第11号 令和6年4月18日(木曜日)
令和六年四月十八日(木曜日)午前九時開議
出席委員
委員長 野中 厚君
理事 伊東 良孝君 理事 小島 敏文君
理事 古川 康君 理事 山口 壯君
理事 近藤 和也君 理事 野間 健君
理事 池畑浩太朗君 理事 角田 秀穂君
東 国幹君 五十嵐 清君
上田 英俊君 江藤 拓君
加藤 竜祥君 神田 憲次君
小寺 裕雄君 高鳥 修一君
橘 慶一郎君 中川 郁子君
西野 太亮君 細田 健一君
堀井 学君 宮下 一郎君
保岡 宏武君 簗 和生君
山口 晋君 梅谷 守君
金子 恵美君 神谷 裕君
緑川 貴士君 渡辺 創君
一谷勇一郎君 掘井 健智君
稲津 久君 山崎 正恭君
田村 貴昭君 長友 慎治君
北神 圭朗君
…………………………………
農林水産大臣 坂本 哲志君
農林水産副大臣 武村 展英君
農林水産大臣政務官 舞立 昇治君
政府参考人
(農林水産省大臣官房総括審議官) 杉中 淳君
政府参考人
(農林水産省輸出・国際局長) 水野 政義君
政府参考人
(農林水産省畜産局長) 渡邉 洋一君
農林水産委員会専門員 飯野 伸夫君
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四月十八日
国産食料の増産、食料自給率向上、家族農業支援強化に関する請願(志位和夫君紹介)(第一一一九号)
食料自給率向上を政府の法的義務とすることに関する請願(笠井亮君紹介)(第一一六六号)
は本委員会に付託された。
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本日の会議に付した案件
政府参考人出頭要求に関する件
食料・農業・農村基本法の一部を改正する法律案(内閣提出第二六号)
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○野中委員長 これより会議を開きます。
内閣提出、食料・農業・農村基本法の一部を改正する法律案を議題といたします。
この際、本案に対し、金子恵美君外二名から、立憲民主党・無所属及び有志の会の二派共同提案による修正案が提出されております。
提出者から趣旨の説明を聴取いたします。金子恵美君。
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食料・農業・農村基本法の一部を改正する法律案に対する修正案
〔本号末尾に掲載〕
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○金子(恵)委員 ただいま議題となりました食料・農業・農村基本法の一部を改正する法律案に対する修正案につきまして、提出者を代表して、その内容を御説明申し上げます。
まず、総則の修正について御説明いたします。
第一に、食料安全保障の確保に関する基本理念に関して、食料安全保障の定義の修正、国内における食料の安定供給の確保の重要性及び食料自給率の向上の明記、食料の「合理的な価格」を「適正な価格」とする修正を行うこととしております。
第二に、環境と調和の取れた食料システムの確立に関する基本理念に関して、農業生産活動が自然活動の保全等に寄与する側面を明記する修正を行うこととしております。
第三に、農業の持続的な発展に関する基本理念に関して、農業所得の確保による農業経営の安定を追加するとともに、農業に従事する者の人権への配慮について明記する修正を行うこととしております。
第四に、農村の振興に関する基本理念に関して、農村振興の意義を明記する修正を行うこととしております。
第五に、年次報告に関して、政府が講じようとする施策を明らかにした文書の作成及び国会への提出に係る規定を存置する修正を行うこととしております。
次に、基本的施策の修正について御説明いたします。
第一に、食料・農業・農村基本計画に関して、食料自給率の目標を必要的記載事項とした上で、食料自給率の目標に緊急時のカロリーベースの食料自給率の目標が含まれることを明記するほか、基本計画に定める食料自給率等の目標の達成状況については、食料・農業・農村政策審議会の意見を聞くとともに、その意見を付して国会に報告しなければならない旨を追加する修正を行うこととしております。
第二に、食料安全保障の確保に関する施策に関して、食料消費政策における予防的な見地の明記、フードバンク等への支援の明記、フェアトレードの確保の明記、食料システムの関係者により考慮されるべき費用の要素の追加、備蓄食料の国際援助への活用の明記の修正を行うこととしております。
第三に、農業の持続的な発展に関する施策に関して、多様な農業者の役割の明記、農地及び農業用施設の保全に対する直接支払い等の根拠の追加、畑地化の例示の削除、アニマルウェルフェアの明記、有機農業の促進の明記、種子の公共育種事業に関する規定の追加の修正を行うこととしております。
第四に、農村の振興に関する施策に関して、地域の伝統的な食品産業の明記、都市及びその周辺における農業の有する機能の重要性の明記の修正を行うこととしております。
以上が、この修正案の内容であります。
何とぞ委員各位の御賛同をお願い申し上げます。
○野中委員長 これにて修正案の趣旨の説明は終わりました。
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○野中委員長 この際、お諮りいたします。
本案及び修正案審査のため、本日、政府参考人として農林水産省大臣官房総括審議官杉中淳君、輸出・国際局長水野政義君、畜産局長渡邉洋一君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○野中委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。
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○野中委員長 これより原案及び修正案を一括して質疑を行います。
質疑の申出がありますので、順次これを許します。神谷裕君。
○神谷委員 立憲民主党・無所属の神谷裕でございます。本日も質疑の時間を頂戴しましたこと、感謝申し上げます。
早速質疑に移らさせていただきます。
戦後、我が国農業は、残念ながら、自給率の低下、農地面積の減少、農業者の減少が続いてきました。このことだけでも農業が危機的な状況に向かっていることを意味していると思います。
今回、様々な国際環境の変化等を改正の理由と説明をされておりますけれども、単に我が国の農業の変化の趨勢だけでも、十分に基本法の改正がなされなければならない状況であったのではないかと思います。
農林水産大臣及び修正案提出者の所感を伺います。
○坂本国務大臣 世界の気候変動による農作物の不作等が予想以上に進みました。それから、ウクライナ戦争に見られるように、地政学的リスク、これも、いつ、どこで、どういうふうに起きるか分からないというような国外の情勢になってまいりました。私たちの国内でも、農業者の急激な減少が進みました。
私は、一九五〇年、昭和二十五年生まれですけれども、二百三十万人から二百五十万人世代です。小中学校は、大半が農家の子供たちでした。そして、農家の長男は、ほとんど迷わず、そのまま何の疑いもなく、農業の後を継ぐために農業高校に行きました。そういう方々がもう七十歳です。あと十年、あと二十年すれば、こういった人たちが全てリタイアをしてまいります。
そういう中で、いかに少ない人数で農業を、食料供給を果たしていくのか。そのためには、やはりスマート化が必要であります。そして、サービス事業体等の育成が必要であります。
そういうことを考えたときに、国内外の情勢を考えたときに、まさに今、我が国の農業の情勢の変化を捉えた食料・農業・農村基本法の改正が必要であるということで今回提案をしたところでございます。
○金子(恵)委員 お答えいたします。
食料・農業・農村基本法が制定された平成十一年からおよそ二十五年の月日が過ぎ、我が国や我が国を取り巻く情勢は大きく変化しております。重要なことは、御指摘のような国際環境の変化等を踏まえた上で、食料・農業・農村基本法が求める政策目標を達成できなかったということ、そういう事実でありまして、それを総括すべきだということでございます。
すなわち、食料自給率の低下、農業の有する多面的機能の発揮に対する耕作放棄地の増大という失敗、農業の持続的な発展と基盤としての農村の振興に対する農家経営の減少と高齢化、担い手不足と農村人口の減少といった農政の失敗について、真剣な総括と抜本的な政策の変更が必要だと考えます。
今回の基本法改正に際し、我々としては、政府がこれまで掲げてきた農業の成長産業化、そして新自由主義的な政策から政策を転換し、農業経営の安定化策の構築、強化にかじを切ることが必要だと考えています。
そこで、我々としては、修正案において、国内の農業生産の増大を図り、食料自給率を向上させることの明記や、食料価格の形成について、「合理的な価格」を、農業の持続性の確保を考慮した「適正な価格」とすること、多様な農業者の役割の明記、農地及び農業用施設の保全に対する直接支払い等の根拠の追加などの修正を行うこととしております。
○神谷委員 ありがとうございます。
それでは、次でございますけれども、今次改正では、食料安全保障について大きく取り上げられることになりました。この間の審議においても論議のあった有事に際しての食料自給率についても、修正案には盛り込んでいただいていると承知をしております。
この点についてのお考えを、修正案提出者にお伺いをいたします。
