衆議院

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第7号 令和4年3月25日(金曜日)

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令和四年三月二十五日(金曜日)

    午前九時三十三分開議

 出席委員

   委員長 鈴木 馨祐君

   理事 井出 庸生君 理事 熊田 裕通君

   理事 葉梨 康弘君 理事 山田 美樹君

   理事 鎌田さゆり君 理事 階   猛君

   理事 守島  正君 理事 大口 善徳君

      東  国幹君    五十嵐 清君

      石橋林太郎君    尾崎 正直君

      奥野 信亮君    国定 勇人君

      田所 嘉徳君    高見 康裕君

      谷川 とむ君    中谷 真一君

      中野 英幸君    西田 昭二君

      野中  厚君    八木 哲也君

      山田 賢司君    伊藤 俊輔君

      鈴木 庸介君    藤岡 隆雄君

      山田 勝彦君    米山 隆一君

      阿部 弘樹君    前川 清成君

      日下 正喜君    福重 隆浩君

      鈴木 義弘君    本村 伸子君

    …………………………………

   参考人

   (一橋大学大学院法学研究科教授)         山本 和彦君

   参考人

   (日本司法書士会連合会会長)           小澤 吉徳君

   参考人

   (紀尾井町戦略研究所株式会社代表取締役社長)   別所 直哉君

   参考人

   (弁護士)        松森  彬君

   法務委員会専門員     藤井 宏治君

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 民事訴訟法等の一部を改正する法律案(内閣提出第五四号)


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     ――――◇―――――

鈴木委員長 これより会議を開きます。

 内閣提出、民事訴訟法等の一部を改正する法律案を議題といたします。

 これより質疑に入ります。

 本日は、本案審査のため、参考人として、一橋大学大学院法学研究科教授山本和彦君、日本司法書士会連合会会長小澤吉徳君、紀尾井町戦略研究所株式会社代表取締役社長別所直哉君及び弁護士松森彬君、以上四名の方々に御出席をいただいております。

 この際、参考人各位に委員会を代表して一言御挨拶を申し上げます。

 本日は、御多忙の中、御出席を賜りまして、誠にありがとうございます。それぞれのお立場から忌憚のない御意見を賜れれば幸いに存じます。

 次に、議事の順序について申し上げます。

 まず、山本参考人、小澤参考人、別所参考人、松森参考人の順に、それぞれ十五分程度御意見をお述べいただき、その後、委員の質疑に対してお答えをいただきたいと存じます。

 なお、御発言の際はその都度委員長の許可を得て発言していただくようお願いいたします。また、参考人から委員に対して質疑をすることはできないことになっておりますので、御了承願います。

 それでは、まず山本参考人にお願いいたします。

山本参考人 一橋大学の山本でございます。

 本日は、裁判IT化に関する民事訴訟法等改正法律案について意見を述べる機会を与えていただき、誠にありがとうございます。

 私は、現在、大学において民事訴訟法の研究及び教育に携わっておりますが、本日は、民事訴訟法の研究者として、また、裁判手続等のIT化検討会の委員、座長、法制審議会民事訴訟法(IT化関係)部会の委員、部会長として、この問題の議論にこれまで関与してきた立場から、意見を申し述べさせていただければと存じます。

 さて、従来の民事訴訟のIT化が必ずしも十分でなかったことは否定できません。ただ、現行民事訴訟法も、平成八年の制定当時は、当時の技術を十分に活用するものでした。例えば、電話会議システムによる争点整理、ファクスによる準備書面の交換、裁判所間をつなぐテレビ会議システムによる証人尋問等を可能にしておりましたし、さらに、司法制度改革審議会の議論を受けて、平成十六年の法改正においては、一般的な形でオンライン申立てを可能とする民事訴訟法百三十二条の十という条文も設けられました。

 その意味で、私の認識では、平成の前半期は改革の時代と言うことができたのではないかと思いますが、残念ながら、平成後半は逆に停滞の時代になってしまいました。

 平成十六年の改正は最高裁判所規則の定めを前提にしていたものでありますが、その規則は先般ようやく成立したものの、十五年以上にわたって、実際上この条文は死文化しておりました。

 その意味で裁判のIT化というのは停頓していたわけですが、その結果として、この面での諸外国との格差は拡大する一方であり、IT技術の活用に元々積極的なアメリカはもちろん、ヨーロッパ諸国、さらには、アジアではシンガポールや韓国などにも次々と追い抜かれ、結果として日本は裁判IT化の後進国になってしまいました。

 その意味で、今回の改正は、やや遅きに失した感もありますが、必須のものであるというふうに考えております。

 今回の改正は、何よりも裁判利用者の利便の促進に着目したものになっております。オンライン申立てによって、裁判所に行かずに訴えの提起その他の訴訟行為を当事者が行うことができますし、電磁的記録のオンラインによる送達、いわゆるシステム送達というものも設けられました。また、判決書や期日調書、訴訟記録の電子化により、当事者は、自宅や事務所等から、裁判所の外からオンラインで事件記録を閲覧し、またダウンロード等もすることができることになります。

 さらに、ウェブ会議による口頭弁論期日や証人尋問等も可能となり、既に可能になっているウェブ争点整理も含めて、裁判所に実際に行かなくても手続を追行することができますし、離婚訴訟や離婚調停での和解、調停の成立もウェブ期日で可能としております。

 また、訴訟費用も、従来の収入印紙や郵便切手に代えて、郵便費用も手数料に一元化した上で、ペイジー等による手数料の支払いが可能となっております。

 このような形で、裁判所から遠隔地に居住している当事者や、高齢者等の物理的な移動が困難な当事者にとって、さらには離婚を望むDV被害者等も含めて、今回の改正は大きな便宜を与えるものであり、過疎化や高齢化が進む日本社会において裁判を受ける権利を実質的に確保する重要なツールとなり得るものと考えております。

 さらに、より一層の訴訟の適正迅速化を図る措置として、法定審理期間訴訟手続も設けられております。これはいわば民事訴訟のDX化とも言えるものであります。

 御承知のように、DX、デジタルトランスフォーメーションというのは、単に、紙を電子に、あるいは郵送、ファクスをオンラインに変えるというだけではなくて、そのような技術を活用して、仕事の仕方、手続の在り方自体を根本的に変え、ユーザーにとってより利用しやすい手続にしていく試みと承知しております。

 現在の民事訴訟の課題としては、当事者にとって審理期間の予測が困難であるため、その利用をちゅうちょする者が多いという点が制度利用者を対象としたアンケート調査で明らかにされており、結果として訴訟事件数が停滞、減少しているという問題点が挙げられております。

 法定審理期間訴訟手続は、IT化の利便を生かしながら、六か月以内の審理の終結をあらかじめ法定することで、当事者の予測可能性を確保し、民事訴訟の利用を促進しようとするものであります。

 また、近時の民事訴訟に求められるニーズとしては、当事者のプライバシーや個人情報に対する意識の高まりを反映して、秘密保護の充実という点も求められております。

 これに応えるものとして、今回、当事者の住所、氏名等の秘匿制度が導入されております。これは、DV被害者や性犯罪の被害者等が相手方当事者に自己の住所や氏名を知られることによって社会生活を営むのに著しい支障が生じるおそれがあるようなときは、これらの情報を秘匿しながら訴訟を追行する道を開くことでこのようなニーズに応えるものであります。

 ただ、他方で、このような手続は相手方の手続保障等とのバランスには慎重な配慮を要するため、かなり複雑、精緻な手続が設けられています。

 以上のような今回の改正案ですが、法制審議会等における審議の際の主な論点としては、幾つかのものがありましたが、ここでは二つだけ取り上げますと、第一に、いわゆる申立ての義務化の問題があります。これは、最終的には、弁護士、司法書士等の訴訟代理人についてのみオンライン申立ての義務化を認める方向でコンセンサスが得られました。

 一方で、当事者本人にまで義務化することは、長期的にはそれが望ましいとしても、現段階でのITの普及率等を考えると、やはり時期尚早であり、かえって当事者の裁判を受ける権利を害するおそれがあるものとされました。他方、弁護士等は、訴訟代理を業とする者として、IT化にもしっかりと対応していただく責務があると考えられるため、その利用を強制することで差し支えはないと考えられたものであります。

 第二に、先ほどの法定審理期間訴訟手続については、当事者の主張や証拠の提出が事実上制限され、粗雑、拙速な審理になってしまうのではないかという懸念が示されました。

 そこで、そのような懸念に応えるため、様々な措置が取られております。すなわち、対象となる事件類型を限定し、消費者契約や労働関係など当事者間に力の格差のある事案等を除外した上で、当事者の共同の申出ないし同意を手続利用の条件とすること、通常手続への移行の可能性や、不服申立てについても同一審級での異議を認めることなど、様々な工夫によって不適切な利用のおそれは払拭できたのではないかと考えております。

 また、審議過程で課題として指摘された点として、当事者のITサポート体制の確保の必要性があります。

 さきに述べましたように、今回の案は訴訟代理人に限ってオンライン申立てを義務化しておりますが、将来的にはやはり全ての当事者にこれを利用してもらうことが望ましいものであります。そのためには、様々な関係者によるITサポートが必要不可欠となります。

 裁判所には、まずもって利用しやすいシステムの構築が何よりも期待され、その際には是非、ユーザー側の意見も踏まえて、システムの構築や改善に当たっていただきたいと思いますし、弁護士会、司法書士会、さらには法テラスや地方公共団体等のレベルでも、当事者に対して十分なサポートシステムをつくっていただくこと、そして国にはその際に必要な資金面の援助等も求めたいと思います。

 この点では、特に、審議過程では障害者の問題が取り上げられました。法律の条文レベルでは規定は見送られておりますが、ITによるアクセスに様々な困難を抱える方々を社会全体でしっかりとサポートし、裁判を受ける権利を実質的に確保していくことの重要性については法制審議会でもコンセンサスがあったものと考えており、この点は法律施行後の運用に向けて改めてその重要性を指摘しておきたいと思います。

 それから、今回は民事司法の中核である民事訴訟についてのIT化を先行させるものでありますが、その他の様々な民事裁判手続、民事執行、民事保全、倒産、非訟、家事事件等、裁判所の全ての民事手続のIT化を今後迅速かつ着実に進めていく必要があります。この点は、現在、法制審議会でも審議が開始されたものと承知しておりますけれども、家事事件や倒産事件など、IT化が喫緊の課題である手続も多く、是非早期の実現を期待したいと思います。

 さらには、裁判所外の紛争解決手続においても、いわゆるODR、オンライン・ディスピュート・リゾリューションというものを進めていくため、その社会実装に向けた様々な基盤整備を図っていただく必要があるものと考えております。

 これらの結果、SDGsなどでもうたわれている、紛争解決において誰も取り残されない社会というものが実現されていくことを期待したいと思います。

 最後に、言うまでもないことですが、IT技術は日進月歩のものであります。今回の改正案は、私としては、現段階では最も適切なものであると信じておりますが、五年先、十年先を見通せば、決してそうではなくなる可能性があります。平成後半期の停滞を繰り返さないよう、現在の技術水準を前提に制度を固定化してしまうことなく、その時々の技術を積極的に取り入れながら、裁判のIT化というものを柔軟かつレスポンシブに進めていく必要があると思います。その意味で、法律のレベルでも、施行後五年経過時の検討規定というものが設けられているところと承知しておりますが、是非、適時適切な見直しをお願いしたいと思います。

 以上、甚だ雑駁なものではありましたが、民事訴訟法の研究者及び改正の議論に関与してきた者の立場から率直な意見を申し述べさせていただきました。

 今回の改正は、最初に述べましたように、平成後半期の日本の民事訴訟の停滞を打破し、国際水準に追いついていく大きな契機となるとともに、利用者の利便を改善するための必須のものと考えております。是非、この法律案が成立し、その内容が早期に実現することを期待したいと思います。

 御清聴ありがとうございました。(拍手)

鈴木委員長 ありがとうございました。

 次に、小澤参考人にお願いいたします。

    〔委員長退席、山田(美)委員長代理着席〕

小澤参考人 私は、日本司法書士会連合会会長の小澤吉徳と申します。

 本日は、参考人としてこのような機会を与えていただいて、心より感謝申し上げます。

 裁判のIT化に関しましては、平成三十年の七月から公益社団法人商事法務研究会で行われました民事裁判手続等IT化研究会にオブザーバーとして参加をさせていただき、研究会で報告書がまとめられた後は、法制審議会民事訴訟法(IT化関係)部会の委員として審議に関わってまいりました。

 司法書士は、裁判書類若しくは電磁記録等を作成することによって、本人訴訟をする当事者の支援をするとともに、簡易裁判所においては、代理人として弁護士さんと同様の業務をすることもございます。これらの方々を念頭に置いて、民事裁判手続等のIT化の目指すべき方向性は、当事者に使いやすく、当事者に利便性がある制度であるという視点から意見を述べてまいりました。

 以上を踏まえまして、本日は、御審議いただく法案につきまして、主として本人訴訟のサポートの重要性について意見を述べさせていただきたいと存じます。

 法案では、インターネットを用いてする申立て等は、国や地方自治体が当事者となる場合を除きますと、委任を受けた訴訟代理人が申立てをする際には、電子情報処理組織を使用する方法により申立て等をしなければならないということとされております。

 近年における情報通信技術の進展等の社会経済情勢の変化への対応を図るためには、もちろん申立て等をするのも全てがインターネットを用いることが望ましいことになるのですが、パソコンやスマホが普及し、日常的にインターネットにアクセスすることができる者が増えたからといっても、まだまだインターネット機器の操作が難しいと感じる方も少なからずいらっしゃいますし、物理的にインターネット環境を利用することができない状況で生活をする方もいないわけではございません。

