衆議院

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第12号 令和4年4月26日(火曜日)

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令和四年四月二十六日(火曜日)

    午前九時三十分開議

 出席委員

   委員長 鈴木 馨祐君

   理事 井出 庸生君 理事 熊田 裕通君

   理事 葉梨 康弘君 理事 山田 美樹君

   理事 鎌田さゆり君 理事 階   猛君

   理事 守島  正君 理事 大口 善徳君

      東  国幹君    五十嵐 清君

      石橋林太郎君    尾崎 正直君

      奥野 信亮君    国定 勇人君

      田所 嘉徳君    高見 康裕君

      谷川 とむ君    中谷 真一君

      中野 英幸君    西田 昭二君

      野中  厚君    八木 哲也君

      山田 賢司君    若林 健太君

      伊藤 俊輔君    藤岡 隆雄君

      山岸 一生君    山田 勝彦君

      米山 隆一君    阿部 弘樹君

      前川 清成君    日下 正喜君

      福重 隆浩君    鈴木 義弘君

      本村 伸子君

    …………………………………

   参考人

   (特定非営利活動法人Remember HANA代表理事)         木村 響子君

   参考人

   (中央大学法学部教授)  只木  誠君

   参考人

   (弁護士)

   (日本弁護士連合会刑事調査室嘱託)        趙  誠峰君

   参考人

   (日本労働組合総連合会顧問)           神津里季生君

   法務委員会専門員     藤井 宏治君

    ―――――――――――――

委員の異動

四月二十六日

 辞任         補欠選任

  野中  厚君     若林 健太君

  鈴木 庸介君     山岸 一生君

同日

 辞任         補欠選任

  若林 健太君     野中  厚君

  山岸 一生君     鈴木 庸介君

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 刑法等の一部を改正する法律案(内閣提出第五七号)

 刑法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整理等に関する法律案(内閣提出第五八号)

 刑法等の一部を改正する法律案(米山隆一君外二名提出、衆法第三一号)


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     ――――◇―――――

鈴木委員長 これより会議を開きます。

 内閣提出、刑法等の一部を改正する法律案及び刑法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整理等に関する法律案並びに米山隆一君外二名提出、刑法等の一部を改正する法律案の各案を一括して議題といたします。

 これより質疑に入ります。

 本日は、各案審査のため、参考人として、特定非営利活動法人Remember HANA代表理事木村響子君、中央大学法学部教授只木誠君、弁護士、日本弁護士連合会刑事調査室嘱託趙誠峰君及び日本労働組合総連合会顧問神津里季生君、以上四名の方々に御出席をいただいております。

 この際、参考人各位に委員会を代表して一言御挨拶を申し上げます。

 本日は、御多忙の中、御出席を賜りまして、誠にありがとうございます。それぞれのお立場から忌憚のない御意見を賜れれば幸いに存じます。

 次に、議事の順序について申し上げます。

 まず、木村参考人、只木参考人、趙参考人、神津参考人の順に、それぞれ十五分程度御意見をお述べいただき、その後、委員の質疑に対してお答えをいただきたいと存じます。

 なお、御発言の際はその都度委員長の許可を得て発言していただくようお願いいたします。また、参考人から委員に対して質疑をすることはできないことになっておりますので、御了承願います。

 それでは、まず木村参考人にお願いいたします。

木村参考人 木村花の母、そしてNPO法人RememberHANAの代表の木村響子と申します。本日はよろしくお願いします。

 RememberHANAというのは、昨年の花の誕生日に立ち上げたNPO法人なんですけれども、SNSの誹謗中傷を終わらせていく活動を、様々な活動をしております。

 では、花が亡くなったときのお話をさせていただきたいと思います。

 花が亡くなった日に、私はすぐ警察の方に、こんなにひどい言葉を投げかけた人たちを罪に問うことはできないんですかと聞きました。そのとき、警察の方に言われたのが、問えない、問うことができたとしても、それは侮辱罪という、もう本当にすごく軽い罪なので意味がないというようなことを言われました。

 その日のお昼過ぎから花のことがニュースになって、次の日に、また朝、警察の方からお電話が来まして、捜査することになったので、花さんが誹謗中傷されたという証拠を集めてくださいと言われました。被害届を出すのに当たって、どこの誰かというのを、被害者が自分で証拠を集めて、自分で裁判をして探し出さなければ被害届すら出すことができないという現状があります。

 私は、亡くなった次の日、花がまだ、花の亡きがらがお布団で寝ている横でずっと、本当に何も食べられず、眠ることもできず、ただひたすらそのひどい言葉を、心を無にして、百件も二百件もずっと証拠に収めていたんですけれども、心を無にしてその作業をずっとやったつもりでしたが、ダメージは本当に大きくて、その後、字が読めなくなってしまったり、字は読めるんですけれども意味がなかなか分からなくなってしまったり、いまだにちょっと、体調が悪くなると、字が読みづらくなる、文を理解するのに時間がかかるといった、いまだにそのダメージとともに生きております。

 その頃、では、加害者は何をしたかといいますと、自分たちのしたツイートやアカウントを削除して、皆さんお逃げになられました。そのほかにも、亡くなった後にまで、木村花さん、死んでおめでとうと言ったり、地獄に落ちろと言ってくる人がいたり、本当に、亡くなった後でさえ花の尊厳は踏みにじられ、私や花に対する誹謗中傷や、私が今している活動に対しても、娘の名前を使ってお金もうけをしているなどと誹謗中傷をずっと受けてきました。

 泣き寝入りすることなく、現在、今、二十件近くの裁判を進行中なんですけれども、もうすぐ二年です。二年かかって二十件近く。二十件近くしか裁判にすることができなかったということもあるんですけれども、その中でも刑事の侮辱罪に問えた者が三名。民事で判決をかち取って、百三十万円支払いなさいという判決が出ましたけれども、一円も支払われておりません。そして、民事の和解が一件。裁判の総額だけでも一千万円近いお金がかかっています。

 お金のことだけではなく、警察や検察、弁護士の方に聴取というのがあります。本当に二度と見たくないようなひどい言葉を何回も何回もその過程の中で目にしたり、音読されたり、音読するのを聞いてそれを確認しなければならなかったり、本当に何回も何回も心をえぐられるということがありました。

 私は、警察の方に結構最初に高圧的な態度を取られてしまったことによってすごくトラウマになってしまって、警察に行くと具合が悪くなってしまうということもあって、被害届を弁護士の先生に依頼したんですけれども、被害届を出すのに四十四万円かかります。四十四万円のほかに、その人がどこの誰かを突き止めるために百万円近いお金がかかります。

 それだけのお金をかけて、もう既にぼろぼろの状態の被害を受けた人たちが、一生懸命、裁判や警察やいろいろなところで、受けた被害を軽く見積もられて、何回も何回も、二次加害、三次加害のような形で傷つけられて、それでやっとの思いで起訴して、加害者の方は九千円を払って、本当に短い形式だけの謝罪文が送られてきて。加害者は指一つで人を傷つけて心をえぐっているにもかかわらず、被害を受けた人は普通の生活すらできなくなります。本当に、誹謗中傷、数日受けただけで簡単に心が壊されてしまいます。余りにも理不尽じゃないでしょうか。

 言論の自由、もちろんとても大事なことです。全ての人に自由に声を上げる権利があると思います。同じように全ての人に尊厳があり、自分らしく生きる権利があります。言論の自由に重きを置くならば、それに見合った責任を絶対に伴わせてください。厳罰化こそがその責任ではないでしょうか。

 今日は、交通事故で、暴走事故で大切な御家族を亡くされた松永さんと一緒にこの場所に来ました。大事な人を失って、何とか少しでも何かを変えたいと思って声を上げた人たちが、声を上げたことによって誹謗中傷され、私たちは尊厳を踏みにじられて言論の自由を奪われています。花や私、松永さん、被害を受けたたくさんの人たちが踏みにじられてきた尊厳を、どうか法律で守っていただきたいと思っています。

 私たちは、チェンジさんという署名サイトで、厳罰化に対する賛同者の署名を集めております。この署名が、今、六万三千五百人の方が賛同してくださっています。

 そして、厳罰化は、これで終わりということではなくて、これを始まりとして、細やかな法整備を、どうか迅速に超党派でしていただきたいと思っております。言葉狩りや言論封じに悪用されないように、適用に注意をしていただきたいです。何よりも、被害者の救済のための厳罰化であってほしいと思います。

 また、時効が延びることによって警察の捜査が遅れることには大変大きな懸念を感じております。是非、迅速な捜査をしていただいて、一日でも早く被害者が救済できるようにしていただきたいです。

 なぜ私が、早く、迅速に、時間にこだわるかといいますと、SNSの誹謗中傷、本当に数日で簡単に人の心は壊れます。人の心を壊すのは簡単ですけれども、その心を修復するのにどれだけの時間がかかるでしょうか。一生かかっても治らない傷を抱えたまま生きている人もたくさんいると思います。

 そして、人が一人、花が一人いなくなったことで、なくしたものは花だけじゃありません。花と一緒に楽しく過ごすはずだった時間をみんなが奪われ、花が世界で活躍する姿を見るというみんなの夢も奪われ、奪われたものは花の命だけではないということを、周りの人の人生をどれだけ壊して苦しいものにしているかということを、是非、本当に想像していただきたいです。御自分の家族が理不尽に命を奪われたときに、厳しい法律を望まない理由があるんでしょうか。

 私自身、今日も結構ぼろぼろな状態で、でも、この被害者の状況を知っていただくことで、本当に一日でも早い救済をお願いしたいと思って、今日、皆さんの前に決死の覚悟で参りました。分かりづらいところもあったかと思いますが、最後まで聞いていただき、ありがとうございました。(拍手)

鈴木委員長 ありがとうございました。

 次に、只木参考人にお願いいたします。

只木参考人 皆さん、おはようございます。ただいま御紹介いただきました中央大学の只木と申します。

 本委員会で意見陳述を行う機会を与えていただきまして、大変光栄に存じます。

 私は、法務省大臣官房や矯正局等の主催の委員会や研究会において委員として参加し、近時では、PFI手法による刑事施設の運営業務の在り方に関する有識者会議や、安全安心なまちづくり関係功労者表彰に関わってまいりました。そのような経験を踏まえて若干の意見を申し上げたいと思います。

 まず、我が国の再犯に関する現状を見てみたいと思います。

 昨年の犯罪白書によれば、刑務所を出所後、二年以内に再び罪を犯して入所した者の再入率は一五・七%であり、二〇二一年までに一六%以下に減少させることを目指した政府目標は達成されたことになります。もっとも、保護観察がつかない満期釈放者については、出所後の支援が届きにくい面もあることから、その再入率は二三・三%と、仮釈放者のそれと比較して二倍以上と高く、再犯防止対策の強化が課題となっております。また、入所人員に占める再入者の比率、いわゆる再入者率は五八%と高止まりしており、他方で、再入者においては無職者の割合が高く、また、職業訓練を受けた者の再入率が低いことは一般に知られているところであります。

 今回の改正案が議論された背景には、このような現状や課題についての認識が存していたものと思われます。

 今回の刑法等の一部を改正する法律案の概要について確認しておきたいと思います。

 今回の法律案においては、現行の懲役刑、禁錮刑を廃し、拘禁刑を創設することが示されましたが、併せて、受刑者の改善更生及び円滑な社会復帰という目的の下、施設内、社会内処遇の一層の充実を図るための所要の規定の整備も予定されております。受刑者に対する社会復帰支援、受刑者の資質、環境の調査における鑑別の活用、被害者等の心情等を踏まえた処遇、刑執行終了者等に対する支援、援助などがこれです。

 拘禁刑の導入に伴っては、刑事収容施設法においても、拘禁刑の執行を受ける受刑者には、個々の特性、必要性に応じた作業を課し、改善指導や教科指導を行うこととし、また、矯正処遇の一環として、被害者等が希望する場合には、被害者等から聴取した心情等を受刑者に伝達する制度を設けたことなどが新たに盛り込まれました。

 後者については、自らの犯罪、非行に対する反省や悔悟の情を深めさせるため、また、改善更生を効果的に図る一助として、被害者及びその親族等の心情やその置かれている状況等について受刑者に正しく理解させることが極めて重要であるとの観点から、現状行われている被害者の視点を取り入れた教育を更に一歩進めたものであると言えましょう。

 一方、勤労意欲を高め、規律ある就業態度を養い、職業上重要な知識及び技能の習得を目的とした作業活動、犯罪の責任の自覚と規範意識の涵養や健全な社会人たるに必要な能力の獲得を目的とした改善指導、社会生活の基礎となる知識の習得等を目的とした教科指導については、いずれも、受刑者の改善更生及び出所後における再犯防止という観点から重要な処遇方法であるところ、学力の不足が顕著である、あるいは高齢で福祉的な支援が必要である、あるいは薬物等への依存が見られる等々、受刑者が抱える問題は多様であり、その特性に応じたバランスのよい処遇が鍵となります。

