第18号 平成29年6月6日(火曜日)
平成二十九年六月六日(火曜日)午前九時開議
出席委員
委員長 北村 茂男君
理事 江藤 拓君 理事 小泉進次郎君
理事 斎藤 洋明君 理事 福田 達夫君
理事 宮腰 光寛君 理事 岸本 周平君
理事 小山 展弘君 理事 稲津 久君
伊東 良孝君 伊藤信太郎君
池田 道孝君 小里 泰弘君
加藤 寛治君 勝沼 栄明君
熊田 裕通君 笹川 博義君
瀬戸 隆一君 武部 新君
中川 郁子君 西川 公也君
古川 康君 細田 健一君
前川 恵君 前田 一男君
宮路 拓馬君 森山 裕君
簗 和生君 山本 拓君
渡辺 孝一君 岡本 充功君
金子 恵美君 佐々木隆博君
宮崎 岳志君 村岡 敏英君
中川 康洋君 真山 祐一君
斉藤 和子君 畠山 和也君
吉田 豊史君 仲里 利信君
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農林水産大臣政務官 細田 健一君
参考人
(公益社団法人全国農業共済協会会長) 高橋 博君
参考人
(東京大学大学院農学生命科学研究科教授) 安藤 光義君
参考人
(東京大学大学院農学生命科学研究科教授) 鈴木 宣弘君
参考人
(キヤノングローバル戦略研究所研究主幹) 山下 一仁君
農林水産委員会専門員 石上 智君
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委員の異動
六月六日
辞任 補欠選任
古川 康君 前田 一男君
細田 健一君 熊田 裕通君
同日
辞任 補欠選任
熊田 裕通君 細田 健一君
前田 一男君 古川 康君
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本日の会議に付した案件
農業災害補償法の一部を改正する法律案(内閣提出第五八号)
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○北村委員長 これより会議を開きます。
内閣提出、農業災害補償法の一部を改正する法律案を議題といたします。
本日は、本案審査のため、参考人として、公益社団法人全国農業共済協会会長高橋博君、東京大学大学院農学生命科学研究科教授安藤光義君、東京大学大学院農学生命科学研究科教授鈴木宣弘君及びキヤノングローバル戦略研究所研究主幹山下一仁君、以上四名の方々に御出席をいただいております。
この際、参考人各位に一言御挨拶を申し上げます。
本日は、御多用中のところ本委員会に御出席をいただきまして、まことにありがとうございます。参考人各位におかれましては、それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお述べいただきたいと存じますので、よろしくお願いをいたします。
次に、議事の順序について申し上げます。
まず、高橋参考人、安藤参考人、鈴木参考人、山下参考人の順に、お一人十五分程度御意見をお述べいただき、その後、委員からの質疑に対してお答えをいただきたいと存じます。
なお、念のため申し上げますが、御発言の際はその都度委員長の許可を得て発言していただくようお願い申し上げます。また、参考人は委員に対して質疑をすることができないことになっておりますので、あらかじめ御了承願います。
それでは、初めに、高橋参考人、お願いをいたします。
○高橋参考人 皆様、おはようございます。ただいま御指名をいただきました全国農業共済協会の高橋でございます。
本日は、農業災害補償法の一部を改正する法律案の御審議に当たりまして、参考人としてお招きをいただき、意見を申し述べる機会を賜り、大変恐縮に存じます。
また、農林水産委員会の各先生方におかれましては、平素より農業共済制度、組織に対しまして御指導、御支援をいただいておりますことについて、厚く御礼を申し上げさせていただきます。
本日は、農業共済事業並びに今回その創設が御審議されております収入保険事業の実施者としての立場から意見を申し述べさせていただきたいと存じます。
最初に、農業共済制度がこれまで果たしてまいりました役割とその実績につきまして、簡単に申し述べさせていただきたいと存じます。
農業共済制度は、昭和二十二年の制度発足以来、七十年間にわたり、我が国の農業災害対策の基幹的制度として災害による損失を補填することで、農業の再生産が阻害されることを防止するといったことを目的といたしまして、これまで幾多の自然災害に対しまして、被災農家への支援並びにこれを通じた地域経済の安定に貢献してまいりました。
例えば、広域的災害として大冷害のありました平成五年には、水稲を中心に五千四百八十七億円の共済金を支払い、また、同じく冷害年の平成十五年におきましても千八百七十一億円の共済金を支払っております。
近年におきましても、東日本大震災を初め、大型台風、豪雪、集中豪雨、竜巻など、過去に経験したことのないと言われるような甚大な自然災害などが全国各地で頻発する中、農業共済団体といたしましては、迅速な損害評価と共済金の早期支払いに努力してまいっているところであります。
また、共済金の支払いという金銭的な面だけではなく、家畜につきましては、農業共済団体の家畜診療所の獣医師などによる常日ごろからの診療はもとより、さらに、口蹄疫や鳥インフルエンザなど大規模伝染病が発生した際には、これら農業共済団体の獣医師や職員が防疫措置の一翼を担うなど、地域の家畜衛生にも大きな役割を果たしてまいっております。
このような中で、平成二十七年の共済の引受戸数は延べ百八十九万戸であります。その内訳は、当然加入制ということもございまして、水稲、麦の加入率は九割を大きく超えて高位となっております。また、胎児を除きます乳用牛なども九割以上であります。畑作物につきましては全体として七割、園芸施設はおおむね五割の水準となっておりますが、一方、果樹につきましては二四%と他の作目に比べますと低位ということになっております。
次に、農業共済制度を運営いたします私ども農業共済団体につきましては、従来は、地域レベルでの農業共済組合あるいは市町村を基礎といたしまして、都道府県段階におきましては農業共済組合連合会、そして最終的には政府の再保険という形で、三段階の体制で運営をしてまいりましたが、近年におきましては、組織及び業務の効率的な運営を合併による組織整備として強力に推進しており、現時点におきましては三十の都府県で連合会も吸収いたしました一県一組合を実現し、政府との二段階制で運営をしております。さらにこのような方向に向けまして、今後ともこの動きを加速することとしているところでございます。
さて、今回の法律案についてでありますけれども、冒頭申し上げましたとおり、農業共済制度は本年、制度施行七十周年となるわけでありますけれども、これまでも農業をめぐる諸情勢の変化に対応し、その時々の農業、農業生産の実態に応じました法律改正が行われてまいりました。しかしながら、前回の法律改正は平成十五年でございましたので、今回の法律改正までに約十四年間が経過をしているところであります。この間、農業、農村の変化は著しく、その中で、農業経営のセーフティーネットに対します農業者のニーズなども大きく変化をしております。このような状況を踏まえまして、今回の改正に至ったものと認識している次第であります。
すなわち、農業競争力強化プログラムを新たに加えるなど農林水産業・地域の活力創造プランが改定され、その一環として収入保険制度の導入及び農業共済制度の見直しが位置づけられたわけでありますが、今回の改正は、法律の題名の変更に端的にあらわれておりますように、制度発足以来最大の改正となったと認識をしているところであります。
このため、改正内容につきましても膨大かつ多岐にわたるため、ここでその全てについてお話しすることは発言時間の制約もございますので難しいことから、とりあえず、制度実施者の立場から申し上げたい点を中心に意見を述べさせていただきますことについて、あらかじめ御容赦をお願いいたしたいと存じます。
最初に、今回新たに設けられます農業経営収入保険事業、いわゆる収入保険についてであります。これにつきましては、今回の法案の中で、私ども農業共済団体が実施することとされております。過去三年間にわたりまして国から収入保険制度検討調査事業を受託実施したという実績を重ね、かつ、収入保険の実施主体として国から示されました中立的な立場で事業を実施することができることなどの四要件も充足し得る唯一の組織としての責任と自覚を持ちまして、組織を挙げてこの収入保険の実施の準備を進めようとしているところであります。
具体的には、収入保険の実施主体として法案に規定されました新たな全国組織の立ち上げなどの組織体制の整備や、保険に不可欠な電算処理システムの開発、また、農家への説明、推進に必要なタブレット等端末機材の整備などにつきまして、今法案成立後、本格的に取り組んでまいることとなります。
ただし、平成三十一年産からの事業実施が予定されているわけでありますが、農家の加入申請はその前年、すなわち来年の秋から冬になるわけであります。それまでに万全の体制を整えておく必要がございます。今申し上げましたような組織、事務処理体制の整備、さらには、後ほど申し上げさせていただきますが、農家への丁寧な説明の実施ということを考えますと、時間的に余裕があるとはとても言えません。
ぜひとも、本法案の早期成立を期していただきまして、政省令を初め制度の詳細を早く国において御決定をいただき、今申し上げましたような準備や農家への説明に取りかかれますよう、よろしく御審議のほどをお願いいたします。
次に、今も申し上げました農家、農業者に対する丁寧な説明ということでございますが、今回の収入保険の導入は、収入保険に新たに加入するのか、あるいは、従来どおり、農業共済と米などのナラシ対策、あるいは野菜価格安定制度などに引き続き加入するのか、このいずれかを農業者みずからが判断して選択する形となっております。農家がみずからの経営に適した政策を選択できるということになるわけでございまして、その意味では、画期的な仕組みの創設と言えます。
しかしながら、一方におきまして、どちらに加入すればよいのか、どう判断したらよいのかわからないといったような農業者の声も数多くございます。このような声に対応するためには、先ほども少し触れましたが、各制度の比較が庭先で簡便にできるような端末機材等の説明ツールの整備も必要でありますが、この推進を図る私ども農業共済組織の役職員の意識改革、そして、その能力向上ということも極めて重要でございます。このため、その徹底を図ってまいりたいと考えております。
すなわち、これまで私ども農業共済は、災害対策の基幹的ネットワークとして、どちらかといえば、縁の下の力持ちとしての役割を自負しつつ、これを担ってきたわけでありますが、これからは、そこにとどまらず、農家の経営の発展をどのように支えるのか、損害の補填だけではなく、農家が経営改善を進めるその方向を選択する際、その手助けをしていくことが求められることになるわけであります。
このような新たな業務を円滑に進めるためには、これまで以上に、農業の現場、実務に日ごろからかかわり、知識を蓄えつつ農家の方々に対応していくことが必須であると考えております。また、JAや農業委員会など他の農業団体や都道府県、市町村の農政担当部局との連携も一層深くしてまいりたいと考えております。先生方には、これらの点につきましても、なお一層の御理解と御指導をお願い申し上げたいと存じます。
なお、一点付言させていただきますと、収入保険の対象者は青色申告者となります。青色申告の普及につきましては、JAなど他の関係団体とともにこれを集中的に進めることとしております。また、あわせて、職員の資質向上を図るため、全国で税務署の職員の方等を講師にお招きしての税務に関する研修も開催しているところであります。
次に、二点目といたしまして、今回の農業共済制度の見直しにつきまして付言したいと思います。
今回の見直しの中で、私ども実施主体としてやはり一番気にかかりますのは、当然加入制の廃止、あるいは、経過期間はございますけれども、一筆方式や無事戻しなどが廃止されることであります。
米、麦において高い引受率を維持してきましたのは、当然加入制であるということはもとより、圧倒的多数を占める一筆方式など、地域の要望に応じた引き受け方式の提供、あるいは無事戻しの実施など、さまざまな工夫を農家との間できちんと意見交換をしながら、納得をいただきながら進めてきたということも大きな理由と考えております。
これらが今回廃止されるということで、今後の加入率の低下が懸念されるわけでありますが、実施団体としては、これまで以上に加入推進に力を入れていかなければならないというふうに考えております。
そのためには、先ほどの繰り返しになりますけれども、私どもとしては、これまで以上に農業の現場に出かけ、実務にかかわり、また、備えあれば憂いなしという自助、すなわち、みずから助けるということに対する農家の一層の理解を求めてまいりたいと考えております。
この点に関しましては、国におかれても、さまざまな農業政策を今後展開する際におきましては、このような自助として農業共済あるいは収入保険へ加入するということを前提とする、いわゆるクロスコンプライアンスの考え方を採用していただければと強く希望するものであります。
経営改善を図るにいたしましても、自分なりに一定の災害対策、リスクヘッジの措置を講ずるというのは経営体として当然の考え方であり、この自助を前提とした上で、ともに助ける共助、そして公が助ける公助があるのだというふうに考えているところでございます。
このような考え方のもと、全国の組織を挙げて、農家が無保険となることのないよう、農家の理解を得つつ、農業共済あるいは収入保険への加入の維持、推進に全力を尽くしてまいりたいと考えております。
次に、農業共済制度の見直しの中の大きな柱の一つである家畜共済の見直しについて一言触れさせていただきます。
今回の見直しは、畜産、酪農農家の制度改善の要望が相当程度反映したものとなっておりますし、また事務の効率化、合理化の点でも大幅な改善が図られていると考えております。家畜の異動の都度、農業者が逐一申告する仕組みから、期首に年間の飼養計画を申告し、期末に掛金を調整する方向に簡素化する、あるいは、共済事故一件ごとに国からの再保険手続をとる、そのような仕組みから、年間の共済金支払い額が一定の水準を超えた場合に再保険金の支払いを行うとする方式に変更するなど、私どもが従来から要請してきた事項であり、高く評価されるものと考えております。
さて、最後になりますが、制度改正後のフォローアップにつきまして一言触れさせていただきたいと存じます。
今回の法律改正は、冒頭申し上げましたとおり、収入保険の新たな実施並びに農業共済制度の大きな変革になります。このような大きな制度改正の場合、過去におきましては、例えば、果樹共済、畑作物共済、園芸施設共済などを新たに実施する新規実施の際には、五年間の試行、試験期間を経て本格導入へ移行してまいりましたが、今回はこのような試行期間が設けられておりません。現状の農業、農村の変化の速さを見れば、過去のような試行期間を設けるというようなスピード感では対応が難しいということは十分に理解できます。
ただし、このような全く新しい保険制度の創設あるいは既存制度の大幅な変革であれば、実際に施行した段階になって初めて認識できるような課題も出てこざるを得ないのではないかというふうに考えております。今回、法律案では五年後の見直しが明記されておりますが、実際に施行された段階でいろいろな課題が生じた場合、今回は政省令で定めるとされた範囲も大幅に拡大されることもございます。五年というようなことを待たずとも、臨機応変に弾力的あるいは柔軟な対応をとっていただきたいと要望するものであります。
農業共済制度並びに収入保険ともに、国が制度設計を行います公的な保険であります。その安定的かつ適切な実施を担う私ども農業共済組織といたしましては、改めて、今申し上げたような弾力的な対応も含め、国による今後ともの適切な御指導、制度の企画、運用をお願いいたしたいと存じます。
以上、本日は、農業共済事業並びに予定されております収入保険事業の実施者としての立場から意見を申し述べさせていただきましたけれども、何とぞ御審議をいただきます旨よろしくお願いを申し上げさせていただきまして、私の陳述とさせていただきます。
きょうはありがとうございました。(拍手)
