衆議院

メインへスキップ



第8号 令和5年2月24日(金曜日)

会議録本文へ
令和五年二月二十四日(金曜日)

    午前九時三十分開議

 出席委員

   委員長 山口 俊一君

   理事 盛山 正仁君 理事 丹羽 秀樹君

   理事 武藤 容治君 理事 伊東 良孝君

   理事 新谷 正義君 理事 笠  浩史君

   理事 吉川  元君 理事 中司  宏君

   理事 岡本 三成君

      石原 正敬君    佐々木 紀君

      塩崎 彰久君    穂坂  泰君

      本田 太郎君    三谷 英弘君

      櫻井  周君    階   猛君

      末松 義規君    金村 龍那君

      住吉 寛紀君    藤巻 健太君

      前原 誠司君    田村 貴昭君

    …………………………………

   議長           細田 博之君

   副議長          海江田万里君

   事務総長         岡田 憲治君

   参考人

   (日本銀行総裁候補者(共立女子大学ビジネス学部教授・学部長))      植田 和男君

   参考人

   (日本銀行副総裁候補者(日本銀行理事))     内田 眞一君

   参考人

   (日本銀行副総裁候補者(株式会社ニッセイ基礎研究所総合政策研究部エグゼクティブ・フェロー))   氷見野良三君

    ―――――――――――――

委員の異動

二月二十四日

 辞任         補欠選任

  本田 太郎君     塩崎 彰久君

  梅谷  守君     階   猛君

  遠藤  敬君     住吉 寛紀君

  浅野  哲君     前原 誠司君

  塩川 鉄也君     田村 貴昭君

同日

 辞任         補欠選任

  塩崎 彰久君     本田 太郎君

  階   猛君     末松 義規君

  住吉 寛紀君     藤巻 健太君

  前原 誠司君     浅野  哲君

  田村 貴昭君     塩川 鉄也君

同日

 辞任         補欠選任

  末松 義規君     櫻井  周君

  藤巻 健太君     金村 龍那君

同日

 辞任         補欠選任

  櫻井  周君     梅谷  守君

  金村 龍那君     遠藤  敬君

同日

 理事遠藤敬君同日理事辞任につき、その補欠として中司宏君が委員長の指名で理事に選任された。

同日

 理事中司宏君同日理事辞任につき、その補欠として遠藤敬君が委員長の指名で理事に選任された。

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 参考人出頭要求に関する件

 日本銀行総裁任命につき同意を求めるの件

 日本銀行副総裁任命につき同意を求めるの件


このページのトップに戻る

     ――――◇―――――

山口委員長 これより会議を開きます。

 日本銀行総裁任命につき同意を求めるの件についてでありますが、去る十四日の理事会において、木原内閣官房副長官から、内閣として、日本銀行総裁に共立女子大学ビジネス学部教授・学部長植田和男君を任命いたしたい旨の内示がありました。

 つきましては、理事会の申合せに基づき、日本銀行総裁の候補者から、所信を聴取することといたしたいと存じます。

 この際、参考人出頭要求に関する件についてお諮りいたします。

 本日、参考人として日本銀行総裁候補者植田和男君の出席を求め、所信を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

山口委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決定いたしました。

    ―――――――――――――

山口委員長 まず、議事の順序について申し上げます。

 最初に、植田参考人に所信をお述べいただき、その後、参考人の所信に対する質疑を行いますので、委員の質疑に対してお答えいただきたいと存じます。

 それでは、植田参考人、お願いいたします。

植田参考人 植田でございます。

 本日は、所信を述べる機会を賜り、光栄に存じます。

 私は、内外の大学において、主にマクロ経済学、金融論、国際金融論の分野で、研究と学生への指導に当たってまいりました。この間、平成十年から十七年までは、審議委員として日本銀行の政策決定、業務運営に参画いたしました。委員退任後は、アカデミズムの世界に戻りましたが、日本銀行との関係では、金融研究所特別顧問などの立場でアドバイスを行ってまいりました。また、金融政策の理論や実践について、国際コンファランスなどの場で、内外の学者だけでなく、海外中央銀行、市場関係者等の実務家とも議論を行ってまいりました。

 まず、金融政策について私の考え方を述べたいと思います。

 金融政策は、景気と物価の現状そして先行きの見通しに基づいて運営する必要があります。

 現在、我が国は、コロナ禍から持ち直しているところですけれども、内外経済や金融市場をめぐる不確実性は極めて大きい状態です。消費者物価の上昇率は四%程度と、目標とする二%よりも高くなっております。しかし、その主因は、輸入物価上昇によるコストプッシュでありまして、需要の強さによるものではありません。こうしたコストプッシュ要因は今後減衰していくと見られることから、消費者物価の上昇率は、来年度、二三年度半ばにかけて、二%を下回る水準に低下していくと考えられます。

 金融政策の効果が発現するまでには、ある程度の時間がかかります。金融政策の理論では、需要要因による物価上昇には予防的に対応して需要を抑制する一方、コストプッシュによる一時的なインフレ率の上昇には直ちには反応せず、基調的な物価の動向に反応するというのが標準的な対応と考えます。そうでないと、金融引締めによって、需要を減退させ、景気悪化とその後の物価低迷をもたらすことになってしまいます。

 この点、我が国の基調的な物価上昇率は、需給ギャップの改善や中長期の予想インフレ率の上昇に伴って、緩やかに上昇していくというふうに考えられます。ただ、目標の二%を持続的、安定的に達成するまでにはなお時間を要するというふうに考えております。

 こうした経済、物価情勢の現状や先行きの見通しに鑑みれば、現在、日本銀行が行っている金融政策は適切であると考えております。金融緩和を継続し、経済をしっかりと支えることで、企業が賃上げをできるような経済環境を整える必要があります。

 もし私を日本銀行総裁としてお認めいただきましたならば、政府と密接に連携しながら、経済、物価情勢に応じて適切な政策を行い、経済界の取組や政府の諸施策とも相まって、構造的に賃金が上がる、そういう状況をつくり上げるとともに、一時的でなく、持続的、安定的な形で物価の安定を実現したいと考えております。

 次に、日本銀行の金融政策について、やや長いタイムスパンで少しお話ししてみたいと思います。

 私が審議委員に就任いたしました平成十年当時、日本経済は、バブル崩壊から金融危機を経て、デフレに突入したところでございました。一方で、政策金利は既に〇・五%を下回る水準まで低下しており、通常の金融政策の範囲では緩和の余地がほとんど残されておりませんでした。

 このため、日本銀行は、ゼロ金利政策、時間軸政策、量的緩和政策など、非伝統的と言われた金融政策を世界で初めて次々に導入いたしました。私は、これらの立案過程に、ほかの政策委員と相談しながら、主に理論面から参画いたしました。これらの政策の幾つか、例えば時間軸政策は、その後、欧米の中央銀行でもフォワードガイダンスとして採用されるなど、世界の金融政策の標準にもなっていきました。

 私が審議委員を退任した後も、日本銀行は、量的・質的金融緩和、マイナス金利政策、イールドカーブコントロールなどを採用し、世界でも、また歴史的にも大規模な金融緩和を実施してきました。これらは、実質金利の押し下げを通じて、企業収益や雇用の改善などに貢献し、デフレではない状況をつくり上げたと考えております。一方で、様々な副作用も生じていますが、先ほどお話しした経済、物価情勢を踏まえますと、二%の物価安定の目標の実現にとって必要かつ適切な手法であると思います。今後とも、情勢に応じて工夫を凝らしながら、金融緩和を継続することが適切であると考えます。

 これまで日本銀行が実施してきた金融緩和の成果をしっかりと継承し、新日銀法施行以来二十五年間、日本銀行にとっても、また私自身にとっても積年の課題であった物価安定の達成というミッションの総仕上げを行う五年間としたいというふうに考えております。

 以上、金融政策についてお話ししてきましたが、日本銀行のもう一つの重要な責務は、金融システムの安定でございます。

 我が国経済にとって、金融仲介機能が円滑に発揮されることは極めて重要です。人口減少など、我が国の金融機関、金融システムを取り巻く環境が厳しさを増す中、この面でも適切な施策を実施してまいります。また、銀行券の発行と流通、決済システムの運営、国庫金に関する業務など、いずれも国民経済に必要不可欠なものです。

 そうした社会インフラを安定的に運営していくために、日本銀行の約五千人の職員と力を合わせて、日々業務に当たってまいりたいと考えております。

 どうもありがとうございました。

山口委員長 ありがとうございました。

 これにて参考人からの所信の聴取は終了いたしました。

 議長、副議長は御退席いただいて結構でございます。

    ―――――――――――――

山口委員長 これより植田参考人の所信に対する質疑を行います。

 質疑は、まず、各会派を代表する委員が順次十分以内で質疑を行い、その後、各委員が自由に質疑を行うことといたします。

 盛山正仁君。

盛山委員 おはようございます。自由民主党の盛山正仁です。

 早速ですが、植田参考人に質問をさせていただきます。

 先日来、日本銀行総裁の人選に関連して、大きくマスコミに取り上げられております。十日に植田参考人のお名前が報じられ、更に大きく取り上げられるようになりましたが、参考人は、こうした報道についてどのように感じられましたでしょうか。

植田参考人 二月十日の夕刻でしたか、日本銀行総裁人事がメディアで報道されたときは、大変驚きました。

 その後、十四日に政府による同意人事案の提示を受け、身の引き締まる思いで過ごしてきております。

盛山委員 十日に参考人のお名前が報じられた時点では、まだ政府から日本銀行総裁への就任の要請を受けておられなかったと政府から説明を受けております。

 植田参考人は、御自身のマスコミへの対応について、特に十日の時点でございますが、どのようにお考えでしょうか。

植田参考人 お答えいたします。

 二月十日夜にメディアに対して応答いたしましたのは、報道が流れた後、メディアが自宅周辺に多数集まったため、やむを得ず応じたものでございます。その際、人事について何も申し上げられないというふうに明確にお答えし、また、金融政策について見解を問われたところでありましたので、学者としての一般的な見解を手短に披露したところでございます。

 なお、政府から就任要請を受けたのは、二月十三日の夜でございました。

盛山委員 十日の植田参考人の記者との応対のメモを拝見する限り、今参考人がおっしゃったとおり、政府からは何も聞いていないとお答えになっておられますが、仮に日銀総裁になった場合に現在の金融政策をどうするのかと問われ、今お答えになったとおり、学識経験者としての御見解を披露されておられます。

 一般の方であれば何の問題にもならないやり取りですが、これだけ世間が注目している日銀総裁人事ですので、日銀総裁予定者の発言であるかのように報道されました。それ以前に別の方の発言でも大きく取り上げられていたのですから、総裁になられたらどのように報道されるか、お分かりになられたのではないかと思います。

 日本銀行総裁となられれば、日本の金融政策の中心となります。これからは、私人である植田参考人ではなく、重要な公人となります。今後、公人として一挙手一投足が注目を浴びることになるわけですが、日本銀行の組織を代表する総裁としての行動に対するお考え、御覚悟についてお伺いいたします。

植田参考人 お答えいたします。

 私は、これまで、学者として、あるいは日本銀行審議委員として、歴代の日本銀行総裁、さらには海外の様々な中央銀行の総裁方とじかに接する機会を持ってまいりました。その際に、中央銀行総裁という職は重責であり、その言動や行動が世の中に大きな影響を及ぼすということを間近で感じる機会が多々ありました。

 今後、総裁への就任を御承諾いただいた場合には、私の発言や行動が市場、国民生活などに大きなインパクトを及ぼし得ることを十分認識し、職責を果たしていきたいと思っております。

 また、総裁という職は、日本銀行の役職員約五千人の長という立場でございます。所信でも申し上げましたとおり、日本銀行は、物価の安定だけでなく、金融システムの安定、決済システムの運営、銀行券の流通を始め、国民経済にとって必要不可欠な極めて重要な役割を担っております。副総裁とも力を合わせながら、日本銀行役職員がそれぞれの能力を発揮し、国民経済にしっかりと貢献できるよう、組織の先頭に立って仕事に当たってまいりたいと思っております。

盛山委員 金融政策の番人という表現が適切かどうか分かりませんが、総裁になられれば、我が国の金融政策の最終の決定者となります。副総裁やほかの方々と協議をなされると思いますが、後ろを振り返っても誰もいないという責任を総裁は今後その双肩に背負われます。

 我が国の金融政策の責任者である日本銀行総裁となる御決意について御披露していただきたいと思います。

植田参考人 お答えします。

 先ほど申し上げたところでございますけれども、日本銀行の約五千人の役職員をトップとして率いていくという覚悟で職に当たりたいと思いますが、組織のトップの心構えといたしましては、やはり、目標をはっきりさせること、目標に向かって自らが率先して努力するという姿を見せること、それから、組織の構成員それぞれが力を発揮できるよう仕組み、工夫をいろいろ講じていき、組織の目標の達成に資するということ、そこに全身全霊を傾けていくつもりでございます。

盛山委員 日本銀行法第三条に日本銀行の自主性、独立性が規定され、同法第四条に政府との連携が規定されております。

 参考人は、日本銀行の独立性と、そして同時に政府との連携をどのように調和させていくおつもりでしょうか。岸田総理や鈴木金融担当大臣ほかとの対話、連携についてのお考えについてお伺いします。

植田参考人 委員御指摘のとおり、中央銀行の独立性が必要であるという考え方は金融政策の歴史的な経験を踏まえて世界的に確立されており、この点は、日本銀行法にも明快に規定されております。これは、物価の安定を実現するためには、中立的かつ専門的な立場から経済、物価情勢の分析を行い、それに基づいて自主的な判断と責任で政策を運営していくことが適切であるためだと理解しております。

 同時に、マクロ経済政策の運営に当たっては、政府と中央銀行が十分な意思疎通を図ることも必要であります。この点も日本銀行法に規定されております。日本銀行総裁は、これまでも、定期的に総理と直接お会いする機会をいただいてきたほか、財務大臣とも様々な機会で意見交換をさせていただいてきたと理解しております。総裁への就任を御承認いただけた場合には、私も是非、そうした機会をいただき、しっかりと意思疎通を図ってまいりたいと考えております。

盛山委員 私は、学生のときに、マーシャルがケンブリッジ大学で、イギリスを繁栄させようと考える諸君は経済学部に歓迎する、また、貧民窟を見て何とかしたいと考える諸君も経済学部に歓迎するという趣旨の発言をしたと伺い、経済学はすばらしいなと思いました。私は、法学部の三類というところにおりましたが、悪友に誘われまして、浜田宏一先生のゼミでマンデルの国際経済学を学びました。もっとも、私、不勉強でしたので、さっぱり理解することはできませんでした。

 参考人は経済学の第一人者であられますので、理論的な思考は誰にも引けを取らないことと存じます。一方、地方の現状あるいは中小企業の状況というものについて十分把握しておられますかということです。

 私と比較するのは大変失礼とは存じますが、私は、経済企画庁在籍時に、マクロのデータを踏まえて物価対策を担当したことがあります。また、その後の国土交通省ほかの勤務時においても、マクロの数字を基に政策の検討を行っておりました。その後、選挙に出て、それまでお話しすることがなかった地元の中小企業の方々と接するようになって初めて、マクロのデータとミクロの現場感覚の違いを肌で感じるようになりました。

 マクロのデータに基づいて我が国の金融・通貨政策や銀行その他の金融機関への対応を決められることになるのは当然と思いますけれども、同時に、地方や中小企業についても踏まえていただく必要があります。我が国は、大企業や大都市だけで成り立っているものではありません。中小企業や地方の発展がなければ、我が国の未来はないと考えます。

 参考人は、総裁に就任されましたら、中小企業や地方への視察を含め、どのようにしてマクロ以外のミクロ経済の現状を把握されるおつもりであるか、お伺いします。

植田参考人 お答えいたします。

 日本銀行は、本店に加えまして、数多くの支店、事務所を全国に有しております。そこで個人企業から大企業に至るまで様々な企業へのミクロヒアリングを実施しております。そうして得られた情報は、随時報告されておりますし、支店長会議でも年四回詳しく報告されております。私自身も、審議委員を務めた七年間、自分の考えを整理する機会として、支店長会議における支店長方の話を聞くことを大変重視しておりました。

 また、いわゆる短観でございますが、一万社を対象としたアンケート調査でございます。これも大量の中小企業を含んで調査が行われ、各地の経済情勢、企業の状況についてきめ細かく把握するよう努めているものと理解しております。

 経済の現状を的確に評価するため、マクロの経済統計の詳細な分析だけでなく、中小企業や地方経済の視察を含め、ミクロ経済のきめ細かい把握に努めてまいりたいと考えております。

盛山委員 支店長会議等がございますことは私も重々承知しておりますが、是非とも、今参考人からお話がありましたように、地方の実情、中小企業の実情というのを肌で感じるためにも足を運んでいただければありがたいなと思います。

 次に移ります。

 二〇〇八年九月のリーマン・ショック、二〇〇九年九月からの民主党政権、そして二〇一二年十二月の第二次安倍政権発足の後の二〇一三年三月から、現在の黒田総裁による金融政策がなされてまいりました。デフレからの脱却、行き過ぎた円高の是正、株価の回復等の困難な課題に、この十年間、よく対応してこられたと私は考えます。

 新型コロナ、昨年のロシアによるウクライナ侵攻、それに伴う原油や小麦等の資源の高騰など、現在、我が国は様々な課題に直面しております。今後、日本銀行は通貨、物価についてどのように対応していくべきとお考えであるか、お伺いします。

植田参考人 お答えいたします。

 所信でも申し上げましたとおり、金融政策は経済、物価の現状と先行きの見通しに基づいて運営する必要がございます。

 我が国経済はコロナ禍から持ち直してきておりますが、委員御指摘のとおり、海外の経済、物価情勢、ウクライナ情勢、感染症の今後等、我が国経済をめぐる不確実性は極めて大きい状況にございます。

 物価面では、消費者物価の前年比は、輸入物価の上昇を起点とする価格転嫁が進行していることから、四%程度となっております。もっとも、こうした輸入物価の前年比プラス幅は縮小しつつあるほか、政府の経済対策によるエネルギー価格の押し下げ効果もあって、最初に申し上げましたとおり、来年度半ばにかけて、二%を下回る水準までプラス幅が縮小していくと見ております。

 こうした情勢を踏まえますと、現在は、しっかりと経済を支え、企業が賃上げをできる環境を整えることが重要であるというふうに考えております。そのため、金融緩和を継続し、賃金の上昇を伴う形での物価安定目標の持続的、安定的な実現を目指していくことが適当と考えております。

盛山委員 参考人は、これまでに、幅広い御関係を諸外国のキーパーソンの方々と有しておられると承知しております。主要国の中央銀行や市場関係者と今後どのように連携、対話をされるのか、お伺いします。

植田参考人 例えばリーマン・ショックやコロナ感染症によるショックの際のように、各国の中央銀行が必要な情報交換を行いつつ協力して対応を行ったということが非常に重要であったと考えております。そういう意味で、海外中央銀行との連携の重要性は非常に高まっていると認識しております。

 また、金融政策は金融市場などを通じて経済全体に働きかけるものでありますから、市場とのコミュニケーションも大事でございます。

 私自身、日本銀行の審議委員を務めたとき、あるいは、その後の内外の大学での研究、教育を行っていたときを含めまして、様々な国際的な会議の場で、学者、実務家と議論を行ってまいりました。このような中で形作ってきました人脈、知見を生かして、海外中央銀行との連携、市場関係者とのコミュニケーションを適切に行っていきたいと考えております。

盛山委員 経済学では、初期の頃から、人口についてもその検討対象になっていると承知しておりますが、昨年、二〇二二年に世界人口が八十億人に到達し、インドが十四億二千二百万で世界一になりました。中国は二〇二一年が十四億千二百六十万、ピークで、今後、中国の成長はブレーキがかかっていくというふうにも見られているところであります。

 日本は、二〇〇八年に人口のピークを迎え、減少局面に入っており、二〇二〇年には、メキシコに抜かれて世界十一位となり、今後の急速な少子高齢化と地方の過疎化の進行が見込まれています。二〇〇八年から二〇二〇年までには約二百万人の人口が減少しましたが、二〇二〇から二〇四五年までには、その十倍の約二千万人の人口が減少します。また、秋田県では、二〇二〇年の人口九十六万人、高齢化率三七%が、二〇四五年には人口六十万、高齢化率五〇%を予測されており、人口規模の小さな地方部の状況が短期間のうちに大きく変わってまいります。

 戦後の経済成長、人口増加が続いたこれまでと状況が異なってきております。このような人口の変化を踏まえた、これからの日本の金融、通貨の方向性についてお伺いします。

植田参考人 お答えいたします。

 我が国は、かなり長い期間、人口減少の局面に入っております。それでも、二〇一〇年代においては、金融緩和、政府の取組もあって、雇用環境は改善し、女性、高齢者を中心に労働の参加率は高まっております。このため、人口減少の下でも労働供給が増加し、経済成長を支えたという面がございます。

 しかし、先行きを展望しますと、女性や高齢者の労働参加率は既にかなりの高水準となっております。労働供給の増加ペースは鈍化していくと見ざるを得ません。このため、今後も成長を続けるためには、生産性を持続的に高めていくことがより重要になってくると思います。こうした観点からは、企業による人的資本に対する投資や生産性を高める投資に期待するところでございます。

 金融政策面では、緩和的な金融環境を維持することにより良好なマクロ経済環境を実現することで、こうした企業の前向きな投資を後押ししていくことが重要であるというふうに考えております。

盛山委員 今後の支店長会議その他の御報告をよく踏まえていただいて、特に人口減少が大きいような、特に経済がこれからシュリンクしていくような地域において、地銀さんでございますとかその地域の経済活動といったものに対しての目配り、そういったものを是非お願いしたいと思います。

 次に、広報について伺います。

 国内だけではなく海外からも注目を受ける日本銀行の金融政策でございます。金融政策の狙いあるいはその背景などについて、広く国民の皆様に理解していただけるような広報が望まれていると思います。

 内外の金融関係者だけではなく、広く一般の国民に対してどのように広報をなされるおつもりか、お伺いします。

植田参考人 お答えいたします。

 政策の効果を円滑に発揮していくという観点からは、経済に関する見方あるいは政策運営の考え方について、言うまでもなく、分かりやすく情報発信を行っていくことが重要でございます。

 総裁への就任を御承認いただいた場合、私自身も、政策決定会合後の記者会見あるいは各種の講演などを通じて情報発信をしていくことになるかと思います。その際には、金融関係者だけでなく、広く国民の皆様にも分かりやすい説明を心がけていきたいと思っております。

盛山委員 是非、その判断の背景、どうしてこうなるのか、そういうようなところも含めて御説明をいただけると分かりやすくなるのではないかと思いますので、よろしくお願いします。

 最後に、気候変動についてお伺いをします。

 グローバルウォーミング、気候変動対策は待ったなしの課題でございます。そして、一つの国だけで収まるものではなく、グローバルということで、世界中が一緒になって取り組まなければならないという大きな課題です。

 この気候変動に対しましては、各金融機関もこれまでだんだんだんだんと関心を、対応を、取組を深めてきていただいているところでございますけれども、この気候変動に対する中央銀行としての取組についてお伺いいたします。

