第7号 令和6年4月4日(木曜日)
令和六年四月四日(木曜日)午前八時五十分開議
出席委員
委員長 野中 厚君
理事 伊東 良孝君 理事 小島 敏文君
理事 古川 康君 理事 山口 壯君
理事 近藤 和也君 理事 野間 健君
理事 池畑浩太朗君 理事 角田 秀穂君
東 国幹君 五十嵐 清君
上田 英俊君 江藤 拓君
加藤 竜祥君 神田 憲次君
小寺 裕雄君 高鳥 修一君
橘 慶一郎君 中川 郁子君
西野 太亮君 細田 健一君
堀井 学君 宮下 一郎君
保岡 宏武君 簗 和生君
山口 晋君 梅谷 守君
金子 恵美君 神谷 裕君
緑川 貴士君 山田 勝彦君
渡辺 創君 一谷勇一郎君
掘井 健智君 稲津 久君
山崎 正恭君 田村 貴昭君
長友 慎治君 北神 圭朗君
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参考人
(一般社団法人アグリフューチャージャパン代表理事理事長) 合瀬 宏毅君
参考人
(北海道農民連盟書記長) 中原 浩一君
参考人
(株式会社日本総合研究所創発戦略センターエクスパート) 三輪 泰史君
参考人
(特定非営利活動法人兵庫農漁村社会研究所理事)
(兵庫県立大学大学院地域資源マネジメント研究科客員准教授) 西村いつき君
参考人
(東京大学大学院農学生命科学研究科特任教授) 鈴木 宣弘君
参考人
(東京大学大学院農学生命科学研究科教授) 安藤 光義君
農林水産委員会専門員 飯野 伸夫君
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本日の会議に付した案件
食料・農業・農村基本法の一部を改正する法律案(内閣提出第二六号)
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○野中委員長 これより会議を開きます。
内閣提出、食料・農業・農村基本法の一部を改正する法律案を議題といたします。
本日は、本案審査のため、参考人として、一般社団法人アグリフューチャージャパン代表理事理事長合瀬宏毅君、北海道農民連盟書記長中原浩一君、株式会社日本総合研究所創発戦略センターエクスパート三輪泰史君、特定非営利活動法人兵庫農漁村社会研究所理事・兵庫県立大学大学院地域資源マネジメント研究科客員准教授西村いつき君、東京大学大学院農学生命科学研究科特任教授鈴木宣弘君、東京大学大学院農学生命科学研究科教授安藤光義君、以上六名の方々に御出席をいただいております。
この際、参考人各位に一言御挨拶を申し上げます。
本日は、御多用のところ本委員会に御出席をいただきまして、誠にありがとうございます。参考人各位におかれましては、それぞれの立場において忌憚のない意見をお述べいただきたく存じます。本日はよろしくお願いいたします。
次に、議事の順序について申し上げます。
まず、合瀬参考人、中原参考人、三輪参考人、西村参考人、鈴木参考人、安藤参考人の順に、お一人十五分程度御意見をお述べいただき、その後、委員からの質疑に対してお答えをいただきたいと存じます。
なお、念のため申し上げますが、御発言の際はその都度委員長の許可を得て発言していただくようお願い申し上げます。また、参考人は委員に対して質疑をすることができないことになっておりますので、あらかじめ御了承願います。
それでは、初めに、合瀬参考人、お願いいたします。
○合瀬参考人 皆さん、おはようございます。一般社団法人アグリフューチャージャパン理事長をやっております合瀬と申します。
本日は、このような場で意見を述べさせていただく機会をいただきまして、誠にありがとうございます。
それでは、時間もありませんので、資料に沿ってお話をさせていただきたいと思います。
私ども一般社団法人アグリフューチャージャパンですが、十年ほど前、農業の経営を専門に教える、AFJ日本農業経営大学校を運営する団体としてスタートいたしました。校舎は東京品川にあり、農林中央金庫を始め、大手食品企業など、二百社を超える会員の御支援によって運営されております。
大学校では、現在、農業界でイノベーターを起こす人材の育成のほか、オンラインで経営戦略やマーケティングなどの経営スキルを中心とした授業を行っておりまして、こちらは、全国の農家や農業法人のほか、JAや地方自治体の職員など、年間百六十名ほどが受講していただいております。
私自身は、農林水産省の食料・農業・農村基本計画検証部会で基本法の見直し議論に加えていただきました。そういうこともありまして、本日の意見陳述に呼んでいただいたものだというふうに理解しております。
ですから、本日は、農業経営者を育成する立場から、農地の集積と合理的な価格形成について意見を述べさせていただきたいというふうに思います。
ページをめくっていただきたいんですが、言うまでもなく、食料安全保障を担保する政策は、国内生産の増大、安定的な輸入、そして備蓄の確保、この三本柱でこれを実現するというふうにされています。世界的な人口増加、食生活の高度化、そして地球温暖化による天候不順などを考えますと、輸入が今後、不安定化することは避けられない状況でありまして、このため、国内での生産基盤の強化はより重要になってきていると言ってもいいというふうに思います。
その国内の生産基盤なんですが、今後農業を担うべき五十代以下の基幹的農業従事者は全国で二十五万人と、極めて心もとない状況であります。少ない人数で、これから、これまでと同じように私たちに食料を供給してもらわなければならないわけですから、当然ながら、一戸当たりの経営面積を拡大し、生産量を増やしてくれる農業経営者が必要であります。
そのために国がやること、それは、そうした農業経営者が活躍できる舞台、環境を整えることに尽きるというふうに思います。その中心になってくるのは、何といっても農地の集約、集団化であります。農地を使いやすくすれば、若い人たちも農業に入ってくるというふうに思います。
次のページをめくっていただきたいんですが、御存じのように、日本の農業生産性は、国際的に見ても極めて低いのが現実であります。上のグラフですけれども、農研機構顧問の梅本雅さんがFAOのデータから作成された米、麦、大豆などの単収の伸び、これを世界と比較しているグラフであります。
一九六三年に比べて、小麦こそ生産性は二倍ほどに伸びていますけれども、それでも世界から見ると半分程度、米や大豆などは世界から大きく劣後しています。また、下はトマトの生産性をオランダと比べたものでありますけれども、トマトはオランダの五分の一で、イチゴは三分の一、キュウリに至っては十三分の一にすぎません。
もちろん、外国とは、天候や土壌、用途も違いますので、単純な比較はできません。しかし、考えなくてはならないのは、どの国、地域も近年、様々な工夫をして、その生産性を大きく伸ばしていることであります。農林水産省が審議会に提出した下のグラフは、オランダがコンピューターによる環境制御技術など様々な工夫をして、トマトの生産性を四倍以上に伸ばしたことを説明しています。
では、なぜ、日本で生産性が伸びないのか。その最も大きな原因の一つに、農地の区画が小さく、分散していること、そこがあるのは間違いないというふうに思います。
労働人口が少なくなる今後、少ない人数で生産性を伸ばす、データ分析や自動機械を使ったスマート農業などが必要だというふうにされています。そうしたスマート農業を実現するためにも、何より、農地の区画を大きくし、効果的な作業が行えるような環境を実現しなくてはならないというふうに思っています。
そういう意味でいいますと、次のページですけれども、二十八条の農地の確保及び有効利用の条項に、集団化、この言葉を書き加えてもらったのは、経営者にとっても極めて重要なことだと思います。現在、農村では、地域の将来を見据えた地域計画の策定が進んでいますけれども、ここはしっかり集積、集団化という視点で計画作りを進めていただきたいというふうに思います。
また、これに関連して審議会では、二十六条の望ましい農業構造の確立の第二項に、従来の効率的かつ安定的な農業経営を営む者とともに、新たに、多様な農業者が位置づけられました。
このことに関し、審議会では、農地集積の阻害になるのではないかという懸念が示されています。しかしながら、この第一項で、効率的かつ安定的な農業経営者が農業生産の相当部分を担うというふうにしているわけですから、ここは、多様な農業者の位置づけが農地集積の阻害とならないこと、それぞれの役割が違うことを明確にしておくべきだというふうに思います。
さて、次のページですけれども、農業者自身の問題であります。
今回、二十七条の二として、新たに、国は、農業経営者の経営管理能力の向上、労働環境の整備、自己資本の充実の促進を図るという文言が書き加えられました。つまり、経営者としての資質を高めよというふうなことであります。
本来であれば、経営能力の向上などは農業経営者自らがこれを行うべきもので、国からあれこれ言われることではありません。ただ、農業の場合、その経営については、いまだ財政基盤が弱かったり、従業員の定着が悪いなどの事例が多いのが実態であります。例えば、国が雇用を支援する農の雇用事業についてですけれども、この調査では、一年後の定着率は全国平均でこそ七五%でありますけれども、県によっては、雇用した人の半分以上が事業終了後、一年以内に辞めているところもあります。
農業は、元々家族中心でやってきましたから、一般の会社のように財務や雇用に慣れていないところがありまして、従業員としては、その待遇や将来性に不安があるのかもしれません。
しかし、今後、一戸当たりの経営規模が大きくなってくることを考えれば、経営者は、従業員が働きやすい職場づくりですとか組織マネジメント、新たな事業を展開するためのマーケティングや投資のためのファイナンスなどの力をつけることが不可欠になります。
農業法人の中には、既に、群馬グリンリーフの沢浦さんですとか、千葉和郷園の木内さん、それに茨城の横田農場など、優れた経営力を発揮し、周囲の雇用や農地を引き受け、売上げを大きく伸ばす経営者も少なくありません。
ただ、今現在ではその存在は点にすぎません。効率的かつ安定的な農業経営が農業生産の大宗を占める、これが基本法が目指す農業構造であるなら、国が経営能力の向上や労働環境の整備などを支援することは、過渡期である現時点では必要なのかもしれません。
次のページですけれども、一方で、第二十三条に食料の価格形成に対する国の関与が書き加えられたことについては、その運用に私としては懸念を持っております。
第二十三条は、国は、食料の価格の形成に当たり、食料の持続的な供給に要する合理的な費用が考慮されるよう、理解の増進及びこれらの合理的な費用の明確化その他必要な施策を講じるというふうにしています。
この文言にあるように、国が、食料システムを構成する事業者に対して合理的な価格の決め方について理解を求めるだけであればいいんですが、例えば、国がコスト上昇を勘案して、価格の水準を示したり、上昇分を一律に補助したりすると、その対象や水準をめぐって大変な騒ぎになります。
そもそも価格ですけれども、事業者にとって一つの価値、戦略でありますし、しかもビジネスですから、他人が口を出すべきものではありません。また、コストを低く抑えようとする生産者の努力も無駄になり、構造改革を後退させ、国際的な競争力も失わせる、そうした危険性もあります。
今回の生産者の苦しみは、ロシアのウクライナ侵攻などによって小売価格が上がる前に、肥料や餌価格の高騰などでコストが上昇し、上昇分を価格に反映できない事態が続いたことであります。価格は基本的には市場で決まりますけれども、その調整には時間がかかります。そのために、国は、野菜価格安定基金ですとか、飼料価格高騰に対する価格補填、それに収入保険制度などを整備してきたはずであります。
短期的には、そうした緊急的なコスト上昇分に対する補填政策を整備しつつ、長期的には、取引に関わる様々なステークホルダーが食料システムの持続性を担保するような、自主的な価格交渉に任せるべきだというふうに思います。
最後のページになりますけれども、今回の基本法改正案は、現基本法と比べまして、より食料の安全保障を意識し、内容も具体的なものとなっています。とはいいましても、その実現において国内の食料生産の増大が基本であることは変わりなく、これをより強化していく、そういう内容と取るべきだというふうに思います。
その実現のために国がやるべきことは、農業経営者がその能力を最大限に発揮できるように、農地の整備、集団化などの環境を整えること、そして農業経営者は、そうした環境の中で消費者が求めるものを高い生産性をもって生産すること、そうした当たり前のことであります。
そしてもう一つ、私がお願いしたいのは、断固たる意思を持って政策実現に当たることです。
私の前職はNHKの解説委員で、二十年以上にわたって農業政策や農業現場を取材してきました。そこで感じたのは、国会や行政は、新しい法案や事業をつくることには熱心ではありますが、その実現に当たっては熱量が徐々に下がっていくということであります。
食料自給率目標や農業構造の転換、農地の集積や生産性向上など、現在の基本法が目指してきたものがいまだ十分に達成されていないのは残念なことだというふうに思います。
本来であれば、未達の原因を時間をかけて分析し、今回の見直しにつなげていくべきであります。ただ、これだけ変化のスピードが速い中で、長い時間をかけて議論を繰り返すのも現実的ではなく、その力を政策実現のために振り向けていくべきだというふうに思います。
新たな基本法がスタートする暁には、何が何でも目標は達成するという覚悟でこれに当たってほしい、これが改定作業に参加した私の願いであります。
そのことを願いまして、食料・農業・農村基本法改正に対する私の意見陳述を終わりたいと思います。
どうもありがとうございました。(拍手)
○野中委員長 ありがとうございました。
次に、中原参考人、お願いいたします。
○中原参考人 皆さん、おはようございます。
まずもって、こういう機会を与えていただき、感謝申し上げます。また、農林水産委員の皆様そして職員の皆様には、日頃より日本農業の発展に御尽力を賜り、お礼を申し上げたいと思います。
さて、私は、北海道和寒町で農業を営んでおります。もちろん、第一次産業の町で、日本一の作付面積を誇るカボチャ又は雪の中から掘り起こす越冬キャベツなどが特産野菜として有名です。経営は農業法人として、今、息子二人が現在メインで経営しており、経営面積は約六十ヘクタールの農地で、主に、米、麦、大豆、てん菜、カボチャ、キャベツ、また、ハウストマト十棟や水耕栽培なども営んでおります。
また、地元の議員、農業法人会役員なども務めており、今回は、農業者の集まりの組織で約一万九千人で組織する北海道農民連盟の書記長の立場で出席させていただいております。よろしくお願いしたいと思います。
それでは、私の方から二部の資料で説明させていただきますが、時間の都合上、抜粋して説明させていただきます。また、説明資料編については、数値等を記載しておりますけれども、後ほど御覧いただきたいと思います。
それでは、一つ目として、基本法改正の考え方について。
食料・農業・農村基本法については、以下六行は、今国会で法改正される経過等について記載しておりますので、後ほどお目通しください。
六行下がって、一九六一年に最初に制定された農業基本法から、一九九九年に制定された食料・農業・農村基本法は、農業や農業者のみならず、食品産業や消費者などに関わる農政として、基本理念や政策の方向性を示し、一、食料の安定供給の確保、二、農業の有する多面的機能の発揮など、四つを理念として掲げ、もって国民生活の安定向上などを目的としておりました。今回の法改正では、一、食料安全保障の確保、二、環境と調和の取れた食料システムの確立へと変更されました。
私たち農業者としては、二十年以上が経過した現在、基本法の見直し議論と改正は、近年の目まぐるしく変化する農業情勢を鑑み、想定もしない危機的な状況で厳しい農業経営を強いられ、離農者も多くなっております。
そのような背景から、今回の法改正では、制定時からの農業を振り返り、農家人口の減少、担い手が育っていない現状、食料自給率が四〇%以下と低迷しているなど、掲げた目標がなぜ達成できなかったのかなどの反省を踏まえるべきではないでしょうか。そして、農業現場に寄り添った政策の構築により、農業者が将来も安心して経営が継続できるよう、農業というなりわいが後継者や担い手が育ち、魅力的な職業となり、そのことで安心した国内農畜産物を安定的に国民へ届けられる仕組みとなるよう法改正を願うものであります。
次のページ、お願いします。
二つ目として、近年の日本農業の情勢についてということで、これについては先生方も御存じなので、簡単に説明します。
一つ目として、基本法が制定されてからの二十年間を見ても、日本の人口の減少は地方ほど顕著であり、農村地域におけるコミュニティーの崩壊、それに伴い農家戸数が減少し、荒廃地の増加などによって供給力が低下しています。この内容については、説明資料、ページ一から四を参照してください。
二つ目、基本計画で掲げる食料自給率の目標値は、この二十年間で四五から五〇となっていましたが、目標達成にはほど遠い状況にあり、先進国の中で最も低い自給率となっていることは問題ではないでしょうか。説明資料五ページを参照してください。
三番目、一九九四年のガット・ウルグアイ・ラウンドの妥結で、カレントアクセス数量やミニマムアクセス米が設定されました。その後も、国内では産業政策に大きくかじを切り、CPTPPなどの大型貿易協定が次々と発効し、更なる輸入拡大が懸念されていることから、国内農業への影響が危惧されています。資料六ページを参照してください。
四、温暖化の影響などで、全国各地で異常気象による自然災害が頻発し、あわせて、四つのプレートが交錯する日本では地震などが発生するなど、農地の損失や農産物に影響を与えています。資料七ページを参照してください。
五、コロナ禍の影響は社会経済に大きな影響を与え、農畜産物の需要低迷により在庫滞留を招くなど、価格低迷や生産調整を強いられています。資料八ページを参照してください。
次のページ、お願いします。
六として、ロシアのウクライナ侵攻では、小麦などの供給が滞り、世界の穀物事情の変化が国際市場を動揺させました。また、イスラエルの戦争の影響なども相まって、燃油、肥料、飼料を主とした生産資材価格が現在も高止まり傾向にあります。
さらに、為替相場の円安により、多くを輸入している食料、原材料は物価高で、国民生活はもとより、農業においても経費がかさみ、経営の部分では大きな影響を与えております。資料、ページ九から十一を参照してください。
以上、近年起きている農業に関わる情勢変化では、私たち農業者の経営努力だけでは対応できない事情と考えており、今回、改正案で明記された食料安全保障の確保の観点からも、国の責務として、国産農畜産物の生産増大や、優良な農業生産基盤が確保され、将来にわたって安心して営農が続けられる農政が求められています。
三として、具体的な基本法改正案の課題と要望について、課題と思われる新たな条文等に対して、意見、要望を申し上げます。
改正案の第一章、食料安全保障の確保について、第二条二項では、国民に対する食料の安定的な供給について、略、国内の農業生産の増大を図ることを基本とし、輸入及び備蓄の確保を図るとしています。
