衆議院

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第14号 平成29年5月23日(火曜日)

会議録本文へ
平成二十九年五月二十三日(火曜日)

    午前九時開議

 出席委員

   委員長 北村 茂男君

   理事 江藤  拓君 理事 小泉進次郎君

   理事 斎藤 洋明君 理事 福田 達夫君

   理事 宮腰 光寛君 理事 岸本 周平君

   理事 小山 展弘君 理事 稲津  久君

      青山 周平君    伊東 良孝君

      伊藤信太郎君    池田 道孝君

      小里 泰弘君    加藤 寛治君

      勝沼 栄明君    笹川 博義君

      瀬戸 隆一君    武部  新君

      中川 郁子君    中村 裕之君

      西川 公也君    古川  康君

      細田 健一君    前川  恵君

      宮路 拓馬君    森山  裕君

      簗  和生君    山本  拓君

      渡辺 孝一君    岡本 充功君

      金子 恵美君    佐々木隆博君

      宮崎 岳志君    村岡 敏英君

      中川 康洋君    真山 祐一君

      斉藤 和子君    畠山 和也君

      吉田 豊史君    仲里 利信君

    …………………………………

   農林水産大臣政務官    細田 健一君

   参考人

   (日本農業法人協会酪農研究会会長)

   (農業生産法人有限会社ロマンチックデーリィファーム代表取締役社長)    須藤 泰人君

   参考人

   (日本大学生物資源科学部教授)          小林 信一君

   参考人

   (北海道大学大学院農学研究院基盤研究部門農業経済学分野食料農業市場学研究室・講師)        清水池義治君

   参考人

   (キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)     山下 一仁君

   農林水産委員会専門員   石上  智君

    ―――――――――――――

委員の異動

五月二十三日

 辞任         補欠選任

  笹川 博義君     青山 周平君

  瀬戸 隆一君     中村 裕之君

同日

 辞任         補欠選任

  青山 周平君     笹川 博義君

  中村 裕之君     瀬戸 隆一君

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 畜産経営の安定に関する法律及び独立行政法人農畜産業振興機構法の一部を改正する法律案(内閣提出第四〇号)


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     ――――◇―――――

北村委員長 これより会議を開きます。

 内閣提出、畜産経営の安定に関する法律及び独立行政法人農畜産業振興機構法の一部を改正する法律案を議題といたします。

 本日は、本案審査のため、参考人として、日本農業法人協会酪農研究会会長・農業生産法人有限会社ロマンチックデーリィファーム代表取締役社長須藤泰人君、日本大学生物資源科学部教授小林信一君、北海道大学大学院農学研究院基盤研究部門農業経済学分野食料農業市場学研究室・講師清水池義治君及びキヤノングローバル戦略研究所研究主幹山下一仁君、以上四名の方々に御出席をいただいております。

 この際、参考人各位に一言御挨拶を申し上げます。

 本日は、御多用中のところ本委員会に御出席をいただきまして、まことにありがとうございます。参考人各位におかれましては、それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお述べいただきたいと存じますので、よろしくお願いをいたします。

 次に、議事の順序について申し上げます。

 まず、須藤参考人、小林参考人、清水池参考人、山下参考人の順に、お一人十五分程度御意見をお述べいただき、その後、委員からの質疑に対してお答えをいただきたいと存じます。

 なお、念のため申し上げますが、御発言の際はその都度委員長の許可を得て発言していただくようお願い申し上げます。また、参考人は委員に対して質疑をすることができないことになっておりますので、あらかじめ御了承願います。

 それでは、初めに、須藤参考人、お願いをいたします。

須藤参考人 皆さん、おはようございます。

 このような立場に立たせていただきまして、関係各位の皆様に敬意と感謝を申し上げる次第でございます。

 私は、群馬県赤城山というところの裾野で牧場を、もうかれこれ四十五年になるんですけれども、やっておりまして、今、千二百頭ほどの酪農業を営んでおります。メーンはそういう仕事をずっとやってきておりまして、参考にペーパーが皆さんのところに御用意されているかと思うんですけれども、本当に酪農一筋でやってきまして今があるというようなことで、大変幸せ者だなというふうに思っております。

 またペーパーの方は後で見ていただいて、現在、酪農業界としても、酪農経営体、とりわけ零細家族経営が減少している一方で、私たちのような法人経営を中心とした大規模経営体のシェアが大変拡大しております。六次産業化等に取り組まれる経営体もふえています。シェアが拡大するということは、法人としての経営責任とともに、社会的責任も大変増していくということでございます。経営者みずからが酪農・乳業界の仕組みをもっと勉強していかなくてはならないな、そんなふうに考えました。

 そこで、地域や生産規模、そして出荷先等にかかわらず、酪農を営む全国の法人が酪農業界の抱える課題を共有化して、日本の酪農の活性化に向けた活発な議論を行う場として、昨年六月に日本農業法人協会の中の酪農研究会というものを立ち上げまして、今、僣越ながら会長として活動しておるところでございます。

 本題に入りたいんですけれども、現行のこの制度に対する考え方と新たな制度への期待ということで、まずお話しさせていただきます。

 現行制度のもとでは、近年、牛乳が店頭から消えて国民生活に大混乱を来すような生乳流通が滞る事態は起こっておりません。現行制度が生乳の全体需給の安定に寄与しており、乳価も大きな変動なく、しかも、少しずつではありますけれども右肩上がりで推移してきたこと、乳価の安定が法人経営にとって不可欠であることを踏まえると、現行制度が酪農経営の安定化に果たす役割、機能は大変重要なものでございます。

 ただ、生乳需要の量的拡大の時代は終わりました。一方で、バター不足の問題が生じたように、質的な変化、とりわけ需要の多様化が進む状況に現行制度は十分に対応できていないのではないか、そんなふうにも思っております。

 指定団体の乳価交渉の過程、乳代から控除される手数料の根拠などが若干不透明であり、組織運営のあり方に疑念を持つ生産者の声も聞かれるなど、制度のあり方について今日的に見直すべき課題も大変多いと考えております。

 また、大規模経営では、今、単体の経営体のみで集乳車一台丸ごと生産量があるなど、ほぼ全ての生産者の生乳を合乳せざるを得なかった制度発足時の小規模経営中心の時代の集送乳合理化とは異なる局面にあると思っております。経営の発展を考えまして、みずから生産した生乳のみを原料とした牛乳・乳製品の販売を行いたい、そういうふうに考える経営もふえてございます。

 消費者に安全でおいしい牛乳や乳製品を安定的に供給するための制度であることが前提なのはもちろんでありますけれども、あわせて、酪農家が夢を持ってチャレンジできる素地を広げることで、酪農家の経営発展、所得向上につながる制度となることを大変期待しております。

 また、今回の改正法案の内容についてですけれども、暫定措置法の廃止と補給金の畜安法への位置づけとして、今回の法改正により、畜安法が畜産経営の安定に関する法律として、その目的に畜産物の需給の安定が明記されたこと、補給金が特別法ではなく恒久法として位置づけられたことは、私たち酪農経営の安定に資するものと大変期待をしております。

 また、加工原料乳の生産者補給金のあり方についてですけれども、補給金の原資は国民の税金でございます。誰に支払うのかという議論よりも、多くの国民に納得してもらえるルールのもとで交付していただけるのが重要でございます。

 ただし、生乳需給は季節変動が大きいことから、年間を通じた生乳の安定供給には、不需要期の対応として、計画的な乳製品の製造が不可欠となります。そのために、加工原料乳と飲用乳の価格差を前提として、飲用として販売できずに加工用に処理するようなケースは認めない、当初からの計画に基づいた乳製品製造分の加工原料乳を対象とするのであれば、指定団体であるか否かにこだわらず補給金を交付することも当然これは検討してよいのではないかと考えております。本改正法案での補給金の交付対象の拡大は、おおむねこの考え方に即していると私は考えております。

 また、部分委託についてでございますけれども、これは経営の選択肢の幅が広がる可能性があります。

 現状では、指定団体に生乳を出荷する場合に、生乳の受託規程、受託契約において、全量を出荷しなければならない、ほかの販売先は選べない仕組みになっており、これは実質的に自由に選べる条件ではないように感じております。

 制度として、最初から全量を出荷するのではなく、農協との交渉、協議のもとで出荷量を調整できる仕組みとしたり、生産者の判断により販売先を選択することも可能となる仕組みを導入することも検討してよいのではないかというふうに考えていました。

 また、生産者の創意工夫ある取り組みを支援するものとして、いわゆる部分委託が認められているんですけれども、農業者みずから処理施設を所有し加工する場合や特色ある生乳を生産者がみずから販売する場合には、販売先が小規模処理施設を持つ乳業者に限られているなど、多くの生産者にはハードルが高いように思っております。また、生産者が製造加工を乳業者に委託する形で牛乳・乳製品を販売することも認められていません。

 今回の改正によって、この部分委託の上限が撤廃されることは大きな意義があると思っております。指定団体に出荷しながらもほかの販売ルートを選択できる道が開かれたことで、酪農家が中小乳業メーカーと組むなどして新しい商品開発を模索するなど、新たな取り組みにチャレンジしやすくなることが期待されます。販売の選択肢が複数あることで、経営者にとっては、経営判断につながり、また比較対象ができることで指定団体の意識の変化にもつながっていくのではないかと考えております。

 安全性の確保、そして過剰対策、需給調整についてですけれども、生乳は腐敗しやすく、その流通には高度な鮮度管理が求められるということになっております。安全性が確実に担保されていなければなりません。

 また、生乳流通には、季節変動に対応した需給調整が不可欠でございます。将来的には、需要減少等により過剰が発生する場合も想定しておく必要があると考えております。

 そのために、補給金の交付や全量委託のあり方といった流通制度の改革、見直しにおいては、それと同時に、安全性の担保、過剰対策を含めた需給調整の仕組みを整備することも不可欠だというふうに思っております。

 また、生産者団体のあり方についてでございますけれども、指定団体制度が果たしている役割は、これはもちろん認めております。乳価交渉の過程や手数料の水準、根拠など、現行の指定団体の運営が若干不透明と感じられるところもございます。透明性を高め、酪農家に疑義を持たれないようにすべきであろうというふうに思っております。

 組織の合理化や運営の見直しによって、酪農家の所得向上に向けて改善できる要素も多くあります。その改善を図っていくことが重要ではないでしょうか。

 ただし、指定団体は、指定団体である前に生産者団体でもあります。農業協同組合です。私たち生産者、組合員が組織の運営に関心を持ち、その機能をより発揮できるように働きかけ、努力していく必要があると思っております。

 終わりになりますけれども、近年、都府県を中心に酪農家戸数の減少が続いております。酪農の生産基盤の弱体化が大きく懸念されるところでございます。特に、国内の生乳生産の安定には、生乳だけでなく、乳用後継牛の需給を安定させることが大変重要でございます。そのための対策が急務であると今考えております。

 私たち酪農経営体も、六次産業化、海外輸出、時代の変化に合わせて生産者みずからチャレンジしていかなくてはなりません。あわせて、ふん尿処理等の環境対策、耕畜連携のさらなる推進も含めた、より健全な経営環境の実現に向けて努力していく必要がございます。

 また、農業高校などを卒業し、酪農経営がやりたいという若者も少なくございません。一方、酪農業界は畜産の中でも、労働時間が長い、休みがとりにくいなど、労働条件が厳しいというイメージがあるのが実情でございます。他産業並みの給与や休日取得を可能にすることができれば、優秀な人材を雇用していくことが可能でございます。生産者として収益性を上げ、従業員が働きやすい環境づくりや待遇をしていく必要がございます。

 これらの課題に向き合いまして、消費者に安心、安全でおいしい牛乳・乳製品を安定的に供給する生産者としての責務をこれからも果たしていきたい、そのように思っております。

 私の発言は以上でございます。ありがとうございました。(拍手)

北村委員長 ありがとうございました。

 次に、小林参考人、お願いいたします。

小林参考人 おはようございます。畜産経営安定法等の一部改定についての私の意見を述べさせていただきたいと思います。

 今般、旧畜安法と暫定措置法が統合されて恒久法として法制化される、このことは非常によかったなというふうに思います。そして、畜産経営安定法という名前自体も非常にいいというふうに考えておりますが、残念ながら、内容は畜産経営不安定化法ではないかというふうに考えております。

 まず、改定案の問題として私が指摘したいことは、現在脆弱化が進んでいる酪農の生産基盤、特に都府県の酪農を維持発展するような内容になっていないということがまず第一点でございます。第二点は、指定生乳生産者団体による一元集荷、多元販売、その体制を壊すという可能性があるということが非常に大きな問題として指摘されると思います。

 まず、加工原料乳生産者補給金等暫定措置法、いわゆる不足払い法、これは三本の柱を持っていたと思います。

 まず一つは、加工原料乳地帯の生産者の再生産を確保するということで、生産者の所得の補償ということがありました。そして同時に、乳業者に対しても、安価な基準乳価によって適正な利益を確保するということ、その差額を国が不足払いをするという内容でありました。

 二点目は、国による需給調整機能ということがあります。

 そして、三点目が、指定生乳生産者団体の設立による一元集荷、多元販売、その体制を確立するということによって生産者の乳価交渉力を高めるということがありました。

 しかしながら、これまで、例えば平成十二年に行われた酪農・乳業改革によって、一と二の機能というものは既に実質的に失われております。そして、今般の改正によって、三番目の機能、つまり、指定生乳生産者団体による一元集荷、多元販売ということがなくなろうとしている。

 例えば、一、二の機能がなくなった段階で何が起こったのかと申しますと、無理な生産者によるいわゆる自主的な生産調整、あるいは平成二十年前後の飼料価格の高騰ということによって、酪農所得は急激に減少しました。平成二十一年の白書によりますと、酪農家の一時間当たりの所得というのはわずか七百六十六円、学生のアルバイト代よりも安いというような状況に落ち込んでしまっておりました。

 今回の畜安法改定によって、不足払い法の最後の柱である指定生乳生産者団体による一元集荷、多元販売体制が崩壊する可能性があると考えます。その結果、五十年前の不足払い制度以前の乳価の乱高下時代に戻るということも恐れております。

 第一に、今回の改正案は、脆弱化する酪農生産基盤、特に都府県の酪農を強化、発展する内容になっていないと申しました。むしろ、家族経営を中心とする生産基盤を崩すおそれがあります。

 具体的に申しますと、まず第一には、補給金は加工原料乳に対してのみでありまして、飲用乳は対象となっておりません。つまり、ほとんどを飲用乳として出荷する都府県の酪農にとっては、メリットがございません。都府県のセーフティーネットにはなっていないということであります。

 第二は、補給金は加工原料乳全てが対象になるということでございますが、この結果、国がこれまで強く推進してきた国産チーズ、この生産が頓挫する、そういうおそれがあると思います。法案の目的の一つとして、乳製品に生乳を仕向けやすい環境をつくるということがうたわれておりますけれども、全く反対の結果を生むのではないかというふうに思います。

