参考人があと三人いらっしゃっておりますので、村山参考人から一言ずつ、本法制についての御見解をお伺いしたいと思います。

村山参考人 最後の、特定物資の特定に関してですけれども、これを法律で書き込むというのは私は非常に難しいと思っております。

 なぜかというと、法律ができるスピードと技術が進展するスピードが違うんです。技術は日進月歩で進みますよね。法律を作るのは、何かこういうものを開いて長く議論して作るわけですよね。だから、法律の速さが技術の速さに追いつかない場合があるんです。

 したがって、そこはかなり下の方で、柔軟性を持ったような体系にしないと、ちゃんとしたものが逆に特定できないんじゃないかというふうに私は考えております。

伊東(良)委員 鈴木参考人、先ほどもすばらしいお話をいただいたところでありますけれども、基本的なお考えをお聞かせください。

鈴木参考人 ありがとうございます。

 一点だけ、先ほどの佐橋参考人への質問の中で私なりに答えさせていただくものがあるとすれば、一つ、この四本柱の妥当性というところだと思います。

 この四本柱は、確かに、まずは経済安全保障を考える上で重要な論点を取り上げているものだと思いますが、まだ不十分だと私は考えております。そのうちの一つは、やはりこれからの研究開発を進めていく上でのセキュリティークリアランスの問題等がまだ、これからの議論の枠組みに入ってくるだろうと思いますし、また、今後、経済安全保障を進めていく上での技術開発、とりわけ、これも議論の中に出てきました防衛に関わる産業技術、こういったものをどうやって伸ばしていくのかといったこともこれからの課題になるのではないかと考えております。

伊東(良)委員 時間ですので終わります。ありがとうございました。

 四人の参考人の皆さん、本当にありがとうございました。

上野委員長 次に、國重徹君。

國重委員 おはようございます。公明党の國重徹です。

 本日は、何かと御多用の中にもかかわりませず、四名の参考人の皆様に当委員会までお越しいただき、それぞれの貴重な御意見を賜りましたこと、まずもって心より感謝と御礼を申し上げます。

 先生方がおっしゃるとおり、自由で開かれた経済活動、技術交流の促進と安全保障の面からの規制、このバランスが経済安保を考える上で非常に重要だと私も思っております。

 この観点で、まず佐橋参考人にお伺いいたします。

 私、この参考人質疑に臨むに当たって、それぞれの先生の論文等も読ませていただきました。佐橋先生は、科学技術は研究交流によって成長して成り立つ分野なんだ、このようにおっしゃっておられます。

 この点、AIとか自動運転、こういったことを始め、他国の方が日本よりも進んでいる分野もあります。今後、日本の競争力を維持また向上させていく観点からも、日本が他国から教わっている部分の足かせにならないようにしていく、こういった仕組みも必要かと思います。

 安全保障の面からの規制と外国人の技術者、エンジニア、また留学生の受入れなど技術交流のバランスをどう図っていくべきか、先生の御見解をお伺いします。

佐橋参考人 ありがとうございます。

 非常に重要な点だと思っておりまして、今後日本が科学技術の分野で世界の中で活躍していくためにも、例えば国際共同研究というものにいかに参画できていくかということは非常に重要なわけであります。そして、国際共同研究の実態を見ても、そのハブ、中心になっているのは、米欧だけではなくて中国も含まれております。こういった交流を続けていくということは実は非常に重要なわけです。

 そのためには、じゃ、何が必要なのかというふうに考えますと、やはり、例えば、技術に関する厳しい規制をもちろん全てに一律に今も導入するわけではないわけですけれども、今後も、そういった厳しい規制というものを行うところをできる限り特定して、そして、それが科学者の立場から見ても非常に明瞭になっていて、その中は確かに機微なんだ、ただ、それ以外のところは問題がない、これまでどおり研究ができる、基礎研究を含めてできる、そういう領域を確保していくということが非常に重要になっていくと思います。業界用語ではスモールヤード・ハイフェンスというふうにも言ったりもしますけれども、そのように、特定の領域、そこに高い壁をつくる、そういう発想が重要ではないかと思います。

國重委員 ありがとうございました。

 続きまして、村山参考人にお伺いしたいと思います。

 本日、お話をお伺いして、その中で、先生が先ほど、戦略的不可欠性が大事なんだと。そして、戦略的不可欠性を高める上で一番重要なのが、先生は重要技術の開発支援だと考えていらっしゃるということでした。

 この重要技術の開発支援に関して、今日お配りいただいたペーパーの中でも、重要技術の開発支援に関して1から4まで、シンクタンクによる重要技術の特定、協議会におけるシーズとニーズのマッチング、経済安保重要技術育成プログラムによる予算措置、4、社会実装の流れの構築が急務なんだということでおっしゃっておられます。

 これを実現していく、また適切にワークしていくに当たって、とりわけ先生が留意すべき、大事だと思われている点についてお伺いできればと思います。

村山参考人 極めて重要なポイントでして、中国、アメリカはたくさんお金を持っていて、すごいお金をここに投じているわけですよね。ところが、日本の場合はそれだけ投じられないということは、そこで相当知恵を絞らなきゃならないということなんですよね。

 ただ、今までの日本の問題というのは、日本の企業にいい技術はありながらも、それを社会、国、それから人の安全を守るために使っていなかった、そのメカニズムがなかったということなんですよね。だから、そこを手当てするだけでも相当進歩をすると思います。

 日本には民間にすごい技術がありますから、それを社会、安全保障のために使うということなんですよね。それは余りお金がかからないんですよ、基礎研究からやるわけじゃないですから。だから、そのメカニズムをまずちゃんとした形で整備する、そこから始めるということですよね。そうすれば、そこで成功例が出てくれば、いろいろな可能性が広がってくるというふうに考えております。

國重委員 ちょっと今日は重要技術の開発支援を中心にさせていただきたいと思います。私、対政府質疑もさせていただきまして、その中で、サプライチェーンの強靱化、また基幹インフラの信頼性、安全性の確保についてはさせていただいていますので、今日は少しこの技術の点を中心に質問させていただきたいと思います。

 重要技術の開発支援とその活用について、私は、技術開発をどう社会実装に結びつけていくのか、また、技術開発を社会実装に結びつけるスピード感をいかに上げていくのか、このことも非常に重要だと思っております。この点、鈴木先生も、技術開発を社会実装に結びつける重要性について度々述べられております。

 そこで、鈴木先生、村山先生にお伺いいたします。

 技術開発と産業政策をどのように結びつけて社会実装のスピード感を上げていくべきとお考えか、これに関する見解をそれぞれ、まず鈴木先生からお伺いします。

鈴木参考人 ありがとうございます。

 技術開発と社会実装の間には、いわゆる死の谷と言われる大きな問題があります。

 その問題の一つは、どういうふうにこの技術を展開していくのかということなしに、まずは新しい技術をつくればいいんだという、技術開発のための技術開発をしてしまう、こういうことが一点、問題としてあると思います。これをなくすためには、まずは社会実装の方から計画をして、どういう技術が必要なのかという研究開発をすることが一点。

 それともう一つは、技術開発をしたんですけれども、コストが高過ぎて社会実装ができないというところでこの死の谷が現れるケースがあるんですが、これに関しては、社会実装の方にいかにして補助金なりいろいろな形のインセンティブを与えていくのか、そして、コストを下げていく生産様式ですとか方法を研究開発の時点から考えていくということが重要になるんだと思います。

村山参考人 今、鈴木参考人が死の谷というふうに言われましたけれども、そこなんですね、ポイントは。それをいかにして乗り越えるか。

 私は、それを乗り越えるのはプロジェクトマネジャーの力だと思います。最初から最後まで見るマネジャーがいて、そこをうまく研究開発から社会へ技術移転する。そこにプロジェクトマネジャーが活躍する場があるわけですね。

 ところが、残念ながら、日本はそういう人材が余りいないし、社会的な地位もないわけです。だから、今度の育成プログラムでは、是非ともプロジェクトマネジャーの地位をしっかりしていただいて、これは職業として成り立つ、ちゃんとした給料が払われる、そういうところにまで踏み込んでほしいんですよね。

 だから、人材育成も含めてそこをやらないと、いつまでたっても死の谷におっこちてしまうということになりますので、その人材を是非とも同時に育成しなければならないというふうに私は考えております。

國重委員 続きまして、佐橋先生にお伺いいたします。

 先ほど村山先生の方も少しお答えいただいた件にも関連するかと思いますけれども、先端的な重要技術の研究開発を促進するためには、当然のことながら資金支援が不可欠になります。この点、経済安全保障重要技術育成プログラムとして、令和三年度補正予算で二千五百億円が計上されまして、将来的には五千億円規模を政府は目指しています。

 一方で、米中について見ると、米国は、例えば半導体だけを見ても、半導体の生産、研究開発に約六兆円の投資を計画しています。中国は、半導体関連技術に五兆円以上の投資をしています。これにとどまらず、米中両国は先端技術の研究開発について巨額の投資をしています。

 このように資金力に大きな差がある中で、どのような戦略的視点を持って経済安保重要技術育成プログラムの研究開発、こういったものを進めていくべきとお考えか、お伺いします。

佐橋参考人 ありがとうございます。

 今委員がおっしゃったように、他国に比べると、特にアメリカ、中国に比べると、明らかに規模が小さいとは言わざるを得ないというふうに思います。ですので、私が一研究者として申し上げたいことは、もっと増やした方がいいんじゃないかということは当然にあると思います。

 ただ、その上で、今御質問があったとおり、どうやって効率的にその大事なものを使っていくのかということになります。そのときには、やはり、参画する研究者又は企業としっかりコミュニケーションを取っていく、そして実際にその目利きをするわけですよね、そこが非常に重要になってくるというふうに思います。

 そして、私は、最初のところでも申し上げましたけれども、やはりスタートアップのように様々な企業がその中に参画することがこういった有限なお金を効率的に活用するために不可欠だと思っていまして、そういった仕組みがつくられることが望ましいと思います。

國重委員 ありがとうございます。

 私、冒頭で述べたとおり、やはり自由な経済と安全保障の面からの規制、このバランスをいかに図っていくかということが重要であって、できる限りこの規制というのは明確なものにして、そのために、本法案上は、基本方針、基本指針、また政省令で定めることになっています。それをしっかりとこの審議の中で、できるだけ明らかにするようにしてきたつもりです。