しかし、安定的な輸入を図ることは重要ですが、世界情勢の変化などで輸入が不安定な現状となっていることから、国内需要を満たせない農産物の増大を図ることを基本に、輸入に依存しない国内生産体制の構築が必要であると考えます。
このため、世界の食料事情や、国内外の豊凶時に備えた官民一体となった食料安全保障としての備蓄体制の構築が必要です。あわせて、国内生産の安定供給に向けた種子の確保を図ることも必要と考えます。
次のページをお願いします。
一方、第二条四項では、国民に対する食料の安定的な供給に当たっては、略、この新たな条文では、豊凶時の国内需給調整への役割や、国内の人口減少による需要減退が見込まれることから、国内農畜産物の生産を維持、拡大していくための輸出システムの構築が重要と考えます。
第二条五項では、食料の合理的な価格の形成については、三行下がって、供給に要する合理的な費用が考慮されるようにしなければならないと明記されています。
しかし、合理的な価格形成では、国民の合意と消費者の理解が大前提と考えますが、農業者は、市場原理の下、今回のような様々な要因から、生産資材の価格高騰などが価格に反映できず、所得減少により経営破綻に陥らないような仕組みが求められています。
一方、仲買、小売等に関しては、人件費や流通コストの上昇など、価格に転嫁しやすく、価格転嫁によって値上がりすると、消費者は、安価な輸入品にシフトしたり、買う量を少なくしたりします。このことで農産物は需要減となり、私たち農業者が生産調整を余儀なくされることが繰り返されていることを鑑み、予期せぬ急激なコスト増に対しては、国も責任を持って対策を講じるべきと思います。
よって、農産物流通の川下である農業者にとって、再生産可能な価格転嫁は重要と考えますが、持続的な供給の観点から、基本法制定後に国が生産調整を手放し、作る自由、売る自由を進め、国際貿易の波が避けられない中での、価格は市場で、所得は政策でという原点に立ち返り、恒常的な赤字なども勘案した再生産可能な所得補償が必要と考えます。
第三条の環境と調和の取れた食料システムの確立についてでありますが、環境に配慮した持続的な農業、食品産業への転換は重要と考えますが、環境負荷低減への有機等の取組は、農業者サイドでは労働力などの経費がかさみ、次のページをお願いします、北海道は比較的に、既に農薬や肥料低減に取り組んでおり、これ以上減らすと品質や収量に影響が懸念されます。
一方、農業分野での食料供給の段階において、環境に負荷を与えている側面があることから、二〇二二年七月に施行されたみどりの食料システム法に沿って取り組むことが法律化されたにもかかわらず、同様の内容を法改正で基本理念に明記したことは、過度な農業分野の負担増につながるのではないかと生産現場では危惧しています。近年の農業情勢を踏まえ、食料安全保障を優先に施策を組み立てるべきと考えます。
その上で、環境負荷低減への取組では、現状の農家経営が厳しいことなどを考慮し、取り組む農業者にあっては、かかり増し経費相当分への十分な施策などが求められます。また、環境負荷低減の取組は、食料自給率向上での国内農産物増産と相反する側面もあり、環境負荷低減に取り組まなければ現状の各種政策が受けられないような要件にはすべきではなく、取り組める環境が整ったところから始めるべきと考えます。
第四条の多面的機能の発揮について、二行下がって、新たな条文として、国土の保全、水源の涵養、略、将来にわたって、環境への負荷の低減が図られつつ、適切かつ十分に発揮されなければならないとあります。
環境負荷への取組は必要と考えますが、過度に取組を重視すると、本来の多面的機能に資する機能が損失する可能性などが想定されます。このため、改正条文では、現行の条文の後に、また、環境への負荷の低減が図られるよう配慮しなければならないとすることを求めたいと思います。
第五条の農業の持続的な発展について、条文中では、農業については、略、農業の生産活動における環境への負荷の低減が図られることにより、その持続的な発展としています。また、同様に、第五条第二項における、農業生産活動に、次のページをお願いします、略、農業の自然循環機能の維持増進に配慮しなければならない、第十四条の、消費者は、略、食料の持続的な供給に資するものの選択に努めることなどの、新設された多くの項目に環境負荷低減への取組が明記されています。
現行の政策、制度に環境負荷低減の取組を過度に条件にすることが、食料安全保障での良質な食料が合理的な価格で供給され、農業生産基盤が確保されるのか疑問に残るため、第一に国内農畜産物の増産体制を構築することが求められます。一方では、環境負荷低減の取組では、かかり増し経費として価格転嫁した農産物が確実に売れるのでしょうか。まずは、環境負荷低減の農産物などが適正な価格で消費者ニーズに合っているのかなどを把握した上で、見合った環境負荷低減の取組による生産体系を図るべきと考えます。
このため、環境負荷生産に配慮しつつも過度な取組条件は、農業経営の負担につながりかねないことから、地域性や農業者個々の経営に合った取組、労働力の確保などの経費に見合った施策を講ずるよう求めます。また、消費者への理解醸成も併せて図ることが求められるというふうに思います。
第二章、基本的な施策の第一節、食料・農業・農村基本計画についてでありますが、二行下がって、食料自給率目標だけ見ても四五%にはほど遠く、なぜ達成できていないのか、いまだ十分な検証がなされていないなどその具体的な施策も乏しいと感じています。
そのようなことから、第十七条七項では、検証部会での指摘なども踏まえ、新たな条文として、政府は、少なくとも毎年一回、達成状況を調査し、その結果を公表しなければならないとしていますが、公表だけでは今までの二の舞にならないのかとの意見も多いことから、次のページをお願いします、食料自給率目標や品目ごとの生産努力目標の未達成については、各プロセスを詳細に公表すべきと考えます。また、公表のみならず、実効性を高めるために、今回明記された条文に加え、これらの達成していない事項の目標については課題を明らかにし、達成に向けた具体的な施策や予算措置を講ずるものとすると明記すべきです。
第二十四条の不測時における措置では、新設事項として、国は、凶作、輸入の減少等の不測の要因により国内食料の供給が不足し支障が生ずる事態の発生をできる限り回避し、略、この条文と、二項においての、国は、略、食料の増産、流通の制限その他の必要な施策を講ずるものとするとしています。
この内容には一定の理解を示しますが、先ほど話したとおり、食料・農業・農村基本法制定後は、作る自由、売る自由として国が生産調整を手放し、生産者、生産者団体で行ってきた経過がありました。
今国会に提出された関連法案の一つである食料供給難事態対策法案については、今まで農業者が積み上げてきた生産努力をないがしろにするような罰則規定は条文化すべきではなく、努力義務などとすることが必要です。また、農産物の生産調整に、国も責任を持って関与するなどを明確化し、官民農が一体となって備蓄体制の構築を基本として食料危機を乗り越えることが前提と考えます。
関連法の内容は、以下のとおりです。御覧ください。
最後になります。四として、まとめ。
以上、基本法改正での新たな条文等について、意見と要望を申し上げました。
四行下がって、現在、農業を取り巻く環境は、世界情勢の変化や異常気象、為替相場の円安などで生産資材価格が高止まりしているほか、水田活用の直接支払交付金の見直しや畑作物の直接支払交付金の単価の改定、改正畜安法による現場での混乱など、北海道においても離農者が後を絶たず、非常に厳しい状況が続いています。
そのようなことから、今回の法改正においては、条文では限界がありますが、農業の現場の意見を十分に反映し、平時からの食料を安定的に確保していくため、次年度も安心して営農できる政策、例えば販売価格と標準的な生産費との価格差補填などの構築が強く求められます。また、農業生産基盤を維持存続、多面的機能の発揮と環境に配慮した農業を促進するための安定的な制度、例えば農地維持支払などの充実の組合せが必要だと思っております。
また、労働力不足に対応すべきスマート農業の促進など、食料安全保障の強化に向けて農業予算を増額し、岐路に立っている日本農業の再興を目指して、国民のための法改正となることも改めてお願いします。
以上、意見陳述といたします。どうもありがとうございました。(拍手)
○野中委員長 ありがとうございました。
次に、三輪参考人、お願いいたします。
○三輪参考人 皆さん、こんにちは。
本日は、食料・農業・農村基本法の改正に当たりまして、御意見いただく機会をいただきまして厚く御礼申し上げます。
私自身でございますが、食料・農業・農村政策審議会基本法検証部会の委員として検証の現場の方に携わらせていただきました。また、あわせて、同審議会の畜産部会長や、甘味資源部会長及び農林水産省の食料安全保障アドバイザリーボードの委員でございましたり、農村デジタルトランスフォーメーション構想検討会の座長などを務めさせていただきまして、今回の基本法の改正に当たりまして様々な角度からこれまで参画をさせていただいてきた者でございます。
今日は、そのような立場から、基本法の改正に当たりまして私見をお伝え申し上げたいというふうに思っております。
まず、同審議会基本法検証部会での議論でございますが、先ほど、ほかの参考人の皆様からもお話がございましたように、現基本法が施行後二十年余りたちまして、農業関係の現場はかなり厳しい状況に置かれているということは御案内のとおりかというふうに思います。その中で、今回まさに適切なタイミングで基本法の改正に対するアクションが取られるということを、私自身、非常にすばらしいことだというふうに理解しております。
審議会の中では、答申まで十七回ですか、私の記憶だと十七回の審議会が開かれまして、その中では、我々審議会委員のみならず、全国の農業者であったり、食品関連の事業者、若しくは自治体の方々など様々な方にお越しいただき、御意見をいただき、議論をさせていただきました。
また、全国十一か所、地方意見交換会というものが開催されまして、私も帯広と仙台と高松の三か所で座長をさせていただきまして、やはり各地それぞれ御意見が違うなと思いながら、現場からの御意見、御要望、若しくは我々に対する厳しい御意見もいただきながら議論をしてきたというふうに思っております。
審議会の中では、それぞれお考えであったりお立場が違う中で様々な議論が闘わされた、意見がぶつかることもあったと思いますが、そのようなことが公開の場でしっかりとなされてきたということがやはり法改正のプロセスとしては重要なのではないかと、委員を務めた立場からは考えておるところでございます。各委員は、今回、これからの二十年、三十年先の日本の農業を見据えた上での議論をしてきたというふうにそれぞれおっしゃっておったのが記憶として持っております。
今回の基本法でございますが、やはり産業政策と農村政策の両輪としてのバランスというのが非常に重要だというふうに思っております。その中で、様々な現場の農業者の声をお聞きする中で聞くと、是非、農業者が誇りを持ってこれからも農業を続けられる、そのような法改正にしてほしいということをかなりストレートに御表現いただいたことが何度もございました。
農業者の方々は、様々な創意工夫をされ、努力をされ、御苦労をされながら所得向上に励んでおられます。そのような取組が今後より一層伸ばせるような法改正であるべきだと私自身も思っております。他産業と農業の所得水準に大きな差がなく、職業として私は農業をやりたいんだというふうに若い方が今後も手を挙げていただけるような、そのような状況をつくるべきだと思っております。
また、そのような魅力的でもうかる農業ができたときには、若い方の就農が今後増えるということが期待されますし、魅力的な農業を核にした地域特有のローカルビジネスの創出などにも貢献が期待されます。
なお、このとき、もうかる農業というのは、必ずしも規模の大小とか、専業、兼業という区分ではないというふうに思っております。農業を本気で取り組んで、農業で生計を成り立たせていく、そのような思いを持った方々が農業の中心にあるべきだと思いますので、そこのところは私の御意見として申し上げたいというふうに思います。
ここから三点、食料安全保障、スマート農業、サステーナビリティーについて御意見を申し上げたいというふうに思います。
初めに、食料安全保障でございます。
先ほど申し上げましたように、農水省のアドバイザリーボードの委員として、今の食料安全保障の状況についてのモニタリング等にも関与させていただいております。御案内のとおり、非常に厳しい状況だというふうに感じております。
気候変動、新興国の需要増加に伴う国際的な需給の逼迫、特に、プロテインクライシスと言われるように、たんぱく質の需要増加に基づく国際的な緊張は高まっております。また、国際情勢は非常に不安定化しておりますし、新型コロナを始めとしたパンデミック、家畜の伝染病、若しくは日本固有の事情ではございますが、為替レート、円安による輸入資材の高騰等もございました。
特に、気候変動と新興国の需要の急増につきましては、これからの中期的な期間において、なかなかそのようなリスクが減少するというのは見込めない状況だというふうに理解しております。
つきましては、今回、基本法改正を踏まえまして、国内の農業生産の基盤を更に強くし、農業生産、やはり自分たちの食料を極力自分たちで賄っていくということを進めていくのが、もう大前提として重要になっていく。安くて良質な農産物を海外から集められるというふうな状況は、もはや、しばらくの間は残念ながら来ないと理解をすべきだというふうに理解をしております。
一方で、需要については、人口が減少局面にありますし、高齢化が進んでおりますので、一人当たりの食料消費量も減少傾向にございます。今後の食料需給を見ていく際には、中長期のきちっとしたサイエンティフィックな予測も含めて、冷静な分析と、そこからの政策立案が必要かというふうに考えております。
特に、需要に基づく生産の拡大というのが不可欠だと思っております。最近は、小売店であったり外食店におきましても、国産小麦を使ったパンでございましたり、国産の大豆を使ったしょうゆとか納豆とか、そういうようなものが消費者から非常に高く評価されておりますし、メーカーもそのような消費者の声に応えて国産原材料を使った食品や外食メニューなんかもどんどん出していただいています。そのような、消費者が欲しい、農業者が作りたいと言っているものをより自由に後押しできるような、そのような政策が必要かというふうに考えております。
二点目、スマート農業でございます。
農業就業人口の減少は、残念ながら、これから先もしばらくは、下げ止まりというのはもう少し先の時期になると思います。なぜなら、現在の農業者の年齢構成を見ますと、高齢者の方が、大ベテランの先輩方が圧倒的多数でございます。
十年前の議論であれば、その方々にいかに農業をこれからも続けていただくかといったことが重要なファクターでございましたが、私の親戚も高齢で農業を続けて頑張っておるんですが、そのような高齢の農業者に、これから更に十年、十五年というのは難しい状況に残念ながらなってきております。いよいよ日本の農業も代替わりをスムーズに進めていく必要があるというふうに思っております。
一方、外国人材をこれまでは低いコストでうまく現場で活用させていただく、若しくは研修として御一緒させていただくということがございましたが、海外の人件費単価も向上しておるというところを踏まえますと、低コストな人材をふんだんに投入するという農業モデルは限界を迎えているということを私自身は考えております。
一方で、食料安全保障の観点、農村振興の観点でいきますと、少なくとも今の農業政策の規模というのをしっかりと今後も維持していくというのがまずはもう基本線となるかというふうに思っておりますので、その中でいきますと、より少ない農業者が今の農業の規模を維持するということを考えますと、劇的な生産性向上が必要になります。
それについて、今の二倍働きましょう、三倍働きましょうというのは非現実的ですので、その差を埋めるためには、スマート農業であったり、農業のDX、デジタルトランスフォーメーションというのが避けては通れない状況になっているというふうに思っております。
私自身、DX構想の検討会の座長やスマート農業検討会の委員、若しくは農研機構のアドバイザリーボード座長等を務めておりますが、近年、スマート農業については、いよいよ現場の農業者の方々が使いやすいものが出てきた、普及がし始めたというふうに理解しております。今いろいろな現場に行くと、この機械があってよかった、このシステムを使ってすごくいいよというふうな声が徐々に出てきているというところでございます。やはり、このような普及をより加速させていくということが、これからの日本の農業にとっては重要になると思っております。
そのためには、これからも、農研機構であったり、公設試であったり、大学であったり、民間企業、スマート農業の研究開発だったり、普及に向けての取組を積極的に政策として支援していくことが重要だというふうにお伝えしたいと思います。
また、スマート農業、いろいろな使いやすい技術が出てきておりますが、それでも、正直申し上げると、全員が使える技術ではないというふうに思います。
一方で、スマート農業なしにはこれからの日本の農業を維持するというのは難しいということを考えますと、今農水省が進めております農業支援サービスのように、自ら例えばドローンを買うことができない、ドローンを飛ばすトレーニングは受けていないけれども、地域の専門の事業者、例えば今、滋賀県ではJAがそのような役割を担っていますし、ほかの地域では民間企業が担っております。そこにドローンでのモニタリングのサービス、ドローンでの農薬散布のサービスを頼む、いわゆるアウトソーシングをすることによって、投資であったりITに対するスキルがなくてもスマート農業の恩恵を受けられる、このような状況をつくっていくというのが、これからのスマート農業の普及の一つの絵姿だというふうに思っております。
最後、三つ目のサステーナビリティーの部分でございます。
今、農業の現場では、SDGsに配慮するというのが、もう多くの農業者の方々が異口同音におっしゃられることでございます。
先ほど、参考人の方からお話がありましたように、みどりの食料システム戦略のように、国としての大きな目標も出てきました。非常に意欲的な目標でございますので、すぐにこれが達成できるかとか、今のままこれが達成できるかというと、難しい面がたくさんあると思います。一方で、国際的には日本がこのような目標を立てたということに対しては高い評価がなされていますので、様々な政策をもって、農業者の方々が無理なくこのような戦略の目標を達成できるような体制をつくる、それに対しての必要な予算を講じていくということが不可欠かと思っております。
その際に、一点重要な視点を申し上げたいと思います。
少し前までは、環境対策というのは、コスト増、農業者の方々の利益を押し下げる要因でございました。一方で、近年は、環境配慮をすることによってもうかる農業を実現するという、二つのベクトルが、真逆ではなくて、同じ方向を向くようなものが出てまいりました。これは、まさに大きなパラダイムシフトだというふうに思っております。
