衆議院

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第1号 平成30年2月21日(水曜日)

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平成三十年二月二十一日(水曜日)

    午前九時開議

 出席委員

   委員長 河村 建夫君

   理事 柴山 昌彦君 理事 菅原 一秀君

   理事 田中 和徳君 理事 橘 慶一郎君

   理事 福井  照君 理事 宮下 一郎君

   理事 逢坂 誠二君 理事 津村 啓介君

   理事 竹内  譲君

      あべ 俊子君    井野 俊郎君

      伊藤 達也君    池田 道孝君

      石崎  徹君    石破  茂君

      今村 雅弘君    岩屋  毅君

      江藤  拓君    衛藤征士郎君

      大見  正君    金田 勝年君

      神山 佐市君    工藤 彰三君

      古賀  篤君    佐藤ゆかり君

      鈴木 貴子君    竹本 直一君

      中村 裕之君    根本  匠君

      野田  毅君    原田 義昭君

      平井 卓也君    平沢 勝栄君

      星野 剛士君    三ッ林裕巳君

      村上誠一郎君    盛山 正仁君

      山口  壯君    山本 幸三君

      山本 有二君    渡辺 博道君

      阿部 知子君    青柳陽一郎君

      岡本あき子君    落合 貴之君

      山内 康一君    井出 庸生君

      稲富 修二君    小熊 慎司君

      大西 健介君    後藤 祐一君

      西岡 秀子君    山井 和則君

      伊佐 進一君    中野 洋昌君

      濱村  進君    黒岩 宇洋君

      原口 一博君    藤野 保史君

      串田 誠一君

    …………………………………

   公述人

   (一橋大学国際・公共政策大学院教授)       佐藤 主光君

   公述人

   (全労連雇用・労働法制局長)           伊藤 圭一君

   公述人

   (社会福祉法人桑の実会理事長)          桑原 哲也君

   公述人

   (嘉悦大学教授)     高橋 洋一君

   公述人

   (BNPパリバ証券株式会社投資調査本部長)    中空 麻奈君

   公述人

   (法政大学キャリアデザイン学部教授)       上西 充子君

   公述人

   (全国過労死を考える家族の会代表世話人)     寺西 笑子君

   公述人

   (NPO法人日本再生プログラム推進フォーラム理事長)           藤原 直哉君

   予算委員会専門員     石上  智君

    ―――――――――――――

本日の公聴会で意見を聞いた案件

 平成三十年度一般会計予算

 平成三十年度特別会計予算

 平成三十年度政府関係機関予算


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     ――――◇―――――

河村委員長 これより会議を開きます。

 平成三十年度一般会計予算、平成三十年度特別会計予算、平成三十年度政府関係機関予算、以上三案について公聴会を開きます。

 この際、公述人各位に一言御挨拶申し上げます。

 公述人各位におかれましては、御多用の中御出席を賜りまして、まことにありがとうございます。平成三十年度総予算に対する御意見を拝聴して、予算審議の参考にいたしたいと存じますので、どうか忌憚のない御意見を賜りますようにお願い申し上げます。

 御意見をいただく順序といたしましては、まず佐藤主光公述人、次に伊藤圭一公述人、次に桑原哲也公述人、次に高橋洋一公述人の順序で、お一人二十分程度ずつ一通り御意見をお述べいただきまして、その後、委員からの質疑にお答え願いたいと存じます。

 それでは、まず佐藤公述人にお願いいたします。

佐藤公述人 おはようございます。よろしくお願いいたします。

 私の方からは、きょうお配りしております報告資料に基づきまして、まずは平成三十年度予算について、それから、続きまして、残された課題としまして、財政再建の問題について取り上げさせていただきたいと思います。

 最初の方に、本日の報告の概要として三点挙げさせていただいております。一点目は、平成三十年度予算にかかわるお話ですけれども、量とかマクロと書いていますが、全体としての評価。それから二番目が、質、ミクロと書いていますけれども、予算の効率的な配分に関する評価ということになります。最後の三点目が、今申し上げました、残された課題といたしまして財政再建を取り上げさせていただくということになります。

 まず、量に対する評価ということになりますけれども、いろいろな評価があるとは思うんですが、全体として言えるのは、人づくり革命とか、それから生産性革命といった新たな財政需要に対応しながらも、当初目標として掲げていた、例えば、社会保障に関しましては三年間で一・五兆円の伸びにとどめるとか、一般歳出でも一・六兆円程度にとどめるといった、当初の目標はある程度実現することができた、そういう評価になるかと思います。

 二番目のミクロに関してになりますけれども、これは、私自身、今、内閣府さんの経済・財政一体改革委員会の方に参加させていただいているんですけれども、そこで出てきていますのが、やはりワイズスペンディング、つまり、歳出の効率化ですかね、めり張りのある予算配分に向けたボトムアップの改革というのが推し進められているところであります。

 具体的にそこで強調されているのが、後で紹介させていただきますけれども、見える化、つまり、今の財政状況あるいは現状、地域間での違いといったものを明らかにしていくということを通じて改革マインドを醸成させていくという、そういったことが狙いになっているわけです。

 あと、これも最近の流行語になってきていますけれども、EBPMといいますけれども、証拠に基づく、つまり、しっかりとしたデータに基づく政策形成というのをしていこうという、そういったこともこの一体改革の中では強調されているものであります。

 最後の、残された課題というところですけれども、やはり長い目で見て、我が国の財政状況というのは逼迫しているわけであります。御案内のとおり、高齢化に伴い社会保障も増加を続けているわけでありますので、やはりここは、せっかく経済状況もよいときでありますので、堅実な、着実な財政の健全化を進めていくべきではないかということ、その点についてきょう述べさせていただければというふうに思います。

 一枚おめくりいただきまして、では、平成三十年度予算の全体像、マクロに関してですけれども、これはもう言うまでもないことですけれども、歳出、金額自体は九十七兆円と非常に大きな規模になってはいるんですが、それは高齢化に伴う社会保障の増加とかもありますので。

 そういう中におきまして、経済・財政再生計画の目安であります、三年間で社会保障関係は一・五兆円、それから一般歳出では一・六兆円の伸びに抑えるという、この目標は何とか達成できているということ。それから、全体として経済が好調だということもありまして、国債の発行額も減少、プライマリーバランスも改善の方向にあるということなんだと思います。

 特に、今回評価させていただきたいのは診療報酬の改定のところでありまして、本体部分はプラスになりましたけれども、薬価については大幅なマイナスということで、全体として診療報酬の伸びを抑えることができた。これが社会保障関係費の伸びの抑制につながったということになるのかと思います。

 次をめくっていただきますと、そこにマクロとミクロという項目が出てくると思うんですが、小さいページで申しわけないですが、五ページというところですけれども、ここまでの話が歳出の全体の話ですけれども、ここから私、特にきょう時間をかけてお話しさせていただきたいのがこのミクロの部分でありまして、財政のまさに構造改革と言われるものであります。

 歳出の伸びを抑える、つまり、三年間で社会保障関係費を一・五兆円の伸びに抑えるというのがある種の数値目標とすれば、いかに赤字をつくらない体質に財政を転換していくか、これが財政の構造改革に当たるということになるわけです。

 具体的に、では、どのようにしてこの財政の構造改革を進めていくのかということで、今政府が取り組んでいるのが経済・財政一体改革ということであります。その中においても、特に歳出改革という言葉で語られることが多いですが、それが六ページのところに、今回の予算編成の基本方針というところでもちょっと述べさせていただいているとおりです。

 一ページめくっていただいた方がよろしいかと思うんですけれども、歳出改革といたしまして、経済・財政一体改革におきましては、社会保障につきましては、例えば、薬価制度の見直しであるとか、あと、かかりつけ医の普及といったもの、これによって、全体として社会保障のめり張りのある配分を進めていこうということになります。そういうことを唱えておりますし、社会資本整備に関しては、PFI、特に上下水道、この後もうちょっと議論があるかもしれませんが、上下水道のPFIを特に進めていきたい、そういう狙いがあります。

 それから、私自身は地方財政の専門家でありますけれども、地方行政改革の中におきましては、トップランナー方式といいますけれども、地方交付税の算定におきまして、従来は、自治体が行政サービスを丸抱えしていることを前提に交付税の基準財政需要を算定していた、必要経費を見積もっていたわけですが、これを、民間委託とか指定管理者制度とか、こういったより効率的な運営、これを前提にした算定に変えていこう、そういうのがこのトップランナー方式ということになるわけです。

 こういった個別分野における効率化を進めていくというのが、経済・財政一体改革の中における歳出改革ということになるわけであります。

 御案内のとおり、この歳出改革、実は、その下のスライドにありますとおり三つの柱から成っておりまして、公共サービスの産業化、まさにこれがPFI、PPPの推進を含むものであります。

 それから、インセンティブ改革、今申し上げたトップランナー方式であるとか見える化を通じて、頑張る自治体や頑張る当事者たちを応援する、そういう仕組みづくりをしていこうということになります。

 最後のところにイノベーションというのが出てくると思うんですが、公共サービスのイノベーションというのは、まさにこの見える化を通じて現状を明らかにして改革マインドを醸成しようということ、そして、きちんとエビデンスに基づいてPDCA、政策評価を回していこう、こういったものが歳出改革の三つの大きな柱になるということになります。

 裏面をめくっていただきますと、九ページのところで、参考までにという形で一体改革の特徴というのを取り上げています。

 時間に限りがありますので要点だけ申し上げますと、従来の財政再建との違いは、やはりまずは、ボトムアップであるということ、現場の創意工夫を促す仕組み。例えば、地方創生などはその一つだと思います。それから、現場の頑張りを引き出すということ。それから、最終的にはワイズスペンディングにつなげていく、それが改革の狙いとして挙げられているということなんだと思います。

 見える化、見える化と言われてもなかなかぴんとこないところもあるんですけれども、見える化というのは何かというと、例えば、住民一人当たりの医療費とか住民一人当たりの後発医薬品の普及であるとか、あるいは自治体のPFI、PPPの取組状況とか民間委託の進捗状況とか、こういったものを地域間で比較できるようにする。

 もちろん、東京と北海道というのは全く経済状況が違うわけですから、これ自体の比較に意味はありませんけれども、類似団体、近隣自治体であるとか、人口規模や経済力、財政力が似通った自治体同士での比較を通じて、これは地方自治体の方々に対するアピールが主なんですけれども、やはり自分たちの取組が、これまでの取組が今のままでいいのかどうかということについて問題意識を持ってもらう。ある意味、自分たちの抱えている課題、こういったものに気づいてもらう。課題に気づけば課題に取り組む、そういうインセンティブになりますので、改革が進みやすいということになるわけです。

 見える化を通じて何をしたいかといいますと、私が理解する限りは、やはり上から言われたから改革をするのではなくて、自分たちで問題意識を持ったから、課題発見したから、それの課題解決に向けて取り組む、そういう形で財政の歳出の効率化を進めていきたいというのが、この見える化の最終的な狙いなんだと思います。

 もちろん、住民に対する、あるいは国民に対する説明責任を果たすというのもあります。従来、行政サービスの水準とか財政の現状というのは、なかなか国民の目には見えないところがあったわけですので、そういったものも明らかにしていくということなんだと思います。

 このあたり、今、内閣府の方でもホームページでデータベースの整備を進めていますが、入院日数であるとか、あるいは病床数とか、かなり顕著に自治体間あるいは地域間での違いというのも明らかになっておりますので、それらを改革の原動力、推進力にしていくということになるのだと思います。

 裏面をめくっていただきますと、あとは簡単になんですが、優良事例というのもあります。

 いろいろな自治体さん、これはまさに自治体さんの話になりますけれども、自治体はかなりいろいろな取組をしておりまして、私がちょっとかかわっているのが町田市なんですけれども、東京都の町田市などは業務改革などを率先して進めておりますし、あとICTの利用を進めている、そういう自治体さんもあります。かなり、そういう優良事例を横展開していくという点においても、この見える化、現状を明らかにしていくというのが役に立つのかなというふうに思うわけです。

 それから、ことしに入ってといいますか、今年度と言うべきですね、特に重視され始めているのがEBPMであります。エビデンスに基づいて物を考えていこう、エビデンスに基づいて政策を形成していこうというのがまさにEBPMということになるんですけれども、そのための統計改革、そういったものを含めてデータベースの整備といったことも進めていくということになるんだと思います。

 さて、最後に、私の方で強調させていただきたい、かつ、きょうの多分論点になると思うのは、やはり財政再建というところだと思います。

 裏面の方の、小さい字で十三ページというところからになりますけれども、二〇二〇年度のプライマリーバランスの黒字化目標というのは残念ながら未達成になると思いますけれども、やはり着実に財政を健全化させていくというのは、これは急務なんだというふうに思います。

 特に、その下の図で描いている、よくワニの口なんというふうにやゆされますが、歳出と税収の乖離というのが、これは国の一般会計ですけれども、歳出と税収の乖離というのを、これを将来的に埋めていく、正確にはプライマリーバランスを黒字化させていく、そういう方向で財政再建を進めていくというのは、やはり、日本のこれからの社会保障の持続可能性、それから、人づくり革命なんてせっかく言っているわけですから、未来への投資というのを着実に実行させていくという点においても、やはり必要なんだというふうに思います。

 財政の健全化というときに、これも申し上げなきゃいけないのは、なぜ必要かというときに、理由は二つあると思うんですね。

 一つは、やはり将来にさまざまな選択肢を残していくことです。借金がたまっていて借金で首が回らないという状況を未来に残すということは、未来の世代が、自分たちの創意工夫に基づいて予算とか財政をマネージできないということになります。やはり未来の世代に対して機会を、彼らが、自分自身の国のあり方、財政のあり方を決める、あるいは社会保障のあり方を決める、そういう機会を残しておくということは必要なんだと思います。

 もう一つは、実は、やはり、最近言われる南海トラフも含めて、大規模自然災害と言うべきですね、台風もあり得ますので、大規模自然災害、あるいはリーマン・ショックのような経済危機、そういった緊急事態に対して柔軟に対応できる、その余地、バッファーを残しておくということなんだと思うんですね。

 なぜ借金を返済しなきゃいけないか、財政をなぜ健全化しなきゃいけないかというと、実は将来借金をするためであるという考え方もあるわけなんです。借金がたまっている状況で、追加的に、今一千兆円を超えていますので、国の借金は、それでさらなる借金を、大規模災害の後、あるいは経済危機、あるいは地勢的なリスク、危機の後にやろうと思ってもなかなか難しいわけですので、ある程度借金をコントロールできる、自分たちの日本経済の身の丈に合うレベルに合わせておくということが必要なのかなというふうに思います。

 ちょっと裏面をめくっていただきますと、十五ページの上の方にあるのは基礎的財政収支の推移です。これは内閣府さんが出しているものですので、これは参考までになんですが。

 といいながらなんですが、なかなか財政再建の議論が前に進まない理由としまして、大きく二つあると思うんですね。

 一つは、奇策と言うと語弊があるかもしれませんけれども、最近、痛みを伴う財政再建をしなくても財政は健全化できると。例えば、脱デフレをすれば健全化できる、あるいは日銀が国債を全部買ってくれれば健全化できるとか、あるいは何もしないと実はインフレは自然と起きるというのは、これは去年、シムズ教授という方が言って有名になっちゃいましたけれども、何かそういう奇策にちょっと飛びつくところがあって、私は、別にこういう考え方を一〇〇%否定をする気はないんですけれども、しかし、我々はギャンブルをやっていいかということだけはやはり問われると思うんですね。

 私が申し上げたいのは、堅実な財政再建を進めていくということなんだと思います。経済成長に頼る、あるいはインフレに頼るというと変ですけれども、そういったものはある種ギャンブル的な要素を含みますので、そこはある意味、堅実な財政再建にはならないのかなというふうに思います。

 では、堅実な財政再建とは何ですかというと、結局、自分たちがコントロールできるものは何かを考える必要があると思うんですね。つまり、国として決められるもの、それは例えば、消費税率は国が決められる、歳出の規模は国が決められるわけです。つまり、プライマリーバランスは国が決められるんですね。ですから、自分たちが決められる手段を講じて財政再建をしていく、これが堅実な財政再建というものになるのかなというふうに思います。

 時間が限られておりますので、ちょっと次を飛ばして、最後のページというか、済みません、小さいページで十九とか二十と書いているところで、財政再建を進めていく上の留意点としての二点目を挙げさせていただきたいと思うんですけれども、やはり格差の問題です。

 財政再建、それはヨーロッパの経験を踏まえても、緊縮財政が社会的な弱者の切捨てにつながっては、これは、財政再建に対する政治的な支持を損ねるだけではなく、社会の分断を招くという点において、あるいはポピュリズムの台頭を招くという点においては、全く望ましくないわけであります。

 したがって、この財政再建とあわせて我々が粛々と行うべきは、日本のセーフティーネットの改革ということになります。

 具体的にと言われると、例えば、社会保障におきましてはよく言われるんですが、これまでの年齢別の支援体制から、能力別、つまり、困っている人への支援体制。つまり、例えば若い世代であっても、所得が低い、ワーキングプアの方々に対する支援とか、母子世帯あるいは子育て世帯に対する支援といった形で、やはり本当の社会的な弱者に対する支援というのは、これは財政再建とあわせて行っていくべきものなんだというふうに思うんですね。

 この国というのは、どうも成長を志向すると成長ばかりになるし、財政再建を言うと財政再建ばかりの議論になるし、再分配の話をするとなぜか再分配ばっかり言うんですけれども、三つは同時にやらなきゃいけないこと、どれかを選択してやることではなく、同時に進めるべきことなんだというふうに思います。

 冒頭で紹介した経済・財政一体改革の狙いも、決して財政再建だけが狙いではなく、やはり経済の成長と両立させるというのがまさに一体改革の趣旨ということにもなります。やはり再分配の強化というのと財政再建というもの、これもあわせて実施していくということ、これを我々は留意するべきことだと思います。

 それとの関連でいきますと、その上の方の段落にありますけれども、平成三十年度の税制改正におきまして、これは税制の話になりますけれども、個人所得税につきましては、基礎控除の拡充とあわせて、給与所得控除の引下げ、公的年金等控除の縮減といった措置が図られております。

 もちろん、新しいライフスタイルというか、フリーランスの方々を含めた新しい働き方に対応した税制改正という面もありますけれども、基礎控除の拡充とかそういったところは、特に再分配機能の強化というのも所得税改革の柱でありますので、再分配機能の強化というのも念頭にあるということなんだというふうに御理解いただければと思います。

 時間になりましたので、私の話は以上でありますけれども、今回の平成三十年度の予算、総じて言えば、まず、財政再建に向けた一歩なんだというふうに思います。やはり歳出の伸びを抑えられたというのは、これはかなり評価するべき点だと思います。

 ただ、これから問われてくるのはその歳出の中身でありまして、めり張りのある、いわゆるワイズスペンディングにつながるような歳出改革を進めていくということ。その中におきまして、特に地方自治体に対する働きかけということになるんですけれども、見える化改革というのは非常に肝になると思います。で、最終的に我々は堅実な財政再建を進めていくべきではないかということ。

 それをもちまして、私の報告とさせていただきます。御清聴ありがとうございました。(拍手)

河村委員長 佐藤公述人、ありがとうございました。

 次に、伊藤公述人にお願いいたします。

伊藤公述人 全国労働組合総連合、全労連で労働法制を担当しております伊藤と申します。

 本日は、このような発言の場を与えていただきまして、まことにありがとうございます。

 この国会、働き方改革国会という位置づけもされております。予算委員会におかれましても既にこの働き方に関する課題でかなり活発なやりとりがなされている、それを承知しております。

 私といたしましては、この予算委員会の場ではありますけれども、経済政策の柱としても政府が働き方の問題を非常に重視している、このことについては非常に重要だと思っておりまして、全労連としての考え方を申し上げさせていただきたいと思います。

