衆議院

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第16号 平成29年5月12日(金曜日)

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平成二十九年五月十二日(金曜日)

    午前九時一分開議

 出席委員

   委員長 鈴木 淳司君

   理事 今野 智博君 理事 土屋 正忠君

   理事 平口  洋君 理事 古川 禎久君

   理事 宮崎 政久君 理事 井出 庸生君

   理事 逢坂 誠二君 理事 國重  徹君

      赤澤 亮正君    秋本 真利君

      安藤  裕君    井野 俊郎君

      尾身 朝子君    奥野 信亮君

      加藤 鮎子君    門  博文君

      神山 佐市君    菅家 一郎君

      木内  均君    城内  実君

      國場幸之助君    白須賀貴樹君

      鈴木 貴子君    辻  清人君

      野中  厚君    藤丸  敏君

      藤原  崇君    古田 圭一君

      星野 剛士君    宮川 典子君

      宮路 拓馬君    八木 哲也君

      山田 賢司君    若狭  勝君

      枝野 幸男君    階   猛君

      山尾志桜里君    浜地 雅一君

      吉田 宣弘君    畑野 君枝君

      藤野 保史君    松浪 健太君

      上西小百合君

    …………………………………

   議員           逢坂 誠二君

   法務大臣         金田 勝年君

   法務副大臣        盛山 正仁君

   外務副大臣        岸  信夫君

   法務大臣政務官      井野 俊郎君

   財務大臣政務官      三木  亨君

   国土交通大臣政務官    根本 幸典君

   最高裁判所事務総局刑事局長            平木 正洋君

   政府参考人

   (内閣官房内閣参事官)  滝澤 依子君

   政府参考人

   (警察庁長官官房審議官) 高木 勇人君

   政府参考人

   (警察庁長官官房審議官) 白川 靖浩君

   政府参考人

   (法務省刑事局長)    林  眞琴君

   政府参考人

   (公安調査庁次長)    杉山 治樹君

   政府参考人

   (外務省大臣官房審議官) 水嶋 光一君

   政府参考人

   (厚生労働省大臣官房審議官)           森  和彦君

   政府参考人

   (海上保安庁警備救難部長)            奥島 高弘君

   法務委員会専門員     齋藤 育子君

    ―――――――――――――

委員の異動

五月十二日

 辞任         補欠選任

  赤澤 亮正君     神山 佐市君

  門  博文君     秋本 真利君

  國場幸之助君     藤丸  敏君

  藤原  崇君     白須賀貴樹君

  宮川 典子君     八木 哲也君

  宮路 拓馬君     加藤 鮎子君

同日

 辞任         補欠選任

  秋本 真利君     星野 剛士君

  加藤 鮎子君     尾身 朝子君

  神山 佐市君     赤澤 亮正君

  白須賀貴樹君     藤原  崇君

  藤丸  敏君     國場幸之助君

  八木 哲也君     宮川 典子君

同日

 辞任         補欠選任

  尾身 朝子君     宮路 拓馬君

  星野 剛士君     木内  均君

同日

 辞任         補欠選任

  木内  均君     門  博文君

    ―――――――――――――

五月十二日

 組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律の一部を改正する法律案(階猛君外二名提出、衆法第一七号)

は本委員会に付託された。

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 政府参考人出頭要求に関する件

 参考人出頭要求に関する件

 組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案(内閣提出第六四号)

 組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律の一部を改正する法律案(階猛君外二名提出、衆法第一七号)


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     ――――◇―――――

鈴木委員長 これより会議を開きます。

 内閣提出、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案を議題といたします。

 この際、お諮りいたします。

 本案審査のため、本日、政府参考人として内閣官房内閣参事官滝澤依子君、警察庁長官官房審議官高木勇人君、警察庁長官官房審議官白川靖浩君、公安調査庁次長杉山治樹君、外務省大臣官房審議官水嶋光一君、厚生労働省大臣官房審議官森和彦君及び海上保安庁警備救難部長奥島高弘君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

鈴木委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

鈴木委員長 次に、お諮りいたします。

 本日、最高裁判所事務総局刑事局長平木正洋君から出席説明の要求がありますので、これを承認するに御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

鈴木委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

鈴木委員長 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。赤澤亮正君。

赤澤委員 おはようございます。自由民主党の赤澤亮正です。

 今月二日の当委員会に続けて、本日も組織的犯罪処罰法の改正法案について質問をさせていただきます。

 まず冒頭に、繰り返し強調しておきたいのは、テロ等準備罪の新設は、犯罪の抑止と人権の保護という二つの非常に重要な価値のせめぎ合いの中で、我が国にとって最良の選択をしなければならない課題だということであります。

 人権の保護はもちろん極めて重要でありますが、人権の保護の議論に際限なく時間を費やして、テロ等の組織犯罪を抑止できなかった場合、組織犯罪の被害者の人権は最悪の形で踏みにじられてしまうということは十分に留意する必要があると考えます。

 私には、一部の野党、一部のマスコミの皆様の論調が、犯罪の抑止と人権の保護のせめぎ合いに十分思いが至らず、人権の保護だけ声高に主張しているように見えて残念でならない部分がございます。既に百八十七カ国が締結をしている国際組織犯罪防止条約、いわゆるTOC条約を我が国が一日でも早く締結できるように、その方向で建設的な提案をいただきたいと考えております。

 昨日、自民党、公明党、日本維新の会、三党のテロ等準備罪法案の修正協議が大筋合意に達しました。最終的な党内手続が終わり次第、この委員会に対し修正提案が行われる見通しであることが明らかになりましたが、この三党協議のベースとなった、先月十四日に維新の会が自公両党に行った提案はまことに建設的なものであったということをあわせてここで指摘させていただきたいと思います。

 さて、通告した質問に移ってまいりたいと思いますが、まず、東京オリンピック・パラリンピックのテロ対策を口実にテロ等準備罪を新設しようとするのはけしからぬという論調を頻繁に耳にするわけですが、私からすれば、的外れだと言わざるを得ません。オリパラを語るときに政府・与党が念頭に置いているのは、決してテロだけではないということであります。

 二日に一問だけ、実は、オリンピックを初めとする大規模国際イベントの開催により、組織犯罪全般が増加する傾向が認められるんじゃないか、政府の認識はどうですかと聞きました。ちょっと時間の関係で、これは質問すると言っていたんですけれども、前回もう御答弁をいただいていますので、これについては私の方で簡単にかいつまんでお話しさせていただきます。

 大規模イベントという意味では、ギリシャのアテネ・オリンピック、このときは人身取引事案が増加したという答弁がございました。また、二〇一〇年、サッカーワールドカップ大会、これはドイツですけれども、組織的なにせチケットの販売や違法売春等が増加した。それから、米国のスーパーボウルの開催に伴い性的目的の人身取引被害者が開催地に連れていかれる可能性がある。また、これは御案内と思いますが、リオ五輪の際にテロリストグループが摘発されたなど、オリンピックなどの大規模な国際的イベントが開催される際には、テロに限らず、組織犯罪全般が増加する傾向があるという御答弁をいただきました。

 ということで、端的に申し上げれば、大規模国際イベントの中の大規模国際イベントであるオリンピック・パラリンピックを三年後に控えている日本ということです。その我が国が、百八十七カ国が締結済みの国際組織犯罪防止条約を締結できていないという状況で、大変な危機意識を持って、同条約参加の前提となる本法改正案の実現に我々は全力を挙げているわけでありまして、オリンピックを口実とするのはけしからぬという類いの主張は全く的外れであると言わざるを得ないと考えます。

 次に、過去にオリンピックを初めとする大規模国際イベントを狙ったテロの実施例がある一方、同様のテロが未然に防止された例も多数あるのではないかというふうに考えますが、政府の認識はいかがですか。

岸副大臣 御質問の件でございますが、最近の報道ですと、例えば、米国においては、ISILにプリペイドカードの使用コードを送付する等の物的支援を行おうとした米国人男性が当局に逮捕された。

 あるいは、オーストラリアのメルボルンで、クリスマス行事の参加者を狙ったテロを計画し、標的候補の下見を行った男女七人が当局に逮捕された。

 また、フランスでは、テロを計画していた男女四人が当局に逮捕され、その潜伏場所から高性能爆薬等が押収された。

 ヨルダンでは、同国内の空港、あるいは外国大使館、軍関係者を標的とする自爆テロを計画、準備した者が当局に逮捕されて、破壊活動準備の罪で有罪判決を受けたという例がございます。報道されておるところです。

 これらの事例については、それぞれの国において、実際にテロ計画を察知した場合に関係者を摘発し得る制度が機能していた、テロを未然に阻止できた例である、このように認識をしているところでございます。

 テロ攻撃が計画段階で未然に阻止された事例、全体数を把握することはなかなか困難でございますが、例えば、米国のランド研究所の報告書によりますと、一九九五年から二〇一二年までの期間で、米国を標的としたテロが未然に阻止された事例、事案が九十八件あるというような指摘がされておるところでございます。

赤澤委員 実際に起きたテロは実は氷山の一角であって、その陰に、未然に防止されたテロが数多くあるという事実を御紹介いただきました。ある意味で、大変励まされる事実であると思います。テロ対策関係者の努力には大いなる意義があるとともに、テロを計画段階で処罰するための法的枠組みを構築することの意義を改めて認識させられます。テロ対策関係者は、最大限の努力を不断に積み上げなければならないことも間違いはございません。

 そこで、金田大臣に、これらの視点に立って、このたびの法改正によりテロ等準備罪を新設することによって国際組織犯罪防止条約を締結する必要性の認識を改めてお伺いしたいと思います。

金田国務大臣 ただいま赤澤委員の御質問がございましたし、岸外務副大臣の答弁もございました。そのやりとりの中でも明らかになっておりますように、テロが世界各地で発生して、日本人も犠牲となる中で、諸外国では、大規模なイベントが開催される機会に組織犯罪が増加する例というものが見受けられるわけであります。我が国においても、東京オリンピック・パラリンピックの開催を三年後に控えているという状況の中で、テロの未然防止といったテロ対策は喫緊の課題である、このように考えております。

 テロを初めとする国内外の組織犯罪と闘うためには、犯罪人の引き渡しや捜査共助、情報収集において国際社会と緊密に連携することが必要不可欠であります。百八十七の国と地域が締結を既にしております国際組織犯罪防止条約の締結は、そうした協力関係を構築し、我が国がテロ組織による犯罪を含む国際的な組織犯罪の抜け穴となることを防ぐ上で極めて重要だと考えておる次第であります。

 国際組織犯罪防止条約の国内担保法の整備は、テロ等準備罪の新設によりまして、組織的に行われる重大な犯罪の未然防止に資するとともに、犯罪収益規制等を含む組織犯罪への対処を強化するものである。

 このように、テロ等準備罪を新設するなどいたしまして国際組織犯罪防止条約を締結することは、テロを初めとする国内外の組織犯罪への対策として高い効果を期待できるものと考えております。テロ等準備罪処罰法案を成立させていただき、本条約を早期に締結することが極めて重要だと考えている次第であります。

赤澤委員 ありがとうございます。

 大臣がおっしゃったことを本当にかみしめて、必ずこの法案を成立させたいと思うんです。条約の締結の必要性、それから、その前提として本法案の成立が不可欠であること、さらには、本法案の成立が国際標準を満たすために絶対必要であるという三点については、繰り返し強調して国民の皆様の理解を得ていただきたいと思います。

 少し視点を変えますが、国際組織犯罪を防止する観点から重要なもう一つの視点というのがマネーロンダリング対策であることは、改めて言うまでもありません。その意味では、一九八九年のG7アルシュ・サミット経済宣言を受けて、マネロン、テロ資金対策の国際基準を策定し、その履行状況について相互審査を行う多国間の枠組みとして設立された金融活動作業部会、通称FATFでありますけれども、その勧告、FATF勧告の我が国の遵守状況が大変重要だと考えます。

 しかしながら、第三次勧告までの我が国の遵守状況は決して褒められたものではなかった。ある意味で、マネロン対策、国際的な協力の中で日本が抜け穴になっているという評価を受けてもおかしくない状態だったと存じます。

 そこで、資金洗浄の犯罪化などを含むFATFの第四次勧告を我が国が遵守するために、我が国がTOC条約を締結する意義について、三木政務官、よろしいですか、お伺いをいたします。

三木大臣政務官 お答えいたします。

 マネロンやテロ資金対策のための政府間会合として設立されたFATFによる勧告におきまして、参加国はTOC条約の締結国となることが求められております。

 また、FATF勧告では、マネロンやテロ資金に関する捜査、犯罪人の引き渡し等、より広範な国際協力を提供することが求められておりまして、TOC条約を締結することにより、条約に参加する多国間でこれらの国際協力が可能となります。

 さらに、FATF勧告では、TOC条約にのっとり、マネロンを犯罪化するとともに、できる限り広範な前提犯罪を含む観点から、あらゆる重大な犯罪についてマネロン罪を適用することが求められているところでございます。

 今般の組織犯罪処罰法改正案においては、長期四年以上の懲役、禁錮等の刑が定められている罪、すなわちTOC条約に定める重大な犯罪の全てをマネロンの前提犯罪に含めることとしております。

 このように、TOC条約の締結に加え、組織犯罪処罰法を改正することによりまして、マネロン対策に係るFATF勧告の履行状況が改善し、国際金融取引における信頼の維持に向けた日本の取り組みを国際社会に示すことができるものというふうに考えております。

赤澤委員 マネロン犯罪を防止することはもちろん必要でありますけれども、その観点だけでなく、我が国の金融分野のガバナンスに対する国際社会の信頼性、これを高める観点からも、TOC条約の早期締結がぜひとも必要であるということを再確認いたしました。

 次に、五月九日火曜日の衆議院本会議における法務委員長解任決議案の審議の際の階議員の御発言についてちょっと触れたいと思うんです。御本人が今おられなくてちょっと残念だったんですが、民進党全般に共通する問題でもあるので、そういう観点でも触れさせていただきます。

 階議員の発言といっても、我が党の土屋理事やブーメランに関する階議員の御発言を取り上げるつもりはありません。大変長いものでありましたけれども、心ある日本国民の皆様がはるかに大きな関心を寄せておられるのは、これらの御発言よりは、テロ等準備罪法案の成否に直接関連する御発言であるかと思います。

 ということで、私が問題だと思うまず第一の階議員の発言なんですが、特段の立法措置を講ぜずとも条約に加盟できるとおっしゃいました。

 民進党が四月二十五日に発行した本法案に関するパンフレットにも、「国連が出している条約立法ガイドには、“新しい犯罪の創設や実施は各締約国に委ねられている”と書いてあります。」「現行法で条約に入れば良いのです。」と記載されています。

 しかし、既に当委員会において政府から答弁があったとおり、民進党が発行したパンフレットが引用している立法ガイドを作成した、まさに作成元であります国際連合薬物犯罪事務所、通称UNODCは、在ウィーンの国際機関日本政府代表部からの照会に対して、本年四月十一日付、すなわち先月十一日付のほやほやの口上書で、明確に階議員及び民進党の主張を否定しております。立法ガイドを作成したUNODCの回答によれば、締約国は共謀罪のオプション、または犯罪の結社のオプション、いずれかを選択しなければならないということであります。これはもう義務なんだということがはっきり書かれているということです。

 階議員の御発言も、民進党のパンフレットも、私から見ると、都合の悪い資料には目をつぶり、いたずらに国民の誤解や不安をあおる、不誠実かつ無責任とまで言っていいかでありますけれども、態度であると言わざるを得ないように思います。

 さらに申し上げれば、民進党の皆様も、我が国がTOC条約を締結する必要については認めておられますので、本当に現行法で条約に入ればよいと考えておられるのであれば、なぜ民主党政権当時に同条約を締結されなかったのか、そもそもとても不思議であります。その点についても、党としてどう考えておられるのか、必ずしも明確になっているとは言いがたい状況だと考えます。

 そこで、本条約を締結するためにテロ等準備罪の新設が必要であることは、これまでの当委員会における審議で既に明らかになっておりますが、国民の皆様の不安を解消するためにも、改めてテロ等準備罪の新設の必要性について、外務当局からの説明を求めたいと思います。

岸副大臣 お答え申し上げます。

 委員ももう既に御指摘のとおりでございますが、TOC条約の第五条において、締約国に対し、重大な犯罪の合意または組織的な犯罪集団の活動への参加の少なくとも一方を、その未遂、既遂にかかわらず、別に犯罪化することを義務づけているところでございます。

 先ほど委員からもお話のございましたUNODCの口上書においても、締約国は、重大な犯罪の合意罪または組織的な犯罪集団の活動への参加の、二つのオプションのいずれかを選ぶことができるが、本規定の本質が義務的であることに変わりなく、締約国はいずれかを選択しなければならないという回答がございました。これらをいずれも犯罪化しないことは許されないということが改めて確認されたところでございます。

 その上で、我が国には、現行法上、参加罪は存在をいたしません。その上に、重大な犯罪の合意罪に相当する罪もごく一部しか存在しておりません。したがいまして、我が国の現行の国内法では本条約の義務を履行できていないために、新たな立法措置が必要であって、テロ等準備罪を新設しなければ本条約を締結することができない、このように考えておるところでございます。

赤澤委員 ありがとうございます。

 第二の問題発言ですけれども、階議員は、実際に共謀罪を新設したのは二カ国のみと発言をされました。さきに触れた民進党のパンフレットにも、条約締結のために共謀罪を新設した国は、たった二カ国、ノルウェーとブルガリアだけと記載されています。

 しかし、これらの発言や記載は重要な点に触れておらず、誤解を生じるおそれが極めて大きいと言わざるを得ません。というのも、多くの国は、条約の締結よりも前から既に重大な犯罪の合意罪か参加罪を有していたのであって、それが国際的なスタンダード、国際標準だということです。

 このような状況の中、我が国が本条約の締結に必要な国内法の整備を完了していないことは、まことに不本意ながら、我が国が国際社会における法の抜け穴となっていると言わざるを得ない状況でございます。多くの国が、もともと重大な犯罪の合意罪または参加罪を有していたということは、既に政府答弁の中で、さらに言えば、私の理解するところ、民進党の皆様からの求めに応じて政府が作成した資料においても明らかにされていると思います。にもかかわらず、なおその事実には言及せず、ただ単に共謀罪を新設したのは二カ国のみであるという発言を行うのは、私は、まさに印象操作であるとのそしりを免れないというふうに思います。

 そこで、改めて、先進国であるOECD諸国における条約第五条についての国内法整備の状況について、外務当局に伺いたいと思います。

岸副大臣 政府は、OECD加盟国全てに対して照会を行いました。我が国を除くOECD加盟国三十五カ国の全てから、重大な犯罪の合意罪または組織的な犯罪集団への参加罪の一方または双方を犯罪化しているという回答がございました。

 これらのOECD加盟国のうち、本条約の締結に際して合意罪または参加罪を新たに創設したと回答した国は、オーストリア、カナダ、ニュージーランド、ノルウェーの四カ国にとどまっておりますけれども、これは、大部分の国は従前から必要な国内法を有していたため、新たに犯罪化を行う必要がなかったことを示すにすぎない、このように考えております。

 いずれにいたしましても、先ほどから申し上げましたとおり、我が国の国内法では本条約の義務を履行できておらず、新たな立法措置が必要であって、テロ等準備罪を創設しなければ本条約の締結をすることはできないと考えておるところでございます。

赤澤委員 ここまでの質疑で、我が国が国際組織犯罪防止条約を締結する必要性、そのためにテロ等準備罪を創設する必要性、さらには、本法案を成立させることこそがテロ等対策の国際的なスタンダードであることなどが明らかになったと思います。

 その一方で、国民の皆様の御期待に応えて、安全、安心な国家日本を守るためには、テロ対策について、いついかなるときであっても、これで十分ということにはならないという基本的認識に立って、不断に見直しを行うことが必要であると考えます。

 テロ等準備罪の創設を含む本法案の成立だけではテロ対策として不十分ではないかという点について、法務当局の見解を求めます。

盛山副大臣 テロ等準備罪を設けることによりまして、テロを含む組織犯罪について、実行着手前の段階で検挙、処罰が可能となります。その重大な結果の発生を未然に防止することができるようになるわけでございます。さらに、テロ等準備罪を整備してTOC条約を締結することにより、国際的な逃亡犯罪人引き渡しや捜査共助、情報収集において、国際社会と緊密に連携することが可能となります。このように、テロ等準備罪を含むTOC条約を締結するための国内法の整備は、テロ対策として有効であるということでございます。

 他方、一般論としましては、国民の安全、安心を守るため、テロ対策については、いついかなるときであっても、これで十分ということにはならないものという基本認識に立って、不断に見直しを行うことが必要でございます。

 現在、政府におきましては、官邸直轄の国際テロ情報ユニットを新設し、国際社会と緊密に連携して、情報収集、分析を強化するとともに、水際対策の徹底、重要施設やソフトターゲット等に対する警戒警備の強化、サイバーセキュリティー対策の強化等、総合的なテロ対策を強力に推進しているものと承知しております。

 法務省といたしましても、今後とも、テロ対策について、関係機関とも連携しつつ、万全を期してまいりたいと考えております。

赤澤委員 今後とも、テロ対策にこれで十分ということは決してないという厳しい認識に立って、さまざまな観点から総合的な取り組みを進めていただきたいと思います。

 次に、来たるべき五月二十六日にイタリアのシチリアで開催されるG7サミット開催を目前に控えて、テロ等準備罪の創設を含む本法案は、その観点からも成立待ったなしというふうに考えます。

 G7サミットを控えて、我が国がTOC条約締結のために国内担保法の整備に努めていることは、今後の国際社会と我が国の関係においてどのような意義を持つのか、外務当局に伺います。

岸副大臣 既に百八十七カ国そして地域が本条約を締結しておりますけれども、そして、本条約に基づいて国際協力を実施しているところでございますが、未締結国は我が国を含めてわずか十一カ国でございます。G7の中では我が国のみが未締結ということでございます。

 関連する国連の各決議、またG7、その前のG8サミットにおいても、繰り返し各国に対して本条約の締結が要請されており、例えば昨年の日本が議長国を務めましたG7伊勢志摩サミットの首脳宣言においても、我が国は、国連国際組織犯罪防止条約及びその議定書を初めとする関連する国際文書の締結及び完全な実施を呼びかけるとされたところです。

 また、先般のルッカで行われましたG7の外相会合においては、テロ及び暴力的過激主義対策における国際協力の重要性を強調する中で、我が国が現在、本条約の締約国となる努力を進めていることについて、G7の総意として歓迎する旨が共同コミュニケに盛り込まれたところであります。

 我が国が本条約の締結に必要な国内法整備を行い、本条約を締結することは、G7を初めとする国際社会と協調しつつ、深刻化するテロの脅威を含む国際的な組織犯罪に対する取り組みを強化する上で、極めて重要な意義を有するものと考えております。

赤澤委員 ありがとうございます。

 最後に、人権の保護の観点から、多くの委員の関心が非常に高い、捜査手法について質問したいと思います。

 時間がもう限られておりますので、特に通信傍受について取り上げたいと思いますが、これも一部の野党、一部のマスコミの皆様からよく言われる論調でありまして、テロ等準備罪の新設を許したら、今の捜査手法では足りなくなるので、政府が通信傍受を始めることにより監視社会への扉が開かれるといったような論調、御批判を取り上げたいと思うんです。

 私は、残念ながら、この御批判は捜査実務から乖離をしているように思われます。そこで、テロ等準備罪が新設された場合、同罪の捜査において、通信傍受を行う実務上の必要性が認められるのかどうかについて、政府の見解を求めたいと思います。

林政府参考人 まず前提といたしまして、今回、テロ等準備罪の創設は、これは刑事実体法の規定でございまして、何ら手続法を改正するものではないわけでございまして、テロ等準備罪の捜査に、通信傍受、現行の通信傍受法を適用することはできないということを前提として考えます。

 そして、それでは、このテロ等準備罪の捜査について、現行の通信傍受法における通信傍受を行う実務上の必要性というものが想定されるのかどうかということをお答えいたしますと、まず、通信傍受法は、捜査機関が通信傍受を行うために、裁判官が発付する傍受令状が必要となります。この傍受令状が発出されるためには、非常に厳格な要件が定められております。

 一つには、その罪が犯されたと疑う十分な理由があること、二つに、当該罪が数人の共謀によるものであると疑うに足りる状況及び犯罪に関連する通信が行われると疑うに足りる状況があること、そしてさらに、ほかの捜査方法では犯人を特定することが著しく困難であるということ、こういった厳格な条件を満たす場合でなければ発付されないわけであります。

 仮に、テロ等準備罪を通信傍受の対象犯罪にするということを想定いたしましたとしましても、テロ等準備罪におきましては、その計画された犯罪が組織的犯罪集団の意思決定に基づくものであり、かつ、その効果、利益が当該組織的犯罪集団に帰属するものであること、また、指揮命令関係に基づいてあらかじめ定められた任務の分担に従って行われることに加えまして、計画に基づき実行準備行為が行われたこと、このような厳格な要件を事前に裁判官に対して十分に疎明しなければ傍受令状が発付されないわけでございます。

 逆に言いますれば、テロ等準備罪についてこのような疎明が可能なほどに捜査が進展しているのであれば、被疑者を逮捕し、あるいは関係場所の捜索等を行い得る状況にあるものと考えます。

 未然防止の必要性が極めて高いテロ等準備罪の特質に鑑みますれば、そのように捜査が進展している場合には、捜査機関としては、通信傍受を実施するのではなくて、テロ等の犯罪発生の未然防止のために、テロ等準備罪の被疑者を逮捕するなど、その他の捜査手法を選択すると考えられます。また、それが可能な状況、疎明ができるということについては、そのような可能な状況になっていると考えられます。

 そうしたことから、捜査実務上、こうしたテロ等準備罪について通信傍受を利用するということ、現行法の通信傍受法を利用するということは想定しがたいと考えております。

赤澤委員 まさに細目的、技術的な話について、刑事局長から答弁を求める意義が非常に明らかになるような御答弁をいただいております。

 実務上、テロ等準備罪の捜査において通信傍受を行う必要性は認められないというお答えであったと思います。少なくとも、私には、監視社会への扉が開かれるというような主張は杞憂に思われます。

 通信傍受に限らず、捜査手法に係る諸点は人権の保護の観点から極めて重要であります。だからこそ、取り調べの可視化やGPS捜査など捜査手法について、日本維新の会からいただいた真摯かつ建設的な修正提案をベースに、自公維三党の修正協議が昨日大筋合意に達したことは、大変喜ばしいことでございます。引き続き、真摯な検討を続けてまいりたいと思います。

 以上、さまざまな観点から、テロ等準備罪を新設する審議中の法案についてお尋ねをしてまいりましたが、冒頭申し上げたとおり、犯罪の抑止と人権の保護のせめぎ合いの中で、国際的な組織犯罪の情勢の深刻化、あるいは三年後の東京オリパラ開催を念頭に置けば、一日も早く本法案を成立させて、我が国が国際組織犯罪防止条約を締結する必要性が極めて高いこと、そのためにテロ等準備罪を創設することが必要不可欠であること、本法案を成立させることこそがテロ等対策の国際的なスタンダードを満たすことになることなど、改めて確認できたと思います。

 以上の諸点について、国民の皆様の御理解を賜りたいと思います。

 質問を終わります。ありがとうございました。

鈴木委員長 次に、今野智博君。

今野委員 おはようございます。自由民主党の今野智博です。

 本日も、質問の機会をいただきましたこと、心から感謝、御礼を申し上げます。極めて貴重な時間ですので、早速実質的な議論に入りたいと思います。

 今まで、当委員会の議論の中でも、かなりさまざまな論点について既に触れられております。私は、まず冒頭で、これまでの議論で触れられていなかった論点について少し触れたいと思います。

 それは、まず、国外犯処罰に関する規定の整備ということでございます。

 国際組織犯罪防止条約、TOC条約十六条の1は、一定の犯罪について、国外犯罪人を引き渡しの対象としております。また、同条約十六条の10は、対象犯罪について、自国民であることを唯一の理由として引き渡しを行わない場合には、自国において、訴追のため自国の権限ある当局に事件を付託する義務を負うというふうに定め、また、同条約十五条の3は、引き渡しを行わない場合に、自国の裁判権を設定する必要性について規定をしております。

 いろいろ申し上げましたけれども、すなわち、これらの規定は、国外犯について、当該の国に引き渡すか、あるいは自国で処罰をするかのいずれかを条約上規定しているというふうに解釈をされます。

 こうしたTOC条約上の義務規定に関して、我が国ではこのような内容がどのように担保されているのか、その整備の方法についてお伺いをいたします。

林政府参考人 TOC条約における国外犯処罰に関する条約上の義務の内容と、我が国における担保の方法についてお答えいたします。

 まず、TOC条約の十五条の1、これは、重大な犯罪に関して、裁判権設定に関する規定は置いておりません。また、条約が犯罪化を求める重大な犯罪の合意罪、参加罪、また資金洗浄罪、贈収賄罪及び司法妨害罪に関しましても、締約国に対して、自国の領域内または自国の船舶、航空機内で行われた行為についての裁判権設定義務を課すにとどまっております。

 しかしながら、条約では、引き渡し対象犯罪、すなわち重大な犯罪及び条約が犯罪化を求めている罪でありまして組織的犯罪集団が関与するものにつきまして、自国民であることを唯一の理由として犯罪人引き渡しを行わない場合には、犯罪人引き渡しの請求を行った締約国からの要請により、自国において訴追のために事件を付託すべきこと及びそのための裁判権を設定することを締約国に義務づけております。

 このような条約の規定と我が国の国内法を照らしてみますと、まず、我が国は、逃亡犯罪人引渡法の中で自国民不引き渡しの原則を採用しておりますことから、条約の引き渡し対象犯罪について裁判権設定義務を負うこととなります。

 もっとも、条約上の裁判権設定義務は、例えば、専ら自国の国家的法益の保護を図る犯罪等には適用されないので、重大な犯罪等のうちで、普遍的な性質を有する犯罪であって外国で行われた行為にも自国の罰則の構成要件を直接適用することが可能であるものについて国外犯処罰規定を整備すべきだということになります。

 そのような観点から検討した結果、重大な犯罪等のうち、刑法の各則の罪につきましては、刑法の二条から四条の二までの規定により既に対応済みであります。

 特別法犯につきましても、個別法における国外犯処罰規定がおおむね整備されておりますけれども、数件の法律については、条約上のこの義務を履行するために、今回の法案で国外犯処罰規定を整備することとしております。

 また、条約が犯罪化を求める犯罪のうちテロ等準備罪については、条約上の裁判権設定義務に対応する限りにおいて国外犯処罰を可能にするために、条約による国外犯について定める刑法第四条の二の例によることとしておるところでございます。

今野委員 詳しい説明、ありがとうございます。

 先ほど局長の御答弁にもありましたとおり、我が国の刑法犯についてはほぼ整備がされているということでございまして、ただ、それでは、今回の法整備によって新たに国外犯処罰規定を設けることとなった犯罪には具体的にどのようなものがあるのか、お教えいただけますでしょうか。

林政府参考人 今回の法整備によりまして新たに国外犯処罰規定を設けることとなった犯罪を列挙いたしますと、まず、組織的な強要、偽計業務妨害、威力業務妨害及び建造物等損壊、これは組織的犯罪処罰法三条一項九号、十一号、十二号及び十五号でございます。それから、組織的な殺人の予備、これは組織的犯罪処罰法六条一項一号であります。それから、テロ等準備罪、これは組織的犯罪処罰法六条の二であります。それから、爆発物使用の脅迫、教唆等、これは爆発物取締罰則四条から六条でございます。それから、常習暴行、脅迫等、これは暴力行為等処罰ニ関スル法律一条の三第一項後段であります。次に、児童に淫行させる罪、これは児童福祉法六十条一項であります。次に、生物兵器の製造及び毒素兵器の開発、生産及び貯蔵の禁止並びに廃棄に関する条約等の実施に関する法律第十条の罪でございます、これが生物兵器の製造等の罪でございます。最後に、サリン等発散予備、これはサリン等による人身被害の防止に関する法律五条三項の罪でございます。

 以上でございます。

今野委員 御指摘いただいた犯罪について、刑法第四条の二の例に従うということで、国外犯処罰の規定が整備されているということでございました。

 あわせて、今回、刑法の改正によって、贈賄罪について国民の国外犯を処罰することとした理由についてもお聞かせいただけますでしょうか。

林政府参考人 贈賄罪につきましては、次のような理由から国民の国外犯を処罰することとしております。

 まず、国際的な人の移動が日常化した今日におきまして、国外における国民による贈賄行為の処罰の必要性が高まっていると考えられること、それから、収賄罪の国外犯処罰が可能であることとの均衡を考慮する必要があるということ、さらに、贈賄罪につき国民の国外犯処罰規定を設けることは、今回のTOC条約において求められている腐敗行為の犯罪化の趣旨にも沿うというものであること、こういった理由から贈賄罪に関する国民の国外犯を処罰することとしております。

今野委員 ありがとうございました。

 続いて、今回の組織的犯罪処罰法改正案のある意味メーンとも言えるテロ等準備罪、これについては、かなり時間を割いて、各委員からいろいろな議論、御質問がされてきたところでございますけれども、私が少し気になる点について、順次御質問をさせていただきます。

 まず、今回の改正案においては、先日の参考人質疑においてもかなり詳しく出ておりましたけれども、主体の限定ということで、かつての共謀罪とは違う縛りがされている。

 ちょっと条文に即して申し上げますと、現行の、従来からの組織的犯罪処罰法上は、まず「団体」について、「「団体」とは、共同の目的を有する多数人の継続的結合体であって、その目的又は意思を実現する行為の全部又は一部が組織により反復して行われるものをいう。」ということを定義しております。では、「組織」とは何ぞやと言われれば、「指揮命令に基づき、あらかじめ定められた任務の分担に従って構成員が一体として行動する人の結合体をいう。」というような定義が置かれております。これが現行の組織的犯罪処罰法上の定義であります。ですから、その辺で意気投合して、何かしようと話をしただけで、当然、この団体にまず該当しないわけであります。

 その上で、今回は、改正案によってテロ等準備罪の主体とされるのは、そうした団体のうちで、「その結合関係の基礎としての共同の目的が別表第三に掲げる罪を実行することにあるものをいう。」というふうに規定をされております。つまり、これは、従来の組織的犯罪処罰法の「団体」をさらに絞り込んで、テロリズム集団などの典型的な犯罪集団に主体を限定したということが言えるのではないかと思います。

 これについては、既に我が党の藤原委員、あるいは民進党の各委員の方々からもかなり突っ込んだ質問が行われておりますので、私からはここで長時間質問することはいたしませんけれども、いずれにいたしましても、まず、こうした主体の限定、絞り込みということに関しましては、かなり私は厳格に絞り込んでいるなという気がいたします。当然、こうした縛りから、例えばその辺の音楽教室とかあるいは合唱団、そういったものがこの組織的犯罪集団に該当するはずがないということはまず明らかだと私は考えております。

 よくここで、一般人がどうとか論争はされておりますけれども、私からいえば、実体法上の真実あるいは手続法上の真実として、組織的な犯罪集団とかかわりのない方々を一般人というふうに定義する以上は、そうした方々が処罰の対象にならないのはもちろん、嫌疑の対象にもなってこない。それはなぜかといえば、こうした極めて厳格な、限定された主体の縛りがあるからだというふうなことを思っておりまして、余り一般人論争で言葉の定義自体を議論してもなかなか議論は深まってこないのかなというふうに私は考えます。

 そこはさておき、次に、計画。

 先日、井田参考人の話の中では、このテロ等準備罪については、主体、計画、実行準備行為という三重の縛りがかけられているんだというような話もお伺いいたしました。

 私は、先ほど申し上げたように、まず主体という観点から、団体、しかもその中でも組織的犯罪集団という、その主体の段階で既に二重の縛りがかけられているということを御指摘しておきたいと思いますけれども、次に計画という観点から、先般も参議院の予算委員会において、メール、LINEで犯罪の合意が成立するかというような質問もされておりました。もちろん、合意の手段について特段の定めはされておりませんので、可能性としてはあり得るんだと思います。

 ただし、当然、そうした計画の詳細、犯行の日時、場所、役割分担などについて具体的な取り決めがなければ合意、計画とは言えませんし、また加えて、仮にそうしたメール、LINEが事実認定、すなわち裁判の証拠として採用されるにしても、だからといって、直ちに捜査機関がメールやLINEを常時監視しているということには全くならないわけでありまして、それは全く次元の異なる話であります。

