第14号 令和3年4月16日(金曜日)
令和三年四月十六日(金曜日)午前九時開議
出席委員
委員長 義家 弘介君
理事 伊藤 忠彦君 理事 稲田 朋美君
理事 奥野 信亮君 理事 宮崎 政久君
理事 山田 賢司君 理事 稲富 修二君
理事 階 猛君 理事 大口 善徳君
井野 俊郎君 大塚 拓君
神田 裕君 黄川田仁志君
国光あやの君 小林 鷹之君
斎藤 洋明君 武井 俊輔君
出畑 実君 中曽根康隆君
野中 厚君 深澤 陽一君
藤原 崇君 盛山 正仁君
山下 貴司君 吉野 正芳君
池田 真紀君 寺田 学君
中谷 一馬君 松平 浩一君
屋良 朝博君 山花 郁夫君
吉田 宣弘君 藤野 保史君
串田 誠一君 高井 崇志君
…………………………………
法務大臣 上川 陽子君
法務副大臣 田所 嘉徳君
法務大臣政務官 小野田紀美君
最高裁判所事務総局民事局長 門田 友昌君
最高裁判所事務総局家庭局長 手嶋あさみ君
政府参考人
(内閣府男女共同参画局長) 林 伴子君
政府参考人
(法務省大臣官房審議官) 山内 由光君
政府参考人
(法務省民事局長) 小出 邦夫君
政府参考人
(外務省大臣官房審議官) 赤堀 毅君
政府参考人
(外務省大臣官房参事官) 河津 邦彦君
法務委員会専門員 藤井 宏治君
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委員の異動
四月十六日
辞任 補欠選任
井出 庸生君 斎藤 洋明君
同日
辞任 補欠選任
斎藤 洋明君 井出 庸生君
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四月十六日
出入国管理及び難民認定法及び日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法の一部を改正する法律案(内閣提出第三六号)
は本委員会に付託された。
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本日の会議に付した案件
政府参考人出頭要求に関する件
少年法等の一部を改正する法律案(内閣提出第三五号)
裁判所の司法行政、法務行政及び検察行政、国内治安、人権擁護に関する件
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○義家委員長 これより会議を開きます。
内閣提出、少年法等の一部を改正する法律案及びこれに対する松平浩一君外二名提出の修正案を一括して議題といたします。
本案及び修正案に対する質疑は、去る十四日に終局いたしております。
これより原案及び修正案を一括して討論に入ります。
討論の申出がありますので、順次これを許します。階猛君。
○階委員 私は、立憲民主党を代表し、少年法等の一部を改正する法律案につきまして討論します。
まず大前提として、政府案が成立すると、国法上、成人の定義はなくなります。すなわち、民法の成年年齢に達したからといって、直ちに成人ないし大人になったとは言えないわけです。国法上の統一性の見地から、少年法上の諸般の規定の適用を十八歳までとする必然性がなくなることを確認しておきます。
その上で、政府案が、「少年の健全な育成を期し、非行のある少年に対して性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行う」とする少年法一条の目的規定が十八、十九歳の特定少年にも従来どおり適用されるとしつつも、目的達成の重要な手段たる以下の三つの制度を特定少年に適用しないとするのは、極めて不合理であります。
第一に、政府案は、将来罪を犯すおそれがある虞犯者を保護処分の対象とする規定を特定少年に適用しません。その理由として、十八歳になれば民法上の監護権という皿がなくなるからだという政府答弁がありました。しかし、皿に載っていようがいまいが、腐りかけている少年がいれば手を施して正しい姿にして世に送り出すのが、少年法の目的に沿う対応です。
第二に、政府案は、前科者に対する資格制限を及ぼさないとする規定を特定少年に適用しません。その理由として、十八歳になれば責任ある主体だからとの政府答弁がありました。しかし、資格制限が及ぶ具体的な職種等を政府は把握しておらず、政府の方が無責任です。政府も前科による資格制限の在り方を検討する方針である以上、現時点で少年の進路を狭め、生計を立てることを困難とし、被害者に賠償責任を果たすことを困難とする資格制限につき、特定少年に適用することはやめるべきです。
第三に、政府案は、いわゆる実名推知報道を禁止する規定を特定少年に適用しません。その理由として、報道の自由に配慮するとの政府答弁がありました。実名推知報道後に無罪になったり保護処分になったりした場合、現代のネット社会において、特定少年が失う健全育成の利益は報道の自由をはるかに上回ります。報道の自由を金科玉条にするのはやめ、実名推知報道は禁止すべきです。
なお、私たちは、少年犯罪により親族を失い、決して消えることのない怒りと悲しみを味わった被害者遺族の方のお話も重く受け止めました。少年事件については、加害者の実名推知報道を禁止するだけでなく、被害者側の名誉やプライバシーも尊重しなければなりません。
以上の問題点を解決するため、私たちは修正案を提出しました。これが受け入れられれば、修正後の法案に賛成します。しかし、修正案が受け入れられなければ政府案に反対せざるを得ません。
以上申し上げまして、私の討論を終わります。
○義家委員長 次に、藤野保史君。
○藤野委員 私は、日本共産党を代表して、少年法一部改正案に反対の討論を行います。
本案の最大の問題は、立法事実を欠くことです。少年事件は大幅に減少し、再犯率も抑えられています。政府・与党も少年法が有効に機能していることを認めています。今求められているのは、少年法を更に有効に機能させるために、少年処遇に関わる人や現場への支援を抜本的に強化することです。
ところが、本案は、十八歳、十九歳の少年を特定少年と位置づけ、成人と同様に刑事法の応報原理の対象とするものです。これは、少年の健全育成という保護原理に基づく基本理念を後退させる重大な改悪です。
与党推薦の参考人から、言葉は同じ保護処分だが、刑罰に近づくとの説明があり、元家裁調査官の参考人からも、刑事法の概念が持ち込まれることで保護機能が後退することは明らかと指摘されました。少年法の理念と相入れない応報原理を持ち込むことは、特定少年はもとより、少年法の在り方全体をゆがめるものであり、断じて認めるわけにはいきません。
本案は、原則逆送の範囲を強盗など短期一年以上の罪に拡大しますが、現行の運用では不起訴や執行猶予になる可能性が高く、多くの特定少年から、真摯に反省する機会が奪われます。