植田参考人 お答えいたします。

 委員おっしゃいますように、気候変動問題は、将来にわたって社会経済に広範な影響を及ぼし得るグローバルな課題となってございます。

 日本銀行は、物価の安定と金融システムの安定を維持するという使命に沿って、気候変動に関する取組を進めているものと理解しております。具体的には、金融政策、金融システム、調査研究、国際金融等の幅広い分野から成る包括的な取組を決定し、その下での各分野の対応を進めていると理解しております。例えば、金融政策面では、気候変動対応オペを導入いたしまして、民間金融機関による気候変動対応に資する投融資をバックファイナンスしたりしております。

 もとより、気候変動が経済にもたらす影響は、不確実性が極めて高く、時間の経過に伴って大きく変化する可能性がございます。このため、各種の施策についても、国際的な議論に参画しつつ、不断に検討を重ね、対応していくことが重要と考えてございます。

盛山委員 待ったなしの課題となっております気候変動対策についても、これから十分お取り組みいただきたいと思います。

 以上で私の質問を終わります。ありがとうございました。

山口委員長 次に、階猛君。

階委員 立憲民主党の階猛です。

 本日は、質問の機会をいただきまして、ありがとうございました。

 植田日銀総裁候補、植田候補と呼ばせていただきますけれども、質問させていただきます。

 先ほども、景気と物価の現状、見通しに基づいて金融政策を運営するというお話があり、その中で、物価の見通しについていろいろと御説明がありました。ただ、お話を聞いていると、常々日銀から聞いている話と一緒のようなことでありました。今は物価が高いけれども、先々、輸入インフレ圧力が弱まってくるだろう、そして二%を割り込んでくるだろう、こういうお話でした。

 今日は、ちょうどロシアのウクライナ侵攻から一年になるところです。このような蛮行は決して許されませんが、残念ながら、まだ終結のめどが立っておりません。資源価格、エネルギー価格、これも先行きが見通せない状況。また、国際的な緊張感の高まりが、ブロック経済であるとかサプライチェーンの見直し、こういったことにも反映してくるかもしれません。さらに、別途、新興国の経済成長等で、資源や食料の不足といったようなことも顕在化してくるかもしれません。脱炭素化によるエネルギーコストの上昇などもあると思います。

 私は、国際的に見て、輸入インフレ圧力が依然高いと思うんですが、この点について、候補の見解をお伺いします。

植田参考人 確かに、ロシアのウクライナ侵攻、それから、今後長期間にわたると思います気候変動問題への対応等、構造的に原燃料価格を高い水準に保つような様々な力が働いていることは事実でございます。

 ただ、その中でも、取りあえずのところは、去年までのような非常に高率の原燃料価格の上昇という時期は一旦過ぎ、インフレ率という次元ではそれはかなり落ち着いてきているところでございますので、それが反映されて、日本の消費者物価にも下押し圧力が利いてくるであろうという見方を先ほど申し上げたところでございます。

階委員 先ほどもおっしゃったとおり、足下、先ほど発表された物価上昇率は、コア、生鮮食品を除くコアで四・二ですよ、さらに、コアコア、生鮮食品、エネルギーを除いても三・二ですよ。

 企業の皆さんにお話を聞くと物価上昇はまだまだ続くと見ている中で、余りにも楽観過ぎるんじゃないでしょうか。その点、どうでしょうか。

植田参考人 まだまだ物価上昇は続くともちろん考えておりますけれども、インフレ率という意味では、今日発表されたデータあたりが取りあえずのピークになるというふうに考えてございます。次のデータ発表あたりから、かなり大幅にインフレ率のデータは下がったものが出てくるというふうに考えてございます。

階委員 まあ、私とは少しギャップがあるんですが、いずれにしても、金融緩和の継続が必要だということもおっしゃられています。

 異次元金融緩和によってデフレでない状況が続いていることは私も認めます。他方で、円安による交易条件の悪化であるとか、株式、債券市場の官製相場化、さらには金融仲介機能の低下ということも言われております。また、財政規律の緩みといった副作用も出ています。

 現状がどのように変化すれば金融緩和を継続する必要がなくなると考えているのか、言い換えれば、どのような条件が満たされれば今の金融緩和を見直すことができるのか、この点について見解をお願いします。

植田参考人 これは所信でも少し申し上げましたけれども、金融政策は効果を発現するのに時間を要します。アカデミックな分析では、短くて半年、長くて二、三年かかるというふうに標準的なところとして言われてございます。したがって、物価、インフレ率の先行きの見通しに基づいて運営されなくてはならないというふうに考えております。

 先行きの見通しを判断する際に極めて重要になるのが、基調として物価が今どの辺にあるかというところでございます。まあ、両者は同じようなものでございますが、これは、一言でどの指標を見れば分かるという簡単なものではございません。あらゆる手法を使って基調的な物価の動きを探り当てていくということが、金融政策運営の極めて重要なコアになる仕事であると考えております。

 この基調的な物価の動き、今、少しよい動きが出始めているというふうに思います。しかし、今のところはまだ二%には少し間があるというふうに考えております。もう少し近づいてきて二%の実現が見通せる、そういう意味で見通せるというふうになっていくということが見込まれる場合には、金融政策の正常化に向かって踏み出すことができるというふうに考えてございます。

階委員 今お話しされた前段の方では、金融緩和の効果が出てくるには時間がかかるということでしたが、もう十年たっていますけれども、まだ時間がかかるということなのか。非常に疑問です。

 また、そもそも、二%の物価安定の数値目標がなぜ必要なのか。

 今、候補も、様々な指標を見るべきだというふうにおっしゃっていました。国民の常識からすると、デフレでない限りは、物価よりも賃金の方が大事であって、物価を賃金が上回る状況、実質賃金がプラスになる状況を望んでいると思うんですが、二%の物価目標にこだわる理由を教えてください。

植田参考人 お答えいたします。

 まず最初の、十年かかってもというところでございます。

 先ほど金融政策の効果の発現に標準で二年前後という学界の見方を申し上げたわけですが、これは標準的なケースでそうなるということでございまして、過去の日本経済では、二つの面で、金融政策、金融緩和政策の効果の発現が時間を要してきたというふうに考えております。

 一つは、様々な外的ショック、厳しい外的ショックが次々に経済を襲ったということでございます。日本経済のバブルの崩壊、その後の不良債権処理をもたついたこと、これが金融仲介機能を弱め、経済に下押し圧力として長い期間働いた。その後、リーマン・ショックのような、海外からの同様のショックもあった。こういうことを含めまして、外的なマイナスのショックがアゲンストの風として極めて強い力となってしまった。

 それから、そういう中でデフレやゼロ近辺のインフレの期間が長く続いたことによりまして、消費者あるいは企業の価格形成行動が物価が上がらないという点を前提にした行動にだんだん変容していきまして、少々のことがあっても物価を上げないという行動パターンが根づいてしまったことも物価が上がりにくくなったということにつながったかと思います。

 三番目に、二つと言いましたが三番目に、金融政策のところで、既に所信でも申し上げましたが、九〇年代後半には、短期金利はほぼゼロになっていて、それ以上の引下げ余地は限られたものになっていたということが極めて大きく、通常の金融緩和政策の実行時と比べまして緩和政策の力もやや弱めであったということも響いてきたかなというふうに思っております。

 次に、なぜ二%の目標かという点でございます。

 これは、こういう言い方をしては身も蓋もないかもしれませんが、一つの世界標準のインフレ目標であるというふうに考えてございます。

 その背景といたしましては、主に二つの点があるかと思います。一つは、消費者物価の計測のところで若干の上方バイアスがある、これに対して配慮するという点。二番目に、目標のインフレ率が高いほど、目標が実現した段階では、それに応じて名目の金利も高くなります。その状態に達しておりますと、そこで何か、景気が悪くなる、金融システムの問題が発生するというようなマイナスのショックが発生したときに対応する余地が広がります。この対応の余地を広げることをよくのり代を確保するというふうに言ったりいたしますが、こののり代として二%程度のインフレ率が適当ではないかという考え方かなと思います。

 最後に、賃金のことに関するお尋ねをいただきました。

 難しいところではございますが、一つ、まず私から申し上げられることは、二%の物価目標が持続的、安定的に実現されるという状態を考えてみますと、そこでは、総需要、雇用、賃金も相応の率で持続的に上昇していかないと二%のインフレも持続的にならないという状態でありますので、賃金も持続的に上昇するものというふうに考えます。ただ、それはもちろん名目賃金のことでございます。

 委員のおっしゃった実質賃金でございますが、これは、中長期的には経済の生産性の動きと見合って上下していくものというふうに考えてございます。もちろん、実質賃金の上昇が高まることは経済全体また労働者にとって極めて大きなプラスの影響をもたらすわけでありますが、中央銀行としては、そこに直接働きかける手段を持ち合わせているわけではないと考えております。ですから、実質賃金の上昇は望ましいと考えることはもちろんでございますが、それを目標として設定するのはいかがなものかなというふうに私は考えてございます。

階委員 最後のところ、実質賃金を目標にするというのは、日銀の目標というよりは、政府と日銀が共同で目指すべきだということを我々は申し上げています。

 それで、今のお話の中で、二%にこだわる理由として、のり代を確保する、将来の金融緩和に備えて金利を上げておかなくちゃいけないというお話だったと思うんですけれども、金利を上げるために今超低金利を続けている、これは何か矛盾しているような気がするんです。

 永久に超低金利が続いたら、目標は達成されなくなってしまうんじゃないですか。二%は達成されると考えているんですか。

植田参考人 これは分かりやすい説明が難しい点ではございますが、高いインフレ目標であればあるほど短期的には強い金融緩和政策を取りまして、それによってだんだんとインフレ率が上がっていく、そういう状態をつくり出すことによって最終的にはインフレ率も金利も上昇するというロジックでございます。

階委員 十年前に異次元金融緩和を始めた際に、いまだ二%目標は達成されていないわけですけれども、黒田総裁は、それは達成できると自信を持って述べられていたわけですね。当時、金利がほぼゼロの場合であっても、日銀が大量にマーケットに資金を供給すればデフレから脱却できるとか、日銀が二%の物価目標を達成すると約束すれば期待が高まって目標が本当に達成できるんだという考え方、こういった考え方の人たちが熱狂的な支持をしていたと思います。実際そうならなかったわけですけれども。

 このようないわゆる貨幣数量説とか期待仮説といったような考え方について、候補はどのようにお考えになりますか。

植田参考人 物価は、単純に考えますと、やはり財・サービスの需要と供給で決まるものでございます。

 貨幣数量説的な考え方をこういう見方に当てはめますと、結局は、財・サービスの特に需要の背後の要因の一つとして、貨幣的なものがあるということになるかと思います。様々な理論的な条件が満たされれば、長期的には、貨幣的な要因が支配的になって物価が動くという結論も出せるわけですが、現実の経済では、貨幣的要因以外の、先ほどもちょっと申し上げましたような様々なショックが財・サービスの需要あるいは供給に影響を与えます。

 それから、貨幣的な要因の財・サービス需要への影響も状況によって大きく異なってくるということかなと思います。これも先ほどちょっと申し上げましたが、通常は、量を増やしますと、それによって金利が下がって総需要を刺激するという道筋になります。ところが、金利がゼロ近辺でそれ以上下がらないという制約が強く利いているところでは、単純に量を増やしただけでは、財・サービスに対する需要が増えにくいという状況になって、なかなか貨幣的要因の力が全体としては発揮されないということであったかなというふうに考えてございます。

階委員 合理的期待仮説、期待に働きかけるといったこともうまくいかなかったということだと思います。

 今までるる申し上げたような問題意識なども踏まえて、今後、異次元金融緩和の功罪を包括的に検証したり、あるいは、二%の物価安定目標を早期に達成すると明記されている政府との共同声明を見直したりするつもりはあるかどうか、候補のお考えをお聞かせください。

植田参考人 まず、これまでの政策の効果あるいは副作用等も含めて全体像をきちんと検証するつもりはあるかどうかというお尋ねであると思いますけれども、これは、一つには、毎回の金融政策決定会合がまさにその間の情報を追加的に加えた上で様々な検証を行っているものであるというふうに考えてございます。

 追加的に、より特別の検証を行うべきかどうかという点もあるかと思いますけれども、これにつきましては、総裁にお認めいただきましたら、他の政策委員会メンバーとも相談の上、必要に応じて、そうした検討あるいは検証を行っていきたいというふうには考えてございます。

 それから、政府との共同声明にも含まれます、二%の物価目標をできるだけ早期に達成するという点を修正する必要はありや否やという御質問だったと思います。

 現状、先ほど来申し上げておりますように、基調的な物価の動きは非常に好ましいものが出始めているという段階で、しかし、二%にはまだ時間がかかるというところでございます。基調的な物価にそういう望ましい動きが出ているということを考えますと、現在の物価目標の表現を当面変える必要はないかなというふうに私は考えてございます。

階委員 現在の金融緩和姿勢を維持したとしても、十年物の国債を無制限に買い入れて、長期金利の上限を〇・五%にする長期金利の操作を行っているのが今のイールドカーブコントロールなわけですけれども、この点については、やはり、最近の市場の動向を見ていると、見直しの必要があるのではないかと私は考えています。

 昨年の暮れ、御案内のとおり、長期金利の上限を日銀は〇・二五を〇・五まで引き上げましたけれども、なおも長期金利の上昇圧力が続いていますし、市場のゆがみも直っていません。そして、日銀の国債の買入れ額も急増しているわけです。

 こうした問題をどのように解決していくのか、候補の見解をお願いします。

植田参考人 委員御指摘のとおり、日本銀行は、十二月に、長期金利の変動幅を拡大するという措置を含めまして、様々な措置をイールドカーブコントロールについて取ってございますし、その後、追加的な措置も取っているというふうに理解しております。

 これは、イールドカーブコントロールの下で市場機能にやや低下が見られるという事態に配慮しまして、そこを少しでも緩和するという目的のために様々な措置を取り、現在のイールドカーブコントロール政策を、先ほど申し上げたような物価情勢の下で維持可能性を高めるために取られた措置というふうに見ております。これが本当に市場機能の向上につながっているかどうかというところは、現在見守っているという状態かなと私も考えております。

階委員 候補としては、このままでいいという考えでよろしいですか。

植田参考人 イールドカーブコントロールの将来については様々な可能性が考えられます。

 ただ、現状、私が、僭越ですが、総裁候補として指名されております時点で具体的なオプションの是非について申し上げることは、非常に不測の影響を及ぼすリスクがあるというふうに考えておりますので、控えさせていただければというふうに思っております。

 もしも総裁としてお認めいただきましたならば、その後、金融市場局がどういうふうに日々感じているのか、ほかの政策委員の方々がどういうふうにこの点に関して考えているのか、時間をかけて議論を重ね、望ましい姿を決めていきたいというふうに考えてございます。

階委員 具体的にどのようなことをやるかというのは今お答えになれないというのは承知しましたけれども、問題意識としてどのようなものがあるのか、その点はお答えいただけますか。

植田参考人 これは二つでございます。

 一つは、先ほど来申し上げておりますような基調的な物価の見通し、これが一段と改善していくという姿になっていく場合には、イールドカーブコントロールについても見直し、ないし正常化の方向での見直しを考えざるを得ないかと思います。

 これに対して、そこのところがなかなか改善していかない、したがって、力強い金融緩和の継続が必要であるという場合には、市場機能の低下を抑制するというところに配慮しつつ、この措置をどうやって継続するかということを考えていかないといけないというふうに思っております。

階委員 それと、将来的に金融緩和を見直していくためには、日銀が大量に保有している国債、今、政府の発行残高の半分以上を持っている、それから、ETFも上場株式の時価総額の七%ぐらいを持っているということでして、この大量に保有している国債やETFをどうやって処分していくか、しかも市場に影響を与えないように処分していくか、ここも大きな問題になってくると思います。一歩間違うと、市場への影響もありますし、日銀の財務内容にも逆ざやが生じたり、あるいは、含み損による、ETFの方は即座に会計上の損失にもつながるということであります。

 こうしたリスクをどのように防いでいくのか、総裁の考えをお伺いします。

植田参考人 確かに、様々な大規模なオペレーションの結果、いろいろなリスクを抱えていることは事実というふうに認識してございます。

 国債につきましては、私が現在思いますところでは、国債を売却するというオペレーションに至ることはないであろうというふうに見ております。その代わりに、引締めの局面では、日銀当座預金の金利を引き上げていくというやり方になるというふうに思います。

 ただ、この際、財務面で懸念されるのは、保有しております国債の金利と当座預金の支払い金利が逆ざやになって、収益にマイナスの影響を及ぼすというケースでございます。しかし、これにつきましては、そういう事態に備えまして、債券取引に関する引当金を積んでいるというふうに理解しております。

 また、ETFにつきましては、大量に買ったものを今後どういうふうにしていくのかというのは大問題でございますが、これは、先ほど来申し上げておりますような基調的な物価の見通しが改善して出口が近づいてくるという場合には、具体的に考えていかないといけない問題であるというふうに思っております。その際には、政策委員の方々とも相談して必要な情報発信をしてまいりたいというふうには思いますが、現在は、その点について具体的に言及するのはまだ時期尚早というふうに考えてございます。

階委員 今後、金融政策を見直す場合には、これまで借金頼みのばらまき財政をやればいいんだと声高に言っていた、これは与野党を問わずそういう政治家はいるわけですけれども、そういった政治家から有形無形の圧力を受けると私は思います。

 植田候補は、こうした政治的圧力に屈することなく、日銀の独立性を保持して、本来の目的である、物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資するという日銀の理念、これを貫く覚悟はおありでしょうか。

植田参考人 確かに、現在、大量の国債を金融緩和政策の下で購入しておりますけれども、これは財政ファイナンスのためにやっておるものではありませんし、市場から購入しているものであります。その最大の目的は、先ほど来申し上げています、持続的、安定的な二%の物価目標を達成するということでございます。

 したがいまして、当然の帰結といたしまして、それが達成された暁には、こうした大量の国債の購入はやめるという判断になってくるというふうに考えております。

階委員 今、候補もよく御存じだと思うんですけれども、国債の発行額が今年度末では一千兆円を超える。そういう中で、超低金利によって支払い金利は十兆円もいかないということで、一%ぐらいの金利で済んでいるということだと思うんですね。これが一%でも上がったら、長期的にはとんでもない金額、十兆円ぐらいの支払い利息の負担になる。

 これは、今、防衛費の問題とか子ども・子育ての予算の問題とか、いろいろとこれから国も財政的に需要がある中で、金利が上がったらそういうのができなくなるんじゃないか、こういうことが政治的に総裁の方にも圧力がかかってくると思うんです。

 そうしたことについては、今、独立性を保持して、必要があれば国債の購入をやめるといったような話もありましたけれども、それはそういうことで、あくまで日銀は独立性を保持して、金融政策の必要性に応じてやっていくんだということでよろしいですか。

植田参考人 財政運営の方につきましては、申し上げるまでもなく、政府、国会の責任において決定されていくべきものというふうに考えてございます。

 その上で、日本銀行は、国債の購入等につきましても、委員御指摘のとおり、物価安定目標を実現するという観点からその是非をずっと考えていくという姿勢で間違いはございません。

階委員 そろそろ時間になりますので最後の質問にいたしますけれども、植田候補の過去の書かれたものとかを読んでいますと、過去にはワラント債などで三千万円投資した、一回損が出たけれども結果的にはチャラになったみたいなことをどこかで読んだ記憶があります。

 総裁というお立場でこういう投資などをしたとすると、当然、金融政策についてあらぬ疑念を招く可能性があるので、こうした投資などについては控えるべきだと考えております。今現在はそういう投資的なことはやっていらっしゃらないかどうか、ここを確認させてください。

植田参考人 もちろん、そういうリスクのやや高い金融商品の売買をしておりましたのは、三、四十年前の、政策等に全く関係のない時代に、学者としても現実の金融市場に触れることは大事であろうという考えの下から行ったものであります。

 現在、多少の金融商品を保有しておりますが、これは日銀総裁着任までに処分し、日銀の内規に従って行動してまいりたいというふうに考えております。

階委員 また、そういったことも委員会の方でもお尋ねしていきたいと思います。

 今日は、ありがとうございました。

山口委員長 次に、住吉寛紀君。

住吉委員 兵庫県姫路市よりやってまいりました、日本維新の会の住吉寛紀でございます。

 本日は、植田参考人、お越しいただきまして、ありがとうございます。

 また、質問の機会をいただきまして、ありがとうございます。

 時間も限られておりますので、早速、質問の方に移りたいと思います。これまでの金融政策の、少し細かいですが、手法についてどのように見ているのか、そのような観点から質問させていただきます。

 先ほどの所信では、これまでの金融政策については適切であると述べられております。

 そこで、まず、量的緩和についてお伺いしたいと思います。

 植田先生は日銀の量的緩和の効果について否定的な見方を示している、そういった記事も読ませていただきました。マネーの伸びが高まれば二、三年程度の期間でそれにほぼ見合ってインフレ率が高まるといういわゆる貨幣数量説は、ここ数年の経験の説明には無力だというような趣旨でございます。

 改めて、量的緩和に対するお考えをお聞かせください。

植田参考人 私が委員御指摘のような見解を述べました当時は、現在もそうでありますが、短期金利がほぼゼロになってしまった後でございます。

 そういう状況では、短期の金融商品、例えば短期の国債、こういうものを考えますと、それもほぼ金利はゼロ、流動性は非常に高いということで、いわゆるベースマネーとほぼ同じような金融商品でございます。したがいまして、短期の国債を買うという形でベースマネーを増やしていくという政策を仮に量的緩和と定義したといたしますと、それはほぼ同じもの同士を交換しているにすぎない政策である、したがって経済に影響を与える力は弱いということを申し上げたつもりでございます。

 これに対して、過去十年は、そういう単純な量的緩和だけではなく、まだ金利がゼロにはかなり遠かった長期国債を大量に購入するという政策の中で、量の拡大も図られてきたと了解しております。そういたしますと、これは短期国債と違いまして、ベースマネーからそこそこ遠い商品との交換という量的緩和ですので、これを日本銀行は質的緩和と呼んだりしておるというふうに了解しておりますが、それはある程度の効果を持つものであるというふうに理論的にも言えると思いますし、実際にも持ってきたというふうに考えてございます。

住吉委員 今、短期金利のお話がありましたが、次に、マイナス金利の生み出す副作用についてもお伺いしたいと思います。

 先生は、短期金利のマイナス化などによる副作用、これを度々指摘されております。債券市場の価格発見機能は大きく低下するとともに、利ざやの薄くなった銀行、運用対象が限定的となった機関投資家などによる金融仲介機能には無視できない負の影響が及んでいる、こういった発言もされております。

 マイナス金利下で、資金運用利益が大幅減少、とりわけ地銀への悪影響が深刻化されており、金融機関の経営が厳しくなり、金融仲介機能を壊して経済を悪化させる、逆の方向に行くということだと思いますが、このマイナス金利の生み出す副作用について、改めて、どのように考えておりますのか、お聞かせください。

植田参考人 確かに、マイナス金利を含む低金利が、金融機関収益等に与える影響を通じて、金融仲介機能に悪影響を与えてきた可能性はあると思っております。

 ただ、現在では、マイナス金利そのものを取り上げてみますと、まず、それが適用される残高が極めて、当座預金のごく一部にとどまるというような工夫が日本銀行によってなされ、副作用の緩和策が採用されていると思います。

