衆議院

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第16号 令和4年5月18日(水曜日)

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令和四年五月十八日(水曜日)

    午前九時一分開議

 出席委員

   委員長 鈴木 馨祐君

   理事 井出 庸生君 理事 熊田 裕通君

   理事 葉梨 康弘君 理事 山田 美樹君

   理事 鎌田さゆり君 理事 階   猛君

   理事 守島  正君 理事 大口 善徳君

      東  国幹君    五十嵐 清君

      井野 俊郎君    石橋林太郎君

      尾崎 正直君    奥野 信亮君

      鈴木 英敬君    田所 嘉徳君

      高見 康裕君    谷川 とむ君

      中谷 真一君    中野 英幸君

      西田 昭二君    西野 太亮君

      野中  厚君    八木 哲也君

      山田 賢司君    伊藤 俊輔君

      鈴木 庸介君    藤岡 隆雄君

      山田 勝彦君    米山 隆一君

      阿部 弘樹君    前川 清成君

      日下 正喜君    福重 隆浩君

      鈴木 義弘君    本村 伸子君

    …………………………………

   議員           鎌田さゆり君

   議員           米山 隆一君

   法務大臣         古川 禎久君

   総務副大臣        中西 祐介君

   法務副大臣        津島  淳君

   法務大臣政務官      加田 裕之君

   最高裁判所事務総局民事局長            門田 友昌君

   最高裁判所事務総局刑事局長            吉崎 佳弥君

   政府参考人

   (警察庁刑事局長)    大賀 眞一君

   政府参考人

   (総務省総合通信基盤局電気通信事業部長)     北林 大昌君

   政府参考人

   (法務省大臣官房司法法制部長)          竹内  努君

   政府参考人

   (法務省刑事局長)    川原 隆司君

   政府参考人

   (法務省矯正局長)    佐伯 紀男君

   政府参考人

   (法務省人権擁護局長)  松下 裕子君

   法務委員会専門員     藤井 宏治君

    ―――――――――――――

委員の異動

五月十八日

 辞任         補欠選任

  東  国幹君     西野 太亮君

  国定 勇人君     鈴木 英敬君

  中谷 真一君     井野 俊郎君

同日

 辞任         補欠選任

  井野 俊郎君     中谷 真一君

  鈴木 英敬君     国定 勇人君

  西野 太亮君     東  国幹君

    ―――――――――――――

五月十六日

 国籍選択制度の廃止に関する請願(中川正春君紹介)(第九六〇号)

 元々日本国籍を持っている人が日本国籍を自動的に喪失しないよう求めることに関する請願(中川正春君紹介)(第九六一号)

 選択的夫婦別姓制度導入の民法改正を求めることに関する請願(鎌田さゆり君紹介)(第九六二号)

 同(寺田学君紹介)(第九六三号)

 同(西村智奈美君紹介)(第九七四号)

 同(大河原まさこ君紹介)(第九九九号)

 同(大石あきこ君紹介)(第一〇二八号)

 同(枝野幸男君紹介)(第一一二四号)

 民法・戸籍法の差別的規定の廃止・法改正に関する請願(大石あきこ君紹介)(第一〇五九号)

 同(大河原まさこ君紹介)(第一〇七四号)

 同(近藤昭一君紹介)(第一〇七五号)

 同(枝野幸男君紹介)(第一一二五号)

 同(笠井亮君紹介)(第一一七七号)

 民法を改正し、選択的夫婦別氏制度の導入を求めることに関する請願(泉健太君紹介)(第一〇六〇号)

 同(前原誠司君紹介)(第一〇六一号)

 子供の性虐待・性搾取被害悪化の現状に鑑み国連勧告に沿った児童買春・児童ポルノ禁止法の抜本的改正を求めることに関する請願(大河原まさこ君紹介)(第一〇七三号)

 外国人住民基本法と人種差別撤廃基本法の制定に関する請願(阿部知子君紹介)(第一一四五号)

は本委員会に付託された。

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 政府参考人出頭要求に関する件

 刑法等の一部を改正する法律案(内閣提出第五七号)

 刑法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整理等に関する法律案(内閣提出第五八号)

 刑法等の一部を改正する法律案(米山隆一君外二名提出、衆法第三一号)


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     ――――◇―――――

鈴木委員長 これより会議を開きます。

 内閣提出、刑法等の一部を改正する法律案及びこれに対する階猛君提出の修正案、刑法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整理等に関する法律案並びに米山隆一君外二名提出、刑法等の一部を改正する法律案の各案及び修正案を一括して議題といたします。

 この際、内閣提出、刑法等の一部を改正する法律案に対し、山田美樹君外四名から、自由民主党、立憲民主党・無所属、日本維新の会、公明党及び国民民主党・無所属クラブの共同提案による修正案が提出されております。

 提出者から趣旨の説明を聴取いたします。伊藤俊輔君。

    ―――――――――――――

 刑法等の一部を改正する法律案に対する修正案

    〔本号末尾に掲載〕

    ―――――――――――――

伊藤(俊)委員 ただいま議題となりました修正案につきまして、提出者を代表し、その趣旨を御説明申し上げます。

 本修正案は、法律案の附則に、政府は、侮辱罪の法定刑の引上げを定める第一条の規定の施行後三年を経過したときは、同条の規定による改正後の刑法第二百三十一条の規定の施行の状況について、同条の規定がインターネット上の誹謗中傷に適切に対処することができているかどうか、表現の自由その他の自由に対する不当な制約になっていないかどうか等の観点から外部有識者を交えて検証を行い、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする規定を追加するものであります。

 何とぞ委員各位の御賛同をお願い申し上げます。

鈴木委員長 これにて修正案の趣旨の説明は終わりました。

    ―――――――――――――

鈴木委員長 この際、お諮りいたします。

 各案及び両修正案審査のため、本日、政府参考人として警察庁刑事局長大賀眞一君、総務省総合通信基盤局電気通信事業部長北林大昌君、法務省大臣官房司法法制部長竹内努君、法務省刑事局長川原隆司君、法務省矯正局長佐伯紀男君及び法務省人権擁護局長松下裕子君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

鈴木委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

鈴木委員長 次に、お諮りいたします。

 本日、最高裁判所事務総局民事局長門田友昌君及び刑事局長吉崎佳弥君から出席説明の要求がありますので、これを承認するに御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

鈴木委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

鈴木委員長 これより各案及び両修正案を一括して質疑を行います。

 質疑の申出がありますので、順次これを許します。鈴木庸介君。

鈴木(庸)委員 立憲民主党・無所属の鈴木庸介です。今日もよろしくお願いを申し上げます。

 まずお伺いしたいのは、今回、侮辱罪については、現行犯逮捕は、逮捕時に、犯罪であることが明白で、かつ、犯人も明白である場合にしか行うことができない。中略。侮辱罪については、表現行為という性質上、逮捕時に、正当行為が明白と言える場合は、実際上想定されない、つまり、現行犯逮捕は実際にはあり得ないという政府からの見解が出ておりますけれども、見解ということについて我々は大変苦い思い出がございます。

 というのは、政府の見解をめぐっては、二〇二〇年に検察庁法の解釈変更について、国民にも、もちろん我々野党にもその変更について周知をしていただくことができませんでした。この理由について、我が党の蓮舫参議院議員が質問主意書を出したんですが、戻ってきた答弁書には、「国民生活への影響等がないと考えられたことから、」と答弁をされております。

 そこで、まず大臣に伺わせていただきたいと思います。

 今回の侮辱罪の厳罰化については、国民生活への影響はあると考えていらっしゃいますでしょうか、それともないと考えていらっしゃいますでしょうか。

古川国務大臣 お答えいたします。

 今回の侮辱罪の法定刑の引上げについてですけれども、これは、構成要件を変更しておりませんから、対象となる行為の範囲が何ら変わるものではございません。ですから、これまで処罰されなかったものが新たに処罰されるというようなこともありませんし、表現の自由を脅かすものでもないというふうに考えております。

 また、法定刑についても、下限を維持したままで上限を引き上げるわけですから、ですから、比較的軽微な行為であってもそれが一律重罰を科せられるというようなものでもございません。

 したがいまして、私は、私どもは、確信を持って、表現の自由というものを脅かすものではないというふうに確信を持って考えておりますけれども、しかし、この委員会におきまして、数多くの委員からそこへの影響を懸念する御指摘が提出されております。私は、この表現の自由という価値は非常に重要な価値であるというふうに考えますから、したがいまして、そのような御指摘に対しては真摯に受け止めたいというふうに考えております。

 そこで、大事なことは、国民の皆さんが不当に、そういうものに対する不安や懸念を持つことがあってはならないわけで、そのためには、きちんとした説明をするのは大事なことだというふうに思いますから、これまでの経緯の中で、侮辱罪による現行犯逮捕の可否などについて、侮辱罪成否の基準というようなことについて、先に政府統一見解としてお示しをさせていただいた、こういう経緯でございました。

 このお示しをさせていただいた内容、現行犯逮捕の可否ということですけれども、これについては、もう既に私ども、事務方から報道機関にも広報し、説明をさせていただいているところであります。

 今、委員からは、苦い経験があるということで、よもや今回もそういうことはないだろうなという御懸念の上での御質問だというふうに私受け止めさせていただいた上で、今申し上げられますのは、今回お示しした見解を変更することは考えておりませんということをはっきり申し上げたいと思います。

 そして、万が一ですよ、社会が事情変更、大きな変化があって、何らか、万が一にも変更をするということになった場合には、その場合には国民生活への影響等を踏まえて適切な形で周知をしていきたいと思います。それはもう当たり前のことです。まあ、そういうことはないと思うのですけれども。

 はっきり申し上げておきますのは、今回お示しをさせていただいた見解を変更するということは考えておりません。

鈴木(庸)委員 ありがとうございます。大変安心をいたしました。

 次に、幇助と教唆についてお伺いをさせてください。

 今回、懲役刑や罰金刑がつくられることによって、侮辱罪の幇助や教唆についても処罰できるということでよろしいでしょうか。その確認をさせてください。

川原政府参考人 お答え申し上げます。

 私どもの案では、従前、拘留又は科料であったものが、一年以下の懲役又は禁錮というところまで法定刑の上限が上がりますので、刑法の規定によりまして、教唆犯あるいは幇助犯についても処罰されることになるというところでございます。

鈴木(庸)委員 そうしますと、例えば、プロバイダーに対して悪質な書き込みの削除要求があった場合に、それを知りながらプロバイダーが放置しているうちに物すごい数の人たちに広まってしまうようなケースというものはあり得ると思うんですね。

 つまり、不作為犯による幇助というところになるわけでございますけれども、この不作為犯による幇助ということについても成り立ってしまうケースがあると考えるんですが、その点についてはどのようにお考えでしょうか。

川原政府参考人 お答え申し上げます。

 今、済みません、委員の御質問の、最初、プロバイダーがという形で具体的な例を挙げて、質問の終わりの方で、不作為による幇助はあり得るのかということもおっしゃっておられました。