背景には、肥料や飼料、農薬などの資材の高騰がございます。
一例を申し上げますと、今スマート農業によって、可変施肥という、生育状況や土壌の状態を見て肥料をその場で混ぜて、適量、最低限の適量を与える技術がございます。元々は環境負荷、例えば地下水だったり土壌に対する負荷を下げるという環境面の技術として出てきたものでございますが、今農業者の方にお話を聞きますと、これによって肥料代が下がったということで、非常に喜んでおられます。つまり、環境に優しい農業をすることが収益を引き上げる要因につながってくるわけです。同じようなものは、例えば農薬のピンポイント散布なども同じような効果が得られます。
また、このような仕組みは、食料安全保障にとってもプラスの効果をもたらします。御案内のとおり、リンやカリなど、肥料原料について輸入面でリスクを抱えている状況でございます。その中で、輸入肥料の使用量を極力下げる、若しくは輸入の飼料の消費量を下げるような効率的なことをやることによって、環境、収益、食料安保、この三つを一石三鳥のような形で実現できる。
やはり、先ほどの御意見にもありましたが、環境対策が農業の振興の逆風になってはいけないものだと思っておりますので、このように、農業者の方々が自ら前向きに取り組んでいただけるような環境対策、環境配慮というのを実現すべきだと思っております。
また、その中では、そのような環境若しくは地域に貢献するような農産物の価値を消費者の方にきちんと伝えて、消費者の方々から評価いただくということが重要だというふうに思っております。
今、農林水産省の方は、温室効果ガスの見える化であったり生物多様性配慮の見える化の実証などをやっておるというふうに伺っております。なかなか消費者の方々にプラスアルファの価格を払っていただくというのは難しいというのは、これまでもそのような壁に何度も当たってきたわけですが、まずは、コストがどのようなことがかかっているのか、若しくはどのような付加価値が生まれているのか、どのように社会に貢献しているのかということを伝える。それに対して、まずは、少ない消費者からかもしれませんが、エシカル消費など、意識を持っておられる消費者の方からプラスアルファを、その価値に応じた価格を払っていただくということから始めていただくことによって、農業者の方々が収益を上げて、更にそのような取組を増やしていきたいというふうに思っていただけるのではないかというふうに思っております。
最後となりますが、基本法の改正というのは日本の農業の新たな第一歩だというふうに思っております。まさにスタートなだけでございますので、これから先、ここに書いてあることを実現する、その中で、農業者、消費者、国民全体が、日本の農業がすばらしいと、これだけ再浮上してよかったというふうに思っていただけるためには、ここから先の具体的なアクションが重要だというふうに思っております。
そんな中、是非、先生方には、農業者そして消費者の後押しになるような施策を講じていただければというふうに思っております。
私の方からの意見は以上でございます。ありがとうございました。(拍手)
○野中委員長 ありがとうございました。
次に、西村参考人、お願いいたします。
○西村参考人 おはようございます。
本日は、このような機会を与えていただきましたこと、心より御礼申し上げます。
NPO法人兵庫農漁村社会研究所の西村でございます。三月末まで兵庫県職員として有機農業の推進をしてまいりました。
取組には、天皇杯を受賞したおおや高原有機野菜部会の育成や、コウノトリ野生復帰事業の要となるコウノトリ育む農法の技術確立と普及があります。
二〇〇五年に命名したコウノトリ育む農法は、二〇〇二年から技術確立に着手し、現在、六百ヘクタール以上の面積を有する産地になりました。全国はもちろんのこと、海外にも販路を拡大しています。
二〇〇九年には兵庫県環境創造型農業推進計画を策定し、二〇二〇年には有機農業の面積を千ヘクタールにするという目標を達成しました。この間、兵庫県有機農業ネットワーク会議を創設し、様々な形態の有機農業者や消費者団体、関係機関と連携して有機農業の啓発事業を実施いたしました。
目標達成のために、県内十二か所で有機農業教室を開講し、有機農業の理解者を育て、エシカル消費を創出し、慣行農家からの転換者や新規就農者を育て、各地に有機農業の輪を拡大させました。さらに、有機農業指導員認定制度を創設し、指導者を養成し、更なる学びの場の拡大を図るとともに、地道な教育活動を展開しました。
このような取組を基に、有機農業の推進について、現場のお話をさせていただきたいと思います。
まず初めに、風土に根差した有機農業技術の確立のために、公的試験研究の充実が必要です。
論点の有機農業と食料安定供給には、有機農業は難易度が高く、労力がかかり、収量も減るとありますが、これは有機農業に対するステレオタイプの思い込みです。風土に合った技術を確立すれば、慣行と遜色のない収量と品質を確保することができます。
おおや高原有機野菜部会やコウノトリ育む農法では、風土に合った技術確立を、農業技術センターや農業改良普及センターなどの公的指導研究機関が支援をしてきました。
フランスでは有機農業の研究者が国の機関だけでも三千人以上おり、自然科学と社会科学の両面から技術確立や制度設計をしています。日本でも、有機農業の生産安定を図るために、普及組織や研究機関が有機農業の技術確立を優先に行うようにすべきですし、そのための予算が必要です。私は、現職時代、自腹で調査研究や研さんをしながら、有機農業の技術確立をしてまいりました。
次に、指導者の養成です。
日本は有機農業の指導者が少なく、とりわけ普及センターに有機農業を指導できる人材はほとんどいません。そのため、公的機関による無料の指導が難しい状況です。有機農業を無料で学べるようにするためにも指導者の確保が必要ですし、指導者の養成には研修制度の充実が不可欠です。
韓国では、有機農業の推進のために、まず、指導者の養成に着手しています。
三番目に、学びの場づくりです。
有機農業者には利他的な価値観が必要です。もうけるために有機農業をするのではなく、地域環境や次世代の命を守る使命を持って有機農業を実践する人材を育てなければ、有機農業の拡大は難しいと思います。有機農業への転換には価値観の変容が必要だからです。
有機農業教室では、有機農業研究の第一人者である神戸大学名誉教授保田茂先生に講師をしていただき、有機農業の理念、日本の有機農業の成り立ちや歴史、社会的公正をただす視点、食と農の関係を講義いただいています。そして、天地有機という大自然の法則を農業技術に置き換える農法ならば、化学肥料や農薬を必要としない農業生産ができることを、講義や実習を通して御教示いただいています。
受講生も、学びの中から、よい土がよい食べ物を作り、よい食べ物がよい人をつくり、よい人がよい社会をつくるということを会得して、有機農業者やエシカル消費者が誕生しています。
池畑先生にも応援いただいておりますように、毎年多くの受講生が巣立ち、有機農業の裾野が広がっています。
学びの成果の一つとして、山口先生も応援いただいていますように、学校給食の有機化に取り組む生産組織や、有機農業によって地域振興をしようとする市民活動家も誕生しています。
日本では、有機農業を学びたいと思っても、農業高校や大学で有機農業を学ぶことがほぼできません。有機農業を学ぶコースがある農業大学校は四県程度です。有機農業を指導する指導教員の確保も課題です。
国立韓国農業大学は、授業料、兵役が免除で、自身の経営計画が卒論になります。経営開始に必要な資金は国が貸与します。有機農業は必須教科になっています。
海外では、有機農業は安全な食料供給だけではなく、環境を保全する公益役割があると国民から認知されており、有機農業者への所得補償も充実し、様々なサービスが無料で受けられます。例えば、有機認証制度の認証経費も政府からの補助で、実質、農家負担はありません。アメリカやEUでは、普及員による農業指導は有料ですが、有機農業の指導は無料で受けられます。
しかし、日本では有機農業者への優遇政策は少なく、有機農業を学ぶのにお金がかかります。我々が実施している有機農業教室も、公的支援がないため、授業料で運営しています。有機農業の推進には学びの場が不可欠です。海外のような無償化のための政策が望まれます。
四つ目に、エシカル消費者の育成です。
有機農業教室には、消費者も多く受講しています。自分の食べ方が農業や環境を守ることを学び、エシカルな消費者になって有機農産物を買い支えたり、農地を借りて農業を実践する人もいます。
ロシアにはダーチャという菜園つき別荘があり、一区画六百平米ほどの土地を国から借りて小屋を建てて、野菜や果樹を作り、家族の食料を確保します。三千四百万世帯の八割がダーチャを利用し、ロシアのジャガイモの生産量の九二%を賄っています。
フランスでは、農薬使用にライセンスが必要なので、ライセンスを持たない家庭菜園や市民農園では、農薬使用はほぼ皆無です。
日本でも、農薬取締法を見直し、都市部では市民農園、農村部では家庭菜園の有機化を進め、安全な食料の確保と自給率の向上を目指してはいかがでしょうか。
自然の摂理に基づいた有機農業は、生産経費も少なく、環境に負荷を与えることなく、安全でおいしい農産物を生産することができます。とりわけ、生産性を重視しない家庭菜園には最適だと思います。
五番目に、価格政策、所得政策です。
農業の衰退の背景には、自分が作ったものに自分で正当な価格がつけられないという現状があります。
コウノトリ育む農法のお米は、生産費や労賃が回収できる価格を設定し、消費者や流通業者に御理解いただく努力を重ねて、再生産できる価格決定によって経営安定を図りました。
とりわけ、兵庫県北部のような条件不利地域では、旧来の農政のような選択的規模拡大は難しく、生産性向上も思うように進みません。小規模な条件不利地にあって、おおや高原有機野菜部会やコウノトリ育む農法では、自然の摂理に基づく有機農業を取り入れ、消費者の理解を得ながら生産費所得補償方式で価格を決定して、経営安定を図ってまいりました。
EUに倣い、小規模農家の所得維持を図らなければ、日本の農村の崩壊は目に見えて明らかです。
中山間の条件不利地域では、兼業農家や年金生活者が、農地のみならず水路や農道を守り、農業を営みながら地域環境を維持しています。農業の持つ多面的機能を評価して、地域環境の番人でもある農業者の生活を支える政策が求められます。
価格政策と生産振興政策は車の両輪だと思います。
私の実家は酪農家ですが、低い乳価と高騰する餌代のために、生産すればするほど赤字が発生して、借金が雪だるま式に増えて、やむなく昨年廃業しました。国が進める規模拡大路線で頑張ってきた酪農家ほど借金がかさみ、廃業すらままならない悲惨な状況です。農業者が幾ら努力しても、価格政策を抜きにして農業振興は難しいと感じています。
私は、県職員になり、今の給料を農業で稼ごうと思ったらどんなに大変か知っているので、農業者の役に立ちたい一心で仕事に邁進してまいりました。
旧基本法は農業者視点に立った目的が掲げられ、現行基本法は国民全体の視点が重視されました。新たな基本法では、国際的視点や次世代の幸せを加味する視点が求められると思います。
有機農業は、地球温暖化防止、生物多様性保全、自給率向上、地域活性化、若い担い手の確保など、様々な農政課題を解決する手段となります。
ムーンショットという言葉を御存じのように、ケネディ大統領は一九六一年にアポロ計画を発表して、一九六〇年代のうちに人類を月に立たせると宣言しました。誰もがその実現を疑ったと思います。しかし、彼は、綿密かつ大胆な実施計画を実践し、一九六九年に人類を月に立たせました。
みどりの食料システム戦略において、有機農業面積を百万ヘクタールにするという目標が示されました。次はムーンショットを成功させるために綿密かつ大胆な戦略と実行が必要だと思います。
私は、有機農業推進という明確な推進目標を掲げ、その目標を達成しようと現場で試行錯誤してまいりました。その中から、本日、必要と思われる一から五についてお話をさせていただきました。是非、現場の声を政策に反映させていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。(拍手)
○野中委員長 ありがとうございました。
次に、鈴木参考人、お願いいたします。
○鈴木参考人 皆さん、おはようございます。
本日は、このような機会をいただきまして、誠にありがとうございます。東京大学の鈴木でございます。
皆様に配付いただいております、基本法の改定は食料・農業・農村を救うかというペーパーも参考にしながら、意見陳述をさせていただきます。
今、農村現場を回りますと、平均年齢六十八・四歳という衝撃的な数字が示していますように、あと十年で日本の農業、農村のどれだけが崩壊しかねないか。それが今、コスト高で苦しむ廃業が増えて、スピードが加速しております。
一方で、お金を出せばいつでも輸入できる時代は終わりを告げました。
そういう中で、今、基本法を改定するということは、世界情勢の悪化と国内農業の疲弊を踏まえて、今度こそ国内生産への支援を早急に強化して食料自給率を高め、いつでも国民の命を守れる国にするんだということを打ち出すためだというふうに考えられました。
新基本法は確かに食料安全保障の確保の必要性を掲げている点が評価されますが、原案には、食料自給率、その向上という言葉さえ出てきていなかった。与党からの要請で自給率向上という文言は加えられましたが、しかし、内容で、なぜ自給率向上が必要で、そのために抜本的な政策をやるのかというようなことは書かれておりません。
事務方の説明では、自給率を唯一の指標にすることがおかしい、一本足打法が駄目だというようなことが言われましたが、これは自給率の意味をきちんと理解していないと思います。
〔委員長退席、伊東(良)委員長代理着席〕
五ページの表を見ていただくと分かりますが、一〇〇%輸入に頼っている肥料原料を考慮すると実質自給率は三八%から二二%、さらに、野菜だけでなく米などの種も自給率が一割に低下すると、実質的、総合的自給率は九・二%まで下がります。
つまり、いろいろな生産要素の指標が別に必要なんだということはそのとおりなんですが、それらは総合的に実質自給率に集約される構成要素である。それによって、構成要素の自給率が下がれば実質自給率が低下してしまって、そのこと自体が大変だ、つまり、総合的自給率というものが最終的に一番重要な指標なんだ。ですから、一本足打法が駄目だというような議論は間違いだということは認識する必要があると思います。
それから、今、現行の農業支援は、直接支払い、いわゆるゲタとか、ナラシとか、収入保険とか、中山間地払いなど十分行われているから、もうこれ以上必要ないというようなことが説明されております。これは理解に苦しみます。
それが十分ならば、なぜ農業の疲弊が止まらないのでしょうか。コスト上昇が加味されない現行政策では、今回のようなコスト高に役に立っていないということです。だからこの農業危機があるんだという認識が必要ではないか。
しかし、今苦しむ農家を支える政策は提示されないまま、輸入先との関係の強化とか、海外で農業生産を増やす、そこに投資をするというようなことが言われております。それを否定はしませんが、幾ら関係強化しても、海外生産を増やしても、不測の事態に物流が止まれば、日本に入ってきません。ですから、一番必要なのは国内生産の強化であるということがまず前提になるのではないか。
いやいや、有事になったら慌ててカロリーを取りやすい作物への転換、増産命令と供出を義務づけて、それをやらない、増産計画を出さないと罰金を科すような有事立法をちゃんと作るからと言っていますが、平時に輸入に頼り、国内生産を支えないでおいて、有事だけ作れと言われても無理です。だから、ふだんから自給率を高めておけば済む話だ。この点については、現場でも、この有事立法について非常に厳しい批判が今巻き起こっていると私は理解しております。
それから、今回の基本法の改定において、多様な農業経営体の位置づけが後退しているのではないかという議論がありました。最終的には、これに配慮するという文言が入りましたが、二十六条の一条で分かるように、担い手には施策を講じる、二項で多様な農業者には配慮するとなっています。つまり、施策の対象はあくまでも効率的、安定的な農業経営であり、その他は施策の対象としないということをやはり明記しているわけですよね。これでは、定年帰農や半農半Xや消費者グループなど多様な農業経営体が、今、農村コミュニティーを維持し、生産を維持するために重要な存在であるということが反映されないではないかということが問題になります。
それから、麦や大豆の増産ももちろん重要ですが、だからといって、短絡的に田んぼを潰せばいいというような畑地化推進は極めて危険であります。水田を水田として維持することが有事の食料安全保障の要であり、地域コミュニティーも伝統文化も維持され、洪水も止めてくれます。
片や中国は、有事に備えて、十四億人の人口が一年半食べられるだけの穀物備蓄を始めました。日本はどうでしょうか。せいぜい一・五か月分の備蓄しかありません。これで、いざというときに国民の命を守れるでしょうか。
そもそも、米は今八百万トン弱しか作っていませんが、日本の水田をフル活用すれば一千二百万トン作る潜在生産力があります。今こそ農家の皆さんに頑張ってもらって、米や食料を増産して、それを国の責任で備蓄する、こういう政策を取れば、しっかりと危機に備えることができる。
いや、そんな金がどこにあるんだということで、すぐ財政当局から言われておしまいになってしまいますが、アメリカから武器を買うのに四十三兆円も使うお金があるのでしたら、まず命を守る食料をしっかりと国内で守るために、数兆円使ってもその方が先じゃないかということを今考えないと、手遅れになります。
それから、コスト上昇を流通段階でスライドしてしっかりと反映していくというフランスのエガリム2法を参考にして、日本もこういうふうな強制的な政策を入れるというようなことが目玉だと言われましたが、これは無理です。小売部門が強い日本で、このようなことはできるわけがない。フランスでもそう簡単にはできていない。
一番問題なのは、そもそも、生産者も限界、消費者もこれ以上価格が上がったら限界なわけですから、その差を埋めるのがやはり政策の役割ではないか。ほかの国ではしっかりとその差を直接支払いで生産者に払うような政策をやっているわけですから、そのことをちゃんと考えるべきである。
それから、種の問題も深刻です。野菜の自給率は八割と言われていますが、その九割は海外の畑で種取りをしてもらっている。これが止まったら、自給率八%になってしまう。だから、私たちの大事な種を国内で循環させる仕組みをきちんとつくらなければ、日本の食料が守れない。食料は命の源ですが、その源は種です。ですから、それを含めて自給率を計算し直すと、さっき言ったとおり、種の自給率が一割まで下がれば最悪九・二%という計算もできます。
種については、野菜だけでなくて、米などの種も九割海外に依存するという前提を置きました。そんなことは今ないじゃないかといいますが、私たちは種の政策改定でその方向性に進んでおります。ですから、今こそこのような流れに歯止めをかけて、種の自給を確立し、農家の自家採種の権利を守ることを基本法に明記すべきではないか。そうしないと、いざというときに日本人の命を守ることができない。種の自給なくして食料の自給はないということも重要ではないかと思います。