 そのため、作業に代えて指導に重点を置くなどの対応も同時に必要となってくるのであり、その意味からも、単一刑の導入は必要性に合致したものでありました。

 そして、個々の受刑者の特性に応じた柔軟かつ効果的な処遇を目指すために、受刑者の個々の問題性等に応じての作業、指導が必要と認められる場合には、その実施を専ら受刑者の意思に委ねることは適当ではないと考えられることから、受刑者の遵守事項として、正当な理由なくこれを拒否してはならない旨、定められるに至っています。

 また、以上のような拘禁刑受刑者に対する改善、矯正について適正な判断を担保するためになされる処遇調査に当たっては、専門的な知識に基づいた科学的調査を行う少年鑑別所の鑑別機能の活用、導入が考えられております。

 さらに、刑の執行終了者等の出所後の生活環境の整備や生活資金の安定的な確保が立ち行かない場合の更生緊急保護等、その後の切れ目のない援助なども視野に入れたものとなっております。

 今回の改正で取り上げられることとなった自由刑の単一化の議論については、少年法適用対象年齢の十八歳未満への引下げや若年受刑者の処遇の在り方に関する検討を契機として、近時、新たに注目されるようになっていましたが、そもそも単一化の流れは、理論的にも実務的にも必然性を伴っていたように思われます。

 現行刑法では、かつては、禁錮刑は非破廉恥罪に対して科されるものとして説明されてきました。しかし、現在では、犯罪を破廉恥罪と非破廉恥罪とに区別することに合理性はないと考えられています。すなわち、禁錮の主たる対象犯罪は政治犯や過失犯であるところ、両者を同列に扱う根拠はないとか、あるいは、刑務作業は破廉恥罪に対して苦痛ないし恥として科されるものだとする解釈は労働を軽視する考え方に親和的であるとか、そして、禁錮受刑者の八割強が請願作業についているという現状では懲役と禁錮の間の差異は事実上存在しないなどの理由からです。また、禁錮刑の現状を見ますと、昨年の犯罪白書によれば、二〇二〇年度の入所受刑者のうち禁錮刑は〇・三%、五十三人にとどまっており、しかも非難の程度が軽い過失犯の事例に限られていることも指摘されております。

 他方、処遇の面を見ますと、平成十二年の少年法改正によって、十六歳未満の少年が懲役、禁錮の言渡しを受けた場合には、十六歳に達するまでの間、少年院においてその執行が可能となり、その場合、少年には矯正教育が施され、懲役、禁錮刑の内容とは切り離して、矯正施設における処遇内容を定めることができるようになり、執行の面でも両者の区別は既になくなっているとされております。

 また、刑収法においては、受刑者には矯正処遇として作業と改善指導及び教科指導を行うことが定められており、受刑者にはそれを受講する義務があると解され、改善指導、教科指導については、懲役受刑者と禁錮受刑者とで取扱いを区別しておりません。

 以上のように、禁錮刑の受刑者に作業を課さないことの意味、そして、それとともに、禁錮刑を刑罰として維持する必要性も希薄化し、懲役刑、禁錮刑の区別それ自体ももはや意義を見出せなくなっている現在、刑事施設においては、懲役には作業を課するとしていた点を改めることで、作業以外の処遇に十分な時間を振り向けるといった処遇の個別化や、作業と指導とをベストミックスした柔軟な処遇が可能になると思われます。

 このような法律案の、とりわけ自由刑の単一化の評価という点に関して、受刑者の改善更生、社会復帰を目指す取組を見ていきたいと思います。

 出所後の受刑者の更生のための支援施設の具体的な取組の例として、民間と協働して受刑者処遇に当たる、PFI手法を活用した刑事施設の設置、運営があります。その目的、意義は、過剰収容対策、地域との共生、民間のノウハウの活用による人材の再生などであり、その結果、PFI刑務所では、二年以内の再入率が全国平均と比較して一〇%以上減少したとされております。この十五年間、実践経験を積み上げてきたPFI刑務所では、例えば、パソコンの基礎知識の習得など、雇用ニーズを踏まえた教科指導や、民間企業が職業訓練や刑務作業を通じて必要なスキルを受刑者に身につけさせる、優秀な者を出所後に同企業等にて雇い入れるという取組など、画期的なプランをもって、人材の再生という点で成果を上げてきました。

 地域との共生の具現化という面からは、自治体、大学、PFI刑務所が連携した生産活動がなされ、また、大手通信企業とコラボしたネット販売に関する職業訓練など、時代の要請にも積極的に対応してきました。

 このような、施設内にいながら社会とつながる作業の展開、地域の団体や人材と連携した、例えば、盲導犬パピー養成プログラム、受刑者と住民との文通プログラムなど、いずれも成功を収めていると評価することができましょう。

 なるほど、今日では、刑事施設の過剰収容問題も改善されて、PFI刑務所も一定程度その役割を果たし終えたと考えられますが、とはいえ、そこで培われた処遇技法については、これから拘禁刑の下で、より柔軟に活用できるようになり、施設外処遇、作業や職業訓練から直接雇用に結びつける取組などの民間のノウハウは、今後の刑事施設運営に生かされ、より発揮されることが期待できると思います。

 そして、近時、CSR、企業の社会的責任やSDGsの観点から、高い公益性を伴ったビジネスを志向する企業が増え、また、ESG投資と呼ばれる、環境、社会、ガバナンスといった収益性以外の要素から企業活動を評価し、投資する動機とする考え方が広まり、ソーシャルビジネスと位置づけて刑務所運営事業に協力する企業が増えています。企業が刑務所運営事業を公益的取組として捉え事業スキームを展開し、刑務所が再犯防止や地方創生といった社会と共有する価値を創出し、地域の課題に取り組む場として民間企業や社会に認知されていくことで、受刑者にあっては社会への貢献の意識の涵養が、社会にあっては受刑者への意識の変化と再犯防止につながる協力雇用主等の受皿の裾野の広がりが、それぞれ期待されるところです。

 他方、そのような刑事施設における処遇の変化に対応し、受刑者の更生、社会復帰を支えようとする市民や社会の動きにも注目されます。

 政府は、犯罪に強い社会の実現に向けて、安全・安心なまちづくりの日を設け、地域社会における防犯活動又は再犯の防止等に関する個人、団体の取組を広く普及させようとしていますが、これに応えるのは、就労、住居の確保のための取組、保健医療・福祉サービスの利用の促進のための取組、高齢者、障害のある者、薬物依存を有する者への支援等々に関わって、例えば、協力雇用主の元受刑者への幅広い支援、NPO法人による青少年の立ち直り支援、更生保護女性会による非行防止活動、各地のBBS活動、社会福祉協議会による孤立、困窮により罪を犯した者への福祉的支援、保護司会による薬物依存者の回復プログラムの実施など、多様かつ広範囲で多岐にわたっております。

 こうした民間支援の機運が高まっている今日、自由刑の単一化の下、作業と処遇が最適化されたプログラムを刑事施設が提供することには大きな意義があると思われます。

 私の意見は以上でございます。御清聴、誠にありがとうございました。(拍手)

鈴木委員長 ありがとうございました。

 次に、趙参考人にお願いいたします。

趙参考人 弁護士の趙誠峰と申します。

 今日は、このような意見陳述の機会をいただき、ありがとうございます。

 私は、市井の弁護士として日々現場で活動をしております。それとともに、日弁連、日本弁護士連合会の嘱託弁護士としての活動もしておりますが、今日は、あくまでも私個人の意見として、今審議されているこの刑法の改正案、その中でも、侮辱罪の法定刑の引上げの問題と、あと、拘禁刑のことについて若干意見を述べさせていただきたいと思います。

 まず最初に、インターネット上でいわれのない誹謗中傷によって、自ら命を絶たれた木村花さんに対して、この場をかりて哀悼の意を表します。

 私は日頃、刑事事件の被疑者、被告人とされている方の弁護活動をしています。刑事事件の被疑者、被告人とされている方もまた、インターネット上の誹謗中傷の的、ターゲットになりやすい方々です。そして、時にその矛先は、被疑者、被告人だけではなくて、彼らを弁護する我々弁護士、弁護人に向けても、その誹謗中傷の矛先が向きます。

 私自身も、これまで何度も、世間を震撼させるような刑事事件であったり、あるいは著名な刑事事件の弁護活動をする中で、私自身がインターネット上の誹謗中傷の的とされた経験があります。さらに、私自身が在日コリアンという出自があるということも相まって、更にそのようなインターネット上の誹謗中傷というのは激しくなることもあります。そういう意味で、インターネット上の誹謗中傷の問題というのは、我々弁護士にとっても決して他人事ではありません。

 そして、この問題について今の法制度が十分に対処できているかと言われれば、全くそうは思いません。本来もっときっちり処罰されるべき行為が処罰されていないという現状はあると思います。

 しかし、それでも私は、今回の侮辱罪の法定刑引上げという政府が出しているこの法案については賛成できません。その理由は、端的に申しますと、この民主主義社会において最も重要な権利である表現の自由、これを損ねる危険が大きい、とても危険な法案だからです。

 今回の政府案の問題点につきましては、立憲民主党などが提出されている対案、あるいは、本会議での趣旨説明を拝見しましたけれども、その中で極めて的確に指摘されていると思いますので、その内容を若干敷衍しながら、私の方からも述べたいと思います。

 まず、政府案である、侮辱罪の法定刑を引き上げる、このことによってインターネット上の誹謗中傷問題に対処しようという、このことは決して昨今問題となっている本来処罰の対象とされるべき行為に対して適切に処罰することができないんだというこの指摘は、極めて正しい指摘です。

 今問題となっているインターネット上の誹謗中傷の行為というのは、様々な態様でなされます。もちろん、中には、誰もがアクセスできるようなインターネット上の公開された空間、いわば公然となされるもの、そういうところで誹謗中傷が公然となされるものもあります。しかし、それだけではありません。例えば、SNS上におけるダイレクトメッセージであったりであるとか、あるいは、数人のクローズドな空間、SNS上のクローズドな空間における誹謗中傷というのも、深刻な問題であり、またこれは被害者の方の心を深く傷つけます。しかし、これらは決して公然となされるわけでありません。ですので、侮辱罪によって処罰することができないものです。

 つまり、今問題となっているインターネット上の誹謗中傷の問題というのは、公然性というのが法律の要件とされていて、しかも、人の外部的な名誉、これを守る法律だとされている侮辱罪による処罰にはなじまないものです。

 この点につきまして、本会議における政府の答弁、法務大臣の答弁でも、クローズドな空間での誹謗中傷の問題に対してはどうするのかという質問に対して、これは侮辱罪による処罰の対象とはならないんだと法務大臣も認めておられました。そして、それらの行為については、行政的な諸施策を推進する、このようなお答えがありましたけれども、この答弁は、まさに、今問題になっているインターネット上の誹謗中傷の問題に対して、侮辱罪という犯罪、この犯罪の法定刑を引き上げることによって対処することが決して的確なものではないということを端的に示していると思います。

 一方で、侮辱罪の法定刑を引き上げ、そして懲役刑を設ける、このことによって、法律上、侮辱による逮捕あるいは勾留というものが、これは容易にできるようになります。法律上の扱いが変わります。そのことによって、公共の利害に関わる言動であるとか、あるいは政治家に対する言動であるとか、こういった言動までもが処罰の対象になる危険がある、こういう指摘がなされているわけですけれども、これも極めて正しい指摘です。そして、表現の自由に与える危険が大きいということこそが、この場で今一番議論すべき問題ではないでしょうか。

 この民主主義社会において、私たち市民は、様々な意見に接したり、あるいは政策に接したり、あるいはそういった批判の言動に接したり、そしてそういうものを報道で知ったりして、自らの意見を形成して、それを政治に反映することが可能になるわけです。その中には、時の政府に対して批判的な言動も当然含まれます。これらの表現の自由が守られるということこそが、民主主義の社会を維持する上で最も重要なことです。だからこそ、表現の自由というのはほかの権利よりも優越される、優先されるというふうに言われるゆえんです。

 そして、このことは、例えば最高裁判所の判決の中でも繰り返し言及されています。少し御紹介したいと思います。

 意見ないし論評を表明する自由が民主主義社会に不可欠な表現の自由の根幹を構成するものである、そして、意見ないし論評については、その内容の正当性や合理性を特に問うことなく、それが人身攻撃に及ぶなどの意見ないし論評としての域を逸脱したものでない限りは不法行為にはならないんだ、こういう判断を示した、これは平成十六年ですけれども、最高裁の判例があります。

 何が言いたいかといいますと、意見を述べたり論評する、これは決して正しい意見だけが保護されるものではないということなんです。その中には、例えば、間違った論評であったりであるとか、あるいは不合理な意見というものも、その意見を表明する自由が我々にはあるわけです。そして、そのような意見を表明する自由はこの社会にとって不可欠だということです。当然、その中には、時の政府を批判するような言動ももちろん含まれます。

 一方で、表現の自由というのは、最も権力によって傷つけられやすい権利だというふうにも言われます。今回、侮辱罪というものが審議に上がっているわけですけれども、これまでの歴史の中でも、侮辱罪、侮辱の名をかりた表現行為に対する制限、制約がなされてきた、このことは過去の歴史が物語っています。