 また、金融機関は平均的には充実した資本基盤を備えており、金融仲介機能はある程度円滑に発揮されているというふうに考えてございます。

 それから、マイナス金利を含みます低金利が全体として経済を支えるということが、企業収益あるいは企業の資金借入需要等にプラスの影響があるということによって、金融機関にもまたプラスの影響が間接的に及んでいるという面もあるかなというふうに思っております。

住吉委員 ありがとうございます。

 次に、イールドカーブコントロールについてお伺いしたいと思います。

 先生は、本来誘導対象は十年より短い金利にして、十年債利回りは自由に変動させるのが日銀の考え方には合うのではないかと述べられております。実際、IMFも、一月二十六日に、長期金利の幅は柔軟に、また金利操作の対象を短期に、また国債購入量を目標にするということを提言しております。

 YCCの修正の必要性であったり、また、当面続けていくのかというのは、先ほど階委員への答弁の中で、答弁を差し控えさせていただきたいという旨がありましたが、この弊害をどうしていくのかというのは重要な観点だと思います。

 日銀が、このイールドカーブコントロールを維持していくためには、大量の国債買入れ、これを今現在強いられている状況でございます。このことが市場をゆがめております。実際に、社債の市場についても、このゆがみから弊害が出てきていると聞いております。また、日本銀行のバランスシートの肥大化を通じて日本銀行の将来の財務リスクを高め、さらに、財政ファイナンス観測を強めることで金融市場を潜在的に不安定にさせるおそれもございます。

 この弊害をどのように考えているのか、またどのように対応していくのか、教えてください。

植田参考人 委員御指摘のように、イールドカーブコントロールが様々な副作用を生じさせているという面は否定できないかと思います。

 そういうこともありますので、先ほど来申し上げておりますように、十二月以降、それをなるべく緩和するという意図の下に様々な措置を日本銀行は採用してきていると思います。現状は、それがどういう効果をもたらすかということを見守っている段階というふうに私は考えております。

 委員が最初におっしゃいました、コントロールの対象を十年よりももっと短いところにすべきではないかというやり方は、これを見直す際の、将来見直すことがあるとして、そのときの一つのオプションにはなると思いますが、ほかのオプションも様々なものがあり、それらを含めまして、一つ一つのオプションの功罪について、現在詳しく具体的に触れるということは差し控えさせていただきたいというふうに思っております。

住吉委員 今まで、それぞれの代表的な手法について、効果検証といいますか参考人のお考えを聞かせていただきました。

 これらの手法は、インフレ率二%、これを達成するために様々に実施されたものだと認識しております。

 黒田総裁は、二年でインフレ率二%を目標にしてきたわけであります。なぜ二%なのかは、先ほど答弁があったように、名目の金利が高くなってのり代を確保する、また世界標準であるということだったと思いますが、植田先生は、無理をせずに二%達成をより中長期的な目標というような発言もございますが、具体的にこの目標の修正等について考えはあるのか、教えてください。

植田参考人 この点は先ほど来ちらっと申し上げておりますけれども、現在、現体制での緩和の下で、基調的なインフレ率についても少しよい動きが出てき始めております。ですので、私が総裁に選ばれましたならば、この芽を大事にして育てていくということに当面は力を注ぎたいと思います。

 そういう中では、二%の目標を早期に達成するという表現が共同声明の中に含まれているということを直ちに変える必要はないというふうに考えてございます。

住吉委員 中長期的な目標にすべきではないかという発言が過去ございますが、例えば、どれぐらいのスパン、具体的に何年ぐらいというのをイメージしているのか、もしあればお願いします。

植田参考人 これは、先ほど関連の質疑がございましたが、標準的には金融政策の効果が及ぶのに二年くらいの時間がかかるであろう。したがって、二年先くらいまでに目標を達成するというような考え方で、いろいろな目標あるいは手段、金融政策に関する目標を設定したり金融政策決定の説明をしていくということであるわけでございますが、これも先ほど来違う質疑でやり取りがございましたように、日本経済が過去十年あるいは二十年置かれた状況では、二年くらいたてば金融政策の効果が発現するという標準形がなかなか当てはまらない状態にあるかと思います。

 ですので、何年後に目標が達成できるか、あるいは、中長期的な目標といった場合にそれは何年間くらいの平均を意味しているのかということに、なかなか現状では確信を持って答えることができないという残念な状態にあるということは申し上げたいと思います。

住吉委員 続きまして、現在のインフレ率、先ほど来ありましたが、総務省が先ほど発表した消費者物価指数では、一月四・三%ということで、これをどう見ているのか。また、物価の安定とはどういう定義なのか。

 この判断基準には、例えば、消費者物価上昇率、CPIを使用することが通例ですが、CPIにも、生鮮食品を除いた指数であるコアCPIや、更にエネルギーを除いた指数であるコアコア、幾つかの種類があります。

 日銀の金融政策においては、どのCPIを重視し、どのような状態をもって物価の安定と考えるのか、植田先生の御意見をお願いします。

植田参考人 確かに、現状、消費者物価全体を見ますと、四%強で推移しております。これは、言うまでもなく、消費者の実質所得にマイナス要因として働き、生活にマイナスの影響を与えているという点は強く認識してございます。

 ただ一方で、これも先ほど来申し上げておりますように、金融政策を変更しますと、その効果が表れるには時間がかかる、現状、どれくらいの時間がかかるか分からないという不確実性もあるという中で、少し先のインフレ率あるいは現在時点での基調的なインフレ率を把握し、それに基づいて政策を決めていくという考え方も重要である、あるいは、それが重要であるというふうに思っております。

 それでは、そこをどういう指標で見ていくのかというのが委員の御質問だと思いますけれども、残念ながら、この指標を見ればぴったり基調的な動きが判断できるというような理想的な指標はない。よく、いろいろな人がいろいろな物価指数を見る中で、一時的な要因を含んでいるものを次々に除いていくということをしていくわけですが、タマネギの皮をむいているようなもので、芯がどこにあるか分からなくなってしまうという指摘がなされたりいたします。

 私どもといたしましては、賃金も含めまして、様々な指標を丁寧に見ていくことによって、基調を判断していくということにならざるを得ないかなというふうに思っております。

住吉委員 今、賃金も含めましてということなんですが、賃金の上昇についてもお伺いしたいと思います。

 黒田総裁は、金融緩和を続けていくことで、賃金の上昇を伴う形で物価目標を持続的、安定的に実現することは可能だと述べられております。

 植田先生は、日銀の金融緩和政策で賃金上昇はどの程度可能と考えられておりますでしょうか。

植田参考人 これはもちろん、二%のインフレが持続的、安定的に実現されるという状態では、賃金もある程度の率で上昇を続けるということが実現されていると思います。そうでないと、物価の持続的な上昇ということも起こらないと思います。

 ただ、賃金の上昇率が例えば名目で何%くらいかということは、物価の方が二%であっても、賃金の名目上昇率は生産性上昇率によって影響されますので、その時々の経済情勢によってかなりの幅を持って変動し得るというふうに考えております。

 したがって、物価の方で二%が達成された暁に賃金の名目上昇率がどれくらいかということを前もって確信を持って申し上げるのは極めて難しいかなというふうに考えてございます。

住吉委員 我が党は、日本維新の会は二月二日に日銀法改正案を提出して、その目的の中に、物価の安定、雇用の最大化、名目経済成長率の持続的な上昇、これを規定しております。

 現在の日銀法はこの三つは目的ではありませんが、財務大臣が、私への委員会での答弁において、日銀法第二条においては、金融政策は物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資すること、これを理念とされており、現行法においても、日銀は金融政策の運営に当たり雇用や経済成長に配慮することが求められていると解されております、このように答弁されております。

 物価の安定、雇用の最大化、名目経済成長率の持続的な上昇は現行の日銀法には明確に記載されておりませんが、国民経済の健全な発展から読み込むことができるとおっしゃったわけです。

 同様の認識であるのかどうか、また、その場合は、いかなる方策でこの三つの目標を実現していくのか、お考えを教えてください。

植田参考人 委員おっしゃるように、日銀法のたてつけ上は、第一義的な目標は物価の安定、それを達成することによって、物価の安定を図ることによって国民経済の健全な発展に資することというふうに記述されております。

 それで、委員が御指摘の雇用の問題あるいは名目経済成長率の持続的な上昇、これをこの日銀法上の国民経済の健全な発展というところで読むという読み方も可能だとは思いますが、もう一つは、物価の安定が実現される、第一義的な目標の方でございますが、これの状態になれば、先ほども申し上げましたように、まず賃金も相応の率で上昇する、それから雇用もおおむね完全雇用に近いところに来るというふうに考えます。

 なぜかと申しますと、そうでなければ、労働者の労働供給と需要の間にギャップが生じまして、それが賃金にマイナスの影響を及ぼし、賃金が持続的に上昇し物価も上昇するという状態にブレーキをかけることになります。

 両方併せますと、結局、名目経済成長もある程度の率が確保できる状態であるというふうに読むことも可能かなというふうに思っております。

住吉委員 物価の安定を図っていけば、雇用であったり名目経済成長率の持続的な上昇が達成できるという答弁だと思います。少し財務大臣とのそごを感じたところでございます。またこれについては委員会の方で詳しく聞いていきたいところですが。

 日銀だけにこの三つの目標を課すというよりかは、政府と一緒になってやっていかなければならないことだと思っております。その上で、政府との関係において、アコードの内容を見直すお考えでしょうか。また、その場合、どのような内容を検討しているのか、教えてください。

植田参考人 共同声明につきましては、二〇一三年以降、政府と日本銀行がそれに沿って必要な政策を実施してまいり、我が国経済は着実に改善して、その中で、賃金も上昇、物価も持続的に下落するという意味でのデフレではなくなってきております。こういう意味で、政府と日本銀行の政策連携が着実に成果を上げてきたものというふうに見ております。

 したがいまして、先ほど来申し上げてございますように、この共同声明を直ちに見直す必要があるというふうには今のところ考えてございません。

住吉委員 この十年間の全体的な評価についてお伺いしたいと思います。

 二〇一二年十二月二十六日に始まった第二次安倍政権において、当時の安倍総理が表明した三本の矢を柱とする経済政策ですが、このアベノミクスに対して、第一の矢の金融政策は積極的に吹かしつつも、第二の矢の財政政策は緊縮政策を採用したから真逆に飛んでいってしまった。経済がある程度回復しつつも、デフレからの完全脱却を果たせずじまいだった原因の一つがこれです。要は増税をしたということでございます。

 また、我が会派は、物価高騰対策として、昨年十月二十一日に消費税の減税を提言しているところでもございます。

 これらを踏まえて、この十年近く、金融政策以外のことも含めてですが、なぜ日本経済が世界に比べて低迷しているのか、先生のお考えをお願いいたします。

植田参考人 共同声明の中の金融政策のところにつきましては、御指摘のように、ある程度の成果を上げてきたというふうに考えてございます。

 それから、その他のところでございますが、政府の方から働き方改革などの施策を実施していただいたことによりまして、労働需給がタイト化するという中でも、女性や高齢者の労働参加が進み、人口減少が続いておるわけですが雇用者数の大幅な増加が実現するというようなプラスの効果が実現してきているというふうに思います。

 消費税率引上げの影響についても御質問があったかと思いますけれども、これは、一般論としまして、消費税率を引き上げますと、駆け込み需要があり、その反動がその後に来る。また、税率が上がることによる実質所得の減少、それが消費に与える影響という効果もある。さらには、消費税率を引き上げることが、財政の中長期的な姿に関する懸念がある中で、それを若干でも緩和する効果もあるというような諸点を総合いたしますと、全体としてどういう効果になるかということは極めて難しい問題かなというふうに考えてございます。

住吉委員 時間になりましたので、終わります。ありがとうございました。

山口委員長 次に、岡本三成君。

岡本(三)委員 公明党の岡本三成です。

 質問の機会をいただきまして、ありがとうございます。

 まず初めに、植田参考人、この度、日銀総裁の要請を受けていただいたこと、本当にありがとうございます。今の経済状況、金融の状況等を考えますと、大変な職責ですので、辞退されてもおかしくないようなポジションだと思っています。その上で、今回、挑戦する決意を固めていただいたことにまずは心から敬意を表したいと思います。

 今まで質疑をされた方々とかぶるような質問もありますので、若干角度を変えて質問させていただくこともありますので、内容をよく吟味いただきながらお答えをいただければと思うんですが、是非、私自身が同意をしたいと思う答弁を御期待いたしますので、よろしくお願いいたします。

 まず、日本銀行は誰のものかという議論があります。中には、政府のものと言う人もいます。誰のものでもないと言う方もいます。私は、日銀は国民のものだというふうに思っています。その観点から、まず質問させていただきたいと思います。

 日銀の理念について、まず伺います。

 日銀法の第二条には、「日本銀行は、通貨及び金融の調節を行うに当たっては、物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資することをもって、その理念とする。」とあります。

 海外の中央銀行を考えますと、アメリカの中央銀行に当たるFRBは、そのマンデートの中に、物価の安定に加えて雇用の最大化もあります。他の主要国の中央銀行も、いろいろな形で、雇用や賃金についても責任のあるような金融調節を行っているというふうに私は理解をしております。

 この国民経済の健全な発展に資するということは、雇用の最大化や賃金の上昇についてもその理念に含まれていると私は理解しておりますけれども、いかがでしょうか。

植田参考人 委員御指摘の点でございますが、日銀法の記述は、第一義的な日銀の目標は物価の安定で、それを通じて国民経済の健全な発展に資するという書きぶりになっております。

 この点に関する私の、まだ学者としてということになるかもしれませんが、理解は次のようなものでございます。

 物価の安定は経済にとって極めて重要なインフラであるというふうに考えております。そのインフラが確保されることによって、一般の国民は、マクロの物価が変な方向に動いていくという心配をせずに自分の家計、企業としての経済活動に全力をもって取り組むことができる。そういう無駄な心配を起こさせないための物価の安定、それをインフラとして確保するというのが中央銀行のまず第一の仕事である。それが達成されますと、国民が自由に経済活動を活発に行うことができ、能力を十分発揮することができる。その結果として、例えば生産性のようなものが、そうでない場合に比べて極めて高い水準で伸びていく可能性がある。それが賃金の上昇、特に実質賃金の上昇にもつながる。

 このことを日銀法は物価の安定を図ることによって国民経済の健全な発展に資するというふうに書いているのではないかというふうに私は解釈しております。

岡本(三)委員 続きまして、政府と日銀の共同声明、アコードにつきまして、私は、アップデートする必要があるというふうに思っています。経済状況も金融市場も生き物です。十年間、様々な状況が変わってきております。したがいまして、内容をアップデートする必要が私はあるというふうに思っています。

 十年前のこのアコードの内容をいま一度見ますと、これは政府と日銀の政策連携についてでありますので、日銀の役割、そして政府の役割、お互い確認をしておりますけれども、私は、この共通の役割の中に、目標として、持続的な賃金の上昇という文言を是非入れていただきたいというふうに考えています。

 もちろん、先ほど来総裁候補がおっしゃっていらっしゃるように、実質賃金を実際にコントロールするすべはない、そのとおりだと思います。ですから、具体的な内容、その確度については御議論をしていただく必要があると思いますけれども、例えば、生産性の向上が必要なので、生産性の向上が実質賃金につながるというお話も先ほどありましたが、今のアコードの中にも、政府の役割として、生産性向上を実現するための財政的な役割を果たしていくというふうな文言もあります。実際に賃金の上昇ということがアコードの中に盛り込まれますと、国民や市場に対するメッセージが非常にクリアになるんですね。

 アコードの目的というのは、政府と日銀がどこにゴールを設定してお互いの役割を実現しようとしているかであります。政府は、今、賃金の持続的な上昇ということを何よりも経済政策の優先順位第一位に置いていると思っています。同じ思いが日銀の中にあると思っています。その役割を全部日銀にお願いしたいということではなく、アコードの中の共通の目標として掲げることによって、お互いの守備範囲を守っていくという意味で、是非、この文言を加えていただくようなことを今後政府に要請していきますので、政府から提案があったときには前向きに取り組んでいただきたいと思いますが、いかがでしょうか。

植田参考人 この点につきましては、先ほども申し上げましたとおり、確かに、賃金、実質賃金を含めまして、その上昇は日本銀行にとっても非常に重大な関心事でございますし、実現されることが望ましいとは考えております。

 しかし、それに対する中央銀行としての関わりは、先ほど申し上げましたように、まず物価の安定という環境、インフラをきちっと整備する、その果実として、実質賃金、生産性の上昇が生まれてくるというふうに私は考えてございます。

 したがいまして、これを政策の直接の目標というところに加えるという点につきましては、ちょっとちゅうちょされるというところでございます。

岡本(三)委員 次に、イールドカーブコントロール、YCCについてお伺いをいたします。

 現在、十年セクターの金利をコントロールされています。このイールドカーブコントロールの目的は、市場に供給した資金が成長性に資するように活用してもらうということだというふうに私は理解しています。

 そう考えますと、十年の年限で資金を調達しているような企業は、ほんの一部のインフラ企業に限られてまいります。先ほど来候補がおっしゃっている、生産性の上昇を伴って賃金を上げるということを考えますと、労働人口が最も多い中小・小規模企業に対して資金をどのように提供するかということが重要になってまいります。中小企業は、設備投資資金であっても、三年から五年セクターが主な調達の年限です。

 そう考えますと、決して日銀のリスクアマウントをちっちゃくしたいという趣旨ではなくて、市場に対する生産性向上のための資金を提供するというその目的において、十年のターゲット年限を短くしていくことが私は必要ではないかと考えているんですが、いかがでしょうか。

植田参考人 確かに、多くの企業の借入れの期間の長さは十年よりももっと短いものということであるかと思います。

 ただし、それでは、仮にイールドカーブコントロールをするときに何年金利を目標にするのがよいかという点になりますと、十年をコントロールしていたといたしましても、イールドカーブがきれいな形をしていれば、三年から五年のところも低位に維持されるという効果があるようにございます。ここは、もう少し、今行われているオペレーションの、副作用緩和策の効果を見守らないといけないと思いますが、そういうふうに考えてございます。

岡本(三)委員 そのように順イールドの状況をつくり続けるようなことのオペレーションが可能であって、それが日銀のバランスシートに対する負担がそれほど過度ではないということであれば、そういう選択肢も是非お考えいただければと思います。

 そして、その日銀のバランスシートの健全化、正常化ということについてお伺いしたいと思います。

 昨年末の日銀の総資産七百四兆円、このうち長期国債は五百五十六兆円に上ります。今後金利が上昇してくれば、当然、含み損が出てまいります。

 私は、中央銀行の含み損は問題がないというふうに思っています。国債はクレジットリスクがありません。先ほど総裁候補がおっしゃったように、今後仮に売りオペをやるようなことがなければ、あくまでも含み損で、最後はパー、一〇〇で返ってまいります。したがいまして、民間銀行とは違いますし、既に世界の中央銀行、例えばオーストラリアやイスラエルでも、資本が毀損しているような状況を過去に経験していますけれども、別に何ら問題は起こっておりませんので、その意味で、債務超過になっても中央銀行は問題がないと私は思っています。

 ただ、日本は、ドルやユーロと並ぶ基軸通貨に円を育てていきたいとずっと思っておりますし、今もそう考えていると私は理解しております。そのためには、やはり市場の信頼を常に獲得していくことが重要です。例えば、アメリカのFRBやイギリスの中央銀行は、もし資産に債務超過になるような大きな含み損が出たときにはそれを政府に転嫁する仕組みが、それぞれ形は違いますけれども、できています。

 日銀が今そういう危機的な状況にあるという趣旨では全くなくて、同様に、将来の万が一のときのために、市場に適切な信頼を与える意味からも、いざというとき、債務超過の状況、含み損の状況が発生したときに政府に転嫁するような仕組みも将来のどこかで考えるべきだと思いますが、いかがでしょうか。

植田参考人 大変重要な御指摘ではございます。

 ただ、政府と中央銀行で、中央銀行のオペレーションで発生した、あるいはするかもしれない損失をどういうふうに負担し合うかという点の仕組みは、国によってまちまちであるかと思います。

 現在の日本では、例えば、債券に関しましては、日本銀行が収益の一部を債券取引損失引当金として積み立てるという仕組みで対応するという取付けになっておるかなと思っております。その上で、これも委員御指摘のように、多少、収益で赤字が出る、あるいは評価上債務超過になるということで、中央銀行のオペレーションができなくなるということではやはり全くないというふうに考えてございます。

 ただ、その前提として、オペレーションが続けられるという前提としては、やはり、中央銀行が発行しております通貨、これに対する信頼、信認が確保されているということが極めて根本的な重要点でございます。そのために、物価の安定を維持するという政策が第一義的な目標として設定されているというふうに考えてございます。

岡本(三)委員 日銀総裁の大切な役割の一つ、最も大切だと私が思っているのは、市場との対話だと思います。金融政策のスポークスパーソンであり、ほかに誰も代えはおりません。

 金融政策においては、政策決定会合で九人の委員の皆さんが議論をし、最後は多数決。総裁御自身も一票しか持っていらっしゃいません。総裁が全て決めるわけではありません。ですから、今後、市場との対話に大変大きなエネルギーをかけていただきたいと思っています。

 黒田総裁は、経済を大きく飛躍させなければいけなかったこともあって、物すごいサプライズなコミュニケーションをやっていらっしゃいました。それが功を奏したところもあると思います。今後は、ある意味、出口も見据えながら、非常に丁寧な、緻密なコミュニケーションが必要ですので、私はサプライズは適切ではないというふうに思っているんですが、学者出身の総裁候補でもあります、データドリブンで、そして理論的な様々な政策を、市場とどのように今後対話をされるかということを今後の御決意としてお伺いしたいと思います。

植田参考人 委員おっしゃいますように、市場との対話は極めて大事と考えてございます。そういう観点からは、平板な言い方になって申し訳ありませんが、経済金融情勢に関する中央銀行の見方、あるいはそれを踏まえた政策運営について分かりやすく情報発信を行っていくということが極めて重要であると考えております。

 サプライズがあってはならないという御指摘もございましたが、やはり、政策運営は、毎回毎回その間に入ってくる新しい情報で将来の見通しを変化させ、それに基づいて政策も場合によっては変更するというやり方を取りますので、時と場合によってはサプライズ的になるということも避けられない面があるかと思います。ただ、その場合でも、考え方を平時から平易に説明しておくことによって、そうしたサプライズは最小限に食い止めることが可能かなというふうには思っております。

 就任をお認めいただけた場合には、各種のデータを丹念に分析するとともに、ヒアリング情報も活用し、判断を論理的に行い、申し上げましたように、政策の背後にある考え方について丁寧に情報発信していきたいと思っております。

岡本(三)委員 最後に質問させていただきます。

 為替についてお伺いをいたします。

 二〇二二年七月六日の日経新聞で、植田さんはこのようにおっしゃっています。円安は日本経済全体にはプラスの影響、ただ、輸入物価が上がるような形で、恩恵が少ない層に対する分配政策が重要である、政府との意思疎通が重要。

 つまり、GDPを最大化させるような形で金融政策を行うことが日銀の役割であり、その結果、しっかりとした分配政策を行うのは政府の役割、それがゆえに意思疎通が重要であるというふうなお話だと思います。