鈴木(庸)委員 プロバイダーが、削除要求があった場合に、それを放置していた場合ということですね。

川原政府参考人 分かりました。お答えいたします。

 具体的にプロバイダーの問題についてお答えをいたしたいと思います。

 犯罪の成否につきましては、再三御答弁申し上げていますように、収集された証拠に基づき事案ごとに判断される事柄でございますので、お尋ねのようなプロバイダーの事例が侮辱罪の幇助犯で成立するかどうかにつきましては、法務省としてこの場で確定的なお答えをすることは困難であるということを御理解していただきたいと思います。

 その上で、幇助犯が成立するためには、他人の犯罪を容易ならしめる行為を、それと認識、認容しつつ行い、実際に正犯行為が行われたことが必要であります。したがって、こういった基準に基づいて、個別の事案において、証拠に基づいて、こういった事実関係があるかどうかということで幇助犯の成否が決せられるところでございます。

鈴木(庸)委員 ゼロではないという、そういった答弁と理解をいたしました。

 また、侮辱罪の教唆についても、例えば、あいつはどうしようもないやつだから、ひどい書き込みをしちゃえしちゃえみたいな場合というのは、これは教唆犯になり得るのでしょうか。同じ答弁でしたら、もう大丈夫です。はいだけで結構です。

川原政府参考人 お答え申し上げます。

 繰り返しですが、具体的な犯罪の成否というのはお答えを差し控えさせていただきたいところでございますが、教唆犯が成立するためには、一般論として申し上げれば、他人を唆して犯罪実行の決意を生じさせ、その決意に基づいて犯罪を実行させたことが必要であると解されておりますので、具体的事案がこれに当たるかどうかによりまして教唆犯の成否が決せられるところでございます。

鈴木(庸)委員 個別具体的なケースにはという、そういうことになるとは思うんですけれども、申し上げたいのは、この法律ができることによって、悪質な誹謗中傷の書き込みについては、プロバイダーも幇助に問われる可能性はゼロではないのかというところについて申し上げたいんですね。

 悪質な書き込みを理解した上で放置していた場合は、プロバイダーについても、プロバイダー責任制限法の範囲以外のところでも刑事責任を問われる可能性はゼロではないのではないかということを少しでも認識をしていただいて、また、教唆についても、軽い乗りで書いちゃえ書いちゃえみたいにあおったりすることで罪に問われる可能性がゼロではないということも含めて、言論の自由は担保した上で、今回の改正が悪質な書き込みについての抑制につながればいいということを改めて願うところでございます。

 次に、現行犯逮捕について伺わせてください。

 まず、一般論としての私人による現行犯逮捕の流れについて、警察庁から御説明をいただきたいと思います。

大賀政府参考人 一般論といたしまして、私人が、犯罪が行われたことが明白であるという場合には、現行犯逮捕ができるということになっております。

 私人が現行犯逮捕、現行犯人を逮捕した場合には、警察ではその私人から現行犯人の引渡しを受けるということになりますけれども、その後、警察では、被疑者に弁解の機会を与えるなどした後、個別具体のケースごとになりますけれども、被疑者を留置するかどうかを判断するということになります。

鈴木(庸)委員 心配なことがありまして、これはちょっと資料を見ていただきたいと思うんですね。

 これは現行犯人逮捕手続書ということで、今局長から御答弁いただいた私人逮捕の場合に、司法警察員なりに引き渡すときに必要な紙になってくるわけでございますけれども、この現行犯人逮捕手続書(乙)という書類を作成するわけなんですが、確認したいのは、この書類を書いた時点で、警察にある前歴のデータベースに検挙歴として登録されると伺いました。つまり、手続上は、私人による現行犯逮捕でも、前歴や検挙歴として警察にデータは残ってしまうということで、質問取りのときに伺ったんですが、そういう理解でよろしいんでしょうか。

大賀政府参考人 前歴とは、一般に、被疑者として検挙された経歴ということでございますが、警察では、検挙とは、逮捕の有無にかかわらず、犯罪について、被疑者を特定して、必要な捜査を遂げ、検察庁に送致等をすることとしております。

 一般に、被疑者を逮捕した場合には、逮捕をもって検挙として取り扱っているところでございまして、侮辱罪の私人逮捕であっても変わることはございません。そのため、私人が逮捕した被疑者であれば、その時点で犯罪経歴が残るということが原則でございます。

鈴木(庸)委員 留置や送致はないということなんですけれども、警察庁のデータには検挙歴として残ってしまう、そういったことになるかと思うんですが、例えば、強烈な嫌がらせを受けて恨みに思っていた、そのときに、あのやろう許せないなと思って、その家族も含めて、どんどんどんどんどんどん、侮辱罪だ侮辱罪だといって、私人逮捕私人逮捕と連れてきてしまう。当然、送致等はされないとは思うんですけれども、検挙歴として警察のデータベースには残ってしまう。

 そうすると、一般の何も知らない人たちから言わせると、あの家族は全員検挙歴があるんだみたいな言い方をしても、法律上は整合性が取れてしまう、そういうことになってしまうと思うんですけれども、その点についてはいかがでしょうか。

大賀政府参考人 先ほど答弁をしたとおりでございまして、私人が逮捕した被疑者であっても、原則として犯罪経歴として残りますけれども、例えば誤認逮捕でありますとか、経歴として残しておく必要がない場合にはその経歴を消すということは当然あり得ます。

鈴木(庸)委員 現場の警察官で地域課の友達とかがいるので、実際どうなの、連れてきたらどうするのという話を聞いたら、基本的には、侮辱罪の現行犯人逮捕で誰か連れてきたとしても、普通は、いや、それは現行犯逮捕になじみませんからといって追い返す、ただ、全国で三十万人近く警察官の方がいらっしゃるわけですから、全ての警察官が同じ対応をされるかどうかとなると、それは分からないなというような答えが印象に残りました。

 その上で、先日の答弁によりますと、侮辱罪について、現行犯逮捕の要件を満たすことは実際には想定されていないということなので、私人が現行犯逮捕といって警察に連れてきたとしても、現行犯逮捕の要件を満たすことは実際には想定されないということになります。

 申し上げたいのは、伺いたいのは、私人が侮辱罪の現行犯人を逮捕したといって警察に連れてきたとしても、対応をした警察官の方は、逮捕の要件を満たさないと判断して、犯人の身柄を受け取ることはしないで、現行犯人逮捕手続書も作らない、逮捕歴、検挙歴としてもデータベースに登録しないような運用というのはできないのかなと考えるんですが、その辺り、御検討いただけないでしょうか。

大賀政府参考人 私人が逮捕したとして警察へ連れてきたという場合でございますけれども、当該行為が、実際、逮捕行為として評価できなければ、そこで事情だけ聞いてお帰りいただくということはありますけれども、実際、逮捕行為として評価できるような状況、例えば、有形力を行使して拘束をして連れてきた、連れてこられたという場合は、これは法律上、警察では、現行犯逮捕したということでありますので、現行犯人を受け取って所要の手続を進めるということにならざるを得ないと考えております。

鈴木(庸)委員 是非、警察庁から現場の警察官に対して、この委員会でも、両筆頭を始め理事、そして委員の皆さんが、大変長い、大変な思いをして積み重ねてきた議論ですので、そういったよく訳の分からないことが起こらないように指導していただきたいなとお願いを申し上げまして、私の質問を終わらせていただきます。

 ありがとうございました。

鈴木委員長 次に、米山隆一君。

米山委員 それでは、会派を代表して質問させていただきます。

 今ほども話題になりましたけれども、犯罪であることが明白ということは、違法性を阻却する事由がないことも明白ということであり、侮辱罪については、表現行為という性質上、逮捕時に、正当行為でないことが明白と言える場合は、実際上想定されないという政府統一見解が示されたわけなんですけれども、また例を言うと言わないのかもしれませんが、例えば、道でたまたまぶつかった相手に対して、ぼけっとするな、このばかといったような言論は、法令上の根拠があるわけでも業務によるものでもないことは一見して明白であると思います。

 ちなみに、三十五条、正当行為というのは、「法令又は正当な業務による行為は、罰しない。」と記しているだけなんですけれども、今ほどの、道でぶつかっただけの相手に、ぼけっとするな、このばかと言ったような場合には、業務によるものでもないし法令上の根拠もないことは一見して明白であると思います。にもかかわらず、なぜ、逮捕時に正当行為でないことが明白と言える場合は実際上想定されないのか、その理由をお聞かせください。

古川国務大臣 お答えいたします。

 政府統一見解としてお示しいたしましたとおり、犯罪であることが明白というのは、違法性を阻却する事由がないことも明白ということでありまして、侮辱罪については、表現行為という性質上、逮捕時に、正当行為でないことが明白と言える場合は、実際上は想定されないものと考えております。

 より具体的に申し上げますと、侮辱罪の成否が問題となるのは表現行為であることから、その性質上、仮に構成要件に該当したとしても、違法性阻却事由の存否に関して、表現の自由などの憲法上の重要な権利との関係を慎重に考慮しなければ正当行為かどうかを判断できないので、実際上は逮捕時の状況だけで正当行為でないことが明白とまで言える事案というのは想定されない、そのためでございます。

米山委員 大変すばらしい御答弁、ありがとうございます。

 それはつまり、侮辱というのは非常に一般社会で一般的に行われていることだと思うんですね、程度の差こそあれ。そういった様々な侮辱行為というのは、通常、社会的に相当な正当行為となる、若しくは少なくとも正当行為となり得る可能性があるということでよろしいですね。

古川国務大臣 結構でございます。

米山委員 これも大変すばらしい御答弁かと思います。

 それでは、ちょっと話題を変えさせていただくんですけれども、これは関係あるので一応お答えいただきたいんですが、道路交通法六十五条は、「何人も、酒気を帯びて車両等を運転してはならない。」と定めておりますが、奈良漬けを食べて運転した場合は酒気帯び運転に当たりますでしょうか。お答えをお願いします。

川原政府参考人 お答えいたします。

 再三お答え申し上げておりますとおり、犯罪の成否は、収集された証拠に基づき事案ごとに判断される事柄でございますので、お尋ねの行為がいわゆる酒気帯び運転罪に該当するかどうかにつきまして、法務省としてこの場で確定的なお答えをすることは困難でございます。

 道路交通法は法務省の所管外でありますので、お答えすべき立場にはないところでございますが、お尋ねでありますので、あくまで一般論として申し上げますと、酒気を帯びて車両等を運転した者で、その運転をした場合において、血液一ミリリットルにつき〇・三ミリグラム以上又は呼気一リットルにつき〇・一五ミリグラム以上のアルコールを身体に保有する状態にあった者は、道路交通法百十七条の二の二第三号に該当するものと承知しております。

米山委員 私がお配りした資料四枚目、五枚目、六枚目を御覧ください。

 こちらは、二〇〇七年の道路交通法改正におきまして、酒気帯び運転の法定刑が、一年以下の懲役又は三十万円以下の罰金から、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に厳罰化される際の第百六十六回国会参議院法務委員会での質疑でございます。