 まず、労働者の状態の悪化、それこそが国民経済の持続的な発展の足かせであって、経済再生を阻む大きな要因となっている、そういうことを申し上げたいと思います。

 お手元の資料を一枚めくっていただきまして、資料の一というところに賃金に関するグラフを持ってまいりました。これは賃金の変動の推移を国際比較したものであります。

 よく知られていることではありますけれども、日本の場合、平均賃金が過去最高に高かったのは一九九七年と言われております。それ以降、物価の変動も加味した実質の賃金の変動、これを見ておりますけれども、日本の場合はこの間ずっと抑制基調にある。消費者物価もデフレ基調で来たとは言われていますが、賃金の伸びがそれを下回ってきたということであります。現在におかれましては引き続き一〇%下回り、一〇%ポイントは満たないという状況であります。もとに戻らないという状況であります。

 諸外国を見ますと、インフレ基調で物価は進んでおりましたけれども、賃金の上昇率はそれを上回っておりまして、ドイツ、アメリカを見ましても一五%、一六%増、フランス、イギリスを見ましても二五%を超える実質賃金の上昇を見ているということであります。

 これは殊さら賃金がうまくいっている国だけを並べているのではなく、OECD、多くの国の統計を発表しておりますけれども、実は日本だけこういう特異な状況にある、異常な状態にあるということをまず御認識いただきたいと思っております。

 資料の第二、これは賃金の変動だけを見ておりますので、水準はどうかという御疑問もあるかと思います。これにつきまして、資料の二では、賃金の年収ベースでの推計、比較をしたものを出しております。

 これはフルタイムに換算した場合ということになりますけれども、一九九七年、日本はOECDの平均よりも高い賃金水準を示しておりました。ドル表示でいいまして三万六千二百四十九ドルということが購買力平価換算で比較できております。これが、二〇一五年になりますと位置が下がります。実額としても、ドルベースで見て三万五千七百八十ドルと下がっております。

 先ほど、実質賃金の変化、これは名目賃金も下がってきたということでありますが、そこからもわかるとおり、唯一実額として労働者の収入が落ちているというのが日本だということです。これは経済政策を考える上においても極めて深刻な事態だと私は思います。

 その背景に何があるのか。労働組合として申し上げるのは、みずから自責の念も感じるところでありますが、組織率が低下をしている、春闘における賃金改善の取組がなかなか広がりを持たない、こうしたこともあります。ですが、より大きな問題として言えるのは、不安定な雇用、不合理な処遇格差のもとで働く非正規雇用の方々が非常にふえているということであります。

 一九九七年には一千百五十二万人、雇用労働者に占める割合で二割強でありましたけれども、昨年の数字を見ますと二千二十三万人、四割弱と、倍加しているということであります。

 四割の方が、不安定な就労、いつ雇いどめされるか、そういう気持ちを抱きながら働いている。これでは、例えば労働組合をつくるだとか、そういう交渉力を発揮しようとしても、次の契約更新、これを盾にとられて、何も行動ができない、要求の声を上げられない、こういう状態に置かれているのであります。

 また、その賃金、労働条件、これが低いということも大きな問題で、先ほど言った全体の賃金水準を下げることにも影響をしております。

 正社員と同じ仕事をこなしている非正規の方はどんどんふえております。基幹的労働として位置づけられておりますけれども、同じ仕事をしながら二分の一あるいは三分の一の賃金で働くということになります。

 労働組合としては、よく、正規、非正規のこの格差是正、どこまで真剣なのか、こんな批判も出るところでありますが、今や全労働組合は非正規の処遇改善に向けて真剣に取り組んでおります。なぜなら、これは正社員だけの、正社員が差別をされたそういう人たちを救ってあげる、そういう取組ではなく、みずからの仕事の価値が二分の一、三分の一にダンピングされる、そういう効果を発揮しているものとして不安定雇用が活用されているからであります。

 三点目。賃金だけではなく、長時間過密労働、健康への配慮に欠けた夜勤交代制など、過酷な労働条件、環境のもとで働く、そういう労働者も多いわけです。心身の健康を損なう人、過労死、過労自死に至る人もいまだに後を絶ちません。

 脳、心臓疾患による過労死の労災請求件数で見ますと、過労死防止対策が強く言われるようになったこの三年ほどを見ましても、毎年二百五十件前後あります。過労自殺の請求件数、これも二百件ほどあります。その全てが認定されるわけではないですが、実際、亡くなってしまったという、これを訴える件数がこれだけあるということであります。

 こういう労働者の状態、まだほかにもいろいろ指標はあると思いますけれども、これを見てみますと、消費の活性化は進まないだろうと。それから、働くことにおいて、十分な休養をして、十全な体調で臨んで能力発揮をする、このことができない労働者も非常に多い。ここについて、ぜひ御理解いただきたいと思います。

 ヒヤリ・ハットという言葉がありますが、本当に仕事の最中に一瞬気を失ってしまう、そんなドライバーは少なくないよ、看護師さんは少なくないよ、こんな話が現場からはよく聞こえます。皆さん、周りの人も含めた命にかかわるところで労働者の疲弊というものが重大な事故も起こしかねない、こういう状態にあります。

 こんな中で、私はやはり、企業業績の向上、これも進まないだろうということを考えるわけです。働く者の人権の視点、これだけではなくて、経済政策としても、こうした労働者状態の悪化を改善するということは待ったなしだと思います。

 こうした中で、このほど政府は働き方改革というものを打ち出しております。長時間労働の是正、同一労働同一賃金によって非正規雇用労働者の待遇を改善する、この政府のメッセージは、実は私どもの職場の組合員にも非常に前向きに受けとめられておりました。多くの労働者に響いたと思っております。

 この間、働き方の問題の解決、労使関係で改善しようと我々も努力をしておりますけれども、やはり、労働法制の規制強化、監督行政の強化、それから、各産業界の業界ごとの取引慣行ですとか、そうしたものの見直しもなければなかなか進まない。国の関与は必要である、まさに労働条件、雇用を改善しようとして奮闘している労働組合の当事者として、そうしたことをみんな痛感しているからであります。

 しかし、この期待感が、この一年半、期待を持って注目をしてきた働き方改革ですが、極めて残念ながら、関連法案が出されますけれども、私たちの期待を裏切るものだと言わざるを得ません。率直に申しまして、この法案、部分的に改正と見える部分があるにもかかわらず、原案のままでは労働者の命と健康と生活に悪影響を及ぼす、そして持続可能な経済社会の構築にもマイナスを与える、こう危惧するところであります。

 労働者の期待を集めた長時間労働の是正ですとか同一労働同一賃金、こういった改革のメッセージとこの具体的な法案の内容が、どうしてこれほどずれが生じるのか。

 実は、これは私どもは疑問に思っておりましたが、この間、予算委員会で議論をされました裁量労働制と八時間労働制を比較したデータの問題、データの推計の仕方も比較の仕方も非常に誤ったでたらめなデータ、これで認識が整っていたのではないかということです。

 これはショックではありましたが、そこから見えてきましたのは、提案している法制度のもとで何が起きるのか、実態を誤認されたまま法制度論議が進められたのではないか、そういうことであります。

 成長と分配の好循環を実現する、予算案にもうたわれたこの方針。働き方改革関連法案はその方針にも有害ではないか、そのように考えます。

 法案につきましては、やはり再度、労働政策審議会のもとで丁寧に実態を把握する、事実誤認がないか、統計の数字もそうですが、きちんと議論をされていない、現場で何が起きるのか、何が起きているのか、こういうことを審議する作業から行うべきと考えます。

 法案にかかわっての問題点としましては、お手元の資料三ページ目をめくっていただけますでしょうか。焦点となっております労働時間の中でも、裁量労働制についての図を示しております。

 この一カ月の実労働時間につきましては、与野党でいろんなやりとりがあったと思いますが、裁量労働制でも短く働いている人はいるんだよ、平均的なもので見れば短いというこの観点につきましては撤回をされました。

 今、信頼に足るデータとしては、JILPT、労働政策研修研究機構の裁量労働制等の労働時間制度に関する調査、二〇一四年六月、これがあるわけです。この帯グラフを見ていただくとわかりますとおり、裁量労働制で働く方々の方が、長時間労働の傾向は、明確に長いというものが読み取れると思います。また、長時間で働きながらも残業見合いの手当をもらっていない、こういうこともここからわかると思います。

 なぜこうしたことになるのか。あらかじめ一定の労働時間を働いたものとみなす、この制度が問題であります。一定の時間働いたとみなし、そして、表向き、進める側においては、これは個々人の裁量で、早く仕事が終われば早く帰ってもいいよ、こういう話もされるわけですが、グラフから明らかなとおり、そうしたことができる労働者は多くはありません。

 考えてみれば、人事権も、それから、業務量をコントロールする、納期を、決裁を例えばずらすだとか、そうした権限もない普通の雇用労働者は、実労働時間管理を行われない中でこのみなし時間というものを適用される。しかも、それが割増し賃金を払わないでも使われてしまうということになれば、当然使用者としては、これはもう定額働かせ放題という制度に映るということであります。ここをぜひお酌み取りいただきたいということであります。

 具体的な実例を申し上げたいと思います。四ページ目をちょっとごらんいただけますでしょうか。この一を紹介したいと思います。なぜこういうことになるのか、具体的なメカニズムを私たちは御紹介したいと思います。

 これはシステムエンジニアのケースでありますが、会社としては、勤務規定には、業務遂行にかかわる時間配分については個人の裁量に委ねる、こう明記もしつつ、とはいえ、始業、終業時刻についてはフレックスタイム制に準ずるということで、十時から三時までの勤務は縛るということであります。

 ここでは、裁量労働制の労働者は、十時出勤を義務づけられているので十時には行く、しかし終わるのは、一日七時間四十五分とされているみなし労働時間ではなく、二十三時まで連日働いているということであります。そして、連日不払い残業が発生しているということであります。

 当然、労働者の勤務状況の把握、これはされているんですが、自己申告である。正直な申告をして、みなし労働時間が短過ぎるよ、実態とずれているよ、こうしたことは言えないんですか、こう質問しましたところ、それはできないと言うんです。

 それは、長時間労働をしているということになると、裁量を与えているのに自分の裁量内で仕事がこなせていない、こうみなされて評価を落とす、そうしてしまうと、業務改善プログラム、PIPというものにかけられて、通常業務に加えてさらなるノルマが課されてしまう、そしてより苦しい状況に追い込まれる、目標が達成できないと降格、減給、最後は退職勧奨の対象にもなる、このようなことであります。

 要は、労働時間制度だけ法律上いろんなたてつけをしましても、現場では、こうした人事制度とセットとされることによって、ほぼ、制度設計をする側が意図しないような効果が出てしまうということであります。

 これをもちまして、やはり裁量労働については、現場で何が起きるかということを十分把握の上で検討していただきたいということであります。

 二点目です。

 五ページ目にありますが、同じく、高度プロフェッショナル制度、これにかかわりましても、やはり、労働時間規制を雇用労働者に対して外してしまう、裁量労働制の更に上を行くようなものであります。労働者保護法制たる労働基準法の趣旨に反しておりまして、究極の働かせ放題となるということであります。

 五ページ目に一例を書いておりましたが、これはもう今は実行されておりませんが、法制度上の要件を満たしてもこんなことになるということを示しております。

 これは、年間百四日の休日を与えるという要件と、あと健康確保措置というものが幾つかありますが、最も緩いケースで計算をしますと、一日二十四時間、二百五十六日労働をさせる、年間六千時間を超えるような労働をさせても違法ではないということです。もちろん、人間、こんなに働くことはできませんけれども、これが違法ではないということが問題だと私たちは考えております。

 加えて、裁量労働制については、裁量を与えるから始業、終業について指揮命令してはいけない、こういう規制がかかっておりますが、高度プロフェッショナル制度につきましては、始終業時刻を指定するような、そういう命令を禁止するという条項すらありません。

 例えば、月曜日の朝から来て土曜日まで連日二十四時間働けという業務命令が違法ではない、しかも、これについて深夜割増しも何もかからない、こういう制度であります。これは法律構成上の瑕疵ではないかと我々は考えております。ぜひこの制度についても撤回、廃案を求めたいと思っております。

 六ページ目をごらんください。今回、上限規制を初めて導入するということであります。これは労働組合もずっと要望をしてきたことでありますから、それについては改正であると言いたいところではありますけれども、制度設計上、極めて忙しい一カ月については、先生方御承知のとおり、百時間未満、そして二から六カ月の各月を平均したものは八十時間という上限をつけるということであります。

 六ページ目の中ごろにあるものは脳、心臓疾患の時間外労働時間数別に見た労災の支給決定件数ですが、ぱっと見ていただいてわかるとおり、六十時間以上、それから百時間未満、このところで過労死をされて労災認定されている案件は極めて多いです。今回の上限規制案では、このように過労死が発生してしまうということであります。これをどう見るかということであります。

 従来、過労死認定、過労死に関する損害賠償の裁判が行われておりますが、六ページ目の下に二例挙げておりますが、ザ・ウィンザー・ホテルインターナショナル札幌高裁判決、それから穂波事件岐阜地裁判決、これ等を見ますと、月九十時間台、八十時間台でも、このような時間外労働を義務づけるような労使合意というのは安全配慮義務に反する、公序良俗に反する、極めて厳しいこういう判決が出ております。

 ですが、今後、労働基準法で百時間未満、八十時間までオーケーというものが書かれてしまうと、使用者としては、我々としては遵法精神のもと合法的な範囲で時間外を命じた、その中で不幸にして御本人が弱いから亡くなってしまった、こういう発言が出るのではないかと思うわけです。当然、裁判官にも、判決に一定の影響が及ぶのではないか、私たちはこう考えます。

 ぜひとも、過労死が起きるような上限ではせっかくの上限規制が泣いてしまうという現場の声をお聞き入れいただきたいと思います。

 加えて、七ページ目を見ていただきますと、今既に三六協定の時間外についての改悪提案が、労働組合を持っている我々のもとでも、使用者側から出されております。これは何かといいますと、政府案を既に先取りをする、百時間未満というのがもう考えられているよ、半年、各月八十時間でもいいよ、我々の三六協定もそうしようではないか、こんな話が出るわけです。

 下のグラフからわかるとおり、時間外労働の上限について、百時間を超えるようなものを設定しているというのは一・二%にすぎません。八十時間超で見ましても五%弱です。

 ほんのわずかなところについては上限を百までという高どまりで若干是正させる効果はありますが、より短く労使で合意をして時間外を抑えてきた、そういうところについては、むしろ労基法を盾に百までオーケーだよという改悪提案を招いている、これが昨年の春闘でも提案されている、こういう事態であります。

 実際、法律が通りましたら本当に悪影響が広がるのではないか、むしろ長時間労働が蔓延する事態を招くのではないか、このような懸念を持っております。

 お手元の発言の要旨としましては、ほかにも、働き方改革にかかわって、同一労働同一賃金、これも本当に非正規の皆さんは大いに期待をしたわけですけれども、実はそれが実現されないということも書いております。

 ここにつきましては九ページ目にありますが、今回の法案では、残念ながら、将来の転勤の可能性ですとかそういったものを理由に、今同じ仕事をして同じ職責を担っている正規労働者、非正規労働者であっても、今同じであっても将来の展望が使用者から見て違うから賃金格差をつけていいよと、この差別構造を温存させるような法律となっております。

 これは、今の労働契約法、パート法の欠陥であります。この欠陥をそのまま生かしたようなものでは働き方改革にはなりません。また、ましてや、同一労働同一賃金という大きなテーマで労働者の期待を集めたこの法案の趣旨が生きないということであります。

 時間が参りましたので、ほかにも多々申し上げたいところはありましたが、重点的には、労働時間、同一労働同一賃金のところをこの発言のところでは申し上げまして、私たちの要望とさせていただきます。

 どうもありがとうございました。(拍手)

河村委員長 伊藤公述人、ありがとうございました。

 次に、桑原公述人にお願いいたします。

桑原公述人 社会福祉法人桑の実会の理事長をしております桑原と申します。

 本日は、公聴会というこの場をおかりしまして、私、公述人という初めての大役を務めさせていただきますが、どうぞよろしくお願いいたします。

 まず最初に皆様に、社会福祉法人の代表でもあるわけですけれども、ブルーのパンフレットをごらんいただきたいと思います。

 私ども、所沢で、介護、保育、医療という法人で、保育園でいいますと、本当に駅型保育から、また通常の認可保育園、そしてまた、最近では企業主導型又は地域開放型小規模保育園を、自衛隊の中目黒とか入間航空自衛隊とか、そういうところでも小規模保育をやらせていただいております。

 そういう中で、桑の実会、四十年の歴史がある中でありますが、もともと社会福祉法人というのは、基本財産をもとにしてつくられた法人でございます。私の父が先代でありますが、自分の家屋敷を売り払って土地を購入して、そこから四十人という小さな保育園を埼玉県所沢でつくったのが最初でございました。どうぞ、後でまたごらんいただきたいと思います。

 本日は、このような場をおかりしまして、福祉人材の処遇改善の見直し、二つ目に福祉人材の確保の抜本的な強化、三番目に地域共生社会の主導的な役割を果たす社会福祉法人への支援、そして社会保障、社会福祉制度の拡大のための恒久的な財源の確保、皆様の資料がお手元にあると思いますが、この四点にわたって述べさせていただきたい、このように思っております。

 先ほども申し上げましたが、社会福祉法人は、二万数千の法人が、介護、保育そして障害等々の事業をやっております。私が属している全国経営者協議会というのがありますが、そこでも七千法人の人たちが加盟して、いろいろな施策を国と連動しながらやっております。

 そういう意味で、今回の三十年度予算においては、介護それから障害の同時改定、医療も含めた同時改定がございました。微増という形で終わりましたことについては、財政が大変な中、皆様のお力で、微増という形ですけれども、していただいたことには胸をなでおろしているというのが率直な感想でございます。

 しかしながら、これからの時代を考えていきますと、財政の問題それから子供たちの問題、教育の無償化の問題等々を考えていきますと、若干ではありますが、私見の意見も述べさせていただきたい、このように思います。

 皆様の、まず一枚目の、福祉人材処遇改善の見直しであります。

 子育て、介護、障害、各分野における職員の処遇改善、これは加算と言われております。それぞれに一定の処遇改善は図られております。保育においても介護においても、貴重な財源が直接働く人への給付として、改善として配られております。加算されております。

 しかしながら、各分野においての仕組みが異なり、かつ、職種が限定されております。そのことから、そこに書いてありますのは一番ですけれども、法人内の事業所内格差、法人内ですから、私どもでいいますと、保育園の先生、介護でやる介護士さん、又は看護師さん、事務クラーク、それから理学療法士、作業療法士、コメディカルの方々がそれぞれ、障害分野も含めてですけれども、事業所内である。しかしながら、あそこではこれだけもらってこっちではもらえないのかとか、この職種には出るけれどもこの職種には出ないのかとか、こういう問題がこの事業所内格差ということで生じているのも現実、事実でございます。

 その意味で、次の職種間の格差というのは、今申し上げた職種という部分においてであります。

 これが、法人全体で経営をしていくという、今、社会福祉法の改正に伴いまして、社会福祉法人が自立した経営をしていくためにはどうしたらいいかということを私どもも考えております。そういう意味で、私も経営者の一人でありますが、現場の経営者として、ちょっと赤字で書いてありますが、職員の処遇改善費用については、その配分に関する法人の裁量を認めていただきたい、その必要性があるということを述べさせていただいております。

 よく、言葉で言いますと、経営品質という言葉があります。経営とは、経営者だけが経営しているわけではない、現場の保育園の先生、介護の人、それぞれの人がチームとして、介護報酬、保育報酬、それから障害者の支援費その他の報酬を、トータルとして、それを経営資源として配分していく、この裁量というものを認めていただかないと、経営していくということにはならないなというのは私の痛感しているところでございます。

 それから、もう一つここにつけ加えさせていただきますと、最近では、都道府県、特に首都圏でありますが、東京を中心とする、埼玉、神奈川、又は横浜、政令都市のさいたま市、それぞれの地域間格差、又は市町村格差、これが生じております。要するに、特に保育園の先生が多いですけれども、あそこでは家賃補助制度は出るけれども、こっちでは家賃補助制度は出ない。あっちでは処遇改善交付金、いわゆるキャリアパスをすることによっての費用が積み増し、国以上に、市町村又は政令都市が積み増しをしております。それによって、もう完全なコントロール不能状態に今入っているんじゃないかなと思うぐらいであります。