 その上で、この点に関して、先ほど佐橋先生が、私、今日、佐橋先生がどのようなことをお話しされるかというのが全く分からなかったんですけれども、先ほどお話しされた際に、重要物資の供給網に関する調査、報告について、努力義務として、罰則を設けない、設けていないです、今回の法案は。これについて適切だというふうにおっしゃったと私は理解しました。この罰則を設けていないことが適切だということについての、先生がお考えになる理由についてお伺いしたい。

 また、今日、まだ井原先生に質問できていませんでしたので、この点に関しての先生の御見解もお伺いしたいと思います。

佐橋参考人 ありがとうございます。

 私は、サプライチェーンに関して、罰則をもって営業秘密を含む可能性があるような情報を企業に要求するということは好ましくないというふうに考えています。

 アメリカは、確かに罰則をちらつかせた例はあるんですけれども、行使したことはございませんし、そもそも、そういった非常に機微なもの、これは強制的に出させることに余り意味があるとは思えません。やはりそこはむしろ、ふだんからコミュニケーションを取って、企業が自ら協力してくれるような体制をつくることが重要なのではないのかなというふうに思います。

井原参考人 ありがとうございます。

 罰則という規制は、自由な発想を当然ながら妨げるわけです。それが企業の自由な活動を制約するというふうなことに利いてくるわけで、私は、やはり自主的な、自由な議論を企業等にお任せすることが大事ではないかと。

 それからもう一つは、研究者、技術者の研究現場の罰則というふうなことを見ると、非常に大きな研究の制約というのが出てくるので、ユニークな研究が生まれにくいというふうに思っています。原則、自主的に守っていくような、そういう仕組みを提起する必要があるだろうというふうに思っています。

 以上でございます。

國重委員 時間が参りましたので終わらせていただきますが、今日は四名の参考人の先生方に貴重な御意見を賜りましたこと、重ねて厚く御礼申し上げます。

 ありがとうございました。

上野委員長 次に、塩川鉄也君。

塩川委員 日本共産党の塩川鉄也です。

 今日は、四人の参考人の皆様に貴重な御意見を賜り、ありがとうございます。

 最初に、四人の参考人の方全員にお尋ねをしたいと思っております。

 官民技術協力の関係で、先ほど鈴木参考人もちょっと触れておられましたが、セキュリティークリアランス、適性評価制度についてお尋ねしたいと思っています。

 小林大臣は、今後の検討課題の一つと答弁をしておられます。セキュリティークリアランス、適性評価制度については、その必要性を訴える声とともに、プライバシーの侵害や学問の自由の侵害、また、労働者の不利益取扱いといった問題が生じるのではないのかといった懸念の声もあります。

 このセキュリティークリアランス、適性評価制度への評価、課題ついて、それぞれお答えいただけないでしょうか。

佐橋参考人 ありがとうございます。

 セキュリティークリアランスは、今回の法案が残した課題の一つであるというふうに私も理解しております。

 そういった中で、このセキュリティークリアランスというものは、今後、国際競争や、機微技術の取扱いに関して国際的な共同開発などに入るときに、民間でも非常に有用になってくると思います。

 ただ、このときに考えなくてはいけないのは、国際的に通用する枠組みにするということでありまして、そのためには、かなり、背景調査を含めた綿密な制度設計というのが必要になってきます。

 私は、もし導入するのであれば、本格的な導入、国際的に通用するものが必要であって、簡易的な形で導入するということではなく、そういったしっかりとした制度設計にしていただきたいと思っております。

村山参考人 私の方は、国際共同技術開発プロジェクトにおける重要性というのをお話ししたいと思います。

 というのは、経済安全保障で、民間がある技術をいかに安全保障だとか国の安全に使うかというのは非常に重要なんですけれども、それを国際的にもやらなきゃならないと思います。そのときに、相手がセキュリティークリアランスが要ると言った場合、今は、政府からはいけるんですけれども、民間企業はいけないんですよね。だから、民間企業がいいものを持っていて、それを生かそうと思っても、セキュリティークリアランスをクリアできていないから参加できないということがあるということですね。だから、国際的にもそれをクリアできないと、日本の民間技術が使えない。

 実は、私の場合も、そういう会議に行った場合、セキュリティークリアランスがありませんので、やはり、出てくる資料が、おまえには見せないみたいなところが結構、黒塗りした部分しか見せられないということがあるんですよね。そうなると、やはり研究にも非常に支障を来すわけですから、国際的にそういうことをやるためには、やはり国際的な標準をクリアしておく必要があるかなというふうに思います。

鈴木参考人 もう既に佐橋参考人それから村山参考人からお話しされたことと私も同意するところが多々ありますが、一つだけ。

 今回の法案でシンクタンクの設立が議論されておりますけれども、こういったところでの情報収集、そして、例えばアメリカでいうとランドですとかエアロスペース・コーポレーションといった、こうした政府にかなり近い政策提言をするシンクタンクも、やはりセキュリティークリアランスを持つことによって政府との情報交換ですとかそういったことを行っていて、それが結果的に政策提言につながっているというようなこともありますので、その点も含めてセキュリティークリアランスの問題というのは考えていくべきではないかというふうに考えております。

井原参考人 私は、原則反対でございます。

 人権に関わるわけですが、当人だけではなくて、その背後に連なる関係者たちにも大きな影響を与えます。

 これは、御承知のように、企業と共同研究しているときに、特許で関わるようなそういう研究をするときに、隣にいる人とも口が利けないような、そういう環境というのは幾らでも、現状でもあるんですね。面白いというのはおかしな発言ですが、ドクター論文の審査のときに、白紙になっているんですよ。そういうので、何が学問、あるいは、その分野の研究が進むんだろうかと。

 これまでも、かなり際どい議論をしながらやってきたわけですね。だから、今ここで力と力というふうな形でこれを進めようとすると、どうしてもこういう問題で規制をしなきゃいけないという形になるので、私は、そうじゃなくて、国際協調的なそういう精神で、研究の分野でも大いにそういうことができるだろう、技術開発の分野でも、少なくても、そういう機微な議論にどれだけ関わったらいいのかということにもなるだろうと思います。

 以上です。

塩川委員 ありがとうございます。

 次に、井原参考人にお尋ねをいたします。

 井原参考人は科学史、技術史が御専門ということで、日本の、政府の科学技術政策の問題についてお尋ねしたいんですが、井原参考人は、大学や研究機関の研究者の七割が非正規の短期雇用の下に置かれており、政府の競争的研究費を申請するために目先の成果に追われる研究者が多数いることを指摘をしておられます。政府が社会実装を目指す研究費を乱発すれば、基礎研究がおろそかになり、研究基盤が掘り崩され、日本の基礎科学がしぼんでいくと述べておられます。

 基礎研究を軽視をした政府のこの間の科学技術政策の実態、問題点についてお話をお聞きしたいと思います。

井原参考人 ありがとうございます。

 実は、第三期科学技術基本計画のフォローアップをしたときに、当時の理工系大学院の海外調査、比較研究というのをやらせてもらったことがありますが、研究の基盤的なところがどれだけ大事かということで、そんな経験を持っているものですから、これはやはり、先ほどもちらっと出ていたようですが、科学技術基盤、ここを育てないと、こういう研究やこういう課題を解決してほしいんだという、そういう社会的な課題はいっぱいあると思うんですが、はい、これやって、これやってというふうな形で、うまい成果というのは基本的には生まれないだろう、そんなふうに思っています。

 そういう意味では、科学技術基本計画の中で、基盤研究をどう豊かにしていくか、そこのところはやはりもっと明瞭に提起しないといけないだろう。特に研究者の、今、先ほども委員が出されたように、全体の三割は常勤で、七割しか。常勤の先生がいない、物すごい多忙になっているわけですね。

 だから、そういう意味で、そこのところをどうやって底上げしていくかということがやはり科学技術政策の根幹になっていないといけないだろう。それが、何しろ、課題がこんなにあって、お金はこれだけつけましたから研究をやってくださいといっても、なかなか成果が上がるものではないというふうに考えております。

 以上です。

塩川委員 ありがとうございます。

 続けて、井原参考人にお尋ねいたします。

 研究者の人材養成、人材育成のことですけれども、井原参考人は、科学技術の発展は、時の政府や企業等のためにのみ貢献するのではなく、人類の福祉と尊厳、人権を損なうことのない行動を研究者は求められている、協議会に囲い込み、各省庁が社会実装に向けて支援伴走する方式は人材養成にはならないと述べておられます。

 この法案での官民技術協力が人材養成にならないというのはどういうことか、本来、人材養成に必要なことは何なのか、この点についてお教えください。

井原参考人 端的に言いますと、今回話題になっている、省庁が支援伴走するというふうな形で、何しろ研究を社会的実装に持っていこうというふうにけしかけている。私から見ると、お尻をたたいて、早く研究しろというふうにしか見えなくて、研究者の自発的なアイデアが、そういうところで、やはり豊かな土壌がないと、どうしても出なくなっちゃう、実りが少ないというふうなことですね。

 ここでちょっと野依さんの例を出させていただいて、やはり富士山の、裾野が広ければ高いものが当然できてくるわけで、その裾野を、どうやって多様な裾野をつくるかということが面白い研究や先端的な研究を生み出すポイントだというふうに思っています。

 そういうわけで、ここで強調されている、何しろ、私から見ると、尻をたたいて、早く研究せいという、そういうやり方では恐らく人材は、一つの特定の課題の研究の人材はできる、でも、それで終わりになる、私に言わせると、これは消耗品になっちゃうんじゃないか、そういう思いがしております。

 以上です。

塩川委員 ありがとうございます。

 もう一問、井原参考人にお尋ねをいたします。

 特許制度の非公開の問題で、特許制度は科学や技術の発達の欠かせない制度として定着をしてきた、戦前の秘密特許は平和憲法になじまないとして廃止されたと述べ、法案の問題点として、特許非公開に関わる研究発表の差止め、技術開発の停滞を、配付されました資料の中でも指摘をしておられます。