○北村委員長 ありがとうございました。
次に、安藤参考人、お願いをいたします。
○安藤参考人 おはようございます。東京大学の安藤と申します。
このような場にお招きいただきましたことに感謝申し上げます。
ここで行う私の問題提起が目指しているのは、収入保険制度が農業生産者にとってより役に立つものとしていくための検討素材を提供することにあります。
時間に限りがありますので、早速意見の陳述を始めさせていただきます。
食管制度は既に廃止されている現在、作況変動だけでなく価格変動というリスクに農業生産者はますますさらされており、新たなセーフティーネットの構築が求められています。農業災害補償制度を見直し、収入保険制度を導入しようという意図は十分理解できます。
しかしながら、御提案の内容については、以下にお話しするような問題点があると考えます。
なお、私が提示する視点は主として水田作経営、特に稲作経営からのものです。日本農業が抱える構造問題は水田農業であり、平成三十年度に米の生産調整が廃止される影響を大きく受けることが予想されるためです。
私が考える問題点は、次の四点でございます。
一点目は、収入保険制度の制度としての安定性をめぐる問題です。
二点目は、収入減少影響緩和対策、以下ではナラシ対策と呼びますが、これと収入保険制度とを比べた場合、果たしてどちらが稲作経営にとって有利かという問題です。
三点目は、ナラシ対策と収入保険制度の並立という複雑な構造を将来的にどのように整理していくかという問題です。
四点目は、収入保険制度がもたらす可能性がある細かな税務等の問題点となります。
最初は、収入保険制度の安定性をめぐる問題です。
この制度は、どれくらいの人数の加入者を想定し、どのような収支計算となるのでしょうか。加入者が少ないと制度として成り立たないことが懸念されるからです。
アメリカでも、農業保険制度は長い間、収量保険である作物保険だけという状況が続いていましたが、一九九六年度から、価格低下に対応できる収入保険が導入されています。収入保険制度の導入は世界的な潮流と言えるかもしれません。また、アメリカでは作物保険よりも収入保険の方が加入面積を上回っています。二〇一三年度の数字ですが、前者が九千九百万エーカーに対し、後者は一億九千七百万エーカーとなっています。
アメリカの収入保険は、作物別収入保険と経営単位収入保険とに分かれています。日本で今回導入しようとしているのは、後者の経営単位収入保険になると考えます。アメリカにおけるこの経営単位収入保険の加入証券数は一千百件を超える程度とわずかにとどまっています。アメリカの農業収入保険の加入証券数は百二十万件を超えており、この数字と比べると、いかにネグレジブルなものかがおわかりになると思います。アメリカにおける収入保険の大宗は作物別収入保険であり、それがスタンダードなのです。
こうしたアメリカの状況を鑑みますと、もちろん、日本の場合は作物別収入保険がないので単純な比較を行うことはできませんが、新しく導入される収入保険制度にどれくらいの農業生産者の加入が見込まれるかが危惧されます。
また、日本の収入保険制度は青色申告者を対象としており、十分な数の加入者を確保できるかどうかも気になるところです。青色申告を行っている農業者のうち、どれくらいの方々がどのような条件で加入される見込みで、その結果としての本制度の経営収支はどのようなものになると考えているのでしょうか。場合によっては、青色申告者に限定することなく対象を広げる必要があるかもしれません。
現在の検討中の制度を字義どおり理解すれば、セーフティーネットの対象者は青色申告者に限定されているということになります。農業構造改革の重要性は理解できますし、私もそれに賛同するものですが、農政として守るべき農業生産者はここだけに限定しますよというメッセージとして受けとめられてしまう可能性があります。この点も気になるところです。
中山間地域では零細な農業生産者が粘り強く頑張っているので、また、中山間地域等直接支払制度のようなすぐれた制度の支援もあるため、農地が保全され、国土が維持されていますが、彼らの大半はこのセーフティーネットの外に置かれてしまうからです。
ちなみに、山間農業地域では、主業農家も集落営農もない農業集落が占める割合は五割を超えています。
次がナラシ対策との比較です。
これを行うためには、収入保険制度の内容について正確に理解する必要があります。そのためには、以下のような疑問点が明らかにされる必要があると考えます。
捨てづくりや意図的な安売りなどによって生じた収入減少は補償の対象外とするとありますが、このうち、安売りを意図的であると認定する場合、それはどのような方法で行うことになるのでしょうか。意図的な安売りではなく、生産過剰によって販売価格が大きく下落した場合との弁別はどのように行うことになるのでしょうか。
基準収入は過去五年間の平均収入、いわゆる五中五としていますけれども、ナラシ対策と同様、五中三とするべきではないでしょうか。五中五とする理由として、本制度では、農業者個々の収入を用いるため、モラルハザードにつながるおそれが挙げられていますが、意図的に作物の栽培を行わないというような事態は、合理的な経済主体の行動としておよそ考えることができません。お客さんに常に一定の品質の商品を安定的に長年にわたって供給することで農業生産者の信用は培われるものであり、それをみずから毀損するような行動をとることはあり得ないのではないでしょうか。合理的な経済主体は長期的な視点から行動をしているのです。ここでの想定は経済学的にナンセンスな想定と言わざるを得ないと思います。
また、平成三十年度からの生産調整の廃止によって米価下落の可能性は高まっており、五中五ではその影響を直撃することになりますので、その点を視野に入れた制度とすべきではないでしょうか。
支払い率という概念の理解が一般の農業生産者の方々には難しい点も気になっています。ナラシ対策では、当年産の販売収入の合計が標準的収入を下回った場合、その差額の九割が補填されるのに対し、収入保険制度では基準収入の九割の補填とはなりません。九割補填ではなくても農業経営の安定を図ることはできるのでしょうか。基準収入の九割が補填されない収入保険制度がセーフティーネットとしての役割を果たし得るのかどうか、大きな疑問が残るところです。
繰り返しになりますが、生産調整廃止によって米価の下落が予想されるだけに、基準収入の九割は補填されないこの収入保険制度で稲作経営の安定を図ることは難しいのではないでしょうか。農林水産省が作成された資料を見ても、ナラシ対策は収入減少割合が一割以内であったとしても補填が行われるのに対し、収入保険制度はそうはなってはいません。
そこでさらなる疑問です。支払い率はなぜ九割とされたのでしょうか。事務コストが増嵩し、保険料も高くなるといった問題があるという説明がありますが、このコストを国が負担して農業経営の安定を図るのが本来の筋ではないかと考えます。ナラシ対策は事務費を徴収していないはずです。
また、当年の収入が補償限度額を下回ることが明らかになった際に、それ以降の経営努力を怠るといったモラルハザードが指摘されていますが、自然災害以外により生じる収入減少として考えられるのは、販売価格の下落しかないと思います。しかし、これは農産物を収穫し販売してみなければわからないのではないでしょうか。
一年一作の稲作経営の場合、想定されているような経営努力を怠ることはできないと思います。最終的な経営成果が出るまでのどの段階で、当年の収入が補償限度額を下回ることが明らかとなり、それを踏まえて経営努力を怠ることになることは本当にあり得るのでしょうか。具体的な農作業暦を示しながら、この時点だ、そういう説明をする必要があると考えます。特に稲作経営について、そのようなことがどのような場合に起こり得るのか、具体的に示していただきたいところです。
保険料、積立金と補填金額の試算については、支払い率一〇〇%の場合も示していただければと思います。さまざまな保険料、積立金のケースについて、その場合の収入保険制度の全体の収支予想を示す必要もあると思います。これは最初の問題と関連してきます。
最後に、収入保険制度とナラシ対策との比較についての私の考えを述べます。
稲作の作況の変動は極めて小さく、直近の平成二十年から平成二十四年にかけての五年間の十アール当たり収量は五百二十キログラムから五百四十キログラムの範囲内で安定した推移を示しており、作況指数も九八から一〇二の範囲内におさまっています。稲作経営の収入を決めるのは米価と言ってよいでしょう。
そうなりますと、収量の減少ではなく、価格の低下に着目して両者を比べるのが現実的だと思います。農林水産省が作成した資料によりますと、シナリオ2の、価格が二割低下の場合の補填金は、現行制度の四百八十七万円に対し、収入保険制度は三百二十九万円と現行制度の方が有利です。これが逆転するのは、シナリオ5の、価格が四割下落する場合です。補填金は現行制度の四百八十七万円に対し、収入保険制度は九百八十七万円となります。そもそもナラシ対策で対応できるのは二割の減収までなので、このような結果となるわけですが、ここから導き出せる結論は次のようになります。
緩やかな米価の下落であればナラシ対策で対応が可能であり、そちらに加入する方が有利だが、米価が大きく下落するような場合はナラシ対策では限界があり、収入保険制度に加入した方が有利であるというものです。
私が稲作経営者だと仮定した場合、どうするかは将来の米価の行方をどう見るか次第ということになります。農林水産省が全力を挙げて今年度も生産調整の達成に取り組んでいるので米価は今後も下がらないと強気に出れば、収入保険制度には入らずに、ナラシ対策だけでいきます。少なくとも二割近くの米価の下落がないと予想すれば、ナラシ対策だけで十分です。しかし、生産調整の廃止で米価は暴落と踏めば、収入保険制度に加入します。
ここで一つの疑問が生じます。
収入保険制度への十分な加入者を確保するためには、米価の大幅な下落が必要ということでしょうか。それとも、米価の大幅な下落を見越しているからこそ、青色申告者だけを救うために、収入保険制度を生産調整廃止にあわせて導入するということでしょうか。米価の大幅な下落を前提とした制度設計だったということなのでしょうか。
三番目が、将来的に全体的な制度のあり方をどう考えるかという問題です。
現時点では、複数の制度が並立しており、農業生産者にはわかりにくく、どのように制度を使い分けるか大いに迷うところです。
最終的にはナラシ対策を収入保険制度に集約していくことになるのでしょうか。その場合、どのようなプロセスで進めようとお考えなのでしょうか。どことは申しませんが、出口戦略を考えないと身動きがとれなくなってしまいます。もちろん、平成三十年度以降米価の大幅な下落が続けば、是非もなく収入保険制度に集約していくと思いますが、それは望ましいシナリオではないでしょう。
いずれにしても、複数の制度が並立した状態を混乱なく整理していく必要があり、そのシナリオを検討しなくてはなりません。また、収入保険制度がスタートして一定期間の後に見直しも必要となるでしょう。特に生産調整廃止の影響を見定めることは重要であります。
最後に、収入保険制度がもたらす可能性のある問題点を幾つか指摘したいと思います。
保険支払いの時期が税務申告後になることがもたらす問題があります。既に他の方々からも指摘を受けている点ですが、保険支払いの時期が遅いことが経営の資金繰りに支障を来すのではないかという問題です。また、支払い時期の関係から、保険金は翌年度に収入として計上されるため、税負担が重くなってしまう可能性もあります。こうした点についてどのような対応を考えておられるのでしょうか。
ナラシ対策の交付金は農業経営基盤強化準備金に積み立てることはできますが、収入保険は農業経営基盤強化準備金の対象となるのでしょうか。農業経営強化準備金は、農業経営体の資本蓄積に大きく貢献している制度です。
これが本当の最後になりますが、水田活用の直接支払交付金が基準収入からは除外された理由をどのように考えればよいでしょうか。
保険料は基準収入に保険料率を乗じて算出されるので、飼料用米生産は保険料負担の軽減につながります。これをそのまま受けとめて、飼料用米生産の拡大に追い風が吹いていると理解してよいのでしょうか。それとも、予算の制約から、飼料用米生産の補助金をどこかで大幅に減額さらには廃止することを想定しており、そのときに保険料を支払わなくて済むようにしていると理解することもできるように思いますが、杞憂にすぎないのでしょうか。今後も飼料用米生産を現行水準の助成金で支えていくという確約をいただくことができればと思います。
以上をもちまして、私からの意見陳述を終えたいと思います。御清聴ありがとうございました。(拍手)
○北村委員長 ありがとうございました。
次に、鈴木参考人、お願いをいたします。
○鈴木参考人 おはようございます。東大の鈴木でございます。
本日は、このような機会をいただきまして、まことにありがとうございます。
さて、私の方からは、お配りしております「「岩盤」なくしてセーフティネットは完結しない」というペーパーを見ていただければと思います。
私は、別名ミスター岩盤と呼ばれまして、二つの政権にまたがりまして岩盤の議論に深くかかわらせていただきました。そういう立場から、この収入保険は岩盤のない底なし沼ではないかという論点をまず述べさせていただきます。
この収入保険がまずセーフティーネットなのかどうかについての本質的な議論が必要だと思います。端的に言えば、提案されている収入保険は、所得の岩盤、下支えとしてのセーフティーネットではないということです。
傾向的に価格が下落する側面では、例えば、これから五年間の平均米価が一俵一万円になったら一万円より下がった分の一部は補填します、さらに次の五年は平均九千円になったら九千円より下がった分は補填します、これでは、どんどん基準収入が下がり続ける底なし沼です。つまり、提案の収入保険は、岩盤対策だった戸別所得補償の廃止に対する代替措置にはなり得ないということです。
収入変動をならすナラシ対策には岩盤がないから、所得がどこまで下がるかわからない、経営計画が立てられないという現場の切実な声を受けてこの戸別所得補償制度が実現したわけでございますが、結局、それをやめてしまって、端的に言えば、ナラシと同じ考え方の収入保険を追加しても、底なし沼が二つ並んでいるだけで岩盤は消えたまま、もとのもくあみです。
収入保険の導入を否定するものではありませんが、もう一つ、最低限の生産費を償える水準との差額を不足払いする岩盤政策をセットで準備するべきではないでしょうか。そうしないと、これまで岩盤を求める現場の切実な声に基づいて政策形成を議論してきた経緯は何だったのか、これで現場が納得できるのかということになります。
実際、我々の計量経済的な試算では、戸別所得補償制度を廃止し、ナラシあるいは収入保険のみを残して生産調整もやめていくという状況では、二〇三〇年には米価は一俵一万円を切ります。これに収入保険があっても、それをわずかに上回る支えしかできません。これは貿易自由化の影響は含んでいませんので、実際には、さらに深刻な米価下落が続く懸念があるということです。
米国の仕組みを参考にしたといいますけれども、アメリカには、生産コストに見合う水準の目標価格と市場価格との差額を補填する不足払いという強固な岩盤があります。それに、二〇一四年農業法で収入補償というものも選択になりましたが、それも、基準収入は、販売価格が目標価格を下回ったときには、それを目標価格に置きかえて基準収入を計算する。これにも岩盤が組み込まれているわけです。
いずれにしましても、最低限の生産費水準を補償する強固な岩盤を用意した上で、年々の収入変動をならす収入保険も入りたい人は入ってねとプラスアルファで収入保険を準備しているのがアメリカであるのに対して、我が国では、アメリカにおけるようなメーンの岩盤は逆に廃止して、プラスアルファの部分のみにして、これをアメリカの仕組みに近いかのように説明するのは極めてミスリーディングだと思います。
それから、いわゆる牛・豚マルキンの方がベターだという議論ですが、対象から牛、豚を除外しているのは、生産費を償える水準との差額を不足払いする形のマルキンがあるからだというふうに説明されていますが、それはつまり、いみじくも、マルキン型の仕組みの方がベターであると認めていることになりまして、そうであれば、むしろ、牛、豚以外にも、収入保険ではなくて、全体にマルキン型の仕組みを導入すべきだという帰結にもなります。