 ここにおきまして、警察庁長官官房審議官が、奈良漬けとか一定のアルコールでほとんど影響のないものにつきましては、処罰としては酒気帯びにならないということで処罰しておりませんと回答しております。なぜ、ここでは回答できて、今回答できないのか、御見解をお答えください。

古川国務大臣 お答えいたします。

 法務省において道路交通法を所管しておりませんし、また、御指摘の答弁につきましては警察庁の政府参考人によるものでございますから、法務大臣としてお答えする立場にはございません。

 また、具体的な事例における犯罪の成否というものは、捜査機関や裁判所において事案ごとに判断されるべきものでございます。仮に法務省において犯罪の成否を論じた場合には、検察を含む捜査機関や裁判所に不当な影響を与えるおそれがあるほか、社会一般に対して誤解を与えるおそれがあることから、法務大臣としてこの場で確定的なお答えをすることは困難でございます。

米山委員 つまり、この警察庁長官官房審議官の答弁は、裁判に対して不当な影響を与える極めて不適切な答弁であったということでよろしいですね。

古川国務大臣 先ほども御答弁申しましたように、法務大臣としてお答えすべき立場にはございませんが、あえて、お尋ねでございますから、私の認識を申し上げますと、御指摘の政府参考人の答弁は、個別具体的な事例における犯罪の成否についての見解を示したものではなく、単に一般論として、酒酔い運転の禁止との対比で酒気帯び運転罪の構成要件には該当しない例として説明されたものと承知をいたしております。

 いずれにしても、法務大臣としてはこの場で確定的なお答えをすることはできないということを重ねて申し上げます。

米山委員 じゃ、どのみち答えないのでもう最初から言いますけれども、ちなみに、道路交通法第六十六条には、「何人も、前条第一項に規定する場合のほか、過労、病気、薬物の影響その他の理由により、正常な運転ができないおそれがある状態で車両等を運転してはならない。」という過労運転の規定がございます。

 これに対しても、二〇〇一年の道路交通法改正で過労運転の罰則を一年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に引き上げた際の第百五十一回衆議院内閣委員会で質疑がなされておりまして、当時警察庁交通局長が、このときに、質問として、疲れて運転した場合には過労運転罪になりますかと聞いたときに、警察庁交通局長が、通称過労運転と呼んでおりますけれども、これは、過労とかあるいは病気などによりまして正常な運転ができないおそれがある状態で車両等を運転する行為でございまして、この典型がいわゆる居眠り運転だと思いますけれども、ただ、居眠りがあったからといって直ちに過労運転であるといったような形で認定してはおりませんでして、事案ごとに、具体的に、あるいは客観的事実に照らしまして認定を行っているということでございます、具体的に申しますと、交通事故が発生したその捜査の現場におきまして、連続して運転した時間がどのぐらいあったとか、あるいは業務上拘束されている時間がどのぐらいあったのかとか、あるいはその間に休息時間をどのぐらい取ったのか、あるいは何回取ったのかといったようなことを総合的に判断いたしまして、過労等による居眠り運転が原因であると認められた場合におきましては、その運転行為を過労運転違反といったような形で認定しているのでございますと答弁しております。

 ですので、ちなみに、私、何度も事案を挙げて、それは当たりますかと聞いておりますが、今ほど大臣がまさに御答弁していただいたとおり、別段その個別の事例が、これも私は何度も言っているんですけれども、個別の事例が絶対に犯罪に値するかどうかということは聞いていないんです。そんなことは裁判になるまで、裁判で決定されるまで分からないに決まっているんですよ。

 だけれども、例えば、何度も、新しい条文ができたときだと言っていますけれども、こういうふうに単に刑罰が増えたときだって、今までは刑罰が軽いからよかったけれども、これからは酒気帯び運転で三年以下の懲役になる、じゃ、本当に奈良漬けは大丈夫なのかなと聞いたら、そうしたらちゃんと答えているわけです、奈良漬けで。この答えは、要するに、法律としては酒気帯び運転に当たりますけれども、政令で、先ほど、刑事局長ですかね、御答弁いただいたように、血液一ミリリットル当たり〇・三ミリグラム又は呼気一リットル当たり〇・一五ミリグラム以上のアルコールが含まれているときですよという基準を示しているわけです、ちゃんと、聞かれて。

 さらに、過労運転についても、今まで簡単な罪だったから見逃してきたけれども、重くなったと。じゃ、疲れて運転したら、一体全体それは過労運転になるのかなと聞いたら、それはもちろん個別になんて答えられないですよ。例えば私が、今日この質問をしたらもうぐったりしているんです、私、自分で車を運転して宿舎と国会を行き来していますから、これから運転して帰ったら過労運転ですかと聞いて、それが当たる当たらないと答えてほしいんじゃないんですよ。

 この警察庁交通局長のように、いや、それは、休息を取っているかとか、連続してどのぐらい運転したかとか、そういうことを基準に判断するんですよと答えてくだされば、それはみんな一定の判断基準になるわけです。酒気帯び運転みたいに数値でぴしっと画せるときは数値でぴしっと画したらいいですけれども、ありとあらゆるものを別にぴしっと画せるわけじゃなくて、それは、こういう過労運転みたいに、こういうことを総合的に考慮するんですよと言われるならば、それでちゃんと、何が社会的相当で何が社会的相当でないか分かるわけなんです。

 ちなみに、大臣、先ほど、大抵のものは社会的に相当であると考える余地があると言われたじゃないですか。でも、そうしたら一体何を考慮して社会的に相当だと考えるのか、そういうことを示してくださいと言っているわけなんです。

 ちなみに、例えば、私が考えるところでは、例えばですよ、侮辱そのものの程度、繰り返しの態様、被害者からの制止に対しての対応などを総合的に勘案して、その侮辱行為が人の内面の人格を傷つけた原因であるような場合において、諸般、それらの事情を総合的に考慮して、社会的相当性を欠いたものに関して処罰すべき侮辱罪としておりますと答えていただければ、それはみんな、ああ、これは、非常に度を越したような、繰り返されていたり、物すごい言葉を使っていたり、相手がやめてくれと言ったのにまだやっているような、そういう度を越した侮辱だけが処罰されるのであって、通常、世の中に見られるように、甲子園球場で三振したバッターに対して、引っ込め、ぼけとかいったようなものは、通常、それは社会的に相当の範囲だと思うから大丈夫ですというふうになるんだと思うんです。

 それをお示しくださいと言っているんですけれども、お示しいただけないですか。

古川国務大臣 個別の事案の犯罪の成否は、いつも申し上げておるとおり、法と証拠に基づき、最終的には司法において判断をされるということとなりますが、侮辱罪における侮辱にいかなる行為が当たるかという一般論としての基準については、申し上げていますとおり、これは裁判例等により処罰範囲の概念が明確にされていくというものだということでございます。

 そして、委員が幾つか事例をお示しになって、それが具体的にどうなのだということをいつもお尋ねになるわけですけれども、やはり法務大臣として、ここから先はアウトでここまではセーフというようなことを言えないということについては、再三私も申し上げているとおりでございます。

 侮辱罪が成立するかどうかということについては、当該発言の趣旨や目的、あるいは発言がなされたときの状況とか背景とか、それはもう様々あるわけですけれども、そういう事情をやはり考慮に入れた上で、そして刑事手続において、裁判所において最終的に判断をされるということでございますから、これは繰り返しになりますけれども、何か具体的なことを法務大臣として申し上げることはできないということを御理解をいただきたいと思います。

米山委員 そのお答えは、まるで正しいかのように言っておられますけれども、何度も言っていますが、全然正しくないんですよ。

 過労運転と言われたときに、何が過労ですかというのは、そんな具体的に言えるわけないですよね。だけれども、連続して運転しているとか、休みを取っていないとか、そういうことを総合的に判断する、多少なりとも例示しながらそれを言ってくれなかったら、誰も判断できないわけですよ。そうじゃないですか。だから、それを言ってくださいと言っているのであって、別に、個別のことに対してとか、画然と、必ず分かるような、別に酒気帯び運転じゃないんですから、それを言えと言っているのではありません。

 ちなみに、先ほどの政府見解は処罰例から出てきたとおっしゃられましたが、先ほど、大臣、ほとんどの侮辱行為は社会的相当である、正当行為に当たり得るからだと言いましたが、処罰例って正当行為に当たらないものしかないんですよ。そうでしょう、正当行為に当たったら処罰されないので。しかも、告訴状を受け取って処罰されない例は把握されていないと前回の委員会の答弁で答弁されていましたので、処罰されていない例は把握されていないんです。

 何で処罰例から先ほどの政府見解が出るのか、先ほどの大臣答弁が出るのか、なぜほとんどの侮辱行為は社会的相当性、正当行為の可能性があると言えるのか、理由をちゃんと説明してください。

古川国務大臣 繰り返しになりますけれども、過労運転に当たるかどうかというときに、委員御自身もおっしゃいましたように、様々なケースがあり得るわけで、そのときの状況だとか背景だとか、千差万別なわけです。そういうものは最終的には、罪が成立するかどうかということになりますと、これは最終的には司法においてそれを判断するということになるのでありまして、それを尊重すべき立場にある、司法権を尊重すべき立場にある者が何らかを申し上げることによって不当な影響を与えてはならない、そういうことを申し上げているわけでありまして、これはどうか御理解をいただきたいなというふうに思っているところです。

米山委員 そうしますと、繰り返し、押し問答になって本当に申し訳ないんですが、でも、大事なことだと思うんです。

 何で過労運転についてこの答弁をされたのか。休息時間だとか業務上の拘束とか、警察庁交通局長はなぜ御答弁されたのか。業務上拘束されている時間がどのぐらいあったのか、休息時間をどのぐらい取ったのか、何回取ったのかということをというふうに、わざわざ具体的な指標を示したのはなぜかというと、これを示しておけば、業務として、特に過労運転が一番類型的にありそうなトラック運転手さんとかで、ああ、これはちゃんとお休みを取らせればいいんだな、業務上拘束しなければいいんだな、何回休みを取らせればいいんだなと思える一般予防の効果が出るからなんです。そうじゃないですか。そうですよ。

 大臣、再三、先ほども冒頭すばらしい御答弁をされました。言論の自由は非常に重要だ、真摯に受け止める、それを萎縮しないようにしなければいけないとおっしゃられたじゃないですか。

 そうしたら、一体何が当たるのか当たらないのか、せめて、別に、それが、網羅的な基準を示せと言っているんじゃありません。極めてシンプルな基準は、我々立憲案が示したように、相手がやめてくれと言っているのに続けている場合など、などですよ、別にそれが全部とは言いません、などですよ、とか、言葉それ自体が非常に過ぎている場合などと言ってくれれば、皆さん、ああ、言葉を穏当にして、そして、相手がそれほど嫌がっていない、少なくとも嫌がっていることが明白だったらそれはやめようと思う。そうでないなら、別にそうじゃないものはいいとは言いませんけれども、少なくとも、三振したバッターに対して、引っ込め、ぼけぐらいは、それは球場の華だ、言ったっていいだろうと、特に萎縮しないで済むわけです。大臣、大臣はそれをできる立場にあるんです。