それから、基本法改定に先立ちまして、みどり戦略が策定されました。これは有機農業を大幅に拡大するという大方針を打ち出したわけで、ある意味、農業基本法に匹敵するような方向性が出たわけです。それを受けていろいろな形で環境負荷軽減については書かれていますけれども、肝腎の有機農業という言葉は一言も出てきません。このことは非常に違和感を感じる部分がある、整合性が問われるのではないかということもあります。
結局、今、コスト高に苦しむ農家の所得を支える仕組みは十分であるかのように言われて、そういう政策は提案されないままで、ある意味、最近よく言われている、規模拡大によるコストダウンで何とかなる、輸出を拡大すればいい、スマート農業でバラ色の未来が開ける。さらに、海外農業生産の投資を進める、そして農業法人への企業の参入の条件を緩和する、こういうふうな政策が打ち出されてきている。これも大事ではありますけれども、それが、今苦しみながらも踏ん張っている現場の農家の所得を改善するために直結する政策がどうかということが私は問われていると思います。
このような政策だけを充実しても、IT大手企業などが描くような無人の巨大なデジタル農業がぽつりと各地に残ったとしても、日本の農山漁村の多くが原野に戻り、地域社会も文化も消えて、自給率も更に下がって、都市が過密化して、いざ食料が入ってこないような事態になったら、餓死者が続出するようないびつな国土にまだまだ進みかねないんだということが心配されます。
ですので、基本法の関連法でも、スマート農業や海外農業投資や農外資本比率の拡大などについて新たな法案を準備すると言っておりますが、そうであるならば、関連法の一番に追加されるべきは、現在、農村現場で苦闘している農業の担い手を支えて自給率を上げるための直接支払いなどの充実ではないか。
まず第一に、農地が農地として維持されることに対する基礎支払い、それから、経営が継続できるように、標準的生産費との差額を補填するような直接支払い、そして、政府買入れによる備蓄と国内外援助で需給の最終調整弁を国が持つ、このような政策を持つことを基本法で方向づけて、関連法できちんと整備する。
具体的な計算はそこに出していますが、十アール三万円、全農地に払っても一・三兆円です。今、米と牛乳が一番、酪農が一番大変ですが、それを赤字を補填するには、米で三千五百億円、酪農で七百五十億円必要です。さらに、米を備蓄用に五百万トン、一万二千円で買い入れても一兆円です。総計二・七兆円です。
財源なんかないというのは間違っている。必要なものには財源を確保するのが筋であります。農業の疲弊は、農家の問題をはるかに超えて、消費者、国民の命の問題だと認識する必要があります。不測の事態に国民の命を守ることを国防と言うならば、食料を守ることこそが国民の命を守るための一番の国防とも言える。そのための必要な予算は優先的に確保する。積極財政は、今こそ農業を守ることに必要なのではないか。
防衛費に毎年十兆円の予算が確保されているのに対して、農水予算は二兆円程度で頭打ちにされている、これは大きくバランスを欠いております。今こそ、農林水産省予算の枠を超えて、安全保障予算という大枠で、国民の食料と農業、農村を守るための抜本的な政策と予算が不可欠になっております。
農業、農村で農家の皆様が頑張っているおかげで国民の命が守られているんだということを今こそしっかりと認識しないと手遅れになるというのが、現状の危機的な実態だと思います。今は正念場であります。これからの議論に期待したいと思います。
以上で私の陳述を終わります。ありがとうございました。(拍手)
〔伊東(良)委員長代理退席、委員長着席〕
○野中委員長 ありがとうございました。
次に、安藤参考人、お願いいたします。
○安藤参考人 おはようございます。東京大学の安藤と申します。
初めに、このような意見陳述の機会を与えてくださいましたことに対して、心より感謝を申し上げます。
大変恐縮ですが、十五分以内に報告を収めるために、配付していただいた参考資料とは異なる原稿を用意してまいりました。申し訳ございません。
私の報告は、大きく二つに分かれます。最初に、食料自給率をめぐる問題についての歴史を振り返り、整理を行います。危機のときこそ歴史に学ぶ必要があるということです。その上で、基本法検証部会の議論を踏まえながら、今回の基本法改正について、やや批判的に論評させていただきます。私の誤解や誤りがある場合は、どうか御容赦願う次第です。
それでは、最初に、食料自給率の低下について、その歴史を振り返ることから始めたいと思います。
現在問題となっている食料自給率が大きく低下したのは、一九六一年に制定された農業基本法による基本法農政期でした。農業基本法は国の施策として、外国産農産物と競争関係にある農産物の生産の合理化を明記していました。この前提にあるのは、アメリカの小麦、大豆、トウモロコシなどの購入でした。
事実、既に一九五九年の時点で飼料用トウモロコシの輸入は自由化されています。外貨事情の改善を受けて一九六〇年に貿易、為替自由化計画大綱が策定されたときに、農産物も含めた自由化率を四〇%から八〇%に引き上げることが宣言されました。そして、農業基本法が制定された一九六一年に、大豆なたね交付金暫定法によって日本から大豆生産が消えていきます。さらに、一九六四年にはグレーンソルガムの輸入が自由化され、飼料穀物の全面的な輸入依存が確立しました。
言うまでもなくアメリカは日本を自国の農産物のためのマーケットとして捉えていましたが、日本側も、飼料用穀物を肥料や農薬等と同様の生産資材として捉えていたのです。選択的拡大が掲げた畜産三倍の内実はそれでした。
食料自給率の低下は必然だったということです。本当に食料自給率の向上を図ろうとするのであれば、この時点まで遡って歴史の歯車を逆転させなければなりません。しかし、残念ながら、今回の基本法の見直しはそこまで踏み込むことはありませんでした。
今回の基本法改正の背景には、ウクライナ戦争を契機とする世界食料危機、肥料や飼料の価格の高騰がありました。食料安全保障が重要な案件となり、基本法の改正が行われることになったのです。
再び歴史を振り返りますと、食料危機は今回が初めてのことではありません。
一九七〇年代前半に世界穀物危機、アメリカの大豆輸出禁止、さらに第一次石油危機、経常収支の赤字転落などによって食料安全保障が国家的な課題となり、食料自給率の向上が問題とされることになりました。
この少し前には、生産過剰となった米の生産調整が始まっていました。減反から転作へと政策は転換され、自給率の低い麦、大豆、飼料作物の生産増大が目指されることになりました。米価も引き上げられました。農業が見直され、農業に対して追い風が吹いたことがあったのです。
しかし、このときの農業の見直しは一時的なもので終わってしまいました。まさに、喉元過ぎれば熱さを忘れるです。それどころか、食料自給率向上のための抜本的な政策の転換は当時も考えられてはいなかったのです。
一九七五年の農政審議会答申「食糧問題の展望と食糧政策の方向」では、今後とも輸入に依存せざるを得ないものについては、その安定的輸入の確保を図る等、総合的食料政策の展開を図るべきとし、中小家畜の生産に必要な飼料穀物、特にトウモロコシ、コウリャンは、その需要量が巨大であることから、需要の大部分はやはり輸入に依存せざるを得ないと記していました。食料自給率低下の最大の要因である、飼料のアメリカからの輸入依存体制に手がつけられることはなかったのです。
今回の食料安全保障をめぐる騒動でも、同じことが繰り返されるのではないでしょうか。そして、そうした歴史の積み重ねの上に現在の私たちがあることを忘れてはならないと思います。
話を現在に戻します。
基本法検証部会の最終答申は、食料、農業、環境、農村の四分野に分けて施策の方向を示し、改正法案も基本的にそれを踏襲しています。食料安全保障の確保、環境と調和の取れた食料システムの確立、農業の持続的な発展、農村の振興の四つです。
ここで違和感が残るのは、みどりの食料システム戦略が、農業ではなく環境に区分されたことです。有機農業の栽培面積の拡大など、これまでの農業生産の在り方を根本から見直し、そこから新たな農村社会を展望することがみどりの食料システム戦略には求められていたと思うのですが、その期待は裏切られる結果となりました。
また、みどりの食料システム戦略が環境に区分されたことで、食料安全保障のための直接支払いという政策は出てこないことになりました。農業に区分されていない以上、農業生産支持のための直接支払いという論理は出てこないからです。食料供給基盤を拡充し、それを支えていく直接支払いの芽は最終答申の段階で摘まれてしまい、その後も復活しませんでした。もし仮に直接支払いが実施されたとしても、イギリスのような環境公共財の供給に見合う支払いしか行われないでしょう。さらに、環境負荷低減推進のため、それが補助金交付のための要件として課されることになりました。
そうではなく、求められているのは、農村の現場からのボトムアップの動きではないでしょうか。上からの改革の強制では、動くものも動きません。これは地域計画の策定についても同様だと考えます。
基本法検証部会では高い密度の検討が行われましたが、結局は既定路線の上を歩いたにすぎなかったように思います。検証部会が始まったのは二〇二二年九月二十七日ですが、その前の九月九日に食料安定供給・農林水産業基盤強化本部が出した「新しい資本主義の下での農林水産政策の新たな展開」では、1スマート技術等の活用による担い手の育成、2輸出促進、3農林水産業のグリーン化、4食料安全保障の強化の四本が柱とされました。
そこでは、スマート技術等の活用による担い手の育成については、多額の投資に備えた資本の充実、アウトソーシングの受け手の育成が、輸出促進については輸出産地の形成、品種等の知財の保護が、農林水産業のグリーン化については環境負荷の少ない持続可能な食料システムの確立が記されていました。食料安全保障の強化については、1小麦、大豆、飼料作物について、輸入依存からの脱却等、生産構造の転換、2国産原材料安定調達のための食品産業と産地の提携、3生産、流通コストを反映した価格形成を促すための枠組みづくりと平時でも食品へのアクセスが困難な社会的弱者への対応の三つが記されていました。
ここからお分かりのように、改正の方向は既にこの時点で示されていたのです。実際、多額の投資に備えた資本の充実は農地法の改正案として反映されましたし、輸出産地と適正な価格形成は基本法の改正案に書き込まれました。社会的弱者への対応はFAOのフードセキュリティーの概念とリンクしながら、国民一人一人の食料安全保障となりました。学者の後知恵にすぎませんが、検討前から見直しの方向は決まっていたということです。
政策体系という点でも気になるところがあります。輸出促進は食料安全保障の中に入れられました。さすがに輸出促進を基本法の基本理念に掲げることはできなかったということでしょう。その結果、食料安全保障という母屋は輸出というひさしに乗っ取られてしまい、全体として食料安全保障の領域が大きい、いびつな政策体系になってしまいました。食料安全保障のためには、農業生産基盤の強化、国内供給力の強化にもっと力を入れるというのが自然な考えだと思います。そして、その供給力の在り方にみどりの食料システム戦略が関連してくるのであれば、スマート農業による生産性の向上だけではなく、持続的なという言葉の象徴とも言える循環、有機という用語が農業分野にもっと書き込まれるべきだったのではないでしょうか。
加えて、基本法改正の後に何らかの政策的な新機軸を期待することはできません。現在の基本法が制定されたときには、麦、大豆の本作化のため転作奨励金が増額され、中山間地域等直接支払制度の創設がそれに続きました。今回の基本法改正でそれに見合うような新機軸となる政策が登場するようには思われません。
例えば、今回の改正のポイントとなる環境負荷低減については、みどりの食料システム法が二〇二二年に制定済みですし、政策はスタートしています。スマート農業も二〇二三年度補正予算で措置され、事業は走っております。基本法改正を待たずして政策は動いているのです。農業を担う者を中小規模農家にまで広げた農業経営基盤強化促進法も改正済みですし、半農半Xのための農地の権利取得の下限面積の撤廃も既に行われています。主要な施策は出尽くしているように私には見えます。
確かに不測時における食料安全保障は大きな変化ですが、合理的な価格形成は先送りとなり、自己資本強化のための農地所有適格法人に対する食品産業等の出資規制の緩和、農業振興地域の運用の厳格化など注目すべき改正も提案されましたが、いずれも新たな予算を伴わないものばかりです。
基本法改正の議論によって農業生産者の間に期待感や高揚感が広がらないのはそのためではないでしょうか。また、賃金上昇が物価上昇に追いつかず、食料品価格の高騰によってエンゲル係数が上昇を続ける中で価格転嫁を打ち出せば、格差拡大で取り残されていると感じている人々から怨嗟の声が上がりかねません。国民一人一人の食料安全保障のための施策の内実は、国民の困窮に応えるものとはなっていないように思います。
最後になります。
基本法検証部会の最終答申の、離農の受皿となる法人の持続的な経営を実現に該当するものとして、農振法や農地法の改正によって、農地の確保、適正利用に係る措置の強化を図る一方、将来にわたって農地の総量を確保し、最大限活用を図るための措置という名目で、懸念払拭措置を講じた上で食品事業者等との連携による出資の柔軟化が図られることになりました。
直接的な狙いは、受皿と法人の経営基盤強化です。しかし、食品産業による農業生産者に対する影響力が強まり、大規模経営の系列化や囲い込みとなってしまう可能性を否定することはできません。
ただし、そうはいいながらも、実際の評価は複雑で難しく、私としても迷うところです。地域の農地や雇用の受皿として活動する農地所有適格法人の中には、生産規模の拡大や経営の多角化に取り組む中で、取引先等からの出資により資本面での増強を図り、更なる投資につなげる事例や、実需者の視点を取り込み経営発展を図る事例があるという記述はそのとおりですし、経営発展のための投資金額は急上昇しており、財務基盤の強化は必須です。農業への参入や契約栽培等により品質のよい原料の確保やバリューチェーンの構築を行い、高付加価値化や農業者への利益還元を実現している事例も間違っていません。
こうした方向は、ある意味、必然なのかもしれません。しかし、食品産業と連携した輸出産地という記述などからすると、農林水産省の顧客は食品産業という印象が全体的に強く、不安なしとすることはできないと考える次第です。
以上で、私の意見陳述を終わります。御清聴くださいまして、ありがとうございました。(拍手)
○野中委員長 ありがとうございました。
以上で参考人からの意見の開陳は終わりました。
―――――――――――――
○野中委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。
質疑の申出がありますので、順次これを許します。加藤竜祥君。
○加藤(竜)委員 おはようございます。
自由民主党所属、長崎二区選出、加藤竜祥でございます。
本日は、六名の参考人の皆様方には、御参集を賜りまして誠にありがとうございました。それぞれのお立場から我が国の農政の現状や課題をお話ししていただきました。大変参考になりました。
さて、我が国の農政の憲法と言われております食料・農業・農村基本法を改正する契機となったのは、ロシアによるウクライナ侵攻や急激な円安により食料や生産資材の輸入に深刻な影響が及び、我が国の食料安全保障が脅かされたからでございます。
国民に必要な食料を供給することは国家の最も基本的な責務であると考えておりますが、食料自給率がカロリーベースで三八%程度の我が国は果たしてその責務を果たせるのか。経済的には世界四位のGDPの大国と言えるかもしれませんが、安定的な食料供給という面では、我が国は大国と呼べるのでしょうか。
お隣の大国と言われる中国は、有事の際、他国の輸出規制や海路封鎖があった際に備えて、今、世界中で輸送されている六割を輸入に頼っている大豆を確保するために、国策として、植物性たんぱく資の生産に大々的に取り組んでいると言われております。そのため、森林を耕作地に転換させる退林還耕を進め、耕作可能な農地を増やし、確保しているそうです。
まさに中国は、ウクライナに侵攻したロシアへの経済封鎖等の状況をよく分析し、どのような国際情勢においても自国の国民の食料安全保障を高める政策にかじを切ったのだと思います。農や食に常に関わっている農家や食品業者は経営に影響があるためこうした事実を知っておりますが、案外、国民お一人お一人は意識が高くないのではないかと思います。
そこで、合瀬参考人にお尋ねをいたします。
合瀬参考人は、食料・農業・農村政策審議会基本法の検証部会でも議論があったかと思いますが、現在、我が国の食料安全保障にどのような危機が生じているのか御教示ください。また、我が国の食料安全保障を高めるため、どのような解決策が必要なのかについても併せてお伺いをいたします。
○合瀬参考人 委員の御質問にお答えいたします。
我が国の食料自給率が三七%、八%という大変低い状況であることは、皆さん御存じであると思います。一般的には、日本の食料需要の変化、つまり米を中心とした食生活からパンなどの洋食に移ったことが、特に肉の消費が増えたことが食料自給率を引き下げたというふうに説明されております。
今後の食料自給率のことを考えますと、先ほど私が言いましたように、輸入と備蓄、それから国内の生産ということを考えますと、これだけやはり海外で食料供給が不安定化していることを考えますと、国内の生産基盤を今後より強くすることが極めて重要だというふうに考えております。そういう状況の中で、今後、農業を担う基幹的農業従事者が、特に五十歳代以下の人たちが二十五万人しかいないという状況をどういうふうに考えるかということは、大変大きな問題だと思っております。
一方で、どんどん人が、農業人口が減っていくわけですから、一戸当たりの面積は大きくなっていきます。その中で、いかに生産性を高めて農業の食料安定供給を目指していくかということは、極めてやはり重要なことだと思います。
日本の農業の生産性が低かった原因は様々なことが言われておりますが、やはり国内の市場だけを考えてたくさん増産しますと、結果的に価格が下がってしまう。つまり、国内の市場だけを考えたことが自給率を下げたというふうに説明する方々もいらっしゃいます。
そうであれば、やはり農家の体力をつけるために、様々な議論はありますけれども、やはり世界で需要が伸びていくということを視野に入れて、海外にも輸出していくような体力をつけた生産者を育成するということが極めて重要なことのように思います。
今の日本の農業生産性が極めて低いのは極めて残念でありますけれども、これをいかに上げていくかということを、様々な方法を駆使してこれから上げていくことが、我が国の食料安全保障を確保する一つの手段になるものというふうに私は確信しています。
以上です。ありがとうございました。
○加藤(竜)委員 ありがとうございました。
