衆議院

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第14号 令和4年5月11日(水曜日)

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令和四年五月十一日(水曜日)

    午前九時一分開議

 出席委員

   委員長 鈴木 馨祐君

   理事 井出 庸生君 理事 熊田 裕通君

   理事 葉梨 康弘君 理事 山田 美樹君

   理事 鎌田さゆり君 理事 階   猛君

   理事 守島  正君 理事 大口 善徳君

      東  国幹君    五十嵐 清君

      石橋林太郎君    奥野 信亮君

      神田 潤一君    国定 勇人君

      田所 嘉徳君    高見 康裕君

      谷川 とむ君    中野 英幸君

      西田 昭二君    野中  厚君

      八木 哲也君    山口  晋君

      山田 賢司君    伊藤 俊輔君

      鈴木 庸介君    藤岡 隆雄君

      山田 勝彦君    米山 隆一君

      阿部 弘樹君    前川 清成君

      日下 正喜君    福重 隆浩君

      鈴木 義弘君    本村 伸子君

    …………………………………

   議員           鎌田さゆり君

   議員           米山 隆一君

   法務大臣         古川 禎久君

   国務大臣

   (国家公安委員会委員長) 二之湯 智君

   法務副大臣        津島  淳君

   法務大臣政務官      加田 裕之君

   最高裁判所事務総局民事局長            門田 友昌君

   政府参考人

   (警察庁長官官房審議官) 森元 良幸君

   政府参考人

   (警察庁刑事局長)    大賀 眞一君

   政府参考人

   (法務省民事局長)    金子  修君

   政府参考人

   (法務省刑事局長)    川原 隆司君

   政府参考人

   (法務省矯正局長)    佐伯 紀男君

   政府参考人

   (法務省保護局長)    宮田 祐良君

   政府参考人

   (法務省人権擁護局長)  松下 裕子君

   政府参考人

   (文部科学省大臣官房学習基盤審議官)       茂里  毅君

   法務委員会専門員     藤井 宏治君

    ―――――――――――――

委員の異動

五月十一日

 辞任         補欠選任

  尾崎 正直君     山口  晋君

同日

 辞任         補欠選任

  山口  晋君     神田 潤一君

同日

 辞任         補欠選任

  神田 潤一君     尾崎 正直君

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 政府参考人出頭要求に関する件

 刑法等の一部を改正する法律案(内閣提出第五七号)

 刑法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整理等に関する法律案(内閣提出第五八号)

 刑法等の一部を改正する法律案(米山隆一君外二名提出、衆法第三一号)


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     ――――◇―――――

鈴木委員長 これより会議を開きます。

 内閣提出、刑法等の一部を改正する法律案及び刑法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整理等に関する法律案並びに米山隆一君外二名提出、刑法等の一部を改正する法律案の各案を一括して議題といたします。

 この際、お諮りいたします。

 各案審査のため、本日、政府参考人として警察庁長官官房審議官森元良幸君、警察庁刑事局長大賀眞一君、法務省民事局長金子修君、法務省刑事局長川原隆司君、法務省矯正局長佐伯紀男君、法務省保護局長宮田祐良君、法務省人権擁護局長松下裕子君及び文部科学省大臣官房学習基盤審議官茂里毅君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

鈴木委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

鈴木委員長 次に、お諮りいたします。

 本日、最高裁判所事務総局民事局長門田友昌君から出席説明の要求がありますので、これを承認するに御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

鈴木委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

鈴木委員長 質疑の申出がありますので、順次これを許します。葉梨康弘君。

葉梨委員 おはようございます。自民党の葉梨康弘です。

 早速、時間もありますので、質疑に入らせていただきます。

 今日は侮辱罪の法定刑の引上げについて質問をさせていただきますが、四月二十七日の対政府質疑、これにおいて、特に野党の皆さんから、幾つかやはり懸念が示されました。その懸念に対して丁寧に応えていくということも、やはり委員会質疑の大きな役割だというふうに思います。

 本日は、このような観点から、ちょっと重なる部分もありますが、質問を行っていきたいと思います。

 まず一つ、処罰の範囲が広がるのかということを押さえていきたいと思います。

 今回、侮辱罪の法定刑を、拘留又は科料から、一年以下の懲役若しくは禁錮若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に引き上げることとされました。これによって、現在罪に問えなかった行為を罪に問うことができるようになるのか、その点についてお伺いをしたいと思います。

古川国務大臣 お答えいたします。

 今般の改正は、侮辱罪の法定刑を引き上げるのみでありまして、処罰対象となる行為の範囲、すなわち犯罪が成立する行為の範囲は変わりません。したがって、今般の法整備によって、これまで侮辱罪によって処罰できなかった行為が処罰できるようになるものではございません。

葉梨委員 そういうことですよね、法定刑の引上げだけと。これはいろいろな経緯があるというのはよく分かっておるんですけれども、ただ、いずれにしても、例えば、この間の木村花さん、本当に悲しい事件だったというふうに思いますけれども、二十名、匿名の書き込みを特定して、三人しか罰することができなかった。今の答弁によれば、その三人を広げるというものではないということです。これについての当否云々は別としまして、この点は変わらないということは押さえておかなければいけないなというふうに思います。

 次に、今までの質疑について、順次、その懸念についていろいろとお聞きしていきたいなというふうに思います。

 処罰の範囲が広がらないにしても、法定刑が引き上げられたということによって、まず、通常逮捕については、罪証隠滅、逃亡のおそれ、これに加えて、被疑者が定まった住居を有しない場合又は正当な理由なく出頭の求めに応じない場合にのみ通常逮捕ができるという、後者の方の要件がなくなります。

 もっとも、私自身は、罪に問うべき事案であって、被疑者が明らかな罪証隠滅を図る、そういうおそれがある場合、私は通常逮捕というのは有効な捜査の手法であるというふうに考えます。ただし、この通常逮捕というのは、当然のことながら、構成要件該当性、それから逮捕の必要性について司法判断が行われ、これが濫用されるというのは、その危険性は私は少ないんじゃないかというふうに思いますけれども、法務大臣から見解を承りたいと思います。

古川国務大臣 今般の法定刑の引上げにより、侮辱罪による通常逮捕に関して、住居不定であることなどの制限がなくなることとなりますが、それ以外の要件に変わりはございません。

 したがいまして、裁判官が、検察官又は司法警察員の請求に基づき、逮捕の理由及び必要性を判断した上で逮捕状を発した場合に限り、通常逮捕を行うことができるものでございます。

 さらに、捜査機関においては、これまでも、表現の自由に配慮しつつ、法と証拠に基づいて適切に対応してきたところでありまして、この点については、今般の侮辱罪の法定刑の引上げにより変わるものではございません。したがいまして、侮辱罪の法定刑の引上げが捜査機関による恣意的な逮捕につながるものではございません。

葉梨委員 実は、先般の質疑において、逮捕状の発付率、これが非常に高いんだというようなお話があって、何か裁判官のチェック機能が働いていないかの、そこまでは言われていないんですが、のようなちょっと印象を受ける質疑もあったんですけれども。

 私自身は、捜査の現場におりましたのはもう何十年か前になりますけれども、当時のことを振り返ってみますと、やはり現場は非常に緊張関係というのがありまして、裁判官の名誉のために言っておきますと、やはり警察であれば警部以上が逮捕状の請求をするということになるんですけれども、構成要件該当性、それから逮捕の必要性について相当慎重な検討を行って、それで裁判官のところに持っていく。極めて緊張関係があったということを私自身は覚えています。

 ですから、この逮捕状発付についての司法判断というのは、私としては相当厳格なものであって、ここの部分で相当な抑えといいますか、あるんだろうなというような感じを持っています。これは私の印象です。

 次に、現行犯逮捕、これについても議論になりました。法定刑が引き上げられるということで、現行犯逮捕の要件から、犯人の住居若しくは氏名が明らかでない場合又は逃亡するおそれがある場合に限るという要件が外れることになります。

 これを捉えて、例えば集会などの場で、警察職員が現行逮捕を行う、そういったことによって言論の自由への威嚇があるのではないかという懸念が示されました。懸念は理解できます。

 ただ、私自身の考えとしては、表現の自由、これは憲法が保障する権利です。そして、その行使が刑法三十五条の正当行為と解される。その範囲というのは極めて広いんじゃないかというふうに思っています。

 ですから、そういった意味では、明白な犯罪であるかどうか。それには、正当行為によってそれが犯罪じゃなくなるわけですから、そこの疑念が、どうしても現場で判断するということはなかなか難しいところがあって、ですから、そういった意味で、現行犯逮捕というのは、なかなかイメージとして、ぱっと、侮辱罪の場合は現行犯逮捕にすぐ結びつくというイメージは私自身は持っていないんです。

 ただ、役所の答弁というのは、机の上で現行犯逮捕の可能性が全くゼロではないということになると、どうしても奥歯に物の挟まった言い方になりがちなんです。ですから、そういった意味での懸念を払拭していただくためにも、侮辱罪による現行犯逮捕は、机の上での論理は別として、そもそも、私は基本的にはなじまないものじゃないかと思っています。

 政治家として、法務大臣の御所見を承りたいと思います。

古川国務大臣 逮捕に関しまして、今回の法改正により、住居不定であることなどの制限がなくなることとなりますが、それ以外の要件に変わりはありませんので、現行犯逮捕は、逮捕時に、犯罪であることが明白で、かつ、犯人も明白である場合にしか行うことができません。犯罪が明白であるというのは、違法性を阻却する事由がないことも明白であるということでありまして、侮辱罪については、表現行為という性質上、表現の自由や集会の自由といった憲法上の重要な権利との関係を考慮しなければならないため、実際上、逮捕時に正当行為でないことが明白であると言える場合は相当に限られるというふうに思われます。

 その意味で、あえて踏み込んで申し上げますと、委員が御指摘になっておりますとおり、侮辱罪については、そもそも、実際問題として現行犯逮捕になじまないのではないかと考えております。

葉梨委員 今、法務大臣から答弁ありましたけれども、警察庁、警察庁も同じ考えということでよろしいですね。うなずいていただければいい。はい、分かりました。

 現場の感覚を思い出してみますと、侮辱罪によって現行犯逮捕を行って事件捜査の手続にのせるというのは、特に現行犯、現場で、これは相当怖くてできないです。

 ただ、つまり、全然違うのは、よく、親告罪でも現行犯逮捕が行われる器物損壊というのがあるんですけれども、器物損壊というのは、物を壊したということは明白だし、物を壊したことについて、そんな正当行為があるかどうかというのは、これも明確に否定されることが多いし、また、かつ、被害者の処罰意思もその場で相当明確であるということが非常に多いですから、これとは全然違うので、やはり侮辱罪というのはなかなか現行犯逮捕にはなじまないのかなというような感じはいたします。

 もう一つ、ただ、質疑の過程で幾つか出てきて、これは誤解をしないように皆さんも考えていただきたいんですが、北海道警がやじを排除したという事案がありました。あれは、侮辱罪とか事件捜査ではありません。警察官職務執行法において危険な行為を除去するというような行政行為です。これについての当否は、今裁判が係争中ですから私ここで申し上げるつもりはありませんが、その北海道警の事案があったからといって、この侮辱罪の現行犯逮捕がどんどんやられるようになるということは、これはあり得ない話で、そもそも、やはり侮辱罪というのは現行犯逮捕には基本的にはなじまないというような犯罪であるということをしっかり押さえていかなければいけないと思います。

 ただ、司法警察職員あるいは検察官の場合は、後でも申し上げますけれども、何が侮辱罪に当たるか、正当行為は何かということを、教育訓練を行っていくことは可能なんです。ただ、私人の場合は、公然と悪口を言われることが侮辱罪を構成するというふうに誤解する人も出てくるかも分かりません。

 今までの質疑の中でもございました。侮辱罪の法定刑の引上げに伴って、現行犯逮捕の要件から、住居若しくは氏名が明らかでない場合又は逃亡するおそれがある場合に限るという要件が外れます。そうすると、そのような誤解をした私人が現行犯逮捕して、例えば集会の場なんかで、あるいはデモ行進の場なんかで、それで警察職員のところに引致する、そういうことが数が多くなってしまうんじゃないか、それによっての混乱というのが生じるんじゃないかという指摘もあります。

 このような指摘に対しては、大臣、どうお答えになりますか。

古川国務大臣 先ほど申し上げましたとおり、今回の法改正後も、現行犯逮捕は、正当行為などの違法性を阻却する事由がないことを含めて、犯罪であることが明白で、かつ、犯人も明白である場合にしか行うことができません。

 また、いわゆる私人逮捕がなされた場合には、その後、被逮捕者の引渡しを受けた捜査機関が逮捕の理由及び必要性について必ず判断することとなるわけです。さらに、現行犯逮捕の要件を満たさないにもかかわらず逮捕がなされたというような場合には、逮捕者は民事上、刑事上の責任を問われる可能性もございます。

 したがいまして、今回の法改正が私人逮捕に伴う混乱につながることはないというふうに考えております。

葉梨委員 まあ、そうなんですよね。結局、私人逮捕というのも、ですから、余り私人逮捕というのは行われないのは、後でその私人が、逮捕することによっていろいろな責任というのを問われることになる。ですから、ほかの罪種で、私人逮捕が現行犯であるなんて余り聞いていないでしょう。実際、ほとんどないんです。(発言する者あり)痴漢は後で申し上げます。実際に被害に遭っていますからね、本人が。

 そういうような形で、痴漢の場合は後でちょっと話を申し上げますけれども、被害者がということで説明はいたしますが、他の罪種でそんなにはないんですよ。これは、やはりそれを、私人逮捕をやったということによって自分もその責めを負うということ、これがあるんです。それが正しい行為であったりしたら、まずその責任はあるでしょう。でも、それがもしかして正当行為で除外されるような行為であったら、それこそ、損害賠償責任だとか逮捕監禁ということで、あるいは、場合によっては誣告罪でも訴えられる、そういうようなこともあるわけです。

 そして、名誉毀損罪、これによっての私人逮捕、これは全然問題になっておりません。

 痴漢の話がありました。これは実は階さんともお話ししたんですけれども、痴漢の場合は、実際に触られる、その触る行為とかが正当行為になるということはほとんどありません。しかも、自分が被害を受けているということで警察職員に引致する。そこで、やはりその供述が、触られたということ、それで正しいと推定されると、大体そのまま逮捕されることが多いわけなんですけれども、よくありますのは、話している内容が実際に間違った内容を供述していた、人違いだったということはあるかも分かりません。その場合は、でも、その後には、その私人は責めを、責任を負うことになります。

 ただ、侮辱罪の場合、そういうことがあるかといったら、しゃべっている人間は分かる、でも正当行為によって相当な部分が除外されますということがあります。ですから、明らかに、痴漢行為とは、概念といいますか、別の類型として考えていかなければいけないというふうに思います。

 教唆、それから幇助について、例えば、いいねといったツイートが、事後的なツイート、これがこれに当たらないということは四月二十七日の質疑でございましたので、それは割愛をさせていただきます。

 そして、今話をしたように、現行犯逮捕はそうそうなじむものでもない、私人逮捕はそんなに濫用されるというわけではない、通常逮捕については裁判官のチェックが働いている、処罰の範囲は広がらない。じゃ、何で今回この改正をやらなければいけないんだ、この点を大臣から是非お願いをしたいと思います。

古川国務大臣 委員御指摘のとおり、今般の法整備におきまして、侮辱罪の構成要件は変更しておりませんから、処罰対象となる行為の範囲は変わりません。

 近時、インターネット上の誹謗中傷が特に社会問題化していることを契機として、誹謗中傷全般に対する非難が高まっておりますけれども、現行法上、侮辱罪の法定刑は拘留又は科料とされておりまして、拘留は三十日未満の刑事施設への拘置、科料は一万円未満でありまして、実際、木村花さんを被害者とする事件でも、いずれも科料九千円に処されておるわけです。このような法定刑ではその抑止に十分ではないという国民の意識が高まっております。

 今回の法改正は、こうした国民の意識を踏まえ、侮辱罪の法定刑に一年以下の懲役、禁錮及び三十万円以下の罰金を加え、抑止力を高めるとともに、厳正な対処を可能にするものでありまして、大きな意義を有すると考えております。

葉梨委員 そうなんですよね。今回の改正というのは、いろいろな論点があるんです、立民さんからもいろいろな案も出されているし、また、実際、インターネット上の誹謗中傷、これについて、いろいろな類型を考えながら検討していかなきゃいけない、そういう意見は本当に傾聴に値すると思います。

 ただ、さっきも言ったとおり、基本的に処罰の範囲が広がるわけではない、通常逮捕については裁判官のチェックが働く、現行犯にはなかなかなじまない、私人逮捕もそれほど、それほどじゃないですね、私人逮捕が濫用されるという危険性もない。じゃ、何なのかというと、やはり、木村響子さんのお話にもありましたけれども、この九千円、本当に九千円でいいんですか、九千円だったら、またやったって、やり得じゃないですか、この声には緊急に応えていかなければいけない、そういうことなんだろうと思うんです。