ネット上の誹謗中傷が原因で自殺する例も相次いでおり、実名推知報道を解禁するリスクは極めて大きいものです。少年自身、さらには家族や学校現場などに及ぼす影響は甚大です。絶対に解禁すべきではありません。
資格制限は、少年の立ち直りに重大な影響を与えます。ところが、法務省は、自ら法案を提出しておきながら、制限される資格の全体像を把握しておらず、無責任の極みです。
コロナ禍の下、虞犯の原因となる虐待や性暴力などが増加しています。有効な対策を整備しないまま、最後のセーフティーネットとなっている虞犯規定をなくす政府の姿勢は許されません。
日本の未来を支える少年に関わる重大な法案を不十分な審議のまま採決することは認められない、このことを強く指摘して、討論を終わります。
○義家委員長 次に、串田誠一君。
○串田委員 少年法等改正法案について討論いたします。
成人となる年齢が来年から十八歳に引き下げられることから、刑事責任においても成年と同等の責任を負うべきであるという指摘は十分理解できます。しかし、本法案は現在の状況を取り入れたものであるとは思えません。
特に、推知報道に関する少年法第六十一条は、前身が大正十一年に制定されたものであり、現行法は昭和二十三年に一部改正されたものの、現在までそのままです。文言は、大正十一年時代の、新聞紙その他の出版物に掲載してはならないのままで、これでは、どこまでがよくてどこからが禁止されているのか分かりません。
昭和二十三年の当時は、新聞紙その他の出版物による一過性のものであり、検索も困難でしたが、今はどうでしょうか。掲載される範囲は無制限、何十年経過しても検索されてしまいます。本来報道されてはならない共犯者や関係者、性犯罪などにより報道されるべきではない被害者なども、事案によっては推知されることで人生が左右されかねません。これらの配慮はあるでしょうか。個人情報の伝達技術や効果が現在とは全く異なる昭和二十三年の制定を前提にするべきではないのです。ネット社会の誹謗中傷により自殺に追い込まれる若者の現状を放置したままにしてはいけません。
また、逆送されても略式命令になれば推知報道がされないことから、仮に冤罪であったとしても、正式裁判になれば推知報道による社会的制裁を考え、不本意ながら略式命令を選択することは容易に想定できます。
最後に、本会議の質疑で申し上げましたが、日本は、子どもの権利条約を一九九四年に批准しながら履行していないとして、国連やEUから非難されています。貧困や虐待、親との接触などが十分ではない環境に置かれた子供の権利を守ろうとせず厳罰に向かう国の姿勢に反省を求めることも含め、反対いたします。
○義家委員長 次に、高井崇志君。
○高井委員 私は、国民民主党・無所属クラブを代表して、少年法等改正案に対する討論を行います。
政府原案は、十八歳及び十九歳の者を特定少年とし、その立場に応じた特例を設けようとするものでありますが、その特例について懸念が示されております。
特定少年について虞犯による保護処分の対象としないこととしていますが、養育環境や家庭環境から犯罪に引き込まれかねない十八歳及び十九歳の少年少女をすくい上げ、立ち直りの機会を失わせる懸念が、本委員会の質疑で指摘されました。
次に、特定少年の保護処分に犯情の軽重による上限を課すことについては、少年の要保護性に応じた保護処分を選択できないおそれが指摘されています。適切な処遇選択を制約することにより、少年の健全育成という少年法の目的を全うできないおそれを指摘せざるを得ません。
また、いわゆる原則逆送の対象事件を短期一年以上の罪にまで拡大することは、強盗のような犯情の幅が極めて広い犯罪類型が含まれることとなり、本来保護処分による処遇が望ましい事案を検察官送致し、保護処分という改善更生、再犯防止に向けた働きかけが必要なケースも刑事処分では単純執行猶予になるなどによって、そのような働きかけが全くないという不当な結果を招くおそれがあります。
さらに、特定少年が刑事処分を受けた場合には、資格制限を排除する特則の適用がなくなります。少年の社会復帰、被害者への賠償には、安定的な就労が不可欠であります。また、政府が閣議決定した再犯防止推進計画においても、再犯防止に就労が重要であるとの認識の下、資格制限の在り方を検討するとしており、その政府の方針と逆行するものと言わざるを得ません。
また、とりわけ推知報道の禁止解除は、私を含めて多くの委員が疑問を呈してきました。推知報道の禁止は、少年の保護、更生を図るとともに、それが再犯を予防する上で効果的であるとされ、現代では、インターネット上に一旦掲載されると不特定多数の者に容易に知られ得る状態が半永久的に続くこととなり、その意義は更に大きくなっています。その意味からも、インターネット上で被害者やその家族又は遺族の名誉、プライバシーが侵害されている現状を踏まえれば、その対象はむしろ広げるべきです。
立憲民主党・無所属提出の修正案は、以上申し上げました懸念事項に一定の対応をしようとするものであり、賛成いたします。
政府原案には、以上申し上げたとおりの懸念すべき点がありますが、選挙権が付与され、民法上の成年年齢に達することとなる十八歳及び十九歳の者について、引き続き少年法を適用し、全件を家庭裁判所に送致することによって改善更生、再犯防止を図ろうとすることは評価するものであり、修正案が否決された場合には賛成することを表明して、私の討論を終わります。
○義家委員長 これにて討論は終局いたしました。
―――――――――――――
○義家委員長 これより採決に入ります。
内閣提出、少年法等の一部を改正する法律案及びこれに対する修正案について採決いたします。
まず、松平浩一君外二名提出の修正案について採決いたします。
本修正案に賛成の諸君の起立を求めます。
〔賛成者起立〕
○義家委員長 起立少数。よって、本修正案は否決されました。
次に、原案について採決いたします。
原案に賛成の諸君の起立を求めます。
〔賛成者起立〕
○義家委員長 起立多数。よって、本案は原案のとおり可決すべきものと決しました。
―――――――――――――
○義家委員長 この際、ただいま議決いたしました本案に対し、奥野信亮君外三名から、自由民主党・無所属の会、立憲民主党・無所属、公明党及び国民民主党・無所属クラブの共同提案による附帯決議を付すべしとの動議が提出されております。
提出者から趣旨の説明を聴取いたします。稲富修二君。
○稲富委員 ただいま議題となりました附帯決議案につきまして、提出者を代表して、その趣旨を御説明申し上げます。
案文の朗読により趣旨の説明に代えさせていただきます。
少年法等の一部を改正する法律案に対する附帯決議(案)