 これは、為替の水準のお話を伺っているわけではありません。日銀の金融政策というのは為替のレベルを目標としてやっていらっしゃることではないことを理解しております。ただ、日銀の為替との関わり方、為替市場における日銀の役割をどういうふうに考えていらっしゃるか、御答弁をお願いします。

植田参考人 御指摘のように、日本銀行としては、為替相場の水準やその評価について具体的にコメントするということは差し控えるべきであるというふうに思っております。

 その上で、一つ一つの円安、円高等の局面において、それが様々な影響を経済に及ぼすということについては、極めて注意深く見守っていかないといけないというふうに、当然のことでありますが、思っております。円安は、輸出企業、グローバル企業の収益にプラス、あるいは、インバウンド需要を増加させるという効果があればサービス業にもメリットをもたらします。しかし一方で、輸入財に頼っているような企業、あるいは、食料品の価格上昇を通じて家計、生活に苦しい影響を及ぼすというような様々なマイナスもございます。

 このように、為替変動が経済に及ぼす影響は、局面にもよりますし、為替変動のスピードにもよりますが、極めて不均一、また、エピソード、エピソードによって異なるという点に注意しつつ、経済への影響を把握していくということが重要かと思っております。その上で、局面によりましては、円安のプラスとマイナスの効果が及ぶ層が大きく異なっているという中で、分配政策で対応する余地があることを、あくまで経済学者として、当時は理論的な考え方を述べたということでございます。

岡本(三)委員 ありがとうございました。御活躍を御期待しております。

 以上です。

山口委員長 次に、前原誠司君。

前原委員 国民民主党の前原誠司でございます。

 植田先生、よろしくお願いを申し上げます。

 まず、デフレは貨幣現象とお考えなのか、つまり、デフレは金融政策で変えられると思われるか、お伺いいたします。

植田参考人 経済学の教科書には、よく、究極的にはデフレあるいはインフレは貨幣的現象であるという記述がございます。

 しかし、先ほどちょっと申し上げましたように、もう少し分かりやすい見方としましては、デフレ、インフレあるいは物価は、基本的に財・サービスの需要と供給で決まっていくものである。その中で、財・サービスに対する需要の一つの決定要因として貨幣的な要素がある。それが中長期的あるいは短期的にも強い影響を及ぼすような局面と、最近の日本のようになかなか影響が力強くは出てこない局面と両方ある。後者のような場合には、ある程度の期間を取ってもなかなかデフレが貨幣的な現象であるというふうには見えないということもあるかなというふうには思っております。

前原委員 先生は、過去の御著書で、流動性のわなに一旦陥れば、金融政策は完全に自力ではデフレを克服する道具たり得ない、別の経済のポジティブなショックが起こり、経済が流動性のわなから脱出するという可能性があって初めて持続的な金融緩和のコミットメントが意味を持つと言及されておりますけれども、何が今必要なのか、そして、政府に求めるものがあるとすれば何なのか、お答えいただきたいと思います。

植田参考人 おっしゃるように、金利が非常にゼロ近辺まで下がってきてしまったところでは、これは先ほど申し上げましたように、金融緩和の効果は弱まるという面はございます。それでも、過去十年は、短期金利ではそうであるけれども長期金利ではまだプラスであったので、そこを利用して量的・質的緩和をやってきたということであるかと思います。

 それを申し上げた上で、やはり、何らかの要因によりまして金融政策以外の要因が物価を上げる方向に動いてくれるということは、中央銀行にとってはありがたいことでございます。政府が力を入れていらっしゃいます賃上げの促進あるいは成長戦略、これが経済にプラスの影響を及ぼしつつあると思いますが、こういうのが引き続き出てくるということは、賃金、物価の好循環に向けて非常に好ましいことであるかなというふうに思っております。

前原委員 黒田総裁は十年間ずっと異次元の金融緩和を行ってきたわけですけれども、ずっと続けてきたことは正しかったと思われますか。いかがですか。

植田参考人 やはり、二%の目標というものを前提といたしますと、金融緩和でそれを達成するというのが日本銀行の責務でございますので緩和を続けるということになりますし、当初は、恐らく、量的・質的緩和の一例としまして、それまで余り行われていなかった長期国債の購入を大量に行う、それも含めました様々な質的緩和の手段を取ることによって、金融緩和の力が強まり、それほど長い期間を置かずに二%に到達することができるというもくろみで始められたと思いますけれども、様々な外的なショックの影響もあり、長い期間がかかっている。その中で、金融緩和を、いろいろ形を変え、要素をつけ加えつつも継続されたという決断はやむを得なかったのかなというふうに思っております。

前原委員 私も、経済が落ち込めば財政出動や金融緩和を行うことは当たり前だと思っております。一種のカンフル剤。

 しかし、十年間もずっと金融緩和を行い続けることは、例えばゾンビ企業を生き残らせるなど、日本の競争力、潜在成長力をむしろ押し下げたのではないかという見方もありますが、それについてはいかがお考えですか。

植田参考人 一般論として、長期にわたる金融緩和あるいは低金利が経済の新陳代謝の機能を低下させてしまうという指摘があることは承知しております。

 ただ、それでも、理論的なことを申し上げますと、例えば、国債の金利が極めて低位、例えばゼロであっても、不健全な企業については、その安全資産のゼロという金利にスプレッドを乗せて貸出しをするという形で新陳代謝を進めるという対応は、金融機関レベルで不可能ではないと思います。

 ただ、その上で、現在、まだ基調的なインフレ率が二%に達するというところには間がある。そういう意味で、経済に力強さが欠けている状態では、金融引締めを急に行うと、健全な企業に負荷をかけたり新しいビジネスの芽を摘んでしまうというおそれがあるかなというふうに考えてございます。

前原委員 今、日銀は、国債の保有量が発行数の五三・七%、つまりは半分以上保有しているわけですね。

 日銀が国債を大量に保有することによって政府による国債発行を容易にして、財政規律を緩める要因になっているとは考えられませんか。

植田参考人 これは、財政運営につきましては、先ほどもちょっと申し上げましたが、政府、国会の判断で行われるものというふうに認識しております。

 その上で、現在の共同声明の中に、政府サイドにおいても中長期的な財政の持続性について努力をする、そういう財政構造の確立を目指していくという記述があるということは重要というふうに考えてございます。

前原委員 財政法第五条は、日銀の国債の引受けを禁止しています。

 もちろん直接引き受けてはいないということですけれども、しかし、日銀が行っているのは実質的な財政ファイナンス、財政法第五条違反ではないか、そして財政規律を緩めることになっているのではないかと私は思いますが、財政法第五条違反とは考えられませんか。

植田参考人 これは、まず第一に、政府から直接国債を買っているわけではないこと、それから、より重要な点といたしまして、物価安定目標達成のために国債を買っているということでございます。

 したがいまして、財政ファイナンス、政府の財政資金の調達支援が目的での国債購入ではないということでございます。

前原委員 先生が以前日銀の審議委員をされているとき、二〇〇一年に、日銀券ルールというのを作られていますね。日銀が保有する長期国債の残高を日銀券の流通残高以下に収めるという政策上のルール。

 つまりは、これは日銀が無制限に国債を引き受けることを抑止する目的で作られているものでありますが、日銀券ルールというものは、植田総裁になられたときにはどうされますか。御自身が以前審議委員のときにはそれを作られる立場であったわけですけれども、これについてはどうお考えですか。

植田参考人 この点については、私は次のように考えてございます。

 以前、日銀券ルール、その内容は今前原委員御指摘のとおりでございますが、がありましたのは、日銀が国債を買うということに、おっしゃるような財政ファイナンスに当たらないようにするために何らかの歯止めが必要であるという観点から、そういうルールが設けられていたというふうに考えております。

 現在それは廃止されているわけですが、それに代わるものが二%のインフレ目標であるというふうに私は考えております。

 すなわち、先ほど申し上げましたように、現在、長期国債を購入しているのは、金融緩和効果をつくり出し、インフレ率を二%に持続的に引き上げるためでございます。その帰結といたしまして二%が達成されれば、国債の購入は、そこの時点、その前後から急速に縮小していくということで規律は保たれるというつくりになっておるというふうに考えてございます。

前原委員 お言葉を返すようですけれども、二年で二%の物価目標が十年たっても達成できない。今は、コロナ禍あるいはウクライナへのロシアの侵攻などなどの特殊な要因の中で、物価上昇になり、先ほど植田先生おっしゃったように、これからまた下がっていくんじゃないかと言われています。歯止めにならないんじゃないですか。

 つまりは、二%の物価上昇というのは、これは永遠に届かないかもしれないと言われているものでありまして、そういう意味においては私は歯止めにならないと思いますが、いかがですか。

植田参考人 これは、将来のことを確実に見通すことは誰にもできないわけでございますが、先ほど来申し上げておりますように、基調的なインフレ率の動向にも、中央銀行、日本銀行から見て、よい芽が出てきております。これを育てることによって、二%のインフレ目標に到達するという可能性はあるというふうに考えてございます。

前原委員 先ほどから議論がありますけれども、日本銀行は政府の子会社だと考えておられますか。いかがですか。

植田参考人 これは、安倍元総理の御著書の中にそういう記述が出てくるということを、私はまだ拝見しておりませんが、聞いたことがあります。私としては、その安倍元総理の考え方にコメントすることは差し控えたいと思います。

 その上で、一般論としてでございますけれども、確かに、政府が日本銀行の株といいますか出資券の過半を保有してございます。しかし、議決権がない出資券でございます。その上で、中央銀行、日本銀行の政策、業務の運営については、日本銀行法によって自主性が確保されております。そういう意味では、子会社ではないというふうに考えてございます。

前原委員 金利が上がれば国の利払い費というのが増えるわけです。将来、物価目標が仮に到達して、金利が上がっていく、先ほども階議員の発言の中で、いわゆる当座預金の金利を上げていくことになるということをおっしゃっていましたけれども、そうなると、国が困るわけですね。

 国の要請あるいは政治家の圧力によって金融政策を変更することはないと言い切れますか。

植田参考人 それは、中央銀行としては、物価目標の達成を第一義の目標として、それに邁進するという覚悟でやっていくという考えでおります。

前原委員 私は、そういう意味においても、先ほどから話が出ていますけれども、政府と日銀の新たな共同声明というのが必要だと思います。

 つまりは、そういった政府側の圧力に屈せず、日銀としては、あくまでも物価目標の達成のために役割を果たすんだ、そして政府も財政規律を含めてちゃんと役割を果たしなさいねということでお互いの確認が必要だと思いますが、いかがですか。

植田参考人 その点は重要だと思いますが、二〇一三年に結ばれた共同声明の中に、そういう両方の点はきちんと含まれているというふうに私は考えてございます。

前原委員 二〇二一年の四月一日、日経で、先生が書かれているのは、イールドカーブコントロールの誘導対象を十年から五年に変えて、その誘導水準をゼロ程度にするやり方もあり得るということであります。

 先ほどから何度もお話ありますが、今まで学者のお立場として、YCCの誘導対象を十年から五年に短くすべきだとおっしゃっていますけれども、今のお考えをお聞かせください。

植田参考人 長期金利コントロールの誘導対象を十年から五年にするという考え方は、仮に、日本銀行が長期金利コントロールを、出口の方向に向かうということで、やめていく場合の一つのオプションであるというふうには考えてございます。

 ただ、これも先ほど申し上げましたように、他の様々なオプションもございますし、そのどれがよいかとか、それぞれの功罪はどうかというようなことは、その時々の経済状況によって大きく変わり得ますので、現時点で詳しいコメントをするということは差し控えさせていただきたいと思います。

前原委員 その他のオプションの中には、変動許容幅の拡大というのはありますか。

植田参考人 それも含めて具体的なオプションについては言及を避けさせていただければと思います。

前原委員 先生は、二〇二二年七月六日の「経済教室」、日経で、一九五〇年代のFRB、二〇二一年のオーストラリア中央銀行が中長期金利コントロールから抜け出した例を挙げられて、現在の異例の金融緩和が微調整には向かない枠組みである、つまり、長期金利の変動許容幅の拡大など、正常化の方向に政策を微修正すると、その緩和効果が大きく低下してしまうことを懸念するということをおっしゃっているんですね。その上で、日銀は出口に向けた戦略を立てておく必要があるという指摘をされているんです。

 つまりは、YCCというのは、言ってみれば、正常化に微修正すると緩和効果が大きく低下してしまうという問題があるということをおっしゃっているわけでありますが、その戦略を立てておく必要があるということなんですが、その戦略を総裁になったらどう進められるのか、その戦略をお示しいただきたいと思います。

植田参考人 YCCも含めまして日本銀行が現在採用しています様々な金融緩和政策は、本当に出口に向かうとなれば、それぞれ正常化していかないといけないわけですが、そのそれぞれの正常化の進め方、タイミング、どれを先にやるのか、こういうようなことは、今後の経済情勢の展開次第によって様々に変わり得るというふうに考えてございます。

 もちろん、私自身も、それから現在いらっしゃるほかの政策委員のメンバーの方々も、こうした将来に関するシミュレーションを頭の中で何十回となく繰り返されていると思います。それを突き合わせていく作業も重要ですし、それにも増して重要なのは、経済が変化していく中でそのシミュレーションを毎回変化させていくということかなと思います。

 そういう作業を、総裁に就任させていただいた後は、きめ細かくやっていきたいというふうに思っております。

前原委員 現状は金融緩和は現在のやり方の延長線上でやっていくべきだというのは、総裁候補としては当然のお答えだとは思いますけれども、しかし、今まで学者として、量的緩和についてもイールドカーブコントロールにも課題があるということは明確におっしゃっているわけですね。

 であれば、もちろんすぐにということじゃありませんが、植田先生が理想とされる金融政策というのは何なんですか。量的緩和、YCCは問題があるというのであれば、何が理想の金融政策とお考えなのか、お答えください。

植田参考人 大変難しい御質問でございますが、もし私が総裁に任命されたといたしますと、私に課せられる使命は、何か魔法のような特別な金融緩和政策を考えて実行するということではないのかなというふうに思っております。

 先ほど来申し上げましたような、基調的なインフレ率動向を見ますと、よい芽は出ているものの、まだ二%に安定して達するまでにはちょっと時間がかかるという状況でございます。そうしますと、今後を展望しますと、それがもう少し上がってきて二%に近づいてくるということになるかもしれません。その場合には、適切なタイミングで金融緩和を、現在実行している金融緩和の手法を正常化していくという判断が求められます。これに対して、インフレ率の基調の動きが芳しくないというケースも当然考えられると思います。そういう場合には、副作用等の無理が少ない形を考えて、緩和の継続を図るということになるかと思います。

 こうした判断を経済の動きに応じて誤らずにやるということが、私に課せられる最大の使命ではないかなというふうに考えてございます。

前原委員 先生は、御著書の中で、非伝統的オペの問題は中央銀行が大きな財務リスクを取ることになる点だ、長期国債を大量に購入して、その後、デフレからインフレになれば、どこかで流動性を回収する必要が発生する、それを保有する長期国債の売却という形で行えば巨額の売却損が発生する、株式を購入した場合、経済が悪いままで推移すれば大きな含み損を抱えることになると警鐘を鳴らしておられます。

 国債は償還期限が来れば自然と減っていく、先ほど、売ることはしない、当座預金を上げるんだということをおっしゃいましたけれども、ETFについては残るわけですね。

 では、まず、ETFについては購入の効果があったと本当にお考えなのか。ほかの国に比べて日本の株価は上がっていません。ETFの効果があったのか。ETFは減らない、どう扱うべきだと考えておられるのか。その二点をお答えください。

植田参考人 まず、ETF購入の効果の方でございますが、これは日本銀行も述べておるとおり、のべつ幕なし買うということではなく、リスクプレミアム、株式に要求されるリスクプレミアムが、市場の不安心理の異常な高まり等のときに高まってしまう、こういうときに買っていくことによってリスクプレミアムを正常な水準に引き下げ、市場の不安心理が経済に及ぶのを防ぐという目標、意図で買っているということでございます。

 実際、例えばコロナが蔓延を始めました二〇二〇年の春等には、株式のリスクプレミアムが急上昇し、これが、ほかの要因もございましたけれども、日銀の購入もありまして縮小したというポジティブな効果を確認されているというふうに思います。その上で、こうやって買ってきたことで大量にバランスシートにたまってしまったETFを今後どうしていくのかという点は、確かに大きな問題、課題でございます。

 しかし、これは先ほど申し上げましたように、金融政策の面で出口に行くという事態が実現する暁には、このETFも出口に行くということで、どう扱うかということを具体的に考えないといけないと思いますが、まだちょっとそこには時間があるということと認識しておりますので、具体的な手法について情報発信をするのは時期尚早かなというふうに考えてございます。

前原委員 植田先生は日銀総裁に指名をされている。そして、内田さん、氷見野さん、両氏は副総裁に任命をされている。この両副総裁候補にそれぞれ今までの御経歴からして何を望まれるか、その点についてお答えをいただきたいと思います。

植田参考人 お二人とは過去様々な局面で、一緒に仕事をしたり、一緒に会議に出たり、意見交換をさせていただいております。それに基づいて考えますと、非常に心強い副総裁候補のお二人であるかなというふうに思っております。

 氷見野候補は、金融庁に長年勤められまして、金融行政あるいは国際金融規制の設定等に非常に力を発揮されてきていますし、また、金融庁で組織運営も長年担当されてきていると思います。こうした面で力を発揮していただけるかなと思います。

 内田候補は、日本銀行に長年いらっしゃいまして、特に過去十年の金融政策の経緯もつぶさに御存じでありますし、日銀の組織運営についても具体的にタッチされてきて、極めて経験が豊富であるというふうに考えております。こうした側面を中心に強い貢献を期待できるかなというふうに考えてございます。

前原委員 先ほど所信表明の中で、金融システムの安定ということについてお述べになられました。

 特に地方銀行とか地域の金融機関、金融庁は再編ということをやっているわけですけれども、それについて、日銀として、日銀の総裁としてどのようにお考えになるか、あるいは、どういう取組を政策の中に取り入れていこうと思われるか、その点についてお答えをいただきたいと思います。

植田参考人 地方の金融機関は、一面では、長く続いた低金利によってかなり収益にマイナスの影響を被っているという姿であるかとは思います。ただ、それもありますが、地方経済の疲弊ということの構造的な影響を大きく受けて苦しんでいるという実態はよく認識しております。

 それでも、私が手に入れることができる情報に基づきますと、十分な自己資本を有しているということでございますし、また、直接の収益にはマイナスの影響があるかもしれない低金利政策は、経済全体を支える、デフレでない状態をつくり出すということによって、間接的に金融機関収益、地方金融機関の収益にもプラスの影響を与えてきているというふうに思っております。

 しかしながら、金融庁とも情報交換をしながら、十分、地方金融機関の状況については注意深く見守っていきたいというふうに考えてございます。

前原委員 それでは、最後の質問にさせていただきたいと思いますけれども、仮に総裁になられたら、任期は五年あるわけですね、五年間で何を成し遂げるのか。

 やはり、私は、なられるときの、先ほど岡本委員の御指摘にもありましたけれども、よく引き受けられたなと。何か本当に大変なお仕事を、誰もが逃げたがるような、この十年間、いろいろなプラスの面もおっしゃっていましたけれども、私どもからすると、副作用も非常に大きな問題で、しかもバランスシートが非常に大きくなってしまっているということを含めて、大変な役割だと思いますけれども、受けられる以上は、やはり、自分はこの五年間でこれを絶対にやり遂げるんだという目標を立てられることが私は必要だというふうに思います。

 その点について、植田先生のお考えをお聞かせいただきたいと思います。

植田参考人 これは先ほどの御質問に対しての私のお答えを言い換えることになるかと思いますが、今後五年間どういうことが重要かという趣旨の御質問があって私はお答えしたわけですが、また違う、まあ、同じような表現になるかもしれませんが、結局、経済、特に基調的なインフレ率は、上がり始めていますが、二に到達するかどうか分からないという状況で四月以降出発いたします。

 二に達していくという局面になれば、これは正しい正常化を正しいタイミングでやっていくということが責務であると考えますし、二になかなか到達しないという場合には、次善の手、すなわち、副作用を軽減しつつ何らかの金融緩和を継続するという手を打っていく、そうした判断を誤らないようにするというのが私の最大の使命であるというふうに考えてございます。

前原委員 私は、先生は非常に現実的な方だ、そしてまた、もちろん理論にも精通されている方だと思っております。

 その意味においては、現実的に対応されながらも、やはり、御自身が理想と思われる手法に変えていかれて、そして、しっかりとした金融政策、まあ、金融政策だけで物事を変えられるわけではありませんけれども、政府としっかり連携をし、そして御自身の考えておられることをしっかりとやられる、そういう道筋をつけていかれるものだと期待をしております。

 そのことを申し上げて、私の質問を終わらせていただきます。ありがとうございました。

山口委員長 次に、田村貴昭君。

田村(貴)委員 日本共産党の田村貴昭です。よろしくお願いします。

 最初に、デフレーションの原因と金融政策の効果に関して質問します。

 バブル崩壊後、日本のデフレとの戦いが金融政策の最大の課題と言われ続けてまいりました。しかしながら、三十年近く日銀は金融政策を続けてきたものの、デフレが解決したと言える状況にはなっていません。

 二〇〇三年四月二十四日の奈良県金融経済懇談会において、当時、日銀の審議委員であった植田総裁候補は次のように述べておられます。

 一般物価のこのように緩やかな下落が日本経済停滞の根本的な原因であるとは考えにくい。一方、この間の資産価格の下落については、東証株価指数や市街地価格指数がピークから七〇%から八〇%も下落するなど、大恐慌に匹敵するほど深刻なものとなっている。資産価格の下落は、日本の金融システムに深刻な打撃を与え、ひいては一般物価を含む実体経済全体に大きな影響を与えている。

 そこで、お伺いします。

 九〇年代以降のデフレの原因というのは一体何なのか。総裁候補は資産価格の下落を当時御指摘になりましたけれども、デフレが日本経済にどのような問題を起こしているのか、つまり、デフレの何が問題なのかということについて御見解を聞かせてください。

 また、日本銀行にとってこの間のデフレ問題がいまだに解消されない理由について、そもそも分析が誤っていたのか、日銀の処方箋が間違っていたのか、総裁候補のお考えを聞かせてください。

植田参考人 一九九〇年代以降の日本経済という意味で長い目で振り返ってみますと、やはり、九〇年代から二〇〇〇年代初めにかけて続きました地価、株価の大幅な下落というものは、大きな影響を経済にもたらしたと考えております。金融仲介機能を麻痺させ、これが経済の回復を遅らせたということでございます。更に踏み込んで申し上げれば、そこの処理を九〇年代にもう少し早めにするということができなかったために事態が長引いたというふうに考えてございます。

 ですから、デフレの中に、一般物価のデフレだけではなくて、資産価格のデフレまで含めますと、この場合、金融仲介機能に強い大きなマイナスの影響が発生し、経済の足を長期にわたって引っ張ったというのが一つ大きな当時のマイナス点として指摘できるかなと思います。