 元々、侮辱という言葉が法律用語として初めて出てきたのは、明治時代のいわゆる旧刑法、この中に官吏侮辱罪というものがあります。これが、侮辱というものが法律で初めて出てきた、一番最初と言われています。つまり、侮辱というのは、官吏、すなわち公務員、官僚に対する不敬行為だというふうに歴史的にされてきたわけです。

 このような性質を持つ侮辱罪の法定刑を引き上げて、とりわけ懲役刑を設けるということは、逮捕、勾留を容易にするわけでして、それは、市民が意見を表明する自由、あるいは表現をする自由、意見、論評を述べる自由、政府に対して批判的な言動をする自由、こういったものに対して大きな萎縮効果を生み出すものです。

 そして、このような表現行為に対する刑罰である侮辱罪の法定刑を引き上げる、とりわけ懲役刑を設けるということは、国際的な潮流にも反しています。このことについてもお話ししなければなりません。

 国連自由権規約委員会は、二〇一一年に一般的意見の中で、表現行為に対する刑罰についてこのように述べています。どのような場合でも、刑法の適用が容認されるのは最も重大な事件に限られなければならず、拘禁刑は決して適切な刑罰ではない、このような見解を明らかにしています。そして、諸外国においても、アメリカ、イギリス、フランスなどでは、名誉に対する罪について、罪を廃止し、あるいは法定刑から拘禁刑を削除する、こういった法改正が進んでいます。

 ところが、今回の政府案は、この侮辱といういわば表現行為に対する罪について新たに懲役刑を設けようとするものですので、これは明らかに国際的な潮流、流れに反するものです。

 つまるところ、政府の提案である侮辱罪の法定刑を引き上げたとしても、今深刻な問題となっているインターネット上の誹謗中傷の問題に対して的確に対処することはできず、いずれ、この問題に対しては、インターネット上の誹謗中傷の問題について、正面からこのことを捉える新たな立法が求められる可能性が高いと私は思います。なぜならば、結局、侮辱罪で処罰できない行為が多数あるからです。

 そうなったとき、今回の侮辱罪の法定刑、仮に引き上げられるとしたら、その負の側面、つまり、国民の正当な表現行為に対する萎縮効果であるとか、あるいは、侮辱罪が言論弾圧、言論統制の手段として用いられる、こういった負の側面だけが残ってしまう、そのような危惧を覚えずにはいられません。

 このような観点から、インターネット上の誹謗中傷の問題につきまして、侮辱罪の法定刑引上げという方法ではなくて、正面からこの問題に対する処罰規定を設けるべきだとする、そして、正当な表現行為、公共の利害に関わる言動を守ろう、そういう規定を設けようとする、立憲民主党などが出されている対案の基本的な姿勢というのは極めて正しいものだと考えます。

 続きまして、話題は変わりまして、拘禁刑のことについて少しだけ述べたいと思います。

 現行の刑法には懲役刑と禁錮刑というものが定められているわけですけれども、一実務家としても、その区別が極めて曖昧なものになっているという実感を感じるところであります。ですので、これをまとめて拘禁刑というものにするということ自体は、私自身、極めて合理的なものだと考えます。

 しかし一方で、今回の改正案の中で、拘禁刑に処せられた者には改善更生を図るために必要な指導を行うことができるという条項が新たに設けられようとしています。この点について若干の懸念があります。

 刑罰というのは罰です。罰ですから、その人の意に反して強制的になされるものです。拘禁刑という刑罰の本質は、人の身体的な自由を強制的に奪うということです。法律、今回の改正案の言葉で言えば、刑事施設に拘置する、これこそが拘禁刑の本質です。当然、受刑者の意に反して無理やり拘置するわけです。

 一方で、改正案の十二条三項として規定されている、改善更生を図るために必要な指導を行うことができるという、これが拘禁刑の刑罰の内容として定められているとすれば、大きな問題があると考えます。

 必要な指導を行う、これは、法律案の条文にも書かれているとおり、受刑者の改善更生を図るためのものとして規定されています。ここで重要なことは、受刑者の改善更生を図るためには、受刑者の自らの意思でこれらの指導を受けるということが肝要だということです。言い換えれば、受刑者の意に反するような強制的な指導、これは決して改善更生のために役に立たないということです。

 このことは、この法案が議論された法制審議会の部会の中でも、矯正現場の方の声としてこのような声が紹介されていました。特に改善指導や教科指導は受刑者自身が自発的に取り組むことで大きな効果が上がるものであり、懲罰により間接的に強制することに大きな意義はない。現場の方の声としても紹介されているとおりです。

 つまり、この改善更生を図るための必要な指導というのが、決して強制的になされるべきではない、刑罰としてなされてはいけないものだということです。

 今回の改正案が成立した後、刑務所において、改善更生を図るという名の下、受刑者の意に反するような指導が強制されて、そのような強制的な指導を拒否したことに対して刑務所で懲罰が科されるということがあるならば、それは拘禁刑という刑罰以上の苦痛をその受刑者に与えるものだと言えます。

 日頃、刑事事件の弁護活動をしていますと、刑事事件の被疑者、被告人となってしまう方には様々な方がいらっしゃいます。コミュニケーションが得意でない方、あるいは物事を理解するのが苦手な方、様々な障害を抱えている方、彼らは、その意に反した指導の対象に実になりやすい方々です。それが刑務所内の懲罰という形で強制されるということは、誰のためにもならないものだと考えます。

 あくまでも、この必要な指導というのは受刑者の意に沿った形でなされるべきものであって、この政府提案の改正案について若干の危惧感を述べさせていただきました。

 以上で私の意見陳述とさせていただきます。御清聴ありがとうございました。(拍手)

鈴木委員長 ありがとうございました。

 次に、神津参考人にお願いいたします。

神津参考人 ただいま御指名を受けました神津でございます。

 本日、このような機会をいただきましたことに、まず感謝を申し上げたいと思います。

 以下、今回の法改正の案件の中でも、特に、いわゆる侮辱罪に関連する問題に重点を置きながら、私なりの見解を申し述べさせていただきたいと思います。

 本日、この場にお呼びをいただくことになったきっかけは、昨年の十月二十一日に開催されました第百九十二回法制審議会におきまして、当時委員でありました私の以下の発言と、それに伴う対応であったかと思います。したがいまして、当時の議事録に沿って、以下、再度この場でそのままの内容をまず申し述べさせていただきたいと思います。

 近年、SNSなどのツールを使った匿名による特定の個人への誹謗中傷行為は、目に余るものがあり、自らの命を絶つ事案まで生じてしまっているわけであります。精神的な苦痛を余儀なくされている方々が増えている現状を踏まえれば、こうした行為を抑止する策を講ずる必要性は大いに理解できるところであります。

 一方で、侮辱罪につきましては、その行為が侮辱に当たるのかどうかの線引き、判断が難しく、現状では、科刑は年間三十件程度と聞いております。今後SNSの更なる普及が想定される中、本件については、厳罰化が及ぼす様々な影響を含めて、身体拘束の是非や名誉毀損罪における免責に類した取扱い等、幅広い意見を聞いた上で、慎重に検討を重ねるべきと考えます。今回の検討において、十分な議論が尽くされたとは言い難いのではないでしょうか。

 本日採決ということでありますけれども、私としては、現時点で賛成若しくは反対という明確な判断を下す材料を持ち得ないというのが、率直なところでありまして、保留せざるを得ないということを申し述べさせていただきたいと思います。

 以上の内容の発言をし、そして、採決においては態度を保留させていただきました。しかし、この法制審議会では、異例の短期間でまとめられた答申原案が、日弁連の大迫委員の反対と、そして私の態度保留を除く賛成多数で決定をされ、その内容がそのまま内閣提出法案として現在審議に付されているわけであります。

 この案件は、その必要性が世の中でも大変目立っており、ここに至る異例の短期対応はそのことを反映しているものとも思われます。私自身も、労働組合としての発信の必要性、重要性を強く認識しつつ、ツイッター等SNSのアカウントを開設をし努力をしてきた中で、匿名の投稿による罵詈雑言やいわれのない誹謗中傷をしばしば受けてきましたから、何らかの対策が早期に必要なこと自体は大変よく分かります。

 しかしその一方で、そのようなある種の分かりやすさばかりが先行して、刑法という世界において不可欠であるはずの歯止めの機能がなおざりにされているのではないでしょうか。私たち一般の大衆社会がその危険性に気がつかないまま、そして警鐘を鳴らすべきメディアの世界も気づかないまま、あるいは見て見ぬふりがされて、この改正案件がそのまま通過しようとしているのではないか、率直な危機感を禁じ得ないところであります。

 今回の法改正がすぐさま悪用されるとか、権力者の恣意的な批判封じ込めに即使われるとまでは申しません。しかし、時間がたてば分かりません。時代が変化し、もしも国民の民主主義的な思考習慣が今以上に弱まっていってしまうと、時の権力者がこの条文を悪用する可能性は否定できないのではないでしょうか。そのような危険性は、民主主義的なマインドの劣化に反比例して高まっていくことも容易に想像されます。そのようなことが起きてしまえば、かつて我が国が陥ってしまったような、自由に物が言えない社会への入口に入ってしまいかねません。果ては、連日その有様が報道されるロシアを始めとした専制国家と何が違うのかということにもなりかねません。

 そうなってからでは遅いのであります。今回の改正は、目的とすることについてはしっかりとその目的達成を目指し、一方で、目的としていないことについては生じかねない危険性の芽を摘んでおくということが極めて重要なポイントとなっているのではないでしょうか。そのことが、外してはならない課題となっているのではないか、そしてそれは、後世に対する私たちの責任として突きつけられているのではないかということをまず申し述べておきたいと思います。

 具体的な懸念点を、以下、私なりの表現で更に申し述べておきたいと思います。

 様々な問題は、先ほど触れました昨年十月の法制審議会において日弁連の大迫委員からも述べられましたし、また先ほど、同じく日弁連の趙参考人からもお話がありました。私としても同様の趣旨の認識を持つ中で、素朴な疑問も含めて、問題意識を申し述べておきたいと思います。

 侮辱罪とは、刑法第二百三十一条の定めにあるところの「事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。」というものであります。

 侮辱とは一体何でありましょうか。辞書を引きますと、他者を侮り、蔑み、ばかにしたり、罵ったり、ないがしろにすることとあります。このような侮辱という言葉の持つ様々な態様を考えますと、侮辱罪の対象自体は非常に広い範囲で捉え得るのではないかと思いますが、現状では、侮辱罪の事案は年間で三十件程度ということであります。これが、今回の厳罰化でどう変化していくのでありましょうか。どう変化していくと期待されているのでありましょうか。

 法改正を経ても余り件数が増えないとすれば、侮辱罪に相当する事案そのものがそもそも少ないということで、実際にそうであれば望ましいことですが、果たしてどうなんでありましょうか。実際には、現状に大いに問題があり、侮辱罪に相当する事案の多くが表に出ていないのではないか、そういった見方があるのではないでしょうか。

 先ほど、木村参考人から、心の底からの切実なお訴えをお聞きしました。改めて、二度とあってはならないことだとの思いを私も強く持ちました。私からも、木村花さんに対して改めて哀悼の意を表しておきたい、このように思います。

 そして、私は、今回の議論を機に、埋もれている事案があるとするならば、それをできる限り表に出していくことは、更なる犠牲者を生まないためにも必須のことではないかと思います。先ほども申し述べましたように、侮辱という言葉の示す範囲が非常に広いこととも重ね合わせるならば、一時的に侮辱罪の事案件数が相当数に膨らんでいくことも視野に置く必要があるのかもしれません。

 だからこそ、先ほど申し述べたように、目的としていないことについては生じかねない危険性の芽を摘んでおくことが必要なのではないでしょうか。

 侮辱罪と同様に人の尊厳を傷つける罪である名誉毀損罪では細かい制約や免責の定めがあるのですが、侮辱罪にはそれがありません。同様の対応が不可欠であると考えます。

 そして、言論等の表現に対する刑罰法規については、憲法が保障する表現の自由を脅かすことがないようにするための手だてが必要であります。公益的な目的で行われる論評や批判など、保護すべき表現については、正当行為や違法性の阻却事由になることを明文化するということがあってしかるべきと考えます。

 海外の先進諸国における対策の動向についても、私からも一言触れておきたいと思います。

 先ほど趙参考人からあったとおりなのでありますが、やはり、人権尊重を第一義とする民主主義陣営の各国においては、この種の事案に対しては、刑事罰で牢屋に入れてしまうというやり方から、民事で解決を図ろうとする方向に転換する流れが一般的である、このように聞きます。その下で、SNS対策を地に足の着いた形で強化すべく取り組んでいるとも聞きます。それは、権力の恣意で、侮辱されたから牢屋に閉じ込めるなどということが起きないようにする、その考え方が根底にあるからだと認識をします。

 そのような意味では、刑法の改正もさることながら、改正プロバイダー責任制限法の早期施行や、発信者情報の開示請求がより早期に行われるための更なる改正に向けた検討促進であるとか、あるいは、その他の法整備によって刑事告発、あるいは民事の損害賠償の手続などが迅速に行われるような環境の整備を行う必要があると考えます。