 これまで、乳業メーカーが多大な投資を行ってチーズ生産を行ってきました。これが、いわば悪い言葉で言えば朝令暮改的に行うということはいかがなものか、メーカーに対しても多大な損害を与えることになるのではないかというふうに思います。

 三点目は、補給金の算定方法は今後省令等で決められるということのようですけれども、従来の固定的な支払いのままということであれば、所得補償の機能は非常に小さい。その結果、先ほど申しました平成二十年前後の飼料価格高騰や乳価低迷が再度起きたならば、再び酪農所得が急激に落ち込む、それに対処できないということになると思います。

 第二に、今回の改定案によって指定生乳生産者団体が弱体化するということで、一元集荷、多元販売体制が崩壊し、結果として、生乳の流通ですとか需給調整に混乱を来し、乳価が乱高下するおそれがあるというふうに考えます。

 まず第一に、指定団体の要件というものが書かれておったんですが、地域の販売乳量の相当量、実質的には五割以上というもの、その要件が今回の改定案ではなくなります。その結果、生産者の結集力が弱まり、生産者の乳価交渉力が低下するということにつながりかねないと思います。

 現在でも格段の力の差があるメーカーあるいは量販店の優越的な地位というものがさらに高まって、生産者が不利な立場に追いやられることで、さらに生産基盤が弱体化するということが言われております。このことは、イギリスのマーケティングボードの廃止ということで何が起こったのかということが既に示していることであります。

 第二に、問題となっている部分委託についてで、これについては、いいとこ取りをさせないようにするということのようですけれども、例えば、ある生産者が一定部分を飲用向けに指定団体以外に出荷し、それ以外を、年間を通して一定割合を指定団体に出荷するとすれば、その分はプール乳価で受け取るということができるわけですけれども、その生産者は高い乳価を享受することができますが、その高さということは、指定団体に全量を委託出荷しているその他の生産者の犠牲の上に立って高い乳価を享受するということになってしまうということであります。その結果、指定団体の競争力ですとか収益性は低下してしまうわけで、指定団体への結集力は確実に弱まるというふうに思います。

 三番目に、国は需給調整を責任を持って実行するというふうに言っておりますけれども、具体的にどのように行うのか、これが全く明確になっておりません。年間の需給調整のみならず、日々の需給調整まで国が責任を持ってやるということをどういうふうにやるのか、非常に疑問です。

 畜安法に規定されている価格安定措置等は廃止し、機構法で対処するというふうにしております。しかし、これまで機構法による調整保管というのは一度しか行われてきておらなかったわけですし、その実効性は大いに疑問とするところであります。生産過剰時の調整保管などの需給安定対策の発動要件、これを明確化するという必要があると思います。

 今回の改定内容というのは、規制改革推進会議の答申に沿ったもので、答申では、酪農所得を向上するということが目的としてうたわれておりました。しかし、その道筋は全く見えてこないものであります。むしろ生産者団体の力を弱めるということで、酪農所得の低下あるいは変動を大きくし、結果的に家族経営を中心とする酪農経営をさらに窮地に追い込むということになりかねないと思います。

 例えば今の指定団体制度というのは、都府県にとってそれほど大きなメリットというのは、生産者補給金制度自体は大きなメリットはないと思うんですが、指定団体制度があることによって北海道と都府県との協調的な発展というものができているわけですね。それが崩れることによって、いわゆる南北戦争というものが再燃する。あるいは、今の力関係でいえば北が圧倒的に大きいわけですから、さらに都府県の酪農が、北海道からの生乳ですとか牛乳の移送によってますます窮地に追い込まれ、都府県の酪農がどんどん減少していくということになりかねないと思います。

 現在でも北海道が五割以上コンスタントに生乳生産を行っております。その北海道のさらに道東地域だけで今八割でありますから、道東が日本全体の五割近くあるいは五割以上を生産しているという状況、これは特産地化になってしまって決していいことではないというふうに私は思っております。私は、酪農というのは全国津々浦々に存在する、家族酪農として存在でき得るという状況が、酪農生産にとっても、あるいは国土の保全という観点からも必要だというふうに思います。北海道一極集中ということになってしまった場合、北海道にとっても非常によくない状況が起きるというふうに考えております。

 私たちは、この十年間にわたって、酪農生産基盤の回復と持続的発展に向けての提言を三度行ってきました。お手元にその三回目の提言を配付させていただきましたので、後でお目通しをお願いしたいというふうに思います。

 この内容といたしましては、一つは、飲用乳地帯を含めた生産者の所得補償機能の強化ということによって、後継者が安心して就農できるセーフティーネットの整備が不可欠であるという点です。

 農業競争力強化支援法関連八法案の中に、収入保険制度というものがありますが、これは畜産では酪農のみが対象になっているということであります。なぜ肥育牛や養豚が対象になっていないのかというと、より有利な制度が肥育牛や養豚ではあるんだということのようですけれども、酪農のみにそうした制度が行われていないというのは不公平である、ある意味ではイコールフッティングになっていないというふうに思います。酪農についても、収入保険ではなくして、例えば酪農版のマルキンというようなものが法制化されるということを期待しております。

 もう一つは、指定団体の強化による生産者の乳価交渉力の強化ということで、現在の指定団体制度、十ブロックによる指定団体制度でも、まだまだメーカーやあるいは量販店に対して力が弱いという結果が出ております。ですから、むしろ現在の仕組みというものを強化する、指定団体を一つとか二つとかぐらいにするということの方が必要ではないか。

 三番目は、国による需給調整の機能の強化ということで、調整保管を国が責任を持って行うということが必要だと思います。

 四番目は、農地政策を米中心から畜産の視点を持った農地の畜産的な利用というものを推進する。そういうことで自給飼料に基づいた足腰の強い酪農経営をつくり上げるということが大切ですし、そのための農地の直接支払いといったようなものが不可欠ではないかというふうに考えております。

 私の意見は以上であります。ありがとうございました。(拍手)

北村委員長 ありがとうございました。

 次に、清水池参考人、お願いをいたします。

清水池参考人 皆さん、おはようございます。北海道大学の清水池でございます。

 私は、この十年余り、酪農、特に生乳流通とそれに関係する制度に関して研究を行ってまいりました。その中で、生産者の方々、この中にはいわゆる自主販売の生産者の方々も含みますけれども、そういった方々や、指定団体を初めとする農協の方々、そして乳業メーカー、関係する業者の方々、いろいろな方とお話をしながら、さまざまな知見を得てまいりました。

 きょうは、その知見に基づきまして、畜安法等改正案に関しての私の意見を述べさせていただきます。

 まず、結論から申し上げますと、現在提案されております畜安法等改正法案は、以下の理由で、今の改正法案に基づいて制度を改正するということは望ましくないというふうに考えております。仮にこの内容で可決するのであれば、大幅な修正並びに酪農マルキンといったセーフティーネットの追加的な整備が最低限必要であるというふうに考えます。

 以下、項目ごとに述べさせていただきます。

 まず一つ目ですけれども、今回の制度改正は、生産者所得の向上に資さないということです。

 昨年の規制改革推進会議での議論を見てまいりましたが、今回の改革の基本的な目的というのは、生産者所得の向上ということだったはずです。しかし、改正法案のように制度改正をすることが、なぜ、どのように生産者所得の向上につながるのか、理解するのが難しいです。

 確かに、今回のように制度改正をすることで生産者の販売の選択肢がふえる、これは、別の言い方をすると、生乳販売の環境がより競争的になるということを意味しているんですけれども、これは確かにそのとおり、生乳販売をめぐる環境が非常に競争的になるというのは確かだと思います。

 しかし、一般的に、販売競争が強まれば、生産者乳価というのはむしろ低下いたします。ですので、そういうふうになれば、所得はむしろ下がるのではないか、こういった懸念もあるというふうに考えております。

 引き続いて、年間販売計画についてです。

 今回の改正法案では、法の目的に需給の安定というものが明記されました。これは、私としては非常に評価したいというふうに考えております。

 需給の安定をどのように達成するのかという手段の中に年間販売計画の策定と実施というものがあるんですが、今のような中身では、法の目的である需給の安定というものは確保できないというふうに考えております。

 その理由ですけれども、乳製品向け、飲用向けとありますが、特に、飲用向けの需要というものは非常に不安定です。月ごと、週ごと、時には、年末年始などのような時期には、日ごとによっても予測を超えて変動いたします。そのため、不安定な飲用向けを優先配乳して、残った乳製品向けで帳尻合わせをするという仕組みが行われてきました。これが指定団体共販、特に北海道ではホクレンの共販を通じて行われてまいりました。

 ですので、月別の用途別販売計画を立てても、それはあくまでも目安にすぎないということです。需給が計画を超えて変動することも当然あり得ます。むしろその方が普通なのかもしれません。ですから、その目安に実績を合わせることが需給の安定につながるわけでは必ずしもないというふうに考えます。むしろ、計画と実際の需給の動向がずれてきた場合、その計画をフレキシブルに変更していくことこそが需給の安定につながるということで、そのような調整ができるのは、全量生乳を引き受けて多元販売を行っている指定団体共販以外にはないということになります。

 ですから、むしろ今まで需給の帳尻合わせを引き受けてきた指定団体共販の機能維持こそが需給の安定に必要というふうに思われます。

 既に現在の指定団体共販によって需給の安定がある程度達成されている以上、年間販売計画における用途比率は完全に自由とはせず、例えば、農水省の牛乳乳製品統計の用途比率を参考に地域ごとに比率の基準を設けるということも考えられるのではないかと思います。例えば、北海道では飲用二割、乳製品八割ですね。これは各申請者ごとの基準比率とするか、あるいは地域全体の合計がその比率におさまるようにする、これは議論の余地があろうかと思います。

 続いて、集送乳調整金についてです。

 集送乳調整金の交付は、生産者が集送乳コストを負担している工場着乳価で取引を行っている対象に限定すべきということです。工場着価格というのは、乳業メーカーの工場に届けられた時点での乳価という意味ですけれども、この場合は生産者、生産者団体が集送乳コストを負担しておりますので、その見合いとして集送乳調整金を出すのは妥当です。

 しかし、一方で、一部の取引では、これは指定団体以外ということですけれども、庭先乳価での取引も行われております。この場合、一般的に、生産者が集送乳コストを負担しているわけでは必ずしもありません。要は、庭先で売ってしまうわけですから、それより後のかかるコストは生産者以外の主体が負担するということになります。ですから、この場合、生産者が集送乳コストを負担していませんので、集送乳調整金の交付は必要ではないというふうに考えます。

 次に、部分委託についてです。

 いいとこ取り防止のための部分委託拒否項目について、現状で幾つか項目が、案だと思いますけれども、示されておりますが、これだけではいいとこ取りの防止というものは困難であるというふうに考えます。例えば、生産の季節変動を超えた変動でありますとか売れ残りの場合は部分委託を拒否できるというようなものがありますけれども、これに関して具体的な基準をつくるのは非常に難しいと考えます。

 なぜなら、季節変動といいましても、地域によっても季節変動は異なりますし、あるいは、生産者とか乳業メーカーがどういう主体に対して販売を行っているかによっても季節変動の仕方というのは程度がかなり異なります。ですから、何をもって季節変動を超えているかという具体的な基準、例えば統一基準、数値基準を含めてしまいますと、主体によって状況が違いますので、一律の基準をやってもほとんど意味がありませんし、もしも季節変動を超えていますよというふうに指摘して、いや超えていないというふうに反論された場合、要は、基準がない以上、どうしようもないのではないかなというふうにも思います。

 あと、売れ残りに関しても、売れ残りの場合はだめというのは比較的はっきりしているようですけれども、これも、何をもって売れ残りとするのか、基準を決めるというのは難しいのではないかというふうに思います。

 ですから、具体的な基準をつくれない以上、どういうふうにこの拒否項目を当てはめていくのかというのは極めて難しいと思います。

 このいいとこ取りの問題なんですけれども、共販外への販売行動によって生じるリスクを、他者である共販へ転嫁してしまうというのが大きな問題点です。

 もちろん、共販を通じた協調とあるいは競争、これのバランスが大事です。そういう意味で、私も、協調ばかりしていればいいというわけではないんですけれども、今の制度改正の中身では、過度に競争に偏ったアンバランスなものになる可能性があるというふうに考えております。

 最後、提案をして終わりたいと思いますけれども、生産者が安心して酪農経営に取り組める環境づくりが必要と考えますが、しかし、現状は、むしろ生産者が不安に感じるような環境がいろいろあるというのも確かです。

 例えば、今回の制度改正による生乳販売競争の強化、そして、これはどうなるかわかりませんけれどもTPP、あるいは日・EU・EPA、あるいは将来的に予想されます日米FTAなどの発効は、生産者の経営リスクを確実に高めるものです。こういった動きに対して、生産者は不安を感じております。

 長い目で見ますと、これから日本も世界の酪農大国との競争というものが求められる時代に、望む、望まないにかかわらず、なっていくと思うんですけれども、その相手であります米国やカナダ、EU諸国には、乳価が下がった場合に政府が乳製品を買い上げて乳価を一定水準で支える制度や、その他の所得補償制度というものがあります。一方、我が国にはそのような制度がありません。要は、乳価が一定水準以下に下がらないように支える制度というものがないわけです。要は、競争相手にはそのようなものがあるが、我が国にはそのような制度がないということです。

 現状の補給金制度は、一定の経済状況の変化があれば単価は更新されますけれども、それがどのタイミングで行われるかというのは不明瞭でありますし、それ以外の場合は、基本的には固定的な単価が支払われます。かつ、補給金単価の水準も、乳価本体と比べますと一割に満たない水準で、所得補償の機能が十分とは言えません。さらに、飲用向けが主体の都府県酪農を支える制度というのは、そもそもありません。

 本改正法案を可決するのであれば、せめて、既存の牛マルキン、豚マルキンのような、粗収益が生産費を下回った場合のその差額の一部を補填する、酪農版のマルキンの整備が最低限必要であるというふうに考えます。

 酪農は、国民の基礎的な食料を供給する非常に重要な産業です。特に飲用向けに関しては、輸入が非常に難しくて、基本的には国内で調達するしかありません。今の日本の酪農というのは、北海道と都府県との酪農が、絶妙な協調と競争のバランスの中で、お互い切磋琢磨しながら発展してきました。

 そういうことを考えていきますと、今回の制度改正は、その微妙なバランスを崩すおそれがあります。ですので、内容に関しては、いま一度内容を慎重に審議していただければなというふうに考えております。

 以上で私の意見陳述を終わります。ありがとうございました。(拍手)