 かつ、ほかの方々は今まで全員してきたんです。あなただけがしていないんですよ。そうじゃないですか。今まで、ほかの官僚の方はちゃんと答弁している、ちゃんと一定の基準を示して、国民が分かりやすいようにしているわけです。なのに、何で、こんなにも言論の自由を重んじている大臣だけがされないんですか。

古川国務大臣 先ほど私が委員との間でやり取りをさせていただいたのは、現行犯逮捕について、侮辱罪についての答弁の中で、私は先ほどあのような答弁をさせていただいたわけですが、今のこの議論は、処罰されるかどうかということについて、これは微妙に論点が違ってきていますから、私は、正確に答弁を申し上げたいという趣旨で、改めて、侮辱罪による処罰についてのお尋ねということで御答弁をさせていただきたいわけですけれども。

 先ほど来申し上げておりますとおり、法務大臣としては確定的なお答えをすることは困難なのですけれども、法制審議会の部会におきましては、民事上の不法行為についての公正な論評の法理を踏まえつつ、民事上の不法行為責任より広く侮辱罪の成立が認められることはないとする考え方が示されたところでありまして、このような考え方は実務においても参照されるものというふうに考えています。

 刑事裁判において有罪判決を言い渡すことができるのは、犯罪の証明があったときでありまして、そのためには、構成要件該当事実が存在することだけでなく、犯罪の成立を阻却する事由が存在しないことについても、合理的な疑いを入れない程度に証明がなされる必要があります。

 したがいまして、侮辱罪による処罰につきましても、その構成要件に該当する事実が存在することだけでなく、正当行為などの違法性を阻却する事由が存在しないことについても、合理的な疑いを入れない程度に証明がなされる必要があると考えられます。

米山委員 今の御答弁は、前進したんですよね。要するに、逮捕のときのお話と処罰のときの話はもちろん違いますけれども、それは統一した刑法的な観念で、それは統一されていなきゃいけないわけです。そして、今ほど、私は整合していると思いますよ、逮捕のときに、ほとんどのものは、少なくとも社会的に相当だ、正当行為に当てはまる可能性がある。

 そうである以上、処罰に関しても、合理的疑いがないところまで証明しなきゃいけないのだから、それは極めて難しい。かつ、先ほどの逮捕のときの御答弁で、多くのものは当てはまり得るのだからということであれば、結局それは、多くの侮辱、通常、社会的になされている、程度の差こそあれ、なされている、社会的に多くなされている侮辱というものは処罰されないということだと思うんです。

 大臣、ひたすら法制審議会の議論を出して、参照されると思いますと言うんですけれども、それは政治家としての逃げですよ。だって、審議というのは単なる審議ですからね。そんなものは参考意見にすぎないわけです。もちろん、大臣のおっしゃること、何度も繰り返しですよ、大臣のおっしゃることは、それは司法によってひっくり返され得ますよ。でも、それでいいんです。司法は独立しているんだから。大臣が何も司法の独立性を疑う必要はないんですよ。

 そうじゃなくて、大臣の政治家としての矜持に基づいて、この侮辱罪は、一般的になされている社会的相当性を逸脱しない侮辱は処罰しないと言っていただきたいんです。言っていただく責任があるんですよ。それが言論の自由を守るということじゃないですか。そして、ほかの方々、言論の自由じゃないですけれども、刑罰法規が過度にわたらないようにちゃんと答弁しているんです。大臣だけがされていない。御答弁をお願いいたします。

 一般的になされている通常の侮辱は、社会的相当性を外れない限り処罰の対象にならないですね。

古川国務大臣 我が国は、あるいは近代国家においては、罪刑法定主義を取っております。法務大臣として、これは幾重にも重視しなければならない考え方でありまして、その意味で、私は法務大臣として、この国会の場において、これは議事録に残る議論をさせていただいているわけですけれども、であるがゆえに、正確性を期した答弁に努めております。

米山委員 だから、大臣は逃げるということでよろしいですか。ほかの担当者の方々は、ちゃんと、いや、奈良漬けは違いますと言っているわけです。そして、過労運転は、それはもちろんぴったりとは言えないけれども、業務の拘束とか時間とか休憩で総合的に判断する、一定の基準を示されています。大臣はしないんですね。

古川国務大臣 私は法務大臣として、罪刑法定主義を重んずる立場から、ここで正確な答弁を残すことが私の責任であるというふうに考えております。

米山委員 ここまで言って、きちんと基準を示されない。しかも、前例としてはきちんとある。それは、私は、大臣が、若しくは政府・自民党が、この侮辱罪を恣意的に運用する余地を残したいからだと考えざるを得ません。それでよろしいですか。

古川国務大臣 今般の法整備は、表現の自由を不当に、また不要に制約するものではないということは再三申し上げているとおりです。

 今回の法定刑引上げにおいて構成要件は変更されておりません。したがいまして、対象となる行為の範囲も変わらないわけであります。これまで処罰の対象とされなかったものが今回新たに対象になるわけではありませんし、表現の自由というものに対して、何ら不当な、あるいは不要な制約を与えるものではないということをはっきり申し上げます。

米山委員 だからこそ、その基準を示してくださいと言ったわけでございますが、示していただけなかったことを極めて残念に思います。

 これで私の質問を終わります。

鈴木委員長 次に、前川清成君。

前川委員 日本維新の会の前川清成です。

 私たち日本維新の会は、五月十二日に、インターネット誹謗中傷対策の推進に関する法律案を提出いたしました。

 私たちは、今、米山議員の議論の中にもありましたけれども、プロ野球を楽しむ野球ファンがスタジアムで、三振したバッターに対して、あるいはホームランを打たれたピッチャーに対して、役立たず、給料泥棒と、このやじることを、殊更、侮辱罪として取り上げる必要はないと考えています。今、被害が顕在化しており、直ちに取り組むべきは、インターネット上での誹謗中傷だ。その上で、私たち日本維新の会では、インターネット上での誹謗中傷の対策として、ただ侮辱罪の法定刑を引き上げるだけでは、被害者救済とか、あるいは被害の根絶の効果は期待できない、こういうふうに考えております。

 この点で、今日は中西総務副大臣にお越しをいただきました。

 総務省として、インターネット上での誹謗中傷の対策として、侮辱罪の法定刑引上げだけで十分というふうに考えておられるのかどうか、お答えをいただきたいと思います。

中西副大臣 前川清成先生にお答えを申し上げます。

 先生御指摘のとおり、個人の方の人格や名誉を傷つけるような誹謗中傷は許されないことであるというふうに我々も考えております。こうした問題に対応するためには、刑事罰による対応に加えて、書き込みを行うユーザーの方、あるいは書き込みの場を提供するプラットフォーム事業者、さらには書き込みによって被害を受けた方への対応、それぞれの観点から、しっかりと総合的に対策を検討することが適当であるというふうに考えております。

 こうした観点から、総務省におきましては、誹謗中傷対策につきまして、二〇二〇年九月に取りまとめた政策パッケージに基づきまして、先ほど申し上げた観点のうち、第一点目でありますが、書き込みを行うユーザーについては、ICTリテラシー向上のための啓発運動、これは地道な活動でありますが、ベースとなりますので、しっかり取り組みたい。二つ目は、書き込みの場を提供するプラットフォーム事業者につきましては、プラットフォーム事業者による取組の促進、これを後押ししながら、有識者検討会におけるモニタリングを通じた透明性、アカウンタビリティーの確保を行う。さらに、三点目でありますが、書き込みについて被害を受けた方への対応については、発信者情報の開示の迅速化を図る制度整備など、相談対応の充実などの取組をしっかりと推進をしていきたい。

 総務省としては、引き続き、こうした必要な取組を、関係省庁、関係機関の皆様と連携の下で行ってまいりたいと考えております。

前川委員 今、中西副大臣から様々な施策についてお示しをいただきましたけれども、私たち日本維新の会の対案では、例えば被害者救済という点では、被害者から相談を受ける窓口、あるいは被害者を支援する仕組み、こんなのも必要ではないのかと。ですから、国や地方自治体に対して、相談に応じることや必要な情報提供に応じるための体制の構築、これを求めております。

 啓発というお話がありましたけれども、やはり、被害を生まない、このことも大事でありますので、学校教育、社会教育あるいは家庭教育において、インターネットにおける誹謗中傷はあかんと、このことを教育する、啓発する、このことも大事だろうと思います。

 もちろん、今般この委員会での議論で様々ありました、侮辱罪の法定刑は引き上げられますけれども、刑罰、これは謙抑的に行使されなければなりません。しかし、それでも看過できない誹謗中傷があった場合に対して、今の警察の体制で十分なのか。インターネット上の誹謗中傷に対して捜査を行う体制、専門人材が整っているのか。私たち維新の対案では、捜査機関の勉強も必要だろうし、専門的知識、技能を持つ職員の配置も必要だ、こんなふうに考えております。

 さらには、法務大臣は、判例があるから要らない、こういうふうな答弁がありましたけれども、表現の自由を萎縮させない、このためには、何が誹謗中傷なのか明確なルールが必要ではないか。これは、私だけではなく、被害に遭った、お母様である木村響子参考人もそのようにおっしゃっていました。

 また、正当な表現行為との線引き、このためには、刑法二百三十条の二のような条文を侮辱罪においても設ける必要があるのではないのか。そのためには、役所だけではなく、憲法学者であるとか、そういう外部の有識者の御意見も承るべきではないのか。

 ですから、私たちは、様々な意味において総合的な施策を推進しなければならないし、その司令塔としては総務省に期待をしております。

 中西副大臣から、何点か総務省の取組、二〇二〇年九月とおっしゃいましたか、まとめた取組があると。しかし、更に加えて、被害者救済という点でも、あるいは表現の自由を萎縮させないという点でも、もう少し深掘りをして、幅を、ウィングを広げていただく、こういうことをお願いしたいと思いますが、いかがでしょうか。

    〔委員長退席、井出委員長代理着席〕

中西副大臣 ありがとうございます。

 先生御指摘のとおりでございまして、役所としての取組もさることながら、関係各省、また関係機関との、民間の取組というものもしっかり、協力をいただきながら進めてまいりたいと考えております。

前川委員 五月十三日の質疑でも説明をさせていただいたんですが、例えば、ツイッターで匿名の発信者から誹謗中傷を受けた被害者が、その匿名の発信者を特定する、そして損害賠償を請求しようとする場合には、最初に、ツイッター社を債務者として、IPアドレスの開示を求める仮処分を申し立てなければなりません。仮処分で、仮処分決定をもらって、IPアドレスが判明した後、通信事業者を被告にして、発信者の住所、氏名を開示する裁判を起こさなければなりません。