 そういう意味で、経営というのは、私どもが主体的に、PDCAサイクルですね、従業員満足度、まずは従業員満足度だと思っています、そして利用者満足度、そして経営満足度をこのPDCAサイクルで回していくというのが次だと思っております。

 済みません、二ページ目に行きます。

 福祉人材の確保の政策の抜本的な強化であります。

 福祉人材の確保に向けては、福祉の仕事、現場のイメージアップ、これはぜひお願いしたいことが一つあります。国策にできないでしょうか。要するに、イメージアップなんです。

 以前は、きつい、汚い、臭いとか、三Kと言われる仕事だ、そういう現場で働くところに、保護者として、親として、学校として行かせない、稼いでも稼げない、そういう問題が、昔の報道によって浸透しちゃっています。これを何とか払拭したい。そういう意味で、次の希望があり、感謝があり、感謝される、輝く三Kにしたい。やはり、福祉の仕事をして、本当に喜ばれるし、自分もやっていてよかった、そして、それが輝く社会へ、自分も一員として頑張っていけるんだというのを、新しい国策として、イメージアップ戦略をお願いできないかな、こんなふうに思います。

 私どもも所属している全国社会福祉法人経営者協議会の福祉イメージの向上のために、皆さんのお手元にこういうものをちょっと用意しましたが、これは、学生を対象にして、次の時代を担う、介護だとか保育とか障害者施設で働く人たちを、「社会福祉HERO’S TOKYO二〇一八」という形で、三月十四日水曜日、表参道ヒルズ、スペースオー、おかずクラブを呼んで、華々しく、マスコミも含めてイメージアップしようというのを、協議会を挙げてやろうとしております。ぜひ、国会議員の皆様には、どんなことをやるのか見に来ていただければありがたいな、こんなふうに思っております。

 いずれにしても、働き方改革が今言われておる中で、このイメージアップも国策として、介護とか福祉という、私は、どちらかというと、福祉という人材として考えてほしいんですけれども、国の宝なんだと思っていただけるような国策の位置づけをできないでしょうかと思っております。

 そういう意味で、この次のダブルワークとか、こういう話が今国会でも出ておると思いますが、私ども福祉の現場からしますと、特に働き方改革は、企業で働いている方々が、自分のあいている時間、自分が勤務していない時間、週に一日でも、地域のために、又は人のために尽くせるダブルワークをできないかな、そういう観点で考えております。どうぞよろしくお願いしたいと思います。

 三番目に、次のページでありますが、地域共生社会の主導的な役割を果たす社会福祉法人への支援でございます。

 前回の国会の法制において社会福祉法人改革が行われ、私たち社会福祉法人も、自分たちみずからが、ここにあります地域公益的な取組をやっていかなきゃいけないというふうに自負をし、今現在それを進めております。

 地域公益的事業というのは、それぞれの保育園だったり障害者施設が主たる介護とか保育とか障害はやっているにしても、地域に対して自分たちで考え、主導していく、そういう公益的な取組を法律でやりなさいというふうになっております。これを今、経営者協議会としても進めていこう、これを一〇〇%どこの法人もやれるようにしていこうということでやっております。

 そしてまた、次に、三十三都道府県においてと書いてありますが、複数法人連携して地域の多様なニーズに応えていく、これももう一つのことであります。

 例えば、私ども埼玉でありますが、埼玉では、安心セーフティーネット、CSW、コミュニティーソーシャルワーカーの人たちが配置されておりますが、社協、市社協、社会福祉法人が拠出金を出して、その拠出金から生活困窮者に対するいわゆる現物給付としてそれを使っております。年間約三百件ぐらいの、困ったときの現物給付として、年額七百万円ぐらいの現物給付が行われております。

 例えば、電気がとめられる。生活保護にはまだ陥っていないけれども、次の収入が入ってくるまでの間のこの一カ月間のお金がないんだ。これを現物給付として、では、電気代の一カ月分を払いましょう。これが現物給付であります。そういう公益的な複数連携していくこともやっております。

 また、もっと小さい単位で、市町村とか我が地域、自治会の中で複数の保育園等があった場合に、そこで例えば和の食育を遂行しよう、こういうことも、所沢で幾つかの保育園が集まって、民生委員、児童委員さんを呼んだり、地域の子育てしているお母さん方を呼んで、食というのは大事なんですよということをやっております。これも複数法人の地域公益事業であります。

 その意味で、これらを実施するに当たって、皆さんのお手元の赤字にも書いてありますが、社会福祉事業の主たる担い手としての良質なサービスを安定的に提供していることを評価してほしいんです。評価するシステムをつくっていただけないかということであります。

 また、社会福祉法人の根幹をなす、先ほど言ったように、これは税制上の優遇措置というのが私どもにあります。その一方で、税制上の優遇措置を受けているからこそ社会に対しての責任を果たしなさいというのも、今言ったようなことをやっていくことで果たそうとしております。それを堅持していかないといけないなというのは私は感じております。

 これは、全ての人々に、地域の人も含めてですけれども、福祉文化の創造という形で、税制上の優遇があるからいいだとか悪いとかというのではなくて、どれだけ地域に貢献しているかということを評価する、だからこの優遇措置というのも堅持できるんだよということを国会の皆さんにも御理解いただきたいな、このように思っております。

 四ページ目の、最後でありますが、安定的な財源といいますか、社会保障、福祉制度の拡充のための恒久的な財源確保というのは、やはり私たちも思っております。

 皆さん御承知のとおり、介護報酬とか報酬改定で微増であったとしても、では、次はどうなんだとか、それから、今加算という問題でやっておりますが、加算がとれるとれない、そういう細かいことでありますが、このぐらいの厚さのあるものを、みんな目を皿のように見ながら加算をとるための要件というのをやっております。今、これから、そういう要件というのが厚生労働省から示されているところでございます。

 そういう意味で、ここで待機児童解消のための保育政策、緊急整備、これはぜひ進めていかなきゃいけない。これは国策だと思います。女性が輝く、働ける社会、人口減少に歯どめをかける意味でも、保育園というのは一つのあり方だろうなと思います。

 しかしながら、社会的な養護体制の再構築、これは教育の無償化の問題とリンクしますが、目に見えない貧困の問題が子供たちの中ではあります。相対的貧困、絶対的貧困とか言われますけれども、この目に見えない貧困。

 それから、最近、保育園では、気になる子供たちが大勢存在しております。いわゆる加配を受けないと、多動でじっとしていられない。その子供たちが、養護、養育、養護というのは守っていく、養育というのは、その子を育てていきながら小学校に接続していく。こういうことをやっていかないと、教育無償化もいいと思います、これは、そのサービスを受ける利用者であるお母さん方の世帯的な費用負担を軽減しますので、当然推進すべきだと思います。その反対で、社会的養護、養育というのを、やはり、保育の質的なものを上げるためには、ぜひその視点も入れていただきたいなと思います。

 そういうことで、教育の無償化とか社会的養護体制の強化、これは車の両輪だと僕は思います。どちらか一方がよくて、どちらか一方が悪くてということじゃないと思います。

 それから、先ほど言いましたように、子供の貧困、高齢者の虐待の問題、それから高齢者においてのみとりの問題、そういうことも含めて、多職種協同で、地域のあらゆる職種、社会資源を持つあらゆる社会福祉法人、そしてまた地域の人たちがネットワークで、両輪としていくためには、どうしてもこのことが、安定的な財源とシステムとして、財源確保とシステムとして必要だと思います。

 締めくくりの言葉になりますが、僕は、希望ある福祉文化を創造して、人と人がともに地域の中で楽しく、ともに助け合う社会を目指していかなきゃいけないな、こんなふうに思っております。

 言葉足らず、舌足らずでありましたが、発言とさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。(拍手)

河村委員長 桑原公述人、ありがとうございました。

 次に、高橋公述人にお願いいたします。

高橋公述人 嘉悦大学の高橋洋一でございます。

 本日は、このような機会を与えていただきまして、どうもありがとうございます。

 三十年度予算に関連しまして、三つほどお話をさせていただきます。

 一つは、政府のマクロ経済政策というのは雇用を中心とすべきということです。二番目、財政事情を見るには、統合政府、これは政府と中央銀行を会計的に合わせた見方ですけれども、これで見るべきことだ。三番目は、規制改革についてもっとやるべしということを話してみたいと思います。

 お手元の二ページ目の表です。

 これは非常に簡単な表なんですけれども、これで、政府の政策というのはいろいろあるんですが、全ての人に職があるということを目指すべきだというふうに思います。職があれば社会安定します。さらに、職があると、失業率で見てもいいんですけれども、失業率が低いと、自殺率は劇的に下がります。それとあと、犯罪率も下がります。社会問題の幾つかというのは、失業率を低下させることによってかなりの程度解決できると思います。

 さらに、若者にとっては、職があるということは極めて重要です。例えば、大学の就職率というのは、前年の失業率に極めてリンクします、関係します。一流大学ですと就職率はいつもいいんですけれども、実は私のところのような大学でありますと、雇用状況の影響をもろに受けます。正直申し上げまして、五、六年前は就職が非常に大変でありました。ただし、今はどうかというと、ほぼ全員が就職できるようになっております。

 はっきり言いまして、教師の私が言うのも変なんですが、この五年間でうちの学生の学力の向上は全くありません。ただ、アベノミクスで、異次元緩和で金融緩和して、その結果、予想されたとおり失業率が下がったという、それだけです。学生というのは自分たちの実力でないということをよく知っております。ですから、そういう意味では、就職というのは学生の最大関心事なので、今の政権の支持率が高いというのは、これでかなり説明できると思います。

 このように、金融政策を中心とするマクロ経済政策が雇用であるということは、実は世界の常識です。日本ではほとんどこれが議論されていませんで、不思議でしようがないです。これは実は、正直申し上げて、世界では左派政党が先に主張しておりますけれども、右派政党も全部ついております。日本では、これは不思議だった、政治学的におもしろいんですけれども、安倍政権で最初に始めたというのは極めて興味深い話であります。それでいい結果を出しております。

 一部は、金融政策を否定します。金融緩和を否定しますね。これは世界から見れば、雇用の確保を無視しているという話なので、かなり理解不能な話であります。マクロ政策で雇用の確保に熱心でない政党というか一部の人が労働法制で非常に細かい話をするというのは、私から見ていると、非常におもしろい現象であるように見えます。

 二ページ目の図をもうちょっと細かく説明します。

 これは、横軸にインフレ率をとっております。縦軸に実は失業率です。普通の経済学の教科書というのは縦軸と横軸が逆なんですね。横軸で失業率で、縦軸にインフレ率をとりますけれども、実は内容は全く一緒です。

 この図を見てわかると思うんですけれども、インフレ率がマイナスのとき、デフレですけれども、こういうときには失業率が極めて高いです。インフレ率がだんだん高くなるに従って失業率が下がるということになります。

 ただ、失業率は、ある数字から下がらないです。これは、どういうふうに頑張っても下がらなくなる下限がありまして、これを経済学ではNAIRUと呼びます。英語をそのまま訳したんですけれども、それを訳すと、インフレを加速しない失業率ということですけれども、実は失業率の下限です。

 ここがどこであるかというのは実は非常に重要なんですけれども、ほとんどのところでは余り議論されませんね、不思議ですけれども。世界の常識ですと、これはすぐ答えられなきゃいけないレベルの話ですが、私はこれを計算しておりまして、大体二%半ばです。

 二%半ばというのは、経済学というのは精密科学ではないので、コンマの話をするのはすごく大変なんですね。でも、あえてこの図の中では二・五と書きました。大体二・五でもいいし、二・四か三かもしれないし、二・六か七かもしれない、そのレベルの話であるんですけれども、イメージを保つために二・五とはっきり書きました。

 ここを達成するインフレ率というのはたくさんあるんですね。インフレ率を高くすれば幾らでもそこは達成できるんですけれども、実は余りインフレ率を高くしてもしようがないので、それを達成する最小のインフレ率というのでインフレ目標は決まっているというのが世界の常識です。このフレームワークというのはどこでも一緒ですから、どこの国でもあります。ただ、日本ではこれが余り強調されないし、議論もされないので、ちょっと述べました。

 実は、先般、ダボス会議があって、ちょっとおもしろい話がありました。ダボス会議はインターネットで随分見られるんですけれども、それで見ていましたら、日銀黒田総裁が出ていたセッションですね。ダボス会議の参加者というのは非常にレベルの高い人が多いので、何でインフレ目標は二%ですか、そういう質問がフロアから出ました。フロアから出たんですけれども、そのときの黒田さんの答えは、インフレ目標には、統計に上方バイアスというかバイアスがあるから、ちょっとアローアンスをとるために二%ですというふうに答えたんですね。あと、為替の話もしましたけれども。

 これは、国会答弁でしたら多分これで通用すると思いますけれども、はっきり言えば全く通用しません。どういう答えをするかというと、実は、インフレ目標というのは最低の失業率を達成するための最小のインフレ率ですと答えて、日本では、最低の失業率は二・五で、それに対応するのは二%ですと答えるのが正解です。こういうふうに答えないとはっきり言っておかしいので、ダボス会議のその場はかなり変な雰囲気でありました。こういう話は、ぜひ国会できちんとお聞きになったらいいと思いますよ。

 この二ページの図というのは先進国共通で、多分、アメリカでも同じことが言えるんですけれども、実はNAIRUの水準が四%です。ですから、四%が下限になって、それを達成する最小のインフレ率が二%ということで、インフレ目標が二%になっております。

 次のページ、三ページですけれども、ここで今の金融政策をちょっと書いておりまして、御承知のとおり、二〇一六年から金利管理という形になっているんですけれども、正直申し上げて、金利管理になった途端に十年の金利が上がっています。これは金融引締めですね。ですから、そういう意味では、さっきのNAIRUを達成するという意味からはちょっと違った政策になっておりますので、これを今後私は注視してみたいと思います。

 あと、四ページ、五ページ目、何かいろいろグラフが書いてありますけれども、実は、最低の失業率二・五を達成するために何をすべきかということがこれでわかります。

 実は、ここに書いてあるのは需給ギャップ、GDPギャップというものでして、これは、計算のやり方はたくさんあるんですが、はっきり言って何でもいいんですけれども、内閣府の数字を持ってきてあります。内閣府の数字を持ってきてそれで分析しますと、実は内閣府の数字、今たしか〇・七ぐらいなんですけれども、これがプラス二になって、ちょうどインフレ率二%、失業率二・五ぐらいになるというふうな計算であります。ですから、その意味ではまだちょっと足りないというレベルですね。

 こういうふうに達成するにはどういうふうにやるかというと、実はこれは財政政策と金融政策、両方あります。

 この需給ギャップの話をしますと、有効需要という概念なんですけれども、財政政策だけと思い込む人が随分いますけれども、全くそれはそうではありません。財政政策は、実は公的部門の有効需要はつくります。それはその意味では全く正しいし、見やすいですね。金融政策でも同じでして、実質金利を下げることによりまして民間部門の有効需要をつくります。ですから、それが両方相まって実は達成できるという話であります。

 この話は余り強調されないし、これは予算委員会ですけれども、やはりこのマクロの話のときには金融政策も関係するので、こういう話をしました。

 インフレ率二%、失業率二・五の近くになるとどうなるか、この黒丸の近くになるとどうなるかというと、賃金は猛烈に上がり出します。逆に言うと、そこに近くならないと賃金は上がらないです。ですから、賃金が上がらない上がらないといろいろな議論をしているんですけれども、要するに、NAIRUといって、下限の失業率に達するか達しないかだけの話なんですね。そこに達すればおのずと上がります。なぜならば、そこに達して賃金を上げなかったら、人手不足で会社が潰れてしまうという状況になるからです。

 こういうふうに、経済学というのはあるメカニズムで全部動きますから、そういう意味では、どこを押すとどういう動きになるかという予測はかなりできますね。それを無視して、ただ単に、賃金が上がっていないとかそんな話をするんですけれども、これはただ単に、有効需要が足らなくて、内閣府の計算によるGDPギャップ、これが二%に達していない、それだけであります。

 そこに達したらどうなるか、インフレ率二%、失業率二・五に達したらどうなるかというと、大体これも予想できるんですけれども、半年とか一年以内の間に賃金は上がり出します。どのくらい上がるかというのも大体予想はできますけれども、多分三%ぐらい上がります。

 そういうふうに全部関係するんですけれども、どこをマクロ経済政策で押すか、その意味で、財政というのはその中で重要な部分であるということを強調しておきたいと思います。

 こういうふうに、経済がよくなりますと、実は財政のパフォーマンスもよくなります。それを実は六ページに書いてあります。

 これもいろいろとグラフがあるわけですけれども、これは何を意味しているかというと、プライマリー収支といろいろ言いますよね、これをよくするためにどうしたらいいかといろいろ議論があるんですけれども、でも、ざっくり言うと、前の年の名目成長率が上がったらよくなります。それは九割ぐらいの確率でそうです。ですから、それほど難しくないんですね。名目成長率を上げるだけです。名目成長率を上げるためには、インフレ目標を達成すれば上がりますから、それぐらいの話です。ですから、そんなに難しい話をすることもなくて、名目成長率を一年前に上げるとよくなります。大体、名目成長率が四%強になりますと、プライマリーバランスは何もしなくても実はよくなるというレベルの話です。

 ただ、これでも財政が悪い悪いと言いますね。ですから、それについてちょっと私はいつも疑問に思っていまして、私、役人の時代から、借金だけの話をするというのはおかしいということを言っていまして、それで、経済学では、バランスシートで見る、それも中央銀行を含めて見るという考え方が普通なので、それを話をしてみたいと思います。これが実は七ページ目の話です。

 これは、実は財務省のホームページにあるデータと日銀のホームページにあるデータを合わせているだけなんですけれども、一番新しいデータは三月の末に出てくるので、ちょっと政府の方が出てきていませんから、それは前のを使っています。ただ、去年使って、ほとんど一緒ですから、これはこういう形の数字になります。

 どういうふうになっているかというと、政府の発表しているものですと、国債が千三百五十兆あって、資産が九百兆、そういう数字を出しています。これに実は日本銀行を足し算するんですけれども、資産の方に国債四百五十、日銀の場合は負債が日銀券ですから四百五十を足し算して、連結のバランスシートはできます。

 これを見てどうか。実は、ここの負債の方はちょっとはみ出ているんですけれども、この銀行券は、正確に言うと銀行券プラス当座預金なんですけれども、これは基本は無利子、無償還です。ですから、形式債務なんですけれども、経済的な意味での債務にはほとんどなりません。そうなるとこれは省いちゃっていい。となるとどうなるかというと、このバランスシートを見て財政危機だと言う人は、まず普通の専門家ではなかなかいないでしょう。

 もっとも、資産ではすぐ売れない、話がつくというのは、これは財務省が定番で言います。ただし、資産の大半、ほとんど八割程度は金融資産ですね。

 金融資産というのはどういうものかというと、はっきり言って天下り先への資金提供ですよ。出資金、貸付金です。それが売れないというのはどうなのか。要するに、天下り先を手放したくない、これだけの話であります。ですから、こういうのは予算委員会の場できちんと議論するべきだと思うんですけれども、本当にどうなのかというのはチェックすべきだと思います。

 本当に政府が大変であったら、これは売りますよ。それはいろいろな例を見て、ギリシャとか、そういうときにはちゅうちょなく売ります。ですから、その意味で、日本は売らないということで、それは財政が大丈夫だからでしょうとしか言いようがないですね。逆に言うと、この資産を売らないで借金だけを返そうとしたらどうなるかというと、物すごい増税になって天下り先が残る、そういう形になります。それは非常に社会的にアンフェアだと私は思っております。

 この話をもうちょっと続けますと、財政再建がかなりできているという話になるんですね。

 もともと、金融緩和したら財政再建ができるという話は、私のプリンストンの先生であるバーナンキが話していたことです。バーナンキは私に、金融緩和をすればデフレから脱却できるだろう、もしできなくても財政再建はできるよとはっきり言いました。それは、こういう統合政府のバランスシートで考えているからです。