 それに加えて申し上げると、私は、現場というか、少年警察も二年ほどやったことがあります。特に少年が被害者となりますいろいろな事案、別に侮辱に限らないんですけれども、いじめもあるし、暴行もあるし、それから同じような名誉毀損的なものもあるし。これは、親告罪というと、そういう罪がなされてから、悩むんですよね、被害者というのは。訴えていいんだか、訴えてよくないんだか、それが数か月かかってしまう。時効一年。じゃ、訴えようという意思が決まったときにはもうすぐ時効だ、それを事件化することもできない。

 そういうこともあって、木村響子さんが二十件特定したというのは、まさに時効内の事件だということなんだろうと思いますけれども、やはり、被害者が考える時間を少し与えてあげる。そして、加えて、本当に九千円でいいのか、九千円だったら、またやり得じゃないか、その声に本当に緊急に応えるということが今回の法改正なんだろうというふうに私は思っています。

 もちろん、ほかの論点、これについてはまた更に中長期的な検討というのを、これは迅速にやっていかなきゃいけないとは思いますけれども。やっていかなければいけないんだろうと思います。

 だからこそなんだろうと思います。木村花さんの御冥福をお祈りする意味もあって、法制審においては、法定刑の引上げに、神津参考人もいらっしゃいました、また日弁連の委員も決して賛成ではなかったというお話も承りました、けれども、少なくとも、この答申を行うという議決をすることについてはみんなが一致をして議決を行った。それが、悲惨な目に遭った被害者に応えることになる、これが大人の対応なのかなというふうに思います。

 長期的な課題、私は否定をいたしません。けれども、こういった懸念をしっかり払拭したら、やはり物事は前に進めていくということ、これも政治の責任だと思います、しっかり懸念を払拭した上で。そのことを訴えたいと思います。

 その上で、この法定刑の引上げによって、世間の耳目を集めることになります。今後、相談等が増加することも考えられます。次の二点を、特に法務・検察、あと警察当局にもお願いをしたいと思うんです。

 侮辱罪の構成要件に該当する行為及び正当行為に該当して処罰されない行為に係る判例等の資料の部内外への周知、これは絶対に大切です。さらに、被害者に寄り添った相談への対応と事件捜査、これも大切なことです。

 後者について、先に伺います。

 さきの質疑でも、告訴状の受理、相手方が特定できなくても受理できるということでした。本年にはプロバイダー責任法が改正されます。匿名の者を、申告する者の申告に基づいて、より追及をしやすくなります。ですから、そういったこともありますので、告訴人に対して必要な情報提供を行って、被害者に寄り添った相談対応と事件捜査に心がけていただくことというのは非常に大切だと思います。警察庁の刑事局長、答弁をお願いします、簡潔に。

大賀政府参考人 警察では、被疑者が特定されていない場合であっても、要件が整った告訴につきましては、これを受理するなどして、各種事件の相談や告訴に対しましては被害者の立場に立って誠実に対応することとしております。

 引き続き、被害者の心情や思いに十分配慮しながら、法と証拠に基づいた適切な対応をしてまいりたいと考えております。

葉梨委員 前者の方について、今度は法務省の刑事局長に伺います。

 構成要件に該当する行為及び正当行為に該当して処罰されない行為、これについての判例など、これに係る資料の部内外への周知というのは、これはもう非常に大切なことになると思います。今までの集積もございますのでね。

 ただ、今までの議論の中でもございました、侮辱罪について、正当行為に該当して処罰されない行為類型を、これを法文に明記して、修正して規定すべきじゃないか、そういうような指摘もこの委員会質疑の中でございました。法制審においてどういうような議論がなされたのか、お答えを願いたいと思います。

川原政府参考人 お答えいたします。

 法制審の部会におきまして、侮辱罪と正当行為の関係が議論になりまして、具体的には、これから申し上げるような議論がなされております。

 すなわち、民事では、事実の摘示を含まない論評や意見表明についての不法行為責任が追及され得るものの、公正な論評の法理が判例上確立しており、人身攻撃に及ぶなど論評の域を超えるものでない限り不法行為の違法性が否定されているところ、これは、憲法二十一条の要請であって、刑法の解釈としても、刑法三十五条を介して当然に認められるべきであり、刑事では、更に限定がかかることはあっても、民事における不法行為責任より広く侮辱罪の成立が認められることはない。

 あるいは、他人を批判する際には事実をきちんと摘示することが望ましいが、日常生活においては、事実を摘示することなく、単に論評を示すこともあり、その場合は、民事で言う社会通念上許される限度を超えているかどうかで判断されるところ、どこまで許容されるかは批判を受ける人の立場によって変わってくるのであり、公的人物であれば一定の批判は是認せざるを得ないとか、あるいは、事実を摘示した上で侮辱的な価値判断を加えた場合と、自らは全く事実を摘示しないで同じ事実を前提として侮辱行為のみを行った場合について、重い法益侵害である前者は、刑法二百三十条の二により違法性が阻却され、侮辱行為についても違法とされないのであれば、より軽い法益侵害である後者も違法性が阻却されることとなり、侮辱罪の違法性阻却が実際に問題になるのはそういう場合でないかといった意見が示されまして、論評の対象、目的、論評が前提とする事実など様々な観点から正当行為の考え方の議論がなされたところでございまして、このような議論の内容は、実務においても参照されるものと考えているところでございます。

 一方、この部会では、侮辱罪の違法性阻却に関し、刑法二百三十条の二のような特例規定を設けるべきか否かについて、侮辱罪に関する刑事事件の判例等の蓄積がない中で、処罰されないための要件を定めることは困難であり、かえって不可罰となる範囲を狭めてしまうことになりかねないとの指摘があり、そのような特例規定は設けないとする意見が大勢を占めたところでございます。

葉梨委員 時間です。修正よりも周知ということ、こちらが大切だということ。そして、最後にもう一度、政治の責任として、少しでも前に物事を進めていかなければならない、そのことをお訴え申し上げまして、私からの質疑を終わらせていただきます。

 ありがとうございました。

鈴木委員長 次に、福重隆浩君。

福重委員 公明党の福重隆浩でございます。

 短い時間でございますので、早速質問に入らせていただきます。

 これから御紹介するのは、公明党の機関紙公明新聞のコラムに掲載された記事であります。

 僕は少年院にいました、慰問に訪れてくれたお笑いタレント、ゴルゴ松本さんの話を聞いて、今、僕は料理人を目指して働いています。先般、同氏の講演を機に更生を誓い出院した少年の便りが掲載されておりました。令和三年版再犯防止推進白書によれば、令和二年の刑法犯検挙者数に占める再犯率は四九・一%であります。前述のような成功例ばかりとは言えない状況にあります。そして、次の言葉は、現役の保護司である公明党の千葉市議会議員が議会で訴えた言葉であります。出所者は社会で再犯しないか試されているが、実は、試されているのは受け入れる社会の方でもある。

 最後の一言は私の脳裏に深く焼き付き、胸に深く響きました。一人でも多くの方が再び犯罪を起こすことがないよう、また、社会全体でそのような方々の社会復帰を応援していくべきと強く感じた次第であります。

 今回の法律改正では、罪を犯した方の円滑な社会復帰につながる諸制度の導入をすることを大きな柱としています。その上で、刑法等の一部を改正する法律案について質問をさせていただきます。

 令和二年度、刑法犯として検挙された人の約半数が再犯者でありました、近年、刑法犯は減少傾向にあるものの、それに占める再犯者の割合は増え続けています。重要課題として再犯防止に取り組む政府は、今国会で対策強化に向けた刑事司法改革を目指すこととしております。これについては、明治時代に現行刑法が定められて以来、初めて刑罰の種類が変わることも含まれていると承知しております。

 その焦点は、刑務所での処遇が異なる懲役と禁錮を廃止して拘禁刑を創設し、それによって受刑者の特性に合った刑務作業や指導が柔軟にできる体制を整えることとしております。

 懲役を言い渡された受刑者は刑務作業が課され、木工、印刷、洋裁、金属作業等に従事します。これによって勤労意欲を育て、知識、技能を付与し、円滑な社会復帰に向けて、社会における自己の役割や責任を自覚させることを目的の一つとしております。一方、禁錮には刑務作業が義務づけられておりません。しかし、希望すれば刑務作業に従事できることから、禁錮受刑者の大半が従事していると言われております。以前より懲役と禁錮の区別は不要との指摘が根強くあったと報道で承知しております。

 そこで質問いたしますが、拘禁刑創設の必要性やその意義、また法制審議会での経緯や議論などについて法務省にお伺いをいたします。

津島副大臣 福重隆浩委員より、拘禁刑創設に関する重要な御質問をいただいたと思っております。

 近年、刑罰の目的の一つである受刑者の改善更生、再犯防止の重要性についての認識が高まってきております。現行法においては懲役か禁錮かという刑の種類によって作業を行わせるか否かが異なりますが、作業は重要な処遇方法でございますから、それを行わせるか否かが刑の種類という形式的な区分によって定まるものとするのではなく、個々の受刑者の特性に応じ、作業と指導とをベストミックスした処遇を行うことができるようにすることが重要と考えます。

 そこで、個々の受刑者の特性に応じた処遇を可能として、一層の改善更生、再犯防止を図る観点から、現行法の懲役及び禁錮を廃止し、これらに代えて拘禁刑を創設し、拘禁刑は刑事施設に拘置する、改善更生を図るため、必要な作業を行わせ、又は必要な指導を行うことができると規定することとするものでございます。

 次に、法制審における経緯、議論についてのお尋ねにお答えを申し上げます。

 法制審においては、犯罪者に対する処遇を一層充実させるための刑事法の整備の在り方などについての法務大臣からの諮問を受けて、少年法・刑事法部会が設置され、議論が行われたところでございます。

 その中で、かつては罪質に応じて懲役と禁錮を類型的に区分していたとされますが、現在ではこのような区別は重要とは言えないこと、そして、委員御指摘ございました禁錮受刑者の多くが自ら申し出て作業を行っている現状では、あえて禁錮刑を存置する実益に乏しいということなどが指摘をされました。それで、懲役及び禁錮を廃止し、これらを一つの刑とすること、必要な作業及び各種指導を行うことを可能とすることについて特段の異論はなかったものと承知してございます。

 このような調査審議を経て、法制審議会総会において拘禁刑の創設に相当する内容を含む答申が全会一致で採択されたものでございます。

福重委員 引き続きお伺いいたしますが、拘禁刑が創設されることにより廃止となる懲役と禁錮ですが、禁錮には、今も申し上げたとおり、作業が義務づけられておりませんが、何もしないことがかえって苦痛だとの声もあり、作業に従事している禁錮受刑者が多いとお聞きしております。

 そこで、把握している最新のデータでは、どのくらいの禁錮受刑者が作業に従事しているのでしょうか。御答弁をお願いいたします。

佐伯政府参考人 お答え申し上げます。

 令和三年十二月末現在の数字でございますが、収容されておる禁錮受刑者百八名のうち、約八五%に当たります九十二名の方が作業に従事しております。

福重委員 ありがとうございました。

 次に、創設される予定の拘禁刑には、作業と指導があります。基本的なことをお伺いいたしますが、今回、改正法の刑法第十二条第三項に作業と指導を並べて規定することとした理由について御答弁をお願いいたします。

川原政府参考人 お答えいたします。

 拘禁刑は、これに処せられた者の改善更生、再犯防止を図るため、個々の受刑者の特性に応じ、作業と指導とをベストミックスして行うことができるようにするものであり、現に刑事施設においては、作業も指導も重要な処遇方法として位置づけられているところでございます。

 そこで、拘禁刑の規定におきまして、作業と指導については、いずれも改善更生を図るための重要な処遇方法として、特別予防のために課すものであることを明確にするため、改善更生を図るため、必要な作業を行わせ、又は必要な指導を行うことができることを明記することとしたものでございます。

福重委員 次に、受刑者について、改善更生及び円滑な社会復帰を図るため作業を行わせることが必要な場合であっても、作業を行わせることが相当でないと認めるときは作業を行わせないものとされておりますが、この相当でないと認めるときとはどのような場合でしょうか。現下の新型コロナウイルス感染症などで感染防止措置が必要な場合などを想定しているのでしょうか。御答弁をお願いいたします。

佐伯政府参考人 お答え申し上げます。

 改善更生及び円滑な社会復帰を図るために作業を行わせることが必要であると認められる場合であっても、他の事情によって作業、就業が難しい場合が想定されるところでございます。

 具体的には、例えば、御指摘のような新型コロナウイルス等の感染症に罹患したことにより、蔓延防止の観点から、他の受刑者とともに必要な作業を行わせることが難しい場合であるとか、あるいは、条約との関係で作業を課すことに配慮が必要な場合、こういったことが想定されるところでございます。

福重委員 次に、今回の改正は、受刑者の改善更生と円滑なる社会復帰に向けた支援が大きなポイントとなるわけでございますけれども、法制審議会からは、刑務作業と各種の指導とを併用してその目的を達成することが望ましいとの意見が出されたとお聞きしております。一方、再犯率の高い薬物犯罪や性犯罪の受刑者への指導時間の確保が厳しいと聞いております。

 この刑務作業と指導のバランスについてお伺いをいたします。

 犯罪により、あるいは受刑者の特性に応じ、刑務作業や指導が様々あるかと思いますが、例えば、週に刑務作業が何時間、指導は週に何時間等、基本的な決まりは現行制度であるのでしょうか。

 また、作業を行った受刑者には作業報奨金が支給されることになっておりますが、改正後は、指導時間を多く確保することにより、受刑者が出所時に受け取る報奨金の金額が下がる可能性があると思います。受刑者が出所時に受け取る金額は再犯防止に大きな関係があると思いますが、この場合、何らかの対策はあるのでしょうか。

 以上二点について、御答弁をお願いいたします。

佐伯政府参考人 お答えいたします。

 刑務作業及び矯正指導は、合算しまして、一日につき原則八時間を超えない範囲で実施することとしておりますが、一日における刑務作業及び矯正指導の時間の内訳については、特に定めはございません。

 ただ、刑務作業が刑の本質的要素であるという現在の懲役刑の下におきましては、その趣旨を損なわないよう運用しているところでございます。

 次に、作業報奨金の支給額が下がるのではないかというお尋ねでございますが、矯正指導をより充実させることによりまして作業時間が短くなる者につきましては、作業報奨金の支給額が少なくなる可能性があるということにつきましては、御指摘のとおりでございます。

 この点につきましては、刑事施設の長の責務として明確化されることとなっております社会復帰支援を的確に行うといったことであるとか、作業報奨金につきましても、適正な金額を支給できるよう更に努め、実効性のある再犯防止に取り組んでまいりたいと考えてございます。

福重委員 ありがとうございました。

 次に、今回の法律改正において、懲役、禁錮が廃止され、拘禁刑が創設されることは何度も述べましたけれども、同じ自由刑である拘留を据え置いた理由をお聞かせください。

川原政府参考人 お答え申し上げます。

 現行法上、拘留は、一日以上三十日未満、刑事施設に拘置するとされておりまして、拘留の受刑者には作業義務が課されていないところでございます。

 現行法上、拘留につきましては、刑の執行猶予の言渡しをすることができない、拘留又は科料のみに当たる罪については、特別の規定がなければ、没収を科することができないと規定されるなど、懲役、禁錮とは異なる取扱いがなされております。

 このように、拘留は、懲役、禁錮と異なる独自の意義を有するために、廃止せずに存置することとしているところでございます。

 その上で、拘留におきましても、改善更生、再犯防止を図るために、個々の受刑者の特性に応じた柔軟な処遇をできるようにすべきとの趣旨から、今申し上げた趣旨は、基本的に拘禁刑と同様に当てはまることから、拘留に処せられた者には、改善更生を図るため、必要な作業を行わせ、又は必要な指導を行うことができるとするものでございます。

福重委員 次に、拘禁刑には、作業と指導がございます。刑務作業は、先ほども述べましたが、木工、印刷、洋裁、金属、その他の作業があると思います。指導とは、犯した犯罪などに照らして必要な指導をすることと認識しております。

 薬物犯罪等は薬物依存からの離脱などを指導するのではないかと理解しておりますが、そのほかの犯罪も、様々ありますが、犯罪に照らし合わせたその指導内容について、幾つか具体的な例をお示しいただきたいと思います。また、指導については、本人の意向や希望は反映されるのでしょうか。お伺いをいたします。

佐伯政府参考人 お答え申し上げます。

 拘禁刑下において実施する改善指導につきましては、現行法下と同様、特定の事情の改善に資するよう特に配慮して行う指導といたしまして、薬物依存離脱指導、暴力団離脱指導、性犯罪再犯防止指導、被害者の視点を取り入れた教育、交通安全指導などを実施することとしてございます。

 これらの改善指導につきましては、従来から、受刑者の意思にかかわらず、改善指導及び円滑な社会復帰に必要となる指導を受けることを義務づけているところでございます。

 他方、改善指導の効果的な実施のためには、改善指導に対する本人の希望、意欲等を丁寧に聴取し、動機づけを高めるための働きかけを手厚く行うなど、これまで以上に効果的な改善指導の実施に努める必要があると考えてございます。