 木村参考人の場合、これら仮処分、開示請求の裁判に関して約百万円の費用が必要だった、こういうふうにおっしゃっています。

 そこで、経済的に厳しい立場にある被害者が同じ手続を行う場合、法テラスにおいては、発信者を特定するための仮処分、そして裁判の弁護士費用について、どのような条件で、どの程度立て替えているのか、法務省にお尋ねをします。

竹内政府参考人 お答えいたします。

 まず、裁判の方の援助でございますが、法テラスでは、インターネット上で誹謗中傷を行った者、発信者を特定するための発信者情報開示請求事件に関しまして、民事法律扶助業務として、資力基準等の一定の要件を満たす方に対しまして、無料法律相談や、あるいは弁護士費用等の立替えを実施しております。

 弁護士費用等の具体的な立替え金額につきましては、事案に応じて柔軟かつ適切に決定しておるところでございまして、一概に申し上げることは困難ではございますが、一例といたしまして、発信者情報開示請求訴訟を弁護士に委任する場合には、実費として三万五千円、着手金として十三万二千円を目安として立替えを実施しているところでございます。

 次に、仮処分の援助でございますが、発信者情報開示の仮処分に関しましては、資力基準等の一定の要件を満たした場合におきまして、本案事件に勝訴する可能性や、本案事件で敗訴した場合の相手方による損害賠償請求のおそれ等、法テラスが受ける財政上の影響その他の事情を考慮いたしまして、援助が不相当又は不適当でない限りは、保証金に関する援助を実施しております。この場合における援助の方法といたしましては、原則として支払い保証委託の方法によっております。

 法務省といたしましては、より身近な司法の実現のため、法テラスによるこれらの支援制度が適切に運用されるように、必要な協力を行ってまいりたいと考えております。

前川委員 竹内部長、よく質問を聞いていただいて。保証金についてはこの後お尋ねする予定で、まだ聞いていなかったんです。

 その上で、今、木村参考人が百万円かかったとおっしゃった、それは恐らく相場なんだろうと思います。ところが、法テラスは十三万二千円。余りにも相場との間の乖離がある。そうであれば、弁護士の方もなかなか、この種事件、法テラスの案件では手を出しにくいのではないか。これは法テラス一般に言えることかもしれませんが、報酬基準について考えておく必要があるだろうと思います。

 その上で、仮処分に勝って、通信事業者を被告にした裁判も勝ち抜いて、やっと加害者に対して損害賠償を請求する、裁判を起こすことができますが、木村参考人の場合、判決で認容されたのは百三十万円だったそうです。発信者を特定するためだけに百万円かかったのに、裁判所は百三十万円しか認めない。発信者を特定するための費用を差し引くと、僅かに三十万円です。

 人を死に追い込むような誹謗中傷で、賠償金額が僅かに三十万円です。これを最高裁にどうだと聞くと、きっと、個別具体的な事案で、裁判官が適切に判断した、こういうふうに答弁すると思いますが、中西副大臣、政治家として、あるいは人間として、この三十万という相場、私は安過ぎると思いますし、世の中も安過ぎると思いますが、いかがですか。

中西副大臣 値段についての御評価がありましたけれども、現在私の立場ではお答えを差し控えたいと存じます。

前川委員 この賠償額についてなかなか政治が踏み込めないということであれば、日本維新の会は、インターネット上の誹謗中傷に関して、これまで何度か勉強会を重ねてまいりました。そのときに、いつ、どなたから、どういうことを聞いたのか、ちょっと記憶がおぼろげなんですが、学者の先生から、諸外国では、SNS事業者がお金を出し合って基金をつくって、被害者に対してはその基金の中から給付金を支払う、そういう仕組みもあるんだということを承ったことがあります。

 裁判所が認める賠償金が安過ぎる、発信者を特定するための費用も十分賄えない、そういうことであれば、例えば、日本でも、これは直ちにはできないということは十分分かっております、様々な困難な問題があるということも分かっておりますが、SNS事業者が、あるいは通信事業者が、それぞれお金を出し合って基金をつくって、被害者救済のための給付金制度、あるいは裁判を支援するための制度、こういうのを設けたらどうかと思いますが、総務省としてはいかがでしょうか。

中西副大臣 お答えを申し上げます。

 先生御指摘の、そうした仕組みが諸外国にあるかということでありますが、少し調べてみましたら、どうも、諸外国の誹謗中傷対策について調べた中で、そうした仕組みが確立されているというところはちょっと確認ができておりませんでした。

 しかし、我が国においても、インターネット、SNS上の誹謗中傷の被害者に対しては、民間の事業者の方々が様々なお取組をしていただいております。

 例えば、一般社団法人セーファーインターネット協会、SIAとおっしゃるところであるとか、一般社団法人ソーシャルメディア利用環境整備機構、SMAJといった民間事業者におきましては、事業者が相互に費用を持ち寄って、被害者からの相談窓口の運営であるとか、あるいは被害者からの相談に基づいて、被害者に代わって削除等の対応を促す通知であるとか、さらには、ユーザー一般に対する普及啓発活動等を実施をしておりまして、被害者支援の重要性の高まりから、このような事業者による取組は着実に進んでいると承知をしております。

 こうした官民での取組を一層促進をさせまして、国民一人一人が安心、安全にインターネットを使えるような環境を実現していきたいと考えております。

    〔井出委員長代理退席、委員長着席〕

前川委員 先ほど中西副大臣の御答弁の中にありましたが、プロバイダー責任法が改正されました。やがて施行されることになると思います。

 ただ、施行後も、先ほどの案件でいうと、ツイッターで匿名の誹謗中傷を受けた、そんな被害者は、仮処分と本案、二本立てではないけれども、やはり、ツイッターと通信事業者、この二者を相手に裁判を起こさないと発信者を特定することができない、こういうたてつけになっていると思います。

 この法律の改正ですけれども、やはり、裁判を経ずに発信者を特定する、そういう手続は考えることができなかったのか。私の問題意識としては、何とか、この発信者を特定するための費用、これを安くできないのか、弁護士費用も含めて安くできないのか、そのためには、二者を相手方とする裁判、これを省略する、そんなところも検討できなかったのか、こういうふうに考えておるんですが、いかがでしょうか。

中西副大臣 お答えを申し上げます。

 今先生御指摘ありましたけれども、発信者情報開示のための裁判手続の迅速化などを目的とする改正プロバイダー責任制限法が昨年四月に成立をいたしまして、現在、施行に向けて準備を進めているところでございます。

 先生は長らく法曹界で身を置かれておられましたのでよく御存じだと思いますが、このプロバイダー責任制限法に基づく発信情報開示請求は、裁判手続によってだけではなくて、裁判外においても請求をすることも可能であります。

 その上で、発信者情報開示請求を裁判手続によって行う場合に要する費用については、個別の事案ごとに異なるものでありまして、一概にお答えをできるものではございませんが、我々総務省としては、こうした裁判外の発信者情報の任意開示について、民間相談機関における発信者情報開示の要件に該当すると判断された事例等の集積等の支援を現在行っているところでございます。

 今後も、こうした取組を通じまして、この裁判外での開示というものもしっかり後押しをしながら、被害者の負担感の少ない形で発信者情報開示が円滑に進められるよう支援を申し上げたいと思います。

前川委員 時間が参りましたのでこれで終わりますが、インターネット上における誹謗中傷対策としては、侮辱罪の法定刑引上げ、これだけでは決して足らなくて、様々な総合的な施策が是非必要ですので、この点を改めてお願いをいたしまして、私の質問を終わらせていただきます。

 ありがとうございました。

鈴木委員長 次に、鈴木義弘君。

鈴木(義)委員 大臣、一人で悩まないでくださいと書いてあるんです。これは、法務省の人権擁護局というホームページに、「人権侵害を受けた方へ」という記載なんですね。様々な人権問題に関する相談である、みんなの人権一一〇番、いじめ、虐待など子供の人権の相談については、子どもの人権一一〇番、セクハラ、家庭内暴力など女性の人権の相談については、女性の人権ホットラインなど、各種相談ができるようになっています。もう御案内だと思うんですね。また、ここには、相談、被害の申告を法務局職員又は人権擁護委員がお聞きしますと書かれている。

 人権侵害による被害者の救済事例が幾つも掲示されて、大変勉強になるなというふうに思うんですけれども、まず初めに、このホームページを見て、年間どのぐらいの相談や申告があるのか、お尋ねしたいと思います。

松下政府参考人 お答えいたします。

 法務省の人権擁護機関では、法務局の職員及び人権擁護委員が人権相談に応じております。

 令和三年に法務省の人権擁護機関において受付をした人権相談は十六万六千四百五十七件でございまして、このうち相談の件数が多かった内容を幾つか申しますと、住居、生活の安全関係が二万三千件余り、あと、プライバシー侵害が一万件余り、労働権関係が八千八百件余りということになっております。

鈴木(義)委員 これは私が作っているんじゃないので、法務省のホームページ、もう一回確認したら、ここに、人権侵害による被害者の救済事例というのが載っているんですよね。高等学校におけるいじめに対する不十分な対応とか、二番目に、インターネット上のプライバシー侵害及び名誉毀損、夫の妻に対する暴言や暴力。幾つかの事例があるんですけれども、こういうことを示さないと、先ほどから議論されていて、私も過去に質問した、侮辱罪の基準というのが分からないんじゃないかということです。だって、ここに、インターネット上のプライバシー侵害や名誉毀損で、事例を挙げているんですよ。違うんですかね。

 今、十六万件だったですか、細かいのは今日はもう、時間がタイトですから詳細は再度お聞きはしないんですけれども、大臣、どうですか。これは法務省のホームページなんですよね。

古川国務大臣 それは、侮辱罪の件についてのお尋ねでしょうか。

鈴木(義)委員 これは解釈の仕方なんでしょうけれども、一応、このホームページのところで、「人権侵害の被害を受けた方へ」といって、漫画絵でちゃんと流れまでお示しされているわけですよ。

 だから、ここの中に、インターネット上のプライバシー侵害や名誉毀損で、全国的に報道された刑事事件に関して、当該事件とは無関係の被害者が当該事件の被害者の関係者であるとの虚偽の情報とともに、被害者の氏名や画像がインターネット上のブログ、SNS、動画サイトに記載され、個人の名誉、信用等を毀損し、又はプライバシーが侵害されている。ここで、措置内容として、法務局で調査した結果、当該書き込みは被害者のプライバシーを侵害し、又は名誉、信用等を毀損するものと認められたため、法務局から当該サイト管理者等に対し削除要請を行ったところ、全ての画像及び書き込みが削除されるに至ったと、もう結論まで出ちゃっている。これは私が書いているんじゃないんですよ。

 もう一つ、じゃ、お尋ねします。

 さらに、法務省の人権擁護機関の調査救済制度のメリットとして、国の機関として、中立公正な立場で関わりますと書いてある。秘密は必ず守ります、また経験豊富な職員や様々な経歴を持つ人権擁護委員が相談に応じます、その他、法務省の人権擁護機関の調査救済制度の特徴は以下のとおりでありますと記載されている。