 資産価格の下落が続くという状況ではなくなってきておりますし、それから、金融機関のバランスシートも回復してきております。ただ、当時のデフレあるいはその後のゼロインフレ近辺の動きが長引いたことによりまして、先ほどもちょっと申し上げましたが、そういう物価や賃金をプラス方向には動かさないという動きが、ある種の、よく言われる言葉ではノルムというふうになってしまったことが、経済のちょっとしたプラスの動きが物価や賃金あるいは実体経済に波及していくという動きを弱めてきたという面もその後目立ってきているように思います。今、これはようやく解消する兆しが出てきてはいるとは思いますが。

 そういう中で、これも先ほど来、別の形で申し上げてきましたが、この間に行われました金融緩和政策の効果が一部あるいはかなりの部分限定的であったというある種の副作用も出てきて、金融緩和が長引いてしまったということなのかなというふうに認識してございます。

田村(貴)委員 政府や黒田総裁は、アベノミクスはデフレでない状態を実現する大きな成果も上がっていると異次元金融緩和を自賛しています。

 植田候補は、この十年間の金融政策の成果として、デフレでない状態を実現したと評価されておられますか。もしそのように評価されているのであれば、金融政策が効果をもたらしたメカニズムについて解説をしていただきたいと思います。

 また、デフレではない状態に戻せたのであれば、なぜ日本銀行が目標とする二%のインフレを実現できていないのか、併せて解説をしていただきたいと思います。

植田参考人 二〇一三年以降のデータを素直に眺めてみますと、やはり、それ以前と比べまして、インフレ率の平均的な水準は上がってきて、プラスの領域にあるということが言えるかと思います。その後、デフレの局面にはっきりと陥ったのはコロナの直後くらいでございます。そういう意味で、この間の緩和政策がデフレでない状況をつくり出したということは言えるのではないかというふうに思います。

 その上で、そのメカニズムはどうであったかということでございますが、これは一般論になりますが、金融緩和政策、今回の場合は量的・質的緩和やイールドカーブコントロールでございますが、それが低金利等、資産価格にプラスの影響、金利であれば下がるという方向でございますが、を与え、これが投資、住宅投資等にプラスの影響を及ぼしていくという、そこは教科書的なメカニズムが働いてきたのではないかというふうに思います。

 ただし、そうは申しましても、ゼロ金利周辺でのオペレーションであったということ、それから、海外等からの様々な外的ショックもある中で、思ったほどの強い効果にはならず、二%にまではまだ達していないというふうに考えてございます。

田村(貴)委員 日本銀行は、二〇一三年一月に物価の安定目標を消費者物価の前年比上昇率二%と定め、これをできるだけ早期に実現するとの約束を示しました。黒田総裁は物価上昇率二%をグローバルスタンダードとして、現在も日銀はその目標を下げずにいます。

 要因はともあれ、一時的には二%を超える物価の高騰が国民の生活に重大な影響を与えています。この中で、コストプッシュ型とはいえ物価上昇率が二%を上回りそうなときに、中央銀行が物価の安定目標二%を掲げ続けて金融政策の指標とすることに私は矛盾を感じます。

 これまでの物価安定目標を二%にしてきたことについての評価なんですけれども、先ほど総裁候補はお答えの中で、二%の実現が見通せることが見込まれる場合には金融政策の正常化に踏み出すことができる、そのようにおっしゃいました。では、正常化に踏み出すというその見通しについて、そして、その正常化というのはどういうことなのかについて、御説明をいただきたいと思います。

植田参考人 まず、足下、消費者物価指数の上昇率が四%なのに何で正常化しないのかという御意見が広く国民の間にはあるかと思います。

 私ども専門家あるいは中央銀行は、今日最初から申し上げておりますような理由で、定義するのが必ずしも容易でない基調的なインフレ率を見て金融政策を決めるという姿で動いておりますけれども、これは、理論上、グローバルにもそういうことでよろしいんだと思いますが、国民への説明についてはもう少し分かりやすい説明を一段と工夫していく必要があるかなというふうに考えてございます。

 その上で、基調的なインフレ率が二%に達するということが見込まれる状態になったときには何をするんだという御質問だと思いますけれども、これは、現在採用しています様々な強い緩和措置を正常、平時の姿に戻していくということでございます。それが具体的に何を意味するのか、どういうタイミングで、どういう順序で正常化していくのかという点については、ちょっと、現時点では具体的にお答えするのを差し控えさせていただければなというふうに思っております。

田村(貴)委員 そもそも、金融政策だけでデフレを止めることはできないという疑問もあります。例えば、日本のデフレの原因が名目賃金の低下にあるとの見方が経済学者の吉川洋氏からも出されています。一九九〇年代後半、大企業を中心に高度成長期に確立された旧来の雇用システムが崩壊したことにより、名目賃金は下がり始めた、そして、名目賃金の低下がデフレを定着させたとの主張であります。

 九〇年代の後半から、政府は派遣法の改悪などによって労働政策を大きく転換させ、非正規雇用が拡大してまいりました。非正規雇用の比率の上昇によって、平均賃金が抑えられる状況が続いてまいりました。賃金が上がらないことがデフレの原因との見方もありますけれども、総裁候補はいかがお考えになっていますか。

植田参考人 まず、金融政策だけでデフレを止められるかという点に関しましては、先ほど来少し申し上げておりますように、金融政策とその他の要因両方が、デフレ、インフレ、物価に利いてくるということでございますから、その他の要因の動き次第ではデフレを金融政策だけで食い止めることは難しいということは一般論としてあると思います。

 その上で、日本の賃金の動きでございますが、特に日本の賃金が大きく下がりデフレに影響を持ったのは、九〇年代後半であると思います。そのとき、急激に、賃金も物価も大幅に幅広いセクターで下がるということが起こってございます。これは先ほどの御質問に対する私の答えにもございましたが、当時のバブル崩壊後の、非常に金融システムに関する暗い雰囲気が実体経済に急速に波及した、その中で賃金も物価も急激に下落したということであるかなというふうに思っております。

 ですから、そこの点を取り出しますと、大本の要因が賃金の下落であるというふうに捉えるよりは、そのまた本にありました金融システムの不安定性、それが賃金、デフレに反映したというふうに私は捉えてございます。

田村(貴)委員 次に、黒田総裁の異次元金融緩和の副作用に関して伺います。

 植田候補は、アベノミクスの当初、為替と株価が期待以上に動いたことと長期金利がほとんど上がっていない点について、緩和政策が利いたからかどうかよく分からないというふうに述べておられます。

 第二次安倍政権で大胆な金融緩和の政策表明がされました。直後の円安が一気に進んだことや株価が上昇した要因について、その関係性を総裁候補はどのように見ておられますでしょうか。

植田参考人 二〇一二年から一三年当時には、おっしゃるような大幅な円安、大幅な株価上昇が起こっております。それから、長期金利につきましては一時的に跳ね上がるというときもありましたけれども、比較的、安定的に推移したということかなと思います。

 これはやはり、その当時、その後、黒田総裁の下で実行されたような大幅な金融緩和が実行される、あるいは実行されるのではないかという予想が資産価格に大きな影響を与えたというふうに私は現在の時点では評価しております。長期金利につきましては、長期国債買いオペ等が実施される、大規模に実施されるという予想から抑えられていたということかなと思います。

田村(貴)委員 物価高騰について、各国の中央銀行は、物価高に対して金融引締め策に転じ、国内価格の上昇を抑える方向に打ち出しています。一方で、黒田日銀総裁は、現在の物価高騰はコストプッシュ型であり持続的な物価高騰ではないと、金融政策での対応を否定されています。結局、欧米の中央銀行と日銀との金融政策のギャップが昨年の急激な円安の要因とも言われています。

 近年の円安と日銀の金融緩和政策との関係について御認識を聞かせていただけますか。

植田参考人 為替レートについて具体的なコメントは避けさせていただきたいと思いますが、それにいたしましても、近年の円安の背景として、内外金利差が影響を及ぼしていたという可能性については否定できないというふうに思っております。

 その中で、しかし、大きかったのは、米国の金利上昇、インフレ率を抑えようとするための金利上昇の動きであったというふうに考えてございます。

田村(貴)委員 日本銀行のマイナス金利政策によって、日本の銀行が預貸業務で限界的には収益が出ない、ないし赤字業務となりつつあります。とりわけ地域金融機関の収益は悪化をしています。コロナ対策によって一息ついているという現象面もありますけれども、基本的な構造には変わりありません。

 政府は、金融機関の合併か、他業務での収益拡大を銀行に求めていますけれども、私はこれは本末転倒ではないかと考えます。これについていかがお考えでしょうか。

植田参考人 地方銀行も含めまして、銀行の預貸利ざやの低下、持続的な低下傾向がございますが、これは、一つには低金利政策の影響があると思っております。ただし、低金利政策の方、金融緩和政策の方は、経済全体を持ち上げるという効果を通じまして、銀行には様々なプラスの影響も及ぼしてきているというふうに思います。

 一方でといいますか、もう一つの銀行収益を圧迫している要因あるいは利ざやの縮小の要因としては、やはり経済の成長率の中長期的な低迷、特にこれは地方において、一部の地方において深刻であるわけですが、これによって借入需要が余り芳しくないというようなことがあるかと思っております。ここは政府の様々な施策も期待しつつ、経済の成長率、生産性が上がっていく方向感が出てくることがそういう傾向を反転させるのに極めて重要ではないかなというふうに思っております。

 その上ででございますが、先ほど申し上げましたように、金融機関は現状では基本的に十分な自己資本を保有しておりますので、基本的な金融仲介業務に差し障りのあるという状況ではないというふうに考えてはございます。

 ただし、様々な観点から注意深く検討、見守っていきたいというふうには思っております。

田村(貴)委員 財政ファイナンスと日銀の金融政策に関して伺います。

 日本銀行における国債の引受けは、財政法第五条により原則として禁止されています。

 日銀のホームページには次のように書かれています。ちょっと読み上げます。

 中央銀行がいったん国債の引受けによって政府への資金供与を始めると、その国の政府の財政節度を失わせ、ひいては中央銀行通貨の増発に歯止めが掛からなくなり、悪性のインフレーションを引き起こすおそれがあるからです。そうなると、その国の通貨や経済運営そのものに対する国内外からの信頼も失われてしまいます。これは長い歴史から得られた貴重な経験であり、わが国だけでなく先進各国で中央銀行による国債引受けが制度的に禁止されているのもこのためです。

と。

 戦前の軍事費の膨張を実現したのが日銀の国債引受けでありました。戦後のハイパーインフレの原因ともなりました。

 一九四七年施行の財政法の起案者である平井平治氏、当時の大蔵省主計局法規課長は、「財政法逐条解説」の中でこのように述べています。「戦争危険の防止については、戦争と公債が如何に密接不離の関係にあるかは、各国の歴史を繙くまでもなく、我が国の歴史を観ても公債なくして戦争の計画遂行の不可能であつたことを考察すれば明らかである、」。また、解説書には、「公債のないところに戦争はない」「本条は又憲法の戦争放棄の規定を裏書保証せんとするものである」、こういうふうにも明記されました。

 そこで、お伺いします。

 国債の半分を保有する日本銀行の現状について、これは禁止されている日銀の国債引受けに当たるのかどうかということです。

 岸田政権は、軍事費をGDP二%に引き上げるとして、国債の発行を財源にすると打ち出しました。このような国債引受けについて政府からの要請、圧力が起こった場合に、日銀としてはどのような態度を取る、どのような方向性を考えておられますか、お聞かせいただきたいと思います。

植田参考人 これはもちろん、言うまでもなく、政府から直接購入するということはしないということでございます。

 その上で、先ほど来申し上げておりますように、現状における国債買入れは、安定的、持続的な二%の物価目標を達成するという金融政策運営上の必要から実施しているものでございまして、財政ファイナンスではないというふうに考えてございます。

田村(貴)委員 それでは、黒田総裁のサプライズ手法についてお伺いします。

 異次元の金融緩和、追加緩和、マイナス金利の導入、そして反対方向で打ち出された長期金利の引上げ、これは市場から不信とか困惑の声が上がってまいりました。

 先ほど植田総裁候補は、平時からそうした話をしていくことが大事、そういう旨の御発言がありましたけれども、そうであるならば、基本政策の随時見直しをしていくということが私は求められると思いますけれども、いかがでしょうか。

植田参考人 私、現状では、現在の基本政策を継続することが望ましいというふうに考えてございます。

 しかし、経済情勢が変われば、先ほど来これも申し上げておりますように、それに応じて政策を正常化の方向に動かしたり、あるいは副作用抑止策をもっと取るというような修正を施していく必要があると思っております。これについては、考え方をその時点その時点できめ細かく説明してまいりたいと思っております。

田村(貴)委員 終わります。

山口委員長 これにて各会派を代表する委員の質疑は終了いたしました。

 これより自由質疑を行います。

 質疑される方は、挙手の上、委員長の許可を得て発言されるようお願いいたします。

 また、発言の際は、所属会派及び氏名をお述べいただき、一人一問一分以内としていただきますようお願いいたします。

 それでは、質疑のある方は挙手をお願いいたします。

田村(貴)委員 日本共産党の田村貴昭です。

 引き続き、質問します。

 昨年六月、黒田総裁が講演で、家計の物価に対する見方について、家計の値上げ許容度も高まっていると発言をして、国民の大きな批判を呼び、その後、発言を撤回し、陳謝しました。

 私も、日銀本店で、総裁との懇談の場でこの問題をただしたことがあります。メディアからも、国民の実感から離れた発言は金融政策への信頼を損ないかねないとの厳しい指摘もなされました。

 日銀の生活意識に関するアンケート調査では、物価上昇に、どちらかといえば困ったことだ、これが八六・八%、昨年の十二月です。回を重ねるごとに上昇し、暮らし向きにゆとりがないが過半を超えました。収まるところのない物価高騰に国民が悲鳴を上げています。

 総裁候補にお伺いしたいのは、まず、この国民の思っていることについての受け止め。そして、総裁御自身が日常生活の中で物価高騰を感じるところはどういうところにあるか。そして、この打開の方向でありますけれども、日銀の緩和策は円安を招き物価高騰に拍車をかけています、改めるところはあるのかないのか。それについてお答えいただきたいと思います。

植田参考人 黒田現総裁の発言については、新聞紙上等で見て知っております。

 ただ、その基になったデータは、恐らく、消費者が値上げを意図的に許容するということで出てきたデータではなくて、いろいろな店に行ったところ、どこでも値段が上がっているので、やむを得ず、余りあちこち探さずに、ふだんから買っている店で高いものを買うということの結果を捉えたデータであるかなと思います。

 その点の表現ぶりについて黒田総裁も陳謝されたということは承知しております。

 その上で、こうした消費者の、特に生活必需品の価格変動に対する敏感さについては、注意深く中央銀行としては見守っていかないといけないなというふうにもちろん考えております。

 私自身が実感するところはあるのかという御質問もあったかと思いますが、大学に勤めておりますので、毎日、昼御飯はコンビニのお弁当で済ませております。ここ一年くらいの間に、例えば、四百五十円くらいの弁当が五百円を超す水準にまで値上がりしたなという辺りは実感しております。

山口委員長 ほかにございますでしょうか。よろしゅうございますね。

 それでは、これにて植田参考人の所信に対する質疑は終了いたしました。

 植田参考人、大変ありがとうございました。

 以上をもちまして日本銀行総裁の候補者からの所信聴取及び所信に対する質疑は終了いたしました。

 午後一時から委員会を再開することとし、この際、休憩いたします。

    午後零時十六分休憩

     ――――◇―――――

    午後一時開議

山口委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。

 日本銀行副総裁任命につき同意を求めるの件についてでありますが、去る十四日の理事会において、木原内閣官房副長官から、内閣として、日本銀行副総裁に日本銀行理事内田眞一君、株式会社ニッセイ基礎研究所総合政策研究部エグゼクティブ・フェロー氷見野良三君を任命いたしたい旨の内示がありました。

 つきましては、理事会の申合せに基づき、日本銀行副総裁の候補者から、所信を聴取することといたしたいと存じます。

 この際、参考人出頭要求に関する件についてお諮りいたします。

 本日、参考人として日本銀行副総裁候補者内田眞一君、日本銀行副総裁候補者氷見野良三君の出席を求め、所信を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

山口委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決定いたしました。

    ―――――――――――――

山口委員長 まず、議事の順序について申し上げます。

 最初に、内田参考人、氷見野参考人の順で所信をお述べいただき、その後、それぞれの参考人の所信に対する質疑を順次行いますので、委員の質疑に対してお答えいただきたいと存じます。

 それでは、内田参考人、お願いいたします。

内田参考人 内田でございます。

 本日は、所信を述べる機会を賜り、光栄に存じます。

 私は、昭和六十一年に日本銀行に入行しまして、それ以来、主として金融政策の分野で働いてまいりました。最近では、企画局長あるいは金融政策担当の理事として、二%の物価安定の目標、量的・質的金融緩和、イールドカーブコントロールなど、現在の緩和枠組みの作成に実務面から携わりました。また、新潟、名古屋の支店長として、地域経済に貢献すべく支店の運営を行いましたほか、国際担当理事として、G20日本開催などに取り組んでまいりました。

 今般、副総裁としてお認めいただくことができましたならば、これまでの経験を生かして、もうお一方の副総裁候補とともに全力で総裁をお支えするとともに、政策委員会の一員として議論に貢献してまいりたいと思います。

 現在は、ウクライナ情勢、新型コロナ感染症の動向、世界的なインフレと金融引締めの影響など、内外経済をめぐる不確実性は極めて高い状況にございます。国内物価の面では、消費者物価は、除く生鮮食品ベースで四・二%と、二%の目標を大きく上回っております。もっとも、この主因は輸入物価上昇に伴う価格転嫁であり、来年度半ばにかけて、二%を下回る水準に向けて低下していくと予想しております。こうした状況に対しては、金融緩和を継続し、我が国経済をしっかりと支えていく必要があると考えております。

 この十年間実施してまいりました大規模な金融緩和は、大きな効果があったと考えております。政府の様々な施策と相まって、企業収益の好転や雇用の増加をもたらし、デフレではない状況を実現しました。一方で、どのような政策にも効果とコストがあり、フリーランチはありません。金融機関収益や市場機能などの面で悪影響が生じていることも事実です。日本銀行は、こうした効果と副作用を比較考量した上で、効果の方が上回っていると判断し、また、その中でもできる限り副作用を小さくする工夫を行いながら、緩和を行ってまいりました。

 この先も金融緩和は必要です。日本銀行が直面している課題は、副作用があるから緩和を見直すということではなく、いかに工夫を凝らして効果的に金融緩和を継続していくかということだと考えております。これまで様々な政策手法の設計に携わってきた経験から、これからも、経済、物価や市場の状況変化に適応しながらしっかりと緩和を続けていけるように、アイデアを出してまいりたいというふうに思っております。

 金融緩和を効果的に継続していくためには、金融市場の安定が極めて重要であり、政策運営において十分考慮してまいります。また、市場との最前線に立つ金融市場局を担当してきた者として、実務面からも、市場の安定を維持すべく、引き続き責任を持って取り組んでまいります。

 日本銀行は、金融政策以外にも、金融システムの安定維持、銀行券の発行や各種業務など、多くの大切な任務を負っております。国内外の本支店、事務所に約五千人の職員が働く組織として、災害時を含めて、一日も欠かすことなく役割を全うできますよう運営していく責任がございます。また、デジタル化など、経済社会の変化に柔軟に対応し、国民の皆様にとって利便性の高い中央銀行サービスを提供していくことも重要です。例えば、各国で検討が進んでおりますCBDC、中央銀行デジタル通貨については、もちろん、導入するかどうかは国民的な議論の上で決定されるべきものでございますが、その前提となる実証実験や関係者との議論をしっかりと進めてまいります。

 こうした業務、組織運営面で総裁を補佐して、よりよい職場をつくり、職員の力を結集していくことは、日本銀行に長く勤めてきた私の重要な任務であると考えております。

 最後になりますが、日本銀行法の規定にのっとり、政府と密接に連携しながら、経済、物価情勢に応じて機動的な政策運営を行い、構造的な賃上げを伴う形で二%の目標を持続的、安定的に実現すべく、全力を尽くしてまいります。

 ありがとうございました。

山口委員長 ありがとうございました。

 次に、氷見野参考人、お願いいたします。

氷見野参考人 氷見野でございます。

 本日は、所信を述べる機会をいただき、ありがとうございます。

 私は、一昨年の夏までの三十八年間、経済政策、金融行政に携わってまいりました。そのうち半分ぐらいの期間は国際関係の仕事で、主要国の金融関係当局の集まりで議長や事務局長を務めたこともございます。また、金融庁では、銀行、証券、保険、資本市場など、金融行政の様々な分野を経験してまいりました。この間、日本銀行、特に金融機構局の皆さんとは密接に連携しながら仕事を進めてまいりました。

 今般、副総裁としてお認めいただきました場合には、国際的な仕事や金融行政の経験を生かし、もうお一方の副総裁とともに全力で総裁を支え、また、政策委員会の議論に貢献してまいりたいと思います。

 私は、経済政策の運営に当たっては、幅広く対話を行い、深く分析して、機動的に対応することが大切だと考えてまいりました。予断なくファクトを押さえ、受け止めていくことが、あらゆる政策判断の出発点だと考えております。

 また、足下の状況の分析とともに、大きな変化にも目を配っていかなければなりません。この数年間を見ても、コロナやロシアによるウクライナ侵略など、想定外の事態が続きました。こうした中、経済のグローバル化が巻き戻しに転じたのではないかとすら論じられております。金融技術革新を通じ、マネーというものの形態や働き方も変化しつつあります。また、データの収集と活用をめぐるイノベーションは、経済活動の根本までを変えていくかもしれません。こうした変化は、日銀の仕事にもあらゆる面で影響を与えていくというふうに思います。

 日本銀行の仕事についてはこれまでも関心を持ってまいりましたが、大変深く幅広い仕事であり、虚心坦懐に学んでいきたいと思っております。ただ、せっかく機会をいただきましたので、現時点の私の考えを幾つか述べさせていただければと存じます。

 まず、金融政策についてです。

 日銀法第二条には、「日本銀行は、通貨及び金融の調節を行うに当たっては、物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資することをもって、その理念とする。」とあります。

 私は、国民が期待しているのは、毎年少しずつでも生活がよくなっていくという展望と実感が得られる経済の実現だと思います。そのためには、賃上げを伴う形で物価安定の目標を持続的、安定的に実現していかなければなりません。

 経済、物価の状況に加え、金融仲介機能の状況、緩和の副作用などについても注意深く見ていく必要がありますが、現在の状況と見通しからすれば、現在の日本銀行の政策は適切であり、金融緩和により経済を支え続ける必要があると考えております。それが政府の施策や経済界の取組と相まって、構造的に賃金が上がる状況を生んでいく、そうした姿を目指すべきと考えます。

 物価の安定と並ぶ日本銀行の使命である金融システムの安定につきましては、現在、具体的に懸念のある状況とは受け止めておりませんが、海外では、隠れていた脆弱性が表に出る事例も幾つか出ております。不均衡や脆弱性がどこかに潜んでいないか、注意深くモニタリングしていく必要があると思います。

 また、金融システムの安定をめぐる国際ルールの交渉の在り方は、リーマン・ショック以降、全く局面が変わっております。アジェンダの設定に貢献する、積極的に提案を行う、そして場合によっては広く国際世論にも訴えかけていくといったことにも取り組んでいければと思っております。