 以上、内閣提出法案に対する懸念点を申し述べてまいりました。

 本委員会におきましては、立憲民主党・無所属会派から提出されている通称インターネット誹謗中傷対策法案が同時に審議対象となっております。ただいまるる申し述べてきた問題意識からしても、私は、この法案につきまして、是非真摯な議論を重ねていただき、今回俎上に上がっている問題に対する有効な解決策として採用されることを切望をいたします。

 具体的にも触れておきたいと思います。

 まず、この法案では、加害目的誹謗等罪を創設するとしています。人の内面における人格に対する加害の目的で人を誹謗中傷した者は、拘留又は科料に処するとしているところです。

 先ほど来申し述べておりますように、単に侮辱と言っただけでは非常に広い概念を含んでおります。しかし、実際に事案として明確になる侮辱罪は、年間三十件程度ということです。このギャップは一体どういうことなのかということであります。三十件などという限られた件数であるはずはありません。実際には、屈辱にまみれながらも、訴えるすべを持つことができず、ひたすら我慢をし、耐え忍んでいる被害者が山のようにおられるのではないでしょうか。

 そもそも、侮辱罪というかなりの曖昧さを有した枠組みをそのまま継続することでは、問題の解決には全くつながらないのではないでしょうか。量刑を重くすることで、これらのあまたの被害者が救われるようになるという、そんなに簡単な話であるとは私は到底思えません。

 立憲民主党・無所属会派の提出法案のように、人の内面における人格に対する加害の目的で人を誹謗中傷した者と特定することによって初めて問題の解決に歩を進めることができるのではないでしょうか。このように特定をし、ターゲットを絞ることによって、対象事案の問題性がより一層明確にあぶり出されるのではないでしょうか。

 以上、特に法制審議会で留保をした問題に関連した内容に絞って発言をさせていただきました。

 悲劇は二度と繰り返されてはなりません。しかし、今も悲劇の温床は相当の範囲で広がってしまっているのであります。

 多数を占める与党により淡々と内閣提出法案がそのまま通過をするようでは、問題の解決にはほど遠いと言わざるを得ないと思います。単なるアリバイづくりであったと後から言われることにもなりかねないのではないでしょうか。

 一方で、数で大きく負ける野党の法案だからといって、そこに込められた問題解決への提案が採用されなければ、何のための国会審議かということになるのではないでしょうか。

 以上、私からの冒頭の発言といたします。御清聴ありがとうございました。(拍手)

鈴木委員長 ありがとうございました。

 以上で参考人の方々の御意見の開陳は終わりました。

    ―――――――――――――

鈴木委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。

 質疑の申出がありますので、順次これを許します。山田賢司君。

山田(賢)委員 自由民主党の山田賢司でございます。

 本日は、四名の参考人の皆様方それぞれから、専門のお立場、あるいは木村様は当事者の立場から、貴重な御意見を賜りまして、本当にありがとうございます。しっかりと法案審議に生かしていきたいというふうに思っております。

 とりわけ、木村響子参考人におかれましては、最愛のお嬢様である花様を失われ、大変つらい中であっても、繰り返しこういう話を思い出しながら話さないといけない。こんな中でも公の場に出て御意見を述べていただいていることに深く感謝申し上げます。

 私ども自由民主党においても、二〇二〇年八月六日にインターネット上の誹謗中傷・人権侵害等の対策PT、あるいは、二〇二一年六月八日にネット上の誹謗中傷等対策小委員会でも御意見を述べていただきました。そういった御意見を踏まえて、もちろん法改正、刑法の罰則引上げだけではなくて、先ほどお話があったようなプロバイダー責任法の改正、様々な対策が必要だと思っております。

 その上で、今回、この法案で、侮辱罪の罰則を引き上げる改正案として提出されてきた、このことについての御感想、思いをお聞かせいただければと思います。

木村参考人 私は、この二年間、ずっと活動を続けてきて、本当に、どうしたら花を助けることができたんだろうというのを毎日、今も考えるんですけれども、やはりしっかりとした法律、今のSNSの現状に合ったものを是非作っていただきたいと思います。

 SNSの新しい法案については賛成なんですけれども、侮辱罪の厳罰化が、それによって遅れるということは、私は本当にあってはならないと思います。

 今、加害者の権利というのがすごく守られるんですけれども、何でこんなに苦しい思いをしている被害者の権利を皆さん軽視されるのかと、私は本当に残念で悲しく思います。

 厳罰化になることによって、その抑止力で、被害者も加害者も絶対に減らしていくことができると思っています。よろしくお願いします。

山田(賢)委員 ありがとうございます。

 実は、今朝ほども自由民主党で、犯罪被害者対策議員連盟というのを発足しまして、犯罪被害者の会、その他の方々からも御意見を聞かせていただきました。

 もちろん、国家権力が、加害者とはいえ国民の人権を侵害すること、これに対しては慎重であるべきなんですが、やはり被害者の立場ということを忘れてはいけないというふうに思っております。

 また、趙参考人がおっしゃいました、犯罪者の人権、それから、それを助ける、支援される弁護士、そして、私、よく話を聞くのは、犯罪者の家族がバッシングを受ける、こういったこともあってはならないというふうに考えております。

 そして、今回、侮辱罪の法定刑を引き上げることに伴いまして、公訴時効が一年から三年に延びます。木村参考人にお尋ねしたいと思うんですけれども、これまで、証拠を集めたり、どこの誰だと特定することが大変苦労をされたということで、思いますけれども、一年というのは、その期間にしては短過ぎるというふうに考えるか、そして、今回三年に引き上げることで、これは助けになるのか。

 ちょっと気になったのは、公訴時効が遅れることによって捜査が遅れることがあってはならないという御発言もあったので、この辺を含めて、併せてお伺いできますでしょうか。

木村参考人 二〇二〇年の五月に花が亡くなったんですけれども、そこから、コロナの関係もありまして、やはり海外のプロバイダーとやり取りをする関係で、一年近くの年月が、犯人が誰かを特定するだけでかかってしまいました。本当にもう時効ぎりぎりになって、やっと警察の方に聴取をしてもらうといったこともかなりありました。

 今、名誉毀損が時効が三年になっているんですけれども、同じ時期に名誉毀損も被害届を出しているものがあるんですけれども、それも今、かなりの時間がたっていますけれども、まだ大きな動きはないといったことがあります。

 なので、警察の方も事情はおありだと思うんですけれども、本当に迅速に、時効が延びたからといってのんびり起訴されるようでは、被害が速やかな救済につながらないので、本当にそこはお願いしたいです。

山田(賢)委員 ありがとうございます。

 今国会におきまして大変象徴的なのは、与党、政府の提出法案だけではなくて、野党の皆さん方が大変対案を出してこられていること、この中身に私が賛成かどうかは別として、これは大変有意義なことで、このことによって我々も問題点が明らかになりますし、また、我々としても、野党の出される対案に対しても、これはどうなんだろうということ、このことを議論することが大変有意義な審議につながっていることだと思っております。

 それで、趙参考人にお伺いしたいと思うんですが、立憲民主党・無所属の会が提出されている法案では、公然としないもの、これも規制できることになります。もちろん加害目的という要件は課されるんですが、公然と人を侮辱していないもの、誹謗中傷したもの、公然としていないものまで規制するということはかえって表現の自由を不当に制限するというような懸念はないのか、御意見をお聞かせいただきたいと思います。

趙参考人 お答えします。

 野党の方から提案されている法案でも、やはりその危険はあると私は思います。ですので、公然としないものでも加害行為として処罰すべきものがどういう行為かということをもっと緻密に限定する必要があるものだと考えます。

山田(賢)委員 ありがとうございます。

 そこで、加害の目的を持ってというところが大変私は気にはなっております。もちろん、加害者というのは、木村さんのときもそうだろうと思うんですけれども、この人を死に至らしめてやろうというような目的で誹謗中傷している人は論外なんですけれども、多くは、軽い気持ちと言ったら大変失礼なんですけれども、みんながやっているから、まさかそんなに大事になると思っていなかった、芸能人だからいいだろうみたいな、そんな軽い気持ちで、自分自身、加害ということ、加害するというか、相手が傷つくということを意識せずに、非常に安易な気持ちで心ない言葉を投げる、その心ない言葉の一つ一つの積み重ねが、これがやがて集まって、ナイフのように、刃物のように心を切り裂いていって追い詰めていく、そういうことではないかと思うんです。

 人を侮辱する、そもそも、人を、他人を侮辱するということはあってはならないと思うんですけれども、これは加害目的に限ることではないのではないかと思いますが、木村参考人にこの辺の御意見をお聞かせいただきたいと思います。

木村参考人 本当に、誹謗中傷の一番難しいところだと思うんですけれども、誹謗中傷をしているという自覚がないままに誹謗中傷をされている方がほとんどです。これは正しい批判だ、自分の意見だと言って本当にひどい暴言を吐いている方もたくさんいますし、一方で、批判を言われただけで誹謗中傷を受けたとすごくアピールされる方もいらっしゃいます。

 これはなぜかというと、誹謗中傷というのがどこからどこまでで、批判というのがどこからどこまでかという境目がしっかりしていないんですね、グレーゾーンというのが必ず存在してしまうので。例えば、木村花さん死ねと言ったときには、これはアウトなんですけれども、木村花さん死ねばいいのにとか、死んでくれとか、死んでほしいとか、そういった言葉が今グレーゾーンと言われている言葉だと思うんですけれども、そういったものの、是非ガイドラインを専門家の方や皆さんで議論して作っていただいて、警察や裁判所などで同じものを使っていただけると大変ありがたいと思います。

 裁判でも本当に、裁判官によって全く違う判決が出てしまったり、一人一人、みんなそれぞれ、誹謗中傷と批判ということをばらばらに捉えてしまっているので、是非、皆さんで議論を進めていただきたいと思います。

山田(賢)委員 ありがとうございます。

 もう一つお尋ねしたいのは、侮辱罪の罰則を引き上げると表現の自由が萎縮するという御批判をされる方がいらっしゃって、ただ、先ほど趙参考人もおっしゃったように、正当な論評、批判というのは、最高裁の判決でも出しているように、これは許容されるんだと。

 今回の侮辱罪について、新たな法体系、新たな罪を創設するわけではなくて、既存の侮辱罪の法定刑を引き上げるだけなんですね。引き上げても抑止効果はあるんだということなんですが、萎縮するとかどうとかこうとかではなくて、そもそも他人を侮辱するということはあってはならないというふうに考えているんです。法律がなくても他人を侮辱してはいけないんだという意識をみんなが持たないと、不幸な事件はなくならないんだというふうに考えております。

 木村さんも我々のPTに出ていただいたとき、人を誹謗中傷することは犯罪であるということを理解してほしいという御発言もございました。もちろん、法律だけじゃなくて、そういった啓発、みんな人のことを侮辱するようなことはやめようというこの意識が何より大事だと思うんですが、とりわけ、侮辱罪の法定刑を引き上げると表現の自由が萎縮するという方々に対して、こういう批判に対して、木村参考人の方から御感想をお聞かせいただけますか。

木村参考人 民主主義というのは、本当に全ての人が守られなければいけないと思うんですけれども、言論の自由だけが守られているという感覚がすごくありまして、もちろん、表現の自由、言論の自由は大事だと思うんですけれども、先ほど私たち言いましたように、それがどこまでも自由なものであっては絶対にいけないと思うんです。それに必ず責任というものがないと、尊厳を踏みにじられる人とか、逆に、私たち被害を受けている人たちはもうずっと言論の自由を奪われている状態です。なので、同じように大事にしてほしいです。被害を受けた側の権利も大事にしていただきたいです。

山田(賢)委員 それから、ちょっと趙参考人にもお伺いをしたいと思います。

 先ほど意見陳述のところで、冒頭に、個人の意見というふうに断ってお話をされましたが、日弁連としてもこの法定刑の引上げについては反対という御意見書をいただいております。他方、法制審の中の部会の中では、日弁連の犯罪被害者委員でもあります柴田先生からは、実際は一年なんてまだ低いとか、あるいは、こういった意見を述べてもやはり同調する意見をたくさんいただきましたとか、法定刑、是非この改正はしていただきたいという意見なんかもありました。

 日弁連の中では、こういった法定刑を引き上げるべきだという意見とは、何か調整というのはあったんでしょうか。お聞かせいただけますでしょうか。

趙参考人 私は日弁連を代表してここに来ているわけではありませんので、お配りさせていただいている法定刑引上げについて反対する意見書というのは、これは会として出しているものですので、これが日弁連の意見として御理解いただければと思います。

山田(賢)委員 ありがとうございます。

 それでは最後に、本当に、人を侮辱する心ない言葉の積み重ねで人が死に至ってしまうこともあるんだということ、このことを大変重く受け止めないといけません。もちろん、法規制で何でもできるということではないと思うんですけれども、やはり大事なことは、人を侮辱するようなことはしないようにしよう、こういったことを広報啓発していくことが必要だというふうに考えております。

 今回の改正に加えて、是非、木村参考人から、最後に、これ以外にも何か、もっとこういったことを充実してほしい、こういう手当てをしてほしいといったことを、御希望がありましたら御意見をお聞かせいただけますでしょうか。