 ここでちょっと私がお伺いしたいのは、そうした話とはまたちょっと別の切り口で、懸念されることとしてたまに耳にするのが、メールやLINEを見ただけでテロ等準備罪の計画をしたと言えるかということでありまして、これについて法務当局の御見解をお伺いいたします。

林政府参考人 テロ等準備罪における計画というものでございますが、単に特定の犯罪の実行を計画するという形ではございませんで、これは、組織的な計画は、組織的犯罪集団の構成員らが組織的犯罪集団が関与する特定の犯罪を実行することについて計画する、その計画が具体的かつ現実的な合意であるというふうに考えております。

 もう少し砕きますと、組織的犯罪集団が関与する特定の犯罪を実行することについてというこの計画の対象については、それをもう少し開けば、組織的犯罪集団の構成員らが指揮命令に基づいて、あらかじめ定められた任務の分担に従って特定の犯罪を実行することについて、これを具体的かつ現実的な合意をすること、これが計画ということとなります。

 そうしますと、こういった内容を持つ具体的かつ現実的な合意をするということについて、その当事者間による意思の合致が必要となります。したがいまして、メールやLINE、こういうコミュニケーション手段を前提といたしましても、このメールやLINEを見ただけというような形で一方的な意思の伝達を受けただけで、その重大な犯罪の合意というものが成立するとは考えておりません。

今野委員 以前の議論においても、メーリングリストがどうとか、それはもう主体の段階でそもそも全く該当しませんよと。今局長に御答弁いただいたのは、計画という要件一つとってみても、例えばフェイスブックでいいねを押したとかその程度で、当然、計画として認定されるはずがないということの御指摘をいただきました。

 次に、実行準備行為。

 計画に加えて、計画した犯罪を実行するための準備行為が必要であると今回改正案には盛り込まれておりますけれども、これはとりもなおさず、処罰範囲の限定あるいは明確性の観点からこうした要件が付加されたと私は理解しております。

 ただ、実行準備行為という概念自体が余り我々法曹実務家からしても聞きなれない言葉でございまして、例えば、じゃ予備行為とどう違うのと。予備行為というのは、これは講学上の定義を言えば、実行の着手に至らない行為であって、犯罪の実行を目的としてなされた、犯罪の完遂に実質的に役立つ行為などと定義されておりますけれども、例えば、予備行為には当たらないけれども実行準備行為には当たるものとして具体的にどのようなものが考えられるのか、お教えいただけますでしょうか。

林政府参考人 テロ等準備罪における、実行するための準備行為といいますのは、一つに、計画行為とは別の行為であること、そして、計画に基づいて行われるものであること、そして、計画が実行に向けて前進を始めたことを具体的に顕在化させるもの、こういうものをいうと考えております。

 例えば、拳銃を用いて殺害する計画というものを例に挙げますと、その拳銃を購入する資金の調達あるいは犯行後の逃走経路の下見、こういったものについては、一般に、その行為自体だけを取り出せば、殺害行為が行われる客観的に相当の危険性があるとまでは認められないと考えられます。現行法の予備行為には当たらないことが多いと思われます。

 しかし、当該行為が計画に基づいて行われた場合におきましては、計画が実行に向けて前進を始めたことを具体的に顕在化させる行為であると認められますので、実行準備行為に当たり得る行為であろうかと考えております。

今野委員 ありがとうございます。

 予備行為というのが、理論上はともかくとして、我が国の判例上はかなり厳格にこれも要件に縛りがかけられている、東京高裁の昭和四十二年の判決がその典型でありますけれども。

 そもそも予備行為自体が、先ほど局長に御答弁いただきましたように、下見ですとか、なかなか、例えば殺人既遂罪なんかと比べても、構成要件の外延というものが、外部周辺が明確になってこないものとして一般的には言われているものでございまして、だからこそ、判例はそうした厳しい縛りを我が国の実務上課している。

 ですから、今回、実行準備行為と予備行為とどこが違うのと言われた場合には、先ほどのような局長からの御答弁になるんだろうと思います。

 それで、この実行準備行為を付加したことに関して、当委員会の議論の中でも頻繁に出てきておりますけれども、内心を処罰することになるのではないかと。

 これは、私、質問者のすぐ後ろが私の委員会の席でございまして、ずっとその議論を聞いておりまして、内心というのは、皆さんに誤解されないように言っておきますけれども、あくまでも心のうちなんですね。例えば、ある人が大量殺人を企てて、それで自分の部屋でそれを四六時中考えている、外部には一切行為として出てこない、それはどんなに考えても処罰されない、これが内心の自由なんですよ。それは憲法上の規定でもあります。ですが、もちろん、内心が行為として外部にあらわれてきた、その段階で、当然のことながら、それは刑法の処罰範囲の中に入ってくる。

 それはだから、内心を処罰することではありません。刑法の行為主義というものはあくまでも行為を処罰するものであって、それは内心の処罰とは全く違う、概念的にそもそも異なるんだということを指摘しておきたいと思います。

 それで、先ほど赤澤委員の質疑の中にも出ました。今回、TOC条約を締結するために、五条の解釈については、立法ガイドのパラグラフ五十一あるいは五十五、それに関しての国連薬物犯罪事務所、UNODCからの口上書、これは、我々のこの法務委員会においても資料として既に配付されておりますけれども、それを読む限り、合意罪あるいは参加罪を、あるいはその双方を条約締結のために創設しなければいけないんだということがはっきり明記をされております。この口上書が偽造だというのであれば別ですけれども、そうでない限りは、必ずそれを創設しなければいけないわけです。

 では、予備罪があるからそれを締結できるんじゃないのというような議論も散見されるわけですけれども、これについても、もう既に何度も繰り返し指摘されているように、予備罪では合意罪、参加罪の規定を創設したことにならない、そもそも、TOC条約上の義務履行を満たさないということでございます。

 さらに進んで、では、予備罪の共謀共同正犯はどうなんだというような話もあります。ただ、予備罪の共謀共同正犯、この共謀共同正犯は、判例上は既に確立されたものとして認められておりますけれども、そもそも、例えば練馬事件、昭和三十三年の大法廷判決などにおけば、共謀共同正犯の成立要件は、かいつまんで言えば、まず共謀の事実、そして二つ目に共謀に基づく実行行為がなければ成立しないというふうに解されております。ですから、予備罪の共謀共同正犯と言ったところで、結局のところ、予備罪の実行行為がなければ成立しないわけでありますから、要は、予備罪だけでTOC条約の義務を果たさないのと一緒であって、幾ら共謀共同正犯と言ってみたところで、それがTOC条約の加盟義務を果たさないことには変わりはないということであります。

 そのことを指摘した上で、時間がかなり迫ってきておりますけれども、残された時間で、私は、ちょっと罪数についてお聞きをしたいと思います。

 罪数論、これはなかなか実務的な問題でして、お聞きになっている方々が正確に理解していただけるかちょっと不安ですけれども、具体例を挙げながら言っていきたいと思います。

 例えば、組織的な殺人、これはテロ等準備罪の対象犯罪ですけれども、組織的な殺人のテロ等準備罪を犯した人が、その後、本体犯罪といいますか、組織的な殺人罪の実行に着手したというような事例で考えていただければいいと思いますけれども、その場合に、テロ等準備罪と本体犯罪、計画をした対象犯罪との間の罪数関係、これについて教えていただけますでしょうか。

林政府参考人 まず、テロ等準備罪は、犯罪の実行着手前の行為を処罰するものであって、それ自体に固有の保護法益はなくて、専ら計画をした犯罪により、保護される法益の保護に資するものであります。したがいまして、計画をした犯罪が実行された場合、テロ等準備罪を処罰する必要性は認められません。すなわち、テロ等準備罪は、その後実行された犯罪が処罰されるときにはこれに吸収されるという関係にあると考えます。

今野委員 局長から、吸収されるという御答弁をいただきました。これは、講学上どう扱うかというのは若干議論があるかもしれませんけれども、広い意味での包括一罪でありまして、一罪であることには変わりがないということでございます。

 この議論の実益がどこにあるかということは、その次の、例えば先ほどの例でいえば、組織的殺人罪で起訴されて無罪となった人が、その判決確定後に、同じ組織的殺人を内容とするテロ等準備罪で処罰するおそれはないのかということに議論の実益がありまして、これは憲法上の一事不再理の話にも絡みますけれども、そうした処罰のおそれがないのかどうか、御答弁いただけますでしょうか。

林政府参考人 先ほどのような吸収関係というものを前提といたしますと、まず、例えば組織的な殺人を行うことを計画して、その後、実際にこれが実行された場合、その計画をした者は組織的な殺人罪の共同正犯として処罰され得ることとなりますけれども、仮に組織的な殺人罪について無罪判決が確定した場合には、その無罪判決の効力は、その前に行われた組織的な殺人を対象とするテロ等準備罪についても及ぶこととなります。

 したがいまして、このような無罪判決が確定した被告人について、その後改めて、組織的な殺人を対象とするテロ等準備罪で処罰すること、これはいわゆる一事不再理の原則に反して、許されないと考えております。

今野委員 ありがとうございました。

 本体犯罪が無罪となった場合には、テロ等準備罪においても処罰の対象にはならないと。刑事訴訟法上は免訴等の手続になるのではないかというふうに考えられますけれども、その点について明らかに御答弁をいただきました。

 かなり細かな点についてでありましたけれども、充実した議論ができたと思います。

 時間ですので、これで終わります。ありがとうございました。

鈴木委員長 次に、浜地雅一君。

浜地委員 おはようございます。公明党の浜地雅一でございます。

 私も、四十五分間という貴重な時間をいただきましたので、しっかり質疑をしたいと思っています。

 今、自民党の委員の方々の質問を一時間聞いておりましたけれども、きょうは非常に中身のあるといいますか、非常に落ちついた、また、重要な点について議論がされているというふうに思っています。基本的なところから、また細かい部分まで、しっかりと法案全体を見渡すような質問であったかなと思っております。

 特に赤澤委員の質疑の中で、オリンピック前が、テロも含め、また人身売買取引等の組織的犯罪が非常にふえるというようなことを、実際の事実をもとにしてお話をされました。また、海外では、既に参加罪や、または共謀罪の法案を持っておる国が大多数でございますので、海外では実際にテロ事案が未然に防止できた数字も出てきまして、非常に現実味のある話であったと私は思います。

 では、日本において現実味があるかという点で聞きたいんですが、アルカイダ関係者とおぼしき者が日本に潜伏していた事実はございますか。公安庁、お答えください。

杉山政府参考人 お尋ねの、アルカイダ関係者が日本に潜伏した事例といたしましては、国連の安全保障理事会アルカイダ及びタリバン制裁委員会において制裁対象に指定されたフランス国籍のリオネル・デュモンという者が平成十一年九月以降、我が国に少なくとも六回の出入国を繰り返し、一定期間滞在していた事実があるものと承知をしております。

浜地委員 前回、参考人質疑のときに、日本は海に囲まれていて、ほかの陸続きの国とは違いますよ、ですから実際のテロの脅威というものは諸外国に比べてないんだみたいな話をされていましたが、実際に、安保理で認定したフランス人のアルカイダ関係者という人間が六回日本に潜伏した事実というのがあるわけでございます。先ほど赤澤委員が質疑の中で明らかにされました、いわゆるオリンピック前にはテロ等の組織的犯罪が増加するであるとか、または、実際に未然に防げた事例というのは、これは余りリアリティーがあっては皆様方を不安にしますけれども、日本においてもしっかり考えなければいけないということをこの委員会で皆様方と共有をしたいと思いまして、先ほどの質問をさせていただきました。

 前回の参考人質疑で、我々が推薦をしました井田参考人、中央大学の教授でございますが、このように強く組織化され、高度な技術的手段を用いて大規模な被害を与えるようなテロなどの組織的犯罪集団に対抗するには、処罰の早期化なくして対抗できないと言われています。まさにそのとおりだなと思っております。

 これは日本でも、先ほど申し上げましたとおり、もう現実味がある話でございます。まして、オリンピックを二〇二〇年に控えてのこの法案審議でございますので、我が国としても万全の法整備を行う必要があるというふうに、改めてこの場で訴えたいというふうに思っております。

 それでは、先ほどの今野委員の質問とも関係をしますが、これまでの議論では、TOC条約を締結するには現行のままでいいんだ、もしくは予備罪で足りるんだというような議論がございます。まだ報道ベースでございますけれども、民進党さんが出された一つの対案の中には、人身売買そして組織的詐欺罪の予備罪を今回つくるようなお話がございます。果たして、予備罪でTOC条約を締結できるのかという、先ほどもありました論点について、私からも確認をします。

 その前に、法務省に、我が国における予備罪における予備行為の解釈について、改めて刑事局長にお尋ねをいたします。

林政府参考人 通常、予備罪は、構成要件の中では、予備という言葉だけで条文が示されておるわけでございます。したがいまして、この予備の内容について、各裁判において解釈が示されております。

 そこの場合の一つといたしまして、予備罪における予備の解釈が争われました東京高等裁判所、昭和四十二年六月五日判決におきますれば、予備罪が成立するためには、「当該基本的構成要件に属する犯罪類型の種類、規模等に照らし、当該構成要件実現のための客観的な危険性という観点からみて、実質的に重要な意義を持ち、客観的に相当の危険性の認められる程度の準備が」備えられたことを要する、このように判示しておりまして、一般に、こういった予備罪における予備行為とは、実行の着手に至らない行為であって、構成要件を実現する客観的に相当の危険性を有するものである必要があると解釈されているものと承知しております。

浜地委員 改めて基本的なところをお聞きしました。

 今、刑事局長が引いていただきましたのは、昭和四十二年六月五日、東京高裁判決、いわゆる三無事件判決というものでございます。私も、予備というのはなかなか話題になりにくいので、改めてこの昭和四十二年の判決を全文読ませていただきました。

 まさに、先ほど御答弁ありましたとおり、犯罪類型の種類、規模に照らして、当該構成要件実現のための客観的な危険性という観点から、実質的に重要な意義を持ち、客観的に相当の危険性が認められる程度の準備が整えられる必要があるというふうに言っておりますけれども、この判例でやはり、ほかの部分で言っておりますのも、さまざま構成要件の類型において実現されようとする保護法益も違うし態様も違うので、予備行為というのはもともと無定型で無限定なものなんだ、なかなか定めにくいものなんだということも、この判例の中で一つ読み解けると思っております。

 以前、金田法務大臣が、予算委員会の質疑の中で、これ以外の判例はあるんですかというふうにお聞きをされておりました。しかし、これは、いわゆる最高裁の判例が予備ではございませんので、まさにこれは一般的な規範性を有するものでございます。今後、さまざまな予備罪が議論になったときにも、この解釈に従って判断をされるわけでございますので、なかなかこの予備行為というのは日本では限定的に解釈をされているんだろうと私は思っております。

 今の議論を前提としまして、TOC条約を現行のまま締結できるか、もしくは予備行為で足りるかという点について、この第五条の、特に推進する行為は予備行為で足りるんだろうかということを外務省に改めてお聞きしたいと思っております。

水嶋政府参考人 お答え申し上げます。

 委員も御案内のとおり、本条約の第五条は、締約国に対しまして、重大な犯罪の合意または組織的な犯罪集団の活動への参加の少なくとも一方を犯罪化することを義務づけております。

 その関係で申し上げますと、重大な犯罪の合意そのものを処罰の対象とするということで義務づけた上で、「国内法上求められるときは、その合意の参加者の一人による当該合意の内容を推進するための行為」、こういう要件を付すことを認めてございます。ここに言います「合意の内容を推進するための行為」、これは、合意の成立以後に行われます、未遂に至らない何らかの行為を意味するものだというふうに解されております。

 もっとも、仮に、御指摘のように、合意の内容を推進するための行為に対応するものといたしまして予備罪の予備行為を規定した場合には、予備行為の概念について先ほど刑事局長の方から御答弁ございましたが、裁判例に見られますように、「客観的に相当の危険性の認められる程度の準備が整えられた場合」といった考え方が前提になります。そうしますと、そのような危険性の認められる程度の準備がなければ処罰できない、こういうことになります。

 これは、さきに述べたような本条約の趣旨に反するおそれが高いというふうに考えておりまして、したがいまして、政府といたしましては、合意の内容を推進するための行為に対応するものとしてそのような予備行為を規定して条約を締結するということは、憲法九十八条第二項が規定します条約の誠実履行義務にも反しまして、許されないというふうに解しております。

浜地委員 ありがとうございます。

 条約締結の点、五条の推進する行為、未遂に及ばない何らかの行為ということで規範が示されましたけれども、我が国における予備行為の考え方によりますと、これには足りないという御答弁だったというふうに思っています。

 実際に、確実にテロ等組織犯罪に対処するためには、解釈上疑義があるような、そういった行為では私はだめだと思っております。計画があって準備行為があればしっかりと処罰できるという、ある意味、限界線を引くのも大事なんですけれども、捜査機関等も安心してしっかりと認定できるということが処罰の早期化ということで大事だろうと思っております。

 しかし、外務省はそう言うけれども、前回の参考人質疑ではこういう問いがございました。TOC条約の国内実施状況を審査する機関は現在はないんじゃないですか、そういう意見がございました。

 しかし、私は、条約というものは、加盟国の取り組みをレビューされることは通常行われることだと思っております。このTOC条約の国内担保法の審査も含めて、今後、TOC条約の実施状況のレビューは行われる可能性はありますでしょうか。外務省にお聞きします。

水嶋政府参考人 お答え申し上げます。

 この条約の第三十二条におきまして、締約国会議を設置するということ、また、締約国によります本条約の実施状況を定期的に検討して、その実施の改善のための勧告を行うことなどを求めております。

 この条約の実施状況のレビューをどのように行うかにつきましては、現在、締約国会議において議論をされておりますが、昨年の十月に行われましたこの条約の第八回の締約国会議におきましても、国連腐敗防止条約の条約実施レビューメカニズムを念頭に各国からさまざまな意見が提示されましたが、引き続き議論を深めていくことになっております。

 なお、国連腐敗防止条約、UNCACと呼んでおりますけれども、こちらの方では既にレビューメカニズムが設けられておりまして、こちらでは、条約の実施状況について国別の報告書を作成し、よい事例、いわゆるグッドプラクティスや、あるいは課題を特定する、また、課題を克服するための技術援助などについて検討すること等を定めております。そういう条約実施レビューメカニズムというものが設けられている。

 こうした点を踏まえますと、本条約についても、将来、締約国会議におきまして条約実施レビューメカニズムが設けられる可能性があるというふうに言えると思います。

浜地委員 ありがとうございます。

 条約自体の三十二条に締結国会議があって、そこでは実施状況を含めてレビューを行わなきゃいけないという規定がありますので、当然、ほかの条約と同じように今後レビューは行われていくというのは常識だろうというふうに思っております。ただ、現在はその仕組みについて話し合いをしておって、国連腐敗防止条約、UNCACのような、議論を踏まえてこれから始まるというお話も私も聞いておりますので、間違いなくこれはレビューが行われます。

 そうなりますと、G7各国は共謀罪や参加罪を包括的に犯罪化しています。既に整備をしておるんですね。ですから、日本の国内法、とりあえず現行のままTOC条約に入って、指摘されたらまたテロ等準備罪のようなものを検討するなんということは、先進国として大変私は恥ずかしいと思っております。

 また、先日の質問でも指摘がございましたけれども、FATFでは既に勧告を我が国は受けておりまして、捜査共助の面において、我が国が過度な負担ではなくて、我が国に捜査共助を求める国際社会が日本は過度な負担になっているというふうに指摘をされているわけでございますので、そういう上でも、レビューを受けてからまたやり直すなんということは本当にやってはいけないことであろうというふうに私は個人的に思っております。

 そして、もう一つ聞きたいんですが、ことしの五月二日に岸田外務大臣が、このTOC条約の事務局に当たります国連薬物犯罪事務所、UNODCを表敬されております。くしくも、この五月二日というのは、我々がこの委員会でしっかり質問をしようとするときに解任決議が出まして、とまった日でございます。日本がこの審議をとめてしまった日にまさに、岸田外務大臣はUNODCのフェドートフ事務局長を表敬されております。

 これは非常に、外務大臣としては、日本国内で話題になっているものを、忙しい日程の中、ウィーンまで行かれたということに、まず私は評価をしたいと思っておりますが、その際の岸田外務大臣とフェドートフ事務局長の発言の内容について、詳しくお話をお聞かせいただければと思っています。

岸副大臣 今御指摘のございました、五月二日のウィーンにおけるUNODCのフェドートフ事務局長と岸田外務大臣との会談でございますが、その際、岸田大臣からは、本条約の締結に必要な法案を現在国会で審議中である旨御説明をしたところ、先方よりは、日本が本条約を締結することはテロ対策と組織犯罪対策への日本のコミットメントを確認するものであるということ、それから、既に百八十七の国と地域が締結し、未締結国はごくわずかである本条約の普遍的なモメンタムを維持するためにも重要といった発言がございました。

 さらに、先方からは、国際組織犯罪とテロまた暴力的過激主義は関連性を持っている、そして、今日、誰しもがテロの脅威から逃げられない中で、本条約は非常に重要である、このような国際枠組みを通じた国際協調がテロと対峙するためには必要であるといった発言がございました。

 その上で、日本による本条約の締結に向けた努力が成功し、早期に本条約を締結することを期待するといった発言がございました。

浜地委員 今御紹介いただきましたフェドートフ事務局長の内容については、二つの点で重要な指摘があったと思っています。

 まずは、やはり国際組織犯罪とテロとは関連性を持っているんだということを現在言われています。誰しもがテロの脅威から逃れ得ない中でこれは非常に重要な条約であって必要というふうに述べられたということは、これはそもそも、よくありますTOC条約がテロと関連しているのかということで採択当時のお話をしていますけれども、それはそれで議論になりました。しかし、今現在において、このUNODCの事務局長自身がTOC条約はテロと強い関連を持っているんだということを、もう一度、我が国が今締結しようというこの場面で確認をされたことというのは、一つ大きなことだろうというふうに思っております。

 それともう一つは、既に百八十七カ国がやっていますよ、未締結国はごくわずかですよ、これは恐らく、批判の意味ももしかしたら込められているかもしれませんし、日本早くしろという国際社会の催促であろうというふうに私自身は受けとめたいというふうに思っております。

 何度も繰り返しますが、まさに五月二日は我々はいろいろな議論をしていたわけでございますが、そのときに外務大臣がUNODCに行かれたことについて、高く私自身も評価をしたいと思っています。

 続きまして、対象犯罪。

 TOC条約は、やはり合意罪、テロ等準備罪の創設が必要なんだということを私は訴えてまいりましたけれども、では、対象犯罪として過不足があるのかということでございます。

 よく問題になるのが保安林窃盗でございます。私は、これはキノコ狩りを対象に選定されたものではないというふうに思っております。前回、鉱山、鉱物無許可採掘のお話がございましたけれども、改めて刑事局長に、この保安林窃盗がなぜ対象犯罪となっているのか、どのように組織的犯罪集団が現実的に関与することが想定されるのか、お答えいただきたいと思っております。

林政府参考人 まず、森林法における、保安林の区域内における森林窃盗につきまして、これは保安林の区域内において、例えば土砂を窃取して、あるいは樹木を伐採して窃取するということが含まれております。

 こういったものにつきまして、実際に、良質の山砂を盗掘して販売する目的で、保安林の区域内である国有林で長期間にわたり継続的に従業員等を使ってユンボなどの重機を用いて山砂の掘削を繰り返して、時価約四千万円にも相当する五万立方メートルを超える山砂を採取した事例もあるものと考えております。

 こういったことを前提といたしまして、このような保安林の区域内における森林窃盗につきましては、組織的犯罪集団が実行することが現実的に想定される、そのように考えております。

浜地委員 実際の事例を引いて御説明いただきまして、非常にリアリティーのあるお話だったと思います。

 次に、これも議論されます、著作権法違反です。

 音楽教室が、先生が生徒に教えることが想定されてはいないと思いますけれども、改めて、基本的なことですが、なぜ著作権法違反を今回対象犯罪にしたのか、お答えください。

林政府参考人 著作権法違反、この罪については、著作権、出版権あるいは著作隣接権を侵害するなどの罪でございます。

 この罪については、組織的犯罪集団がその組織の維持運営に必要となる資金を得るために計画することが現実的に想定されると考えまして、対象犯罪としております。

 組織的犯罪集団がその組織の維持運営に必要となる資金を得るために計画することが想定される例といたしましては、例えば、組織的犯罪集団が海賊版のCDなど、こういったものを販売する、こういうことを計画することなどが考えられると考えております。

浜地委員 今も、海賊版のCDの販売等具体的な事例を引いていただきましたので、非常にわかりやすかったです。

 それと、もう一つ、最後に聞きます。

 墳墓発掘死体損壊罪、墓荒らしがテロなどと関連があるのかとたまに言う方がいらっしゃいますが、この墳墓発掘死体損壊罪はなぜ対象犯罪となっているのか、お聞きをします。

林政府参考人 この墳墓発掘死体損壊等については、これは墳墓を発掘して、死体、遺骨、遺髪、また棺におさめてある物を損壊し、遺棄し、または領得する罪でございます。

 この罪につきましては、組織的犯罪集団が組織の維持運営に必要となる資金を得るために墳墓発掘死体損壊等の実行を計画する例といたしまして、組織的犯罪集団が墳墓を盗掘いたしまして、その埋葬品等を領得するといったことを計画することが考えられます。

 また、一方で、この墳墓の発掘、破壊というものについては、海外等においてテロリズム集団がテロ行為として実際に実行する、この場合は破壊の方が実際には行われておりますけれども、そういったことを今後計画することも現実的に想定されると考えております。

浜地委員 この墳墓発掘死体損壊罪、墓荒らしがテロリストなのと言う方がいらっしゃいますが、実際、日本においても、仁徳天皇陵など歴史的価値のある墳墓はございますし、また、これはちょっと例が悪いかもしれませんが、昭和天皇がお眠りになっていらっしゃいます武蔵野陵にはさまざまな貴重な御遺品も一緒に埋葬されるというふうに聞いておりますので、日本でも現実に想定されるものであろうというふうに思っております。

 なぜ私が今、保安林窃盗、著作権違反、墳墓発掘死体損壊罪を引いたかというと、これは民進党さんが出されています「共謀罪、何が問題なのか」のパンフレットで、「こんなことまで「テロ対策」?」ということで列挙されているものを私は挙げました。実際、テロ対策じゃないというような論証がありましたけれども、ただいまの刑事局長のお話によって、非常に具体例も引いて御説明をいただきましたので、これは対象犯罪になる、リアリティーのあるお話であったというふうに私は思っております。

 次に、ではなぜ対象犯罪から外れたのかという点からお聞きをしたいと思っています。

 野党の推薦人の参考人の方だったと思いますけれども、例えば公職選挙法等が対象になっていない、これは権力の私物化だから除外したんだという指摘がありました。また、会社法や金融商品取引法などの特別法の経済事犯が対象とならない、これは、もともとTOC条約が経済事犯等も対象としているのにおかしいんじゃないかというふうな議論がございました。

 まず一点目の、選挙の関係で行きます。

 公職選挙法の多数人買収罪、いわゆる候補者が選挙民を買収する行為ですね。単純買収は四年以下でございますので対象になっていませんが、多数人を買収した場合には四年以上の刑が科されますけれども、公職選挙法の多数人買収罪がなぜ対象とならないのか、御説明をいただきます。

林政府参考人 委員御指摘の罪につきましては、まず、組織的犯罪集団によって、これがテロの実行に関する罪という形で実行されることは考えがたいわけでございます。また、我が国においては民主主義が確立しておりまして、組織的犯罪集団が選挙に介入し、これらの罪を実行した事例があるというふうには承知しておりません。

 こういったことから、組織的犯罪集団が実行を計画することが現実的に想定しがたいという観点から、対象犯罪としなかったものでございます。

浜地委員 では次に、いわゆる経済事犯です。

 具体的な例で言いますと、特別法上の収賄罪等は今回対象になっておりませんが、それはなぜなのか、お答えいただきたいと思っています。

林政府参考人 まず、例えば会社法の収賄罪でいきますと、主体がこの会社の発起人や取締役等に限られております。また、商品先物取引法の収賄罪では、商品取引所または商品先物取引協会の役員に主体が限られております。このようなことから、主体が構成要件の中で限定されております。

 また、その行為の態様などに照らしますれば、これらの規定で定められております会社の役員などが組織的犯罪集団の構成員となって、その組織的犯罪集団の団体の活動としてその犯罪を実行するための組織により各収賄罪の実行を計画する、こういった要件を満たすことの計画をすることを現実的には想定しがたいと考えたわけでございます。

浜地委員 公職選挙法の関係と、また特別法の収賄罪、経済事犯の事例を具体的にとりましたけれども、非常に具体的に説明をしていただきました。

 公職選挙法の方は、民主主義が発展している世の中で、全体を、何かテロ組織が指揮をして選挙に大きい影響を与える、また買収するとはなかなか考えにくいと思っておりますし、また、特別法上の収賄罪については、非常に主体が限定されているということの御説明がありましたので、大変説得力のある答弁だったと思っています。

 次に、話題をかえまして、捜査のことをお聞きしたいと思っています。

 今回のテロ等準備罪に限らず、捜査が適正に行われる、これは、国民の不安を取り除く上で重要であることは当然でございます。ですので、我が党としても、この点は厳しい姿勢でこれまで質疑に臨んでまいりました。我々の國重委員も、総理に対する質問の中で聞いた一番のポイントは、やはり、人権に配慮して適正な捜査を行えということで総理に答弁を求めたわけでございます。

 ただ、捜査といっても、この委員会ではよく捜査、捜査と言われますが、強制捜査と任意捜査においては個人の権利侵害の程度が異なりますから、これを同列で議論することは、刑事訴訟法のもう一方の大事な要請であります真実発見の見地から、私は適切でないと思っています。まして、捜査の端緒、要はきっかけにすぎない告発場面とも、私は、しっかり区別して考えるべきだと思っております。

 予算委員会でもこの告発のことが議論になっておりましたけれども、改めて、告発と、一般人が捜査の対象になるのかについて、整理をして刑事局長に答弁を求めたいと思います。

林政府参考人 まず、一般の方々という言葉、これは、使用される文脈によってその意味が異なると思います。

 この点について、一般の方々はテロ等準備罪の捜査の対象とならないという文脈におきましては、これについては、組織的犯罪集団とかかわりがない方々、言いかえれば、何らかの団体に属していない人、これはもとよりでございますが、通常の団体に属して通常の社会生活を行っている方々、こういった意味で用いているわけでございます。こういった意味における方々は、組織的犯罪集団にかかわりを持つことがないのはもちろん、かかわり合いを持っていると疑われるということも考えられないわけでございまして、テロ等準備罪の被疑者として捜査の対象となることはないと考えております。

 このように組織的犯罪集団への関与という要件を満たしていないような人、このような方についても告発がなされる場合があるじゃないかということの観点から申し上げますと、まずは、こういった意味での一般の方々を告発する、すなわち嫌疑がかかっていないような方を告発するという場合は、告発者の場合においては虚偽告訴罪で罰せられる可能性があるわけでございます。それでもなおそういった方々を告発しようとする者、これが存在するとは通常は想定されません。

 その上で、一方で、告発は、「何人でも、犯罪があると思料するときは、告発をすることができる。」とされているわけでございますが、そのような告発がなされた場合、その告発というのは捜査の端緒の一つと位置づけられております。

 告発によっても犯罪の嫌疑が生じない場合には被疑者として捜査の対象となることはないわけでございまして、一般の方々がテロ等準備罪の被疑者として捜査の対象となることはないと考えております。すなわち、仮に告発がなされたといたしましても、直ちに被告発人とされた者を被疑者として捜査を開始するわけではございません。まず、その告発内容の信憑性を吟味した上で、被告発人に嫌疑が認められないのであれば、その者に対する被疑者としての捜査を行うことはないわけでございます。

 そして、そのようなことから、形式的に被告発人とされることとテロ等準備罪の被疑者として捜査の対象となることは別の問題であると考えております。

浜地委員 詳しい説明をいただきまして、非常にすっきりいたしました。

 これは私の経験ですから、一般に行われているとは言いませんけれども、告発状の受理、物すごく難しいです。とてもじゃないけれども、簡単に告発状を持っていってそれが受理されるというのは、当然、刑事訴訟法の手続を踏めば行えますけれども、これは非常に難しいというふうに私は思っております。これは私の経験として今お話をさせていただきました。

 ですので、まさに先ほど刑事局長が言われたとおり、告発があっても、しっかりそれを吟味して、嫌疑が発生しなければ捜査の対象にはならないわけでございますので、そこは非常に私は重要なポイントだと思っています。

 捜査一般の話に戻しますけれども、大変基本的なことで恐縮ですが、刑事訴訟法の捜査の原則、特に任意捜査と強制捜査の考え方はどういった考え方が貫かれているのか、基本的なところを刑事局長にお答えいただきたいと思います。

林政府参考人 まず、強制捜査については、これは判例上、次のように解されております。「個人の意思を制圧し、身体、住居、財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為など、特別の根拠規定がなければ許容することが相当でない手段」、これによる捜査を意味するものとされております。任意捜査というのはこれに当たらない手段による捜査をいいます。

 刑事訴訟手続では、事案の真相を明らかにして、刑罰法令を適正かつ迅速に適用するという目的を達するに当たりまして、個人の基本的人権の保障に配慮することが刑事訴訟法上求められております。

 そこで、一般的に、その特定の捜査目的を達成するについては、強制捜査によらずに任意捜査によることが可能であると見込まれる場合には、対象者の権利利益の制約をより小さいものにとどめるという見地から任意捜査を選択すべきであると考えられております。これが任意捜査の原則というものでございます。

 そして、強制捜査は、個人の重大な権利利益に制約を加えるものでありますので、法律に特別の定めがある場合に限って行い得るわけでございます。これは強制処分の法定主義ということでございますけれども、こういったものに対して、一方で、基本的に個人の権利利益を制約するものとは言えない任意捜査にはそういった制限はございません。これについては、捜査の必要に応じて、手段の相当性の範囲で適切な手段をとり得るということになります。

浜地委員 詳しい御説明、ありがとうございました。

 やはり、私は、しっかりと任意捜査と強制捜査という適用場面を分けて、このテロ等準備罪と捜査の関係については話すべきだろうというふうに思っております。

 では、ここの国会でもよく議論のありました、任意捜査は実行準備行為前でも行えるんだという議論がございます。ただ、私は、これはテロ等準備罪の、犯罪の嫌疑がなければ任意捜査であっても行えませんので、実行準備行為の前に捜査が行えることと犯罪の嫌疑が生じること、この関係も踏まえて、実行準備行為前に任意捜査が行われることの論拠をお示しいただきたいと思います。

林政府参考人 まず、犯罪の捜査を開始するためには犯罪の嫌疑が必要でございます。この嫌疑というものは、犯罪行為が存在するという蓋然性のことをいいます。したがって、捜査開始以前に発生した過去の犯罪について認められる場合が通例でございます。

 しかし、捜査の対象につきまして、そうした過去に行われた犯罪だけでなくて、少なくとも犯罪が行われる蓋然性が高度に認められる場合、こういった場合の状況におきましては、将来行われる犯罪についての任意捜査も許容されると考えられております。例えば、現行法における犯罪につきましても、特定の場所で薬物の密売が繰り返されている、こういったことが判明している場合に、薬物の密売を現認して犯人を検挙するとともに証拠を確保する目的で張り込み捜査というものが行われることがございます。これは、その場面におければ犯罪の発生前ということになりますけれども、犯罪が発生する高度の蓋然性があると認められる場合においては、その嫌疑が認められ、任意捜査を行うことができることとされております。

 こういったように、個別具体的な事実関係のもとで、犯罪の嫌疑があって、捜査の必要性が認められる場合には、その手段の相当性が認められる範囲において任意捜査が許容されるものであろうと考えております。

 テロ等準備罪についていいますれば、組織的犯罪集団が関与する一定の重大な犯罪の計画行為、これが既に行われた嫌疑があるという状況のもとで、実行準備行為が行われていない段階でありましても、個別具体的な事実関係のもとでは、例えば、テロの計画が行われ、その実行準備行為がそれに引き続いて行われる蓋然性が高度に認められるような犯罪の嫌疑がある場合には、捜査の必要性があると認められる場合には、その手段の相当性の範囲で任意捜査を行うことが許されると考えておるわけであります。