福重委員 次に、現在は、刑務作業の時間の確保に縛られてしまい、再犯防止に向けた教育プログラムや指導を受ける時間が限られてしまうとの課題もあると伺っております。

 この法律改正により、柔軟な対応が取れるようなことを願うものでありますけれども、一方、別の課題も浮かび上がってきております。それは、受刑者に対しての個別に処遇を行う範囲が拡大することで、刑務所ほか施設に従事する刑務官始め関係者の事務の負担が増えることが懸念されております。現在も、ケースワーカーや専門家、福祉や医療などの関係機関との連携を取られていると思いますが……

鈴木委員長 申合せの時間が経過しておりますので、御協力お願いします。

福重委員 はい、申し訳ございません。

 じゃ、また、我々の同一会派の者からこの問題についても質問させていただくことになると思いますけれども、どうかよろしくお願い申し上げます。

 以上で終わらせていただきます。ありがとうございました。

鈴木委員長 次に、藤岡隆雄君。

 速記を止めてください。

    〔速記中止〕

鈴木委員長 それでは、速記を起こしてください。

 次に、山田勝彦君。

山田(勝)委員 立憲民主党の山田勝彦でございます。本日もどうぞよろしくお願いいたします。

 侮辱罪の厳罰化について、大臣にお尋ねしていきたいと思っております。

 これまで様々な論点があり、本委員会においても多くの批判的な声が上がっています。この問題を象徴しているのが四月二十六日の参考人陳述ではないでしょうか。趙参考人と神津参考人のお二人から、侮辱罪の厳罰化では、インターネット上の誹謗中傷により深く傷つけられている被害者を救済することにならず、問題の解決にならない上に、表現の自由が制約を受ける重大な問題点があると指摘されました。

 また、今年の三月十七日には、日本弁護士連合会から古川法務大臣や衆議院議長など宛てに、次のような意見書が出されています。

 侮辱罪について、法定刑を引き上げ、懲役刑を導入することは、正当な論評を萎縮させ、表現の自由を脅かすものとして不適切であり、また、インターネット上の誹謗中傷への対策として的確なものとは言えないので、これに反対する。インターネット上の誹謗中傷による権利侵害への対策としては、プロバイダー責任制限法を改正し発信者情報開示の要件を緩和し、損害賠償額を適正化するなど、民事上の救済手段の一層の充実を図るべきである。

 古川大臣、まずは、これらの声に対し、現状、どのように受け止められておられるでしょうか。

古川国務大臣 御指摘の意見につきましては、いずれも承知をいたしておりまして、真摯に受け止めるべきことと存じます。

 その上で御説明を申し上げますと、今般の侮辱罪の法定刑の引上げにより、侮辱行為を抑止し、また、当罰性の高い悪質な侮辱行為に対して、これまでよりも厳正な対処を可能とすることが、インターネット上の誹謗中傷対策になるものと考えております。

 すなわち、今般の侮辱罪の法定刑の引上げにより、公然と人を侮辱する侮辱罪について、厳正に対処すべき犯罪であるという法的評価を示すことでこれを抑止する効果があるとともに、インターネット上で行われる当罰性の高い悪質な侮辱行為に対して、これまでよりも厳正に対処することが可能となります。

 一方、表現の自由は憲法で保障された極めて重要な権利であり、これを不当に制限することがあってはならないのは、これは当然のことでございます。

 法制審議会の部会におきましては、刑事法研究者も交えた議論の結果、侮辱罪の構成要件に変更はなく、処罰の対象となる行為は変わらない上、拘留、科料を存置することとしており、当罰性の低い行為を含めて、侮辱行為を一律に重く処罰することを趣旨とするものではない、現行法の下では、個別の規定はないものの、正当な表現行為は、侮辱罪に当たる場合であっても、刑法第三十五条により違法性が阻却され、処罰されないことが確認されたところであります。

 したがいまして、表現の自由に対する不当な制約を生ずるものではないと考えております。

山田(勝)委員 ありがとうございます。

 大臣は、これらの声に対して、真摯に受け止めていただくという御答弁をなされました。その上で、表現の自由も、あってはならないと力強くおっしゃっていただきました。

 その上で、再三、古川大臣が強調されている抑止効果、この抑止効果についても、じゃ、具体的にどれほど期待できるのかという私たちの質問に対し、いまだ明確な答弁がなされていないのも事実です。

 次に、現行の侮辱罪の効果についてです。

 令和二年、侮辱罪が成立した件数は僅か三十件でした。そもそも、この侮辱罪は、被害者が告訴しない限り、罰することはできません。

 では、同じく令和二年に、侮辱罪として被害者から警察へどれほど相談があったのでしょうか。警察庁に尋ねたところ、認知件数が九十五件、検挙件数が六十一件であると回答がありました。

 一年間でたった九十五件しか侮辱罪の相談が国民の皆様からあっていない。インターネットが急速に普及し、SNSが生活の一部になっている方々も多い現代社会において、インターネット上の誹謗中傷は日常的に行われています。これほど、驚くほど少ない件数であり、実際に、被害者の数と処罰対象者の数に相当な開きがあると言わざるを得ません。

 なぜ、侮辱罪として警察に上がってくる件数がこんなに少ないのでしょうか。

大賀政府参考人 委員御指摘のとおり、令和二年の侮辱罪の認知件数、九十五件でございました。

 警察においては、被害の届出を受理するなどしたものを、統計上、認知件数として計上しているところでございまして、誹謗中傷があった全てのものを、統計上、把握しているというものではございません。

山田(勝)委員 つまり、相当な方々が誹謗中傷で心を傷つけられているにもかかわらず、全く把握できていない、そして、本当に僅か僅か僅か九十五件しか警察庁に相談が上がっていない現状の侮辱罪であるということがまた改めて明確になりました。時代の変化にこの法整備が対応できていないのは明確です。

 私たちは、現行法では救済し切れない多くの国民の皆様をインターネット上の誹謗中傷から救済するための具体的な対案を提出しています。今回の法改正、侮辱罪を単に厳罰化するだけでは救済範囲は広がらないとこれまでの答弁がなされています。本当にそれでいいのでしょうか。

 本国会は子供国会とも呼ばれ、今まさに、児童福祉法の改正案やこども家庭庁の設置法案に対する審議が活発に行われています。

 深刻なのは、SNSによる子供のいじめの問題です。子供の不登校や自殺者が、過去最多を更新し続けております。そして、パソコンやスマホを使ったいじめは急増しています。子供を守るのは大人の責任です。それにかかわらず、例えば、グループLINE等による誹謗中傷に対しても、今回の厳罰化、単なる厳罰化では十分に適用できない、この大変な社会問題に対して何ら手だてがされない状態です。一体、誰のための、何のための法改正なのか。

 大臣、この法改正、救済範囲を広げる内容に修正すべきではないでしょうか。

古川国務大臣 そもそも、インターネット上の誹謗中傷は、公然と行われると過激な書き込みが次々と誘発されていって、多数の者からの誹謗中傷の内容がエスカレートして、非常に先鋭化することがあるという特徴を有しておりまして、こうした状況に至れば、他人の名誉を侵害する程度が特に大きく、抑止の必要性が高いということになります。

 今般の法整備におきましては、侮辱罪の構成要件を変更しておらず、処罰対象となる行為の範囲は変わりませんが、法定刑の引上げにより、侮辱行為を抑止し、また、当罰性の高い悪質な侮辱行為に対して、これまでよりも厳正な対処を可能とすることが、インターネット上の誹謗中傷対策になると考えています。

 すなわち、今般の侮辱罪の法定刑の引上げにより、公然と人を侮辱する侮辱罪について、厳正に対処すべき犯罪であるという法的評価を示すことでこれを抑止する効果があるとともに、インターネット上で行われる当罰性の高い悪質な侮辱行為に対して、これまでよりも厳正に対処することが可能となります。

 インターネット上で行われる悪質な侮辱行為は、時に人を死に追いやる、あってはならない行為であって、法定刑の引上げによる抑止と厳正な対処によって、悪質な侮辱行為の根絶を図ることが重要と考えております。

 また、処罰対象とならない事案であっても、被害に遭われた方からの人権相談への対応など、行政的な諸施策を推進していくことが重要であるというふうに考えております。

山田(勝)委員 ありがとうございます。

 大臣から、悪質な侮辱罪、誹謗中傷には厳正に対応していくと力強いメッセージをいただきました。ただ、またしても曖昧な抑止効果のみが強調されていた印象です。本当に残念です。

 趙参考人がこの場で述べられたように、SNS上におけるダイレクトメッセージであったり、数人のクローズドな空間、SNS上のクローズドな空間における誹謗中傷というのは深刻な問題であり、またこれは被害者の方の心を深く傷つけます。そして、木村参考人も、インターネット上の誹謗中傷に対応する新たな法の必要性について述べられていました。今、時代の変化に対応するため、まさに政治決断が問われています。

 大臣、もう一度お尋ねいたします。

 今後、誹謗中傷に対する救済の範囲を広げる、そういったことを検討するお考えはあられないのでしょうか。

古川国務大臣 様々、世の中に生じている誹謗中傷や、それによって巻き起こされる様々な被害、これは様々なことがあるのだと思います。何か一つの法改正によってこれを全て一〇〇%、一挙解決、救済するということは、これは現実世界においてはあり得ないことでございます。

 しかし、私どもは、今回の法改正によりまして、先ほども御説明申し上げましたとおり、侮辱行為を抑止し、そして、これまでよりも厳正な対処を可能とする方向での法改正を通じまして、インターネット上の誹謗中傷対策を打ちたいということを考えております。

 そして、同時に、その対象とならない、処罰対象として捉えられないような事案であっても、被害に遭われた方からの人権相談への対応など、様々な行政的な施策を通じて、委員御懸念の課題を解決するべく取り組んでいくということでございます。

山田(勝)委員 ということは、現状、お答えが繰り返されている、人権相談への対応をもって広く救済していく。しかし、実際のところ、それでは救済不十分と言わざるを得ません。従来どおりの公然性があくまで条件であり続ける以上、取り締まれる対象は限定されたままです。それでは、大臣が再三、強調し、おっしゃっている抑止効果自体も、限定的にしか働きません。つまり、クローズドな空間においてこのまま野放しであり続け、これでは決して、今の時代のインターネットで被害に苦しむ方々を救済に至らない、問題解決に至らないということを強く御指摘させていただきます。

 次に、被害に遭われた方の自己負担の問題です。

 四月二十七日の当委員会質疑で、階委員から、発信者情報を突き止めるのは、一般私人にとって、特にお金を余り持っていない人にとって大変であり、そのような負担を警察で行うことができないのかという問いに対し、二之湯大臣は、大変な費用がかかることも聞いている、警察としてどういうことができるか、これから検討すると明確に答弁されました。

 被害者の方の負担軽減を検討するとお答えになられましたが、具体的にはどのような救済内容を考えていられるのでしょうか。

大賀政府参考人 警察では、現在でも、被害者の方からインターネット上の誹謗中傷に関する事件について告訴等があったときには、発信者を特定するための様々な捜査を行っているところでございます。

 その過程で、例えば、捜査の対象が国外にあるため日本警察の捜査権が及ばない、そういった場合など、発信者の特定が警察の捜査では困難なケースもございます。そういう場合では、大変心苦しいところもあるわけでございますが、被害者の方に民事的な手続で御協力をしていただくということもあるということでございます。

 しかしながら、可能な限り警察が発信者を特定できるよう捜査を尽くすということで、被害者の御負担を少しでも軽減できるように努めていきたいと考えているところでございます。

 引き続き、警察としては、被害者の心情に配意しながら、適切な対応が取れるように心がけていきたいと考えております。

山田(勝)委員 ありがとうございます。

 警察もできる限り、インターネット上の被害者を救済していく、加害者を特定するための捜査を行っていくというお答えでした。

 誹謗中傷を行った加害者である発信者をなかなか特定ができない、先ほど答弁にもあったとおり、これが大変な御負担になっている、課題となっている。この問題が放置され続けてきたことで、これまで、被害に遭って、訴えたくても訴えられず、相当な数の被害者の方々が泣き寝入りしてきたのではないでしょうか。

 インターネット上の誹謗中傷による心の傷に寄り添い、声を上げやすい環境を整え、認知件数を高めていくには、現行のプロバイダー法を改正し、発信者情報の開示要件を緩和する必要があるのではないでしょうか。大臣、お答えください。

古川国務大臣 インターネット上の誹謗中傷に対しては、法務省としても、侮辱罪の法定刑の引上げだけでなく、人権擁護機関による削除要請や人権啓発活動など、各種の取組を実施しているところでございます。

 お尋ねのプロバイダー責任制限法につきましては、令和三年四月、発信者情報の開示に関する新たな裁判手続の創設、開示請求を行うことができる範囲の見直しなどを内容とする改正法が成立、公布されていると承知いたしておりますが、更なる改正の要否につきましては、法務省において同法を所管しておりませんので、責任を持ってお答えいたしかねるということを是非御理解をいただきたいと存じます。

山田(勝)委員 続いて、今回の法改正の最大の懸念点についてです。

 国民の皆様が、憲法で保障されている表現の自由が侵害される民主主義の危機についてどのように考えるのか、神津参考人はこのように述べられました。権力者の恣意的な批判封じ込めに即使われるとまでは申しません、しかし、時間がたてば分かりません、時代が変化し、もしも国民の民主主義的な思考習慣が今以上に弱まっていってしまうと、時の権力者がこの条文を悪用する可能性は否定できないのではないでしょうか。

 古川大臣にお尋ねします。

 大臣は、幾度となく、それはないと力強く言っていただいています。私もそうだと思います。古川大臣の時代にはまずないでしょう。しかし、未来永劫、国民の表現の自由が守られ、国家権力による言論弾圧がないと、本当に今回の改正内容で言い切れるのでしょうか。お答えください。

古川国務大臣 今般の法整備は、侮辱罪の構成要件を変更するものではなく、処罰の対象となる行為の範囲、すなわち、侮辱罪が成立する行為の範囲は変わりません。また、拘留、科料を存置することとしておりまして、当罰性の低い行為を含めて、侮辱行為を一律に重く処罰することを趣旨とするものではありません。

 その上で、法定刑が引き上げられた場合の運用については、捜査機関や裁判所において、刑事訴訟法等の規定に従い、証拠に基づいて行われるものであり、法制審議会の部会におきましては、捜査、訴追を行う警察、検察の委員から、これまでも表現の自由に配慮しつつ対応してきたところであり、この点については今般の法定刑の引上げにより変わることはないとの考え方が示されたところでございます。

 したがいまして、今般の侮辱罪の法定刑の引上げによって、表現の自由が不当に侵害されるものでも、言論の弾圧につながるものでもないと考えております。

山田(勝)委員 趙参考人は、また、このようにこの問題を指摘されています。これまでの歴史の中でも、侮辱罪、侮辱の名をかりた表現行為に対する制限、制約がなされてきた、このことは過去の歴史が物語っています。

鈴木委員長 申合せの時間が過ぎておりますので、御協力お願いいたします。

山田(勝)委員 はい。

 これは、核心をついています。このままでは、大変危険な法律を次の世代へと引き継ぐことになります。悪用されないとは言い切れないと主張をさせていただいて、私の質疑を終わります。

 ありがとうございました。

鈴木委員長 次に、米山隆一君。

米山委員 それでは、立憲・無所属会派を代表して御質問させていただきます。

 今ほどの山田委員からの質問の中で、侮辱罪認知件数、一年間で九十五件ほど、検挙件数六十一件ということがございました。

 二之湯国家公安委員長にお尋ねしますけれども、告訴状の受理件数、これは年間何件でございましょうか。

二之湯国務大臣 お答えいたします。

 侮辱罪の告訴を受理した件数は把握しておりませんけれども、警察で把握している侮辱罪の認知件数及び検挙件数について、直近五年の数値を申し上げますと、令和三年、認知件数百三十四件、検挙件数九十八件、令和二年、認知件数九十五件、検挙件数六十一件、令和元年、認知件数八十八件、検挙件数七十五件、平成三十年、認知件数百二件、検挙件数六十八件、平成二十九年、認知件数百件、検挙件数六十七件となっております。

米山委員 それでは、認知件数でも結構なんですけれども、認知件数、検挙件数、それはこの侮辱罪厳罰化法案が成立した後、増えるとお考えでしょうか、それとも減るとお考えでしょうか、根拠とともにお示しください。また、何にも想定していないということでしたら、その旨もお答えください。

二之湯国務大臣 今回の法改正を受けまして侮辱罪の告訴件数がどう変化するかとのお尋ねでございますけれども、法定刑の引上げに伴う抑止効果によりまして件数が減少することも考えられる一方、近年のSNSの急速な発達、さらに、公訴時効の延長などにより、件数が増加することも考えられます。

 こうしたことに加え、一般的に、犯罪が増えるか否かについては、社会情勢、経済情勢、その他様々な要素が複雑に絡んでくるものでもございまして、件数の増減について一概に申し上げるということは困難と考えます。