 このような特許制度の非公開の仕組みについての問題点について、補足して御説明いただくことがあれば、お願いをしたいと思います。

井原参考人 ありがとうございます。

 特許制度は、私もその資料に書いたとおりに、知的財産の問題、知財の問題だけではなくて、広く文化の問題だというふうに考えているんですね。

 御承知の方もいるかもしれませんが、そこに書いてあるように、アインシュタインが冷蔵庫のある種の特許を取っていた。知っている方もおられるかもしれませんが、物すごく幅の広い研究の中から、えっ、そんな実用的なことを彼は考えていたのと。そういうものだと思うんですね。彼なんかがそんな特許を取ってどうするのかというふうに思うわけですが、でも、研究というのはそういうものですから。

 ユニークな研究や何かが生まれてくる、それをやはり特許にして本人のプライオリティーや利益をきっちり守っていく、そのことが周りの人を励ましていく、そういう関係になっているわけで、それをやはり、特許は即公開ということで、あっ、もう特許を取られちゃっている、じゃ、次のところをやらなきゃと。でも、それが隠されていると、そこのところをやる人が出てくる。これは、戦時中、そうですよね。三本か四本、並行的に同じ研究がやられていた。そういうのをつくって競争に勝てますかという思いが私はして、やはり特許は公開が原則。

 だから、よく、秘匿しなきゃいけない、僕も理解できるんですが、それはもっと違う工夫が必要だろうと。それは、企業ではそうやってずっとやられている。ノウハウをどうやって仕込むか、そういう工夫をしないで、手軽にこれでと。それは、ますますそういう分野を狭くしていっちゃうということになりますので。そういうふうに考えます。

 以上です。

塩川委員 ありがとうございます。

 それでは、佐橋参考人にお尋ねいたします。

 お話の中で、基幹インフラの防護のことがございました。必要性とともに、経済団体の負担が大きいというお話がございました。

 どのような負担が生じ得るのか、その点についての心配といいますか、懸念というか、現場の声なども含めて御紹介いただけないでしょうか。

佐橋参考人 ありがとうございます。

 基幹インフラに関しては、結局のところ、ここに関しては事業者が負担をしなくてはいけないわけです。もちろん、事前相談などの機会はあるわけですが。ただ、やはり一番大きい負担感というのは、じゃ、どれを使ったらいいのかというのが明示されていないということに尽きるんだというふうに思います。

 ですが、そういったことは、結局は、事前相談の運用に関わってくるというふうに思っておりまして、各省庁が窓口で受けるというふうに承知しておりますけれども、その事前相談をかなり真剣に運用していくことで負担感の軽減につながるというふうには思います。

塩川委員 時間が参りました。ありがとうございました。

上野委員長 次に、浅野哲君。

浅野委員 国民民主党の浅野哲でございます。

 四名の参考人の皆様には、お忙しい中、今日はお時間をつくっていただきましたことに感謝を申し上げます。

 時間も限られておりますので、早速質問に入りたいと思いますけれども、まずは佐橋参考人にお伺いをしたいと思います。

 この法案なんですけれども、先ほどから出てきております四つの柱がございます。サプライチェーンの強靱化、基幹インフラの安全性、信頼性の確保、そして特許出願の非公開化、官民技術協力、この四つの柱でございますが、これは人それぞれ捉え方があると思うんですけれども、私自身は、この四つの柱によって、いわゆる攻めと守りを同時両立しようとしているように感じております。

 ただ、この攻めと守りをする必要が出てくるその前提条件というのは、当然ながら、守るべきものが存在していること、そして、攻めるだけの強みを持っていることだと思うんですね。その観点でいいますと、先ほど参考人がおっしゃっていた、シンクタンクが重要であるですとか、人材の確保が最大の課題である、また、科学技術基盤の強化、そしてインテリジェンスの重要性、こういったものに先ほど触れられておりましたので、とても私としては合点がいった内容でありました。

 ただ、特にインテリジェンスについてちょっと伺いたいと思うんですが、この法案にインテリジェンスという要素というのは余り強く含まれておりません。このことに、私自身、一つの懸念を持っております。

 インテリジェンス機能がしっかりとワークしないと、守るべきものをつくり出せませんし、強みも生み出せない、こういったことにつながると思っておりますが、我が国の経済インテリジェンスの現状と課題、どのような御認識を持っていらっしゃるか、そして、この法案の課題としても、関連して言及いただければと思います。

佐橋参考人 御質問ありがとうございます。

 経済に関わるインテリジェンス機能というのは、恐らく二つの面があると思っておりまして、一つが、日本に対する他国からの技術窃取などをもくろむような活動を事前に察知して、それを防ぐ、又は、重要インフラや基幹インフラなどを狙ったようなそういった動き、これも事前に察知する、そういう、守るためのインテリジェンスという機能が一つございます。

 ここに関しては、今後強化がされていくというふうに期待はしておりますけれども、ただ、逆に、一つだけ留意点を申し上げるとすれば、これはアメリカからの例になりますけれども、特定の背景、国籍や出自の背景を持つ人を狙い撃ちにしたようなプログラムというものを設けてはいけない。

 アメリカではチャイナ・イニシアチブというものを司法省が行いましたけれども、恐らくこれは経済インテリジェンスの一環と言うことはできると思うんですが、かなり成果は上がらなかった。むしろ特定の、これはすなわち中国系、中国のといいますか、中国系の背景を持つ人に対する差別的な動きというものを増長してしまいました。こういったことが起きないようにしっかりとした運営をしていくことが、今言ったインテリジェンスの中では必要だと思います。

 他方で、もう一つのインテリジェンスというのは、これはシンクタンク機能と重なるところがある方のインテリジェンスでして、どういった技術が必要か、どういった物資が今後必要になってくるか、どういった攻撃が例えばインフラだとか重要物資のサプライチェーンに及ぼされるのか。ここのインテリジェンス機能も実は日本は全然足りないと思っておりまして、正直なところ、サプライチェーンに関してはシミュレーションをしてほしい、インフラに関してもリスク評価をしてほしいと申し上げましたが、どこが担っているのかもよく分からないですし、こういった状況を変えていく必要は大いにあると思います。

浅野委員 ありがとうございました。

 続いて、村山参考人にお伺いしたいと思います。

 村山参考人は、先ほど、重要物資の安定供給について、多くの企業が既にBCPの一環として取り組んでいるんだということをおっしゃっておりました。私も、前職、民間企業に勤めておりましたので、その点、よく承知をしておりますし、最近も、法改正によってBCPの強化が定められましたので、より一層その取組というのは強化されている状況にあると思っております。

 その上で、本法案では、政府が重要なサプライチェーンの実態調査を行うことを可能にしているんですけれども、じゃ、企業も既に自主的に取り組んでいる、その実態を政府が調査したときに、政府はどのような役割を期待されているんでしょうか。その観点から教えていただきたいと思います。

村山参考人 BCPですけれども、どの企業も一生懸命取り組んでいるんですけれども、当然、跛行色があるわけですね。

 BCPの場合、通常の経済活動ではありませんで、いざというときに備えたことですので、そこにどれだけ投資を振り向けるかという問題なんです。だから、通常の経済活動にこれだけ投資をして、BCPにどれだけ投資をするかということなんですね。それに対して、政府が、ある意味、補助金を与えれば、BCPへの取組がより強くできる、投資ができるということなんですよね。

 でも、そのときに注意しなきゃいけないのは、やはり企業が一番よく知っているので、いろいろなノウハウがあるわけです。だから、政府からこういうふうにやれと言うのは余りよくなくて、この法案でもそうなっていると思うんですけれども、企業の方から、こういうふうにすればこの業界のBCPは確保できるから、ここにもう少しお金をつけてくれたらこんなことができるんだという提案があれば、それを政府が認可する、そういう方策が望ましいんですね。

 したがって、BCPだとか、いざというときに備えるためへの投資を援助する、そういう形のお金の使い方というか、それが望ましいというふうに考えます。

浅野委員 どうもありがとうございました。

 まさに私もそのとおりだと思っております。恐らく、その辺り、詳細はこれからということになりますので、そういったところに現場の声が反映されることを私も願っております。

 続いての質問ですが、鈴木参考人に二問お伺いしたいと思います。

 まず一問目なんですけれども、資料を拝見いたしますと、脆弱性を回避する手段、言い換えれば、依存度を低減させる手段と言ってもいいかもしれません。備蓄や供給の多元化や代替品の開発、サプライチェーンの強靱化、信頼できる相手との取引の重点化などを資料では例示をされておりましたが、そういったことの実現というのは相当な困難を伴うものだと私は考えております。

 もちろん、それに向けて努力をしなければいけないんですけれども、今のBCPの話とは違って、こちらについては、安全保障のための対策ということもありますので、しっかり、民間企業にその責任を押しつけるべきではなく、政府として一定の役割を果たすべきだと私は考えるんですけれども、この備蓄、供給元の多元化や代替品の開発、サプライチェーンの強靱化、信頼できる相手との取引の重点化、こういったところに政府がどう関わっていくべきなのか、また民間と政府の連携の在り方というのはどのような形が理想なのか、そういった観点で御意見をいただきたいと思います。

鈴木参考人 御質問ありがとうございます。

 一つの参考になる例は、石油ショックの後に備蓄法が制定されて、石油が国家の責任の下で備蓄をされている、私の記憶が正しければ百四十日だったと思いますけれども。そういう形で、例えば、国家が備蓄の部分は担当するけれども、供給元の多元化、これは、企業の様々なビジネスプラン等があるでしょうから、やはりそことの調整をしていくための政府とビジネスの対話というのをやっていく。その中でも、やはりどこにリスクがあるのかということを政府が、先ほど経済インテリジェンスの話がありましたけれども、経済インテリジェンスというのは、ビジネス上のリスク、これを、政府が持っている情報を可能な範囲で企業とシェアしながら、どういった形でそのリスクを回避していくかということを考えていく。

 今回の法案で特定重要物資と言われるようなものについては、そうした石油の備蓄に準ずるような、こういう対処の仕方をしながら政府が対応していくということの考え方が適切なのではないかというふうに考えております。

浅野委員 ありがとうございました。

 私は、あと、加えて、これは今後、国会内でも議論していきたいと思いますが、やはり、在外公館ですとかジェトロですとか、既にある海外機関の有効活用、機能強化、こういった視点も大事だと思っておりまして、また今後そういう機会がありましたら、是非御意見を伺えればと思います。