 私が勤めておりました金融庁は、日銀と異なり、歴史の浅い組織ですが、それだけに、草創期のベンチャー企業的な雰囲気をどう守り発展させていくか、工夫を重ねてきた組織でもあります。私も長官時代、マネジメント改革、働き方改革、職員が自発性を発揮しやすい環境づくりに努めてまいりました。そのまま日銀に当てはまるわけではないと思いますが、参考になる点があれば、そうした面でも貢献できないだろうかと考えております。

 大変重い仕事ですが、取り組む機会をいただければ、全力を尽くす考えであります。どうぞよろしくお願い申し上げます。

山口委員長 ありがとうございました。

 これにて参考人からの所信の聴取は終了いたしました。

 氷見野参考人は、お呼びいたしますまで別室にてお待ちいただきますようお願いいたします。

 議長、副議長は御退席いただいて結構でございます。

    ―――――――――――――

山口委員長 これより内田参考人の所信に対する質疑を行います。

 質疑は、まず、各会派を代表する委員が順次三分以内で質疑を行い、その後、各委員が自由に質疑を行うことといたします。

 丹羽秀樹君。

丹羽委員 自由民主党の丹羽秀樹でございます。

 本日は、日銀副総裁候補の内田氏そして氷見野さんにおかれましては、お忙しい中、議運の同意人事の参考人聴取に御出席いただきまして、誠にありがとうございます。

 ちゃんと質問しますからね、ちゃんとします。

 日本銀行の在り方ということで、日本銀行というのは市場との対話姿勢を非常に重視されているということを聞いております。ただ、我々が知る市場との日本銀行の対話姿勢というのは、あくまでもメガバンクを通じた市場であったり、また地域の地方銀行を通じた市場であったりという、実際の市場というのは国民であるわけでございます。

 そういった中で、昨今、ウクライナの問題等で、ちょうど一年たちますが、物価も非常に上昇しておりますし、また、特に、日本銀行が手がける金融施策と密接に関わっていくのが、お金を借りるときに支払う金利でもあります。我が家の住宅金利はおいておいて、家計に直接的な影響が見込まれるのはまさに物価の面でございますので、その辺の市場の声をいかに捉えていらっしゃるのか、お尋ねしたいと思います。

内田参考人 お答え申し上げます。

 冒頭、所信でも申し上げましたとおり、本日公表されましたCPI、生鮮食品を除くベースで四・二%と目標を大きく上回っておりまして、これは家計にとって大きな負担となっているということだと思っております。

 日本銀行は、全国約二千人の方々に御協力いただいて生活意識に関するアンケート調査というものをやっておりまして、これを見ましても、景況感あるいは暮らし向きといった判断がここのところ悪化しております。これには、物価の上昇、とりわけ、身の回りのものと申しますか、食料品でありますとか日用品、こういったものの値上げが影響しているというふうに考えております。

 また、これは重要な点だと思いますが、特に、相対的に所得の低い方々ほどこうした商品への支出割合が高いという傾向にありますので、物価上昇の影響はより大きく受けておられるというふうに考えております。

 物価上昇が家計に与える影響につきましては、もちろん、マクロの経済データを見ていくということも大切だと思いますが、今申し上げたアンケートを含めて、各種の調査、それから、私どもは支店も持っておりますので、そうしたところで得られる情報、こうしたものを丹念に点検していく必要があるというふうに考えております。

丹羽委員 ありがとうございます。

 昨日は天皇誕生日でございまして、宮内庁もSNSを活用した発信をこれからは工夫していくという話をされておられましたけれども、日本銀行さんもSNSをいろいろと、ツイッターとかやられておられますが、私も何度か見させていただいていますが、難しいんですよね。唯一興味があったのが、日本銀行の図面なんかは興味があったんですけれども。

 そういった面で、本当の発信力というのは、いかに国民にじかにこれからは届けていくかという部分だと思うんですが、その辺はどのような発信力の強化を考えていらっしゃるのか、お尋ねしたいと思います。

内田参考人 大変重要な御指摘だと思っております。

 私ども、様々な機会を捉えまして、できるだけ分かりやすく説明をし、国民の皆様に御理解いただくことが重要だと思っておりますし、何より、その前提として、広く国民の皆様に日本銀行に関心を持っていただくということが重要である、そうした中で身近な存在と感じていただければというふうに思っています。

 こうした観点では、本支店の部局もそれぞれ努力しておりまして、例えば、インフォグラフィックという形で目に見えるようなものにしてみるとかしているんですが、私自身、全国に所在します三十二の支店、それから十四の事務所の役割は大きいというふうに思っております。支店などでは、日頃から地元の経済界、金融界の方々とコミュニケーションを図っておりますし、また、例えば、私、新潟支店長のときには、出前授業という形で中学校の生徒の皆さんにお話しするとか、そういった機会もございました。

 この後お認めいただければということでございますけれども、政策委員九名は、各地域を訪れまして金融経済懇談会というのを開催しておりまして、地元の方々と意見交換をさせていただいております。こういった点をより努力していくということだと思っておりまして、金融関係者だけではなく、広く国民の皆様に分かっていただく、分かりやすい説明に心がけたいと思います。

 お認めいただければということですが、新体制の下で日本銀行は身近になったと言っていただけるように頑張りたいと思います。

丹羽委員 ありがとうございます。

 午前中の植田総裁候補からの話では、お二方の副総裁候補につきまして、特に内田さんのことに対しまして、日本銀行のプロパーだと。そして、さらに、金融政策のプロでもあって、日本銀行の組織を一番理解している人間だというお話が植田総裁候補からもございました。是非、国民への分かりやすい説明を工夫をしていただいて。

 あっ、思い出した。議員会館にいましたうちのスタッフが、去年御行に入ったんですよ。入行しまして、慶応大学卒業で、何で入ったのと聞いたら、やはり世界の金融市場から日本の金融市場まで全てが分かるのが日本銀行だと言っていましたので、これからの日本銀行に期待しております。よろしくお願いします。

 終わります。

山口委員長 次に、末松義規君。

末松委員 立憲民主党の末松義規でございます。

 三分しかないので、端的に質問させていただきます。

 内田副総裁候補は、黒田日銀総裁の下で、日銀の優秀な生え抜きとして、ずっと黒田路線を続けられたということでございますけれども、私、まず問いたいのは、世界経済の認識なんですね。この十年、かなり世界経済というのは変わってきたと思うんですけれども、黒田総裁時代の世界経済の認識と、今の物価が上がってきたインフレ基調の世界経済についての認識を問いたいと思います。

内田参考人 お答え申し上げます。

 この十年間、日本銀行は、二%の目標の実現を目指して、量的・質的金融緩和、イールドカーブコントロールなどを導入しまして、私も実務面から携わってまいりました。

 御質問のところですけれども、この間、海外の中央銀行を見ましても、大きな課題はリーマン・ショック以降のむしろ低インフレということでございまして、我が国同様、大規模な資産買入れあるいはマイナス金利、こういったもの、非伝統的政策と言われておりますが、これを実施してきました。

 ところが、また、御指摘のとおり、一昨年頃からですが、コロナ禍からの回復過程で生じた需要増、それから供給制約、さらには、昨年春、一年前のロシアによるウクライナ侵攻、これによりまして、世界的にインフレ圧力が高まっております。その結果、各国中央銀行は急速な利上げに転じておりまして、その影響がおもしとなって、世界経済は回復のペースが鈍化しているという状況でございます。

 先行きも、インフレ抑制と経済成長の両立がどの程度可能なのか、それから、ウクライナ情勢あるいは中国の経済再開の動向、こうした世界経済をめぐる不確実性が極めて大きいというふうに考えております。

 金融政策は、それぞれの国、地域の経済、物価情勢に応じて実施すべきものではございますが、世界経済の状況は我が国の経済、物価には当然大きな影響をもたらしますので、その動向に注意しながら、我が国の政策運営を進めてまいりたいというふうに思っております。

末松委員 ありがとうございます。

 アメリカなんかを中心に、インフレがすごいものですよね。日本も、先ほど、四・二%という話で、インフレ上昇率、ありましたけれども、そして、その後に、これも日銀総裁候補も言われていましたけれども、来年度半ばで二%を下回ると。これについての理由を副総裁候補としてちょっと述べていただけませんか。

内田参考人 お答え申し上げます。

 総裁候補からも御説明されたようですけれども、現在の四・二%、もちろん高過ぎるインフレでございますが、この主因は輸入物価からの価格転嫁ということでございます。そういう意味で、この部分は、今、コモディティー価格などを見ましても一時期よりは安定してきていますので、そうした圧力は次第に減衰していくというのが基本的な考え方です。加えまして、この二月からは、政府のエネルギー関係の施策、これの効果も、電気代それからガス代のところで出てくるということでございます。

 そういう意味で、今の水準からは今年一年かけて下がっていきまして、私どもの言い方ですと来年度半ば、今年一年という意味でいうと年末にかけて、徐々に上昇率が低まっていくというふうに考えております。

末松委員 そうすると、植田総裁候補が政策を転換する、異次元金融緩和というのを転換する時期というか、こととして、大体、物価二%が見込まれる状況になったならば正常化、総裁候補はそう言われていましたけれども、それを検討するというようなことを言われていましたけれども、そうすると、来年度半ば過ぎ以降じゃないと二%になりそうにない、そういう御認識ですか。

内田参考人 お答え申し上げます。

 私ども、物価見通しを展望レポートという形で出させていただいておりますけれども、今年度は三%ですが、来年度以降は二%を下回る状況になっております。そういった、メインのシナリオといいますか、標準的な見通しに沿って経済、物価が推移するということであれば、今は高い物価上昇率ですが、それが一度下がり、その後上がっていくところを見ていかないと、なかなかそういった状況は確認できないというふうに思います。

 もちろん、経済、物価とも上下双方向にリスクはありますので、よく注意して見ていきたいというふうに思います。

末松委員 そうすると、今のインフレがコストプッシュのインフレで、かなりインフレ上昇になってきている、それも下がっていくという話であると、結局、よく経済の教科書で言われるディマンドプルというんですか、需要牽引、あれで二%を超えないとそういった政策転換は起こらない、こういう認識でいいですか。

内田参考人 私どもの言い方としては、賃金上昇を伴う形で物価が上昇する、これが物価が持続的、安定的に二%を達成することの経路であるというふうに考えております。おっしゃるとおり、経済の状況がよくなり、それに伴い、雇用情勢が改善し、賃金が上がる、その結果として物価も上がっていく、そういう姿を目指しておりますし、そういう姿でなければ、安定的、持続的な二%の実現というふうには言えないというふうに思っております。

末松委員 ちょっと観点を変えますけれども、今、日本経済というのはデフレを脱却したと考えておられますか。

内田参考人 デフレというのはいろいろな定義の仕方があり得ると思いますが、一般的には、物価が持続的に下落するというふうに考えられております。そういう意味では、デフレではない状況が実現したというふうに考えております。

 ただ、一方で、デフレ脱却というところは、これは政府の方で定義されておりまして、物価が持続的に下落する状況を脱し、再びそういう状況に戻る見込みがないことというふうに定義された上で、その当否は各種の指標から総合判断されるというふうに理解しております。

 ただ、私どもの目標はあくまでCPIで見て二%ということですので、その実現を目指して政策は運営していきたいというふうに思います。

末松委員 デフレがかなり改善されたというような認識で言われていますけれども、実質賃金なんかを見たら、本当に、それでも下がっているわけですよ、二〇二二年も。

 何で賃金が上がらないのかな、これだけ大規模金融緩和をやってという話もありますけれども、その賃金上昇に対して、実質賃金が下がった、その原因をどういうふうに分析されていますか。

内田参考人 この十年を見ていただきますと、確かに賃金の上がり方は思ったほどではなかったわけですが、同時に、雇用者数が大きく伸びておりますので、雇用者所得という意味ではかなりの伸びを実は続けてまいりました。

 この過程では、女性あるいは高齢者の方々の労働参加が進んだということで、これはいいことなんですが、その結果として、労働供給がありますので、需要と供給の関係で、賃金の方には余り出なかったという面もございます。もちろん、大きな背景として、賃金、物価が上がりにくいという、いわゆるノルムが長年定着してきたということもその背景にございます。

 ただ、ここへ来まして、女性、高齢者の労働参加の余力といいますか、追加的な余力が、女性の就業率はもはや欧米と遜色ないレベルに来ていますし、高齢者の方々も、いわゆるベビーブーマーの方々が七十代後半に差しかかりつつあるということですので、追加の供給余力がなくなってきています。そういう意味では、ここからは、マクロ的に見ましても賃金は上がりやすい状況になってきているというふうに思っておりまして、今年の春闘を含めて是非期待したいというふうに思っております。

末松委員 あと十秒ということなので最後の質問になりますけれども、副総裁候補はマイナス金利を要するに主導してこられたという話がございます。これは、もし撤廃するとしたら、これまたかなり先になりそうなんですか。最後に、その見通しだけお聞きします。

内田参考人 マイナス金利というものも含めて、金融緩和の今の水準は、私としては適切だと思っております。これは経済、物価情勢に応じて考えていくべきものというふうに思っておりますので、経済、物価情勢が改善し、二%を見通せるような状況になっていく、その中で長短金利というものは考えていくというふうに思っておりまして、おっしゃるように、なかなかすぐというわけにはいかないというふうに思っております。

末松委員 どうもありがとうございました。

山口委員長 次に、藤巻健太君。

藤巻委員 日本維新の会の藤巻健太でございます。

 本日はどうぞよろしくお願いいたします。

 量的金融緩和についてお聞かせ願います。

 二〇〇一年三月十九日の日銀金融政策決定会合ですが、この会合には、植田総裁候補は審議委員、そして内田副総裁候補は企画室調査役として出席しております。この会合では、最初に、小規模の量的金融緩和を始めることの是非が話し合われておりました。植田総裁候補は、このとき、金融緩和を始めるに当たって、しかし、我々としてもその出口となるストラテジーがないとおっしゃっております。植田総裁候補は、果たして、金融緩和の出口のストラテジーを見つけ出すことができたのでしょうか。この言葉は、小規模な金融緩和を始めるときの見解です。

 その後、黒田現総裁が異次元の大規模金融緩和を始めました。小規模な金融緩和ですら植田総裁候補は出口のストラテジーがないとおっしゃっていたにもかかわらず、大規模金融緩和により日銀のバランスシートはここまで肥大化しているわけですけれども、将来的にどう金融緩和を終えるのか、内田副総裁候補が考える具体的な手法を教えてください。

 副総裁の任期は五年でございます。この場ではその五年間についての考えを聞く場ですので、今議論するのは時期尚早と黒田総裁がよく使っていた答弁ではなく、明確にお答えいただければと思っております。

内田参考人 お答え申し上げます。

 時期尚早という言葉をつけ加えずに私が発信しますと、それ自体がノイズになりますので、最初の段階で二%の物価安定目標を持続的、安定的に見通せる状況になっていないということですので、具体的に議論することは時期尚早だと、申し訳ございませんが、つけ加えさせていただきます。

 その上で申し上げますが、これは、これまで繰り返し申し上げているところでございますが、将来の出口の局面では問題は二つございまして、一つは政策金利を調整していくこと、もう一つは拡大したバランスシートを調整していくこと、この二つになります。

 具体的にどのような順序、ペース、それから組合せで行うかは、その時々の経済、物価、それから金融市場の状況にもよって異なりますので、実際、この場で申し上げても、そのとおりになるとは限りませんので、かえって無用なノイズを与えるだけだというふうに思っております。実際、FRBが当初出した計画と違う順番でやったりしたこともありますので、これは申し上げるべきではないと思います。

 ただ、現在の枠組みの設計に実務面から携わってきた者として、出口のことは、一番最初におっしゃったことと絡みますが、当然のことながら、導入当初から考えております。将来の出口の時点において、どのような経済、物価、金融情勢になろうと、それに応じて適切に対応することはできるということは申し上げたいと思います。

藤巻委員 それでは、内田副総裁候補は、現在、期待インフレ率が上がって、景気は十分によくなっているとお考えでしょうか。お答えください。

内田参考人 お答え申し上げます。

 期待インフレ率というのは、これは午前中の質疑にもあったかと思うんですが、非常に捉えにくいものでございまして、いろいろなものから見ていかなきゃいけないということなんですけれども、一般的には、各種のサーベイ、それから、市場では物価連動国債を使ったBEI、こういったものを見ていきます。

 全体として見ますと、予想物価上昇率は上昇しているというのが私どもの今の判断です。ただ、子細に見ますと、主体によって少しずつ違いまして、企業、家計、専門家のサーベイで見ますと、企業が一番強くて、家計が真ん中で、専門家が一番弱いという状況にございます。また、短期と中長期では、短期の予想物価上昇率が目立ちます。これは今の三つで共通していることです。

 その意味で、程度の違いはございますが、物価上昇率は、今の物価上昇率からはプラス幅が縮小していくと申し上げましたが、そうした私どもの消費者物価の見通しとは整合的な状態、上昇してきていますけれども、二%というところからはまだ距離があるという状況かと思います。

藤巻委員 先ほど申し上げた小規模の金融緩和を始めることの是非を議論した金融政策決定会合で、植田総裁候補はこうも言っております。期待インフレ率が上がって金利が上がっていったり、景気がよくなっていくとすればよいが、ならないと地獄になると言っております。地獄、かなり強い言葉なんですけれども、その直後に、武富審議委員も、そう、地獄だと呼応しております。

 繰り返しになるんですけれども、これは小規模の金融緩和を始めるか否かの議論のときの会話です。異次元の大規模金融緩和を十年続けても、今おっしゃったように、期待インフレ率は十分に上がっていない、景気はよくなっていない、十分によくなっていないという内田候補の認識だと思うんですけれども、まさに、植田総裁候補の言う地獄というのは果たして目前に迫っているのでしょうか。今の状況、本当に大丈夫なのでしょうか。総合的にお答えいただければと考えております。

内田参考人 ありがとうございます。

 この間の金融緩和によりまして実質金利を下げて、それが、経済、我々の言葉で言う需給ギャップを改善させ、労働市場が改善する、失業率が下がるとか求人が増える、こういったことを通じて、賃金が上がり、物価が上がる、こういう順番で政策効果は波及していくと考えておりまして、このこと自体はこの十年間効果を持ったと思っています。

 それ以前は若干のマイナスで来ていたCPIは、この十年では〇・五%程度のプラスになっておりますので、効果は出ている。その下で、この延長線上に二%を目指していくということでございますので、これ自体は地獄ということではなくて、この政策の延長線上には目標の達成があるというふうに私は思っております。

藤巻委員 長期金利を〇・二五%から〇・五%に上げただけで地銀や生命保険会社には大きな評価損が発生しているという報道もありますが、仮にこれ以上金利が上がったとしたら、日本の金融システム、経済を正常に維持することは可能なのでしょうか。最後に御見解をお願いいたします。

内田参考人 金融機関の今の状況というのは、午前中、植田候補からもおっしゃっておられたようですけれども、健全性を確保していまして、十分なレジリエンシーがあるというふうに思っております。

 確かに、今、海外の金利も上がりましたので、その分の評価損、それから、国内は、それに比べれば小さいですが評価損が出ておりますが、これ自体はもちろんその中で吸収可能でありますし、日本の金融システムに影響があるということではないというふうに思っております。

藤巻委員 質問を終わります。ありがとうございました。

山口委員長 次に、岡本三成君。

岡本(三)委員 公明党の岡本三成です。

 質問させていただきます。

 私、昨年、財務副大臣として金融政策決定会合に参加をさせていただきました。大変に感激しました。それは何かというと、議論の運びに感激したんですね。九人の政策委員の方がある意見を述べたら、別の方が、私はそれに反対だと言い出したりします。別の人が、いや、私は賛成だと。大体、政府がやるような有識者会議は、みんな自分の言いたいことを言ったらしゃんしゃんで終わるというのが普通なんですが、大変クロストークになっているということが重要だと思いました。

 九人の委員の方、それぞれバックグラウンドは違います。エコノミスト、事業会社、元大学教授、いろいろなバックグラウンドの人がいろいろな考え方で十分に議論を闘わせて、そして合意形成するプロセスに非常に信頼感を強くいたしました。

 その雰囲気をつくっていたのは、私は雨宮副総裁のキャラがあったと思います。いろいろな方に発言を促していました。同様のことを内田さんにも是非期待したいと思いますが、いかがでしょうか。

内田参考人 ありがとうございます。

 先生には副大臣として御参加いただき、ありがとうございました。

 よく御存じのとおりでございますし、十年後に議事録で公表されておりますので、運びについてはオープンになっていると思いますが、金融政策決定会合は、各委員が五分間意見陳述を行いまして、その後、まさにインタラクティブな委員間の議論が行われております。

 私は速水総裁時代から事務方として会合に出ておりますけれども、総裁それぞれでチェアマンシップが大分違うなと思います。黒田総裁は、何と申しますか、委員間で自由に議論してもらって最後にまとめるというタイプだったと思います。その中で、雨宮現副総裁が果たされた役割も大きいというふうに思います。

 私、もし副総裁としてお認めいただけますれば、ボードメンバーの中では比較的若い方の部類に入ると思いますし、今の審議委員の皆様とは、これまで理事としてよい関係、話しやすい関係を築いていると私の方は思っておりますので、議論を喚起するような質問力を磨いていきたいというふうに思います。

 一点、以前から思っておりますのは、決定会合の終了時間を気にしないで議論できたらいいなというふうに思っています。市場では、公表時刻が遅くなると、政策変更ではないかという思惑が生じたりします。決定会合というのはあくまで連続性があるものですので、現状維持の会合の議論もとても重要だというふうに思いますので、そうしたことが定着していったらいいなというふうにも思っております。

岡本(三)委員 午前中の植田候補に対する質疑の中で、植田さんは、内田さんに対する期待として、日銀のプロパーの方なので、組織のマネジメントに関しても大変期待をしているというふうにおっしゃっていました。

 お願いしたいことがあるんですが、日銀の行員の方と他の主要な中央銀行との人材交流を行っていただきたいんですね。

 FRBやバンク・オブ・イングランドに行きますと、日銀以外の主要な中央銀行からのトレーニーがたくさんいます。日本銀行にも主要な国からバンカー、中央バンカーを迎え入れて、それで日銀からも出す。その方々のトレーニングにもなりますし、五年、十年たつと、その人たちがお互いシニアマネジメントで、意思疎通もできます。

 今までやってこなかったかもしれません。一部やっていらっしゃるのは聞いていますけれども、主要な国には全部出して全部受け入れるぐらいのことを是非やっていただきたいと思いますが、いかがでしょうか。

内田参考人 お答え申し上げます。

 金融政策はそれぞれの国、地域の物価、経済情勢に応じて行われるものですが、金融市場がグローバル化しておりますので、他国の政策運営の考え方を理解した上でないと立案は難しいということだろうと思います。そういう意味で、中央銀行、海外の中央銀行の皆様との良好な関係を維持するということは極めて重要でございまして、シニアから若い人まで各層において人事交流をしていきたいというふうに思っています。

 現在、私どもでは、FRB、BOE、ECBなどの主要中央銀行のほか、IMF、BISなどの国際機関に人材を派遣しております。また、同様に、主要国の中央銀行からも人材を受け入れてまいりました。