北村委員長 ありがとうございました。

 次に、山下参考人、お願いをいたします。

山下参考人 山下でございます。

 参考人として意見陳述ということで言われたんですけれども、実は、この件については、それほどよくフォローしてきたわけじゃないんです。というのは、何が議論されているのかというのが、私は、はっきり言って、さっぱりわからなかったわけでございます。

 実は、この問題について全く素人じゃなくて、私は、平成元年に当時の農林水産省の畜産局牛乳乳製品課というところに行きまして、そこで酪農の制度とかいろいろ勉強してきたはずなんですけれども、今回のいろいろ規制改革から端を発した議論については、私は、はっきり言って、何を議論しているのかさっぱりわからなかったわけです。そういう私の疑問も含めて、きょうは意見開陳をさせていただきたいというふうに思います。

 まず、発言のポイントというところで、資料で、大体こういうふうな話をしたいというところを述べています。

 まず、バターの不足から問題が端を発したんじゃないかと思っているんですけれども、間違った認識に基づいて議論が進行していったんじゃないかなというふうに思います。

 先ほどから酪農家の所得向上とかいう話があるんですけれども、実は、一九六五年以降、農業所得は勤労者世帯の所得を上回って推移しているわけです。有名な農業経済学者の、農業経済史をやっている人で暉峻衆三さんという方は、日本の農業、農村から貧困はもう消滅したんだ、そういうふうなことを言っているわけですね。

 現に、後ろの参考資料を見ていただくとわかるんですけれども、酪農家の平均所得は一千万円です。一千万円の人の所得を向上するのか、それが農政の目的なのかというのは、私は若干疑問があるというところでございます。

 それから、現行制度の骨格について御説明をして、現行制度の骨格というのは用途別乳価だ、これが現行制度の基本的な中身であって、これから指定生産者団体制度とかプール乳価とか、いろいろな制度が派生しているということでございます。

 それを踏まえて、今回の法案は目的を達成しているのかという議論をさせていただきたいと思います。

 端的に申し上げまして、六次産業化ということなんですけれども、これは今の現行の制度でもある程度対応できますし、特にチーズなんかは今の現行制度で十分です。それ以上の改正は必要ありません。そういうふうなところで、果たして六次産業化に貢献するのかという疑問があります。

 それからもう一つ、これは重要なところなんですけれども、年間の販売計画を指定団体、生産者団体が決めるというところが、今回、農業界の意見としてこれが法案に反映されたんだと思うんですけれども、実は、製品をつくって売っているのはメーカーなんです。メーカーが、実需者の需要に合わせて、飲用にどれだけ回すのか、乳製品にどれだけ回すのか、そういうことを決めているわけですね。乳業メーカーが決めて、酪農団体に対して、実は飲用としてこれだけ売ってほしいというのが、普通というか今の現状だというふうに思います。普通の現状だと思います。

 端的に言いますと、新日鉄は鉄板をトヨタに供給しています。でも、トヨタがどれだけ自動車を販売するかというのを、新日鉄が鉄板の販売計画を決めて、それに従ってトヨタに自動車を生産しなさいよ、そういうようなことを言っているようなものなんです。

 したがって、今回のこの法案というのは、かなり基本的なところで問題点があるんじゃないかなというふうに私は思っております。

 それから最後に、本当に正しい酪農政策というのはどうあるべきなのかという話をさせていただきたいと思います。

 まず、資料をちょっとめくっていただきたいと思うんですけれども、バター不足についての説明は本当かということなんですけれども、新聞報道があったんですが、これに私は本当にすごい違和感を感じました。

 私は大体三十年ぐらい酪農政策とか酪農の状況をフォローしているはずなんですけれども、私が担当した平成元年ぐらいも、ぬれ子の価格が、子牛の価格がかなりよくて、酪農経営も相当よかったわけです。それに比べても、今の酪農経営というのは、はっきり言って絶好調です。果たして所得向上が必要なのか、酪農の経営が赤字なのか、これは大きな疑問があるんだと思います。

 五ページ目を見ていただくとわかるんですけれども、結局、バターが不足したのは何かということなんです。

 基本的に、端的に言うと、いろいろ関税で保護したとしても、国内の価格が上昇して、ある一定のところ以上に上昇して、輸入した方がもうかるということであれば、輸入が自動的に行われて、供給がふえて、価格は下がるはずなんですね。バター不足も起こらないはずなんです。

 ところが、ALICという、国家貿易制度を設けていて、これに対して農林水産省が、いつ、どれだけのバターとか脱脂粉乳を輸入するかというのを指令するわけですね。したがって、自由な市場というのがうまく機能しない。

 したがって、本当に、規制改革会議がバター問題を取り上げるのであれば、ALICによる国家貿易制度を廃止する、こういう提言をすべきだったというふうに私は思います。

 それから、六ページのところなんですけれども、現行酪農制度の本質というのは何かというと、基本的には、六六年の不足払い制度施行以前は一物一価だったわけです。飲用向けも加工向けも同じ乳価だったわけです。

 したがって、何が起こったかというと、加工向けで、乳業メーカーは、乳製品の価格が安いわけですから、それで一般と同じような乳価をやろうとすると赤字になってしまう。したがって、一般の飲用の製造についても、黒字を出す必要がある、つまり価格を抑える必要があったわけですね。したがって、乳価紛争が絶えなかったわけです。

 これを防ごうと思ってやったのが今の用途別乳価制度と不足払いなんです。つまり、今の加工向けの乳価を抑えて、不足払いも入れて抑えて、飲用向けの乳価を上げる、こういうことで乳価紛争がおさまったわけです。

 先ほど、飲用向けについては補償制度がないということは指摘があったんですけれども、それはそうなんですけれども、実は、加工原料乳について不足払いをすることによって、しかも用途別乳価制度を導入することによって、乳価紛争は全くおさまってしまった。つまり都府県の飲用乳価格の安定に貢献したんだ。これは多分、今までの酪農政策が決して間違っていなかったということの証拠だというふうに思います。

 ただし、七ページを開いていただきたいと思うんですけれども、用途別乳価をする、そうすると、ある生産者が加工向けに販売する、あるいは別の生産者が飲用向けに販売する。そうすると、それぞれによって、たまたま飲用向けに販売すると高い乳価が得られて、加工向けに販売すると低い乳価である、それでは不平等だというので、一元集荷、多元販売制度、指定団体制度ですね、一気に指定団体が集めて販売して、いろいろな乳価をプールして加重平均した乳価を生産者に支払う、こういう制度ができ上がったわけでございます。

 ただし、この指定団体制度が本当に機能しているのは、私は日本でホクレンしかないんだと思います。極めて強力な独占を持っていまして、価格交渉についても価格決定権についてもほとんどホクレンが主導してやっております。それから、乳業工場の配乳権、これも、ほとんど都府県の指定団体ではここまで持っているところはないんだと思います。ただし、ホクレンは、不足払い法施行以降、配乳権を確立したわけです。極めて強固な権能を持っている。したがって、実はホクレンのみが飲用向け、加工向けの用途別生乳の配乳権限を持っているということなんです。つまり、今の法案の趣旨に一番合致しているのはホクレンだということなんです。

 ということから考えると、もしホクレンの独占的機能が失われれば、用途別の販売計画というのは不可能になるということであります。何が起こっているかというと、もし生産者に対して選択肢を拡大しようとすると、第二ホクレン、第二指定団体を北海道でつくらざるを得ない。そうすると、配乳の販売計画というのは不可能になるということなんですね。

 逆に言うと、今のホクレンそのままを維持するということになれば、この法案の販売計画というのは意味を持つことになります。だけれども、その場合には、法案の目的である生産者の選択肢をふやすという機能は、法の趣旨、目的は全く達成されないということになります。

 下の方で、ほとんど都府県は飲用向けだというデータを示しております。

 今申し上げた話は九ページ以降に書いております。論理的に言うと、もし北海道で第二ホクレンをつくったとします。今のホクレンは、ほとんどが加工向け、バター、脱脂粉乳向け、生クリーム向け、チーズ向けですから、プール乳価は低いわけです、八十五円ぐらいなんですね。ところが、第二指定団体になると、当初は飲用向けが主体だと思います。そうすると、生産者としては、同じプール乳価が第二ホクレンの方が高いわけですね、飲用乳価の方が。そうすると、生産者はどんどんどんどん第二ホクレンに生乳を販売委託しようとするでしょう。

 そうすると何が起こるかというと、論理的に言うと、何もしなければ、第二ホクレンは全て飲用牛乳、ホクレンは加工原料乳のみというふうな形も予測されるわけです。ただし、本当にそういうことが起こるのかねということなんです。

 ホクレンというのは、大変力の強い独占的な事業体であります。かつて、一九九〇年代だと思いますけれども、ホクレンに対抗して別の農協をつくって、肥料とか農薬を安く農家に供給しようとした北海道広域酪農というのがございます。ただし、この北海道広域酪農というのは、韓国から肥料を輸入してホクレンよりも三割安い価格で供給した、そういう成功はあったんですけれども、残念ながら、いつの間にか北海道広域酪農というのは消えてしまったということでございます。何が背景にあったのか、私は十分承知していません。いろいろな人に聞くんですけれども、なかなか的を得た答えが返ってこないということでございます。

 それでは、十ページ、なぜ六次産業化に貢献しないのかという話なんですけれども、酪農家が飲用牛乳をつくる場合には、酪農家にとって、飲用乳代のコストというのはプール乳価なんですね。これは経済学で言う機会費用という概念なんですけれども、プール乳価で自分は生産できるわけです。だから、飲用工場のように、乳業メーカーのように高い飲用乳価を払うよりもはるかに有利になります。

 それから、チーズ向け乳価、チーズ生産ですけれども、チーズについては、酪農家が例えばホクレンに生乳を売ってプール乳価で代金を得ます。その後にホクレンからその生乳を買い戻して、買い戻すというのはチーズ乳価で物すごい安い価格で買い戻すわけです。そうすると、酪農家としては、高いプール乳価で売って安いチーズ乳価で買い戻してチーズ生産した方がはるかに有利なわけです。つまり、現行の指定団体制度のもとでも、このチーズ生産については十分、むしろそっちの方が有利だというふうなことになるんだろうと思います。

 それから、十一ページ以下は、いろいろな今の酪農団体が言っていることがはっきりよくわからない。冬場に加工向けに向けるというんですけれども、冬場であっても飲用向けの需要はすごいあるわけですね。しかも、ここに書いているように、飲用向けがキロ百円で、加工原料乳が補給金込みでも八十五円だという状態のもとで、誰が安い加工向けに、冬場であっても販売しようとするのか。このロジックが私はさっぱりわからないということでございます。

 そういうふうなことをいろいろ、以下に書いております。特に十四ページなんですけれども、販売計画の申請をするんですけれども、ホクレンが北海道の生乳の一〇〇%を自分が販売するんだというふうな提案をしてきた、販売計画を提出してきた。ところが、第二ホクレンが、いや、うちは五〇%の生乳を扱うんだというふうな申請をやってきた。その場合に、全体の一五〇%の生乳の販売計画が二つの団体から出てくるということになります。こういう場合に、では、どういうふうに調整するのか、私はよくわからないわけでございます。

 はっきり言って、乳業者の契約書を添付しろというんですけれども、ホクレンの意向をそんたくした乳業メーカーが、第二ホクレンとそんな契約は交わしませんよと言われたら、今までどおりのホクレンの一〇〇%の生乳の販売計画が通ってしまうわけですね。そうすると、法の目的は達成できないというふうなことになります。

 それから、十五ページなんですけれども、今まで御指摘された人と違って、私は、今回の措置というのは、完璧な、農林水産省の、悪い言葉で言うと焼け太りだというふうに思います。

 実は、加工原料乳の不足払い法は、北海道が市乳供給地帯になるまでの暫定措置法だったわけです。当時の畜産局長だった檜垣徳太郎さんという人が答えて、どれぐらい続くのか、いやまあ、続いて五年か十年ぐらいだろうなと。そういった制度が五十年も続いてきたわけですね。

 したがって、今の状況から見ると、ほとんど今、北海道は、生クリーム向けというのを加えて辛うじて加工原料乳地帯になっているだけであって、従来のバター、脱脂粉乳からすると、もう加工原料乳地帯ではなくて、市乳供給地帯になっているということで、また新しい仕組みを検討する必要があるんじゃないかなというふうに思います。

 あと、最後になりましたけれども、十九ページなんですけれども、いろいろその途中の過程の前提を省略して申し上げますと、もう輸出を考えて、国内の需要はどんどん減少していきます。飲用牛乳についても、お茶の消費が伸びたために、飲用牛乳の消費が落ちたわけですね。そういうふうなことを考えると、輸出にしても価格競争力をつける必要がある。そうすると、今の用途別乳価という制度をやめて、もう一遍単一乳価に戻して安い価格で供給する。そういうふうなことをやらないと、なかなか、短期的な酪農、乳業の、一時的な延命措置はいいんですけれども、将来、人口減少時代で、日本の酪農、乳業が将来とも存続するというためには、オーストラリアが二〇〇〇年に制度改革をやったように、単一乳価に戻すべきだというふうに思っています。それで、なおかつ、国内の草地を使っている農家についてはEU型の単一直接支払いを導入すべきだというふうに私は考えております。

 最後に、今、農本主義という言葉が盛んに言われるようになりましたけれども、戦前の農本主義の代表者と言われている石黒忠篤の言葉を引用させていただいて、終わりたいと思います。

 ここに、黄色に書いておりますように、国の本なるがゆえに農業をたっとしとするんだ、国の本たらざる農業は一顧の価値もないんだ、したがって、諸君に、真に国の本たる農民になっていただきたいと。これを言ったときの真の国の本たる農民というのは、国民、消費者に食料である農産物を安く安定的に供給する、これが石黒忠篤が考えた真の農民だったということでございます。

 どうも御清聴ありがとうございました。(拍手)

北村委員長 ありがとうございました。

 以上で参考人からの意見の開陳は終わりました。

    ―――――――――――――

北村委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。伊東良孝君。

伊東(良)委員 おはようございます。

 四名の参考人の皆様、本当にありがとうございました。大変いいお話をお聞かせいただき、また共通認識を持っているな、そういう思いもさせていただいたところであります。

 私、先ほどちょっとお話が出ましたけれども、北海道選出で、釧路、根室地方選出でありますので、私の地元の農業の九八%は酪農であります。ごくわずか畑作が少しあるというだけで、もうその大半が酪農地帯でありまして、今ようやく牧草も少し青々と伸び始めてきたという季節でございます。

 指定団体、あるいは今回の問題等々につきましては、非常に地域としても関心が高く、なおかつまた、若い人たちが今意欲を持って酪農に取り組もうとしている、その真っ最中でありまして、彼らを元気づけたい、あるいは将来、夢を持って酪農経営に当たらせたい、そんな思いがあるものでありますから、そこら辺を踏まえて、地元擁護に少し聞こえるかもしれませんけれども、ぜひまた改めて御意見をお聞かせいただきたいと思います。