○北神委員 御質問ありがとうございます。
御案内のとおり、食料安全保障で大事なのは、輸入とか備蓄も大事ですけれども、やはり国内の農業の生産ということで、完全ではないかもしれないけれども、それを指し示す指標として食料自給率というのがあった。
これは、今まで、農業法、現行の方にはちゃんと基本計画の必要的事項として規定されておったんですが、これが、今回の改正によってその他の指標の一つ、例示となってしまった、意義が薄れてしまっているのではないか。そういうことで、修正案として、やはり食料自給率というのをはっきりと必要的事項として明記するというのが一つ。
もう一つは、今回、食料安全保障で、不測の事態、有事のときの対応ということが大事になったので、審議でも申し上げていたとおり、有事の食料安全保障というものも明記すべきではないかということです。これは、分母の方に、いざというときに必要最少限度のキロカロリー、今までの審議でいうと千九百キロカロリーと言われていますが、そのぐらいの固定した分母で置いて、そして、それをやはり有事のときには確保するんだ、こういうことがなければ、私は、政府が国内の食料生産の担保というものがなかなかできないというふうに思っていますので、修正案に盛り込みました。
○神谷委員 大変に重要な視点であると思います。
その上で、食料安全保障の基本理念については、今お話しいただきましたとおり、国内農業生産の増大を通じて行うべきであることが、この間の委員会審議を通じても確認されたと思います。
その上で、修正案については、より明確に御記載をいただいていると承知をしております。提出者より、その趣旨を伺えたらと思います。いかがでしょうか。
○北神委員 ありがとうございます。
御案内のとおり、政府案第二条第二項では、食料の安定供給については、国内の農業生産の増大を図ることを基本としながらも、併せて安定的な輸入及び備蓄の確保を図る旨の規定が追加されたと。
しかし、最近の国際情勢を見ても、世界の食料需給とか貿易は、必ずしも安定という状態ではございません。輸入や備蓄によって食料を確保することよりも、国内における食料の安定供給の確保を図ることが何よりも重要だというふうに考えています。
そのため、修正案では、国内における食料の安定供給が重要であることを基本理念に明記しました。
○神谷委員 ありがとうございます。
次に、原案の新三条においては、農業の環境に対する負荷についての記載がございます。本来農業は、他産業に比しても環境と調和的であったように私は思っております。
修正案では、環境と調和の取れた食料システムの確立について、どのようにお考えか、修正案提出者に伺いたいと思います。いかがでしょうか。
○北神委員 御指摘のとおり、農業というのは、米作りの水田に代表されるように、環境保全機能を始めとする多面的機能を有していると思います。元来、自然と調和の取れた営みであるはずだと思います。
しかし、政府案第三条では、食料の生産、加工、流通、消費までの各段階で環境に負荷を与えるという、ちょっとマイナスの側面が全面的に打ち出されたので、その結果、米作りを始めとする農業そのものまでが環境に悪い影響を与えるといった印象を与えかねないというふうに思います。こうした状況では正しい認識の下での農業の振興は困難だというふうに思います。
そこで、修正案では、食料の生産の段階において農業生産活動においては自然環境の保全等に大きく寄与する側面があるということを言及することにしました。
○神谷委員 次に、農業の持続的な発展を期すためには、まずは農業者の経営が持続可能なものでなければならないと考えているところでございますけれども、必ずしも合理的な価格形成の結果が農業者に持続可能なものになると期待できない中で、修正案では、農業者の所得確保についてもお触れをいただいております。
この点について、修正案提出者のお考えを伺いたいと思います。
○北神委員 ありがとうございます。
政府案の第二条第五項では、食料の合理的な価格の形成において食料の持続的な供給に要する合理的な費用への配慮というのは食料システム関係者に委ねられています。しかし、実際には、食料システムの各段階の関係者の交渉力とか価格支配力の格差がある中で、そうした考慮がなされる保証は全くない。
その際、重要となるのは、どれだけ農業の担い手の農業所得が適正に考慮され、最終的に食料の価格が農業者にとって再生可能な価格となるかどうかであります。そうでなければ、農業という職業が魅力的なものにならず、今後も農業に参入する人は増えず、離農する農家も増えるおそれがあるというふうに思います。
そこで、農業の持続的な発展には農業者の所得確保が必要だという観点から、修正案では、第二条第五項において食料の「合理的な価格」を「適正な価格」とするとともに、食料の適正な価格の形成は、食料の持続的な供給のみならず農業の持続性の確保が考慮されるものとして、持続的な営農が可能な農業所得の確保により、農業経営の安定が図られるべき旨を追加することとしました。
ただ、もっとも、今回の施策を通じて、市場における適正な価格形成に向けた努力がなされたとしても、再生産を可能とする所得水準に見合う価格が実現する保証もございません。そういった場合には、例えば、農業者に対する直接支払いも併せて実施することも考えられるというふうに思います。
○神谷委員 非常に大変重要な視点であると思います。やはり、農業の所得確保あるいは持続可能な経営、これは非常に重要な観点だと思います。本当に、修正案に盛り込んでいただいたことを、感謝を申し上げたいと思います。
続きまして、農村の振興に関する基本理念を明示した新六条において、修正案では、農村振興の意義についてより明確に書いていただいていると承知をいたしております。
修正案提出者にその御趣旨を伺いたいと思います。いかがでしょうか。
○渡辺(創)委員 お答えいたします。
政府案第六条では、農村の意義について、「農業の持続的な発展の基盤たる役割」しか書かれておりません。しかし、国土の大宗を占める農村は、国民に不可欠な食料を安定供給する基盤であるだけではなく、農業、林業など様々な産業が営まれ、多様な地域住民が生活する場でもあり、さらには、国土の保全、水源の涵養、美しい安らぎを与える景観の形成、生物多様性の保全、文化の伝承といった多面的な機能が発揮される場でもあります。
そこで、そのような観点から、我が党の修正案においては、第六条で農村振興の意義を更に敷衍して、食料の安定的な供給を行う基盤たる役割を果たしていること、農業の有する多面的機能が発揮される場であることを明記することといたしました。
○神谷委員 ありがとうございます。
原案において、実は、農村の振興に関する部分、やや少なかったなというふうに個人的に思っておりまして、そこの部分を十分に足していただける、そういう御提案だったんじゃないかなというふうに思います。
次に、修正案では、年次報告書について、従来のように、講じようとする施策についても審議会に意見を聴取するよう求めております。また、基本計画の目標の達成状況についても審議会にしっかりと付していただいて、国会への報告を求めることといたしているというふうに聞いております。
この点について、提出者にその意義をお伺いをしたい、このように思います。いかがでしょうか。
○渡辺(創)委員 お答えいたします。
政府案は、現行法第十四条第二項及び第三項に規定している国会報告と食料・農業・農村政策審議会の意見聴取を不要にするものでありますけれども、これは行政に対する議会による民主的統制を弱めようとするものであります。議会制民主主義の観点からは好ましいものではありません。
そこで、政府の講ずる施策が毎年適正に行われることを担保すべきこと、また、国民全体の視点に立った施策の遂行を行うためには、これから講じようとする施策について、審議会の意見を行政に引き続き反映させるべきと考えることから、政府案が削ろうとする国会報告と食料・農業・農村政策審議会の意見聴取の規定を現行法のまま存置させることにいたしました。
○神谷委員 PDCAサイクルを回すという意味では、この審議会の役割、そして農水省自身がチェックをする、そして国会に報告する、これは本当に非常に重要なことだと思います。この修正案に盛り込んでいただいたことを、ありがたく思う次第でございます。
次の質問でございますが、食料安全保障に関する施策について、修正案では、予防的な見地やフェアトレード、備蓄食料の国際援助への活用など、より具体的に、そしてしっかりと御記載をいただいているというふうに思っておりますし、このことは評価されるべきではないかと思っております。
提出者に、そういった事項を明記した意義を改めてお伺いをしたいと思います。いかがでしょう。
○金子(恵)委員 現行の食料・農業・農村基本法が制定されてから四半世紀、この間に世界は大きく変わりました。すなわち、より高い水準で食品の安全性を求める意識の高まり、国際的な人権意識の高まりとそのビジネスへの応用、国際協力の一層の推進の必要性など、近年、特にその重要性が意識されるに至った事項については、農業分野の憲法である基本法においてもきちんと受け止める必要があるというふうに考えます。
いわゆる予防原則、フェアトレード、備蓄食料の国際援助への活用などは、こうした事柄の農業分野での発露であるというふうに考えます。こうした形で条文にしっかりと新しい価値観を書き込み、アップデートしていくことにより、農業という産業分野もまた更なる発展を遂げるだろうというふうに考えているところでございます。
○神谷委員 ありがとうございます。