 これをもうちょっと具体的に話をしてみたいと思います。

 今その状況に近いんですけれども、このバランスシートを見ると、資産と負債は大体一致していますね。これはどういう意味かというと、右側の負債の方のところの利払い費というのは計算できるんですよね。ここの負債の方に大体の平均金利を掛けてあげると、利払い費が大体出てきます。これは今度の予算案の中にも出てきていますね。ですから、計算も、一%ちょっと掛けると利払い費が出てきます。

 ですから、ただ、統合政府で考えたらどうかというと、資産の方も、実は、先ほど私は金融資産が多いと言いましたけれども、金利収入なりその他収入が多いんですね。ただ、それは、予算書を見ると余り出てこないです。これは不思議な話です。

 日本銀行の持っているものというので話をしますと簡単なんですが、四百五十兆持っていまして、実は国債は一千兆ちょっとぐらいあって、そのうちの四百五十兆ぐらいは日本銀行が持っていますから、この予算で計上している利払い費は日銀の収入に入ります。

 先ほど申し上げたように、負債の方の日銀券では、調達コストがほぼゼロですから、その分だけ実は納付金になるべきなんですね。だから、これは数兆円あるはずなんですけれども、そうなっていないですね。これはなぜかというと、日本銀行の方においてストック化というふうな会計処理をしているからです。

 私は、実は、こういうストック化の話について、見ればすぐわかるので、以前、特別会計とかいろいろなところで埋蔵金という話をしましたけれども、これを見れば、これだけになっているというのはすぐわかります。

 それを果たしてやるのがいいのか。やっても、会計的なことを考えるとこれは収入にカウントした方がいいので、そういう意味では、実は、負債に出てくる利払い費と資産に出てくるような収入というのは結構見合っているということであります。ですから、その意味では財政再建がかなりできているというふうに申し上げておきたいと思います。

 こういう話は、私が去年もしたんですけれども、その後、去年の四月、スティグリッツさんというノーベル経済学賞の人が来て、それで経済財政諮問会議でも話をしています。ほぼ一緒です。こんなのはほとんど数学、会計的な話ですから、誰に聞いてもほとんど同じ話が出てくると思います。

 次のページの八ページ、九ページ。

 では、こういうふうな、ネットで見て財政状況はどうなのかというので、比較的比較しやすいアメリカで実は計算しました。アメリカの方で計算して、ネットのGDP比、それとあと、中央銀行を含めたネットのGDP比というのを出しておりますけれども、どうもアメリカの方がかなりいいですね。というか、アメリカより日本の方が財政状況はいいですね。ですから、その意味では、それほど大きな心配というのはする必要はない。もちろん、今後、将来の話について何もしないでいいというわけじゃないですけれども、少なくとも現状をきちんと理解した上でいろいろな話をすべきだと思います。

 財政再建は、経済成長の腰を折るようなレベルでやったらほとんど意味がないということを言っておきます。ただ、日本の場合、緊縮度はどのくらいかという話も出ます。それで、ちょっと次の十ページ目の話をします。

 これは、デフレギャップ、GDPギャップがあって、それに対してどの程度財政支出をしているかという数字を見ているんです。これを見てみますと、先進国のほかの国は結構ひどい緊縮をしていますけれども、日本は、ちょっとひどいんですけれども、そこまでひどくないという状況になります。ただし、消費増税以降はちょっとひどいという感じになっておりますね。

 最後に、規制改革の話を、ちょっと時間をとって話をしてみたいと思います。これはちょっと資料を用意できなかったんですけれども。

 まず、昨年、加計問題を随分国会で取り上げましたね。本当に、はっきり言って、私はもう最初から答えがわかっていたので、時間の無駄だったような気がします。

 そもそもあの問題は何かというと、大学の設置認可申請すらさせないという文科省告示の問題です。告示というのは何かというと、これは釈迦に説法ですけれども、実は国会のコントロールの範囲外ですね。ここの中でこういうことが行われているということなんです。だから、幾ら国会で、認可制度をつくりますね、認可制度をつくっているんですけれども、文科省の方が告示で認可申請させないといったら、この認可制度は意味ないですよ。ここにもっと怒るべきだと思います。

 要するに、私から思うと、認可制度があるのに認可申請させないという告示自体が全くおかしくて理解不能です。私も実は役人のときにそういうのを突っ込んだことがありますけれども、ほとんど法律違反の話ですね。

 要するに、認可制度があるんですから、どういう建前かというと、認可申請はさせる、その後認可を審査する、それで終わりです。でも、この特区が何をやったかというと、認可申請させるという告示の特例を出しただけですね。こんなのは規制緩和にも何にもならないレベルです。あえて言えば、運転免許は別に受けてください、ただし自動車学校へ入学させます、このレベルですね。このレベルの話をずっとずっとやっているというのは、もう不思議でしようがないですね。

 最近も、この文科省告示、活躍していますよ。東京都の方でつくっちゃいけないというのをこれでやっていますよね。立法府としてどうなんでしょうかというふうに私が個人的に思うぐらい、立法府が描いている法制度に実はなっていないです。ですから、それが問題なのに、どうして違う話をずっとしていたのかなというふうに思ったぐらいです。

 この弊害は随分ありまして、実は、こういう形で国会でたくさん取り上げられますね、そうすると、特区諮問会議の開催件数が激減しております。もうやりたくないと言っている。特区ワーキンググループもそうです。もう開店休業みたいな感じですね。これは結構弊害が大きいと思いますよ。要するに、筋違いなことをしちゃったもので、萎縮しちゃったんですね。

 そういうふうな規制改革にはほかにもちょっと例がありまして、例えば、規制のサンドボックスという制度があります。そこは何をやっているかというと、実はプロジェクト型と地域型というのを二つ認めるという形になっているんですけれども、実は、前者のプロジェクト型、これは総理主導を排除しております。どういうふうにやっているかというと、これは主務大臣が計画をつくるということです。ですから、これは多分進まないです。規制の特例も全くないという状況ですね。そういうのをもうちょっと議会の方で議論すべきだと私は思うんですけれども、なぜかこれは全く議論されないですね。

 もうちょっと具体的に規制緩和の話をしますと、日本は規制緩和がおくれていて、大体、オリンピックをするときには規制緩和が進むというのが世界の共通なんですけれども、なかなかそうなっていませんで、正直言うと、結構恥ずかしい状況になるかもしれないですね。

 オリンピックというのは、もともと何が意味があるかというと、インフラをつくってやるというのは結構昔の話なんでして、海外の人がたくさん来て、海外の目を意識しなきゃいけないので、結構、ルールというのが国際標準化するんですね。国際標準化するということは結構いい話なので、その後の成長がうまくいくというのは今までの研究なんですけれども、何か日本はちょっとそうなっていないです。

 例えば、シェアリングエコノミーというのは非常にこれから重要なんですが、ウーバーとかエアビーアンドビー、こういうのがまともに日本で活動できないというのはかなり不思議な状況だと思います。それとあと、民泊、直しましたけれども、かなり規制強化になっていて、なかなかうまく回らないですね。こういうことこそ議論すべきで、こういうのがきちんとしていないと、多分、成長の話とかそういうのは、今後の話をするのは難しくなると思います。

 以上三点、申し上げさせていただきました。

 どうもありがとうございました。(拍手)

河村委員長 高橋公述人、ありがとうございました。

    ―――――――――――――

河村委員長 これより公述人に対する質疑を行います。

 質疑の申出がありますので、順次これを許します。宮下一郎君。

宮下委員 自由民主党の宮下一郎でございます。

 公述人の先生方には、早朝よりお出かけいただきまして、大変示唆に富むお話をいただき、まことにありがとうございました。

 国全体の現状の分析、そしてこれからのあるべき姿等々について、大変有意義な公述をいただいたというふうに思っております。

 その中で、それぞれの先生方に少し御質問させていただきたいと思っております。

 まず、佐藤先生には、今、日本が直面している人口減少と少子高齢化、これは歴史的大転換でありますし、昨年の総選挙でも国難とまで言われたことでありまして、これに対応して、これから中長期に、社会保障の構造、それをどう支えていくか。税制のあり方も、高齢者の比率がふえてくる中でこれを安定的に維持していくという方向転換が必要だと思いますし、そうした安定財源構造にしていかないと、桑原理事長がおっしゃったような社会保障の安定もないのかなというふうに思います。

 そして、方向としてはそちらの方向を向きつつ、所得税改革とかさまざまな改革も今進められ、この税制改正でも、そうしたコンセプトも方向性として盛り込まれていると思うわけです。

 格差是正というお話もありました。能力に着目した税制への移行、年齢ではなくて、格差とか担税力に応じたというような発想でいきますと、やはり、私自身の問題意識としては、今、個人金融資産でも高齢者の皆様がかなり持っていらっしゃって、高齢者の皆様も大きく二分化してしまっているような状況。また、所得課税についても、なかなか累進が細っていて、むしろ、金融所得が分離課税になっていることによって高額所得者の優遇になっているんじゃないかとか、いろいろな議論もこの予算委員会でもなされております。

 先生がお考えになって、資産に着目した課税というのもあるでしょうし、大きな構造として、この人口減少と高齢化を見据えて、どういう方向に構造を変えていったらいいとお考えなのか、御示唆をいただければと思います。

佐藤公述人 御質問ありがとうございます。

 まさに、日本の財政経済は、これまで、高度成長、成長を前提にした仕組みでした。若い人がこれからもふえていく、人口がふえていくことを前提にしていました。しかし、このトレンドが変わるわけですね。もちろん成長戦略はすごく大事ではありますが、一方では、人口は減少していく、百年で人口は多分半分になるだろうという推計があるぐらいですよね。

 そのときに、御質問は二点あったと思うんですけれども、まず、金融資産について、特に高齢者の方々が多くの金融資産を持っているという、金融資産に着目した税制あるいは社会保障のあり方があっていいのではないかということだと思います。

 選択肢は二つあると思います。

 一つ目は、もちろん金融課税の強化であります。今、金融課税は国、地方合わせて二〇%の分離課税になっておりますけれども、これをもう一段落上げる、そういう選択肢はあるかなというふうに思っております。つまり、二〇%を例えば二五%にするといったことですかね。

 税制の専門家としまして、累進課税にするべきかとか総合課税化するべきかというところについては若干異論があるのは、金融所得という所得の性格と、ほかの所得、例えば勤労所得という所得の性格がかなり違うからです。

 もう一つは、実は、金融資産に着目して、例えば医療や介護の自己負担を変えるということなんですね。一部そういうことは実行され始めていますけれども、金融資産のある方、今、現役並みであると自己負担が三割とかといいますけれども、金融資産のある方にもそれ応分の自己負担を求めていくというのが、社会保障の枠の中で金融資産を取り込んでいくやり方かなと思います。

 これからは、最初の、まさに高齢化社会の中においてどうやって、これからどんな安定財源を確保していくかということになりますと、やはり安定財源としましては消費税だと思うんですね。所得税や社会保険料というのは、どうしても勤労世帯、若い方々に負担が偏ります。むしろ消費は、皆さん消費されますので、世代間での公平な負担の分かち合いということであれば、やはりこれからは消費課税が軸になってくるのかなというふうに思います。

 あと、ちょっと最後は蛇足になりますけれども、今、六十五歳以上で高齢者という言い方をしていますけれども、六十五歳は皆さんお元気なので、むしろ、元気なお年寄りが長く働ける、そういう仕組みに変えていくということは、これはもちろん、日本人は働くと健康的になるので、もちろん過労はだめですけれども、したがって、ある程度ちゃんと働けるということが、健康にも寄与しますし、もちろん税収上も助かりますし、経済の活性化にもつながるということになると思いますので、そのあたりの差配といいますか政策、就労促進の支援、政策があってもいいのかなとは思います。

宮下委員 大変有意義な御示唆をいただきました。ありがとうございます。

 それでは、伊藤局長にお話を伺いたいと思います。

 今も申し上げましたように、人口が減少する、そして人手不足が全国の中小企業も含めてあるという中で、さまざまなICTとかAIの活用もしつつ効率化を進めて、しかし、人が担わなきゃいけない仕事はこれからも残り続けるわけですし、そうした構造にどう対応していくかというのが大変重要な局面を迎えているのではないかなと思います。

 なかなか、非正規雇用とはいいつつも、労働力の流動化といいますか、同一賃金同一労働的なものがもう少し進めばそうなってくるのかもしれないですけれども、まだ、低賃金であってもそこに働き続けざるを得ないというか、そういう志向が強いとかいう話もあります。

 今後、でも、産業構造が変わった新しい職場で働かなきゃいけないというときに、いわゆるリカレント教育、能力アップをして新しい分野で活躍してもらおうというようなコンセプトでありますとか、また、高齢者の皆さんも、今先生がお話しのように、七十を超えても元気な方はめちゃくちゃ元気なものですから、そういった皆様にも、仕事をどういうふうにシェアしていただいて、どこを受け持っていただいて、みんなで世の中を支えていくか。

 まさに、労働市場のあり方とか学び直しとか、そういったことが非常に重要になってくるのではないかなと思うんですけれども、これから国としてこういう政策をもっと進めるべきだというような御示唆がありましたら、お聞かせをいただきたいと思います。

伊藤公述人 御質問ありがとうございます。

 技術革新が進む中で、雇用の流動化が必要である、これは世界的なトレンドとしても言われておりまして、諸外国、いろいろ検討しているようであります。今の政府の中でも、政策の中でも、リカレント教育等、いろいろ出されていることは承知しております。

 ただ、私ども、この間、ドイツの労働政策、技術革新、AI化に伴ってどうするかというものを学びましたところ、やはり技術革新、これを、良質な雇用の実現、これにどう結びつけるかという発想ですね。確かに、中にはなくなるような仕事というものはあるでしょう。ですが、それに当たって職業教育訓練が必要である、それについて国として積極的にかかわっていく、公的な資金投入もして、労働者の教育訓練をきちんとやるというところが相当強調されているわけです。

 ですが、残念ながら、今の政府の政策を見ておりまして、どちらかといいますと、民間の人材ビジネスをいろいろ活用するですとか、そうした案が強いと思います。

 加えて、この間、失業保障にかかわって、給付水準の切下げですとか、失業保険にかかわっての国庫からの補填ですとか、そういったものがどんどん弱められていて、端的に言うと、労働移動する際に、安心して失業して、生活保障を得ながら職業訓練するだとか、あるいはドイツでは、在職しながら次の転職先を探すためのいろいろな生活保障と公的な職業訓練、いろいろなものを組み合わせて検討されておりますが、日本は本当にそうではなくて、自己責任で移動しろと。そして、労働移動支援助成金等も出て、人を流動化させることについての助成制度等が強められている中で、当然、労働者としては、不安感から、よりしがみつくという傾向になるのはどうしようもないことだというふうに考えております。

 やはり、安心して新しい仕事にチャレンジできるという環境を整えることが国の責任として重要である。

 また、技術革新を殊さらに言い立てて、もう雇用がなくなるんだということで、リストラやむなしという空気が出る、これについて私たちは懸念も持っております。今の日本でも、雇用というのは簡単に失われる、泣き寝入りしている労働者も多々おります。日本が極めて雇用においてリジッドであるというのは、私は当たらないと思っております。日々の労働相談からもそうしたことを感じておりますので、雇用確保、雇用の維持、安易に解雇させないという政策を堅持した上で、チャレンジできるような、そういう公的な職業訓練ですとか生活保障の制度が必要だというふうに考えております。

 高齢者につきましては、実は、在職中の仕事の負荷で相当な個人差が、身体的な差が出ます。そこについて、一律に長きにわたって働くということを推し進めないことが重要かと思っております。

 以上です。

宮下委員 ありがとうございます。

 桑原理事長には、子育てとか介護とか障害者福祉、これを横断的にケアできるようなシステム、そして、それを支える横断的な処遇の改善のあり方という、非常に建設的な御意見もいただきました。制度の縦割りを排して、そして少ない人数で充実したケアをする、ダブルワークという話もありましたけれども、介護、保育とか福祉の人材も法人の中で自由に行き来できるような、それを支えるような制度設計が必要なのかなということを感じました。

 そのことを感謝申し上げて、一方で、人材不足が一番顕著に出てくる分野かなとも思います。

 一つ、私は、介護ロボット、介護ロボットスーツとか、それから、利用者の皆さんが、センサーがある居室で、その状況がすぐ把握できて、異常があればすぐ飛んでいけるようなことにするとか、少しでも介護する方の負担を減らして、利用者の方にも利便性を高めるような、そういう投資を全国で進めていくべきじゃないかなと思っているんですけれども、現場を預かる立場から、こういうことを進めるべきだというような御示唆があればお聞かせください。

桑原公述人 御質問ありがとうございます。

 介護の現場では、AIといいますか、人工ロボットといいますか、コミュニケーションロボット、それから装着型の援助型ロボット、これが使われております。国の補助、県の補助をいただきながらやっております。やはりまだまだ発展途上かなというのが正直なところであります。

 まず、装着ロボットについては、腰に対する負荷がかからないように、いろいろなのが今、ところが、装着するのが大変、現場では。あれをつけてまでやっている夜勤、では一人削れるのというと、削れません。そういう現場の労働力を全くそぐようなロボットではない。あくまでも装着型ですから、ただし、装着するのに時間がかかっているというのが今の現状です。

 それから、天井走行リフトとか、それから、コミュニケーションロボットでいいますと、デイサービス等ではここは結構すぐれていると思います。最近は、その人の顔認証までしてくれて、何々おばあちゃん、元気できょうも来てくれてありがとう、ここまで言うロボットもある。ただし、高額なんです。金額が高過ぎて手が届かない。そういうコミュニケーションロボットの普及については、結構いい内容が、ちょっと進んでいるかな。完全な労働力に対する、もうちょっと技術革新が必要かなという実感でございます。

 以上でございます。

宮下委員 高橋先生にもすばらしいお話を聞かせていただいて、質問したかったんですが、ちょっと時間が来てしまいました。でも、もう少し頑張れば、デフレ脱却、もう間近だという力強いお言葉をいただいて、感謝を申し上げます。

 ありがとうございました。

河村委員長 次に、竹内譲君。

竹内委員 公明党の竹内譲でございます。

 きょうは、各公述人の先生方におかれましては、大変お忙しいところ、急な要請にもかかわらず御対応いただきまして、心から感謝を申し上げる次第でございます。

 私の方からは、まず、桑原理事長さんにお伺いしたいと思っておるんですが、やはり社会保障、特に今、保育、介護、福祉ということがやはり日本の大きな課題の一つであろうということは間違いないと思うんですね。そういう意味で、きょう、非常に貴重な御意見をいただきまして、大変ありがたく思っておるところでございます。

 最初のところから申し上げますと、処遇改善の話でございまして、これまで各政権において一定の処遇改善をしてきたわけでございますし、今後も、ある程度的を絞って、中核的な方には八万円ぐらい上げるというようなアイデアも持っておるわけでございますけれども、これらの処遇改善は人材確保に一定の効果があったのかどうか。

 そして、今後、先生からは、裁量をもう少し認めてほしいというようなことで今お話があったところでございます。非常にその御主張もよくわかります。法人内での格差であるとか職種間での格差ということをおっしゃっておられるんですが、我々としては、裁量を認めるのであれば、その方がより人材確保にとってプラスになるということがはっきりすれば、ある程度やはり裁量を認めていった方がいいんじゃないかなと思いますし、先ほどもお話がありましたように、市町村格差もいろいろあって、家賃補助があるところだとかいろいろ、補助がいっぱい出ていて、実は、政府が上から考えているほど格差がなかったりとかということもあるのかもしれない。

 ですから、そこはある程度お任せしてやった方がやはり結果的には人材確保になる、他産業比もそれなりに格差が埋まってくるということなんだろうと思うんですが、その辺、再度、大事なところですので、陳述をお願いしたいと思います。