浜地委員 今御説明いただきまして、非常に納得しました。

 今、答弁の中で、計画行為が既に行われた嫌疑があるのであれば、さらにこの実行準備行為が行われる高度な蓋然性があればというお話がございましたが、そうなると、計画行為の前には任意捜査は行うことはできますでしょうか。

林政府参考人 先ほど来申し上げていますように、テロ等準備罪についても、捜査を開始するためにはテロ等準備罪の嫌疑が必要でございます。具体的には、組織的犯罪集団が関与する犯罪、それから一定の重大な犯罪の計画行為、そしてその計画に基づく実行準備行為、この三つの要件について嫌疑がなければ捜査は行われないわけでございます。

 少なくとも、計画も行われていない段階におきましては、計画及び実行準備行為が行われる高度な蓋然性があるとは言えません。すなわち、実行準備行為は計画に基づく実行準備行為でございますので、その計画行為自体が行われていない場合に、その計画行為及び実行準備行為が行われる高度の蓋然性があるとは言えないわけでございますので、そういった意味で犯罪の嫌疑が発生することがなく、テロ等準備罪の捜査を計画も行われていない段階で開始することはできないと考えております。

浜地委員 では、この捜査の点についての最後に、任意捜査と強制捜査の区別ということを私は意識して話しましたので、逮捕や捜索、差し押さえ等の強制捜査は実行準備行為前に行うことはできますか。

林政府参考人 まず、刑事訴訟法百九十九条は、「被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるとき」に逮捕状により被疑者を逮捕することができるとしております。また、刑事訴訟規則百五十六条は、捜査機関が捜索、差し押さえのための令状を請求する場合、このときには、「被疑者又は被告人が罪を犯したと思料されるべき資料を提供しなければならない。」と定めております。したがいまして、現行法上、逮捕、また捜索、差し押さえにつきましても、罪を犯した場合にのみ行うことができるわけでございます。

 そのことを前提として令状請求をしなくてはならないということにおきまして、将来発生する犯罪を理由として逮捕、捜索、差し押さえなどの強制捜査はできないと考えております。

浜地委員 今、刑事局長より、強制捜査という性質からしても、実行準備行為前には強制捜査は行えないという明確な答弁をいただきました。

 最後に、テーマをかえて、証人等買収罪についてお聞きをしたいと思います。

 今回の改正案の七条の二項に証人等買収罪が規定をされておりますけれども、ここは大臣に、証人等買収罪を創設される意義についてお答えいただきたいと思います。

金田国務大臣 御質問にお答えをいたします。

 国際組織犯罪防止条約第二十三条の(a)というのは、締約国に対して、条約の対象となる犯罪に関する手続におきまして偽証をさせ、または証拠の提出等を妨害する目的で、暴行を加えたり、または脅迫、威嚇をする行為、あるいは不当な利益の約束、供与等をする行為を犯罪とすることを義務づけております。

 このうち、司法妨害の目的で暴行を加えたり、または脅迫、威嚇をすることにつきましては、既に強要罪により担保されておりますが、このような目的で不当な利益の約束、供与等をすることにつきましては、現行法上これを処罰し得る罰則がないことから、本法案によりまして、組織的犯罪処罰法の第七条の二として証人等買収罪を新設することによってこれを担保することとしたものであります。

浜地委員 しっかり司法妨害を防ぐ、その穴があればそれを塞ぐということが大事だろうというふうに思っております。

 もう時間がありませんので少し質問を飛ばしますけれども、この証人等買収罪については、以前の予算委員会を聞いておりまして、例えば、弁護人が証人になろうとしている者にお茶を出したり飯を食わせたりすると、これは報酬とみなされて、弁護活動が萎縮するみたいな、極めて私はこれはためにする議論だと思いますけれども、最後にこれをお聞きしたいと思います。そういった、何かお茶を供与したりすることが利益の供与に当たって、弁護人自身が証人等買収罪に当たることはありますかと、この意見について、最後に刑事局長にお答えいただきたいと思います。

林政府参考人 今回の証人等買収罪は、例えば偽証等をすることの報酬として金銭その他の利益を供与し、またはその申し込み、約束をした場合に成立するものでございます。したがいまして、こうした証人等買収罪が成立するためには、そうした偽証等をすることの報酬として金銭等が提供されることが必要でございまして、仮に弁護人が証人等に対して何らかの利益を提供したといたしましても、それがそういった偽証等をするについての報酬でない場合、本罪は成立しないわけでございます。

 さらに、そもそもこういった偽証等の行為は現行法上も偽証罪等の犯罪に当たり得るものでございまして、仮に、弁護人がこのような行為を行わせるために利益を供与した場合であって、実際にその供与を受けた者が現実にこれら偽証などの行為に及んだときは、このような弁護人の行為については現行法においても偽証教唆等で処罰され得ることでございます。

 こういったことから、このように証人等買収罪を新設すること、これは弁護人による正当な弁護活動としての証人等への働きかけを処罰するものではなく、本罪を設けることによって新しく弁護人の活動に萎縮的な効果が生じるというものではないと考えております。

浜地委員 弁護人の弁護活動に萎縮効果を生じるものじゃないという答弁をいただきました。

 きょうは、TOC条約は予備罪では足りないし、また現行法では当然足りないということもはっきりさせていただきました。五月二日に岸田外務大臣がUNODCの事務局まで訪れて、今の日本の取り組みに対する評価や、そういったものも確認をさせていただきました。捜査についても、細かい論点も話をさせていただきましたので、私は、きょうは非常に充実した審議ができました。皆様に感謝を申し上げます。

 以上で終わります。

鈴木委員長 次に、山尾志桜里君。

山尾委員 民進党の山尾志桜里です。

 九時からの質疑、自民党の皆さんも公明党の議員も、充実した審議ということで大変御満足の様子ですので、私も、主に金田大臣と充実した審議をしたいなというふうに心から願っております。

 まず、大臣にお伺いします。

 五月八日の予算委員会を思い出していただきたいんです。逢坂委員が、今回のこの共謀罪、成立した暁に、告発を受けた場合、この場合には、その告発を受けた人に嫌疑が実際にあるのかどうか、どうやって調べるのですかというような御質問をされました。そのときに大臣は、その被告発人に嫌疑が実際にあるのかどうかは検討して決めるんだ、こういうふうにおっしゃったんですけれども、それは覚えていらっしゃいますか。そのとおりでよろしいですか。

金田国務大臣 ただいまの質問には、そのとおりだと考えております。

山尾委員 一方、今度は盛山副大臣にお伺いをいたします。

 盛山副大臣は、四月二十一日の法務委員会で、私たちからすると、盛山副大臣が唯一誠意ある答弁をされたなと思っている忘れがたい日ですけれども、これもまた、一般の方が調査あるいは捜査の対象になるのかという議論の中で、そのまま引きます、こういう御発言をされているので、思い出していただければ結構なのですけれども、こういうふうにおっしゃっています。

 嫌疑というものが生じた段階で刑事訴訟法上の手続上の捜査をいたします、ですから、それまでのものはいわゆる刑事訴訟手続上の捜査ではございません。情報の収集、調査ということにすぎないものと我々は考えております、そういう点で、一般の方が実際の調査の対象になるということも大変限られているし、ましてや、その次の、刑事訴訟法上の捜査ということになることも限られていると我々は考えているところでございます。

 こういうふうにおっしゃいましたよね。うなずいていらっしゃいます。

 私がここでまず問いたいのは、大臣に問いたいんですけれども、嫌疑があるかどうかを調べる警察活動、すなわち、嫌疑の嫌疑、この段階における警察の活動というのが、金田大臣の言葉をかりると検討なんですね。盛山副大臣の言葉で言うと調査とおっしゃっているんですけれども、これはどちらが正しいというのがあれば、お答えください。

金田国務大臣 私は、嫌疑の有無を検討する、このように考えて申し上げております。

山尾委員 検討という言葉が適切である、こういう法務大臣の言葉でありました。

 では、調査という言葉は不適切なのですか。

盛山副大臣 趣旨としては同じでございます。検討という言葉がより適切であれば、検討という言葉にかえていただければと思います。

山尾委員 私は、検討、調査、趣旨としては捜査の前段階だ、こういうことが言いたいんだというふうに今のところ受けとめます。どちらがだめということは今の段階では明らかではないんだろうなというふうに思います。

 この検討、調査の、私が聞きたいのは手法についてなんですね。告発であろうがなかろうが、やはり嫌疑の嫌疑が生じた段階で、これが重大犯罪の嫌疑の嫌疑であればあるほど、当然、警察には、本当に嫌疑があるのかという検討、調査を行ってもらわなければ困ります。

 金田大臣にお伺いします。

 この嫌疑の嫌疑段階における検討、調査の手段として、警察が尾行するというのは合法的にあり得ることですか、それともないんでしょうか。そのことについて御存じですか。

金田国務大臣 御指摘の御質問につきましては、非常に技術的な側面がございます。したがいまして、できましたら、刑事局長からお答えをさせていただきたいと思います。

山尾委員 これから先ちょっとこの手法については話を進めていきますので、では、最初の、尾行についてだけお答えください。

 この尾行というやり方が、検討、調査の段階で合法的にやれる場合があり得るのか、一切ないのかということについて、大臣がこれを明確に答弁するほど御存じないということであれば、これ以降についても局長にお伺いしたいと思います。

 大臣、このことについて明確に答弁できるほど御存じでないのかどうか、その点お伺いをします。

金田国務大臣 ただいまの御指摘につきましては、私の方から申し上げますれば、実務の詳細にわたる部分でありますので、正確を期するため刑事局長に答弁をさせていただきたいと思います。

山尾委員 正確に答える自信がないということでありますので、刑事局長……(金田国務大臣「自信がないとは言っていない」と呼ぶ)自信がないとは言っていない。自信がありますか。自信があるならどうぞお答えください。

 私は、これは、申しわけないけれども非常に細目的、技術的な事項だとは思いませんよ。捜査の後か前かで、要するに嫌疑があるかどうか、大臣の言葉をかりれば一般市民であるかどうかが決まる大事な分水嶺、これが捜査と調査であります。

 この調査の段階で、いわゆる尾行というのが可能性としてあるんですかないんですかというような質問ですので、これは自信があるのであればどうぞお答えください。

鈴木委員長 先ほど答弁されましたから、どうぞ続けてください。(山尾委員「委員長」と呼ぶ)

 山尾志桜里君。

山尾委員 武士の情けということで、刑事局長にお伺いをさせていただきたいと思います。

 刑事局長、もう一度お伺いします。

 嫌疑の嫌疑段階で、尾行というやり方、これは合法的にできる場合があり得るんですか。

林政府参考人 嫌疑の嫌疑という言葉は余り、直接理解できませんが、嫌疑が発生する前、生じていない段階での尾行による捜査ということは、それは捜査であって、まだ捜査が開始されておりませんので、できないということでございます。

山尾委員 改めてお伺いしますが、そうすると、嫌疑が生じる前には、警察が行う尾行は一〇〇%違法だ、そういうことですか。

林政府参考人 刑事訴訟法上の捜査として、尾行というものも任意捜査ということになるかと思いますけれども、刑事訴訟法上の任意捜査、尾行捜査というのは、犯罪があると思料したとき、嫌疑が生じたときでなければそういった任意捜査はできないということになっております。

山尾委員 これは大事なところなので。私は、任意捜査としての尾行ということを必ずしも聞いておりません。嫌疑の嫌疑が生じた段階で、要するに、嫌疑が生じていないから捜査ができないということは皆さんの理屈どおりですね。一切、警察が尾行を行うことはない。もし、嫌疑が生じる前に、嫌疑が確定する前に警察がこれまで尾行を行ったことがあるとしたら、それは全て違法だ、そういうことでよろしいですか。

林政府参考人 捜査というのは、犯人を特定し、また証拠を収集する活動でございます。そういったものとして尾行捜査をするということについては、それは、犯罪の嫌疑がないにもかかわらずそういった捜査をすることはできないということでございます。

山尾委員 私の質問に直接お答えいただいていないんですけれども。

 そうしますと、嫌疑が固まる前の段階で、例えば告発があって、まだ嫌疑があるというところまで確定できない段階で警察が尾行を行うとしたら、それは、これまであり得た場合も含めて一〇〇%違法だ、そういうことですか。

林政府参考人 また繰り返しになりますけれども、刑事訴訟法上での捜査というものとして、嫌疑が生じていないにもかかわらずそういった捜査をすることは許されていないと考えております。

山尾委員 捜査としての尾行を必ずしも聞いておりません。嫌疑が生じる前に尾行を行うということは、警察の活動として一〇〇%違法だというふうにおっしゃっているんですか、違いますか。

林政府参考人 捜査との関係で私はお答えしていますので、捜査としての尾行捜査というものは、刑事訴訟法の考え方からしたらできないということを申し上げております。

山尾委員 せっかく、刑事局長に聞けというので刑事局長に聞いているんですから、私の質問を聞いていてください。

 私は最初に、捜査の話とは違う、嫌疑が生じる前の検討あるいは調査、このことについてお伺いするとかなり明確に、皆さんにわかるように議論をしているはずですよ。刑事局長に聞いても議論がかみ合わないんだったら、何のためにそこにいらっしゃるんですか。

 捜査としての尾行を聞いていません。警察が捜査の前段階で、あらゆる目的があり得るでしょう、尾行するということは一〇〇%違法なんですか。

林政府参考人 御質問の前提で、まず、尾行が捜査である場合、捜査としての尾行が許されるのかという御質問でありましたので、私はそのようにまず答えました。(山尾委員「聞いていないよ、そんなこと」と呼ぶ)

 その上で、それでは、捜査でない尾行というものは許されるのかと言われましたが、その場合の尾行というものが、警察がどのような目的で行う尾行であるのかというものが特定されない限り、私としてはお答えすることはできません。(発言する者あり)

山尾委員 全くそのとおりじゃないんですよ。

 刑事局長、私は捜査としての尾行を聞いていないと何回繰り返したんですか。それにもかかわらず、全く趣旨を違えた答弁で時間を浪費しないでいただきたいんです。

 今の答弁をかりると、捜査ではない尾行というものがあり得るのかどうかは、それは個別具体的な事情による、そういうことですか。

林政府参考人 警察活動の中での、例えば行政警察活動について、具体的なものについて、私がそれが違法かどうかということを仮に答えるためには、それがどういった目的で、どのような尾行を指しているのか、そういうことを明示していただけなければ、まずは答えることが困難であります。

 それから、実際にそういう行政活動、警察活動としてどの範囲が許されるのかということについて、私は刑事局長として所管しているものではございませんので、それについてはお答えすることは困難だと思います。

 例えば、同じ尾行につきましても、いろいろな人を保護するために追跡しているとか、いろいろ目的によって全くそれに対する評価というものは異なるわけでございますので、だから、私が言えるのは、刑事訴訟法上の捜査として犯罪の嫌疑が生ずる前にそれを行うのは、それは許されないということを申し上げているわけであります。

山尾委員 刑事局長も結局基本的な事項について答えられなかったら、私たちは一体誰に質問したらいいんでしょうか。

 刑事局長、私が今聞いたのは、捜査としての尾行ではありませんし、そして、許される範囲を今の段階で聞いてもいません。捜査に当たらない尾行というものが可能性としてあり得るんですかという質問をしているだけです。そのことについても答えられないのであれば、答えられない、議論が進まないですね。

 では、そのほかの、三役でも結構ですよ。捜査ではない尾行というものが警察の活動として合法的にあり得るのか否か、どなたかお答えできる方はいらっしゃいますか。

井野大臣政務官 大変恐縮ですけれども、警察はぜひ公安の方に聞いていただければと思います。我々は所管外でございます。

山尾委員 結局、この共謀罪の問題で、これだけ捜査手法が問題になり、一般市民は捜査の対象にならないと大臣は引き続き言い募っていらっしゃいます。そのときに、捜査というものが何で、では捜査の前段階の調査というものが何であるか、それも答えられる人がこの法務委員会は一人もいないのに、一般人は捜査の対象にならない、こういうことを主張だけされるんですか。

 私が聞きたいのは、捜査の対象にならないと言いながら調査や検討の対象になるのであれば、捜査と、調査や検討というものの分水嶺がどこにあるのか、それをお伺いしなければ、一般市民が捜査の対象にならないと言われても、検討、調査の対象になるということとあわせて考えたときに、一般市民を安心させる議論にならないから、こういうことを申し上げております。

 もう一度お伺いをします。

 その一つの手法として、誰でも尾行されるというのは嫌だけれども、もし社会の安全、安心のためにどうしても必要なら許容される限界というのもあるんだろう、そういう常識的な考えの中で、嫌疑の嫌疑段階、この場合において、警察が尾行をするということが一〇〇%違法なのか、それともそれは社会の安全のために許される場合があり得るのか。そのことについて、誰でもいいです、お答えください。

林政府参考人 告発を受けて、被疑者としての嫌疑が生ずる前の、例えば、先ほどの調査とか検討とかいう言葉、その段階について、尾行が許されるのか、こういうふうに言われましても、尾行の調査というのは、まずは、犯人を特定したりするための尾行の捜査ということであれば、それは許されないわけであります。

 今回、被疑者段階で、嫌疑がないような形でも告発がなされる場合があったとしたときにどのように事件を処理するのかと言われれば、それは、直ちに被告発人を被疑者として捜査を開始するわけではなくて、例えば、告発人から告発の事情というものを聞きます。あるいは、告発人からいろいろな疎明資料というものもさらに要求して、何ゆえにこの人を告発しているのかということを調査いたします。それを調査と言ってもいいし、あるいは検討と言ってもいいんでしょうけれども。そういったことについて、嫌疑が生じるかどうかを判断するわけでございます。

 それに加えて、さらに尾行をするかどうかということは、捜査としてはしませんということを申し上げております。

 では、被疑者としての嫌疑があるのかないかというのを調査する方法として尾行という手段を通じた場合にそれが違法かどうか、捜査以外の尾行があるとして、それが違法かどうかと言われましても、それについては、どのような目的で警察が尾行をしているのかということが確定されない限り、お答えすることはできないということを言っておるわけです。

山尾委員 今のでよくわかってまいりました。

 私が聞いているのは、捜査に至る前の尾行というのがあり得るのかどうか。結局、それに対する刑事局長のお答えは、捜査としての尾行というのはあり得ない、そしてまた、こういった場合には当然告発した人から事情を聞く、あるいは疎明資料を受ける、それに加えて、尾行するかどうかというのは一概には言えない、目的によりけりであるというようなお答えでございましたね。土屋理事も大きくうなずいていらっしゃいます。

 これは、私はそうなんだろうというふうに思いますよ。もし違うというのであれば、検討や調査としての尾行というのは一〇〇%違法である、こういうふうにお答えになればいいですけれども、何度聞いてもそういうふうにはお答えにならない。捜査としての尾行はあり得ない、そして、いろいろな、ほかのやり方に合わせて尾行するかどうかというのは、これは一概には言えない、目的によりけりだ、私にはそれは答えられない、そういうことでありますので、結局、こういった調査、検討の段階での尾行というのは、どう聞いても、目的によりけり、個別具体的な事情、そして、一〇〇%ないかというと、それはないというお答えはない、こういうことだと思います。

 そういうふうに考えていくと、ちょっと時間が少ないので、張り込みとか聞き込みとか、こういうものについては、捜査の前については、大臣、今尾行についてはそういうことでありましたけれども、似た、類似の手段、張り込み、聞き込み、こういったものについては、捜査前としてはどういうことになるとお考えでしょうか。

金田国務大臣 ただいまの御指摘に対しましては、先ほど刑事局長から答弁申し上げたとおりでありまして、警察活動の具体的な内容、あるいはそれがどのような目的でなされるものであるかということについては、私の法務大臣としての所管を超えるものではございます。したがって、そのお答えをすべき立場にはないものと考えております。

山尾委員 私は、お答えをすべき立場に法務大臣はおありになるというふうに思いますよ。なぜなら、刑事局長もあそこまでは答弁されているんですから。

 もう一度聞きます。

 捜査の前の調査あるいは検討という段階で、聞き込みあるいは張り込み、こういったものがあり得るのか、あり得ないのか、どちらですか。

林政府参考人 犯罪の嫌疑がない場合に、捜査が開始していない段階で、聞き込みあるいは張り込み、こういうことは捜査としてはできません。

 このことは、もちろん警察においても同様でございます。警察が、犯罪の嫌疑がないにもかかわらず、犯人であるかどうか、そういうことを確定するため、あるいは嫌疑があるかないかを確定するため、あるいはその証拠を確保するため、こういった捜査活動として張り込みあるいは尾行、こういったことを行うこと、それは許されていないことは警察においても同様でございます。

山尾委員 尾行のときと同じ趣旨のお答えですね。捜査の前に張り込みや聞き込みがあり得るんですかと。それに対して局長は、捜査としての張り込み、聞き込みはできません、そしてまた、できるかどうかは、個別具体的、目的による、一概には言えない、そういうことですよね。

 私、それを虚心坦懐に聞いていますよ。でも、私は、検討や調査として張り込みや聞き込みがあり得ますか、あり得ませんかとたびたび聞いているのに、捜査としてはあり得ない、こういうふうにお答えをしているということは、これは、検討や調査としての張り込みや聞き込みの可能性の有無について刑事局長が答弁を逃げているというふうに捉えるのが私は自然だと思います。

 刑事局長、もう一度だけ聞きますね。検討や調査として警察が張り込みや聞き込みをするということはあり得ないんですか、あり得るんですか。

林政府参考人 告発をどのように事件処理するのかは刑事手続の一プロセスであります。その過程において、犯罪の嫌疑が生じていないにもかかわらず、張り込みあるいは尾行とか、そういった捜査をすることは許されておりません。

 その刑事手続の外側で、およそ一般に警察がどのような張り込みあるいは尾行をするか、そういったことまで視野を広げて、それが全てどのような場合に許されるのか許されないのか、これについては私はお答えすることはできません。

 しかし、刑事手続を処理する中で警察がどこまでのことができるのかということは明確にお答えします。それが犯罪の嫌疑が生ずる前にそういった尾行の捜査というようなことはできませんということを申し上げております。(山尾委員「おかしい。捜査を聞いているんじゃない」と呼ぶ)

鈴木委員長 速記をとめてください。

    〔速記中止〕

鈴木委員長 速記を起こしてください。

 山尾志桜里君。

山尾委員 この捜査の前段階、嫌疑が生じる前、嫌疑の嫌疑という段階における警察活動、それを調査あるいは検討と呼ぶようですけれども、その中において、尾行、張り込み、聞き込み、こういったものがあり得るのかどうかということについて、刑事局長は捜査としてはない、そしてまた、検討、調査としてあり得るかどうかということ、これは、ほかからの、告発人からの事情聴取だとかあるいは疎明資料を受けるだとかいうこととあわせて尾行等があり得るのかどうかということは、目的によるので一概には言えない、もうこの答弁で結構です。

 つまり、捜査としてはやらないけれども、その前段階の調査、検討としての尾行、聞き込み、張り込み、こういったものがあり得るのかどうかは一概に言えない、その警察活動の目的によるのだ、そういうことだと思います。私もそうだというふうに思います。そして、実際されているというふうに思いますね。

 私が申し上げたいのは、こういった、いかに一般市民が捜査の対象にはならないと言っても、結局調査や検討の対象にはなるのではないかということなんですが、この点は法務大臣、いかがですか。

金田国務大臣 ただいまの山尾委員の御指摘に対しましては、テロ等準備罪の捜査ということをまず申し上げますと、他の多くのひそかに行われる犯罪の場合と同様の方法で、捜査の端緒を得て、必要かつ適正な捜査を尽くすことになるわけでありまして、ですから、他の多くのこれまでの犯罪の場合と同様の方法で行うことを超えるものではないわけであります。

 ということを申し上げた上で、今言われました、一般の方々の不安というものをやはりしっかりと、不安を持ったり、するのかしないのかというこの事案について、この改正法案について判断をしていただかなければいけない、我々はそういうふうに思っていますから、何度も申し上げてまいりました、一般の方々というのは、我々は申し上げています、テロ等準備罪の被疑者として一般の方々が捜査の対象となることはないんだということを申し上げています。

 そもそも、一般の方々という言葉、これは使用される文脈によってその意味は異なるかもしれませんが、一般の方々というのはテロ等準備罪の捜査の対象とならないという、私たちが申し上げている文脈においては、組織的犯罪集団とかかわりのない方々、我々は組織的犯罪集団という明文上限定をしっかり入れた法案をつくりました。それとかかわりのない方々、言いかえれば、何らかの団体に属しない人はもちろんのこと、通常の団体に属して、通常の社会生活を送っておられる方々という意味で用いているわけでありまして、その組織的犯罪集団の要件を設けましたことで一般の方々にはこの嫌疑が生じることはなくなった、このように御理解をいただければ一番よろしいのではないか、このように考えております。

山尾委員 一般の方々は調査の対象にはなるんですか。

鈴木委員長 林刑事局長。(山尾委員「大臣、大臣ですよ、これは。これは大臣ですよ。なぜですか。なぜ、なぜですか。では、委員長、なぜこれが細目的、技術的事項なのか答えてください。なぜですか。一般人が調査の対象になるかならないかが、なぜ細目的、技術的事項なんですか」と呼ぶ)

 議事整理の中です。(山尾委員「おかしいですよ。一般の方々がなぜ調査の対象に、調査の対象になるのかならないのか、これは細目的、技術的事項じゃない。大臣。細目的、技術的事項じゃない。大臣です。大臣、そこをしゃべらない限り……。大臣、しゃべるならどうぞ、みずから手を挙げて。大臣でしょう。おかしいでしょう」と呼ぶ)

 今指名しましたから、その後で大臣に聞きます。

林政府参考人 まず、お答えします。

 告発があった場合の案件の処理……(山尾委員「一般の方々が調査の対象になるかならないかが、どうして刑事局長の答弁事項なんですか。おかしいでしょう、委員長。委員長、これはおかしいよ、こんなのおかしい」と呼ぶ)

鈴木委員長 次に大臣に行きますから。

林政府参考人 告発があった場合の案件の処理というものは人に対して行っているわけではございません。その告発について、案件について調査するといっても、その調査が、被告発人が対象となっているわけではなくて、告発案件について、それが嫌疑が生じているのではないか、この告発が疎明資料が十分であるかどうか、そういったことを調査するというものについては、その対象はその告発の案件でございます。

山尾委員 委員長、おかしい。こんなのおかしいですよ。しかも、私が聞いている質問に全然かみ合っていないじゃないですか。一般の方々は調査の対象にはなるんですか、こういう至極シンプルな質問です。調査の定義だってちゃんと質問の冒頭に丁寧にやったでしょう。こんなのおかしいよ。時計をとめてくださいよ。

金田国務大臣 ただいま刑事局長から申し上げたことにつけ加えさせていただきますが、事件について嫌疑が認められるか否かを検討するのであって、一般の方々が検討の対象になるものではありません。

山尾委員 まず、委員長、なぜ今の、一般の方々が調査の対象になりますかというシンプルな、大変基本的な、そして大臣の答弁から出てくる素朴な疑問が細目的、技術的事項として刑事局長の答弁事項となるんですか。理由を説明してください。

鈴木委員長 一般の方々というと、使われる文脈でまるで違いますので、それについて全般的な答弁はできませんので、その部分について、細かいところを林刑事局長に聞きました。(山尾委員「いや、おかしいでしょう」と呼ぶ)

 時計をとめてください。

    〔速記中止〕

鈴木委員長 速記を起こしてください。

 金田法務大臣。

金田国務大臣 その事件について嫌疑が認められるか否かということを検討するのでありますから、一般の方々がその検討の対象とはならないということを申し上げたとおりであります。

山尾委員 そうすると、大臣、もしかして、一般の方々が捜査の対象にならないとおっしゃってきた大臣の言葉の意味は、捜査の対象というのはあくまでも被疑事実というか事件であって人間ではない、そういう意味合いですか。

金田国務大臣 お答えをいたします。

 一般の方々という言葉には、定まった定義があるわけではありません。使用される文脈によってその意味は異なると思いますが、我々は、一般の方々がテロ等準備罪の捜査の対象とはならないという文脈、これにおきましては、組織的犯罪集団とかかわりがない方々という意味で用いております。

 言葉を言いかえれば、何らかの団体に属していない、そういう人はもちろんのこと、通常の団体に属し、通常の社会生活を送っている方々ということでありまして、このような方々は、組織的犯罪集団、すなわち一定の重大な犯罪等を目的としているテロリズム集団、暴力団、薬物密売組織等とは無縁の生活を送っておられると考えられますので、組織的犯罪集団にかかわり合いを持つことがないのはもちろんのこと、かかわり合いを持っていると疑われることも考えられないのであります。

 したがって、一般の方々がテロ等準備罪の被疑者として捜査の対象となることはない、このように考えているわけであります。

山尾委員 これは、三十回ぐらい聞いているブロックなんですね、答弁ブロック。私が聞いていることとは全くかみ合っていないんですね。後ろの方も、ちゃんとかみ合ったメモを出してくださいよ。

 もう一回聞きますよ。丁寧に聞いていますよ、最初から。

 調査や検討をした結果、嫌疑の嫌疑はあったんだけれども、調査や検討をしたので、実際には嫌疑はなかった、こういうことがあり得るわけですよね、大臣や副大臣の今までの理屈で言うと。嫌疑の嫌疑はあったけれども、調査や検討をしたら嫌疑はなかった、こういう人たちは一般の方々なんですか、そうではないんですか、どちらですか。

鈴木委員長 速記をとめてください。

    〔速記中止〕

鈴木委員長 速記を起こしてください。

 金田法務大臣。

金田国務大臣 告発は事件についてなされるものであります。したがって、嫌疑が認められるか否かを検討するものであります。一般の方々について嫌疑が認められることはあり得ないわけでございますから、検討の対象とはならないということを申し上げております。

山尾委員 もう一回だけ聞きますね。いいですか。

 嫌疑の嫌疑という段階で捜査をすることはない、そして、その段階の警察の活動は、検討というのが適切だけれども、調査といってもいいのかもしれない、ここまで最初に確定しましたよね。確定しましたよね。

 その結果、嫌疑があるのかないのか、あれば、刑事訴訟法上の手続の捜査に向かっていく、そしてもちろん、嫌疑がなかったという場合があり得る。当然、これが理屈の流れですよね。

 私が聞いているのは大変基本的なことです。嫌疑の嫌疑はあるんだけれども嫌疑があるという段階にまでは至っていない、そしてこの間を埋めるものは、当然、捜査ではないということでありますから検討あるいは調査であります。それを経て、実際に、尾行とか張り込みと聞き込みとか、そういうことも目的、場合によってはあり得るかもしれない、捜査としてはない、でも、そういった調査、検討を経て、実際は嫌疑はなかった。この人たちは、では、一般の方々だと私は思いますよ、大臣の考えはどうですか。大臣の考えはどうですか。

鈴木委員長 速記をとめてください。

    〔速記中止〕

鈴木委員長 速記を起こしてください。

 金田法務大臣。

金田国務大臣 申し上げたくはないんですが、山尾委員に……(山尾委員「申し上げたくないんですか」と呼ぶ)いやいや、申し上げますが、山尾委員に、通告の段階で、こういう丁寧な通告をいただいてはおりませんでした。したがって、今いろいろな議論の流れをしっかり受けとめてお答えをしたいと思う面において時間がかかりますことをお許しいただきたいということをまず申し上げておきます。

 嫌疑があると認められるかどうかを検討するという前提に立った場合に、一般の方々について、嫌疑が認められることはあり得ないということを申し上げてまいりました。ですから、嫌疑があると認められるかという検討の対象とはなるわけはありません。

山尾委員 大臣、御自身のおっしゃっていることの矛盾に気づいておられるのかどうかわかりませんが、盛山副大臣はうなずいていらっしゃいましたよ。

 だって、嫌疑の嫌疑がかけられた人と、嫌疑がかけられた人が、では、つまり一〇〇%一致をする、同じ範囲だ、こういうことをおっしゃっているんですか。違うでしょう。

 嫌疑の嫌疑がかけられるという人がいて、でも、実際に本当にその嫌疑というところまで至っているのかどうかを調べるのが検討、調査なんですよね。もし今の大臣の答弁を受けとめるなら、検討や調査、こういった警察の活動は不必要ということになります。大臣、どうぞ合理的な説明をなさってください。大臣の答弁についての説明ですので、どうぞなさってください。

金田国務大臣 先ほど申し上げたように、一般の方々について嫌疑が認められることはあり得ないということは何度も申し上げてまいりました。嫌疑があると認められるということについての検討の対象とはなりません。

 そして、基本的なことを申し上げれば、ただいま申し上げたとおり、今まで申し上げてきたとおりでありますが、これ以上の、捜査の前の実務についても局長の方から答弁をさせていただきたいと思います。

林政府参考人 まず、議論の出発点といたしまして、通常の人、通常の団体に属して通常の社会生活を行っている人、こういう組織的犯罪集団にかかわりのない人には嫌疑が生じないというところから始まっているわけであります。

 しかしながら、何人も告発ができるということで、そういう人について告発がなされた場合にどうなるのかということが問われておると思います。

 その場合にも、本来であれば、虚偽告訴というものもありますので、通常、そういった嫌疑のない人を告発することは考えられないわけでございますが、それでも告発がなされ、受理された場合には、その事案を処理するわけであります。

 その場合の事案の処理は、被告発人となったというだけで被疑者としての捜査は開始されませんということをずっと申し上げておりました。そういったことで被疑者として捜査の対象となることはない、こう申し上げておりました。被告発人として名指しされてしまった人が、この告発を事件処理するときに、御案内のとおり、これはもう全く嫌疑なしという形で処理されることになると思います。最終的にその嫌疑なしで処理されるまでの間に、その名指しされた人が被疑者として捜査の対象となることはございません。

 では、どのような調査、検討をするのかという例を先ほど少し挙げましたのは、例えば、告発人にもう少し事情を聞く、あるいは告発人から疎明資料を求めるとか、そういったことは行うでしょう、こう申し上げました。これを調査あるいは検討と言うのであれば、では、そのときに、被告発人として名前が挙がった人がその調査、検討の対象となったと言えるのかどうか。

 それは、言うかどうかは、その調査とか検討というものをどういうふうに捉えるかということによると思います。必ずその人が調査の対象となったということを私どもは言うつもりはございません。少なくとも、告発の案件を処理する、被告発人としてそのような一般の方が告発されてしまって、形式的に名前が掲げられているけれども、そういったものとしての告発案件を処理するということであります。その処理するための調査であり検討であるということであります。

山尾委員 つまり、呼び方として、自分たちは調査の対象となるというふうには言うか言わないかは、それは評価による、判断による、こんなようなお話でありました。

 これは念のため聞いておきたいんですけれども、今の概念における調査や検討の中で、例えば、事業者側が、任意に協力を得られるときに、口座の内容なんかを開示いただくということは、これはあり得るんですか。一切ないということでよろしいんですか。

林政府参考人 嫌疑が生じていないわけでございますので、そういった捜査としての関係照会というのはございません。

山尾委員 また逃げましたね。捜査として聞くことはないと。私が聞いているのは、ずっと、調査、検討として聞くことは一切ないんですかということです。

林政府参考人 告発という案件を処理する、これは刑事手続の一プロセスでございます。このプロセスにおいて、犯罪の嫌疑がない段階で、捜査関係事項照会であり、先ほどの尾行であり、そういったことをすることはありません。それはできません。

山尾委員 私は何度も聞いています。捜査関係事項照会としてあるのかないのか、捜査としてやるのかどうかということを一切聞いておりません。調査や検討の過程で、だって、別に文書を通じないで、実際に事業者側に問い合わせるということはありますね。そういったものが、検討、調査として一〇〇%ないのか。それとも、場合によっては、必要性があれば、任意の協力が得られればやる場合があるのか、そういうことを聞いているだけです。

林政府参考人 告発案件という刑事手続の事案の処理のために、そのために、それを捜査として、捜査は開始されていないので捜査としてはできません。その処理のために、では捜査でなく調査ができるのか、それもできません。なぜならば、その事案の処理、刑事手続の事案の処理のためにそういった権限を行使することはできないということで言っています。