それから、御案内のとおり、畑作物にも固定支払い、ゲタ対策があり、米、麦、大豆などのナラシも当面継続されるもとで、対象が青色申告農家に限定され、膨大な書類を伴う煩雑な手続も必要な中では、わざわざ収入保険に加入するという農家はかなり限定されるということが考えられます。
ですから、提案の収入保険が日本全体をカバーするような基本政策には今のところはなり得ない。そもそも岩盤がないんですから、これを今後の日本農業のセーフティーネットの目玉かのように誤解してはならないということではないかと思います。つまり、一つの選択肢がふえたのだ。かつ、一つの選択肢だとしましても、対象の限定性をもっと軽減し、手続の簡素化に努めないと、実効性のある選択肢にはならないと考えます。漁業共済における積立ぷらすのような普及率の高い収入保険を参考にする必要もあるのではないでしょうか。
それから、農家の切実な声で実現した岩盤の経緯は忘れちゃいけない、政策というのは現場の声がつくってきたのではないかという議論です。
民主党政権の後を受けた自公政権では、岩盤政策として導入された戸別所得補償制度を廃止して、いわゆるナラシに戻す、それを将来的には収入保険にしていくという方向性がまず打ち出されました。民主党政権時代に導入されたものは全て白紙に戻す、つまり、前の自公政権の二〇〇七年の政策に基本的には戻す形になっておりますが、そもそも、このときに、ナラシだけでは所得下落の歯どめがかからないという現場の切実な声が戸別所得補償制度につながったということを振り返らないといけないと思います。
ナラシ対策に対しては、対象を一定規模以上に限定して、それから、五中三という過去五年の最高と最低を除く三年平均で基準収入を計算しても、どんどん価格が下がっていくときには経営展望が開けない、この切実な現場の不満に対して、前の自公政権においてもいろいろな議論が行われまして、最終的に、ナラシは維持するが、ナラシに加えて、全販売農家に対する生産費との差額を補償する岩盤を追加するということが発表されました。実現の前に政権が交代しました。
そして、民主党への政権交代と同時に、戸別所得補償制度という形で岩盤が具体化しました。ただ、当初の戸別所得補償は固定支払いと変動支払いで、変動支払いの基準収入の計算の仕方に少し議論がありまして、これが完全な岩盤としては機能しないということで、後に変動支払いの基準価格が固定されました。
その点で注目すべきは、前回の自公政権でベストの選択肢として提案された政策は、完全に生産費を補填するまさに岩盤として提案された、むしろ、導入された当初の戸別所得補償よりも強固なセーフティーネットが提案されていたという事実であります。
提案書には、五中三ではどんどん補填額が下がっていく、我々が提案する新たな米価下落対策は、生産費を確保できる補償水準が維持されることで中長期的な経営の安定化を図ることが可能となるというふうに説明されていたわけです。
つまり、どの政党がどうとかいうことにかかわらず、現場の声がナラシに岩盤を追加する形で進化させたわけです。ですから、現場は、経営の見通しが立てられるようになったと評価して、戸別所得補償制度の長期継続を求めていました。
このように、自公政権、民主党政権を問わず、現場の切実な声を受けて政権が政策を改善し、進化させてきているわけです。こうした一連の議論の流れがある中で、現場を無視してせっかく進化したものを退化させてしまったら、これは現場はもちません。
もう一点、次の論点は、農業災害補償を弱体してはならないという点です。
提案の収入保険の加入範囲がかなり限定される、一方で、米麦では当然加入であった農業共済が収入保険との選択制になることで、収入保険にも入らないが災害補償の農業共済からも抜けるという無保険者が増加しかねません。特に、基幹作物の災害補償は広くあまねく行き渡ることが不可欠であり、だからこそ、農家が自主的な相互扶助により全員参加で基金をつくり、推進や損害評価も自分たちのボランティアで行うという、まさに共済が成立しました。
これは、実は、非常に安い費用で災害補償を実現し、農村コミュニティーの持続性にも大いに貢献しています。また、被害を未然に防止するための病虫害防除などの幅広いリスクマネジメント活動も展開されています。こうした相互扶助の共済を簡素化すれば効率化されるというふうに短絡的に考えるのは危険だと思います。
確かに、地域の人手不足で従来のような体制がとりづらくなっている側面もありますが、だからといってすぐに評価体系を簡素化するのではなく、一筆方式は維持しつつ、人手不足にはドローンによる調査などで代替するといったような最新技術の活用で評価手法を効率化し、農家へのサービスは低下させない方向性ももっと追求すべきではないでしょうか。
短絡的な簡素化の追求ではなく、地域コミュニティーの持続的発展に不可欠な相互扶助の共済の重要性をよく理解し、全員参加型で、きめ細かなニーズに低廉な費用で対応できる農家みずからの仕組みが壊されないように、その維持のための最大限の政策的誘導策をセットにする必要があると思われます。
以上、提案としてまとめますと、一つは、収入保険に加えて、前回の自公政権で提案されたような岩盤、あるいはアメリカの不足払い型の政策、あるいは固定支払いプラス変動支払いの戸別所得補償のような政策、あるいは牛・豚マルキンを全品目に拡大するというような考え方、これらはいずれも類似しておりますが、要は、最低限必要な生産費を償える岩盤を導入するということであります。
あるいは、今提案されている収入保険の基準収入の算定の中に岩盤を実質的に組み込むということも考えられます。米価であれば、例えば、一俵一万四千円を下回る年があったら、その年の値は一万四千円に置きかえて基準収入を計算する、あるいは、そうしなくても、算定に使う米価を補助金込みの米価を使う、そういうようなことで、岩盤要素をビルトインすることが可能になります。
三点目は、先ほど申し上げた、農業共済については、短絡的な簡素化の追求で相互扶助システムを壊してしまうことのないよう、実質的な当然加入に近づけられるような誘導策をしっかりと組み込む必要がある、そういうふうに考えております。
以上で私の意見陳述を終わらせていただきます。ありがとうございました。(拍手)
○北村委員長 ありがとうございました。
次に、山下参考人、お願いをいたします。
○山下参考人 おはようございます。
きょうもまた呼んでいただきまして、ありがとうございました。
前の二人の御参考人の方とは全く逆の立場から、政府案に対して意見を申し上げたいと思います。
左からの反論と右からの反論、これを合わせて、道は中庸にありということは昔から言われますが、右からの反論、左からの反論、両方あるときは、足して二で割ると、やはり政府案がよかったんじゃないかなというふうなことになりかねないんですけれども、私は私の考え方を述べさせていただきたいと思います。
前からお聞きすると、やはり、農業は弱いものだ、保護しないとだめなんだという考え方が農業村と言われる人たちの間にはあるのではないかなというふうに思います。
そういう観点から、私のスライドなんですが、最初に、石橋湛山という有名な政治家の方が戦前に書かれた文章を引用させていただきました。
日本の農業はとても産業として自立できない、ゆえに保護関税を要する。低利金利の供給を要する。今回であれば、収入保険を要するということだろうと思います。政府も、議会も、学者も、口を開けば皆農業の悲観すべきを説き、事を行えば皆農業が産業としてそろばんに合わざるものなるを出発点とする。かくして我が農業者は、世界のあらゆる識者と機関から、おまえらはひとり歩きはできぬぞと奮発心を打ち砕かれ、農業はばかばかしい仕事ぞと、希望の光を消し去られた。今日の我が農業の沈滞し切った根本の原因はここにある。
これは、石橋湛山が八十年前に書いた文章でございます。残念ながら、八十年たっても、今の農業はそれほど変わっていないのかなというのが私の印象でございます。
次のスライドを見ていただきたいと思います。
これは前もお示ししたところでございますが、農家は貧しい、だから保護しなければならない、ところが、そういう農家の貧しさというのは、一九六五年以降、もう消滅したということでございます。
この折れ線グラフが、農家所得を勤労者世帯の収入で割ったものでございます。この右目盛りなんですけれども、一〇〇%を超えるということは、農家所得が勤労者世帯を上回って推移しているということでございます。
ただし、その内訳が問題でございます。農家所得のうち、ほとんどが農外収入、農業所得はわずかにしかならないということなんですね。したがって、農業所得を幾ら保険とかそういったもので安定したとしても、農家の所得は安定しないということでございます。
よく、中国の国務院の人なんかが私のところに来ます。日本ではどうして中国のような三農問題がないんだ、中国では都市部の一人当たり所得と農村部の一人当たり所得が三倍以上に拡大してしまった、ところが、何で日本はそんなことがないんだと言うわけです。
それは、日本の一九六〇年代の政策が極めてうまく機能したことだというふうに思います。
新産業都市というのをつくって、農村に工業を導入したわけですね。したがって、歩いてというか、農村から工場に勤務することができるようになった。
さらに、米価を上げたので、米の経営が赤字でも、コストを償わなくても、町で買うよりも自分でつくった方がまだ安上がりだということになれば、農家は米づくりを継続するわけです。したがって、本来退出すべき農家の人たちが大量に米農業に滞留してしまったということでございます。
五ページ目なんですけれども、一九六一年に農業基本法をつくった小倉武一という我が農林水産省では有名な元事務次官がいます。彼は、実は第二次農地改革の担当課長だったわけです。
その目からすると、戦前の日本の農業とか農政というのは、農村の困窮とか、さもなければ食糧不足に苦悩してきたんだ。だけれども、今はもう農村も豊かになった。だけれども、日本の農村は豊かさの代償として農業の強さを失ったんだ。輸入反対を唱えるだけじゃなくて、自由化に耐え得る強い農業を目指すべきだ。これが小倉武一の、ガット・ウルグアイ・ラウンド交渉終了時の言葉でございます。
さらに、所得の話を申し上げますと、六ページにありますように、養豚農家の所得は一千五百万円です。一千五百万円の人の所得を補償するということが、これが我が農政の目的なんだろうかということでございます。
七ページを開いていただくと、各農家の所得の内訳です。主業農家というのは、販売農家のうちにわずか二二%しかございません。この主業農家の、確かに農業所得は五百五十八万円あります。ところが、それ以外の農家、准主業農家、それから副業農家の農業所得は五十万円程度しかないわけですね。その五十万円の所得を安定する、これが農家所得の安定につながるんだろうかということでございます。
次はちょっとスキップさせていただいて、十ページに移らせていただきたいと思います。
別に私は安藤さんと打ち合わせをしてここに臨んでいるわけじゃないんですけれども、たまたま意見が一致したというか、多分、今回の収入保険導入の背景というのはこういうことだったんじゃないかなというふうに私は推理させていただいております。
二〇一八年に米の生産調整についての見直しを行う、生産目標数量を廃止するということが決められています。安倍総理は、四十年間誰もやらなかったことを自分はやったんだというふうに大見えを切られたんですけれども、実は全く同じことを二〇〇七年に彼はやったんです。ところが、米価が、全農が仮渡金を一俵当たり七千円にどかんと下げたということで、大変な混乱が起こったわけですね。したがって、直ちに、安倍政権は、第一次安倍内閣はこの生産調整の見直しを撤回したわけですね。
多分、この対策として、今回の収入保険制度の導入があるんじゃないかなというふうに私は思います。まず、価格が下がらなければいい、したがって、餌米への減反補助金を大幅に増額したわけです。つまり、米価が低落しないようにというセーフティーネットをまず打つわけです。それでもまだ米価が下がるかもしれない。そうすると、そうなっても農家所得が維持できるようなセーフティーネットを収入保険で導入するわけです。
つまり、減反政策は、減反の補助金、餌米の補助金の大幅増額と収入保険制度によって、二重のセーフティーネットを持つことになります。したがって、これは農家所得のセーフティーネットというよりは、むしろ減反政策のセーフティーネットじゃないかなというふうな考えを私は持っております。
それから、アメリカの話があります。しかし、アメリカの農政というのは、いろいろな、その時々の価格の状況で物すごく振幅が激しいんです。
日本の農政は、昔、我々が若いころ、猫の目行政というふうに言われました。日本の猫の目行政は、大まかなところは余り変えずに、小さなことをちょこちょこちょこちょこ変えるんです。これが日本の猫の目行政です。アメリカの農政は、大きなところをどかんどかんと変えます。だから、日本の農政が猫の目行政なら、アメリカの農政は虎の目行政みたいなものでございます。そういうふうに大きく変動したわけですね。
したがって、アメリカをまねても、アメリカが収入保険制度を未来永劫続けるかどうかというのはわからないわけですね。アメリカは減反を廃止しています。関税もほとんど撤廃しています。もしまねをするなら、そういういいところをまねしてもらいたいなというのが私の意見でございます。
それから、WTO整合性でございます。
この法案を見せていただきましたけれども、WTO農業協定の附属書二の第七項、これは緑の政策の要件を定めているところなんですけれども、明らかに第七項に不整合だということでございます。
ここに挙げてあるところだけじゃなくて、もう一つ、先ほども言われましたように、ナラシを除外するとか畜産は除外するとか、そういうことがありますので、生産のタイプ、形態に関連してはならないというところにも違反しております。
先ほど安藤さんの方からお褒めをいただいたんですけれども、中山間地の直接支払いを課長として制度設計して導入したのは私だったわけなんですけれども、実はあのときに私は何を考慮して制度設計をしたかというと、農業協定の附属書二の第十三項だったわけでございます。つまり、新しい、新基本法に沿った政策を導入する、そのためには、WTOに整合する政策じゃないと国民の理解は得られないだろうというふうに思って、あの政策を導入したわけでございます。ところが、今回は、そういう配慮が恐らくなかったんだろうというふうに思います。
今、WTOの農業協定の状況なんですけれども、いわゆる平和条項というのが失効しておりまして、AMSの範囲内だったら黄色の政策でも幾ら打ってもいいんですけれども、実は平和条項というのが失効しておりますから、AMSの範囲内であっても黄色の政策はどこかの国に提訴される可能性があるということでございます。
十三ページに参ります。
これまた前回申し上げましたように、石黒忠篤という方がいらっしゃいまして、日本の農家の問題として、自主的な精神に欠けているということを彼は指摘するわけでございます。そういう観点からしますと、果たして今回セーフティーネットが農業に必要なんだろうかという思いがするわけでございます。准主業とか副業農家の五十万円程度の農業所得に果たしてセーフティーネットが必要なんだろうか。
私は余りこのセーフティーネットというのを必要性を感じませんけれども、もしセーフティーネットが必要だというのであれば、主業農家に限るとか一定規模以上の農家に限るとか、対象者の限定を、本当に農家らしい、農家を保護するなら保護すべき農家の姿を明らかにして、そういう対象者に農政を集中すべきだというふうに私は思います。
それから、十五、十六ページなんですけれども、柳田国男の議論はちょっと省かせていただきますが、いわゆる兼業農家がふえるというのは、まさしく彼は国の病だというふうに批判しております。
そういう観点からしますと、この制度が第二の食管みたいになって、零細な農家の農業所得を補償してしまう、第二の高米価政策になってしまう。そうすると、主業農家への農地の集中が妨害されてしまう、そういう構造改革を阻害することになりはしないかというのが私の懸念でございます。