次の質問でございますが、農業の持続的な発展に関する施策において、修正案では多様な農業者の役割などを明記していただいております。多様な農業者の存在は極めて重要であると考えておりますけれども、修正案提出者がここであえて明記した思いについて、所感を伺いたいと思います。いかがでございましょうか。
○金子(恵)委員 多様な農業者は、付加価値の高い農産物の生産や有機農業に意欲的に取り組むこと等を通じて、それぞれの地域の農業を発展させる役割を担っています。また、大規模農業経営の下に集約し切れない農地や条件不利地域で農業生産活動を行うこと等により農地を確保し、国内の農業生産の増大に資する役割も担っております。
このように、多様な農業者が地域の農業及び農地の確保において極めて重要な役割を果たしていることを重視し、その旨を明記したところでございます。
○神谷委員 ありがとうございます。
多様な農業者の存在が、今、本当に農村では重要なんじゃないかなと思っているところでございまして、もちろん、担い手に集中していく、あるいは、そういったことも大変大切なんだろうと思うんですけれども、現実には、多様な農業者がいて初めて農村が回っているんだということを明記いただいたことを、本当にありがたく思う次第でございます。
続きまして、修正案では、原案では明示されていない有機農業の促進についてもはっきりと書いていただいております。あえてこの有機農業について明示した思いを提出者に伺いたいと思います。いかがでしょうか。
○金子(恵)委員 SDGsに対しての関心が今、大変高まっております。また、農業も環境との調和が叫ばれ、令和四年にはみどりの食料システム戦略の法制化も行われたところでございます。その中でも、有機農業は、このような持続可能な農業の中核として強力に推進していくべきと考えられるにもかかわらず、今回の政府案には有機農業の文字すらありません。
そこで、修正案において、農業生産活動における環境への負荷の低減を図るために必要な施策の例示として、有機農業の促進を追加することといたしました。
○神谷委員 一方で、農水省でも有機農業について様々これまでも法案が出てきているところで、みどりのシステム戦略であるとか、あるわけでございますから、あえてこの基本法に記載をいただかなかったということについては、やはりこれはちょっと足りていない部分なんじゃないかなと思う次第でございます。修正案について御記載をいただいたこと、明示されたこと、これは高く評価されてよいのではないか、このように思います。
次の質問でございますが、今次の改正案の原案については、種子について、農業資材としての位置づけがなされております。修正案では、資材というばかりではなくて、より重要な位置づけがなされているというふうに承知をいたしております。
提出者から、修正に際して種子をどのように考えているのか、これについてお伺いをさせていただきたいと思います。いかがでしょう。
○渡辺(創)委員 お答えいたします。
私たちは、農産物の種子やそれらが持つ遺伝情報などを国民共有の財産であると考えております。食料安全保障の観点からも、主要な農産物の種子については、公が責任を持って国内で生産し、供給する必要があると考えています。また、伝統的な在来種等の種子を保存し活用していくことは、農業用植物の品種の多様性の確保及び地域の農業振興を図る上で重要です。
そこで、私たちの修正案では、地方公共団体がその地域における重要な農産物の種子を生産し、供給する体制を国が整備する旨の規定を新たに設けることといたしました。
○神谷委員 ありがとうございます。
この間、種子をめぐる議論というのは様々ございました。我々も、主要種子法の復活法みたいなことも出させていただきました。結果からいうと、これはいまだ、俎上には上ったのかもしれませんが、まだ結論を得ていないというふうには思っております。
一方でいうと、地方では、独自に条例を作られ、そして大事な種子についての様々な取組がされております。一方で、国において、それこそ坂本大臣とも過去に御議論させていただきましたが、交付税という形、一応は措置をしていただいている、そのための担保を取っているんだというような御議論もございました。
ただ、やはり根拠条文たるものがなかったんじゃないかということは、その当時、大変に大きな問題だったと思っております。その後、種苗法の改正をもって一応、根拠条文たるんだということではありましたけれども、やはり、国として種子を大切にしていくんだ、資材というばかりではなく、ゲノム、遺伝情報として、あるいは地域の在来種も含めた国全体の資源というか、本当に大切な宝物としてこれからも使っていかなきゃいけないんだという意味においては、むしろ私は、修正案に書いていただいたそういった種子の扱い、あるいは種子の可能性というのか、そういったことについて触れていただいたことには本当にありがたく思う次第でございます。
次の質問でございます。都市農業について伺いたいと思います。
都市農業については、例えば、新鮮な農産物の提供であったり、都会における避難場所の提供であったり、あるいは景観の提供など、最近になりまして、前向きな評価がどんどんどんどん進んでいるものと承知をいたしております。
修正案で、その重要性についてもしっかりと明記をいただいているというふうに承知をいたしております。提出者に、その思いを伺いたいと思います。いかがでございましょうか。
○渡辺(創)委員 都市農業は、例えば、消費地に近いという特性から、消費者に対して農業というものを身近に感じさせる重要な機能を持っております。そのほかにも、都市農業は、新鮮な農産物の供給基地として重要であるだけではなく、良好な景観の形成、レクリエーションの場の提供、防災空間の確保等、都市住民の良好な生活環境の保全に寄与する機能を持っています。
しかし、都市農業振興基本法が二〇一五年四月に制定され、都市農業の果たす多様な機能が規定されているにもかかわらず、今回の政府案では、都市農業の振興について定めた第四十九条第二項の改正が全くなされておりません。
そこで、例えば、消費者の方々に都市農業の理解を醸成してもらうということであれば、基本法の中で都市農業の果たす重要な役割について書き込むべきだというふうに考えました。都市農業の機能の重要性について、この度の修正案で、そういう理由から明記をするということになった次第であります。
○神谷委員 ありがとうございます。るる修正案についてもお伺いをしてまいりました。
この基本法の審議、御案内のとおり、三月二十六日、本会議での代表質問というか総理入りでの質問からスタートをして、今日まで約一か月間の間、本当に審議を丁寧に、かつ真摯に、与野党共に一緒になってやってきたものというふうに承知をしております。この点については、私自身は評価をしているところでございます。
そして本日、いよいよ結論を迎えるというような段になってまいりました。そういった意味において、我々もこの間、この審議の間だけではなくて、これまでの道行きの中で、昨年から、現場に足を運び、るるお話を聞き、そして農家の皆さんからも、そして様々な有識者の方々、そして農水省の皆様方からも様々に意見を聞いてまいりました。それはひとえに、よりよいものを作らなければいけない、この国の農業の憲法たる基本法をやはりしっかりと有意義に議論をしていきたい、この思いからでございました。
そういった点において、最終的には、我々としても修正案を提出をさせていただいて、できればもっとよい形にしていきたいという思いで臨ませていただいたところでございます。果たして、この修正案の採決がこの後待っているわけでございますが、皆様にも御賛同を是非いただきたいというふうに本当に思っておりますし、よりよいものを作るという意味で、我々も真摯に議論をし、そして提案をさせていただいたというところでございます。そして、その趣旨は、あるいは考え方は、今、法案の質疑を通じて、皆様に御説明というか御理解をいただけたんじゃないかなというふうに思っているところでございます。
足りない部分があるとはあえて申しませんが、しかしながら、よりよいものを作っていく上で、むしろ、これは特出しして明示をした方がいいんじゃないか、あるいは、現在の時代にアップデートするためにはこういったことが必要なのではないかというようなことも書かせていただいた上で、そして盛り込んでいただいたというようなところでございます。
大事な議論でございます。そしてまた、衆議院の後には参議院での議論も残っていると思います。何度も申しますが、農業における憲法であるこの基本法に関しては、与党も野党も真摯に向き合いながら一つの結論をつくっていく、このことが重要なんだろうと思っておりますし、この間、委員長を始め、そして与党の理事の皆様あるいは委員の皆様にも御協力をいただいたというふうにそこは思っているところでございます。だからこそ、この後もしっかりと向き合った議論を続けていかなければならないと思っております。そして、その意味において、今日の質疑の時間をつくっていただいたこともありがたく思っているところでございます。
しかしながら、やはり、一つの結論としてはこの後出てくるわけでございますけれども、できることであれば、私どもはこの修正案の形が最良のものと考えているところでございます。そしてまた、当初から申し上げているとおり、自給率がなぜ下がったのか、あるいは農地面積がなぜ減っているのか、あるいは農業者の数がなぜ今減っているのか、この趨勢を変えるということが今回の新しい基本法の下でできるのか、そのことについて、最終的に、私自身、確証の持てないままに終わっていくということが本当にこれだけは残念でならないというようなところでございます。