 それではまず、酪農研究会の会長をされております須藤参考人にお聞きしたいと思います。

 今お話しの中で、指定団体による現行の役割、機能につきまして重要なものと認識をいただいているわけでありますけれども、その一方で、生乳需要の量的拡大の時代は終わった、また一方で、バター不足の問題が生じたように、質的変化、とりわけ需要の多様化が進む状況に現行制度は十分に対応できていないのではないかというお話をいただいたところであります。

 この生乳生産の十年、二十年の推移をずっと見てみますと、北海道も現在、生産量は約三百九十万トンでありますけれども、その十年、十五年、二十年前、これはもう本当に、それをさらに百万トンも上回るような生産量を確保していたところであります。日本全国でも、平成に入りまして八年、九年、十年、十一年、国内生産量は八百五十万トンぐらい、ずっとオーバーしてきていたわけでありますけれども、昨今は、七百三十五万トン、七百四十万トン、ここら辺を行ったり来たりしているような状況でありまして、恐らくこれは都府県の酪農も北海道の酪農家も、年率二、三%ずつ、農家戸数の減少あるいはそれに伴う生産量の減少であろうというふうに思うところでありますけれども、需給バランスがそこで崩れてきている。

 だから、お話にありますように、牛乳は腐敗しやすく、そして、それがゆえにまず飲用乳として加工され、そして、近年需要の伸びております生クリームや液状製品に次に加工され、保存性のよいバター、脱脂粉乳にはその最後の方でこれが加工に回るということであります。需給調整的な役割を担っている部分も相当あるのかな、こう思うわけであります。

 したがいまして、生産量がそうやって国内で百万トン以上もどんどんどんどん減ってきますと、当然、バターに回る生乳の量も少なくなるわけであります。ただいま山下参考人からその裏話的なお話も聞かせていただきましたけれども、しかし、全体の総量を製品にそれぞれ仕向けていく、こうした中でバターが減少していたというのも事実であろうと思います。

 したがいまして、指定団体制度が、須藤参考人おっしゃられるように、その機能がいわゆる十分対応できなくなったということとは少し違うのかなという認識を私自身は持っているわけでありますけれども、この点、まずちょっとお聞きいたしたいな、こう思います。

須藤参考人 どうもありがとうございます。

 ただいまの御質問ですけれども、指定団体が対応が難しくなってきているのではないかというところでございますけれども、私は、それは質的な変化ということで、大変、酪農者が規模拡大をして、経営の選択肢というところで考えますと、やはり、一方的なところよりも、将来的に向けて経営戦略という意味でいろいろ考えていくというのは当然のことだと思っております。

 そういうことで、今の特に法人経営の皆さんは、やはり数的な、量的な販売というのも当然これは確保しなくてはなりません。しかしながら、そういう中で、現状に即応した多角経営というところでもやはりそれなりに目指していくというのも一つかなというふうに私は考えております。

 そして、家族経営がこれだけ減っていくというのは、私は、乳価とかもうからないとかという以上に、やはり労働問題が一番根っこにあるんじゃないかなと。特に家族経営の皆さんというのは、三百六十五日働き続けでございます。酪農はそういうことでございます。

 そういうことであるとすると、私もそういう期間が二十年間もありましたけれども、やはり、法人経営にして雇用をつくっていくということでそれを乗り切るということが最大の法人経営としてのメリットではないかなというふうに、それがやはり酪農が次へステップアップする大きな要因になっております。

 ですから、家族経営の皆さんが大変な思いでやってきている中で、私の経験から申しますと、やはり酪農というのは、人を雇用して、それを機械にかえるという人も今出てきておりますけれども、まだ少数でございます。やはり人が大事です。そういった中で、交代ができて、雇用がやはり確実に確保できるところでないと、なかなか永続的な経営というのは難しいものでございます。そういうことで、家族経営の皆さんはリタイアしていく人が多いと私は考えております。

 やはり、そこの家族経営ももちろん大切でございます。ですから、そこに、しっかりとした酪農ヘルパー制度とか、そういったものがしっかりとあることによって、家族経営の皆さんがリタイアをしない。乳価もそこそこの値段でございます。そこそこでございます。こういう大変ありがたい中で、今もうかっているというのは、牛乳本来のものだけではございません。今は個体販売というのも大変元気でございますので、そういったところで、酪農の本来の経営というのをしっかりと見詰めたいというふうには思っております。

 質問から若干外れたところもございますけれども、指定団体の機能というものは、これはもちろん当然大事でございます。これを続けていきながら、なおかつ、酪農家の多様化というのもやはり若干認めないわけにはいかない。これは、未来の私の後継者のためにも、私はそんなふうに思っております。

 以上でございます。

伊東(良)委員 ありがとうございます。

 ロマンチックデーリィファームという非常にロマンチックなお名前をつけられた大牧場でありまして、千二百頭規模の牧場は北海道でもそうたくさんないわけでありますけれども、法人経営をしっかりなされているという姿は、本当に尊敬するところであります。参考人が会長をなされております酪農研究会には、私の地元からも、大きな規模の経営を目指している若手の経営者が参画をしているところであります。

 今お話にも出ましたように、家族経営、小規模経営のところもたくさんあるわけでありまして、今、恐らく農水省は、この両者が成り立つように、もちろん大規模で進めるところは進めていただいて、それはもう畜産クラスター制度などを活用いただいて、どんどん規模を拡大する、あるいは、離農した後を買収されて、引き受けられて行う、これは非常に大事なことだというふうに思います。一方、小さな経営をされている家族経営の皆さんのための省力化事業というのも今年度スタートをいたします。七月にも募集をするところであります。

 こうした都府県の酪農と北海道の酪農、両方の実態をお聞きになっているかと思います。また、大規模な御経営をされている参考人の会社と、今お話あった小さな、御夫婦二人で、あるいは家族三、四人でおやりになっているところもたくさんあるわけでございますので、その辺の都府県と北海道の違い、あるいは大規模経営の法人経営、家族経営、この違い、役割。

 そしてまた、先ほどからお話がちょっと出ておりますけれども、飲用乳は、これは大消費地周辺、本州に行きますと、百十七円平均で取引されるわけであります。しかし、加工乳に回りますと、これが七十八円、八十円弱で取引される。もうその差、三十数円から四十円近い差が、たった一キログラム当たりの牛乳で差がつくわけです。もちろん、だから北海道でも、参考人の皆さんお話しのように、これは飲用乳で売れればそれにこしたことはないわけでありまして、それが一番もうかる話であります。

 しかし、三百九十万トン生産する北海道で、八割は加工に回さざるを得ない、二割しか飲用に回っていっていないという、これがもし間違って、あと五%、あと一〇%本州方面に飲用で出荷されるということになりますと、これは実は大変なやはり需給バランスの崩れというものが生じ、あるいは価格の下落ということにもつながってくるかと思います。

 この辺のことも含めて、須藤参考人にちょっと、最後、一問だけお聞きしたいと思います。

須藤参考人 ただいまの御質問でございますけれども、私が考えるに、これは私の個人的な見解もございます。よく北海道と都府県という、いろいろお話が出ておりますけれども、私は、以前から、そのすみ分けというのが、やはりこの補給金である程度はカバーできていたのかな、大変な補給金の意義があったな、そういうふうに思っております。

 それはなぜかといいますと、やはり、今おっしゃいましたように、価格差がございます。その価格差を埋めるために補給金がある。当然間に合いません、飲用乳に追っつくまではいきませんけれども、補給金が出ることによって、北海道の酪農の皆様は、都府県にも牛乳をあえて流通コストをかけて販売していくよりも、加工乳でもそれなりに補給金をもらえて経営が維持できるということだったと思います。

 ですから、北海道の皆様が頑張っていただくのは、ある意味のコスト削減、自給飼料の広大な草地を有しておりますから、そういったものを最大限活用いたしまして、それでそのコスト割れをカバーするというのが、北海道の皆様のこれからの生き方かなと。

 都府県におきましては、土地基盤がございません、正直。ということは、私のところでも、以前、少ない頭数のときは自給飼料をたくさん、十ヘクタールぐらいつくったこともございます。しかしながら、今、千頭になりまして、とても自給飼料をつくるほどの土地が正直ございません。どこを見つけても、私の群馬県のところでも、やはり野菜とかコンニャクの産地でございます。換金作物といいますか、やはりそういった作物をつくった方がいいわけでございまして、となれば、やはり輸入飼料に頼らざるを得ません。

 そういった中で経営を成り立たせるために、私は、ほぼ飲用乳で、九十数%飲用乳で群馬県は売れております。大変ありがたいというふうに思っております。そういうすみ分けがやはり現状できているということが大変私は重要なことだと思っております。そして、今回の法律でもやはりそれは踏襲されるという中で、しっかりとそれが、未来永劫この補給金制度がしっかりと根づくということは大変大事なことだと思っております。

 これは北海道の南北戦争を逆に私は緩和していただける。北海道が今、流通コストが大分、精度が上がって、安くなっています。それで北海道から牛乳が大変今、正直、入ってきております。それは、逆に言うと、今は本州が足りないんです。牛乳が足りないから、北海道からやむなく今高いコストをかけて持ってきています。それでも飲用で売れるわけですから、本州で、しっかりとした基盤があるにしても、やはりなかなか北海道さんのようなわけにはまいりません。そういう中でやっているというのが現状でございます。

 以上でございます。

伊東(良)委員 時間がもうないという知らせが入りました。日大の小林参考人と北大の清水池参考人、お二方とも共通の御認識を持たれているのが先ほどわかりました。一部ちょっと違うところもありますけれども。時間があれば酪農マルキンについてそれぞれお聞きしたかったのでありますけれども。

 小林参考人は、指定団体のさらなる強化、国の需給調整への関与を明確化する、こううたわれているところであります。これについて、先ほど概略の御説明はありましたけれども、私の時間がありませんので、一言だけ、どうしてもここはというところだけ押さえていただきたい。

 また、清水池参考人も、先ほどのお話はもう全く同感でございます。都府県と北海道の需給バランスの調整をされてきた補給金制度、あるいは今後この需給調整機能が喪失しかねないという危機感、こういったものをお聞きしたところでありますので、再度、最も危惧する点についてお聞かせいただきたいと思います。

小林参考人 ありがとうございました。

 指定団体制度の強化につきましては、これは現在の指定団体十ブロックになっておりますが、それではメーカーあるいは量販店に対しての乳価交渉力という点でまだまだ弱いということであります。

 これは例えば東京大学の鈴木先生が数量的に計測されていらっしゃいますけれども、例えば、生産者が一とするとメーカーが九ですとか、逆に、メーカーと量販店の間でも一対九というふうな、非常に力の差がまだまだある。

 こういう中では、現在、生産者の選択肢をふやすために指定団体制度を壊すということなんですが、逆に、生産者がばらばらにされることによって、さらに生産者の力が弱くなってしまう。これが一対九じゃなくて、〇対十ですとかということになりかねないということを非常に心配しております。

 ですから、これはイギリスの例でもう既に実証済みであります。オーストラリアについても、先ほど山下参考人からのお話がありましたけれども、二〇〇〇年で酪農改革で全て規制は撤廃したんです。ただ、その後、十年間は賠償支払いということで一戸について一千万円ぐらいの支払いをしました。結果、何が起こったかというと、圧倒的に生産者の力が弱くなり、酪農家の協同組合が日本のキリンの子会社に買収されたりあるいはニュージーランドのフォンテラに買収されたりということで、生産者がばらばらになって、スーパーでは牛乳戦争ということで一リットル当たり一ドル以下で売り続けられているということで、非常に酪農家が苦境に陥っているという事例があります。世界どこを見てもそういうふうな事例がある。これをどうしてきちっとして総括しないのかというのが非常に不思議であります。済みません、長くなって。

 部分委託についても、生産者の選択肢を広げるという、それは確かにそうかもしれませんが、現行制度の中でも、先ほど山下参考人がおっしゃったように、一日三トンまではできるわけですね。しかも、現行の制度の中では、ある意味では安定的に、自分が売れない部分は指定団体に委託販売することによってプール乳価を保障してもらえる。売れ残りがないわけですね。そして、一日三トンまで加工、販売できる。こういう制度は非常にいいと思います。これは生産者にとって有利であると思いますし、今現在、一日当たり三トン以上を、あるいは三トン近くを自分で加工、販売しているところというのを私は知りません。

 昨日も栃木で、みずから加工、販売されている農家の方のお話を伺いました。この方は、わずか二十頭で一億円の売り上げで、十人の雇用をされているそうです。これは販売力が非常に強いということでそういうことができていて、この方はアウトサイダーでありますけれども、彼は、今の制度、指定制度というのが重要である、こういうマスはきちっとした指定団体に支えられることによって、自分たちのようなニッチが生き残ることができるんだ、この共存が大事だというふうに言っていらっしゃいます。

 もう一つは、二十頭でも生きていけるという経営ができるんだというお話も、非常に感銘を受けて聞いた次第です。

 以上でございます。

清水池参考人 御質問ありがとうございます。

 お答えいたします。

 需給調整機能が失われたらどのようなことが懸念されるかということですけれども、大きく二つ考えられまして、一つは、今は秩序立って飲用向け、乳製品向けというふうに仕向けられておりますけれども、もしもこのたがが外れてしまった場合、何度もお話しになっておりますけれども、飲用向けと乳製品向けを比べると、飲用向けの方が乳価が高いということで、飲用向けに販売が殺到するということが考えられるわけです。そうしますと、飲用向け乳価は、販売競争が起きるわけですので、当然低下する。さらに、それは同時に共販において飲用向けが減るということなので、その結果、飲用向けがどんどん共販の外に出てしまう、そのことによって共販のプール乳価も下がってしまうということで、そうなると誰も生産者が得をしないということになってしまいます。

 あと、需給調整が失われると、今は、要は数、数量調整主体でやっているわけなんですけれども、もしも数量調整ができなくなると、価格で調整をしないといけなくなります。ですから、そうしますと乳価が大きく変動するようになりまして、経営への影響が大きくなります。さらに、乳価が大きく上下動するということは、末端の製品も価格も大きく上下動することになり、それは、特に牛乳などは一般の消費者にとって非常になじみのある、よく飲む、購入するものです。そういう製品が大きく価格が上下動するというようなことは、恐らく一般の消費者も望んでいないことかというふうに思われますので、そういった点が懸念されるかなというふうに考えております。

 以上です。

伊東(良)委員 時間ですので終わりますが、山下参考人には申しわけありませんでした。お話は十二分に承ったところであります。

 ありがとうございました。

北村委員長 次に、稲津久君。

稲津委員 公明党の稲津久でございます。

 きょうは、四名の参考人の方々にお越しをいただいて、大変貴重なお話を賜りまして、まことにありがとうございました。

 また、これから短い時間ですけれども、私の方からも質問をさせていただいて、不明な点、あるいはまた今回の法整備においてもう少し中身を明らかにしていくという観点から、質問を順次させていただきたいと思っております。