 いずれにいたしましても、被害の届出があったときに被害者の心情にも配慮した適切な対応をなされるよう警察庁を指導してまいりたい、このように思っております。

米山委員 そうしますと、要は全く分からないということだと思うんですけれども、かつ、この受理した告訴状、大体どのぐらいの期間で処理されると考えていらっしゃるんですか。

二之湯国務大臣 一般的に、警察に対して告訴された事件につきましては、様々なものがありますから、その処理期間について一概に申し上げることは困難でございます。

 いずれにいたしましても、都道府県警察においては、告訴を受理した事件について、その内容を把握した上で、組織的に進捗状況等についてきめ細やかに管理して、早期の処理に努めるものと聞いております。

米山委員 そうしますと、また質問ですけれども、侮辱罪の処罰例、先般の質問でも法制審議会での例などが鎌田委員から出されておりますし、今ほどの葉梨委員からの御質問でも、そういったものをきちんとやってくださいというお話があったんですが、これからはともかくとして、現時点で、警察の現場にこういった処罰例、処罰の基準、そういったものは周知されておりますでしょうか。お答えください。

二之湯国務大臣 警察庁として、処罰例や参考事例集のようなものは作成はしておりませんが、都道府県警察において、一般的な侮辱罪の構成要件等については、様々な機会を捉え、研修がなされているものと聞いております。

米山委員 二之湯国家公安委員長のお手元にも私の配付資料があるかと思うんですけれども、この一ページ、二ページ、三ページ、これは実は、私の事例を、私自身の起こった事例について、これが侮辱罪に該当するかどうか、幾ら質問してもお答えいただけなかったので、私、もう告訴状を出してまいりました。受理されました、受理されたんです。

 ところが、その場において、警察官、全くとんちんかんで、分からないという、非常に受理は嫌そうでしたね。私が、鎌田さんが出したあの事例集を出して、ほら、こんなのがあると。これ何ですかと言われて、こうこうこういうものですと言われて初めて、やっと受理しました。しかも、受理した後にも、いや、もう警察は忙しいから、なかなかこれ、進まないんだよ、そんなの進まないからね、進まないからねと何度も何度も言われました。

 今の国家公安委員長のお答えどおりに、いや、何にも想定していません、特段の何も、基準も、これからどうするわけでもありません、それは明らかに私はパンクすると思いますよ。だって、これで、今ほど葉梨委員からもありましたけれども、これは周知されますから、皆さん出しますよ。だって、告訴状、たった三枚、これを出せば告訴できるんですから。それに対してどのような措置を取られるおつもりなんでしょうか。

 まず、警察官は増やすつもりなのか、それから、きちんと基準を出すつもりなのか、出すつもりでしたら、どのような手順でどのような基準を出すつもりなのか、それを具体的にお答えください。

大賀政府参考人 先ほど大臣から答弁がございましたように、改正が成立した場合に告訴が増加するか減少するか、これはなかなか一概に申し上げることは困難でございますけれども、警察としては、被害者の心情に配意して、必要な体制が取れるようにしっかりと検討し、そのように都道府県警察にも指導したい、このように考えております。

 また、特定の行為が侮辱罪に当たるかどうかということにつきましては、個別の事案の具体的な事実関係について、把握した証拠に基づいて判断されるべきものと考えておりますので、なかなか、お尋ねのような基準を定めてこれを周知するということは困難ではございますが、改正法が成立した場合には、都道府県警察に対しまして、例えば侮辱罪で有罪判決が確定した事例を周知するといったことを含めまして、法改正の趣旨などを適切に都道府県警察の現場に周知するように努めてまいりたいと考えております。

米山委員 時間が短いのでもう押し問答をしませんけれども、結局、何も対応を事前にはしないということなんですよね。それは非常に現場は混乱すると思いますよ。しかも、私、政治家ですけれども、政治家に対する誹謗中傷に対してきちんと受理されるわけですからね。今までこれは注目されていなかったからなかっただけで、幾らでもできることになるわけですから、それをせめてきちんと基準をつくって、そして体制をつくっておくというのが、法案を通すとき、私は当然だと思うんですが、それをされないで、しかもこういう答弁を繰り返されることには非常に残念な気持ちです。

 もう時間がないので次の質問に行きますけれども、古川大臣、前回も質問したところでございますが、例えば、私が、総理はうそつきで顔を見るのも嫌だ、早く辞めればいいのにと言った場合、うそつきという侮辱的表現を含むのだと思いますが、この発言は侮辱罪に該当し処罰されるのか、伺います。また、これが私でなく、作家である私の妻がコラムに書いた場合、さらには、新潟県魚沼市で精肉店を営む私の母が、買物に来たお客さんに言った場合、侮辱罪に該当するか、それぞれ法的根拠とともに御回答ください。

古川国務大臣 お答えいたします。

 ただいま委員から、例示、二、三の例を引かれまして、それを前提に犯罪の成否ということについてお尋ねがあったわけでございますけれども、犯罪の成否は、個別具体的な事案に応じて、収集された証拠に基づいて、捜査機関や裁判所により判断されるべき事柄であります。

 法務省は、捜査機関でもなく、また裁判所でもございません。個別具体的な事実関係を前提にして犯罪の成否を論ずる立場にはないわけでございます。それにもかかわらず、検察に関することを所管する法務省におきまして、仮に犯罪の成否を論じた場合には、検察を含む捜査機関や裁判所に対して不当な影響を与えるおそれがあるばかりか、社会一般に対しまして誤解を招くなどの弊害が生じ得るということがございます。

 ゆえに、これまでも、こういう具体的な例を引いて、犯罪の成否についてこの委員会でも累次にわたってお尋ねがありましたけれども、そのたびごとに、具体的な事例における犯罪の成否は一概にお答えすることは困難ですというふうな答弁をさせていただいておりました。その点は御理解をいただきたいと思います。

 その上で、一般論として申し上げますと、侮辱罪は、事実を摘示せずに公然と人を侮辱した場合、すなわち、不特定又は多数人が認識できる状態で他人に対する軽蔑の表示を行った場合に構成要件に該当することとなりますが、刑法第三十五条の正当行為、すなわち、社会生活上正当なものとして許容される行為に該当するときは、違法性が阻却され、処罰されないこととなります。御存じのとおりです。そして、その判断に当たっては、例えば、発言の趣旨、目的、発言がなされた状況などの様々な事情が考慮されることになるものと承知をいたしております。

米山委員 相変わらずの、個別の事案にはお答えしないということでしたが、またもう一度個別の事案をお伺いしますけれども、組織犯罪処罰法六条の二、ちょっと関係ない法律ですが、一応最後は関係あるので答えていただきたいんですが、組織犯罪処罰法六条の二というのがございまして、いわゆる共謀罪を規定しておりますけれども、例えば、居酒屋で居合わせた三人が衆議院議員米山隆一を殺そうということで意気投合した場合、これは共謀罪で処罰されますでしょうか。長い御答弁は不要ですので、個別の事案には答えられないなら個別の事案に答えられないで、そのようにお答えください。

古川国務大臣 今委員が引かれましたその例ですけれども、これは、テロ等準備罪が新設されたとき、条文の文言の意義ですとか処罰範囲を明確にするために、その文言や要件を立案した趣旨として、例えば今お引きになったような事例を、その法案の審議過程、当時、そういうものをお示ししたことがある、そういう事例だったかと思います。

 他方で、この事例は、新設時においての説明、条文の文言の意義や処罰範囲を明確にするために趣旨としてお示しした、そのための例示でございました。

 ただ、先ほども申しましたように、個別の事案についての犯罪の成否についてコメントしないというのは、これは既存の罰則について。既存の罰則について、個別具体的な事実関係を前提として犯罪の成否を問うということになるわけでありますから、その意味では、今委員が引かれた、テロ等準備罪を新設するに当たってその趣旨をお示しするために示した例示というものとは、本来意味合いが違ってくるものというふうに存じます。

米山委員 そうしますと、今ほどの例示、私の配った資料の五ページの下から四行目にございますね。したがって、単に漠然と相談や居酒屋で意気投合した程度では共謀罪は成立しませんという、個別具体的な事案についてこれは書いているんですよ。

 それについて、大臣、今までの答弁と多分矛盾すると思われたから、これは新しい犯罪だから言ったんだ、新しくない犯罪は言えないんだ、そういう御答弁をされたと思うんですけれども、そうすると、これはホームページに記載されているんです。これはもう新しくないんです。新しくないでしょう、もうできているんですから。何でこれをホームページに記載できるんですか。だって、大臣、これは司法判断に影響を与えると言いましたよね。与えているじゃないですか。これは削除されるんですか、維持されるんですか。お答えください、理由とともに。

古川国務大臣 お答えいたします。

 罰則の新設や処罰範囲の変更に当たりましては、国会審議の場や法務省のウェブサイト等におきまして犯罪の成否についてお示しすることがあります。これは、新設、改正する条文の文言の意義ですとか処罰範囲を明確にするために、その文言や要件を立案した趣旨としてお示しをするものであって、既存の罰則について、個別具体的な事実関係を前提として犯罪の成否を回答するということとは異なるものと思っております。

 それはなぜかといいますと、先ほども申しましたけれども、罰則の新設や処罰範囲の変更を内容とする法律が施行されますと、刑事実務におきましては新たな罰則の適用に関する判断が蓄積されていくこととなるわけです。それらの判断は個別具体的な事実関係を前提としたものであって、細かな事実関係の違いによって結論が異なることがあり得る上に、法務省がそうした判断の全てを把握しているわけではありません。

 それにもかかわらず、法務省が細かな事実関係を捨象して、現に施行されている罰則の適用に言及をすると、実際には適用された事例があるにもかかわらず適用が困難であるとの見解を示すこととなったり、逆に、実際には適用困難との判断がなされた事例が積み重なっているにもかかわらず適用可能であるとの見解を示すこととなるといった事態が生じ、そして、捜査機関や裁判所に不当な影響を与えるおそれがあるだけでなく、国民の間にも誤解を生ずるおそれがある、こういうことを懸念するがゆえにコメントは差し控えさせていただくということでございます。

 それと、繰り返しになりますけれども、新設のものとはまた趣旨が違いますのでということを先ほど来申し上げております。

米山委員 その苦しい言い訳は非常に残念なんですけれども、そうしましたら、既存の法律はホームページにあるんですから、既存の法律の、ホームページ、だからこれは削除しなきゃいけないでしょう。削除しないんですか。削除するんですよね、そうしたら。これはもう答えなくていいんですけれども、また同じ答えを言われて非常に時間がかかってしまうのでいいんですけれども。

 再三私が申し上げているのは、ちゃんと今までの答弁でも、新しい法律を作ったら、それに対して処罰事例をちゃんと答弁しているんですよ、いろいろな犯罪で。こういうふうにホームページにも載せているんです。それは当たり前なんですよ。だって、そうしないと分かりませんから。

 侮辱罪は違う違う、処罰範囲しか、違わないと言いますけれども、今ほど私が言ったように、どんどんこれから新しい告訴状が出てくるんです。それに対してきちんとした基準を言わないというのは、それは本当に責任放棄です。

 しかも、今言った、新設の法案若しくは処罰範囲が変わるものだけに示せばよくて、既存のものはもう、でも、法定刑は変えるんですよ、法定刑を変えるのに、決めなくていいなんというのは、たった今古川大臣がひねり出した理屈にすぎないんですよ。別に今まで国会の中でそんな慣例があったわけでも何でもない。それはもう、じゃ、今後、いろいろな法律を作るときに、ともかく、もし罰条を変えるだけだったら一切事案には答えなくていい、そういう前例を残してしまうんです。

 古川大臣、いつも非常に志の高いことをおっしゃられますけれども、古川大臣、このままいかれましたら、法治主義を壊した大臣として歴史に名を残しますよ。犯罪の、刑罰を変えたときには、その処罰の対応するしないは一切答えなくていいという前例をつくってしまうんですよ。それはやめていただきたい。

 きちんと前例を、この例が当たるのか当たらないのか、別にそれは確定判決じゃないですよ、こういう仮定的な例に対して、当たるのか当たらないのか、ちゃんと示す。それを示さなかったら、警察だって大混乱するんです、私みたいな人がどんどん告訴状を出すんだから。

 是非それを示していただきたいので、それを示す意思があるのかないのか、もう一度お伺いします。

古川国務大臣 お答えしますその前に、先ほどのホームページの記載は、立法時の趣旨、それが、定義としてお示ししたものでございます。現在もそのような趣旨でお示しをしているというものでございます。

 それから、ただいまの委員の御質問でございますけれども、今般の法整備は、現行法上存在する侮辱罪について法定刑を引き上げるものでありまして、もとより構成要件は変更しておらず、処罰対象となる行為の対象は変わりません。したがいまして、今般の法整備によって、これまで侮辱罪で処罰できなかった行為が新たに処罰できるようになるものではございません。

 罰則を新設したテロ等準備罪の際の、それで、具体的な、何か目印になるようなものが必要ではないかという委員の御指摘ですね。私は表現の自由は非常に極めて重要なものだと思いますから、その意味でも、表現の自由を毀損することになるのではないかという御懸念は私はもっともだと思いますし、それに対しては、その懸念はありませんということを私どもはきっちり御説明する必要があるというふうに思いますから、その意味では、何らかのそのような、材料と申しますか、というものはやはり大事なことだというふうに思っております。

 法制審議会の部会におきましては、今回の法案の要綱をまとめる議論の過程の中で、過去に裁判所において侮辱罪の成立が認められた事案の概要などをまとめた事例集を資料として配付をいたしました。そのほか、侮辱罪の成立が認められた複数の事例を口頭で紹介したということもございましたようでございます。それぞれ、その内容につきましては、侮辱罪の事例集、あるいは議事録として法務省のウェブサイトに掲載をしているところです。

 こういうことも、いわば基準と申しますか、分かりやすい周知のために、一つの参考材料になるものというふうに考えております。

 繰り返しになりますが、表現の自由というものは非常に大事な価値だと思っておりまして、それを懸念をするという御意見は、私は、もっともな御意見であり、それに対しては真摯に受け止めているところでございます。

米山委員 では、その基準を是非、法案成立の前にお示しいただいて、まず警察職員に示す基準と一般の方に示す基準をお示しいただいて、それを是非審議させていただいた上で、成立するしないを判断させていただければと思います。

 私の質問は終わりです。

鈴木委員長 次に、階猛君。

階委員 立憲民主党の階猛です。

 米山さん、質問が終わったばかりで恐縮なんですが、早速質問させていただければと思います。

 これまでの審議で、侮辱罪の実行行為である侮辱という文言は他人に対する軽蔑の表示だということ、そして、名誉毀損罪と侮辱罪の違いは事実の摘示があるかないかだということが政府から繰り返し答弁されてきました。

 このことを前提としまして、私の方で、ちょっと法令集なども参考にして、政府案と立憲民主党案の違いを図にしてみました。こちらに掲げているパネル、政府案と書いているパネルが政府案の方ですが、この黄色の部分が今回の改正で変わるところであります。さらに、もう一つのパネル、立憲民主党案というパネル、これについては、やはり黄色の部分が変わったところであります。

 このパネルを参考にもしていただきながら、政府案より立憲民主党案の方が優れていると考える理由を、インターネットでこの中継を見ている人にも分かりやすく、かつ簡潔に、米山さんから答弁をお願いします。

米山議員 それでは、御答弁いたします。

 優れている点、多数あると思うんですけれども、まず、今ほど処罰範囲の御質問ですので、それに対してお答えいたします。

 加害目的誹謗等罪では、人の内面の人格を傷つける危険性があるにもかかわらず政府案では犯罪とならない誹謗中傷を処罰することができます。

 政府案というのは、実は、事実の摘示も軽蔑の表示もない場合、黄色いところですよね、単なる事実を摘示する場合で、他人に対する軽蔑の表示がないときというのは、侮辱罪が成立しません。したがいまして、こういった行為、誹謗中傷と言えるような行為であっても、これは処罰対象にならずに放置されてしまうということになります。

 これに対して立憲案は、誹謗中傷行為を正面から処罰しようとしておりますので、こういった行為でも、それが人の内面の人格を傷つけるようなものであれば、それは処罰範囲となります。

 一方で、立憲案の方は、これに加害目的を要件としていますので、加害目的があるないということで処罰範囲が不当に広がることを防いでおります。また、人の内面の人格に対する加害の目的ということで、誹謗中傷も人の内面の人格を害する程度のもの、それは人を傷つける程度のものということで、やはり、言葉による一定の、文言による一定の基準というものがございます。

 このように、立憲案は、SNS、インターネット上の誹謗中傷をきちんと処罰しながら、しかし言論の自由を萎縮させないという明確な基準のある法案であるということで、政府案よりも優れていると考えております。

階委員 他人に対する軽蔑の表示がない場合であっても処罰が必要な場合があるというのは、おっしゃるとおりであると私は思います。誰々さんは死ねばいいのにとか、誰々総理は早く辞めればいいのにというのは、決してその人に向けられた表現ではなくて、まさに、つぶやき、ツイートのようなものです。こういったものについても、これが積もり積もれば大変なダメージを与えるということで、加害目的があれば処罰対象にすべきであろう。