 二問目なんですけれども、鈴木参考人は国会図書館の客員調査員も務められておりまして、二月十七日に、国会図書館主催のセミナーでアメリカの戦略国際問題研究所のマシュー・グッドマン氏の基調講演が行われ、私もそれを拝聴させていただきました。

 この中で、講師の方が最後に指摘をしたかったこととして、日本は、今回、経済安全保障の議論を進めていく上で、保護主義に陥ることなく、国内経済の開放性というものに配慮をしながらリスク対策をしなければいけない、そういった言葉がございまして、大変私も印象的で、共感をするものがありました。

 経済の開放性というのが本法案の中に余りない概念ではないかなというふうに思っておるんですけれども、我が国の現状に対して、経済の開放性という観点から御見解があれば伺いたいというふうに思います。

鈴木参考人 ありがとうございます。

 先ほど御紹介されました国会図書館でのマシュー・グッドマン先生とのやり取りの中、私もよく覚えております。

 あのとき開放性という言葉を使われたのは、オープンネスという英語だったと思いますけれども、やはり、日本がこれまで広く、CPTPPですとかRCEP、自由貿易を進めてきた、そういうアジアにおけるリーダーとしての役割を失ってほしくないというニュアンスが込められていたのではないかというふうに考えます。

 その意味では、今回の法案の中では開放性ということが必ずしもメインではないとは思いますけれども、これまでの日本政府の取組として、全体として自由貿易を推進するというところはあったというふうに私は理解しておりまして、ゆえに、先ほどの冒頭の陳述では、自由貿易と安全保障のバランスということが大事だということを申し述べさせていただきましたけれども、まさにそれは、グッドマン先生がおっしゃるような、保護主義に陥ってはならないと。つまり、どこまでが安全保障上合理的に言えるところなのか。

 先ほど、佐橋参考人はスモールヤード・ハイフェンスと言いましたけれども、どこまで守るべきものというもののエリアを狭くできるか、そして、そのエリアを狭くしたところのフェンスは高くできるか、こういうことがこの法案には求められているのではないかというふうに考えております。

浅野委員 ありがとうございました。

 今のやり取りに関して、佐橋参考人にも御見解を伺いたいと思います。

 加えて、それと併せて、日本の優位性や不可欠性というものをこれから考えて、発揮を目指して取り組んでいく中で、やはり、これは国のリーダーシップと民間企業のリーダーシップ、あるいは教育機関のリーダーシップというものがそれぞれ存在をすると思いますが、その辺りの御認識も併せて最後にお伺いをしたいというふうに思います。

佐橋参考人 御質問ありがとうございます。

 まず第一点のマシュー・グッドマン先生のオープンネス、オープンさの指摘なんですけれども、私もそのとおりだと思います。

 そして、冒頭陳述でも申し上げましたけれども、日本はやはり、経済外交、少なくとも近年は成功してきたわけです。それは、CPTPPの取組などにもよく表れているわけです。恐らく、御指摘があったような点は、まさに日本の経済安全保障の取組が悪い意味での産業政策になってほしくないということなんだというふうに思います。実際には、アメリカと中国はそのようになってしまっているわけです。ですので、恐らく、グッドマン先生は、他人が推し量るのはなんですけれども、日本だけではなくアメリカにも注文していたというようにも私には思えます。

 そして、日本の取り組むべきことは、やはりオープンネス、オープンさというものを求めて経済外交を力強く推進していくことであるし、やはり日本が戻るべきは、CPTPP、これに尽きるわけです。そこは、余り周りのほかの交渉枠組みに踊らされず、そこを追求していくべきというふうに思いますし、それは経済安全保障の今回の法案の内容とは全く矛盾しないというふうに思います。

 二つ目の御質問が国のリーダーシップと民間の話なんですけれども、正直、やはり、民間企業の方と話したり、またいろいろ勉強しても分かるのは、国が引っ張るだけではなくて、責任も取ってほしいということに尽きるんだというふうに思います。

 民間企業に負担だけを強いるのではなくて、そして国がリーダーシップを取っていくという形だけではなくて、やはり、民間企業に、例えば人権デューデリジェンス、ちょっと経済安保の話からすると外延ですけれども、例えばそれを求めるだけではなくて、国がしっかりとした方針をつくることというのは大事なわけですね。そうでないと、あっという間に相手国からの経済強要行為にまず企業が巻き込まれてしまうわけです。

 ですので、国のリーダーシップとまた民間との関係性というのは、恐らく、どっちかが先導するという話じゃなくて、コストの負担、リスクの負担を共有していくということにあるのではないかというふうに考えます。

浅野委員 時間が参りましたので、終わります。

 本日は、ありがとうございました。

上野委員長 次に、森山浩行君。

森山(浩)委員 先生方、今日は、参考人としておいでいただき、本当にありがとうございます。

 立憲民主党の森山浩行でございます。

 私、大学のときのゼミナールがWTOができる前のガットでございまして、日本が自由貿易の中で大変な恩恵を受けているということを前提に考えたときに、この法案において、やはり少し、自由貿易に対するリスペクトというか、こういうものが足りないのではないかという印象を持つ中で、そのような誤解も含めて、ないようにしていかなければいけないのではないかなというような印象を持っています。

 その上で、一つは自由貿易との関係、そしてもう一つが、日本は自由主義経済ということでございます。自由をしっかりと確保した上で、国家の安全というようなところとのバランスを取っていかなければならないわけですが、今回の経済安全保障という法案の中に、定義あるいは基本理念といったものが十分書き込まれているとは言えないということで、この委員会でも随分と大臣ともやり取りをしてまいりましたけれども、こういったものをしっかり書くべきではないのかな、こういうことを思っております。

 また、特定重要物資やあるいは基幹インフラなどの指定に当たりまして、関係者の意見を聞くことという部分、これについては、当然やりますよという御答弁はあるのですが、今回の法案が出るまでの間に、いや、うちは聞かれていないよというような経済団体であるとか、あるいは特許関係の団体であるとか、こういうお話も聞いている中でいうと、やはり、各省が自分のところの、ふだんおつき合いをしているところとのやり取りの中で組み上げてきた法案ではなく、内閣という中で特命大臣を置いて、その中で、自分たちの見える範囲でお話を聞いてきた結果が、このような形で積み上げが弱いという法案になってきたのではないかなと思っています。

 広い網を粗くかけて後で考えるという姿勢についてはいかがなものかなということで、この委員会の中におきましても、厚生労働省の政務三役が出てきて、特定重要物質と連呼していました。特定重要物資ということ自体が入っていないというような状況のまま、法案が通ってからそれぞれが考えるというようなことになっていることについては、危惧を覚えています。

 それぞれの先生方、四人の先生方にお聞きをしたいのですが、一つは自由貿易との関係、そしてもう一つは、予見可能性を高めるためにも、いかに指定に対して事前の相談をしていくか、これは明確に書き込んでいくべきではないかなというふうに思っていますけれども、いかがお考えでしょうか。

佐橋参考人 ありがとうございます。

 まず、自由貿易についてですけれども、全く委員と認識は同じでして、日本という国の繁栄を維持していくためには、この自由貿易体制、これを維持していく必要があります。

 むしろ、この経済安全保障的な問題意識が世界に蔓延する中で、若干、自由貿易体制に厳しい状況、風が吹いているのは間違いがないわけです。ですので、私は、経済外交が、大きな意味での国家安全保障戦略の中でしっかりと位置づけられるべきだというふうに個人的に思っておりますし、今回の取組に限らず、経済安全保障に関する施策の中では、自由貿易との両立、これが非常に重要になってくるというふうに思います。

 また、自由主義との関連でいえば、今回の法律には直接の記載はないですけれども、憲法、国際人権法、こういったものにのっとった対応がされるというふうには思っておりますし、当然だろうと思います。

 その上で、自由な商業活動を行っているはずの業界とのコミュニケーションが少ないのではないかという二つ目の御質問なんですけれども、確かに、今後、そこは非常に大きな課題だというふうに私自身も思っております。もちろん、仄聞しているだけなんですが。

 ですが、法案には、十分そのための仕組みというものは書かれているというふうには理解しておりまして、問題は運用だというふうに思います。その運用が、例えば、インフラであれば事前相談とかいろいろございますけれども、その運用のところで果たして各省庁がどこまできちんとできるか。ただ、ここはコミュニケーションが重要だということを、常に政府が、政権が、政策として明示していくということで担保していくしかないんじゃないかなというふうには思います。

村山参考人 まず、第一点ですけれども、自由貿易、自由競争、これは日本の要ですね。

 アメリカと中国と日本の違うところというのは、アメリカにしても中国にしても、国内のマーケットは大きいですから、閉じてもある程度やっていける。ところが、日本は、閉じたらもう終わりになると思います。したがって、ここは開放性というのは第一に考えなきゃならないところなんですね。

 したがって、経済安保のところで自律性と不可欠性という二つの言葉があるんですけれども、私は、不可欠性の方が重要というふうに考えるのはそういうところなんですよね。だから、連携する中で、日本が不可欠であると。自律性となると、関係は断たれても我々で回せるようにしておこうということですので、どうしても保護主義に陥りやすい考え方なんですね。だから、どちらかというと、不可欠性を重視した方が日本はうまくいけるんじゃないかというふうに私は考えております。

 それから、この経済安保に関して、官民連携が新しいステージに入ったというふうに私は考えております。ここでじっくりと話し合わないと駄目なんですね。じっくりと話し合って、経済と安全保障を切り分けて、うまくそこで線引きをして、両方とも満足できるようなところを探っていく、そういう作業ですね。

 これはアドホックな対応じゃ駄目で、私は組織をつくるべきだと思います。官民の新たな組織をつくって、そこで、そういう問題があったら、各業界ごとにそういうことが組織的にできるような、そういう形にこれから持っていかなきゃならないと思います。私はそれを建設的官民連携と言っているんですけれども、そういうステージに入ったというふうに考えております。