政府及び最高裁判所は、本法の施行に当たり、次の事項について格段の配慮をすべきである。
一 新たに原則逆送の対象となる罪の事件、とりわけ強盗罪については、様々な犯情のものがあることを踏まえ、家庭裁判所が検察官に送致するかどうかを決定するに当たり、適正な事実認定に基づき、犯情の軽重を十分に考慮する運用が行われるよう本法の趣旨の周知に努めること。
二 十八歳及び十九歳の者の健全育成及び非行防止のためには、早期の段階における働き掛けが有効であることに鑑み、少年非行対策及び福祉支援策における関係府省庁の連携・協議の枠組みを強化するとともに、関係諸機関、団体等と有機的に連携しつつ、適切な保護、支援を行うための施策の一層の推進を図ること。
三 罪を犯した者、とりわけ十八歳及び十九歳などの若年者の社会復帰の促進を図るため、前科による資格制限の在り方について、対象業務の性質や実情等を踏まえつつ、府省庁横断のしかるべき場を設けるなどして、政府全体として速やかに検討を進め、その結果に基づいて、法改正を含め必要な措置を講ずること。
四 特定少年のとき犯した罪についての事件広報に当たっては、インターネットでの掲載により当該情報が半永久的に閲覧可能となることをも踏まえ、いわゆる推知報道の禁止が一部解除されたことが、特定少年の健全育成及び更生の妨げとならないよう十分配慮されなければならないことの周知に努めること。
五 少年事件に関する事件広報に当たっては、被害者及びその家族・遺族の名誉又は生活の平穏が害されることのないよう十分配慮されなければならないことの周知に努めること。
以上であります。
何とぞ委員各位の御賛同をお願い申し上げます。
○義家委員長 これにて趣旨の説明は終わりました。
採決いたします。
本動議に賛成の諸君の起立を求めます。
〔賛成者起立〕
○義家委員長 起立多数。よって、本動議のとおり附帯決議を付することに決しました。
この際、ただいまの附帯決議につきまして、法務大臣から発言を求められておりますので、これを許します。上川法務大臣。
○上川国務大臣 ただいま可決されました少年法等の一部を改正する法律案に対する附帯決議につきましては、その趣旨を踏まえ、適切に対処してまいりたいと存じます。
また、最高裁判所に係る附帯決議につきましては、最高裁判所にその趣旨を伝えたいと存じます。
―――――――――――――
○義家委員長 お諮りいたします。
ただいま議決いたしました法律案に関する委員会報告書の作成につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○義家委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。
―――――――――――――
〔報告書は附録に掲載〕
――――◇―――――
○義家委員長 次に、裁判所の司法行政、法務行政及び検察行政、国内治安、人権擁護に関する件について調査を進めます。
この際、お諮りいたします。
各件調査のため、本日、政府参考人として内閣府男女共同参画局長林伴子君、法務省大臣官房審議官山内由光君、法務省民事局長小出邦夫君、外務省大臣官房審議官赤堀毅君及び外務省大臣官房参事官河津邦彦君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○義家委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。
―――――――――――――
○義家委員長 次に、お諮りいたします。
本日、最高裁判所事務総局民事局長門田友昌君及び家庭局長手嶋あさみ君から出席説明の要求がありますので、これを承認するに御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○義家委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。
―――――――――――――
○義家委員長 質疑の申出がありますので、順次これを許します。稲田朋美君。
○稲田委員 おはようございます。自由民主党の稲田朋美です。
本日は、まず、家族の氏に関してお伺いをいたします。
民法七百六十七条の婚氏続称について伺います。
これは、離婚で復氏、すなわち婚前氏に戻った後に、三か月以内に届出をすれば、婚姻中の氏を名のることができる制度です。
民事局長にお伺いいたします。
婚氏続称制度はいつできたのか、また、どのような立法事実があって民法改正になったのかについて、お伺いいたします。
○小出政府参考人 お答え申し上げます。
委員御指摘の婚氏続称制度、これは昭和五十一年の民法改正により導入されたものでございます。
この改正の立法事実といたしましては、改正前の民法第七百六十七条が、婚姻によって氏を改めた夫又は妻は、離婚により当然婚姻前の氏に復するとしていたため、復氏する者に社会生活上の不利益をもたらす可能性があることなどから、離婚による復氏の原則を維持しながら、離婚後も引き続き婚姻中の氏を称しようとする者について、離婚後三か月以内に戸籍法による届出をすることにより、婚姻中の氏を称することができるようにしたものでございます。
○稲田委員 まさに、戦後の民法を改正されて、家制度がなくなって、三十年たってようやく、離婚した後に、旧姓に戻るけれども婚姻中の氏を使い続けることができるようになったということでございます。
民事局長にお伺いいたします。
婚氏続称を選択した場合、民法上の氏は何ですか。
○小出政府参考人 お答えいたします。
現行法上、離婚した者は、離婚という身分関係の変動により婚姻前の氏に復するとされているために、民法上の氏は婚姻前の氏となります。
○稲田委員 ということは、民法上の氏は元の氏だけれども、婚姻中の氏を法的に使い続けることができる制度だということでございます。
この改正がなされるまでは、婚姻中の氏を通称として使っていて、それが非常に不便なので、高裁などで争われていて、認められなかったり、また認められたりということもあったかと思いますが、こうして、復氏した上で婚氏を続称することができるようになったということです。
当時の法務委員会の議事録を見ますと、当時も、復氏してから婚氏を続称する、そういうことではなくて、離婚時に婚姻中の氏か旧姓かを端的に選ぶことができる制度にすべきだという意見もあったようでございますが、ここは、復氏をした上で続称とした理由について、民事局長にお伺いいたします。
○小出政府参考人 お答えいたします。
離婚によって婚姻前の氏に復するという規律を維持したのは、当時、離婚すれば、当然、復氏して実家の氏を称したいと考える者が多いであろうと考えられたためでございます。