 ただ一方で、処罰が非常に重くなると、先ほど来出ておりますような、現行犯逮捕が可能であったりといったような弊害が出てくるわけです。

 そこで、ここからは国家公安委員長にお尋ねしますが、前回の私の質疑で、政府案が通れば、侮辱罪による現行犯逮捕は容易になるだろうということを前提とした上で、表現の自由の萎縮を招かぬよう、警察が現行犯逮捕を行う場合の基準を設けるべきだというふうに主張しました。これに対して二之湯大臣からは、後日、しっかりと精査して回答させていただきたいという答弁がありました。

 そこで、改めて答弁をお願いします。

二之湯国務大臣 被疑者を現行犯逮捕するかどうかにつきましては、一般的に、警察におきまして、基本的な人権に配慮しつつ、個別の事案の具体的な事実関係に即して、法と証拠に基づき判断がなされているものと考えており、あらゆるケースを想定した基準を示すことは困難であるということを、ひとつ委員御理解をいただきたいと思います。

 その上で、捜査は一般に任意捜査が原則でありますが、侮辱罪に関しては、現行犯人を認めた場合であっても、現行犯として逮捕するかどうかについては、表現の自由の重要性に配慮しつつ、より慎重な運用を期すべきと考えており、この対応に変わるところはございません。

 改正法の成立後、このようなことについて警察庁から各都道府県に対し周知徹底していくよう指導してまいりたいと思っております。

階委員 結局、明確な基準はなくて、これまでと同じようにやっていくという口約束だけなんですよ。

 前回も言いましたけれども、決して、二之湯大臣のように良識ある人たちだけが権力者の地位にあるとは限りませんからね。将来とんでもない人が出てきたときに、この法改正を悪用されかねないということを危惧しているわけです。だから担保が必要なんですよ。だから基準が必要なんですよ。それを示してくれということを、前回も相当やり取りしましたよね。全く進歩がないじゃないですか、前回の答弁から。予測可能性を示せと言っているんだけれども、今もやはり、適切に判断するということで、何の予測可能性も担保されないじゃないですか。予測可能性があるような基準を言ってくださいよ。もう一度お願いします。

    〔委員長退席、熊田委員長代理着席〕

二之湯国務大臣 言論の自由あるいは表現の自由は憲法で保障された極めて重要な権利でございまして、これを不当に制限することがあってはならないのは当然でございます。

 被疑者を現行犯逮捕するかどうかについては、一般的に、警察において、基本的な人権に配慮しつつ、個別の事案の具体的な事実関係に即して、法と証拠に基づき判断がなされているものと考えております。

 その上で、捜査は一般に任意捜査が原則でありますが、侮辱罪については、表現の自由の重要性に鑑みれば、逮捕に当たってはより慎重な運用を期すべきものと考えております。

階委員 何ですか、より慎重って。より慎重って、人によって変わるでしょう。どこまでいったら、より慎重になるんですか。誰が判断するかによって、より慎重なんというのは何の基準にもならないですよ。客観的でも何でもないですよ。そんな主観的で抽象的な基準ではなくて、より具体的で客観的な基準を示さないと、予測可能性はないんですよ。

 それを言ってくれと前回言って、大臣も、しっかり精査してと、回答すると言っているわけでしょう。何の精査をしたんですか。どこを精査したんですか。何も進歩がないですよ。こんなんじゃ駄目ですよ。まともな答弁をしてくださいよ。

 具体的かつ客観的な基準を示してください。お願いします。

二之湯国務大臣 犯罪の態様は様々でございまして、侮辱罪に限らず、あらゆるケースを想定して基準を示すことは……(階委員「侮辱罪の話を聞いているんだ」と呼ぶ)まあ、侮辱罪に限らず、あらゆるケースを想定して示すことはなかなか困難である、このように考えております。

階委員 つまり、具体的かつ客観的な基準を示せないということは、人によりけり、判断する人によりけり、判断が分かれる可能性もあるということだと思うんですが、これで判断の統一性は担保されるんでしょうか。より慎重に判断すると言っているだけで、判断がちゃんと統一されるんでしょうか。それは、大臣、どう思いますか。

二之湯国務大臣 再三申し上げていますように、侮辱罪につきましては、各都道府県警察において、表現の自由の重要性というものをそれぞれが認識して、捜査に当たるといいますか、運用に当たるということでございまして、なかなか明確な基準を示すということは難しいということです。

階委員 もう一回聞きますよ。それぞれが判断すると今おっしゃいましたけれども、それぞれ判断したら、ばらばらになるでしょう。それがまずいということを言っているんですよ。だから、誰が判断してもぶれがないように、明確で具体的で客観的な基準を示すべきだと言っているんですよ。

 しっかり精査して答えるんでしょう。答えてくださいよ。もう一回だけ聞きますよ。ちゃんと答えてください。

二之湯国務大臣 再三私が申し上げますように、憲法の基本的人権を尊重しつつ、言論の自由、表現の自由というものを前提に、警察において組織的に、こうしたことも踏まえて、こうしたことは慎重に、法と証拠に基づいて運用を図っていくべきだということで、個々の警察官の判断によってああだこうだということはないわけでございます。(階委員「さっきとずれているよ。ちょっとおかしい。さっきと答弁が違う。さっき、それぞれと言っているんだから。矛盾していますよ。矛盾しているよ。さっき、それぞれと言ったんだから」と呼ぶ)

 先ほど私がそれぞれと申しましたことについては訂正をさせていただきます。警察全体として、この問題について、先ほどの、憲法の基本的人権を尊重し、言論、表現の自由を尊重しながら事に対処するということでございます。

階委員 そんなに簡単に訂正されても困るんですけれども。でも、逆に、組織的にと今おっしゃったんだから、組織的にやるんだったら、明確で具体的で客観的な基準は出さないと、組織的に対応できないですよね。

 大臣、そこはお認めになりますよね。お答えください。

二之湯国務大臣 この法律が成立した場合には、各都道府県に対しまして、例えば侮辱罪で有罪判決が確定した事例を周知することも含め、法改正の趣旨等を適切に周知するよう警察庁を指導してまいりたい、このように思っております。

階委員 具体例を示されると今おっしゃいましたね。じゃ、ここで示してくださいよ。

 じゃ、私が街頭演説で、あるいは一般人がデモやそういう場で、安倍総理はうそつきだと言い放った場合、これは現行犯逮捕されますか。

二之湯国務大臣 これは、もちろんそんなことはあり得ないわけでしょう、逮捕することは。(階委員「逮捕はあり得ない」と呼ぶ)あり得ないと、私は、私自身は思いますよ。

階委員 なぜですか。

二之湯国務大臣 それは、言論の自由、表現の自由が保障されているからです。

階委員 さっき示したこのパネル、事実の摘示がなくて、他人に対する軽蔑の表示がある場合ですよ、その場合は、この黄色の部分で、今回の政府案では現行犯逮捕が原則できちゃうんですよ。なぜできないんですか。

 正当な言論って、どこに法的な根拠があるんですか。明らかに他人に対する軽蔑の表示ですよね。事実の摘示はないんですよ。その場合、表現の自由の保護規定も適用されないんですよ。

 どうしてこれが逮捕されないと言い切れるんですか。現行犯逮捕されないと言い切れるんですか。お答えください。

二之湯国務大臣 そういう政治家に対するやじ等は現行犯逮捕にはなじまないと法務大臣が答弁をしたことを私も承知しておりますから、そのように私も考えておるわけでございます。

階委員 なじまないってどういうことですか。なじまないというのは、できないとは違いますよね。さっき、大臣、できないと言ったから、できないんだったらその理由を述べよ、法的な根拠を述べよと言っているんですよ。なじまないというのは、できるけれどもやらないという話で、全然違いますからね、できないということとは。

 できないとおっしゃったんだから、できないんだったらその根拠をちゃんと示してくださいよ。

二之湯国務大臣 度々私申し上げていますように、表現の自由そして言論の自由は最大に尊重されなければならないという立場からこのように申し上げております。

階委員 同じことの繰り返しなんですよ。ただ、法律上はできることになっているじゃないですか。法律上できることになっているけれども、どこに表現の自由を尊重して現行犯逮捕できないと書いているんでしょうか。書いていないのに、さっきできないと言い切られた。その理由を明確に述べてください。

二之湯国務大臣 私は、前の法務委員会でも、逮捕できないと。つまり、不当な言論弾圧のために、そういう、一般人であろうと政治家であろうと逮捕することはないということを申し上げた、その私の考え方は変わっておりません。

階委員 大臣の考え方を聞いているわけじゃないんですよ。大臣の考え方で、全てそれが未来永劫まかり通るわけではないんですよ。法的な根拠ですよ。法治国家ですから、法の支配ですから。

 法的な根拠で、なぜできないかということを明確に答えてほしいんです。

二之湯国務大臣 現行犯逮捕は、逮捕時に、犯人による特定の犯罪であることが明白、かつ、犯人も明白であるという場合にしか行えないということでございます。犯罪で、明白であるとは、違法性阻却事由がないことも明白であることでありまして、侮辱罪では、表現、集会の自由といった憲法上の重要な権利との関係を考慮した上で、逮捕時に正当行為ではないことが明白である場合に限られるわけでございます。現行犯逮捕が濫用されることがあってはならない、このように考えております。

階委員 あってはならないという、また最後は御自身の思いをお答えになられたんですけれども、これは法制審議会の議論を見ると、刑法学者がなかなか奥行きの深いことを言っていますよ。事実の摘示については違法性阻却が考えられるけれども、抽象的価値判断についてはなかなか違法性阻却は認めにくい、こういうことを言っているわけですよ。

 今、大臣の話だと、違法性阻却されるんだと言っていますけれども、これ、違法性阻却されるから、必ず、政治家に対するそうしたやじ、うそつきだといった表現、私が街頭演説で言ったとしても、自民党の先生方が悪夢の民主党政権だと言ったとしても、あるいは一般の人が街頭のデモで誰々総理はうそつきだと言ったとしても、全て現行犯逮捕はあり得ない、絶対できないということでいいですか。

    〔熊田委員長代理退席、委員長着席〕

二之湯国務大臣 全くないということではありませんけれども、捜査は一般に任意捜査が原則でございまして、侮辱罪に関しては、現行犯人を認めた場合であっても、現行犯として逮捕するかどうかについては、表現の自由の重要性に配慮しつつ、より慎重な運用を期すべきだと考えております。

階委員 これ、本当に、大臣、こんなことでは、警察が現行犯逮捕するかどうかもあやふやなわけですよ。まして、現行犯逮捕は一般人もできるから、もっと大変なことになります。もっと混乱しますよ、正直言って。警察すら明確な基準を示せないものを、何で一般私人がきっちり判断できるんですか。おかしいじゃないですか。答弁も食い違ってきている。こんなのでいいんですか。

 もし、できないと最初おっしゃった、これを撤回するんだったら、そんな生易しい話じゃないですよ。ちゃんとしかるべき手続も踏むべきだと思います。政府の統一判断をちゃんとこの委員会で示してくださいよ。そして、謝罪もあってしかるべきだと思います。大臣、お願いします。

二之湯国務大臣 私の国家公安委員長の立場としてはこれ以上の答弁はできないわけでございますから、この法案提出者の法務省あるいは法務大臣にお尋ねになった方が適当ではないかと思います。

階委員 政府統一見解を出していただくよう委員長に求めます。

鈴木委員長 その件につきましては、後刻、理事会にて協議をいたします。

階委員 それでは、また次回質問させていただきます。

 以上です。

鈴木委員長 次に、藤岡隆雄君。

藤岡委員 立憲民主党、栃木県第四区の藤岡隆雄でございます。

 まず、本日も、地元栃木県の皆様に感謝を申し上げ、そして、先輩、関係各位、質問の機会を与えてくださった関係者に感謝をし、質問に入らせていただきたいと思います。

 まず冒頭、大変驚きました。胸以上には上げてはいけないということなので、胸から下にさせていただきますけれども、日刊ゲンダイさんの四月二十一日号、五月六日号の記事を配付させていただこうと思いました。ところが、何と、これが配付を認められない。一体これはどういうことなんでしょうか。

 この記事に書いてあること、胸から下までにしますけれども、プーチン大統領を増長させた張本人が言うかと、安倍元総理の写真に書いて、このゲンダイの四月二十一日号は、日本の恥というふうに言葉が出ております。さらに、五月六日号で、岸田首相ですら支持率アップ、無責任なリーダーの戦争様々というふうな記事がございますが、なぜこの記事を配付してはいけないんでしょうか。これは驚きの何物でもございません。これはまさに言論弾圧なんじゃないんでしょうか。こういうことが言論弾圧だと私は思いますよ。今日、自由な発言をまさに封殺をされようとしているということだと私は思います。

 委員長、これ、配付させていただきたいのですが、いかがでしょうか。

鈴木委員長 その件につきましては、理事会及び場内協議において各会派の意見が調いませんでしたので、配付の許可はいたしません。

藤岡委員 これはなぜ駄目なんでしょうか。

鈴木委員長 協議で調わない資料につきましては、配付を許可をいたさないという判断をいたします。

藤岡委員 協議、調わない、これはなぜ駄目なんでしょうか。配付をさせていただきたいのですが、配付すらを封じるというのは、こういうことがあるからこそ、今回の法案が非常に私は懸念をするということを申し上げておるんですけれども、配付をさせていただけないというのは、非常にこれは、まさにこういうことが、いわゆる実質的に言論弾圧的なことと評価をできるようなことじゃないでしょうかということだと思うんですが、理由をちょっと、ないんでしょうか。

鈴木委員長 理事会にての協議の結果、協議が調わないということでありましたので、これは配付を許可をしないということとしているという、先ほど来申し上げているとおりであります。

藤岡委員 これは議会制民主主義の非常に否定につながるという話ではないでしょうか。配付を認めていただけないのは、私、これは重大な問題だと思います。

 何がそんなに、これをもって私は、これが侮辱罪に該当して、逮捕される可能性があるかどうかということを質疑で確認させていただきたいんですが、質疑で確認させていただくことを封じているということでございますから、封じていただくというのは大変なことでございますから、改めてこれは資料の配付ということをお願いをさせていただきたいと思うのですが、最後にもう一度お願いをさせていただきます。いかがでしょうか、委員長。

鈴木委員長 先ほど来申し上げておりますように、各会派、理事会及び場内協議にて協議が調いませんでしたので、そういった状況の中で配付の許可をしないという判断をいたしました。

藤岡委員 委員長の判断ということというふうに今理解をいたしましたけれども、そうしますと、とてもこれは十分な審議がまだまだできません。およそこれは、この法案をしっかり質疑すら、十分な質疑をさせていただけないということでございますから、これは大変な私は問題だと思います。

 これはまず重大な抗議を申し上げまして、そして、先ほどから質疑が、まだまだ答弁が全く、右に左にといいますか、安定をしていないという状態がございます。これは、とてもまだまだ、法案のこの審議では極めて不十分な状態にあるということを最初に申し上げた上で、質疑に入らせていただきたいと思います。

 まず初めに、二之湯大臣にお伺いをしたいと思います。

 今、階先輩議員からの質問で、ありました。できない、そして、いやいや、全くというわけではない、いろいろな、答弁が動かれました。

 前回、私の質問をさせていただいたときも、最初は、ほとんどゼロ%に近いという御答弁をいただきました。次に、ありませんという御答弁になりました。そうしたら、その後、何か、修正したのかどうか分からないんですけれども、多少の可能性はあるというふうになりました。さらに、あってはならないということになりました。

 ここまで答弁が変わっていくというのは、これは今日の朝の東京新聞の報道で取り上げてはいただいておりましたけれども、非常に答弁が揺れ動く。まだまだこれは政府としての考え方が定まっていないということとしか、はっきり、言いようがないと思うんですね。

 私も改めてお伺いしたいんですが、結局、現行犯逮捕される可能性というのは、閣僚又は国会議員を侮辱した場合は逮捕されるという可能性はあるということでよろしいんですか。

二之湯国務大臣 度々私もここで発言しておりますけれども、被疑者を現行犯逮捕するかどうかについては、一般的に、警察において、基本的人権に配慮しつつ、個別の事案の具体的な事実関係に即して、法と証拠に基づいて判断がなされているものと私は考えております。

 捜査は一般に任意捜査が原則でありますが、侮辱罪に関しては、現行犯人を認めた場合であっても、現行犯として逮捕するかどうかにつきましては、度々申し上げていますように、表現の自由とか言論の自由という重要性に配慮しつつ、より慎重な運用を期すべきだと考えております。

藤岡委員 今の御答弁は、まず、答えていないです、国家公安委員長。私は、可能性があるのかどうかという話をお聞きしたんですけれども、今の答弁、答えられていなくて、今のこれだけでも質疑の内容が全く伴っていないということになると思うんですけれども、結局、可能性があるということでよろしいんでしょうか。

二之湯国務大臣 これは度々、私、同じことを言っておるんですが、全くないわけではございませんが、捜査は一般的に任意捜査が原則でございまして、侮辱罪に関しては、現行犯人を認めた場合であっても、現行犯として逮捕するかどうかにつきましては、今申しましたように、表現とか言論の自由の重要性に配慮しつつ、より慎重な運用を期すべきであると考えております。