山尾委員 結局、捜査として、捜査のためにやることはできないということをずっと繰り返し続けているわけですね。

 私、一つ指摘をしておきますけれども、捜査関係事項照会というものの中には、被疑事実名を明示する必要もなければ、被疑者名を明示する必要もありません。嫌疑が固まった段階からやるものだというふうにおっしゃるのかもしれませんけれども、その嫌疑がいかなる疎明資料等によって固まっているのかということも一切添付をする必要もありません。ただ捜査のために必要がある、そのことを一言、一行印刷の文字がありまして、その下に大きな空欄があって、こういうものを下さい、こう書くだけであります。当然、担当の警察署、担当官の名前は書く欄があり、押印もあるでしょう。だけれども、一切、具体的な被疑事実や嫌疑の中身、宛名についても書く必要がありません。

 そういうものの中で捜査関係事項照会というのがあり、そしてまた、口頭でこういったものを問い合わせることも違法ではなく、そしてまた、平成十一年から十三年にかけては、この捜査関係事項がいわゆる濫用に当たるとされた事例が多発をして、そして、数々の警察署の内部の通達で、こういったものはもっと適切にきちっと使用しなさい、こういうような通達が出された、こういう状況であります。

 私が危惧をしているのは、尾行、聞き込み、張り込み、ここら辺については一概には言えない、こんな話でありました。そしてまた、捜査でないという以上、検討、調査であるという以上、捜査関係事項照会を使ってこういった照会をするということはこの場ではおっしゃらないでしょう。でも、そうであれば、なぜそういったものを口頭でやるということが認められているんですか。そして、なぜこの書面には被疑事実を特定することも必要とされていないんですか。私は、ちょっとおかしいというふうに思いますよ。

 現実的に、ずっと刑事局長は、捜査のためにやることはない、捜査手続、対応のプロセスの中でやることはない、こういうふうにおっしゃっておりましたけれども、その意味するところはどういう意味でおっしゃっているんですか。

林政府参考人 嫌疑が生じていない場合には捜査が開始されないので、捜査としてなされることがありません。

 もう一つ加えれば、では、嫌疑が生じている前に、調査として、調査としてそういった尾行であるとかいろいろな、通常、任意捜査と言われるようなことができるのかといったら、それも、刑事手続の事案の処理のためにそのようなことをすることは、もちろんできません。

山尾委員 事案の処理のためにできることはありませんとおっしゃるのであれば、どういうとき、場合であればできるんですか。

林政府参考人 事案の処理というのは、告発を受けて、嫌疑があるかないか、嫌疑がない人が仮に告発を受けた場合に、あるいはそれが虚偽告訴に当たるような告発じゃないかどうか、こういったことを調べるということについては、捜査がまだ始まっておりません。それは事案の処理のためにやりますけれども、それ以外に、さらに尾行であるとかいろいろな捜査関係事項照会が、捜査が開始されていないにもかかわらず、その刑事手続、告発がなされたということを契機として、その人の何らかの嫌疑があるかないかというようなことを確かめるためにそのような調査を行うことはできません。こういうふうに申し上げております。

山尾委員 最初の刑事局長の答弁は、一概には言えない、その警察活動の目的による、こういう話でありました。そしてまた、三、四十分たつと、だんだん答弁が変わってくるということですね。

 ちょっと、大臣は答えられないし、局長の答弁は四十分の間に移り行くということであると、私としては、何を基礎にこうやって議論を続けていけばいいのか。どれだけ時間を重ねても、議論が建設的に前に進まないということを本当に大変危惧するわけですけれども。

 大臣、花見と下見の事例、大臣おっしゃいましたね、テロ計画の嫌疑が生じて、そしてまた下見に行くんじゃないか、こういう疑いがある場合に、それが花見であるのか、下見であるのか、それは例えば持ち物によると。ビールと弁当を持っていれば花見、双眼鏡と地図を持っていれば下見。

 では、そうやってその人が何を持っているかということはどういう活動によって把握するんですか。

金田国務大臣 山尾委員はただいま実行準備行為についてお聞きになったと受けとめて、お答えをしたいと思います。

 テロ等準備罪におきます実行準備行為は、計画に基づいて行われる、計画した犯罪を実行するための準備行為であります。したがって、ある行為が実行準備行為に該当するかどうかというのは、まずもって、計画に基づく行為であるかどうかにより判断されることになります。

 そして、指摘に即して、テロ等……(山尾委員「聞いてないよ、そこは。時間稼ぎはやめてください、もったいない」と呼ぶ)時間稼ぎではありません。テロ等準備罪で起訴された被告人が例えば公園等に赴いていたという例で考えた場合、御指摘のそういうケースになろうかと思います。しかし、その場合に、例えば組織的な殺人の計画が行われた後、その計画において、犯行場所や逃走経路等を想定されて下見の必要性が認められる場所に、ほかに特段の理由もないのに赴いたとすれば、それは下見行為である可能性が高いと言える一方で、それが計画と無関係な場所なのであれば実行準備行為であるとは言えないということになろうかと思います。

 要するに、計画に基づく行為と認められるかどうかの判断ということが重要になってくるわけであります。

 その上で、ある行為が実行準備行為に当たるか否かの判断に当たりましては、行為の目的だという主観面についても捜査や認定の対象とはなりますが、その際には、一般的な犯罪における犯意、いわゆる目的犯の目的の認定などと同様に、客観的証拠あるいは供述の裏づけ証拠の有無、内容が重視されるものと考えております。したがって、地図等を携行し、地図に書き込みをしたり、計画された犯罪の遂行上意味のある場所の写真を撮ったりしながら歩くなどの外形的な事情が認められる場合には、実行準備行為と認定できることとなろう。

 しかしながら、一般論として申し上げれば、証拠上、下見目的であったことが明らかとならなければ、証拠上明らかとならなければ実行準備行為とは認められないこととなる、そういう理解で申し上げたのがまさに花見のケースの例であったということであります。(山尾委員「全く質問に答えていない。どうやって持ち物を把握するのかという質問」と呼ぶ)

井野大臣政務官 基本的には捜査のあり方についてであるかと思うんですけれども、私が思いついた、どうやってわかるのかということですと、怪しい動きをしていたら、警察官職務執行法に基づくいわゆる職務質問というものですか、そういったことを通じながら、その所持品でどういう活動をしているか、そういう下見行為をしているのかどうなのかということを調べていくのかなというふうに思います。

山尾委員 今政務官がおっしゃったのは、捜査としてではなくて、行政警察活動、警察官職務執行法に基づく警察活動をおっしゃっているので、ちょっと違うというふうに思いますね、答弁していただいたのは大臣よりいいかと思いますけれども。

 大臣、結局、これは嫌疑が生じているかで言えば、捜査と言っていいんでしょう。

鈴木委員長 山尾君、時間が参っております。

山尾委員 そういうときに、実際に、例えば任意でちょっと見せてくださいと言って見せれば、それはそれで見ることができるわけですね。

 では、大臣に聞きますね。

鈴木委員長 山尾君、時間が参っております。

山尾委員 これは、ビールと弁当しか持っていなくて結局ただの花見だった、こういう方は、大臣の定義でいうと一般の方々なんですか、そうじゃないんですか。

金田国務大臣 御指摘のようなケースについては、個別具体的に検討していく必要があると思います。

山尾委員 大臣、自分の今まで言ってきたロジックをしっかり思い出してくださいよ。嫌疑がかかる人は一般人ではない、一般の方々ではない、こういうふうにおっしゃってきたでしょう。そうですよね、嫌疑がかかれば一般の市民ではないと。

 今の例は、嫌疑がかかって、実際に持っているものを把握したら花見だった、ビールと弁当だった、こういう方は、大臣のロジックでいえば嫌疑が一旦かかって、そしてそれが晴れた人ですから一般の市民ではない、こういうことになるんでしょう。そうじゃなかったら、大臣、今までの御自身がおっしゃってきたことが全部自己矛盾になりますけれども、いいんですか。

金田国務大臣 ただいまの山尾委員の御指摘は、実行準備行為として認められるかどうかという判断を私は申し上げているつもりでありまして、それを超えた御質問だと思います。

山尾委員 議論にならないんですよね。本当に議論にならないんですよね。積み上げた議論が全部意味がなくなっちゃうんですよね。

 時間だということですが、私は大変不本意ですよ。委員長は時計をとめるべきときにとめないし、そしてまた、全くすれ違いの答弁でもそのまま時間は過ぎていく。法務委員会がこういう場であったことが、昔あったのか知りませんけれども、私はちょっと、本当に不本意ですね。

 きょう質問させていただいて明らかになったのは、結局、嫌疑が生じる前は、捜査ではないが調査、検討というものが行われる。そしてまた、調査、検討というものの対象には、大臣のロジックでいうと、一般の方々というものは当然入るんでしょうね。そして、そこで嫌疑がないということになればそれは終わるけれども、嫌疑があれば捜査対象になっていく。そして、実際に捜査の対象になって、では花見なのか下見なのか。持っているものを見てみて、実際は花見だった。こういう場合も、一旦嫌疑が生じてしまった以上はこの人は一般の方々ではない。

 こういうことになっていくと、私が申し上げたいのは、一般の市民は捜査の対象にならないから安心してくださいというのは全く砂上の楼閣で、フィクションなんですよね。フィクションをもって、やはり偽りの安心の土台の上でこういった二百七十七を超える刑罰法規を議論する、こういう姿勢そのものに問題があるから、私はもっと予備も含めて細かい論点をたくさん準備してまいりましたが、ここで終わってしまうんです。

 そして、きょうわかったことは、議論を進めれば進めるほど論点がふえる。結局、一般の市民は捜査の対象にならないなんという詭弁を続けるから、いつまでたってもこの論点を深掘りしなきゃならないし、そうしたら、嫌疑の嫌疑段階はどうなんだという新たな論点が出てくる。もう少し誠意を持って、デメリットはデメリットがあるという前提の上で議論をしていただきたいというふうに思います。

 国交の方には、きょう、本当に、航空法案の大事なお話をそれこそ充実した議論でやらせていただきたかったんですけれども、こういう状況で、せっかくお時間をとっていただいたのに、質問の機会まで至らなかったことをおわび申し上げて、私からのきょうの質問とさせていただきます。

鈴木委員長 次に、逢坂誠二君。

逢坂委員 民進党の逢坂誠二でございます。

 まず、大臣、けさの段階でちょっと急遽通告をさせていただきましたけれども、この件について見解をお伺いいたします。

 昨日十三時三十五分ころ、羽田空港国際線ターミナル上陸審査事務室において上陸審査中の手続にあったインドネシア人男性、三十歳代、一人が、手続未了の状態であったにもかかわらず、上陸審査ブースをすり抜けて本邦に不法上陸をするという事案が生じたというふうに承知しておりますけれども、今、水際対策であるとかテロ対策であるとかいろいろ言われている中でこういう事案が生ずるというのは、極めて遺憾なことだというふうに思います。

 大臣、この件について、概要の説明と大臣の見解をお願いいたします。

金田国務大臣 逢坂委員のただいまの御質問にお答えをいたします。

 昨日、羽田空港において、別室で上陸審査手続中であったインドネシア人が上陸許可を受けずに審査ブースをすり抜けて逃亡するという事案が発生したとの報告を受けております。

 この事実関係に対しまして、このインドネシア人は、けさ入国管理局に出頭をし、身柄を確保いたしましたが、厳格な水際対策が求められている中にあってこのような事案が発生したことは遺憾でありまして、再発防止を徹底するように入国管理局に指示をいたしております。

 以上が、ただいまの御質問に対する私の答弁であります。

逢坂委員 大臣、これは、共謀罪の議論をいろいろしていますけれども、テロ対策を考える上で水際というのは非常に大事なことであります。

 今回のことについては二つの問題があるんですよ。一つは、まず、入国審査の段階でこれは何かおかしいなと思って、別室へ連れていってそこで再度の審査をしようとしていた、ところが、そこで待っている間にそこから出てしまったということ、これが一つの問題です。それからもう一つの問題は、今回のインドネシアの方は、入国審査をしているその係官の目の前、そこを堂々と通って出ていっているということなんですよ。それは、どうも事情を聞きますと、具体的に確認しなければなりませんけれども、余りにも堂々と通っていったものですから、周りの人も気がつかなかったと。こんな体制になっているというのは、これはどう見ても、私は、気が緩んでいるとしか思えない。

 国会で今テロ対策だ共謀罪だと議論しているにもかかわらず、大臣、これはがっちりと対策、対応を講じていただきたいし、単純に遺憾であるなどというものではないというふうに私は思いますので、大臣、これはがっちり肝に銘じてやっていただきたいと思います。

 以上。これは、私のきょうの質問の時間が足りないものですから。

 それでは次に、きょうは警察庁からも来ていただいておりますが、警察庁にお伺いします。

 警察の中には公安部門というのがあると承知をしておりますけれども、公安部門の仕事について、概略、説明いただけますでしょうか。

白川政府参考人 お答えいたします。

 御質問のいわゆる公安部門は、公共の安全と秩序を維持することを目的として行われる国の公安または利益に係る犯罪等の取り締まりや、これらに関しまして、公共の安全と秩序を維持するために必要な情報収集等を任務としております。

 具体例を申し上げれば、極左暴力集団、右翼等に関する違法行為の取り締まりと情報収集、対日有害活動に関する違法行為の取り締まりと情報収集等が挙げられるところでございます。

逢坂委員 重ねて警察庁にお伺いしますが、公共の安全と秩序の維持ということで公安部門がさまざま活動しているということでありますけれども、そこには、具体的な犯罪、事件、そういうものがない場合であっても、公共の安全と秩序の維持の観点から必要があると認めれば、何らかの捜査活動あるいは情報収集活動を行うということでよろしいでしょうか。

白川政府参考人 お答えいたします。

 警察におきましては、公共の安全と秩序の維持の観点からさまざまな情報収集を行っておるところでございます。また、具体的な嫌疑等があれば、それは刑事訴訟法に基づいて捜査等されることになろうかと思います。

逢坂委員 必ずしも私の質問に正確に答えていただいていないんですが、具体的な事件、事故、そういうものがない場合であっても、現在の公共の安全と秩序の維持の観点から何らか必要があると認めれば、公安部門として情報収集の活動を行ったりするんですかということを私は聞いているんです。

白川政府参考人 繰り返しで恐縮でございますが、公共の安全と秩序の維持の観点から、必要な範囲内でさまざまな情報収集は行っております。

逢坂委員 ということは、事件、事故がありなしにかかわらず必要なことをやるというふうに私は理解せざるを得ないのでありますけれども、それでよろしいですか。うなずいてもいただけませんし、首を横にも振ってもいただけないんですが、いかがですか。もう一度御答弁ください。

白川政府参考人 ただいま御答弁申し上げましたとおり、具体的な嫌疑があれば捜査等を行うことになりますけれども、警察におきましては、公共の安全と秩序の維持の観点から必要な警察活動は行っております。

逢坂委員 これ以上やっても時間の無駄のようにも思いますけれども。

 そこで、今回の共謀罪でありますけれども、この共謀罪法案について、これが公安部門の情報収集の対象になるかどうかということはいろいろ議論のあるところでしょうが、もし今回の共謀罪法案による組織的犯罪集団の疑いがあるようなものが、先ほどの、公共の安全、秩序、こうしたものに抵触するおそれがある、それで、公安部門として何らか必要があるんだという判断をした場合には、今回のこの組織的犯罪集団もしくは組織的犯罪集団のおそれがあるものに対しても何らかの情報収集活動を行ってもこれは違法ではないという理解でよろしいでしょうか。

白川政府参考人 私ども、組織的犯罪集団に当たるかどうかという観点での情報収集というよりは、今御答弁申し上げましたとおり、公共の安全と秩序の維持の観点から必要な範囲で警察活動を行うことはあるということでございます。

逢坂委員 繰り返しますけれども、公共の安全と秩序維持の観点から必要があれば、それは、組織的犯罪集団もしくは組織的犯罪集団と思われるようなものについても何らかの情報収集活動をしても違法ではない、必要があってやることであるからそれは違法ではないという理解でよろしいですね。

白川政府参考人 お答えいたします。

 公共の安全と秩序の維持の観点から警察は活動をいたします。

 その際におきましては、もとより、手段については、特別の法律等がない限り、任意的な手段でございまして、その際、必要性であるとか相当性であるとか妥当性であるとか、こういったことを考慮いたしまして情報収集は行うものとされております。

逢坂委員 私、ここで無理に決めつけるつもりはないのでありますけれども、公安部門においては、具体的な事件、事故がない場合であっても、公共の安全と秩序維持の観点から必要があると思えば情報収集活動をしているということだと思います。

 加えて、今回、共謀罪という新たな犯罪の類型ができる、そのことによって犯罪の範囲が広がっていくわけですね。その際に、まさに公共の安全と秩序維持の観点から必要があると思えば、組織的犯罪集団もしくは組織的犯罪集団かもしれないという団体についてもさまざま情報収集活動を行うことは公安部門としては可能だというふうに整理をさせていただきたいと思いますが、よろしいですね。

白川政府参考人 私ども警察におきます情報収集活動におきましては、特定の団体が今後創設されるであろう組織的犯罪集団という定義に当たるかどうかという観点での調査ではございませんで、私どもは、公共の安全と秩序の維持の観点から必要な情報収集を行うという姿勢でございます。

逢坂委員 要するに、あくまでも公共の安全と秩序維持の観点と。でも、これに対する必要が出てくれば、団体に限らず、それは情報収集を行うということに理解をいたしましたけれども、よろしいですね。うなずいていただければ。

白川政府参考人 繰り返しでございますが、公共の安全と秩序の維持の観点から、警察は必要な範囲で活動を行うということで御理解いただければと思います。

逢坂委員 要するに、対象にならないということは否定できないということでありますので。

 これまでいろいろ議論になっていましたのは公安部門以外の警察の捜査ということで、この問題、いろいろ議論になっておりましたけれども、公安部門としても当然、公共の安全と秩序の維持の観点から課題がある、必要があると思えば、私は、情報収集や捜査の対象になっていくんだろうというふうに思っています。

 公安部門というのは国家にとっては非常に大事なものだというふうに思いますので、私は、それは頭から否定されるということではないというふうには思っておりますけれども、こういうところについて、国民の皆様にも十分やはり理解をしていただきたいなというふうに思うところであります。

 警察庁については、これ以上きょうは、もうあと時間がありませんので、これで質問を終わりたいと思いますので、どうぞ。もしお急ぎでしたら、お引き取りいただいても構いません。

 それから次に、これは非常に基本的なことなんですけれども、これは大臣にお伺いしたいんですが、今回、二百七十七もの共謀罪を新設するという法案でありますけれども、これは日本の刑法体系の私は大転換だというふうに思うんですが、大転換だという認識はお持ちでしょうか。どうも答弁を聞いていると、そうでもないのかなという気がするわけでありますけれども、私は大転換だと思うんですが、いかがでしょうか。

金田国務大臣 逢坂委員にお答えをいたします。

 我が国の刑事法における処罰対象として、我が国の刑事法においては、現実に法益侵害の結果が発生した場合はもとより、いまだそのような結果が発生していなくても、その危険性のある一定の行為について未遂犯等として処罰することとしておりますほか、特に重大な犯罪や取り締まりの必要がある犯罪につきましては、予備罪あるいは共謀罪といった、実行の着手前の行為をも処罰することとしているわけであります。

 そして、テロ等準備罪の処罰対象でございますが、テロ等準備罪は、全ての犯罪の計画行為を広く一般的に処罰するものではなくて、組織的犯罪集団が関与する一定の重大な犯罪の計画行為に加えて実行準備行為が行われた場合に限って処罰の対象とするものでありますし、このように、組織的犯罪集団が関与をし、一定の重大な犯罪の計画行為に加えて実行準備行為が行われた場合には、その計画された犯罪が実行される可能性が高い上に、一たび実行されると重大な結果や莫大な不正利益が生ずることが多く、特に悪質で違法性が高く、未然防止の必要性が高いことから、実行の着手前の段階であっても処罰する必要性が高い、このように認められるものでありまして、ただいまの御指摘は当たらないものと考えております。

逢坂委員 すなわち、大臣の説明は、今回の共謀罪法案、これが成立しても日本の刑法体系の大転換ではないんだという説明であります。うなずいておりますので、そのとおりなんだろうと思いますけれども。

 ただ、その要件として、組織的犯罪集団がかかわるかどうかというところが一つの大きな要件で、全ての人が対象になるわけではないんだから大転換ではないんだということも事務方から聞かせていただきました。

 でも、大臣、私は、だからこそ我々は、いわゆる大臣の言うところの組織的犯罪集団にかかわりのない方々、この方々が、今回のこの共謀罪法案が成立した場合に、捜査や調査やあるいは検討、それらの対象になるのかどうかというところを、やはり重きを置かざるを得ないんですよ。

 組織的犯罪集団がかかわる、だからこれは刑法体系の大転換では必ずしもないというふうに判断をしていると皆さんは思っているのかもしれないけれども、国民から見ると、やはり大臣が言うところの組織的犯罪集団にかかわりのない方々も、もし疑義がある場合に何らかの調査や検討の対象になるということであるならば、やはり私は、これは刑法体系の大転換である、だからこそ我々は一般の方々というところにこだわっているんだということを申し上げて、時間が来ましたので終わりたいと思います。

鈴木委員長 午後一時から委員会を再開することとし、この際、休憩いたします。

    午後零時四分休憩

     ――――◇―――――

    午後一時一分開議

鈴木委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。

 質疑を続行いたします。階猛君。

階委員 民進党の階猛です。

 先日は、本会議場で一時間余り演説をさせていただきました。原稿は半分ぐらいしかできていなくて、残りの半分は自分の言葉でいろいろな思いを伝えさせていただきました。しかし、物が言える社会というのは本当にありがたいものだということも、改めて実感しました。

 翻って、金田大臣、ずっとこの委員会の答弁も、後ろの方から入れ知恵してもらったり、あるいは横の人がおっしゃったことを繰り返したり、こういう答弁の仕方で、御自身の言葉は全く使われない、御自身の言葉で語られない。私は、非常に残念であるし、大臣として、本当に、言論の自由を守るという法務大臣としての責任もあると思うんですが、こういう答弁のあり方でいいのかなと思うんですけれども、大臣、御自身の言葉で答弁していただけないでしょうか。まずお尋ねします。

金田国務大臣 階委員からの御指摘であります。

 私は、この法務委員会にかかる重要な課題について、自分としては誠心誠意、誠実に答弁を重ねているつもりであります。そのための努力も一生懸命やっているつもりであります。御理解いただければ幸いです。

階委員 誠心誠意やっていただくとともに、やはりここは政治家同士の議論の場ですから、後ろに控えておられる優秀な検察官出身の官僚の力に頼らずに、御自身の言葉で答えていただきたいと思います。

 また、きょうは大変暑いので私もネクタイを外してクールビズでございますけれども、法務省の皆さんは、なぜか夏でもマスクをされている。花粉症の時期でもないだろうし、またインフルエンザの時期でもないだろうし、なぜ二人ともマスクをしていらっしゃるのか。私は、うがった見方かもしれませんけれども、あたかも口の動きを画面に撮られたくないのではないか、そういうふうに思わざるを得ないわけです。私は、そこまでして後ろから入れ知恵をしてもらうというのも、また大臣として残念なことだなということを申し上げます。

 そこで、本題に入りますけれども、現行法、予備罪が三十七、準備罪が八、共謀罪が十三、陰謀罪が八、合計六十六個の罪があるわけです。そこで、予備罪の共謀共同正犯、午前中も議論がありましたけれども、この予備罪の共謀共同正犯を用いることによってTOC条約の合意罪の要件を私は満たすことができるのではないかと考えております。

 そうではないという趣旨の質問あるいは答弁もございましたけれども、先ほどの午前中の答弁の中で、これは外務省の政府参考人からだったでしょうか、条約上の文言で言いますと、お手元の資料の一枚目に書かせていただいていますけれども、五条の一の(a)の(1)のところであります。その下から二行目ぐらいに、「当該合意の内容を推進するための行為」云々とありますけれども、この推進、いわゆる推進行為の意味について、午前中の答弁では、未遂に至らない何らかの行為という答弁もありました。

 未遂に至らない何らかの行為ということであれば、予備や準備の行為も含むと思いますけれども、含むのかどうか。まず、副大臣、御答弁をお願いします。

岸副大臣 階委員にお答えを申し上げたいと思います。

 まず、本条約第五条の1の(a)の(1)には、重要な犯罪の実行の合意そのものを処罰の対象とした上で、国内法上求められる場合には、合意の内容を推進するための行為を伴うという要件を国内法における重大な犯罪の合意罪に付すことを認めているところであります。

 他方で、共謀共同正犯は、共謀に加わった者の一部が犯罪を実行した場合にその他の者も正犯として処罰可能とする考え方であって、予備罪の共謀共同正犯が成立するためには、共謀に基づいて予備行為が行われる必要があると考えております。

 しかしながら、予備行為の概念について、裁判例に見られる、客観的に相当の危険性の認められる程度の準備が整えられた場合といった考え方を前提とすれば、そのような危険性の認められる程度の準備がなければ処罰できないということになりまして、さきに述べたような、第五条の趣旨に反するおそれが高いものと考えておるところでございます。

 政府としては、予備罪の共謀共同正犯が我が国の現行法で認められていることをもって本条約を締結することは、憲法九十八条第二項が規定する条約の誠実履行義務に反して、許されないもの、このように考えているところでございます。

階委員 私は、午前中の今野先生だったでしょうか、そちらで外務省の参考人が答弁されたので、同じことを聞いても芸がないので、答弁を踏まえて聞いているんです。順を追って聞いていきますから、聞かれたことに答えてください。

 私が聞いているのは、推進行為は未遂に至らない何らかの行為という答弁があったことを踏まえて、未遂に至らない何らかの行為ということであれば、予備とか準備の行為は含むんじゃないかというごく当たり前のことを聞いているつもりでございますけれども、確認でございますが、それはそれでよろしいですか。

岸副大臣 予備行為では、当たらないということでございます。

階委員 先ほどの答弁は、未遂に至らない何らかの行為ですよ。ですから、未遂に至る前の行為ですから、予備とか準備も当然含まれるんじゃないですか。矛盾していますよ。

岸副大臣 予備行為の概念につきましては、先ほど申しました裁判例に見られますように、客観的に相当の危険性の認められる程度の準備が整えられた場合といった考え方を前提にしているわけでございます。そのような危険性の認められる程度の準備がなければ処罰できないということになるわけでございます。

階委員 いや、そういう話をしているんじゃないんです。

 午前中の答弁は、推進行為は未遂に至らない何らかの行為だと言ったわけですね。推進行為は予備行為ではありませんとは言っていませんよ。だから、未遂に至らない何らかの行為ということであれば、未遂の手前の予備とか準備も当然入るんじゃないですかと、これは当たり前のことを聞いているので、悩まなくて結構ですよ。答えてください。その先に本質的な議論が始まるんですから。

 とめてください。

鈴木委員長 速記をとめてください。

    〔速記中止〕

鈴木委員長 速記を起こしてください。

 岸外務副大臣。

岸副大臣 先ほど申しましたように、予備行為ではこの合意罪を、処罰することはできないということであります。

階委員 先ほどの答弁が、私は非常に重要なことを言ったと思っているので、確認までに聞いているんですよ。

 推進行為について、先ほど今野委員に対する質問の答えで、未遂に至らない何らかの行為というお話がありました。そうすると、概念として未遂の手前に予備とか準備があるわけだから、それは当然、未遂に至らないということで含む、それでいいじゃないですか。何でそこをこだわって変な答えになるのか、よくわからない。明確に答えてください。

 ちょっととめてください、時間をかけていいですから。

鈴木委員長 速記をとめてください。

    〔速記中止〕

鈴木委員長 速記を起こしてください。

 岸外務副大臣。

岸副大臣 改めて御答弁申し上げます。

 あくまでも、これは重大な犯罪の合意を罪とすることが目的でございます。その上で、重大な犯罪の実行の合意そのものを処罰の対象とした上で、合意の内容を推進するための行為という要件を国内法における重大な犯罪の合意罪に付すことを認めたということであります。(階委員「だから、答えていません。ちょっと、答えていないですよ、今」と呼ぶ)

鈴木委員長 階猛君、別の角度からお願いします。(階委員「いや、別の角度って。明確ですよ」と呼ぶ)階猛君。

階委員 副大臣、別に私はここを勝負どころにしていませんから。勝負どころに進ませてほしいんですよ。

 だから、推進行為は未遂に至らない何らかの行為ということですから、日本語として、未遂に至らないと言ったら、陰謀、共謀だけじゃなくて、予備、準備、当然入るじゃないですか。そこだけ確認したいんです。日本語の問題だと思いますよ。(発言する者あり)

鈴木委員長 速記をとめてください。

    〔速記中止〕

鈴木委員長 速記を起こしてください。

 岸外務副大臣。

岸副大臣 御答弁申し上げます。

 先ほどの推進するための行為は、条約上、未遂に至らないというところでございますけれども、ただ、その中で、あくまでもこれは重大な犯罪の合意を処罰するための条約でございますので、その予備行為の以前のところということであります。

階委員 つまり、未遂に至らない何らかの行為という答弁は、これはこれで正しい答弁だということでよろしいわけですね。

 それを踏まえた上で、なぜ、では、予備は入らないということを最後、結論としてはおっしゃいましたけれども、未遂に至らない行為の中で、でも予備とか準備は除きますよ、このロジックですね、ここを聞きたいんですよ。次の質問です。お願いします。

岸副大臣 推進するための行為という言葉自体には含まれるように思われるかもしれませんけれども、あくまで、条約の趣旨が、先ほど申しました犯罪の合意を罪とするということですから、そこから離れないようにしなければいけないわけですから、予備行為をもって推進行為とすることはできないということであります。

階委員 つまり、犯罪の合意を処罰するというのが本質であって、幾ら構成要件に準備行為を加えたとしても、犯罪の合意を処罰するというのがTOC条約で求められていること。つまり、今回の、政府の言うところのテロ等準備罪は、テロ等準備罪ということで準備行為が加わりましたと言っていますけれども、その本質、実態は、合意を処罰するもの、共謀を処罰するもの、こういう帰結になると思いますが、大臣、それでよろしいですか。

金田国務大臣 ただいまの質問にお答えいたしますが、実行準備行為を伴う合意、計画を対象とするものであります、このたびのテロ等準備罪。

階委員 私は、外務省の答弁とちょっと食い違いがあるような気がします。外務省は、合意を処罰するということにこだわりを持たれている。法務大臣は、実行準備行為を伴う合意を処罰するということで、実行準備行為にこだわられている。どちらが本質なんでしょうか。これは、両省で見解は統一されていますでしょうか。法務大臣、どちらが正しいんですか。

金田国務大臣 お答えします。

 いわゆるTOC条約は、重大な犯罪の合意を処罰することを求めているのですから、テロ等準備罪は対象犯罪を行うことの合意を処罰するものではないか、こういうふうにお考えの部分はおありかと思います。

 テロ等準備罪というのは、TOC条約第五条1の(a)の(1)により求められている重大な犯罪の合意を犯罪化するものであります。もっとも、テロ等準備罪は、条約上認められているオプションを採用して厳格な要件を設けておりまして、対象犯罪を行う合意のみで処罰するものではなくて、組織的犯罪集団が関与する別表第四に掲げられております犯罪の実行を計画し、その計画した犯罪を実行するための準備行為が行われたときに処罰の対象とするものであります。

階委員 合意を処罰するけれども、実行準備行為が行われた場合に処罰の対象とする、これがよくわからないんですよ。

 合意は処罰対象にはならない、そういうことを法務大臣はおっしゃっているんですか。

金田国務大臣 先ほど申し上げたと思いますが、合意のみで処罰するものではなくと申し上げたつもりであります。

階委員 そこで、外務副大臣にお話は戻るわけですけれども、要するに、合意を処罰するかどうかというのを外務副大臣としてはこの条約を満たすかどうかのメルクマールにしているわけですけれども、法務大臣は、合意だけで処罰しなくてもいい、合意プラス準備行為ということを言われるわけですね。

 私は、それであれば、合意プラス準備行為のところを、合意プラス予備行為、あるいは法律上で言うところの準備行為、ここに置きかえてもなおこの条約は担保できるんじゃないかと思うんですけれども。従来からの答弁だと、予備だと何か要件が厳しくてだめなんだみたいな、厳格過ぎるとか言っていますけれども、私は、厳格なことがまさに我々の言論の自由を守る上で非常に重要なポイントだと思っています。

 先ほど浜地委員が引用された三無事件の判決で、予備として処罰されるためにはということで、客観的に相当の危険性が認められなくてはいけないとか云々かんぬんという話の後に、この高裁判決の原判決が、言論等表現の自由に関する憲法上の保障の枠を逸脱したかどうかについて判断しているということも言われていました。

 つまり、この高裁判決の原判決というのは、言論の自由の保障ということも十分加味した上で、先ほどの予備罪の考え方、予備罪が処罰の対象になる場合の基準というのを打ち立てているわけですね。

 だから、私は、やはりこういう法律をつくるに当たって、単に必要性だけではなくて、許容性、すなわち言論の自由が守られるかという観点も考えた場合に、合意プラス準備行為でよしとするならば、合意プラス予備行為、これの方がなおよしだと思うんですね。

 なぜ合意プラス予備行為ではだめなのかというところが、厳格過ぎるからだめだと言われても、私はぴんとこないです。厳格過ぎてなぜだめなんですか、お答えください。

岸副大臣 先ほどから申しておりますけれども、本条約の第五条で、重大な犯罪の実行の合意そのものを処罰の対象としているわけでございます。その上で、合意の内容を推進するための行為という要件を国内法における重大な犯罪の合意罪に付すことを認めているということであります。これは条約の文言でございますので、先ほどからそのとおり申し上げているところでございます。

階委員 いや、だから、私の問題意識は、その付すことができるという部分を、推進行為としかこの条約には書いていないわけですね。予備行為はだめだとか、準備行為、準備行為というのは刑法上の準備行為ではだめだというふうには書いていないわけですよ。なぜ、推進行為というのを狭く解して、予備行為とか刑法上の準備行為は外すというふうにしなくちゃいけないのか。

 私は、むしろ、言論の自由とかを守る観点からいうと、合意プラス予備あるいは刑法上の準備、これでもって条約を担保するという考え方の方がベターではないかと思うんですが、どうですか。

岸副大臣 先ほども申しましたけれども、重大な犯罪の実行の合意そのものを処罰の対象とした上で、国内法上求められる場合に、いわゆる合意の内容を推進するための行為を伴うという要件を国内法における重大な犯罪の合意罪に付すことを認めているのがこの条約のオプションでございます。

 その上で、予備行為の概念については、先ほどから繰り返しになりますけれども、客観的に相当の危険性の認められる程度の準備が整えられた場合といった考え方を前提とすれば、予備行為の概念が、客観的に相当の危険性を認められる程度の準備が整えられた場合といった考え方を前提とすれば、そのような危険性の認められる程度の準備がなければ処罰ができないということになるわけです。

 そうしますと、合意を罪とするこの条約の趣旨から考えますと、本条約五条の趣旨に反するおそれが高いということで考えるところでございます。

階委員 そこは政策判断でそのようにされているのか、あるいは、この文言の解釈として、推進行為には予備とか刑法の準備は入らないというふうになっているのか、そこだけでも明らかにしてもらえませんか。政策判断であえて予備とかは外している、外しているというより、共謀プラス予備、合意プラス予備ではだめだというふうにしているのかどうか、これをお答えください。

岸副大臣 これは政策判断ではなくて、条約の求めるところ、すなわち合意を罪とするというところからしますと、趣旨に反するおそれが高い、こういうことであります。

階委員 そうはいっても、合意を処罰するといいながら、今回は、準備行為なる概念を新たにつくって、合意プラス準備行為で初めて処罰されるというところまで前進してきたわけですね。だから、ほとんど、現行法でいえば、予備罪、準備罪の行為を求めているのと変わらないぐらいまで来ていると思うんですよ。

 だから、私は、そうであれば、三無事件の判決が、まさに言論の自由の保障ということも考えてああいう厳格な要件を付して、予測可能性を高めているわけですね。不意打ちの処罰というものを防いでいる。だから、私は、今回の法案でも、予備罪という現行法上の概念を活用しつつ、かつ、判例上確立されている共謀共同正犯という概念を活用すれば、新たに犯罪類型を設けて、合意プラス準備行為などといった不明確で判例も解釈も確立していないものを持ち出すよりもよっぽどいいんじゃないかと思うわけです。

 ここは、私は、条約上アプリオリに、論理必然的に、推進行為は予備罪、準備罪はだめですということではないと思うんですね。どうですか。政策判断ではないと言いましたけれども、本当に条約上そうは読めないですか。