また、離婚に際しまして、旧氏に復することなく、婚姻時の氏をそのまま民法上の氏とすることを認める制度としなくても、婚氏続称の届出によって婚姻中の氏を継続して称することができるようになれば、社会生活上の不利益は解消することができると考えられたからでございます。
○稲田委員 私は、この婚氏続称制度と同じように、婚姻したときに夫婦の氏を選んだ後に、すなわちファミリーネームを選んだ後に、婚前氏を法的に続称することを選択できるよう、婚前氏続称制度を、昨年、この法務委員会で提案をいたしました。それは、ファミリー、家族としての氏というアイデンティティーと個人のアイデンティティーとしての旧姓を法的に使い続けることができる、両方の意味があるかなという意味でございます。
今、お手元に、資料として、「夫婦の氏に関する議論の概要について」という紙をお配りをいたしております。
現在、夫婦の氏に関して、たくさんの案が出されております。
一番左は、現行法のままということでございますし、一番右端は、公明党の案、野党案も基本的に同じですが、法制審の選択的夫婦別氏の、子供の氏を出産ごとに選べるという説。
法制審の案は、婚姻のときに子の氏は定めるということです。
そして、左から二番目の、旧姓通称使用法制化案というのは、旧姓を通称として使用しやすくするための法律を作ろうということです。
そして、私の婚前氏続称制度というのは、旧姓を登録をして法的に使い続けることができるという案でございます。
ミドルネーム案も提唱されております。
このように、今幾つかの案が出ているわけですけれども、この氏の問題というのは、夫婦だけではなく、子の氏の問題でもあります。夫婦別氏について議論が高まっている中において、家族における氏とはどういうことなのかということも考えなければならないと思います。
夫婦別氏に反対する理由として、子供の氏と親の氏が異なるということや、家族が一つの戸籍に同じ名前で入ることが必要だというようなことも指摘されています。
民事局長にお伺いをいたします。
離婚をして、母親が復氏をして元の姓に戻って、単独の戸籍を作り、しかも子供の親権者となって養育している場合、母親と子供は同じ氏でしょうか。また、戸籍は一つになりますでしょうか。
○小出政府参考人 お答えいたします。
氏につきましては、婚姻によって氏を改めた妻は、離婚により民法上の氏が婚姻前の氏に復することとなるのに対しまして、子の氏は、父母が離婚しても、当然には変更されるものではございません。
したがいまして、お尋ねのように、離婚に際して、復氏をした者が子の親権者と定められた場合でありましても、これによって子の氏が当然に変わることはございませんので、この場合には、子の親権者となった者の氏と子の氏は一致しないことになります。
また、戸籍につきましても、離婚によって復氏する者は、婚姻前の戸籍に入るか、又は新しい戸籍、新戸籍を編製することになるのに対しまして、子の戸籍は父母が離婚しても当然には変動しないため、離婚によって親権者となった者とその子の戸籍が別々になるということがあり得る状況でございます。
○稲田委員 今申しましたように、このような場合、母親と子供は名前も違うし戸籍も違うんです。そういう場合を今の現行民法は認めております。
ですから、母と子供が同じ名前でないと一体感がないとか、家族は戸籍が一つで、同じ名前で一つの戸籍に入らなければならないというのは、私は感情論としては理解ができるんですが、既に民法上そうでない場合というのを想定をしているわけです。もっと言うと、民法が想定している、そういった母親と子供が名前が違うとか戸籍が違う、そういう場合について、それは親子の一体感が損なわれているんだというふうに決めつけるということは、現に法律が認めている家族の在り方を否定することになると私は考えます。
次に、通称拡大するんだという政府の方針なんですね。通称をどんどん拡大すればよろしいじゃないですかという、そういう方針なんですが。
林男女局長にお伺いをいたします。
現在、通称の拡大なんだけれども、その限界としてどのようなものが指摘されているか、お伺いをいたします。
○林政府参考人 お答え申し上げます。
旧姓の通称使用の限界といたしましては、例えば、令和二年九月十六日に、広島高等裁判所の判決に列挙をされております。
例えば、税の納税通知書にはいずれも戸籍名のみが表記され、また、納税名義や還付名義でも旧姓は使用できないこと、また、旧姓による銀行口座の開設等については、金融機関等のシステム改修等の体制整備が必要になることなどから対応していない金融機関もあることなどの記載がされているところでございまして、こうした限界があるものと承知しております。
○稲田委員 今の高裁判決で指摘された中で、例えば、不動産登記簿が婚前氏を併記する対応をしていないので通称で登記できない、そして、そのために契約もできないし抵当権も設定することができないですとか、例えば、商業謄本において、代表者の登記が通称ではできないという問題、女性が代表者になって活躍をしている中において、社会で活躍している名前と、商業謄本における代表者の名前が違うというような場合があります。
林局長にお伺いいたしますが、通称というか、旧姓を法的に使えない国というのは、日本以外にありますでしょうか。
○林政府参考人 お答え申し上げます。
私どもが承知する限り、夫婦が同氏でなくてはならないという国は、現在、世界にはない、日本だけであるというふうに承知をしておるところでございます。したがいまして、旧姓を使える国がかなりあるということでございます。
○稲田委員 前回、局長も指摘されたように、幾ら国内で通称を広げたとしても、海外では夫婦同氏を強制している国というのはほとんどないので、通称というものが理解されないで、不審者に間違えられたりするということもあって、これは、日本の女性がどんどん海外で活躍する現在において非常に不利益を受けているということがございます。
さらに、今政府の方針であるところの、どんどん通称を広げていって、民法上の氏と同じように、法的な氏と同じようにするということについては、通称という法的でないものに、法律上の裏づけのないものに市民権を与えて、民法上の氏と同じに近づけていく、これは私、法治国家としていかがなものかなというふうに思うんです。民法上の氏と限りなく近づけてほとんど同じにするというのであれば、そこに法的根拠を与えるべきだと思います。
なぜなら、通称に市民権を与えるということは、通称を使っている人だけの問題ではなくて、その人と取引をした人、また、通称の人との家族の問題、いろいろな影響が出ます。また、旧姓を通称にする場合だけでなくて、外国の方の通称に市民権を与えるという問題にもつながってまいります。