そのことをるる申し上げて、最後に感謝だけ申し上げさせていただいて、私からの質疑を終了させていただきたいと思います。
本日も、どうもありがとうございました。
○野中委員長 次に、田村貴昭君。
○田村(貴)委員 日本共産党の田村貴昭です。
四日の参考人質疑で、東京大学の安藤光義教授は、食料自給率の低下についてその歴史を振り返りました。
一九五九年、飼料用トウモロコシの自由化、一九六〇年、貿易為替自由化計画大綱、一九六一年、大豆なたね交付金暫定法による大豆生産削減、一九六四年、グレーンソルガム自由化と述べられ、食料自給率が大きく低下したのは、一九六一年の農業基本法下において、外国産農産物と競争関係にある農産物の生産の合理化を明記していたこと、前提にあるのは、アメリカの小麦、大豆、トウモロコシなどの購入であったことを述べられ、次のように指摘されました。アメリカは日本を自国の農産物のマーケットとして捉えていましたが、日本側も、飼料用穀物を肥料や農薬と同様の生産資材として捉えていたのです、食料自給率の低下は必然だったということです、このように解説されました。
安藤参考人、安藤先生の史実に基づくこの指摘について、農水省はいかに受け止めましたか。
○杉中政府参考人 お答えいたします。
安藤参考人の御指摘のとおり、小麦や大豆などの輸入増加により自給率は低下したのは事実でございます。これは、戦後の復興に伴い人口が急増し、食料需要の増大、これをカバーするために、特に小麦や大豆、油脂類などの輸入を増やす必要があったためというふうに考えております。
一方、一九九八年以降、現在においては、食料の総需要が減少に転じております。この中で、特に国産供給率が高い米の消費が減少し続けていることが自給率低下の原因となっております。
このように、食料自給率の変化の要因はその時々の食料需給によって変化し、今日の状況において自給率を向上させるためには、輸入に依存している小麦、大豆などを国産化することが最も重要であるというふうに考えています。
○田村(貴)委員 人口が減って、そして需要が減っているから仕方がないみたいなように聞こえたんですけれども、人口がどういう規模であろうが、そして需給関係がどうなろうが、やはり食料自給率というのはしっかりと明記し、そして目標を持って向上させていかなければいけないんじゃないですか。安藤先生は、日本で生産していたものをアメリカの食料戦略に従った政府の姿勢を解説したんです。
大臣にお伺いします。
穀類は、アメリカの戦略物資です。自給率を増大すると言いながら実際にそれができなかったのは、この対米追従が大きな要因であったことは間違いありません。国内産を増産させるというのであれば、アメリカの戦略に毅然とした態度を取る、追従しないことが必要であると考えますが、大臣はその意思がおありですか。
○坂本国務大臣 自給率は、消費者の行動によって変化をいたします。そして、一方の方で、どういう生産をしていくかということでも変化をいたします。消費者行動とそれから生産の動向、こういったものを十分に考えながら、しっかりと自給率を一定程度確保していかなければいけないというふうに思います。
ですから、アメリカへの依存云々ということではなくて、消費動向と生産の対応、そういったものを今後しっかり見極めながら、政策をつくり上げていかなければいけないというふうに考えております。
○田村(貴)委員 生産動向とか消費動向とか言われて、自給率は変動すると言いながら、下がってばかりじゃないですか。掲げた目標を一回も達成していないじゃないですか。そういう姿勢だと、どんどんどんどん対米追従で、そして輸入自由化で、どんどんどんどん自給率は下がっていきますよね。そこが駄目だと言っているんだけれども、今の姿勢を変えないということですか。
農産物の自由化によって自給率が低下したことは誰の目にも明らかであります。国産品の市場が奪われてきたからであります。この間、輸入自由化対策として、補正予算で財政出動がされてまいりましたけれども、結果的に自給率は下げ止まりし、そして、農業の生産基盤は脆弱なものとなりました。
昨日、岸田総理にも質問しましたけれども、坂本大臣にも質問します。
自給率の向上、これはやはり図っていかなければならない、向上に向けて図っていく。だったら、関税とかそれから輸入制限、これなどとしっかりと向き合って、国産品の市場を守る努力が国内の生産増大と併せて必要なのではないでしょうか。関税や輸入制限、これをしっかりとやっていく、いかがでしょうか。
○坂本国務大臣 国際協定として、CPTPP協定あるいは日米貿易協定等がございます。そういった中で、農産物の国境措置、そういったものがつくられておりますし、一方で、低率関税、こういったものも進んでおります。そういったものは、あらゆる分野を見通した上での全体のパッケージとして合意をされたものであります。
その合意の下で様々な対応が進んでいるところでございますので、もし農業分野だけでそういった国境措置の見直しを提案した場合、他分野での別途の譲歩を求められるなど、我が国全体の利益を考えた場合には、深刻な影響を与えるおそれがあるというふうに考えております。
○田村(貴)委員 輸入自由化の波というのは、今も続く農政の大問題です。そして、そうした在り方がいいのかということが世界各地で議論されているところでもあります。
牛肉の関税について聞きます。
今、TPPと日米貿易協定で牛肉の関税は何%になっているんでしょうか。
○渡邉政府参考人 お答えをいたします。
CPTPP協定それから日米貿易協定において、現在我が国に輸入される牛肉に適用されている関税率は二二・五%でございます。
○田村(貴)委員 牛肉の関税ですけれども、二〇一九年までは三八・五%だったんですね。そして、牛肉の関税は、二〇二〇年にいきなり二六・六%に引き下げられました。真綿で首を絞められるように下がり続けて、二〇三三年にはとうとう九%になるんです。三八・五%が九%になっちゃうんです。
もちろん、競合するのは国産牛です。スーパーに行けば、生肉売場では輸入牛の方が断然安い、この状況が長く続いています。これに打撃を受けるのは、牛の肥育農家だけではありません。酪農もダメージを受けます。国産牛の牛は、牛乳を搾るためのホルスタインを妊娠させて生まれた雄を育てているからであります。肥育も酪農も物価高騰、飼料高騰にあえいでいるのに、追い打ちをかけているではありませんか。
実際、牛肉の需要は伸びています。供給量はじりじりと減少を続け、需要増はほぼ輸入肉によって奪われているのも現状です。飼料の自給率を加味した牛肉の自給率、これ、数字を教えてください。
○渡邉政府参考人 お答えをいたします。
令和四年度の牛肉の飼料自給率を考慮した牛肉の自給率でございますが、重量ベースでございますと一一%でございます。
○田村(貴)委員 配合飼料はほとんど輸入に頼っている、だから、輸入が途絶えたら牛肉は食べられませんよね、一一%しかないんだから。
一方、アメリカの方は、今年二月、牛肉の関税を引き上げたと伺っています。今、何%ですか。
○水野政府参考人 アメリカに日本から牛肉を輸出した場合の関税につきましては、これは通常におきましてはほぼ無税に近い状態で輸出しておりますけれども、この一定の枠の数量が、無税枠がいっぱいに達した場合には、これが二四・六%まで上がる……(田村(貴)委員「もう一度言ってください」と呼ぶ)二四・六%まで上がるということでございます。
○田村(貴)委員 二四・六%。違うよね。
○水野政府参考人 失礼いたしました。
二六・四%でございます。
○田村(貴)委員 確認しました。二六・四%です、アメリカの関税が。そして、日本においては二二・五%。逆転しているじゃないですか。
大臣、こうしたTPPとか日米貿易協定をやり続けていくと、先ほど日本の不利益という言葉を発せられましたけれども、まさに不利益が生じているのではないでしょうか。この現象について、大臣は思うところはありませんか。
○坂本国務大臣 先ほど言いましたCPTPPにおきましても、それから日米貿易協定におきましても、重要五品目のほかで関税撤廃の例外を私たちは獲得をしております。この交渉の結果の国内生産への影響を分析した上で、その分析結果に基づきまして、必要な国内対策も実施しているところであります。
これらの協定の発効後の輸入実態を見ますと、発効前の二〇一八年と比べまして、一時的に輸入の増減が見られる品目はありますけれども、主な品目の世界からの輸入量では大きな変化は見られません。やはり様々な国内対策が、国内政策が功を奏しているというふうに思っております。
今後も更に協定の実施が続くところだというふうに思いますので、その輸入動向、国内生産への影響を引き続き注視をし、そして適宜な政策を打ってまいりたいというふうに思っております。
○田村(貴)委員 いろいろおっしゃいますけれども、じゃ、何で畜産農家がこれだけやめるんですか、酪農業が、離農、廃業が止まらないんですか。それは、最終的には、牛肉ならば関税が九%になる、先の見通しがない、輸入品に圧倒されてしまう。牛を育てたって、将来的にはやはりやられてしまう。そういう声は、大臣も地元でいっぱい聞いているんじゃありませんか。私も聞いてきました。だから、こういう自由貿易協定、食料自給率を下げ続けてきたというのであるならば、ここの見直しは一番必要だというふうに思います。
昨日、総理にもお尋ねしましたけれども、あえて坂本大臣にも質問します。