 以上でございます。

藤岡委員 なぜお聞きしているかというと、答弁が本当に変わっているからお聞きしているのでございます。

 今、全くないわけではないというふうな話でございました。そうしますと、新聞で閣僚や国会議員を侮辱した報道機関の方も、これも逮捕される可能性があるということですか、全くないとは言い切れないということですか。

 例えば、この日刊ゲンダイさんの、安倍元総理の写真を出して、日本の恥だというふうに書いている記事がありますけれども、そうすると、逮捕される可能性があるということですか。お願いします。

二之湯国務大臣 その記事も読ませていただきました。これが侮辱とか、私としては言論活動だと思います。したがって、それは、私は、大して、私自身の、個人は、問題にすべきことではない、このように考えています。

 侮辱罪は、事実を摘示せずに公然と人を侮辱する行為を罰するものでございまして、ここで言う侮辱とは、他人に対する軽蔑の表示であると聞いております。特定の行為が侮辱罪に当たるかどうかや正当行為として違法性が阻却されるかどうかについては、個別の事案の具体的な事実関係に即して、把握した証拠に基づき判断がなされるものと聞いております。

 以上です。

藤岡委員 結果として、今のも、どうなるか分からない、本当に答えられておりませんが、報道機関の方はこれで逮捕される可能性があるんですか。あるのかどうか、イエスかノーでお答えください。可能性があるかどうかです。

二之湯国務大臣 度々申し上げていますように、侮辱罪で逮捕されるということは全くないわけではございませんけれども、捜査は一般に任意捜査が原則であり、侮辱罪に関しては、現行犯人を認めた場合であっても、現行犯として逮捕するかどうかについては、表現の自由の重要性に配慮しつつ、より慎重な運用を期すべきだと考えています。

藤岡委員 そうしますと、全く可能性がないわけではないということで、どういう場合があれなんでしょうか。典型的な想定される事例としては、どういう場合が、報道機関の方や、国会議員や閣僚の方を侮辱した場合に、どういう場合、逮捕されるんですか。

二之湯国務大臣 言論機関、済みません、申し訳ない、ちょっと。

藤岡委員 分かりました。では、もう一回聞かせていただきますね。

 報道機関が例えば国会議員や閣僚を侮辱した場合や、あるいは一般に閣僚や国会議員を侮辱された方というのは逮捕される可能性がありますかと。大臣個人の考え方じゃありません。国家公安委員長としてお答えください。大臣個人のお考えは先ほどもお聞きしましたし、国家公安委員長としての考えをおっしゃってください。

二之湯国務大臣 警察において、侮辱罪に当たるかどうかについては、度々申し上げますように、個別の事案の具体的な事実関係に即して、把握した証拠に基づいて判断がなされているものと考えております。

 一般論として申し上げれば、侮辱罪により処罰された近時の例といたしまして、SNSの投稿欄に、人間性を疑います、愚痴を言いまくる社長などと掲載したもの、ネット上の被害法人に関する口コミ掲示板に、頭の悪い詐欺師みたいな人などと掲載したもの、被害者のSNSアカウントに、いつ死ぬの、生きてる価値あるのかねと投稿したものがあると聞いております。

 警察は、こうした例も踏まえつつ、個別の事案の具体的な事実関係に即して、把握した証拠に基づいて判断がなされているものと考えております。

藤岡委員 今、重大な御答弁をおっしゃいました。人間性を疑うというふうにして、例えば、では、やじを飛ばされる、あるいは、頭の悪い詐欺師みたいなことを、例えばこの報道機関の方で、例えばですよ、日刊ゲンダイさんが、これはそのように、類するようなことを書かれていますけれども、ということは、そういうことで逮捕される可能性があるという、これはすごい重大な話ですよ、今の。

 それが一般に、政治家とか国会議員や閣僚に対してではなくて、その話を言っているのであれば、私は特に今その点についてここで質疑をすることではないんですが、それを国会議員や閣僚に対して、言葉が余って話が出たときに、それが逮捕される可能性があるというのは、非常にこれは、侮辱に対してまさに広く解釈が行われて、逮捕される可能性があるということにつながるんじゃないんでしょうか。

 大臣、国家公安委員長、先日、あってはならないと答弁してくださいましたけれども、あってはならないというか、あってしまうんじゃないですか、これは。

 しかも、これは、もう一回、映像で見ていただいている方には申し上げますけれども、処罰の範囲が変わらないけれどもなぜ問題なのかといったら、逮捕要件が変わるからですよね。そのことをはっきりと申し上げておかないといけません。逮捕に関わる制限が緩和をされるということが大きな違いでございます。だからこそ質疑をしているんです。処罰の範囲が変わらないから問題じゃないでしょうということではないということだと私は思います。

 したがって、大臣、さっきので逮捕されるということですが、これは非常に表現の自由、萎縮されるということになってしまうと思いますが、それでいいんでしょうか。

二之湯国務大臣 先ほど私は、逮捕された事例は一般の方々の事例を申し上げたわけでございます。

 それぞれの事案はそれぞれ個別的に判断して、これは有罪かどうかということを判断されるわけでございますけれども、今の侮辱罪の構成要件に変更はなく、また、正当な言論活動については侮辱罪による処罰の対象とならないことは今回の法改正でも変わらないものと聞いております。

 今回の法改正により、逮捕に関しては住居不定であることなどの制限がなくなることとなりますが、捜査は一般に任意捜査が原則であり、侮辱罪に関しては、表現の自由の重要性に配慮しつつ、より慎重な運用を期すべきであると考えております。よく御理解いただきたいとお願いします。

藤岡委員 答弁が変わる中で、何を理解したらいいのかどうかということが、まさに分かりません。

 更に言えば、今も答弁が変わりました。私は最初に、侮辱した方、丁寧に委員長にお話をさせていただきました。その上で、事例を挙げて、この場合は、個別の事案に照らして、いわゆる逮捕の可能性があるということを示唆されたものだと私は思いました。そうしたら、今度は、それは一般的なものだということをおっしゃいました。これをもってしても、これはまた答弁も変わられているということだと私は思います。

 こういうふうな状態で、当然、いろいろな最悪の事態も想定して法案というのを考えていかないといけないということを思います。それが今は、いや、法と証拠に基づいて適正ですと。でも、これは、将来のことを厳しく見て、権力の濫用なりが行われるということを、いろいろな事態を想定しないといけないと思うんですが、そういうことを想定されないんでしょうか。これは、国家公安委員長、どうなんでしょうか、その状態を。

二之湯国務大臣 私、申し訳ございません、ちょっと訂正させていただきたいのでございますけれども、先ほどの逮捕された事例は、一般の方による、処罰された例で、逮捕された例ではないということを申し上げたいと思います。

 今回、私は、国家公安委員長という立場はさておき、私個人、政治家の思いといたしましては、委員が度々申されることはよく肝に銘じて警察を指導していきたい、このように考えております。

藤岡委員 大臣、肝に銘じていただいたことはありがたいと思うんですが、これは本当にありがたいと思うんです、ただ、しかしながら、この法律に課題があるということは分かりました。

 改めて、これはまだまだ審議不十分でございますし、古川大臣、今のやり取りも含めまして、やはりこれは法案の修正というのを考えていただきたいと思うんですね。まだまだこれは解釈が揺れ動いております。解釈が揺れ動いている中で、この法案をこのままの状態で通すというのは、やはりこれは法案を修正していただく必要が私はあると思います。古川大臣、いかがでしょうか。

古川国務大臣 表現の自由というものは極めて重要であるということは、これはもう当然のことでありまして、自由始め基本的人権の保障、あるいは国民の権利の擁護というのは法務大臣の責務でありますから、その上で、今回提出をさせていただいております法案は、御懸念の表現の自由を損なうもの、毀損するものではないというふうに確信を持っております。

 しかし、一方で、委員始め複数の委員が、この委員会においても、表現の自由を萎縮させ得るのではないかという観点からの御質問を累次にわたってしておられます。これは、表現の自由ということは非常に大事な価値観でありますから、その意味でも、その懸念を払拭をし、明らかにするという意味で、そのような御指摘は非常に、ごもっともといいますか、私はそれは重いものだというふうに思っておりますし、そのように受け止めております。

 したがいまして、不当に何か言論弾圧をするとか、不当に表現の自由を制限するものではありませんが、そういう御懸念があるとするならば、やはり丁寧にこの立法の目的や趣旨というものを周知をする、そのための御理解、国民の理解を推進させる、そのための最大限の努力はしていきたいというふうに思っております。

藤岡委員 時間が参りましたけれども、周知をしていただく上でのそもそもの前提が、今揺れ動いております。まだまだ到底この法案は容認できない。さらに、この資料を配付した上での質疑も認められなかったわけですから、とてもこの法案をまだ容認できないということを強く申し上げまして、私の質疑を終わらせていただきます。

 ありがとうございました。

鈴木委員長 次に、前川清成君。

前川委員 時間も限られておりますので、今日は、侮辱罪の法定刑引上げに限って大臣の所見を伺いたいと思っております。

 それで、まず、木村花さんへの誹謗中傷であったり、その当事者に対する量刑、科料九千円、こういうことに鑑みますと、私も、侮辱罪の法定刑、これは低過ぎるのではないか、そう考えております。

 他方で、木村響子参考人が参考人質疑で述べられたとおり、侮辱罪の法定刑引上げが表現の自由を萎縮させてはならないし、この点は、大臣も表現の自由の重要性については再三言及されているとおりです。また、二之湯大臣もおっしゃるように、認められるように、言葉狩りや言論封じに悪用されてはならないと思います。そうであれば、そのために、表現の自由を萎縮させないために、言論封じに悪用されないために、明確なルールを用意しておかなければならないのではないかと私は考えております。

 この議論のスタートライン、ここに相違があるのかどうかについて、まずは法務大臣に伺いたいと思います。

古川国務大臣 表現の自由は憲法で保障された極めて重要な権利でありまして、これを不当に制限することがあってはならないということは私も度々申し上げておるところですし、法務大臣というものはこういう価値観をしっかり守るということが大事な責務であるというふうに自覚をいたしております。

 侮辱罪というものは、事実を摘示せずに公然と人を侮辱する行為を処罰するものでありまして、ここに言う侮辱とは、他人に対する軽蔑の表示であると解されております。

 具体的にいかなる行為が侮辱罪における侮辱に該当するかは、収集された証拠に基づき個別に判断されるべき事柄であり、一概に基準としてお示しすることは困難でありますが、過去に侮辱罪で有罪が確定した裁判例において示された犯罪事実がこれは参考になるだろうというふうに考えられます。

 法制審議会の部会では、過去に裁判所において侮辱罪の成立が認められた事案の概要等をまとめた事例集を資料として配付したほか、侮辱罪の成立が認められた複数の事例を口頭で紹介したところでありまして、それぞれ、配付資料あるいは議事録として法務省のウェブサイトに掲載をしております。

 委員がお尋ねになった趣旨、基本的に私どもは委員と変わらない考えを持っているということを申し上げたいと思います。

    〔委員長退席、井出委員長代理着席〕

前川委員 大臣、今の、答えがはっきりしていなかったんですけれども、明確なルールは必要なのかどうなのか、これを申し上げているんですけれども、結論として、必要なのか不要なのか、この点だけお答えいただけませんか。表現の自由が大事だと認識されていることは何十遍も聞きましたので、もう結構です。明確なルールを、必要か必要でないのか、必要だとしたら、それを用意するのかしないのか、この一点です。

古川国務大臣 犯罪の成否ということは、これはもう委員大変お詳しいところでございますけれども、捜査機関によって収集された証拠に基づいて、法にのっとって個別に、具体的に判断をされるべきものであります。

 例え話でよくこの委員会でも例示されるわけですけれども、しかし、単純化した事例として紹介されたケースであっても、実際の状況、例えば発言であれば、その発言の趣旨や目的や、それがなされた状況であるとか背景であるとか、それこそ千差万別でありまして、それを具体的なルールという形で示すことはできないということでございます。

 もし仮に、検察庁を所管しております法務大臣あるいは法務省において、そういうことを、具体的なルールということで、何かぎちぎち具体的なことを言い出しますと、これは、捜査機関あるいは裁判所、そういうものに対して様々な判断なり予見なりを与えてしまう、そういうおそれがあるわけでありまして、そこは厳に慎まなければならないと思います。

 しかし、申し上げておりますのは、そうはいいましても、やはり表現の自由ということはございますから、国民の皆さんに、それが過剰な不安をあおるようなものであってはなりません。ですから、その意味では、この法改正の趣旨や目的等を、やはり、周知して理解をいただくような、そのための努力というのは、私は惜しむべきでないというふうに考えております。

前川委員 この議論の前提でそもそも大臣と立場が異なるということは、もう想定もしていませんでした。後でちょっと、じゃ、この点については詳しく議論させていただきたいと思います。

 その前に、今回の法改正の目的、射程についてお伺いしたいと思いますが、今般、侮辱罪の法定刑を引き上げるのは、木村花さんの事例のようにインターネット上の誹謗中傷が社会問題化しており、もはや放置することができない、こういうふうな判断があったからなのか、あるいは、そうじゃなくて、インターネット以外の場面、例えば、街頭演説の場所にやってきた人たちが安倍辞めろと言ったり、あるいは、与党の要職にある人に対して薄っぺらいと批判する人たちのように、インターネット以外の場面でも規制が必要だ、こういうふうに考えておられるのか、どちらですか。

古川国務大臣 まず、前提として、今回の法整備は、正当な表現行為を規制しようとするものではございません。インターネット上のものであるとそれ以外のものであるとを問わず、正当な表現行為を規制しようとするものではございません。正当な表現行為については、仮に相手の社会的評価を低下させる内容であっても、刑法第三十五条の正当行為として違法性が阻却され、処罰されないと考えられ、このことは、今般の法定刑の引上げにより何ら変わることはございません。

 本改正の趣旨を申し上げますと、近時、SNSなどのインターネット上の誹謗中傷が特に社会問題化していることを契機として、インターネット以外のものも含めて誹謗中傷全般に対する非難が高まるとともに、これを抑止すべきとの国民の意識が高まっているということがございます。こうしたことに鑑みますと、公然と人を侮辱する侮辱罪について、厳正に対処すべき犯罪であるという法的評価を示し、これを抑止するため、その法定刑を引き上げることが必要であることから、今回の法律案を提出したところであります。

前川委員 正当な表現行為かどうかの議論は後でさせていただくつもりで、質問通告もしておりましたので、大臣、ちょっと落ち着いて私の質問を聞いていただきたいと思います。

 今のお話だと、インターネット以外の場面でも侮辱罪の法定刑を引き上げる必要があるんだ、こういう御答弁でしたが、そうであれば、法務省が事前に配っていたこの説明資料、ここによると、近年、インターネット上の誹謗中傷が社会問題化している、だから引き上げる、こういうふうに書いてあるんですが、この資料は間違っていた、こういうことですか。

古川国務大臣 本改正の趣旨は申し上げたとおりでありまして、あくまでも契機として、その事件は、この議論の、改正の契機として、その一つとして捉えているということでございます。

前川委員 釈迦に説法ですけれども、大臣が繰り返し繰り返しおっしゃるように、表現の自由、人権カタログの中でも優越的な地位にある表現の自由、これを規制する以上は、明白な害悪、放置することができない害悪が必要だ、こうなっています。

 今般、私は、インターネット上の誹謗中傷が問題だから、その部分に限って法改正をなさるのかと思っていたところ、これも意外な答えでしたけれども、大臣は、いや、そうじゃないんだ、インターネット以外の場面でもやはり規制が必要なんだ、インターネット上の誹謗中傷というのは一つの契機にすぎないんだ、今そういうふうに答弁をなさいました。

 つきましてはお尋ねをしたいと思うんですが、インターネット以外の場面では、法定刑を引き上げなければならないような、どんな害悪が世の中に存在しているんですか。

古川国務大臣 繰り返しになりますけれども、SNSなどのインターネット上の誹謗中傷が特に社会問題化しているということを契機として、インターネット以外のものも含めて誹謗中傷全般に対する非難が高まってきております。これを抑止すべきだという国民の意識が高まってきているということであります。

 こうしたことに鑑みまして、今回の法定刑の引上げということを御提案しているということでございます。

前川委員 ちょっと、大臣、論理的にかみ合っていないと思うんですけれども、インターネット上の誹謗中傷に関しては、例えば、木村花さんのことであったり、あるいは池袋で御家族を亡くされた男性に対する誹謗中傷であったり、様々な、それは行き過ぎやでと、特に、ツイッターなどは匿名で投稿することができるので、どんどんどんどん、リツイートというんですか、それが繰り返されることによって誹謗中傷が広まっていく、これを何とかしやんなあかんというふうな声は私も聞いていますけれども、そうじゃなくて、リアルな場面でですよ、インターネット以外の場面で、社会的にこれは取り組まなければならないというふうな声は、一体どんな状況下で、どういう人たちからそんなお声が上がっているんですか。