そういったことを考えますと、私は、これ以上、まあ政府の方針は分かりますけれども、通称を民法上の氏に近づけていくのであれば、きちんと法的な氏として位置づけるべきであって、昭和五十一年に民法を改正して婚氏続称を求めたように、民法を改正して、旧姓をしっかり法的に使える制度を考えるべきだと思いますが、大臣の見解をお伺いいたします。
○上川国務大臣 ただいま旧姓の通称使用の拡大に関する懸念という形で御指摘がございました。
戸籍上の氏との使い分けが必要になるなど、通称使用の拡大による対応では、社会生活上の不利益、これが全て解消されるものではない、こうした指摘もございます。また、戸籍上の氏と旧姓との使い分け、これが可能となることによって、これを濫用する事例が生ずること等を懸念をする、こういった御意見があることも認識しているところでございます。
夫婦の氏の在り方に関しましては、第五次男女共同参画基本計画におきまして、旧姓の通称使用のみならず、夫婦の氏に関する具体的な制度につきまして更なる検討を進めることとされているところでございます。
この夫婦の氏に関する具体的な制度につきましては、平成八年の法制審議会の答申案に沿った選択的夫婦別氏制度のほか、委員が提案しておられます婚前氏の続称を可能とする制度など、様々な考え方が含まれ得るものと承知をしているところでございます。
いずれにいたしましても、政府といたしましては、男女共同参画基本計画に基づきまして、これまでに提案があった様々な制度も含めまして、夫婦の氏に関する具体的な制度の在り方に関し、国民各層の御意見、また国会におきましての議論、こうした動きを、また司法の判断、こうしたものも注視しながら、検討を進めてまいりたいと考えております。
○稲田委員 昨年の十二月、最高裁で、三つの小法廷、十五人の裁判官のうち五人ずつつくっている三つの小法廷のうちの二つが、この夫婦別氏、夫婦の氏に関して大法廷に回付するということを決定をいたしました。
個別の事案についてお答えになれないということだと思いますけれども、こういった夫婦の氏に関して二つの小法廷が大法廷に回付する、そういう理由、どういったものがあるのか、一般論としてお伺いいたします。
○手嶋最高裁判所長官代理者 お答え申し上げます。
一般論としてでございますけれども、小法廷から大法廷への事件の回付は、当該事件を審理した小法廷が、裁判所法十条各号に該当するか、最高裁判所裁判事務処理規則九条二項二号若しくは三号に該当すると判断した場合に決定するものでございます。
これらの規定には、当事者の主張に基づいて法律等が憲法に適合するかしないかを判断するとき、ただし、前に大法廷でした、その法律等が憲法に適合するとの裁判と同じ場合を除くということでございますが、次に、法律等が憲法に適合しないと認めるとき、また、憲法その他の法令の解釈適用について、意見が前に最高裁判所のした裁判に反するとき、また、小法廷の裁判官の意見が二説に分かれ、その説が同数のとき、そして最後に、大法廷で裁判することを相当と認めたときと定められているところでございます。
○稲田委員 今お答えいただいたように、一般論ではありますけれども、二つの小法廷が前にした大法廷と違う判断をした。すなわち、前にした大法廷というのは、夫婦別氏を認めていないことが合憲だという判決、それと違う判断をしたのか、違憲だというふうに判断をしたのか、それとも意見が分かれて大法廷に結論を求めるのか、それとも、その他大法廷で判断するのがふさわしいという判断になったのかということであります。
ということは、十五人の裁判官で構成される大法廷のうちの十人の裁判官が、この問題について、やはりもう一度憲法判断をした方がいい、若しくは違憲ではないのか、若しくは憲法判断について意見が分かれているということだというふうに思います。
平成二十七年の最高裁判決でも、五人の裁判官が違憲の見解を述べました。そのうちの三人は、たった三人の女性の最高裁判事全てが違憲の判断をしたわけです。そして、立法府でも議論をすべしというのが最高裁の見解であったわけです。
この委員会でも、与野党とも質疑の中でこの問題を取り上げております。しっかりと議論すること、先ほど大臣からもおっしゃっていただいたように、法制審議会の答申はありますが、もう二十五年も前のことでありますので、現在の状況を踏まえてしっかりと検討いただきたいと思います。
次に、先月、注目すべき判決が札幌地裁で出ました。これは、同性婚が認められていない民法と戸籍法の規定が憲法十三条、二十四条、十四条に違反するかが争われたものです。
私は、その判決の中で、注目すべき点が幾つかあると思うんです。
一つは、判決は、十三条、二十四条一項、二項には違反しないと。そして、二十四条一項の両性の合意というのは男女を前提としていたということを指摘しております。それから、二番目に、性的指向の定義をしております。性的指向は自らの意思にかかわらず決定される個人の性質であるとして、憲法十四条の人種、性別、門地と同じように、生まれながらの、変えることができない不可逆的なものだという立場を明らかにしております。さらには、同性婚を認めていないことが憲法違反ということではなくて、異性婚であれば認められる法的効果が何一つとして同性パートナーに与えられていないことが憲法違反だとしたわけであります。
私は、この判決は非常に複雑な、しかし含蓄のある判決だと思います。つまり、性的指向は憲法十四条の問題であるとしながらも、同性婚を認めていないことそのものは憲法違反ではないと。つまり、現在の状況の中で立法裁量違反となるのは何一つ法的効果を認めていないことに限定をしております。
今、自民党では理解増進法を議員立法として提出しようと野党との協議にも入っておりますが、やはり平等な社会をつくっていく、また、多くの選択肢を与える社会をつくっていくためには何よりも理解を進めていくことが重要であって、理解が進んでいない現状における立法裁量の限界がどこなのかということをこの判決は示していると思います。
大臣にお伺いいたしますが、現在、同性パートナーの在留特別資格については、海外で同性婚をした二人の両国で同性婚が認められていれば配偶者の在留特別資格が認められています。そうすると、外国人カップルなら認められる在留資格が日本人の外国配偶者には認められないことになり、これは不平等ではないのかという問題がございます。日本人の外国人配偶者にも平等に在留資格を認めるべきではないかという意見も多くございます。この点についての大臣の見解をお伺いいたします。
○上川国務大臣 同性婚の当事者がいずれも外国人である場合、その双方の本国で有効に同性による婚姻が成立しているときは、在留資格を有する外国人の同性パートナーについても、本国と同様に我が国においても安定的に生活できるようにとの配慮から、特定活動の在留資格による入国、在留を認めているところでございます。