輸入依存からの脱却、これを政府としてうたうのであれば、輸入に依存するための条約を次々と結んできた姿勢を改めて、脱却する条約を結び直す、そういう提案を日本政府としてやはり国際社会に対して訴えていく、その必要があると思いますが、大臣、その決意はおありでしょうか。
○坂本国務大臣 先ほどの繰り返しになると思いますけれども、国際協定というものは様々な分野で結ばれております。今、仮に農産物についての国境措置の見直しを提案した場合には、他の分野での別途の譲歩を求められるなど、我が国全体の利益に深刻な影響を及ぼすおそれがありまして、その見直しそのものは困難であるというふうに思っております。
また、農業分野に限っても、CPTPP協定等は、厳しい交渉の中で、先ほど言いましたように、関税撤廃の例外措置なども我が国がかち取ってきた歴史もあります。見直しを提起することでより大きな譲歩を迫られるおそれがあることも考慮しながら、今後慎重な対応が必要であるというふうに思っております。
○田村(貴)委員 その答弁は納得できません。
現実は、食料自給率の向上を掲げながら一度も目標を達成していない。その目標は僅か四五%です。それさえも実行できていない。ひもとけば、一九六〇年代からのアメリカ追従、そしてその後の自由貿易協定、経済連携協定、これによって輸入自由化路線をずっと続けてきたことは間違いありません。その見直しをせずしてやはり日本の農業の再生はないことを訴えて、今日の質問を終わります。
○野中委員長 次に、長友慎治君。
○長友委員 国民民主党の長友慎治です。
修正案に関しましては、いろいろと御調整、おまとめを、汗をかいていただいた皆様には、まず感謝を申し上げたいと思います。
その上で、お聞きしたいことがございます。
営農継続可能な所得の確保という点につきまして、我が党では、非常にこだわりを持ってこれまでも質疑に取り組んでまいりました。担い手や農地の減少に歯止めがかからず、農業総産出額それから生産農業所得共に現行基本法制定時よりも現在は低迷をしており、そして生産基盤が弱体化をしています。その最大の原因は個々の農業者の所得の低さでありまして、営農継続可能な所得の確保をできれば基本理念に明記すべきと我が党は考えておりましたが、政府案、立憲民主党さんの方の修正案にもそれを反映いただきたいなというふうに思っている思いがあるんですが、その点につきまして、政府それから修正案提出者に見解を伺いたいと思います。
○杉中政府参考人 お答えいたします。
まず、御指摘のあった農業者の減少に関する認識でございますけれども、基本法制定以来、この二十数年間で基幹的農業従事者は半減をいたしましたけれども、その減少の内訳を見ると約七割が稲作関係であり、高齢化によるリタイアが主要因になっていると考えております。また、現在の農業者の年齢構成を考えれば、高齢化による農業者の減少は今後加速化することが予想されます。
このように、農業者の減少の要因というのは様々ございますけれども、その根本は、今述べたような構造的な問題であり、だからこそ、政府として危機感を持って生産基盤の強化に取り組む必要があると考えているところでございます。
また、今後、少ない農業者で食料を持続的に供給していくためには、農業の生産性の向上と付加価値向上により収益性の高い経営を実現することが必要であるというふうに考えております。
このため、今回の改正案におきまして、基本理念におきまして、生産性の向上及び付加価値の向上により農業の持続的な発展を図るということを規定したところでございます。
○金子(恵)委員 お答えいたします。
我が国の農業の持続的な発展のためには、個々の農業者について、持続的な農業生産活動が可能な農業所得を確保することにより、農業経営の安定を図ることが重要であるとの御指摘については、私たち立憲民主党も深く賛同するところでございます。
そこで、私たちの修正案では、第五条第一項の農業の持続的な発展に関する基本理念において、農業については、持続的な農業生産活動が可能な農業所得の確保による農業経営の安定が図られることにより、その持続的な発展が図られなければならない旨を規定することとしております。そのほか、第二十三条などの具体的施策の条文においても、農業の持続性を確保するための規定を設けております。
これらにより、個々の農業者の農業経営が安定し、ひいては我が国の農業の持続的な発展が図られるものと考えております。
○長友委員 御答弁ありがとうございます。
それでは、次の質問に行かせていただきます。
第二条三項につきまして、基本法の検証部会の最終取りまとめにおきまして、環境や人権、持続性への配慮が強調をされておりました。立憲民主党の修正案についても、人権に配慮した原材料の調達を明記する修正案が出されておりましたが、閣法の方には、環境や人権、持続性への配慮という文言が盛り込まれませんでした。それはなぜなのか、教えてください。
○杉中政府参考人 お答えいたします。
御指摘のように、検証部会の取りまとめにおきまして環境や人権、持続性への配慮に関する記述がなされたことを受けて、改正案におきまして必要な規定を盛り込んだところであります。
まず、環境につきましては、第三条において環境と調和の取れた食料システムの確立を大きな柱の一つと位置づけ、その上で、農業については第三十二条、食品産業については第二十条で、環境への負荷の低減の促進を規定しております。
また、人権への配慮に関してでございますけれども、検証部会におきまして、食品産業につきましては、カカオ豆、パーム油など人権に配慮した原材料調達が課題とされたことを踏まえ、第二十条で食料の持続的な供給に資する事業活動の促進と規定をいたしました。
また、農業につきましては、外国人材を含め人権に配慮した労働環境の整備が必要との議論があったことを踏まえまして、第二十七条第二項で雇用の確保に資する労働環境の整備と規定したところでございます。
○長友委員 分かりました。
それでは、次の第二十九条についての質問をさせていただきます。
気候変動等の不確実性が高まる中、我が国の気候風土に適した水田の役割はこれまで以上に増大することから、汎用化の必要性は認めますが、畑地化まで盛り込む必要はあるのでしょうか。立憲民主党の修正案でも、畑地化の文言削除の修正案が出ていますが、我が党も畑地化については削除するべきと考えます。
政府の見解を伺います。
○杉中政府参考人 お答えいたします。
政府といたしましては、需要に応じた生産の推進を図るため、地域の判断により水田の汎用化や畑地化を進めているところでございます。
畑地化に当たっては、排水改良やパイプライン化などの基盤整備が必要でございます。このため、生産基盤の整備について規定した基本法改正案第二十九条におきまして、水田の汎用化と並んで畑地化を規定しているところでございます。
重ねて申しますが、二十九条は基盤整備に関する規定でございますので、そこを御了解いただければと思います。
○長友委員 ここではちょっともう議論はしませんので、最後、質問させていただきます。
農村政策の基本について、立憲民主党の修正案提案者の方にお聞きをしたいと思います。
農業では食べていけないという状況が農村の人口減少や過疎化にもつながっています。農業に加え、地域資源を生かした副業も重要な所得確保手段であることから、持続可能な所得を確保できるようにすることを農村政策の基本としても規定すべきと考えますが、修正案提出者の見解を伺います。
○渡辺(創)委員 お答えいたします。
私たちの修正案では、第六条の農村の振興に関する基本理念において、農村については、食料の安定的な供給を行う基盤たる役割を果たしていること等を明記することにしております。
そして、農村が食料の安定的な供給を行う基盤たる役割を果たすためには、そこで農業を営む農業者が十分な所得を確保できることが重要な前提であるというふうに考えています。
そのために、私たちの修正案では、第五条第一項の基本理念において、持続的な農業生産活動が可能な農業所得の確保による農業経営の安定が図られることにより、農業の持続的な発展が図られなければならない旨を規定しているところであります。
これに加えて、第四十五条の地域の資源を活用した事業活動の促進の規定において、地域の伝統的な食品産業に係る事業活動その他の農業と農業以外の産業の連携による地域の資源を活用した事業活動を促進することとしておりまして、御指摘の地域資源を生かした副業もここに含まれるものというふうに考えております。
○長友委員 理解いたしました。ありがとうございます。
以上で私の質問を終わります。
○野中委員長 次に、北神圭朗君。
○北神委員 有志の会の北神圭朗です。
大臣、最後の質問となりますが、今まで私は緊急時のことにかなり集中して質問してまいりました。その心は、一つは、本当に私自身は、国際情勢が非常に厳しくなっているので、これは喫緊の現実的な課題だということで一つ。もう一つは、有事のときに必要な国民に対する食料というものを確保することは、有事にとどまらず、平時においても当然それなりの基盤整備とか農業の活力というものが前提となる。
ですから、有事のときに、必要最小限、今までの審議でいうと千九百キロカロリーを必ず守るんだという話がありましたが、それを本当に確保するために、平時においておのずと農業政策というのは決まってくるというふうに思って、それが平時における国内の生産の増加につながるというふうに考えているんですが、これは大臣、率直に、間違っているんだったら間違っているでいいし、どういうふうにお考えかお聞きしたいと思います。
○坂本国務大臣 委員御指摘のとおり、食料の供給不足が深刻になった場合に、それを確保するため、生産者、農地といった生産基盤をそのために確保することが重要です。