桑原公述人 御質問大変ありがとうございます。

 確かに、この格差に対する交付金その他のことはあったと思います。

 例えば、従来型の保育園ですと、本当に、すごく組織はフラットなんですね。一保育園の先生の人数、主任保育士さんがいるところといないところ、それから園長先生が当然いますけれども、副園長、すごくフラットなんです。

 そういう組織の中で、キャリアパスというのを国はつくろうと。やはりキャリアを積んだ人がそれだけキャリアを積んだことの、それを交付金として、補助金として交付する。その職種間においての、介護もそうですけれども、そういう金額というものをちゃんと渡しなさい、法人を通すというよりは、法人を通さず直接渡しなさいというのが今の規定でございます。

 ですから、ある一定の、現場に対する、ああ、国はそういうことをやってくれているんだなという思いを、私も経営者として、これはこういうことだから皆さんのお手元に行くんですよということをはっきりと現場の職員には申し上げております。

 しかしながら、先ほど言ったように、では、人材を確保するという意味においての経営者としての手腕ですよね。これは国のやっていることだから、これは言い方は悪いですよ、経営者として本当に、経営している人が、国が悪いから我々はこうなんだと議論を押しつけちゃって、だから賃金が上がらないんだということを言うと、結局、労働力の確保という意味においてはつながらないなと。

 だから、縦割りではなく横串を入れていただきながら、経営者の裁量というのは、要するに、採用から退職じゃありませんけれども、リカレントもそうですけれども、採用からしっかりとした採用をするということは、資格を持っている人、持っていない人に対しての企業努力というのが必ず出てくると思います、裁量があれば。

 要するに、校舎なき学校、桑の実会もそういう校舎なき学校で、地域の人が、無資格な人が有資格者になっていく、それで人材を確保していく、人材派遣業に頼らない、これは一つあると思います。

 そんなことで、私の一つ目の質問にお答えしながら、もう一つ、何でしたか。(竹内委員「いや、それで結構です」と呼ぶ)いいですか。

 以上でございます。ありがとうございました。

    〔委員長退席、柴山委員長代理着席〕

竹内委員 それから、やはり非常に貴重なことをおっしゃっていまして、二点目に、福祉の仕事、職場のイメージアップというのが大事だと。以前は三Kとかと言われていましたけれども、新しい三Kということで、希望があって、感謝があって、そして輝くということだと思うんですけれども、そういうやはり職場、仕事にしていかなければならないという御主張、全くおっしゃるとおりだというふうに思っておるわけでございます。

 そこで、国策として何かやった方がいいんじゃないかと。自律的にもうどんどん皆様で動いていただいておりますので、このイベント、私も、予定がつけばぜひ行って拝見したいというふうに思っておるんですけれども、国として例えばこんなことをやったらどうかというような具体的な御提案があれば、おっしゃっていただければありがたいんですけれども。

桑原公述人 御質問ありがとうございます。

 まず、国策というのはなかなか言葉としては難しい表現だと思いますが、やはり福祉で働く人たちを国は応援しますよというメッセージを発信していただきたいなと思います。

 それは、先ほど言いましたように、きつい、汚い云々ではなくて、本当に、感謝され、感動して、希望がある仕事を国のためにやっていただいていますね、こういうメッセージを言っていただきたいと思います。

 それから、具体的に、今回はこういう形でやりましたけれども、今後、都道府県単位とか小さい単位でも、イメージアップ戦略というものはやっていきたいというふうに経営者協議会は思っております。

 そういうことに対してどのように国が支援できるかということは、財源の問題もありますけれども、少なからず、そういうことをやろうとする場合は、今は、何とかブース、何とかブース、採用ブースと、企業から経営者協からいっぱいそういうのをやるんですけれども、余り人が来ないんですよ。来ないんです。閑古鳥が鳴いています。一件もなかったよ、ブースを出したけれども来なかった、学生さんも少ないし、そういうのじゃなくて、やはりイメージアップしていく採用、単なるブースを出せばいいというだけじゃなくて、何かしらやはりイメージアップして、何か行ってみようかなという。

 まあ、国策というと、例えば、小学校から中学、中学から高校に、いろいろな専門学校もありますけれども、そういう国策として、教育の中で福祉という問題をやはり根づかせていく。今でもちょっとやっていますけれども、それをもう大々的にやって、そして、そうすることによって、先生方のイメージ、教員のイメージ、それから保護者、親のイメージ、それから社会のイメージを変えていく。本当に立派な仕事だねと小さいときから福祉教育を受けながら学校に進んで、将来はそういう仕事をやりたいんだという夢を子供たちが持ってもらいたい、そういう意味の国策と捉えていただければと思います。

 以上でございます。

竹内委員 大変思いのこもった御提言、ありがとうございます。

 それから、福祉の職場における働き方改革の推進ということで、福祉に特化したダブルワークの推奨などということで御提案いただいておるんですが、この辺でもう少し付言することがあれば、おっしゃってください。

桑原公述人 御質問ありがとうございます。

 福祉に特化するダブルワークというのは、やはり私ども、現場で働きながら地域の福祉を担う、若い人もそうですけれども、老いも若きも、それから現役で働いている、東京まで通っていく人たちが埼玉ですと多いわけですよね。疲れ切って皆さん帰ってくるわけですけれども、そういうときに、やはり私どもも保育園をやっていると、お父さん方が活躍する場というのがあると、目の色を変えてお父さん方は一生懸命、餅つきから何からやってくれたりするんですね、家も子育てで大変でしょうけれども。そういう意味で、元気になるんですよ。

 だから、福祉のダブルワークというのは、単なる労働力が足らないからそういう人を雇って云々というよりは、福祉目的のダブルワークとして、地域に存在する社会福祉法人のあそこを応援してあげよう、それを、地域に住んでいるお父さん、お母さん方、その他の方々が手を挙げて、それを社会が認めてくれる。

 それは、過重労働とかそんな話じゃ僕はないと思います。そういう意味ではなくて、本当に福祉を目的にしたダブルワークというのは、これからともに生き、支え合うためには必ず僕は必要だろうな、このように思っております。

 以上でございます。

竹内委員 ありがとうございます。なるほどなと思うところが多々ございます。

 それで、もう一つ、さまざまな活動をしていただいておりまして、本当に、社会的養護の話であるとか、先ほどの困窮者への安心セーフティーネットですか、こういうのもすばらしいことだなというふうに思っております。社会福祉法人改革へ向けて法改正もしたときに、私も改正をした立場でございましたので、大変、改めて感謝を申し上げる次第でございます。

 そこで、もう一つ、政府が推進しようとしている幼児教育の無償化というものが今後保育の現場にどういうような影響を及ぼしてくるか、その辺につきまして、お考えがあればお願いいたします。

桑原公述人 御質問ありがとうございます。

 幼児教育無償化については賛成の立場でありますが、やはり一つ懸念されるのは、保育の質の低下を招かないかということを思っております。

 幼児教育ですから、三、四、五においては、幼稚園も保育園も今認定こども園制度でこうなっていきますし、小学校に上がっていきながらですけれども、実は、ゼロ、一、二のところにおいては、養護と養育という問題が絡んできます。

 先ほど、気になる子供たちが最近多いという話をさせていただきましたけれども、実は、医療的なケアの必要な子供たちが、保育の現場で、預かってほしいんですけれどもと市町村から依頼が来るんですけれども、うち、看護師さんがいませんから預かれません、これが実態があるわけですよ。では、看護師さんを加配します。では、そこに加配していれば受け入れられるか。

 システムとして社会的養護、保育の質を担保しながら幼児教育の無償化というのを目指してほしいなと。そうであれば、必ず好循環として、ちっちゃいときから保育園に来て、そういう子供たちが次の時代、三歳、四歳になって、小学校に上がったとしても、社会的養護の流れの中で切れ目なく、小学校に上がりながら、社会の一員として。どこかでぷつんぷつんとなっちゃうのが、今の、どうもそういうのが見受けられるので。

 ちょっと懸念しているのは保育の質の低下。いわゆる社会的養護をしっかりとやる仕組みをまずつくって、三歳、四歳、五歳の教育無償化という問題を、経済政策の一端でしょうから、そういうふうに位置づけていただければなと思っています。

 以上でございます。

竹内委員 もうほぼ時間が来ておると思いますけれども、大変、やはり目に見えない貧困であるとか、気になる子供たちとか、今の医療的ケアの必要な子供たちとか、やはり現場の率直なお声を聞かせていただいたことが大変ありがたかったことであります。

 貴重な御提言、本当にありがとうございました。引き続きどうぞよろしくお願いします。

 終わります。

柴山委員長代理 次に、落合貴之君。

落合委員 立憲民主党の落合貴之でございます。

 本日は、お忙しいところ、まことにありがとうございます。

 まず、高橋先生にお伺いできればと思います。

 マクロの過去のいろいろな数字を見てみますと、一カ所だけがくんと第二次安倍政権の中で下がっている年がありまして、それが二〇一四年に消費税を八%に上げたときでございます。これは明らかに景気にブレーキを、もう素人が見ても、かけている。

 あのとき消費税を上げたというのは、いろいろと総理も説明をされていましたけれども、いい政策だと言えるんでしょうか。御見解を伺えればと思います。

高橋公述人 結論から言えば、いい政策じゃありません。非常に簡単でありまして、最適点という、先ほどのインフレ二%、それとあと最低失業率二・五に向けて下がっていたのを逆にしました。要するに、あれでかなりその目標達成がおくれたと思います。

 実は、その前の、二〇一四年の五月か六月までは消費者物価の上昇率は一・六ぐらいありましたので、私の計算ですと、何もなければその一年後ぐらいには実は達成できたというふうに思いますけれども、あれをやったおかげで、ああいう政策をしますと、三年間ぐらい実は回り道するんですよね。それを予測していたんですが、そのとおりでありました。

 要するに、事前に、ああいう政策をしたときに経済成長率が二〇一四年度マイナスになるということは予測できましたけれども、何か、その予測をしている人がほとんどいなかったというのが私には非常に不思議でありまして、学部レベルのマクロ経済学でも簡単に予測できるような話であります。

落合委員 もう一点、高橋先生に伺えればと思います。

 先ほど、財政再建のことにも少し言及をされました。借金というか債務にプラスして、資産が反対側にたくさんあるだろうと。資産がないないと政府が説明しているのは、やはり、天下りですとか資産を抱え込んでいる、そういう人たちが一部いる、そういう統治構造の仕組みになっているのが問題なんだという言及もありました。私も同じ考えでして、今回、天下りの問題、幾つかそういう団体も取り上げて予算委員会で質問もさせていただきました。

 第一次安倍政権と比べて第二次安倍政権は、こういった天下りの問題、統治構造の問題に甘いんじゃないかと私は思います。それについてはどうお考えですか。

高橋公述人 実は、第一次安倍政権のときの天下り規制、公務員改革法ですけれども、これを企画立案したのは事務方で私です。ですから、それを今どういうふうに使うかということだと思います。

 それは、その後、政権によってちょっと濃淡がありますけれども、着実にいろいろな案件を上げておりますね。この間は、安倍政権になってからですけれども、例えば文科省の話。天下りというのがありましたね。あれは国家公務員法違反ですけれども、それは大きな事例を摘発したと思います。そういう意味では、第一次安倍政権のときつくった法律を、今それを着実に執行しているのかなというのが私の印象であります。

 天下りあっせんというのは完全に国家公務員法違反なんですけれども、その違反についてどのように対処するかというのはいろいろあるかもしれませんけれども、少なくとも、ああいう事例を見つけて組織的なものを探り出したというのは、これは実は再就職監視委員会というところの仕事なんですけれども、それはやっていると思います。

落合委員 まあそれは前進かもしれませんが、今、政府、多くの方が、売れる資産はもうほとんどありません、埋蔵金は出てこないという説明をしていますので、ぜひここは外からどんどんつついていただければと思います。安倍総理が取り込まれないように、どんどんやっていただければと思います。

 それでは、佐藤先生に伺えればと思います。

 政府の税調の委員等もされておりますけれども、私、法人税について調べてみますと、法定税率と実際に払っている実質負担率が全然違う。特に、企業の資本金の大きさで比べた場合に、実は中小企業の方がたくさん税金を払っていて、大企業の方が払っていない。これは何でかというと、租税特別措置法等があるからでございます。

 租税特別措置というのはある企業を想定して減免することもできるわけで、これは実質的な補助金のような形になってしまっている。これは法人税の空洞化を生んでいるとも言えると思います。

 この法人税の租税特別措置、今のあり方でいいと思うか、いかがでしょうか。

佐藤公述人 御質問ありがとうございます。

 今、現行は、租税特別措置、法人税絡みで一番大きいのは研究開発税制、それからもう一つは最近の所得拡大税制なんかだと思うんですけれども、税制改革の流れとしましては、課税ベースを拡大しつつ税率を下げていくというのが今世界的な法人税改革の流れであります。

 という観点から見れば、本来、原則論でいえば、租税特別措置というのは最小限にとどめるべきものでありまして、むしろ広く企業に恩恵が及ぶのは、ましてや収益を上げている企業に広く恩恵が及ぶのは税率の引下げの方ということになりますから、そちらにシフトするというのが本来あるべき姿だと思います。

 ただ、ここから先は要相談で、研究開発税制のように、ある種国策として日本のRアンドDを普及させるんだとか、これはいろいろと議論が分かれますけれども、賃金の引上げにつなげるんだ、まあ景気対策ですけれども、経済対策として賃金の引上げにつなげるんだということであれば、一定の租税特別措置というのは一定期間はあってしかるべきだと思います。

 ただし、もしそれをやるならば、本来あるべきは政策評価なんですね。つまり、租税特別措置の効果はどうなのかということをちゃんと評価する体制をつくっていかなければならないということだと思います。

 余り長くなると困るので、以上です。

    〔柴山委員長代理退席、委員長着席〕

落合委員 これもこれから、いろいろなお立場にありますから、どんどん提言をいただければと思います。

 もう一つ。

 先生は、地方の財政等、専門家でございますけれども、ふるさと納税が二〇〇八年から始まりました。私の地元もそうなんですが、東京の二十三区などはどんどん流出をしているわけです。

 肉がもらえるとか魚がもらえるとかで、ネットでも簡単にできるということで、かなり私の周りでもはやっていて、何十億も私の地元も流出しているんですけれども、こういう返礼品競争が実際に起こっているということは本来の趣旨とは違ってしまっているのではないか。

 これは見直す必要があると思うんですが、先生はどのようにお考えでしょうか。

佐藤公述人 ありがとうございます。

 結論から言うと、そのとおりだと思います。

 今総務省も返礼品の割合を三割に抑えるようにという通知を出しておりますけれども、ふるさと納税は、その趣旨は是だと思うんですね。つまり、頑張る地方をみんなで応援しよう、自分のふるさとを応援しようという、これは日本の寄附文化を醸成するという観点からも重要だったと思います。ただ、今の実態はと言われると、不幸なことには、まさに返礼品競争に陥ってしまっている。

 これはやはり懸念するべきことでありますので、禁止するとは、いきなり一足飛びにはいきませんけれども、やはり、返礼品部分につきましては寄附金の控除を認めないとか、あるいは返礼品の割合をもっと下げるように促すとか、こういった対応策は必要だと思います。

落合委員 それでは次に、伊藤さんに伺えればと思います。

 安倍総理は演説の中等でも、非正規という言葉をこの国からなくしますというような言葉を国民にも発しています。これはどういうことというふうに解釈されていますでしょうか。

伊藤公述人 御質問ありがとうございます。

 非正規で働く現場の労働者はかなりあれを前向きに当初受けとめたわけですけれども、その後出された法案等を見ると、どうもそうではないと。

 先ほど、賃金の格差是正に有効ではないという話も申しましたが、もう一つ、今回、雇用対策法という中で、多様な就業を促進する、普及するというものが出てきます。その多様な就業の中には、非雇用型、要するに、労働者保護も受けない労働者、働き手もふやすというものがあります。より厳しい状態が起きる中で正社員が少なくなり、典型労働が非正規であったり非雇用型となることで正規、非正規の区別がなくなる、そういう趣旨ではないかと懸念を持っております。

落合委員 あと、今回は働き方改革ということで、安倍総理もそれを前面に出してきています。これから、来月でしょうか、働き方改革の関連法案、閣議決定もして、国会でも審議が行われるものというふうなことを発信をされております。

 それで、今まで、去年衆議院選挙があって、おととし参議院選挙があって、自民党がどういう公約で国民に示していたのかなと見ますと、働き方改革のところは、長時間労働を是正しますという形で表現をされています。

 公約どおりの内容が今提示されているのかどうか、これはどういうふうにお考えでしょうか。

伊藤公述人 そのことにかかわりましては、まさに上限規制を導入するとされながらも、その上限が、単月、繁忙であれば百時間未満、二カ月、三カ月、四カ月、五カ月、六カ月の平均が八十時間未満、年間では休日労働も含めて九百六十時間までの残業、時間外労働、休日労働が可能となる制度でありまして、これは長時間是正には向かない。裁量労働制、高度プロフェッショナルに至っては更に長時間を促進するものであるということで、公約と違うのではないかという印象を持っております。

落合委員 それにプラスしまして、先ほど同一労働同一賃金のお話もいただきました。

 同一労働同一賃金を達成するということは本当に重要なことでありますけれども、これを達成するためには、今回の法案のような中身ではなくて、どういったものを出せばこれは達成できるというふうにお考えでしょうか。

伊藤公述人 ありがとうございます。

 まず、いきなりヨーロッパの制度を入れるのは難しい、こういう議論もあります。実は職場にもいろいろな懸念はあります。ただ、まずは、均等待遇規定の法整備、これをどう整理するかというあたりだと思います。

 私たちとしては、労働契約法、パート法にあります、正規、非正規の処遇についての考慮する要素、これは、第一の要素だけは残して、第二要素、先ほども申しましたとおり、将来の可能性をもって今の仕事でも差をつけていいという、ここの考慮要素をなくすこと、これが当面重要だと思っております。

落合委員 桑原さんにお伺いできればと思います。

 いろいろと、裁量があればどんどん、やる気がある経営者がいればできるんだというようなことで、労働者の働きがいということも重要だと思いますし、これはかなり施設ごとの裁量によると思うんですが、これについて御見解を伺えればと思います。

桑原公述人 御質問ありがとうございます。

 現場で働く人たちのインセンティブとしての、私どもでもやっているんですけれども、アンケート調査とか、働きがいがあるか否かは至って個人の意識改革、それを客観的に指標として、従業員満足度という指標、これは日本生産性本部でやっている、私どももそこに参画していますけれども、そこでやっている、従業員がどれだけ満足してやっているかという指標がやはり重要だと思います。それがあるからこそ、私たちの、経営者としてどうその財源を分配して、経営資源としても確保しながら次の給与の底上げにしていくか。これは、やはりその指標がないと、なかなか言葉では難しい問題。

 ですから、ぜひ、そういう部分では、経営指標というんでしょうか、経営品質、福祉における経営品質というものは、これから、まだ普及はしていませんが、あるべきではないかなと思っています。

 以上です。

落合委員 本日は、高い御見識、御経験の中でのお話をいただきました。まことにありがとうございました。

河村委員長 次に、小熊慎司君。

小熊委員 希望の党の小熊慎司です。

 本日は、各公述人の皆様におかれましては、お忙しい中、国会に来ていただいて、心より感謝を申し上げる次第であります。

 まず初めに、私は佐藤先生にお伺いしたいんですけれども、財政の話がありました。ただ、一方で、安倍政権になってから、いわゆる十五カ月予算とかと言われて、当初予算が、見た目はいいけれども、補正予算と合わせればいろいろな議論が出ますし、本予算の見た目が補正予算によって骨抜きにされている、本来的でないというところもあります。

 そうした補正予算を入れた十五カ月の予算という意味において、財政健全化というところがどういうふうに捉えられるのかをお聞きしたいと思います。

佐藤公述人 御質問ありがとうございます。

 やはり、今、補正予算の問題は少し憂慮するべきだと思います。もちろん、例えば自然災害であるとか経済的な状況の変化とか、機動的な対応が財政に求められるのは言うまでもありませんが、あらかじめ補正予算を想定して何かいろいろな予算が、補正回しといいますけれども、補正予算の方にツケ回されているという事態は、これは本来あるべきことではないので。