 また、国民にとってはとても力強く感じますが、このホームページの中に記載されている中で、簡易、迅速、柔軟と、項目ごとにいろいろやられるテーマが書いてある。

 制度として機能していれば、インターネットも含めた今回の案件みたいなものが救済されてしかるべきだと思うんですけれども、制度自体が生かされていないんじゃないかと思うんですけれども、大臣、先ほどのものも含めて。

松下政府参考人 御指摘のとおり、法務省の人権擁護機関では、法務局の職員と人権擁護委員が人権相談に応じておりまして、それらを通じて人権侵害の疑いのある事案を認知した場合には、人権侵犯事件として調査を行って、事案に応じた適切な措置を講ずることとしております。

 ホームページにいろいろ記載しておりますけれども、これは、我々の活動を、こうした活動をしておりますよということをお知らせする趣旨でございまして、こういったものでなければ人権侵犯事件として取り扱えないというような、その限界を示す趣旨で記載しているものではございません。

 この措置の中には、法律的なアドバイスなどをする援助、それから、当事者間の話合いを仲介などする調整、人権侵害を行った者に対して改善を求めるための説示、勧告、その他いろいろございますけれども、ただ、この調査救済手続は任意の手続でございまして、時には関係者の協力を得ることができない場合や措置に従わない方がいらっしゃるということもある一方で、御指摘のとおり、迅速、円滑、柔軟な対応が可能という利点もございまして、そういう特色を有する制度として十分に機能しているものと考えております。

 御指摘のようなインターネット上の誹謗中傷につきましても、御紹介いただきましたけれども、相談者の意向に応じまして、私どもも、書き込みの削除依頼の方法などを助言したり、あるいは、違法性を判断した上でプロバイダー等に対して書き込みの削除要請をするなどしておりまして、相応の成果は上げていると考えております。

 もっとも、要請の結果、削除されないという場合もございますけれども、それは、事業者等との対話などを通じて実効性の確保に努めているところでございます。

 いずれにいたしましても、私どもといたしましては、今後とも、各種手段を通じまして、相談窓口の一層の周知に努めますとともに、こうした調査救済活動を通じた実効性のある人権救済にしっかりと取り組んでまいりたいと考えております。

鈴木(義)委員 至らなかったというような御答弁もいただいたんですけれども、ここのホームページに書いてあるのは、削除されるに至ったと書いてあるんですね。

 じゃ、インターネットならインターネットで、今回は侮辱罪もあるし、インターネットの件が主題になっているからこれを例示に挙げているだけの話なんです。それで、受領した相談なり申告をされたもののうち、削除に至ったというのは全体のどのぐらいのパーセンテージがあったんですか。

松下政府参考人 お答えいたします。

 私どもが削除要請をした結果、投稿の全部又は一部が削除されたものは、全体の約七割は削除されていると理解しております。

鈴木(義)委員 優秀じゃないですか、七割も。もっと堂々と胸張って御答弁いただいた方がいいんじゃないかと思う。

 それともう一つ、「人権擁護委員制度の沿革、現状及び課題」、これも法務省のホームページなんですね。今日は資料でお出しはしていないんですけれども、ここにずらずらずらっと書いてあるんですが、やはり正直な省なんだなと思うんです、現状と課題というのをきちっと捉えて、それをオープンにしているということですから。

 これも、昭和二十三年にこの制度がスタートして七十年ちょっとたったんだと思うんですけれども、ここでうたっているのが、成果を上げている一方で、活動実績の乏しい委員も存在し、人権救済等に必要な専門性や経験を有する人権擁護委員が必ずしも十分に確保されていないと。

 今全国で一万四千人ぐらいいらっしゃるということであって、例えば、市町村の数が一千七百で計算すると、一つの市町村で、大きい小さいありますからね、人口が多い小さい、七、八人は各自治体には最低はいらっしゃるという単純な計算が出てくると思うんです。

 これが、結局、今御答弁いただいた、七割が削除に至っているということであれば、ここをもう少し充実することによって、例えば、今前任の方が質問したように、裁判の費用が膨大になるとか、総務省の方の制度がまだ確立していない中で、今やれることといったら、ここのところをもっと強化していくということで犯罪の抑止につながるんじゃないかと思うんですけれども、大臣、どうでしょう。

松下政府参考人 お答えいたします。

 ありがとうございます。私どももインターネット対策に関しては力を入れておりますが、人権擁護委員の方も相談に対応していただいておりますし、調査にも関わっていただいておりますけれども、必ずしも委員がインターネットの事の判断をしているわけではなくて、法務局の職員と連携をいたしまして、法務局の判断と責任において違法性を判断いたしまして、違法だと判断したときには削除要請を行っているところでございます。

 その意味で、そちらの方の体制の強化などについても、先生御指摘のように、これからもしっかりやっていかなければいけないと思っておりますけれども、今のところ、そういう形でしっかりと対応するように努めているところでございます。

鈴木(義)委員 大臣、どうですか。九九・九九%ぐらい解決を、このシステムを使ってやるというふうな御決意をちょっとお聞かせいただけたらありがたいんですけれども。

古川国務大臣 人権擁護の観点から、世の中で起こり得る様々なトラブルに対して、できるだけそれをお受けして解決に向けてのお手伝いをさせていただくこと、あるいは、予防啓発と申しますか、様々な場面を通じて、人権侵害はよくないんだということをやはり世の中に対して粘り強く訴えていく、こういうことは非常に大事なことだというふうに思っております。

鈴木(義)委員 思うだけだったら私でもできるんですけれども。実際は、執行権者の中の一番頂点に立っているのは法務大臣ですから、先ほど御答弁いただいた七割を、解決策を取っているんだったら、それをもっと高めていくように、人をきちっと配置するとか、予算をそこに割くとかということが一番今やれることじゃないかと思うんですけれども、もう一回御答弁いただきたいと思います。

古川国務大臣 法務局あるいは人権擁護委員等々によります私どもの人権擁護のための活動、様々な活動に対して御理解をいただいて、ありがとうございます。

 より、この事業を推進をして、実効あらしめるべく努力をいたしますが、その際、やはり人員の確保だとか財源というものは重要な要素だと思います。私どもは、引き続きこれはしっかりと確保するという方向で努力をいたしますが、委員からも御支援をお願いできれば幸いです。

鈴木(義)委員 なかなか数字を上げるということを御答弁いただけないのは残念だなというふうに思うんですけれども。

 先般もお尋ねした保護司の件と似ているんじゃないかと思うんですね。長い間ずっとその職責を、所期の目的があって、それに対応するために過去何十年もその制度をずっと続けてきたんだと思うんですけれども、それがいつの間にか、何となく、忘れ去られるという言い方はおかしいんだけれども、実態が時代に合わなくなってきているのをやはり制度として変えていかなくちゃいけない時期に来たんじゃないかと思います。

 それと、あと、百十五年ぶりに刑法の改正をするわけですから、それに合わせた中で、やはり、もう一度、今ある制度を見直しをかけて、より活躍してもらうような場をつくってあげるとか、それに伴う費用をきちっと法務省が見てあげるという時代に入ってきたような気がするんですけれども、いかがでしょう。もう一回御答弁いただきたいと思います。

古川国務大臣 ありがとうございます。

 法務省の人権擁護機関において行っております人権相談ですとか調査救済手続というもの、こういうものにこれまでも鋭意取り組んでまいったわけでございますけれども、今後とも、こうした救済制度を支える法務局の職員への研修などを通じて、一層の実力向上に努めて、より実効性ある人権救済につながるよう、しっかりと取り組んでまいりたいと思っております。

鈴木(義)委員 いつの間にか遠くばかり見ていて足下が見えなくなっちゃっているのかなというふうに思うところがあります。是非、今ある制度をフルに活用して、難儀をされる方をこの社会から一人でも減らす努力を行っていただきたいなというふうに思います。

 以上で終わります。

鈴木委員長 次に、本村伸子君。

本村委員 日本共産党の本村伸子でございます。どうぞよろしくお願いを申し上げます。

 侮辱罪の法定刑引上げについては、侮辱罪に何が当たるのかということがよく分からず、北海道の警察やじ排除事件に関しても繰り返し質問をさせていただいておりますけれども、反省が見られないという中で、憲法上の特別に重要だとされている政治的表現行為、この自由が脅かされてしまう大問題がございます。同時に、この法案の拘禁刑も、国際基準に反して大問題だというふうに考えております。

 何度も申し上げさせていただいているんですけれども、まず、ネルソン・マンデラ・ルールズと言われている、国連被拘禁者処遇最低基準規則の規則三、規則四について御紹介をしていただきたいというふうに思います。その上で、なぜこのような規定が置かれたのか、その点、御説明をいただきたいと思います。

佐伯政府参考人 お尋ねの国連の最低基準規則の規則三について、当局といたしましては、拘禁刑及び個人を外界から分離するその他の処分は、その者から自由を剥奪することにより、自己決定の権利を奪うものであって、まさしくこの事実こそが、その者に苦痛を与える、それゆえに、刑務制度は、正当な理由に基づく分離拘禁又は規律の維持に伴う場合を除いては、この状態に固有の苦痛をそれ以上に増大させてはならないことが規定されているものと理解しております。

 また、四につきましては、当局といたしましては、その一、拘禁刑又はこれに類似する自由剥奪処分の目的は、主として、犯罪から社会を保護し、常習的犯罪を減らすことにある、これらの目的は、そのような者が遵法的かつ自立的な生活を送ることができるようにするために、その者の釈放後の社会復帰をできる限り確保するように拘禁期間を利用することによって、初めて達成される、二、この目的のため、刑務当局その他権限を有する当局は、教育、職業訓練、作業のほか、治療的、道徳的、精神的、社会的及び健康・運動関連の支援を含む適切かつ利用可能な支援を提供しなければならない、これらのプログラム、活動及びサービスは全て、被拘禁者の個別的な処遇上のニーズに即して提供されなければならないことが規定されているものと理解しております。

 お尋ねの、こういった規則が定められた理由につきましては、国連総会決議により採択されたものでございますが、当局として、どのような理由かということはお答えいたしかねるということで御理解いただきたいと思います。

本村委員 国連の資料では、受刑者の基本的な権利と尊厳とともに、全ての人々の安全と福祉も守るというふうに書かれております。

 なぜ、尊重するということを言いながら、こういうことも言えないんでしょうか。

佐伯政府参考人 国連総会の場における採択、どういった理由で、それが様々な考慮の中で採択されたものだとは思っておりますけれども、当局としてそれを正確に把握しているという状況ではございませんという趣旨でございます。

本村委員 正確に把握する必要があるんじゃないでしょうか。国際基準にしっかりと日本も学んでいくべきだというふうに思いますけれども。

佐伯政府参考人 外務省等で様々な対応をされておると思いますし、外務省の当局において国会等においてもお答えされているということは承知しておりますし、その内容については把握してございます。