 そこで、国民の司法アクセスを後退させないという観点から、インターネットを用いてする申立て等を義務とするのは司法書士、弁護士などの士業者のみとし、当事者については、電子情報処理組織を使用する方法によりすることができる者は、申立て等を電子情報処理組織を使用する方法によりするものとする旨の規律を最高裁判所規則に設けるものとするとの注意書きを付すことによって、義務化の対象でない方々においても、できる人は積極的にインターネットを利用するものとするという訓示規定を設けることが提案されております。

 裁判手続全体を俯瞰してみますと、電磁的記録を活用するためには、訴訟記録を全て電子化することが肝となると考えております。そのため、書面で申立て等をされる当事者の訴訟記録については、裁判所の負担で電子化することとされているところです。

 しかしながら、裁判所の負担が過度に増加してしまいますと、円滑な裁判手続の支障となるおそれが生じます。ですので、義務化の対象とならない方々にインターネットを用いた申立て等をしていただくための方策が最も重要な事項になると考えております。

 他方で、郵送費用削減という経済的利益や郵送手続が不要となるという手間の削減という大きな利益があるものと考えております。

 このように申しますと、それほど便利になるのであれば、特段の手当てをせずとも、当事者が自発的に利用するのではないかという御疑問もあろうかと思います。しかしながら、ほとんどの国民にとっては、裁判は一生のうちに数回経験するかどうかといった手続でございまして、そうした数少ない手続に直面する場合では、わざわざインターネットを用いた操作方法を学ぶよりは、慣れ親しんだ書面で出してしまいたいと考える方が多いのが現状であるというふうに思っています。

 具体的な数値で御説明をさせていただきたいと思います。配付資料を御覧いただければと存じます。

 昨年公表されました令和二年度の司法統計によりますと、地方裁判所全事件の第一審通常訴訟既済事件の総数は十二万二千七百四十九件であり、このうち、原告、被告双方に弁護士さんがついたものが五万四千六百二十五件、原告のみに弁護士さんがついたものが五万四千七百九十六件、被告のみに弁護士さんがついたものが三千四百三十九件となっております。

 これらから、双方本人訴訟であったものは九千八百八十九件となり、双方若しくは原告、被告の一方が本人訴訟であった率は五五・五%となっております。地方裁判所においても、半数以上が、少なくとも一方当事者が本人訴訟であることが分かります。

 また、簡易裁判所になりますと、同じく令和二年度の司法統計におきましては、第一審通常既済事件数の総数は二十九万七千百四十二件でありまして、このうち、原告、被告双方に弁護士、司法書士がついたものが一万九千七百七十一件、原告のみに弁護士、司法書士がついたものが三万六千百四十二件、被告のみに弁護士、司法書士がついたものが二万九百二十一件となっております。

 これらから、双方本人訴訟であったものは二十二万三百八件となり、双方若しくは原告、被告の一方が本人訴訟であった率は九三・三五%と、簡易裁判所では、実に九割以上が、少なくとも一方当事者が本人訴訟ということになっております。

 御参考までに、登記における本人申請率及び本人のオンライン申請率としましては、令和三年三月三十日の内閣府規制改革推進会議第九回デジタルガバメントワーキング・グループ資料によりますと、不動産登記においては約一〇%であり、このうちオンライン申請はほぼ見られず、商業・法人登記においては、会社設立の本人申請率が約二五%であり、このうちのオンライン申請率は約六・五%。役員変更登記の本人申請率が約二〇%であり、このうちオンライン申請率が〇・七%と法務省から回答がされております。この数値は、私たち司法書士の現場の肌感覚と一致するものでもあります。

 このようにシステム稼働後十五年以上が経過した登記制度においても、本人が積極的にオンライン申請を利用しているとは言い難い現状がございます。

 登記と比べて本人訴訟率の高い裁判についてはなおさら、本人に利用していただくためには、システムの構築の際、当事者が使いやすいユーザーインターフェースとすることはもちろんですが、ほかにも、個々人のインターネット環境の整備の拡充、電子証明書の普及など、様々な方策を一気呵成に進める必要があると考えております。

 これらの方策のうち、喫緊の対応としましては、本人訴訟による申立て等についても、司法書士、弁護士さんなどの士業者を活用することが考えられるのではないかというふうに思っています。

 委任を受けた、訴訟代理人となる司法書士、弁護士については、インターネットを用いてする申立て等をすることが義務となることですから、当然インターネットを用いて申立てをする環境は整っております。

 現に、登記分野の申請等件数のオンライン申請利用率は、令和三年九月二十四日付のオンライン利用率引上げに関する基本計画によりますと、令和元年度は約七九・五%となりますが、これらの申請の大多数は、司法書士や土地家屋調査士等の士業者を活用した成果によるものと理解をしております。

 このようにオンライン申請に熟練した司法書士などの士業者を活用し、代理業務としての委任を望まない当事者については、司法書士などの士業者が書類作成業務として委任を受けることで、インターネットを用いてする申立て等の利用件数を増加させることが可能となります。こういった方策こそが、裁判IT化に関する新制度を成功させるための重要なポイントとなるのだろうと考えております。

 日本司法書士会連合会として検討を進めております本人訴訟のサポートの体制について御説明させていただきます。

 すなわち、IT環境の不十分な方、操作に不安のある方をサポートするために、全国の司法書士会に設置されている百五十七か所の総合相談センターのインターネット環境や電子化のための機器を充実させるための助成を計画するとともに、既に一部の総合相談センターでは、ネット予約やウェブ面談相談の導入など、IT化の対応も実施をさせていただいているところでございます。また、総合相談センターでは、業務に付随する相談として、裁判IT化に関する相談も対応していただくように全国の司法書士会に指示しているところでございます。

 さらに、全国四十五の司法書士会においては、最大六十五インチの大型タブレットを設置済みでありまして、これらの複数のシステムによるウェブ会議機能を備えております。

 法案の審議の際に、本人訴訟の当事者にいかにインターネットを用いてする申立て等を利用していただくかという観点からの方策を検討されると思いますが、是非とも士業者の活用について考慮していただくよう希望する次第であります。

 また、本人訴訟の当事者がIT化による利便性を享受する方策として、日本司法書士会連合会といたしましては、法制審議会部会において、とりわけ本人訴訟の多い簡易裁判所においては、弁論準備手続だけでなく、口頭弁論においても、電話会議による方法が可能とするような意見も述べさせていただいているところではあります。

 時間でございますので、本日は、この発言についてはこの程度とさせていただきますが、この法案がいち早く成立すること、そしてそれが国民の裁判を受ける権利の保障となり、多くの市民、国民の皆様がメリットが享受できるような、そういったことに、微力ではございますが尽力をさせていただきたいというふうに思っています。

 本日はどうもありがとうございました。(拍手)

山田(美)委員長代理 ありがとうございました。

 次に、別所参考人にお願いいたします。

別所参考人 紀尾井町戦略研究所株式会社代表取締役の別所と申します。

 本日は、貴重な機会をいただき、誠にありがとうございます。

 私は、一九九九年から二十年ほど、ヤフー株式会社の法務部門の責任者を務めてまいりました。その経験を踏まえまして、本日は、企業法務の観点、あるいはデジタルサービス、インターネットの専門家という立場から参考意見を述べさせていただきたいと存じます。

 民事裁判手続のIT化に関しましては、昨年秋に行われました司法シンポジウムのパネルディスカッションにも出させていただいて、私見を述べさせていただくような機会もいただいております。

 まず最初に、民事訴訟手続のIT化というものに関しては、必要であり、かつ、避けて通ることができないものであるという認識をしており、改正案の全体的な方向については異論はございません。

 司法のデジタル化は、あえて司法のデジタル化と申し上げさせていただきますけれども、国民のための司法を実現する手段として必要かつ有用だと考えております。司法のデジタル化が的確に実現することができれば、司法手続の迅速化や透明性の確保に結びつくというふうに考えております。

 まず、改正案で示されている、当事者の申出による期間が法定されている審理手続の創設、それから、住所や氏名等の秘匿制度の創設、人事訴訟、家事事件手続のIT化は、改正案どおりに進めていただきたいというふうに考えているものになります。特に、デジタル化が進展する社会における個人情報、プライバシー保護という観点からは、住所、氏名等の秘匿制度の創設は、本来であればもっと早期に実現されていてしかるべきものだったというふうに考えております。

 それでは、改正案全般についての意見を述べさせていただきます。

 まず最初に、先ほどデジタル化という言葉を使わせていただきましたけれども、IT化というのはITツールの利用を指すものではないというふうに理解しております。デジタルテクノロジーの発達によって様々なツールが開発されて、既に国民の一般の生活の中には取り込まれていることは御承知のとおりでございます。電子メール、チャット、SNS、オンラインの会議、大容量ファイルの送信システム、あるいは各種クラウドなどは、既に多くの人々が一般的に日常的に使用しているものになります。それらを利用するためのデバイス、スマートフォンとかタブレットとかPCというものも普及しております。後ほど課題についてはちょっと触れますけれども、ネットワークの回線というのも整ってきております。

 こういった環境の中でITツールが使われるようになっているということだけではなくて、社会生活のデジタル化によって、訴訟に提出されてくるような証拠類も、オリジナルがデジタルというものが増えているというふうに認識しております。

 例えば、多くの方がやり取りをしている電子メールとかチャットというのは、元々デジタルのまま存在しているものになります。また、一部では、契約書のデジタル化、特にコロナ禍の影響もあって、契約書のデジタル化というのが一気に進んでおりまして、デジタル署名がされたデジタル保管されている契約書というようなものも増えてきております。なので、書面だけではなくて、記載されるものだけではなくて、訴訟に関していうと、提出されるべき証拠類というのが、元々、オリジナルがデジタルというようなものが増えている状況にあるというふうになっています。

 こういう環境を考えたときに、人々が一般的に使っているようなツールと似たような、同じような環境で裁判手続にアクセスができる、データをそのままデータとして裁判に提出することができるというようなことになれば、当然、利便性が高まりますし、アクセスが容易になるということは想像に難くないというふうに考えております。

 一方、今、何回かデジタルという言葉を使わせていただきましたけれども、御承知のように、デジタル庁が創設されて、ITという言葉に代えてデジタルという言葉が使われている背景は、IT化の本質がデジタルデータの利用にあるということにほかならないと考えております。この点は司法においても同様で、考えるべきことはITツールの利用ではなくて、デジタル化されたデータをどう司法手続の中で活用していくのかという観点ではないかなというふうに考えております。

 ただ、ITツールの利用というのはデジタルデータを使うための入口ですので、その入口を開けないことにはデジタル化まで進まないというふうに考えておりますので、ITツールの利用ということはデジタル化の入口として捉えるべきだというふうに考えております。

 現在、多くの場で行われていることは、デジタルで作成された、つまりPC等で作成されたもの、デジタルで存在しているものを一回紙という書面にアウトプットして変形をします。それを訴訟に使うときには裁判所に提出をする。その裁判所が、紙のまま持っていたら、デジタルのまま使うことができないわけです。これをデジタル化するために、デジタルデータに置き換えをしてもう一度再成形をするというようなことというのは、一段階余分な作業を挟んでいるということになります。

 デジタル化というのは入口から出口まで一貫してデジタル化を進めるということですので、そういった形でのデジタル化というのが目指すべき形ではないかなというふうに思っております。デジタルで作ったものを紙に変えた瞬間に、非常にデータへのアクセス性というのが落ちてしまいますし、データの持っている貴重な価値というものが全て失われてしまう、データとしての財産が失われるということになるというふうに思っております。

 先ほど少し契約書のところで触れさせていただきましたけれども、今進んでいる契約書のいわゆる電子化は、若干課題があるというふうに認識しております。

 なぜかというと、今、デジタル署名をしている契約書というのは、PDFと言われているファイルの形式に変換してそれに電子署名がつくというものです。PDFというものは一種の写真のようなものというふうにお考えいただければいいと思っていて、書かれている文字をダイレクトに加工したり検索したり、まあ、一部検索ができる形式もありますけれども、というのができないという形になっています。なので、PDFという形ではなくて、本来であれば、テキストデータと言われているもののまま保管ができて、裁判とかでも提出することができるということが望ましいと思っていますし、訴訟に提出するものも、先日、先ほどちょっと申し上げた司法シンポジウムで仮のシステムのものを少し拝見させていただいたんですけれども、その中にPDFをアップロードするというものがあって、そのPDFをアップロードするという思想で作られたものというのは、多分デジタル化からはかなり遠いというふうに認識しております。なので、デジタルデータをデジタルデータのまま使うというようなことが望ましいというふうに思っています。

 そういうことをすることによって、例えば、主張の部分を一部書き写したりするというのもデジタル上でできるようになるというようなこともありますし、大量のデータの中から必要な部分を検索して使うということ、あるいは、将来的には、証拠や主張の分析をAIを使ってサポートしてもらうというようなことができるというふうに考えておりますし、裁判がなかなか進まないというような課題についても、デジタル化されていれば、そのデジタル化されたものを使って、どこで遅延が起きているのかというような分析を行って、手続を変えていくというような可能性というのは十分あるというふうに考えております。

 また、全ての判決の公開ということも、判決文のデジタル化というところを徹底していただければ十分にできるというふうに思っていますし、判決文が公開されていくことで、いろいろな解析、裁判に対する分析というのを更に進めることができる、その結果、裁判結果の予測ができたりとか、場合によっては判断のばらつきがあるというようなことが見つかったりとか、そういうようなことが可能性としてはあるというふうに思っています。

 こういうことができるようになるというのがデジタル化を進めていく意義だというふうに考えていて、そのために、その入口としてのITツールの利用というところを開けていただきたいというふうに考えております。

 デジタル化を考えていくために必要な要素と課題について、お手元の資料に簡単に触れさせていただきましたけれども、ここで課題というふうに書かせていただきましたけれども、課題があるからデジタル化をしないとか、課題があるからITツールを使わないということを申し上げたいということではなくて、課題を課題として認識いただいた上で、避けて通れないデジタル化社会に向けて、司法手続のデジタル化を進めていただきたいというふうに考えているということです。