鈴木参考人 ありがとうございます。

 自由貿易との関係については、もう既に冒頭陳述のところで申し上げたところではありますけれども、現在、やはり自由貿易の在り方というのが非常に大きなチャレンジを受けている。それは、トランプ政権のときに、アメリカがTPPから離脱するですとか、またWTOの上級委員を任命しないといったような形で、現在、自由貿易の在り方そのものが問われている。

 そういう時代にある中で、先ほど村山参考人からもありましたとおり、日本は、やはり貿易立国として生きていかなければならない。そういう中で、いかにして、自由貿易を進めるリーダーシップを取りながら同時に経済安全保障を確立していくか。やはり、これは非常に難しいタスクだとは思いますけれども、ここを目指していくためには、いろいろな難しい問題はありますけれども、今回の法案を通して、その中で安定した運用をしていくことが大事だろうと思います。

 今の点にも関しまして、二点目なんですけれども、各業界との事前の相談に関わる問題として、今回は、そういう非常に難しいテーマを扱っていることであり、かつ、非常に新しいのは、これから起こり得ることを予防する、つまり、将来に起こり得る様々なリスクに対応するための法律であるというところがなかなか難しいところで、今、現状の事業をやっていらっしゃる方々、そういう方々の現在抱えている問題よりも、将来どうなるかということを考えなければいけないので。

 今回、いかにして現在と未来という時間軸のずれを政府と民間の間ですり合わせていくのかというのが、この法案を作成する段階の話だけではなくて、今後、やはり運用していく段階でも非常に問われるところかなというふうに考えます。

井原参考人 ありがとうございます。

 私は、経済制裁というふうな形はやはり一つの力、力と力だと。現状、今、ウクライナの問題でも、経済制裁ということで、もっと危険が迫るような、そういうことも起こり得ると。したがって、この問題は、やはり力と力から抜け出した形での工夫が必要だろう、それが恐らく自由貿易や自由主義ということだろうと思うんですが、我々は既に平和的な経験で国際的な商習慣を築いてきているわけで、それをやはりもう一度見直しながら、どうあるべきかというのを今冷静に考えておく必要があるだろう。今、行け行けどんどんで厳しめな、あるいは企業を国家管理するような形の施策にならないことがやはり大事だろうと思います。

 以上です。

森山(浩)委員 ありがとうございます。

 今日は四人さんとも研究者でいらっしゃるということで、研究者の育成への影響という部分でお伺いをしたいと思います。

 今回のことによって、研究基盤をしっかりしなきゃいけないんだというところと、いや、むしろ逆行するんだという両方の御意見がありました。この辺をどうお考えになっているのかということと、特許の非公開の話がありました。審査を止める形になるんですよね、今回の法案では。止めるのではなくて、終えた上でそれを公開しないというようなやり方も世界ではあります。

 これは、止めてしまうというようなことによって負担が大きくならないか、あるいは、第一国出願義務を課すということになってくると、もう既に各企業においてはアメリカや中国に第一国出願をしているというような状況もある中で、日本への出願自体をもうやめてしまおうというようなことにならないかという危惧等もあると考えています。

 また、デジタルの部分については、オープンガバメントをしていく中で、台湾のオードリー・タン大臣などが中心となって、マスク、これが戦略物資になるとは思っておりませんでしたけれども、マスクの在庫について、各薬局でどのようになっているか、これを、システム自体もオープンで、市民の皆さんと一緒につくる、あるいはその物自体がどこにあるかということも操作できるというような形のシステムをつくって対応されました。

 日本が布マスクを配っている間にそのようなことをされていたわけなんですけれども、こういったことについて、緊急時だから、どんな人が来るか分からないけれどもこれはいいんだというふうにお考えになるか、こういうこともやはりセキュリティーの面からはしっかり何らかの対応をした上でやっていくべきなんだというふうにお考えかということで、研究分野についてお伺いをしたいと思います。

上野委員長 大変恐縮ですが、時間が迫っておりますので、ごく簡潔に、それぞれお願いをします。

佐橋参考人 ありがとうございます。

 それでは、私は、最初の点、研究者の育成について、まず答えさせていただきます。

 これは恐らく、今回の例えば先端技術の官民協力による開発、これで全体としての研究者育成が言ってみれば悪い影響を受けるとは思っておりません。これはただ単にパイが増えるという話ですので、そこに問題を私は感じておりませんし、また、これは研究者が自由に入れるという仕組みですので、特に問題はないと思います。

 ただ、それとは別に、やはり過去十数年、私の研究者人生と重なっているこの時期に、若手研究者の研究環境がここまで悪くなったというのは強調してもし過ぎることはなくて、私自身、本当に血のにじむような苦労をして生きてきました。

 正直、研究者であることがこんなにしんどいものだとは、大学院に入った段階で、みんな思っていないわけですよ。大学院に入った学生が夢を持てる、キャリア形成のビジョンが持てるようにしていただきたい。そして、ちゃんと家が買える、子供をつくれる、家族を持てる、パートナーがつくれる、そういうふうな状況に持っていってほしい。そうなっていないのがやはり研究者育成の全体的な問題で、そこに関しては、今回の経済安全保障政策とは違いますけれども、しっかりと御留意いただきたいというふうに思います。

村山参考人 私も、自由な研究という面からコメントさせていただきたいと思います。

 今度の経済安全保障法案が自由な研究を阻害するというふうには考えておりません。むしろこの辺りは、政府というよりも大学に責任があるというふうに思っております。

 我々、大学にいて、軍事研究は駄目とか言われても、非常に幅広いんです。例えば人間の安全保障に関する研究も駄目なんですかという話になるわけですよね。だから、そのお題だけ掲げて、具体策まで全く大学が落とし込んでいないんです。だから、どこまでよくてどこまで駄目なのかというのは、どこも分からないんですよね。

 だから、そこは大学の怠慢で、そこをしっかりと決めていかないと駄目なんです。そうでないと学問の自由は保障されないんですよね。だから、私は、ここは大学の責任が大だというふうに考えております。

鈴木参考人 時間も限られていますので、一点だけ。

 先ほどの佐橋参考人の意見、全く私も同じでありまして、理系だけではなく、文系の大学院、また研究者も非常に苦労しているということ。

 それと、御質問の中にありました緊急時にどうするかという話なんですけれども、経済安全保障の話にしても、緊急時のシステムを構築するという話にしても、いずれもやはり重要になってくるのは、何のためにこれをやるのかということだと思います。

 つまり、経済安全保障、国民の安全保障を経済的な手段で到達する、実現するというためであれば、こうした緊急時においての様々な調整、何を大事にするのかということを考えながら、役所的にというか、機械的にルールを押しつけるのではなくて、そうした柔軟な運用の仕方もあるだろうというふうに考えております。

井原参考人 経済安保の中で若手研究者やあるいは特定の技術を育てていくということで、そこに経費が集中すると、一般的な研究基盤が、予算はパイが決まっていますから、低下していくというのはもう明らかなことなので、そういう意味で、私は、先ほども言った研究基盤を強くしていくというのは、まずそっちの方が基本であるというふうに考えております。

 以上です。

森山(浩)委員 ありがとうございました。

上野委員長 次に、足立康史君。

足立委員 日本維新の会の足立康史でございます。

 先生方、本当に刺激的なお話をありがとうございました。本当に勉強になりましたし、たくさん伺いたいことがありますが、ちょっと時間の関係で、今日は佐橋参考人、鈴木参考人を中心に伺いたいと思います。

 まず、今日は罰則の話はするつもりはなかったんですが、國重委員が佐橋参考人にちょっと御質問されたので改めて申し上げますが、國重さんは、とにかくこの議論はするべきじゃない、罰則の議論は、もう落としたんだから検討の余地がないんだ、こうおっしゃっているんですよ。

 私は、先ほどまさに佐橋参考人がおっしゃったように、アメリカでは、ちらつかせるとおっしゃったけれども、いろいろな議論はあるんですね、この罰則の議論は。例えば日本でも、統計法でさえ罰則があるわけですよ。基幹統計を実効たらしめるために罰則があるわけです。コロナにあっては、飲食店に罰則つきで要請しているわけです。

 だから、私は、この議論、この経済安全保障というものをどういうふうに実効たらしめていくか、特に、まさに今日議論があった、安全保障上重大な利益というのはどこなんだということをぎりぎりやっていく。日本は自由主義、民主主義、自由主義経済ですから、中国や北朝鮮やロシアのフロント企業だってたくさんいます。

 私は、どういうふうにこの制度を実効たらしめていくかについて、たまたま今罰則が議論になっているんですが、その議論を排除するべきではない。この法案は、私は賛成ですよ。この法案は賛成なんだけれども、議論を止める必要はないと思うんですね。政府内でも議論があったけれども、もう議論したくないと言っているんです。

 議論はあっていいと私は思いますけれども、参考人、どうですか。佐橋参考人。

佐橋参考人 足立委員、ありがとうございます。

 サプライチェーンに関するところでの協力に関する罰則については、私はそれは望ましくないと思っています。その理由は、やはりそれを求めることが余りにも酷過ぎるということに多分尽きるんだと思います。

 民間企業にはかなりの営業秘密というのが存在していて、又は、相手の企業もある中でサプライチェーンというのを組んでいるわけです。そして、その民間企業、今回、それで含まれる会社の数というのは物すごい多いわけですね。そこに罰則という強制力を働かせて、言ってみれば開示を要求していくというのは、それはかなり強引なやり方ではないかというふうに思っておりますので、それよりは、やはり自発的な協力を促していく方がむしろ効果が上がる。それが、今日ずっとテーマになっている官民のコミュニケーションを取る上でも非常に重要ではないかなというふうに思います。

足立委員 鈴木参考人、これは本当に、日本はこういうことを大変遠慮しがちになるわけですが、しっかりと手続を踏んで、統計法だって手続を踏んでやるわけです、手続を踏んだ上で、でも、最後、要は、発動しなくていいんです、抜かなくてもいいんです。抜かなくても、佐橋参考人も、ちらつかせるとおっしゃった。私は、この議論、まさに自由主義社会においてどのように政府が国益を確保していくかということについて、ぎりぎりの議論は続けていくべきだ、議論は続けていくべきだと思いますが、いかがですか。

鈴木参考人 ありがとうございます。

 これは、先ほど佐橋参考人がおっしゃったように、政府と民間企業の関係の問題だとは思うんですけれども、一つはやはり、どういう責任の役割分担があるのかということを考えておく必要はあるかなというふうに思います。