 補正予算につきましては、したがって、厳として、財源も含めて、その使途については、本来の趣旨、自然災害に対する対応であるとか機動的な経済対策であるとか、そこに厳に制限するということは本来あるべきだと思います。

 経済・財政一体改革に関して言いますと、いわゆるプライマリーバランスの黒字化の目標、これは決算ベースでありますので、もちろん、プライマリーバランスが、当初予算が仮に黒字でも、補正で赤が出れば当然全体としては赤字になりますので、一体改革を進めていくという観点から見ますと、やはり補正も合わせて考えていくということになるんだと思います。

小熊委員 先生の言われたように、補正予算の原則は我々もそれは否定するものではありませんが、では、この数年、この六年間の状況というのは、具体的に先生はどう思われますか。

佐藤公述人 ありがとうございます。

 この六年間はちょっと難しい時代でもあったと思うんですね。つまり、一方ではデフレ脱却というのが求められていましたし、ある程度、財政に対しては機動性が求められていた。ある種、財政自体が手探りだったという面は否めないと思います。あと、自然災害、熊本の地震も含めて自然災害にもえらく見舞われた数年だったというのも、これも否定はできないんですね。ですから、補正予算自体が全部だめだったというわけではないと思います。

 ただ、私、内閣官房の方の行政事業レビューの仕事もしているので、ああいうところで見ていると、補正で回ってきている事業というのはいろいろと問題含みがあったりすることがあるので、やはりちょっと、その点におきまして補正が膨らみ過ぎたのではないかという議論は当たりだと思います。

 では、財源が、税収がふえたんだから、それをどうするべきだったかというと、本来は国債の償還に充てるべきであって、それが財政法にも規定されているとおりでありますので、財政健全化を本来は優先させるべきだったというふうに思います。

小熊委員 ありがとうございます。いい指摘をいただきました。我々もしっかりと国会でその点は議論していかなければいけないというふうに思っています。

 一方で、けさ、実は私、地元の町村会の方と意見交換をしてきました。先生は地方財政にもしっかり取り組んでおられるところでありますが、先生が指摘しているとおり、広域の取組とかどんどんやっていった方がいいという指摘もありながら、やはり基本は総合行政というスタイルになっていますので、何百人という村も、何千人、何万人という町も同じようなくくりでやっていっている中で、やはりこの財政の問題というのは簡単には済ますことはできないところであります。

 今の、定住自立圏構想や高次地方都市圏構想なんかも、これはこれでちょっといい部分もあれば、まだまだかゆいところに手が届いていないという点があります。

 地方財政のあり方といったものを、改めて先生の御所見をお伺いしたいと思います。

佐藤公述人 御質問ありがとうございます。

 地方財政のあり方、これからは、画一的な地方自治体ではなくて、多様な地方自治体のあり方を認めていいと思います。

 つまり、もちろん、政令指定都市を含めて、自立できる自治体というのはあるわけでありまして、そういうところは総合行政はもちろんできると思うんですね。ただ、やはりなかなか、これから、高齢化や人口減少にさいなまれている自治体については、自前で全てを賄うということはできない、いいか悪いかではなくて、できない時代になってきますので、やはりそこは広域化を率先して進めていくということになると思いますし、実際、そういう選択肢、この今の制度でも可能なんですね。

 この中において、特に重要な役割をこれから果たすのは都道府県だと思います。東京都はちょっと横に置けば、道府県だと思うんですね。これまでの地方分権の受皿というのは市町村だったんですが、やはり、これから高齢化の問題がありますので、医療や介護といった分野においても特に広域行政が求められてきますので、もう少し道府県の役割というのが強調されてもしかるべきだというふうには思います。

小熊委員 きょうはちょっと時間がないので、また先生、後で議論したいんですけれども、道府県もいろいろな道府県があって、私の地元の福島県は人口分散県なんですね。ほとんどの道府県が、県庁所在地、道庁所在地に人口が集中しているというところもあります。先生の御出身の、私と同じ東北ですけれども、秋田と福島ではやはり状況が違うという点もありますので、その点については、また先生、後でいろいろと御指導いただければなというふうに思っています。

 次に、伊藤さんにお聞きいたします。

 これはやはり、今の国会でも働き方改革、まあ、誤解を恐れずに言うのであれば、働かせ方改革と言っても過言ではないんじゃないかなというふうに思っています。

 裁量労働制の問題もありますけれども、本来、働き方改革というのは、やはり、今の人口減少、労働力が不足していくという中で、女性の社会進出、また、望めば年齢に関係なく働けるという状況もつくっていかなきゃいけない、働く側の自由度を高めるということも、半面、重要であったというふうに思っています。そういう意味では、フレックスタイムとかまたテレワークについても、本来的には労働者の側に立ってこれが進められるべきでありましたけれども、どうもそういうふうにはなっていない形になっているというところであります。

 この働き方改革の肝は、よく言われているディーセントワークということがありますけれども、やはり、働く時間、休暇制度、働く場所も、自由度が高まっていくというのが本来のあり方だというふうに思っています。

 もちろん、九時―五時で、しっかり会社に行って働くというのも別にそれは否定するものではありませんが、やはりいろいろな多様性をこれから選べる時代にしていかなければなりませんが、今回の改革案は、それをあげつらって、いいようになってしまっているというのが私の印象ではあるんですが、その点について、伊藤さんの御所見をお願いします。

伊藤公述人 今の御質問の中で、自由に選べる、望めばというキーワードがあったと思います。

 今の政策の基本は、例えば、高齢になれば得られると思っていた年金が逃げていく、生きるためには働かざるを得ない、こういう強制のもとでの就労というものがどうも進むのではないか、こんな懸念を持っております。

 また、労働時間制度の自由にかかわっても、八時間労働制というのはそもそも誤解されているのではないか。八時間を超えなければそれは合法なのであって、早く帰ることは可能であります。九時―五時の縛りも、裁量労働制でなければ突破できないだとか、そういう話ではない。労使で運用を自由にすることは、八時間労働制のもとでも当然できるわけであります。

 そうしたあたりを除いて、いかにも労働者が自由に働けるといったイメージ戦略を先行させることで、むしろ、労働時間管理が及ばない、あるいは裁量、自己責任で結果もとれというようなものがテレワークですとかさまざまなもので出されている、こういう印象を持っております。

小熊委員 そういった意味では、海外でのテレワークとかフレックスの成功事例もあるんですが、成功するに当たっては、今言われた、時間の量とか、あと、場所を選ばずなんですけれども、今、ICTが発達していますから、常にメールも見なきゃいけないと逆に縛られてしまうというのを、海外で成功している事例を見れば、それに接触しないということもちゃんと保証されて制度設計がなされているという点がありますので、そうした意味においても、まだまだこの働き方改革については私は議論が全然深まっていないなというふうに思っています。

 経営者の側のいろいろな悩みというのもわかりますし、日本は中小企業の国ですから、大企業と違う側面もある、会社が成り立つかどうかという本当に瀬戸際の、苦しんでいる経営者もおられる中でありますから、これは、やはり労使一体となって、働き方とはどういうことかということをしっかり捉えていかなければならないというふうに思います。

 そうした点で、この裁量労働のデータが間違っていたということで不適切だったわけで答弁は撤回したんですが、再調査もしない、データそのものは撤回をしないということでは、ちゃんとした議論が進まないなというふうに思っています。そこについてはしっかりとこの国会の中でやっていきたいというふうに思いますし、また、本来の働き方改革という意味においても、これからぜひいろいろと御指導賜りたいなというふうに思っています。

 桑原先生にお聞きいたします。本当にいい話をありがとうございました。

 ただ、私の地元でも、介護施設があって、学校もつくっていて、入学式とか行くんですけれども、定数の半分です。校長先生に聞くと、意外と若い人たちはやりがいを持って、やりたいと言うんだけれども親が反対するそうですよ。なぜだ。結局、収入なんですね。

 これは、やりがいとかいろいろな意味は見出せるとは思うんですが、結局、そこに改革がされていないというのは収入の面だというふうに思っています、介護人材の確保の上で、足りていなくて集まらない大きな要因。お金だけが全てではありません、先ほど言われていたとおりですけれども。でも、やはりお金というのは大きな要因でもありますが、その点についてはどうやっていったらいいですか。

桑原公述人 御質問ありがとうございます。

 私も、働く一人として、やはり収入というものが確保されているというのは、現場で働く人と同じだと思います。その際に、やはりお金は大事であります。

 そのお金を、評価するシステムをちゃんと持つことが僕は大事ではないかなと。

 持つというのは、要するに、モデル、将来、家族を持ちたい、いわゆる人生設計というのがあるじゃないですか。幾つまでに結婚して、幾つのときには家を持ちたい、家族は何人にしたい。それを、やはり現場の職員がイメージを持てる、私の法人では、モデル人間というふうに僕らは呼んでいるんですけれども、こういうことができるんだよ、こういう人が、こうやって家族を持ち、奥さんも養い、そしてかつ収入を得て、一軒のおうちだって買えるんだよということを若い人たちにやはり示していかなきゃいけないなというのは感じます。

 その意味で、そのモデルというんでしょうか、その評価といいますか、そういったものが、お金をどのようにすることでキャリアというものをちゃんと見せられるようにするか、モデルとして示せるか、ここに隘路があるのかなと思っております。

 以上でございます。

小熊委員 もう一回だけ。

 ざっくばらんに言えば、今の地方の介護士の平均的な給料は、一・五倍から倍ぐらいないと集まらないなというのが率直なところで、それは、その福祉施設で多少あれはありますけれども、実際、手取りでそのぐらいの給料しかもらっていないといえば、これは、倍というのはなかなかやはり難しいですよね、先生。

桑原公述人 失礼します。

 倍というのは難しいかなと思いますが、でも、倍ぐらいの、そのぐらいの気持ちでいかないといけないなというのは実感しております。

 どこよりも、それが賃金の過当競争を生むみたいなやり方ではなくて、やりがいを持って、倍の給料をもらえるぐらいの経営者でありたいなと僕は願っています。それから、それを評価してもらいたいというのも一方ではあります。そういう意味で、無理だろうけれども、チャレンジすべきではないのでしょうかと思います。

 以上でございます。

小熊委員 どうもありがとうございました。

 高橋先生まで聞こうと思ったんですが、時間が来てしまいました。きょうは本当に、公述人の皆さん、ありがとうございました。

河村委員長 次に、黒岩宇洋君。

黒岩委員 無所属の会の黒岩宇洋でございます。

 きょうは、四人の公述人の先生の皆様、大変貴重な御意見を頂戴いたしまして、心から感謝を申し上げます。

 限られた時間ですので、何点かについて先生方にお聞きをしたいと思っておりますけれども。

 最初に、佐藤主光先生、先ほどの質疑の中でも、地方への財源の配分といいますか、地方交付税について、先生は、地方の財源保障というのにはもう限界があるというお話をされています。私も、それは今の限られた財源の中ではそれもあるのかなと思っております。また、先生のお考えですと、中山間地や離島などの、そういった地域には重点配分する、これは大変私は重要なことだと思っております。そして、それ以外の自治体に対しては、ある意味、頑張れる者が報われる、まあ、でもそれはトップランナーだという話なんですが。

 ただ、私の感覚としては、やはり二〇〇五年から二〇〇七年にかけるあの平成の大合併で、全国的に見ると三千市町村が約半分に減りました。私の新潟県ですと百十二市町村が今三十市町村になりまして、うち二十が市で、町村は十です。

 私の選挙区ですと十市町村、かなり多い方なんですけれども、うち六つが市でありまして、四つが町村だ。そのうち一つは不交付団体で、合併していません。ですから、これは地方交付税は要りません。うち一つが人口三百人程度の離島です。あと二つの村は、これは本当に山間地域、人口一万二千でも佐渡島よりも面積が広いというような、そういう町村ですから、まさに山間地ですから、これはしっかり手厚くする。

 となると、残った、平均五万ぐらいの、頑張って合併した、特例債は、もうこの十年で特例事業は終わりましたので、この間、特例債については国もかなり補填してきて、コストも払って、地方行政のスリム化を図ってきたということで、国とすれば、かなり今まで財政を出動しながら、今後はかなりスリム化された地方行政が期待される中で、私とすれば、更にこの中で濃淡をつけて、ともすれば地方交付税が圧縮されるというようになると、せっかく合併した市にとっても今後の未来が大変危うくなる。ともすると、山間地域は地方交付税で存続するけれども、県庁所在地との中間の自治体、市が今後の存続が危うくなるんじゃないか。

 そういう意味で、地方交付税のこれ以上の圧縮というのは実情からすると厳しいのではないかと思うんですが、この点についていかがでしょうか。

佐藤公述人 御指摘ありがとうございます。

 まず、地方交付税の悩ましいところ、当然なんですけれども、これは国の財源から出ております。国が今財政状況が厳しい中におきまして、できることに限りがある、これが現実になってきているんだと思うんですね。

 実は、交付税をもらっている自治体の多くが、もちろん絶対額は東京の方が多いんですけれども、交付税をもらっている自治体の中には、基金をためている自治体が多いわけですね。やはりこれは将来の交付税に対する不安の裏返しでもあるわけです。

 やはり交付税の問題を考える、まさに財源保障の問題を考えるときは、手厚い財源保障である以上に持続可能な財源保障でなければならないということだと思います。

 確かに、五万人あたりの人口の自治体ですと、もうちょっと頑張れよというふうに地方創生的にはなるかもしれません、つまり自立を促す方向で改革は進められるかもしれませんけれども、とはいえ、もちろん全てが不交付団体になるわけではありませんので。ただ、こういう自治体に対しては、やはり持続可能な財源保障を手当てしていくという、だから、ある種、堅実性がやはり交付税の制度の中にも求められてくるのかなというふうには思います。

黒岩委員 わかりました。

 今の積立金のお話なんかも出ていますが、確かに自治体は将来不安がありまして、かなりやりくりして、役場一つとっても、市役所一つとっても、老朽化して建てかえもできない分、頑張って頑張って積立てしている。そういったところに対して、積立金があるから交付税を減らすよ、こういったことは、私からすればやはりちょっとむごい話なので、先生のお話でも、余り強制的にはすべきではないという理解をしましたので、その点は財務当局にもより理解を徹底していきたいと思っております。

 そうしましたら、桑原先生にお聞きしたいと思っております。

 今、お話でも、介護や保育の現場の皆さん、本当に御苦労されていると。そこで、国も介護士さんや保育士さんの処遇改善を図っている、これは私はすばらしいことだと思っています。

 ただ、やはり現場の方にお聞きすると、いざ国が処遇改善で、じゃ、月額一万五千円アップだ、こういった目標を立てても、現実には、事業所からすれば、運営費もなかなかままならない、その中で実際にお給料に反映することは、これはさせたいんだけれども難しいというお話が届いておりました。

 ただ、厚労省の調査ですと、割と、私の考え方でいうと驚くべきことに、直近ですと、例えば平成二十七年の処遇改善で一万二千円相当で、一万事業所にアンケートをとると、ちゃんとやはり一万三千円アップしているとなるんですね。以前の、平成二十一年、これは民主党政権の前の自民党政権ですけれども、一万五千円相当アップだと国が指針を示して、アンケート調査すると、ぴったり実績としても一万五千円上がっているという結果が出てきている。

 これは、私がいろいろな事業所さんの経営者にお聞きした、そういった肌合いと正直言ってちょっと乖離があるので、実際の経営者として、本当に、国の指針として月額幾らという目標が示されます、それについて実際に反映できるのか。聞くと、やはり加算についてもいろいろな厳しいクリアがあって、させたいんだけれどもそんな簡単に加算できないよ、こういったお話もお聞きしておりますが、この点の実情についてお話しいただけますでしょうか。

 保育士さんについてもそうです。大体みんな、年収で見ると、介護士さんも保育士さんも、月額幾ら、月額掛ける十二で年収アップを見るかというと、実際には、年収だとやはり半分ぐらいしかアップしていないんですね。ですから、月額だと例えば月一万五千円アップしているといっても、年収ベースで見ると半額ぐらいしかアップしていない、こういう統計もとられているので、そこら辺の実態をお聞かせください。

桑原公述人 御質問ありがとうございます。

 実際に、社会福祉法人を担ういろいろな経営者がいるというのは私も承知しておりますし、その中で、どのように、直接、処遇改善交付金というものがぴったりそうやって行くというのは、行くと思います、確かに。手続上は、いつも、昇給をどうするかとかベースアップをどうするかということを考えながら私どもはやるわけですけれども、そこに交付金が入ってきますので、その交付金という性質上、これは届出をして、このぐらいの厚いペーパーで報告を出すんですけれども、それがそのまま本人に行くという、その事実のもとに後追いで支払われるということがあります。だから多分そのとおりなんだろうなと思います。

 ただ、それを年収ベースにするとどうなるのかというのが、やはり、最近僕も気になるところはそのことがあります。ということはどういうことかというと、給与明細の中に、国から入ってくる交付金ですよね、これは外される可能性があるから、その他手当でつけちゃうんですよ。その他、わかりますか。その他手当でつけることは、いつでもそれは外せる、要するに、本体の給与の基本給には反映されていないんです。だから、経営の裁量、裁量というのは僕はないなというのは思っております。

 そういう意味で、そこをしっかりと、経営の品質というのは経営者としてのありようも含めてですけれども、ちゃんと年収ベースでもはかれるようにしていくというのは大事な視点だと思います。

 ありがとうございました。

黒岩委員 ありがとうございます。

 そうですね。大体、実際に、処遇改善でアップしても、全産業別で見ると、介護の方々というのは月額でも十万円ぐらい下がっているという状況ですし、保育士さんも少ない。これを上げていくように我々もしっかり努力をしてまいりたいと思っております。

 では、伊藤圭一先生にお聞かせいただきたいんですが、裁量労働制、今、その実態調査の結果についても疑義があったりとか、いろいろ問題になっているんですけれども、ただ、私どもも、なかなか裁量労働制の実態というものがつかみづらい。というのは、割と最近のデータでも、三十人以上の規模の事業所でも、裁量労働制で働いている労働者というのは、専門業務型でも一%、企画業務型ですと〇・二%という数字になっておりますので。

 私がお聞きしたいのは、全労連さんもそうなんですが、こういった裁量労働制の労働者がどれほど組合に加盟していて、組合としてこの労働実態というものはどういうふうに把握できているのか、この点について、本当に実情についてお聞かせいただきたいと思います。

伊藤公述人 ありがとうございます。

 全労連としましては、裁量労働制、基本的に加盟組織皆反対、入れない方向で取り組んでおりますので、なかなかないというのが実情であります。

 ただ、先ほど御紹介した事案は組合員のケースです。企業名を公表しなかったのは、半ば相談案件にもなっているために、そこは言えなかったということでありますが、一部には入っております。統計上よりも、組織内で見ればもっと少ないぐらいなのが全労連の実情だとは思います。

 ただ、不思議なことに、インターネットで経営者の方々に、裁量労働制を取り入れていますかというような質問をしますと、もっと多いんですよね。

 厚生労働省がとるような統計でいいますと、制度上、きちんと労使委員会等を設けて、要件を満たして、かっちりやっているものを聞けば、極めて少ないといいながらも、私は、もしかすると、違法ではありながらも、使用者が、いや、君は裁量労働制だからと言って、もうそのつもりでやっている、使用者もそのつもりだし、労働者も、言われたら、ああ、自分はもう裁量労働なんだということで、そういう働き方になってしまっている、そういう違法が結構はびこっているのではないかという気がしております。

 これは、いろいろな相談、労働相談等で入ってくる事案を聞いておりますと見えてくるところでもあります。固定残業代で働いているケース、プラス裁量労働制というようなことはしばしば言われて、現実はもっと広がっているのではないかという懸念も持っています。

黒岩委員 それと、伊藤先生にも、先ほどのお話もあったんですけれども、今回の同一労働同一賃金というのが、これは、法律用語ではなく、ある意味政治的なかけ声なんだ、しかも、その制度では格差の固定化につながるという、この辺、もう少し端的にお聞かせいただくと、この後また予算委員会もありますし、法案審議にもつなげていきたいと思いますので、そこら辺、御教授いただけますでしょうか。