 言わずもがなですけれども、インターネットを使おうということがいろいろなところに出てきますけれども、インターネットはベストエフォートで提供されているサービスになります。なので、品質保証が完全にされているわけではないというのが一つになります。

 それから、インターネットを使うと、インターネットを多くの方々がインフラのように使っていますけれども、インターネットを一体誰がガバナンスしているのかということをきちんと考えていただきたいというふうに思っております。

 インターネットガバナンスというのは、グローバルで、マルチステークホルダーという形でいろいろな国とか団体とか市民社会が参加して維持するという形になっていますけれども、このインターネットガバナンスへの議論にこの国は実はほとんど関与していないということです。

 インフラとしてちゃんと使っていきましょうという以上は、インターネットガバナンスを守るというのは非常に重要で、インターネットに関する国の支配を強めたい国々があって、そういう国々と伍して今のガバナンス体制を維持していくためにも、インターネットガバナンスに対する国の関与ということが、後ろを支えるという意味で必要だというふうに考えております。

 もう一点、デジタル環境のばらつき、既に御指摘の委員もいらっしゃいましたけれども、今、日本中、どこからでも安定してネットワークがつながっているというふうには必ずしも言えないということです。つながっているネットワークが、先ほど言いましたベストエフォートですので、いつ途切れるか分からないということです。

 ITのツールは非常に便利ですので、例えばですけれども、証人尋問とかに使うことも当然、技術的にはできます。それは進めていただきたいと思いつつ、ただ、起きることを予測して様々な手当てが必要になってくるというふうに考えています。証人尋問で質問を重ねたいときに、回線が突然切れてしまって質問が続けられないというようなこともありますし、ITツールの一つの欠点は、相手方の状況が正確には分かっていないので、自分で一生懸命話しているつもりでも、相手方の回線の不具合で聞こえていなかったというようなことも当然起こり得るわけです。

 こういうようなことが起きるということを前提に、いろいろなツールを選び、あるいは不具合が起きたときの対処をしながら使いこなしていっていただきたいということを考えております。

 多くのものが最高裁判所規則に委ねられているというふうな形になっていますので、最高裁判所規則の方の規定の仕方あるいは運用のところがきちんとアップデートされていくということが極めて重要だというふうに考えております。そのために、定期的な見直しをしていただきたいのと、あわせて、技術レベルがどんどん変わっていきますので、その技術水準を追いかけることができるような人材を是非、司法の中で確保していただきたいというふうに考えております。

 誰一人取り残さないために、今の現状では、全ての手続をインターネットを通じてという、必須にはしないという考え方自体は理解はできますけれども、ただ、現実、デジタル化を本当に進めたいのであれば、一気にデジタル化をするという選択肢の方がより有効だというふうに考えております。現状を見ながら、そこは手続を見直していっていただきたいというふうに思っています。

 いつ一気にインターネットでの書面等の提出を義務化するのかというのは、一つの試金石になると思っています。基本的には、五年とかというのは非常に長い期間ですので、そういう期間を待たずに、できるだけ技術水準とかネットワークの進展状況を見据えて見直していただきたいというふうに考えております。

 最後に、本件とは少し離れますけれども、デジタル化という観点からは、今後の検討課題というところに少し書かせていただきましたけれども、司法をめぐる、周辺にあるデータの整備というのがまだ遅れているというのが実情だと考えております。

 戸籍とか不動産登記とか法人登記のデジタル化、そのデジタル化と併せて、データの悉皆性というのが必要になっております。現状では、不動産に関して言うと、所有者不明の土地というのが出ておりますし、実は、株式会社についても、株主が分からない状態の会社が存在していて、事業承継とかで既に問題が起きているというようなこともあります。基本になるデータをきちんと整備していかないとデジタル化というのは進みませんので、いわゆるベースレジストリーと言われているようなもので法務省が管轄しているものについては、データの悉皆性も含めてきっちりやっていっていただくことが重要かなというふうに考えております。

 非常に雑駁ですけれども、以上、私の意見を述べさせていただきました。ありがとうございました。(拍手)

    〔山田(美)委員長代理退席、委員長着席〕

鈴木委員長 ありがとうございました。

 次に、松森参考人にお願いいたします。

松森参考人 弁護士をしております松森と申します。こういう機会を与えていただいて、本当にありがとうございます。

 今日、私がお話しさせていただきますのは、期間限定裁判の件でございます。

 この度の民事訴訟法の改正は、先ほどからお話がありますように、裁判の世界の方でもITを利用して、もっと使いやすい便利な司法にしようということでございますが、その中に審理期間を限定する裁判制度という提案がございます。これは民事裁判のIT化とは関係がございません。IT化は、先ほどからお話がありますように、各国進んでおりますが、このような期間を限定した訴訟というのは、先進国のどこにもないんです。したがって、これはIT化とは関係がないということをまず御留意いただきたいと思います。

 私は、弁護士会の方では司法制度の在り方を検討する委員を長く務めていますし、また、ふだん、訴訟代理人の仕事をしておりますので、そういう観点から、弁護士あるいは弁護士会で議論してきたことを踏まえて、この期間限定裁判の問題について簡潔にお話しさせていただきたいと思います。

 この期間限定裁判については、四つのポイントがあると思うんですね。

 一つは、どういう制度か、どういう問題があるか。二つは、必要性があるのか。三つは、日本の民事裁判をもっとよりよくするためにはどうしたらいいのか。四つ目は、この提案の制度については既に反対意見がたくさん出ております。新聞の社説も出ております。そういうことを踏まえて、国会で慎重に御審議をいただきたいということを四つ目にお願いしたいことでございます。

 最初の第一のポイントですけれども、ちょっと話が長くなって恐縮なんですが、簡潔にするために、今日、資料としてお配りしております、資料の一番のいわゆるポンチ絵というもの、二ページ、三ページに、どういう制度か、どういう問題かというのを書きましたので、それを見ながら聞いていただけるとありがたいです。

 どういう制度かということですが、これは、原則、六か月の期間が来たら裁判、審理が終わるという制度です。

 通常の裁判とどこが違うかですけれども、弁護士の先生方もたくさんおられると思うんですが、通常の裁判は、裁判が始まりますと、双方が主張を書いた書面を出したり証拠を出したり、あるいは裁判官が質問したりして、争点あるいは証拠を整理していきます。それが煮詰まってきて、お互いもう主張も証拠もありません、また、裁判官の方も請求を認めるのか認めないのか判断できますということになりますと、そこで結審して判決を出します。

 ところが、この期間限定裁判は、六か月が来たら、原則、裁判官は終わらなきゃいけないんですね。もちろん何か例外は設けられていますけれども、原則、そこで裁判官は判決を書かなければならないということになります。

 したがって、当事者も、六か月の間にできること、証人を呼び出してもらえるのかどうか、書類の取り寄せをしてもらえるのかどうか、そういうことがよく分からないままで裁判を進めなきゃいけません。

 御承知のように、憲法は裁判を受ける権利を定めていますし、その裁判を受ける権利の中には、主張したり立証したりする権利、これを法律学では法的審問請求権という難しい言い方をするようですけれども、それがある。これはもう通説です。ところが、六か月ということで決めてしまいますと、事実上それが制約をされるんじゃないでしょうか。

 そこで、弁護士や学者の方、あるいは国民の方は、何となく、これは制限されるんじゃないんですかと、裁判を受ける権利がね。それで、新聞の方も、そういう心配があるなということを書いておられるわけでございます。

 それについて、裁判所の方は、これは裁判所が提案されているんですけれども、裁判所は、これは双方が同意しているときだから許されるはずだと言われるんです。

 しかし、どうでしょう。早い裁判とそうでない裁判、そうでない裁判というのは、これまでの裁判を僕はそう言うわけですけれども、早い裁判ができました、そうでない裁判もあります、どっちにしますか、こう言われますと、やはり、早い裁判でやってもらえませんか、弁護士さん、こういうことになってくると思うんですね。それはいろいろ制約もあるんですと言っても、いや、早い裁判でやってくださいよということになっていくんじゃないんでしょうか。

 だから、これは、自由な選択じゃなくて、どっちか選ばなきゃいかぬという変な選択を迫られるわけでして、選択肢が増えるいい提案ですよという、そんなのんきなことは言えないというのが私たち弁護士の間での議論でございます。

 それから、いろいろリスクがあるので、先ほど山本教授の方からは、手当てをしたと言われるわけです。例えば、本人訴訟は、これは危ないから、本人さんはそんなに法律のことが分からないから、普通はこの裁判はできませんというのが最高裁の当初の提案だったんです。ところが、どうでしょう。今日お配りになっている法律案の六十二ページの三百八十一条の二から八というのがこの制度提案ですけれども、そこにはどこにも弁護士がついている事件に限るというような提案はないんです。

 それについて、法務省の方は、本人が訴訟をする場合は適正な審理の実現を妨げることになると言われるんですけれども、私たち弁護士の間では、こんな抽象的なことで、果たして、両当事者がこの裁判でやってくれと言っているときに、裁判官が、いや、あなた方は駄目ですよというふうなことを実際に言うのか、やはり本人訴訟においてもこのリスクのある制度を使われるんじゃないかというように危惧しています。

 また、先ほどもお話ございました、リスクがあるから消費者事件と個別労働事件は省いたと言われるんです。だけれども、どうでしょう。民事裁判というのは多種多様ですよね、交通事故もあれば、不法行為もあれば、不動産もあれば、売買代金もあれば。そういう事件はこの訴訟制度で使われることになるんですね。

 これについて、法務省は、また手当てをしたと言われるんです。当事者の衡平を害すると裁判所が判断したときはこの裁判制度の使用を認めないと言われるんですけれども、これも、さっき申し上げたように、両当事者がやってくださいと言っているときに、当事者間の衡平を害するというような難しいことを言って、これを認めないということが現実にあるんでしょうか。

 それから、通常訴訟への移行を認めるということが最終段階で出てまいりました。どういうことかというと、六か月で終わる裁判を、両方が希望して合意して出すんですけれども、リスクがあるから、途中で、やめた、通常訴訟でやってくださいよということができるようにしたんです。

 だけれども、どうなんでしょう。この制度をつくるのは、当事者間で、早く、私たちは六か月ぐらいで終わる裁判をやってくださいと決めていても、守らない人がいるから法的拘束力のある制度が要るんだというのがこの提案だったんです。だけれども、今申し上げましたように、今配られている法律案も、途中で離脱ができるというんです。最初の立法目的は一体どこへ行ったんでしょうか。

 つまり、リスクもあるわ、必要性もはっきりしない、そんな制度を、しかも、近代国家、どこの国にもない、それを、法制審議会の委員の先生方はそれはもちろん熱心に議論されたと思います、しかし、そのような危なっかしい制度をこの国日本に今導入して、危ないことはないんでしょうか、この日本のためになるんでしょうかというのが私たちの心配です。

 それでは、どうしてこの制度が提案されたかです。

 最高裁判所は、先ほどもお話ございましたけれども、国民は迅速あるいは期間が分かる裁判を望んでおられると。それはそうなんですね。だからこの制度を導入するというんですけれども、僕たちは、そこは短絡的だと思うんです。

 なぜかといったら、どこの国だって早い裁判、期間の分かる裁判を望んでおられるんですけれども、だけれども、やはり裁判は事実を解明して権利義務を決めなきゃいかぬから、そういう国民の裁判を受ける権利を侵害するような制度はどこの国も採用していないわけですよね。だから、そういう制度を、期間が分かる可能性を高めるために、期間予測可能性を高めるために導入するということは非常に危ないことではないかなというように思います。

 それから、この制度は一体どういう場合を想定されているかということでございますが、これについての説明は、事前に十分な交渉があって、事実関係については争いがなくて、例えば、契約書のこの条項について裁判所の判断を仰ぎたいというような場合だと言われるんです。だけれども、僕たち弁護士からしますと、そんなような事件は、両方の弁護士が裁判所に行って、ここのところだけ裁判所は判断してくださいと言えば、六か月ぐらいで、あるいはもっと短い時間で和解をするか判決をもらえると思うんですね。だから、想定されているような事件であれば必要性がないというように思います。

 法制審の部会でこんなことがございました。経済界の、経済団体の方が、企業にこの制度について意見を求められたようです。そうすると、一番多かった意見は、特に反対はしませんというような意見だったというんですね。だから、もちろん、企業だけじゃなくて国民だって早い裁判を望んでいますけれども、この期間限定裁判を一体強く望んでおられるのは誰なのか、大きな需要があるのか、それだけの調査報告書があるのかということについてははっきりしていないというところでございます。

 裁判の充実あるいは迅速化はみんなが望んでいることでありますから、これは進めなきゃいけません。だけれども、日弁連は、かねてから、裁判官をもっとやはり増やすべきじゃないかと。東京地裁の裁判官は、一人、常にですよ、百九十件の裁判を抱えておられるんです。それで早くしなさいと言われれば、もう証人調べをやらないとか減らすとかしかないわけでしょう。そういうのが今の裁判の実情ですよね。

 期間予測可能性のある制度を設けて裁判の件数を増やすというのは、それはちょっと余りに小さい理由ではないか。もっと国民が裁判を利用しやすくするためには、やはり裁判にかかる費用の問題。ヨーロッパでは、弁護士費用保険をみんな、六割、七割の人が入っているというんです。そういう制度をもっとつくって、あるいは賠償金ももっと増やして、やってよかった裁判にすることが、国民がもっと裁判を利用することの道ではないかなというように思っています。

 話を戻しますが、この制度について、今国民がどんな意見を出しているかですけれども、去年の春のパブリックコメントで反対が多数でございました。賛成は少なかったというふうに思います。