 やはり、安全保障上の利益として、政府は安全保障を確保することに責任があり、また、経済的な、日本の経済を活性化させるという責任が企業の方にはあるんだと思います。この両者が対立というか摩擦を起こすところで、その摩擦をいかに軽減していくかというのは、まずコミュニケーションが非常に重要だというふうには思いますし、その際に罰則を用いるかどうかということであると、コミュニケーションを妨げるような形ではないアプローチの仕方があるだろうと思います。

 私、一つ参考になると思っているのは、アメリカが今回、TSMC、台湾の半導体メーカーの工場を誘致するときに、サプライチェーンについて教えろというふうなことを、ざっくり言うと、そういうような話をしたところ、TSMCの方は、そんなことには答えられない、営業秘密がたくさんあるんだというような話をしたんですね。ここのところで、アメリカ政府はTSMCに対して補助金を出す、で、その補助金をもらわないというか、罰則というよりは、例えば補助金とか、そういったインセンティブを得たいかどうかというようなところで政府と民間企業の間のコミュニケーションがなされていたというのは、一つの参考になるのかなというふうに思います。

足立委員 ありがとうございます。大変貴重な御指摘、佐橋参考人も含めて、ありがとうございます。

 私たちは、私は、あるいは日本維新の会は、決してそういう罰則だけを議論しているわけじゃなくて、議論のきっかけは、公明党が罰則を落とせということで事前審査で落とさせたことがきっかけになっていますが、ただ、今まさに鈴木参考人がおっしゃったように、手法はいろいろある。しかし、いずれにせよ、官民のコミュニケーションが、要は法益があるわけですから、この法益を実現するために、それを実効たらしめるための方策については議論を続けるべきだということ、多分御異論はないと思いますが、私はそういう主張を訴えていきたいと思っています。

 あとは、本当は時間があったら村山参考人にも伺いたいんですが、トランプ大統領の話がよく出ます。済みません、時間がないので、若い先生方にちょっと。先生、また後ほど、別途伺いたいと思いますが。

 トランプ大統領が何かトリガーを引いてこうなっているみたいに言う人がいるんですが、トランプ大統領はこの時代の流れに向き合っただけであって、トランプ大統領が替わっても、事態はむしろどんどんその流れで進んでいるわけですね。じゃ、まさに私たちが相互依存は平和につながると思っていた時代から、まさに先ほど佐橋先生がおっしゃった相互依存の武器化、ここにフェーズががんと変わってきたのは一体いつ頃なのか、それは何がドライブしてきたのか、御見識があれば教えてください。

佐橋参考人 ありがとうございます。

 私、それについては本当の専門の専門でして、話そうと思えば今から三時間ぐらいしゃべれるんですけれども。

 いつぐらいからかというと、それは実はトランプ政権ではありません。例えば、オバマ政権のときにも技術流出、これはサイバー攻撃が膨大な額の技術流出を引き起こしていたんですけれども、それについての問題意識というのは非常にはっきりと出ていました。そして、アメリカ政府の政策対応というのは実はかなり始まっていたわけですね。そして、それをトランプ政権というのは加速させたにすぎないと思います。

 何であんなに加速したのかというと、それはやはり中国たたきの雰囲気をトランプ大統領が貿易問題でつくったからということに尽きるわけでして、実際には、政府一丸となった、全省庁的なアプローチというふうによくアメリカでは言いますけれども、という形で、どちらかというと官主導で、こういった問題、技術の問題、中国の問題への意識が高まってきたというふうに考えています。

 何か一つがトリガーになったというよりは、やはりこの十年、ゆっくりと進んできたというふうには思います。

鈴木参考人 まさに今、佐橋参考人がおっしゃったように、今同僚として一緒にこういうことを研究しておりますので、私も、この問題、いろいろ考えておりますが。

 一つは、相互依存が平和をもたらすというのは、これは、一九三三年にノーマン・エンジェルという人がノーベル平和賞をもらったんですけれども、その年に、まさに第二次世界大戦のきっかけが始まっていく。相互依存がこれまで平和をもたらすと考えられてきたのは、第二次大戦後、長い間、西側諸国で自由貿易をやってきたというところが大きかったのではないか。もちろん、途上国ですとか非同盟諸国、たくさんありましたけれども、しかし、中心になっていたのはアメリカ、日本、ヨーロッパ、カナダ、これらの国々だったので、やはり、同じく、価値や規範を共有する国々が自由貿易の中心にいたというところが大きかった。逆に言うと、価値が異なる東側の国々というのはその中に入っていなかったわけですね。

 ところが、冷戦が終わって、そうした価値や規範を共有していない国々、とりわけ中国ですとかロシアといった、かつて、まあ今でも共産党が支配しているような国、こういうところが入ってきたことによって、自由貿易と価値や規範が一致しなくなってきたというところに大きな原因があるというふうに私は考えています。

 そこから先は、まさに今、佐橋参考人がおっしゃったように、やはりトランプ大統領の前からそういった状況は、もう二〇〇一年に中国が入ったときから変化は生まれてきていたと思うんですけれども、そのときは中国の方が価値や規範を共有するだろうという期待があったわけですが、それがどうもうまくいかないということが分かってきたのがここ数年、とりわけトランプ大統領の時期だったのではないかというふうに考えます。

足立委員 ありがとうございます。

 鈴木参考人が、今日、経済安保と自由貿易ということで資料もつけていただいて、大変分かりやすい御説明でありましたが、かつ、その場合に、先ほどあった、重大な利益はどこか。佐橋先生もおっしゃった。それは本当に大事だと思うんですけれども、日本は欧米と比べてとにかくエネルギーと食料が弱いわけですね。両方弱い国というのはなかなか大国では少ない。だから、アメリカは両方持っている、ヨーロッパはエネルギーが弱いが食料は持っている、日本は両方持っていない、こういう中で、本当にこの分野、自由貿易との関係、特に食料とエネルギーって一体どうしていったらいいのか。

 大陸国家と私は呼んでいますが、中ロはなかなか厳しいので、海洋国家イギリス、かつての英連邦、豪州、インド、まあ、台湾はあれですけれども、海洋国家ネットワークと私たちは言っていますが、一定のそういう貿易の体制を準ブロック的につくっていくしかない、こう思っていますが、まず、鈴木先生、ちょっとお願いします。

鈴木参考人 ありがとうございます。

 まさに今、足立議員がおっしゃられるように、日本は大陸国家ではないので、貿易によってそうした食料、エネルギーというのを確保する以外に方法がないということです。どんなに頑張っても、どんなに掘っても石油が出てくるわけではありませんので、そういう意味では、それを前提に我々は国家戦略を考えていく必要がありますし、安全保障を考えていかなければならないというふうに思います。

 そのためのネットワークとして、海洋国家ネットワーク、一つの方法だとは思いますが、同時に、やはり、産油国ですとか、エネルギー、食料を生産している国々との関係をいかに安定的にしていくのか、これを考えつつ、また、備蓄ですとか供給元の多元化、こうしたことでリスクを分散していくという、こういう方法しか日本には残されていないのではないかというふうに考えます。

足立委員 あと一、二分。

 佐橋参考人、人材ということをおっしゃって、日本はあらゆる分野で今人材不足でありまして、政界もなかなか、あっ、政界は立派な人材がたくさんいらっしゃいますが、あらゆる組織、団体がこれは苦労しています。

 だから、是非この人材という視点はこれからもしっかり取り上げていきたいと思いますが、シンクタンク、注目されていますね。一方で、私たち、インテリジェンスが大事だと。アメリカなんかを見ていると、その辺の人材が入り組んで、インテリジェンスなんてその辺にいるわけですね。

 だから、そういうインテリジェンス人材、シンクタンクとおっしゃった、そういう人材、その辺のイメージというか、どうやって育てていったらいいのかなと。あるいは、その辺の人材、かぶっているのか、かぶっていないのか。ちょっと御見識をお願いします。

佐橋参考人 足立委員、ありがとうございます。

 非常に重要な御指摘でして、実のところ、一番大事なのは、先ほど申し上げたとおり、できる限りいい条件で若手を雇用していくことが、夢を持てるということで若手が入ってくるということにつながるんですが、もう一つ重要な点を最後に申し上げたいのは、やはり世界が本当に知識経済化しているということです。

 既に、例えば欧米では、修士号を持つことは、修士号ですよ、修士号を持つことが専門的職業の前提になっているわけですね。日本は果たしてどうかというと、そうなっていない。博士なんてほとんどいない。やはりこういう状況はよろしくないんだと思います。

 ですので、まずは大学院を修了して、社会科学であれ人文系であれ、又はもちろん理系ですね、こういった人たちがどんどん増えて、その人たちを、シンクタンクであれインテリジェンスであれ、しっかり活用していくという状況が望ましいというふうに思っております。

足立委員 大変貴重な御意見ありがとうございました。

上野委員長 次に、緒方林太郎君。

緒方委員 今日は、参考人、十五分よろしくお願いを申し上げたいと思います。

 もう私が長々話すことは適当でないと思いますので、先生方に意見の開陳を求めたいと思いますが、まず、経済安全保障という言葉なんですけれども、経済安全保障という言葉が何を意味しているかということについて、この委員会でもいろいろな議論がありました。

 それぞれの先生方に、経済安全保障というものは、それぞれの先生方がどういうものであるとお考えかということについて、簡潔にお話をいただければと思います。先生方、よろしくお願い申し上げます。

佐橋参考人 ありがとうございます。

 経済安全保障というのをどう定義すればいいのかというのは確かに難しい話ですし、また、私が冒頭申し上げたとおり、一つの定義ということがなじまないのも事実であります。

 ただ、何から、何を、何で守るかというときに、何を守るか、ここに例えば経済的繁栄が入っている。これは国民の生命財産、財産と経済的繁栄が入っているということは重要ですが、特に経済安全保障を考えるときに重要なのは、何で守るか、又は何から守るかのところに経済の要素が非常に強くなっているという現実であろうというふうに思います。

 すなわち、他国が経済力を使って圧力をかけてくる、こういったものから私たちの自由な経済活動を守る、又は科学技術の開発を守る、そういうことになるわけで、一言で何かを言うことはできないんですけれども、経済、ここには科学技術が入るわけですが、そういった要素が伝統的な安全保障と言われている軍事に加えて登場してきている、そういうふうに考えております。