私も、食料安全保障を重視するならば、不測の事態でも国民の食料を確保できるという指標として、食料自給率を高めていくことが極めて大事なんだろうと思いました。
また、食料安全保障を強化するためには、先ほどからもお話にありますとおり、増産、輸入、備蓄を組み合わせていかなければいけませんが、基本的には、やはり自分で、自分の国で作れるものは自分の国で調達をすること、すなわち増産の観点が極めて大事なんだろうと考えております。
増産をしていくためには、我が国の限られた農地、そして、人口減少が進む中での担い手、省力的な生産を可能にする技術。農地、担い手、技術、三本柱をどのように維持発展していくかが鍵になるんだろうと思います。
そこで、再度、合瀬参考人にお伺いをいたします。
参考人は、食料・農業・農村政策審議会基本法検証部会におきまして、農地の整備と効率化は農政の一丁目一番地であるとおっしゃっておりますが、どのような思いでこのような御発言をされたのかについて伺います。また、農地の整備と食料安全保障の関係をどのようにお考えになっているのか、再度お伺いをいたします。
○合瀬参考人 御質問ありがとうございます。
先ほど言いましたように、日本の農業の最大の弱点は、生産性が低いことであります。その原因をいろいろ探ってみますと、やはり農地が、現在様々な農業経営者が百ヘクタール、二百ヘクタールの大変大きな区画を経営しているような事例がありますけれども、その面積であっても、かなりやはり分散していたりしているわけですね。
やはり、それをまとめていかに大きな区画で高い生産性を持ってやっていくかということが大変重要なことだと思っておりまして、そういう意味で、農地の集積、集団化というのは極めて重要なことだというふうにお話をさせていただきました。
農地の利用に関しましては、ただ米を作るだけではなくて、農地を利用して小麦だとか大豆だとか、特に大豆などは、国産の大豆というのは極めて大きな需要があるのにもかかわらず、その生産についてはかなり少ないような状況になっております。
そういうことも含めて、農地の整備と同時に、需要と向き合って、その需要に向き合った生産を行うというふうな人たちをどういうふうに育てるのかということが極めて重要だというふうに思っております。
以上であります。ありがとうございました。
○加藤(竜)委員 ありがとうございました。
私も、農地の整備と効率化は、農政の最も重要な要素であると考えておるところでございます。
私の地元の話になりますけれども、私は長崎県の島原半島出身でございますが、私の地元では、早くから積極的に農業、農村整備に取り組んで農地の集積、集約が進んだ結果、機械やスマート技術の導入により効率的な営農が可能となり、農業生産所得が大幅に上昇した地域がたくさんございます。
農地の整備により増産が可能となったわけでございますが、それにより収入も増加し、稼げる農業が実現をした結果、若い担い手が増加をして、地域の子供の数も増えました。農地政策は、担い手確保、そして技術力の向上、ひいては農地振興策にもなると確信をいたしておるところでございます。生産基盤への投資を十分に行い、こうした取組を日本全国に広めていくことが、我が国の食料安全保障につながると考えておるところでございます。
次に、関連して三輪参考人にもお尋ねをいたします。
三輪参考人は、検証部会におきまして、農地のポテンシャルを最大限に生かして、農業者の所得向上や食料安全保障の軽減につなげるべきだと発言をされていらっしゃいます。
農地のポテンシャルを最大限に生かすためにはどのようにすべきか、改めてお伺いをいたします。あわせて、今後、農村の人口が著しく減少をしている中、食料供給の源である農地を維持していく上で必要なことは何であるか、御所見をお伺いいたします。
○三輪参考人 御質問ありがとうございます。
ただいまいただきました御質問のまず一点目、農地のポテンシャルの最大化でございますが、やはり今、日本の限られた農地、その地域で最も適した需要のあるものをしっかり作っていく、そこに対して政策的にしっかりとサポートするということが大事かと思います。
もちろん、水田が適した地域、ブランド米であったり、若しくはその需要を超える形で輸出用、飼料用などを作るというのもございますし、地域によっては田畑共用、FOEASという技術でございますが、地下水の水位をコントロールすることによって、水田としても畑地としても有効に使えるような技術もございます。
また一方で、過去、米に対する需要に合わせて、なかなか水田に向かないような地域、極論すると、無理して水田に使っていたような地域については、必要に応じて畑地に戻して、その地域に一番合わせたような形で需要のあるものを作っていく。それによって、今の国内の供給量を更に増やすことができるというふうに考えております。
また、そのような農地を維持していくというところにおきましては、今、分散している農地、特に後継者がおられない農地ですね、不在地主のような形になっているというところもたくさんございますので、今、複数の地域で、地域としてのしっかりとしたビジョンを作って、この地域では皆でこのような形でこういう農産物を作っていこうという計画はしっかりと立てられてきているというところでございます。
そこに対して、様々なデジタルデータなどが、そのファクトとして活用が始まっておりますので、そのような地域としての方向性を明確化するというのと、あとは、これまで農業を引っ張ってこられたベテランの先輩方から、後進に対して農地をスムーズに円滑に引き渡すというところにつきまして、現政策をより浸透させるということが重要だというふうに思っております。
政策的な様々な手段というのは十分に用意されているかと思いますが、なかなかそれが地域でしっかり運用できているかというと、残念ながらそうではない部分というのがございますし、もっと言いますと、農業者の方々がそのような支援策などを御存じないというふうなケースもございます。
かつては、私の農地をほかの人に譲り渡すというのは嫌だというふうにおっしゃる方は多かったんですが、最近は、この農地を地域のためにしっかりと意欲ある方に譲りたいというふうな方が増えてきておりますので、そういった現場の声に合わせた地域ごとの運用が求められているというふうに考えております。
私の方からは以上です。
○加藤(竜)委員 ありがとうございました。
本来でしたら全ての参考人の皆様方にも質問をさせていただきたいところでございますけれども、時間の都合上これで終わりたいと思いますが、これからこの意見を踏まえてしっかりと法案審議の方にも臨んでいきたいと思います。
改めまして参考人の皆様方に心からお礼を申し上げまして、私の質疑を終わります。本日はありがとうございました。
○野中委員長 次に、角田秀穂君。
○角田委員 公明党の角田秀穂でございます。
参考人の皆様には、お忙しい中、また早朝より御出席いただきまして、本当にありがとうございました。また、貴重な御意見をいただいたこと、感謝を申し上げたいと思います。
質疑の時間が限られておりますので、全ての皆様に御質問をさせていただく、御意見をいただくということがちょっとかなわないということを、あらかじめおわびを申し上げさせていただいた上で質問に入らせていただきたいと思います。
私からは、基本法の理念、改正基本法にうたわれた理念を実現していく上で今後どういった施策の展開が求められるのか、そういった観点から、ここでは、一昨年の秋から基本法の検証作業に携わってこられた合瀬参考人、そして三輪参考人に質問をさせていただきたいと思っておりますので、よろしくお願いを申し上げます。
基本法制定の、今回の改正の背景としては、農業を取り巻く様々な変化、しかも大きな変化があったこと、これが大きな背景になっていると思います。
世界的な食料需要の増大の中で、食料や飼料、肥料などの多くを輸入に依存する日本の相対的な地位の低下であるとか、食料供給や国際情勢の不安定化、国内においては、高齢化とともに人口減少が進む中で、基幹的農業従事者が今後急速に減少していくことが見込まれる中で、担い手の確保、これをどうするかということが非常に大きな課題になっていること。また、気候変動であるとか生物多様性の保全等の地球環境問題への取組、こうしたものへの必要性も極めてこの間高まっている。
このように、この二十年余りで起こった大きな変化が今回の改正につながってきているというふうに思っております。
さらに、これからの二十年を考えた場合も、様々なリスクの高まりがあって、様々な変化が考えられる、そうした中にあって、食料安全保障を確保していくためには、こうした変化に対して国が適時適切な対応、対策を取ることは当然のこととして、こうした変化に対応できるような農業構造を構築をしていくこと、少なくとも農業生産の中核を担うような人や組織は変化にしっかり対応できるようになることが強く求められているのではないかと考えています。
そのためには、農業人材や組織の育成であるとか、あるいは農業を支える主体が、従来の家族経営中心から法人経営の比重が高まっていくというか高めざるを得ないことへの対応、さらには半農半Xなどの多様な経営体、サービス事業体がそこにどのように関わっていくべきなのかなどなど、様々考えなければいけないことがあると思います。
このことは農村の今後の姿、農村というコミュニティーもどう変わっていくべきなのかということとも密接に関係することだと思いますが、こうした変化に対応できる今後の農業構造はどうあるべきか、また、そのためにどのような施策が必要になるとお考えになっているか、この点についてお二方からお考えを伺えればと思います。どうぞよろしくお願いをいたします。
○合瀬参考人 御質問ありがとうございます。
私は農業経営者を育成する学校をやっておりまして、その観点からお話を差し上げたいと思いますが、日本の農業構造、いずれにしても、これだけやはり高齢化して、そういう人たちが農業をやめていくわけですから、少ない人数でいかに高い生産性を上げていくか、これは極めて重要になってくると思います。
そういう中で、やはり一戸一戸の農業経営がたくさんの従業員を雇って、かなり大きな、大規模な農業経営をやるわけでありますから、当然ながら、市場と向き合って、それこそマーケティングを行ったりとか、それから組織を強化するための組織マネジメント、それから大きな組織になりますと大変大きな資金が必要ですから、会計、ファイナンスみたいな力をつけた経営者が必要なのだろうというふうに思います。
ただ、現時点では、今日本の中に大変大きな経営を行う農業経営者がたくさん出てきてはいますが、その存在は点にすぎず、そのほかの人たちがやはりそういう人たちを見て、若しくは農業で成功した人たちを見て、新しく外からもそういう経営者になりたいというふうな人がどんどん出てくるような農業構造にしなければならないというふうに思っています。
私ども農業経営の大学をやっておりまして、外部から、やはり、家がサラリーマン家庭なんだけれども農業をやりたいという人は結構います。でも、そのために、その人たちを受け入れるような組織なり、それから地域の人たちがいることがやはり必要でありまして、そういう人たちがいかに自由に消費者と向き合って高い生産性を描いていくような構造をつくるのか。少なくとも、やはり二十万経営体、二十五万経営体がこれから中心になるわけですから、そういう人たちが力を発揮できるような環境をいかに整備するかというのが国の役割だというふうに考えております。
以上です。
○三輪参考人 御質問ありがとうございます。
まさに今、日本の農業は新しい構造が求められている。これは中期的に、安定的に農業を営む、若しくは農村を維持するために不可欠だというふうに思っております。
現在の状況を見ますと、やはり今後の日本の農業及び農村を中心的に支えていただくのは担い手の方々だというふうに思っております。
今回の基本法の検証部会の中で議論をしてきたように、担い手の方と多様な農業者の方々がそれぞれの役割を持って、相互補完だと思っておりますが、ここは対立軸ではなくて相互補完を持って地域の農業と農村を支えていただく。その中でいくと、やはり今、多くのベテラン農家の方々が年齢的に離農されている中で、地域の農地を守る役割を主に担っていただいているのは担い手の方々でございます。
それぞれのお話を今回検証部会でもお聞きした中でも、正直、これ以上、規模を拡大すると大変なんだけれども、地域のために我々はオファーいただいたものは全て受け取ってやっているというようなこともおっしゃっていました。
そのような中でいくと、やはり、それら担い手の方々が今御苦労されているところに対してしっかりと政策的にサポートしていくというのが大事だ。つまり、多様な農業者との共存、相互補完の関係の中で、今後、今からの十年、二十年で、適切な形でノウハウと農地をバトンタッチしていくということが重要になっていく。その中でいきますと、担い手向けの政策、多様な農業者向けの政策、それぞれ適切な形で講じていくというのが重要だ。どちらが軽重というわけではなくて、それぞれ役割が違うというところは明確に申し上げたいと思います。
また、そのような農業者を支える農業支援サービス事業体の役割が今後一層拡大してくるというふうに思っております。労働力不足もそうですし、スマート農業のような新たな技術というところに対し、農業者の方々が対応できない部分に対して外の力をかりるというところですね。こちらは今後の農業の新たな形になっていく。農業者だけではなく、様々なプレーヤーが日本の農業、農村を支えていくということがあるべき姿だというふうに思っております。
また、一点追加で申し上げますと、このような支援サービス事業体が今全国で増えていくことによって、農業は直接できないけれども、農業に関わる仕事をやれているんだということで、多くの若者であったり、Uターン、Iターンの人材が農村で活躍いただいておりますので、やはり、このような農業者とそのサポーター、皆で農業、農村を支えていくという、このような流れが出てきているというのは非常に重要なものだと思っておりますし、基本法でそのようなトレンドを更に推し進める必要があるかなというふうに考えております。
○角田委員 ありがとうございます。
今、大きな課題となっております担い手の確保について、私は、これからやはりこのマッチングということが大きなキーワードになってくるのではないかと思っております。
基本法の改正案では、望ましい農業構造の確立について、地域における協議に基づき、効率的かつ安定的な農業経営を営む者及びそれ以外の多様な農業者により農業生産活動が行われることで農業生産の基盤である農地の確保が図られるよう国が配慮する旨規定をされております。
現在、地域計画の策定が全国で進められており、地域の話合いによって、将来あるべき農地利用の姿、目標を地図に落として、これを基に地域の内外から農地の受け手を確保して農地バンクを活用した農地の集約化を進めることで、地域の農業、農地を将来にわたって守っていこうということを目指しておりますけれども、この地域の内外から受け手を確保するために、これから農業をやりたいという人と農地を結びつけるために必要になる施策について、お考えがあればそれぞれまたお伺いをしたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
○合瀬参考人 御質問にお答えいたします。
先ほど委員おっしゃったように、実は、農業をやりたい人がいっぱいいる一方で、地域では本当に担い手がいない、そういう状況が生まれております。私どもの学校にも、地域の例えば事業継承のために、地方銀行から、農業法人からそういう相談を受けているんだけれども、誰かそういう人がいないか、うちの学生で優秀な人がいたら是非紹介してほしいというふうな、そういう御相談もあります。
そういう意味からいくと、今実際にどういうふうなところで人が足りていなくて、どういうふうな農地があるという情報が、学生たちに、特にこれから農業をやりたいと外から参入する人たちに届いていないということは、私も大変残念に思っております。
私の持論でありますけれども、活力のある産業は、やはりどんどん新しい人が新しいアイデアを持って参入してくる産業であります。IT産業にしろ外食産業にしろ、参入して失敗して出ていって、また新しい人が参入する。これまでは、農業というのは農地という問題がありましたので、限られた人でしかそういうことが行われてきませんでした。やはり、そういう閉じられた世界では、なかなか活力のある世界というのはできてきませんで、そういうことを実現するためにも、やはり、どこにどういう農地があって、特に、整備された農地が、団地化された農地があって、ここでやってもいいよというふうなことができればと思います。
実は、三重県ではあるコンクールをやりまして、ビジネスプランを持ってきたら、農地を県が確保して、そこでやってもいいよ、だから、優秀な人たちはどんどん来てくださいというふうなアイデアプランをおやりになったそうです。そこで優勝した人には大きな農地を貸し付けて、それをやってくださいというふうなプランがあるというふうにお聞きしました。
こういうことが全国で行われれば、是非農業をやりたいという人たちが、どこに農地があるかという情報も含めて、参入できるいい試みになるというふうに考えております。
以上です。ありがとうございます。
○三輪参考人 お答え申し上げます。
私といたしましては、農地の出し手と受け手をデータベース化して、まず、安心して農地を委ねられる、若しくは必要な農地を必要なときにきちんと借りる、若しくは購入することができるというふうなことを地域で運営できるような仕組みというのをまずは早期に確立すべきだというふうに考えております。
また、その際には、農業者間の、今、もう既に制度は変わっておりますが、相対というよりは地域で、先ほど御指摘いただいたように、地域の計画があり、その中で、必要な集約化をした上で、使いやすい形で新たな方たちにそれをバトンタッチしていくという、このようなワンクッションが政策的に必要だと思っております。
また、その際には、農地だけではなくて、そこで使われていた中古の農機などの有形資産などを譲渡するようなスキームをうまく組み合わせることも必要だと思いますし、デジタルの観点でいけば、栽培履歴データや土壌データ、イコール、これまでの先達の農業者の方々のノウハウだと思いますが、そちらの方をデジタルで見える化した上で受け渡すということができれば、かなり円滑な農地のマッチングというのが可能というふうに考えております。
以上です。
○角田委員 ありがとうございました。
ほかにもお聞きしたいことがあったんですけれども、もう時間となりましたので、本日は、大変に貴重な御意見、ありがとうございました。
以上で質問を終わらせていただきます。
○野中委員長 次に、神谷裕君。
○神谷委員 立憲民主党の神谷裕でございます。
参考人の皆様には、朝から本当に貴重な御意見を賜りましたこと、この場をかりて本当に厚く御礼を申し上げたいと思います。本当にありがとうございました。
時間も限られておりますので、早速伺いたいと思います。
まず、現場というか、現実の農業者である中原参考人にお伺いをしたいと思います。
今回の改正、本当に大きな改正なんですけれども、今日お越しになっている現場の農家の方は中原さんお一人でございます。現場にいる農家の方から見て、この基本法の改正に何を求めていきたいのか。まず、これについてお話をいただけたらと思います。いかがでしょうか。