木村参考人 私は、やはり、厳罰化の反対意見もよく聞くんですけれども、大体の方が、皆さん、政治家の方や権力を持った方たちが自らに不都合な意見を言論封じとして使われるんじゃないかというのを恐れている方、又は言葉狩りのような形で、本当にそんなに誹謗中傷に当たらないような言葉でも厳しく取り締まられているんじゃないかということを心配されていると思うんですけれども、その点だけ、本当に、侮辱罪厳罰化に当たって悪用されないようにしていただきたいです。

 政治家の方にも、時々、本当に強い攻撃的な言葉を使われている方がいらっしゃると思うんですけれども、言葉を選んでいただきたいなと思いますし、一方でまた、政治家の人たちも人であるので、私も誹謗中傷を終わらせる活動をしている身であるので、すごくひどい言葉をぶつけられることに対して心を痛めております。

山田(賢)委員 ありがとうございます。

 時間が参りましたので、終わらせていただきます。ありがとうございました。

鈴木委員長 次に、日下正喜君。

日下委員 公明党の日下でございます。

 四人の参考人の皆様、本日は本当に貴重な、大切なお話をいただきまして、本当にありがとうございます。

 私の持ち時間は十五分でございますので、今日は拘禁刑に関する質問を中心にさせていただきたいと思いますが、まず、木村参考人に御質問させていただきたいと思います。

 拘禁刑から外れますけれども、二〇二〇年の五月に花さんを亡くされ、間もなく二年となります。母親としてどれだけつらい思いをされ、そして、勇気を持って立ち上がられ、二年にわたり、今日まで人権闘争とも言える尊い活動をしてこられたことに心から敬意を表したいと思います。また、花さんの御冥福を心からお祈りいたします。

 NPO法人RememberHANAを立ち上げられ、その紹介文の中で、「誹謗中傷の加害者に対する抑止力としての厳罰化とともに、加害者に対するカウンセリングなど救済の道がなければ、悲劇が繰り返されてしまう」と述べられています。

 また、別の新聞記事には、加害者から届いた謝罪メールを紹介され、何を言っても許されるわけではないけど、障害があり好きなことができなくなり、ストレス解消で書き込んでしまった、生きている価値がないので死にますという、そういう内情があったと。木村参考人はこのメールを読まれて、中傷している人も助けを求めている、死ねと言う人は、どこかで自分に対しても死ねという気持ちを抱えているから、人にマイナスな気持ちをぶつけてしまうのだと思いますと話されています。

 まさに加害者も救済されなければ誹謗中傷は終わらない、私も深くそう思います。

 そこで、リアルとバーチャルが交じり合うデジタル化の時代だからこそ、SNSに関する教育、人権教育が大切になるとお述べになっておられますけれども、私もそう思います。これまでの取組の中で感じたSNS教育の必要性について、参考人の思いをお聞かせいただきたいと思います。

木村参考人 私は、講演ですね、大人向けのものでしたり、大学生でしたり、中学校や小学校に授業で行かせていただいて、そのときに、誹謗中傷はいけないことだよとか誹謗中傷をやめようということではなくて、みんなで一緒に、何でそんなひどいことを言ってしまうんだろうとか、誹謗中傷と批判の違いは何だろうということを一緒に考えるんですけれども、ある中学生の子が言ってくれた言葉、誹謗中傷と批判の違いについて、批判は客観的な意見である、誹謗中傷は感情的で主観的な意見であると言ってくれたんですけれども、子供たち、小学生、中学生の子たちの方が、本当に素直に物事を受け止めて、すごく核心をついてくれるんですね。

 なので、一番希望を感じるのが小学生、中学生なんですけれども、大人になってしまうと、それまで生きてきた中で、三十代、四十代、五十代になりますと、やはり、思い込みでしたり、昔の、ずうっとずうっと刷り込まれてきたものがあるので、なかなか簡単に考えを変えるというのは難しいかもしれないんですけれども、子供たちの教育というのは、早ければ早いほど、年齢的にも時間的にもいいと思うので、是非、関係省庁の皆さんと、国を挙げてSNSの教育に取り組んでいただきたいと思います。

日下委員 ありがとうございます。頑張ってまいります。

 次に、この度の刑法の一部改正で、刑罰の懲役と禁錮を一本化し、拘禁刑を創設することとしておりますけれども、刑務作業が義務の懲役と義務でない禁錮の区別をなくして、再犯防止を進めるため、受刑者の年齢や特性に応じた柔軟な処遇ができるようにし、更生や円滑な社会復帰を目指すとされています。私もこの趣旨には大いに賛同するものです。

 刑罰であり、自由の剥奪を内容とする自由刑である以上、また、被害者の心情を考えると、素人考えでございますけれども、まず行刑、労務があり、そして残された時間で矯正教育、指導なのかなというふうに思っていたんですけれども、只木参考人は、「刑事収容施設をめぐって」という論稿の中で、行刑施設、刑事収容施設の運営が、受刑者の改善更生、そして社会復帰を確実に後押ししていくことに資するものでなければならないという趣旨のことを述べられておられます。

 また、矯正施設の建築学の必要性にも言及されていまして、一つには保安、二つには教育、そして生活の三つの機能があり、ともすると保安機能に重点が偏って他の機能との不均衡が生じがちとされ、矯正施設の建設に当たっては、一般生活に近い備えの空間、限定された空間の中に社会性を持ち込む、規律維持にきちんとした備えの空間の設置が肝要であろうと、大変興味深いお考えを述べられております。

 この度の、再犯防止や更生、円滑な社会復帰ということを考えますと、まさにそうした処遇空間の持つ効果も大きいと思いました。若い受刑者にとっては特にそのように思います。

 そこで、只木参考人への質問でございますが、円滑な社会復帰のためには行刑と矯正のバランスが大切になると思いますが、その点どのように考えておられるのか。例えば、若い受刑者については、一定期間カウンセリングや教育を中心に行い、その後刑務作業を課していくことなど、そういった取組も考えられると思うんですけれども、御所見をお伺いしたいと思います。

只木参考人 矯正建築につきましてありがたいお話をいただきまして、大変感謝いたしたいと思います。

 我々刑法学者もそうですし、刑事法学者もそうですが、矯正処遇、教育というときに、ソフトのところはかなり議論があるのですが、建物のところには余り議論が及びません。ところが、受刑者、少年を含めて、矯正建築が矯正に与える影響というのは非常に大きなものがあります。そしてまた、矯正局あるいは施設課では、その点について非常に多くの労力を費やしております。そういう意味で、今の御発言は非常にありがたいと思いました。

 さて、その上で、現在は懲役刑には作業を課すとなっておりますので、懲役と作業というのは一体化しております。そういうたてつけですので、どうしても作業というのに時間が取られる。ところが、受刑者にはいろいろな特質があるいは特性があって、高齢者のために動くことができない人、薬物依存である、あるいは若い受刑者で、まだまだ、中学卒業の学力も見込めない、そうした人たちには、改善更生、社会復帰という点では、あるいは再犯防止という点では、作業よりも、まずは教育あるいは福祉のサポートが必要ではないかということが今回の法案の基礎になっていて、その点では評価できるというふうに考えております。

 以上です。

日下委員 続いて只木参考人に質問なのでございますが、また、PFI手法による刑事施設、これは犯罪傾向が進んでいない者とか初犯者などが中心となると思うんですけれども、今後の在り方の中で、PFI刑務所の被収容者基準の見直しにも触れられておりまして、犯罪傾向が進んでいるB指標の受刑者の収容も検討されてよいとの考えを示されておられます。

 先ほどもお話の中でありましたけれども、民間のノウハウの活用による人材の再生、そして職業訓練、改善指導などで民間の知恵が生かされているということもおっしゃられておられますが、その部分について、少し具体的なお話をお聞かせいただければと思います。

只木参考人 現在、PFI刑務所に収容されているのは、いわゆるA指標で、かなり危険性がない受刑者がほとんどであります。

 一方で、B指標とされる、犯罪傾向が若干進んでいる人にもいろいろな特性を持った方がいらっしゃいますので、PFI刑務所という一部恵まれた施設には、そういった、犯罪傾向が進んでいたとしても集団生活ができるような、そして他人に迷惑をかけないような、そして、場合によっては、身体あるいは精神的な疾患が若干あるような者をそこに収容することはB指標でもできるのではないかというふうに考えている、そういう意味でございます。

日下委員 しっかり再犯率を下げていくということを目指していきたいというふうに思います。

 最後に、刑務職員の労働条件、環境の改善ということも必須であるというふうに言われておりまして、有給休暇は極めて少なく、刑務職員一人当たりの担当受刑者の割合も欧米より高い、その負担は過大である、安上がりな刑事政策は結果として高くつくとも指摘されています。出所後の社会的処遇の改善も含め、どうあるべきとお考えか、御所見をお聞きしたいと思います。

 これは只木参考人と趙参考人にお尋ねしたいと思います。よろしくお願いします。

只木参考人 御質問ありがとうございました。

 受刑者を支えて支援し、伴走して、改善更生に取り組んでいる刑務官、刑務教官、非常に日々大変な状況の中で仕事をされております。

 受刑者を立ち直らせるためにはやはり労働環境というものが重要でありまして、それは過去の国会の審議の中でも何度も出てきております。住居であったり、つまり彼らの居住スペースであったり、非常に劣悪な状況で、古い官舎にまだ過ごしておられる方がかなりいらっしゃいますので、実際に見ていただいて、受刑者を支える彼らに、労働環境がよくなるような形で支援していただいて、実際に現場を見ていただきまして、失礼ながら、現場を見ていただければというふうに思っております。

 以上です。

趙参考人 私は、日頃、被疑者、被告人の方の側から施設を見る、そういう視点で見ているものですから、なかなか施設の方がどういう環境かということについて十分な知見を持ち合わせていません。

 ですが、こちらの側から見ていても、非常に過酷な労働環境であることはかいま見えるわけですので、そこについて改善されることはとても望まれることかなというふうには考えています。

日下委員 ありがとうございました。

 時間がなくて、神津参考人には質問できませんでしたけれども、本当に今日はありがとうございました。

 以上で終わります。

鈴木委員長 次に、伊藤俊輔君。

伊藤(俊)委員 立憲民主党・無所属会派の伊藤俊輔でございます。どうぞよろしくお願い申し上げます。

 大変お忙しい中にもかかわらず、国会までお越しをいただき、また貴重な御意見をいただきまして、心から感謝を申し上げたいというふうに思います。

 まず初めに、一昨年、SNS上の誹謗中傷によりお亡くなりになられた木村花さんに心から哀悼の誠をささげたいというふうに思います。冒頭の木村参考人の当事者としての切実なお話も、そしてまたこれまでの活動にも敬意と感謝を申し上げたい、そしてまた重く受け止めさせていただきたいというふうに思います。

 今回の法改正、その背景には木村花さんの事案もあって、真摯に、十分にこれに向き合って、そして、この痛ましい事案に対しても、そしてまた今なおインターネット上の誹謗中傷に苦しんでおられる方々を救済できるような、そんな法改正にしなければならないというふうに思っております。その観点から質問をさせていただきたいというふうに思います。

 まず、木村参考人に質問させていただきたいというふうに思いますが、今回の政府案では、侮辱罪が、あくまで公然と、そして外部的な名誉を低下させる行為を対象にするものとなっておって、人格や感情など、被害者の心の内面、個人的な、個人の尊厳あるいは人格について対象になっていないというところであります。木村花さんのように、誹謗中傷で痛ましい事案につながってしまうそんなケースや、心が傷ついたり、精神的に追い込まれたり、嫌な思いをされている方々、まさに内面の、人格の尊厳を傷つける、そんな言葉等は対象になっていないことから、直接、具体的な救済にならないのではないかという意見があります。

 また、公然性を要件としていることで、ダイレクトメッセージや電子メール、LINEなど、少人数の場での誹謗中傷やいじめにもそんな対応がされていないということになります。

 やはり、具体的に救済につなげるためには、こういったところを対象にしなければならないんじゃないかというふうに思いますけれども、率直な御意見をいただきたいというふうに思います。

木村参考人 新しい法案の、人の内面に対する視点につきましては、大変すばらしいと感じております。

 ただ、やはり、侮辱罪の厳罰化をやめてその法案となぜなってしまうのかが私には本当に疑問でして、侮辱罪厳罰化にプラスしてそのような法律が必ず必要になってくると思いますし、議論もしていただきたいと思っております。

 また、加害目的があったかどうかということにつきまして、私が今まで加害者の方と多少なりともやり取りをさせていただいた中で、先ほど、手紙をいただいた方、お一人いらっしゃったんですけれども、彼以外の方で、本当に自分のした罪と向き合って心から謝罪をしてくださったなと思った方は、彼一人しかいませんでした。そのほかの方は、やはり、みんなやっているのに何で自分だけがとか、運が悪かったとか、本当に自分のしたことを犯罪とは全く認めてもらえなかったので、その面でも、厳罰化、これは犯罪だというのを本当に世の中の人みんなに知ってもらいたいと思います。