 その後、先ほどお話のあったように若干修正がされたんですけれども、修正された案について、全国の十の弁護士会、福岡とか大阪とか全国の十の弁護士会が、今の修正された案でも、今日僕が少し聞いていただいたようなリスクがあって、必要性もはっきりしないから、それを導入すべきじゃないという会長声明を出しています。また、消費者団体は、主婦連始め主要三団体が十二月に共同声明を出しておられます。また、新聞の社説は、拙速な審理になるということを書いておられます。新聞社によっては二回にわたって社説を書いておられます。

 そういう状況にあって果たしてこの国会で期間限定裁判を実現する必要があるのか、もっと慎重に審議をしていただく必要があるのではないかというように思っております。

 結びですけれども、先ほどから聞いていただいたように、この期間限定裁判、正式名称は法定審理期間訴訟手続と言うようですけれども、この分厚い本の六十二ページに、三百八十一条にございますが、これについては今回の制度化から外してもらいたい。

 民事裁判のIT化は、基本的に、やはり先ほどからお話がありますように、便利なことですし、慎重に手当てしてもらわなきゃいかぬというのはありますけれども、これについては慎重審議の上に制度化を進めていただきたい。

 期間限定裁判については今回の法案から外してもらいたいというように、国民、あるいは先ほど申し上げた消費者団体、あるいはマスコミなどから意見が出ております。私たち多くの弁護士がそういう意見でございます。どうぞよろしくお願いいたします。

 ありがとうございました。(拍手)

鈴木委員長 ありがとうございました。

 以上で参考人の方々の御意見の開陳は終わりました。

    ―――――――――――――

鈴木委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。

 質疑の申出がありますので、順次これを許します。国定勇人君。

国定委員 自由民主党の国定でございます。

 本日は、大変お忙しい中にもかかわりませず、各参考人の先生方におかれましては、まずは国会にまで足をお運びいただきまして、また、貴重な御意見を開陳をいただきました。心から御礼を申し上げたいと思います。

 私自身も、かつて二度ほど、参考人として意見陳述をしたことがあるんですけれども、それに対する質問は初めてでございますので、是非、お手柔らかにお願いできればと思います。

 私の方からは、時間が限られておりますので、三点ないしは四点にわたって御質問させていただければというふうに思います。

 まずは、訴訟記録の電子化、閲覧につきまして、これにつきましては、まず山本参考人、そして松森参考人に御所見を頂戴できればなというふうに思っております。

 今回の訴訟記録の電子化でありますけれども、それこそ、今ほど意見陳述の中で、とりわけ山本先生からも御披瀝いただきましたとおり、アクセス性の確保であったり、検索機能の確保といった形で、これは、訴訟記録の第三者による利活用における技術的な制約が格段に低くなりますので、例えば学術面における利活用というものの幅も広がっていくのかなというふうに、期待を大いに寄せているところでございます。

 ただ、他方で、今回の法改正におきましては、これは法律事項ではないものの、実際の運用方法として、自宅から、自宅の端末を利用して実際に訴訟記録を閲覧することができますのは、現時点では、当事者及び利害関係を疎明した第三者に限られているということで、かなり制限がかかっていて、私どもが広く考えるいわゆる第三者にはまだまだ広がっていないのかなというふうに思っているところでございます。

 そこで、両先生にまずはお尋ねをしたいと思います。

 先ほど山本参考人からも、現時点ではこの法改正が最良の選択なんだというお話とともに、これから先のIT、情報通信の技術の進歩によって不断の見直しが必要なんだという御発言もいただいたところでございますけれども、今ほど申し上げました、いわゆる第三者全体に広げていくタイミングと申しますか、状況について、この辺が閾値なのではないか、あるいは、それをあえて広げていくときに、どのようなところで課題を克服していく、その克服すべき課題がどんなところにあるのかというところについて、御所見を賜れればと思います。

山本参考人 御質問ありがとうございます。

 今委員御指摘のとおり、利害関係のない第三者が裁判所外から訴訟記録にアクセスするということは、今回の法律案では認めていないということかと思います。

 私の理解するところでは、その最大の理由は、やはり、そういう形で全く関係のない人たちに自分の事件を見られてしまうということは、当事者にとってはかなりマイナスといいますか、訴訟提起をちゅうちょする要因になってしまうのではないか、それで結局訴えを起こせない、あるいは争えないという当事者が出てくるのではないかという、裁判を受ける権利の観点から、やはり、なかなか今の日本の国民の意識では難しいのではないかということが議論されたかと思います。

 他方で、そういう、今先生がまさに御指摘になったような学術面等での利活用という観点から見たときに、最もニーズが高いのは判決の情報かというふうに思います。そして、この判決情報のオープンデータ化という問題については、現在、法制審議会とは別のところで、日弁連法務研究財団というところで、最高裁とか法務省とかも入りながら議論がなされています。

 最大の問題は匿名化、住所、氏名等をどのように匿名化するかという点なわけですけれども、これについては、AIを活用して匿名化をしていくという実証実験なども現在進められております。

 そのような形で判決についてオープンデータ化ができれば、かなりの程度、そのニーズを拾っていくことができるのではないかというふうに思っています。

 今、どの時期までに考えていくかということでしたけれども、そういう意味で、判決のオープンデータ化を進めていき、それを見極めながら、さらに、AIとかも技術が進んでいくと思いますので、訴訟記録全般についてもそういう匿名化が簡単にできていく。当事者の側から見ても、そういうことで訴訟提起をちゅうちょする必要がないというような基盤が整備されていけば、更に訴訟記録にもそれを拡大していって、第三者の記録へのアクセスを認めていくということ。そういう時期がいつの日か来るかなというふうには思っていますが、当面は判決のオープンデータ化というのを先行させていくのかなというのが私の認識であります。

 以上です。

松森参考人 私、それほど詳しくないんですが、今の点について私の意見を申し上げます。

 御意見ございましたように、まだ第三者として自由にいろいろなものを見れるということじゃないんですけれども、考えてみますと、昔は、判例集に載るのも一部の判決しか載りませんでしたし、半年ぐらい後にようやく手に入れることができると。最近はデジタルの判例集ができましたから、比較的早く入手できますけれども、それでも全部ではございません。

 それが、IT化、デジタル化が進むことによって、もっと多くの方が参考になる判決を入手できますので、一歩、二歩進むことになると思うんですけれども、今、山本先生のお話にございましたように、やはり、だけれども、それによってプライバシーを侵害されるという問題も出てきますので、IT化全体について言えると思うんですけれども、やはり段階を踏んで、それによって多くの方のメリットになっていくので、一気にということになると、また逆にいろいろな問題が出るものですから、段階を踏んで、各国共にIT化、デジタル化を進めているようですので、そういうのが基本的にはいいんじゃないかなというふうに思っております。

国定委員 それぞれ、ありがとうございました。

 今ほど山本先生からも御指摘いただきましたとおり、実際に学術面での活用というふうになりますと、むしろ、判例の検索をしっかりと充実させていくということの方が主たる舞台になっていくというふうに思っておりまして、まさにそのとおりだなというふうに感じながら伺っていたんです。

 今の検討状況でいきますと、先ほど来お話ございましたとおり、判決の閲覧については、民間検索サービスはあるものの、全ての判決が見られる状況ではなくて、今ほどの検討状況によりますと、例えばAIの活用によって匿名化が実現できれば、かなり環境が整っていくのではないかという御指摘であったかと思いますけれども、大体、期間的にいうと、どれぐらい先にそうした環境が整うのか、今の現時点で山本先生から御所見を賜れればと思いますし、先ほど別所参考人からも、たしか判例のデータ化について御発言をいただきましたので、所見がございましたら是非賜りたいと思います。

山本参考人 ありがとうございます。

 私の立場でその時期を明確に示すということはかなり難しいかと思いますけれども、ただ、今、実証実験等、私自身もその検討会とかに参加しておりまして、いろいろお話を伺っていますけれども、AIでかなり精度が高く匿名化はできそうだというような感触は、私自身、個人的には持っております。

 ただ、やはり、もちろん漏れとかが出てきますので、本来匿名化すべきものができていなかったというときに、被害者といいましょうか、その名前が出てしまった人に対してどういう対応をしていくかとか、そういうようなところもかなり議論していかなければならないということだと思います。

 できれば、今回の法律案が施行される、最終的に施行される時期ですね、その時期までにその基盤が整備されて、この法律案と同時に全ての判決のオープンデータ化というのができれば、それは我々にとっても大変結構なことだと思いますし、それを目指して頑張っていただきたいなというふうには、個人的には思っております。

 ありがとうございました。

別所参考人 今、山本先生がおっしゃったように、いろいろな研究は進んでいるんだというふうには理解しています。AIの精度もだんだんよくなってきていますので、早晩、実現は可能じゃないかなというふうに思っております。

 ただ、完璧にできるかというと、やはり漏れはあると思いますので、その部分を補正していくために、もしかすると人の目視みたいなものが入ってくる、その分のコストがどのくらいかかるのかというようなことを考える必要があると思っています。

 いつ頃までにというのは、多分、恐らく、逆に時期を決めて、そこまでに全てのデータを入力してみて結果を出すというようなことをやってみた方が早いかなというふうには考えておりますので、そこは今の実証実験のやり方次第かなというふうに考えております。

 以上になります。

国定委員 続きまして、当事者の申出による、期間が法定されている審理の手続の創設につきまして、先ほど松森参考人の方からはかなり意見陳述をいただいたところでございますので、ここでは、改めて山本参考人から聞かせていただければというふうに思います。

 私自身の経験として、三条市長をさせていただいていたときに、原告の立場で、あるいは被告の立場で、何度か訴訟に当事者として携わったことがあるわけですけれども、その中の一つの経験として、どうしても、人事異動で裁判官が交代をいたしますと、もうその時点で、予測されていた何となくの終結の時期というものが一気に分からなくなり、場合によっては、その裁判官の交代によって、これまでの積み重ねで何となくこんな判決になるのではないのかなというふうに双方が感じていることが、いきなりガラポンで、最初から、ゼロからのスタートになるということで、随分戸惑いを覚えたことがございました。

 そういう意味でも、今回の法規定は私は歓迎すべきことだというふうに感じているところでございますけれども、他方で、今回のこの手続の特則が認められないケースとして、先ほど山本参考人に御指摘いただきましたとおり、消費者契約に関する訴え、個別労働関係民事紛争、これについては除外されるということでありますけれども、その他、裁判所がその判断を結構裁量権を持って委ねられているというのが今回の法のたてつけなのかなというふうに思っております。

 そこでお伺いいたしますけれども、山本参考人がお考えになられるこの手続の特則が認められないケースの範囲について、御所見を賜れればと思います。

山本参考人 御質問ありがとうございます。

 今委員御指摘の、条文的に言うと、三百八十一条の二の第二項の「事案の性質、訴訟追行による当事者の負担の程度その他の事情に鑑み、法定審理期間訴訟手続により審理及び裁判をすることが当事者間の衡平を害し、又は適正な審理の実現を妨げると認めるとき」、この部分の解釈についての御質問であったかと思います。

 委員御指摘のとおり、かなりこの条文というのは一般的な形になっており、これは、私の記憶では、法制審議会の部会で、民事訴訟法十七条の裁量移送と言われている制度の要件を参考に、委員から御指摘があってこのような形になったものというふうに理解をしております。

 最終的には個々の事件の問題になると思うんですが、類型的に言えば幾つかのものがあり得ると思っておりまして、一つは、一項にある消費者契約とか個別労働関係には当たらないけれども、やはり当事者間に力の格差というものがあって、BトゥーCであるとかあるいは零細中小企業対大企業等とのこういう訴訟で、この手続によった場合にはやはり当事者間の衡平が害されてしまう、衡平な手続ができなくなってしまうと裁判所が認めるような事件類型というのは一つあるかなというふうに思いますし、また、適正な審理の実現を妨げるという意味では、やはり、当事者が、本人訴訟で、弁護士の代理がなく、かつ、本人で十分な、六か月という審理期間の中で適切な訴訟準備をすることができないような者であるというふうに認められるような、例えば法務部とかも十分にないようなところの企業が当事者であるような、そういうような場合は、やはり無理にこの手続によってしまうと適正な審理が実現できなくなってしまう。こういうような場合は、裁判所の判断でこの手続から除外されていくということになるということかと思います。

 いずれにしても、どういう形でこれが今後運用されていくかについては、先ほどの松森参考人からの懸念、法制審議会でも同様の懸念が示されておりましたので、裁判所の方でも、適切にフォローアップといいますか、どういう事件で使われているかということをしっかりと見ていただいて、それが適切かどうかということを社会全体で更に議論をしていって、この制度を更に改善していくということは必要かなというふうに思っております。

 私からは以上です。

国定委員 ありがとうございました。

 本来であれば小澤参考人から、オンライン提出について御質問させていただきたかったんですけれども、済みません、時間が来てしまいました。司法書士さんとして、このオンライン提出について、しっかりとしたサポート体制の確立に御尽力いただきますことを心からお願いを申し上げまして、私からの質問、結びとさせていただきたいと思います。

 どうもありがとうございました。

鈴木委員長 次に、大口善徳君。

大口委員 公明党の大口でございます。

 今日は、山本参考人、小澤参考人、別所参考人、松森参考人、貴重な御意見を賜りまして、今後の法案審議に資するものである、こういうふうに思っております。

 まず、山本参考人、このIT化の議論をずっとリードされてきたわけでございます。著書の中に、IT化は目的ではなく、利用しやすい民事司法を実現する手段にすぎない、そのような観点から、既存の民事訴訟にIT化を単に組み込む守りのIT化ではなく、IT化を契機として利用しやすい民事裁判を積極的に実現する攻めのIT化の発想が不可欠であるということで、今、現時点における技術状況等々、あるいは訴訟環境等とか、今回の改正案というのは最適である、こういうお話でございました。

 やはり、どこに住んでいても、そして、どのような状況にある方、例えば障害をお持ちの方、様々な方がいらっしゃる、あるいは経済的にも非常に厳しい方もいらっしゃる、どのような方も裁判のIT化というものの利便性を享受するということが極めて大事である、こういうふうに考えておるところでございます。