次に、先ほどセーフティーネット、セーフティーネットと言いますけれども、収入保険というのは、ある一定の所得、収入を補償するわけですから、市場に介入するわけですね。価格という市場の需給調整機能をある意味排除する役割を果たすわけでございます。そういう意味で、収入保険には強い市場歪曲性があるわけですね。したがって、農業協定は、先ほど九〇%に足りないという話がありましたけれども、七〇%ぐらいにとどめるとか、そういうふうな工夫をしているわけです。
そういう観点からすると、このセーフティーネットがあるために、リスクの高い行為を、ハイリスク・ハイリターン的な経営を農家が選択することになりはしないかなというふうになります。そうすると、需給が変動して、さらなる政府介入が必要になる。そうすると、財政負担もふえるし、消費者負担もふえるということになりはしないかなというふうに思います。
最後に、ちょっとスキップして、まず十九ページに移らせていただきたいと思いますけれども、私は、農政の目的というのは、農家の所得の向上じゃないんだと思います。それは、戦前の柳田国男とか石黒忠篤とかそういう時代なら、農家の所得、貧農救済というのは農政の目的に掲げてもよかったというふうに思います。ところが、今の状況になると、やはり農政の目的というのは、多面的機能とか食料安全保障とか、そういうふうなところに農政の目的を掲げるべきだというふうに思います。
そうすると、では、先ほど鈴木参考人の方からありましたように、畜産の保険制度的なものの方が明らかにこの収入保険よりも有利なわけですね。だから畜産を除いたわけですね。マルキンとかを除いたわけですね。
したがって、食料安全保障にも貢献しない、多面的機能にも貢献しない、むしろ外部不経済を増加させている、そうした畜産に対して、ほかの農業を上回るような補償をすることが本当に意味があるのかなということは、いま一度、我々は考える必要があるんじゃないかなと思います。
そうじゃなくて、本当にあるべき施策というのは、EUがやっているように、農地資源を維持しようとすれば、対象者を絞って、EU型の単一直接支払いを実施すべきじゃないかなというふうに思います。
ちょっと省略させていただきまして、最後に一つだけ、柳田国男の言葉を引用させていただきたいと思います。「世に小慈善家なる者ありて、しばしば叫びて曰く、小民救済せざるべからずと。予を以て見れば是れ甚だしく彼等を侮蔑するの語なり。予は乃ち答えて曰わんとす。何ぞ彼等をして自ら済わしめざると。自力、進歩協同相助是、実に産業組合の大主眼なり」ということでございます。
自力、進歩、協同、相助、これが本来、今の農協のもとになった産業組合がやろうとしたことだったわけです。このために、柳田国男は産業組合の普及に大変力を注いだわけです。残念ながら、当時から、産業組合というのが柳田国男の考えたものではなかったということでございます。
どうも御清聴ありがとうございました。(拍手)
○北村委員長 ありがとうございました。
以上で参考人からの意見の開陳は終わりました。
―――――――――――――
○北村委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。
質疑の申し出がありますので、順次これを許します。小里泰弘君。
○小里委員 自由民主党の小里泰弘でございます。
参考人の皆様には、本当に貴重な御意見を賜りました。心から御礼を申し上げます。
お話にありましたように、農業は自然災害との闘いという一面がある、また価格変動との闘いでもあります。これに備えるセーフティーネットとしての制度面から見ると、品目別にまちまちであります。
そこで、農家収入全体に着目をして経営リスクに備えていこう、もって経営の安定化を目指していこうということでやりました。今回の新たな制度に対する現場の期待、非常に大きなものがあると認識をしております。
そこで、いかにこの制度を、しっかりと体制をとって、運用を図って、現場に届くものとしていくか、そういった観点から、きょうはお伺いをしてまいりたいと思います。
まず、高橋会長のお話にありましたように、新しい制度、早期に、いかにして適正規模を確保していくか、大事な課題であります。当然加入がなくなりますから、小規模な農家からこれを外れていくんじゃないか、抜けていくんじゃないかという懸念があるところであります。
団体として、これをいかに現場に届けて、取り組みをしていくか、これに加入していただくべく、具体的に御意見をお伺いできればと思います。
○高橋参考人 お答えをいたします。
まず、経営リスクに対する備えということで、これまでも、私どもは自然災害を対象といたしました農業共済事業を実施してきておりますけれども、これの対象でカバーをしている農家というのは大体六割程度でございます。野菜でございますとかそういったものについては、一部を除いて対象になっておりません。
今回、この農業共済制度の見直しと収入保険を導入することによりまして、これまで農業共済事業に入ってきた方の一部は収入保険に移行される方もおられると思います。一方で、これまで農業共済事業の対象にはなっておられなかったような農家が、今回、このセーフティーネットの枠の中に入ってこられると思っております。
一方で、御指摘のとおり、当然加入制がなくなりますので、小さな規模の農家が無保険になるのではないかということも、これは私ども非常に心配をしているところでございます。
以上のようなことから、まず基本的には、農家、農業の現場に私どもが徹底的に足を運びまして、先ほど来お話がありますように、自助という形で自分たちの経営をきちんと守るんだということの重要性というものを徹底的に、もう一度、農家に御理解をいただく。
その中で、これまでも、実は、鹿児島県の場合の例で恐縮でございますけれども、米、麦、当然加入制ではあります。したがって、九割以上の加入率になっているんですが、実はこれは、当然加入制とは申し上げても、一定の作付未満の小さな作付規模しかない農家というのは、これは当然加入の対象になっておりませんで、これまでも任意加入という形で入っていただいております。鹿児島県の場合、全農作物共済の加入対象者のうち、当然加入でお入りいただいているのが六割、一方で、実は四割の方は当然加入じゃなくてもお入りいただいているということで、これまでもやってきたわけでございます。全国でも大体四分の一ぐらいが、この当然加入ではなく任意でもう既にお入りいただいている。
したがって、これらの実績は、これまで七十年間積み上げてきました、私どもの農家に対する御説明の中で積み上げられてきたものと思っておりますので、今後とも引き続き、このような、今最初に申し上げたようなことをきちんと御説明をして、加入の維持促進ということに努めてまいりたい、そういうふうに思っております。
○小里委員 ありがとうございます。
しっかりと説明して、現場に納得をいただく、これが基本であろうと思います。おっしゃるとおり、しっかり進めていただきたいと思います。
全国の区域が対象となってまいります。そこで、実施主体として全国連合会をつくっていく、そして、この新たな業務にしっかりと対応していこうということでありますけれども、そのための体制づくり、お話にありましたように、時間がないんですね。ここにいかに対応してしっかり体制をとっていくか、その辺の具体的なスケジュールについてお伺いします。
○高橋参考人 収入保険の実施主体が予定されております全国連合会、全国農業共済組合連合会の設立につきましては、本法案成立後、速やかに、設立準備会、そして創立総会の手続を経て、実際の設立を進めてまいりたいと考えておりますけれども、一方におきまして、この新しい連合会については、収入保険などにかかわります事業計画の策定、あるいは収支予算書もきちんとしたものをつくってまいらなければなりません。
さらには、この新しい連合会についての税制上の措置、私ども、今、農業共済団体と同じような課税上の特例措置などもお願いを今後しなければならないと思っておるわけでございますけれども、これらにつきましては、いずれも来年度の国の予算あるいは税制改正の中で御決定を待たなければならないという形になります。
そういたしますと、創立総会そのものは、事業計画等をきちんと定めなければなりませんので、このような観点から考えますと、創立総会は年明けにならざるを得ないなというふうに思っております。ただし、その前に設立準備会等は、法案成立後、なるべく早く行いたい。
一方で、先ほど申し上げましたように、三十一年産からの開始、それまでの、秋から冬にかけての加入の申請に対しまして万全たる対応をとるということを考えますと、ともかく早く設計をやらなきゃいけないということで、設立の認可手続等も勘案をいたしますと、今のところ、来年度、四月の早々にはこの全国連合会を立ち上げるべく、今、全国段階で準備を、協議を始めようとしているところでございます。
○小里委員 私どもが、日ごろ、通常の農業施策におきましても、なかなかこれが現場に伝わっていかないなという経験を随分してきたものであります。
その原因としては二つあろうと思うんですね。
一つは、やはり予算が限られますから、いろいろと条件、要件をそこに入れ込んで、蛇口を絞ってしまうということは一つあります。
もう一つは、農業施策を現場に伝える体制の問題があると思うんですね。例えば、市や町の農政課の職員が肝心の農業施策について詳しく知らない、現場に説明できないといったようなことによく出くわすわけであります。
新しい制度が始まるに当たって、より現場に通じた、また知識も必要であろうと思います。職員の教育、これを今後どのように進めていかれるか、お伺いをしたいと思います。
○高橋参考人 今回、特に収入保険の導入ということにつきましては、先ほども申し上げさせていただきましたけれども、個々の農家に、収入保険を選ぶのか、あるいは、これまでと同様に、農業共済事業と米のナラシ政策、あるいは野菜価格安定制度という従来の政策のパッケージ政策、これを引き続き選ぶのか、この二つについて農家が選んでいただかなければならないわけであります。
それに対して、私ども、この両制度を実施いたします農業共済団体としては、その農家の選択にきちんと相談に応じて、そして、どちらがいいのかということについて、ある意味、御支援をするような、いわゆるコンサルタント的な業務も行わなければならないというふうに思っております。
そうしますと、それに必要な知識と申しますのは、これまでの農業共済事業の推進に必要な、農業共済事業そのものもかなり細かいものですので、この知識の習得はかなり時間がかかるんですが、それにさらに付加して、米、野菜、果樹、畜産などの作目ごとのさまざまな政策の仕組み、内容についても通暁する必要があろうかと思っております。
さらに加えて、今回の加入資格者というのが青色申告者という条件になっておりますので、ある意味、この青色申告についてきちんと指導といいましょうか、このうちの収入についてはどこまでが収入保険の対象になるかとか、そういった意味での税務についても通暁する、そういったことが必要であろうというふうに思っております。
したがいまして、今後、私ども農業共済団体の資質向上という観点から、今申し上げましたように、これまで以上に一般農政、米あるいは野菜、果樹等の個々の作目ごとの施策、そういったものについての知識の習得にあわせて、税務的な問題についても、これは冒頭申し上げましたけれども、税務署の職員あるいは税理士の方々にお願いをしながら、今後、職員に対しての研修というものを充実してまいりたいと思っておりますし、この三月十五日までに来年度の青色申告手続ということを農家の方にお知らせすべく全国で展開しましたけれども、他のJA等の青色申告の体制なりとも連携をとりながら、ここのところについては早急に対応してまいりたいというふうに考えております。
○小里委員 そのようにして職員の教育をしっかりやっていかれると思います。
では、次の段階として、その職員の皆様が現場に説明していく必要がある、説明会の開催とかいろいろなことが必要であろうと思いますけれども、具体的に現場へどのように伝えていかれるかということが一点あります。
それからもう一つ、今、税務のお話もいただきました。青色申告者が対象でありますので、ここをいかに確保していくかでありますが、特に、JA、農業委員会とか青色申告会の税務相談等において、そこといかに連携を図っていくかということも肝要であろうと思います。その辺の連携策についてもお伺いいたします。
○高橋参考人 収入保険制度の導入に際しましては、これまでも、私ども農業共済団体としては、三年間にわたりまして、国からの制度設計のための検討調査事業という形で、かなり詳細な内容について、農家の方々に御依頼をしながら、また私どもと御相談をしながら、この仕組みについて説明等を行ってまいりました。また、昨秋来、今回の法案に至りますまでのさまざまな動きにつきましても、その概要等については、農家の方々になるべく早く知らしめるという形で、ちょうど農閑期でございましたので、こういったような時期を通じて、集落座談会等も含めて、お話をしてまいったわけであります。
ただ、今回、これまで私どもが御説明できているというのは、あくまでも制度全般の解説という形になります。私どもの団体、あるいは関係団体、あるいは行政組織が必要な制度全般の知識という意味では、その概要までは御説明しておりますけれども、実は、農家にとっては、当該、ある農家にとってみれば、米も野菜も果樹も花も畜産も全部を網羅したような説明ということでは、個々の農家にとってみても基本的に判断の基準になり得ません。
したがって、今後は、野菜なら野菜、米なら米、果樹なら果樹というような一定分野ごとの方々にとって、この収入保険と既存の政策との間ではどうなっていくのかということを中心とした説明、そういったことが必要になってまいりますとともに、もう一つは、最後の選択の段階では、個々の農家にとってどちらがいいのかというところに、個々の経営内容まで入り込まなければならないと思っております。
したがって、先ほどちょっと端末機材の話もいたしましたけれども、個々の農家の実際の経営判断、経営状況に応じて、この制度ではこうなります、こちらの制度ではこうなりますというような簡単なシミュレーションができるような、そういったものも早急に、これは国にもお願いをしながら、つくっていく必要があろうかなと思っております。
こういった形で農家に御説明したいと思っておりますが、特に青申の御質問に関しましては、これまでもJAあるいは農業委員会などと連携を行ってまいりました。この関係については、私ども全国協会といたしましても、全国段階において、中央段階においては、JA全中あるいは全国農業会議所を初めといたしまして、花卉、果樹、茶あるいはたばこなどの、大体十七だったと思いますけれども、団体に対しまして、一体的連携をお願いするとともに、各県あるいは市町村段階におきましても同様の組織との間での連携についてのお願いということを進めているところでございます。
○小里委員 ありがとうございました。
それぞれの取り組み、しっかりとお願いしたいと思います。
鈴木教授にお伺いしたいと思います。
鈴木教授には、私ども野党時代から大変ありがたい御指導をいただいてまいりました。特にTPPへの対応に当たりましては、鈴木教授の御意見を参考にしながら、国益を守るという考え方を自民党農林部会として打ち出しました。すなわち、重要五品目を中心とする農業、農村をしっかり守っていこう、あるいは、その他、自動車の安全基準とか著作権とか、十一分野にわたって国益を打ち出し、これを守っていく決議を提案し、党において決議し、またここでも決議をいただいた。それがもとになってTPP交渉を乗り切っていったという経緯があります。
一方で、TPPがあろうとなかろうと、従来から、農業の現場には深刻な課題があります。この際、そういった従来からの構造的な課題にもしっかり切り込んで、対策を打って、現場と一緒になって将来につなげていこう、そういう考え方でもろもろの対策を打ってきたところであります。
例えば、水田政策においては水田フル活用ということで、飼料米を中心として新たな政策を打ってまいりました。これが現場主体の取り組みとして一昨年あたりから軌道に乗ってきているところであります。もって、農業経営の、農家みずからの努力が報われる形を目指していこう。その理想の形がだんだん見えてきたんじゃないかな、そういう気もするところであります。