他方で、当事者の一方が日本人の場合、我が国におきましては同性婚が認められていないため、相手国の本国において同性婚が認められていたとしても、在留資格を認めていない、これが現状でございます。
同性パートナーに係る在留資格の今後の在り方につきましては、様々な方々の声に耳を傾けた上で、しっかりと前向きに検討してまいります。
○稲田委員 大臣、ありがとうございます。
今年はオリンピック・パラリンピックの年でもあります。オリンピック憲章の中にも性的指向による差別は禁止するというような条項があったかと思いますが、理解増進法、しっかりと今国会で成立できるように頑張ってまいりたいと思いますし、今の在留特別資格についても、できればオリンピック・パラリンピック前に、前向きに解決いただければと思います。
次に、拉致問題その他北朝鮮当局による人権侵害問題への対処に関する法律についてお伺いをいたします。
この法律においては、国に対し、拉致問題を解決するために最大限の努力をすべきだということが義務づけられております。
この国には当然裁判所も含まれているんでしょうか。最高裁にお伺いをいたします。
○門田最高裁判所長官代理者 お答えいたします。
詳しい資料も手元にない状況でありまして、事務当局としてのお答えにすぎないということになりますけれども、一般的に、国が名宛て人ということになっておる場合には、国の一機関である裁判所も対象に含まれることになると思われます。
○稲田委員 所管ではないとしても、やはりこの国はということで努力義務、拉致問題を解決するために最大限の努力をするということを義務づけているこの条項、今の最高裁の御答弁で、裁判所も含まれるということでございますので、しっかりとその義務を果たしていただきたいというふうに思います。
ところで、委員長も、それから小野田政務官も、それから私も、この拉致バッジをしているわけですけれども、ブルーリボンをしておりますけれども、これは拉致被害者の救出を求める国民運動の象徴なんです。
最高裁に、一般論としてお伺いいたします。
国権の最高機関である国会でも着用することができるこのブルーリボンの着用を、法廷で当事者がつけることを禁止する措置、これは、憲法が定めた表現の自由、それから今の北朝鮮人権法に違反し、裁判所七十一条に定められた裁判官による法廷秩序維持権の、私は裁量を超えたものになるのではというふうに思います。
一般論として、裁判官の法廷秩序維持権といえども、憲法において民主主義の基盤であるがゆえに優越的な地位を認められているところの表現の自由に違反をしたり、法律に違反をすることはできないと思いますけれども、いかがでしょうか。
○門田最高裁判所長官代理者 お答えいたします。
裁判所法の第七十一条は、裁判所の職務の執行を妨げ、又は不当な行状をする者に対して、法廷の秩序を維持するために相当な処分をする権限、すなわち法廷警察権を裁判長に付与しておりますが、この法廷警察権は、法廷における訴訟の運営に対する妨害を抑制、排除し、適正かつ迅速な裁判の実現という、これも憲法上の要請を満たすために裁判長に付与された権限でありまして、裁判の各場面において様々な形で現れ得る、裁判所の職務の執行を妨げたり法廷の秩序を乱したりする行為に対して、その都度、これに即応して適切に行使されなければならないものでございます。
したがいまして、その行使は裁判長の広範な裁量に委ねられまして、その判断は最大限に尊重されなければならないとされているところでございます。
しかしながら、法廷警察権も、裁判所法第七十一条に従って適切に行使されなければならないことは言うまでもないところでございまして、その行使は裁判長の全くの自由裁量というわけではございませんで、おのずから、一定の限界は存在をすることになると思われます。
○稲田委員 拉致問題という、まさしく国家的な犯罪であるところの解決、これはもう国民全体の祈りのようなもので、その象徴がこのブルーリボンバッジであります。だからこそ、委員長も、また多くの国会議員もこのバッジをつけて、最高機関である国会で議論をしているところであります。
これについて、もちろん法廷秩序権というのは、法廷秩序を維持する権限というのはありますけれども、やはり、このバッジをつけることすら許されない、これは、私は、表現の自由のみならず、全国民の祈りというか、思いというか、そういうものに反するものであるのではないかと。
先ほどの答弁で、法廷警察権といえども限界はあるのだというお答えをいただきましたので、こういった問題について、私は、しっかりと対処をしていただきたいと思います。
以上です。ありがとうございます。
○義家委員長 次に、串田誠一君。
○串田委員 日本維新の会の串田誠一です。
今、稲田委員からブルーリボンの話がありました。私も外したことがないんですが、拉致特別委員会が、この四月でもう二年間ぐらい、所信だけで質疑が行われていないんですね。ですから、与野党共に一丸となって、この委員会は開催し、そして、日本の姿勢というものをしっかりと北朝鮮に示していくべきであるというふうに述べさせていただき、今日の質問に入りたいと思います。
まず最初に、一昨年でございますが、国連児童の権利委員会、日本の第四回・第五回政府報告に関する総括所見、よく私も質疑で国連勧告というふうに言わせていただいているんですが、これに対して政府はどのように考えているのか、不当な内政干渉と考えているのか、それとも、心当たりがあって、改善をしなければいけないというふうに考えているのか、お答えいただきたいと思います。
○赤堀政府参考人 お答えいたします。
まず、御指摘の日本の第四回・第五回政府報告に関する総括所見における勧告の内容につきまして、我が国に対して法的拘束力を有するものではございませんが、外務省から関係省庁にしかるべく情報を共有しており、関係省庁において十分に検討することとしております。
○小出政府参考人 お答えいたします。
児童の権利委員会から、平成三十一年二月の総括所見の中で、父母による児童の共同養育を実現するため、離婚後の親子関係について定めた法令を改正するとともに、親と離れて暮らしている子と親との人的関係及び直接の接触を維持するための子の権利が定期的に行使できることを確保すべきである旨の勧告があったことは承知しております。
我が国の親子法制につきましては、法律面及び運用面のいずれにつきましても、子供の利益の観点から、必ずしも十分なものとなっていないとの指摘が国内外からされているところでございまして、この勧告もこのような指摘を踏まえて行われたものと理解しておりまして、この点については真摯に受け止めているところでございます。