 そこで、今回は訴訟代理人等については義務化されておるわけでありますが、本人訴訟においては義務化されていません。しかし、できる限り利便性を確保していく必要があると思います。まず、その点についてもう少し御説明いただければと思います。

山本参考人 御質問ありがとうございます。

 委員御指摘のとおり、やはりこのオンライン化というのは、あらゆる意味で、裁判へのアクセス、利用しやすさというものを拡大していく一つの切り札になるものだというふうに私は理解しておりまして、先ほど陳述の中でSDGsのことにも触れましたけれども、これは国際的に見ても、やはりそういう、全ての人、誰も取り残さずに裁判所にアクセスしていける大きな切り札であるというふうに考えております。

 今回は、弁護士その他代理人への義務化ということになったわけでありますが、当然のことながら、本人訴訟においてもこれをできるだけ使っていただくということが必要だし、それは当事者のためにもなるということだと思います。そのためには、私は、やはり裁判所がこれを、いかに利用しやすい、利用勝手のいいようなものを、システムを構築していただくかということが第一義的に重要というふうに思っております。

 以前、小澤参考人などの御援助でも、韓国のシステムを見させていただいたことがありましたけれども、大変便利にできております。それは、普通の人でも、弁護士の代理とかがなくても利用できるようなものになっていたというふうに思いますので、日本でも是非そのようなものを実現していっていただいて、普通の人も何の問題もなく、ITについて一定のあれがあれば利用できるようなものをつくっていっていただきたいなというふうに考えている次第であります。

大口委員 ITを使うことに慣れていない方、不安に思っておられる方、あるいは、環境的に、物理的になかなかIT技術を使えない、こういう環境にある、そういうことからいいますと、やはり、本人サポートというのが極めて大事です。サポートを受ければこの利便性を享受できるということが大事でございます。

 そこで、どういう体制を構築することによって、できるだけ多くの方々が、訴訟代理人に委任しなくてもこの制度が利用できるようになるのか。そういう点で、体制整備について山本先生。そして、別所参考人はITの専門家であられますので、どういう形でサポートをすればいいのかということ。そして、小澤参考人には、簡易裁判所で、それこそ九三・三五%が本人訴訟ということでありますので、本人に対するサポートをやってこられた立場からの本人サポートの在り方について御説明をいただければと思います。

山本参考人 ありがとうございます。

 本人サポートの問題でありますけれども、第一義的には、やはり、弁護士、司法書士、訴訟手続に携わられる方々が、そのような方々には義務化されるわけですので、本人がアプローチしてきた場合にも、それに対して適切な助言等をしていただく。

 そしてそれは、個々の弁護士、司法書士だけではなくて、やはり会として、それはしっかりと、組織的にそのような形を取っていただくということが重要だと思いますし、また、本人訴訟の場合には、そういう法律家のところにたどり着かないといいますか、たどり着く前に、やはり、まず市町村とか、あるいは法テラスとか、そういったところにアクセスする人もかなり多いのではないかと思っておりますので、そういうところから弁護士会、司法書士会につないでいくというようなシステムを構築していくということも非常に重要なのかなというふうに思っている次第です。

別所参考人 御質問ありがとうございます。

 サポートといったときに、恐らく二つ考える必要があると思っています。

 一つ、多分私が答えるべきところは、デジタルのデバイスを使うためのサポートということだというふうに考えています。本来的には、サポートが必要がないように、ユーザーインターフェースのところで丁寧にガイダンスができるとか、そういったものをつくっていくことで、できるだけのサポートをしていく、手間をかけずに済むというところかなと思っています。

 あとは、ほかの領域でも行われていますけれども、デジタルに関してサポートするデジタル民生委員のようなものも少し検討されているというふうに存じますので、そういったような人たちがオペレーションのところはサポートすることができると思っております。

 ただ、訴訟の場合、恐らく、それ以上のサポートがないとうまくワークしないかなというふうに考えていて、それはなぜかというと、そもそも、本人の方で、ほとんど知識がない方が、訴状とか準備書面とかというものをきちんと作ることができるのか、要件をきちんと明確に把握した上で、自分の主張、立証すべきものを立証責任とか主張責任のところに分解して考えることができるのかというようなところが多分そもそもの課題であって、そういうところはむしろ、専門家の弁護士の先生ですとか司法書士の先生のところにたどり着くルートを、山本先生がおっしゃったような形でつくっていくというようなことがないと、十分には機能しないのではないかなというふうに考えております。

小澤参考人 御質問ありがとうございます。

 司法書士は、今、令和二年四月一日時点で、全国の簡易裁判所の管轄区域の九八・九%に存在をしております。先生御指摘のとおり、簡易裁判所を利用される方々は、紛争の額が少額であることから、迅速に解決をしたいというニーズをお持ちの方が多うございます。こういった意味では、IT化の活用と非常に親和的なんだろうというふうに考えているところであります。ですので、簡易裁判所こそIT化が、国民が望んでいるのではないかとも考えているところであります。

 他方で、少額紛争という特性から、その解決に要するコストをできるだけ低廉に抑えたいというニーズもお持ちの方が多いというふうに考えておりまして、すなわち、士業者に委任するにしても、できるだけ費用を抑えたいという、そういうニーズがあることから、私たち司法書士としましては、簡易裁判所における代理業務はもちろんですけれども、それとともに、書類作成業務としての受任もメニューを提示しまして、まさに当事者の方と二人三脚で紛争解決に当たっているところでございます。

 これからは、従来の法律相談や業務に加え、IT支援も加わることになりますので、当事者の紛争解決コストが上がらないよう、簡易裁判所管轄の紛争を抱える当事者が利用できるような民事法律扶助制度などについても是非とも御検討いただければということを希望しているところでございます。

 ありがとうございました。

大口委員 そういう点では、これは非常に大事である、こう思っておりまして、山本参考人からも、予算といいますか、国においてもこういう本人サポートについての手当てが必要だということもお伺いしました。

 そこで、松森参考人にお伺いさせていただきます。

 今、山本参考人から、法定審理期間訴訟手続について、いろいろな手当てをしたということでございます。まず類型化をして、それは除外をする、それから、条文の中で、類型化のできないものについても、それこそ、当事者間の衡平を害し、又は適正な審理の実現を妨げると認めるときは、これは除外する。そしてまた、これは訴訟代理人がついていることということが前提だということでございました。

 そういう状況の中で、通常訴訟に当事者の一方でも移すことができる、裁判官も、相当であるときは、裁判官自身も通常訴訟に移すことができる、こういう手当てもされていて、一定のニーズ、選択肢というものは用意する必要があるんじゃないか、こういうことが山本参考人からの御趣旨だったと思うんですが、これについて、それでもこういう心配があるというふうなことについて御意見があればお願いしたいと思います。

松森参考人 御質問ありがとうございます。

 今先生から御質問があった点は、この制度の是非の根幹の部分だと思います。

 いろいろ手当てがされているからいいんじゃないかな、感覚的に、まあいいんじゃないかなという方も多いと思うんですけれども、法律とか裁判とかを仕事にしております人間からいいますと、やはり、だけれども、裁判制度というのは歴史があって、今の近代訴訟制度というのは、公開の原則から始まって、審理を尽くす権利を当事者に認めるとか、ずっとそういう議論、実績の積み重ねで今の制度ができているんですね。

 やはり、この国で、この国は大変優れた国だと思うんですけれども、若干、ほかの国の制度に対して、いささかちゃんと見ないというところがあるように思うんです。法律扶助なんかも、ほかの国は基本法を設けてちゃんと国が出すようにしていたのに、日本が法律扶助の基本法を設けたのは四十年遅れなんですね。

 この制度についても、手当てされているからいいんじゃないかということじゃなくて、なぜほかの国はこの制度を設けていないのかという調査は要ると思うんですね。それを僕らは学者の方と議論したんですけれども、ドイツは、やはりこれは、そういう期間を設けて主張や立証ができなくなる制約があるような制度は、元々、基本的な権利を侵害するおそれがあるということで設けない。だから、リスクや弊害がある制度を設けること自体、やはり問題だというところから始めるようです。

 二つは、仮に、じゃ、一歩譲って、リスクや弊害のある制度を設けるだけの必要性がどこまであるのか。

 さっきもちょっと聞いていただいたように、この制度はこういう場合に使われることがあると言われる、当事者間に争いがないような事件、そういうようなものについて使われると聞いているんですけれども、一体、例えば企業とか国民に、この制度はどういう場合に必要なのか、今の訴訟制度ではできないのかというような調査ができていないと思うんですね。だから、リスクや弊害があっても、あるいは手当てをしてでもこの制度を設けなきゃいけない理由というのがどこにあるのか。

 もう一つ言いますと、さっきは申し上げませんでしたけれども、この制度を裁判所が提案されているのは、裁判所にとってメリットがある、負担軽減になるということをやはり見ておく必要があるのかなと思っています。

 以上でございます。

大口委員 時間が参りましたのでこれで終わります。

 先生方、本当にありがとうございました。

鈴木委員長 次に、米山隆一君。

米山委員 立憲民主党・無所属の会派の米山と申します。

 大変すばらしい御意見、大変ありがとうございました。早速御質問させていただきます。

 今ほど、IT化ということで、非常に、アクセスを拡大していくということが重要だと。またIT化は、単にITツールを使うということだけではなくて、そこから更に踏み込んで利便性を高めていくことが重要だというお話がございました。

 その中で、すぐにということではないんですけれども、せっかくIT化するのであれば、裁判管轄というものも、もう一から考え直していいのではないかと非常に、私、弁護士なんですけれども、思っております。

 特に、私は医療訴訟をよくやるんですけれども、そういった専門訴訟に関しましては、正直、医療集中部がある東京の裁判の方がはるかに、まあ、そう言うと怒られるかもしれませんけれども、やはり医療集中部があるところの方がいい、専門部があるところの方がはるかに楽だというのがあって、そういうのはそういうところに、あちこちのところからできる方がむしろいいのではないかというふうに思っております。

 一方、それを部会で質問したところ、そうはいっても、じゃ、それで地方裁判所とかその支所をなくしていいのかという話にはなるのでということで、その兼ね合いというのはあるんだと思うんですけれども。是非、管轄ということ、特にIT化が進んでいる諸外国の例なども参考にしていただいて、管轄をなくすということ、管轄をより広げていくということだと思うんですけれども、そういったことについての山本参考人の御意見を伺いたいと思います。

 また、別所参考人には、今度は、ある種の司法サービスという観点から、管轄を広げるということに対しての御所見を伺えればと思います。

山本参考人 御質問ありがとうございます。

 委員御指摘の点は、確かに、このIT化が非常に進んでいき、究極的なところまでいけば、そもそも日本全国一つの管轄でいいのではないかというようなところまで将来的にはいくということは考えられるかと思います。

 ただ、現時点においては、ここで提案されているIT化の中では、やはりまだ実際に裁判所に行く場面というのは十分想定されるわけですし、その場合に、特に被告側の管轄の利益、自分の近い裁判所に行って自分の意見を聞いてもらう、話を聞いてもらう利益というのは、まだそれを無視するということはできない段階ではないかというふうに考えております。

 その結果、法制審議会でも、当初の議論では、この管轄というのも一つのテーマというか論題にはなっていたわけでありますけれども、コンセンサスとして、管轄は現段階ではまだ動かさないということでコンセンサスが得られて、今回の提案では管轄の部分は含まれていない、中期的あるいは長期的な課題ということになっているものというふうに承知をしております。

別所参考人 御質問ありがとうございます。

 デジタル化が本当に進んで、IT化が進んでいった先には、恐らく、それぞれの人たちの所在地を問わないというのは当然起きてくるというふうに思っています。それは裁判管轄に限らないと思っています。

 そのときに起こり得るものということは、恐らく裁判所の中の制度も変わる必要があると思っているんですけれども、裁判所が裁判所の管轄にとらわれず、例えば、地方にいる裁判官が東京の訴訟を受けることができるというようなことも当然できるようになります。

 建物をどうするのかという課題はあると思うんですけれども、裁判所という建物そのものというものの利用の有用性というのは否定はできないと思っていますので、例えば、証人尋問とかをきちんと行うために裁判所の施設を使うとかというようなことというのはまだまだ残るというふうに思っています。

 そういう中で、設備の使い方と、全国に管轄を広げたときの裁判所の体制をどうするのかということが整ってくれば、場所を問わず、どこにいても、例えば地方にいる裁判官が専門部の所属として活動するというようなこともできるというふうに考えていますので、裁判官の人員の分布も含めて、いろいろな形で管理がしやすくなってくるというふうに思っていますし、司法サービス自体の質の向上ということも図ることが可能だというふうに思っております。ただ、そのためにはまだまだ、ITですとかデジタル化を進めていくということが必要だというふうに考えております。

 ありがとうございました。

米山委員 次に、オンラインで人証調べということが今回入ってくるわけなんですけれども、これは、ちょっと考えますと、今も参考人からの御指摘があったとおり、幾らでも不正の手段はあるといいますか、物すごく簡単にカンペを出すという、全然デジタルなカンペを出すというのもありますし、カンペを出さなくても、今度は画面上にポップアップで解答が出てくるみたいな、そんなことも十分考えられるんだと思います。

 逆に、それを物すごく排除しようとすると、要は専用端末みたいになってしまうと、それはもうIT化の価値が全くなくなる。逆に、汎用の端末、汎用のPCを使う限りはその手の不正はほぼ排除できないんだと思うんです。

 そうしますと、これを防ぐためには、結局裁判所でやる。裁判所でやるんだったら、そもそもオンラインで証人調べをやる意味はないと思うんですが、それをもし防ぐのであれば、立会人みたいなのを置かない限りは、その可能性を排除するのは極めて難しいと思うんです。その辺、山本参考人にお伺いしたいんですけれども、その辺の可能性についてはどのようにお考えでしょうか。