そういった中で、担い手育成、これが最大の課題であろうと思います。担い手をいかに育成して確保していくか、そのためのセーフティーネットでもあります。あるいはまた、青年就農交付金とか、直接的なさまざまな施策が必要であります。
同時に、大事であると考えますのは、農家の農家経営の理想の形をいかに示していくかということであろうと思うんです。こういう営農であれば自分たちもやってみよう、飛び込んでみようと思える理想の農家経営の形、これをしっかりつくっていくことが肝要であろうと思うところであります。
そういった観点から、久々、鈴木教授に御指導をいただきたいと思います。
○鈴木参考人 御指摘ありがとうございます。
先生の考え方は基本的に賛同いたします。そして、そういう点で今回の収入保険を見た場合に、私が現場の大規模農家から聞く懸念は、これからさらなる貿易自由化の交渉や、そうでなくても生産調整が廃止される中で、一万円の六十キロ当たり米価を切るような事態が来るのではないか、そのときに、五中五で計算された平均米価が九千円で、それより下がった分を支えてもらっても、大規模農家が安心して経営計画を立てて規模拡大をするということは不可能になるのではないか、そういうことでございます。
ですので、そういうふうな懸念に対しても応えられるようなシステムが必要ではないか。そういう意味では、所得の岩盤をどこかにやはり設定するということが必要になる。ただ、先生がおっしゃるように、その岩盤が、例えば、六十キロ一万八千円とか高過ぎましたら、それは過保護になり、構造改革を促進できない。それがしかし、一万円になるような平均米価のもとで、それしか支えられないのも低過ぎるということで、私は、セーフティーネットとしての所得の下支えの岩盤の水準を一万四千円にするのか、あるいは一万三千円にするのか、その水準を調整することによって、うまく先生が言われたような構造改革を促進する、そこに調整機能がある。
ですから、岩盤を入れること自体が構造改革を抑制してしまうのではなくて、岩盤の水準を工夫することによって構造改革も促進される。そこの微妙なバランスが重要ではないかというふうに考えております。
以上でございます。
○小里委員 ありがとうございました。
今後とも御指導をよろしくお願い申し上げます。
○北村委員長 次に、稲津久君。
○稲津委員 おはようございます。公明党の稲津久でございます。
きょう、四名の参考人の先生方にお越しいただいて、ただいま御意見を賜りました。ありがとうございました。
それで、今回の新たな収入保険制度、それから共済保険の改正ということで、委員会でもこれまで議論をしてまいりましたが、さらに参考人の諸先生に私の方からも質問をさせていただいて、審議を深めていきたい、このように思っております。
それで、きょう四名の先生方にそれぞれお話しいただきましたが、私がお話を伺って、非常に、すごく関心を個人的にも持ちましたし、それから、これは深めた議論が必要かなというふうに思いましたので、そこからまず質問をさせていただきたいと思います。
まず高橋参考人にお伺いしたいと思うんですけれども、今回の改正は、七十年、この共済制度ができて最大の改正ではないだろうかというお話がありまして、私も意を同じくするところでございます。
米、麦の当然加入から任意加入になっていくというところ、それから、収入保険制度が青色申告を実際行っている農業者の方の加入になりますけれども、いずれにしても、共済、そして収入保険ということで、二つの保険制度ができてくる中で、最も安定的にこの制度を運用していくためには、やはり分母のところ、母集団の安定確保というのが非常に大事なことであるというふうに思っております。
そこで、高橋参考人に、両制度の加入促進に対する国の支援というか取り組みについてどうしたことが必要なのか、この点についてお伺いしたいと思います。
○高橋参考人 稲津先生にお答えをいたします。
先ほどもちょっと小里先生のときにもお話しさせていただきましたが、現在、日本の農家の中で、私ども農業共済がカバーをし得るエリアというのは大体六割でございます。今回の収入保険は、畜産は若干対象外になりますけれども、それ以外の耕種全般につきましては、基本的に全て入り得る形になります。
したがいまして、これまで農業共済で私どもがおつき合いをいただいた農家に対してのきちんとした説明はもとより、これまで私どもがおつき合いをしてこなかったようなさまざまな分野の農家、例えば、たばこの農家なんか典型でありますけれども、そういったような農家、野菜農家も初め、そういったような方々も含めて、きちんとした制度の説明をしていくということが重要だろうと思っております。
これにつきましては、先ほど来申し上げておりますように、さまざまな関係の生産者団体との連携をとるということはもとよりでございますけれども、一方におきまして、地域の農業、農村に私ども従来から出かけてきているわけでありますけれども、さらに入り込んで、そういう農家に対して説明をしていく。
その説明も、制度の説明では足りません。個々の農家にとってどちらが有利かというところまで、きちんと丁寧に御説明していく必要があろうかと思っておりますので、そこにつきまして、先ほど来、職員に対します研修等の実施によって、この関連制度をきちんと早期に習熟していただく、それとともに、必要な税務の知識も蓄えるということをやってまいります。
こういったことに対して必要な機材の開発等、そういったものについて、これは当然のことながら農水省にもお願いをしながら進めていかなければなりません。
それから、これはちょっと制度の基本の部分にわたりますけれども、やはり、きちんとした事務執行を図るためには、この事務費に対します国の負担ということがきちんと法律に書かれているわけでございます。システムの開発も含め、その点についてのきちんとした手当てということは、ぜひにもお願いをしていきたいというふうに思っております。
○稲津委員 ありがとうございました。
次に、安藤参考人にお伺いしたいというふうに思いますけれども、参考人の方から、収入保険制度における問題点について幾つか御教示をいただきました。その中で、最後のところで、その他細かな問題ということだったんですけれども、これは意外と大変大きな問題かなというふうに実は思っております。
それは、保険払いの税務申告に係る問題なんですけれども、二点指摘をされていました。
一つは、保険の支払いの時期が遅くなるということで資金繰りに支障を来すのではないかということ、それからもう一点は、これは支払いの時期の関係から、保険金は翌年度の収入に計上されてしまうという、税負担がその年に重くなってしまうということで、これは非常に大きな問題かなと思っていまして、これまでも委員会の中でも議論させていただいてまいりました。
私も委員会の中で提案させていただいたのは、例えば保険金の翌年度収入計上の問題について、これは税の問題ですから、そこで整理をする必要があるんですけれども、同時に、保険期間の総収入に算入する、要するに当該年度の収入に算入させる、こういう仕組みがないと、やはりちょっとここは苦しくなるかな、こう思っています。
それともう一点は、資金繰りのところですね、ここはやはり無利子のつなぎ融資のようなものが必要かなということを思っておるんですけれども、この二点について参考人のお考えをお教えいただきたいと思います。
○安藤参考人 御質問ありがとうございます。
私が懸念している点、今御指摘いただいた二点なんですけれども、大変恐縮ですが、具体的にどのような制度を仕組んだらいいか、私も十分御提案することはできないですが、今御指摘ありましたように、翌年度の支払いになりますので、その間どうやって資金繰りをつけていったらいいか。保険支払いを担保にお金を融資するような仕組みというのはなかなか難しいと考えておりますが、そこは何らかの仕組みを農水省さんの方に考えていただくしかないかなと思っております。
それから、税の方も、これはここの範囲を超える議論になるかもしれませんが、いずれにしても、その発生した年のものとして計上されてしまいますので、翌年度の収入になってしまう、これはある意味やむを得ない部分があるかなと思っております。
そちらが期待したような回答になっておりませんが、私の考えを述べさせていただきました。
以上です。
○稲津委員 ありがとうございました。
安藤参考人には、まず、非常に大事な視点の御意見、御指摘をいただいて、その上で今お話もいただきました。ぜひ、制度の安定運用のためにはこの問題をクリアしていかなきゃいけないと思っていますので、私どもも精力的に取り組んでいきたいと思っております。
それから、山下参考人にお伺いしたいと思いますけれども、参考人から、飼料用米と収入保険の制度の導入ということが、いわゆる減反政策のセーフティーネットという大変興味深いお話も伺いまして、その上で、十四ページのところに、いわゆる「農業所得のセイフティネットと言うのであれば、」というくだりのところで、「主業農家、農業所得が一定額以上または耕地面積が一定以上という対象者の限定を行うべき。」だというお話もございました。
実際に私も生産現場に行って、農業者の方々に特に収入保険の制度導入についてどう思いますかというお話を伺いますと、実際に今の共済で一定程度安定的に経営されている方については、むしろ将来的に、例えばうちの農家がもうちょっと大規模化する、あるいは高収益をさらに目指していって、今作付している以外の品目を作付して多種の品目を生産していくですとか、そういったことを考えていったときには有効であるという話も伺いました。
そういう意味におきましても、先生おっしゃった対象者の限定というところなんですけれども、先ほど触れていただきましたけれども、もう少し深掘りしてお話しいただければと思いますので、よろしくお願いいたします。
○山下参考人 どうも御指摘ありがとうございます。
私が、一九九〇年代ぐらいにブラッセルのEU代表部というところにいたんですけれども、そのときの経験を踏まえて中山間地域の直接支払いなんかを制度設計したんですけれども、そのときの私の記憶では、フランス農政の対象というのは何かというと、労働時間の半分以上を農業に投下している、それから所得のうちの半分以上を農業から得ている、そういう人たちがフランス農政の対象だということなんですね。
つまり、柳田国男が兼業農家がふえるというのはまさしく国の病だと言い、そこは強烈な言葉なんですけれども、やはり本当に農家の所得、農業所得を維持しようとするのであれば、五十万の所得を得ている人に対して、農業所得が五十万の人に対して所得を安定したとしても、その人は、ほとんど、実際の五百万とか六百万のトータルの農家所得の安定には寄与しないということから、やはり農業所得を安定するのなら、本当に農家らしい農家に対象を限定すべきじゃないかというふうに思います。
先ほど、青色申告の話がありましたけれども、もしこの制度が本当に農家のために役に立つということであれば、そんな別に普及しなくても青色申告するんです。本当にこの制度が魅力的であれば、そんな政府がおせっかいをやって、どんどんどんどん入りなさいよって、そんなばかなことをする必要はないんです。もしこの制度が魅力的で、本当の農業所得の安定につながるというのであれば、どんどんどんどんみんなは青色申告をしてでもこの制度に入るはずだというふうに私は思います。
さらに、耕地面積が一定以上ということをここで申し上げましたけれども、もし耕地面積が一定以上の者に限るということであれば、それは構造改革を加速すると同時に、実は、この収入保険をてこにしてEU型の農地面積に着目した単一型の直接支払いにつながる可能性があるということで、もしその対象の限定をすれば、特に農地面積に関連して対象者を限定すればそういうこともあるだろう。
それから、複合経営というのは、農作業の場合には農閑期と農繁期の作業が物すごくぶれるわけですね。そのときに複合経営をやっていろいろなものを植えるというのは、農家経営の安定にも資しますし、農作業の作業の平準化にも資するわけですね。ところが、残念なことに、日本では複合経営というのはまだほとんどわずかしか、たしか販売農家の五%ぐらいしかないんだと思います。ほとんどが単一経営なわけですね。そうじゃなくて、もし複合経営をこの制度でふやしていくことができれば、それはこの制度で予期した以上のことができるのかもしれません。
以上です。
○稲津委員 ありがとうございました。大変参考になりました。また、すばらしい三先生からの御意見をいただきました。
そこで、最後の時間の中でお伺い、これは鈴木参考人と高橋参考人にそれぞれ、済みません、時間が限定されているので手短にいただければと思うんですけれども。
今回、農業経営収入保険事業、収入減少を補填する機能、それからこのことと同時に、今回の共済制度の見直しということで、いずれにしても、この二つの制度はこれから併存して進んでいくということを考えていったときに、農業者の選択に委ねるのは当然なんですけれども、それがもう大前提なんですけれども、例えば将来的に、仮にですよ、収入保険制度の方に収れんさせていくとか、あるいはそのような方向に向かっていってシンプルになっていくだとか、そういうことが例えば考え方としてあり得るのかどうか、このことについてもお伺いしておきたいと思います。
では、まず、鈴木先生からどうぞ。
○鈴木参考人 御質問ありがとうございます。
私は、先ほど来申し上げておりますとおり、現在提案されている収入保険には、基本的に、価格が下がり続けたときにその収入を下支えする機能がないという点で、その点はまず何らかの形で改善すべきである、その点を改善した上で、それが農家の方から非常にこれはいい制度だという形で評価されるようになれば、これは農業災害補償の部分も含んだ形の仕組みでございますので、そこに収れんしていくというような形になる可能性もあるというふうに考えます。
もう一つの方法は、アメリカ型のように、個別品目ごとの生産コストに見合う最低限の所得というものは政府が最低限支えるという仕組みを一方で不足払い型で準備した上で、それにセーフティーネットの基本である農業共済の仕組みをこれからもしっかりと続けていく、二つを併存させるというような仕組みもあり得るというふうに考えております。
いずれにしましても、一番心配なのは、収入保険にも入らないが農業共済もこの際抜けるという無保険者が発生することが一番の心配でございます。その点は農業共済組合が全力でいろいろな形で努力されると思いますが、それ以上に、私は、もう一つは、政策的に、実質的に当然加入が誘導できるような施策というものを今後の政省令でしっかりと考えていただくことも必要なのではないかというふうに思っております。
以上でございます。
○高橋参考人 冒頭申し上げましたが、今回の制度改革、農家が政策を選択できるということで、私は非常に画期的なものだと評価をさせていただいております。
収入保険、農業共済、それぞれの特色がございます。したがって、どちらか一方にこれが収れん化をするということにつきましては、現在の農業、農村の多様な実態を踏まえますと、これを一本に収れんするというのはちょっと現時点ではなかなか考えられないのではないか。
それからもう一つ。農業共済は、青色申告とかそういうことはございません。全ての農家の生産、この再生産の阻害を防止するということで、規模の大小にかかわらず、災害対策のネットワークは全生産者に私はきちんとかぶせるものだというふうに考えております。
○稲津委員 ありがとうございました。
もうほぼ時間が参りましたので、以上で終わらせていただきますけれども、きょうは、四人の参考人の先生方にお越しいただいて、大変貴重な御意見をいただきました。心から御礼を申し上げまして、私の質問にかえさせていただきます。
ありがとうございました。
○北村委員長 次に、岸本周平君。
○岸本委員 おはようございます。民進党の岸本周平でございます。
きょうは、四人の参考人の皆さんにおいでをいただきまして、意見陳述を聞かせていただきました。本当に参考になる御意見をいただいて、ありがとうございました。この後、明日行われるこの法案の審議においても、参考人の皆さんのお話を参考にして、それこそ参考にして、しっかりと質疑をさせていただきたいと思っております。
それで、基本的には、四人の方々がお話しされたことについてはかなり合理的なお話であったかと思います。山下先生は、例によって幅広い観点から大所高所の議論をしていただいておりますけれども、大変参考になっております。