 最初には、部分委託と全量委託ということについてお聞かせいただきたいと思っているんですけれども、今、これに関連して需給調整の話も出ましたので、ここは、まず須藤参考人にお伺いしたいと思っております。

 結局、飲用乳と加工乳のバランスの問題というのは、ずっとこれは過去をさかのぼって今日まで参りまして、その間に、いかにして需給調整していくのかということが一番大きな課題であったということでございます。

 私も一番懸念しているのは、仮に無条件の部分委託を認めてしまったときに、当然これは現在の指定団体の集乳力というのは落ちてしまって、結果として需給バランスが大きく崩れてしまう。こうなると、我が国の酪農あるいは牛乳・乳製品の生産というものに大変重要な、そうした懸念が生まれてくる、このように思っておりまして、今回のこの法案の中にも、結果として、いいとこ取りとか不公平感を感じるような取引は基本的にできないんだということを、これから省令で、今後、法整備の後にそこはしっかりつくっていく、こういうことがこれまでも農水省との質疑の中で議論されてきました。

 そこで、もちろん現在の生産局長通知での全量委託というものもありますけれども、これも合意が可能であれば全量委託もできるというふうになるんだ、こうありますけれども、整理してお聞きしますけれども、この需給調整の問題、部分委託、これを具体的にどういった形で認めていくのが一番いいのかということについて、改めて須藤参考人にお伺いしたいと思います。

須藤参考人 ありがとうございます。

 私は、今までの制度の中で、無条件全量委託というのも、一つは、方法論でいいますと、大変理にかなったやり方であったと思います。

 しかしながら、だったと思いますと言ったのは、やはり酪農家が、本当に酪農生産者として牛乳の原料供給者であり続けるのか、ちょっと格好いいことを言っちゃいますけれども、逆に、牛乳というものが、バルククーラーのところまでが酪農家の仕事なのか。その先は、もうほかの人の仕事に現状はなっております。大変な作業分担がされているわけでございまして、私はそれはすごく結構なことだとも思っております。だけれども、しかし一方で、果たして、未来永劫、そういうことで、本当にこの選択肢でいいのかなという疑問も持ちました。昨年、特に持ちました。

 という中で、やはり、酪農家が自分の牛乳を自分で販売先も見つけたいとか決めたいとかという人もあってしかるべきだな、そういうことも思いました。

 となりますと、やはり今までの、一〇〇%の、全部持っていっていただけるというのは大変ありがたいことでもありますけれども、先ほども言いましたように、いつもそれでいいのかなという思いもしました。

 そういう中で、やはり一筋の、もし風穴をあけてしまうと、それがまずいんだというお話もございます。しかしながら、私は、どっちをとるかということで考えますと、これだけの指定団体さん、私も含めて、皆さん、ほぼ九十数%の人が、現状、指定団体に牛乳を出荷しております。ほぼ数%の人だけです。その数%の人が需給調整に大変な弊害になるかという議論は、私はちょっとナンセンスじゃないかなというふうに最近思っております。それが二〇%とか三〇%になったら、これは需給調整に大変弊害が出てくるんだと思います。数%の中でこれが一挙にどんどんふえるということは、私は考えられないと思っています。大事な指定団体の中で今私たちは牛乳を販売していただいていますけれども、その機能が失われることは、まず当面私はないというふうには思っています。

 ですから、そういった希望の持てる選択肢は、ここで優先しても若干いいんじゃないかなと私は最近思っております。そこでお考えをしていただきたいと思います。

 以上です。

稲津委員 ありがとうございました。

 それで、ちょっと当初の質問から少し想定したのを変えながらお聞きしたいと思うんです。今大変大事な論点のお話がありましたので。

 ここは小林参考人と清水池参考人にお伺いしたいと思うんですけれども、今の部分委託と全量委託の話でございますけれども、部分委託と全量委託の中で結果として需給バランスをどう整えていくのか、そういう根本的なことから考えていくと、例えば、やはり全量委託をしていただいているところの方が需給バランスについてはある程度大変な貢献をしているんじゃないか、こういう意見もたまにあります。

 これも大事な視点かなと思っていまして、そこで、公平性の確保の観点から考えると、これは例えばという話ですけれども、合理的な条件、格差をつけたらどうなのか。すなわち、部分委託に比べて全量委託の方に少しメリットがあるような、そういった契約をすることも必要じゃないのか、こういう意見もあります。

 これに対してどのような御意見をお持ちであるか、もしくは、需給調整における部分委託と全量委託のことについてというお話でも結構でございますので、お願いします。

小林参考人 御質問ありがとうございました。

 今の点は非常に重要だと思うんですけれども、先ほどの須藤参考人の御意見、ちょっと私、腑に落ちないといいましょうか、どうしてなのかなというふうに思った点が二つあります。

 それは、現行の指定団体制度の中でも、先ほど申しましたけれども、一日三トンまでは部分委託といいましょうか、自分で加工、販売するということが可能である、これが足らないということであれば、それはまたその話でありまして、現行でもそういう対応ができるんだ、それも、さらに、いわばインサイダーのままで部分委託といいましょうか、自分で加工、販売するという方にとって有利な形で行われているということが一点です。

 それからもう一つは、現行の制度でも九五%が指定団体に加入していらっしゃるということは、五%はいわゆるアウトサイダーである。みずから売り先を見つけて有利販売をされているという方が五%いらっしゃいます。都府県においては、ある意味では補給金の恩恵というのは余りないわけでありまして、飲用で全て売り切るということができるのであれば、アウトサイダーになってやるということも、今の体制の中でも選択肢としてあるのではないかというふうに考えます。

 今、委員の方からお尋ねの、全量委託についてはメリットがあればいいんじゃないかという話があったんですが、そういう考え方もあると思うんですが、現行においては、多分、補給金というのがそういうものではないかというふうに思います。

 インサイダーであれば補給金というものが支払われるということでありますけれども、都府県においても、先ほど来申し上げているように、その金額というのは非常にわずかなものであります。都府県においては、それよりも、今の体制の中で北海道とのすみ分けをできている、そういう協調的な競争関係といいましょうか、そういうことが体制としてでき上がっているということが重要であって、それが崩れるということが全ての酪農家にとって不幸なことになるということになるのではないか。

 ですから、全量委託に対するメリット云々というのは、部分委託との全量委託というか、どのくらいの割合がいわば指定団体に結集するかということにもよると思うんですけれども、集送乳経費がこのたび新設されたりというふうなことで、あまねく集乳されるというところに対しては若干のメリットということになるかもしれませんが、それでも、基本的には加工原料に対しての集乳経費ですから、それほど都府県においては大きくはないと思います。

 ですから、都府県においては今の体制というものが必要ですし、私がちょっと先走って言いますと、酪農マルキンが必要だというふうに申し上げましたのは、そういうものによって都府県の酪農をぜひ支えるということを考えていただきたい。それがある意味では、インサイダー、アウトサイダーに限らず生産を支えるという一つのセーフティーネット、岩盤になるのではないかというふうに考えております。

 以上です。

清水池参考人 お答えします。

 部分委託あるいは全量委託と需給調整の関係というのは非常に難しい問題があります。確かに、全量委託の方が需給調整上はよろしいんですけれども、そうしますと、販売の選択肢が非常に狭い。一方で、部分委託の場合は、確かに販売の選択肢は広いんだけれども需給調整上の問題があるということは御指摘のとおりかというふうに思います。

 ですから、ちょうどバランスのいいところがどこなのかということを見つけないといけないということなんですけれども、特に部分委託で共販外で売る場合は、基本的には共販外で売るのは飲用向けになると思うんですけれども、飲用向けの販売リスクはやはり不安定な需要にあるということです。

 恐らく、スーパーなどの場合ですと、気温とかあるいは特売の実施によって日々発注量は変わります。ですから、メーカーからしますと、日々生産量を微妙に調整していかないといけないわけですので、その分、生産者から必要とする牛乳量も日々微妙に変わっていくわけです。本来ですと、要はメーカーの必要とする量が日々変わっていくわけですから、それに生産者が売るわけですけれども、その変わっていくのに調整することも、調整するというのが飲用向けのリスクなわけなんですけれども、部分委託の場合は季節によってふえたり減ったりする分の残りを農協に出してはいけないという項目がつくられるのかもしれませんけれども、実際問題、農協としては、組合員が望んでいる以上、なかなかそういう、直ちに拒否する、全部拒否するという話にもならないと思いますので、実際問題、そういう飲用向けの変動の帳尻合わせを共販が負わなければならないという事態が起きる可能性があると思っています。

 ですから、そうしますと、本来は自分で負担しないといけないリスクを共販に負わせているわけですから、だからそういう意味で、今御指摘ありましたような、全量委託の場合と部分委託の場合で契約条件に差をつけることを容認するということも一つの考えとしてはあり得るのではないかというふうに私は考えております。

 以上です。

稲津委員 ありがとうございました。

 私、今御意見を伺った中で、最終的にここはやはり省令の中で、いいとこ取りができない、それから不公平感を感じない、それはきっちり整理しなきゃいけない。特にやはり、計画はしっかり出していただいて、それに基づいた結果報告もしっかり出していただく、そこを丁寧にきっちりやっておかないと崩れてしまうのかな、そういう不安があるんですけれども、今の御意見の中で一定程度整理ができたんじゃないかなと私自身は思っております。

 それで、もうあっという間に時間が来てしまいましたので、今度は少し、より酪農における根源的なお話についてお伺いしたいと思っていますが、特に須藤参考人におかれましては、ロマンチックデーリィファームということで、頭数、それから従業員の方も大勢いらっしゃって、大変大規模な経営をされていらっしゃいます。

 それで、きょうのお話の中でもありましたけれども、実際には我が国の生産現場というのは生乳の生産量が落ちてきているのが現実で、ただ、もう一方で、酪農の生産額というのは農業生産額の一割を占めるところまで来ているという、これも大きな話だと思うんですが、しかし、共通に抱えている問題は後継者不足、人手不足、ここが一番の課題だと思っています。したがって、この後継者をどのように育成していくのか。かつての時代とは大分違うと思うんですね、これからの若い方々ですとか。

 そういう意味で、システム的に、そして、その作業や何かの技術習得もそうですけれども、もう一方では、総合的な、そういうソフト的な勉強もしなきゃいけないだろう。こういうことをいよいよ丁寧にやっていく時期に来ていると思うんですけれども、この辺についての須藤参考人の御意見をいただきたいと思います。

須藤参考人 どうもありがとうございます。

 私は、大規模法人経営だけがいいと思っているわけでもございません。日本の全体の七割、八割を支えていただいている家族経営の皆様というのは、本当に毎日必死でやっていると思います。

 そういう中で、何で家族経営の皆様がリタイアするかというのは、先ほどお話ししましたように、お金のことよりも労働力の問題だと私は思っております。そういう厳しい酪農の環境の中でやり続けなきゃならないということがかなり次の世代にも向けて大変負担になっている、そういうふうに思っております。やはり一度牛を飼い始めると、餌や水をやらないわけにいかないわけです。となりますと、やはり病気になってもやるというのが酪農でございます。

 ということであると、やはり規模を拡大するか、やめるかになるわけでございます。

 となると、未来がどこで見えるかというと、やはり私はそこなんだと思います。技術革新はもちろん、やはり酪農という産業を、規模拡大をして一つの選択肢として選ぶか、多角化をして選ぶか、どちらかだと思います。

 先ほど二十頭でも経営が成り立つと。成り立ちます。それは多角化をしてやはり創意工夫があるということです。そういうことがやはり酪農の、何というか最大の、奥が深い産業であるというふうに私は思っております。

 ですから、この酪農を持続するためには、やはり若い世代の人が入ってきてもらわなきゃなりません。それにはやはり大規模化にして、雇用、福利厚生をしっかりして、私のところはそうなんですけれども、福利厚生をしっかりして、月に六日間休みを今とるようになっております。有休もとれます。やはりそういったシステムを酪農ができないんじゃなくて、やっていく。私はそこなんだと思っています。

 ですから、家族経営が選択肢を選ぶのであれば、やはり多角化、六次化、そういう選択肢になるのかな、やり続けるにはですね。

 ですから、やはりそういった意味で、今までの三トン枠というのは確かに十分でございます。しかしながら、委託とか、自分のところに工場がないとか、プレミアムじゃないとだめだとか、そういう当然制約がございます。ですから、そこで皆さんがハードルが高いのでございます。なかなかやり出せない。ですから、やり出せるためには、そこをハードルを低くしなきゃだめなんです。そういうところをやはりお願いをしたいというふうに思っております。そうすれば、もう少し、酪農が広い選択肢の中で経営戦略ができていく。それは酪農家が選ぶことです。そう思っています。

 以上です。

稲津委員 ありがとうございました。

 山下参考人には、輸出のことを少しお聞きしたかったんですけれども、申しわけございません、時間が参りましたので、以上で終わらせていただきます。ありがとうございました。

北村委員長 次に、岸本周平君。

岸本委員 おはようございます。民進党の岸本周平でございます。

 きょうは、四人の参考人の皆さん、本当に、貴重なお時間をいただきまして、ありがとうございます。

 意見の陳述あるいは今までの質疑でも、いろいろと本当に参考になることを勉強させていただきました。

 ちょっと広い観点からお聞きをしていきたいんですけれども、実は私自身、若いころ役人をやっておりましたときに、新自由主義経済を信奉しておりまして、小泉内閣、竹中大臣のもとで新自由主義を実行しておったわけであります。規制改革をして、競争を導入して、効率を優先していくということで世の中はよくなるんだろうということを信じてやってまいりました。いろいろなことをやってまいりました。

 その結果として一体世の中はどうなったんだろうかということを、私は二〇〇五年に選挙に出まして落選をして、四年間、草の根を回り、その後も今日まで、ここにおられる同僚議員の皆さんと同じように地方の現場をずっと歩いてまいりまして、反省をしております。新自由主義経済がもたらしたものは一体何だったんだろうかということで、トータルで見たときに、いろいろなデメリットもあったのではないだろうかというふうに思っております。

 例えば、町からお米屋さんが消えました。酒屋さんが消えました。薬屋さんも消えました。たばこ屋さんも消えました。大型の小売の店、ショッピングモールへ行けば、大変安い値段で物が買えるようになりました。しかし、地域の町のお米屋さんとか酒屋さんというのは、ボランティアで町内会長とか自治会長をやって、その地域をまとめてきていた方々なんですね。私の和歌山市では、そういう意味で、地域が崩壊し、コミュニティーが崩壊する場面が幾つかありました。そして、お年を召して車に乗れなくなると、安売りの酒屋に軽四で買いに行けなくなる。