ただ、一方で、平時の食料供給を考えれば、需要に沿わない供給は過剰在庫の原因となりまして、かえって農業経営の負担にもつながるということになります。やはり、需要に応じた生産という考え方の下で、可能な限り国内生産を増大していくことが重要だというふうに考えております。
そのためには、やはり、不測時に備えて、事業者や自治体、関係省庁とそれぞれ論議をしながら、具体的な今後の在り方をしっかり検討していくというようなことにしているところでございます。
○北神委員 例えば緊急のときに、恐らく、普通に考えると、お米というのが非常に重要だと思います。食料自給率は既に一〇〇%ぐらい達成しておりますから、いざというときは、お米というのは非常に大事だ。
ところが、大臣のおっしゃっていることは、平時においては需要がどんどん減っているので、毎年十万トンぐらい消費が減っているということで、それを余り力を入れると過剰在庫ということになるという、非常に難しいところがあると思います。
でも、逆に言うと、そうしたら、今のように、小麦とか大豆の方にどんどん、コストが三割ぐらい日本の方が高い中で、どんどんそっちの方に力を入れていくと、どんどん水田の方が衰退していってしまう。畑地化の話もありますし。そういうふうになると、緊急時において唯一地元で、国産で賄える、そういった食料というものが不足するおそれがあるという、非常に難しいところがあるというふうに思いますけれども、是非、緊急時の方も念頭に置いて、平時において、ただ単純に、国民の消費志向がこっちに行ったからそれに合わせるんだという単純な発想じゃなく、常に有事というものを念頭に置いていくことが非常に重要だというふうに思いますので、よろしくお願いしたいというふうに思います。
もう最後になりますので。
昨日、岸田総理との質疑の中で、食料安全保障というのは、私は、市場の原理とかスマート農業化、輸出、それぞれ決して悪いことではないというふうに思います。しかし、それだけで守ることは絶対にできないと私は思います。ですから、そういった意味では、やはり財政支援というのがどうしても重要だ、安易に言うつもりはありませんけれども、これはやはり大事だということだというふうに思います。
岸田総理からは、非常に前向きな答弁がございました。前向きな答弁がありましたけれども、総理は任期でころころ替わるわけです。財務省は、永遠なんです。財務省の中の役人は、左手にそろばん、右手に大なたを持って待ち構えておりますよ。
だから、大臣、やはり、これは国民の命一人一人をつなぐ話であって、財政収支よりもこっちの方が政治の根本なんだ、西郷隆盛の言葉で言うと、政の要諦というのは文を興し、農を励まし、そして武を振るう、この三点でありますので、是非大臣、その決意を示していただきたいと思います。
○坂本国務大臣 昨日、総理が、食料安全保障の確保に向けてしっかりとした予算措置を取っていくというようなことを言われました。私たちにとりましても心強いお言葉であるというふうに思っております。
そういうことで、今後も、基本計画を作りますので、その基本計画に沿いまして、当初予算だけではなくて、補正も含めて、しっかりと予算を獲得してまいりたいというふうに思っております。
○北神委員 当初予算の方も是非頑張っていただきたいと思います。
以上、時間が来ましたので、質問を終わりたいと思います。ありがとうございました。
○野中委員長 これにて原案及び修正案に対する質疑は終局いたしました。
―――――――――――――
○野中委員長 この際、本案に対し、古川康君外二名から、自由民主党・無所属の会、日本維新の会・教育無償化を実現する会及び公明党の三派共同提案による修正案、田村貴昭君から、日本共産党提案による修正案及び長友慎治君から、国民民主党・無所属クラブ提案による修正案がそれぞれ提出されております。
各修正案について、提出者から順次趣旨の説明を聴取いたします。池畑浩太朗君。
―――――――――――――
食料・農業・農村基本法の一部を改正する法律案に対する修正案
〔本号末尾に掲載〕
―――――――――――――
○池畑委員 ただいま議題となりました食料・農業・農村基本法の一部を改正する法律案に対する修正案につきまして、提出者を代表して、その内容を御説明申し上げます。
本修正案では、先端的な技術等を活用した農業の生産性の向上に資する施策について、その対象として多収化に資する新品種を明記するとともに、育成に加えて導入の促進を明記することといたしております。
以上が、この修正案の内容であります。
何とぞ委員各位の御賛同をお願い申し上げます。
○野中委員長 次に、田村貴昭君。
―――――――――――――
食料・農業・農村基本法の一部を改正する法律案に対する修正案
〔本号末尾に掲載〕
―――――――――――――
○田村(貴)委員 ただいま議題となりました食料・農業・農村基本法の一部を改正する法律案に対する修正案につきまして、その趣旨を説明します。
日本共産党は、日本農業の再建と食料自給率の向上を図るため、政府提出の改正案の問題を是正し、以下のような抜本的な修正が必要不可欠であると考えます。
第一に、食料自給率を抜本的に引き上げることです。農業を国の基幹的な産業に位置づけるとともに、食料自給率については、できる限り早期に五〇%以上に引き上げ、更に七〇%以上に引き上げる指針を明記することとしています。
第二に、家族農業経営を農業に関する施策の中核として位置づけることです。そのために必要となる安定的な農業経営を確保するための各施策を規定することとしています。
第三に、日本の農業を保護するため、農産物の貿易に関し不利益な措置が国際的に取り決められないように国は努めるとともに、国は、輸出の相手国の農産物と競合し、その生産を減少させることのないよう配慮することとしています。
第四に、農業生産活動における環境への負荷軽減、自然と調和した農業の推進を図ることとしています。そのための施策として、有機農業の促進を明記するとともに、農産物の輸送における温室効果ガスの排出の抑制及び輸出される農産物の食料システムの各段階における温室効果ガスの排出量に関する表示の促進を追加することとしています。
第五に、安全で健康的な食生活を確立するために、検疫体制の抜本的強化、健康で安全な食生活に必要な情報の提供と研究の強化、遺伝子組み換え食品の表示や農産物の加工食品を含めた全面的な原産国表示を行う規定を明記することとしています。
第六に、検討条項として、農産物の遺伝資源の利用の在り方についての検討条項を設けています。
以上が、この修正案の主な内容です。
委員各位の御賛同を心からお願いを申し上げ、説明を終わります。
○野中委員長 次に、長友慎治君。
―――――――――――――
食料・農業・農村基本法の一部を改正する法律案に対する修正案
〔本号末尾に掲載〕
―――――――――――――
○長友委員 ただいま議題となりました食料・農業・農村基本法の一部を改正する法律案に対する修正案につきまして、会派を代表して、その内容を御説明申し上げます。
まず、基本理念の修正について御説明申し上げます。
第一に、国民に対する食料の安定的な供給について、国内の農業生産の増大を図り、食料自給率を向上させることを基本とすることを明記いたします。
第二に、食料安全保障の確保及び農業の持続的な発展に係る政策は、人口動態にかかわらず重要であることを明確にすることといたします。
第三に、食料システムについては、食料の生産段階において農業生産活動に自然環境の保全等に大きく寄与する側面があることを明記することといたします。
第四に、農業について、持続的な農業生産活動が可能な農業所得の確保による農業経営の安定が図られるべきことを明記することといたします。
第五に、農業において、人権への配慮がなされるべきことを明記することといたします。
第六に、農村について、食料の安定的な供給を行う基盤であること、多面的機能が発揮される場であること等の意義を明記することといたします。
次に、基本的施策の修正について御説明申し上げます。
第一に、食料・農業・農村基本計画の目標の達成状況に係る調査結果については、食料・農業・農村政策審議会の意見を聞くこととし、その意見を付して、国会に報告するとともに、インターネット等により公表しなければならないことといたします。
第二に、農業生産の基盤の整備及び保全に必要な施策の例示から、水田の「畑地化」を削除することといたします。
以上が、この修正案の内容であります。
何とぞ委員各位の御賛同をお願い申し上げます。
以上です。
○野中委員長 これにて各修正案の趣旨の説明は終わりました。
―――――――――――――
○野中委員長 これより原案及びこれに対する各修正案を一括して討論に入ります。
討論の申出がありますので、順次これを許します。緑川貴士君。
○緑川委員 ただいま議題となっている政府原案に対しては反対、修正案に対しては賛成の立場から討論をいたします。
基本理念である食料安全保障の重要な要素である食料の安定供給のその供給能力は、海外への輸出を図ることによって維持することが強調されています。しかし、輸出は、原料の多くを海外に依存する加工食品がその大半を占めています。輸出先のニーズに対応した専用産地の基盤が不測時に転換できるといいますが、輸入大国である日本は、二〇〇〇年のWTO農業交渉日本提案において輸出の制限、禁止に反対しており、国内向けへの切替えが進むとは思えません。