それで、少し技術的なことというか、農林水産省のこの法案に対する姿勢そのものについて、少し大きくお聞きしたいんです。
収入保険でありますから、収入保険といいますのは保険です、火災保険や損害保険、同じなわけでありますから、基本は保険数理であります。保険数理に基づいて商品設計をするというのが当然のことなのでありますけれども、今回この制度を導入するに際して、何か科学的な、サイエンティフィックな手法がきちんととられているかといいますと、残念ながら、農林水産省は、どうしてかよくわからないんですけれども、農林水産省だけじゃないんですね、財務省もそうなんですけれども、日本の官庁はサイエンティフィックなアナリシスができないという体質がございます。
これは恐らく、どうしてか、私は仮説がありまして、やはり法学部出身の人が官僚に多過ぎて、本当なんです、法学部出身ですから文科系なんですね。もちろんいろいろな技術系の方もいらっしゃるんですけれども、文科系なので、えいやっと気合いで決めてしまうということが多くて、科学的な、合理的な検証をしない嫌いがあります。私自身が法学部出身でそうしていましたので、前非を悔いておるわけでありますけれども。
今回も、まあ事業化調査はやっています、二〇一五年に。だけれども、これは、個人七百五十、法人二百五十と千ぐらいの企業体を選んで、仮に収入保険みたいなものをつくりました、それで二〇一五年に数字を当てはめてみました、では二〇一六年、結果はどうでしたかという調査をやっているんですけれども、これは何の役にも立ちませんよね、保険数理上。単に輪切りをして、そうですか、その年の結果がこうなりましただけであって、制度を設計するには何の役にも立たないわけであります。
保険数理的な検証をしているのかというと、前回の審議の中では、我々は保険数理的なきちんとした検証が行われているという心証は得られませんでした。
農林省がすごいことを言うんですね。これはさっきからの参考人の意見でもありましたけれども、入るんですか、本当に、任意加入にして入るんですか、入らなかったらどうするんですか、加入者が減ったらどうするんですかと言うと、いやいや、加入者が減ったら保険料を上げりゃいいんだと言うんですよ、農林省の役人は。めちゃくちゃですよね。商品設計にもなっていないんです。それから、いや、任意加入でも今入ってるんです、任意加入でも料率が低いから入ってるんです、こう言うんですね。
ただ、今、きょうは高橋さんがいみじくもおっしゃっていただきましたが、共済の方で御努力されているわけですよね。説得して、任意加入だけれども入ってください、鹿児島だと四割が入っています、全国でも二五%入っています。それはそうなんですけれども、では、これを本当に任意加入にして、災害共済にも入らない、収入保険にも入らない、そんな人たちがどれだけ出てくるのだろうか。そういうことに基づいて、それは仮定計算になるんですけれども、そういういろいろなケースを置いた保険数理の計算がなっていないということであります。
本当にこの制度がうまくいくのかどうかということに対する農林水産省の検証がなされていない中で、四人の先生方にお聞きしたいんですけれども、まず、高橋さんとしては運用しなきゃいけないわけで、こういうずさんな制度設計で運用される側のお気持ちを聞きたいですし、あとの三人の方にも、そういう農水省の姿勢に対して御意見を賜りたいと思います。
○高橋参考人 岸本先生にお答えいたします。
農林水産省が行ってまいりました事業化の実証調査、過去三年間にわたりまして私どもの農業共済団体が行ってまいったわけでございます。
先生のおっしゃいましたフィージビリティースタディーにつきましては、これは私どもが農林省から聞いている範囲におきましては、保険数理的な問題よりも、保険の枠組みとしてきちんとした収入が把握をできるのか、加入段階、営農段階、最後の生産段階にわたって、過去の基準収入というものについて農業収入をきちんと把握できるか、当年でちゃんとした営農が行われているのか、先ほどちょっと捨てづくりとか、お話がございましたけれども、そういったことを防止するためにはどういうような措置を講ずればいいのかということで、要は、保険という仕組みがうまくこの制度に、政策としてとり得るかどうかという実証だったと思っています。
一方で、保険数理の問題につきましては、今申し上げたものとは別に、これはちょっと数字を正確には私、忘れておりますが、過去七年分だったと思いますけれども、過去七年間にわたります青色申告の実績について、これは千ではなくて四千だったと思いますけれども、その農家からいただいて、その青色申告に基づきます、例えば所得がどうであったか、収入、収支がどうであったか、被害がどうであったかというようなことについて、仮の仕組みをそこに、過去何年間かに当てはめたとしたら保険料率がどうなるのかという計算を行ってきたというふうに私どもとしては聞いております。
もちろん、先ほど申し上げましたように、過去何年間かの試行期間を伴えばこれはもういいんですが、やはり今の時代、これをきちんとしたスピード感を持った現場への適用ということを考えますと、三年間これだけの実証をやっていただいたということは、やはり私どもがやったということもあるものですので、評価をさせてはいただいているところでございます。
○安藤参考人 この制度についてですけれども、私が思うには、生産調整の廃止の影響をどう見るかがかなり大きいと思っております。
確実に米価は下落方向に働く中で、どのように水田農業経営、稲作経営を支え、水田を維持していくか。それに十分な政策になっているかというと、先ほど意見として陳述いたしましたように、この収入保険制度とナラシ対策を比べた場合に、支払い率という概念が非常に農家の方々にとってみるとわかりにくく、ナラシよりもどうも不利ではないか、そのような制度が入ってくる理由というのがやはりよくわからない。
また、この両者の比較をいたしましたけれども、大幅な米価の下落があった場合には収入保険制度の方が有利になる。そのような制度設計がされたということの背景には、やはり、この後、大幅な米価の下落を見込んでいる、それを前提とした政策になっているんじゃないか、そのような不安感を拭い去ることはできないというのが私からの感想というか印象になります。
以上でございます。
○鈴木参考人 先生の御指摘の、農林水産省はずさんであるかどうかという点につきましては、私も農林水産省に十五年おりました立場から申し上げますと、私自身はずさんな面もございますが、全体としまして農林水産省は非常に一生懸命、真面目に、きめ細かく取り組んでいるというふうに私自身は評価しております。
それは、ここの高橋会長も山下参考人も農水省におられたわけでございますけれども、逆に言うと、非常に有能な方々が厳密に考え過ぎて、厳密性にこだわり過ぎたせいで、このように対象を限定せざるを得ず、書類や手続が複雑になり過ぎたということですから、もうちょっと、厳密性にこだわり過ぎないで、もう少し簡易なデータで代替する、そういう方法を考えることがむしろ必要なのではないか、それが制度設計上に求められていることである、私はそのように考えております。
○山下参考人 昔、岸本議員と、えいやの世界で仕事をしてきたものなんですけれども、えいやの世界でも、特定農産加工法なんか二人でやって、いい制度はつくったんじゃないかなというふうに私は思っています。
農林省に科学性を要求する、これはちょっと、言うだけやぼだというふうな感じもいたします。実は、農林省は戦後間もなくのときに、初めての経済系の研究所、農業総合研究所を和田博雄農業大臣が設立して、その最初の所長に東畑精一を迎えて、これからは農林省も、農政も、科学に基づいて、経済学に基づいて行政をするんだ、そういう意気込みを示したわけなんですけれども、残念ながら、農林省で経済学とか科学という言葉が通用したのは一九六一年の農業基本法までだったというふうに思います。私も、仕事をする上で、残念ながら、経済学について同僚とコミュニケーションするというのが相当難しかった、需要と供給の概念をなかなか理解してくれなかったという経験がございます。
それから、先ほどの保険数理の問題なんですけれども、大数の原理からすると、多くの保険者が必要なわけですね。もし、その保険者が集まらないということであれば、はっきり言って、この収入保険という制度自体がそもそも成り立たない世界じゃないかなということだと思います。それを農林省がはっきり、いみじくもそれを自分で吐露したんじゃないかなという感じがいたします。
○岸本委員 ありがとうございます。
それで、もう一つ四人の参考人の方にお聞きしたいんですけれども、きょうも参考人の皆さんの御意見の中で、ナラシという制度があります、そして今回収入保険という制度ができますということですけれども、ある意味、制度は少し違いますけれども、目的はよく似ているわけでありますし、これが、どちらを選ぶかというようなことになってくるわけであります。
そうなりますと、巷間いろいろな御意見がありまして、ナラシと収入保険を、同じようなものであるならば、一つの制度に収れんできないのだろうかとか、それは一遍には無理だとしても、運用主体、今ナラシは国でやっているわけですけれども、運用主体を一本化することによって窓口が一つになるということで、農業者にとってはその方が便利ではないかとかいう意見もあります。
これらの点について、安藤先生、鈴木先生、山下先生の御三方に、その辺についてのお考えをお聞きしたいと思います。
高橋参考人には、そうはいっても、まさに共済の方でナラシをやれと言われたときにできるのか。現場を預かっていらっしゃる責任者として、どういうふうにお考えなのか。いや、できますよと言うのか、いや、それは幾ら何でもと。
幾ら何でもと言った場合には、しかし、実は今回の法律の百九十条にはこういう条文がありまして、全国連合会の行う事業と同種の事業を行う者との連携及び技術的な協力の確保をしてくれとか、あと、国、独立行政法人、地方公共団体及び対象農産物等の販売の事業を行う者その他の関係者と、情報提供を求めたり、連携してくれ、情報交換してくれということがあるので、すぐに自分たちでナラシまで運用するということができない場合、この連携の仕方について、何か国に対して御要望とかがあれば、それをお聞かせいただきたい。
まず、三人の参考人の方からお願いします。
○安藤参考人 御質問ありがとうございます。
私としてみますと、いろいろな制度が並立しているのは余り好ましくないかなと思っておりまして、それで、そうした制度をどう集約していくか道筋を示す必要があるのではないか、このような意見を申し述べさせていただいた次第です。
ただ、こうした制度を考える場合に一番大きな問題となるのは予算です。ナラシ対策の予算もかなりありますし、それからこの農済制度についても予算が措置されていて、そのあたりの重複がかなりあるようだと、農水省さんとしても予算の自由度が減ってきて、いろいろな政策、ほかにも打たなきゃいけないものになかなか回せないということもあるかもしれません。
そうしたことを考えた場合には、やはりどこかの段階でこうした制度を一つに集約していく、こういう方向を考えていくのがよろしいのではないかと思います。
ただ、その場合に、農業生産者を補償する水準が下がらないような措置をしっかりととっていくということは言うまでもないというふうに考えております。
その道筋については、私は、十分、それぞれの制度の詳細については、しかも実態なり運用面については詳しくないので、そこまでお答えすることは残念ながらできません。
以上となります。よろしいでしょうか。
○鈴木参考人 私がまず理解できないのは、この経緯でございます。
まず、二〇〇七年にナラシが導入されて、それで、現場がこれではもたないということを強く主張するようになりましたので、それに応じて前の自公政権でも岩盤対策を導入すると決めて、それが民主党政権になって戸別所得補償になった。岩盤対策が現場にとって絶対必要だという議論になったのに、さらに今度の自公政権では、その声を、もう一度もとに戻して、戸別所得補償制度を廃止してナラシに戻す、まずはナラシをその後収入保険に一元化していくという形だったと思います。ところが、それがうまくすぐには収れんできないということになりましたら、ナラシと収入保険が並立する。
これはどちらも、両政権が前に現場の声を受けて岩盤が必要だといった議論からすると、全く底なし沼なわけですよね。ナラシが五中三で、それが収入保険が五中五になっているだけで、底なし沼を二つ並べているだけなんですよ。
だから、その点について、どうしてもっと本質的な議論をしないのかということをぜひ考え直していただきたい。
以上です。
○山下参考人 私の立場というか考え方は、農家所得の安定なんて意味がないということですから、ナラシも収入保険も基本的には要らないんじゃないかなと思います。
農業政策の目的が、農地資源の維持、それを通じた食料安全保障の確保、それから多面的機能の確保ということであれば、EU型の面積に応じた単一型直接支払い、それから、農業のタイプに応じて、米をつくっても麦をつくっても野菜をつくっても果樹をつくっても、面積当たり幾らの直接支払いを行う、そういうやり方が最も市場歪曲性の少ない、望ましいやり方だというふうに思います。
それから、収入保険を仮にやるとしても、WTOの農業協定が書いているように、作物の生産のタイプ、つまり生産の形態ですね、形態に関連してはいけない、この制度からは米を除くとかあるいは畜産を除くとか野菜を除くとか、そういうことはしてはいけないということになるので、やはり、もしやるとすれば、統一した政策にすべきだ。
私は、農林省は途中から、ナラシとかゲタとか、どうも農政はちょっと品がなくなってきたんじゃないかなというふうな印象を受けております。
○高橋参考人 ナラシ対策につきましては、ちょっと言葉があれかもしれませんが、やはり米麦を中心といたしまして作目、品目が限られております。
片一方で、収入保険につきましては、先ほど来申し上げておりますが、畜産を除けば、耕種全部に対しての経営安定措置になるということでありまして、その目的、先ほど来申していますが、日本全国でさまざまな農業展開をされている中で、一つの制度で全てをくくるということは、私はやはり現実的ではないと。したがって、農家が自分に適した、農家の経営に見合った政策を選ぶということは、私は非常に今回の措置は評価をいたします。
ナラシの実施の問題につきましては、私ども農業共済団体も、実は地域再生協議会の重要なメンバーとしてこの米の問題にも携わってきております。今後とも、米政策の見直しの中でも、この協議会のメンバーとしてきちんと対応しておるわけでございます。
ただ、これを引き受けるか引き受けないか。私どもとしては、別にこれはできないということを言うつもりはありません。自負はあります。ただし、現下は、やはりこの収入保険の実施ということに向けて、ともかく全力を今は尽くしていく必要があろうかというふうに思っている次第でございます。
○岸本委員 どうも、本当に四人の先生方、ありがとうございました。
時間が来ましたので、これで終わります。失礼します。
○北村委員長 次に、斉藤和子君。
○斉藤(和)委員 日本共産党の斉藤和子です。
四人の先生方、貴重な御意見をいただきまして、本当にありがとうございます。
まず、高橋参考人と鈴木参考人に、共済の問題、農業災害補償の方からお聞きしたいと思います。
農業共済が果たしてきた役割というのは、農村を維持し発展させていく、そして相互扶助という形でやはり農村地域を支えていくといった点で、非常に大きな役割を果たしてきたと私は感じています。それが、今回の改正で、当然加入がなくなる、また、七割の農家の方が入っているとも言われている一筆方式や無事戻しがなくなるといったことが、こうした農村の今まであった相互扶助、支え合いの精神、こういったものに影響が私はあるのではないかというふうに感じているんですけれども、今まで果たしてきた農業共済制度のあり方と今後の改正による懸念される事項、心配事、先ほど無保険者が出ては困るというお話もありましたけれども、その辺、お二人の参考人から意見をお聞きできればと思います。