岸副大臣 予備行為は国内法上の概念でございます。

 ですから、条約については、合意の内容を推進するための行為を付すことができるというのがこの条約でございますけれども、罪とするのはあくまでも、合意自体を犯罪とする、こういうことであります。

 その内容については裁判例も踏まえて解釈をされているところではありますけれども、これを前提としますと、予備罪まで入れると、条約の解釈としてはこれを満たしていないというふうに言わざるを得ないんだと思います。

階委員 なぜここにこだわるかというと、我々の方で、この共謀罪法案にかわる案として、現行法の組織犯罪処罰法に二つの犯罪類型について予備罪を設ける、その予備罪を設ければ必然的に共謀共同正犯の処罰ということも可能になるということで、皆さんも、合意だけではなくて準備行為を求めて初めて処罰するという立場に立たれるわけだから、そうであれば、予備罪の範囲を必要に応じて少しふやすことによっても同じ効果が得られるのではないかということで、こういう議論をさせていただきました。

 なぜ予備罪ではだめかという議論をさんざんしましたけれども、今の説明では私は腑に落ちないので、また議事録も精査させていただいて、この点については詰めさせていただきたいと思います。

 それから、かねがね私が問題にしていることのうち、捜査の開始時期です。嫌疑が生じれば捜査はできるということを大臣はおっしゃってきましたけれども、犯罪の嫌疑というのは犯罪成立前でも生じ得るのかどうか、法務大臣にお尋ねします。

金田国務大臣 犯罪の嫌疑は犯罪の成立前においても生じ得るのかというお尋ねでございます。

 嫌疑が認められますのは、捜査開始以前に成立をしました過去の犯罪についてであることが通例であります。

 もっとも、例えば特定の場所で薬物の密売が繰り返されていることが判明した場合に、薬物の密売を現認して犯人を検挙するとともに証拠を確保する目的で張り込み捜査を行うような活動、あるいは、すりやひったくり、痴漢といったような、犯人検挙と証拠収集を目的として、その種の犯罪が多発する時間帯、地域に捜査員を派遣して行うような要撃捜査を行う活動など、その対象が発生の蓋然性が高度に認められる将来の犯罪である場合にも、嫌疑が認められる場合があり得るわけであります。そういうふうに、発生の高度の蓋然性がある場合というのもある、このように考えている次第であります。

階委員 四月二十一日に、私の質問に対する答弁のときは、テロ等準備罪についても、嫌疑があると認めた場合に初めて捜査を開始できるということをおっしゃられていました。そして、きょう、先ほど刑事局長の答弁では、犯罪成立前は嫌疑は生じないという答弁もありました。

 嫌疑は成立前でも生じる、したがって、テロ等準備罪についても犯罪成立前から嫌疑が生じるから捜査を開始できる、こういうことになるんですか。私は、嫌疑が生じるのは、成立前は生じないという刑事局長の言っていることが正しいと思うんですが、今の答弁は、犯罪成立前でも嫌疑が生じ得るということを前提としていますよね。どちらが正しいんですか。

 犯罪成立前は嫌疑が生じ得るかという問いに対して、素直に答えていただければと思います。

金田国務大臣 ただいまの指摘にお答えをいたします。

 刑事局長が答弁されましたのも、犯罪成立前であっても嫌疑が生じることはあるものと答弁をされたものと私は受けとめておりました。

階委員 いや、さっきの答弁は違っていたと思いますよ。

 刑事局長、本当にそう答えていますか。

林政府参考人 私が申し上げた、嫌疑が認められるのは、捜査開始以前に成立した過去の犯罪についてであることがまず通例でありますということであります。ですから、犯罪の嫌疑が認められて捜査が開始するわけでございますが、その場合には、犯罪が成立しているということが通例であります。

 ただ、先ほど大臣も申し上げましたが、ある一定の場合に、将来その事象が発生することの蓋然性が高度に認められるような場合には、まだ成立していない段階で、将来の犯罪である場合でも嫌疑が認められるという場合がある、したがって、そういう場合に任意捜査が可能であるということを申し上げました。

 基本的に、通例の場合で、犯罪の成立後に、嫌疑が認められて初めて捜査があるわけでございますが、ある一定の場合で、その発生の蓋然性が高度に認められるような事情があれば、その場合には、将来の犯罪である場合にも嫌疑が認められ、任意捜査が行われることがある、このように説明してまいりました。

階委員 これは、法律上の根拠はどういうことになりますか、刑事局長。

 私は、百八十九条の条文を前から引用していますけれども、犯罪があると思料するときじゃないと捜査はできないという条文だったと思いますが、条文上の根拠はどこにあるんですか。

林政府参考人 条文の解釈は、その犯罪の嫌疑、犯罪ありと思料した場合、そして犯罪の嫌疑があると考えた場合に捜査ができる、そのことを満たす必要があります。そういうことを満たす事例として、先ほど言ったように、高度な蓋然性が認められるような場合には嫌疑と認めることができる、こういったものを考えているわけでございます。

 そして、これにつきましては、将来発生する犯罪について任意捜査ができるか否かについては、最高裁に判例がございまして、おとり捜査の適法性が争われた事案について、このような将来発生する犯罪について任意捜査が可能であるということを前提とした判例があるわけでございます。

鈴木委員長 階君、時間が参っております。

階委員 これは、おとり捜査とはまた違うわけですよね。おとり捜査というのは、既にそういう犯罪を過去にもしているということで、ある程度、おとり捜査をやればそういう犯罪をやるだろうということでやるわけですけれども、今回の場合は、単に計画がなされた段階で、実際に準備行為がされるかどうかは、蓋然性はあるかもしれないけれども、それはまだわからないという中で、犯罪の嫌疑がある、将来犯罪が起きる嫌疑があるから捜査ができるというのは、これは刑訴法百八十九条の許されざる拡大解釈でありまして、罪刑法定主義は、手続の法定、手続の明確性というのも求めているはずです。この罪刑法定主義に照らしても……

鈴木委員長 階君、時間が参っております。

階委員 枝野委員から少し時間をいただきました。

鈴木委員長 わかりました。

階委員 罪刑法定主義の観点からしても、百八十九条の解釈として許されないものじゃないかと思うんですが、いかがですか。

林政府参考人 先ほど申し上げましたように、単に蓋然性があればそのような任意捜査が可能になるということを申し上げているわけではございません。

 一定の事情がある場合で、その高度な蓋然性がある場合、そういった場合に嫌疑を認めることができる事例がある、そういった場合には任意捜査が可能であるということを申し上げております。

階委員 そういった判断をされるのは、誰が判断するんですか。誰が判断するんですか、高度な蓋然性ありやなしやの判断。

林政府参考人 これは任意捜査ということでございますので、その段階では捜査機関がそういった状況を判断いたします。そして、その任意捜査の適否は、後ほど各種の手続で検証される場合があるということでございます。

階委員 捜査されてから後から検証するでは遅いわけですよね。もうその時点では、人権はプライバシーも含め侵害されている。だからこそ、憲法三十一条で、罪刑法定主義で、ちゃんと事前に予測可能なような、刑罰の実体法規も手続法規も明確に定めなくてはいけないということになっているわけでございまして、今の刑事局長の答弁では、国民にとっては全く予測可能性がない中で任意捜査が行われるということを指摘せざるを得ないと思います。

 きょう、私の質問を通じて、一つは、やはり準備行為というものをあえて予備行為というものに置きかえなかった、これは、やはり人権を守るという観点からは私は不十分だということも申し上げましたし、任意捜査の開始時期も、捜査機関の一存で私はいかようにでもなるというふうに思いました。ということで、憲法三十一条、罪刑法定主義の観点からも問題があるということを指摘して、引き続き質疑を続行してまいりたいと思います。

 以上です。

鈴木委員長 次に、枝野幸男君。

枝野委員 私は、技術的、細目的事項を基本的に聞きますので、基本的には刑事局長がお答えください。

 通告した質問の順番を変えて、二番から聞いていきます。

 六条の二第一項、我々が共謀罪と呼ぶ犯罪の主体は誰ですか。

林政府参考人 犯罪の主体ということでこの構成要件を見ますと、最終的にこの構成要件がかかってくるのは、「計画した者は、」というものがその犯罪の主体ということになると思います。

枝野委員 この計画した者は組織的犯罪集団の構成員でなければならないというのは、どういうふうに読むんですか。

林政府参考人 このテロ等準備罪の主体について、いわゆる身分犯という構成はとっておりません。

 その上で、テロ等準備罪は、この条文上からも明らかなように、組織的犯罪集団の団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を計画すること、これを要するわけでございますので、テロ等準備罪の主体はそのような計画をすることができる者、こういうことで条文上限定されております。

 このような計画ができる者となりますと、これは、組織的犯罪集団のまず構成員がございます。それから、組織的犯罪集団とともに、組織的犯罪集団の団体の活動として犯罪を実行する者、つまり実行部隊としての組織の一員、これらに限られます。

 そうすることになりますと、テロ等準備罪の主体というものは、組織的犯罪集団の構成員及び先ほど申し上げた実行部隊としての組織の一員として組織的犯罪集団とともに犯罪を実行しようとする者、こういった者に限定されるものと考えております。

枝野委員 もうちょっと細かくいきましょう。

 六条の二の条文には、「組織的犯罪集団の団体の活動として、」とありますが、この「活動として、」というのは「行われるものの遂行」にかかるんでしょうか、それとも「計画」にもかかるんでしょうか、両方にかかるんでしょうか。

林政府参考人 この「団体の活動として、」というものは、当該行為を実行するための組織に行われるものの遂行を計画する、ここにかかってくるものでございます。

枝野委員 つまり、計画が団体としての行動でなければ本罪は成立しない。つまり、団体の構成員だけれども、団体の活動として計画したのでなければ犯罪は成立しない、これでいいんですね。

林政府参考人 委員御指摘のとおり、その計画、もう少し正確に言えば、当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を計画する、これが団体の活動として行われなければならないということでございます。

枝野委員 そうすると、組織的犯罪集団の構成員と、その組織的犯罪集団には属していない外の人とが、外の人はその団体が組織的犯罪集団だとは認識していない、団体であるとは認識しているけれども。あり得ますね。二人の人間がいて、組織的犯罪集団の構成員である一名、これは当然、自分の属している組織は組織的犯罪集団だという認識がある。もう一人、ここにその人の属している団体はあるけれども、それが組織的犯罪集団であるという認識は持っていない人物、この二人でこの団体を使って計画した場合は本条に当たりますか。

林政府参考人 構成員の隣に、非常に構成員に近いけれども、組織的犯罪集団であるということの認識のない者、そういった意味で構成員でない者、こういった者がいた場合に、これが計画することがあるかという御質問だと思いますけれども、その場合に、確かに組織的犯罪集団の構成員でない者が計画という形に加わることは可能性としてございます。

 どのような場合かといえば、犯罪実行部隊としての組織の一員、この一組織というものは必ずしも構成員でなくてもいいわけでございますので、そういった組織の一員、実際に犯罪を実行する部隊としての組織の一員に構成員でない者というものが入るということはあり得ます。

 ただ、その場合も、計画した者と言えるためには、これが、自分は構成員ではなくても、当該犯罪、計画している対象が組織的犯罪集団が関与する犯罪であるということについての認識のない場合には、これは計画者とは認められません。

枝野委員 そうすると、当該団体が組織的犯罪集団であるという認識のない者と組織的犯罪集団の構成員とが二人で計画をして、組織的犯罪集団が犯罪を犯すというようなことをやった場合は本罪は成立しなくなる、これでいいですね。

林政府参考人 本罪は成立しないという意味でございますが、計画をしたという場合には、今回の組織的犯罪集団が関与する重大な犯罪の実行を計画している、これについての認識が必要でございますので、そのようなものがない場合には、その者については、当然このテロ等準備罪は成立いたしません。

 もちろん、そのほかの者、計画者は複数おるわけですから、複数の者でそういった要件を満たす者については犯罪は成立いたします。

枝野委員 いや、だから、「二人以上」という条文だから聞いているんですよ。

 一人は組織的犯罪集団としての認識がある組織的犯罪集団の構成員、もう一人は、構成員じゃなくて、何らかの団体であることは知っていたけれども組織的犯罪集団だとは知らなかった、その場合は、一人は故意があるけれども、一人は故意がないんですよ。この二人で計画した場合は犯罪が成立しなくなりますけれども、いいですかと聞いているんです。

林政府参考人 「二人以上で計画した」場合に、二人の場合に、計画者の、他方に故意の認識がなければその者については成立しませんが、故意の認識のある者については成立いたします。

枝野委員 その理屈はもうちょっと詳しく説明してください。

 計画をしたというのは、二人以上で計画をしたというときに、一人ではこれは犯罪は成立しないんだから、一人で計画しても。

 まず、それはそうですよね。一人で計画しても犯罪は成立しませんよね。

林政府参考人 今回、計画という客観的な要件は、通常の言葉で言えば、一人でも計画というのはできますので、そのような場合には今回は成立しないということを明らかにするために、二人以上の者で計画というふうに構成要件を定めております。

枝野委員 共謀罪と呼んでいたけれども、共謀罪よりやばいのかもしれない。これはちょっと議事録を精査して、さらに詰めなきゃいけないと思うんですが。

 普通に受けとめると、組織的犯罪集団の構成員が何人か集まって、まさに共謀して、それで悪いことを計画した、具体的にどうしようかというところまで計画したと思うんだけれども、そうなんです、後で聞こうと思ったんですけれども、計画というのは一人でできるんですよね。

 計画をした、二人以上とは言っているけれども、一人は組織的犯罪集団の構成員でもなければ、組織的犯罪集団による犯罪をやろうとしているんだという認識すらない人と、組織的犯罪集団の構成員が二人で計画した場合でもこの犯罪は成立する。つまり、犯人が一人の場合もこの共謀罪は成立する場合があり得る、そういうことですね。

林政府参考人 通常、委員が御指摘になるような場合には、一人はその構成員でございます。一人は当該犯罪を実行する部隊の組織の一員であります。しかし、その人は、組織的犯罪集団という認識はございません。そうなれば、今回、テロ等準備罪の故意はないわけでございます。

 そういった場合でも、故意のある者については、その組織的犯罪集団が関与する重大な犯罪の実行について二人以上で計画したということについては、客観的な要件は満たしますので、そういった場合に故意のある者について、すなわち構成員である者についての犯罪は成立するということでございます。

枝野委員 後で切り離して詰めようと思ったんですが、先ほどから、組織的犯罪集団の構成員と、その構成員ではないけれども実行部隊というのがもう一人だということを前提にしているんですが、実行部隊でなくたって、二人のうちの一人に入れるんじゃないですか。

 別に当該犯罪に自分では手を下さない、計画にだけ、謀議にだけ参加する、だけれども、実際に手を下すのは組織的犯罪集団の構成員や実行部隊の人たち、組織である、この場合は成立しないんですか。成立しないというか、計画にならないんですか、想定されないですか、あり得るでしょう。

 組織的犯罪集団の構成員と、その構成員でもない上に、別にその犯罪にみずから手を下すつもりは全くない、ただし計画には参加する、その二人との間のときを聞いているんですよ。

林政府参考人 今回のテロ等準備罪につきましては、その計画、まず対象として、当該行為を実行するための組織に行われるものの遂行を計画ということがございますので、前提となる組織的犯罪集団の構成員であるかどうか、すなわち、組織的犯罪集団という団体を認識しているかどうかということに加えて、当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行の計画ということに加わるためには、構成員でない場合には、実際の犯罪を実行するための組織の一員であるということが通常想定されるわけでございます。それ以外には現実的には想定できないと考えております。

枝野委員 通常とか現実的にはとおっしゃったんですが、これ、法律をつくることを話しているんですから、通常とか関係ないので、論理的にあり得ない、あり得ないんだったら、こういうふうに読めるからあり得ないと言ってください。

 普通の犯罪についてはまさに日本は共謀共同正犯まで判例上認められているんですから、実際に、組織により行われるものの遂行を自分はしないけれども、こういう組織によって行われるものの遂行について、計画だけする、そういうことはあり得るんじゃないですか、論理的には。というか、むしろ、こういう人が、僕、意外と多いんじゃないかと思いますよ、現実にこれがもしつくられてしまって、実際に対応されるときには。

 この実行行為、将来の実行行為に手を染める可能性のない人は含まれないなら含まれない、どう読むのか教えてください。

林政府参考人 当該行為を実行するための組織、これについては、構成員でなくても犯罪実行部隊になり得るということがまず前提でございます。

 その上で、当該犯罪実行部隊による組織により行われるものの遂行を計画するということになれば、当該行為を実行するための組織、犯罪実行部隊による遂行を、自分がその組織の一員で、組織というのは……(枝野委員「遂行組織ですね」と呼ぶ)そうです、遂行組織、遂行組織の一員ではないがその計画をするという者の一例としては、構成員の中で、さらに幹部であれば幹部の者が、自分としては犯罪実行部隊である遂行組織ではないけれども、それを組織を使ってやらせる、遂行組織によってやらせる、こういった例が想定されます。

 では、構成員でない者がこの計画に加わるということであれば、この計画は、指揮命令に基づいてあらかじめ定められた任務の分担、こういったものを含めて計画する必要があるわけです。それは、遂行組織により行われるものを計画するというところからそれが出てきます。そうなりますと、当該組織的犯罪集団の構成員でない者でこの計画に関与するという者は、犯罪実行遂行組織の一員として関与する、こういうことが想定されるということであります。

枝野委員 やはりおかしいと思いますね。

 おっしゃるとおり、今、多分、遂行組織という概念は、恐らくこの法案にかかわっているほとんどの人が初めて真っ当にここで議論になっているんだと思うので、組織的犯罪集団と、実際に手を下す遂行組織というのは、この条文上二つある。

 確かに、遂行組織には加わらないけれども、それこそ暴力団の幹部のようなのは、組織的犯罪集団の幹部として計画はするけれども遂行するのは手下にやらせる。これが一例としてありますが、でも、組織的犯罪集団の構成員ではない、そこが犯罪を目的としている集団だという認識はない、なおかつ自分も遂行組織の一員として手を下すわけではない、でも、計画をしている犯罪あるいはそれに関連するさまざまな情報とか知識、知見を多々持っているので計画には加わる、そういう人は、ケースはあり得るじゃないですか。それを想定されないだなんて言ってもらっちゃ困りますよ。それを、条文上外れるなら外れるで、明確にどういう読み方で外れるのか言ってください。

 そうでなければ、今のようなケース、逆に言うと、遂行組織の一員じゃなくても組織的犯罪集団の一員ならば計画の当事者になり得るんだったら、どちらにも加わっていない人だって当事者になり得るんじゃないですか。違いますか。

林政府参考人 今、犯罪実行に向けて非常に有益な知見を持っているような人、こういった者がこの計画に加わる、これはあり得ると思います。

 それが犯罪実行組織の一員として加わるわけでございまして、そういった者が、当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を計画するために、そうした犯罪を実行するための組織にも全く無関係で、外部の人がこの計画に加わるということは想定できないということであります。

枝野委員 いや、そんなことないでしょう。

 こういう流れになると思わなかったので、ちょっと具体的な例を今頭の中で想定をしようと思っているんですけれども、例えば、ハイジャックをしましょうと。ハイジャックをしようという犯罪集団がある。でも、その組織が今までハイジャックなんか考えたことがあるとは思っていなかったし、ハイジャックすることを組織の結合の目的としているとまでは知らない、でも、それこそ空港のセキュリティーのシステムがどうなっているとか、飛行機の構造がどうなっているとか、ここに爆弾を仕掛けたら落ちやすいとか、そういう専門的な知識を持っている、その組織的犯罪集団の構成員ではない人と、二人で計画をして、実際に遂行させるのはとある遂行部隊にやらせる、こういうケースはあり得るじゃないですか。

 こういうケースが含まれるんだったら、そちらの答えをこちらが予想してあげるのもなんなんですが、その計画自体も組織により行われるものの遂行に含めるんですか。違うでしょう、計画だけしかしなければ。こういう場合はどうするんですか。

林政府参考人 今の御質問の趣旨を十分理解できておりません。組織的犯罪集団が関与する……

枝野委員 いやいや。では、もう一回説明する。

 いいですか。二人以上で計画すればいいんです。では、この二人のうち一人は組織的犯罪集団の構成員でないと本条の問題には絶対ならないので、一人は組織的犯罪集団の構成員だとしましょう。その人が、Aさんがある組織の一員である、団体の一員であるということは知っているけれども、でも、まさか組織的犯罪集団に該当するような組織とは思っていないBさんと二人で犯罪を計画する。その犯罪が例えばハイジャックであれば、空港のセキュリティーについてとか飛行機の構造についてとか詳しい専門家なので、そいつには自分たちの組織が組織的犯罪集団だというようなことは言わないけれども、たまたま偶発的に、この件一回限りだけれども、こういうことをやりたいんだ、協力してくれと言って、二人で計画を立てる。でも、その人は専門的な知識だけだから、計画をするだけで、実際に手は下さない。あり得るじゃないですか。

林政府参考人 今御指摘の団体には、組織的犯罪集団であるかという認識がなくても、その団体の中にまた実行組織というものがある、目的遂行組織というものがあるという点では、現行法の組織的犯罪処罰法の団体、これを前提としておりますので、それはあるわけでございます。

 そういった者が、組織的犯罪集団の認識はないけれども、実際の団体の中に目的遂行組織というものがあって、その遂行組織の一員として計画に加わるということはあり得ると考えます。

枝野委員 なるほど、こう言いたいわけですね。

 つまり、計画をする人間は全員遂行組織の一員なんだ、計画自体が遂行なんだ。計画自体が遂行なら、今の理屈はわかりますよ。ほかの行為には全く手をつけないけれども、計画そのものに参加するBさん、それは遂行組織の一員だと今言っているわけですよ。

 ということは、計画に参加した者は全員遂行組織の一員だ、ならないとおかしい。逆に、先ほどの暴力団の親分の話も、計画に加わっているんだから遂行組織の一員となります、これでいいですか。

林政府参考人 構成員が計画に加わる場合、先ほどのように幹部の場合、その組織的犯罪集団の中には、いろいろな犯罪実行部隊の組織、これはもちろん一つでもいいんですけれども、複数、いろいろある場合がございます。いずれにしても、計画の場合には、どの犯罪実行組織を使ってその犯罪を実行するのかということが計画されるわけであります。そのことについて認識がなくてはいけないわけでございます。

 それで、外部の者がその認識をするということは、やはり、それが組織的犯罪集団というその認識がなくても、そういった団体の中に組織があって、その組織によって実行計画を立てる、それが遂行することとしての計画を立てる、こういった認識が必要となりますので、そういった形態で考えられるならば、やはり外部の者については、その犯罪実行組織の一員であることが通常想定されるということであります。

枝野委員 だから、通常想定では困るんです、さっきから言っていますが。法律論を言っているんですから。どっちかで整理しないとおかしいと思いますよ。

 先ほどの例のBさん、外部の人間Bさんが、この条文からは、犯罪遂行組織が存在をして、その組織を利用して犯罪を犯すということの計画をしなければ、ほかの文言から、計画に該当しませんから、大きな団体の中に犯罪遂行組織に当たるべき組織がある、そのことの認識は必要だと思います。でも、その構成員であることは求められないんじゃないですか、計画するだけなら。違いますか。

 大きな大きなテロ組織集団がある、でも、それがテロ組織集団だとは外部の人間は知らなかった、その中のいろいろなチームがある中で、実はうちにこういう集団がいるから、こいつらを使ってハイジャックしようと思っているんだ、ついては、ハイジャックするにはどうしたらいいか、あんた専門家なんだから知恵かせやと言って、そのテロ組織の幹部と組織の外の人が二人で計画する場合もあり得るでしょう。違いますか。

 何で否定しなきゃいけないのかわからない。逆に、含めないとまずいと思いますよ、こういうケース、皆さんの立場に立ったら。

林政府参考人 私は、それを含めている前提で先ほどから説明しております。

 外部の人で知見を持っている人、その人と一緒に、犯罪実行部隊が組織により遂行する犯罪を計画するという場合において、その外部の人は、自分の持っている専門的知見、犯罪実行に向けての専門的知見を提供するという形で、この役割分担の中で計画に参画するわけであります。すなわち、実際の犯罪実行部隊の組織の一員としてその計画に参画するということになるわけであります。

枝野委員 そんなこと、文言上読めるんですか。

 ここの文言に書いてあるのは、組織的犯罪集団の団体の活動として行う、団体の活動として遂行を計画しなきゃいけない、当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を二人以上で計画する。

 計画については、今わかりやすく、専門的知識を持っていると言いましたけれども、別に専門的知識を持っていない人でも、何か二人で相談することはあるじゃないですか、あり得るじゃないですか、論理的に。その場合、外しちゃっていいんですか、あるいは外せるような条文になっているんですかという法律の文言のことを聞いているんですから。刑事局長、専門的に。

 通常はあり得ないなんて答えはあり得ないんですよ。まずそういう答弁自体がおかしいです。この条文からどう読めますかと論理的に聞いているんですから、通常はあり得ないなんて答えはやめてください。専門家として失格ですよ、それは。

林政府参考人 今回のテロ等準備罪、計画を罰する、計画プラス実行準備行為を罰する、この場合の計画については、組織的な要件が付加されているわけでございます。組織的犯罪集団の団体の活動としてという部分が一つ、それから、当該犯罪行為を実行すること、その組織により遂行される行為について計画をする、こういったことをあわせ考えますと、計画というのは次のような概念になります。

 組織的犯罪集団の構成員らが、らというので、構成員に限るというわけではございませんが、構成員らが、指揮命令に基づいて、あらかじめ定められた任務の分担に従って特定の犯罪を実行することについて具体的かつ現実的な合意をすること、こういった形にこの計画というものの意義が定まってくるわけでございます。

 これは、条文で、単に計画をした者はということではなくて、先ほど来申し上げていますように、組織的犯罪集団の団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われる遂行を計画、このように限定して定めていることからくる帰結でございます。

枝野委員 ちょっと今の答弁、議事録を精査してもう一回詰めさせてください。僕は、どう考えても今の答弁はおかしいと思います。

 その上で、先ほど、一番最初に身分犯じゃないと言いました。組織的犯罪集団による六条の二の一項の犯罪について、組織的犯罪集団の構成員ではない一般の人々が幇助や教唆犯になり得るでしょうか。

林政府参考人 まずは、教唆犯というものがあるかということについて、これは理論的に教唆犯というものを観念することは可能なのかもしれませんが、今回のものは、犯罪行為を実行する者が重大な犯罪の実行を計画するわけでございます。そして、その計画が実際に実行された場合には皆共同正犯になるというもの、これを計画者と考えております。したがいまして、それらの者が他の者から教唆を受けて、そして犯罪の実行を思い立つということは想定できないと思います。

 もう一つ、幇助犯でございますが、幇助犯について言えば、組織的犯罪集団の計画、こういったことを容易にする行為という形での幇助行為というものは、それは観念し得ると思います。

 例えば組織的犯罪集団が計画をする場所の提供というようなものについて、この組織的犯罪集団の存在を認識しつつ、かつ、組織的犯罪集団が、その中にある犯罪実行部隊の組織によって計画を行っている、そのことを全て認識した上でそういったものを、例えば計画の場所の提供をするなどして幇助する、そういったことは考え得ると思います。

枝野委員 確認しますが、その幇助、例えば場所の提供みたいな話、相談の、計画の場所の提供みたいな話の幇助犯が成立する場合においては、身分犯じゃないから一般の人も対象になりますね。

林政府参考人 身分犯でないので、その身分以外の全ては一般の方であるというふうに言えばそうでありますが、注意を要しますのは、この一般の方というのをどのようにいうかということでございます。

 今申し上げたように、組織的犯罪集団の計画を助ける者、こういった者は、組織的犯罪集団の存在を知り、かつ、組織的犯罪集団が当該組織的犯罪集団の中にある組織を使って重大な犯罪を実行することを計画している、このことを全て認識した上でそういった幇助行為を行わなければ、犯罪は成立しません。

 そういった意味において、そういった者、組織的犯罪集団の計画を助ける者は、組織的犯罪集団にかかわる、かかわり合いのある者であって、いわゆる純粋に一般の方々、これまで一般の方をどのように呼ぶかということでいえば、我々が申し上げてきている一般の、組織的犯罪集団にかかわりを持つ者ということと言えると思います。

枝野委員 局長のせいじゃないんだけれども、一般の人は含まれませんと繰り返し言ってきているのは政府側なんですからね。一般の人は、普通の団体や組織に入っている人たちは関係ありませんということを言ってきたのは大臣なんですから。組織的犯罪集団の構成員でない人を、普通は一般の人と受け取りますよ。

 さらに、その上で、確かに、そうはいっても、一般の人というのは、だから曖昧模糊とした概念で、曖昧模糊とした概念を、その人たちは対象になりませんだなんて幾ら言ったって、説得力がないんですか。

 ないんですが、組織的犯罪集団の構成員ではない、でも、組織的犯罪集団の計画などに場所を提供していた。この人が、この集団が組織的犯罪集団であるという認識などをしていたのかどうか、わかった上で場所を提供していたのか、それとも、何か怪しげな団体だけれども、まさかテロ集団とは思わなかった、暴力団なら大体想像がつくのかもしれないけれども、だけれども、暴力団とは知らなかったみたいな話なのかというのは、捜査をした結果じゃなきゃわからないじゃないですか。そうですよね。

林政府参考人 従来から申し上げている、被疑者として捜査の対象とならない者について、これは組織的な犯罪集団とかかわりのない方は被疑者として捜査の対象となりませんよ、このように申し上げてきたわけであります。

 その際、ではその裏返しで、組織的犯罪集団とかかわりのない者というのは、そもそも団体に属する人でないような人はもちろん、今回の組織的犯罪集団というのを要件の中に入れたことによって、それはかかわりがないということが言えましょう。それから、通常の団体、通常の会社、こういったものの構成員については、これは組織的犯罪集団とのかかわりがなく、嫌疑も生じませんね、こういったことを申し上げて、そういった人たちは被疑者として捜査の対象とならない、こういうことを申し上げてきたわけでございます。

 今委員が御指摘になったような場合、これについては、組織的犯罪集団の最終的な共同の目的が犯罪実行にあるという、組織的犯罪集団の共同の目的までは認識していないという場合はもちろんあり得ますが、それは、中においてその組織的犯罪集団の犯罪実行部隊の一員となる場合もございますし、あるいは、その一員でなくても、先ほど申し上げた幇助のような場合でもそうでございますが、その組織的犯罪集団の組織の中身、構造というものを十分に熟知しているような者、こういった者は組織的犯罪集団のかかわりのある方でしょう。

 こういった者について、被疑者の捜査の対象となること、これはあろうかと思います。その結果、その組織的犯罪集団の目的までは認識していなかったということが最終的に確定されれば、これはテロ等準備罪で起訴はされませんし、起訴されたとしても無罪になるわけでございます。そういった者については、被疑者として捜査の対象となり得ることはあり得ると、それは考えております。

枝野委員 結局お認めになっているんですけれども、どこかで組織的犯罪集団が計画をした、部屋を提供していた人がいた、その人が組織的犯罪集団であることを認識して部屋を提供していたのかどうか、その認識はわからない、でも、組織的犯罪集団がその提供を受けた場所で計画をしていた、これらは当然強制捜査がなされて、しないと困りますわな、こういう法律をつくっておいてそれを見逃したら。強制捜査がなされました、部屋を無償提供か何かされていた、当然この人はわかって貸したんだろうということで捜査の対象になる、これこそ社会実態ですよ。

 自分が貸している場所の持ち主が組織的犯罪集団なのかどうかなんということを国民一般が常にチェックをしておかないと、そういったときに、いや、私はそんなことは知りませんでしたなんと言ったって、それは実態の捜査実務上からは、身柄でも押さえられた日には自白をとられますよ。というようなリスクを我々は心配しているんですよ。このリスクは、やはり、実際に組織的犯罪集団であったのかなかったのか、その認識を持っていたかどうかということを一般市民の皆さんにきちっと実証できるようにしておけということを迫る中身であるということを申し上げておきたい。

 それから、先ほど、ちょっと横に幾つか論点がそれましたが、戻りますと、計画は、普通は共犯関係が成立するためには、二人で何かやるというときには、一般的には両方に故意が成立しないといけないと思うんですが、片方は組織的犯罪集団による犯罪という故意がない、片方は故意がある、この二人で計画しても「二人以上で計画した者」に当たるという御答弁でしたから、実は、計画した者といいながら、犯罪に問われるのは一人だけである、こういうケースがあり得る。いいですね、この結論は。

林政府参考人 今回、いわゆる団体、組織を処罰するわけではございませんので、個々についてテロ等準備罪の成立要件を吟味するわけでございます。そういった場合で、一人だけが成立するということは当然あり得ます。

枝野委員 共謀罪かと思ったら、計画罪だったんですね。

 余りみんなが聞いてこなかった六条の二第二項。これは、組織的犯罪集団であるという認識は計画者に必要だ、こういう読み方になるということでいいんでしょうか。

林政府参考人 この場合、今回のこの六条の二項は、これは、組織的犯罪集団に不正権益を得させ、またはその不正権益を維持し、もしくは拡大する目的で行われるものの遂行を二人以上で計画ということでございますので、組織的犯罪集団の関与というものを認識していなければ、この犯罪は成立いたしません。

枝野委員 これは大事なところです。組織的犯罪集団に不正権益を得させる等する、その組織的犯罪集団に該当するか否かの認識は必要だ。

 意思の疎通は必要ですか、組織的犯罪集団との。つまり、おまえらのためにこうやってやってやるぞと言って組織的犯罪集団の構成員と意思の疎通を図ることは必要とされますか。

林政府参考人 これは、組織的犯罪集団に不正権益を得させということでございますので、組織的犯罪集団との直接の意思の連絡というものは要件となっておりません。

枝野委員 この問題に後で戻ります。

 そして、先に大事なことをやっておかなきゃならないのは、質問の通告で七番のところを先にやっておきたいと思います。これは時間がなくなってもやらなきゃいけないことなので。

 まず、そことの絡みで、従来の刑法の解釈です。

 普通、犯罪を起こすと、未遂罪が想定されている犯罪であれば、実行に着手したらまず未遂罪が成立する、そして、結果が出れば既遂罪が成立する。未遂罪が成立して、その後、既遂罪が成立しますが、その二つの犯罪の罪数関係はどうなりますか。

林政府参考人 未遂と既遂であれば、既遂罪だけが成立するということであります。

枝野委員 予備罪と既遂罪との関係はどうなりますか。

林政府参考人 予備罪と既遂罪の関係は、既遂罪が成立したことによって予備罪というものは吸収されます。

枝野委員 一般論としましょう。本罪、共謀罪、皆さんの言うテロ等準備罪と、それから予備罪が想定されている犯罪、当然、準備行為をして予備行為をすることに段階を踏んでいくわけですから、予備行為が成立する場合、共謀罪はどうなりますか、罪数関係は。

林政府参考人 委員の御指摘は、テロ等準備罪が成立し、また予備罪も成立し、ただ、実際の計画の内容である対象犯罪というものは実行の着手に至っていない、こういう御指摘のもとであると理解しておりますが、この場合には、予備罪あるいはテロ等準備罪、いずれも保護法益は同じでございますので、同一の犯罪について予備罪とテロ等準備罪、双方成立するとしても、これが包括一罪という形での考え方をとっております。

枝野委員 包括一罪の場合は法定刑はどうなりますか。

林政府参考人 包括一罪では、法定刑は、重い方の法定刑が適用されることとなります。

枝野委員 予想されていると思いますけれども、強盗予備罪の法定刑と、それから強盗についての共謀罪についての法定刑、それぞれ言ってください。

林政府参考人 まず、強盗予備罪については二年以下の懲役であると考えております。それから、強盗を対象犯罪とするテロ等準備罪につきましては、今度五年以下の懲役または禁錮ということになります。

枝野委員 組織的犯罪集団が関与する強盗であっても、いわゆる本改正案で皆さんの言う準備罪、あるいは我々の言う共謀罪に該当する段階を経ず、予備行為とかに行くというケースは考えられないですか。