古川国務大臣 その点に関しまして最近の例として申し上げますと、例えば、被告人らが被害者に対して、その学校名を挙げまして、○○、こんなものは学校でない、ろくでなしの○○、学校名です、を日本からたたき出せなどと怒号をし、公然と被害者を侮辱した事案がございます。また、被告人らが、被害者の顔写真を明示した上で、この顔にぴんときたらコロナ注意、地名を挙げまして、○○、地名ですけれども、○○で初コロナ感染者などと記載したビラをまくなどして、公然と事実を摘示して被害者の名誉を毀損した事案について、これは名誉毀損罪により刑が言い渡されたというような例もございます。

前川委員 大臣の今おっしゃっているのはいわゆるヘイトスピーチの問題であって、それはそれに焦点を当てて規制を考えるべきじゃないんですかね。

 今大臣は強弁されましたけれども、社会問題化になっているのは、当初、法務省が認めていたとおり、法務省も想定していたとおり、インターネット上の誹謗中傷、これが社会問題化になっている。そうであれば、私は、インターネット上の誹謗中傷の問題にもっと焦点を当てた法改正がよかったのではないかと思います。

 その上で大臣にお尋ねしたいんですが、表現の自由というのが人権カタログの中でも優越的な地位にある。だから、必要な範囲を超えて表現の自由を規制する、これは駄目ですよと。これは、違憲性判断基準としては、過度に広範性ゆえに無効のテストというのがあります。必要な範囲を超えて規制をしてしまうと、もうそれは、法律の中身に立ち入らずに、文面上、当該法律が憲法違反になってしまうという、合憲性判断テストがあります。

 私は、この侮辱罪の法定刑の引上げ、インターネット上の誹謗中傷というのは大きな問題になっているけれども、そのほかの部分についてはそれほど大きな声は聞いていない、そうであれば、今回、インターネットであろうとそうでなかろうと、リアルな言論の場であろうと、全部引き上げてしまうというのは憲法上大きな問題をはらんでしまうのではないかという心配をしています。

 大臣は、この規制の範囲、過度に広範と言えるのではないか、この点について御所見はいかがでしょうか。

古川国務大臣 今回の法改正によりまして、これは前々回でしたか、たしか米山委員とのやり取りの中でも申し上げたと思うんですけれども、対象となる行為、構成要件に該当する、対象となる行為というのはあります。それが横ですね。そして、縦が、当罰性という言葉を使ったわけですけれども、そうすると長方形になるわけですけれども、今回の法改正によってその対象が、構成要件は変わりませんから対象が横に広がるわけではないんですね。ただ、一部、悪質なものというものに対して法的評価を加えるということでございますから、下限を維持したまま上限を引き上げるということでありますから、長方形がL字形になるということであります。のっぽの長方形になるのではなくてL字形になるということでありまして、その意味では、委員が御懸念になっているような御心配は当たらないというふうに考えております。

前川委員 大臣がおっしゃるようにL字形にするのであれば、インターネット上の誹謗中傷の部分だけを、その縦軸というんですか、そうするべきじゃないんですか。一般に、例えば甲子園球場で、三振したバッターに対して、おまえ辞めてしまえ、このやじがひどいやんけというふうな声は上がっていないと私は思います。この過度の広範性のテストについては、是非、将来最高裁で問題とならないような検討が必要ではないかと思います。

 その上で、先ほど階議員からの質問、あるいは米山議員からの質問、あるいは私がまだ質問する前にお答えをいただいた、侮辱、その構成要件について議論をしたいと思うんですが、例えば、個人がツイッターにA総理大臣はあほだ、無能だと投稿したら、侮辱罪が成立するのかどうか。これについて、今法務大臣は、具体的な事例に即さないと、法と証拠に照らさないと答えられない、千差万別だ、個人がツイッターにA総理大臣はあほだ、無能だと投稿した、これが侮辱罪が成立するかどうかは分からない、こういうお答えだったと思いますが、国家公安委員長、今日はお越しいただいていますが、国家公安委員長も同じ御見解でしょうか。

二之湯国務大臣 侮辱罪が成立するかしないかということは、法務大臣が答弁されたことと私と同じ見解でございます。

前川委員 同じというのは、この場では答えられないという意味ですか。

二之湯国務大臣 そういうことでございます。

前川委員 答えられないのは、分からないからでいいですか。

二之湯国務大臣 それぞれの個別の事案が、具体的にはそれぞれが違いますから、一概に答えられないということで、やはり把握した証拠に基づいて判断されるものと考えております。

前川委員 具体的な状況って別に特にないんです。今申し上げたように、個人が、一一般市民の方がツイッターに、A総理大臣はあほだ、無能だ、こう投稿した、それだけです。

 それで、今大臣がおっしゃるように、具体的な状況がなければ判断できない。具体的な状況というのは、何が分かれば判断できるんですか。

二之湯国務大臣 総理が無能だという、そういう特定の行為が侮辱罪に当たるかどうかにつきましては、個別の事案の具体的な事実関係というものはよく調べて、そして把握した証拠に基づいて判断される、こういうことでございますので、そのように申し上げたわけでございます。

前川委員 いや、今申し上げたとおり、ただただツイッターにですよ。具体的な背景も何にもないわけだ。総理大臣が別にAさんであろうとBさんであろうとCさんであろうといいわけです。そのときの総理大臣を、一個人の方が、あほだ、無能だと投稿をした、それだけの事情です。

 判断できないというのは、じゃ、具体的に更に、個別具体的にどのような事情が分かれば判断できるんですか。

二之湯国務大臣 侮辱罪に当たるかどうかは、発言やネット上に書き込まれた文言の内容、言動がなされた状況等を踏まえて判断することになっております。

前川委員 だから、文言は、A総理大臣はあほだ、無能だです。具体的な事由としては、ツイッターに投稿した、それだけです。それでも、犯罪、侮辱罪が成立するかどうかは判断することができない、こういうことですか。

二之湯国務大臣 犯罪の成否は、個別具体の事案に即して、法と証拠に基づいて個別に判断されるべき事柄であり、お答えすることは差し控えさせていただきたいと思います。

前川委員 この点、法務大臣も同じ御見解ですか。

古川国務大臣 犯罪の成否というものは、いつも申し上げますけれども、個別具体的な事案に応じて、収集された証拠に基づき、捜査機関や裁判所により判断されるべき事柄でございます。

 それをあえて例えば法務大臣から犯罪の成否を論じた場合には、検察を含む捜査機関や裁判所に不当な影響を与えるおそれがあるばかりか、社会一般に対しまして、検察がそういう判断をするんだなというような誤解を招いてしまう、そういった弊害が生じるということでございまして、そういうおそれからお答えを差し控えているということでございます。これはよく委員も御存じだと思いますけれども、どうか御理解をいただきたいと思います。

前川委員 いや、誤解を与えたらあかんから、自分の行為が犯罪になるのかならないのかが事前に分かっておかないと表現の自由を萎縮させてしまうので、だから私は具体的な事例として、あほや無能、ツイッターに投稿する、これが侮辱罪に当たるかどうかお尋ねをしています。

 その上で、大臣も御存じだと思いますが、最高裁判所の昭和五十年九月十日の大法廷判決があります。いわゆる徳島市公安条例事件。これはこんなことを言っています。ある刑罰法規が曖昧不明確のゆえに憲法三十一条に違反するものと認めるべきかどうかは、通常の判断能力を有する一般人の理解において、具体的場合に当該行為がその適用を受けるものかどうかの判断を可能ならしめるような基準が読み取れるかどうかによってこれを決する。言い換えれば、通常の判断能力を有する人がツイッターに、A総理大臣はあほや、こう書き込んだときに、これが侮辱罪に当たるか当たらないか事前に判断が可能でないと駄目ですよ、刑罰法規の明確性を欠きますよ、こういうふうに最高裁の昭和五十年の九月十日の判決は言っているわけです。

 この最高裁判決、これは明確性の理論というんですが、先ほどの二之湯大臣の答弁、具体的な状況としては、ツイッターにA総理大臣はあほだ、無能だと投稿した、それだけ。ほかに具体的な状況は何にもありません。別に、その投稿した人が立憲民主党の支持者だとか、あるいは共産党の支持者とか、維新の支持者とか、そういう背景も何もなし。あるいは、その人が九州に住んでいるとか、大阪に住んでいるとか、北海道に住んでいるとか、そんな具体的な状況も何もなし。ただ、ツイッターに投稿した。それが、二之湯大臣のおっしゃるように、犯罪になるのかならないのか分からないということになれば、場合によっては刑務所に行かないといけないかもしれない。先ほど藤岡議員からも議論ありましたけれども、逮捕されるかされないかさえ分からない、こういうことになれば、表現の自由を萎縮させることは明らかだと思います。

 そうであれば、私は、明確なルールを決めておかないと、大臣は冒頭否定されましたけれども、明確なルールを決めておかないと、この最高裁判所の昭和五十年九月十日の大法廷判決に照らしても、今回の法改正というのが憲法違反というそしりを免れないのではないか。でも、そういうことになってはいけないので、今、明確な基準を決めておく、そのことを是非与野党が一致をして努力するべきではないか、こういうふうに申し上げております。

 この明確性の理論についてはいかがですか、法務大臣。

古川国務大臣 今委員から、判例を引かれまして、曖昧であったら憲法違反だというような趣旨での御意見がございましたけれども、刑法二百三十一条、侮辱罪の構成要件が明確性を欠くと判断されたことはございません。そして、今回の法改正におきましても、この構成要件を何ら変更するというものではございません。

前川委員 その今まで判断されたことがないというのは、今まで全部、明確だという判断が裁判所によって示されたという意味ではないんです。科料にすぎないので、大きな問題になってこなかった。略式命令で九千円で済むので、みんなそこまで言ってこなかったということなんです。

 でも、これからは刑務所に行くかどうかという問題になってくるわけだから、やはりこの明確性の論理というのが、この後、大きな議論になるんじゃないかと私は思います。

 その上で、大臣、繰り返し繰り返し、正当な表現行為であれば、それは保障されるんだ、侮辱罪にならないんだ、こういうふうに繰り返しておられますが、正当な表現行為であれば侮辱罪に当たらない、これはどういうふうな法律上の根拠になるのでしょうか。

古川国務大臣 公正な評論、健全な批判といった正当な表現行為につきましては、仮に相手の社会的評価を低下させる内容であっても、刑法第三十五条の正当行為として違法性が阻却され、処罰されないと考えられます。

前川委員 大臣、分かっておられると思った上であえて申し上げますけれども、刑法三十五条は、正当な行為は罰しないとは書いておりません。刑法三十五条は、「法令又は正当な業務による行為は、罰しない。」こう書いているわけです。

 したがって、例えば、朝日新聞や産経新聞が、正当な、いやいや、A総理大臣は駄目だ、こう書けば、それは正当な業務行為かもしれませんが、個人の場合は業務行為ではありません。それにもかかわらず、いや、刑法三十五条だとおっしゃるからには、もうワンクッション、理屈があるはずなんです。

 ここはもう私の方から申し上げますと、そこを議論したいわけじゃありませんので私の方から申し上げますと、社会的相当性があるかないか、こういうことになると思います。そうしたら、A総理はあほだと投稿した、その投稿に社会的相当性があるかどうか、これを刑事手続においては一番最初に判断するのは警察になるわけですけれども、現場の警察官はどういうふうなメルクマールで社会的相当性を判断するわけですか。

二之湯国務大臣 被害者からの被害の届出によりまして警察において侮辱罪に該当するかどうかの可能性がある行為を認知した場合には、当該行為が正当行為として違法性が阻却されるかどうかも含め、第一義的には警察において判断することになっておるわけでございます。

 特定の行為が正当行為、正当な表現行為に当たるかどうかについては、個別の事案の具体的な事実関係に即して、把握した証拠に基づき判断されるべきものと聞いております。

前川委員 いや、その具体的な、どういう事情があれば社会的相当性があると認められて、どういう場合には社会的相当性がない、だから犯罪だ、侮辱罪だということになるのですか、その判断基準は何ですか、こういうふうにお聞きをしております。

井出委員長代理 二之湯国家公安委員長、時間、来ていますので。

二之湯国務大臣 どのような行為が社会生活上正当なものと認められるかどうかについては、個別の事案の具体的な事実関係に即して、把握した証拠に基づき判断がなされるものであり、一概にお答えすることは非常に難しいものであると思います。

 いずれにいたしましても、警察では、これまでも法と証拠に基づいて適切に対応してきており、このことは今回の改正法案が成立した後であっても全く変わらない、このように思っています。

前川委員 時間が参りましたので、これで終わりますが、今日の議論を通して、結局、明確な基準は何もないと。もしこれがまかり通ってしまうと、恣意的な、差別的な言論弾圧を許してしまうことになるのではないかと思います。この続きはまたさせていただけたらと思います。

 ありがとうございました。

井出委員長代理 次に、鈴木義弘君。

鈴木(義)委員 国民民主党の鈴木義弘です。

 視点を変えた質問をいたしますので、明確な御答弁をいただきたいと思います。

 今回の法律の改正で、保護観察の拡大や強化は、社会復帰させる方法として異論がないんですけれども、法務大臣の所信に対する質疑のときに、保護司の方の質問をさせていただいたんですけれども、この改正案により保護観察つきの執行猶予判決が増える可能性がある中で、今まで以上に保護司の先生方の負担も増えるのではないかという危惧をしています。

 現在、保護司の先生方の高齢化もあり、また、保護司を受けてくれる人が減少していると聞きます。一方で、なりたいという人は、適任者とは言えない方もいらっしゃるというのを、現場の保護司の方からお話を聞きます。

 保護司の方が、新たな保護司の候補者となる人に打診をして、保護司になり手を確保している。保護司が保護司を確保しているわけですね。そういった方というのは、大体、地元で町会長とか自治会長をやっていたり、民生委員を既に引き受けているような方に依頼をすることが多いんだそうです。そういった方は、やはり、違う仕事というんですか、職責を持っているがために、多忙を極めている。

 それで、保護司と観察者との信頼関係を構築するために、保護司の先生方は独自で工夫していらっしゃるんだそうです。ある方は、観察者との初回の面会では、自身で作ったスライドショーを対象者に見せ、保護観察とは何か、保護司の役割とは何かなどを、話を聞いていらっしゃるんだそうです。そういったところに法務省が資料を提供して配付する取組などをすれば、保護司の方の負担も減ると思われるんですね。

 また、保護司の連絡が電話連絡であったり、資料作りや配付は保護司の方が持ち回りでされているというふうに聞きます。それでは事務負担が大きく、対象者と向き合う時間以外の時間がそこに割かれてしまって、本来の役割が十分に全うできないんじゃないかと感じるんです。

 なり手不足は深刻であり喫緊の課題と考えますが、なり手の確保のためになされている取組、今回、法律が改正になれば、そういう対象者が増える。刑務所の中と実社会との間を取り持つ仕事も保護司の方がされているというのも聞きます。

 今日、資料配付を認めてもらったんですけれども、これも借りてきましたよ、保護司の方から。これが全部頭に入っているのかなと思うぐらい、濃密ですよね。犯罪を犯す人はいろいろなパターンの人がいますから、それに基づいた、どういう対応をして社会復帰させるかというのが保護司の方の役割ということであろうと思います。

 是非、人手確保のための取組をお示しいただきたいと思います。

    〔井出委員長代理退席、委員長着席〕

宮田政府参考人 お答え申し上げます。

 保護司の方々に本当に工夫していただいて、御苦労をおかけしておることについて頭が下がる思いでございます。

 法務省としましては、保護司の適任者確保のために保護司候補者検討協議会の開催、保護司活動インターンシップの実施などに取り組んでまいりました。

 また、適任保護司の確保をするためには、保護司活動における不安や負担の軽減も大変重要でありますことから、事件担当の際の保護司複数指名の積極化、更生保護サポートセンターの設置、自宅以外の面接場所の提供といった地方公共団体による支援の拡充、保護司活動のデジタル化の着実な実施などの取組を進めてきたところでございまして、これらも一層取り組んでまいりたいと思っております。

鈴木(義)委員 今日はこれは資料配付はしなかったんですけれども、保護司の方が法務省の方から言われている、面接したときのやり取りのやつを記録で出すんだそうですね。これは二枚複写になっているんですけれども。これを一枚出すと、千円くれるんだそうです。まあ、金額は分かりませんけれども、私が聞いたのは千円。ガソリン代は、何キロまでだったら幾らと。

 そういう状況の中で、ある意味、先ほど申し上げましたように、スライドショーまで自分で作って、提示をさせて、観察者、犯罪を犯した人に、どういうことなんですかというのを説明する、そういった費用は全然見ないんでしょう。だから、今、もう少しやはり現場の声を聞いて対応していかなかったら、保護司が増えていかないと思うんですね。

 その辺について、もう一回御答弁いただきたいと思います。

宮田政府参考人 お答えいたします。

 委員御指摘のとおり、現場の保護司さんの意見を十分吸い上げて負担軽減等に取り組む必要があると考えておりまして、昨年の秋から、若手保護司の意見を幅広く吸い寄せる若手保護司オンラインフォーラムというのを開催して、全国から今意見を集約して整理しているところでございます。そういった意見も踏まえまして、今後、負担軽減等にも取り組んでまいりたいと思います。