○高橋参考人 農業共済は、最初の陳述もいたしましたように、これまで、共済金の支払いを通じまして、農家経営の安定、地域経済の発展ということに尽くしたということでありますが、私は、それ以上に、この農業共済という農業団体は、農家の組合員の参画については、ほかの団体に比べても非常に集中しているんじゃないかと思っております。
実際に、その役員、非常勤が九割以上でありますけれども、役員のみならず、損害評価員あるいは共済部長という形で、自分たちでこの組織を運営してきている。実際に農業共済の現場で農業共済の仕事をしている、これは損害防止事業も全部含めてでありますけれども、このかかわりというのは、やはり何十万という組合員の方がボランティア的にやってきているということもありまして、農業共済をみずからつくり上げてきたということに対しては、非常に大きな、先ほど先生もおっしゃられましたコミュニティーの維持ということでも役割を持ってきたと思います。
ただ、今回、制度改革がさまざまな理由で行われるわけでありますけれども、そのやはり一番の基盤は、農業、農村の実態が高齢化をしている中で、本当にこの地域コミュニティーをどうやって維持していくのかということに尽きると思っておりまして、やはり共済としては、これまで以上に農家との間の信頼関係を強化していく、そのために必要な、農家、農業、農村現場へ積極的に出向くということを進めていく必要があるというふうに思っております。
○鈴木参考人 農業共済の果たしてきた役割につきましては、斉藤先生、それから今の高橋会長からのお話に全く私も同感でございます。そういう形で、農村コミュニティーの持続性に、まさに全員参加型の相互扶助である共済の仕組みがいかに重要であるか。
もう一つ挙げますならば、そういう中で、単に災害が起きてからの補償だけでなくて、いかに地域全体で被害を未然に防止するか。そのための無人ヘリによる病害虫防除あるいは病害虫発生予察調査など、きめ細かく幅広いリスクマネジメント活動も展開されている。こういうふうな活動ができるのはまさに当然加入だからこそでありまして、だからこそ相互扶助の原理が働くということでございますので、ぜひとも実質的な当然加入が持続できるようにしていくことが肝要であると思います。
そういう意味では、もう少し具体的に申し上げますと、この農業共済に加入していることをさまざまな政府の施策や融資を受けるときの資格要件にするなどの具体的な工夫を行うということが必要なのではないか、そのようにも考えております。
以上でございます。
○斉藤(和)委員 ありがとうございます。本当に共済は重要な役割を果たしていると。それをやはり本当に維持する方向で頑張らなきゃいけないというふうに思っております。
次に、収入保険の問題についてお聞きします。
青色申告者でなければということで、現に七割ぐらいの農業者の方は収入保険に入れないことになるわけですけれども、先ほど山下参考人から、この収入保険が魅力があれば、青色申告であろうと何があろうとやるじゃないかというお話がありました。それも受けて三人の参考人の方にお聞きしたいんですけれども、高橋参考人には、実際に農家の方とかかわる機会が一番あるかとは思うんですが、この青色申告をめぐって、農家の方々の受けとめ、そして何が一番障害になっていると感じていらっしゃるかということをお聞きしたいと思います。
そして、安藤参考人、鈴木参考人には、青色申告に限らなくてもいいんではないかという御指摘がありました。その辺、もう少し御意見を伺えればと思います。よろしくお願いいたします。
○高橋参考人 青色申告に対しまして、全国で四十四万戸程度というふうに伺っております。担い手の中の大体三分の一ぐらいかなと。全農家戸数でいきますと、もっと少ない割合になりますけれども。
実際に農家の方々とお話をしておりまして、当然法人は別にいたしますけれども、やはり経営体としてきちんとした経理を行っていくためにはこれは必要だろうということで、そういった方々も当然行っておられるんだろうと思っています。
問題はやはり、白色の申告の方々がなぜ青申にまだ行かないのか。実際、白と青の差というのが、簡易の青色申告というのもできておりますので、片一方で白の方は帳簿の備え義務も出てきまして、差が随分なくなっています。
したがって、青色申告に対する抵抗というのは今までに比べればないはずなんですが、やはり現場に行くと、さはさりながらというのがあります。それは、私は、これも推測でありますが、かなり長い農業課税問題、標準課税問題とか、これはいろいろございました。農業の所得把握に関します税務当局とのさまざまな、何十年間にわたる運動というのもございましたので、そういったようなことが残っているということもあるかもしれません。
しかしながら、やはり今後の経営ということにとってみれば、青色申告に移行していただくということが重要なのではないかなと思っております。
○安藤参考人 青色申告者に施策の対象を限定するかどうかという問題です。
私は、青色申告者だけに限定せずに、もっと幅広い方々の加入を認めた方がいいと考えております。
ただ、問題があります。それは、一応国の税金が投入される制度でございますので、ちゃんと収入がこれまでどうであったかということが証明できるかどうか、それが問われるわけです。その場合に一番問題がないのが青色申告だ、そういう理解でありますが、それにかわるような何らかの、収入がこれまでこうであったということが証明できるようなものがあるといいかなと。それをどういうものがいいかというのは、ちょっとなかなか直ちにお答えすることはできませんが、そうしたものを見つけて、できる限り加入の可能性がある方々をふやすということはこの後検討していただければなと考えております。
以上です。
○鈴木参考人 現行の収入保険につきましては、先ほど来申し上げていますとおり、まず、所得の下支えにはならないということに加えて、対象が限定され過ぎていて、加入者が非常に少ない可能性が高いということで、これが日本農業の全体をカバーできるような新たな仕組みとしてはほど遠い。
一つの選択肢がふえたとしましても、これをいかに選択肢たり得るものにするかというと、やはり、厳密性にこだわり過ぎて、きちんと収入を管理しなきゃいけない、それはわかるんですが、そのためにほとんど入れる人が限定されてしまうということでは意味がありません。
ですので、先ほども申し上げましたが、もう少し簡易なデータで代替できる方法を何とか追求して、それによって、青色申告でなきゃいけないという点を外しまして、そしてまた、書類などももう少し簡素化できるようにするという方向性はぜひとも必要になるのではないかと思います。
特に、一つの参考になるのは、漁業共済における積立ぷらすのような、いわゆる収入保険でございますが、これは普及率が七割を超える。もちろん、青色申告者には限定しておりません。こういうものをしっかりと参考にする。取引の違いもあるとは思いますが、まだまだ考慮する余地はあるのではないかというふうに考えております。
○斉藤(和)委員 次に、ちょっと全体像としてお聞きできればと思うんですけれども、農業の共済にしても収入保険にしても、セーフティーネット、山下参考人はそれが必要なのかという御指摘もありましたけれども、やはり共通しているのは、日本の農業は、必要ないというふうにはならないというふうに思うんです。
多面的機能や食料の安全保障、山下参考人もおっしゃられましたが、これを維持していく上で、農家がきちんと農業をし、再生産し、農業経営をやっていけるその土台として、私は、やはり農業共済が果たしてきた役割は非常に大きいのではないかと。その点で、災害に対する補償はあるけれども、価格が落ちたものにはない、だったら、すき間産業として収入保険をやり、全体としては共済を強化するという方向もあり得たのではないかというのは個人的に私は思っているんです。
その上で、農業を今後も引き続き発展させていく、そして、多面的機能や食料安全保障を維持していく上で、本来あるべきというか、こういう制度が農業を発展させていく上で必要なのではないかというような御提案がもしありましたら、ぜひお聞かせいただきたいと思います。山下参考人から、順番にお願いしたいと思います。
○山下参考人 多面的機能、食料安全保障、みんなすばらしい言葉なんです。でも、では実際の農政は何をやってきたか。減反をやりました。多面的機能というのは、水資源の涵養、洪水防止、景観、みんな、水田を水田として、米をつくるからこそ果たしてきた役割なわけですね。ところが、減反をすることによって米をつくらせないという政策を、しかも補助金をつけてやるという政策をこの四十年間やってしまった。それから、食料安全保障に必要な農地面積も、減反をやってから百万ヘクタールの水田が消失してしまった。
これは私の反省もありますけれども、農林省は今まで何をやっていたかというと、日本の主食であるはずの米をつくらせないように、つくらせないように。私は、変な話だけれども、これは右翼の街宣車は来ないんですかねと思うんですね、過激なことを申し上げて恐縮なんですけれども。これが本当に、安倍総理は日本が瑞穂の国だとおっしゃいます。でも、では農林省がやっていることは何か。日本を瑞穂の国からパンの国にしようという政策をずっとやってきたわけです。
だから、私が申し上げたいのは、よい政策というのは、その対象に直接、ダイレクトに光を当てる政策が一番いい政策だ。これは、少なくともまともな経済学を勉強した人なら誰も異存はないと思います。そうすると、多面的機能のための政策、食料安全保障のための政策、いずれも農地資源の確保なんです。そうすると、農地当たりの直接支払いを導入すべきだということになります。
それから、ちょっと先ほどの補足で申し上げますと、青色申告の話なんですけれども、一つだけ申し上げます。主業農家は三十万戸しかありません。今は四十四万戸ぐらいあると言いましたけれども、主業農家の二十八万戸でも、これは戸数では確かに二二%なんですけれども、農業生産額からすると八割、九割のシェアがあるんだと思います。そういう意味では、ある程度の大数の確保はできているのではないかなというふうに思います。
○鈴木参考人 先生がおっしゃるとおり、農業が持つ多面的な機能、命を守り、環境を守り、地域を守り、国土を守り、国境も守る、そういうふうなものを日本の農業がしっかりと果たしていくためには、海外に比べて土地制約が非常に大きい中で、どうしても努力では埋められないコストの格差というものがございます。そういう中で、貿易自由化も進み、いろいろな規制緩和が進む中で、最低限の所得の下支えをどのように確保するかということがどうしても必要になるというふうに考えております。
その点では、先ほど私が挙げました選択肢のほかに、参考になるものとして、アメリカの酪農が二〇一四年の農業法でたどり着いたマージン補償というのがあります。これは、価格や収入を支えてもコストが上がれば支え切れない、要は収入引くコストのマージンが問題だ。だから、そこで、簡略化しまして、キログラム当たりの乳価引く餌代が日本円で九円を下回ったら、その九割は政府が補填する。これは、乳価は農務省が毎月公表していますし、餌代はシカゴのトウモロコシ価格をとると、非常に簡略化しております。もし、九円でなくて十八円のマージンが欲しい方は、自分で手数料を上乗せして、いわゆる保険ですよね、その補償が得られるようにしましょうねと。このようなマージン補償の考え方も一つの選択肢であると思います。
そういうふうな形で、最低限の所得を支える仕組みと、どうしても必要な農業災害補償の農業共済を二本立てにする、こういうふうな選択肢もあり得るのではないかというふうに考えます。
○安藤参考人 御質問に対して十分なお答えになるかどうかわかりませんが、私が考えるには、これは山下先生の方からもありましたが、最終的にはEU型の直接支払いを考えていかざるを得ないと私は考えております。
しかしながら、一番の大きな問題は予算にあります。
EUがなぜ直接支払いを行うことができたのか。それは、九二年のマクシャリー改革まで、EUは、輸出補助金それから価格支持政策で相当な予算を使ってきました。その予算を直接支払いに置きかえたわけですね。新しく直接支払いの予算をとってきたわけではないわけです。
日本の場合に、それを振り返ってみますと、減反政策、一九七〇年、七一年からでしょうか、そのときからずっと米の予算を削ってきて、今、三千億とかそれぐらいしか米の本来の予算というのは多分ないのかもしれませんが、その予算で直接支払いをすることはできるかどうか、つまり、EUと同じことを日本の財政から考えてできるかどうかというと、残念ながらできない。その予算をとってきて、そして直接支払いをするということが求められているんだと私は思っております。
この予算の問題はさまざまなところに影響しておりまして、例えば、先ほど私はナラシ対策の方が有利ではないかという話をしたわけです。そうすると、ナラシ対策の拡充ということも考えられるかもしれませんが、しかしながら、国が積み立てる財源に限界があるわけです。もちろん農水省の中にも部、課があり、それぞれが持っている予算があって、それを束ねて何らかのことができればいいかもしれませんが、そういう形で予算の制約がある中で対応していくと、複雑な制度ができ上がっていくということになります。
それからもう一つ、私が、日本的な特殊性がある、農業政策という特殊性があると思っていますのは、生産調整政策というのはある意味で水田を保全する役割を果たしてきた、水田維持直接支払い、そういう役割を果たしてきたんじゃないかというふうに考えております。ただ、その予算が十分ではなかったためにかなりの農地も荒れたというのは事実ですが、しかしながら、水田を維持する役割を果たしてきた、私はそのように考えております。
いずれにしても、農水省の予算をさらに拡充していくことが、そしてその中の重複している部分を統合していく、そのようなことが今後求められていくのではないかというのが私からの意見となります。
以上です。
○高橋参考人 農政全般のお尋ねだったと思いますけれども、二つ、まず大きなポイントがあると思っております。
一つは、災害対策というのは、いろいろ一生懸命仕事をしている人たちが不慮の災害によってマイナスの状態になってしまう、この人たちをもとへ戻すということは、対象が大きな農家であれ小さな農家であれ、これは私は差別はないと思います。やはり何とかもとの営農まで戻してあげる、そのための災害対策。
したがいまして、農業災害補償法、これは、今、食料・農業・農村基本法という基本法のもとできちんと位置づけられておりますけれども、実は旧の農業基本法の時代の文章と全く同じ、同言で書かれている災害対策で、唯一残っているものであります。ですから、これはもう昭和三十六年の農業基本法の際からも、災害対策というのは農業の不慮の災害の損失を補填し、農業の再生産が阻害されないことを目的とするんだ、これは旧の基本法、今の基本法にも書かれているわけでありまして、時代を通じた普遍の原理ではないかと思っています。
その上で、では、農業の発展を今後どういうふうに支える基盤をつくっていくのかというセーフティーネットの議論が、災害、プラス、先ほど来ございます価格の低下、そういったものに対してどのように仕組んでいくのか、これも長い歴史の中で、生産調整以来、あるいは経営所得安定対策以来、岩盤対策以来、いろいろな御議論の中で今回の収入保険の制度設計に至ったのではないかなというふうに考えております。
○斉藤(和)委員 四人の参考人の先生方、本当にありがとうございました。
時間が来ましたので、終わります。
○北村委員長 次に、吉田豊史君。
○吉田(豊)委員 日本維新の会、吉田です。本日もよろしくお願いいたします。
四人の参考人の先生方、きょうは本当にありがとうございます。また、山下先生におかれましては三遍目ということで、本当に恐縮いたしておりますけれども、私の質問も毎回毎回なものですから、皆さん飽き飽きしていらっしゃいますが、先生のこの話は非常に示唆に富んでおりますので、何回お呼びしても大丈夫だなという確信を持っておるところでございます。
質問させていただきますけれども、きょうお聞きしていまして、やはり一番大事なのは、セーフティーネットという言葉、これをどう捉えるかということではないかなと私は感じました。