林政府参考人 申しわけございませんが、その質問の意図を理解できません。

枝野委員 では、順番、逆にいきましょう。

 お気づきだと思いますが、先ほど来のTOC条約との関係でなぜ予備罪ではだめなんだの中で出てきたとおり、予備というのは具体的な危険性が要件とされる、本罪の準備行為はそんなことは求められていない。つまり、違法性の程度、危険性の程度は圧倒的に本罪よりも予備罪の方が大きいわけですよ。にもかかわらず、強盗の共謀罪より強盗予備罪の法定刑の方が著しく、半分以下、短いですよ。まずこれを説明してもらいましょう、そちらの言い分を。

 普通は、皆さんの言い方では、計画、実行準備行為、予備、未遂、こうなっていくわけですよね。どんどん法益侵害の可能性が高くなって、それだけ重たい犯罪になっていくんだから、準備よりも予備の方が法定刑が軽い、このことについてどう説明されますか。

林政府参考人 今の御質問の前提としては、危険性の強さというものを比較する対象として、例えばそれが、予備にも至らないような実行準備行為、予備行為、実行の着手の段階、それから既遂の段階、既遂の場合はもう既に結果が発生しておりますけれども。そういったもので比べれば、実行準備行為の方が予備行為の危険性よりも低い場合があり得ると思います。

 しかし、今回、テロ等準備罪は、その実行準備行為、それを犯罪としているわけではございません。実行準備行為は構成要件の一つでございます。まず、組織的犯罪集団がその組織の指揮命令に基づいて、また各人が犯罪の役割分担をした上で行う計画、これがまずあります。それから、その計画に基づいての実行準備行為がございます。

 これを全体で見ますと、こういった組織的犯罪集団が関与する計画というものについては、まず、単独で行うような犯罪と比べて実際に犯罪行為が行われる可能性が非常に高い、あるいは、一たび犯罪行為が行われた場合には重大な結果が生じる、こういったことから、特に悪質であって違法性も高い、こういった考え方に立ってテロ等準備罪を構成しているわけでございます。

 ゆえに、こういった組織犯罪集団が関与する犯罪を計画し、かつ実行準備行為まで行う、この犯罪の違法性と、単独で行われる予備行為を比較した場合に、これはテロ等準備罪の方が危険性が高い、違法性が高い、こういった認識を持っておりますので、今の、単純に実行準備行為だけを取り出して、予備行為との関係での危険性を比較して、予備行為の方が危険性が高いからこの法定刑はおかしい、こういった御指摘にはつながらないと考えております。

枝野委員 まあ、予想したとおりの答えなんですが、その答弁にやはり無理があるのは、確かに、組織的犯罪集団がいわゆる共謀して計画を立てて、それで組織で犯罪を犯す、それは、例えば同じ強盗罪を比べても、単独である強盗予備よりも危険性が高い、それはおっしゃるとおりです、同意します。

 だけれども、組織的犯罪集団で、独裁的なリーダーが上意下達で、誰とも相談、計画なんかしない、共謀なんかしない、指揮命令でやっている方がよっぽど危険性が高いじゃないですか。違いますか。

林政府参考人 今御指摘のあったケース、そういった場合にどれほどの危険性があるかということは個別的な判断になろうと思います。

 我々としては、今回、組織的犯罪集団というものが、組織の指揮命令に基づいて、また各人の役割分担をした上で、その上で行う計画というものは非常に危険性が高い、これを類型として捉えて、それを構成要件として、今回、テロ等準備罪という構成要件を持ち、かつ、それについて重い法定刑を科すということを考えておるわけであります。

枝野委員 今の御説明は、組織的何とか罪についてはまさに該当するんですよ。確かに、単独で、あるいは組織性がない、指揮命令系統のない、そういう烏合の衆で何か犯罪を犯すのに比べて、指揮命令系統のしっかりとした組織が犯罪を犯す、その場合には危険性も大きい、だから、より重く処罰する、ここについてはおっしゃるとおりなんですよ。

 でも、強盗罪については組織的強盗罪はないですよね。単純強盗罪や強盗予備罪と、この強盗共謀罪との関係です。

 では、共謀罪が成立するというのは、指揮命令系統がしっかりした組織であっても、共謀、計画、二人以上での計画がなければ成立しないんですよね。誰か一人が計画して指揮命令したら、物すごく強力な組織を動かして犯罪を犯す場合でも共謀罪は成立しません、計画罪は成立しません。まず、その事実関係、それでいいですよね。

林政府参考人 委員御指摘のとおりであります。

枝野委員 例えば、オウム真理教のような犯罪が、内部においてどういう形で実際に犯罪に至ったのか、私はそこの事実関係まで詳しく知りませんが、外から報道的にうかがい知るところでは、トップの人が物すごく強い権限を持って、みんなと相談してというよりは、彼が勝手に決めて指揮命令でおろして、しかし非常に強固な組織で、上から言われたら、みんなが人を殺すことまで従ってやってしまった。

 こういう組織の方が、みんなで集まって相談して物を決めて、それで役割分担する組織より、よっぽど凶悪な犯罪、より違法性の大きな犯罪を犯すリスクが高いじゃないですか。より重たい、単独の強力な指揮者、指揮官による、共謀を伴わない組織的な犯罪は強盗予備罪なんですよ。違いますか。

林政府参考人 複数で役割分担して犯罪を計画する場合に比べて、単独のもの、独裁者のような者が指揮して計画した場合の方が危険性が高いではないかというふうに言われますが、必ずしもそうではないと私は思っております。

枝野委員 無理をして、慌てて法律を出すからこういうことになるんですよ。

 まず、そもそも、どうしてもこういう共謀罪的なものをつくりたいのであるならば、指揮命令系統のしっかりしている組織によって犯される犯罪は、単独あるいは烏合の衆によって犯される犯罪よりも危険が高い、違法性が高い、そういう前提に立たないといけない。

 だとすると、今回の別表に掲げられた多くの罪には組織的加重がないんですよ、そもそもが。単独犯である場合あるいは烏合の衆である場合と、組織的に行われた場合とで、そもそも区別されていないものがほとんどなんです。

 なおかつ、確かに、組織的に計画をされた計画や準備行為と、烏合の衆あるいは単独でなされた予備では、犯罪実現の可能性についてどっちが高いかは意見が分かれるところだろうと思います、見解が分かれる場合だろうと思います。だけれども、一律に法定刑を決めてしまったので、烏合の衆であったり単独犯であったり、あるいは、組織を使っても、計画、謀議という段階を経ない、強いリーダーが上意下達で行う犯罪の場合の方が法定刑が低い、こういう矛盾を生んでしまったんですよ。

 逆に聞きましょう。強盗は予備が二年以下、共謀罪は五年以下、逆転現象が起こっています。起こっていないのもありますでしょう。

林政府参考人 逆転現象が起こっていないものというものについて、にわかに私思い当たりませんので、御指摘いただきたいと思います。

枝野委員 逆に言うと、予備罪があるもので、本罪が同じものについての予備罪と皆さんの言うテロ等準備罪とで、両方の法定刑がイコールであるもの、あるいは予備罪の法定刑の方が重いものはありませんかとお尋ねをします。

林政府参考人 まず、イコールなものというのは、例えば組織的殺人予備というものが五年以下の懲役等とされております。今回、組織的殺人のテロ等準備罪についても同様でありますので、これはイコールになろうかと思います。

枝野委員 逆転しているものはありませんか。大丈夫ですか。通告していないのでいいでしょう。

 では、こういう聞き方をしましょう。

 強盗予備よりも強盗の共謀罪の方が犯罪成立の危険性、違法性が高いから、二年と五年、法定刑に差をつけている。殺人だって、殺人予備と殺人の共謀では、強盗と同じように、皆さんの理屈で言えば共謀罪の方が危険性が高いんじゃないですか、それなのに法定刑が一緒でいいんですか。

林政府参考人 この場合、殺人予備と組織的な殺人予備で法定刑の違いを設けているのは、やはり、これが組織的な殺人予備の場合には組織性があって危険性が高い、違法性が高い、そういう考え方で、まず、組織的な殺人予備と通常の殺人予備については法定刑の差を設けているわけでございます。

 今回、テロ等準備罪の法定刑というものは五年以下でございまして、同じく組織的な殺人予備というものと並んでいるということでございます。

枝野委員 だから、さっき言ったじゃないですか。組織的に行われるものだから単独や烏合の衆による犯罪よりも危険性が高い、それはおっしゃるとおりです。だから、殺人と組織的殺人との間で法定刑の差がある、それは非常に合理的ですよ。したがって、殺人予備と組織的殺人予備との間で法定刑の違いがある、それも合理的ですよ。でも、そこに違いがあるのは組織的であるかどうかというところなのであって、共謀があったからではないんです。そうでしょう。

 こう聞きましょう。組織的殺人予備には二名以上の者による計画という段階が必要ですか、必要ないですよね。誰かが複数で計画したんじゃなくて、組織のリーダーがトップダウンで組織を動かした場合でも組織的殺人予備は成立しますよね。

林政府参考人 組織的犯罪処罰法における組織的殺人ということであれば、団体の活動として犯罪実行組織によって遂行されるものが、実際に犯罪を、殺人という実行をすれば成立いたしますので、そこに至る計画がどのような形態で行われたか、こういうことについては問われておりません。

枝野委員 そう、そのとおりなんです。トップダウンで行うものであっても、何人かで相談して組織を動かす場合であっても、どちらも組織を使って動かすという意味では、単純な殺人よりも組織的殺人の方が危険性が高いから法定刑が高い、それはよくわかるんです。

 そして、その組織的殺人予備と、その前段階の組織的準備、我々の言う共謀罪との間では法定刑が今は一緒なんです。つまり、予備段階に行こうが、それが計画と準備行為であろうが危険性は一緒だ、そういう法的評価をしているんですよ。違いますか。

林政府参考人 最後の、そういうというものについて十分に理解ができておりませんが。

 いずれにしても、組織的殺人と通常の殺人の差、これは、組織性に鑑みて違法性が高い、危険性が高いということを考えたわけでございます。

 同様に、今回のテロ等準備罪と組織性のない予備との比較においては、組織性が高く犯罪実現の可能性が高いということに着目して、危険性、違法性を高いものとして認識したものでございます。こういったものを類型的に今回集めて、この構成要件をつくったということでございます。

枝野委員 まず、組織的殺人予備と、殺人の今回の準備罪の法定刑が一緒であるというのは果たして適切であるのか、これも一つ大きな論点としては申し上げなきゃいけないだろうと思います。

 やはり予備と準備は違うと、先ほど、物すごくTOC条約との関係で言っているわけですよね、具体的な危険性まで要求されちゃうと大変だと。具体的危険性が認められない段階でも処罰をする準備罪と、具体的な危険性がある段階まで至った予備罪とで、同じ組織的殺人について法定刑が一緒というのはいかがなものか。適切ではない。

 その上で、さらに強盗はもっとおかしい。

 組織的に行われるから危険性が高い、重く処罰すべきだ、そこは認めます。でも、組織的強盗というのがない中で共謀罪を入れましたから、同じ組織的に行われる犯罪であっても、犯罪実行に至るまでのプロセスが、複数の幹部で相談をして計画をして進めた場合には共謀罪で、五年以下の懲役または禁錮。ところが、組織を使っても、一人のリーダーがトップダウンで誰とも相談せずに指示したら、予備段階まで行ったとき初めて処罰できて二年以下の懲役。明らかに矛盾じゃないですか。

林政府参考人 まず、現行法を見ましても、例えば陰謀罪がございます。陰謀罪と、実際に予備罪というのが併存している場合がございますが、これについては法定刑に差は設けられておりません。

 したがいまして、この陰謀罪と予備罪で考えた場合、法定刑に差が設けられていないということで、通常の予備罪と今回のテロ等準備罪、この法定刑の差というものは、やはり組織性というものに着目したものだと考えます。

 その上で、例えば組織的犯罪処罰法に組織的強盗がないじゃないかというような話、あるいは、一方で組織的殺人はある、一方で組織的な詐欺はある、このように、何を組織的犯罪処罰法で別表に掲げるかという立法段階におきましては、これは、組織的犯罪の危険性に鑑みまして、これを通常の犯罪よりも法定刑を加重する必要があるかどうかという観点で選び取っております。

 その際に、法定刑の中で、強盗罪については、組織的強盗を設けなくても、強盗罪の法定刑あるいはその場合の量刑の傾向、こういったものを見たときに、当時、組織的強盗というものはつくる必要はない、そのように判断したものでありまして、必ず組織的なものについては通常の犯罪よりも法定刑を重くした上で、そのために組織的犯罪処罰法の別表に掲げる、こういった立法は行っていなかったわけでございます。

 そういった中で、今回、テロ等準備罪と今御指摘の強盗予備罪との法定刑の違いから、組織的強盗というようなものがないのではないか、こういった御指摘があるわけでございますが、それにつきましては、今回の立法は、やはりTOC条約を締結するためにおいて必要、適正な範囲で立法を行う、その担保を行うという立法作業であったことからそのようになっているわけでございます。

枝野委員 意図的なのかどうか、聞いたことには答えていないんです。論点をずらしているんです。

 組織的殺人予備と組織的殺人共謀が法定刑が一緒というのは論点としてあるけれども、ここはとりあえずおいておきますと先ほど私は言いました。御指摘のとおり、そこには違いがないということについて一定の理屈があるのは、私は知っています。だから、これはちょっとおいておきます、物すごく時間がかかる議論になるので。

 そして、強盗には組織的強盗がないからとは何度も言いましたが、だからつくれと言っているわけではありません。

 聞いているのは、組織的強盗もない状況の中で、こういう法律のつくり方を無理やり短期間でやったので、先ほど問うたのは、組織性があるから重く処罰する、それはよくわかる、でも、同じように組織性があるのに、その組織を動かすに当たって、みんなで何人かで計画して準備行為を行ったら五年以下なのに、同じような組織を使う、その組織を使うという意味では危険性は一緒なのに、強いトップが誰とも相談せずに指揮命令して組織を動かした場合には、予備に行かないと処罰されないし、予備段階では二年以下。明らかに法定刑の矛盾を生んでいる。

 何しろ法案が出てくるまで、与党の中、政府の中、何週間、何カ月もかけて準備をされたのを、こちらは、法案が出てくるまでは説明できませんという大臣のもとで、法案が出てから、今二百七十幾つの法律を全部チェックしているんです。見つかったところからやっているんです。二百七十幾つの新たな犯罪をつくるんですから、一個一個こういうふうに矛盾を我々も大至急で調べていますが、ほかにもあり得ると思います。もう一度撤回して、こういう法定刑の矛盾が生じないようにきちっと精査し直す、最低限これはやってもらわないと、おかしいですよ。

 組織的だったら重いのはわかるんです。類型的には同じ組織的なのに、トップダウンだったら軽くて、相談してやったら重い。明らかにあべこべですよ。少なくとも横並びじゃなきゃおかしいですよ。こんな矛盾した法定刑をつくったという、まさに粗製乱造的なつくり方だということを指摘していきたいと思います。

 次に、共謀罪じゃない普通の犯罪についてお伺いをします。

 犯罪の実行に着手をしましたが、途中で気が変わって中止をした、その結果、未遂に終わった場合、どういう処遇になりますか。

林政府参考人 実行に着手し、その途中で中止したという場合であると、それは中止未遂、中止犯ということになります。そういった場合に、刑の減軽というものがあるということであります。

枝野委員 刑事局長ともあろう方が、わかっている、わざと言わなかったんだと思いますが、必要的刑の減免ではないですか、中止犯は。

林政府参考人 そのとおりでございます。必要的刑の減免でございます。

枝野委員 ところが、この六条の二を見ると、共謀罪が成立する段階まで至っていました、一度共謀罪が成立しましたが、やはりこれはやめたといって、実際の犯罪の実行の着手には至りませんでした。よかったですね。この場合、どうなりますか。

林政府参考人 まず、テロ等準備罪が成立したという前提でいきますと、この場合、その後に実際の対象犯罪の実行はやめた、こういう事案だと思いますけれども、テロ等準備罪については既に成立しておりますので、その刑事責任は免れないわけでございます。

 なお、その者が自首した場合には刑の必要的な減免が認められることになります。

枝野委員 やはりラフなつくり方だと思いますよ。なぜなら、複数の人たちが絡んでいるので、複数の主体、計画をした者の中で一人だけ中止をしても犯罪の実行に至る場合があるから、犯罪の実行に至ってしまって既遂になってしまったら、それは中止犯とは違います。中止未遂だから必要的刑の減免なんですから。

 だけれども、この六条の二の条文を読むと、計画した全員がやはりまずいよねと中止をしても、自首しなければ刑の減免を受けられない、そういう条文になっていませんか。

林政府参考人 前提として、計画をした全員がその後の実行をやめて実行準備行為に至らなければ、そもそも犯罪は成立いたしません。テロ等準備罪の成立はございません。

 しかし、その計画に基づいて、そのいずれかの一人が実行準備行為まで至れば、テロ等準備罪は成立するわけでございます。成立した後の処理としては、自首した場合には必要的な減免があるということでございます。

枝野委員 自首でも必要じゃないでしょう、裁量的減免でしょう。(発言する者あり)

鈴木委員長 速記をとめてください。

    〔速記中止〕

鈴木委員長 速記を起こしてください。

 林刑事局長。

林政府参考人 先ほど申し上げたように、テロ等準備罪が成立した後に、対象犯罪の実行に着手する前に自首した者は、その刑を減軽し、または免除するとなっておりますので、必要的に免除、減軽があります。

枝野委員 わかりました。失礼。

 自首をした者は、自首しなきゃだめなんですよね。いいですね。

 それで、準備行為まで誰かはしたけれども、でも、下見に行ったけれども、やっぱりやめようね、みんなで相談してやめる場合なんてあり得るじゃないですか。やめてくれたら、こんな望ましいことないじゃないですか。それと、実行に着手して中止未遂になった場合と比べたら、同じくしなきゃいけないんじゃないですか。自首しないといけないんですか。

 犯罪は成立する、どっちにしろ。犯罪は成立しちゃうんだから、自首しないと必要的刑の減免を受けられないんだったら、実行の着手まで行っちゃった方がいいのかなということになりませんか。

林政府参考人 自首しない場合には、必要的減軽または免除することはございません。したがいまして、刑事責任というものはそこに生じておるわけでございますが、当然でございますが、そのために、自首という形ではなくて実行の着手に至らなかった場合、しかし自首はないという場合であっても、刑事責任の判断においては、みずからがやめたということは当然に考慮されるということになります。

枝野委員 中止未遂の場合だって当然に考慮されるんですよ、途中でやめたというのは。それを中止未遂のときには必要的減免としているんですよ。

 そして、なおかつ、やはり刑を決めるときには裁量はあるんだけれども、単にやめただけでは必要的減免にはしないけれども、自首までしたら必ず減免してあげるよとまで決めているんですよ。だから、やはり必要的減免、自首した場合には必要的減免みたいなルールが決められているというのは、普通に犯情を見て、犯罪は成立しているけれども結果を起こしていないんだから軽く見てあげましょうとかということとは次元が違う。だから明文に書いてあるわけですよ。

 こういう聞き方をしましょうか。先ほど、共謀罪と本罪は、本罪が実行されたら包括されると言ったような気がするんですけれども、つまり、本罪に基づいていわゆる準備罪が成立をする。でも、実際に実行に着手した、実行に着手したけれども、着手後にみんなでやっぱりやめようといって中止未遂になった。この場合、どっちが適用されるんですか。

林政府参考人 これは本罪の方の中止犯というものが成立するということであります。(枝野委員「本罪でしょう」と呼ぶ)対象犯罪の方です。

枝野委員 そうなんですよ。

 いいですか。実行に着手しない段階、準備罪は成立をしている、実行に着手していない、この場合には、単にみんなで相談してやめましたでは必要的刑の減免にならないんです。自首しなきゃいけないんです。

 実行の着手をしたら、やっぱりやめようねと途中でやめて未遂に終われば、必要的減免を受けられるんです。しかも、未遂罪ですから、法益侵害があるケースもあるんですよ。全く法益侵害を受けない、何も生じていない場合とは限らないです。

 殺人罪の場合は、殺人未遂の、中止未遂の必要的減免は、傷害という結果が生じていても中止未遂は成立しますよね。済みません、私もよく覚えていないので確認したいんですけれども。殺人の故意で実行に着手したけれども、だけれども自分の意思で中止して、殺人という、人の死という結果に至らなかった、でも傷害という結果は生じている、これは中止未遂が成立しますよね。

林政府参考人 委員御指摘は、恐らく実行着手未遂、実行後に中止したという事例で、例えば実行の着手に至っているけれども、まだ致命傷を与える前に、その致命傷を与える打撃をみずからの意思で中止した、こういった場合には中止犯が成立します。

枝野委員 したがって、法益侵害が生じていても、本罪の実行に着手をすれば、本罪の方の中止未遂の規定が適用されるんです。自首しなくたって、必要的減免なんですよ。

 ところが、実行に着手していなければ、自首しなければ必要的刑の減免にならないんですよ。明らかにこれも、そもそも一般人が対象になるのかならないのか以前の問題として、この法案が欠陥法だと。出し直して、整理し直さないと、とてもじゃないけれども真っ当な刑事法制にならないということの二つ目だということを申し上げたいと思います。

 当初の通告の一番のところに戻りたいと思います。ここで先ほどの二項の問題とつながってくるので。

 まず、これまでの、前回までの質疑の中で、六条の二第一項に話は戻ります。

 結合関係の基礎としての共同の目的、つまり、組織的犯罪集団と言えるのかどうかということについて、繰り返し、組織体の構成員が共通して有し、つまり、全員がその目的を共有していなきゃいけないと答弁をしています。

 まず、それでいいのかどうかと、どうして共通してと言えるのか、お答えください。

林政府参考人 結合関係の基礎としての共同の目的というのは、結合体の構成員が共通して有し、その達成または保持のために構成員が結合している目的をいうと考えております。

 この場合、共通して有し、というものは、共同の目的ということから出てくる要件であると考えております。

枝野委員 後でも申し上げますが、だったら、全員が共通して持っている目的とかと書いてもらった方がわかりやすいと思うんですが。

 実は、この今回の六条の二と過去の政府案、例えば平成十七年提出の法案の該当する条項は、「次の各号に掲げる罪に当たる行為で、団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を共謀した者は、当該各号に定める刑に処する。」、これに当たると思うんですが、何か、過去に出した共謀罪と、この犯罪の主体については、確認的に、組織的犯罪集団の構成員以外は当たらないんだよということを確認するために文言を書きかえたけれども、中身は変わっていないと、それこそ法務委員会の質疑が始まったころに言ったと思うんですが、違いますか。

林政府参考人 かつての組織的犯罪の共謀罪、この場合に「団体の活動として、」という要件がございました。その中でも、その当時の法解釈としては、この団体が共同の目的というものに沿って犯罪を実行するということでなくてはいけないので、その共同の目的が、犯罪を実行するということと共同の目的が沿わない場合にはかつての組織的犯罪の共謀罪は成立しない、このように解釈で述べておりました。

 しかしながら、それについては、やはりその団体というものについての制限が明文上ないものですから、そういったことの説明については十分な理解が得られなかったわけでございます。

 そこで、今回、団体というものについて、明文の中で、犯罪実行を目的とする団体であることを明示したというものでございます。

    〔委員長退席、土屋(正)委員長代理着席〕

枝野委員 せっかくいい答弁だったと思うので、今の、組織的犯罪集団、犯罪を犯すという共同の目的が必要と、いい答弁だったと思うから、変えたくないんですが。

 しかし、十七年提出の政府法案を見ると、確かに「共同の目的」という文言はあるんですよね。現行法での規定ですよ。「団体」の定義として「共同の目的を有する」「その目的又は意思を実現する行為の全部又は一部が組織により反復して行われるものをいう。」、これは今の規定、現行法の規定ですが、変わらないわけですね、今回も。ここの「目的」は何も問うていないんですよ。それが犯罪を犯す目的であるかどうかとか、全然問いただしていないんですよ。

 当時の政府案の六条の二は、「団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるもの」としか書いていないんですよ。共同の目的としてとかは全然書いていなくて団体の活動なので、団体の活動としてと言った場合には、目的とは違う、あるいは主たる目的のために団体の活動として行う、それも団体の活動としてと例えば平成十七年提出の政府法案の六条の二では読めるじゃないですか。違いますか。

林政府参考人 従来の法案におきましても、団体という場合の「団体」の要件の中に「共同の目的を有する多数人の継続的結合体」ということがございましたので、その意味において、「共同の目的」というものが今回と同様に使われていたわけでございます。

枝野委員 だから、それでは、解釈が変わりません、確認的に「組織的犯罪集団」と入れたけれども解釈は変わりませんという、その説明になっていません。今回の提出法案でも第二条は変わっていないんですから。ここに「共同の目的」とあるんです。この第二条の「共同の目的」は、犯罪を犯すという目的、別表の犯罪を犯すという目的以外のことも含んで共同の目的を持っているという意味ですよね。それは、同じ条文ですから、平成十七年のときも、あのときも改正は提案されていません、同じ条文です。ずっと一貫してある条文。そこに「共同の目的」とあります。

 そういう団体の中で、共同の目的が別表三に掲げる罪を犯すというのが今回加わっているんだけれども、平成十七年の法案では、団体の活動として、犯罪を実行するための組織により行われるものの遂行を共謀したというだけであって、その団体がみんなで共通して犯罪を犯すという目的を持っているなんということは全然書いていなかったですよ。

林政府参考人 委員御指摘のとおり、従来の法案の中では、「共同の目的」という「目的」が犯罪実行の目的であるということは全く書いてございませんでした。

 そのような法案を前提として、当時、団体の活動として、こういった組織において行われる犯罪の実行を共謀するということについて、これは、「団体の活動として、」という要件を解すると、共同の目的が犯罪の実行の目的でなければ団体の活動として意思決定をすることはないので、それゆえに、この場合の犯罪行為を行うこの団体は犯罪実行を目的とする団体ということに限定されますという解釈を持っておりました。

 しかし、その解釈について、やはり、団体の活動というものの、団体の共同の目的というのが全く正当な目的も含み得る条文である以上、そのような解釈についての限定というものは説得力がないという御批判を受けたわけでございます。

 そこで、今回、「団体の活動として、」の、団体の中の共同の目的が犯罪実行を目的とするということを法文の中で明示したというものでございます。

枝野委員 どうしてそういう無理をしようとするのかよくわからないんですが。

 いいですか、かつての政府提出法案は、「団体の活動として、」しか書いていないんですよ。団体の活動としてと言ったときに、今回の皆さんが説明している解釈、つまり、その犯罪を犯すんだという目的がなくなったらもう離脱するんだとか、犯罪を犯すんだということを知っていない人たちは構成員じゃないんだとか、そういうことを一生懸命言っているわけですよね、共通の目的と。そこまでのことを共有していないと、十七年法案の「団体の活動として、」には当たらないんですか。

 団体の活動としてと言ったら、団体の目的としては別に犯罪を犯すことが目的じゃないけれども、その主たる目的のためにみんなで組織を挙げて犯罪をしましょう、これだって団体の活動じゃないですか。というのは、別に今回出ている法案じゃないところの条文を詰めるのが目的じゃありません。だから、答えはいいです。

 どう読んだって、「団体の活動として、」としか書いていなければ、普通の人は、いや、普通の人じゃなくたって、法律家だって普通は、団体の活動としてと言われたら、別にそれが、主たるとは言っていなかったと思いますが、構成員全員が共同して持っている目的を遂行することなんだなんという限定は感じませんよ。そのみんなで共同して持っている目的のために行う活動は団体の活動と、普通の日本語としては読めますよ。法律的にも、それを今みたいにして限定して読むような理屈はありませんよ。

 だから、そういうことをいまだに繰り返してというか、そんな詭弁を弄して、当時の法文と今回の条文と、組織的犯罪集団と明記しただけで、この間も絞っていたんですとかわけのわからないことを言うから、今度の条文も信用できないんですよ。

 ここで幾ら解釈を刑事局長がお答えになっても、法律の条文を、刑事法を最終的には裁判所がどう読むのか。本当に、この共同の目的というものが、その目的がなくなったらもうこの組織はやめるんだ、全員がみんな共有していないとこの共同の目的にならないなんということにしたら、僕は、ほとんど該当しなくなる、そんなことは現実的ではないのでという解釈になりかねないと思うんですが。

 これはどこまで通告をちゃんとしていたかなと思いながらお尋ねをするんですが、知らなければ知らないで結構なんですが、まず、これを聞きましょう。

 ここまでの、この組織的犯罪集団、特に共通の目的に関するこれまでの刑事局長の答弁、条文に書きましょうよ。書いたら何か困るんですか。その目的がなかったらその組織から抜けるだろうということが、みんなで犯罪を犯そうということが全員に、その犯罪を犯すという目的が変わっちゃうんだったら俺は抜けるよということで共有されていなければ、組織的犯罪集団には当たらないんです、こういうことを条文に書いたらいいじゃないですか。

 そうしたら安心しますよ。さすがに、みんなそろって犯罪を犯す、犯罪を犯さないんだったら抜けますというような組織は確かに暴力団ぐらいでしょう。だからみんな安心しますよ。何で、入れたらまずいんですか。

    〔土屋(正)委員長代理退席、委員長着席〕

林政府参考人 先ほど来申し上げておるのは、従来の法案についてさまざまな解釈は申し上げましたが、それを、やはり解釈ではなく明文で明らかにするというもとで、今回、「組織的犯罪集団」というものを定義して、その中に、「結合関係の基礎としての共同の目的」というものが犯罪実行することにあるという定義を置いたわけでございます。これによって明確であると考えております。

枝野委員 皆さんは明確だと、それどころか平成十七年の条文でもそう読めるというぐらい言っていたんだから、それは皆さんがおっしゃるのは勝手だけれども、ではそれを、国民が、刑事法の条文ですから一般の国民全員がわかるようにしろとは言いませんよ。でも、普通の法律家が読んだときにどう思うのかというところが、なかなかこの文言から、そうか、みんながその犯罪を犯そうと集まっている組織以外は当たらないんだとはとても読めない。そして、そんな読み方をしたら、ほとんど当たらないですよということを後でやりますが。

 ドイツの刑法では、参加罪、つまり組織的犯罪集団に参加することで処罰するんですよね。それで例の条約をクリアしているという話になっていまして、これは、編集法務省大臣官房司法法務部、財団法人法曹会、私も昔お世話になりました、この財団法人法曹会の出版物は。というところが出してくれている翻訳がありまして、この間、与党側の参考人でおいでいただいた井田先生が編集に加わっておられるんですが、井田先生も、この条文でいわゆる犯罪集団しか当たらないんですよと言っていたんですが、ドイツ刑法の参加罪の対象になる犯罪というのは百二十九条というところに書いてあるんです、明確に。その二項二号に、犯罪行為の遂行が従属的な意味での目的もしくは活動にすぎないときは適用されない、組織的犯罪集団に当たらないと明文で書いているんです。こうしてくれれば大分安心できますよ。犯罪行為の遂行が主たる目的、主たる活動であるという団体は、それは確かに、暴力団、まさに皆さんがイメージする一般的なテロ集団に限定されるだろうと思います。

 ドイツで置けるんだから、別にこういう規定を置いたって困らないですよね。

林政府参考人 御指摘のドイツの刑法についてつまびらかにしておりませんので、それを前提としたお話はできませんが、今回、結合関係の基礎としての共同の目的が犯罪を実行することにあるということを定義したというものは、委員が御指摘しているように、犯罪実行そのものを目的として結合しているもの、そういう団体についてのみテロ等準備罪を適用しよう、こういう限定をしようとする目的のもとに、今回、結合関係の基礎としての共同の目的が犯罪を実行することにある、こういう定義を置いたわけでございます。

枝野委員 これだけ答弁をしたら、解釈するときにも一定の考慮はしてくれるとは一般的には思うんですが、刑事法ですから、先ほど罪刑法定主義の話もありましたが、誰が読んでも紛れなく、ここまでが犯罪だ、ここから先は犯罪ではない、明確に線引きできるようにすることが刑事法については特に求められているんです。

 共謀罪の流れで、何度も何度も、どこまで拡大するのかわからない、濫用されるかわからない、国民の保護されるべき権利、自由まで侵害されかねないという危惧が抱かれているんです。このドイツ刑法に倣ったような規定を置いても今考えている解釈と変わらないんだったら、置きましょうよ。そうしたら我々も安心できますから。そうしたらもっと多数の賛成で通せますよ。まずいんですか、何か。内容的にまずいことがあるんだったら言ってください。あとは、自民党と与党のメンツだけの問題だったら、それはそれで、そういうことで強行するのならと、そういう話になります。

 内容的に、ドイツ刑法のような規定、つまり、組織的犯罪集団には犯罪行為の遂行が従属的な意味での目的もしくは活動にすぎないときは適用されないという確認規定を置いたら、中身的に困りますか。

林政府参考人 先ほども申し上げましたが、今回やはり、犯罪実行を目的として結合している、そういった団体をこの対象としよう、こういう意図のもとに、それが貫徹されるような用語として、結合関係の基礎としての共同の目的が犯罪実行をすることにある、このように定義したわけでございます。

 仮に、主たる目的、従たる目的というような言葉を使ったとしますと、また、この主たる、従たるというものについてどのように解釈するのかというものの、かえって限定ができなくなるというような場合もございます。

 そういった意味では、どのような用語を置くのかということについてはさまざま検討の余地があるのかもしれませんが、我々といたしましては、今回、共同の目的、しかも結合関係の基礎としての共同の目的が犯罪実行にある、この認定をしなければテロ等準備罪が適用できないという意味においては、十分に捜査実務あるいは裁判実務において限定の効果を有している条文であろうと考えている次第であります。

枝野委員 あと二十分しかなくなっちゃって、やはり三時間くれと言えばよかった。

 犯罪実行の目的を認識していない者については組織的犯罪集団の構成員とは認められないと今までの流れの中で答弁しています。この間も少し確認しましたが、二条の「団体」の構成員であっても、結合関係の基礎としての共同の目的としての別表第三の罪を実行することを認識していない者は、六条の二に言う「組織的犯罪集団」の構成員とはならないということでいいんだろうと思います。

 そうすると、二条に規定する「団体」、大きい団体のごく一部が、まさにみんなで別表第三の罪を実行するという目的を共有して、ある集団をつくり、それが組織的犯罪集団となる、こういうことがあり得る。大集団は二条の「団体」、その中の部分集団が六条の二の「組織的犯罪集団」、こういうことがあり得る、これはいいですよね。

林政府参考人 今委員御指摘の中に、団体の中に組織的犯罪集団があり得るということでありました。そのことはそのとおりだと思います。

 ただ、御指摘の中に、ごく一部がとか、そういった量的な表現を加えられますと、直ちにそのとおりというふうには言えませんが、団体という要件の認識と、今回は、団体のうちで、組織的犯罪集団というものは犯罪実行を共同の目的とするというもので定義しておりますので、そういったものについては、必ず一致するわけではございません。

枝野委員 済みません、確かにおっしゃるとおりです。ごくわずかとか、量的なこととは関係ないと思います。

 その上で、そうなると、二条の「団体」については、共同の目的に加えて、継続性、指揮命令の要件が必要とされるんですが、六条の二の「組織的犯罪集団」、その大集団の中の部分集団たる組織的犯罪集団にもこの二条の要件はかぶるということでいいですね。

林政府参考人 それはかぶります。なぜならば、第二条で、まず団体の定義を置いております。そして、団体の定義は「以下同じ。」という形で二条に書いてございます。それを受けて、六条の二は、「組織的犯罪集団」という用語を掲げた中で、その次の括弧の中で「団体のうち、」とございますので、二条における「団体」の定義が六条の二の中に入っているという理解でございます。

枝野委員 ここはちょっと、法律の文言論じゃなくて実態論の話をしたいと思うんですが、過去にいろいろ摘発された、今この法律ができれば組織的犯罪集団に該当するんだろうななんという組織とかのことを想像してみても、先ほど言った、大きな外側の団体と、その部分集団たる団体と、部分集団たる団体の方は犯罪を犯そうという集団だったとした場合、一般的には、その部分集団の方というのは、継続性の要件を満たさないことがほとんどなんじゃないですかね。

 実は、六条の二の条文を読むと、その後の、先ほど来るる議論をした遂行組織は、その都度アドホックにつくられる、こういう想定ですよね。

 だけれども、二条に基づく大きな団体、これは犯罪目的ではない。大きな団体としては持っている、正しい目的という日本語は余りこういう場面では使いたくないですが、一般、俗な言い方で、正しい目的で、環境を守ろうとか、変なところに基地をつくらせないようにしようとか、いろいろなことで正しい目的での大きな団体がある。その団体の中で、いや、ちょっと今の状況じゃなかなか打開できないから、今度ちょっとこういうことをやってみようぜというのが、その都度、その中のあるグループというか、ある集団のところで意思形成されてとか、ある宗教団体、全体としては犯罪を犯そうだなんて共同目的を持っていない、だけれども、その中で、その宗教団体の中心人物を取り囲む何人かで、これは世の中を驚かすことで何か信者をふやせるかもしれぬとかと言って犯罪を犯そうというのは、むしろ継続性のないケースの方が怖いんじゃないでしょうか。