山本参考人 ありがとうございます。

 委員御指摘のような懸念というのはやはり従来非常に強くて、現在の制度は、最寄りの裁判所に証人が行かないといけないという、会議システムの尋問はそういう制度になっています。

 今回は、それは広げよう、証人の便宜の問題もありますし、少し広げていこうということではあったわけでありますが、やはり御指摘のような御懸念というのは法制審議会でもかなり様々な点から指摘をされました。

 結果としては、まず、要件の問題として、両当事者に異議がない場合というのを一つ今回設けました。両当事者から、まあこれは大丈夫だろうということであれば、それはオンラインで尋問を認めてもいいだろうということであります。

 それから、場所の問題。これは最高裁判所規則に委ねられたわけでありますけれども、そのような不正が起こらないような場所というのが具体的な事案の中で裁判所が想定できるのであれば、そういう裁判所外の場所でもできるようにしようということになったわけでありますが、この部分はかなり運用の問題に委ねられていて、最近、どこでもオンラインというのが問題になっていて、我々大学でも、期末試験をオンラインでやるときに不正をどうやって防止するかという非常に難しい問題があるわけで、いろいろな技術も開発されつつある状況にあると思いますので、そういうようなことも見ながら、裁判所の中で個別の運用を考えていっていただくというところかなというふうに私としては思っております。

米山委員 次に、裁判データの活用について別所参考人にお伺いしたいんです。

 裁判データの活用というのは、私は弁護士をやっているので非常に興味のあるところなんですが、データ量としてこれが一体どのぐらいのものなのかというのが余り想像ができなくて、裁判というのは恐らく年間十万件程度で、判決が何文字なのかちょっと分からないんですけれども、一枚千文字で十ページぐらいだとすると一万文字ということで、そうすると、一年間に十億文字ぐらいなデータが出るんだろうなと想像されて、十年なら百億文字ぐらいなんだと思うんです。それを裁判所のサーバーの中にやるというのは、きっと、それは裁判所ですから、ほどよくうまくやってくれるんだと思うんですけれども。

 今度は、じゃ、それが、当面はなかなか難しいという話なのかもしれないんですけれども、やがて一般に公開されて、例えば弁護士の私なんかがアクセスして解析できるというふうになったときに、それってできるものなんですかと。それこそちょうどヤフーにもおられたことですし、一体全体、それはどのぐらいの量でどのぐらいのパワーを必要なんでしょうかということをちょっとお伺いしたい。

 というのは、医学論文みたいなものでありますと、あれはもう膨大なデータベースがあるんですが、キーワードでひっかけてせいぜい十個ぐらいしか論文は出てこないので、解析は簡単なんだと思います。でも、恐らく民事訴訟って、それはかなり同じような類型のものはすごくあるので、すごいデータががっと出た場合に、それはもう専門の会社でなければ分析できないようなものになりそうなのか、それとも、意外に個人でも分析できるようになりそうなのかということを別所参考人にお伺いさせていただければと思います。

別所参考人 御質問ありがとうございます。

 なかなかお答えするのに難しい御質問をいただいたと思っています。

 データの総量がどのくらいになるかというのが分からないと、全体的にそれを支えられるハードが可能かどうかというのは一概には言えないんですけれども、一般的に言うと、おっしゃったような量は、例えば検索のサービスをしているような会社にとってみたら大した量のものではないというふうに考えております。

 今、幸いなことに、いわゆるリーガルテックと言われている領域、いろいろな会社が技術のしのぎを削っておりますので、そういう会社がそういうデータを入手して、多分、解析のツールと一緒にいろいろな方々に御提供するというような形になってくるというふうに思っています。大量のデータを特定の法律事務所とか個人の方がお持ちになるのは非常に難しいと思っていますけれども、いわゆるSaaSと言われているようなサービスで、データと解析ツールをセットに提供していくというようなことが早晩実現するのではないかなというふうに期待しております。

 ありがとうございました。

米山委員 次は、また同じ件について山本参考人にお伺いしたいんです。

 判決はある種公文書でしょうからそれでいいんでしょうけれども、判決を更に超えてとなると、準備書面のようなものも含めてそういう解析になったときに法的な問題点はあるかということと、また、例えばそれが民間に提供されますよというときに、やはり、個人情報保護法的な観点から、私はオプトアウトしたいんです、私の情報は出してくださいみたいな、そういうものは認める必要があるのかないのかということです。要するに、一般の解析用にそういったデータは出せるのかということについて御意見をいただければと思います。

山本参考人 ありがとうございます。

 やはり大きな問題は匿名化ということだと思います。

 判決、先ほど私もちょっと御紹介しましたが、AIで今やろうとしているわけですけれども、準備書面とか、さらに証拠とかになってきますと、これを完全に、しかもそういうものについては第三者の情報もかなり入っている可能性があって、そういうものを全て完全にうまく消し切れるような、それが信頼できるようなレベルのものになっていくかどうかというと、やはり現段階ではなかなかそこまで見通すことは難しいだろうと。そうすると、それがある程度、個人情報あるいは企業秘密的なものも一定程度出ざるを得ないということを前提にして、なおそこまでやるだけのニーズというのがそういう準備書面なり証拠なりのところであるのかどうかということになってくるのかなというふうに思っています。

 ただ、一つ通常の個人情報と違うのは、裁判所に行けばみんな見れるわけですね、基本的には。閲覧制限等がかかっていない限りはプライバシー情報も企業秘密も見れる。ただ、それをデータベースの形で第三者がアクセスできるかという問題であって、通常の個人情報とは少し違う面もあろうかというふうに思いますけれども、ただ、なお検討していかなければいけない問題はかなり多いかなというふうに思っております。

米山委員 それでは、最後に非常に短い質問を一つお伺いしたいんですけれども、IT化が進んでいく中、せっかくなら印紙代を下げるべきだと。アクセスというところに、日本の裁判アクセスの最大の問題点は実は印紙代である。せっかくIT化で手間が減るんだから、印紙代を下げるという議論はないものなのかと思ってずっと聞いていたので、こちらの御意見を山本参考人と別所参考人にお伺いできればと思います。

山本参考人 ありがとうございます。

 なかなか具体的な金額について申し上げることは難しいのですけれども、今回は、一つ、従来非常に問題であった郵便の切手代の問題については、それを手数料の方に組み入れるということにしております。その手数料については、かなり実費、今までの統計データをあれされて、実際に費用ベースで手数料の方に組み入れたというふうに承知しておりますので、絶対的な金額はどうかということはありますけれども、かなり合理化は図られているのかなというふうな印象は持っております。

別所参考人 御質問ありがとうございます。

 デジタル化の推進というものの一つのメリットというのは、効率性の追求だと思っています。効率性を追求することによってコストが下がってくるということであれば、いろいろな費用を下げてくるというところにつながってくる可能性はあるのではないかなというふうに期待しております。

 ありがとうございました。

米山委員 大変どうもありがとうございました。

鈴木委員長 次に、前川清成君。

前川委員 日本維新の会の前川清成でございます。

 参考人の先生方、今日は大変貴重な御意見を賜りまして、ありがとうございます。

 まず、期間限定裁判に関して松森参考人にお尋ねをさせていただきたいと思うんですが、期間限定裁判が想定している守備範囲、これについて、事実関係には争いはなくて、契約書の解釈だけが争点になっているようなケース、こういうふうなお話がありました。

 これは法制審の議論の中でもそういうことが出ていたと思うんですが、松森参考人は弁護士をもう四十年以上しておられると思うんですが、こんな、事実関係に争いがなくて契約書の解釈だけが争われているというふうな事件を経験なさったことがあるのか、ないのか。私は、弁護士三十年を超えました。寄り道もしておりますけれども、全くそんな経験はありません。

 この期間限定裁判の守備範囲について御意見を承れればと思います。

松森参考人 前川議員、御質問ありがとうございます。

 私、もう答えから申し上げますと、今言われているようなケースは私は余り経験がありません。似たようなことはありますけれども、自慢ではないですが、もしそれを私がやらせてもらえるのであれば、裁判所に行って、双方が早くやりたいということを裁判官に訴えて、証拠を一遍に出して、主張を書いた書面を出して、裁判官にここを判断してくれと頼めば、言われているような事件は、さっきも申し上げたように、そんなにかからないと思うんですね。

 実は、法制審議会の議論の前に、IT化の研究会がありまして、そのときに、三つのケースがこの事件になじむ、こういう事件のために必要じゃないんですよ、なじむというような言い方で三つのケースが挙げられました。

 一つは、今、前川議員御指摘のような、企業などが事前に交渉があって争いがない事件。

 二つは、交通事故の事件というように言われているんですけれども、交通事故の事件でも、御承知のように、後遺症の程度とかが争いになりますと、それはもう簡単じゃありません。だから、例えば過失割合だけが問題になるような事件であれば、今でも六か月ぐらいで和解で終わっているんじゃないでしょうか。したがって、必要性がないように思います。

 三つ目は、プロバイダーに対して、名誉毀損されたような人が情報開示請求をする事件でございます。これは昨年春に法律改正ができまして、この必要性はなくなっています。

 したがって、この三つのケースについて研究会ではなじむというような言い方をされたんですけれども、必要性がないように思います。

 国民が求めている、もっと裁判は早くならないんですかと言われているのは、やはり、今一年以上かかる、いわゆる普通の事件についての希望だと思うんですよね。それについては、こんな期間限定の裁判をつくったところで、押し込む、そうしたらまた問題があるわけですから、これでは使えないわけでして、やはり、国民の多くが望んでいるのはもっと普通のケースといいますか、それについての手当てが要るだろうと。

 それについては、先生方も、あるいは弁護士も、みんなが入って、さっき申し上げたような、裁判官の増員、これも、今年、定員は少し減員するようですけれども、裁判官の希望がないんですね、転勤が嫌だとか、そういうことで、どうしたら裁判官を増やせるかなど、知恵を絞って、司法全体の基盤の整備、底上げ、これをする必要があるように思います。

前川委員 今、松森委員から、最後の方で少し触れていただきましたけれども、現在の実務でも、争点の少ない事件というのは、私は、比較的短期間に終結しているのではないかと思います。

 長期化する事件、これは、今、松森参考人が少し言及されましたけれども、どういったところに原因があるのか、そして、より審理の期間を短縮するためには、国として、司法として何をなすべきなのか、御意見を承れればと思います。

松森参考人 日本の司法は、外国に比べてやはり特殊だと言われています。使いやすさという点において劣っているんですね。だから、件数が少ないのは、やはりそこを見直す必要があるんじゃないでしょうか。世界標準でないんですよね。裁判官の数が少ないのもそうです。この間の司法改革で弁護士の大幅増員が図られました。急ピッチで増えています。しかし、裁判官は増えていません。さっき申し上げたように、裁判にお金がかかる問題についても、遅々として進んでいないですね。そういうところをやはり変えていかないと、もっと日本の裁判が使われる、そして早くなることが難しいんじゃないかなというように思います。

 繰り返しですけれども、やはり、期間限定裁判に走るんじゃなくて、地道に、日本の裁判、司法が、どこが劣っているのか、そこを変えていく。もう一度、第二次司法改革というようなものを弁護士会も考える必要があると思いますし、裁判所も一緒に取り組んでもらいたいなというふうに思っております。

前川委員 次は、システムに関して別所参考人に教えていただきたいと思うんですが、今回のオンラインでの提出ですけれども、今ファクスで出しているような準備書面などをメールで添付ファイルで送る程度なのかなと思っておりましたら、裁判所の方でシステムをつくって、そこに登録するというふうな形になるそうです。

 そうなりましたら、それこそ、記憶量というんですか、容量というんですか、それの大変大きなシステムをつくらなければならないことになると思います。

 もちろん、技術が進歩していてそのことぐらいはたやすいのかもしれませんが、それでも、あのみずほ銀行でさえシステムが動かなくなって大変な混乱が生じた。あるいは、ウイルスに感染して、個人情報が様々書かれた裁判の記録が漏えいしてしまう。

 このIT化というのは、時代の趨勢だとは思いますが、やはり配慮しておくべきリスクも私はあるのではないかと思います。この点について、是非、別所参考人の御意見を承ることができればと思います。

別所参考人 御質問ありがとうございます。

 全てのシステムに共通して言えることですけれども、一番重要なことは、セキュリティーの確保という点と、それからもう一つは、先ほど銀行の例を出されましたけれども、システムが安定的に動く設計がきちんとされていること、この二点が重要かなというふうに考えております。

 特に、セキュリティーのところは、サイバー攻撃を含めていろいろなものに民間企業は既に対処しなければならないというような状況になってきておりますので、特に、国とか裁判所がつくるシステムについては、堅固なセキュリティーの体制というのがないと、安定した運用というのができなくなったり、使い勝手が悪いだけではなくて、データの漏えいというようなことが起こりかねないということが危惧されるというふうに考えておりますが、そこはしっかりと体制を整えていただけるのではないかなというふうに期待はしております。

 ありがとうございました。

前川委員 小澤参考人にお伺いしたいんですが、オンライン提出、司法書士の先生方のが始まって十五年ぐらいたつというふうにおっしゃいましたかね。その結果、司法書士の先生方は、法務局に行かなくて済む、その分、楽になったのかもしれませんけれども。

 ちょっと利用者という視点で考えてみて、先生方の業務に対してはマイナスかもしれませんけれども、オンライン申請が認められることによって登記申請が簡単になった、その結果、司法書士に委任しなくても、本人で申し立てることができるようになった。この意味で、オンライン申請が利用者にとって利便性が高くなったんだ、こんなことはあるのでしょうか。あるいは、逆に、別に本人申請は全然増えていませんということになるのか、いかがでしょうか。もし今分かれば、教えていただきたいと思います。