法務省といたしましては、離婚及びこれに関連する制度の見直しに関する充実した調査審議が法制審議会において行われるよう、事務局を担う立場から、必要な対応に努めていきたいと考えております。
○串田委員 今、外務省でしたか、法的拘束力がないとおっしゃいましたが、こういう勧告で法的拘束力があるものというのはほとんどないですよね。今、日本もマグニツキー法を制定しようとしているんですけれども、これも、国内の資産を凍結するとか、そういうようなことであって、外国に関して法的拘束力を与えるなんというのはないんですよ。だから、それを言って、何か大したものではないみたいな感覚を表明するのはやめていただきたいんですね。これは真摯に受け止めていただくということの回答というのは、私は必要だと思うんですが。
上川法務大臣、これは今、その答弁で、子どもの権利条約を日本はちゃんと守っているんだという答弁をされていて、今真摯に受け止めているという話なんですけれども、こことの間でどういうふうな整合性を考えたらいいですか。もし、大臣じゃなければ、民事局長でも。
○小出政府参考人 先ほどもお答え申し上げましたとおり、国内外から様々な指摘、親子法制について法律面、運用面についてございます。このような勧告がこのような指摘を踏まえて行われたものということで、この点は真摯に受け止めた上で、現在、法制審議会で調査審議がされております離婚及びこれに関連する制度の見直しについて、こういった指摘を生かしていきたいというふうに考えているところでございます。
○串田委員 結局、履行していないんですよ。じゃなかったら、こんな勧告をするわけないじゃないですか。
ところで、この勧告に関しては、政府はどのような対応をされたんでしょうか。
○赤堀政府参考人 お答えいたします。
国際人権諸条約に基づき設置された委員会による総括所見については、その次の政府報告においてフォローアップに関する情報を含めることとなっております。本件総括所見につきましても、次回報告において対応することを考えております。
○串田委員 結局、無視しているんですよ、勧告を受けても。何の返答もしていない。
次に、昨年七月八日採択された、欧州議会において、日本において親による子の連れ去り事例が多数発生しているということに対して、政府はどのようにこの点について返答したのか、お答えください。
○河津政府参考人 お答え申し上げます。
今委員から御指摘いただきました、欧州議会本会議におきまして採択された決議でございますけれども、この決議を含めまして、子の連れ去りに関しましては、日本政府からEU側に対し、様々なレベルで、ハーグ条約の対象となる事案については、ハーグ条約に基づき、EU加盟国の中央当局との協力を通じて、一貫して適切に対応してきていること、また、国内の子の連れ去り事案についても、子の利益の観点から、法にのっとって適切に対応し、児童の権利条約を誠実に遵守していること、そして、国内外の様々な意見も参考にしつつ、離婚及びこれに関連する制度について必要な検討を行っていること、こうしたことを説明してきているところでございます。
○串田委員 何か文面は出されたんですか。
○河津政府参考人 お答え申し上げます。
EU側との間では様々なやり取りを行っておりますけれども、例えば、昨年十一月、対日交流議員団との会合におきまして、正木EU代表部大使から日本の法制度や取組について口頭にて説明を行い、その後も欧州議会関係者とのやり取りを継続しているところでございます。
これ以上のやり取りに関しましては、外交上のやり取りになりますので、詳細についてはお答えを差し控えたいと思います。
○串田委員 勧告も文面で出されているし、採択も文面で出されているのに、日本は文面で返したことはないんですよ。口頭で何か説明したとか言っているわけですけれども。こんなことで国際的な信頼を得られると思いますか。
大臣に対して、所信で、こういうものを無視していていいんですかという質問をしましたら、無視はよくないという返答をいただいたことがあるんですけれども、昨年の二月、フランスの上院議会で、子の連れ去りに関して満場一致で日本への非難決議がなされた。そのときにも質疑をさせていただきました。何か返答しないと、次は大きいことがまた次起きますよと申し上げました。まさにそれが、七月の欧州議会で、賛成六百八十三、反対一ですよ、ほとんど全会一致で日本の連れ去り問題を非難決議している。今の回答のように、ちゃんと遵守していると言っている、そういう状況で、日本だけがこんな六百八十三で非難決議が採択されるなんてことがあり得ますか、ちゃんと履行しているというのに。
そういったようなことを、真摯に受け止めと言いながら、ちぐはぐなことを、だけれども守っているんだと言うようなことは、これはやはり日本の国益を損なうんだということを理解していただきたいというふうに思います。
ところで、今法制審議会で、連れ去りという言葉は使わないでほしいとかという意見もあると思うんですが、これは以前に法務委員会で質問したこともあるんですけれども、欧州議会における、英語、チャイルドアブダクションというのは、これは、政府としては正式にどのように訳して、そして、外務省としては、外国ではこの言葉はどういうふうに訳すのが外国の中では理解しやすいのか、法務省、外務省にお聞きしたいと思います。
○河津政府参考人 お答え申し上げます。
御指摘いただきましたチャイルドアブダクションでございます。こちら欧州議会で採択された決議ということでございまして、こちらにつきまして、政府として正式な訳を作成しているわけではございませんが、便宜的に、このチャイルドアブダクションについて、子の連れ去りと訳しているところでございます。
外国ではどうかということでございます。欧州議会で採択された決議の、例えば、ドイツ語のテキストを見ますとキンダーエントフュールング、フランス語のテキストではロンレブモンダンファンというふうな言葉が使われておりまして、いずれも英語でいうところのチャイルドアブダクションに相当する言葉となっているというふうに承知しております。
○串田委員 そのアブダクションというのは、普通、辞書で引くと何というふうに訳されているんですか。外務省の置き換えをお知らせください。アブダクション、辞書では何というふうに訳されるんですか。
○河津政府参考人 今辞書が手元にございませんので、また様々な辞書があると思います。いろいろな文脈によっていろいろな訳があると思います。
○串田委員 通告の中に、ちゃんとこれ、チャイルドアブダクションといって、何と訳すのかと通告しているじゃないですか。辞書がないとか、そんな、外務省でしょう。(発言する者あり)