伊藤公述人 同一労働同一賃金の法律をつくるということで労働政策審議会でもずっと議論はされておりましたが、法案要綱を最後まとめていく段階ぐらいになりまして、公益委員の先生が、それではこの法律の中でその用語をどう概念規定するのか、こういう質問があった際に、厚生労働省の担当の方から、いや、それは政治的な表現であって、その概念は法律の中には書きません、均等・均衡待遇という従来型のものでやりますと言われた瞬間に、これは、イメージだけが先行していて、実態と違っていたということが明らかになったということだと思います。

 私は、先ほど冒頭の中でも申し上げたとおり、同じ仕事、同じ責任を担って働いている正社員、非正規雇用労働者、ここの賃金格差について全く縮めることができないような法案となっていることにつきまして、これは問題である、言っていることと中身が違うということをぜひ御批判いただいて、真の均等待遇が実現するような法改正はどうあるべきかということを追求していただきたいと思っております。

黒岩委員 ありがとうございます。

 その点も今後吟味されることになると思いますので。

 それでは、最後になると思いますけれども、高橋先生に、先ほど天下りの規制についてお話もお聞きしました。安倍第一次政権のときに高橋先生が実務的に取り組まれたということで。私も、もともと、天下りは禁止だよ、規制だよ、癒着の温床だよということで申し上げてきました。ただ、これは今、割と世論もトーンダウンして、以前ほどこれが話題にならなくなってきているということはちょっと憂慮しております。

 ただ、根源的な部分でいうと、今から何十年前に中央官庁に入省した人たちは、多分、そのとき、民間よりも給料が安い、現役の時代までの賃金、トータルでも安い、でも、いずれ再就職、天下りがあって、生涯年収ではそれ相応のものがもらえる、こういったインセンティブもあって働いてきたという人たちが、いざ自分たちが天下り先がなくなるという、このことに対する抵抗感というものがかなり根源的な問題で、いつまでたってもこれが途絶えることなく物すごいエネルギーとしてたまっているがゆえに、いろいろな規制の網をかけようとも、それがするりと抜けたり、また全くこれが強制力を持たなくなっている、私、こういった部分があると思う。

 この点について、もともと官僚だった高橋先生が、やはり人間というのは心で動いているものですから、今言った、大きなインセンティブを持たない限り、天下りというのはなかなか規制できないものじゃないか、こういう命題についてどのような対応ができるのか、その点も参考になる御意見をいただきたいと思います。

高橋公述人 天下り規制は確かにつくったんですけれども、そのときに、君は役所に入るときに天下りを期待していたかと聞かれたことがあるんですけれども、正直言って、私は理科系で来たので、そういうのを知らないで入りました。ですから、私だけちょっと変わっているからそういう案をつくれと言われたのかもしれませんね。

 そのときにつくった法律では、やはり、役人に任せたらインセンティブは働かない、そのとおりだと思います。ですから、ディスクロージャーをしております。どういうのかというと、そのときから始めたのは、各省庁でそれぞれ一定以上のところのリスト、退職者のリストは全部出ています。ですから、それをきちんと見ればいいんじゃないでしょうか。

 要するに、どういうのかというと、天下りあっせんを禁止しているんですね。ですから、天下りあっせんを禁止して、それは在職期間中は禁止なんですけれども、退職してすぐ、就職活動して一日で再就職したというのはかなり不自然ですよね。そういう例はたくさんありますね。ですから、ちょっと見れば、もう全て各省庁のが公開されていて、いついつ退職して、いついつ再就職したというのは全部わかりますね。ですから、それを調べればよろしいんじゃないですか。

 何か、私、それを制度化したんですけれども、誰もそれを見ないというか、関心がないからというんですけれども、それこそ国会できちんと全部見て、これはどうですかと聞けばよろしいんじゃないかなと思いますけれども。

黒岩委員 そうですね。高橋先生のようなマインドで、まさに公を支えるという思いで霞が関に入った、そういった皆さんも多数いらっしゃると思いますので、そういった方々も含めて、お知恵をかりながら制度設計をするために我々野党としても取り組んでまいりますので、またよろしくお願いいたします。

 きょうは、四人の先生方、本当にありがとうございました。これで終わります。

河村委員長 次に、藤野保史君。

藤野委員 日本共産党の藤野保史です。

 四人の公述人の皆様、大変御多忙の中、御出席をいただき、また貴重な公述をいただきまして、本当にありがとうございます。ぜひ今後の審議に生かしていきたいというふうに思っております。

 今、国会では、先ほど来出ておりますが、働き方改革、特に裁量労働制をめぐる問題が焦点になっております。そこで、私、この点を中心にお伺いをしたいと思っております。

 まず、伊藤公述人にお聞きしたいと思うんですが、働き方、その関連でいいますと、憲法二十五条にも関係するんですが、健康で文化的な最低限度の生活、これを保障していく上で、最低賃金というものも大変重要な役割を負っていると思います。

 私たちは、中小企業、零細企業への抜本的支援の強化とあわせて、これは大きく引き上げるべきだと考えているわけですが、この最低賃金の抜本改正についてどのようにお考えでしょうか。

伊藤公述人 ありがとうございます。

 今、政府も最低賃金については前向きなメッセージをずっと出しておられますけれども、今の最低賃金の状態、率直に申しまして、フルタイム就労しても自立した生活はできない、そういう状態であります。労働基準法に書かれてある、人たるに値する労働条件、これが保障されていないということです。この状態の解消は急務だと考えております。

 加えて、地域によって、現在、東京が最高ですけれども、最低の地域とで最大二三%もの格差が設けられております。商品だとかさまざまなサービス、その価格はそれほど大都市圏と地方、地域では変わりはないのに、賃金だけ二三%も違うということがまかり通っておりますので、特にパート、時間給で働く皆さんなどでは、やはりこの地域では働けないということで、雇用の流出を招く、そういう原因となっています。特に若い方が大都市に行ってしまい、地域が活力ある労働者を手に入れることができない、こういう状況になっています。この状況の放置というのは、今格差是正をうたっておられる政府の方針にも反するのではないか、こういう状態だと考えております。

 全労連としては、労働者に保障されるべき最低限の生計費というものを試算しております。冒頭触れることができませんでしたが、お手元に配付しました資料の一番最後に試算の結果を示しております。

 実は、大都会であればお金はかかる、地方であれば生計費にそれほどお金がかからないというイメージは広く持たれていると思いますが、意外とそうではなく、地方、地域なら地域なりにお金はかかる、交通費等はお金がかかる。それに比べて、大都市は住居費は高いけれども交通費は安い。こうしたことから、それほど差がない。

 全国一律の最低賃金、月に二十七万程度あれば何とか暮らせるという状況ではないかというのが私たちの試算であり、それをぜひ目指していただきたいと思っております。

藤野委員 ありがとうございます。

 重ねて伊藤公述人にお聞きしたいんですが、今回、働き方改革ということで、雇用対策法の見直しというのも行われます。

 ここでは、法の名称で、目的に書かれている雇用対策の言葉を労働施策に置きかえて、現行法の目的にある「労働力の需給が質量両面にわたり均衡することを促進して、」という文言を削って、いわゆる生産性の向上、労働生産性の向上等を促進することというふうに書きかえることになっております。この生産性の向上を目的とするという、この点についてどのようにお考えか。

 そして、もう一点。同じ、国が講ずべき施策の中に、非雇用型を含む多様な就業形態の普及という文言も追加されることになりますが、この多様な就業形態を国が普及する、こうした点についてもどのようにお考えか、お聞かせください。

伊藤公述人 生産性の向上、例えば労働時間の短縮等においても重要なことではありますけれども、雇用対策、労働施策の基本においてそれを目的と置いてしまうということは非常に危険であるというふうに考えております。

 現在、国が行うべき雇用対策の基本というのは、やはり労働力の需給調整のマッチング、失業した場合の生活保障、先ほど来強調しておりますが、転職を支え得るような職業教育訓練を公的に保障すること等であると思っております。それによって労働者保護法制が十全に機能する状態を守ることが大事だと思っております。それが、今回、需給調整といったシステムのところを削除した上で、生産性の向上を目的に置くような法案要綱となっております。

 実は、その生産性向上をどんどん追求する余り、今、名立たる大企業において、品質不正問題など、こうしたものが発生しております。生産性向上というのは最後の結論として出てくるかもしれませんが、まずは労働者を大事にする、そういう政策が必要だと考えております。

 その点でいいますと、また、非雇用型も含めた就業、そこを普及するというのは極めて危険だと思っております。今でも請負で働くフリーランスの方々はいらっしゃいますけれども、いろいろ我々も聞き取りもしたりしますが、やはり非常に不安定で厳しい契約条件のもとに置かれている。中には、指揮命令権のもとに属するようなフリーランス、偽装といいますか、そういうものもあります。

 厚生労働省の本来するべき仕事としては、雇用類似であるようなそういう働き方については労働者保護をかけるという観点が重要であって、そこから外れる労働を普及するというのは労働市場全体を劣化させることになると懸念を持っております。

藤野委員 ありがとうございます。

 裁量労働制やあるいは高度プロフェッショナル制度を導入すべきだ、推進すべきだという方々の中には、八時間労働制について、これはもう古い発想だ、むしろ、だらだら残業して残業代を稼ぐ労働者がいるから長時間労働の温床になっているんだというような主張もあるわけですけれども、この点については、伊藤公述人はどのようにお感じでしょうか。

伊藤公述人 裁量労働制のメリットを言われる方の重要な拠点となる、裁量労働で短く帰れるというものが崩壊したというあたりが一つ大きなポイントだと思っております。

 先ほど提示したグラフでも、裁量労働制で働く労働者の方がむしろ長時間労働となっており、やはり八時間労働制のもとで働く人の方が、長時間労働の人もいますけれども、より短いという傾向は出ておりますので、だらだら残業論というのは当てはまらないと考えております。

 むしろ、八時間労働制について、硬直的で古くて使えないという発想について誤解があると考えております。八時間というのは一日の労働の上限であって、それより、より早く仕事を終えて帰るということは当然違法ではありません。加えて、三六協定を結べば、八時間を超えるような時間外労働、それでも可能という柔軟さもあります。その際、長時間となり過ぎないように、割増し賃金で、コストをかけることでブレーキをかける、そういう機能も備えているわけであります。

 ただ、現在のところ、割増し賃金のブレーキが不十分過ぎるということで、政府の方としても上限規制をつけなければならないという御決断をいただいたわけでありますが、割増し率の引上げとあわせて、そうした措置が今八時間労働制の足りないところとして必要ではあるけれども、さまざまな機能を総合的に踏まえると、八時間労働制はすぐれている、かえって、裁量労働制は、割増し賃金の支払いもせずに長時間をさせられる制度だという、その悪用が目立つためにメリットはないものだと考えております。

藤野委員 ほかにも、残業しても、裁量労働制になってしまうともうからない、お金がもらえないということで、それだったらもう長時間労働をやめようということで、いわゆる生産性、先ほど申し上げた労働生産性が上がるのではないか、高くなるのではないかという話もあるんですが、この点については、伊藤公述人、どうでしょう。

伊藤公述人 その観点もよく流布しておりますが、なるほどと思えるようでありながら、実はそうではない。

 使用者からすると、労働時間の指定はできませんが、仕事はどんどんと追加で押しつけることができます。これはJILPTのアンケートでも出てきますが、早く仕事が終われば次の仕事が追加でなされる。それだけどんどん仕事をさせても労働コストがアップしないということで、結局悪用されてしまうわけで、だらだら残業を切るということに裁量労働制はならないということが実証されていると思います。

藤野委員 ほかにも、例えば、裁量労働制は労働者が労働時間を自分で決められる、だからこれはワーク・ライフ・バランスにつながるんだ、こういう御主張もあるんですが、これについてはいかがでしょうか。

伊藤公述人 時間の自由は与えられながらも、業務量や締切りその他、あるいは人手をふやすだとか、そうした権限がない労働者ですから、まさにどんどんと仕事だけ押しつけられて長時間労働化になるということです。およそワーク・ライフ・バランスを実現するには当たらないことだと思います。

 ワーク・ライフ・バランスというのであれば、八時間労働制、これをかっちりリジッドに守っていくということ、それから、育児休業、介護休業、いろいろありますし、そうしたものをきっちりと使えるような状態をつくることが大事だと思っております。

藤野委員 ありがとうございました。

 次に、佐藤主光先生にお伺いしたいと思います。

 先生は、二〇一六年二月十七日の参議院の調査会でも参考人に来ていただきまして、そこで、先ほど小熊委員からも指摘がありました補正予算について、透明じゃないという言い方で公述をいただいております。

 先ほども、予算の質の部分のところで、コストの見える化というお話がありました。今回の補正予算に限らず、安倍政権というのは、この間、例えば戦闘機や護衛艦、ミサイルなどの購入経費というのを補正予算に盛り込むというやり方を常態化させております。

 ことしの補正予算でいいますと、例えばそういう防衛費、軍事費は二千三百四十五億円あるんですけれども、その八割がオスプレイとか潜水艦とかを取得するための歳出化経費、前倒しのための、前倒しで取得するための歳出化経費でありまして、つまり、既に発注済みの兵器の後年度負担分を繰り上げて補正で払うというようなことも含まれているということで、そうしたことが補正で常態化しているという点について、先生はどのようにお感じでしょうか。

佐藤公述人 御指摘ありがとうございます。

 先ほども申し上げたとおり、やはり、本来なら本予算に入るべき予算は本予算に入れてこういう場で議論するべきであって、補正回し的なのが常態化するのは本来望ましくない。

 だからなんですけれども、我々はよくPDCAサイクルという言い方をしますけれども、だから、実は予算だけではなくて決算が大事なんですね。皆さん、国民もみんな、予算は見るけれども決算はちゃんと見ないので、決算で何が起きているのか、その政策は最終的にどうなったのか、それは防衛費の調達問題も含めてですけれども、それが本来の行政事業レビューとかの仕事でもあるんですが、やはり決算ベースで見てPDCAサイクルを回していく、こういう体制を整えていくことかなと思います。

藤野委員 ありがとうございます。

 次に、桑原公述人にお聞きしたいんですが、先ほど、本当に大変重要なお話をいただいたと思っております。感謝、感動、希望というこの三Kを国がやはり広げていく。大変重要な御指摘だったと思います。

 私も地元で、こうした保育や介護に取り組んでいる事業者の方からお話を聞くことがありまして、先生のところのようにたくさん持っているところでもお話を先日お伺いしたんですが、そのとき、いわゆる人のとり合いが起きている、ちょっと言葉はよくないですけれども、介護人材、あるいはそうした社会保障に携わっている方が足りないということで、とり合いが起きているというお話を伺ったんですが、こうした実態というのはお感じでいらっしゃいますか。

桑原公述人 御質問ありがとうございます。

 本当にとり合いになっていると思います。それが地域間で行われ、市町村間で行われ、都道府県をまたいで行われています。ですから、そこの辺は、ぜひ地域が連携して、とり合いではなくて譲り合いをできるようにしていただきたい、こんなふうに思っております。

 以上でございます。

藤野委員 ありがとうございます。

 私がお話を伺った方は、人づくり革命というけれども、本当にそういう意味では人づくりそのものが失敗しているもとで、やりたくないけれども、そういうとり合い、とり合いというかヘッドハンティングという言い方もされていましたけれども、やらざるを得ないというような深刻なお話も伺いました。

 やはりこうした点で、おっしゃられたように、地域を支える大事な仕事であります。一年三百六十五日、二十四時間、人がいて、地域に本当に循環するような、そういう拠点だというふうにも感じますので、国がしっかりと支えていく必要があると思っております。

 もう一点だけお聞きしたいんですが、福祉における人づくりという点で、先ほど、イメージアップの問題、そしてダブルワークの問題も御指摘いただきました。そのほかに何か、例えばこういうものがあるというものがあれば、御教示ください。

桑原公述人 御質問ありがとうございます。

 本当に短い時間なので、言いたいことはまだまだたくさんあるのが実情です。

 しかしながら、こういう場をかりて申し上げるならば、やはり日本は福祉国家を、いわゆる、言葉で言うと福祉国家なのか、中福祉国家を目指すのか、高度福祉国家を、この議論ではなくて、本当に地域が支え合っていく、人と人が支え合っていくものを、お金では換算できないものがあるよねというものを、例えばボランティアポイントとか、そういうものを地域のボランティアさんがポイントとしてためて、それを自分がいざ老後のときにどう返してもらうかというのは、またこれはお金に換算するのかどうかといういろいろな問題がありますけれども、でも、そこが、支え合うという意味においては重要な隘路があるんじゃないかな、このように思っております。

 以上です。

藤野委員 本日は、四人の公述人の皆様、本当にありがとうございました。

 高橋参考人には、時間の関係でお聞きできませんでしたが、お礼を申し上げます。ありがとうございました。

河村委員長 次に、串田誠一君。

串田委員 最後になりまして、長時間、本当にありがとうございます。

 最初に、佐藤先生に、レジュメを参考にしながら質問をさせていただきたいと思います。

 六ページという数字を打っている上のところに、構造として、赤字をつくらない体質という言葉が使われております。この体質という言葉のほかに政策という言葉があってもいいのかなと思いながら、体質という言葉をあえて使われたというのには何か理由があるのではないかなと思います。

 イメージとして、体質という言葉は、例えば風邪を引かないとか、疲れにくいとか、何か向かい風があったときにもへこたれないというような、そんなイメージを持っているんですけれども、この赤字をつくらない体質というのはどのような政策によって実現をすることができていくのか、御教示をいただきたいと思います。

佐藤公述人 ありがとうございます。

 私は体質という言葉をよく好んで使うんですけれども、体質の反対が体調なんですね。体調管理というのは、財政でいえば景気対策のようなものです。つまり、景気のアップダウンはまさに経済の体調だからです。体質改善とは何か、これは経済の構造改革であるということになります。

 では、赤字をつくらない体質とは何かというと、一言で言えば、赤字をつくらない構造、制度をつくりましょうということです。見える化はその一つでありまして、つまり、今実際何が起きている、どこの自治体でこれくらいの医療費がかかっていますよ、介護給付費がかかっていますよ、そういうのを見せることによって、ある種問題点を明らかにしていくという、これも一つの構造改革ということになりますので、体質イコール構造であるというふうに御理解ください。

串田委員 今、見える化という言葉がありましたけれども、これはページでいうと十二ページになるんでしょうか、見える化というところがありまして、例として下に図があるんですが、ちょっと字がちっちゃくて、どんな例なのかちょっと私もわからなかったんですけれども。

 昨今、非常に投票率も低い、政治に対する関心を高めるという意味でも見える化というのは大事なのかなと思うんですけれども、そういう意味で、地方自治体が今後見える化をしていくに当たって、どのようなデータを見える化していくと非常に効率的というか効果がいいのか。また、ちょっとまた言葉なんですが、国民の行動変容を促進する、これは私もちょっとわかりづらい部分もありますので、先生に教えていただきながら、見える化のデータ、どんなものが非常に効果的か、教えていただきたいと思います。

佐藤公述人 御質問ありがとうございます。

 具体的に、今内閣府の方で、見える化データベースというのをそろえております。全国市町村それから全都道府県の主要な経済関係それから財政関係のデータをそろえています。一番身近なところでは、税収であるとか歳出規模であるとか赤字であるとか債務残高とか、もちろん人口の推移とか産業構造とか、こういったものを見せております。

 やはり、最終的に誰に見せたいかということを言うと、これは住民なんですね。では、住民が何に関心を持つか次第ではありますけれども、例えば、今高齢化問題が進んでいますので医療費である、では、自分のところの自治体は医療費はどれくらいなのかということ。もちろんこれは、年齢構造を調整しないと、高齢化が進んでいるところは高く出ますので、年齢構造を調整した上でということになりますが。そして今度は、医療費が自分の自治体は妙に高いなとなれば、何かおかしいよねと。隣の自治体とは限らず、同じような経済規模や人口規模の自治体と比べたらやはりこれはおかしいよねというのを住民自身が気づけば、それがやはり自治体に対する働きかけになるわけですね。