 実は、私自身、一九九四年から五年までワシントンのFRBに出向させていただきまして、大変貴重な財産、経験になったと思っております。是非、後輩にもそうした機会をつくっていきたいというふうに思います。

岡本(三)委員 これは、行かれると、その行かれた例えば内田さんにはいい経験になりますけれども、向こうから人を迎え入れると日銀の囲んでいる人全員が刺激を受けるわけでありまして、迎え入れているという実績は余りないということも承知しておりますので、是非、大きな前進をお願いいたします。

 最後に、今回の人事案で唯一私が残念なのは、三人の候補者に女性が一人もいらっしゃらないことなんですね。

 委員の中では九人のうち女性は一人、これは政府の責任です。要請をしているのは政府ですから。ただ、日銀の理事、六人いらっしゃいますが、女性は一人です。世界は、中央銀行のトップに女性がいらっしゃったり、シニアマネジメントにはたくさんいらっしゃる中で、日銀の中での人材育成、プロモーション、今後、内田候補は大きな役割を担っていかれると思いますけれども、女性を今まで以上に積極的に登用するようなマネジメントを是非お願いしたいと思いますが、いかがでしょうか。

内田参考人 ありがとうございます。

 私自身、以前、人事課長をしておりまして、そのときに、女性の行員と話をしながら、どうやったらより活躍してもらえるんだろうという話をした記憶がございます。

 私ども、比較的、女性に働きやすい職場を用意できているのではないか、えるぼしの三段階とかプラチナくるみんをいただいていますので、そういう状況は整っているというふうに思いますし、入口のところが大事ですので、最初の採用のところでも、幹部職員になる候補ですけれども、かなり高い比率で女性を採用できています。

 こういったことを宣伝していきながら、また、いろいろな意味でワーク・ライフ・バランスを保ちながら、ライフイベントと合わせていかないと、女性の方に長く働いていただける、活躍していただけることはできませんので、そういったことに意を用いてまいりたいというふうに思います。

岡本(三)委員 入口とともに、環境をつくって、プロモーションを押し上げていただくということをお願いいたしまして、質問を終わらせていただきます。

 ありがとうございました。

山口委員長 次に、前原誠司君。

前原委員 国民民主党の前原でございます。

 内田候補、よろしくお願いいたします。

 三人の中で、唯一、ずっと今まで日銀におられたということで、ちょっと厳しいことも質問させていただかなければなりません。

 黒田総裁は、就かれたときに、二年で二%の物価上昇を実現するとおっしゃって、結局、これでもう二任期十年たつわけですけれども、なかなか実現できていない。今は特別な理由で、コロナあるいはウクライナ、こういったもので物価が四%になっているということでありますが、植田総裁候補も、来年度からまた落ちていくということでありましたけれども。

 二年で二%を実現できなかった理由、これを総括しないと、私は、今までのを続けます、いいんですと言うだけでは理解は得られないと思いますけれども、なぜこの二年二%は実現できなかったのか、その総括をお願いします。

内田参考人 お答え申し上げます。

 共同声明で、できるだけ早期にということが書かれまして、その後、量的・質的金融緩和を導入しました際に、二年程度の期間を念頭にということで言及したということでございます。

 これは、これまでに比べて量、質共に思い切った金融緩和を行うことで、明確なメッセージを出しながら、期待にも働きかけていこうということでやったということですが、残念ながら、それは達成できていないというのはおっしゃるとおりです。

 その理由は、外的なショック、様々なものがあったというのも一つです。特に、その中で、日本の物価は、アダプティブ、適合的に予想形成されやすいというところがありますので、原油価格の下落等々で実際の物価が下がると、それに引きずられてしまったという面もあります。

 ただ、やはり根本的な原因は、デフレ期にある意味定着してしまった物価それから賃金共に上がらないというノルム、これが思っていたよりもずっと強固であったということだろうと思いますし、これは午前中の質疑でも出ていたように思いますが、どうしても金利の実効ゼロ制約というものがある中で、非伝統的な政策でやっていますので、そこに不確実性があること自体は、これは認めざるを得ないと思います。

 そういう中で、できる限りの政策をやり、二%に向けて努力してきた十年であったというふうに思っておりまして、このノルムは今変わったというふうにはとても申し上げられませんが、総裁候補の言葉ですと、よい芽ということが出始めてきているようにも思いますし、この延長線上の中に二%の目標の達成があるというふうに思っております。

前原委員 植田先生は厳しい状況の中で指名を受けられて、今議論を我々させていただくわけですけれども、最悪なのは、五年たってもずっとまた二%の目標に向かって金融緩和を続けているということで、植田先生の知見とかやられたいことが、モードチェンジにならないということが私は最悪だと思います。その意味では、支えられる、副総裁となられる内田さんの役割は非常に大きいと思います。

 その上で、金融政策だけでは限界があるんだということをやはりしっかりと政府と話をされることが私は大事だと思って、その意味でも、先ほど植田先生には、政府と日銀の共同声明についてもう少し見直して、そして、やはり政府に対してもしっかりと物を言っていく、日銀は頑張っていますよ、もっと頑張るのは政府じゃないですか、こういうような関係をつくるべきだと思いますが、いかがお考えですか。

内田参考人 物価目標の実現自体は当然私どもの責任ということだと思っておりますが、同時に、経済環境を整えていく、あるいは長い目で経済成長していくという意味では、政府の施策、大変大事だというふうに思います。

 この点は、共同声明、現在のものの下で両者がやってきたこと、これ自体は間違っていなかったと私は思っておりまして、経済、物価情勢は確実に改善しましたし、デフレではない状況を実現できたというふうに思っています。そういう意味では、その下での政策運営、考え方として続けていくべきだというふうに思っております。

前原委員 先ほど所信の表明のときに、金融緩和のプラスの面、マイナスの面ということで、フリーランチはないという言葉を使われておっしゃったわけでありますが、何が問題であったか、副作用だったと考えておられるかを挙げていただけますか。

内田参考人 基本的には、金融仲介機能、具体的に言いますと金融機関の収益に対する影響というのが一つであろうと思います。

 この点につきましては、もちろん、プラス面、マイナス面あります。金利が低いこと自体は当然収益にマイナスですが、その結果、経済がよくなり貸出しが伸びる、あるいはクレジットコストが下がるという意味でプラスもあるというふうに思いますので、そういうことも考えながら、まず副作用として考えていく必要がある。

 もう一つは、市場機能です。

 こちらにつきましては、こういう強い政策をやっている以上、コントロールをしているわけですから、市場機能に全く影響がないということはそれはないわけでございまして、市場機能とのバランスをどう取っていくのか、あくまでそういう話だと思っております。この点は、例えば、SLFの要件を緩和するでありますとか、あるいは、十二月のように、一定程度、許容幅といいますか、幅を広げる、こういったこともやっておりますので、できるだけ副作用の起きにくいような工夫はしてきたというふうに考えております。

 今後とも、緩和を続ける上で、副作用には配慮しながらやっていきたいというふうに思います。

前原委員 二〇一六年の十月に量的緩和からイールドカーブコントロールに政策変更したときには、うまくやられたなと私は思ったわけです。

 しかしながら、こういった一時的に物価が上がる局面においては、イールドカーブコントロールの問題点が出てきているというのは明らかですし、植田総裁候補も学者として、このイールドカーブコントロールというのは、アメリカ、FRBも一九四〇年代から五〇年代にやってやめた、オーストラリアも二〇二一年にやめた、そのときに、結局、緩和効果というのは大きく減退することになるということの中で問題点があったということなんですが、まさに知恵袋として、これから副総裁として支えられるに当たって、具体的に何かということをもちろんお示しいただく必要はないわけでありますけれども、このイールドカーブコントロールに代わる緩和策、こういうものをやはりしっかりと考えて、それを弾込めされることが大事だと思いますけれども、そういったことに対するお考えをお聞かせいただきたいと思います。

内田参考人 お認めいただければ、五年間という期間をいただくことになりますので、その中で様々なアイデアを出してまいりたいというふうには思います。

 その上で、十二月の措置によりまして、現在の枠組み、イールドカーブコントロールについての持続性を高める方向での手当てをしたというふうに認識しておりまして、現状におきましては、イールドカーブコントロールというものを中心に緩和を考えてまいりたいというふうに思います。

前原委員 終わります。ありがとうございました。

山口委員長 次に、田村貴昭君。

田村(貴)委員 日本共産党の田村貴昭です。よろしくお願いします。

 バブル崩壊後、デフレとの戦いが日銀の最大の課題と言われてきました。しかし、異常な異次元金融緩和を十年間やってみたものの、三十年近く、デフレが解決したと言える状況になっていません。この九〇年代以降のデフレの原因について、先ほど植田総裁候補にもお伺いしました。デフレが日本経済にどのような問題を起こしているのか、デフレの何が問題なのか、副総裁候補の御見解を聞かせてください。

 内田候補はデフレの状態ではなくなったと先ほど言われましたけれども、デフレの問題、そのものが解決されていません。その理由について、日銀の分析が誤っていたのか、日銀の処方箋が間違っていたのか、御見解を聞かせてください。

内田参考人 お答え申し上げます。

 デフレ期に定着しました賃金それから物価が上がらないという考え方、これがいろいろな意味で硬直性を生んでいるというふうに思っておりますし、ここが変わっていくことが、賃金がしっかり上昇することを伴って物価が上がっていくという世界を実現していく上で極めて重要だというふうに思っております。

 これがなかなか達成できていないということにつきましては、先ほどの答弁と重なるところがありますが、十五年のデフレ期の中で定着してきたものですので、これを変えていくにはやはり時間がかかった、それは思った以上に時間がかかったということかと思っております。

 それに対して、できるだけ様々な工夫をしながら有効な緩和を模索してきたのがこの十年間であったと考えておりまして、やってきたこと自体は、金融政策としてできるものとして間違ってはいなかったというふうに思っております。

田村(貴)委員 内田副総裁候補は、「金融財政事情」二〇一六年三月二十一日号で、マイナス金利導入に当たって考慮すべき事項として、金融機関収益及び金融市場への影響がある、金融仲介機能をかえって弱める方向に働くことはないのかという点がこの政策を考える上で最も重要な論点と指摘し、結論的には、今回の政策枠組みでは金融仲介機能が弱まることはないと述べています。

 しかしながら、低金利環境の継続により地域銀行の貸出利ざやは低下している中で、地域銀行は、収益を確保するため、国内での貸出残額を増加させているものの、残高増加の影響により利ざや低下の影響が大きく、地域銀行の資金利益は低下を続けている。このように、金融庁でさえ認めざるを得ない状況になってきました。

 そこでお尋ねしたいんですけれども、マイナス金利政策の評価について御所見を聞かせてください。そして、銀行収益の悪化をもたらしたということは、これは明らかに副作用だというふうに思いますけれども、このまま銀行の収益悪化を犠牲にしていいとお考えでしょうか。やはり副作用が大き過ぎたので、マイナス金利政策は改めていくべきだとお考えになっているのか、お答えいただきたいと思います。

内田参考人 お答え申し上げます。

 実は、イールドカーブコントロール、YCCというのは、この点も配慮しながら政策を行っていくために導入した枠組みです。当然、金利が低いほど経済、物価への刺激効果は大きいわけですけれども、同時に、そのことは金融仲介機能に影響を持つということも考え、バランスを取った上で適切な水準にコントロールしていくということで、現在は、マイナス〇・一%の短期の金利とゼロ%程度の十年の金利ということが、その両方を考えたときに最もバランスがよいということで対応しているわけでございます。

 したがって、その点を無視しているということではございませんで、両者を考えた上で適切な金利に促していく、金利形成を促していくというのが現在の私どものやり方です。

 その上で、御質問の地域金融機関につきましては、人口減少あるいは企業数が減っているという構造的な要因と、それから、おっしゃった低金利による問題、双方があるというふうに思います。

 ただ、その中にありましても、地域の金融に対して地域金融機関の皆様が果たしている役割という点からいきますと、しっかりと金融仲介機能は果たされているというふうに考えております。

田村(貴)委員 先ほど、現在の金融緩和対策に対して、企業の収益増、それから雇用増等々の理由があって大きな効果があった、悪影響と比べてみれば効果の方が上回っているというふうにおっしゃいました。これは何か数量的に示せるものがあるのかどうか、これについて御説明いただきたい。

 もう一つは、日銀の緩和政策について変更すべきだと考えている方が過半数を超えた、こんな世論調査もあります。国民の思いとギャップがあるんじゃないでしょうか。その点についてはいかがでしょうか。

内田参考人 私ども、二一年三月に点検というものを実施しまして、その中で、大規模な金融緩和を行わなかった場合と比べまして実質GDPの水準がプラス〇・九から一・三%程度、また、CPIの前年比が平均で〇・六から〇・七%程度押し上げられたという、カウンターファクチュアルシミュレーションと申しますが、そういった試算を出しております。もちろんこれが全てではありませんけれども、効果の方が上回っているというふうに考えております。

 また、国民の皆様に対しては、私どもが今金利を上げるべき状況ではないということをきちんと御説明し、分かっていただく必要がある。そういう意味では、私どもの説明をより充実していく必要があるというふうに認識しております。

田村(貴)委員 終わります。

山口委員長 これにて各会派を代表する委員の質疑は終了いたしました。

 これより自由質疑を行います。

 質疑される方は、挙手の上、委員長の許可を得て発言されるようお願いいたします。

 また、発言の際は、所属会派及び氏名をお述べいただき、一人一問一分以内としていただきますようお願いいたします。

 それでは、質疑のある方は挙手をお願いいたします。

 よろしゅうございますか。

 それでは、これにて内田参考人の所信に対する質疑は終了いたしました。

 内田参考人、大変ありがとうございました。御退席いただいて結構でございます。

    ―――――――――――――

山口委員長 これより氷見野参考人の所信に対する質疑を行います。

 質疑は、まず、各会派を代表する委員が順次三分以内で質疑を行い、その後、各委員が自由に質疑を行うことといたします。

 武藤容治君。

武藤委員 自民党の武藤容治と申します。

 ちょっと声がかすれておりますけれども、ちょっと聞きづらいと思いますが、お許しいただきます。

 今日は、日銀の総裁並びに副総裁の参考人招致ということで、午前中からずっと、植田先生やら、今また内田先生、そして氷見野先生ということで、皆さんの先ほどの所信をお聞きした上で、今の日本の置かれた状況を乗り越えるためにも、皆さん、大変すばらしい御見識とそして力強い意思、これを見させていただくことができて、大変心強く思っております。

 いずれにしましても、よくお引き受けになられたというのが正直なところなんですけれども、氷見野先生はこれまでも金融庁の長官もやられて、特に、その就任時期はコロナが発生した後ということで、地方銀行も含めて大変な状況、そのコントロールの中で御尽力をされたと思っています。今日も、時間がないので、地方銀行とのコミュニケーションというのがこれからも大変大事なことでもありますし、今日のこの会議の中でも、どうやって、民間の金融機関も含めて、また政府とこれから連携をしていくのか、本当に難しいところだと思いますけれども、是非、まず御見識を改めて伺いたいというふうに思います。

氷見野参考人 ありがとうございます。

 地方銀行とのコミュニケーションというお話をいただきました。

 私は、長官時代はコロナで行き来が難しかったので、毎週火曜と金曜の朝は、三十分、地銀の頭取さんと一対一でビデオ会議をさせていただいておりまして、まさにコロナのさなかでしたので、コロナで苦境にあるお客さんを支えながら、どうやって地域経済の要として役割を果たして、しかも自分の経営基盤は強化していくかというところで、それぞれ、大変工夫されている御様子というのはつぶさにお聞かせいただいていたところであります。

 環境は、低金利環境を含め、非常に厳しいわけでありますけれども、地域銀行さんは大変なコストカットをされていますし、当局の側では経営の選択肢を増やすということで法改正もお認めいただいたりしているわけですけれども、やはり、密接なコミュニケーションを通じて、これは多分日本銀行も全く同じだと思いますけれども、地域の力が育っていくように地銀が活躍できるような環境をつくっていくということが非常に大事ではないかというふうに考えております。

武藤委員 地方が元気になってこそ日本の底力になりますので、是非、今後とも丁寧にまたお力添えをお願いしたいと思います。

 その中でいいますと、今日もずっと課題になっているのは、要するに物価の安定ということが一つの大きなあれですけれども、やはり賃金が上がらないと、この両方のバランスですね。そして、賃金をどうやってあげていくかというと、これは地方から考えると、特に、先ほど来先生方の御質問にもあったかもしれませんけれども、やはり価格転嫁という形ができないとなかなか正直言ってできないというのが現実で、これが日本の経済社会構造だと思っています、私は、昔商売をやっていましたので。

 これがどうやってできるかというところは、まさに政府の政策的にもありますけれども、金融の日本銀行としても何かその辺の手だてというものが地方との連携の中であるのかどうかという点を、是非、副総裁候補からお話を伺えればと思います。

氷見野参考人 ありがとうございます。

 賃上げが持続的に進んでいくためには、やはり価格転嫁というものが適正になされていくということが不可欠だろうと思います。

 政府の方では各省庁連携していろいろ対策を講じておりますし、経済界においてもパートナーシップ宣言とか取組をやっておられるというふうに承知しておりますけれども、日本銀行として今の段階で一番できるサポートとしては、やはり、現在の金融緩和を通じて経済を支えて、そうしたことが円滑に進むような環境を確保していくというのが一番重要な寄与の仕方ではないかというふうに考えております。

武藤委員 ありがとうございます。

 先ほど丹羽先生もおっしゃられたSNSもそうですけれども、分かりやすい情報発信を是非よろしくお願い申し上げたいと思います。

 もう残り時間がないので、最後に一つだけお願いしたいんですけれども、今年、G7が、日本が議長国で開催されます。金融の会合についても今までも大変な御見識がございますけれども、国際場裏というのはまさにキツネとタヌキのだまし合いなのはよく御存じで、永田町も妖怪がいますけれども、そういう中で、ルール作り、その辺についてのお考えを是非、お気持ち、覚悟で結構でございますので、副総裁になられたらこうしたいというお気持ちをお伺いしたいと思います。

氷見野参考人 G7議長国というお話もございました。私は、国際関係の仕事が長いので、例えばG7諸国の中央銀行であれば、総裁か副総裁かのいずれかは割とよく存じ上げているというような関係もあります。

 ルール作りというお話がありました。私もいわゆるバーゼル規制の仕事を長くやってまいりましたけれども、やはり受け身では全然勝負にならない、アジェンダの設定とか提案とか、さらには国際世論への発信みたいなところまで能動的にやっていかないといけない環境になっておると思いますので、そうしたところで、もしお認めいただければ、力を尽くしてまいりたいと考えております。

武藤委員 御期待しています。

 どうもありがとうございました。終わります。

山口委員長 次に、櫻井周君。

櫻井委員 立憲民主党の櫻井周です。

 本日は、質問の機会をいただきまして、誠にありがとうございます。

 早速質問に入らせていただきます。

 今回新たに任命される総裁と副総裁、三名は、約五年間共にすることになります。この三名の中で、御自身の役割、どのようなものと認識されていますでしょうか。

氷見野参考人 ありがとうございます。

 これは、総裁にもお考えがあって、いずれ仕事の割り振りみたいなお話もあると思うんですけれども、これまでの経験からいたしますと、日本銀行の主要な使命は物価の安定と金融システムの安定なわけですが、私は、どちらかというと金融システムの安定の方に比重があるということになるかなというふうに思います。

 ただ、物価の安定を目指す金融政策にいたしましても、それが伝わっていくのは金融システムとか金融市場を通じてですので、金融政策の話も、特に波及経路で実際に何が起きているかという視点を大事にして貢献してまいりたいというふうに考えております。

櫻井委員 御自身の経歴について、三十八年のキャリアのうち半分は国際的な業務とおっしゃられておりました。

 今、世界的にはインフレ、これに対して欧米を中心に金利の引上げの動きがございます。こうした世界経済の動向が我が国の経済と日本銀行の金融政策に与える影響、これをどのように認識されていますか。

氷見野参考人 これまでも、海外の経済の状況というのは非常に大きな影響を与えてきたというふうに思っております。

 ごく足下で捉えますと少しプラスの要素も出てきて、IMFも見通しを上向きに改定したりというようなことも起きておりますけれども、いずれにせよ、海外経済の不安定要因、不確定性というのは非常に大きいものがございますので、きちんと日本経済への影響を点検していく必要があると思いますし、そういう不確定性も踏まえると、やはり現在の状況では金融緩和を続けていくということが大切ではないかというふうに考えております。

櫻井委員 ただいま、金融緩和は継続していく必要があるという御発言がございました。

 日本銀行は黒田総裁の下で異次元の金融緩和を十年にわたって続けてきたわけですが、これについては、効果と副作用、これは午前中の議論でもございましたし、先ほどの内田候補に対する議論の中でもございました。

 これらについてどのように評価されるのかということについてお尋ねをするとともに、今後について、異次元の金融緩和を継続するのか、それとも、見直すタイミングというのは必ず出てくると思いますし、午前中も植田総裁候補も条件付で見直す場面ということについて言及をされました。この見直す場合の条件について御説明をいただけますでしょうか。

氷見野参考人 まず、効果という意味では、この十年間を見ますと、デフレではない状況を実現したということや雇用の増大ということが挙げられると思いますし、副作用という意味では、これは金融庁時代痛感してきたことではありますけれども、金融仲介機能とかあるいは市場機能への影響ということが挙げられると思います。

 現時点で効果と副作用を比較すれば効果が上回っており、現時点では金融緩和は継続する必要があるというふうに考えておりますけれども、今後どういう状態になったらどうするかということについては、先ほどお話があった海外の経済情勢も含め、上向きにも下向きにもいろいろな可能性がありますので、シナリオを幾つも考えておきながら、状況に応じて機動的に対応していくということではないかというふうに考えております。

櫻井委員 今御答弁の中で、一定効果があったというお話もございました、雇用について増大という話もございました。しかし一方で、候補は、所信の中で、生活が少しでもよくなっていく、賃金が上がっていく状況をつくる、これが大事だという趣旨の御発言もされていました。この点について私も本当にそのとおりだというふうに思います。

 しかし、この十年、実態を見ますと、実質賃金はマイナスだった。労働生産性は上がっています。企業の収益も上がっています。金融緩和は継続してきた。

 なぜ実質賃金はマイナスなのか、日本銀行にできることが何かあったのかどうなのか、また政府の役割は何なのか、是非お考えをお聞かせください。

氷見野参考人 その点につきましては、私も外から見ておりまして、恐らく日本銀行には日本銀行でいろいろ分析の蓄積があるんだと思いますけれども、私が一番疑問に思っておりましたのは、失業率はコロナ前までは一貫してどんどん下がっていく、有効求人倍率は一貫して上がっていく、その中で、普通、例のフィリップス・カーブとかの議論からすると自然に賃金が上がっていくはずなのに、そうは必ずしもならなかった、それはなぜなのかということがやはり問題の核心にあると思います。

 私は、「人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか」という論文集も読んでみましたが、十六論文があって、十六それぞれ説得力のある別の理由を書いていて、私にはどれが正しいのか分からなかったんですけれども、そうした要素のうちの幾つかは、足下では剥がれつつあるという議論もございます。

 今後のその動きというのはよく見ていきたいと思いますし、また、仮にお認めいただければ、日銀のエコノミストの人たちともよく議論させていただければというふうに考えております。