小澤参考人 前川先生、御質問ありがとうございます。

 本日配付させていただいた資料にその点は記載をしているところではあります。不動産登記、商業登記については、もう既に、十五年以上、オンライン申請が行われておりますけれども、本人申請率というのは現在一〇%ということであります。そして、その中のオンライン申請率はほぼゼロということになっております。法人登記、役員変更登記についてもこの資料に記載をしているとおりでありまして、この数字をどう見るかということだろうとは思っております。

 しかしながら、法務省も、本人申請がやりやすいようにということでソフトを改善をしているところでありまして、今後、申請の事件にもよると思うんですけれども、比較的簡易なものについては、オンラインで本人が申請する率というのは一定程度増えてくるのではないかというふうに感想を持っています。

前川委員 先ほど山本参考人からも、本人サポートが大切だ、それに当たっては、弁護士や司法書士、あるいは弁護士会や司法書士会の役割が大切だというお話がございました。

 ただ、誠に恐縮なんですけれども、弁護士も司法書士も公務員ではありません。その都度、依頼者の方から費用を頂戴して生計を営んでおります。弁護士会も司法書士会も税金で運営されているわけではありません。

 そこで、小澤参考人と松森参考人にお伺いしたいのですが、事件の依頼を受けたのではなく、単に書類提出で本人サポートをする、こんな場合にもやはり費用というのは、もちろん先生方のボランティア的な精神でいろいろやっていただけるとは思うんですが、しかし全くのボランティアでは経営が成り立たないと思います。この費用についてどう、逆に言えば、手数料についてどうお考えなのか。そして、それは弁護士、司法書士の努力だけでは限界があるので、国に対して、司法に対して、こういう要望があるとかないとか、その辺もお伺いすることができればと思います。

小澤参考人 御質問ありがとうございます。

 先生御指摘のとおり、非常に悩ましい問題だとは思っております。

 日本司法書士会連合会としては、冒頭御説明も申し上げましたとおり、そのようなサポートに対して司法書士会に対する何らかの助成が検討できないかということも今検討しているところでございます。

 一方、国に対しましては、やはり法テラスにおける何らかの支援がいただければありがたいというふうに考えております。

松森参考人 御質問ありがとうございます。お答えいたします。

 今回の法律では、本人は、義務ではありませんので、裁判所に紙で出すこともできるわけでして、サポートというのがどこまで必要になるのかということがございます。その際に、前川議員が御指摘ございましたように、民間の業者がやることですので、やはり費用、報酬の問題が絡みます。

 一つ参考になるのは少額訴訟ですね。あれは、どこの国でも、そういう専門家に頼めばお金がかかるから、裁判所が親切にして、お金が当事者にかからないようにしてやってあげようという制度で始まっているんですね。

 だから、まずは、やはり裁判所が、本人が書類を出してきたときに、できるだけそれを丁寧に対応してあげるということが望まれるのではないかなと。業者がサポートするのは、ボランティアで始めてもいいんですけれども、長続きさせるためには、やはり、業者の負担というよりは、裁判所にこれは公費でやっていただくのが正しい道ではないかなというように思っています。

前川委員 時間が参りましたので、これで終了させていただきます。

 山本参考人には、御質問させていただくことができずに申し訳ありませんでした。

 参考人の先生方、いろいろ教えていただきまして、ありがとうございました。

鈴木委員長 次に、鈴木義弘君。

鈴木(義)委員 国民民主党の鈴木義弘と申します。

 本日は、四人の参考人の皆様方に御参加いただきまして、感謝を申し上げたいと思います。

 時間がないので、端的に幾つか質問をしたいと思っております。

 今回のIT化を進めていく、司法の世界にもITを入れていくという時代に入ってきたんだなと思うんです。それの基になっているのは、やはり裁判の判決を出す迅速化、これが一つの目的にあるんだと思います。

 その中で、ある記事を目にしたんですけれども、最高裁判所出典の、第九回裁判の迅速化に係る検証に関する報告書というところに、民事の第一審訴訟事件全体の平均審理期間は、近年再び長期傾向にある、今日はちょっと資料をお出ししていないんですけれども、令和二年度の平均審理期間が九・九か月になっているということなんですね。

 訴訟の迅速化を目的として民事訴訟法の改正がなされたんですけれども、争点整理手続などの導入により一時的に審理期間が短くなったものの、統計資料からはその成果が読み取れない、こういうデータがあるんです。

 この原因として指摘されているのが、論点整理手続の長期化が指摘されているんじゃないか。審理に入る前の、いろいろ、やり取りなんだと思うんです。私は弁護士でも何でもないので、一般の国民の代表だと思って聞いてもらいたいんです。

 これを解消する方策として、論点整理手続において実現すべき事項を明らかにすることや、二つ目が、釈明権や釈明処分により裁判所の訴訟指揮を十分に発揮することが必要だというふうに言われているんですけれども、これでいけば、民事訴訟法の二条のところに、「裁判所は、民事訴訟が公正かつ迅速に行われるように努め、当事者は、信義に従い誠実に民事訴訟を追行しなければならない。」という規定が、実現が図られるのではないだろうかということなんですね。

 今申し上げました二点を、しっかりとした方策を取らない限り、期間限定裁判を導入したとしても、結局、何が目的なのかというと、早く判決を出してほしい、そのために、じゃ、どうする、ITを駆使しましょう、こういうことになっていくと思うんですけれども、全体の、当事者の訴えを十分に聞いて、紛争の全体像や背景事情を把握しないまま判決が出される懸念があるんじゃないかということなんです。

 今申し上げました二点について、山本参考人と松森参考人の方にお尋ねをしたいと思います。

山本参考人 御質問ありがとうございます。

 今、委員、出典として引用された裁判の迅速化の検証検討会、私も委員として参加をしております。確かに、審理期間、徐々に現在、長期化の傾向をたどっております。令和二年についてはコロナの影響がありますのでやや異常値的ではあるんですが、ただ、その前から長期化の傾向は確かに見られるところです。

 幾つかの原因が指摘されておりまして、一つは、やはり裁判所に来る事件がかなり困難なものになってきているのではないか。つまり、法曹人口とかがかなり増えてきていますので、その前の段階で簡単なものはかなり裁判所に来ずに解決して、ある意味、えりすぐった事件、難しい事件が裁判所に来るような傾向はあるのではないか、そうするとやはりどうしても時間がかかってくるという傾向は一つあるんだろうというふうに思っています。

 ただ、委員御指摘のように、裁判所の運用の中で時間がかかっている面も確かに間違いなくあって、おっしゃるような争点整理の手続がやはり、この長期化の一つの要因になっているというところだと思います。

 そういう意味で、裁判所の権限、釈明というお話がありましたけれども、裁判所の方が積極的に介入していって、当事者と争点についての認識を共有していく、それをできるだけ早くそういう困難な事件でも進めていく、そういう手だてを講じていく必要がある。

 それに、このIT化というのを、先ほど私、DXというふうに申しましたけれども、このIT化を契機として、使ってやっていくということが重要だろうというふうに思っておりまして、審理期間の限定の法定審理期間訴訟手続というのは決して万能なものではなくて、全ての事件がそれでもちろんできるわけではないわけであります。基本的には一部の事件がそれでやれることはあるわけですが、通常のもっと多くの事件というのは、そういう地道な裁判所の運用、代理人も含めて、の積み重ねの中で、国民が期待できるような適正迅速な裁判手続というのを果たしていくという取組がやはり引き続き必要だろうというふうに思っております。

松森参考人 御質問ありがとうございます。

 今、議員が御指摘になった点は、裁判の核心かと思っています。

 裁判官と弁護士が非常に気持ちよく裁判ができることがございます。これは、裁判官がやはり熱心で、双方代理人も誠実に答えるというときです。裁判官が質問をなさったりして、双方の代理人がそれに答えますと、どんどん争点が絞られていきます。ところが、熱心な方ばかりじゃないんですね。だらだらとなる裁判もあるんです。それを、さっき御指摘のように、釈明権の行使というのは、裁判官はもっとしっかり自分の疑問を聞けよということだと思うんですね。

 また、当事者も、今は大体、期日はいつにしましょうかと言うと、一か月先に期日を決めてくれと弁護士が言うんです。僕らが若いときは、一か月先に期日が入ったんです。書類を出すまでに一か月くれと言いますと、そこからまた調整をしますので、この頃、期日の間隔が一か月半になっているんです。

 私は、この九・九か月になっている原因の一つは、そういう少しマンネリといいますか、弁護士の間でも、一か月時間を下さいと言って、期日が一か月半の間隔になっているというような問題もあると思います。今回の問題提起を中心に、期日の間隔の見直しが要ると思います。

 それから、議員御指摘のように、この期間の限定の裁判ができたりしますと、もう大体分かったということで判決を出すという傾向になるんじゃないかということを危惧します。議員御指摘の、事件の背景だとかそういうことについては少し関心が薄くなる可能性があります。裁判官の中には、訴状と答弁書を見ただけで大体分かるなんという横着なことを言う人もあるんですね。

 弁護士をやっていますと、国民は一生懸命、これも聞いてくれ、あれも聞いてくれですから、やはり証人調べが終わるまでは心証を固めずにやってほしいんですけれども、この法定審理期間訴訟手続ができますと、大体聞いただけで、こんなもんちゃうかと、いわば、御託宣という言葉がありますけれども、厳かに、こんなんちゃうかというようなことで裁判が進むのではないか。ふだんそういうことで裁判をやっていますと、少し裁判官に対する被害者意識があるのかも分かりませんけれども、裁判官はオールマイティーなんですね。もう調べないと言われたら、僕らは抵抗のしようがないんです。

 そういう裁判の下にあって、こんな制度ができてしまうと、もう僕らとしては致命的だ。国民は早い裁判を望みますから、これでやってくれということになります。事件の背景とか事実解明なんというのはどこかに飛んでしまいそうです。

 そういう点で、これはもっともっと審議して、本当に必要なのかを見極めてから日本の法律にしていただきたいというのが私たちの切な願いでございます。

 よろしくお願いします。

鈴木(義)委員 私は素人だからお尋ねするんですけれども、判例主義という考え方で、例えば、自動車の事故というのは年間で何十万件もあるんだそうですね。それが何十年も積み重なって、いろいろな裁判をやったり、和解をしたりなんなりして、その判例に基づいてどうするという話になっていくんです。

 私のところの会社の顧問の保険屋さんと話をして、いや、これはこうだ、ああだ、そうだと、裁判にかけても勝てないとか取れないとかという話が事前にあるんですね。だから、裁判所に持ち込む件数が増えるかといったら増えないんです。だって、増える前にジャッジがされちゃっているということになれば、わざわざ裁判所に持ち込む必要性がないじゃないですか。

 だから、ITをどんどん駆使して、データをどんどん集めていこうとする時代はいいんですけれども、そのデータの、誰のものになるのかということですね。裁判所のものになるのか、弁護士の先生のものになるのか、検事の方のものになるのか、あるいは法務省のものになるのか、私たち国民のものになるのか。

 国民のものになるというんだったらもっとオープンソースにしていかなくちゃいけないし、いや、そうじゃないんだと、プライバシーのことはあるんですけれども、そのところをどうこれから取り扱っていくかというのが、もし四人の先生方に御示唆いただければなと思うんですけれども。

 あともう一つは、時間がないので、AIの言葉が何回も出てきたんですが、AIに全部を、人間が心服を、預けていいのかというところは私は疑義があると思っています。

 幾ら何万、何千、何億のデータがあって一つの答えを出したとしても、それを人間が受け入れるか受け入れないかというのを、ある程度いろいろな知見を重ねて、ベストとは言わなくてもベターな判決なんだというのを何かと検証しながらやっていって、そのAIが出したものは人間社会で許容できるだろうというふうにしていかないと、このITを進めていく中で、最後は、ミスジャッジをしちゃったというのは誰も検証ができない、AIの場合は。それを司法の場でどう捉えるかというのを四人の参考人にお尋ねして、簡潔で結構ですから、お願いしたいと思います。

山本参考人 ありがとうございます。

 まず、判決の、司法のデータについて、誰のものかという御指摘がありました。

 私は、やはり国民のものだというふうに思っています。判決というのは公共財でありますので、これはできる限りオープンソース、オープンデータにしていくという取組が必要であろう、ただ、その前提として、先ほど申し上げたような匿名化というようなことが問題になってくるというふうに思っております。

 それから、AIの司法への活用というのは、我々の分野で今非常にホットな話題になっているところであります。

 私の個人的な意見としては、AIは裁判、司法の補助者にはなり得ても、主体にはやはりなることはできないだろうと。それは一般の国民は受け入れないだろうし、AIというのは過去のデータ、ビッグデータから一つの結論を導くわけで、やはり創造的な作用というものには限界があって、司法という局面においては、そういう創造的作用、将来の社会を見据えて一定の法的な判断をしていくという作用も期待されているというふうに思っておりますので、それを全てAIに任せるということは私は妥当ではないというふうに思っております。

小澤参考人 御質問ありがとうございます。

 今後、裁判の中でAIが活用されるかどうかということでございますけれども、裁判例や過去の事例の検索などの場面については間違いなく活用されていくのであろうと思っておりますが、しかしながら、AIに事実認定をさせたり、ジャッジさせたりという、いわゆるAI裁判官といったものについては、現在の国民の感情からして、にわかに受け入れることはできないように考えております。少なくとも、他国より日本国内で率先してそのような要望が出てくるとは思えないというのが私の感想であります。

 海外における裁判のIT化の動向を見守りながら、どのような場面でAIを活用するかというのは議論が必要なんだろうというふうに考えております。

 なお、ドイツにおける議論では、裁判官の独立性を確保することや、判断基準が明らかでないアルゴリズムによる判決を受け入れることができないという意見が見受けられるということも聞いております。