本村委員 法務省の施策にやはり生かしていかなければいけないというふうに思うんです。

 国連のこの被拘禁者処遇最低基準規則の規則四の第二項のところ、先ほど御紹介いただきましたけれども、刑事当局その他権限を有する当局に支援の提供を義務づけております。しかし、この法案は、被拘禁者の方に作業、指導を義務づけております。全く逆行しているというふうに思いますけれども、なぜ逆なんでしょうか、大臣。

古川国務大臣 御指摘のこの国連被拘禁者処遇最低基準規則は、刑務当局等が教育、職業訓練、作業のほか、種々の適切かつ利用可能な支援の提供をしなければならない旨定めておりますが、これは法的拘束力のある国際約束ではないと承知をいたしております。

 刑事収容施設法におきましては、「作業は、できる限り、受刑者の勤労意欲を高め、これに職業上有用な知識及び技能を習得させるように実施するものとする。」と規定され、刑事施設における実務も同規定の趣旨に沿って行われております。

 刑法等一部改正法案におきましては、個々の受刑者の特性に応じ、改善更生、再犯防止の上で重要な意義を有する作業と指導とをベストミックスした処遇を行うことができるようにするため、拘禁刑を創設することとしております。これは同時に、個々の受刑者に対して改善更生を図るために必要な処遇を提供する責務を刑事施設の長に課すものであると認識をいたしております。

 したがいまして、法改正後は、拘禁刑の趣旨を踏まえ、刑事施設において、改善更生、再犯防止のための働きかけがより適切に行われるよう指導してまいりたいと存じます。

本村委員 いつも、このネルソン・マンデラ・ルールズについては、法的拘束力がないというふうに言われるんですけれども、しかし、最高裁でも、このルールズがしっかりと参考にされて、言及をされているというものでございます。このネルソン・マンデラ・ルールズについては、SDGsに貫かれている、誰一人取り残さない、これを実現するためにも重視をされていることだというふうに思っております。

 日本の刑務所の作業を見たフランスの方が、現行の日本の作業は強制労働であるというふうに指摘をされたというふうに伺っております。

 そのことは、今日資料でお示しをしております京都の弁護士会の皆様の会長声明の一ページのところにも指摘をされているように、日本において現に行われている作業の強制に対しては、社会権規約委員会から、矯正の手段又は刑としての強制労働を廃止し、社会権規約第六条の義務に即した形で関係規定を修正又は廃棄するように勧告されております。作業や指導の義務づけは国際基準に反しているというふうに書かれています。

 本来、拘禁刑の執行に際しては、国は、受刑者の自覚に訴え、改善更生の意欲の喚起及び社会生活に適応する能力の育成のために必要な作業その他処遇の機会を提供するというような法改正が必要だったんじゃないでしょうか。大臣、いかがでしょうか。

古川国務大臣 この改正案におきましては、個々の受刑者の特性に応じ、改善更生、犯罪防止の上で重要な意義を有する作業と指導とをベストミックスした処遇を行うことができるようにするため、拘禁刑を創設することとしております。

 仮に、拘禁刑に処せられた者に作業や指導を義務づけることができないとすれば、作業や指導を拒む者に対し、改善更生、再犯防止のための働きかけを行うことが不可能になり、拘禁刑創設の目的が達成できないことになります。ですから、作業や指導を義務づけることができるということとしております。

 自由の剥奪以上に苦痛を増大させてはならない旨規定する御指摘のこの規則は、法的拘束力のある国際約束ではないと承知をいたしておりますが、いずれにしても、刑事収容施設法におきましては、「作業は、できる限り、受刑者の勤労意欲を高め、これに職業上有用な知識及び技能を習得させるように実施するものとする。」と規定されておりまして、行刑における作業の積極的意義が明らかにされており、拘禁刑においては、作業を、報い、懲らしめとして課すというよりも、むしろ、罪を犯した者の改善更生、再犯防止という特別予防のために課すものとして位置づけることとしているものでございます。

本村委員 お伺いしますけれども、被拘禁者から、自身の更生に当該作業、指導がなぜ必要なのかというふうに問われた場合に、施設長に回答義務があるのか、その点、確認をしたいと思います。ちゃんと納得できるように説明する必要があると思いますけれども、いかがでしょうか。

佐伯政府参考人 拘禁刑受刑者が、自身の行う作業又は自身の受ける指導につきまして、どのように改善更生につながるのかといったことを質問した場合に、刑事施設の長がそれに回答することを直接義務づけるような規定は存在しないところでございます。

 ただ、度々お答えもさせていただいているとおり、作業、指導といった矯正処遇の効果を高めるためには、受刑者自身に自らが受ける処遇の意義を理解させ、これを自発的に受ける気持ちを持たせることが重要であると考えてございます。

 拘禁刑におきましては、改善更生を図るため、必要な場合に作業を行わせ、指導を行うこととしていることを踏まえまして、作業や指導の必要性や自発的に受ける重要性についてこれまで以上に丁寧な説明を行うよう努めてまいりたいと考えてございます。

本村委員 作業や指導を拒んだ場合、懲罰となるのはどのような場合でしょうか。

佐伯政府参考人 刑事収容施設法におきましては、受刑者の遵守事項といたしまして、正当な理由なく、作業又は指導を拒否してはならない旨を定めております。これに違反した場合には懲罰を科すことができる、そういう状況となります。

 懲罰を科すに当たりましては、事案ごとに、反則行為の性質、軽重、動機、それから刑事施設の運営に及ぼした影響、反則行為後におけるその被収容者の態度などを考慮することになります。

 どのような場合に懲罰とするかにつきましては一概にお答えすることは困難でありますものの、本改正後も、拘禁刑導入の趣旨を踏まえまして、その者の改善更生に及ぼす影響等を考慮するなどして、引き続き適切な運用に努めてまいりたいと考えてございます。

本村委員 懲罰を科すということは、やはり強制ということになってまいります。京都弁護士会の会長声明の資料の中に意見書もついておりますけれども、その三ページの中でも、「受けなかった場合に懲罰を科すようなやり方で強制しても無意味であり、社会内での生活再建には役立たない。」というふうに書かれております。「各種指導の多くはグループワークの形で実施されているが、やる気のない人が加わるとグループ全体の雰囲気を悪くすることになり、他の受刑者に対しても悪影響である。」というような指摘もございます。

 大臣は、五月十三日、この委員会の中で、今日もおっしゃっていただいていると思いますけれども、矯正処遇に対する本人の希望、意欲などを丁寧に聴取し、動機づけを高めるための働きかけを手厚く行うというふうに答弁をしていただいております。やはりそのためには予算と人員の確保が必要だというふうに思いますけれども、この増額と、そして人員増をお願いしたいと思います。いかがでしょうか。

古川国務大臣 お答えいたします。

 今般の法改正は、受刑者の改善更生のため、施設内処遇の一層の充実強化を図るものでございます。そのためには、的確に受刑者の特性を把握し、処遇への動機づけを適切に行うとともに、個々の受刑者の問題性に応じた処遇を進め、受刑早期から、円滑な社会復帰を見据えた指導や支援について、これまで以上にきめ細やかに対応していく必要があると考えております。

 法改正の趣旨を踏まえまして、受刑者の改善更生の実現に向けて、施設内処遇のために必要な人的、物的体制の整備に努めてまいりたいと考えております。

本村委員 ありがとうございます。

 それで、少し処遇をよくした事例として、旭川刑務所は対人トラブル防止のために単独室にしたというふうに聞いておりますけれども、対人トラブルやあるいは被拘禁者の変化について御説明をいただきたいと思います。

鈴木委員長 佐伯矯正局長、時間が迫っておりますので簡潔にお願いします。

佐伯政府参考人 旭川刑務所におきましては、全体改築工事に合わせまして、受刑者のトラブル防止等の観点、様々なことを考慮いたしまして、平成二十八年二月に、全受刑者の全居室についてベッドを備えた単独室としたところでございます。

 対人トラブルを測る指標というのはなかなか難しゅうございますが、例えば懲罰の件数ということで見ますと、平成二十七年は百二十六件、改築後の二十九年は六十四件ということで、約半減してございます。

 懲罰の件数が大きく減少したことを踏まえますと、受刑者数の減少も、多少減っておりますが、居室を単独室としたことが受刑者間のトラブルの防止あるいは受刑者の心情の安定に大きく寄与したものと考えられるところでございます。引き続き、やってまいります。

本村委員 ありがとうございます。

 人間としての生来の尊厳と価値への尊重をもって処遇をするべきだということを求めて、質問を終わらせていただきます。

 ありがとうございました。

鈴木委員長 これにて各案及び両修正案に対する質疑は終局いたしました。

    ―――――――――――――

鈴木委員長 これより各案及び両修正案を一括して討論に入ります。

 討論の申出がありますので、順次これを許します。階猛君。

階委員 立憲民主党・無所属会派を代表し、討論を行います。

 さて、今日は五月十八日です。この日付は、私にとっては国会の名誉を守った日として忘れられない日です。検察官の任期延長ができないという政府解釈を国会に無断で変えたことを正当化する一昨年の検察庁法改正案、名古屋入管でウィシュマさんが死に至った真相を国会に隠蔽したまま入管の権限と裁量を強めようとした昨年の入管法改正案、いずれの法案も、五月十八日に政府が成立を断念しました。

 両法案に対し、私は、法務委員会の野党筆頭理事として、同志とともに法案の問題点を指摘し、成立させるべきではないと主張してきました。もしこれらの法案の成立を許していれば、政府による国会への侮辱を許すこととなり、我が国の憲政史上に汚点を残すところでした。

 そうした事態を防ぐ上で大きな役割を果たしたのは、SNSや街頭を通じて各界各層の多くの方々が政府を批判する声を上げたことでした。政府の侮辱罪厳罰化法案の最大の問題点は、こうした健全な政府批判が萎縮してしまう危険があることなのです。

 政府は、侮辱罪厳罰化法案が成立しても侮辱罪の処罰範囲は変わらず、表現の自由を萎縮させることはないとしますが、具体的にいかなる発言が侮辱罪に当たるのか明らかになっていません。そして、名誉毀損罪と異なり、表現の自由保護のための規定も設けられていません。

 札幌では、街頭演説で安倍首相にやじを飛ばした一般市民がその場から排除され、一時監視されるという事件も起きています。この状況で処罰範囲は変わらないと言われても安心はできません。

 他方、表現の自由の萎縮を避け、インターネット上の誹謗中傷行為につき適切に刑事、民事の制裁を加えられるようにするのが立憲民主党提出の加害目的誹謗等罪法案です。この法案は、侮辱罪には当たらない、他人を傷つける悪質な言動についても、処罰範囲を明確にして処罰し、表現の自由に配慮した要件や特則も設けています。侮辱罪厳罰化法案よりも害が少なく、益が多いことは明らかであり、我が党の法案の方が優れています。

 本日、我が党の対案や修正案が多数の委員の賛同を得られないのは極めて遺憾です。しかし、政府・与党も我が党の主張を一部受け入れ、侮辱罪による現行犯逮捕は実際上想定できないとの見解を示したこと、侮辱罪厳罰化法案につき、表現の自由の保障、処罰範囲の妥当性の見地から、三年後に外部有識者を入れて検証を行い、見直しを行う条項を盛り込んだことは評価します。