海外で売れるものを優先した国内生産と、縮小する国内市場向けの多くは安定的な輸入で賄うという、従来の取組をなぞったものにすぎず、食料自給率の向上を通じた国内への安定供給、国内農業の発展という戦略は、残念ながら後退していると言わざるを得ません。
政策目標である食料自給率の低迷、農村の支え手の自営農家の半減と農村コミュニティーの衰退、耕作放棄地の拡大と多面的機能の喪失など、基本理念の実現を目指した取組とそれがもたらした現実との乖離に対する真摯な総括と批判的な検証がなければ、新たな農政の展開は絵に描いた餅になりかねません。
農産物、食品の価格形成についても、あくまで食料システムの関係者の各段階での交渉を経て、関係者が納得できる価格が合理的な価格であり、農業者の再生産を担保した価格水準となる保証はありません。関係者の交渉力、価格支配力に多分に左右される不確実性をはらんでおり、消費者の食品アクセスに配慮した価格とのバランスも求められることから、農家にとって厳しい価格で妥結せざるを得ない場合に対応した直接支払いの仕組みが不可欠です。
農業の持続的発展では、スマート農業技術の活用による担い手の育成を進めるとしますが、基幹的農業従事者はこれからの二十年でおよそ三十万人にまで激減すると見込まれ、特に、中山間地域を始めとした条件不利地では、通信網整備への対応も十分ではありません。多様な農業者が生産活動を通じて農地維持の主体に位置づけられた見直しの反面、具体的な支援が政府答弁からは出てきません。小規模集落のように共同活動自体が困難になっている集落が増える中、中山間地域等直接支払制度の個別協定の対象を広く認めて支援するべきです。
輸入依存や、食料、資源の取り合い、戦争や災害リスクが増す複合危機に直面する時代に、食と農を結び直す動きが強まる中、食料自給率目標は、地産地消などを通じて日本型の食生活や食文化が守られているかをチェックする点でも依然として意義のある指標であり、多くの指標の中で、国民に最もなじみのあるものです。
農業の疲弊が農家の問題を超えて消費者、国民の命の問題であるという認識に立つならば、各指標の中の一つに落とすのではなく、食料安全保障の強化に重要な国民の理解の醸成に深く関わる指標として、最上位に位置づけるべきです。
私たちは、こうした問題点を含めて、基本理念、基本的施策の内容を明確にした修正案を取りまとめてまいりましたが、政府・与党は、修正項目の全てに対して規定済みあるいは対応不可といって一顧だにせず、ゼロ回答でありました。
危機的な状況を招いた農政への反省が皆無であると受け止めざるを得ず、反対の立場を取らざるを得ないことを申し上げて、討論といたします。
○野中委員長 次に、一谷勇一郎君。
○一谷委員 日本維新の会・教育無償化を実現する会を代表して、修正が加えられた食料・農業・農村基本法改正案に賛成の立場から討論いたします。
農政の要とも言える基本法が二十五年ぶりに改正されることは重要です。これまでの基本法は、国民に必要な食料供給、国土と農村の保全、そして農業の経営維持に貢献してきました。
しかし、その一方で、この二十五年間で食料や農業に関する状況は大きく変化しています。人口減少や食生活の変化が農産物の需要と供給に影響を与え、気候変動や伝染病による被害も増えています。さらに、ロシアによるウクライナ侵略による穀物輸入の危機もあります。
このような状況下で、食料安全保障の確保という新たな考え方を盛り込んだ改正基本法は意義深いものです。
ただし、食料保全という言葉だけでは十分ではありません。我が会派は、改正基本法の実効性を高めるために、法案の修正を、党内でかなりの議論を経て提案してきました。その中には、有事においても国民を飢えさせない食料供給能力の強化や、望ましい農業構築の確立、農業協同組合の役割強化などが含まれます。
これらの提案は、一部の採用でありますが、合意が形成されました。
日本維新の会と教育無償化を実現する会は、今回の基本法を不断の決意を持って、改正に満足することなく、国民の安心に資する食料保全と、日本の農業の成長を目指すための農政改革に取り組んでいくことをお誓い申し上げます。
○野中委員長 次に、角田秀穂君。
○角田委員 自民党・無所属の会、公明党を代表して、自民党、日本維新の会・教育無償化を実現する会、公明党提出の修正案と修正部分を除く原案賛成の立場で討論に参加をいたします。
現行食料・農業・農村基本法が制定されて以降、この間の国内外の大きな変化、リスクの高まりに対応し、食料の安定供給の確保等の取組を一層強化する必要に迫られる中、改正案では、基本理念に新たに食料安全保障の確保を位置づけ、その実現のために食料の輸出による供給能力の維持や価格形成について食料システム全体の関係者による合理的な費用の考慮を規定したほか、環境と調和の取れた食料システムの確立を新たに規定し、多面的機能の発揮や農業の持続的発展においても環境への負荷の低減を図ることが明記されたこと、また、農村人口の減少など情勢変化に対しても地域社会が維持されるべきである旨が規定されていること、そして、これら理念の実現のために各種施策の新たな方向性を打ち出していることなどを評価をいたします。
その上で、食料安全保障の確保、将来にわたって持続可能な農業の確立、農村コミュニティーの維持、活性化のために何よりも重要なことは、基本法の理念実現のための具体的な施策の力強い推進であります。
食料安全保障の確保に向けて、改正基本法に基づき今後新たに策定する食料・農業・農村基本計画では、食料自給率その他の食料安全保障の確保に関する事項の目標を定めることとされていますが、目標設定の在り方について検討を加えるほか、達成状況の調査に基づく施策の検証、見直しといったPDCAサイクルをしっかり回していくことが求められます。
平時からの国民一人一人の食料安全保障を確保するために、買物困難者の増加に対応した食品アクセス支援やフードバンク、子供食堂等への支援等を推進するため、関係省庁との連携の更なる強化も進めていただきたい。
また、消費者の新たな役割として環境への負荷低減に資するものの選択に努めることを求めていますが、消費者に分かりやすい形での見える化や理解醸成のための広報活動も、これまで以上に力を入れて推進しなければなりません。
以上、申し上げたことも含め、基本法の理念実現に向けた積極的な施策の推進を要望し、討論といたします。
○野中委員長 次に、田村貴昭君。
○田村(貴)委員 私は、日本共産党を代表し、食料・農業・農村基本法改正案に反対の討論をします。
今回の基本法の見直しは、食と農がかつてない危機に直面する中、食料自給率がなぜ先進国で最低に落ち込んだのか、しっかりと原因を検証し、農政の誤りを反省して、改めて食料自給率向上に挑み、崩壊の危機が広がる農業と農村に希望をもたらす改正にしなければなりませんでした。
ところが、本改正案は、逆に現行法で第一の目標としてきた食料自給率の向上を、食料安全保障の動向に関する事項などという文言に変更し、最重要課題を投げ捨てようとしています。
さらに、度重なる輸入自由化を反省するどころか、食料供給は国内の農業生産の増大を図ることを基本とし、これと輸入及び備蓄を適切に組み合わせるとしていた文言を、適切に組み合わせるを削除して、「安定的な輸入」に差し替え、輸入に依存することを正面から認めています。それどころか、輸入相手国の多様化、相手国への投資まで盛り込み、輸入の拡大を正当化しています。
一方、農家を苦しめているコスト高に対しては、財政措置、価格保障、所得補償を拒否し、価格転嫁だけを唯一の方法として盛り込みました。しかも、検証部会で提案されていた再生可能な価格ではなく合理的な価格と規定し、コストをカバーできる価格にする意思も示していません。
そして、危機的状況にある国内農業の生産基盤を維持する方策は、既存の規模拡大、競争力強化以外には、輸出の拡大とスマート農業だけになっています。
農業者人口の激減に対しては、もはや対策を諦め、前提にした上で農地は維持するという方針を明文化しています。疲弊する農村に対しては、共同活動を支援することしかないという無策ぶりです。
担い手の規定も相変わらず、効率的かつ安定的な農業を営む者、専ら農業を営む者だけを政策の対象とし、定年帰農や半農半X、自給的農家、消費者グループなどによる小規模で多様な農業はそれ以外と、政策の軸に据えることは拒否しました。
環境への負荷の低減は盛り込みましたが、最重要課題である温室効果ガスの削減、すなわち輸入農産物を国産に置き換えることや、地産地消を進めることで、食料の長距離輸送を減らすことは掲げられませんでした。自然の生態系に依拠した農業の実現が政策の中心に据えられることもありませんでした。有機農業の推進については全く触れられてもいません。食の安全を徹底する姿勢も盛り込まれませんでした。
以上の理由から、本法案に反対します。
立憲民主党及び有志の会提出の修正案、そして自民、公明、維新の会提出の修正案、そして国民民主党の修正案については、反対します。
以上です。
○野中委員長 次に、北神圭朗君。
○北神委員 有志の会の北神圭朗です。
今回の基本法の改正案の原型は、昭和三十六年の農業基本法にあります。そこには、農業はそもそも不利な条件に置かれている、しかし、国民の命をつなぐために不可欠なのが農業であるから、国家はこの不利な条件を改善するんだという熱い思いがありました。
天候不順を始め、限られた土地という自然的制約。狭い土地の上に、零細多数の権利者や生活者が濃密に絡む社会的制約。精いっぱい農地を集積しても、生産性にはおのずと限界があるという経済的制約。農産物価格が国際的に割高になるのは、日本農業の宿命です。