村山参考人 私の定義は非常に簡単でして、経済と安全保障が重なっている分野ということです。もう少し言うと、安全保障のレンズを通して見たら経済がどう見えるかということなんです。

 一番それが重なっているのが技術分野なので、私がやってきたのは、技術分野でそれがどう重なっているかというのを議論してきたということです。ところが、今、経済安全保障で非常に範囲が広がってきていまして、議論するのが難しくなってきています。

 したがって、我々研究者の間ではどういうふうにしているかというと、経済安全保障というかさはかかっているけれども、その中の何を話しているのかをできるだけ詳しいところまで落とし込んで、それで議論しようということなんですね。

 例えば、今法案に出ているインフラ防御のところというのは、経済安全保障であって、インフラ防御の問題で、サイバーセキュリティーの問題で、新しい機器を買うときの問題だ、そこまで落として議論しようという。

 だから、そういうふうに整理していかないと、経済安全保障はどんどんどんどん曖昧になって広がって、おかしなことになってしまうので、そういう方向が私は望ましいというふうに考えております。

鈴木参考人 もう今、村山参考人また佐橋参考人からもお話があったように、やはり経済安全保障はどんどん今大きなコンセプトになってきていると思いますが、この言葉が外国でどう使われているかというのを考えてみますと、実は、英語でもフランス語でもドイツ語でも、エコノミックセキュリティーとかという言葉は余りまだ定着していません。

 つまり、経済安全保障という言葉は、先ほど村山先生がおっしゃったように、サプライチェーンの強靱化ですとか基幹インフラの防護ですとか、そういう個別の問題で扱われていて、経済安全保障というくくりになっていないんですね。

 これを外国の研究者なんかと議論をするときに、日本は経済安全保障だというときに私が説明しているのは、これは日本の今置かれている立場、特に、外国が経済的な手段を使って攻撃的に圧力をかけてくる、今日の私の冒頭陳述ではエコノミック・ステートクラフトと申しましたが、エコノミック・ステートクラフトをしかけてくるのに対して、それに対して守ることがセキュリティーである、こういうニュアンスが強いから、経済安全保障、この安全保障というのが一つの価値というか基軸になって、自分たちの国を守る、経済的な手段による攻撃に対して守っていくんだということが経済安全保障なんだというふうに説明をするようにはしております。

井原参考人 私は、先ほどから申し上げているように、これ自体が問題ですが、自由貿易主義あるいは国際協調主義というふうな観点から経済を見ていくということがとても必要で、力と力というふうな形で見ていくと、非常に、ここのところを強くしなきゃ、ここを強くしなきゃという、軍事の問題とかいろいろ出てくるわけで、当然、多様な問題が含まれているからそうなるわけですね。この法案自身がそもそもそのことを定義できていない。

 多分、経過を見ながら内容も固まっていくんだろう、そういう形になっていると思うので、やはり真剣にそこのところを検討しなきゃいけないという問題だと考えております。

緒方委員 ありがとうございました。非常に参考になりました。

 続きまして、村山先生にお伺いをさせていただきたいと思いますが、先生、技術の共同研究とかそういうところに非常に重きを置いた陳述をしておられたということで、お伺いさせていただきたいんですが。

 私、これから、様々な技術開発とかにおいて、デュアルユースの重要性というのが物すごくあると思っております。例えばイスラエルという国に行ってみると、イスラエルの企業で今すごく伸びてきているのは、元軍のOBの方が汎用品の技術をうまく使って経済が発展していっているというか、そういうことが非常に多いわけですけれども、私、今回、特定重要技術ということでやっているものの出口にすごく関心があって、やはりデュアルユースのものを、民間企業の、ちょっと言い方はげすですけれども、飯の種というようなことにつなげていくようなことはとても重要ではないかと思うんですが、先生の御見解をお伺いできればと思います。

村山参考人 デュアルユースに関しては、この法案というよりも、恐らく国家安全保障戦略の方で議論すべきだとは思うんですけれども。

 これは実は、非常に残念なことは、日本が非常に競争力があるのはデュアルユースの部分なんです。材料分野だとか部品分野だとか、これが非常に日本は競争力が高いわけですね。ところが、残念ながら、それは今まで経済、ビジネスのためにしか使われていなかったということなんです。

 だから、それを何とか安全保障の方にも引っ張っていく必要があるということで、そういう意味で、官民連携の枠組みというのが非常に重要になるというふうに考えております。

 したがって、この分野というのが、ある意味、現場でさえも余り知られていなかった。特に、中小企業というのは非常にいい技術があるんですけれども、それで商売することしか考えていないわけですよね。だから、そういう技術をいかに引き上げていくか、そういう努力がこれから非常に必要になるし、これが日本の国力の向上につながるというふうに私は考えております。

緒方委員 ありがとうございました。

 次、佐橋先生にお伺いさせていただければと思うんですが。

 経済安全保障はいろいろな定義があると思うんですけれども、一つ、今回の法案で取り上げられていないものの中に、諸外国の人権侵害のようなものに対して経済的な分野からどう対応していくか、場合によっては、外為法の改正などを含めた制裁法制の強化みたいな話があると思うんですけれども、先生、いかがお考えでありますでしょうか。

佐橋参考人 ありがとうございます。

 痛ましい人権侵害というのは、今も世界で続いております。こういった人権侵害を是正するために取組を進めていくということは極めて重要だというふうに思います。そして、これは、望ましい国際秩序をつくるという意味では、外交戦略の基本に置かれるべきだと思うんですが、これを経済安全保障の中に定義又は目的として入れるべきかというのはまた別の問題だというふうには思います。

 もちろん、人権侵害が行われている国への依存、例えばサプライチェーンの見直し、こういうことをしなければ日本の経済活動が脅かされるということになったら、経済安全保障に含めてもいいのかもしれませんが、ただ、他国の人権状況を改善させる、そういうメッセージを出すということ自体は、本来は人権外交というくくりでございまして、それはそれとして、しっかりと推進していただきたいというふうには思っております。

緒方委員 この件、鈴木先生も是非お一言いただければと思います。

鈴木参考人 人権外交ですとか人権侵害に関する問題というのは、先ほど私の冒頭陳述で申しましたエコノミック・ステートクラフト、つまり、ある種の価値観を他国に強要する、こういう問題に関わってくるのだろうと思います。

 これを日本でやろうとすると、現在の外為法では、外為法の場合、日本の仕組みとしては、他国に対して何らかの制裁的な措置を取るということがなかなか難しい。国際協力、十条、四十八条という形で対応せざるを得ないので、国際協力が中心になっていく。

 そういう意味では、日本の価値を何らかの形で、経済的、外交的に表現するということができないということで、この点は多分今後の議論になるとは思うんですけれども、恐らく、まずは、外国がそういう人権外交も含めて日本に対して何らかの圧力をかける場合と、そして、日本が何らかの達成したいそういった政治的目標を達成するための手段を用意すること、この二つを、多分違うことだとは思うんですけれども、同時に考えていかなければならないのではないかと思います。

緒方委員 そして、多分これが最後の質問になると思いますけれども、経済安全保障というのは、今上がっている法律だけが経済安全保障でもなくて、まだまだこれから先があるのであるというのが政府のポジションなんですけれども、先生方、お四方にお伺いさせていただきたいのが、現下の状況を踏まえ、今後、経済安全保障として、今取り組んでいるものにプラスアルファで入れていくものというのはどういうものがあり得るのかということについて、先生たちから御答弁いただければと思います。

佐橋参考人 ありがとうございます。

 一つは、セキュリティークリアランス、これを国際的に通用する枠組みにしていくことが非常に重要だというふうに思います。

 そして二つ目が、恐らくほかの参考人からは余り出てこないかなと思って、つけ加えておきますと、他国の経済安全保障に関わるような施策の支援ですね。協調というのはもちろんあるんですけれども、施策の支援も、これは恐らく、今後、取組の中に入れていく必要があるのかなというふうには思っています。

 その辺りは、法案というよりは政策的対応ということにはなると思うんですけれども、経済インテリジェンスとか防衛産業の位置づけとか、そこを含めて、国家安全保障戦略なり大きな計画の中で定めていって、構想して、議論していっていただきたいというふうに思います。

村山参考人 一つはサプライチェーンの強靱化なんですけれども、これは一国でできることではないというふうに私考えております。これから、信頼できる国との間でどういう形で強靱なサプライチェーンをつくっていくかという視点が非常に重要になると思いますので、そういう視点ですよね。

 それともう一つが、まさに経済安全保障の本丸は、私は、国家安全保障戦略の中にどういうふうに位置づけるか、そこに懸かっていると思います。経済安全保障的な発想を生かして防衛産業技術基盤をいかにして強化するか、これをどういうふうに国家安全保障戦略の中に書き込むかというのが、私は最も重要なポイントだというふうに思っております。

鈴木参考人 今、佐橋参考人、村山参考人から話があった内容に全く同意するんですけれども、それにつけ加えて考えますと、これからやはりアメリカを中心に、今、インド太平洋経済枠組みというのが議論されております。これは、これまでの自由貿易の仕組み、TPPを含めたこういったものと二段重ねですね。これらの自由貿易の上に、新たなルールづくり、新たな基準づくり、こういったことを進めていく枠組みとして、技術開発と、そして、それに基づく、日本又は日本と友好国の間でこうした技術的なリーダーシップを取っていくこと、これが経済安全保障の鍵になるのではないかというふうに考えております。

井原参考人 ありがとうございます。

 私は、今回の法案について大きな疑念を持っておりますので、これに何をつけ加えたらいいのかということについてのお答えは困難でございます。

 以上です。

緒方委員 少し早くなりましたけれども、終えさせていただきたいと思います。

 ありがとうございました。

上野委員長 次に、大石あきこ君。

大石委員 ありがとうございます。れいわ新選組の大石あきこです。

 参考人の皆様、よろしくお願いします。

 今、本当に激動の国際情勢で、それはウクライナをめぐることもそうですけれども、いろいろ、中国とアメリカで世界戦争が起きちゃうんじゃないかとか、第三次世界大戦が起きるんじゃないか、核戦争が起きちゃうんじゃないか、そういう心配に今この世界が包まれている中で、こういった法案の議論もされているんだと思います。