 そういうことを目にして、規制改革をして競争優先で全てが万能だということではどうもないのではないかという思いをしている中で、この法案が本当にうまくいくんだろうかというふうに漠然と不安を持っているわけであります。

 そういう意味で、一国民としてもお聞きしたいことがたくさんあるわけでありますが、まず、現実に、今お話にも少しありましたけれども、小売、スーパーマーケット、最後に消費者に物を売る人たち、そして乳業メーカーの皆さん、そして酪農家の皆さん、いろいろなステージがあるわけですけれども、そこの力関係が非常にアンバランスになって、それが新自由主義経済の進展とともに、この分野でも力の差が拡大しているのではないだろうかなという思いがあります。

 実際、企業物価を見てみますと、川上では上がってきたんですね、この十年間。デフレと言われても、企業物価は川上では上がってきたんですが、川中、川下に行くと下がる、マイナスにまでなってしまう。激しい競争が行われているわけであります。

 まず、四人の方に聞きたいんですけれども、小林先生、清水池先生、山下先生の順、そして最後に須藤先生、現場の感覚として、スーパー、乳業メーカー、酪農家、このトータルの、今私たちが議論している対象の現場の状況についての御所感をお伺いしたいと思います。よろしくお願いいたします。

小林参考人 御質問ありがとうございました。

 私も、この畜安法一部改定案を初めとする農業競争力強化支援関連八法については、これはいわゆる新自由主義に基づく農村、農業を破壊するような政策になっているのではないかということを非常に危惧します。

 岸本先生の地元である和歌山は一番酪農家が少ないということですけれども、本当になくなってしまうのではないか、そのことがどういうことをもたらすのかということをぜひ考えていただきたい。

 酪農は、ただ生乳を生産するだけではない、そういう役割を持っていると思うんですね。私たちの提言の中にも四つの役割ということを書いてあります。生乳生産ですとか雇用の創出、あるいは生産者の所得を確保するとかというようなことがありますけれども、あるいは命の教育ということで、私たちもやっておりますが、酪農教育ファームという取り組みをやっております。

 もう一つは、国土を保全するという、今至るところに耕作放棄地があるという中で、私たちは畜産的な利用ということで、もっともっと放牧ですとかあるいは飼料作物に利用するということによって、この四百六十万ヘクタールという農地をもっともっと活用しなくちゃ、日本の国土というものは本当にだめになってしまうのではないかという危惧を持っております。

 ちょっと長くなって申しわけないんですが、私、全日本鹿協会という鹿の事務局をやっておりまして、御案内のように、野生鳥獣問題というのは非常に深刻化しておりまして、農村の中では自分みずからが柵の中に入って仕事しなくちゃいけないというふうな状況があります。

 最近はアーバンディアという言葉があるように、都市にどんどん出てきているというその問題もあるんですが、同時に、鹿の害禍というものが、山林の下草を全部食べてしまう。そして、今の山林というのは間伐が行き届かない、いわゆる線香のように細い木でありますので、一旦雨が降ると、それが土砂崩れになって山崩れになって、都市災害を及ぼすというような状況が今あちこちに出ているんですね。

 そういった状況を何とか押しとどめるというためには、畜産的な利用、大家畜が農地をきちっと利用するということが、本当に日本の国土を守るという、我々の子、孫世代のためには重要であって、そのためには、日本全国に酪農家がいる、家族経営がいるということが本当に必要である。ただ北海道の一部の地域の特産物にしてはいけないというふうに思っております。そのことが基本的な考えであります。

 ですから、再三申しているように、生産者がばらばらになってしまうような今回の改定というものには大反対でありまして、今でさえ生産者の力が弱いという中で、それをさらにみずからの選択肢を広めるという考えもあるんですが、それは逆に生産者がばらばらになってしまう。

 これは二十年前にイギリスのマーケティングボードの廃止のときに、酪農家がそういうふうに言ったんです、みずからの選択肢を広げるためにマーケティングボードをやめましょうと。その結果どうなったか。乳価が乱高下し、酪農所得が低下し、本当に苦境に陥っています。そのときに選択肢を広げたいというふうにおっしゃった酪農家が二十年後に日本に来て、あのときのあのことは間違っていた、二十年前に戻りたい、二十年前に戻れるのであれば戻りたい、だから日本はそういうことをしちゃいけないというふうに言っておったんですね。

 それが全て私の回答だと思います。

 ありがとうございました。

清水池参考人 御質問ありがとうございます。

 お答えいたします。

 パワーバランスに関する御質問だったかと理解しておりますけれども、こういう点でいいますと、十年ほど前に飼料価格の高騰がございまして、酪農家の生乳生産費が非常に高くなりました。そのときに、乳価の値上げというものが非常に大きな問題になりましたけれども、十年たってどういうふうに評価すべきかということなんです。

 状況を見ますと、乳業メーカーと生産者団体の間の、これは私、北海道のことを中心に見ておりますので、ちょっと都府県とは若干異なるかもしれませんけれども、メーカーと生産者団体の間に関しましては、やはり乳業メーカーも牛乳と乳製品の原料のかなりの部分を国内酪農に依存しております。ですから、両者の関係性も、完全に協調しているわけではないんですけれども、ある程度お互いの利益を考えながらの交渉ということになっているんじゃないかなと思います。

 問題なのは、乳業メーカーとスーパーとの間の問題がやはりありまして、これは牛乳の価格を見ますと、乳価の値上がりによって一定程度転嫁されたと見ることもできるんですが、牛乳は非常に特売の対象にもなりやすいということもありまして、価格がやはり下がる方向に動きやすいということで、その点でいうと、メーカーとスーパーとのパワーバランスという意味で、やはりスーパーの方がかなり強いのかなという印象もあります。

 一方、乳製品に関してなんですけれども、これはちょっと若干様相が違うのではないかと思っておりまして、特に私も厳密に見ているわけではありませんが、バターの小売価格や国産チーズの小売価格などを見ますと、十年前と比べると相当高くなっております。これは、生産者とメーカーとの間の価格転嫁、乳価の引き上げも行われたということもありますし、メーカーとスーパーとの間の価格転嫁も比較的スムーズにいっているのかなと。

 これはやはり、乳製品を供給するメーカー自体が限られているということで、スーパーとの交渉力もあるということもありますし、基本的には北海道が乳製品向けの生乳の供給地帯ですが、ホクレンが指定団体として配乳権も含めてしっかりとした価格交渉力を持っているということが、やはりこの違いの一つの要因なのではないかなというふうに私は考えております。

 ですから、やはり指定団体の機能の強化という面は、そういった意味でも非常に重要であるというふうに考えております。

 以上です。

山下参考人 お答えします。

 私は岡山出身で、和歌山とは一字違いで紛らわしいんですけれども。

 おっしゃるとおり、酒屋とか米屋さんはいなくなりました。私の町の商店街で、もう誰もいないんですね。みんなゴーストタウンになりました。シャッター通りという以上にゴーストタウンなんです。でも、誰も、国が悪い、国の政策が悪い、俺の所得を上げよ、上げてくれなんて言う人はいないんですね。酪農家は一千万円の所得です。この酪農家の所得を上げてくれというのはちょっとおかしいんじゃないかな、もっと国としてはやるべきことがいっぱいあるんじゃないかなというふうに私は思います。

 それと、スーパーとの力関係なんですけれども、私は異なる意見を持っています。

 スーパーは確かにバイイングパワーということで、それは私が農水省にいたとき、もう三十年前ぐらいから言われています。でも、何で牛乳だけバイイングパワーがあるのかねということなんです。酪農の先生方がおっしゃるのは、牛乳についてバイイングパワーはひどいと言うんですね。でも、野菜とか豆腐とか、ではバイイングパワーはないんですかということなんです。

 スーパーは、自分たちが消費者と向き合っていますから、どれだけの値段で売れるかというところから仕入れ値を決めるわけですね。これは当たり前の話なんです。消費者が志向しなければ高い値段はつけられないわけです。バターが不足したらバターが高くなる、そうすると、高い価格でバターを乳業メーカーから買えるわけですね。

 それと、私の資料にありますように、乳価は上昇しています。よく酪農の先生方がおっしゃるのは、スーパーのバイイングパワーが高いから乳価が上げられないんだ、下げられるんだと言うわけです。

 この農林水産省の統計です、プール乳価は上がっています。でも、上がったときに、ではスーパーの牛乳の価格はどうなっているか。牛乳の価格はスーパーは上げていません。なぜかというと、飲用乳価の価格の上昇分、つまり、乳業メーカーから仕入れる価格の上昇分はスーパーが吸収したわけです。自分たちの利益を削って、安定した価格で供給したということですね。それは先ほど価格が変動するという話があるんですけれども、では野菜はどうなんですかと。野菜も価格は変動します。野菜農家は、この価格の変動はおかしいなんて誰も言わないわけですね。

 それから、確かに国土保全のために土地利用型の酪農は必要です。では、それなら何でEUがやっているように面積当たりの直接支払いを全部共通で、米であろうが酪農であろうが肉用牛であろうが全部一緒に払わないんですかということなんです。それをやることによって、用途別乳価とか変に市場をゆがめるようなことはやらずに、これは新自由主義じゃないわけですね、自由にやるんだけれども、それでなおかつ国土保全になるようなものについては補填していく、これがあるべき農政の姿じゃないかなと思います。

 最後に申し上げましたけれども、今のアメリカからトウモロコシを輸入して、それを加工するだけの畜産、食料危機が起こったときに何も貢献しないわけですね。シーレーンが破壊されたらどうなるんですか、日本の酪農、畜産は崩壊しますよ。それから、酪農、畜産は、トウモロコシを輸入して、ふん尿をまき散らしているわけですね。むしろ、OECDの汚染者負担の原則からすると、酪農や畜産に対しては課税をすべきなんです。これが本当の経済学だというふうに私は思っています。

 過激なことを言って済みませんでした。

須藤参考人 酪農は生命産業と言われております。今まで、指定団体制度という中で本当に重要な制度だと私は思っております。私も、それで法人経営も成り立っていますし、この制度は絶対なくしてもらいたくもないです。

 しかし一方で、ずっと五十年間、安定の箱の中に酪農があってやってきて、何でこんなに安定しているのにやめちゃうのかな、そこが一番問題なんです。安定している制度の中でやってきた私たちが一人一人やめていく。何でやめていくのか、大変そこが重要だと思っています。それを取り戻すために何かをやはりやっていくというのが重要課題だというふうに私は思っております。

 私たち酪農家が何ができるのか、やはり後継者を育てることです。まずそこが私は一義だと思っております。

 本当に、牛乳が水より安いと言われております。でも、そういう牛乳が、安定した経営の中で私は息づいているというふうに思っております。

 しかしながら、やはりやめていく人の思いを考えると、本当に酪農業というのが楽しい仕事なのか、そこに最後は行き着くのかなというふうに思っています。楽しくやるために酪農はある、いろいろ考えて酪農をやる、それが生産者のだいご味であります。

 そのだいご味を少しでも深化させて、スーパーに、大手メーカーさんだけではなくて、やはり個々の生産者の顔の見える、そういった商品が並べばまた違うのかなというふうにも思っております。私も昨年から乳製品販売を少しずつ始めてみました。うれしいです。

 そういった思いを酪農家が持てるような、そういった制度にしてもらいたいなというのが本音でございます。

 以上です。

岸本委員 ありがとうございました。

 もう時間がなくなりましたので、最後に一つだけ、山下参考人にお聞きしたいと思います。

 バターがなぜ不足したのかという御見解、私も全く同感なんですけれども、要するに、バターと脱脂粉乳に水を加えると牛乳になるんですよね。だから、脱脂粉乳にするのかバターにするのか、これが大きな農林水産省の問題だったと思いますし、ALICの問題があると思います。

 TPP、これは、いずれはどこかで、二国間かTPP11かは別にして、我々はもう一度直面せざるを得ないという中で、脱脂粉乳とバターについては低関税のTPP枠ができています。六万トン、六年目から七万トン。

 さらに、私はホエーに物すごく注目していまして、ホエーこそが大問題で、ホエーは時間がかかりますけれども、これは関税ゼロになるんですね。ホエーが入ってきて、日本は本当にそうなると、何にでもできちゃうわけですよね、ホエーは。

 そういう意味で、ALICの問題と含めて少し山下参考人の御意見をお聞きしたいと思います。

山下参考人 おっしゃるとおりだと思います。

 アメリカはどういうふうな交渉態度をこれまで畜産についてとってきたかというと、かつては、牛肉の輸入数量制限を廃止する、これは牛肉・かんきつ交渉、八〇年代、九〇年代の交渉だったわけです。そのときに何が起こったかというと、牛肉についてはアメリカで生産していくと言ったわけです。アメリカの競争力が高かったわけです。

 その次に、実は私は、ガット・ウルグアイ・ラウンド交渉を担当しました。農業協定の最終的なドラフティング交渉の、世界の中で十人のうちの一人なんです。でも、そのときにアメリカと交渉しましたけれども、豚肉についての自由化は一切言わなかったんです。なぜならば、当時、豚肉についてはアメリカは競争力がなかったわけです。では、どうするか。日本に飼料を輸出して豚肉を生産して、豚肉について国境へ、日本の豚肉産業を守らせた方がアメリカにとって有利だったからです。

 それと同じようなことがバター、脱脂粉乳について言えるわけですね。バター、脱脂粉乳については、アメリカは競争力がありません。ニュージー、オーストラリアの方が競争力があるわけです。だから、アメリカにとっては、じゃんすかじゃんすか餌用のトウモロコシを日本に輸出して、バター、脱脂粉乳については関税で守らせた方がアメリカにとって有利なわけです。

 ホエーは違います。ホエーはチーズの副産物です。アメリカは、ガット・ウルグアイ・ラウンド交渉のときから、ホエーについては日本に対する自由化圧力の要求を強めていました。したがって、バター、脱脂粉乳のALICの国貿の枠以外にホエー枠を、本来、常識的に言えば、あの範囲内でホエーの枠を、ホエーも輸入できるというのが我々の理解だったんですけれども、アメリカの強い要求によってホエーを別枠をつくったわけですね。それは今日まで来ているんですけれども、アメリカはホエーの自由化要求をして、ホエーは関税が撤廃されるということになります。

 ホエーは、実は脱脂粉乳と成分的に競合しています。そうすると、ホエーがどんどん入ってくるということは、脱脂粉乳の国内での供給がホエーが入ることによって縮小します。そうすると、今までは脱脂粉乳に合わせて生乳生産をしていますから、加工向けの生乳生産は縮小せざるを得ないわけです。そうすると、生乳からバターと脱脂粉乳が一対一で出てきますから、バターの生産量が減ります。そうすると、バターをもっともっと輸入しなければならない、こういう帰結になると思います。

 そのためには何をしなければならないかというと、本来であれば、ホエーなんかも含めて、もっとバター、脱脂粉乳の国内の酪農の競争力を上げるべきだ、そこが本来の筋だというふうに私は思っています。御指摘のとおりだと思います。