これは果たして農業者の努力不足なのか。この一点を誤ると、本来農業はもうかる産業であるかのように錯覚してしまいます。日本農業の不利な条件を正面から認めて、これを改善するための的確な手段を講ずるのが、国家の役割ではないでしょうか。
最初の基本法には、生産性の向上とともに農業総生産の増大が目標として据えられました。平成十一年の改正には、この目標は陰に隠れ、食料自給率が新しい目標となりました。
他方、今回の改正案の目玉である食料安全保障とは、緊急事態でも国民に必要最小限の食料を届けることであります。そのためには平時からの農業の活力が前提です。これは、広く国民にとって理解のできる方針です。
ところが、本改正案は、これまで農業総生産の目標だった食料自給率が、その他の目標の一例示として後退しました。この指標が政策目標として欠陥があるのであれば、有事の際に守るべき必要最小限度の食料を踏まえた食料自給率も提案しましたが、徒労に終わりました。その結果、食料安全保障を確保するために、国内農業総生産をどこまで増やすのかという国の責務も後退したと言わざるを得ません。具体的目標が曖昧なことは、国が国内農業生産を増強するための担保が消えることになるからであります。
昭和三十六年、当時の池田勇人総理が、基本法のための全国運動の最初の訪問地として茨城県水戸市を選びました。その理由は、水戸徳川家が毎食時に、お百姓さんありがとう、いただきますと言っていたことに対して、総理が国家の尊厳を見出した旨、「自民党農政史」に記されています。
その熱い思いが、どこから風が吹いたのか、いつしか雲と散り、霧と消えたのではないかと、大変な危機感と憤りを覚えることを申し述べて、私の反対討論といたします。
○野中委員長 これにて討論は終局いたしました。
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○野中委員長 これより採決に入ります。
内閣提出、食料・農業・農村基本法の一部を改正する法律案及びこれに対する各修正案について採決いたします。
まず、長友慎治君提出の修正案について採決いたします。
本修正案に賛成の諸君の起立を求めます。
〔賛成者起立〕
○野中委員長 起立少数。よって、本修正案は否決されました。
次に、田村貴昭君提出の修正案について採決いたします。
本修正案に賛成の諸君の起立を求めます。
〔賛成者起立〕
○野中委員長 起立少数。よって、本修正案は否決されました。
次に、金子恵美君外二名提出の修正案について採決いたします。
本修正案に賛成の諸君の起立を求めます。
〔賛成者起立〕
○野中委員長 起立少数。よって、本修正案は否決されました。
次に、古川康君外二名提出の修正案について採決いたします。
本修正案に賛成の諸君の起立を求めます。
〔賛成者起立〕
○野中委員長 起立多数。よって、本修正案は可決されました。
次に、ただいま可決いたしました修正部分を除く原案について採決いたします。
これに賛成の諸君の起立を求めます。
〔賛成者起立〕
○野中委員長 起立多数。よって、本案は修正議決すべきものと決しました。
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○野中委員長 ただいま議決いたしました法律案に対し、古川康君外五名から、自由民主党・無所属の会、立憲民主党・無所属、日本維新の会・教育無償化を実現する会、公明党、国民民主党・無所属クラブ及び有志の会の六派共同提案による附帯決議を付すべしとの動議が提出されております。
提出者から趣旨の説明を聴取いたします。近藤和也君。
○近藤(和)委員 ただいま議題となりました附帯決議案につきまして、提出者を代表して、その趣旨を御説明申し上げます。
案文を朗読して趣旨の説明に代えさせていただきます。
食料・農業・農村基本法の一部を改正する法律案に対する附帯決議(案)
地球規模での気候変動や国際情勢の不安定化、各国の人口動態や経済状況等に起因する食料需給の変動などにより、世界の食料事情は厳しさを増している。さらに、我が国においては、基幹的農業従事者の減少が加速しており、農村の中には集落機能の維持さえ懸念される所もあり、食料自給率は目標を下回り続けている。このような状況において、「農政の憲法」とされる食料・農業・農村基本法が果たすべき役割は極めて大きく、食料安全保障の確保、環境と調和のとれた食料システムの確立、多面的機能の発揮、農業の持続的な発展、農村の振興等の喫緊の課題への機動的かつ効果的な対処が求められる。
よって、政府は、本法の施行に当たり、左記事項の実現に万全を期すべきである。
記
一 食料安全保障の確保に関しては、国民一人一人が安全かつ十分な量の食料を入手できるようにすることが政府の責務であることを踏まえて施策を遂行すること。
二 国民に対する食料の安定的な供給については、国内の農業生産の増大を基本として確保し、これを通じて食料自給率の向上に努めること。農業生産においては、麦、大豆、飼料作物等の国内生産の拡大、輸入に頼る農業資材から堆肥等の国内資源への代替の促進など、食料及び農業資材の過度な輸入依存からの脱却を図るための施策を強化すること。
三 食料の価格に関しては、その持続的供給を支える国内農業の持続的な発展に資するよう、食料供給に必要な費用を考慮した合理的な価格の形成に向けた関係者の合意の醸成を図り、必要な制度の具体化を行うこと。
四 農業の持続的な発展には、農業者の生活の安定と営農意欲の維持が不可欠であることから、農業経営の安定を図りつつ、農業の収益性の向上を図るとともに、農業従事者の人権への適切な配慮等雇用環境の整備を図ること。
五 国民一人一人が食料を入手できる状態を実現するためには、食料の提供を受けてそれを必要とする者に供与する活動等が重要な役割を果たすことから、関係省庁等が一体となってその支援に必要な施策を講ずること。食料消費に関する施策については、食品の安全性の確保を図る観点から、科学的知見に基づいて国民の健康への悪影響が未然に防止されるよう行うこと。また、食育は、食料自給率の向上等の食料安全保障の確保及び国内農業の振興に対する国民の理解醸成に重要なものであることから、その取組を強化すること。
六 国際的にも食料生産における労働者の人権、アニマルウェルフェア、自然環境等への配慮の重要性が高まっていることを踏まえ、農業生産活動における人権の尊重、家畜にできる限り苦痛を与えない飼養管理、環境保全の取組等を促進すること。
七 備蓄食料については、計画的かつ透明性の高い運用を図ること。
八 望ましい農業構造の確立においては、地域における協議に基づき効率的かつ安定的な農業経営を営む者以外の多様な農業者が地域農業及び農地の確保並びに地域社会に果たす役割の重要性を十分に配慮すること。
九 農地を確保し、農業の持続的発展に資するよう必要な支援措置を講ずるとともに、農業生産基盤に係る施設の維持管理などの費用の負担に対する支援措置を講ずること。水田は食料安全保障及び多面的機能の観点から優れた生産装置であることに鑑み、地域の判断も踏まえその活用を図ること。
十 農業生産活動は自然環境の保全等に大きく寄与する側面と環境に負荷を与える側面があることに鑑み、有機農業の推進等により、環境と調和のとれた食料システムの確立を図ること。
十一 安定的な農業生産活動のためには安定的な種子の供給が重要であることに鑑み、その安定的な供給を確保するため地方公共団体等と連携して必要な取組を推進すること。
十二 農村は、食料の安定的な供給を行う基盤であり、かつ、国土の保全、自然環境の保全等の多面的機能が発揮される場であり、農村における地域社会の維持が農業の持続的な発展に不可欠であることに鑑み、食品産業の振興その他の地域社会の維持に必要な施策を講じ、農村の総合的な振興を図ること。都市農業は、都市住民に地元産の新鮮な農産物を供給する機能のみならず、都市における防災、都市住民の農業に対する理解の醸成等の多様な機能を果たしていることに鑑み、その推進に一層取り組むこと。
右決議する。
以上です。
何とぞ委員各位の御賛同を賜りますようお願い申し上げます。
○野中委員長 これにて趣旨の説明は終わりました。
採決いたします。
本動議に賛成の諸君の起立を求めます。
〔賛成者起立〕
○野中委員長 起立多数。よって、本法律案に対し附帯決議を付することに決しました。
この際、ただいま議決いたしました附帯決議につきまして、政府から発言を求められておりますので、これを許します。農林水産大臣坂本哲志君。
○坂本国務大臣 ただいまは法案を可決いただき、ありがとうございました。附帯決議につきましては、その趣旨を踏まえ、適切に対処してまいりたいと存じます。
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○野中委員長 お諮りいたします。
ただいま議決いたしました法律案に関する委員会報告書の作成につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○野中委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。
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〔報告書は附録に掲載〕
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○野中委員長 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。
午前十時三十三分散会