伊藤(俊)委員 ありがとうございます。

 もう一点、木村参考人にお聞きをしたいというふうに思います。

 このインターネット上の誹謗中傷というのは匿名の方が多くて、発信者を特定するには多くの手間や時間や費用がかかるという、冒頭でも切実なお話がありました。本当に大変な御苦労があったかというふうに思います。

 インターネットの誹謗中傷による権利侵害への対策は、プロバイダー責任制限法がまだ施行されておりませんけれども、これは、手続上簡素化する、そういうところに重きを置いたものであります。むしろ、発信者の特定や、情報開示の要件の緩和であったり、あるいは損害賠償額の適正化であったり、まさに民事上の救済手段を一層充実を図るべきではないか、こういう意見があります。御意見をいただきたいというふうに思います。

木村参考人 公開、開示というのは本当に高額なものなので、簡素化されたところでやはり何十万円がかかってしまうということがあって、それが、みんな同じように苦しんでいる人たちが、お金のある人だけが加害者に責任を問うことができるのかということになってしまうのが非常に不公平だと思うので、お金のない若い人たち、どんな立場の人でも助けてもらえるような制度を是非つくっていただきたいのと、今、外国で、EUの方でも、プラットフォームの削除義務の法律が審議されているそうで、全世界の売上げの六%が罰金になるといったような法案が今審議されているとのことで、日本でもどんどん、是非、そのようなプラットフォームの責任であったり、いろいろなところからの被害者救済をお願いしたいと思っております。

伊藤(俊)委員 ありがとうございます。

 続いて、神津参考人と趙参考人にお聞きをしたいというふうに思います。

 このインターネット等の誹謗中傷の対策に対して、これまで、救済手続をしながら名誉毀損でない事案というのが多数ある一方で、先ほど来からお話があるように、侮辱罪で処罰されるケースは僅か年間三十件という現状であります。法務大臣も、そしてまた刑事局長の答弁でも、今回の政府案でこれまでより対象は広がらないという答弁をされていて、要は、現在の三十件から大幅に増えるという状況にはならないということであれば、これは対策、改善にはつながらないのではないかという懸念があります。

 また、その一方で、今回の政府案に対して、法定刑の引上げが、いわゆる表現の自由というものに影響を与えるという懸念もございます。刑事局長の答弁では、一般予防効果があるとも発言をされていて、言論を萎縮させることにつながるのではないかという懸念をされています。

 この二点に関して、それぞれ御意見をいただきたいというふうに思います。

神津参考人 ありがとうございます。

 先ほど私が申し述べたこととも、この二点というのは大いに関わるんだろうと思います。

 二点あるわけですけれども、一点目の政府答弁ですね、法務大臣始めの。対象は広がらないということでありまして、伊藤委員の言われたように、今回の基本的な対策、改善にはつながらないのではないのかという御懸念は私もごもっともだというふうに思います。目的とすることについてしっかりとその目的達成を目指すべきだということをさっき申し上げたんですが、本当にその目的に達するだろうかという、非常に私自身疑念を持ちます。

 問題は、やはり、匿名でもって非常に心ない言葉を浴びせる、人の内面にまで踏み込んで人格を否定するような言葉が投げかけられるということでありまして、ちょっと言い方はそつがあるかもしれませんけれども、匿名ということで、どうせばれないんだからということでやってしまっているということが、相当程度、これは世の中に、SNS、とりわけツイッターの中で広がってしまっているわけですから、それに向けた対策が本当にきちんと講じられるのであれば、やはりそれは当然、この対象は、今よりは、今の現実の捜査状況に比べればはるかに広がるということでなければ、本当の意味で目的を達するということにはならないのではないのかなというふうに思います。

 それから、一方での、政府答弁の中で、予防効果があるんだということであるとすれば、それはやはり萎縮をさせるからこそ予防効果があるということにほかならないわけでありますから、ということは、量刑を上げたんだから予防効果がある、すなわちそれは萎縮ということを生じさせてしまうのですから、それには、やはり、今、名誉毀損罪で持っているところの考え方、公共性、公益目的、真実性があったと認められる場合は罰しないということがかぶせられてしかるべきなんだろうというふうに私は思います。

 以上であります。

趙参考人 まず、これまでよりも対象が広がらないということで、対策、改善につながらないのではないかという点ですけれども、先ほど述べましたとおり、誹謗中傷の中でも、結局は公然となされるものしか侮辱罪の対象にはならないという意味では、対策、改善としては不十分なんだと思います。

 一方で、法定刑が引き上げられて懲役刑が設けられますと、公訴時効が延びます。その分、捜査に費やせる時間は延びるわけですので、これまで、要は時間切れで訴追できなかったものについて、今後、侮辱罪によって訴追できる件数が広がるということは十分にあり得るのではないかという気はしています。

 二点目の、一般予防効果云々というところですけれども、刑罰を定める以上、当然、一般予防効果というのはどんな刑罰法規にもあるわけです。問題は、本来処罰されるべきであるような誹謗中傷の言動だけが萎縮されて、一般予防の効果があるならばそれはいいわけですけれども、ここの問題はそうではなくて、もっと広い意味で、表現行為全体に対して萎縮効果が生まれるというところが最大の問題だと思います。

 例えば、先ほども申し上げましたが、侮辱罪に懲役刑が設けられることで、逮捕しやすくなるわけです。例えば、政治家について、○○総理は総理の器ではないというようなことをインターネットのどこかに書き込んだとしたら、これはひょっとしたら逮捕されるんじゃないかと、これがまさに萎縮効果なわけです。

 あるいは、外国の例では、大統領に対して、消えうせろ、くそやろうというようなプラカードを掲げた人が処罰された云々、そういうケースもあるわけですけれども、当然、そういう言動をするに当たって、これは当然、政治家に対しては許容される言動だと私は思いますけれども、こういった言動一つ一つに対して、これをやったら逮捕されるんじゃないかという萎縮効果が生まれる、そこがまさにこの侮辱罪というもの全体の法定刑を引き上げることの問題点ではないかと思います。

伊藤(俊)委員 ありがとうございます。

 そういう意味では、今回、立憲民主党・無所属会派からも加害目的誹謗等罪の対案を出させていただいているところであります。インターネット上の誹謗中傷から本当に救済するためには、人格や感情など内面のところに保護法益を持っていなきゃいけないというふうに思いますし、また、プロバイダー責任制限法、ここにおいても、より特定しやすくする現実的な対案を盛り込んでいるところであります。

 いま一度、この対案についての評価を、趙参考人の方から御意見をいただけたらありがたいというふうに思います。

趙参考人 侮辱罪という法律ではなく、加害目的誹謗等罪ということで、今回の問題となっている誹謗中傷行為そのものを捉えようとしていること自体は正しいものだと思います。また、対案においては、名誉毀損における特例を引用する形で、公共の利害に関する場合については処罰しないというようなところについて配慮がされている、このことは発想としては極めて正しいものだと私は思います。

 ですが、先ほども少し申し上げましたが、内面における人格に対する加害の目的というのは、やはりまだ曖昧といいますか抽象的であって、じゃ、実際どういう行為がこれに当たるのかというところについて、もっと具体的な規定が必要なのではないかというふうに思います。

 諸外国でも、インターネットにおける誹謗中傷に対してどういう処罰をするかということは様々工夫がなされていて、私もそこまで詳しいわけではありませんけれども、もっと細かな構成要件を定めた例があるようです。そういったものを参考にしながら、表現行為に対する萎縮効果をできるだけなくす形での規定が求められるのではないかなというふうに思います。

伊藤(俊)委員 ありがとうございます。

 野党からの対案においても真摯に議論を、審議をしていただきたいというふうに求めて、そしてまた、今日、参考人の皆さんには感謝を申し上げて、質問を終わりたいというふうに思います。

 本当にありがとうございました。

鈴木委員長 次に、前川清成君。

    〔委員長退席、山田(美)委員長代理着席〕

前川委員 日本維新の会の前川清成でございます。

 参考人の皆さん、本日は誠にありがとうございます。また、日程が急で十分な御準備の時間もなかったかと思います。ありがとうございます。

 その上で、まず木村参考人にお尋ねをさせていただきたいと思います。

 私も二人の子供を育ててまいりました。この世の中に我が子ほどいとおしい存在はないのではないかと思っています。花様を亡くされた悲しみはいかばかりかというふうに存じております。私からも改めて、心から哀悼の意を表させていただきたいと思います。

 二か月ほど前でしょうか、日本維新の会のインターネットによる誹謗中傷PTの席上で、オンラインですけれども、お話を承ることができました。大変な悲しみを御経験されたにもかかわらず、その席上で、表現の自由と被害者救済の両立ということをおっしゃいました。その御見識に敬服をいたしました。花様や木村参考人の悲劇を決して繰り返してはならないし、その一方で、民主主義を支える基盤である表現の自由の保障、これも極めて肝要かと思っております。

 その上で、つらいことを思い出していただくことになり申し訳ないんですが、手続の御苦労についてお尋ねをしたいと思います。

 木村参考人がお書きになった「NPO法人RememberHANAの発足と取り組みについて」という論文において、事件の後、スクリーンショットを撮り続けて証拠を集めました、その後、弁護士に委任し、投稿者を特定しました、一部の投稿者は特定できたけれども、その他多くの投稿者は特定することができなかったというふうにお書きになっておられます。

 この点で、何が障害となって一部の投稿者しか特定できなかったのか、お尋ねをいたしたいと思います。

木村参考人 おっしゃるとおり、皆さん、書き込んだ加害者の方たちがアカウントやツイートを消してしまわれたので、ログの期間が本当に短いので、手続を急いでしてもらったんですけれども、ログが切れてしまっていたり、又はフリーWiFiなどを使っていたりして、本人の特定に至らなかったりということがあり、本当に特定までできたのはごく一部の方になりました。

 プロバイダーの協力がまず不十分であることが一つあると思います。公開、開示の請求をするんですけれども、本当に、もう本当にひどい言葉に対しても、プロバイダーの方は、これは誹謗中傷に当たらないといった主張を必ずされるんですね。なので、そこで、裁判でもう一度被害が認められないということですごく傷ついたりでしたりとか、また、プラットフォームも本当に非協力でした。ツイッターを例にしますと、ツイッター・ジャパンというものは日本に会社があるんですけれども、情報開示に関しては、アメリカの本社とやり取りをする関係で英語でのやり取りが必要になったり、大変難しくなっております。

前川委員 木村参考人がお書きになった、先ほど御紹介した論文の中に、「裁判には、長い時間と高額な費用(調査費用も含みます)がかかりました。」というふうにお書きになっておられます。先ほどの御意見の中でも、一千万円近い費用がかかった、被害届を提出するのに四十四万円かかった、こんなふうにおっしゃっていました。

 この点で、私たち日本維新の会のインターネットによる誹謗中傷対策PTの中では、今の裁判所の損害賠償基準が低過ぎるのではないか、賠償額が余りにも安いから、結局、費用倒れになってしまう、だから、多くの皆さん方が、民事の救済がいい、こういうふうに考えても、民事の裁判を起こすのをためらってしまっているのではないか、賠償額をもっと上げなければならないのではないか、こんな意見が大勢を占めております。

 この点について、木村参考人の御意見を承ることができればと思います。

木村参考人 おっしゃるとおり、心の傷というのは裁判において本当に低く低くしか見積もられずに、本当に、足一本折れたとか手が一本折れたといった金額よりも低い金額になってしまうということはあります。

 そして、調査費用なども全額が認められるわけではなく、例えば、アメリカのディスカバリーという方法を使って情報開示をやったことがあったんですけれども、費用が百二十万円かかりました。そして、六個のアカウントをやったんですけれども、結果的に一つのアカウントしか本人を特定できる情報につながらなかったんですけれども、その情報を特定できた人との民事の裁判の中で、六人のうちの一人という計算で、ディスカバリーの費用は二十万円しか認められませんでした。

 なので、本当に和解の金額もすごく安いですし、私の場合は、全くお金が出ていくばかりです。

 私たちは、なぜ、じゃ、こんなにお金を使って、そこまでしてやるかというと、花がいないからです。花がいたら、私たちは、花の結婚資金とかを、私も、おばあちゃんも、一生懸命ためていたりとかしたものを、花がいないので、お金の感覚ももう分からなく、お金ももう数字にしか見えなくなっています。

 あとは、ファンの人がすごく協力してくださって、花のグッズを買ってくださって、その利益で裁判費用を何とか賄っております。

 これは本当に、普通の人にはなかなか出せない金額だというのは私も理解しております。

前川委員 次に、只木参考人にお尋ねをしたいと思います。

 先生は刑法の司法試験委員をなさっているというふうにお聞きしたんですが、刑法二百三十一条侮辱罪における侮辱の定義をお聞かせいただけたらと思います。

 私も弁護士なんですが、四十年ほど前に司法試験に挑戦をいたしました。その当時、刑法各論は、ほとんどの受験生が大塚仁先生の教科書を使っておりまして、その中に、改めて読み返してみますと、侮辱とは、他人の名誉感情を害するに足りる軽蔑の表示を意味する、こういうふうに書かれておりまして、よくよく考えてみると、大変漠然とした、しかも広範な概念のように思います。