 佐橋先生が冒頭に、そういう情勢とおっしゃっていて、拡張主義という言葉も出されていました。私は、こういった拡張主義とか、あるいは激しい市場の競争、そういったことを自制を促していくことが今求められているんじゃないかな、そういう立場で御質問したいと思います。

 これが私は、さきの第二次大戦の血の教訓じゃないのかなと思っています。だから、今、世界全体がすごく危ない方向に行っていて、私自体もすごく怖いです。だから、危ない方向に行ったらあかんと、そういうことを求めていくのが、今、この日本の政府の役割じゃないかな、私はそのように思います。

 この法案を考えるに、拡張主義への自制を促すとか、激しい市場競争をみんなでやめていくとか、そういう方向じゃなく、激しい市場競争ありきで、日本もしたたかにいくんだとか、中国は信頼できない国だから依存度を下げていくんだとか、これはこれで、現実味あるのかなと、すごく疑問に思っています。

 先ほどからも、日本は資源を掘っても出てきませんからとおっしゃっていた先生もいらっしゃいます。実際、たった一つの例ですけれども、蓄電池の原料で黒鉛一つ取っても、世界の中国のシェアが六二%、日本は中国への輸入依存度は九二%、これを何とか脱却できるのかな、それが本当に現実論なんですかと。しかも、政府が関与してうまくいくのかな。自由が侵害され、戦時だからとか、経済安保だから我慢しろ、果てには罰則の議論までされる党もあります。

 こういうことが歴史を巻き戻すのではないかなと思って私は非常に懸念していますし、何より、今この国に生きる国民、生活者が、この経済安保という方向性によって逆に被害を被らないか、被る可能性が高いと私は思っているんです。

 今求められている、世界中の国民ですけれども、求められているのが何かと考えたとき、私は、底辺への競争からの脱却ではないかと思っているんです。

 このような方向性で、拡張主義に走り、新たな市場獲得に走り、でも、それはやればやるほど格差拡大しているじゃないですか。

 半導体の話、いっぱいこの委員会でも出てきます。でも、この半導体という産業の中で、シリコンサイクルと呼ばれているんですけれども、非常に好況と不況の波が激しくて、じゃ、そのはざまで何が起きているかというと、その半導体の工場が閉鎖されたりとかで大量にリストラされる。生活者、労働者、そういうところが無視されるというか見えない中で国益というお話をされている。

 これは、結果として生活者の安全を保障しているのか、逆ではないのか。もっともっと安定した雇用、世界の人々が底辺への競争から脱却できるための、各国で自制を促していく、国際競争を促していく、そういう議論が今一番必要じゃないか、日本政府にできることがあるんじゃないか、私はその思いでいっぱいなんです。

 これは現実論ではないとおっしゃる方もいらっしゃるかもしれないけれども、そうでもないと思うんですね。例えば法人税、余りにも国際競争で下げ過ぎて、さすがに下げ過ぎたやろということで、G7などでも、法人税は全体として上げていこうという話もなされているわけです。それのスピードはまだまだ緩いわけです。

 世界の人々が普通に食べて、いい研究したり、安定した生活をしていくという水準で見ても、そういったことがまだまだ足りていない。だから、そういうことをまずやるべきじゃないのかな。それがどうせできないだろうということで、自衛とか、いろいろな形でやっていく。

 さっき佐橋先生、比較的若い研究者の方だと思うんですけれども、やはり研究者が夢が奪われてきたというのが本当に切実だと思うんです。でも、このままの話で時流に乗って、軍事のことなら研究費が下りるよという仕組みがつくられたら、やはり、切実な研究者の人はそっちに自分の意思で乗ってしまうんじゃないかな。それは結果として、日本の、又は人類の発展に資するのだろうか。私はそうは思わないんです。

 というような私の意見を述べまして、皆様にお一人ずつ御意見いただきたいなと思います。この参考人の表の、上から順に行っていましたので、逆から順に、井原先生、鈴木先生、村山先生、佐橋先生の順にお伺いしたいと思うのですが、よろしくお願いします。

上野委員長 大石君、何をお伺いすればいいんですか。

大石委員 失礼いたしました。

 私としましては、この世界の危機の中で、拡張主義というものの自制を促すこと、それから底辺への競争というものを脱却していくこと、これに関して、日本政府の大きな役割があって、これが一番大事だと思っているんですが、それをどう思われるのか、御意見をお伺いしたいです。

井原参考人 ありがとうございます。非常に幅の広いお話だったので、どのようにお答えしたらいいのかちょっと迷っているんですけれども。

 現在、この法案を議論しているということで、既に、緊張が隣国へ広がっていくような、そういう議論が含まれているというふうに私は理解しているので、やはり力と力、これは経済力の力と力も力なんですね。だから、何としてでも、何度も言うようですが、国際協調主義をやはり育てていくような何かいい知恵を生み出さなければやっていけないのではないか、対抗的な問題だけ立てて、その場で解決する方向ではない、もっと長いスパンの議論が必要なんだろうと思うんです。

 ちょっと抽象的ですが、私はそのように考えております。

鈴木参考人 大変哲学的な問いかけなので、私のような国際政治を専門にしている者に答えられるかどうかよく分からないんですけれども。

 拡張主義を自制するということについては、まさにそれによって、世界がいろいろな、対立関係ですとか摩擦が生じる、こういう状況が生まれることは恐らく不可避であろうというふうには思います。じゃ、そこで、どういう態度というか、どういう選択肢があるんだろうかというふうに考えると、そういう競争から降りて、余生を過ごすというか、隠居のような生活をするのか、それとも、そういう競争の中で何とか生き延びていくということを考えるのか、それとも、その中で、様々な他国からの圧力、そういったものからいかにして我々の生活の安定を維持するのかということを考えたときに、恐らく、今回の経済安全保障推進法案は、三番目の、国内の生活、経済活動の安定ということを目指したものだというふうに私は理解をしています。

 そういう意味では、どれが正解かというのは私は分かりませんけれども、しかし、そういう方向性を持ったものとして、現実の世界で起きている競争、これに適切に対応していくということが恐らく政府に求められていることであり、この経済安全保障法案はそうした対応の一つの形としてあるものなのではないかというふうに考えております。

村山参考人 世界が危ない方向に向かっていて、自制を促さなければならない、まさにそのとおりだと思います。

 これを経済安全保障的に考えるとどういうことかといいますと、今何が起こっているかというと、米中間で経済競争にあったのが、その経済競争の後ろにナショナリズムが入ってきているんですね。したがって、ナショナリズムが入っているから、ともかく自分にいい条件を引き出そうとして、関税をかけたり補助金をつけたりして、そういう競争が始まったわけですよね。

 ここまでは経済でいいんですけれども、これを自制を促さなきゃならないというのは、それに軍事がついたらどうなるかという話なんです。これは経済安全保障の話です。だから、軍事力をちらつかせて経済交渉に入ったらどうなるか。これはかなり危険な道に入っていくわけです。そこはやはり自制が必要で、日本の役割としては、そこを何とか米中間で押しとどめて、紛争にいかないようにするというのが日本の経済安全保障戦略としてあると思うんですね。

 特に私が今一番懸念しているのが、やはり台湾なんです。台湾にTSMCなどの半導体の拠点がある、それを米中が奪い合っているような状態なんですよね。だから、これが向上すると、恐らく、経済でありながらも軍事がついてくるような、そういうことになってしまう。

 これは非常に危険なので、そこで、やはり日本の役割としては、何とか両国に自制を促して、軍事紛争までいかないようにとどまらせる、そこが日本の大きな役割、経済安全保障上の大きな役割というふうに考えております。

佐橋参考人 ありがとうございます。非常に知的刺激にあふれる質問で、本当に面白くて、いろいろ考えていたんですけれども。

 相手に自制を強いるということがやはり非常に重要だと思うんですよ。そこは本当に私もそう思っていて、ただ、そのための手段というのが、やはり抑止というのが非常に重要であろうというふうに思います。そして、その抑止にも資するんですけれども、相手国より優位性を確保するということが重要なんですね、理論的には。そのために、経済安全保障政策ないし今回の法案に含まれている内容は十分に資するのではないかというふうに思います。

 ただ、もちろん、それに加えて、相手に自制を強いるためには、究極的には外交の役割というのも存在しております。ですので、抑止だけではなく外交、これをいかに組み合わせていくのかということが解になるわけですが、ただ、少なくとも、こちら側が抑止するに足るに十分な優位性を確保しておかなければ相手の貪欲な行動を防ぐことはできませんので、そういった意味で、こういった取組は重要だというふうに思います。

 そして、生活者の利益になるかということなんですけれども、これは、大きな意味での富の配分というのは全く別の法案のスキームの話だというふうには理解しております。ただ、他方で、今回の法案に含まれているような先端的な技術開発だとか又はインフラの防護、こういったものは日々の生活を支えるものであるわけです。例えば有事が発生したときに、やはりインフラが、又はサプライチェーンがしっかり確保されていなければ、困るのは真っ先に国民、市民生活であります。そういった意味でも、実はこれは生活者の利益にもなるというふうにも思います。

 以上で私の答えにさせていただきます。

大石委員 ありがとうございます。

 優位性の確保というのが自制を強いるというお話だったんですけれども、そういう考え方も一つなのかもしれませんが、そうなのかなというところもあったんです。ほかの国が悪いと言う前に、やはり、この国で数十年行われてきたことを振り返ってみても、自国の経済政策の失策であったりですとか、アメリカに追随した結果ということだったりとかということは、前回の委員会での質問で私の意見をさせていただきました。なので、私は、違う世界を佐橋先生も一緒に目指してほしいなと思いました。本当に本気です。

 質問を終わります。ありがとうございました。

上野委員長 これにて参考人に対する質疑は終了いたしました。

 この際、一言御挨拶を申し上げます。

 参考人各位におかれましては、貴重な御意見をお述べいただきまして、誠にありがとうございました。委員会を代表いたしまして厚く御礼を申し上げます。

 次回は、明四月一日金曜日午前八時五十分理事会、午前九時委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。

    午前十一時四十五分散会


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