 逆に言うと、そういう、犯罪を犯すんだということで継続性を持ってみんなで集まっている組織であるならば、継続性があれば、共謀罪で取り締まらなくても、過去に犯した犯罪で十分取り締まれると思うんですよ。

 それが、大きな組織、二条団体がある中で、その中のある人たちが組織的犯罪集団に該当するような合意形成がなされて団体と認められるような実態になったという初期の段階、まだ犯罪を実際には行っていない、過去に行っていなくても、継続性が想定されれば組織的犯罪集団になる、これは解釈としてそうならざるを得ないと思うんですが、そんなところで継続性の認定をできますか。

林政府参考人 委員、正しく御理解いただいているように、その団体の中で、組織的犯罪集団ということでは、その認識がない者については構成員となりませんので、そうすると、団体と組織的犯罪集団というものが、範囲が異なってくるということがあります。

 その場合に、そうした構成員から、共同の目的としての犯罪の実行というものを有していない人たち、これについては構成員ではなくなるわけでございますので、では、その構成員を除いた後の組織、団体が二条の「団体」でなければ、テロ等準備罪が成立する要件はないわけでございます。したがいまして、それは理屈からしてそのとおりでございます。

 ただ、そこからの問題としますと、実態としてそんなものが、先ほど、ごく一部のというふうに質問の中で言われましたが、常に成立するのが団体の中のごく一部の組織的犯罪集団というか、そのぐらいのボリュームのものだというのを前提といたしますと、そのようなものについては、その中に、共同の目的は犯罪実行を持っていても、組織によって反復するんだ、共同の目的を組織によって反復するような組織構造を持っているようなものがないのではないか、このような前提でお話しになっておられるのかもしれませんが、実際に過去の組織的犯罪処罰法の、今ある組織的犯罪処罰法の事件になった団体を見ますれば、その中で、今後それがテロ等準備罪の対象となるいわゆる組織的犯罪集団として認定できるであろうという実態は常にございますので、そういったものについては、当たらない場合も当然あるのかもしれませんが、テロ等準備罪の対象とすべき、いわゆる暴力団であるとかテロリズム集団というものについて、このテロ等準備罪の適用が十分に可能な状態にあると私は考えております。

枝野委員 にわかにはうなずけない答えなんですが、せっかくいい御答弁をいただいたので、今、過去のいろいろなケースで、本法ができれば組織的犯罪集団に当たり得るようなケースが幾つもあるとおっしゃっていただいたので、黒塗りとか仮名とかにしていいですから、速やかに委員会に提出してください。

 我々は、従来から申し上げているとおり、これは、特にテロ対策について、具体的にどういうケースに当てはまるんだとずっと問いただし続けてきて、答えてもらっていないんです。

 今、せっかくいいことを言っていただきました。過去の例から、そういうケースは幾つもあるとおっしゃっていますから、それは多分固有名詞でどうこうということで全部は出せない部分があると思うので、黒塗りとか仮名にするとかしていいですから、次回の委員会までに提出してください。

 委員長、お取り計らいをお願いします。

鈴木委員長 そのようにお願いします。

枝野委員 これは全部は行けないと思うんですが……

鈴木委員長 ちょっと待ってください。

 林刑事局長。

林政府参考人 組織的犯罪集団に該当するかという判断は、前から申し上げておりますように、組織的犯罪集団、個々の事案において、証拠によってしか認定ができません。したがいまして、組織的犯罪集団に正式に証拠をもって該当するといったものが、過去のものでこのようなものが考えられますというようなことを提示することは、それは困難でございます。

 私が申し上げているのは、過去の事案の中で、数々犯罪を犯し、そのために捜査の対象となったものがございます。捜査の対象となると、さまざまな、組織構造がどのようになっているのか、指揮命令がどのようになっているのか、こういった情報が集まっている団体は、これまでの、今の社会的な実態の中に存在するわけでございます。その中には、組織的犯罪集団という認定ができるものもあるであろう、それを前提としてテロ等準備罪を立案しているということでございます。

枝野委員 だから、その最後におっしゃったものが、あるだろうとおっしゃっているから、もちろんそれは裁判でもないし、起訴するわけでもないんだから、厳格にこれは当たりますとか当たりませんとかとは言えないのはよくわかっていますけれども、これこれ過去にこういう証拠収集をして、こういうふうに材料がそろっている、こういうケースについては組織的犯罪集団に当たる可能性が高いものと認識している。認識しているから今答弁しているんだから。

 そういうケースを、ましてその場合は、実際に取り締まりをされた犯罪そのものと直接関係ないことで外に出すわけですから、黒塗りにして、相手方、当事者が特定されないようにしていいですから、こういうケースなどが過去の例からすると組織的犯罪集団に当てはまりそうだということを考えて、こういう法律をつくっているんだと。

 その材料は提供してください。全然問題ないでしょう。

 ということで、委員長、お取り計らいをよろしくお願いします。

 よく後で理事会でまた相談してください。

鈴木委員長 理事会で協議します。

枝野委員 ここはぜひやらなきゃいけないと思っている話で、業務妨害罪。

 念のため、まず確認的です。刑法の業務妨害罪あるいは信用毀損罪と、別表三にも載っている組織的業務妨害罪等では、組織的という要件が加わる以外の部分、つまり、定義、解釈などは共通ということでよろしいですね。というのは、組織的業務妨害罪以外の刑法上の業務妨害罪等の判例が、組織的という要件以外のところでは全部当てはまりますねということです。

林政府参考人 組織的犯罪処罰法の要件は、これは加重要件でございますので、全て、組織性の部分を除いた要件というもので共通している部分については組織性のない犯罪のものの要件が当たります。

枝野委員 では、信用毀損罪かな、虚偽の風説の流布の、流布とはどういうことですか。

林政府参考人 流布の意義でございますが、大審院の判例で、公衆に伝播することをいうというふうになっております。

枝野委員 まさに表現行為なんですよ、表現行為そのものなんですよ。教科書的に言うと、不特定または多数人に伝播させること。メディアを初めとして、表現行為そのものです。

 先ほども申しましたが、大審院判決、大正四年二月九日、これはどういう案件か、簡単に説明してください。

林政府参考人 大審院、大正四年二月九日判決の事案のまず概要でございます。

 御指摘の事案は、新聞社の経営に従事していた被告人において、他紙の購読者を奪い、その業務を妨害する目的を持ちつつ、他紙と紛らわしい題号に改名し、題字及び題字欄の体裁を他紙に酷似させて新聞を発行したというものであると承知しております。

 御指摘の事案においては、弁護人が、被告人が経営する新聞社の発展のための正当な行為であると主張したものの、新聞紙の改題行為自体には違法性がないにしても、これを他人の業務妨害の手段として行うときは刑法二百三十三条の偽計に当たる旨判示した判決であると認識しております。

枝野委員 まさに、新聞の発行が問われるんですよ、信用毀損罪の判決なんですよ。

 ここで問題にしたいのは、この場合は題号とか体裁、模様のところが問われた話なんですが、紛らわしい題号に改題したり、体裁、模様を他紙に酷似させたようなものを発行したんですが、新聞の発行が信用毀損罪の対象になり得る。それはなり得るというのは僕はあり得るんだと思うんですが、問題は、これが共謀罪の対象になっている。

 共謀罪の対象になっているというのは、つまり、実際に信用毀損の表現行為がなされていない段階で取り締まるんですよ。そうでしょう。実際に実行に着手すればまさに表現行為、大衆に、不特定多数人に伝播させること、それが実行の着手ですから、不特定多数人に表現行為を伝播させる何らかの、それは信用を毀損させる正しくないことではあるんだけれども、それを事前に警察が取り締まることができるというふうに、信用毀損罪について共謀罪をつくるとなってしまう。それは間違いないですよね。

 あの組織的犯罪集団とかいろいろな要件がつくことはよくわかっています。よくわかっていますが、いろいろな要件はつくけれども、表現行為に対して、表現がなされる前の段階で取り締まれる、そういう法のたてつけになっている。これは間違いないでしょう。

林政府参考人 信用毀損行為を前提としてその計画をするということであれば、あくまでも、やはり申し上げますが、通常の新聞社は組織的犯罪集団ではございませんので成立しませんが、そのことを前提として、その行為自体については委員の御指摘のとおりであると考えます。

枝野委員 何が通常の新聞社か最近よくわからなくて。民間の一新聞社だったと思ったら、何か政府の広報機関だったり、と政府がおっしゃったりするぐらいなので、何が一般の新聞だかよくわかりませんからね。

 表現行為が実際になされる前に、共謀罪に該当すれば取り締まることができる、これは否定できないわけですよ。私も、事前に発行差しとめみたいなことを全部許さない、例外的なものを全部許さないという立場には立ちませんが、しかし、その組織的犯罪集団という要件のところが先ほど来申し上げているとおり曖昧である中では非常にリスクが高い、表現の自由に、この信用毀損罪等が対象犯罪に含まれていることで非常にリスクが高くなっているというところまで申し上げて、このことだけであと二時間ぐらいやらなきゃ、このことだけでですよ、必要なんですが、そのことを申し上げて、きょうの質問は終わらせていただきます。

 ありがとうございます。

鈴木委員長 次に、畑野君枝君。

畑野委員 日本共産党の畑野君枝です。

 組織的犯罪処罰法改正案、いわゆる共謀罪法案について質問いたします。

 まず、国際組織犯罪防止条約、TOC条約について伺います。

 我が党は、この条約の承認については賛成をしてまいりました。そこで、過去の議論についてもう一度振り返りたいと思います。

 まず、二〇〇三年四月十八日の外務委員会で、当時の川口外務大臣は、条約の趣旨について、「我が国がこの条約を締結して早期発効に貢献することは、国際的な組織犯罪に効果的に対処するための国際的な取り組みに寄与するとの見地から有意義であると認められます。」と述べておりました。それでよろしいですね。

岸副大臣 今、畑野委員のお問い合わせの件でございます。平成十五年四月十八日、外務委員会において、川口当時の外務大臣が、本条約を締結すべき理由について答弁をしております。本条約の第一条にございます、「一層効果的に国際的な組織犯罪を防止し及びこれと戦うための協力を促進すること」という趣旨を述べたものだ、このように考えております。

畑野委員 はい、お答えのとおりです。

 次に、二〇〇五年七月十二日の法務委員会で、当時の南野法務大臣は、「国際組織犯罪防止条約は、一層効果的に国際的な組織犯罪を防止し及びこれと戦うための協力を促進することを目的といたしております。」と述べられておりますが、それでよろしいですね。

金田国務大臣 御指摘のとおり答弁されていると思います。

畑野委員 お答えがございました。国際組織犯罪防止条約の趣旨は国際組織犯罪対策にあるということです。そのための締結国間の協力を促進するということなんですね。

 では、このTOC条約を締結することによって、我が国に具体的にどのようなメリットがあるのか。各締約国との関係でどのような連携強化が図られるのでしょうか。

岸副大臣 このTOC条約を締結することのメリットということでございますが、本条約は、テロを含む国際的な組織犯罪を一層効果的に防止し、これと闘うための協力を促進するための国際的な法的枠組みを創設する条約でございます。

 本条約の締結によって、例えば、さまざまな国際協力が可能となるわけですけれども、重大な犯罪の合意罪に関しましては、この条約を締結することによって、本条約が犯罪化を求めている重大な犯罪の合意罪について、我が国として、国際的な逃亡犯罪人引き渡し、あるいは捜査共助を要請し、または要請を受けることが可能になってまいります。

 捜査共助については、我が国との間で刑事共助条約を締結していない国との間で法的義務に基づく共助として一層確実に実施されることが確保され、また、より迅速かつ効率的に得られるようになることが期待をされておるところです。

 犯罪人引き渡しについては、我が国との間で引き渡し条約を締結していない国との間で犯罪人引き渡しの要請の実効性が高まるということが期待をされているところでございます。

畑野委員 つまり、条約によって、主に捜査共助と犯罪人の引き渡しということですよね。

 実際の捜査共助について伺いたいんですが、厚生労働省の資料で、第四次薬物乱用防止五か年戦略における主な施策として、目標五に、「薬物密輸阻止に向けた国際的な連携・協力の推進」というふうにあります。国連薬物犯罪事務所、UNODCとの連携などを含めて伺ってまいりましたが、具体的に、日常的に各国とどのような捜査あるいは情報のやりとりをしているのか、伺います。

森政府参考人 お答えいたします。

 御指摘のように、近年、海外からの薬物密輸ルートが多様化してございまして、薬物密輸対策における国際連携の重要性が高まっているところでございます。このため、厚生労働省麻薬取締部では、各国の取り締まり機関と、密輸の情報や捜査手法等を含めた積極的な情報交換を通じて、その連携強化を図っているところでございます。

 具体的には、世界の薬物乱用状況を把握し、統制強化目的の勧告等を行っております国連麻薬委員会を初めとして、アジア太平洋地域の取り締まり機関の代表が集まり、取り締まりの手法の検討や情報交換を行いますアジア太平洋薬物取締機関長会議、また、各国の捜査担当者同士による情報交換を行います国際協力薬物情報担当者会議、こうした国際会議が開催されておりまして、これらに参画することで、各国における取り締まり状況や密輸動向等の情報を入手するということと、加えて、日本国内におきます薬物事犯等への対策を初め、世界規模で蔓延しております危険ドラッグへの取り組み、これを発表するなどしまして、各国との緊密な協力関係を構築するようにしてきてございます。

 厚生労働省としましては、引き続き、国際会議等への積極的参加を通じて各国との連携を深めてまいりたいというふうに考えております。

畑野委員 わかりました。

 国際組織犯罪防止条約は、現時点でも取り組まれている捜査共助あるいは犯罪人の引き渡し、これをさらに効率的に進めようというものだと思うんですね。

 しかし、そのために共謀罪を新設して、刑法の大原則を根本から変えるということは許されないと言わなくてはなりません。

 国際組織犯罪防止条約起草時の交渉の議論について伺いたいと思います。

 二〇〇五年十月二十一日に、当時、小野寺外務大臣政務官は、このように答弁されております。「当初の共謀罪の規定は、重大な犯罪を行うことを合意するというものであり、また参加罪については、組織的な犯罪集団の犯罪活動またはその他の活動に参加する行為というものでした。」「そこで、我が国は、このままでは我が国の法制度と相入れない旨の意見を強く述べまして、」と述べております。

 このように答弁されておりますが、それでよろしいですね。

水嶋政府参考人 お答え申し上げます。

 本条約の交渉の初期におけます案文では、重大な犯罪の合意罪につきまして、組織的な犯罪集団が関与するものという要件を付すことが認められておりませんでした。その上に、重大な犯罪の範囲も定まっておりません。単に重大な犯罪を行うことの合意を処罰するというふうにされておりました。

 そこで、我が国といたしましては、その当時の案文のままでは受け入れられない旨の意見を述べた上で、重大な犯罪の合意罪について、組織的な犯罪集団が関与するものという要件を加えることを提案した次第でございます。

 議論の結果、重大な犯罪の合意罪につきましては、我が国の提案に基づきまして、組織的な犯罪集団が関与するものという要件を付すことができるというものにされまして、また、累次の議論の結果、重大な犯罪の範囲につきましても、長期四年以上の罪とされたということでございます。

 その上で申し上げますと、我が国においても、現実に法益侵害の結果が発生していなくても、その危険性がある一定の行為については、未遂犯、危険犯として処罰をされておりますし、また、特に重大な犯罪や取り締まり上必要がある一部の犯罪につきましては、予備罪、共謀罪、実行着手前の行為も処罰をされております。

 したがって、結果実現の危険性が高く悪質であります組織的な犯罪集団が行う重大な犯罪の合意について処罰すること、これは我が国の国内法の基本原則に反するものではないというふうに考えております。

畑野委員 このままでは我が国の法制度と相入れないと強く言って、我が国としても積極的な交渉を行った結果、我が国の主張が受け入れられ、本条約第五条の規定になったというふうに当時言っているわけなんですけれども、それにしても、そういうふうに言ってオプションがついた割には、そのオプションをきちんと前のときには使っていなくて今回出してくるということに触れるにつれ、条約の解釈というのはいろいろ幅があるんだなと今の御答弁でも思うわけなんです。

 そもそもこの条約では、犯罪成立要件について、各国の国内法の基本原則によって定めるということですよね。あらゆる条約はそういう原則だと思います。

 では、日本の刑罰法規の基本的な考え方について伺います。

 最高裁に伺いますが、二〇一二年十二月七日の堀越事件最高裁無罪判決では、国家公務員法第百二条第一項が禁止する政治的行為についてどのように判示しているのか。四ページの下から、「このような」というところから「相当である。」までお答えください。

平木最高裁判所長官代理者 委員御指摘の部分を読み上げます。

  このような本法百二条一項の文言、趣旨、目的や規制される政治活動の自由の重要性に加え、同項の規定が刑罰法規の構成要件となることを考慮すると、同項にいう「政治的行為」とは、公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが、観念的なものにとどまらず、現実的に起こり得るものとして実質的に認められるものを指し、同項はそのような行為の類型の具体的な定めを人事院規則に委任したものと解するのが相当である。

このように記載されております。

畑野委員 お答えいただきましたが、つまり、刑法で守られている人の利益、保護法益というのが実際に侵害される危険性があるときに限り処罰されるということだと思うんです。

 金田法務大臣に伺いますが、保護法益の侵害について、最高裁は、観念的なものにとどまらず、現実的に起こり得るものとして実質的に認められるものだというふうに述べております。これは刑法の大原則ではないかと思いますが、この最高裁の判決を受けて、御所見を伺います。

井野大臣政務官 先ほど最高裁の方から御答弁がありました判決についてでございますけれども、あくまでもこの最高裁の判示は、国家公務員法の規定に違反して政党の機関紙等を配布したという事案において、国家公務員の政治的行為を禁止する罰則規定が憲法二十一条一項、三十一条に反するのではないかということの判断に当たって、同法に禁止される政治的行為とはどのようなものであるかという解釈についてでございまして、刑罰権の発動云々かんぬんというところではないというふうに承知しております。

 すなわち、判決は、同法の規定する政治的行為とは、公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められる政治的行為に限られるということを前提に、そのような解釈のもとにおける罰則規定は不明確なものであるとしても、過度に広範な規制であるとも言えないということを示したものでございます。

 したがいまして、同判決が、法益侵害が観念的でなく現実的なものに処罰をするのが刑法の大原則であるということを示したものではないというふうに考えております。

畑野委員 最高裁でこのような判示が出たということについては、大臣、よろしいですね。

金田国務大臣 出ておりますことは承知をいたしております。

畑野委員 そうだと思います。

 当委員会の参考人質疑で、高山佳奈子京都大学教授は、「内心の自由、思想、良心、それから表現の自由など含む精神的自由というのは、経済的な自由と比べても一段と上の価値を有する。それを、いわんや刑事罰をもって制限しようというからには、相当の理由がないといけないわけです。 この認められる基準については、最高裁は、保護される利益に対する危険が単に観念的なものにとどまらず、現実的なものとして実質的に認められる場合でなければ処罰してはならない、これに反する処罰は憲法違反であるという考え方を示しているわけです。」というふうに述べております。

 それで、国際組織犯罪防止条約では、合意の処罰について、未遂または既遂に係る犯罪とは別個の犯罪とするというふうに述べております。さらに、国内法上求められるときは、当該合意の内容を推進するための行為を要件にしてよいというふうにしているんですが、その行為は既遂、未遂の前の段階ということでよろしいんでしょうか。であるならば、予備罪でも条約の要望に応えているということになるのではないかと思いますが、いかがですか。

水嶋政府参考人 お答え申し上げます。

 この条約の第五条一項(a)の(1)でございますが、重大な犯罪の実行の合意そのものを処罰の対象とするということを締約国に求めております。その上で、国内法上求められる場合には、合意の内容を推進するための行為という要件を付すことも認めているということでございます。

 この推進行為に予備行為といったもの、予備罪というのを当てるということにつきましては、裁判の例に見られますように、この予備行為ということについては、客観的に相当の危険性の認められる程度の準備が整えられた場合というふうなことになってございます。

 ですから、その考え方を前提といたしますと、そのような危険性の認められる程度の準備がなければ処罰ができないということで、この条約五条の趣旨に反するおそれが高いというふうに考えております。

畑野委員 反するというふうに言うんですが、当該合意の内容を推進するための行為に実質的な危険を要求していないということなんですか。実質的な危険がない行為を処罰するというのは、国内法の原則に反するんじゃないかというふうに思うんですね。ここは先ほどから議論されているんですが、あくまでも国内法の原則に即して解釈するべきだということです。

 この間の参考人質疑の中でも、日本の実務では、何らかの犯罪を共謀して一名が実行すれば、共謀共同正犯として全員が処罰対象になる、さらに、日本では、予備罪や抽象的危険犯、詐欺罪、建造物侵入罪等が、犯罪の準備段階に当たる行為を広く処罰している、ですから、条約がターゲットにする重大犯罪の合意の内容を推進するための行為というのは対応できるんじゃないかという意見が出されておりますが、この点についてはどうですか。

水嶋政府参考人 お答え申し上げます。

 若干繰り返しとなって恐縮でございますが、この条約の第五条1におきましては、重大な犯罪の実行の合意の処罰化を求めております。それに加えまして、国内法上求められる場合には推進行為といったものをオプションとして認めるというふうになってございます。

 ただし、それに予備行為、予備罪というものを当てるといった場合には、先ほど申し上げましたように、客観的に相当の危険性の認められる程度の準備が整えられた場合ということで初めて処罰がされるという解釈になってございますし、この条約が求めておりますのは、もともと合意を処罰するということになってございますので、この条約が求めている義務を満たすことができないのではないかというふうに考えております。

畑野委員 できないのではないかと考えているということですけれども、条約の解釈というのは、国の方も、政府の方も、幅があって次々と変わってきたということですよね。だから、考え直すべきだということを申し上げなくてはなりません。

 高山参考人は、国内法の基本原則に従った、憲法に従った組織犯罪対策というのがどの国にも求められているというのが条約の根本的な考え方なんだ、ここから出発して初めて、条約の五条であるとか、立法ガイド五十一項にも、そして国連からの御回答も、全てが整合的に理解できる、そして、それに基づいて日本は条約に参加することができると考えておりますと言っているんです。

 そういう点では、条約について審査する国際機関は存在しない、レビューだという話がありましたが、報告に過ぎないわけですよ。

 そういう点では、今回の共謀罪法案によって刑法の大原則が根本から変更されようとしている。政府の言う条約の効果を実現するためにそのようなことを進めて、処罰の対象ではなかった合意を処罰の対象にしていく、人権に大きな制限を加える、このことは条約の求める範囲を超えていると言わなくてはなりません。百六十人を超す刑法学者の専門家の皆さんが反対の声を上げていらっしゃるんです。

 それで、私、伺います。国際組織犯罪防止条約には自首減免規定はありませんね。

水嶋政府参考人 国際組織犯罪防止条約におきましては、国内法上、自首減免規定を設けるべきというような規定はございません。

畑野委員 それでは伺います。共謀罪法案第六条の二第一項ただし書きには、「実行に着手する前に自首した者は、その刑を減軽し、又は免除する。」という自首減免規定があります。なぜ条約にない規定が今回の共謀罪法案に書かれているんですか。

林政府参考人 テロ等準備罪の自首減免規定は、自首による刑の減軽または免除を必要的なものにすることによりまして自首を奨励し、重大犯罪が実行されて甚大な被害が生ずることを未然に防止しようという、これは政策的な配慮に基づいて規定を置いているわけでございます。

 こうした規定を置いた理由でございますが、自首減免規定そのものについては、条約上明示的に求められているものではございません。しかし、テロを含む重大犯罪の発生を未然に防止しようとする点におきましては、これは条約の趣旨に沿うものでありますので、今回設けることとしたものでございます。

畑野委員 金田大臣にちょっと確認なんですけれども、今の刑事局長の答弁で、政策的な配慮に基づいて自首減免規定を置いたということですが、そのことでよろしいですか。

金田国務大臣 突然の御指名でございますが、ただいまの御質問にお答えしますが、私どもの刑事局長から申し上げたとおりであります。

畑野委員 しかし、かつての共謀罪法案のときから、このことは大変議論になってまいりました。

 二〇〇五年十月二十六日の法務委員会での、日弁連の海渡雄一参考人からの発言です。

  このような規定があれば、犯罪を持ちかけた者が会話を録音するなどして相手の犯罪実行の同意を得た上で届け出た、録音テープ、ICレコーダーとかを持って届け出た場合、犯罪を持ちかけた方の主犯は処罰されず、それにうんと言って同意しただけの者が処罰される、こういう事態になりかねません。

  例えば、市民団体、労働団体の中に公安警察機関がスパイを送り込み、何らかの犯罪行為を行うことを持ちかけ、多くの関係者が同意したところで、それをテープに撮って警察に届け出た。犯罪の実行前に全構成員が逮捕されてしまう。しかし、持ちかけた本人は、その名前も住所も全くわからない、こういうことになりかねないわけです。こういう事態というのは、多くの国民を疑心暗鬼に陥れ、密告社会への道を開きかねないもの

ですと。

 日弁連は一貫して、重大な問題だと指摘されております。先日の国会内の院内集会でも、今も行われている市民監視の実態事例集で、七つの法律家団体、共謀罪法案に反対する法律家団体連絡会の資料の中でもその実態が書かれているとおりです。

 私は、このように条約に書かれていないことが書き加えられている法案、一方で、もう一つ聞きますけれども、対象犯罪についてなんです。

 公権力を私物化するような行為については入っていないという指摘があって、例えば警察などによる特別公務員職権濫用罪、これは入っておりませんが、なぜですか。

林政府参考人 特別公務員職権濫用の罪は、裁判、検察、警察の職務を行う者等がその職権を濫用して、人を逮捕し、監禁する罪でございます。

 この罪は、主体が、裁判、検察もしくは警察の職務を行う者またはこれらの職務を補助する者などに限定されております。現実の犯罪情勢等に照らし、これらの者が組織的犯罪集団の構成員となり、組織的犯罪集団の団体の活動として、当該犯罪行為を実行するための組織により実行することを計画するということ、これは現実的に想定しがたいと考えられたことから、今回対象犯罪としなかったものでございます。

畑野委員 資料につけさせていただきましたが、二〇〇〇年八月四日、警察官が公務員職権濫用の罪に問われて、大阪地裁は懲役三年、執行猶予五年を言い渡しております。あるいは、二〇一七年二月四日、警官、組員に捜査情報漏出疑惑、LINEで兄貴は再逮捕になっているよなどと送付したなど、そういうことは本当に枚挙にいとまがないわけです。

 一方で、恣意的に対象犯罪を選定したと言わざるを得ないんじゃありませんか。私は、緒方宅盗聴事件の住民訴訟の原告として、盗聴を許さないと訴えてまいりました。警察は、いまだに盗聴の事実も認めないし、謝罪もしない。このような警察の権限拡大を許すわけにはいかないわけです。

 先ほどからテロ対策と何度もおっしゃいますが、たった一人の犯人が行う単独犯のテロについては入っておりませんが、これはなぜでしょうか。金田大臣に伺います。

盛山副大臣 国際組織犯罪防止条約は、「一層効果的に国際的な組織犯罪を防止し及びこれと戦うための協力を促進すること」を目的とするものであります。

 同条約の第五条の1は、組織的な犯罪に効果的に対処するため、重大な犯罪の合意または組織的な犯罪集団の活動への参加の一方または双方の犯罪化を締約国に義務づけております。そして、そこで言う合意罪につきましては、TOC条約五条の1によりまして、「一又は二以上の者と合意すること」とされております。

 そういうことで、単独犯よりも複数の者の方が、一旦計画され、実行される可能性が高く、一たび実行された場合、重大な結果、莫大な不正利益が生ずることが多く、悪質で違法性も高い、そういうことで、このような単独犯によるテロ等の計画行為をその対象としなかったということでございます。

畑野委員 先ほどから、テロを含むとかテロ対策、そしてテロに万全にと言うけれども、こういうローンウルフ型のテロというのは入っていないということですよね。

 つまり、このTOC条約は何か。

 きょう資料につけましたけれども、参考人質疑でも紹介されたように、アメリカのノースイースタン大学のニコス・パッサス教授が、TOC条約の立法ガイド作成の中心人物でありますが、五月五日の朝日新聞のインタビューに答えて、TOC条約の目的はテロ対策ではないと言っているんです。なぜかといえば、「条約はイデオロギーに由来する犯罪のためではない。犯罪の目的について「金銭的利益その他の物質的利益を得ること」とあえて入れているのはその表れだ」「思想信条に由来した犯罪のための条約は既に制定され、国連安保理の決議もある。テロを取り締まるためには、これらが国際基準となっている」というふうに答えております。

 高山佳奈子参考人は、「テロ対策については既に立法的な手当てがなされております。五輪の開催は二〇一三年九月に決定いたしましたが、二〇一四年に改正されましたテロ資金提供処罰法の新しい条文により、テロ目的による資金、土地、建物、物品、役務その他の利益の提供、これが包括的に処罰の対象に新しくなったわけです。」「五輪対策は、事実上、テロの観点で申しますと完了しているように思われます。」というふうに言っているんですね。

 テロ対策というふうに国民を偽ってテロ等準備罪と言うわけですけれども、実態は共謀罪じゃありませんか。私は、この共謀罪というのは内心を処罰対象にする憲法違反の法案だ、断固として廃案を強く求めて、質問を終わります。

鈴木委員長 次に、藤野保史君。

藤野委員 日本共産党の藤野保史です。

 ちょっと順番を変えて質問させていただきたいと思います。

 配付資料の二番目になるわけですが、毎日新聞が二〇一五年六月十日付の調査で、二〇一〇年度から二〇一四年度の五年間で、憲法や平和・戦争、原発、特定秘密保護法の四つをテーマとするイベントについて、後援、いわゆる自治体がバックアップする、その後援申請を断った件数というのを調査しております。すると、五年間で倍増していた。二〇一〇年度は十九件だったものが、二〇一一年度二十三件、二〇一二年度には三十四件にふえて、その後、二〇一三年四十二件、二〇一四年三十六件と。ですから、二〇一〇年度の十九件から比べると倍増しているわけですね。これは、総務省にも同じようなデータを聞いたんですが、とっていないということで、こちらを紹介しております。

 同じく配付資料の三枚目、これはアエラの記事でして、いわゆる美術関係の表現のさまざまな展示が、いろいろな抗議、暴力的抗議も含めてやられることにおびえて取りやめたというような例が、これもこの五年間で見ますと、これはちょっと長いんですが、やはり二〇一二年度を境にどんどんふえてきているということであります。

 具体的な例で一つ御紹介したいのは、二〇一四年にさいたま市のある公民館で起きた事例でありまして、これは市民の俳句ですね。俳句の皆さん、大体四十ぐらいの作品から出席の方の互選でそれぞれ選んで、毎月一句を区民便りに載せるというものでして、配付資料の三枚目を見ていただきますと、左側が六月のものですが、一番下に俳句が載っていると思うんですね。

 ところが、七月には俳句欄そのものがなくなっている。七月にみんなが選んだ句は何かといいますと、こういう句なんです。梅雨空に憲法守れの女性デモ。これは、集団的自衛権の行使容認に反対するデモをごらんになったある女性が俳句に詠まれたもので、これが、みんながいいということで選んだわけですね。ところが、公民館側は、市の方は、俳句欄そのものを削除してこれを載せない。しかも、この七月号以降、この俳句欄はずっとなくなっているんです。住民の皆さんの文化的な営みの発表の場そのものがなくなってしまった。

 大臣に感想で結構なのでお聞きしたいんですけれども、二〇一二年度を前後して、原発、憲法、平和、こういう問題が、どんどん自粛とかそんたく、そう言われるものが進んできている、これは私は、安倍政権の姿勢が反映しているんじゃないかと思うんですが、大臣、これをどのように思われますか。

金田国務大臣 藤野委員の御質問にお答えをいたします。

 個別の集会の後援に関しますと、各自治体の判断について、資料の中に、御指摘のような……(藤野委員「個別には聞いていません、傾向です」と呼ぶ)傾向をお話しされました。

 各自治体の判断につきましては、法務大臣としては所感を述べることは差し控えさせていただきたい、このように思います。

藤野委員 安倍総理は、五月三日に、九条を名指しして、日にちも区切って、改憲、施行すると打ち出したわけで、今後、九条、俳句のみならず、どうなっていくのかというのが本当にますます心配になっているわけで。

 そして問題は、共謀罪なんですね。共謀罪ができたらどうなるのか。警察が絡んでくるわけです。その萎縮効果は行政による自粛、そんたくの比ではありません。

 これも具体的な例で見てみたいと思います。配付資料の五枚目を見ていただきますと、これは二〇一六年の七月、和歌山県和歌山市内で、選挙が近いから選挙に行こうと呼びかけていた女性たちのアピール行動、これを和歌山県警西警察署の警備課長以下四名がビデオで撮影をし、しかも中止をさせた、こういう事案であります。

 資料の五は弁護団の申入書なんですが、これを見ていただきますと、黄色で塗っているところなんですが、この警官の行動を受けて、「この女性達は、訳が分からないまま恐怖心を覚え、すぐに上記呼びかけを中止しました」、こう書いてあります。

 これは本当に、選挙に行こうという呼びかけですから、総務省にしてみれば、毎年毎年税金をかけてやっていることを、市民の皆さんが自分たちの好意でやってくれていると歓迎すべき行動なんですね。これが警察によって中止させられた。

 警察庁にお聞きしたいんですが、和歌山県警はこの行動について、これは選挙運動ではない、全員で声を合わせ選挙に行こうなどと叫んでいた点が集団示威に当たる、適正な職務執行だったと主張していると認識していますが、これは事実ですか。

白川政府参考人 お答え申し上げます。

 御指摘の事案は、平成二十八年七月一日、複数の方々が公共の場でシュプレヒコールを上げて気勢を示していた行為につきまして、和歌山県警察において、和歌山県の集団行進及び集団示威運動に関する条例に定める集団示威運動に該当する行為であると判断したことから、同条例に違反するとしまして、参加者に対し口頭で警告を実施したものと報告を受けているところでございます。

藤野委員 これは適正な職務執行だったという認識ですか。端的にお願いします。

白川政府参考人 お答えいたします。

 和歌山県警察からは、同県の先ほど申し上げました条例に照らして適正な警察活動を行っていたものであるとの報告を受けております。

藤野委員 これはとんでもない話なんです。どこが適正なのか。選挙に行きましょうと。今、気勢を上げていたとか言いましたけれども、これはとんでもない話ですよ。女性たちが参議院選挙前に、しかも、条例違反だと今おっしゃいましたけれども、こういう選挙の啓発活動というのは、条例に照らしても、六条二項で、許可を要しない行為なわけですね。ですから、こういうのは、示威活動、条例で言うような、意思を示すとか気勢を上げるとか、そんなことでないことはもう明らかなんです。それを警察が示威活動に当たると認定すれば、こういうのが勝手に認定されてしまうという例であります。とんでもない話だ。

 先日、私は岐阜県大垣署の市民監視事件を取り上げました。これもその後、岐阜県警本部長の文書で、これは公共の安全と秩序の維持に当たるという責務を果たす上で通常行っている警察業務の一環であると。あの事件の後でも本部長がこう言っているわけです。同じなんですね。今、適正とおっしゃった。通常業務とおっしゃった。こういうことを実際にやっているし正当化している警察に、共謀罪というものが与えられたらどうなるかということなんですね。

 これは本当に、市民の皆さん、普通に声を上げる、声を上げるといいますか、先日、小林よしのり参考人もおっしゃいましたけれども、やはり、子供が何かの目に遭ってしまうとかそういうところで、今までは物を言わない市民だったものが言わざるを得なくなる、しかし、それをしっかり支えるのが民主主義の要諦だという話もあったと思うんです。

 ですから、そういう点で、警察が、選挙に行こうよと、まさに日本の民主主義を発展させよう、こういうものが、何だか条例違反の示威活動であるなんといって中止をさせる、恐怖心を覚えさせる、これは絶対に私は許せないというふうに思います。