 参議院での審議により、立憲民主党案の更なる前進を目指すことを申し上げ、私の討論を終わります。(拍手)

鈴木委員長 次に、守島正君。

守島委員 日本維新の会を代表して、刑法改正案及び刑法整理法案に対して賛成の立場から討論を行います。

 今回の改正点の一つ目、犯罪者の処遇充実と立ち直りを後押しするための諸制度の導入に関して、新たな拘禁刑の創設においては、懲役と禁錮という二つの刑が創設された明治時代と現在では、刑罰に関する社会的な認識や期待される効果も大きく変わっており、懲らしめとしての要素が強かったものが、今では、再犯防止や更生といった役割が強く求められています。

 拘禁刑の創設により、個々の受刑者の心身の健康状態その他の特性に応じた更生プログラムの実施に加え、執行猶予制度の拡充や社会内処遇の充実等を図ることも含めて、長年の懸案となっている再犯者率が高いという課題の解決に向かうことを期待いたします。

 次に、改正点の二点目である侮辱罪の法定刑の引上げに関してですが、近年、インターネット上の誹謗中傷が横行し、その被害者が自殺にまで追い込まれるという悲劇も生じており、大きな社会問題となっております。

 事実を摘示せず、公然と人を侮辱する罪である侮辱罪も、明治以来、古くからある罪刑ですが、公然と侮辱するといった概念は、ネットが普及した現在とこれまでとでは大きく異なり、匿名性が高いネットの普及によって、侮辱する側は大した罪の意識のないまま気軽に侮辱の言動に及ぶことが多くなっています。

 一方で、ネットは、拡散するスピードは速く、影響する範囲も全世界に及ぶことから、侮辱を受けることの被害は甚大なものとなっており、有罪のケースであっても、現行法においては、加害者、被害者の心理的、金銭的負担のバランスが著しく取れていないのが現状です。

 こうした中で、法定刑を引き上げ、公訴時効も一年から三年に延ばす今回の刑法改正案では、被害実態と刑罰のバランスが現状よりは適正化されるため、匿名性に隠れて人を誹謗中傷するという行為の抑止に一定はつながるものと考えます。

 しかし、侮辱罪の適用範囲が明確ではないことや、正当で自由な言論活動が阻害される可能性を排除し切ることができないというこの間の委員会での指摘を踏まえ、法の運用に当たっては、十分な留意を求めるとともに、この後諮られます附帯決議を重く受け止めることをお願いし、私からの賛成討論とさせていただきます。

 ありがとうございます。(拍手)

鈴木委員長 次に、本村伸子君。

本村委員 私は、日本共産党を代表して、刑法等の改定案に反対の討論を行います。

 本法案は、侮辱罪の法定刑を厳罰化することにより、限定的だった現行犯逮捕ができるようになり、教唆犯及び従犯の処罰を可能とするもので、ひいては自由な言論を萎縮させる危険性があります。

 侮辱罪は、一八七五年に布告された讒謗律に由来し、新聞紙条例とともに、自由民権運動の弾圧に用いられました。

 具体的にどのような表現が侮辱に該当するのか、審議を通じてもなお不明確です。基準がない中で、権力者や政府の政策に対する批判、批評を、捜査当局が侮辱であると恣意的な判断をする可能性があります。たとえ不起訴になったとしても、現行犯逮捕等のインパクトは自由な言論、表現に対する脅威となり、言論活動の萎縮を招きます。

 侮辱罪の重罰化は、悪質な誹謗中傷対策として効果が低く、一方、正当な言論を萎縮させ、民主主義の根幹である表現の自由を脅かすものであり、到底許されるものではありません。

 また、本法案は、現行の懲役刑と禁錮刑を一本化する拘禁刑の受刑者に作業と指導を強制するものであり、一九〇七年に制定された刑法典の刑罰体系を根本から変え、厳罰化するという重大な改定です。国際的な自由刑をめぐる議論に反し、矯正実務にも大きな影響を及ぼします。

 国連被拘禁者処遇最低基準規則において、犯罪をした人が社会に再統合されるようにすることが必要であるとされ、そのため当局の側に、適切かつ利用可能な教育、職業訓練、作業その他援助を提供する義務を課す一方で、受刑者に対しては、作業や社会復帰に積極的に参加する機会を権利として保障しており、受刑者に対して義務を課すものではありません。

 また、日本における作業の強制に対しては、国連の社会権規約委員会から、矯正の手段又は刑としての強制労働を廃止し、関係規定を修正又は廃止するように勧告されています。作業や指導の義務づけは、国際的な刑事処遇の潮流に逆行するものであります。

 侮辱罪の重罰化と拘禁刑等創設、更生保護の諸制度は、それぞれ刑法の根幹を変える重大な問題です。権力者の濫用のおそれがある本法案は断じて認められないということを申し上げ、討論といたします。

鈴木委員長 これにて討論は終局いたしました。

    ―――――――――――――

鈴木委員長 これより採決に入ります。

 初めに、米山隆一君外二名提出、刑法等の一部を改正する法律案について採決いたします。

 本案に賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

鈴木委員長 起立少数。よって、本案は否決すべきものと決しました。

 次に、内閣提出、刑法等の一部を改正する法律案及びこれに対する両修正案について採決いたします。

 まず、階猛君提出の修正案について採決いたします。

 本修正案に賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

鈴木委員長 起立少数。よって、本修正案は否決されました。

 次に、山田美樹君外四名提出の修正案について採決いたします。

 本修正案に賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

鈴木委員長 起立多数。よって、本修正案は可決いたしました。

 次に、ただいま可決いたしました修正部分を除く原案について採決いたします。

 これに賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

鈴木委員長 起立多数。よって、本案は修正議決すべきものと決しました。

 次に、内閣提出、刑法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整理等に関する法律案について採決いたします。

 本案に賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

鈴木委員長 起立多数。よって、本案は原案のとおり可決すべきものと決しました。

    ―――――――――――――

鈴木委員長 この際、ただいま議決いたしました内閣提出、刑法等の一部を改正する法律案に対し、熊田裕通君外四名から、自由民主党、立憲民主党・無所属、日本維新の会、公明党及び国民民主党・無所属クラブの共同提案による附帯決議を付すべしとの動議が提出されております。

 提出者から趣旨の説明を聴取いたします。熊田裕通君。

熊田委員 ただいま議題となりました附帯決議案につきまして、提出者を代表して、その趣旨を御説明申し上げます。

 案文の朗読により趣旨の説明に代えさせていただきます。

    刑法等の一部を改正する法律案に対する附帯決議(案)

 一 インターネット上の誹謗(ひぼう)中傷による被害が多数発生し人権を著しく侵害する等の問題が深刻化している現状を踏まえ、インターネット上の誹謗中傷の防止及び誹謗中傷による被害が生じた場合の迅速かつ確実な救済を図るための施策を総合的に推進すること。

 二 前項の施策を推進するに当たっては、インターネット上の匿名での誹謗中傷による侮辱罪に関し、被疑者の特定に係る被害者の負担を軽減すること。

 三 第一項の施策を推進するに当たって、損害賠償命令制度の対象事件を拡大するなど簡易で迅速な損害賠償の実現に資する制度のほか、インターネット上の誹謗中傷に係る損害賠償の在り方や裁判費用の支援など、適正な被害回復のための方策を速やかに検討し、その結果に基づいて必要な措置を講ずること。

 四 侮辱罪の法定刑を引き上げても処罰範囲に変更はないこと及び侮辱罪による現行犯逮捕に係る制限が法定刑の引上げにより外れたとしても当該現行犯逮捕が可能な場合は実際上は想定されないとする政府統一見解を捜査機関に周知徹底すること。

 五 侮辱罪による私人逮捕は逮捕罪等の刑事責任が問われることや民事上の不法行為責任を負うことがあることを前項の政府統一見解と合わせて広く国民に周知・広報すること。

 六 本法の附則に基づく三年経過後の検討に当たっては、侮辱罪への厳正な対処が図られることにより自由な表現活動が妨げられることのないよう、当該罪に係る公共の利害に関する場合の特例の創設についても検討すること。

 七 拘禁刑が創設されることにより刑務作業が減る場合があることも踏まえ、受刑者の社会復帰の原資となる作業報奨金の水準について検討すること。

 八 本法の施行により、犯罪をした者の特性に応じた処遇を充実させて再犯防止を図るため、拘禁刑の導入、刑の執行猶予制度の拡充、更生緊急保護の充実化等が行われることを踏まえ、その実務に携わる矯正施設及び更生保護官署の人的・物的体制の充実強化を図るとともに、施設内処遇と社会内処遇の緊密な連携を強化すること。

 九 犯罪をした者に対する処遇の充実及び保護司の負担軽減を図るため、関係機関等のデータ連携も強化しつつ、矯正行政及び保護司活動を含む更生保護行政のデジタル化の推進・AI技術の活用により、矯正施設及び更生保護官署における対象者のデータの収集・分析、効果的な処遇等の実施及びその効果検証等の施策を推進すること。

 十 拘禁刑の創設を踏まえ、刑事施設における処遇調査を充実させるとともに、必要に応じて少年鑑別所の調査機能を有効活用することで、個々の受刑者の特性をこれまで以上に的確に把握し、その特性に応じた柔軟な処遇を推進すること。

 十一 満期釈放者等の再犯防止を図る上で更生保護施設が果たす役割が重要であることを踏まえ、更生保護施設における充実したプログラムの実施や施設退所者等への訪問支援事業の全国展開等を図るための十分な財政的措置を講ずること。

 十二 犯罪をした者の円滑な社会復帰を図るためには、刑事司法手続終了後を含めた切れ目のない息の長い支援を行うことが不可欠であることに鑑み、地方公共団体による地方再犯防止推進計画の策定や保護司活動の支援を含めた再犯防止のための施策が一層推進されるよう、地方公共団体に対する財政的支援を行うこと。

 冒頭を申し上げます。「政府は、本法の施行に当たり、次の事項について格段の配慮をすべきである。」

以上であります。

 何とぞ委員各位の御賛同をお願い申し上げます。

鈴木委員長 これにて趣旨の説明は終わりました。

 採決いたします。

 本動議に賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

鈴木委員長 起立多数。よって、本動議のとおり附帯決議を付することに決しました。

 この際、ただいまの附帯決議につきまして、法務大臣から発言を求められておりますので、これを許します。古川法務大臣。

古川国務大臣 ただいま可決されました刑法等の一部を改正する法律案に対する附帯決議につきましては、その趣旨を踏まえ、適切に対処してまいりたいと存じます。

    ―――――――――――――

鈴木委員長 お諮りいたします。

 ただいま議決いたしました各法律案に関する委員会報告書の作成につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

鈴木委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

    〔報告書は附録に掲載〕

    ―――――――――――――

鈴木委員長 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。

    午前十時五十一分散会


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