鈴木(義)委員 先ほど侮辱罪の基準の話がずっと議論されていたんですけれども、保護司になる基準があるんだったら、保護司として必要な見識が備わっているのかどうか、だから、保護司としてのミスマッチを防ぐことも必要なんだというふうに思います。

 その辺の、保護司の受命の基準があれば示してもらいたいと思います。

宮田政府参考人 保護司を委嘱する基準でございますけれども、保護司は、人格及び行動について社会的信望を有すること、職務の遂行に必要な熱意及び時間的余裕を有すること、生活が安定していること、健康で活動力を有することの全ての条件を満たす人の中から法務大臣が委嘱するということとされてございます。

鈴木(義)委員 先ほど、私、冒頭で申し上げたように、保護司の人が保護司を探しているんですよね。まあ、その基準に合っているかどうかは分かりませんけれども。

 もう一つ、現場で問題だというふうに言われているんですが、保護司として受命されたにもかかわらず、観察対象者が一人もいない方が結構いるんだというふうに言われたんですね。つまり、保護司としての名前だけで、実態として活動されない方が昔から問題になっているんだけれども、一度保護司になった以上、辞めさせてほしいとは誰も言えないと聞きます。

 実際、保護司として活動されていない方について、どう対処するのか、解任する手続なんかがあるのかどうか。お尋ねしたいと思います。

宮田政府参考人 まず、保護司法上は解嘱という言い方をするんですけれども、保護司が保護司法に定める欠格事由のいずれかに該当するに至ったときは、これを解嘱しなければならないということとされているほか、保護司委嘱の条件、先ほど申し上げました四つの条件のいずれかを欠くに至った場合などにおきましては、保護観察所の長の申出に基づいて、これを解嘱することができるという規定がございます。

 委員御指摘の、保護司活動を全然していないような人をどうするのかということでございますけれども、保護司に委嘱されても、保護司活動に従事することが難しい状況になった場合、これは、まず、保護観察所において、その保護司さんが直面している実情を確認いたしまして、それが、例えば処遇活動に従事することについて不安があるような場合には、ケースの選定はもとよりですが、保護観察官によって個別の助言あるいは指導を行ったり、複数担当制度の活用を検討することとなります。

 また、それ以外の事由によりまして保護司活動への参加が困難となっているような場合もございますので、そういった場合には、その保護司御本人と、所属しております保護司会と協議するなどしまして、何とか保護司活動を円滑にできないかということでお話合いをして、個別に対応しているというのが実情でございます。

鈴木(義)委員 そういう対応をされているんだったら、誰も見ていないという人がいるわけがないんですよね。肩書だけ、何か保護司という肩書をつけて、誰も見ていない、そういう人は解嘱されていいはずだと思うんですけれども、なぜそれが解嘱されないのかという、そこのところをもう一回。

宮田政府参考人 お答え申し上げます。

 近年、特に事件数が激減しておりまして、それと対応して、保護司さんの担当する件数も、負担という意味では減ってきているところもあるんですけれども、ただ一方で、先生御指摘いただきましたとおり、せっかく保護司になったんだから、保護司の処遇活動を体験したいという方もおられます。そのこともありまして、負担軽減、あるいは保護司の処遇経験を積んでいただくということで、保護観察あるいは環境調整の複数担当に積極的に今取り組んでいるところでございます。

鈴木(義)委員 これから法律の改正、今回、侮辱罪とは別の刑法の改正があって、現状の保護司の制度で努力はされているんでしょうけれども、なり手不足、高齢化、事務処理負担の問題とか、現状の実費負担で頑張っていらっしゃる保護司の方の費用負担の問題など、様々な問題が今あるわけですよね。

 刑法の改正で、拘禁刑に改正しますよ、社会にどんどんなじんでもらうようにやっていきましょうということなんでしょうけれども、でも、今まで形式的なことにとらわれがち。例えば、月に二回面談しなさいと言っていても、ほとんど変わらない方もいらっしゃるわけだ。生活の状況が余り変わらない。中には、本来、旅行に出かけるとか居住地から違うところに出かけるといったときには、相手方から保護司に連絡をよこすというのがルール化されているにもかかわらず、分からない、月に二回会って。

 そういう、今まで何十年となく保護司のやり方をずっと踏襲してきたんでしょうけれども、もうそろそろやはり、一回現場をよく精査して、改正していかないと、また混乱が起きるんじゃないかというふうに思います。

 その中で、大臣に、この刑法の改正に伴って、保護司の方、これもお話を聞くと、観察者というのは二人、それと、刑務所と実社会との間を取り持つ仕事で二人分、家族若しくはその知人の中での環境を整える仕事で、都合四人分の仕事を受け持っているというんですね。だから、真面目にやろうという方もいらっしゃれば、先ほど申し上げたように、肩書だけで終わっちゃって、よくそこのところは話合いをしてどうするかというんですけれども、それを今までずっとやってきたんだよね。

 その辺を含めて、大臣、どうこの保護司の制度を今回の法律の改正に基づいて生かしていこうとお考えなのか、お尋ねしたいと思います。

古川国務大臣 委員からは大変重要な指摘をいただいたということで、感謝を申し上げたいと思います。

 御案内のとおり、保護司は、社会奉仕の精神から無償で自発的に、犯罪をした者等の立ち直りを支援するほか、地域活動にも従事されておられる民間ボランティアでありまして、地域の安全、安心を支え続けていただいている、まさに国の宝だというふうに私は思います。しかし、現状で、これでいいというような認識は持っておりません。

 そこで、私ども法務省におきましても、保護司の皆様がこうした活動に支障なく取り組めるように、保護司の御苦労や御負担などを軽減すべく、処遇の円滑化に資する参考資料の配付や研修の実施、保護司複数指名の積極化、更生保護サポートセンターの設置などの取組を進めてきたところでございます。しかし、今、先ほど御指摘もいただきましたけれども、これが十分だというような認識に立っているわけではございません。

 また、今回の法改正によりまして、保護観察付執行猶予を受ける者の増加も予想されます。ですから、保護司活動のデジタル化の着実な実施、面接場所の提供といった地方公共団体による支援の拡充など、保護司活動の環境整備や、保護司会の事務も含めた負担軽減に一層取り組んで、保護司制度を将来に向けて持続可能なものにしていかなきゃいけない、こういう問題意識を持っております。

 一方で、繰り返しになりますが、委員御指摘いただきましたように、現状、十分にその我々の考え方が達成できているという状況ではないと思いますから、そこは、持続可能なものになるように、国の宝である保護司制度がしっかりとこれからも社会を支えていただけるように、しっかり努力を続けていきたいというふうに思います。

鈴木(義)委員 時間が来ているので終わりにしますけれども、若い方にセミナーをやっているといっても、三十代、四十代の人が、五十代、六十代の観察官に、諭せるかといったら、私は難しいと思いますよ。そのところもちゃんと考えて制度を構築していってもらいたいと思います。

 終わります。

鈴木委員長 次に、本村伸子君。

本村委員 日本共産党の本村伸子でございます。どうぞよろしくお願いを申し上げます。

 まず、侮辱罪に関して質問をいたします。

 侮辱罪の法定刑の引上げによって、言論の自由、とりわけ権力に対する言論の自由が脅かされることがあってはならない、萎縮があってはならないという立場から質問をいたします。

 先ほど、葉梨議員の質問に対して、侮辱罪の現行犯逮捕は相当に限られると法務大臣が御答弁されました。また、国家公安委員長が、藤岡議員の質問に対して、全くないとは言えないということで、結局のところ、判断するのは現場の警察官ということで、ないとは言えないわけですから。

 前回の法務委員会の質疑に続いて、北海道警察のやじ排除事件について伺いたいというふうに思います。

 北海道のこの事件なんですけれども、札幌地裁は判決の中で、警察の活動は違法、違憲という判断をいたしましたけれども、その北海道警察の対応は正しかったと二之湯国家公安委員長が答弁されました。

 そこで伺いますけれども、どの法律のどの条文に基づく活動で正しかったというふうに言っておられるのか、二之湯国家公安委員長にお伺いしたいと思います。

二之湯国務大臣 委員御指摘の、昨年、一昨年ですか、札幌駅前の安倍総理の演説で、男性が大声を上げ、周囲からは反発の声が上がって、聴衆の一人がその男性を手で押すなどの行為も発生したことから、北海道警察はトラブル防止の観点から、警察官職務執行法第四条、第五条に基づき当該男性を移動させたということを報告を受けております。

本村委員 札幌地裁の判決では、警察官職務執行法四条の一項の部分の、判決の中でも、画像記録が残っておりまして、それを見ても、警察官の証言が事実として認められない、警察官の証言はにわかに採用することができない、こういうことが何度も何度も書かれております。

 そして、警察の主張は疑問なしとはし得ないですとか、警察官の証言はにわかに採用することができないということで、警察官職務執行法四条一項及び五条の要件を充足していないのであって、かかる有形力の行使は、国家賠償法の一条一項の適用上、違法と言わざるを得ないと。

 警察法二条のところでも、争点五のところでも言われていますけれども、被告の、警察ですね、被告の主張はそもそも前提を欠く、警察官の証言に飛躍があるというふうに判断をされておりまして、また、争点六のところでも、警察法二条所定の警察の責務を達成するために適法に行われた職務行為と言うことはできないのであって、国家賠償法一条一項の適用上、明らかに違法というふうに判断をされております。

 その上で、公共的、政治的な表現行為は特別に尊重されなければならないということで、北海道警察の行為がやはり憲法に反しているというふうにされたわけでございます。

 これを正しかったというふうに、国家公安委員長の下で、そういう判断をしている国家公安委員長の下で全国の警察が動くわけでございます。事実に反することを警察官が証言をして、でっち上げるというようなことが警察であってはならないというふうに思うわけです。こういう判断をする警察が侮辱罪で現行犯逮捕を判断することになるわけです。恣意的な運用があるのではないかというふうに心配されるのは当然だというふうに思うんですね。

 北海道警察の誤りをしっかりと認め、ちゃんと反省をしていかないと駄目なんじゃないかというふうに思うんですけれども、国家公安委員長、お答えをいただきたいと思います。

二之湯国務大臣 今、議員御指摘の北海道の件でございますけれども、北海道警察は、現場におきまして、警察官職務執行法に基づきまして、要人や聴衆の安全確保、あるいは雑踏事故の防止等のために現場に赴いているわけでございまして、決して言論の自由を損ねたり、そういうことはない、このように思っております。

 ただ、現在、もう既に国家賠償請求訴訟が係属している事案でございますので、私としてはそれ以上のコメントを差し控えさせていただきたいと思います。

本村委員 この判決について真摯に受け止めていただきたいというふうに思うんです。

 先ほど来、現行犯逮捕の基準なども議論がありましたけれども、判決について、全国の警察に徹底するということも言われているんですが、そこでお伺いしたいというふうに思います。

 何が侮辱罪に当たるかについての判決の蓄積があるということで、改めてお伺いをしたいというふうに思いますけれども、全部で何件あるのかということ、そして、原告、被告、個人、法人の別、どういう分類、分析をしているのか、お答えをいただきたいというふうに思います。

川原政府参考人 お答えをいたします。

 まず、侮辱罪として処罰された事案の件数についてでございますが、平成二十八年から令和三年までの間に侮辱罪のみによりまして第一審判決又は略式命令のあった者は、合計百六十一人でございます。

 これらの事案につきまして、個人、法人という分類での把握はしておらず、この点についてお答えすることは困難でございます。

 また、この事案のうち、事案の概要や科刑、具体的にどのような刑罰が科されたか、そういった状況まで把握しておりますのは、令和二年中に侮辱罪のみにより第一審判決・略式命令のあった事例の合計三十件でございまして、これらにつきましては、法制審議会の部会に事例集としてまとめて提出し、法務省のウェブサイトに掲載しているところでございます。

本村委員 十分な分析がされていないというふうに思うんですけれども、とりわけ重要な政治的な表現行為に関して、この濫用があってはならないということですけれども、せめて大臣とか、あるいは議員ですとか、政治家に対する発言、発信、ここの部分でそれぞれ何件あるのか、原告、被告の、個人、法人の別、どういう分類、分析があるのかというのをお示しいただきたいと思いますけれども、いかがでしょうか。

川原政府参考人 お答え申し上げます。

 先ほども御答弁申し上げましたように、事案の概要まで把握しているのは令和二年中の三十件でございまして、これは事例集に掲載しているところでございますが、この事例集に掲載された内容からは被害者の特定につながるような分類を明らかにしておりませんので、今のお尋ねにつきましてはお答えすることが困難でございます。

本村委員 同じ刑法でも、性犯罪刑法の場合ですと、法改正の必要性を調べるに当たっても、その判決とか起訴、不起訴を調べて、法の運用、解釈がどうだったのかということを法務省が調べておりますけれども、なぜこの侮辱罪の判決は調べていないんでしょうか。

川原政府参考人 お答え申し上げます。

 今回私どもで提案させていただいています法改正は、先ほど来から答弁申し上げておりますように、構成要件は全く変更せずに、法定刑の引上げのみでございます。したがいまして、処罰の範囲が従前と変わらないということが前提でございます。

 その上で、今答弁申し上げましたように、法制審議会の議論におきましては、平成二年中の事例につきまして事例集を作成し、提出し、さらに、これを一般の皆様が御覧いただけるように法務省のホームページに掲載をしているというところでございます。

本村委員 しかし、今回の法改正でより現行犯逮捕ができやすくなるわけですから、現場に徹底しなくてはならないという意味でもしっかりとやる必要があるんじゃないですか。大臣、お答えをいただきたいと思います。

川原政府参考人 お答え申し上げます。

 繰り返しでございますが、今回の法改正は法定刑の引上げでございまして、犯罪の成立する範囲というものについて変更がないものでございますので、先ほど申し上げたような対応をしているものでございます。

 一方、逮捕がどうこうという話になりますと、犯罪の成立する範囲の問題とはまた別のことでございますので、私どもとして、繰り返しでございますが、先ほど委員が例に出されました性犯罪の法改正などとの関係でいえば、先ほど来申し上げていますように構成要件の変更がないということで先ほどの対応をしているところでございます。

 それから、先ほどの答弁、一点訂正させていただきます。

 私、令和二年と申し上げるところを平成二年と申し上げておりますので、令和に訂正させていただきます。

本村委員 そういう状況では、やはり恣意的な濫用があるのではないかということが心配されるわけでございます。

 これだけやるわけにはいかないので、次に拘禁刑について質問させていただきたいと思います。

 資料を出させていただいておりますけれども、ネルソン・マンデラ・ルールズと言われる、国連の被拘禁者処遇最低基準がございます。そこの資料を出させていただいておりますけれども、規則三のところに、「拘禁刑及び個人を外界から分離するその他の処分は、その者から自由を剥奪することにより、自己決定の権利を奪うものであって、まさしくこの事実こそが、その者に苦痛を与える。それゆえに、刑務制度は、正当な理由に基づく分離拘禁又は規律の維持に伴う場合を除いては、この状態に固有の苦痛をそれ以上に増大させてはならない。」というふうに書かれております。

 これが国際的な潮流なんですけれども、一方で、今回の刑法の改定は、拘禁刑なんですけれども、作業の義務がなかった禁錮刑をなくし、実質、懲役刑に一本化する、拘禁した上に作業も指導もやるというふうになっております。

 これは、ネルソン・マンデラ・ルールズと逆の方向を向いているんじゃないかというふうに思いますけれども、大臣、お答えをいただきたいと思います。

古川国務大臣 この改正案におきましては、個々の受刑者の特性に応じ、改善更生、再犯防止の上で重要な意義を有する作業と指導とをベストミックスした処遇を行うことができるようにするため、拘禁刑を創設することとしております。

 仮に、拘禁刑に処せられた者に作業や指導を義務づけることができないとすれば、作業や指導を拒む者に対し、改善更生、再犯防止のための働きかけを行うことが不可能になり、拘禁刑創設の目的が達成できないことになります。ですから、作業や指導を義務づけることができるということとしております。

 自由の剥奪以上に苦痛を増大させてはならない旨規定する御指摘のこの規則は、法的拘束力のある国際約束ではないと承知をいたしておりますが、いずれにしても、刑事収容施設法においては、「作業は、できる限り、受刑者の勤労意欲を高め、これに職業上有用な知識及び技能を習得させるように実施するものとする。」と規定され、行刑における作業の積極的意義が明らかにされており、拘禁刑においては、作業を、報い、懲らしめとして課すというよりも、むしろ、罪を犯した者の改善更生、再犯防止という特別予防のために課すものとして位置づけることとしているものでございます。

本村委員 もう時間になってしまいましたけれども、まだまだ論点がたくさんございます。次、採決という提案も与党からありましたけれども、十分な審議を強く求め、質問を終わらせていただきます。

 ありがとうございました。

鈴木委員長 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。

    午後零時十六分散会


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