岸本委員 どうもありがとうございました。これで終わります。

北村委員長 次に、畠山和也君。

畠山委員 日本共産党の畠山和也です。

 四人の参考人の皆様には、本当に貴重な御意見をいただきまして、ありがとうございました。本当に、この法案の重要性が反映してと思うんですが、非常にたくさんの御意見をお聞きしましたので、私からの質問は手短に、端的にして、できる限りお話をお聞かせいただければと思っています。

 それで、四人の参考人に共通してまず聞きたいのが、この法案が生産者の所得向上にどれだけ資するかということです。

 山下参考人はそもそも所得の向上性の必要がないという前提がありますけれども、理屈の問題としてどのように作用するかということを含めて四人にお聞きしたいんですが、そもそも、押しなべて生産者の所得向上になるのか。地域があるいは規模が、さまざまなことも含めて考えられますし、当面なのか中長期的なのか。さまざまなお立場から、所得向上にかかわってこの法案の果たす役割、果たさない役割について率直なことをお聞きしたいと思っています。

 これは先ほど、前提が違うということもありましたので、山下参考人から御意見をいただき、その後、須藤参考人、小林参考人、清水池参考人の順でお願いしたいと思っています。

山下参考人 もし、その所得向上が農政の目的だということであるとしても、この法案自体は所得の向上にほとんど寄与しないというふうに思っています。

 実は、私の資料の九ページのところに書いているんですけれども、もし、第二指定団体、第二ホクレンというのができたとして、そうすると、生乳が第二ホクレンに行くでしょう。第二ホクレンの方がプール乳価は高いわけですね。ホクレンの方が全部やっているとすると、加工向け乳代が全体のプール乳価の水準を下げるわけですね。飲用向けを主体にして第二ホクレンというのができるとすれば、それは、高いプール乳価が、飲用向け乳価がほとんどプール乳価になりますから、百円ぐらいの乳代になるわけですね。今でいくと、もっと超えているんですかね。そうすると、八十円ぐらいのプール乳価をホクレンに出してホクレンからもらうよりも、百円のプール乳価をもらった方が有利だということで、生乳はホクレンから第二指定団体に流れていくと思います。

 ところが、これは、全体の生乳の需給、飲用向けと加工向けの比率が変わらないということであれば、全体の北海道の四百万トン近い生乳の配分が第二指定団体とホクレンの間で変わっていくだけであって、全体の飲用向けの比率が上がらない限り、トータルとしての酪農の所得の向上にはつながらないというふうに思います。

須藤参考人 今、牛乳が本当に足らないんですね。ということであると、私たちが、幾らやめる人の分を法人経営、大規模経営がサポートしても、追っつかないんですね。という中で、今後五年後、十年後、もっと牛乳が減っちゃって、本当に価格がどんと上がるのか。こういう需給調整の中で、安定化というのが最大の要因でございます、大事なことです。

 しかしながら、これだけ牛乳が減って、ないということであると、加工に回す牛乳も当然少ないわけでございます。となると、本当に、酪農家は、牛乳だけではなくて、個体販売というものが大変今景気がようございまして、それで大変もうかっているように見えております。しかしながら、本当は牛乳屋さんなんですね。ですから、牛乳がいかに利益を生まないと、酪農家は継続ができないわけでございます。大変、個体販売というのは一過性のものが強いわけでございまして、いつまた安くなるかというのはわかりません。

 今、酪農家が減って、牛を生産する農家が当然減っているわけでございます。ですから、牛も足らないんです。ですから、そういう悪循環が今つながって連鎖が起きて、こんなに牛が高いんです。

 酪農は、肉牛屋さん、肥育屋さんの下請もしております。酪農の中で、和牛だとかF1と言われる一代交雑種も酪農家が一生懸命つくっております。となりますと、酪農というのがなくてはならない。それは、肉牛屋さんも困るんです。となりますと、同じ牛屋さんですけれども、お互いにリンクして、ともにウイン・ウインの関係になっていかないと所得向上は望めません。

 ですから、私たちは、今、景気がいいお肉の方にシフトしている人が多いわけでございまして、牛乳はそんなに搾らなくてもいいや、まあまあでいいや、もう少しこの高いお肉で稼ごうというのが、今、日本の酪農家のスタイルです。これがどこまで続くのかわかりませんけれども、酪農が衰退している中で、今、減少が起きているわけでございます。だから、そこを何とかしないと右肩上がりにはなりません。酪農家がふえていかなければ肥育屋さんもふえないんです。そういう循環をどこかで断ち切らないと私は難しいと思っています。

 ですから、この法案がもしそれに寄与することであれば、下支えをしてくれるとなれば、ほかにすがるものがございませんから、ぜひひとつやっていただかざるを得ないかなというふうに私は正直思っております。

 以上です。

小林参考人 御質問ありがとうございました。

 最初に、酪農所得の現状について事実確認をしたいと思うんですが、一千万円あるじゃないかというお話があったんですが、これは多分北海道の酪農家のことだと思うんですが、ただ、これも、大体酪農家は二人半ぐらいの方が働いてやっておりますので、一人当たりにすると四百万円ということで、それほど高いとは思わないんですね。

 もう一つ、事実認識として、統計を見ますと、平成十二年ぐらいまでのいわゆる不足払いがきちっと機能していたころまでは、一キログラム当たりは右上がりに上がってきて、それと同時に規模拡大がありましたので、総所得は上がってきております。その後、制度改革等がありまして、酪農家の所得というのは、結構、右下がり、あるいは変動しているという状況で、最初申し上げましたように、平成二十年は一時間当たりの所得が七百六十六円、世帯全体で四百五十万円、そういう所得までに落ちてしまったという問題があります。

 そういう状況があらわれてしまったら、そこで酪農家の方はやめてしまう、やめてしまったらそれを回復するというのは非常に難しいということです。ですから、セーフティーネットというものをぜひ入れていただきたいということを申し上げているわけです。

 ですから、所得が高いときは何も所得を補填するようなものは要らないわけですけれども、そういった所得が非常に急激に落ち込むようなときにちゃんとしたセーフティーネットがあるということで、安心して、後継者ですとかあるいは若い新規参入者が酪農に参入できるというような環境をつくっていただきたいということが一つです。

 やはり後継者が、価格が多いというのは、所得が多い、規模が大きいというところとパラレルですので、やはり所得というものは重要だというふうに思っております。

 最近は、一キロ当たり所得はおっこっています。これは乳価が上がっておるんですけれども、コストも上がっているということで、結果的には、その差額である所得が下がっているということであります。

 今は上がっているというお話がありました。これも今、須藤参考人の方から御説明があったように、個体販売が異常に高くなっているということで、いわば酪農家が一息ついているという状況があります。ただ、これは異常であって、非常に問題がある状況であるというふうに考えています。九十万、百万円のはらみの牛を買って、その後、どうなるのかということがあります。

 もう一つ、酪農の委員会ですけれども、肉牛経営、これも酪農がリンクしていることですけれども、酪農経営が今、子牛は一時的な個体販売価格の高騰で潤っていますが、こんなことが未来永劫続くということは誰も考えていません。ですから、この時期にもうやめちゃおうという農家の方も結構いますし、一番問題なのは、肥育経営が、あと二年して、八十万、九十万で買った子牛を幾らで売れるのか、百二十万、三十万で本当に売れるのか。そのときに、一体、どういうことが日本で肥育牛経営に起こるのか、非常に大きな問題だと思います。

 日本の中から肥育牛経営がなくなってしまうというのはちょっとオーバーかもしれませんが、そのくらいの問題があって、それに対しての対処というのがなっていないのではないか。つまり、TPP絡みで、新マルキンですとか豚マルキンが法制化されるのを見送られているというふうに聞いておりますが、今やらなければ、二年後、間に合わないわけですね。そのときにどうなるのかということを本当に心配しております。

 先ほどの御質問、この改定案が酪農家の所得に寄与するのかどうかということだったと思うんですが、短期的には、北海道を中心として支払われる補給金の総額というのはふえますから、その結果、北海道の所得というのは若干ふえると思いますが、中長期的に見ると、繰り返し申しますように、指定生乳生産者団体制度が崩れることによって競争が激化し、結果的には、酪農家の所得は低下あるいは乱高下するという状況になってしまうのではないかというふうに思います。

 以上です。

清水池参考人 御質問ありがとうございます。お答えいたします。

 今回の改正法案の中身で制度を変えても、生産者の所得が押しなべて上がるということにはならないと思います。当然ながら、この制度は所得補償制度でございませんので、そういう効果はありません。一部の生産者の所得を上げる効果はあるというふうには思いますけれども、そうでない人の方が多いというふうにも思っております。

 今回の制度改正は、要は、生産者の販売選択肢をふやすということがポイントだと思うんですけれども、その場合に、自分で乳製品を加工するか、あるいはメーカーと直接つながって乳製品を加工するという方法がまず一つあると思うんですけれども、いわゆる六次化も含むことですが、これに関しては、この制度改正で特に六次化がしやすくなるわけでは必ずしもありません。なぜなら、自家加工に関しては、今の部分委託の制度でもできます。

 あと、これからの乳製品の加工で非常に大事なのはチーズだと私は思っておりますけれども、山下参考人も言われておりましたが、チーズに関しては、共販が非常にチーズ乳価を安く供給しておりますので、むしろ、その共販の中にとどまった状態で、共販から買いながらチーズをつくった方が非常に有利なわけですね。

 ですから、北海道にも非常にいわゆる小規模なチーズ工房がふえてきておりまして、技術もかなり水準も上がっています。一部はヨーロッパ並みになっているとも言われていますけれども、ですから、そういう意味でいうと、もしもそういうチーズ業者さんたちが共販の外から、共販を通さずに買うとかとなりますと、非常に高い乳価を払わないといけなくなってしまいますので、多分、多くの工房の経営が成り立たなくなるおそれがあります。ですから、むしろ共販が大事ということになります。

 一方、飲用向けに関しては、先ほども少し申し上げましたけれども、今まで乳製品主体だったものを飲用向けで仮にある生産者が売ることができれば、確かに一時的に所得がふえる可能性はあります。

 ですが、先ほども申し上げましたように、それによって飲用向け市場の競争が非常に強まってしまいますと飲用向け乳価が下がってしまいますので、ですから、そうしますと、結局、その所得向上の効果は長続きしないのではないかというふうに考えております。

 以上です。

畠山委員 ありがとうございました。

 四人の参考人に共通して、疑問符がつくというふうに理解させていただきます。所得向上に直接すぐに結びつく法案ではないというふうに私は理解しております。

 それで、これは清水池参考人にお聞きしたいんですけれども、便宜上、インとアウトという言葉を使わせていただきますが、インとアウトにかかわって、もうたくさんいろいろな方々とお会いしてきていると伺っています。

 それで、きょうも話になっている選択の幅を拡大するという点では、例えば日量三トンというのを今回みたいに全部撤廃するのでなく、これまでも、一トンから三トンとか、限定的というか緩やかといいますか、実情に応じる形での選択の幅の拡大ということはされてきたと思います。

 生産者の創意を生かす道と、そして安定的な経営を図る、これは先ほどからある需給調整とかを含めた総体としての政策のパッケージにもかかわると思うんですが、やはりこれが両立されていくことは大事だろうと思うんです。

 今回のような三トン撤廃をいきなり行うということは余りにも行き過ぎであると私は思うんですが、生産者の創意をやはり段階的に丁寧に生かしていく道ということは同時に必要だと思いますが、実際にいろいろな方々のお話を聞いていて、清水池参考人の御感想をせっかくですのでお聞かせいただければと思います。

清水池参考人 お答えいたします。

 部分委託の問題も含めて、販売選択肢の幅と全体的な安定のバランスというものが非常に重要になってくると思います。

 特に、部分委託の上限撤廃に関しては、私は、ちょっとこれは、いきなり撤廃するのはやはりやり過ぎであるというふうに感じておりまして、何らかの制限を残すべきであるというふうに考えております。

 実際に、部分委託の条件をどうするのかというのは政省令等で規定されるということもあるんですけれども、今の内容が余り抑制的なものになっていないので、実際に生産者と農協との契約の中で具体的には決まっていくというふうになると思うんですが、その場合、農協は組合員のための組織ですので、生産者からいろいろ要望があれば可能な限り受けていくというのがやはり農協のあり方なんですけれども、でも、そうしますと、全体の安定という意味では非常に問題が出てくる場合もあるので、それは完全に民間にその辺は任せるのではなくて、国である程度の基準を設けるのがやはり妥当であろうというふうに考えております。

 いろいろな方とお話ししておりましても、要は、極端なことをお互いに望んでいるわけではなくて、お互いが納得できる着地点を見つけたいというふうには当然考えていらっしゃるわけですけれども、でも、それが今の状態だと、何も歯どめがない中で、ただ、ではやってくださいとなると、やはり全体としてコントロールするのが難しい状況になってしまうおそれがあるので、その辺は、ですから、一定の基準があった方がいいのではないかと考えております。

 以上です。

畠山委員 ありがとうございます。

 そこで、最後に、年間販売計画を国の方で定めるということについてお聞きしたいんです。これは、小林参考人と清水池参考人にお伺いします。

 一言で言えば、実質、それは担保となるのか、ならないのか、この点についての所見を最後に伺えればと思います。

小林参考人 ありがとうございました。

 年間販売計画自体は重要だと思いますけれども、それが本当に担保になるかというと、計画と実績の乖離というのがどんなふうになるのかということも考えますと、ちょっとクエスチョンマークをつけたいということが率直なところでございます。

 以上です。

清水池参考人 お答えいたします。

 年間販売計画に関しては、確かに、そのようなものがないと、法として需給の安定を目指すというものにならないんですけれども、先ほどの意見陳述でも申し上げましたが、計画というのはあくまでも計画にすぎません。年間計画、年間トータルでの計画はそれなりに意味があるんですけれども、月単位とかになってきますと、やはり計画からずれてくることもあります。

 しかも、その事前に立てた計画を守っていれば需給が安定するのではなくて、先ほども言いましたように、予定、計画からずれてくれば、フレキシブルに変えて対応していかないといけないというのがその需給調整の難しいところなんですね。

 ですから、要は、計画を守っていたから需給の安定が達成されるわけでは必ずしもないということで、だから、その辺の需給の安定を担保するという制度的な枠組みでいうと、私は不安があるというふうに考えております。

 以上です。

畠山委員 ありがとうございました。

 今後の質疑においても非常に重要なお話をお聞きすることができたと思っていますので、充実した審議に向けていきたいということを最後に述べまして、感謝とともに質問を終えたいと思います。