○義家委員長 お静かにしてください。
○河津政府参考人 一例ということで、今委員からも言及いただいておりますハーグ条約のタイトルで、アブダクションというものが使われております。このアブダクションについては、奪取という訳語を条約の和文において当てているところでございます。
○串田委員 これは普通に拉致とか誘拐と訳すんでしょう。奪取というのはちょっと特殊な、フランスの上院議会で、私が上院議員からいただいた日本語訳には、実子の誘拐と書いてありましたよ。間違っているんですか、アブダクション。
○河津政府参考人 お答え申し上げます。
大変恐縮でございますけれども、フランスがどのような対応をするかということについては、私の方から説明する立場にないということは御理解いただきたいと思います。
○串田委員 これはもう続けませんけれども、かなり厳しい印象を与える言葉として採択されているんだということだけは理解していかないと、これ、対外国、EUの欧州議会が日本に対する、非難決議なわけですよね。その言葉を日本が適当に訳していればまずいわけで、常識的な文言として理解をする、そしてそれが厳しい指摘であれば、それは厳しい指摘として真摯に受け止めていかないと、それを何かうまい具合に訳しておいて、大したことない、あるいは法的効力がないからなんてことを言っていたら、いつまでたっても日本は非難され続けてしまうんではないかというふうに思っているので、是非これは改善していただきたいという思いで私は質問させていただいているんです。
二十四か国調査がありまして、今法制審議会でも審議されていると思うんですが、日本は非常に珍しい単独親権制度というふうに言われています。ほかの国はほとんど共同親権も採用できる国になっているわけですが、その中で、インドとトルコだけは日本と同じように単独親権と言われていますけれども、インドも共同監護を認めた判例があると二十四か国調査に書いてあります。
トルコも、これはイスラム教の国ですので、女性がなかなか社会進出のしにくい国の中で単独親権なんですが、それでも、協議離婚を認めないというふうに二十四か国調査は書いてあって、日本だけが非常に子供に対する手続が簡略化されているというか、そのまま放置されているというような状況でございます。
日弁連七十年記念誌にも、「協議離婚における子どもの権利」の中で諸外国の法制が紹介されています。我が国では、いろいろとあるんですが、別居や離婚に伴う子供の保護を実質化させる法制度や支援体制が十分整っているとは到底言い難い状況にあると日弁連七十年誌にも指摘されていて、まさにこの二十四か国調査を見ても、前にちょっと質問させていただきましたが、一番目立つのは、日本は本当に何の約束事も決めないで夫婦間だけで決めてしまって、被害者が子供になっているという認識が、私は感じるんですが、大臣、この点、日本の法制度、このままでいいでしょうか。
○上川国務大臣 まさに、父母の離婚に伴いまして、子の養育に関する法制度の在り方、これが非常に重要なことであると認識をしております。
チルドレンファーストということを所信の中で申し述べたところでございますが、親の離婚やまた別居の影響で子供の地位をどのように確保するのかという視点の置き方として、主体である子供に着目をしていくという、このことは極めて重要であると私自身認識をしております。
今回、父母の離婚に伴いまして、子の養育に関する法制度の在り方について、法制審議会に今年の二月に諮問をしたところでございまして、既に家族法制部会におきまして検討を始めていただいているところでございます。
この部会におきましては、関連する制度上の課題を幅広く取り扱うという形で委員の方々に議論をしていただくということでございますので、審議が十分に尽くされるように、法務省としてもしっかりとしてまいりたいというふうに思っております。
先ほど申し上げたように、常々、私自身、父母の離婚を経験する子供たちの目線ということを、私たちは今まで考えてこなかったのではないか。今回の調査も、本当に初めて子供の目線で調査をいたしました。小さくても、しっかりとその現実を見ています。そして、そのことが大きな影響になったり、また、その中から様々な子供の声が発せられている。それをちょっと封じ込めてきたのではないかと思うぐらい、子供はよく冷静に親の様子また家庭の状況を見ています。その視点というものを大事にしていくということが何よりも必要ではないかということでございますので、できるだけ現実の動きを、もっと具体的に即して、調査もしっかりと踏まえた上で審議がしっかりなされるようにしてまいりたいというふうに思っております。
○串田委員 民法七百六十六条では、協議して定めるとなっていて、協議が調わないときには家裁でそれが決定されるというのが、七百六十六条に書いてあるんですね。
ところが、家裁で決定するといっても、これも質疑をしましたが、家裁の調停の平均期間というのは九か月かかるわけですね。
そのときに、じゃ、協議して定めるという場合に、日弁連六十年誌にはこういう記載があるんですね。「わが国では、このような違法な連れ去りがあったとしても、現状を重視する実務のもとで、違法行為がまったく問題とされないどころか、違法に連れ去った者が親権者の決定において有利な立場に立つのが一般である。」と書いてあるんです。
何を言いたいかというと、七百六十六条はせっかく協議して定めると書いておきながら、連れ去ると、その人が親権者になることが非常に有利になるのが一般的であると。だから、みんな連れ去るわけでしょう。
諸外国は、こういうようなときに迅速に司法審査が入って、そういう連れ去りを行わないで済むような養育計画を定めてくれるから、堂々と、それは別居し、それぞれが、これまでの養育状況を勘案しながら、養育計画を決めてもらえるわけです。だから、わざわざ連れ去る必要もないし、置いていけとか、そんな当事者のトラブルを発生させる必要はないわけですよね。
そのためには、もうちょっと司法審査の介入が増えなければいけないんですが、日弁連の調査だと、日本の裁判官の数は圧倒的に少ないんですよ。これは、そういうような制度をつくっていないから、裁判官が必要になっていない。
今すぐに裁判官を増やすことができないのであるならば、私は、弁護士に非常勤裁判官制度という制度を採用して、そうして、子どもの権利条約のジュディシャルレビューというものを実現していただければ、あっという間に、世界から非難されない制度になるということを申し上げまして、質問を終わりにしたいと思います。
ありがとうございました。
○義家委員長 次回は、来る二十日火曜日委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。
午前十時七分散会