○中原参考人 神谷委員、質問ありがとうございます。
農業の現場として、今回の法改正についてどのような要望、思いをしているのかといったような多分質問だったというふうに思います。
御存じのとおり、先ほど私の方からも、今の農業情勢、いろいろお話しさせていただきましたけれども、北海道でさえ、今、離農者が本当に多いという状況であります。それを打開するようなやはり施策、対策が必要だというふうに思っています。ただ、農業者ではやはり抱え切れないいろいろな問題、それを農政としてどうカバーできるかといったようなことだというふうに思います。
そういった面では、先ほど私の方のまとめの中でありましたけれども、例えば輸出に向けてということであれば、国内の人口がどんどん減少していく、ただ一方では、世界的な人口が増えていく。そこをやはり目指しながら、今の米の、先ほど鈴木先生おっしゃったように、八百万トンぐらいの需要、これを維持していくためには、国内の需要が減ることによって、やはり海外に挑戦し、進めていかなきゃいけないだとか、そういったことも含めていろいろ考えなきゃいけないし、世界の不安定な情勢から考えると、国内の増産をどうしていくか、そこが一番大事だというふうに思っています。
ただ、増産、増産だけでは、先ほど言ったように、需給バランスが崩れると価格が下がってしまう、そういった現状もあるので、その辺については、やはり、在庫だとか備蓄、これをうまく合わせながらやっていく。
それと、先ほど価格形成の話もありましたけれども、我々としては、企業以上にもうけたいという気持ちはありますけれども、ただ一方では、国民のために食料を提供する。そういった観点からいくと、来年も何とか、資材だとかいろいろなものが上がっても再生産可能な価格、それをやはり国の方できちっと施策として打っていただいて、それを、我々としては、来年も何とか農業ができるよね、頑張ろう、そういう気持ちになるような法改正にしていただきたいなというふうに思っています。
以上であります。
○神谷委員 ありがとうございます。
今回の改正に当たり、私自身、一番考えておりますのは、この二十五年間、現行基本法、非常にいいことをうたっています。ただ、何回もこの委員会でも議論があったところなんですけれども、どうしても、例えば自給率であるとか、あるいは農業者の数であるとか農地であるとか、こういった目標が達成できなかった。でも、今回の基本法の改正に当たって、これを何とか反転させて、今、何が問題だったのかもう一回考えた上で、何とか今回の改正を元にいい方向に持っていきたい。私は、ですので、今回の改正に当たり一番知りたいのは、何が問題だったのかという点だったと思っています。
先ほどは合瀬参考人と三輪参考人に大分質問が当たっていたものですから、今回、逆に、中原、西村、鈴木、安藤各参考人に、今申し上げた点、要は、この基本法が考えていた点がなぜ実現できなかったか、何が一番欠けていたのか、その辺のところを忌憚のない御意見をいただけたらと思います。各参考人、四名、お願いいたします。
○中原参考人 御質問ありがとうございます。
今回の法改正については、世界情勢だとか、戦争だとか、コロナのこともあったし、人口がどんどん減少する中での今後の日本の食料をどうするかだとか、いろいろなやはり課題、問題があった中で法改正になったと。
ただ、私も先ほどお話しさせていただいたように、過去の、やはり、食料・農業・農村基本法が新しく制定された以降の二十五年、この中で食料自給率がなぜ上がらなかったのか、そこをきちっと検証しながら、それを上げるための施策をきちっと打っていく、そういったことが必要だというふうに思います。
我々、やはり農業者としては、安心して農業ができるための施策としては、先ほどお話ししましたように、恒常の赤字をやはりカバーできるような所得補償、それと併せて、先ほど来、環境と調和だとか多面的機能だとか、いろいろな部分の、そういった農地に対しての、維持ができる、今後も農地を維持しながら農業ができる、そういった施策を組み合わせた中でやっていただきたい、そういうふうに思っております。
以上であります。
○西村参考人 御質問ありがとうございます。
先ほども申しましたように、現行基本法は国民全体の視点が重視されております。新たな基本法については、やはり、国際的な視点であったり、次世代の幸せを加味する視点が必要だと思いますし、先ほど鈴木先生や安藤先生がお話しされましたように、国民の命をどう守るかというその視点がなければ、国民の合意形成もできないのではないかというふうに思っております。
○鈴木参考人 御質問ありがとうございます。
私が自給率が低下した一番の大きな要因として考えますのは、農産物貿易の自由化政策、これが徹底的に行われてきたということ。これによって、関税が下がったり撤廃されて、輸入枠がなくなったりして、どんどん海外からの輸入に依存する構造が高まりました。
これは、日本として、これからは貿易自由化を更に進めて、食料は基本的には安くいつでも輸入できるんだ、それが食料安全保障だというような経済政策そのものが、そういう方向性にあった。特に、自動車などの製造業の製品を日本は販売して利益を得る、そのためには、食料、農業というものは、ある意味犠牲といいますか、それをアメリカや他の国に関税撤廃などで差し出すことによって、そして自給率は下がっても日本の経済をしっかりと回していける、このような日本の経済政策そのものに大きな要因があるというのが一つです。
それと、もう一点は、日本で取られている現場を支援する政策に大きな欠陥があるのではないかということがあります。今、畑作にはゲタがあるじゃないか、ゲタというのは内外のコストの差を埋める補填でございますが、あるいは、米には、関税が高いから内外価格差が発生しないという前提で、ゲタはできません、しかし、ナラシという収入変動をならす政策もあるし、それから、米だけではないですね、今は収入保険というものもちゃんと入れたじゃないかと言われておりますが、これらの政策に全て共通するのは、コスト高に対応できないということです。コストが上がったときに、その部分を考慮して農家が所得を維持できるような政策になっておりません。
そもそも、畑作のゲタというのは固定ですから、そういうふうな収入変動には対応できませんし、ほかのナラシとか収入保険というのは、過去の価格や収入が、例えば過去五年間の平均よりも下がった分の九割や八割を補填するだけですので、農家にとって、コストを勘案して必要な基準額というものがベースにはなりません。だから、そもそもセーフティーネットにはならない要素がある。さらに、収入だけ、価格だけの問題ですから、今言ったように、今回のようなコストが二倍に上がるような状況に対応し切れないというふうな欠陥を有しています。
それから、中山間地直接支払いや多面的機能支払いというものも、これは現場でもいい政策だと言われていますが、集団活動への補填の部分が多くて、個別農家の所得に対する直接支払いという部分は、十アール当たり数千円程度で非常に少ない、こういうところがもうちょっと充実すれば違うんだけれどもなというのが現場の声だと思います。
こういうふうに、今ある政策が十分だから必要がないような議論が行われていますが、それがこういうふうな欠陥を有しているから今の状況になっているんだということを、やはりきちんと検証する必要があるのではないかと思います。
以上です。
○安藤参考人 御質問ありがとうございました。
大変難しい質問を受けたと思っております。私の意見陳述でも申し上げましたが、自給率の低下というのは、ここ二十五年の問題ではなくて、もう五十年以上前から、ある意味決まってしまった問題だったというふうに認識しております。
そうした中では、私、農林水産省の個々の政策、それぞれについて様々な問題点はあるかと思いますが、全体として見ると、それなりにいいことをやってきたというふうに思っております。ただし、残念ながら、御指摘のように、自給率の向上にはつながらなかった。
その最大の要因は何かと考えますと、これは正しいかどうか私は分かりませんが、麦、大豆の本作化でかなり麦、大豆の生産は二〇〇〇年代始めに伸びました。しかし、途中でやはり、予算がなくなって見直しということになったことがあります。現在の飼料用米についても同様な状況がうかがわれていると聞いております。
つまり、個々の政策のアイデアはいいわけですが、それを更に増やして、拡充して生産量を増やしていくとなると、どうしてもそこで財源の問題に当たってしまう。そして、その財源を確保するためには、農林水産省内のどこかの予算を持ってきて別のところにつけなきゃいけない。そうなってくると、そういうことはなかなかできない。そうした事情がある中で、制約がある中で政策をつくらざるを得なかった、そういうことが私は大きかったのではないかなと思っています。
ですから、最終的に行き着くところは予算の問題になるのかなと思っております。
以上でございます。
○神谷委員 大変に参考になる御意見をありがとうございました。
予算ということになりますと、これはまた政府にも頑張っていただかなきゃいけない、与党にも頑張っていただかなきゃいけない、我々も頑張らなきゃいけないというふうに思っているところでございます。
短い時間でございますけれども、この上で、あえて合瀬参考人にちょっとお伺いをしたいんですけれども、先ほどから御指摘をいただいていることについてあえて申し上げますと、業としての御指摘はたくさんあったなと思っています。
ただ、産業といわば地域政策と、農村、農政においてはこの両輪でございまして、もし地域政策についてお考えがあればお聞かせいただけますでしょうか。
○合瀬参考人 御質問ありがとうございます。
地域政策については、先ほど何人かの方からありましたように、今、比較的若い人たちが半農半Xみたいな形で農村にどんどん入ってきております。
私が言いましたのは、今後、消費者から見てやはりある程度の農業生産の量を確保するということでいくと、大きな農業法人みたいなところが主になってくると思うんですが、一方で、地域政策としての農村の新しい価値というか、そういうことを見つけるのは、やはり外から入ってきた小さな農家であったりとか、半農半Xの人たちだと思うんですね。
ですから、それぞれ役割が違うわけであって、同一に同じように保護しろということではなくて、それぞれの役割に合わせてやはり農村政策はそういった人たちに農村の新しい価値を見つけてもらう、そういうことで農村を活性化することが重要なのではないかというふうに思っております。
以上です。
○神谷委員 本当に、各参考人、ありがとうございました。また、三輪参考人に御質問できなかったことをおわびを申し上げさせていただいて、私の質問とさせていただきます。
本日はどうもありがとうございました。
○野中委員長 次に、掘井健智君。
○掘井委員 日本維新の会・教育無償化を実現する会の掘井健智でございます。
参考人の皆さん、本当にありがとうございます。お一人お一人に本当に質問したいんですけれども、非常に勉強になっております。今日は時間がないので、ポイントを絞らせていただきまして質問をさせていただきます。
有機農業についてであります。二〇五〇年の目標でCO2を削減するという大きな目標がありまして、有機農業ということが世界の動きから見て趨勢でありますし、避けては通れない。しかし、日本の有機農業の取組を見ますと、なかなか本気度が感じられないというところであります。
私は兵庫県出身で、今日おられる西村参考人と兵庫県の農業を一緒にやってきたんですけれども、兵庫県は中山間地域が多くて、兼業農家もたくさんいるんです。それでも、結構、農政には非常に力を入れております。
コウノトリが県の鳥でありますから、コウノトリが住める、そんな農地にしたい、環境にしたいということと、種苗法が廃止されて、いち早く条例を作りました。そんな意識の高い県であります。今日の西村参考人からしますと、まだまだ足りないという気持ちがひしひしと伝わってくるんですけれども。
そんな中、今、オーガニックビレッジ宣言をしておりまして、これも二〇五〇年までに百市町、相当手が挙がっておると聞いておるんですけれども、これは、意識が強い市町さんはどんどん参加するんですけれども、国全体でやろうとしたら、やはり意識の余りない人もそういうふうに持っていかなあかんということですから、やっている、頑張っている人の後押しをするだけでは、これは国の役目じゃないと思うんですよ。
そして、国の役目として、有機農業を本当に二〇五〇年まで百万ヘクタール、二〇三〇年が六万五千ぐらいでしたかね、六万八千か六万五千。二十年の間に抜本的にやらなあかんのですけれども、どうやってやっていくんだということは、国が本気で取り組んでいただかなければいけないということなんです。
西村参考人に聞きたいんですけれども、国の役割はいろいろあると思うんですね。公的機関において基礎的分野の研究というのが非常に大事だと平素おっしゃられておったことを思い出すんですけれども、役割について、国の役割というか、試験研究について先生のお考えをお聞かせ願えませんでしょうか。
○西村参考人 御質問ありがとうございます。
平素から御支援いただきまして、御礼申し上げます。
日本でも、国及び各都道府県の試験研究機関がもっと有機農業の研究を行ってくだされば、有機農業の生産技術の安定も図られますし、あと、面積拡大もできると思っております。
私、本日、フランスの事例とか韓国の事例とかを申し上げましたが、韓国は本当に、二〇〇六年に日本と同じ有機農業推進法が制定されて、三千人の研究者が研究をして、その結果、目標であります、有機農業の面積二〇%という目標をほぼほぼ達成するような勢いで頑張っておられます。
また、韓国でも、有機農業の推進をするに当たって、まず試験研究機関が有機農業の技術を確立する、次に指導者の養成をする、次に需要の拡大ということで、次の世代を担う子供たちの学校給食、それから国を守る軍隊の食材を有機農産物にするというふうにして需要を確保し、その後、有機農業者の所得補償をするために国民の合意形成を図り、今は有機農産物の機能性分析を進めて、有機農産物が国民の健康をいかに守り、また環境をいかに守るかということを科学的な根拠に基づいて国民に説明するというような、すごくシステマチックなやり方を進めています。
私が今なぜこういうお話をしているのかといいますと、兵庫県のちっちゃな取組であります私どもの取組を、韓国とかフランスの政府が素早くキャッチをして、自国の研究者や自国の指導員を養成するために招聘をしてくださるんですね。そこで、私は招聘先でいろいろなことを勉強させていただいて、兵庫県県政に反映させようというふうにしています。
先ほど予算の話が安藤先生からもありましたが、ほかの国々は、有機農業を推進するために、試験研究ですとか人材養成ですとか、そういうものにいっぱいお金をかけているんです。フランス政府が日本から研究者を呼び寄せて勉強させるというような、そういうお金をしっかりかけている。有機農業の推進には、やはりそういう予算のかけ方というのが必要ではないかなというふうに思います。
○掘井委員 ありがとうございます。
やはり、各国と比べて、体制が全然違うのかなという印象を受けております。
それと、地域の中で、実際、有機農業をしたいという人がおって県に問い合わせたら、教える人がいません、こんな話をよく聞くんですけれども、人材育成として、有機農業の農家さんを育てるというその前に、やはり教える人が育ってなあかんと思うんですけれども、この辺、現場ではどんな感じなんでしょうか。西村参考人。
○西村参考人 御質問ありがとうございます。
二〇〇六年に有機農業推進法ができるまでは、恥ずかしいことに、例えば県に有機農業をしたいんですというふうな希望の方が来られても、有機農業なんかもうかりませんよ、有機農業なんかやめた方がいいですよというふうなことを県の指導機関が言っていたというふうな現状がございました。でも、法律ができましてから、そうではなくなっております。
有機農業者に寄り添えるような指導体制にしていこうというふうに、兵庫県では研修をしてまいりました。でも、有機農業者の経営に関わるような技術指導をできるレベルにはなっておりません。国も有機農業の研修というふうなことで、短期間ですが、一週間ぐらいの研修をしてくださっているんですが、県の予算の中で普及指導員をそういう研修に行かせたりとか、また、普及指導員がちゃんと有機農業者に指導できるレベルの技術を身につけるような研修をするについても、なかなか県の予算では人材育成ができないという状況がございます。
普及事業というのは、改良助長法という法律に基づいて、国の交付金で賄われております。どういう仕事をしたかによって査定をされて、交付金額が変わってくるんですね。なので、有機農業を指導するということに対して高い評価をしていただけたら、国からの交付金が増えて、普及指導活動も、活動費にもなりますし、その中で人材を養成するというようなこともできると思います。
是非、政府がそういう方針を出して、普及指導員が有機農業の指導ができるような研修を積めるような体制をつくっていただけたら、今日お話ししましたような海外と同じように、無償で、無料で指導ができるような、そういうことも可能になってくるのではないかなというふうに思います。
○掘井委員 ありがとうございました。
やはり、国の役割は予算とそして基礎研究だということだと思います。
次の質問であります。先ほどから触れられておりましたけれども、改正されようとする第二十六条、望ましい農業構造の確立であります。
これは、できましたら合瀬参考人、また鈴木参考人、ちょっと触れられておられましたので、質問したいと思うんです。
実は、四月の二日、私は大臣と議論しました。望ましい農業の構造は何ぞやということで、これは第一項に書かれておりますけれども、効率かつ安定的な農業経営を育成して、これらが農業生産の相当部分を担うんだと。つまり、農業の生産という産業においては、主業農家さんが中心で、そのために、年に数回、なかなか田んぼに入れなくなってきた兼業農家さん、そういった人は引継ぎもいなかったら集約していく、そういう考えが基本にあったと思うんです。しかし、第二項が新設されましたことで方針が変わったんじゃないのか、また、変わらなくても、現場が混乱して、また集約、集積が進まなくなるのではないのかな、こんな議論をしたんですね。
やはり、農業構造をつくるためには、主業農家さんも兼業農家さんも両方、同じ日本の産業、農業を支えていくというのは、これは同じことを繰り返していくんじゃないのかなと思うんですね。これは、大臣は曖昧な答弁でありました。
集約、集積はやっていきますということの中で、二項があることによって、農業が進まなくなるんじゃないのかな、こう思っておるんです。参考人のお二人にはそんな懸念が示されたんですけれども、この条文を受けまして、率直にどう思われましたか。どんな心配をされておるか、改めてお聞きしたいと思います。
○合瀬参考人 御質問ありがとうございました。
検証部会で、やはり、この問題が出たときに大きな異論が出ました。それは、農業を主業としてやっていらっしゃる方から、せっかくこういうふうに農地をまとめている、効率的かつ安定的な農業経営者が農業生産の大宗を占めるということで、これまで農地の集積をやってきたにもかかわらず、ここで新たに多様な農業者が出てくることによって、それが進まないのではないかというふうな懸念でありました。