 ありがとうございました。

北村委員長 次に、吉田豊史君。

吉田(豊)委員 日本維新の会の吉田です。

 四人の参考人の先生方、きょうはよろしくお願いいたします。

 この法案に関しましてですけれども、少し自己紹介をしておきますと、私は、いつも消費者として農林水産業にかかわっていきたい、いろいろな意味で質問していきたいな、こう思っておるわけなのです。

 それで、委員長を初め多くの委員の皆さんもいらっしゃいますが、この牛乳・乳製品の消費量にかけては私は断トツに一番だという自信を持っておりまして、そういう現場での実績がある上で、このことをお聞きしていきたい、こう思います。

 まず最初に、須藤参考人にお聞きしたいと思うんですけれども、四十五年ですよね、私は四十七歳で、ずっとこの四十五年間これを続けていらっしゃった、そして拡大をしていらっしゃったという、本当に御苦労が多かっただろうと思いますが、このいただいた資料の中に、後継者、長男さんが後継なさったということをお聞きしたんですけれども、これは、御本人がみずからそれを継ぎたいとおっしゃったのか、その辺のところをちょっと簡単に教えていただいてよろしいですか。

須藤参考人 ありがとうございます。

 私は、ずっとやってきた中で、せがれは別に、自分の好きなことをやれということで、特に何も言っていなくて、余り手伝いもさせなかった、若干はしたんですけれども、そんな中で、法人経営になって、私がやっていまして、ある日突然、東京の会社をやめて酪農をやる、そう言ってきたんですね。私は何も言っていないんです。本当に正直にそうなんですけれども、それで、六年前のあの東北の震災のときに入りました。それで、結婚を機に入ったわけですけれども、私は、今、ほとんど息子に、全管理等、現場を任せております。

 ということは、彼が畜産の大学を出たわけでもなく、いろいろなことをやってきた中で、自分の人生を酪農にかけたんだと思いますけれども、そう私は思っていますけれども、何か魅力があったのかなという思いもありながら、これからの酪農ということを考えたときに、私が束縛していく話ではなくて、後継者がみずから入って選ばれる酪農というのをやはりつくっていかなきゃならないというのは、実感、私は現場の中でそういうふうに思っています。

 選ばれる農業とか選ばれる酪農もそうなんですけれども、本当に、若い人が夢を持って入ってきていただける、そういう環境づくりをやはりセットしてつくっていくというのが私は第一番目かなというふうに思っています。それができてくると、やはり後継者は入ります。それは経営の戦略でございまして、こういう形で補給金をいただいても、それはあくまで下支えでございまして、あとは私たちの経営の力でございます。ですから、それをいかに生かせるような次の展開をやはり考えていくということが大事なのかなと常日ごろ思っておる次第です。

 そんなことでよろしいでしょうか。ありがとうございます。

吉田(豊)委員 須藤さんの今のお話をお聞きしまして、若い新しい力、それが入ってきたということが大きなエネルギーになって、また発展していくということになると思うんです。

 私自身、最初に申し上げた消費者としてのニーズ、そこからこれからのさまざまな農業というものを考えていかなくちゃいけない観点に立ちますと、きょうは、北海道とそれから北海道以外の日本の都府県、そこが何か、この法案によると、対立しかねないと言えばいいか、そういうところに違いが出てくるんじゃないかというような考え方が示されておるんですけれども、実際のところ、もう一度須藤さんにお聞きしますけれども、この法案によってそういう現象が起こり得るのか、あるいは、それはそれぞれの現場の努力でいろいろなことが変わっていくというふうに受けとめていらっしゃるのか、それをお聞きしたいと思います。

須藤参考人 私は、そうは思っておりません。基本的には今までどおりですから、北海道の人も同じ補給金、若干逆に上がるかという思いもありますので、安定すると思います。

 ですから、それにプラスアルファとして、私が初めから言っておりますのは、生産者が選択肢を若干選べるような、そういうところも付加価値としてやはりプラスアルファをしていただければ、またそういう生産者の思いが消費者につながるんじゃないかなというふうに思っています。

吉田(豊)委員 そして、きょう岸本委員の方からも新自由主義という言葉が出まして、本当にこれは難しいし、重要なことだなと。消費者としても、新自由主義としての消費者って何だろう、あるいは、消費者というものの簡単に言うと欲、それが新自由主義というものをつくっているんじゃないかな、私自身はまだ勉強途中ですが、そういうような大きな考え方もしておる人間なんです。

 その中で、そういうことと、一方で、最後に山下先生にお聞きしますけれども、グローバリズムということと、それからナショナリズム、それから地域としての、国と国としての生き方、こういうことは全部私はつながっていく話だろうと思います。

 そのところで小林先生にお聞きしたいのが、緊急提言という添付資料をいただいておりますけれども、この中に、北海道が生乳生産の五割以上を常に占めて、そして道東がその四分の三を占める状況は望ましいものではないとお書きになっているんですけれども、こういう日本の中での今の現状というものが、実際、今のままを維持することがいいのか、それとも、その先にはどんな展開ということがあるべきなのかということについて、御示唆をいただきたいと思います。

小林参考人 ありがとうございました。

 今現在でも、道東が非常に生産のウエートが高くなっている、都府県が生乳生産の減少の歯どめがかからないという中で、唯一北海道は何とか、停滞ですけれども、若干それを保っているという中で、道東が若干伸びているような状況ですから、ますます道東へのウエートが高くなっている。

 ところが、道東はやはり地域的に限られておりますので、その中で頭数を増加するということですと、なかなか、従来のような草地型、自給飼料に根差した畜産というのはできなくなってきて、むしろ都府県型の買い餌、購入飼料に依存した経営にならざるを得ない。そのことは環境問題も引き起こすでしょうしということで、それからもう一つ、都府県が潰れてしまえば今の個体販売に関しても売り先がなくなってしまうというようなことで、北海道に集中する、道東だけが酪農の中心地であるということはよくない、政治的にもそうだと思いますね、ということが言えるのではないか。

 今後、どういうふうになるかということは、この法案が通りますと、ますますやはり北海道のウエートが高くなって、都府県が、どんどんやめていくという農家がふえていく。北海道では、いわゆるメガファームという方たちが残るのかどうかというような状況になってしまって、これは、地域のコミュニティーを守るですとか、そういった面においても非常に大きな問題を農村部にもたらすでしょうし、翻って、都市の生活者にとってみると、今までは、小売店の棚から牛乳が消える、欠配するなんということは余り考えられなかったですけれども、そういうことが起こるかもしれないというふうな状況にも逢着するのではないかということを危惧しております。

 以上です。

吉田(豊)委員 そういう今の現状の中で、私は、牛乳ファンの一人として、消費者とすれば、やはりいろいろな銘柄のものは飲んでみたいなというのが今の消費者の大きな志向じゃないかなと思うんですね。お酒にしろ、米にしろ、何でもそうですけれども、やはりブランド化していくということと、それからそこに新しい消費の、量それから質、両方を高めていくという、僕は、そういう、国内での消費の全体を上げていく、こういう努力というのは、当然、生産者側においても、あるいはそこにかかわる人たちにおいてもやっていくべきことだろう、こう思うわけです。

 清水池先生の資料の六番目の「提案」のところで、「生産者が安心して酪農経営に取り組める環境づくりが必要。」これは全くそのとおりだと思いますし、先ほどのお話の中にも、北海道に幾つも小さな、チーズをつくっているところが今は出てきているということなんですけれども、やはり、そういう動きというものがより全体としての消費の底上げにつながっていって、そして、この法案がそういう意味で資する部分があれば、よりいいだろうと私は思うんですけれども、あるべき、安心して取り組めるということと自助努力というところ、これをどのようにお考えか、お聞きしたいと思います。

清水池参考人 お答え申し上げます。

 基本的には、多様な牛乳・乳製品の消費に向けて、酪農、乳業としても努力をしていくというのは、そのとおりかというふうに思います。

 その一方でなんですけれども、これは私の消費に対しての考え方もあるんですけれども、やはり、ブランド化された牛乳・乳製品というのは確かに重要で、それを製造、販売することによって所得を上げていくというのは当然必要とされますが、一方で、そういうブランド化された牛乳・乳製品の比重というのはやはりそんなに大きくはないということですね、市場全体で見ると。

 消費者が多様な牛乳・乳製品を望んでいるという声もある、それも確かにそのとおりなんですけれども、一方で、要は、国産のほどよい品質のものをほどよい価格で買いたいというのもやはり消費者の要望としてはあると私は思っております。特に、貧困とか格差の問題を言われている中で、ブランド化した食品ばかりになってしまいますと、手が届かないというような話にもなってしまいますので、やはり、ほどよいものを安定供給するという役割も一方では流通には求められる。ブランド化をしなくていいというわけではなくて、バランスの問題です。

 だから、そういう意味で、ほどよい価格のものを安定供給するという面でいうと、やはり、今の指定団体共販のシステムというのは、そういうのに非常にマッチしているということがあります。

 一方で、ブランド化に関しては、確かに、今回の販売選択肢がふえるという中で新しい銘柄が出てくるのはそうなんですけれども、要は、それだけで市場が成り立つわけではないということも同時に申し上げておきたいと思います。

 以上です。

吉田(豊)委員 そして、山下先生にお聞きしたいんですが、二回続けて、本当にありがとうございます。

 私、先生にお願いしましてから、改めて、うちのところのスタッフが、先生の著書の「バターが買えない不都合な真実」という本を勉強しなさいといって私の机の上に置いてありまして、これを一読したら結構難しい本だなと思いましたけれども。

 それよりも何よりも、きょうのこの法案に対して、先生の御姿勢が、非常にまた先を進んだところにあるということを実感しまして、そういう意味で、この法案に対してということをお聞きするよりも、私は、きょういただいた資料の中で、前回もお聞きしたんですけれども、やはり、石黒忠篤さんの農本主義、真の農本主義とは何かという、ここに全ての考え方の原点があって、そして、そこから、今何が問題で、どこに進んでいくべきかという、その大きなことを押さえた上でないと、いろいろな法案というのは、先生御自身がきょう結構厳しい顔をなさっているのは、多分、農水省時代の、御自身がそのことにお気づきになって、そこで、現役のときにこれを突っ込めなかったといういろいろな思いが、きょうここに来ていただいて、またいろいろな厳しいことをおっしゃることになるのかなというふうに勝手に私は思っているんです。

 そういう意味でも、今のこの委員会で行われているということが、やはり将来のことを見据えて、そして今どういうところにいるのかということを改めて私自身は確認させていただきたいし、勉強したいと思うんですが、農は国の本という、この本という言葉ですけれども、それは実際のところ、この法案自身、いろいろなところにげたを履かせるんですね。何であっても日本の農業というのはげたを履かせることになるんだと思いますけれども、それはどういう意味でこの本とつながるげたの履かせ方がいいのかというふうにお考えかをお聞きしたいと思います。

山下参考人 石黒忠篤という人は、実は、柳田国男という人が一九〇〇年に農商務省に入りました。農商務省に二年ぐらいして法制局に行ったんですけれども、その後、柳田国男と一緒に、新渡戸稲造とかそういう人たちと郷土会というサロンをつくって一緒に活動していた人です。柳田国男、石黒忠篤、それから戦後農地改革をやった和田博雄、それから小倉武一、東畑精一、その間に河上肇という人も実は農政学というのを書いています。そのみんなに共通して言ったことは、農産物の価格を上げて農業を保護するというのは、これは絶対やってはいけない政策だと。

 つまり、貧しい消費者がいたわけです。農家も貧しかったわけです。今の四百五十万、それが低いなんという水準じゃなかったわけです、当時の農村は。その物すごく貧しい農村、農家がいるのに対して、貧しい都会の工場労働者もいたわけです。そうした人に、いかに農産物を供給していくか。やはり安く安定的に供給するしかないわけですね。

 だから、河上さんが言っているのは、要するに、価格を上げて農家の所得を保障するというのは、最もやってはいけない政策だと言ったわけですね。ただ、残念ながら、その後、一九六〇年代以降は価格を上げて農家の所得を保障しようとしたわけですね。

 ただし、酪農政策については、ある程度よかったのは、不足払いというのをやったわけです。不足払いをやることによって、消費者には、乳製品についてはそれほど高くない価格で供給した。これによって牛乳・乳製品の市場が拡大したわけですね。

 実は、私のうろ覚えですけれども、不足払い法をつくったときぐらいは、酪農家戸数は四十万戸以上あったと思います。今は二万戸です。二十分の一に下がったんです。ところが、その当時は、酪農の生乳生産量はたしか二百万トンしかなかったわけです。今は八百五十万トンから下がって七百五十万になっていますけれども、ふえたわけですね。

 だから、そういう意味で、この不足払い制度というのはそれなりに、日本の酪農、乳業の発展に大きく貢献した。それはなぜかというと、米政策のように消費者に負担を負わせるような政策を極力排除しようとしたわけですね。

 それで、では将来どうなるかというと、酪農人口が減少しますから、どうしても縮小せざるを得ない。国内の需要は縮小せざるを得ないわけですね。そうすると、やはり輸出をせざるを得ない。その輸出をするためには、価格競争力を上げていかないとだめだということになります。

 それから、先ほど需給調整とかいうこともありましたけれども、確かに都府県の余乳処理は重要なんです。重要なんですけれども、昔は、私が子供のころは、私のうちの周りに余乳処理工場がいっぱいあったわけです。今はほとんど余乳処理工場なんかはないわけです。そういう意味で、余乳処理というその需給調整の機能が、重要性は低下したんですけれども、実は余乳処理なんかをやるよりは、無駄な、年間数日しか稼働しないような乳製品工場を持つよりは、実は、生乳生産の、例えば、一千万トン生乳生産します、八百万トンは国内ではけます、二百万トンは輸出しようと。そうすると、需給の調整がその輸出の増減で調整できちゃうわけですね。余乳処理工場なんか持つ必要はないという理屈になります。将来的にはそういうあり方を酪農・乳業界としては検討していく必要があるんだと思います。

 そうじゃなくて、何か困ったら、所得の向上のためには国から幾らでも金を出させる、それは、酪農団体の人の仕事はそうかもしれませんけれども、本来の、将来の酪農、乳業を見据えた政策ではないというふうに私は思います。

吉田(豊)委員 厳しいお言葉だなと思いますし、一方では、本来の酪農、農業、いろいろでしょうけれども、現場の方々が本当の意味で日本の消費者の方々に必要とされる、支えられる、そして感謝される、そういう存在になっていくということの必要性というのは、やはり、どうやってそれを、げたを履いている状況からどういう形に持っていくかという、そこまで見据えてやらなくちゃいけないということをよくよく感じさせていただきました。また勉強させていただきたいと思います。

 四人の先生方、ありがとうございました。

北村委員長 これにて参考人に対する質疑は終了いたしました。

 この際、参考人各位に一言御挨拶を申し上げます。

 本日は、大変貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。委員会を代表いたしまして厚く御礼を申し上げます。ありがとうございました。

 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。

    午前十一時五十一分散会


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