 表現の自由との関係で、この侮辱という定義、どんなふうに考えればいいのか、お聞かせをいただけたらと思います。

只木参考人 お答え申し上げます。

 おっしゃるとおり、刑法の教科書、幾つかの教科書を見ても、人に対して軽蔑の感情を示すとか、人に対して侮辱的価値判断を示すとか、他人の人格に対して侮辱的な価値判断を示す、価値評価を示すとか、いろいろな表現がされておりまして、おっしゃるとおり、これを一読して、これが侮辱の典型例であって、そして外延はここまでという、定まっているものではございません。

 なお、かなりの判例の蓄積がございますので、裁判官は、裁判規範として、この条文を、その判例に照らして外延を画しているものだというふうに理解しております。

 以上です。

前川委員 只木参考人と趙参考人と神津参考人にお尋ねをしたいと思います。

 先ほど、趙参考人からも例としてありましたけれども、例えば、A総理大臣はばかだ、総理の器ではない、あるいは、B法務大臣は法律を知らない、法務大臣失格だとか、C衆議院議員は役に立たない、税金泥棒だ、この税金泥棒については判例もあったかと思います。こういうのが、こういうふうな発言、政治家に対する批判が侮辱罪に該当してしまうという可能性は極めて大きいと思います。

 とりわけ、ウクライナへの侵攻があって、ロシア国内で言論が弾圧されている。神津参考人が、即とは言わないけれども、今すぐとは言わないけれども、やはり言論が弾圧される危険というのを考えなければならない、こういうふうにおっしゃいました。

 私も、この侮辱という漠然とした、しかも広範な概念、これが重罰化されて、政権批判の弾圧のために用いられるそのリスクは考えなければならないし、他方で、花さんのような誹謗中傷による悲劇を防ぐために侮辱罪の手当ても必要ではないのか、こんなふうに考えております。

 つきましては、是非、三人の参考人の先生方から、侮辱罪の構成要件である侮辱という文言に関して、表現の自由、特に、政府や政治家、大企業に対する正当な論評、批判を萎縮させないような工夫はできないのか。侮辱という文言を、例えば他の言葉に置き換えるということです。あるいは、侮辱という言葉をそのまま残すとしても、私は、名誉毀損に関する刑法二百三十条の二に関して、真実性の証明などは不要とした上で、侮辱罪についても導入したらどうか、こんなふうに考えております。この点について、参考人の御意見を承ることができればと思います。

只木参考人 御質問ありがとうございました。

 おっしゃるとおり、先ほど申しましたように、この概念が明々白々で、一般の市民の人に理解できるかというと、それはなかなか難しい。そういう意味では、行為規範としては十分ではないという批判はあろうかと思います。

 ただ一方で、先ほど申しましたように、この侮辱という言葉が、長年にわたって、裁判の場で、裁判規範としてあるいは行為規範として認知されておりますし、裁判の場でも多くの判例によって外延が画されておりますので、この言葉を新たな言葉にすることによって、かえって、一からその言葉に対する定義を皆さんで考えるということになると、少し問題も生じるのかなというふうに思います。

 また、名誉毀損のところでは、いわゆる三十五条という刑法上の根拠がありますので、正当な評論、正当な批判であれば、それは三十五条でもってカバーができます。

 一方で、二百三十条の二のような規定を設けた場合に、二百三十条の二は、名誉毀損、つまり事実の摘示がありますので、それに関して三要件、つまり、事実の公共性、目的の公益性、そして事実の真実性、これが測られるわけです。ところが、侮辱罪は、委員もおっしゃったように、事実の摘示はありませんので、同じような規定をどのように設けるのかということが、法律家の立場からすると疑念が生じているところであります。

 以上です。

趙参考人 今、只木参考人からもありましたとおり、刑法三十五条の正当業務行為ということで違法性が阻却されるというふうに一般的には言われるわけですけれども、やはり、それは非常に曖昧であって、可能であれば、条文ではっきり、こういう発言については処罰しないということが侮辱についても明示できるなら、それが望ましいと私は思います。

 この点につきまして、名誉毀損罪の特則について、これは今まさに只木先生も言われましたとおり、事実の摘示を前提としているものですから、その事実が真実か否かを問題にできるわけです。今問題になっているような侮辱というのは、事実の摘示を伴わないものですので、例えば、先ほどの例で言えば、その人が失格かどうかを正しいのか正しくないのか判断することは、それは無理なわけです。

 ですので、公共の利害に関する言動について、どういったものであれば処罰しないのかということを明確に定める必要はあると思います。その発想は私は正しいと思いますが、これを定めることは非常に、単に二百三十条の二を流用すればいいという問題ではないというところで、なかなか慎重な議論が必要かなというふうに考えます。

神津参考人 皆さん方の机上にも配られていると思うんですが、木村参考人の資料の中で、表の真ん中ほどですかね、「現在の侮辱罪はインターネットなど全くなかった明治時代に作られました。そのため、今の侮辱罪は口頭での悪口などを想定としたもので、SNS全盛の今の時代には全く対応できていません。」これは全くそのとおりだと思うんですよ。

 ですから、今の政府提出法案で抜本的な対策を打てるというふうには私は正直言って思えないので、したがって、立憲民主党・無所属の会の法案の表現、もちろん、皆さんで審議していただいて、よりもっといいものにしていただくという必要はあると思うんですけれども、やはり、もっと今回の問題になっているそういう事柄に合わせて、ターゲットを絞って、作っていく必要があるんじゃないのかなというふうに思います。

 それで、百歩譲って、じゃ、この侮辱罪について量刑を上げる、その場合、これは、冒頭申し上げたところの、目的としていないことについて生じかねない危険性の芽を摘んでおくということは極めて重要だということだと思いますので、私はやはり、前川委員がおっしゃったような、そういう手だてを講じることは必要だというふうに思います。

    〔山田(美)委員長代理退席、委員長着席〕

前川委員 時間が参りました。

 参考人の先生方、ありがとうございました。

鈴木委員長 次に、鈴木義弘君。

鈴木(義)委員 国民民主党の鈴木義弘です。

 冒頭、木村花様に心から哀悼の意を申し上げますとともに、御冥福を心からお祈り申し上げたいと思います。

 今日は、現代社会では、一昔前は考えられぬぐらい、情報があふれ、また伝達のスピードも速くなっているように思います。人と人をつなぎ、人と物をつなぐことで、より便利に、もっと豊かにと、人間の欲は増幅しています。それに呼応して、企業は、より、人と人、人と物をつなげ、満足させるために、ハード、ソフトを開発し、商品化して、営利を得ようとして血眼になっているように感じます。

 確かに、情報技術の発展によって、人と人とのコミュニケーションが取りやすくなり、身近に感じやすくなっているのかもしれませんし、欲しい商品にアクセスしやすくなり、便利性は高まっているのかもしれません。

 このような利便性はあるものの、今日の社会は住みやすいというふうに感じるのか、生きやすい社会になっているというふうに感じるのか、まず、簡潔で結構ですから、四人の参考人の方に御答弁いただければと思います。

木村参考人 花に対してひどい言葉をぶつけた方から謝罪のメールをいただいたんですけれども、やはり彼も本当に自分の人生が思うとおりにいかずに思い悩んでいてということもありまして、本当に幸せな人はSNSの中できっと人を傷つけるようなことをしないと私は思っています。

 今は、誰か一つ失言があっただけでも、十分過ぎるというか、本当にすごい数の批判や誹謗中傷にさらされてしまうので、そういった息苦しい世の中がSNSに映し出されていると思います。

 本来、SNSはとてもすばらしい使い方ができるものだと思っていますので、ただ、それを使う一人一人の心がそのまま映し出されてしまうと思っているので、今より、よりよい世の中に、是非、政治家の皆さんにもしていただけたらいいなと思います。

只木参考人 委員の御質問に沿っているかどうか分からないのですが、これまでの話の中で考えますに、新たなコミュニケーションのツールによって今までには考えられなかったような甚大な被害が生じる、それは加害者にも被害者にもなり得るということは、最近つくづく感じております。

 以上です。

趙参考人 とりわけ、情報通信技術の発達によって誰もが世界に対し発信できるようになっている、インターネットによって発信できるようになっているということのプラスの側面は、私はとても大きいと思います。これまではマスメディアを通じてでしか発信できなかったものが、誰もが世界に対して発信できるということは、やはり表現行為に対してとても大きく寄与していると思います。私は、そういう評価がベースにあります。

 ですので、今の質問に対する答えとしては、利便性、住みやすい世の中か生きやすい世の中かと言われれば、ベースは生きやすい世の中なんだと思いますが、ただ、それに対応した様々な問題が生じていることも事実ですので、その対処が追いついていないとは思います。ですが、やはり、そのプラスの側面を決して否定してはいけないのではないかと思います。

神津参考人 ICT技術を含めて科学技術が発達しているということで、やはり、すごく広がりが出ていて、便利で本当にいいなということがいっぱいあることも事実だと思いますが、一方で、だから、マイナスのところの広がりもすごく出てきてしまっているので、匿名で人の心を傷つける、尊厳を傷つけるようなことがまかり通っているということで、両面あるんだと思いますけれども。

 考えてみると、大昔においても人間の幸せというのはあったわけで、もちろん大変な苦労もあったんですが、人間の幸せはあったわけですよね。それに比べると、当時、大昔には想定できなかったようなとげがもういっぱい出てきちゃっているんですから、これを何とかなくしていくということに是非やはり私たちは心血を注ぐべきだと思いますし、国会の先生方にも是非そこを重点を置いてお願いしたいというふうに思います。

鈴木(義)委員 先ほどから議論をお聞きしていたんですけれども、インターネットを介して、一番重要というんですかね、一番便利だったのが、匿名性が高いということだと思うんです。

 私たちは、権利、権利、権利と言うんですけれども、権利は裏返しに義務が生じているというのを今の社会は言わなさ過ぎるんじゃないかと思うんです。結局、自分が犯罪を犯していると思わないで発言したことで相手が傷ついた、それは私は分からないです、でも、その言った発言に対しては義務があるんだというのも裏返しで持っていかないと、幾ら法律で整備をしたとしても、これは止まらないんじゃないかな。そういう価値観がやはり醸成されていない、だから、匿名で何でも言っちゃうんだと思うんですけれども。その辺についてですね。

 あと、これは私の解釈なんですけれども、インターネットに投稿した時点で公然という考え方を取り入れればいいんじゃないかと思うんですね。今までの解釈はそうじゃないかもしれません。でも、インターネットでワン・バイ・ワンでやっているんだけれども、そこに第三者がどんどん入ってくるということは、もう公然なんですよ、考え方とすれば。

 それと、もう一点。あともう一つ、私は、法律の素人なものですから、今日に向けて少し勉強させてもらったんですけれども、今回の法律の改正で、今まで侮辱罪は幇助罪とか教唆罪というのが適用されなかったんですけれども、今回、法律の改正になってそれも適用される話になると、例えば自殺幇助罪というのが適用できるのかどうか、只木参考人と趙参考人のお二人にお尋ねしたいんですが。

只木参考人 自殺幇助、自殺教唆というのは、嘱託、承諾殺人罪と並んで、二百二条で、現行法でも処罰されるようになっております。

 以上です。

趙参考人 質問に対するお答えとして適切かどうか分かりませんけれども、侮辱罪に懲役刑が設けられますと、侮辱罪の幇助犯、教唆犯が適用されるわけです。そのことによって、例えばどういうことが今議論されているかといいますと、そういう誹謗中傷の書き込みがなされているプロバイダー自身が侮辱の幇助なり教唆を問われるのではないかといった議論も一部ではなされています。

 そうすることによって、プロバイダーとしてはそれを避けようと、発言を削除するという方向に力が働きかねません。それは、本来表現として認められるべき発言までも、例えば、相手からこれは消してほしいと言われたらどんどんどんどん消すというような、そういった悪い方向への、これも一種の萎縮効果ですけれども、そういった危険もあるのではないかというふうに個人的には考えております。

鈴木(義)委員 分かりました。

 あと、時間がないのでもう一点お尋ねしたいんですけれども、先ほども委員の方から質問があったんですけれども、今の日本の法定刑が、いろいろな百五十年近くの歴史の積み重ねなんですけれども、法定刑に対して、軽いんじゃないかというふうに思われるか、重いんじゃないかというふうになったときに、今感じているところが、もっと厳しくしていった方がいいんじゃないかとか、もっと低くした方がいいんじゃないかといったときに、なかなか御判断が難しいところもあろうかと思うんですが、四人の方に一言ずつコメントいただければありがたいんですが。

木村参考人 私は、軽いと感じています。

 というのも、私は最初、刑事で罪に問うことで前科がつくということが非常に重いことだと信じてやっていたんですけれども、実際に起訴されて科料九千円を払うというのが記事になったときに、そんな安い値段だったら言いたい放題言って九千円払うというように言われていた人がたくさんいたんですね。なので、前科がつくことが必ず大勢の方にとって重いことではないんだなというのを私はそれで思い知りました。