私としては、基本的にはやはり農地の集団化それから団地化みたいなところが大変大きな日本の課題でありますので、それを阻害してほしくないという思いで、それぞれの役割が違うのではないかと。これから日本の国民に食料を生産してくれるのはやはり大きな経営体であることが事実であります。
ただ、農村政策として、農村の新しい価値みたいなところを発掘する人材もやはり必要である、そういう意味から農村政策として位置づけるべき多様な人材であろうというふうに私は理解しております。
そこのところの明確な区分をきちんとやはり国としてはやってほしいということで、お願いしたということであります。
以上です。
○鈴木参考人 御質問ありがとうございます。
私は、この二十六条については、一項の方で担い手には施策を講じる、二項で多様な農業者については配慮するという文言だけで、この点において施策対象はいわゆる担い手であり、その他の方はそういう施策を講じないというふうにやはり言っているのではないかということがむしろ問題ではないかという指摘をさせていただきました。
この点については、三輪参考人や西村参考人などからもお話があったとおり、今、やはり相互補完の関係が非常に強くなっている。
現場に行っていただければ分かりますように、高齢化でもうやり切れない、だから頼みたいと言っても、それを受け手の担い手の方も、もう全部はとても無理ですということで、どんどん受け切れない農地が耕作放棄地になったりしています。
そういうことも考えますと、多様な担い手が役割分担しながら地域コミュニティーを、農村コミュニティーを維持して、生産を維持できるようにする仕組みづくりが必要になっていることは、今まで以上にそういう状況が強まっていると思います。
ですから、定年帰農であったり、兼業農家であったり、半農半Xであったり、あるいは有機自然栽培などをやりたいという若者も、小さい面積でも何とか借りてやりたいという方は増えています。それから、お母さんたちのグループなど、消費者グループが耕作放棄地を借りて、学校給食に輸入の小麦は嫌だから、県産の小麦を出せるように私たちが呼びかけて耕作をしますというような動きもあります。そういう方々の力も非常に重要だ。
しかも、地域全体としてあぜの管理や水路の管理などを考えますと、いろいろな方がいてくれて、それなりの分担をしていることによって、そういうふうな農村のシステムが成り立っているということも非常に重要であります。
ですから、大きな中心になる担い手がまさに一番核になるのは重要なことですが、それを補完するいろいろな方々がいて、全体として地域が維持され、環境も維持され、生産も維持される、このことをしっかりと位置づけて、政策的にも目配りすることが重要ではないか、これが私の考えているところでございます。
○掘井委員 残念なことに、本当に議論したいんですけれども、お時間が来ました。
参考人の皆さんには、本当に御礼を申し上げます。ありがとうございました。
○野中委員長 次に、長友慎治君。
○長友委員 国民民主党の長友慎治です。
早速ですが、食料自給率につきまして、合瀬理事長、中原書記長それから安藤教授にまずお伺いをしたいと思います。
先ほど神谷委員からも、食料自給率が低下してきたことについて御意見をいただきましたけれども、私ども、この農林水産委員会だったり農水省の職員の皆さんと議論をさせていただいていると、農水省は食料自給率をそんなに重視していないのかなと思うような印象を自分は持っているんですね。それよりも農地を確保していく方が大事だとか、あと、農業者の数についても、これは減少はもう止められませんから、減少したとしても農地を維持していくことの方が重要だ、そういうメッセージは強く受け止めています。
今のをお三方にお伺いしたいんですけれども、一つの指標として食料自給率は重要か重要じゃないか、どのようにお考えか、御意見をお聞かせいただきたいと思います。
○合瀬参考人 御質問ありがとうございます。
私としては、食料自給率の指標は極めて重要だというふうに考えております。
それは、農業の現場の状況を消費者に説明する。つまり、一九九九年に現在の基本法が成立したときに、それまでの農家の法律から、国民全体の、要するに食料安全保障は国民全体の問題だというふうに位置づけました。そういう意味で、国民にきちんと今の農業の状況を説明するためには分かりやすい指標が必要だということを考えると、やはり食料自給率、様々な問題はありますけれども、分かりやすく国民に説明する指標としての役割はいまだ失っていないというふうに考えております。
以上です。
○中原参考人 御質問ありがとうございます。
私も、食料自給率については非常に大事な指標だなというふうに思っています。
先ほど来いろいろお話ありましたけれども、我々農業の現場でも、先ほどお話があったように、国際貿易協定の大型化の中で、非常に食料増産という意味では厳しい岐路に立たされている現状もあります。
今回の基本法の前の基本法、農業基本法については、ちょうど私もそのとき、その議論の中でお話をさせていただいたのは、今まで農業者、農業者団体、又は農業に関わる部分しか基本法として明記されていなかった部分が、いろいろな業者、食品業者だとか、消費者を巻き込んで、国全体で食料自給率をどうしていくんだ、そういった議論にできるというような法律に変わったというふうに思っているんです。
ただ、二十年以上、四半世紀を過ぎても、先ほどお話あったように四〇%も行っていない、これは非常にやはり問題だなというふうに思いますので、ここを上げることによって、国内増産の部分、それから輸出入の関係、それをうまくシステムとして組み合わせながら自給率を上げていく、これが必要だというふうに思っています。
以上であります。
○安藤参考人 御質問ありがとうございました。
食料自給率は、まさに食料安全保障であり、国家安全保障の重要な柱の一つであると考えております。ですから、大変重要な項目だと思っております。
歴史を振り返りますと、第一次石油危機のときに日本経済は大変なことになりましたけれども、米が自給できていたということは、まさに社会を安定させる重要な役割を果たしていたというふうに思っております。
そういう点では、食料自給率が大きく低下してくると、もし何かあったときに本当に大変なことになってしまうだろうな、そういうふうに、それは過去の歴史でも証明されておりますし、そのとき日本は米が自給できていたことが大変大きく役に立ったというふうに理解しております。
私からは以上です。
○長友委員 ありがとうございます。
いずれも食料自給率は重要だという御認識で、ありがとうございます。引き続き、農水省ともその点は議論をしていきたいと思っております。
続きまして、有機農業につきまして、西村理事、それから鈴木教授、そして最後に日本総研の三輪さんにもお聞きしたいと思っております。
私の地元は宮崎なんですけれども、有機農業に取り組んでいる方々がいまして、実は一昨日にこういうSNSの投稿がされたんですね。有機農業でお米を作っている方なんです。助けてくださいという冒頭の文字から始まるんです。
有機で作ったお米がなかなか売れていません。もうすぐ今年度の田植が近づいています。不景気だと食費から削られる、その中で一番最初が主食のお米。一番大事にしないといけない部分が軽くあしらわれているのが現状です。普通にスーパーとかで販売されているのは、JAの規格に合ったものだけ。農薬、化学肥料を使っていないと、JAは買取りを拒みます。規格外品としての買取り。農家も高齢化になり、体力を使うことができず、草取りは農薬、害虫予防はラジコンヘリ等で農薬散布といった具合。こだわって農薬散布、化学肥料を使わずに作り上げたお米は、自分たちで販路を探し、販売するしかないんです。一個人の農家ではどうしようもありません。購入希望の方やお米を探されている方、いらっしゃいませんか。こういう投稿があったんですね。
国は、みどりの食料システム戦略で、有機農業の生産者また耕地面積を増やそうとしている中で、今のような投稿が今の現場のリアルであって、これは農水省また国が目指す姿では決してないんですけれども、でも、実態としてこういう状況にどうしてなっているのか、こういう状況をどう変えていけばいいのかということを、まずは西村理事と鈴木教授にお伺いしたいと思います。
○西村参考人 御質問ありがとうございます。
コウノトリ育む農法を確立し、普及を始めたときがまさしくそのような状況でした。まず、農薬や化学肥料を使わずにお米作りなんかできないというのがありましたし、そういうお米も作っても売り先がないというふうなことを言われました。でも、技術確立をすればちゃんとできるようになりましたし、このコウノトリ育む農法がどういうお米なのかということをしっかり消費者に訴えることによって、販路の拡大もできました。
JAたじまが今コウノトリ育む農法のお米を販売してくださっているんですが、当初はカントリーが一つでしたので、一般米と交ざってしまうので、JAは扱ってくださいませんでした。でも、新しいカントリーを建てるときに、一般米と、特別栽培米と、育む農法のお米を別々に乾燥するカントリーにして、今は引き受けられるようになりました。その際には、農水省の補助事業を使って、こういう趣旨でカントリーを導入したいのでということで採択をいただいて、導入ができました。
なので、どうお答えしていいのかちょっと返答に詰まるところはあるんですが、関係機関が連携をしてきちっと整理をしてやっていけばできるようになりますし、先ほども申し上げました、エシカル消費というふうなことをもっと消費者にしっかりと訴えていくというふうなことも必要ではないかなというふうに思います。
○鈴木参考人 御質問ありがとうございます。
まさに先生がおっしゃるとおり、出口、需要をどうつくるか、確保するかということが今大きな問題になっているのは間違いないと思います。
いろいろな取組を見てみますと、一つ今期待されているのがオーガニック給食ですね、宮崎県の綾町も非常に取り組んでおられますが。このような形で、市町村が子供たちにできるだけ地元の安全、安心な農産物を提供するために買い取りますという、こういうふうな買取りで出口ができて、価格もしっかりと、よく例に出る千葉県のいすみ市ですと一俵二万四千円、それから、京都府の亀岡市の市長さんは、それならうちは二倍にしますと一俵四万八千円、このような形でしっかり買取りをする仕組みがどんどん広がってきております。このようなものを活用するということが大きな出口戦略になる。
それから、JAも今、取組をしているところが増えていますよね。JA東とくしまでは、農協が農地と技術を提供し、その出口をしっかりと生協さんがちゃんと確保するという、この組合せを実現しております。同じことは茨城県のJAやさとでも、しっかりとJAが農地、技術を提供して、有機農業などをやりたい若者を呼び寄せて、そして出口の方は、六つも七つもの生協さんが一緒になってきちんと出口をつくるというふうな取組も行われていますので、このような形の出口戦略をしっかりと生協などと組み合わせて取り組んでいくということも重要か。
あるいは、これもJAさんもやっていますが、直売所、マルシェの仕組みですね。この部分での売上げが今増えています。こういうところでしっかりと自慢の農産物を販売するというルートを拡大するということも一つ重要ではないか、そのように考えております。
○長友委員 ありがとうございます。
日本総研の三輪さんにそこでお伺いしたいんですけれども、スマート技術で、スマート農業がこれからの農業の未来の鍵だと思うということだと思うんですが、有機農業こそスマート農業に力を入れるべきなのか、いや、まずは慣行農業の方がスマート技術を取り入れて所得向上に取り組むべきかといったときに、どちらが今の現状ではスマート農業に力を入れるべきか、御意見をいただけないでしょうか。
○三輪参考人 御質問ありがとうございます。
現在の日本の状況、農業の状況を考えると、まずは、慣行のところについてはもう待ったなしの状況ですので、入れていかないといけないということは間違いないと思います。
一方で、先ほども少し申し上げましたが、みどりの食料システム戦略の目標を達成する。これだけまさに有機農業が当たり前の状況になるということになりますと、今の農業技術の体系では全く対応ができないというのは間違いないと思います。
今の有機農業の方々は、労力をかけて、若しくは、時には収量を落とす必要もある中で対応しておりますので、そうではなくて、抜本的に、当たり前の技術が有機に対応している状況になるということですので、今からスマート農業の技術開発の大きな目標としては、二〇五〇年からバックキャストする形での有機スマート農業というのが欠かせないところになると思います。こちらについては、もっとそこに重点的に予算を配分してもいいのかなというふうに思っております。
今、一例としては、国のムーンショット型の技術開発の事業とか、レーザーを使って害虫を駆除するとか、あとは、例えばロボティクスを活用して無人で紫外線照射を夜間にするとか、そのような革新的な、ある意味少し夢物語になるような部分というのがございますが、そういうところについて、今の現実性とか、今の技術体系とは違った形で並行して進めるという部分で、今御指摘のように、有機というところの技術開発はより一層やるべき部分かなというふうに考えております。
○長友委員 ありがとうございます。
最後、一問、合瀬理事長によろしいでしょうか。
今日のお話の中で、農地の集団化をしていって、農地の集積をしていくことが重要だという中で、その集積の外にある多様な農業者についての言及もございました。その中で、役割の違いを明確にするべきだというふうに御指摘いただきましたが、なかなか農水省はそこの役割について明確に余りしたがらないんじゃないかなと感じております。先生から是非、その役割を明確にすることをもう少し一押しいただきたいなと思うんです。残された時間で短いですけれども、済みません。
○合瀬参考人 御質問ありがとうございます。
本当に、最も重要に取り組むべきは農地の集団化でありまして、そのために、様々な方が農業をやっていただくのは大変結構なんですが、そのことで虫食い状態がそのまま残るようでは何ともならない。
やはり、最優先すべきは農地の集団化、団地化でありまして、それであればどなたがやっても高い生産性を維持することができますから、そこを担保した上で様々な人が入ってくるような、それぞれの役割に沿って役割を果たしていただくような農業構造にしていただきたいというふうに、そこは明確にしていただきたいというふうに思います。
以上です。
○長友委員 貴重な御意見をいただきまして、ありがとうございました。
以上で終わります。
○野中委員長 次に、北神圭朗君。
○北神委員 有志の会の北神圭朗です。
先生方には、本当に現場、それから経済理論的な立場から大変すばらしい御意見を伺いまして、心より感謝を申し上げたいと思います。ありがとうございました。
まず、中原書記長にお話を伺いたいんですけれども、北海道御出身で、私、さっき鈴木先生が言った亀岡市とか、京都府、若干、本当の京都人には京都と認められない京都なんですけれども、そこの我々からすれば、北海道というのは一番大規模で、いわゆる経済効率性の高い農業をやっておられる。しかし、今日のお話を聞いていると、恒常的な赤字が続いて、やはり国の戸別所得補償というのが必要だというふうにおっしゃったんです。
何でこれを聞くかというと、農林水産省はどちらかというと、そんな税金漬けの農家なんか駄目だ、効率よく、市場の原理にある程度従って、輸出をどんどん頑張れ、生産性を上げろ、こういう話を聞くんですけれども、北海道ですらそういう状態だということを、ちょっと詳しくお聞きしたいというふうに思います。
○中原参考人 北神委員、どうも御質問ありがとうございます。
北海道といえばやはり広大な農地というイメージでありますけれども、ただ、一方では、我々農業者にしてみれば、平均が、農地の耕作面積が二十八とか三十を超えてきているというふうになっています。だから、面積をもって所得を得てもうかるんだということではなくて、やはり、国の政策によって我々北海道の農業者も大きく左右されてきた。
御存じのとおり、昭和四十四年から減反政策が始まったときには、一番国のそういう政策に従って、転作率を上げて、従ってきたことだったり、あと、輪作体系の中で、畑地専用の地帯があって、そこでも、内外価格差の中で畑の戸別所得補償というのがありますけれども、ただ、そこの内容でも、頑張って単収を上げればそこの部分の価格が下がっていくという、何か我々が努力した部分が報われないような政策があったり、そういう部分をやはりきちっと直さなきゃいけないということと、やはり我々、今、大規模なほど、今の生産資材の高騰、これがやはり一番大きく関わる部分があって。
先ほどもちょっとお話がありましたけれども、有機の話もありましたけれども、我々北海道としても有機を、クリーン農業だとか、いろいろなこともやっているんです。私の経営でも、今問題になっている水田の稲わら、メタンガスが発生するということで、私のところも、稲わらを排出して、酪農家から牛の堆肥をもらって攪拌して三年後に散布している、そこで今の高い肥料を少しでも抑えていく。
ただ、私も、有機農業というのはどこまでを言うのか、有機JASを取らなきゃいけないのかだとか、私もアジアGAPを一回取ったんですけれども、うちの息子の代になって、やはり手間暇かかるし、消費者として、その取ったものがきちっと評価されない、そういうものがあったり。
いろいろ経営の中で取り組めるところから取り組んでいくというのも北海道の魅力かなというふうに思いますけれども、一方では、今お話ししたように、こういった資材、肥料、農薬又は燃油などの高騰は非常にやはり大きな影響を与えているということで理解していただきたいなと思います。
以上であります。
○北神委員 どうもありがとうございます。
それで、鈴木先生に伺いたいのは、今、北海道ですらそういう状態で、特に円安とかの影響も大きいと思いますけれども、では、ほかの地域、特に中山間農業なんかが大変厳しい状況で、先生が今日主張されたのは、欧米ではいわゆる所得補償プラス価格維持、でも日本は丸裸だというお話でありました。
私も先生の論文とか著作を拝読してそういうふうに思っているんですけれども、この話をすると、農林水産省はOECDの数字を出してきて、PSEだったか、生産者支援指標みたいな、どのぐらい国が農業を保護しているかという指標で、米国がたったの一一%、EUが一九・三%、日本は何と四〇・九%も国が保護しているんだという数字を出すんですけれども、この辺の認識の差というのをちょっと御説明いただければと思います。
○鈴木参考人 御質問ありがとうございます。
PSEに基づいて日本の農業保護はやはり高いんだということをよく言う方がおりますが、これは間違いです。
PSEというのは、内外価格差に基づいて、内外価格差は全て保護でやるという計算の仕方をしているんですね。だから、例えば、国産のネギが三本で百五十円で売っていて、それから海外産の同じぐらいのものが百円で売られている、そうすると、そこに価格の差が五十円ある、これは日本の農業保護であるという計算の仕方をするわけです。