櫻井委員 実質賃金がマイナスというのはほかのG7の国を見ましても日本ぐらい、正確に言うとイタリアも若干その傾向はあろうかと思いますけれども、特殊な状況があろうかと思います。

 やはり、この点について日本銀行のできることは余りないというお話も先ほど植田総裁候補からもありましたけれども、私もそうだと思います。それをあたかも日本銀行ができるかのように言ってきたことが一つ大きな問題ではなかろうかなというふうにも思っています。

 ちょっと別な観点で質問させていただきます。

 植田総裁候補の発言の中で、異次元の金融緩和の下で、地方銀行の状況について、収益においてマイナスの影響があったというような趣旨の答弁がございました。

 日本銀行の超低金利政策が、金融機関、特に地方銀行に与えてきた影響をどのように評価されますでしょうか。

氷見野参考人 地方銀行は地域経済の要でありまして、地銀が自信を持って必要なリスクを取って地域経済を支えていくためには、しっかりした経営基盤が必要だというふうに考えております。

 経営する環境としては、低金利環境また人口減少等、非常に厳しいものがあるわけですが、私ども金融庁の側では、金融機関の努力としては大変なコストカットを進めてこられたというふうに見ていますし、当局の側では、経営の選択肢を増やすような制度改正とかサポートをしてきたところであります。

 ただ、長期的に地方銀行の経営の見通しが立ちやすくするために何が一番大切かというと、やはり、賃金上昇を伴う形で物価安定の目標が持続的に実現される環境ができることが一番重要だと思いますので、金融政策の側に仮に立つといたしますと、まずその目的に全力を尽くすということが極めて大切ではないかというふうに考えております。

櫻井委員 時間になりましたので、これで終わらせていただきます。ありがとうございました。

山口委員長 次に、金村龍那君。

金村委員 日本維新の会の金村です。今日は、よろしくお願いいたします。

 まず、準備していた質問の二点目から質問させていただきます。

 氷見野さんにとっては専門性の高い分野だと思いますが、金融システムの安定が国民の経済活動を支えている中で、決済システム、これはリスクがどんどんどんどん大きくなっていると実感しています。

 このシステミックリスクの顕在化に対して、どのように回避して、かつ、グローバル経済の中で金融機関をどうやって強化していくのか、この辺りについてまずお伺いさせてください。

氷見野参考人 金融システム、決済システムは国民生活に不可欠なインフラであります。

 システミックリスクの顕在化という点で考えますと、一番それに近づいたのが二〇二〇年三月にコロナが勃発したところで、欧米の金融市場では非常に危機的な状況になったのを、アメリカのFRBの政策などによってある意味力ずくで押さえ込んだというようなことがあったわけですが、その後も、アメリカであればアルケゴスとかFTXの破綻、イギリスであれば年金基金危機とか、様々な潜んでいた脆弱性が表に出るといったことが時折起きているところであります。

 ですので、金融システムにどんな脆弱性が潜んでいるかというのは注意深くモニターして、特に金融機関に対してはリスク管理の高度化を求めていく必要があると思いますし、また、国際ルールを作る場面あるいはそれを国内でも実施していく場面で、金融システムの強靱性を高める方向で貢献していくというのが非常に大切ではないかというふうに考えております。

金村委員 私レベルでも、今日、ちょうど秘書から依頼があって、資金移動をスマホでやる、こんなことが当たり前、日常になっています。いざ何かが起こると本当に混乱を招くと思いますので、是非、専門性を生かしていただきたいと思います。

 その上で、政府のスタートアップ五か年計画を見ても、いわゆる起業とかチャレンジする環境が整ってきたと実感しています。その中で、私も事業を経営してきましたが、やはり、地場産業というか小さな事業もMアンドAを活発にしていくことで経済成長につなげていく側面が強いと思っています。

 本来、小さな企業だと、まず融資を受けるのが地方銀行だったり信用組合、信用金庫になるんですけれども、そういった金融機関がMアンドAを活発にしていくような役割を担っていないと思うんですね。実際、私が融資を受けているときにも、制度融資に偏って、いわゆる事業に種をまく、そういった観点が非常に欠けていたなというのは実感しているんですね。

 そういう意味では、私は、地方銀行の再編も実は視野に入れていかなければいけないんじゃないかと考えておりますが、氷見野さんの御見解をお伺いさせてください。

氷見野参考人 長官在任中に法改正をお認めいただきまして、資金交付制度という地方銀行の再編を後押しする制度をお認めいただいております。日本銀行でも類似の制度をつくっているというふうに思います。

 ただ、再編は非常に有力なオプションの一つだと思いますけれども、ほかにもいろいろ、地域でどう役割を果たしていけるような金融機関になっていくかというのは、工夫の道はあると思いますので、できるだけいろいろな選択肢を用意していくというのが当局の側では必要だと思いますし、また、最後は経営者の方自身の自発的な工夫が基本なわけでありますけれども、それを例えば金融庁なり日本銀行の側でもサポートしていくようなことをいろいろ工夫していくというのが大切ではないかというふうに考えております。

金村委員 やはり、今、経営者の側のお話も少し出ましたが、大切なのは、経営者の側も、そして、金融機関であったり当局であったりというところが成長を促していくための一つ一つのピースとしてしっかりと機能するかどうかだと思いますので、是非とも一つの選択肢に入れていただきたいと思います。

 その上で、私は、今、日本における、国民が経済成長をしっかりと実感できるような経済成長を果たしていくためには、金融政策も、そして企業における新陳代謝もしっかりと果たしていく、流動性を担保していくということが大事だと思っております。

 その上で、氷見野さんがこれまでの専門性を生かして日本銀行の中でどのようなリーダーシップを発揮していくのか、それを最後にお伺いさせてください。

氷見野参考人 ありがとうございます。

 これまでの経験を生かしてということでありましたけれども、これまで日本銀行の職員の方とはいろいろ仕事をする機会が、もう三十何年間というか、最初の上司が日銀から出向してこられていた方なんですけれども、非常に能力も士気も規律も高いということですばらしい仕事ぶりだと思いますし、あと、リサーチ重視の中央銀行のカルチャーというのはすばらしいものがあると思いますけれども、ただ、一人一人の方の能力からすれば、もっと大きなポテンシャルがあるのではないかというふうに考えております。

 金融庁は、霞が関の役所の中では、職員の力を引き出すための工夫ということで、うまくいっているものばかりではないですが、試行錯誤を繰り返してきた役所でもございますので、そのまま日銀に当てはまるわけではないと思いますけれども、そうした面でも貢献していければというふうに考えております。

金村委員 質問終了の時間になりました。ありがとうございます。

山口委員長 次に、岡本三成君。

岡本(三)委員 公明党の岡本三成です。よろしくお願いいたします。

 氷見野さんに事前にお伝えをした質問通告が他の質疑者の方でほぼカバーされておりますので、今日お述べになられた所信に対して質問させていただきます。事前にお伝えしておりませんので、お答えが準備できていないところはお答えいただく必要がありません。

 日銀法の中には、副総裁の役割が規定をされております。日銀の業務に当たっては、総裁を補佐することが規定されていますが、政策委員会においては、一委員として、総裁にフォローする必要は全くありません。仮に総裁がどういう御意見を持っていたとしても、副総裁が委員として別の考えがあれば、総裁の考えを論破するぐらいのことを是非期待していきたいというふうに思います。

 実際に、私、昨年、財務副大臣としてこの政策決定会合に参加させていただきましたが、それぞれの委員の方の発言の後に別の委員の方が、私は賛成だ、反対だ、別に指されることもなくどんどん言い合って、それぞれ皆さんが違うバックグラウンドや考え方を持っているので、最終的に合意できたものは、私は非常に価値の高い政策に落とし込まれているというふうに思っています。

 氷見野さん御自身、これまで財政当局、金融当局、希有なバックグラウンドをお持ちでいらっしゃいますので、総裁のイエスマンになるようなことは政策決定においてはないということを期待しておりますが、そのお考えを確認させていただきたいと思います。

氷見野参考人 ただいま岡本委員から決定会合の模様を教えていただいて、そういうものなのかということで、出席するのが少し楽しみになった気もいたしますが、植田総裁になられて、私が副総裁に仮になったとしたときに、総裁を論破できるというのは多分ないんじゃないかと思うんですけれども、金融庁時代も、庁内幹部会とかは、所掌を超えてどう意見を活発にするか、これは歴代長官が努力してきたことでありますけれども、そうしたことに努めてまいりました。

 政策委員会の一員として、そういうすばらしい雰囲気があるのであれば、そういった雰囲気を更に育てていけるように貢献してまいりたいと思います。

岡本(三)委員 その政策決定会合のかんかんがくがくの議論は、事前に定められたものではなくて、各委員の方が自発的に自分の役割を担おうとされて結果的にそういうことになっておりますので、是非、氷見野副総裁候補にもそのことを期待したいと思いますし、政策決定においては総裁は氷見野さんの上司ではありません、同じ委員の一員でありますし、日銀法第二条には、日銀の理念といたしまして、国民経済の健全な発展に資することとありますので、是非、その点を確認させていただきたいと思います。

 その上で、先ほどの所信でこうおっしゃいました、国民の皆さんの願いは日々の生活ぶりがよりよくなることだと考えていますと。そのとおりです。加えまして、賃上げを伴う形で物価の安定を図っていきたいともおっしゃいました。私も、全くそのとおりだと思います。

 政府と日銀の共同声明、これは総理と総裁の共同声明ではありません、政策決定会合で合意された内容に基づいて政府と日銀の共同声明となっていきます。私は、この中に、持続的な賃金の上昇という文言を是非織り込んでいただきたいと思っています。

 先ほど候補御自身がおっしゃったように、物価安定の目標は、賃金を伴う形でなければ意味がない、国民生活はよりよくなりません。

 けれども、必ずしも、あのアコードの中、日銀がやるべき責任の箇所じゃなくても、政府が目標とすべき場所であっても、とにかく、賃金の持続的な上昇ということを入れて、国民が期待を持ってわくわくしながら前向きに取り組めるような、そういうメッセージを発信していただきたいと思いますが、いかがでしょうか。

氷見野参考人 ありがとうございます。

 共同声明は、デフレ脱却と経済成長の実現のために政府と日銀がどう連携していくかということで作られたものと承知しておりまして、根本の目的のデフレ脱却と力強い経済成長の実現ということの中に実質上含まれておるというふうには思うわけであります。

 現在、何か、私、共同声明を読んだ上で、ここを直ちに変えていかなきゃいかぬのじゃないかという印象を受けたところはないわけでありますけれども、少なくとも、実際の政策の実施に当たっては、今の局面では、まず、賃上げを伴う物価安定というところを最優先に考えていくというところは全くおっしゃるとおりだというふうに考えております。

岡本(三)委員 経済も金融市場も生き物ですので、適切な修正も加えながら業務に当たっていただくことを期待いたしまして、質問を終わらせていただきます。

 ありがとうございました。

山口委員長 次に、前原誠司君。

前原委員 国民民主党の前原誠司でございます。

 氷見野候補、よろしくお願いいたします。

 まず初めに、今まで、バーゼルにおられたり、あるいは金融庁長官として仕事をされたという御自身がなぜ副総裁に選ばれたと思われるか、そして、その中での自分の役割は何か、五年間、副総裁になられたら何をしようと思っておられるか、お答えいただけますか。

氷見野参考人 ありがとうございます。

 なぜ選ばれたかというところでありますけれども、連絡をいただいてから、いろいろ、なぜだろうというふうに自分でも考えておりますが、ある意味、たまたま組合せにうまくはまったということかなというふうに想像していますが、ちょっと、人事権者を忖度するようなことは避けたいというふうに思います。

 それで、どのような役割を果たしていきたいかということでありますけれども、長年、金融庁の側から日銀と連携をしてまいりました。そこで感じたことというのは、例えば金融システムであれば、日銀と金融庁の見方が少し違う、少し違う目で見るからこそ物事が立体的に見えるということだと思いましたし、また、例えば日銀と金融庁の間で率直に言いにくいことを言える関係が築けると、プロ同士の意見交換ですので、非常に貴重だというふうに感じてまいりました。できれば、政府と日銀の間でも、ほかの分野でも、そういった関係が築けていけるように貢献できればというふうに考えております。

 それで、五年間で何を成し遂げたいかというところでありますけれども、直接、いろいろな業務分野で課題というのはたくさんあるわけでありますけれども、五年後に見たい状況というのはどういうことかといえば、どうしても日本の相対的な地位が下がり続けてきたというのが、ある意味、私が公務員になって以降ずっと見続けてきたところでありまして、五年後には反転していた、これは日銀だけでできることではありませんけれども、そういうことになっているように全力を尽くしたいというふうに考えております。

前原委員 金融庁は、森長官のときに、スチュワードシップ・コードといういわゆる企業統治に対する考え方、これはリーマン・ショックの反省に基づいて行われたわけであります。

 先ほど氷見野候補がお答えされたように、日銀と金融庁は立場が違います。しかも、今まで日銀におられたわけじゃないので、例えば、ETFをこれだけ大量に買ったということについては、責任はないわけですよ。ないんですよ。これから副総裁になられたら、どうするかということの決定には関わられるけれども、今まで責任はない。

 しかし、このスチュワードシップ・コードの点に鑑みても、やはり、日銀が一〇%以上の株主、大株主になっている会社が六十八もあるということ、そして価格形成をゆがめているということ、そしてまた市場を官製相場にしているということ、また、投資家の様々な、言ってみれば思惑の中で動くという構図をつくっていることについては私は大きなマイナスだと思いますけれども、その点についてはどうお考えですか。

氷見野参考人 ETFの買入れには確かに責任はありませんが、スチュワードシップ・コードについては、起草時の担当者でありますので、責任が若干あるというふうに思っております。

 それで、いろいろな面でゆがみを与えているのではないかということでありますけれども、スチュワードシップ・コードとの関係でいえば、ETFを運用している会社がスチュワードシップ・コードに沿ってガバナンスを行使するというのは一般個人が買ったETFと同じわけでありますけれども、株式市場の在り方に大きな影響があるということは事実だと思います。

 現在の環境で何か現在の日本銀行の方針を変えるということが適切ではなくて、緩和に必要なことは続けるということだというふうに考えておりますけれども、少なくとも、実施の仕方などについては、極力、副作用を小さくする工夫を重ねていくということが足下でも必要だというふうに考えております。

前原委員 先ほど、御自身の役割、五年間で何を成し遂げたいかという質問に対して、日本の地位低下に対して何とか反転の状況をつくりたいということをおっしゃっておりました。それは、我々国会議員も、党派関係なく、そういう思いで仕事をさせていただいているわけであります。

 先進国で最悪の国債発行残高であるにもかかわらず低金利が保てているという理由は、それは財政法第五条違反ではないとはいえ、大量に日銀が国債を言ってみれば買っていることによって、人為的に、いわゆる明確な、明快な市場の判断、体温計が測られないままにこういうことになっている。それも私は先ほどおっしゃった日本の凋落、つまりは問題先送りの一つの大きな要因になっていると思いますが、その点はどうお考えになられますか。

氷見野参考人 財政赤字と国債相場の安定の根本に何があるかというところでありますけれども、私の個人的な考えで言えば、そもそも、金融危機後、企業が投資するより貯蓄する側に回ってしまった、まず借金を返して、返し切った後は今度は手元現金を積み上げるということで、資金需給バランスを見ると、家計と企業が大きな貯蓄主体になってしまった、そうすると、誰かが需要を支えないといけないということで財政が出ていったということ。

 ですので、望ましい形とすれば、企業も単なる貯蓄主体ではなくて積極的な投資主体になっていって、資金需要が出てきた分は国が少しずつ引いていける部分が出るというパスをたどって、円滑に、強い日本で、しかも、何か金利が跳ねたりとかいうことにならないように展開していくということは可能であると思いますし、それが一番望ましい将来像ではないかというふうに考えております。

前原委員 時間になりましたので、これが最後の質問になろうかと思います。

 先ほど、この五年間で日本の凋落、地位低下を何とか反転攻勢に持っていきたいという趣旨の御答弁をされたと思いますけれども、副総裁として、では、具体的に何がその役割になるのか、どういったところに重きを置いて御自身が副総裁として仕事に臨みたいと思っておられるか、その点をお知らせいただけますか。

氷見野参考人 反転攻勢に出る秘策があるわけではなくて、一つ一つの政策判断を適切にやっていく、それに副総裁としても最大限貢献していくというのが基本だと思います。

 もう一つは、やはり、リーマン・ショック以降の国際言論界における日本の、特に金融規制とかの分野における存在感というのが余りに小さ過ぎるというふうに考えておりますので、植田総裁も積極的に発信されていくと思いますし、内田さんもお得意だと思いますが、自分も一緒になって、日本の意見というものを、やはり中央銀行の発信というのは多分金融庁の発信よりも海外で見てもらえる度合いも強いと思いますので、そういったところでも貢献していければというふうに考えております。

前原委員 終わります。ありがとうございました。

山口委員長 次に、田村貴昭君。

田村(貴)委員 日本共産党の田村貴昭です。よろしくお願いします。

 日本銀行のマイナス金利政策によって、日本の銀行の預貸業務が限界的には収益が出ない、ないし赤字業務となりつつあります。とりわけ、地域金融機関の収益は悪化しています。コロナ対策によって一息というところもありますけれども、基本的な構造は変わっていません。

 先ほど氷見野副総裁候補は、コロナ禍の下で、地方銀行の総裁とオンラインでお話をされてきたと言われましたけれども、厳しい声を聞かれたんじゃないでしょうか。そういう声をちょっと紹介していただきたいのと、やはりマイナス金利政策の副作用としての表れについての認識について述べていただきたいと思います。

氷見野参考人 私どもと頭取さん方でお話しするときには、私どもに金融政策の苦情を言っても仕方ないということで、基本的には、それをある意味与件とした上で、どういう工夫をしていくかとか、金融行政上の要望とか、そういったことをお聞かせいただいていました。

 これは、地銀と一口に言っても、それぞれ経営環境も地元の経済の状況も様々でありますので、一概に言うことはできないわけでありますけれども、やはり金利を非常にお客様からいただきにくい環境が強まっているというお話はよく伺ってまいりました。

 ただ、ちょっと足下でありますと、これも断片的にお聞きするだけですけれども、やや経済の持ち直しに伴って貸出しのボリュームも出るようになったし、利ざやの低下も少し収まってきたというような話も聞くこともございます。

 いずれにいたしましても、足下で金融仲介機能が具体的に障害が出ているということではないと思いますけれども、基本的には、賃上げを伴う形での持続的な物価上昇が起こる環境に至るということが、長い目で地銀の経営基盤強化の見通しを立てる上では一番大切なことではないかというふうに考えております。

田村(貴)委員 長期間の低金利政策が、金融機関の収支について悪化をしてきた、これは本当に副作用の一つで、改善しなければならない課題だと思います。

 しかし、それじゃなくて、政府や金融庁は、地域金融機関に対してリスクの高い融資の拡大を奨励し続けてきました。その結果、あのかぼちゃの馬車を始めとする不動産投資に肩入れをしたスルガ銀行の不正融資の問題を引き起こす結果にもなりました。

 氷見野副総裁候補が金融庁長官の時代にも、銀行法の改正で、他業種禁止の原則を緩和したり、貸出しによる預貸業務の利益により、派遣業やコンサルタントなど他業種による収益拡大で収支改善を促そうとしてきました。それでも改善が期待できない場合には、独禁法の特例措置まで設けて、金融機関の合併も迫っています。

 二年を目途に始めた異常な異次元金融緩和を十年も続けた結果だと考えますけれども、本当に本末転倒の状況だと私は考えます。いかがお考えでしょうか。地域金融機関が預貸業務で十分な収益が出るように、低金利政策はもうやめるべきだと考えます。副総裁候補のお考えを述べてください。

氷見野参考人 ありがとうございます。

 金融機関も経済の重要な一員でありますので、金融機関に対する影響というのはいろいろな政策を考えていく上で非常に重要な要素の一つであるというふうに思いますけれども、ただ、金融機関だけ見て政策をするということではなくて、経済全体への影響を見て判断していく必要があるだろうというふうに考えております。

 その上で、金融庁がいろいろな業務範囲の拡大とかを行ったというのは、銀行法の改正をお認めいただきまして、事実でありますけれども、その一番中心的な狙いというのは、それを収益の柱にしてほしいというよりは、地銀の経営がしっかりしていくためには地域経済を活性化していくしかない、その地域経済を活性化するというときに、地方で、人材の面でも、ネットワークでも、地方からの信頼の面でも、やはり地域の要である金融機関が、単にお金の量だけ貸せますということではなくて、いろいろなアドバイスとかサポートとか総合的な役割を果たせることが望ましいのではないかということが念頭にあったところでございます。

田村(貴)委員 ゼロゼロ融資についてお伺いします。

 コロナ対策として行われたゼロゼロ融資は、急激な売上げ減少にあえぐ中小零細業者を一時的に救済する効果があって、必要な措置でありました。しかしながら、予想以上にコロナ禍が長引いている、そして、以前のような売上げに戻らない業者の方もたくさんおられるわけです。

 既にこのゼロゼロ融資の返済期限が到来している事業者もいます。そのピークがもたらされようとしています。過剰債務問題が深刻化すると考えられますけれども、氷見野副総裁候補が金融庁長官時代に進められたこのゼロゼロ融資の過剰債務の問題についての認識、そして今後の対策について御意見を聞かせてください。

氷見野参考人 ゼロゼロ融資については、近く返済が開始されるピークが始まるというふうに承知しております。

 コロナで非常に不確実性が高い、しかもコロナ後の様子も見通せないという状況では、まず生き延びてもらうということが大切でありますので、必要なことであったというふうに思っておりますけれども、現在の局面で考えますと、経営課題を抱える企業について、資金繰りをつけるということに加えて、経営課題に寄り添った対応、例えば、経営改善とか事業再生とか、あるいは事業承継のサポートとか事業転換とか、そういう借り手企業の状況に応じたきめ細かな対応が必要になっていくというふうに考えております。

 それは、金融機関も役割を果たしていくべきでありますし、また、中小企業経営支援機構とか国の機関もありますし、地方自治体もございます。そうしたところが連携して、コロナ後の環境でどう経営を成り立たせていくか、そうした工夫、いろいろなサポートがあって、知恵が集まっていくということになっていくことが不可欠ではないかというふうに考えております。

田村(貴)委員 時間が来ました。終わります。

山口委員長 これにて各会派を代表する委員の質疑は終了いたしました。

 これより自由質疑を行います。

 質疑される方は、挙手の上、委員長の許可を得て発言されるようお願いいたします。

 また、発言の際は、所属会派及び氏名をお述べいただき、一人一問一分以内としていただきますようお願いいたします。

 それでは、質疑のある方は挙手をお願いいたします。

 よろしいですか。

 それでは、これにて氷見野参考人の所信に対する質疑は終了いたしました。

 氷見野参考人、ありがとうございました。

 以上をもちまして日本銀行副総裁の候補者からの所信聴取及び所信に対する質疑は終了いたしました。

 本日は、これにて散会いたします。

    午後二時五十一分散会


このページのトップに戻る
衆議院
〒100-0014 東京都千代田区永田町1-7-1
電話(代表)03-3581-5111
案内図

Copyright © Shugiin All Rights Reserved.