 やはり、九千円の科料というのは軽過ぎると思います。

只木参考人 御質問にお答えいたします。

 全ての犯罪について押しなべて申し上げることはできませんので、二百三十一条の侮辱罪について、今問題となっておりますが、それについてお答えでよろしいでしょうか。

 今回、先ほど申しましたように現在のコミュニケーションツールが非常に発達することによって、想像もつかなかった甚大な被害が瞬時にして起こる、そういうことを見て、そして今回の、先ほどから出ている事例のように、取り返しがつかない被害、そういったものを見たときに、現在の拘留、科料では軽過ぎるという判断、法定刑として軽過ぎるという判断は十分にあり得るというふうに思っております。

 ただし、今回の法改正では拘留、科料というものを残してありますので、今までと同じように、当罰性の低いものについては拘留、科料、ただし、当罰性の重いものについては、今までとは違って、懲役、禁錮、そして罰金を科す、そういった趣旨だと思いますし、その趣旨については、私は了解可能なのではないかというふうに考えております。

 以上です。

趙参考人 全ての犯罪の法定刑がどうかと言われれば、私は決して軽いとは思っておりません。

 今話題になっているこの侮辱罪につきまして、人が亡くなるような事例まで発生しているということを捉えれば、その行為に対する罰として、今の拘留又は科料というのは、それは軽いと感じるのは、私は、自然というか、そう思います。ですが、ここでの問題は、それを、侮辱罪という罪の法定刑を引き上げる、侮辱罪という枠で捉えるべきかどうかということだと思います。

 私は、先ほど来申し上げているとおり、今起きているこういった誹謗中傷の問題というのは、侮辱とは別の問題として捉えるべきで、それは適切な刑罰が定められるべきではないかなというふうに考えております。

神津参考人 重いのか軽いのかということは、私は、一般論としては一概には言えないんだろうというふうに思います。

 今日、改めて、じかに、木村参考人がどれだけ苦労されているかということであるとか、起きてしまった事柄、これは、実際にテレビ番組の制作のスタンスがどうであったのかみたいなことも関わっているので、またこれは実際には複雑ですから、一つ一つの事案について私が云々はできないと思いますが、これは各参考人からもありましたけれども、やはり、科料九千円というのは、それは感情的にもおかしいなというふうに思うのが自然だろうというふうには思います。

 ただ一方で、これはいろいろなことに通ずると思いますし、鈴木委員からもその種のお話があったかと思うんですけれども、要するに、量刑を上げたから全部それで収まるということではないと思うんですね。だから、本来、リテラシーというんでしょうかね、どうあるべきかみたいなことが人々の意識の中にきちんと落とされないといけないということだと思いますので、そちらこそがやはり本質的な問題じゃないのかなというふうに思います。

鈴木(義)委員 以上で終わります。本日はありがとうございました。

鈴木委員長 次に、本村伸子君。

本村委員 日本共産党の本村伸子でございます。

 今日は、四人の参考人の皆様、貴重な御意見、本当にありがとうございます。

 まず最初に、木村響子さんにお伺いをしたいと思います。

 大変おつらい中、本当に筆舌に尽くし難い御苦労をされながら、こうやって国会に足を運んでくださいまして、本当にありがとうございます。私からも、木村花さんがお亡くなりになられたこと、心からお悔やみを申し上げたいと思います。

 背景には、番組作成の、非常に不公平な同意書そして誓約書、思いとは違う演出、そしてインターネット上の誹謗中傷があったというふうに思いますけれども、まず、木村花さんが自ら命を絶たなければならなかった最大の理由についてどのようにお感じになっているか、お聞かせをいただければというふうに思っております。

木村参考人 花は、本当におびただしい数のひどい誹謗中傷にさらされてしまったんですけれども、じゃ、それはなぜかといいますと、やはり、番組の悪意ある編集であったり、誹謗中傷すらを利用して、炎上商法のような形で視聴率を稼いでビジネスとしていた大人たちがいるわけで、そういったメディアの責任でしたり、本当に、今、夢を持った若い人たちがその夢を人質に取られて、花の場合もそうですけれども、一方的に誓約書を書かされて、契約書じゃないです、誓約書です。私たちはこういうことをしません、こういうことをしません、もしした場合には多額の損害賠償が発生しますという一方的なものに、それを正しく理解もしていなかったと思うんですけれども、判こを押して、みんな利用されてしまった。そういった誓約書のせいで、花が番組のことを相談できなかったというのはすごく大きな原因の一つだと思います。

 今まで本当に、私たち親子、けんかしていても何があっても、花は、自分が困ったときには、夜中であろうが朝であろうが、いつでもすぐ連絡してきて、迎えに行って病院に連れていったりとか、そういったこととかもあったんですけれども、今回のこと、周りに対してほとんど番組のことを言っていなかったです。本当に、五月に入って、よっぽどつらかったんだと思うんですけれども、ちらほら語り始めたということで。

 そういうこともあって、誹謗中傷を招いたテレビ局、制作会社は、何もなかったように今も変わらず日々の生活を暮らしていると思うので、本当に、メディアに対しても厳しい法律を是非作っていただかないと、被害に遭うのはやはり夢を持った若い人たちが多いと思うので、是非、芸能関係の労働条件の方も早急に改善していただきたいと思います。

本村委員 ありがとうございます。おつらいお話だとは思いますけれども、本当にありがとうございます。

 侮辱、名誉毀損、裁判官によって判断が違うということも先ほどお話しされたというふうに思いますけれども、少し具体的にお話をいただけたらと思いますけれども。

木村参考人 済みません、もう一度。

本村委員 侮辱とか名誉毀損、裁判官によって判断が違うと先ほどお話をされたと思いますけれども、その点、お聞かせをいただけたらと思います。

木村参考人 これは私が裁判を、裁判というのは、私、裁判官の人というのは本当に何でも御存じで、正義の味方のような存在だと思っていたんですけれども、実際裁判をやってみますと、中には全くSNSのことを御存じない裁判官の方に当たってしまって、本当に、ツイッターとは何かという説明から始めなければいけなかったりとか、そういったこともございます。

 そういった中で、ごく一部ではありますけれども、本当にたくさんの公開、開示をされて、公開、開示をされた後に、損害賠償の裁判で誹謗中傷と認められずに棄却されていることとかも多数あったりします。それは言葉尻を捉えたようなことで、公開、開示はされてしまうのにもかかわらず、その後の損害賠償の裁判で棄却されるという、全くちょっと違った判決が出てしまうこととかもあります。

 その辺もすごく、範囲が広げられるということで、言葉尻だけを取って悪用されるといったことで、すごく嫌な言い方ですけれども、示談金を目当てにしたような、被害者の救済とは反対の方向で悪用されてしまうことが私は本当に危惧しております。

本村委員 ありがとうございます。

 誹謗中傷の被害者が泣き寝入りしないでいいように、やはりきめ細かく法整備というのは必要だというふうに考えております。

 先ほども番組制作会社のお話がありましたけれども、プロバイダーなどインターネット業者の問題についてはどのようにお感じになっておられるのか、木村参考人にお願いをしたいと思います。

木村参考人 いつも裁判で、本当に明らかにひどい誹謗中傷の言葉であっても、プロバイダーの方の弁護士の方から、これは誹謗中傷に当たらない、これは意見の範囲内だという反論をされて、それがすごく不思議でしようがなかったんですけれども、プロバイダーにはプロバイダーの、何か顧客の情報を守らなくてはいけないということがあるみたいでして。

 本当に被害者の速やかな救済のためには、アカウントをつくるときに、情報をひもづけるようなことを義務づけて、みんなが責任を持って、必ずしも実名でSNSをやる必要はないと思うんですよ、本当に、若い方とか、身の危険が生じてしまうこともあるので、匿名でやるのはすごくいいことだと思うんですけれども、その人が問題のある発言をしたときに、すぐに特定できるようなものを何か考えていただきたいと思います。

本村委員 ありがとうございます。

 続きまして、只木参考人と趙参考人、そして神津参考人に伺いたいというふうに思います。

 侮辱という定義が判例で定まっているのかという点、そして、侮辱という概念が曖昧で、例えば北海道警察のやじ排除事件のような、政治的言動に適用される危険性があるのではないかということをやはり思うわけですけれども、その点、改めてお三人にお伺いをしたいと思います。

只木参考人 御質問ありがとうございます。

 では、二点についてお答えいたします。

 まず、先ほどから、侮辱というのが曖昧なのではないかという御質問ですが、これは、先ほど申しましたように、判例の蓄積がありますので、ある程度の概念の外延は画されているのではないかというふうに思っております。よろしいでしょうか。

 もう一つ、それが政治的に悪用されるのではないかについては、その因果関係は私は述べる立場ではありませんので、ただし、そういうことがないように、我々は国民として、国民の一人一人がそれに対してしっかりとチェックしていかなきゃいけないということは感じております。

 以上です。

趙参考人 侮辱の定義が判例で定まっているのかという点につきましては、様々な裁判例が積み重ねられていて、ある程度は固まってはいると思いますが、なおも曖昧なものであることには変わりはないと思います。

 二点目の、北海道でのやじ排除事件などに適用される危険という御質問ですけれども、まさにそういう危険があるんだと思います。

 このやじ排除事件というのは、恐らく、そもそも侮辱に当たるかどうかすら曖昧なような発言に対して警察が排除した、そういう事件だと承知しておりますけれども、まさにそういうふうに、政権が何か言おうとしている、権力者が何か言おうとしているときに、それを排除するという動きは今この世の中ですらやはりあるわけですから、この侮辱というものがそういうふうに用いられる危険があるということをこの北海道の事例などは如実に示しているのではないかというふうに思います。

神津参考人 判例については、正直言って私も余りよく承知しておりませんので、今、お二人の参考人のお話で聞いていただければというふうに思います。

 関連して、私の持っている感じで申し述べますと、これは最初に趙参考人がおっしゃった中にありましたように、元々、侮辱罪の淵源といいますか、明治時代に始まって、これも私なりの表現ですけれども、お上が取り締まるための法律であって、一般大衆がひどい物の言い方をするのを取り締まるのにできた法律であったところが、しかし、戦後、敗戦、民主化を経て、名誉毀損罪と侮辱罪とそれぞれがあるという中で、侮辱罪というのは、この比較においては、余り重い量刑を科すようなものと位置づけられてはいなかったという、言い方はあれですけれども、そういう程度のものであったということだと思うんです。

 したがって、SNSにおける匿名のそういう罵詈讒謗、心の内面を突くような、そういったことに対応するということには余りにも私は無理があるというものではないのかなということは申し上げておきたいなと思います。

本村委員 ありがとうございます。

 次に、只木参考人と趙参考人にお伺いをしたいというふうに思います。

 自由刑に関する国際基準となっております国連被拘禁者処遇最低基準規則、通称ネルソン・マンデラ・ルールズというものについての御認識と、今回の法案の拘禁刑との関係、作業、指導を強制するのではないかというふうに考えますけれども、その点、御見解を伺いたいと思います。

只木参考人 マンデラ・ルールについては存じ上げております。ただ、今回の法の趣旨は、あくまでも、改善更生を図るということに力点があるものであります。

 作業は、職業上有用な知識、技能を習得させるものですし、改善指導は犯罪の責任を自覚させるもの、教科指導は社会生活の基礎となる学力を身につけさせるものでありまして、いずれも、受刑者の改善更生、再犯防止を図る観点から重要な処遇方法であり、個々の受刑者の問題性に応じて必要と認められる場合には、その実施を専ら受刑者の意思に委ねるのではない、委ねることは適当ではないという考え方に基づいているんだと思います。

 刑罰といいますのは、応報刑と同時に、一般予防、特別予防を課すというのが現在の一般的な見解、つまり、相対的応報刑といいますのは、応報刑の枠の中で一般予防を目指すものであります。

 そこで考えますに、今回、特別予防のために課すもの、作業というのは、あるいは指導もそうですけれども、再犯防止という特別予防のために課すもの、特別予防という、刑罰の目的を実現する上で必要かつ重要なものとして課すものでありますから、マンデラ・ルールに反するものではないというふうに考えております。

 以上です。

趙参考人 日本の今の刑務所なりの受刑施設での処遇が国際的な基準であるマンデラ・ルールに適合していない部分があるのではないかということは、いろいろ指摘がされているところです。

 最近でも、受刑者の医療の問題について、これがマンデラ・ルールズに抵触しているということで、最高裁判所が国の措置が違法だと判断したケースがありました。ですので、こういった国際的な基準に沿った刑罰の在り方が求められるべきだと思います。

 今回の改正案とマンデラ・ルールズとの関係については私は承知しておりませんので、なかなかちょっと回答が難しいです。

本村委員 貴重な御意見を本当にありがとうございました。

鈴木委員長 これにて参考人に対する質疑は終了いたしました。

 この際、参考人各位に一言御礼を申し上げます。

 参考人の方々には、貴重な御意見をお述べいただき、誠にありがとうございました。委員会を代表して厚く御礼を申し上げます。(拍手)

 次回は、明二十七日水曜日午前八時五十分理事会、午前九時委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。

    午後零時二分散会


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