つまり、日本の農産物というのは、農家の皆さんも頑張って、いわゆる国産プレミアムと言われるような部分、国産の品質やそれを信頼する方々が、国産は高くてもある程度買うという部分がありますが、そういう部分が世界でも最も多いのが日本です。その部分を全て保護として計算することによって、日本の農業保護は、PSEという指標を使うと過大に出てくる。だから、それはある意味、意図的に過大に計算されているということを理解する必要があるのではないかと思います。
ありがとうございました。
○北神委員 大変よく分かりました。価格差だけで、その差の部分を国が支援しているというふうにみなす、そういうからくりがあるということを理解できました。ありがとうございます。
それで、もっと言うと、安藤先生がさっき御指摘いただいた財政の問題にもこれはつながるというふうに思っていますが、一方で、食料自給率という指標が、確かに今回の改正では、いろいろなほかの指標の一つにすぎないという位置づけになってしまった。問題としては、本質的には、今回の基本法の改正で私が落胆しているのは、輸出を増やすとか合理的価格を形成するとか、有機農業、有機という言葉は使っていないですけれども、環境の負荷を低減するとか、別にそれは、いいことは言っています。もっと言うと、前からやっているんですけれども、やっていることを明文化した。しかし、その具体的な目標が全く見えない。だから、農家の人にしてみたら、ここに向かって頑張ろう、そういう機運が高まらない。前は食料自給率を向上しようというのがありましたけれども、具体的目標がなければ、具体的手段というものも、いいことをやっていますよというぐらいの話にすぎなくなってしまう。
安藤先生に伺いたいのは、彼ら農林水産省は、食料自給率というのは、分母がその時々の消費者の食の嗜好というものを反映している、だから、今、毎年米が十万トン減っているのに、それは農林水産省として、国民の皆さんにちゃんと米を食べろと言うわけにいかぬ、みんなどうしても輸入が強い麦とか大豆とか、そっちの方に移行しているからしようがないんだ、こんな指標は具体的目標としては使い物にならぬということを言いたがっていると思うんですよ、そこまではっきり言わないですけれども。
そうであるならば、例えばスイスのように、スイスの食料安全保障というのは、ちょっと古いんですけれども、一九九九年ぐらいだったと思いますけれども、そのとき勉強したときには、本当に有事のときに、一人一人必要なカロリーというものを、もっと言うと、朝は牛乳一本、バター、パンとか何か具体的に決めて、そして、それを逆算して、このぐらいの農地が必要だ、ふだんから、場合によっては、畑として使い物にならぬのであれば牧草として使うんだというように、逆算して考える。そうすると、具体的な目標というのが出てくる。
もっと言うと、食料自給率というのにこだわるのであれば、分母に、平時の食料自給率と、もう一つは、本当に有事に必要な、さっき言った一人一人の熱量というものを合算して、分母にそれを置くという、有事の際の総供給量として考えるというような指標というのはいかがでしょうか。
○安藤参考人 御質問というか、的確な御意見をいただき、ありがとうございました。
貿易が遮断されたときにどのような自給率に日本がなるかというのは大変私も気になる数字でありまして、そうした数字を一つの指標として、特に国家安全保障の問題を考える場合の一つの指標として考えることは有効だろうというふうに思います。
また、スイスの状況ですけれども、やはり、生産者を支える、そういう国民的な合意があるということが大きいと思います。消費者の方々もそのことに対して理解をしているということが決定的かなと思います。
また、在庫とか備蓄ということも重要なわけですけれども、これはお金が大変かかります。お金の問題が関わってくると、どうしても政策はそこまで踏み込めなくなってしまうわけですけれども、むしろ、国としての覚悟が問われているというふうに理解すべきだと思います。
そして、ただ、それを霞が関の方々に、君たち、闘いなさいと言っても、それはなかなか闘える話ではありませんので、どうしても政治家の皆様の支援がなければそれはできないというふうに私は理解しております。
よろしいでしょうか。以上となります。
○北神委員 どうもありがとうございます。
今、備蓄の話が出ましたけれども、有事の際に、もちろん平時の国産、生産能力というのが一番大事だというふうに思いますけれども、備蓄というのは非常に重要だ。
そして、これは鈴木先生にちょっと伺いたいと思いますけれども、鈴木先生も同じお考えだと。今、中国は十四億人を一年半も食べさせるぐらいの備蓄をしているのに、日本はたったの二か月ぐらいだと。
量の話は全くそのとおりだと思いますけれども、備蓄の方式です。今、棚上げ方式になっている。もう一つ、その前は回転方式で備蓄をしていた。試算でいうと回転方式の方が財政負担は少ないということは農林水産省も認めているんですが、何で棚上げ方式にしているかというと、それは単なる経済学者のモデルにすぎない、実際は、豊作のときなんかはそんな簡単に主要食としてお米を放出することはできないし、結局財政負担が高くなるということをおっしゃるんです。
それはあると思うんですよ、豊作のときに結局出せなくて、古くなって飼料米として出して損が出るというのはあると思うんだけれども、全部飼料米として出すよりはずっと財政負担は少ないと常識的に思うんですが、その辺、御見解がございましたら教えていただきたいと思います。
○鈴木参考人 貴重な御指摘、ありがとうございます。
その辺りについてきちんと私は計算はしておりませんけれども、基本的には、どんどん回転させていくという方式で備蓄をしていくというのを基本にして、財政負担については、どちらが財政負担がかかるかという問題を超えて、やはり、備蓄をすることで、いざというときに国民の命を守るための、安全保障のコストとして負担はするという大前提で予算を組むということが非常に重要じゃないか。
先ほどもお話ししましたが、今、武器を購入するためには何十兆円ものお金を費やしております。それだけのお金を費やすのであれば、命を守るのは武器ではなくて食料です。いざというときに国民がしっかりと国内で食料がきちんと確保できるようにするというために、仮に備蓄に一兆円、二兆円かかっても、国内の潜在生産力をしっかりと発揮してもらって、それをきちんと国の責任で取っておく。こういうことについてのやはり国民理解が一番重要ではないか。政治家として、そういうことについてしっかりと覚悟を持って政策を進めていただくということが今求められているのではないか。
それから、以前は農家の方も米を一年分ぐらい自分でも備蓄していたんですよね。ですから、備蓄のやり方としては、それぞれの家庭や農家の段階でしっかり取っておいてもらう、それに対して国が支援をするというような形で、どんな形で備蓄をどこに取っておくのかということも含めて、一番効率的な方法は検討する必要があるなというふうには思います。
ありがとうございます。
○北神委員 本当に勉強になりました。ありがとうございました。
○野中委員長 次に、田村貴昭君。
○田村(貴)委員 六人の参考人の皆さん、本当に今日はありがとうございます。日本共産党の田村貴昭です。
最初に、鈴木参考人と、そして安藤参考人に質問します。
検証部会の中で、農業現場の委員から、次のような発言がありました。若い人がなぜ定着しないのかといえば農業で食えないからだと。私は、本会議質問で岸田総理に、価格保障、所得補償などで農家の収入をちゃんと担保すべきだというふうに質問しました。そうしたら、総理の答弁は、農地の集積、集約化等が進まず、生産性の向上が阻害される、消費が減少している品目の生産が維持されて、需給バランスが崩れる、補償を織り込んで生産者の取引価格が低く抑えられるなどの懸念があるというふうな回答だったんですけれども、両先生方はどのように捉えますか。
○鈴木参考人 御指摘、御質問、ありがとうございます。
今日の今までの議論でもありましたとおり、一方で中心的な担い手が農地をしっかり集積して生産性を向上し、生産を増やすということも重要でございますが、今そういうふうな方々が多くいるわけではなくて、農村現場を支えているのは多様な農業経営体、家族経営を中心にしたたくさんの方々が、何とか歯を食いしばって、今のコスト高にあえぎながらも生産を継続しようと努力しております。そういう方々の生産が継続できなくなったら、一部の方々が幾ら効率化しても、日本の農地をしっかりと活用して、農業生産を維持して、自給率を高めることは不可能だと思います。
ですので、そのような、今現場で一番頑張っている多くの方々が農業では食べられないという状況、悲鳴を解決せずして日本の国民の命を守る食料を不測の事態にしっかりと確保することはできないという視点から、私は、田村先生が言われたように、しっかりと赤字を補填するような直接支払い、それから、中山間地でも踏ん張っている農家の皆さんが継続できるような、そういうふうな支援をしっかりやるということが非常に重要だと。
それを、価格に応じてそういう支払いをしますと、確かに、買いたたきに遭って、農家の売値が下がってしまうというふうな問題も確かに指摘されておりますが、それは、米で一俵当たり三千円というような赤字があるのであれば、それを十アール当たり幾らというような形で、酪農であれば、牛乳一キロ当たり今十円の赤字がまだ残っております。それは、ホルスタイン一頭当たりにすると十万円の支給になります。このような形で、価格に応じて払うんじゃなくて、それを面積や頭数に応じて払う形に変換して払えば、そういう問題はほぼ解決できると思います。ですので、総理が言われたような懸念は、少し的外れではないかと私は考えます。
○安藤参考人 御質問いただき、ありがとうございます。
かなり本質的な問題をしていただいたと思っております。
私の本日配付しました参考資料に、それに関することが書かれております。
かつて、戸別所得補償制度が実施されました。そのときに、実は米価が大きく下がっております。そういう点では、どういう政策環境の下で政策を実施するのか、これは大変重要だと思っています。つまり、いい政策をそのまま実施すれば常にうまくいくのかというとそうではなくて、それがどういう状況の下に実施されたかがすごく重要だと私は思っております。
そうした問題が生じないように、先ほど鈴木先生の方から支払い方についての工夫がありましたけれども、それだけで十分かどうかも含めて、本当にこの政策を実施するのであれば、それがどういう条件の下であれば本当に農家の手取りが多い形で機能するのかどうかも含めて、正面から議論する必要があると思います。そして、その議論なり検証は、これまでのところ、残念ながら行われてこなかったように私には思われます。
私からは以上となります。ありがとうございました。
○田村(貴)委員 続いて、安藤参考人にお尋ねします。
現在、日本の農業従事者が百十六万人と四半世紀で半分になりました。しかし、農林水産省は二〇四〇年代には三十万人まで減るとし、坂本大臣は、昨日、農業従事者は減少する、法文に明記する必要があるというふうに答弁されました。一方で、農地は維持すると言うんですね。そうすると、二〇四〇年代に四百万ヘクタールの農地を三十万人で維持していく、これは大変な無理が出てくると思うんです。
そして、先生にお伺いしたいのは、企業による農地取得、大規模化、スマート農業導入等によって、農業の維持というのは図られる可能性はあるんでしょうか。
○安藤参考人 御質問ありがとうございます。
かなり具体的な数字を挙げて質問をしていただきました。ありがとうございます。御懸念のとおり、これだけの少なくなった人数で農地を本当に守ることができるかどうかとなると、私もかなり不安を感じざるを得ないというのが率直なところです。
スマート農業の技術開発によって、かなりの部分、対応できるところも出てくるとは思いますが、農業あるいは農地を守るということは、ただ単にそこで耕作をするだけではなくて、特に水田について言うならば、水路の維持管理、それから草刈り、夏の暑い時期に何回も草を刈らなければいけない、これは大変な作業です。これについてもスマート農業がかなり解決してくれる部分があるかとは思いますが、そうした作物を生産するという経済活動だけではなくて、国土をケアする、そういう役割を農業は果たしています。そこまでのことが少なくなった人数でできるかとなると、私はクエスチョンをつけざるを得ないと思っております。
私からは以上となります。ありがとうございました。
○田村(貴)委員 続いて、鈴木先生にお尋ねします。
基本法では、国内の農業生産の増大を図るとともに、安定的な輸入、備蓄の確保を図ることで行わなければならない、そのようにされています。世界で輸出規制が広がる中で、安定的な輸入を図ることは可能なんでしょうか。日本で適切な備蓄というのは、どの程度の量、そして品目を確保すべきだというふうにお考えでしょうか。
○鈴木参考人 御質問ありがとうございます。
先生がおっしゃるとおり、輸入を確保するといいましても、これだけ輸入が滞るリスクが高まってきていて、お金を出せば、すぐに、いつでも安く買える状況はもう見込めなくなってきているという状況で、輸入先との関係強化、もちろんこれは大事です。あるいは、さらには、海外に日本の商社などが投資をして農業生産を増やしておけばいいというような議論も行われておりますけれども、それを否定するわけではございませんが、それを行っても、先生言われたとおり、輸入が滞るような事態になったら、まず自国民をさておいて日本に売ってくれる国は最終的にはございませんし、それから、物流が止まれば物理的にも持ってこられません。ですので、まず国内生産をしっかりと増強する。
そして、備蓄については、輸入でという考え方ももちろんありますけれども、基本的には、日本の農業には、米を中心に潜在生産力があるわけですから、水田のフル活用で一千二百万トン生産ができるのであれば、それをしっかりと予算をつけて備蓄しておく。備えることが非常に重要だ。
そのために、政府が責任を持って、米でいえば一万二千円ぐらいで買い取りますと。五百万トン買い取っても、一兆円です。ですから、それだけの予算をかけることで国内の農家を支えて、そして国民の命を守ることができるのであれば、五百万トンですと、一年分にはなりませんけれども、かなりの期間、国民の命を守ることができます。
ですので、一兆円ぐらいのまず予算を目安にするのであれば、米で増産した分を、五百万トンぐらいを一万二千円で買い取る、こういう仕組みを入れることで、国民も安心できるし、農家も、よし、頑張るぞという気持ちになれるんじゃないか。
そういう意味で、備蓄の水準としては、今言ったような数字が、一つの概算としては目安になるのかなというふうに考えております。
○田村(貴)委員 ありがとうございます。
鈴木先生は、意見陳述の中でも、食料自給率の引上げを強調されました。それは、種も、そして飼料も含めてというお話を伺いました。
六人の参考人の皆さんに、残された時間は僅かですけれども、参考人の皆さんが食料自給率はここまで引き上げなければいけない、ここまでだったら大丈夫じゃないかとか、その数字を、日頃御主張されているところがありましたら、そのことについて一言ずつ教えていただけないでしょうか。よろしくお願いします。
○合瀬参考人 ありがとうございます。
私は、四五%を目標に、達成し、その分、農地とそれから技術、それから人の確保、これをきちんとやっておくべきだというふうに思います。
以上です。
○中原参考人 御質問ありがとうございます。
農業サイド側から言ってみれば、やはり高ければ高いほどいいなというふうに思っています。ただ、現状的には非常に厳しいんでしょうけれども、私個人としては、やはり六〇ぐらいは行ってほしいなと。
そのためには、やはり、先ほど来いろいろお話がありましたけれども、農地の維持の、そういった支払いだとか担い手育成、また、担い手だけではなくて、多様な農業者が育つことによって農地だとか農村が維持できる、また、再生産可能な所得補償、又は産業政策と併せた地域政策、これらをきちっとかみ合わせながら、国内の農業の増産を図っていく、そこまでは行ってほしいなというふうに思っております。
以上であります。
○三輪参考人 御質問ありがとうございます。
現在の状況ですと、掲げている四五%というのは、一定の妥当性があるというふうに思っています。ただ、将来的には、これからの不安定さがどうなっていくか、若しくは、残念ながら、需要については人口減少等で減っていきますので、そこのバランスについてしっかり考えるべきだと思っています。
基本計画の中で自給率の議論をしていくというところでございますが、現状及び将来にわたっていうと、やはりデータに基づく分析というのが必要になってくるというふうに思っております。
また、数字を掲げた中で、それを実際に達成するための具体的なアクションとそれに対するコミット、あと、その実現を図るためのKPIというのはしっかり設定すべきだというふうに考えております。
以上です。
○西村参考人 御質問ありがとうございます。
私の希望としては、一九六〇年代の八〇%が希望ですが、先ほども安藤先生からもございましたように、最低でも五〇%ぐらいの自給率がないと、何かがあったときに混乱するのではないかというふうに思います。
本日も、ロシアのダーチャの話をいたしましたが、国内には、やはり家庭菜園、販売農家ではない生産をされている方がいっぱいありまして、潜在的な自給率はある意味あるのではないかなと思います。その分野にもしっかりと支援の手を差し伸べていく必要があるのではないかなというふうに思います。
○鈴木参考人 農水省が平成十八年に出したレポートで、食生活をもう少し、米を増やすような形で改善するだけで食料自給率は六三%まで上げられるという数字を出しております。
このレポートを、いいじゃないかということで、ネットで検索して、計画を立てようと思うと、なぜか、なかなかアクセスできなくなっているという事情が不思議なんですけれども、こういうデータもございますので、これを一つの目標として捉えるということはあり得るのかなというふうには考えております。
○安藤参考人 ありがとうございます。
現在の基本法で四五%と定めております、目標としておりますけれども、そのときにかなりの議論をしたというふうに私は記憶しています。そういう点では、四五%というのは、一定のというか、かなり重要な意味合いがあって決まっているんだと私は思っています。ですから、四五%を何とか維持したいと。
もちろん、高い方がいいにこしたことはございませんが、それは譲れないのではないでしょうかというふうに思っております。
私からは以上であります。
○田村(貴)委員 参考人の皆さん、ありがとうございました。
以上で終わります。
○野中委員長 これにて参考人に対する質疑は終了いたしました。
この際、参考人各位に対し、一言御挨拶申し上げます。
本日は、早朝から本委員会に御出席いただき、また貴重な御意見を賜ったこと、厚く御礼申し上げたいというふうに思っております。委員会を代表して御礼申し上げます。ありがとうございました。(拍手)
次回は、来る九日火曜日午前八時五十分理事会、午前九時委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。
午後零時十二分散会