 以上でございます。

別所参考人 御質問ありがとうございます。

 判決のデータについては、裁判の公開というのは憲法上の要請ですので、公開されるべきですし、判決のデータそのものは国民のものというふうに考えております。

 御質問いただいたAIについては、AIはただのツールですので、AIに依存する必要は全くございません。AIはそもそも限界があって、AIは課題を見つけることができない。課題を見つけることができるのは唯一人間です。AIの出した結果を採用するかどうかのジャッジメントは人間が行うものです。AIが行うものではないです。

 AIというのはツールにすぎませんから、入口と出口を人が押さえるということが重要だと思っておりますので、そういう使い方をしていくというのが正しい使い方だというふうに認識しております。

 以上でございます。

松森参考人 記録が誰のものかというのは、常に考えていくべき点だと思っています。

 なぜなら、検察庁が持っておられる刑事記録なども、なかなか、いろいろな理由をつけて、国民が見る、弁護士が見ることができないというのが現状です。民事の方の記録も、裁判は公開なんですけれども、やはり今の個人情報を大事にしなきゃいかぬというような時代もあって、国民のものと言いながら、結局は見ることができないことも多いわけでして、誰のものなのかという問いかけがいつも必要になってくるんだなとは思っております。

 以上でございます。

鈴木(義)委員 四人の参考人の皆様方に感謝を申し上げまして、終わりにしたいと思います。

 ありがとうございました。

鈴木委員長 次に、本村伸子君。

本村委員 日本共産党の本村伸子でございます。

 今日は、参考人の皆様、貴重なお話、本当にありがとうございます。

 私は、今日は、期間限定訴訟の問題について質問をさせていただきたいというふうに思います。

 まず、法制審の部会長でもございました山本参考人にお伺いをしたいというふうに思います。

 先ほど来お話もありましたように、この期間限定訴訟なんですけれども、外国にございますでしょうかという点。もしないとすれば、なぜないとお考えなのか。また、あるとした場合にどのような危険性、弊害、功罪があるかという点、お伺いをしたいというふうに思います。

山本参考人 御質問ありがとうございます。

 私も、網羅的に調査をしたわけではないので、確かなことをなかなか外国について申し上げることは難しいのですけれども、全くこれと同じ制度があるかといえば、それは多分ないのだろう、私が知る限りでは、ないのだろうというふうに思います。

 ただ、一定の審理期間を目途として審理を進めていくということを定めているような制度、例えば、イギリスには、マルチトラックというような形で、いろいろなトラックで訴訟手続を進めていく、その中にファストトラックという、一定の早い審理を行っていくような手続類型というものがあるというふうに聞いておりますし、私が専門としているフランスにおいても、一定の期間を当事者で合意をしてそして審理を進めていくという、運用レベルではありますけれども、そのような手続もあるというふうに承知をしております。

 訴訟の審理手続との関係で審理をどのように進めるかというのは、やはり、各国それぞれの対応ということになっている、それぞれの国の状況に応じてそれぞれ対応しているのではないかというふうに私自身としては認識をしておりまして、そういう意味で、日本は、これは歴史的に見るとすごく、ある意味長くなりますけれども、司法制度改革のときに審理計画という一定の計画を立てて審理を進めるという手続を設けたわけですけれども、それがなかなか必ずしもうまくいかない状況にあって、今回このような制度を、実務家等からの御意見もあり、こういう手続を工夫をしたということで、なかなか単純に外国と比較してということは言いにくい分野なのかなというふうに私自身は思っております。

 以上です。

本村委員 ありがとうございます。

 続きまして、松森参考人にお伺いをしたいというふうに思いますけれども、この期間限定訴訟の制度は近代訴訟の原則に反するのではないかという御意見が多々ございますけれども、その点、お伺いをしたいというふうに思います。

松森参考人 ありがとうございます。

 私が近代訴訟制度にないというふうに申し上げましたのは、日本の裁判は、明治時代にドイツの法律を導入したんですね。

 アメリカやイギリスは、またちょっと違う制度なんです。アメリカとかイギリスは、ディスカバリーという言葉を御存じだと思うんですけれども、事前に証拠を徹底的に調べることができるんですね。例えば、相手が企業でしたら、メールも全部取れる。費用がかかるという問題はあるんですけれども、そうして、実際、真実を明らかにするために、全部そういうものを明らかにして、その上で証人を呼んだりして、判決を出す。したがって、最初の半年ぐらいの間に全部証拠を集めますから、その後も計画的にできます。

 日本は、いろいろな理由でそういう制度を取っていない。ドイツと同じような制度をやっているんです。そのときの大原則は、さっき申し上げたように、双方は主張、立証を尽くすことができる、裁判官は自分の判断ができるときに初めて結審するという原則を貫いてきているんです。

 日本は、明治時代に導入する前、江戸時代は裁判制度がなかったと聞きます。権利という言葉もなかった。やはり日本はそういう点で、百三十年前にドイツの制度を導入して、ようやく今定着させようとしているんですけれども、そのときに、ドイツがまだそんなことをやっていない制度を導入していいのか。

 先ほど山本先生の方からは、イギリスのファストトラックとかフランスの運用例もあるということでしたけれども、やはり私たち弁護士としても、ふだんから勉強しているわけじゃないので、そういうものを報告書として裁判所が提案されるのであれば、それを事前にやはり出してもらって、法律家も国民もみんなで議論してやらないと、法制審議会の先生方だけでこれを決めてもらったというところがやはり一番危惧しているところでございます。

 近代訴訟にないというふうに申し上げたのはさっきの点でして、それを、今申し上げたような検討、外国の調査もない、そのまま導入していいのかというところで大変危惧しております。

 ありがとうございます。

本村委員 ありがとうございます。

 期間限定訴訟につきましては、これまで以上に粗雑な審理、粗雑で簡略化された判断になるおそれが指摘をされております。誤審の危険性も増大するのではないかという指摘もあるんですけれども、その点、山本参考人、そして松森参考人、お願いをしたいと思います。

山本参考人 ありがとうございます。

 委員御指摘のような懸念というのは、法制審議会の部会の審議においても、あるいはその中間試案に対するパブリックコメントにおいても、そのような御意見が寄せられました。そのために、様々な制度上の工夫というのを積み重ねてきたわけであります。

 ここでは繰り返しませんけれども、対象範囲を限定するとか、あるいは、当事者の一方がこれでは駄目だと思ったら、通常の手続に移行して通常の証拠調べ等を行ってもらえるとか、その判断に不服があれば、異議の手続、いきなり上訴審に行くのではなくて、もう一回同じ審級で証拠調べ等をやり直してもらう手続等を設ける等、様々な工夫を行って、粗雑な審理にならないよう、あるいは誤審等が起きないような配慮をして、この手続を組み上げていって、最終的には、基本的に、法制審議会の部会においても大多数の委員、幹事から御賛同をいただけたというふうに理解をしているところであります。

松森参考人 期間を限定するためにずさんな審理にならないか、間違った判決が出ないかということが、今、本村議員からの御質問だと思います。まさに、その点を多くの弁護士が危惧しているところでございます。

 六か月で判断ができないときは通常訴訟に移行するというように制度ができているというように提案者はおっしゃるんですけれども、実際に、当事者たちは、最初に合意して、六か月で判断してくださいねといってこの手続を選んでいるわけでしょう。それで、五か月目、六か月目に、いや、これはまだよく分からないところがあるなと良心的な裁判官が思っても、双方当事者が六か月で判決を出してよねと言っているときに、いや、まだ私は判断できないんですわというようなことを言って、果たしてこれは移行するでしょうか。

 あるいは、裁判所は、やはり裁判官は、ちゃんと働いてくれて、たくさんの事件を処理してもらいたいと思っているわけでして、事件をためると勤務評定が下がると聞いています。田舎の方へ飛ばされるということが多いと聞いていますね。だから、やはりそんなに丁寧ばっかり言っているわけにいかぬようですね。

 だから、六か月たったときに、ちょっと難しいからといって、それを通常訴訟に移行しますというようなことは、まず期待できないと思います。じゃ、どんなことが起こるんでしょう。もう六か月で、えいやで判決を出すんじゃないでしょうか。

 それからまた、いや、いろいろ手当てがあるんです、不服だったらまた異議ができるんです、異議をやっても同じ裁判官なんですよ。同じ裁判官がどこまで追加して審理してくれると思いますか。六か月の間に、そんなの要らないでしょうと言っておられた裁判官が、いや、通常訴訟になったから、ああ、そうですか、そうしたらこれも調べましょうかと、果たしてそんなようになるでしょうか。

 あるいは、僕らが経験するんですけれども、過失割合の裁判で、こんなもんですよと裁判官がおっしゃって、いや、これはそうじゃないのと違いますかと言っても、判決はめったに変わりません。裁判官が一旦こうだとおっしゃったらなかなか変わらないですよね。

 だから、異議ができるからちゃんとこれは手当てができているというのは、実際には合わない。だから、この手当ては極めて不十分で、本村議員おっしゃるような、ずさんな審理、ずさんな判決にならないかということについては、全然危惧が払拭できていないと思います。

 それから、今日は話が出ていませんけれども、後で見ていただいたら、判決も簡略化していいということになっているんです。何か、事前に裁判官が、この点だけ書いたらいいですかということを聞いたら、そこだけ書いたらいいというんです。そんなような判決をもらっても、高等裁判所へ持っていって勝てるかどうか分からないじゃないですか。

 だから、この簡略化するということ自体が、これまでの訴訟とは全然違う発想なんです。全然違う制度をつくろうとしているということを踏まえて、御審議いただきたいと思っています。

本村委員 ありがとうございます。

 先ほども少しお話がありましたように、裁判官が多くの事件を抱えているという問題があるというふうに思います。東京地裁の民事訴訟の裁判官でいいますと、抱えている事件の件数は、一人当たり年間二百十件というふうにお伺いをしております。とりわけ東京地裁は大変だというお話なんですけれども、これで一つ一つの裁判が丁寧に判断、公正にされていくのかということ、そもそも今の現状に不安がございます。

 こうした下で期間限定訴訟が入ってくれば、六か月ということなので、そちらが優先をされて、通常の訴訟の方が後回しにされてしまうのではないかという懸念がありますけれども、この点について、山本参考人、松森参考人にお伺いをしたいと思います。

山本参考人 ありがとうございます。

 裁判官の担当している事件数、どの程度が適正であるかということは、なかなか一般論として申し上げることは難しいように思います。これは、諸外国でもかなり、私の認識している限りではばらばらで、日本などよりももっとはるかに多い件数を持っている国もあるものと承知をしているところであります。

 ただ、いずれにしても、裁判官は、この手続によるということの前提として、当事者からの共同の申立て、あるいはその当事者が申し立てた相手方の同意ということで、当事者の方からやってほしいということの申出があるということが前提になっており、かつ、繰り返し言いませんが、様々な要件が課されているわけでありますので、裁判所が、自分がなかなか事件処理が大変だから、当事者にいわば強制をして、この法定審理期間訴訟手続を取っていくということは、にわかには私にはそういうことは考えにくいと思いますし、先ほど申し上げたように、また、これについては是非フォローアップというのをしていただいて、裁判所の方でも、どのような運用になっているかということは、これは私はチェックをしていっていただく必要はあるというふうには思っております。

 以上です。

松森参考人 御質問ありがとうございます。

 本村議員が御質問ございました、ほかの訴訟への影響はないんだろうかという点は、私ども弁護士の多くがやはり懸念しているところでございます。

 先ほども御指摘がありましたように、日本の裁判官、二百件前後の件数を持っておられますよね。山本委員の方は国によって違うということでしたが、私は、二〇〇三年に日弁連で裁判官の増員について意見書をまとめたときの座長をしたんです。いろいろ調べましたが、少ない国もございまして、オランダあたりは一人で三十件ぐらいしか持っておられないというようなものを弁護士会の調査では聞いております。

 もちろん、いろいろな国があるし、実情は違いますけれども、やはり聞いていますところ、裁判官には、東京地裁の場合、二百件前後のところに毎月四十件、五十件の記録が回ってくるんですね。逆に言いますと、四十件、五十件さばかないとたまっていくわけですよね。そういう中にあって、どこまで丁寧な審理ができるのか。良心的な裁判官であればあるほど、悩み、仕事に追われているところだと思います。

 この手続がほかに影響はないかと言われれば、この手続は、当初は、主張書面三通、即時取り調べるものしかしないということを最高裁は書いていました。したがって、それ以上ほかに影響はないのは大体分かるわけです。ところが、そういうことを書くと反対が多いものですから、規定を削除しちゃったんですね。そうすると、当事者は六か月の間にいろいろ調べてくれると誤解するんじゃないんでしょうか。

 だから、この制度は、国民、当事者を惑わせる、よく分からないものを突きつけている、提供していると思うんですね。だから、議員おっしゃるように、これを見た国民は、六か月の間に、普通一年半ほどかかるやつをやってくれると思う人だって出てくると思うんです。一体、そういうことはしないんだというのはどこに書いてあるんでしょう。

 この制度に似た提案をなさった山本教授、十年前に、三、四回で終わる裁判制度を簡易迅速訴訟として提案されているんです。これも分かりますね、三回か四回で終わるんですから。この提案は、六か月しか決めていない、何をやるかは決めていないんです。そういう訴訟ですから、裁判官の中には、いや、丁寧にやってあげようと。そうすると、悪いけれども、ちょっと、もう一つのやつは次に回そうかということだってあり得るわけでして、ほかの事件への影響、ほかの国民への影響がないとは言えないわけです。そういうところも明らかになっていません。明らかになっていないことが余りに多過ぎる提案だというように思います。

本村委員 全員に聞けずに大変申し訳ありませんでした。貴重な御意見、本当にありがとうございました。

鈴木委員長 これにて参考人に対する質疑は終了いたしました。

 この際、参考人各位に一言御礼を申し上げます。

 参考人の方々には、貴重な御意見をお述べいただき、誠にありがとうございました。委員会を代表して厚く御礼を申し上げます。(拍手)

 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。

    午後零時三分散会


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