農水委員会に所属させていただいて、農政については全くの素人の私だといつもお伝えしておりますけれども、実は、私は土いじりは結構好きな人間でございまして、今週末も地元に戻って、家庭菜園のところは自分で耕して、そして小さい野菜とかを植えるわけです。家庭菜園の中で特にツールとして重要なのは、実はシートとかネットとかなんですね。地面にシートを張るのか、それともネットを張るのか、これはやはり大きな選択の違いであって、それから、ネットにしても、どれぐらいの目の細かさのネットを張るのかというところは、結局、その将来像がどうあってほしいのかというところと実は直結しているという、非常に選ぶということは大変なことだと私は思っています。
きょうの先生方の御発言をお聞きしていましても、セーフティーネットというけれども、これはほぼ、ネットというよりもセーフティーシートだなというお考えの方向もあれば、あるいは、ネットさえ要らないんだよ、そういうようなお考えの方もいらっしゃるというところだと思うわけです。
改めて、私は、最初にまず高橋先生にお聞きしたいと思います。
先生は多分、シートに近いところの状況を今設定されて、お考えじゃないかなと思うんですけれども、今、我が国の農業が、攻めの農業ということを言っている。それは当然、攻めるということはリスクがあって、そこから取捨選択、そこに勝ち残る者、それから勝てなくて消えていく者、こういうところがあると思うんですが、今回のこの法案というところが、いわゆるセーフティーネット、あるいは、そういうこれからの農業の将来像ということを考えたときに、どのような本質的な役割を果たすというふうにお考えかということをお聞きしたいと思います。
○高橋参考人 お答えをいたします。
まず、先ほど来申し上げておりますように、今回の収入保険の導入ということは、既存の各作目の対策と災害対策の農業共済事業を引き続き選択するのか、あるいはこの新しい仕組みを選択するのかを、農家がみずからやろうとしている農業経営の実態に即してどちらが有利かを判断できるということで、非常に画期的なことだと思っております。
そういった意味で、農家の自主的判断、これが非常にまた今回求められるんです。もちろん、私どもは、この両事業を推進する立場から、必要な御相談あるいは必要な資料提供というのは当然行いますが、やはり、農家が選ぶんだということは、これは政策をしかも選ぶということで、非常に大きな新しい要素ではないかと思っております。
その次に大事なのは、そういった意味では、例えば、新しい作目部門にチャレンジをするような方々にとってみれば、従来、そういったところに対するリスクのヘッジという意味でのセーフティーネットというのはございませんでした。作目ごとには確かにあったわけでありますが、新規の作目を新たに導入する際に、今までなかったものを新たにつくろうとしたときのリスク、これに対しても今回の収入保険というものは非常に有効なツールになるんだろうなというふうに思っております。
そういった意味では、どの農家、どういう経営にとって一番この収入保険が妥当かというのは、今後、実際の細かいところも含めて検討する必要があろうかと思っておりますけれども、そういった意味での相談に、今後我々はきちんと農家の御相談に対応してまいりたいというふうに思っております。
○吉田(豊)委員 高橋先生が全国農業共済の会長として、今のこの制度についてきちっといろいろなことをやはり周知して、そしてその意味をきちっとお伝えした上での判断ということはおっしゃるとおりですし、そこにはやはり力をかけていただかなくちゃいけない、こう思うんですけれども、その際に、実際にこの制度それから将来像を考えたときに、いや、もうこの人は農業をやめた方がいいんじゃないかとか、もうそろそろ手を引いた方がいいんじゃないかということがもしはっきり目の前にあったときには、それも含めてのこの制度についての御対応をされるというお考えでしょうか。
○高橋参考人 これもちょっと繰り返しになって恐縮なんですけれども、私どもが今やっております現行の農業共済事業、これは、何度も申し上げておりますけれども、どのような農家であれ、災害というものが起きたときに何とかもとへ戻してあげよう、これが基本だと思っております。したがって、なかなか経営が今後も維持できないというようなことがあろうかもしれませんけれども、でも、その人たちの足を引っ張るという意味で何も講じないということでは私はないと思います。
これは共済事業でありますが、収入保険は、経営発展を行うために選ぶツールは何かということでありますので、そういった意味で、この収入保険、やはり経営発展のために必要な措置という形での基本的な考え方のもとに推進するということであれば、先生がおっしゃっているような懸念は少ないのではないかなと思っております。
○吉田(豊)委員 ありがとうございます。
続いて、安藤先生にお聞きしたいと思いますけれども、先生からいただいた資料の中で、「将来的な制度のあり方」というところで、「並立する制度を集約するためのシナリオ」というところの一文があると思います。
私は、今回、セーフティーネットというところ、それから網のサイズというところにこだわりたいなと思うんですけれども、先生のお考えからすると、今回の法案の中での網のサイズ、それから、これが将来的にどのような形に整理されていくべきかという、そのプランと言えばいいか、青写真ということを教えていただけますでしょうか。
○安藤参考人 御質問ありがとうございます。
私がこういう意見を出しておいて大変恐縮なんですが、その道筋は、実は私も見えていないんですね。
どのようにしていったらいいか、予算のそれぞれが持っている枠をどう統一していったらいいか、そういうことが非常に絡んでくるというのが一つあります。
それと、制度は制度として議論しなければいけないんですが、その制度がどういう状況で今置かれているのかということも考えなければいけないと思います。
と申しますのは、生産調整の廃止によってどうなるか、私も全く予想がつかないんですが、米価が大きく下落する可能性があります。
もし大きく下落した場合にはどのような対応をとらなければいけないのか、あるいは、ゆっくりとした下落にとどまった場合にはこのような方向で政策を進めていけばよい、こういう判断を、実は今の段階では多分できないと私は思っております。この後数年、二年、三年、あるいは五年後に見直しという話があるようですけれども、ここ二、三年の状況を米価の行く末も見ながら考えていく必要があるかなと思っております。
また、二〇一五年センサスの分析をしたところ、相当、農家数の減少が進んでおります。そうしますと、この後構造変動が進むということを前提に考えていくのか、このあたりも、農業構造変動がこの後どうなるかも見据えながら制度を考えていく必要があるというふうに思っております。
以上でよろしいでしょうか。
○吉田(豊)委員 ありがとうございます。
先生のおっしゃる、将来が読めないという言葉もありましたけれども、だからこその例えばセーフティーの準備であるというところが、それは、近々、将来が読めない中にあっても何かが起こるというところはもう明らかに想像がつくわけですから、それに対して、そこまでのところをカバーしておこう、そういう位置づけとして捉えさせていただければ、その先にもう一度きちっとした判断をしていかなくちゃいけない、そういうふうな形で私は理解させていただければ、この法案の存在意義というか立ち位置もまた一つ明確になるんじゃないかな、こういうふうに勉強させていただきました。
続いて、鈴木先生にお聞きしたいと思いますけれども、先生の資料のタイトルは、「「岩盤」なくしてセーフティネットは完結しない」というところですけれども、この岩盤という言葉も、農業関係の、先ほど山下先生は、いろいろ農業はキーワードが出てきて品がなくなったとおっしゃいましたが、私が一番品がないなと思いましたのはマルキンという言葉でして、ちょっと何を言っているのかと。富山県にはパチンコ屋がありまして、金の玉というパチンコ屋さんがあったんですね。それしか私は知らなかったものですから、マルキンと言われたときに、これが資料の中に出てきたときには、ちょっともう本当に何を言っているのかがわからなくて、岩盤というのも、岩盤といえば、一般の人は、岩盤浴か何かそんなのかなというふうに思うと思います。
ここでおっしゃっている岩盤というところとセーフティーネット、これが具体的にどういう位置関係になっているのか。セーフティーネットの下に岩盤があるとすると、おっしゃった底なし沼という話になっても、そのネットからはみ出す人、落ちていく人、それから、その下に岩盤なのか底なし沼なのか、これは結構大きな話だと思うんですが、ここら辺のところをぜひもう一度、先生、わかりやすく教えていただいてよろしいでしょうか。
○鈴木参考人 品があるかどうかにつきましては別としまして、私が申し上げている岩盤といいますのは、まさにセーフティーネット、安全ネットというのは、そこよりはさらには下がらないから、それを目安にして経営計画が立てられるという安全ネットでなければいけない。
そういう意味でいうと、その安全ネットの高さがどこに決まるかわからない、五中五の平均収入で、もしいろいろな自由化とかが進んで収入がどんどん落ちていくようなときには、どこまで落ちるかわからないのでは、そこに、要するに、それが岩盤だ、それがはっきりしていれば、それが高い水準か低い水準かはともかくにして、それを目安にして経営計画が立てられる。
その場合に、もし米価でいえば、非常に、その岩盤、セーフティーネットの水準が高過ぎれば、それは構造改革を阻み、過保護に農家を保護してしまう。ですから、その水準が重要だと思うんですよね。でも、水準がわからなければ、大きな農家も、意欲ある農家も、経営計画が立ちません。ですので、目指すべき生産コストなり収入というものを念頭に置いて、そういうふうな、これよりは下がらないという岩盤をしっかり示すことが重要だと。
それは、別に施策の対象を絞らなきゃいけないという議論ではなくて、安全ネット、岩盤の水準を調整することで、それが五千円であれば誰もやっていけません、米価で言って恐縮ですけれども、だったら、一万三千円ぐらいを目安にすべきじゃないか、そういうふうなものを、当面の目標をしっかり決めてそれを示せるような、その差額は何とか最低限は補填しますよという、そういうふうな水準を決める必要があるという趣旨でございます。
○吉田(豊)委員 ありがとうございます。とてもよくわかります。
そして、その上で、山下先生にお聞きしたいと思うんですけれども、ちょっと幾つかお聞きしたいんですが、ナラシという言葉、このナラシというのは、実は、イメージとして何をならそうとしているのかというところはよくわからないんですね。私、いろいろなことを聞きますけれども、ネットもそうなんですけれども、ネットで救っているのは農家なのか農業なのか、それとも何を救っているのか、あるいは何をならしているのかというところが、いろいろな法案、今回も国会に出てきまして、順番順番難しくなっていって、最終的には、何か私自身が、自分自身が整合していないなというところに、非常に困っているんですけれども。
でも、やはり大切なことは、では、今の現状から一つ一つの形を変えていくときというのは、その仕組み自身を変える作業だから、当然そこから離れる人たちがおるわけなんですね。それについて、さっきの言葉で言えば、ネットから落ちる人を、そこでべしゃっと潰れるんじゃなくて、どう支えるか、あるいは静かに着地させるかとか、そういうことも含めて新しいところに展開していくということが私は重要だと思うので、その意味でのナラシ、あるいは将来のネットの張り方について、先生はどのようにお考えかということをお聞きしたいと思います。
○山下参考人 どうもありがとうございます。
農業政策で何を保護しようとしているのか。農家を保障しようとしているのか、それは兼業農家も含めて、主業農家も含めて、それを全部丸抱えで保護しようとしているのか、あるいは農業を守ろうとしているのか、その視点の違いで随分政策は変わってくるんだろうと思います。
本当に、兼業農家も含めて農家の所得を保障するなら、五十万の所得で、片や農外所得が五百万以上あるというところであれば、五十万の農業所得をセーフティーネットで守るよりも、実は、トヨタとかそういう大企業に行って、おたくのところに勤めている兼業農家の人たちのベースアップをもっとやってくれと言った方がはるかに効果的なわけですね。そういう意味で、何を対象にするかというのが極めて私は重要だと思います。
それから、基本的には、セーフティーネットというのは、サーカスの綱渡りですね、綱渡りの人が落ちたときに大変なことが起こるから、ネットで救うわけですね。そもそも綱渡りもしないような人、この人たちにはセーフティーネットは必要ないわけです、綱渡りしないわけですから。あるいは、未熟な人たち、これには必要があるかもしれません。でも、本当のプロの人、綱渡りのプロのパフォーマーの人に対しては、かえってセーフティーネットがあり過ぎると、観衆としては目ざわりなわけですね。そんないつ落ちるかわからない下手な綱渡りの人たちを、パフォーマーを我々は見たくない。あるいは、落ちるかもしれないというはらはら感が人々をサーカスに連れていくんだろうというふうに思います。
したがって、セーフティーネットがあり過ぎるとだめだし、かえって創意工夫を損なうということになると思います。
それから、米価の話なんですけれども、実は我々は今、ここの議論は、みんな閉鎖経済で議論しているわけです。国際貿易なんて考えないわけです。実は、明治の初期は、米は輸出していたんです。そのとき、米価は物すごい変動したわけです。米価は変動した。でも、米価のセーフティーネットが実はあったんです。何かというと、輸出なんです。価格がある程度以上に下がると、輸出が行われることによって、海外に輸出がふえますから、国内の供給量が減って、価格が上がっていくわけです。
今の米価の水準は、一俵当たり一万二千円ぐらいだと思います。減反を廃止すると、一俵当たり七千円ぐらいに多分落ちると思います。でも、そのときに輸出価格が一万一千円だとすると、商社は七千円のものを買い付けて一万一千円で売ろうとしますから、価格は一万一千円まで上がっていくわけですね。これが、経済学で言う価格差、裁定行為なわけでございます。そうすると、一万一千円の段階ではもっと生産量が、今の七百五十万トンじゃなくて、一千万トン、一千百万トン、一千二百万トンぐらいに私は拡大するんだろうというふうに思います。
そういう意味で、セーフティーネットは必ずしも、閉鎖経済で考えていると、セーフティーネットといったら国に頼るしかないということになります。ところが、石橋湛山のように、農家は助けるべきものだけじゃないんだ、みんな自立していこうというふうに思うと、輸出も考えて、まさに石橋湛山が言った小日本主義の、貿易によって日本は栄える、そういうセーフティーネットもあるのではないかというふうに私は考えております。
○吉田(豊)委員 四人の先生方、ありがとうございました。
ちょっと素人っぽい言葉で、私自身が素人なものですから、こういう聞き方しかできなかったわけですけれども、でも、やはり大事だと思いますのは、ネットの張り方、そして、今回、法案という形で一つのセーフティーネットを張るということについて、四人の先生方共通に、次に起こるべきことがあるわけですね、米価について。
だから、これがあって、それがどうなっていくかというところも含めた、今を何とかサポートしていこうという、この先をサポートしようという部分ですから、それについて、おっしゃるように、この機会に、セーフティーネットには乗るけれども、五年以内、あるいは何年以内の間に、農業を続けるか続けないかも含めて、判断していくためのモラトリアム的要素として捉える人もおるかもしれないし、新しいチャレンジをしていくという位置づけに立つ人もいるかもしれない、そういう意味での法案というふうに考えると、それは一つの大きな役割を持つことなのかなというふうにも考えさせていただきました。
先生方、どうもありがとうございます。
○北村委員長 これにて参考人に対する質疑は終了いたしました。
この際、参考人各位に一言御挨拶を申し上げます。
本日は、貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。委員会を代表して厚く御礼を申し上げます。(拍手)
次回は、明七日水曜日午前八時五十分理事会、午前九時委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。
午前十一時四十二分散会