 共謀罪というものが成ってきますと、さらにこれが拡大していく。大垣署の事件もそうした話でありますが、そういう点で、この共謀罪というのは、本当に、単に個人を萎縮させるというだけじゃなくて、民主主義の発展にとっても私は問題だと思っております。

 そしてもう一点。政府は、共謀罪が、法案ができても捜査は変化がないんだと、大臣もおっしゃいます。本当なのか。

 配付資料の一枚目へ戻っていただきまして見ていただきたいんですが、この間、るる、法務省はいろいろおっしゃるんです。法務省の見解として、いや、今のところ盗聴を考えていませんとかいろいろおっしゃるんですが、実際に捜査を行う警察は何と言っているか。

 配付資料の一は、警察白書二〇一四年版であります。これは、日本と欧米各国等の捜査手法の比較というものをしておりまして、左側に、日本、イギリス、アメリカ、ドイツ、フランス、イタリア、オーストラリア、日本のところだけ会話傍受と仮装身分捜査にバツがつけられておりまして、これを見ると、日本は会話傍受や仮装身分捜査、スパイですね、こういうのはできないんだということが強調されております。

 警察庁にお聞きしたいんですが、この白書では、日本で会話傍受と仮装身分捜査を導入するメリット、こういうところがいいんだということについて、どのように説明しているんでしょうか。

高木政府参考人 御指摘の平成二十六年の警察白書におきましては、「日本において会話傍受が導入された場合に有効と考えられる点」といたしまして、「特殊詐欺や暴力団犯罪等の秘密保持が徹底された組織犯罪や、密室で行われる犯罪において、犯行の事前謀議や実行の指示、犯行後の逃亡の指示や証拠隠滅工作を把握することができるようになり、犯罪組織のリーダー等の検挙に資すること等が挙げられる。」と記載をされております。

 また、「日本において仮装身分捜査が導入された場合に有効と考えられる点」といたしまして、「暴力団のように秘密保持が徹底され、又は活動を潜在化させているような犯罪組織の実態解明や、組織外部の人間では把握・獲得が困難な組織の核心に迫る犯罪情報や物的証拠の入手に資すること、暴力団員等の捜査対象者が捜査員やその家族に危害を加える危険を回避できること等が挙げられる。」と記載をされているところでございます。

藤野委員 そのとおりであります。

 大臣にお聞きしたいんですが、今資料でもお配りしているんですが、会話傍受がなぜいいのか、それは特殊詐欺や暴力団対策にいいんだ、そして仮装身分捜査がなぜいいのか、それは暴力団のような集団にいいんだということなんですね。

 大臣は、この間、組織的犯罪集団の典型例として、暴力団、振り込め詐欺集団、薬物とかも挙げていましたけれども、そのうち、暴力団と振り込め詐欺集団、挙がっているわけですね。

 大臣、大臣もこれは警察庁と同じ認識だというふうに考えていいんでしょうか。

金田国務大臣 お答えをいたします。

 テロ等準備罪の捜査のあり方というものをお尋ねであろうと思います。

 今回の法整備は、刑事手続法ではなくて刑事実体法の改正であります。テロ等準備罪の新設に伴って新たな捜査手法を導入するものではありません。テロ等準備罪の捜査についても、現在行われている他の犯罪と同様の方法で、刑事訴訟法の規定に従って、必要かつ適正な捜査を行うことになるわけであります。

 したがって、通信傍受あるいは会話傍受といった点については、新たな捜査手法を導入するための法改正を行うことは全く予定をしておりません。

藤野委員 いや、私は予定とかを聞いておりません。警察は、これは有効だと言っているんです。大臣が挙げた振り込め詐欺集団や暴力団の捜査に有効だと言っているんです。大臣は有効とは思わないということですか、それだけお答えください。

金田国務大臣 お答えをいたします。

 現行法においても、ひそかに行われる謀議等に関する証拠の収集というものは、必要かつ適正な捜査によって行われているところでありまして、テロ等準備罪を通信傍受の対象犯罪に加えたり、会話傍受などの新たな捜査手法を導入することは不可欠とは考えておらないのであります。

藤野委員 不可欠とは考えておらない。

 私が聞いているのは、有効かどうかだけなんです。それだけお答えください。

金田国務大臣 私ども法務省の考え方といたしましては、ただいま警察の方からお話があったこととは私は別の立場で、この手法についての考え方は、先ほど私が答弁を申し上げたとおりであります。

藤野委員 ですから、共謀罪法案をつくって、それを運用する実態、現場の人たちと大臣の認識が全く違う、あるいは大臣がそこを答弁しない、どっちかなんですね。それじゃ国民は納得できませんよ。現場はこんなに有効だ有効だと、大臣が挙げた集団について言っているわけです。それを頑として認めない。

 では、どうやって捜査するんだと。いや、私たちは反対ですよ。しかし、そういう意味の、本当に不誠実といいますか、そういう答弁では、本当に国民は納得しません。審議も深まりません。

 では、内閣官房にお聞きします。

 安倍政権が二〇一三年十二月に閣議決定した「世界一安全な日本」創造戦略で、仮装身分捜査についてどのように記述していますか。

滝澤政府参考人 お答えいたします。

 委員御指摘の項目についてでございますけれども、そこにおきましては、「供述証拠収集手段の適正化・多様化、通信傍受の合理化・効率化等の客観的証拠収集手段の拡充、より充実した公判審理を実現するための諸方策等に係る法整備を行うとともに、捜査員が仮装の身分を使用して関係者と接触するなどして、情報・証拠の収集を行う捜査手法である、仮装身分捜査の導入について検討する。」としているところであります。

藤野委員 ですから、安倍政権の閣議決定で仮装身分捜査も導入を検討すると言っているわけです。警察庁だけじゃないんです。安倍政権全体として、これをやっていこうと閣議決定までしている。

 大臣、共謀罪が新設されたら、こういう新たな捜査手法を導入しようという動きが強まるのは明らかなんじゃないですか。いかがですか。

金田国務大臣 先ほどから申し上げていることに変わりはありません。

藤野委員 警察庁だけじゃないんです。閣議決定で仮装身分捜査の導入を検討すると言っている。共謀罪が導入されたら、それに有効だと警察の現場の人たちが言っている、こういう捜査手法が導入されるんじゃないですか。大臣、そうじゃないんですか。

金田国務大臣 先ほどと同じ答弁をもう一度申し上げた方がよろしいでしょうか。

 私は、先ほど申し上げたとおりであります。

藤野委員 本当に、ちょっと、そういう姿勢そのものが、刑罰権のかかわる重大法案に、全く大臣の資質を欠いていると言わざるを得ないと思います。

 もう一点、民主主義の問題で、時間もあれなのでお聞きしたいんですけれども、京都大学の毛利教授が、二〇一六年十一月の「法学セミナー」でこのような指摘をされているんですね。

 「表現の自由は選挙権とは異なり自由権であり、選挙における一票とは異なり各自の表現活動は法的に保障された力を有してはおらず、他者から無視されて何の影響力ももたない可能性が濃厚である。」つまり、選挙権は必ず一人一票ですけれども、表現の形態とかは、やはりそれは法的な保証もない、つまり、素通りされる可能性もあるという指摘であります。

 ですから、こうおっしゃっているんですね。「政治的議論に参加することは、」結局、「民意の形成に貢献している」んだけれども、「こんなやっかいなことに進んで参加する人が多くないのは当然ともいえる。」と。こういう言い方であります。

 こうおっしゃっているんです、大臣。

 「結局のところ、政治的議論に参加するインセンティブは、各人にとってはごく小さい。政治的議論によってこそ理性的な民意が形成されるというのに、その重要性とは裏腹に、各個人がそのような場に赴く意義を見いだすのは、容易ではない。だとすれば、法的制裁の予告による萎縮が、政治的言論に大変効果的に働くことは容易に理解できるであろう。」と。もう一回読みます。「法的制裁の予告による萎縮が、政治的言論に大変効果的に働く」。

 つまり、インセンティブがそんなに大きくないわけですね、政治的言論。民主主義にとっては大変重要なんですが、大変重要であるにもかかわらずインセンティブが小さい。そこに法的制裁の予告が加わったらどうなるか。ただでさえ面倒なことに、不利益をこうむるおそれまである。法的制裁という不利益をこうむるおそれまであるなら、そんなことに首を突っ込みたくない、こう考えるのは当然だという仕掛けなんですね。

 大臣に、最後、お聞きしたいと思います。

 共謀罪は、まさに法的制裁の予告そのものだと思うんですね。この新設は、単に個人の萎縮のみならず、日本の政治的言論、つまり、日本の民主主義そのものをやはり縮小させる、押し潰させていく、こういうことになるんじゃないですか、大臣。

金田国務大臣 テロ等準備罪の対象となる団体は、既に申し上げてまいりましたように、組織的犯罪集団に限定をされております。

 組織的犯罪集団とは、一定の重大な犯罪等を行うことを構成員の結合関係の基礎としての共同の目的とする集団をいいまして、国内外の犯罪情勢等を考慮すれば、テロリズム集団、暴力団、薬物密売組織などに限られるわけであります。したがって、一般の個人はもちろん、会社や市民団体や労働組合などの正当な活動を行っております団体は適用対象とはなりません。

 このような限定によって、言論活動や市民運動を行う一般の方々がテロ等準備罪の処罰の対象とならないことが明確となっておりまして、言論が封じられる、萎縮するといった懸念は当たらないものと考えております。

藤野委員 もう終わりますが、やはり今のもお答えになっていないんです、大臣。

 そういう法的制裁の予告をたくさんつくることが、萎縮効果を個人だけでなく日本の民主主義にも及ぼしていく。共謀罪法案はその点でも絶対に許されない、このことを強く指摘して質問を終わります。

鈴木委員長 次に、松浪健太君。

松浪委員 日本維新の会の松浪健太であります。

 本日、朝から自民党、公明党の先生方もお触れになりましたように、維新も含めて、我々、このたび修正案をまとめさせていただきました。そして、午前中に各党の党内手続が終わりまして、正式にこちらの方に提出される運びとなりました。

 私は、この委員会、この審査が始まる冒頭に一覧表をお示しいたしました。これには、GPS、それから可視化、通信傍受、まさにこうした各国の捜査手法の違いというものをお示ししたわけであります。こうした中で、今回は、特にGPS、そして我々が最も重視した可視化、そして親告罪の規定もしっかりと本則で明文化されたわけであります。

 我々がこれまでこの法案の趣旨を理解しながらも、我々は、車であれば、すぐれたブレーキと、そしてまたよい加速のアクセルを両方持ったチューンナップを行わせていただきたいという思いで、これを行ってまいりました。特に、アクセルが非常に加速が出ても、ブレーキがきかなければこれは事故を起こしてしまうということでありますので、国民の皆さんに安心をいただくために、特に、きょうも一般の方々がという話がありました。犯罪者というよりも、一般の方々がもしも巻き込まれてしまった場合にも、こうした皆さんに安心を担保していこうというのが我々の今回の修正の趣旨であったろうと思います。

 そして、特にこの修正案の中の可視化の部分でありますけれども、本則でまずこれまでの議論をしっかりと、この国会で民進党の皆さんもさまざまな懸念を示されました、こうした懸念をしっかりと、取り調べそしてその他の捜査を行うに当たっては適正を確保するということを本則で書かせていただいた上で、附則では、録音、録画については、現行もまだ録音、録画制度、御承知のようにトライアルの段階でありまして、本施行にはなっておりませんけれども、次の検討のときにはこれをトッププライオリティーでしっかりと検討していただくということも盛り込ませていただいて、そして附帯決議では、この法律が通ってすぐにでもこうした事案があるかもしれないということで、捜査の適正性をすぐにでも行っていただくというこの三段階。

 私はこれを、今回、可視化については三つの担保と呼ばせていただいておりまして、意義を本則でしっかりと定義して、そして附則で次の検討もしっかりと入れていく、そして附帯決議で、我々は、これからすぐにでも行われる捜査においてはしっかりと反映をしていただこうという趣旨であります。

 そして、この中では、第六条の四項として、私たちはここに、今申し上げました、「取調べその他の捜査を行うに当たっては、その適正の確保に十分に配慮しなければならない。」という文言を盛り込ませていただいております。

 この趣旨は、改正後の組織的犯罪処罰法第六条の二の罪における証拠収集方法として取り調べが重要な意義を有することとなり、自白偏重の捜査が行われる懸念があるとの指摘など、国会における議論を踏まえ、当該罪に係る取り調べその他の捜査について、その適正の確保に十分に配慮することを求めるものであるという趣旨でこの文言をつくらせていただいております。

 法務省の方もしっかりとこれはかかわっていると思いますけれども、法務省としては、私が今申し上げたこの趣旨を、今回の第六条四項を加えてくるに当たっては、そのように解釈されるということでよろしいでしょうか。

林政府参考人 ただいま、修正案をおまとめになった委員から、その規定の趣旨等について承ったわけでございます。

 もとより、御指摘の修正を含むテロ等準備罪処罰法案、成立した際には、御指摘の規定の趣旨、また、ただいまの御説明も十分に踏まえまして、法の趣旨に沿った適切な対応に努めてまいりたいと考えております。

松浪委員 ありがとうございました。

 我々が今回の可視化で示した点、そしてまた、きょうも民進党の皆さんも、この自白偏重の傾向というものは大変皆さん御懸念されているわけですから、この部分も我々は受けとめて、この六条四項をこれから活用していただきたいと考えるわけであります。

 GPSの点も、今回、本年の三月十五日の最高裁の判決で大変厳しい判決が出たという報道が出てまいりました。これも厳しいんですけれども、何もこれはGPSだけを、今回は附則でGPSの捜査について、これはかなり迅速な動きだと思います。これを可及的速やかに我々は検討して、捜査のあり方をこれから法律で規定していくことになろうとは思いますけれども、しかしながら、科学技術の進歩は大変速いものがありまして、私は、既にこのGPSですら時代おくれになりつつあるのではないかなというふうに思っております。

 特に、かつては公共空間と私的空間というのはしっかりと分かれていたわけであります。かつて安保法案のときの議論で、個別的自衛権と集団的自衛権、これがミサイル技術などによって交わる部分が出てきたんだなんという議論がありましたけれども、まさにこうした技術の発達によって、私的空間と公共的空間に関する考え方がやはりどんどん変わってきていると思います。

 これは今、さまざまな小さな、大臣は、花見、下見に行くときにこうやってカメラを持っていたりとか、いろいろおっしゃいましたけれども、最近は、秋葉原へ行くとペンの先にカメラがついておりまして、どこにカメラがあるかわからないというようなのが現状であります。

 それから、先日テレビ番組で、坂上忍さんですか、これから盗聴を見つけますと言って、アンテナを出してビーッと町の中を回るんですね。反応する反応すると言ってある女の子の家に入ったら、盗聴器をその番組で簡単に見つけ出して、それは大家さんが犯人だったんですけれども、それをそのまま警察に突き出していました。これぐらい簡単に、今、盗聴というのがそんなにたくさん広がっている。

 まさに司法が使わなくても、民間では既に盗聴なんてやるのは簡単だし、それぐらいプライバシーというもののあり方が変わっているんだと思いますけれども、きょう私が取り上げるのは、スティングレーという機械であります。

 スティングレーというのは、別名をIMSIキャッチャーといいます。なかなかIMSIというと聞きなれないかと思いますけれども、皆さんの携帯電話、SIMカードというのはよくお聞きになると思います。どうして、SIMカード、これは不思議ですね、携帯電話で通話すると、外国でも携帯電話がつながる。不思議なものだなと思いますけれども、このIMSIというのは、インターナショナル・モバイル・サブスクライバー・アイデンティティー、そういう識別番号が皆さんのSIMカードの中に入っている。だから、世界どこに行っても我々の携帯電話はつながる、こういう不思議なことがあるんです。

 このスティングレーという機械は大変恐ろしいものでありまして、アメリカなんかでは、車に積むタイプ、これは十キロ四方ぐらいの携帯電話の皆さんの番号を一気に数百キャッチできるというものであります。そしてまた、それでキャッチできたら、今度は手持ちタイプというのがあるらしいですね。さっきの坂上忍さんの番組みたいに、びゅうっと行くと犯人の番号のところへ行けたりとか、これができるわけであります。

 大変すさまじいもので、GPSに比べて、GPSはそれを取りつけた本人ですけれども、まさに国会でやったら大変なことになると思いますね。この辺で国会議員がみんな使っている番号が一気に出て、それがどこにつながっているかも見られて、物によってはテキストも抽出できてというような、さまざまな機能があるというふうに伺っております。

 このIMSIキャッチャー、これを日本で手に入れることは、キャッチャーを購入することは可能か違法かということをまず伺います。

金田国務大臣 まず初めに、最初にお話のありました、松浪委員が昨日のテロ等準備罪処罰法案の修正のお話をされました。その必要性や内容について極めて実のある真剣な検討をされておられたことに敬意を表したいな、こういうふうに申し上げたいと思います。

 その上で、その後の質問でございます。

 スティングレーそれからIMSIキャッチャーの件でございますが、その技術の内容も含めまして、必ずしもその使用方法の実情等を承知しているわけではございませんので、調べますと、一部の研究者の論文等によれば、携帯電話の基地局を偽装したり、携帯電話の位置情報や返信内容等の情報を取得する機器であるとされている、このように承知をしている次第でありますが、ただいまの御質問自体は、その技術の内容、使用方法といったものが定かではございませんので、私、法務大臣の立場としてお答えすることは差し控えさせていただきたい、このように思います。

松浪委員 つまり、法律というのは大変限定的なものですから、このIMSIキャッチャーについて、私がここにIMSIキャッチャーを持っていても、研究をしていても、これは必ずしも罪には当たらないというふうに理解をできるわけでありますが、大臣、それでよろしいんですね。

金田国務大臣 お尋ねの点につきましては、先ほども申し上げました、IMSIキャッチャーそれからスティングレーの技術の内容そして使用方法が定かでないという点を申し上げましたが、そういうことから、その点につきましては、御質問につきましては、お答えすることは差し控えさせていただきたい、このように考えております。

松浪委員 この程度の技術、各国では諜報機関というのが大変発達をしているわけでありまして、日本の場合はそうした目立った諜報機関はないわけでありますけれども、警察でも、公安というのは諜報機関と捜査機関が実に合体をしているものであります。

 本来は、私、今回、最初通告は警察庁に出していたわけでありますけれども、警察庁では、実は、全く研究も何もしていないと。これもそら恐ろしい話だなと。結局、僕は別に警察庁に聞いているんじゃない、政府全体としてのお答えをどういただいたらいいかということで、今回、金田大臣にお答えをいただくということになったわけであります。

 このIMSIキャッチャー、ですから、日本でこうやって持っていても、当然、違法でも何でもないというのが現実であります。大変高価で、何十万ドルもするものもあるらしいですけれども。ということは、これは、理論的には、令状の発付があればIMSIキャッチャーを使うことはできるんでしょうか、大臣に伺います。

金田国務大臣 先ほども申し上げたわけでありますが、IMSIキャッチャーそれからスティングレーの技術の内容、使用方法、そういったものが定かでないということで、法務大臣としてはお答えすることは差し控えますが、少なくとも、通信傍受法の定める手続によらずして携帯電話の通信内容を傍受するということは許容されないものと考えております。

松浪委員 内容が定かでないというのも政府としてはお寒い話でありまして、危機管理として全く問題があるな。

 アメリカでは捜査でこれを行っておりまして、アメリカのそうした民間団体が非常に情報公開を、一度政府が断ったものをもう一回、アメリカの修正第一条ですか、そうしたものに従って、これはどうなんだということで情報開示をさせて、一つの警察署で一つの捜査官が二百回ぐらい使っているとか、そういうような証言も出てきているようなものであります。

 最高裁も、GPSの最高裁判決でも、後段で、その使用が大変慎重であるべきだということはありましたけれども、立法されていなくても、非常に深刻な事案においては使用を禁止していない。甚大な被害を及ぼす可能性の高いテロ犯の追跡においては、こうしたものについては、私はいかなる手段も実は講じるべきじゃないかなというふうに思います。

 ですから、GPSも、最高裁判決は、立法がなくても深刻なものについてはこれを認めようということがあるわけで、これほどの、アメリカでもこれだけ問題になっているものを日本政府が承知していないというのは危機管理の面としていかがかなと思いますけれども、大臣、こうしたものを研究しなくていいんですか。

金田国務大臣 GPSの捜査の件につきましても御指摘がありました。

 先般の最高裁大法廷のGPS捜査に関します指摘について申し上げますと、御指摘の点について、最高裁大法廷判決におきましては、三名の裁判官の補足意見として、GPS捜査の特質に着目した立法的な措置が検討されるとしても、法制化までには一定の時間を要することもあると推察される、それまでの間、裁判官の審査を受けてGPS捜査を実施することが全く否定されるべきものではない、もっとも、これを認めるとしても、ごく限られた極めて重大な捜査のため、高度の必要性が要求されるんだなどと指摘されたものと承知をいたしております。

 もとより、この三名の裁判官の補足意見というのは、いわゆるGPS捜査について示されたものである上、お尋ねのIMSIキャッチャーあるいはスティングレーの使用が違法であるかという点については、その技術の内容、使用方法が定かでないことから、法務大臣として、お尋ねに対してお答えすることは差し控えさせていただくことにさせていただきたいと思います。

松浪委員 日本でもさまざまな、テロ等準備罪の議論をしているところで、こんな初歩的なというか決定的な機器の使用について政府が知らないなんということを言っているということは、これで日本のテロ対策は大丈夫かなと言われてもしようがないと思うわけであります。

 やはり、答弁にしても、こういうものについての研究は政府も不断にやらないと、逆に犯罪者がこのIMSIキャッチャーを使う犯罪があったら政府が対応できませんよと言っているに等しいことでありまして、もし私が今IMSIキャッチャーを使っていると、捜査機関は、内容はわかりませんと大臣が言っているものをどうやって捜査するんでしょうか、大臣。

金田国務大臣 何度もお答えしておりますが、お尋ねの点につきましては、御指摘のIMSIキャッチャーの使用方法あるいは技術の内容、水準といったようなものが現時点では定かでありませんので、お答えすることは非常に困難である、このように感じて申し上げておる次第であります。

松浪委員 定かでないというのは寂しい話ですけれども、今、このロー・ジャーナルの指宿先生の、今度、私が火曜日に参考人で呼ぶ先生の論文ですけれども、米国でもようやくこうした野放し状態について、IMSIキャッチャーが野放しだ、規制が始まろうとしていると。これを野放し、規制が始まろうとしているというのは、もうむちゃくちゃ普通にあって使われていて、問題になって、ようやく規制も入れようというものを、やはり日本政府が詳細はわからぬというのは、ちょっとこれは大変寂しい話であろうと思います。

 そこは、もう一回、これはもう政府は実は心の中ではわかっていただいているんだと信じて質問を続けたいと思うわけであります。

 このIMSIキャッチャーの使い方、どういうことに使えるかというと、やはりこれは、被疑者の使用する携帯電話というのがわかっている場合にはその所在を割り出す、これはGPS的な使い方ですね。その場所を割り出していくということもできるわけですけれども、これの場合は、被疑者の使用する携帯電話を追跡もできる。そして、被疑者を監視しているが、その人が使っている携帯電話が不明な場合には、その人がそこにいて携帯を使っているということがわかると、ぶわっとこのあたりの携帯電話が全部数字で出てきて、それの数をこうやって割り出すことによって、こいつが今、借りている携帯電話を使っているなということも割り出すことができる。

 さっき申し上げましたように、交信内容とか相手先、ネット接続先もこれは見られるということでありますけれども、こうした機能をもし捜査で使った場合には、これは憲法上の制約を受けるのかどうか、どうした場合に受けるのか、今申し上げた事例ですね、伺います。

金田国務大臣 ただいまの御指摘に対しましては、繰り返しになって恐縮でございますが、御指摘のIMSIキャッチャーの技術の内容や使用方法が定かでないということから、お答えすることは差し控えたい、このように思います。

 ただ、一般的に、何度も同じことをここで申し上げておりますので、つけ加えますと、刑事事件について、公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障というものを全うしながら事案の真相を明らかにするためには、必要かつ有用と考えられるさまざまな手法というものについて、通信技術を含む科学技術の目覚ましい進歩というのが一方であるという状況の中で、捜査のあり方との関係でも議論がいろいろと生じてくるものであろう、このようには考えております。

松浪委員 冒頭、テレビ番組の話を申し上げました。一般の皆さんがピーピーピーとこうやって、その辺で出ている盗聴器を簡単に見つけられる機器もあって、テレビ番組で、バラエティーで犯人が捕まるという、これぐらい冗談みたいなことができている中で、これだって、それをやれば、もうはるかに大変な事案が民間で出てくる。そこまで受け身になっては私は大変なことだと思いますけれども。

 まさにこうしたものは、私は、今回我々は修正でGPSを入れさせていただきましたけれども、GPSとか個別のことに対して対応しているだけでは、やはり、もはや我々は対応し切れないんだろうと思いますよ。

 ですから、我々が今、このテロ準備罪ができた後に、今回はGPSについては修正も入れましたけれども、やはり、先ほど冒頭申し上げました、私的空間とそれから公的空間の交わりというのがだんだん昔と変わってきているわけでありますから、我々はその辺でぱっと写真を撮られたら、それが一気に全国に拡散しているということもいっぱいあるわけで、もう公的空間における我々の私というのは大変危うくなってきているということでありますので、やはり、こうした包括的な監視規制というか、どこのあたりまでがこういうものが許容されるのかというようなことを法律で規定していかないといけないと思います。

 別にこれは通告していませんけれども、GPSとかこういう一つの個々の機器ではなくて、やはり、包括的な監視に対するガイドラインのような法律というのは今後法務省が行うべき仕事ではないかなと思いますけれども、大臣、いかがですか。

金田国務大臣 先ほども申し上げましたが、ただいまの御指摘の点というものは、不断に検討そして議論は行われていくのであろうというふうに考えておりますし、そういう意味においては、目覚ましい科学技術の進歩を横に、やはり私たちは十分な関心を持ってその議論や検討に参加していかなければいけないのかな、こういう思いを私は持っております。

松浪委員 ありがとうございました。

 こうした新たな概念を、率先して法務省の方でもさまざまな審議会等で新たなビジョンをつくっていただきたいと思います。

 もう時間もなくなってまいりましたけれども、可視化についてなんですが、今回、先ほど申し上げましたように、実質的な可視化と申しますか、本則、附則そして附帯決議でさまざまな担保を行っていくということでありますけれども、実は、我々も今回修正案をつくるに当たって、これは技術的にできるんじゃないかと。

 はっきり言って、法務省はアリの一穴が広がるのを恐れるという表現がよく使われるんですけれども、もはや昨年六月の刑訴法でアリはもう大穴をあけているわけでありまして、我々は実は、それを広げないでちょっと深くする、特にテロにかかわる犯罪について、百十のうち結局十七がこれに当たる、これについてだけでも可視化を義務化した方がいいんじゃないかというようなことを示してきたわけであります。

 そして、それを技術的にできるというようなことで、事例としては、例えば、窃盗で逮捕した被疑者について取り調べていた際にテロの計画書などが出てきてテロ等準備罪が当てはまるというような事案になった場合に、テロ準備罪に可視化を義務づけた場合、捜査現場ではどのような対応があるのかなということを、幾つも事例をつくったんですけれども、刑事局長の方には、三つ事例をつくりましたけれども、時間がないので、二番目の事例について答弁いただきたいと思います。

林政府参考人 テロ等準備罪、これを録音、録画の法的な対象事件とした場合どのようになるかということでございます。

 まず、対象事件でない窃盗により逮捕、勾留中の被疑者について、対象事件であるテロ等準備罪の嫌疑が生じまして、対象事件、いわゆるこのテロ等準備罪について取り調べを行う場合、この取り調べにつきましては、それが窃盗による逮捕、勾留中であったといたしましても、録音、録画の義務がかかるということになります。

松浪委員 例えば、現状でも次二年ほどで義務化をされる殺人罪、裁判員制度に適用される事案で、銃刀法違反で逮捕した被疑者を調べていると、こいつが実は殺人の疑いが濃厚になってきて、結果的に殺人犯だったというような、これは一の事例ですけれども、この銃刀法違反が、警察によると、拳銃の発射とかだったら最初から恐らく可視化はするけれども、ただの銃刀法違反だったら恐らく可視化はしないんだろうなというような現場の相場観というのがあるみたいですけれども。拳銃の発射罪とかではなくて、まさにこれが普通の銃刀法違反の、所持していたというだけの案件であれば、先ほど私が二の事例と申し上げました、窃盗で逮捕していた被疑者について取り調べていて、テロの計画書が出てきて準備罪が当てはまるというのと技術的にはほぼ同じ構図になると考えるんですけれども、刑事局長、いかがですか。

林政府参考人 結局、改正の刑事訴訟法は、逮捕もしくは勾留されている被疑者を対象事件について調べるときには録音、録画義務がかかるという考えでおりますので、先ほどの事例と今の御指摘の事例とでは、その考え方は同じでございます。

 したがいまして、録音、録画義務の対象でない事件で逮捕、勾留されておりましても、その者について、対象事件である、例えば殺人罪について被疑者を取り調べるときには録音、録画の義務がかかってくるということになります。

松浪委員 大変すばらしい答弁でありまして、今さらになりますけれども、この通告をしたのは五月二日の質問のためだったので、修正の前に実はこれをやりたかったんです。

 ですから、実際は、我々がテロ準備罪に実はこれを義務づけていたとしても、技術的にそうこれが変わるというものでもないし、大してアリの一穴が広がるわけでもなくて、我々が最後に出した案では、穴は一緒だけれどもちょっとテロ準備罪という深さが深くなるというだけだったので、本当は私は、これの方が非常に国民の皆さんには明確に御安心をいただけたのではないかなというふうに思うわけであります。今、刑事局長の答弁は、大変切れ味のいいというか、すっきりとしたものだったというふうに思います。

 それで、もう一点だけ、先ほどの窃盗の話に戻るんですけれども、窃盗容疑で逮捕した被疑者だけれども窃盗容疑では起訴することはできません、しかし、テロの計画書などが出てきて、テロ準備罪なら逮捕できそうだというときには、テロ準備罪に可視化を義務づけていた場合には捜査現場ではどのような対応がなされ得るのかということですね。この三番の私がつくった事例を伺いたいと思います。

林政府参考人 委員の御質問は、例えば窃盗罪で逮捕した被疑者で、その間にテロ等準備罪の嫌疑が生じた、そこでテロ等準備罪で再逮捕して後に取り調べる場合、こういった場合を想定されていると思いますけれども、テロ等準備罪での再逮捕後については、これは対象事件による逮捕、勾留中に対象事件であるところのテロ等準備罪についての取り調べをする場合でございますので、当然にその録音、録画の義務がかかるということになります。

松浪委員 最後の事案は大変わかりやすくて、普通にそのまま再逮捕しちゃえばいいんだということで、今まで我々が一般的に見ている事案の中では非常にわかりやすい形だったと思います。

 今さらになりましたけれども、我々が可視化を義務づけようということを見据えて今までやってきたものは、私もこうした質問が早い段階でできればよかったんですけれども、技術的にはこれは十分機能すべきものだと思います。

 そして、今回の法改正でありますけれども、やはり我々に求められているのは不断の努力であろうかと思います。今後、こうしたことも踏まえて、これからの事案も踏まえて、これは不磨の大典ではありませんので、ますます国民の皆さんに安心していただけるように、今後も法務省の方でもしっかりと御研究をいただくようお願いを申し上げまして、質問を終わります。

 ありがとうございました。

    ―――――――――――――

鈴木委員長 この際、本案に対し、平口洋君外四名から、自由民主党・無所属の会、公明党及び日本維新の会の共同提案による修正案が提出されております。

 提出者から趣旨の説明を聴取いたします。松浪健太君。

    ―――――――――――――

 組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案に対する修正案

    〔本号末尾に掲載〕

    ―――――――――――――

松浪委員 ただいま議題となりました修正案につきまして、自由民主党・無所属の会、公明党及び日本維新の会を代表し、その趣旨を御説明申し上げます。

 政府提出の法律案についての当委員会におけるこれまでの議論を踏まえ、自民、公明及び維新の三党で真摯な修正協議を重ねた結果、今般、次のような内容の修正案を提出することで合意に至ったものであります。

 以下、この修正案の主な内容について御説明申し上げます。

 第一に、テロ等準備罪の対象犯罪のうち告訴がなければ公訴を提起することができないもの、いわゆる親告罪に係るテロ等準備罪について、告訴がなければ公訴を提起することができない旨を明記することとしております。

 第二に、テロ等準備罪に係る事件についての被疑者の取り調べその他の捜査を行うに当たって、その適正の確保に十分に配慮しなければならない旨の規定を追加することとしております。

 第三に、附則の検討条項として次の二つの事項について定めることとしております。

 一、政府は、刑事訴訟法等一部改正法附則第九条第一項の規定により取り調べの録音、録画等に関する制度のあり方について検討を行うに当たっては、新組織的犯罪処罰法第六条の二第一項及び第二項の規定の適用状況並びにテロ等準備罪に係る事件の捜査及び公判の状況等を踏まえ、特に、当該罪に係る事件における証拠の収集の方法として被疑者の取り調べが重要な意義を有するとの指摘があることにも留意して、可及的速やかに、当該罪に係る事件に関する当該制度のあり方について検討を加えるものとする。

 二、政府は、テロ等準備罪に係る事件の捜査に全地球測位システムに係る端末を車両に取りつけて位置情報を検索し把握する方法を用いることが事案の真相を明らかにするための証拠の収集に資するものである一方、最高裁判所判決において、当該方法を用いた捜査が、刑事訴訟法上、特別の根拠規定がある場合でなければ許容されない強制の処分に当たり、当該方法を用いた捜査が今後も広く用いられ得る有力な捜査方法であるとすれば、これを行うに当たっては立法措置が講ぜられることが望ましい旨が指摘されていることを踏まえ、この法律の施行後速やかに、当該方法を用いた捜査を行うための制度のあり方について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。

 以上が、この修正案の趣旨及び内容の概要であります。

 何とぞ、御審議の上、委員各位の御賛同をお願い申し上げます。

鈴木委員長 これにて修正案の趣旨の説明は終わりました。

     ――――◇―――――

鈴木委員長 次に、本日付託になりました階猛君外二名提出、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律の一部を改正する法律案を議題といたします。

 提出者から趣旨の説明を聴取いたします。逢坂誠二君。

    ―――――――――――――

 組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律の一部を改正する法律案

    〔本号末尾に掲載〕

    ―――――――――――――

逢坂議員 ただいま議題となりました法律案につきまして、民進党・無所属クラブ及び自由党を代表し、その趣旨を御説明申し上げます。

 政府が提出しているいわゆる共謀罪法案に対しては、多くの国民が不安を感じ、国民的な理解が得られているとは到底言えない状況であり、断じて賛成することはできません。

 そもそもTOC条約は、包括的な共謀罪など創設せずとも締結することが可能であり、さまざまな問題をはらむいわゆる共謀罪法案は直ちに廃案とし、早急にTOC条約を締結すべきものと考えております。

 その上で、組織的犯罪対策については、我々としても非常に重要であると考えております。我が国における最近の組織的な犯罪の実情等を鑑みますと、一定の犯罪類型については、予備の段階から処罰することが国民的な合意となっているものと考え、この法律案を提出することとした次第です。

 以下、この法律案の主な内容について御説明申し上げます。

 第一に、組織的な人身売買及び組織的な詐欺について、組織的犯罪処罰法にその予備罪を創設することとしております。

 第二に、この法律案は、公布の日から起算して二十日を経過した日から施行することとしております。

 以上が、この法律案の趣旨及び内容の概要であります。

 何とぞ、御審議の上、委員各位の御賛同をお願い申し上げます。

 以上です。

鈴木委員長 これにて趣旨の説明は終わりました。

    ―――――――――――――

鈴木委員長 この際、参考人出頭要求に関する件についてお諮りいたします。

 内閣提出、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案及びこれに対する平口洋君外四名提出の修正案並びに階猛君外二名提出、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律の一部を改正する法律案の審査のため、来る十六日火曜日午前九時、参考人の出席を求め、意見を聴取することとし、その人選等につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

鈴木委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

 次回は、来る十六日火曜日午前八時五十分理事会、午前九時委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。

    午後五時十分散会


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