 この行動変容という言葉は内閣府がつくった言葉ですけれども、基本的には、やはり住民自身の自分事にしてもらうということですね。財政問題を住民自身の自分事にする、その手段としての見える化であるというふうに御理解ください。

串田委員 次に、伊藤局長にお聞きをしたいと思います。

 先ほどもちょっと質問に出たんですが、同一労働同一賃金ということで、長時間おつき合いをいただいている中で、ちょっと私自身、もしかしたら意見が違ってしまって申しわけないかもしれませんが、ここの中に、ガイドラインとして、合法な格差の例というものが挙げられております。ページでいうと九ページになるんでしょうか。「管理職コースの新卒正社員Xが、キャリアコースの一環として店舗などで働き、熟練パート労働者Yに仕事を教えてもらっている場合、Yの賃金はXより低くても、不合理な格差ではない。」というところでクエスチョンマークがついているわけなんです。

 私は、管理職コースに入っているXとしては、同じ作業をしながら、その熟練のパートのYの新しい新卒者に対する指導方法がこのままでいいのかとか、今の作業が段取りとしていいのだろうかというようなことを、管理職コースとしては、実は、同じ作業を覚えるだけではなくて、会社としてはそういうこともしっかりと観察しながら後でそれを会社にフィードバックするんだということを要求されながら仕事をしているから、賃金が変わっても構わないんじゃないかなというふうに思っているんですね。

 そういう意味では、同一労働同一賃金の同一労働というのは、概念を共通にしていかないと、客観的な作業だけでもって、果たしてそれで判断していいのかというところにかなり誤解が生じるので、法案としてこの言葉は使わなかったというのは私はあえて肯定的に捉えたいと思うんですが、伊藤局長の御感想をお聞かせいただきたいと思います。

伊藤公述人 ありがとうございます。

 例えば、今、このガイドラインのケースというのは、政府の出された資料をそのまま拾っておりますのでまさにこのとおりなんですけれども、この場合の新卒の正社員Xが、先生おっしゃるとおり、その現場の仕事のあり方についての改善という任務も持ち、そういう業務を持って、あるいはそうしたことができる能力を持って現場に当たっておられるのであれば、その仕事の能力を評価して、それに見合った賃金を給付するというのは、それは当然のことだと思っております。

 ですが、もしそうではなく、何も知らない新卒労働者が、まずは現場から物を覚えてこいという形で行ったのであれば、まさにこれは、リーダー格のパート労働者のYさんの方の賃金が新卒初任給よりは、はるかに高く、リーダーとしての賃金保証をされた上で、何も知らない正社員、大卒かもしれません、管理職コースの方かもしれませんが、その時点では明らかに格上のYさんの賃金が高くあるべきではないかというのが現場の労働者の意見であります。

 もしXさんが将来昇進もしまして、いろいろ上がっていけば、そのときの業務に応じた保証をされればいいということだと考えております。

串田委員 大変よくわかりました。

 現場でも、同じ仕事をしているのに、正社員の人が新卒でやってきたのになぜ違うんだというような、パートの方が不満に思うというようなこともあると思うので、そこら辺の部分の理解を深めていくことが実は大事なのかな、そんなふうに思った次第でございます。

 次に、桑原理事長にお聞きしたいと思います。

 きょう、チラシを見せていただきまして、私が非常にすばらしいなと思ったのは、おかずクラブが非常に小さく書かれていて、非常に真面目な感じ、本当でしたらこういう芸能人を大きく出したいところなんですけれども、あえて顔写真もなくて出されているということと、ここのメンバーのオカリナさんが実は看護師を芸人の前にやられていたということもあって、人選も非常にセンスがいいな、そんなような気がいたしました。公務がなければ、ぜひ参加したいと思っております。

 ところで、質問をさせていただきますが、最初のページでしょうか、法人内の事業所間での格差があるということでございますけれども、どの職種が優遇され、冷遇されているのかというのをちょっとお聞きしたいとは思うんですが、逆に言いますと、非常に採用しにくい職種というのがあると思うんです。そのときには、賃金を上げるというような方法で来てもらいたいというようなことがあると思うんですね。

 このときに、配分に関して法人の裁量を認めるということになると、人を採用しにくいところにだけ賃金を高目にしていく。そうすると、今度、ほかのところも、自分のところも採用したいと思って、また賃金を上げていく。そうすると、相対的な部分で、人気のあるところの賃金だけが上がってしまって、そうでないところは下がってしまう。むしろ、逆に職種間での格差が広がってしまうんじゃないか、そんなふうにも思うんですが、いかがなものなんでしょうか。

桑原公述人 御質問ありがとうございます。

 本当に、現場での職種間の格差というのは、今おっしゃったように、あります。採用したいので、このエリアでいうと平均賃金も違う、そしてまた職種間においての、例えば看護師さんを採用したいと思えども、やはり、例えば、我が法人が持っている給与規定ではちょっと格差がある。要するに、それを埋め合わせするために、逆、それの格差を是正する、地域手当とかでですね。

 それからもう一つは基本給、これが僕は一番の問題だなと。基本給というのは一番ちゃんと見ていってあげなきゃいけないんだけれども、地域間格差とそれから採用格差があることで、どうしても、しようがないなという部分があるのは本音のところです。だから、これは、本当は基本給というのは、法人で勤めているならば、法人の職員としてやはりひとしく一緒で、ただ、職種によって違うのは事実ですけれども、それを是正できる裁量権を自分たちで持っていかないと、要は、なかなか、人任せ、何任せみたくなっちゃうというところが私も懸念しているところでございます。

 以上でございます。

串田委員 最後に、高橋先生に二点ほどお聞きしたいと思うんですが、最初のページのところで、NAIRUという、またちょっと非常に専門的な用語なんですけれども、二・五%が我が国のNAIRUということになるんでしょうか。それで、現在、失業率が二・七%というような公表もされている中で、インフレ目標は余り達成されていない。これがNAIRUに近づいているというのが何か特殊な現象なのかどうかということを、まず一点お聞きしたい。

 最後にもう一点は、規制緩和の点につきまして、ちょっとレジュメがないので正確に聞き取れているか自信はないんですけれども、文科省の告示によって国会をコントロールしているというのはおかしいんじゃないかという中で、サンドボックスという言葉が出てまいりました。これは要するに砂場ということで、そこの部分だけ特区というのは本来あるべきで、今回の学校の規制については、実は特区の問題じゃないんだというようなことだったと思うんですけれども、そのサンドボックスにおける典型的な特区というのはどんなものを想定されているのか、教えていただければと思います。

高橋公述人 最初のNAIRUの話ですけれども、これは下限と思われる失業率ということなんですが、インフレ率はまだ一じゃないか、二のところで一じゃないかというのは、それは最後、フィリップス曲線というのが横になっているということなんで、実はNAIRUに近づくときに、インフレ率というのはちょっとおくれてすうっと上がってくる、そういうこととなります。要するに、それは賃金上昇というのとほぼパラレルであります。ですから、ちょっとおくれるんですけれども。ですから、そういう意味で、失業率の低下はちょっとなんですけれども、インフレ率の方はこれからちょっと上がっていく、それで、これは適切な財政政策と金融政策をすればそちらに近づく、そういう話でございます。

 それで、あとサンドボックスの話なんですけれども、これはいろいろ試しでやってみるということなんですね。ですから、先ほどちょっと私、いろいろな、ウーバーとかエアビーアンドビーみたいな話をしましたけれども、こういうのは海外から見ると非常に当たり前のサービスになっているわけなんで、オリンピックに目がけてこういうのをサンドボックスにするというのは一つの考えだと思いますし、ですから、象徴的なものを取り上げて規制改革を突破するというのは、実はやらないととんでもない話になると思います。よろしいですか。

串田委員 大変長い間、ありがとうございました。勉強になりました。

 終わります。

河村委員長 これにて公述人に対する質疑は終了いたしました。

 一言お礼を申し上げます。

 公述人各位におかれましては、貴重な御意見をお述べいただきました。まことにありがとうございました。厚くお礼を申し上げます。

 午後一時から公聴会を再開することとし、この際、休憩いたします。

    午後零時七分休憩

     ――――◇―――――

    午後一時開議

河村委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。

 平成三十年度総予算についての公聴会を続行いたします。

 この際、公述人各位に一言御挨拶を申し上げます。

 公述人各位におかれましては、御多用中にもかかわりませず御出席をいただきまして、本当にありがとうございます。平成三十年度総予算に関する御意見を拝聴いたしまして、予算審議の参考にいたしたいと存じますので、どうぞ忌憚のない御意見をお述べいただきますようにお願いを申し上げます。

 御意見を頂戴する順序といたしましては、まず中空麻奈公述人、次に上西充子公述人、次に寺西笑子公述人、次に藤原直哉公述人の順序で、お一人二十分程度ずつ一通り御意見をお述べいただきまして、その後、委員からの質疑にお答え願いたいと存じます。

 それでは、中空公述人にお願いいたします。

中空公述人 ただいま御紹介にあずかりました中空麻奈といいます。BNPパリバ証券でクレジットアナリストというのを長くやっております。金融市場にいる者として、今の現状がどんなものなのかというお話をきょうはさせていただきに参りました。

 実は、ここに来る前に、緊張したのか、物すごい勢いで転びまして、もう流血の騒ぎで、結構足も痛くて困っているんですが、緊張感で、それもなく、しゃべれるかなというふうに思っています。(発言する者あり)そうします。ありがとうございます。出血サービスです、本当に。

 では、最初からお話をしたいと思います。

 政治家の先生方々も、今、ついこの間、二月に入りまして株価が大暴落したというのは御存じだと思います。株価大暴落すると、とかく、これでバブル的なものが終わってしまうんじゃないかという気になってくるのが普通でして、それが果たしてそうなのかどうかということは、今の現状認識をする上ではとても大事だというふうに思っています。

 私がお配りしています「金融市場からみた問題点」というプレゼンテーション資料があるかと思うんですが、それをごらんいただきたいというふうに思います。

 ページが、下の方にあります「株式市場は活況が続いていたが…」というところで少しお話をさせていただこうと思っているんですが、これまでのところ、かなりバブル的な状況でした。株も上がってきましたし、いろいろな、債券の価格がタイトにどんどんなってきまして、そうなってくると、人間って景気がいいように思えちゃうんですね。なので、景気がいいんじゃないかという気になってきていたんですが、株式市場はやはり相当バブルになっているというふうに私は思っています。

 このページで左半分を見ていただくと、これは株価推移、かなり長い期間をとった株価なんですが、割と右肩上がりに上がってきている様子が目にとまるかなというふうに思います。それに対して右側、少し時間軸を短くしてとったものですと、急速にがっと下がる様子がわかると思うんですね。株価が急速に下がったように見えますよと。

 現状の株式市場のポイントとしましては、金融機関とか、特に銀行とか生命保険会社なんかには規制がかなり厳しくなっていますので、足が速くてよく動けるお金は、いわゆるシャドーバンクなんですね。なので、足が大変速くなってくる。やばいと思うと、すっといなくなるというのが割と多いんです。なので、感応度が今高いなというのも、実はシャドーバンクが暗躍しているから、これが一つの理由だと思っているんですね。

 ほかにも、さまざまあります。いろいろなシステムが今度どんどん統合されてきて、電子取引だとかAIだとか、更に言うのであれば、フリークエンシートレードというものがあるんですね。こういうものがあるおかげで、思っている以上に株価は大暴落しちゃうんです。なので、感応度が異様に高く見えてくるという話はあります。

 でも、これは本当なんでしょうか。このまま、かつてのリーマン・ショックみたいに、バブルが終わっていくのか、そのきっかけになるのか。

 いろいろな有識者の方々が、潮目が変わったんじゃないかと言う方がいらっしゃいます。潮目は、根底ではだんだん変わりつつある原因は出てきていると思っているんですが、私自身は、今回の株の調整は、やはりそれほど大きなものにならず、バブルはもう一回継続するでしょうというふうに思っています。

 その理由をお話ししていこうと思うんですが、そもそも論として、先ほど私は、感応度が高いシャドーバンクがあるから、今、マーケットが過剰反応したというような話をしました。

 もう一つ、直接的な株価が暴落した理由ということで、次のページ、小さいページなのでちょっと見にくいんですが、切れていたりするんですね、よくわかりにくいですが、上の方の「金利上昇懸念が株式市場暴落の背景?」というところを見ていただきたいと思います。

 そもそもの株価が暴落した理由というのは、アメリカで雇用統計が非常に強くて、賃金が上がっているということがわかってきて、景気がよくなってきた。なので、金利が上がっちゃうかもと思って、この右側の表を見ていただきたいんですが、十年債が書いてあるんですね、十年債の金利が三%に達しそうですよとなってきた。これが、今回の株価が落ちてきた直接的な原因です。

 でも、おかしいですよね。景気がよくて金利が上がってきて、何で株価が落ちなきゃいけないんだという話に本当はなるんだと思っています。その背景にあるのは、我々金融市場にいる者として考えているのは、今のバブル的な動きというのは世界じゅうの中央銀行が金融緩和をした中央銀行相場だから、これが急速に崩れていくとすると、それは危険だというふうに考えて、今の現状として株価を落とすという話になってきたわけですね。

 中央銀行相場という言い方をしましたが、中央銀行が世界じゅうで資金供給をしたおかげで景気というのは上がってきたわけです。方々でいい統計も出てきたというのは事実なんですが、そのおかげでバブルが生じたというふうには思っています。

 同じページの下の表、「クレジット市場への影響」というところを見ていただきたいと思います。

 私はクレジットアナリストというのをやっているんですが、クレジットアナリストというのは、債券の価格がどうなっていくのかを見ています。

 左側に表がございます。これは何を言っている表かというと、バブルかどうかを判定する表なんですね。バブルだというところは赤い色がついています。バブルじゃないところは水色になっているところでございます。赤いところというのが割と多くのアセットクラスで散見されていると思うんですね。しかも、これは株価が落ちた後でもこうでございます。

 なので、言いたいのは、株のマーケットは過剰に反応したし、多少、為替も動きましたけれども、クレジットのマーケット、あるいは債券のマーケットはそれほど大きく激烈に動いたわけではないということなんですね。

 右半分を見ていただくと、米欧の社債スプレッドだとか、下の方は日本の社債流通利回りになっていますが、やはり安定をしています。スプレッドが安定しているということは、クレジットが安定しているということになります。

 なので、加えて、今のマーケット、決して、リーマン・ショックのときみたいにわあっとバブルが終わっていくような、そういう過熱感が出ているわけではないという話だということでございます。

 ここまでが現状認識。ですので、バブルというのは中央銀行の流動性相場が続く限りやはり続くんですというのが、私の考えている今の金融市場の見方でございます。

 さて、では、ここから先は、日銀がとってきました金融政策、あるいは日本が置かれております財政再建をしなきゃいけない現状において、これらが金融市場にどういう影響をもたらしたかというようなことをお話ししたいと思います。

 次のページ、「金融政策とマーケットへの影響」というところに行きたいと思います。

 上の方、ボラティリティーが低下しましたということが書いてございます。

 金融市場から日銀が日本国債を買うようになりました。そうすると、日本国債マーケットというのは相当ゆがんできた。買い手が変わっただけじゃないかということなんですが、ただ、市場に物が流通しなくなりますので、その意味では、ある程度ゆがんでくるのは、これは仕方がないんだろうというふうに思います。

 その一つの特徴として出てきているのが、このボラティリティーが低下しているというところなんですね。

 ボラティリティーが低下しているということで、ほとんど動かなくなってきましたねという状況です。そうすると、例えば、どんどん投資家が入ってきたくなるかというと、実はそうではなくて、投資家は入りにくくなるわけですね。ボラティリティーがないので、市場としては魅力が落ちるわけです。その面が指摘できるということ。

 それから、もう一つ見ていただきたい表が、この同じページの下の表なんです。左側をごらんいただきたいと思うんですね。JGBの十年債金利というのと名目GDPの上昇率というのを比べています。

 名目GDPの上昇率がJGBの十年金利よりも上回っていたときというのは、バブルのときだけなんですね。なので、バブルのとき以来の現状に今なっていますよということ。

 言い方をかえると、金利が低くなり過ぎている。もう一つ余計に言わせていただくと、やはり日銀がJGBを買い取り過ぎたので、買い占め過ぎたので、今みたいなボラティリティーの低下を招いているということになると思っています。

 その反面、右側なんですが、もう一つ見ていただきたいのがこの表なんですね。JGBの取引高の動向ということになっていまして、下に向いているのがディーラーを除く取引高になっています。

 上の、上がっているのがディーラーの取引高なんですね。ディーラーというのは証券会社なので、言ってしまえば、証券会社ばかり取引しているということです。こんな状態が正常だったと言えるでしょうかということですね。最終投資家というものの姿が見えなくなってきているというのが現状でございます。

 最終投資家なんかいなくてもいい、うまくお金が回ればいいということで切ってしまえばそれまでなんですが、例えば、これから先、日銀の金融緩和が出口を見つけていこうという流れの中で、買い手がいない現状というのは全然問題がないと言えるでしょうかということです。

 なので、買い手がかなり絞られてきたこと、それからボラティリティーがなくなってきたこと、バブル以来、金利が低くなり過ぎたこと、GDPに対してですけれども。この辺については、少し懸念材料が今後出てくるんじゃないかなというふうに思っているところでございます。

 もう一点、金融政策からの絡みでお話をしたいのが、その次のページになりますが、金融機関は健全だけれどもというところでごらんいただきたいと思います。

 中央銀行が資金をじゃぶじゃぶに入れてくると、そのかわり日本国債を買い入れていくと、今まで日本国債を持ってきた人たちは、ポートフォリオリバランスといって、今まで自分の持っていたポートフォリオをほかのものに入れかえていかなきゃいけないということが起きてきます。例えば、日本国債というのは安全資産ですし、大量に出ていますので、巨額にありますので、買いやすかったわけです。この買いやすかったものをどんどん買っていた人たちというのが、では何を買っていけばいいんでしょうかということですね。

 そのかわりにというところで見ていただきたいんですが、左上、金融機関の円債残高は減ってきている。一方で、右の上ですけれども、そのかわり、外債をふやしました。でも、外債で金利が上がったら、これはすぐ含み損になるわけですよね。

 それから右の下、金融機関の投資信託残高、これがめちゃくちゃ上がってきちゃったわけです。自分で判断をせず、投資信託だとかファンドという形で投資をすること、これは果たして健全な姿なのかということですね。

 それから最後、もう一つ、株式に関しては、政策保有株の持ち合いなんかを解消していく流れにありますので、少しずつ減らしているという状況ではありますが、見ていただいたように、日本国債が突然買えなくなったということで、随分とポートフォリオのリバランスを進めた。進めた結果、問題が起きていないかということで、左の下の表をごらんいただきたいんですが、「円建て資産・負債の平均残存期間」というのがございます。

 債券に関して言うのであれば、今、投資するものがなくなった地方銀行や何かは一生懸命何しているかというと、デュレーションを延ばすんですね。年限を延ばすということになってくると、突然金利が上がればどうなるか。多くのものが含み損になってしまうわけです。ですから、金利リスクをまた大きく抱えることに、長期を持つことによってなっていくんじゃないですかということですね。

 こういうポートフォリオリバランスはなぜ起きたかというと、長く金融緩和が続いたためであるということを考えれば、金融機関の健全性というのに対して、そろそろ配慮をしたり考えたりということをしていただかないといけなくなってきているんじゃないかなということでございます。

 これが、金融政策とマーケットへの影響、副作用、問題点ということでございます。

 残りのお時間で、もう一つの大きな課題である財政再建の話、それとマーケットの話をしたいと思います。

 私は財政審に入れていただいているんですが、なので、財政再建というのはとても必要であると思っているんですが、実際はそうなっていかない状況というのがございます。

 このページの下の方を見ていただくと、財政再建はどうなのかと。これは鉛筆棒みたいなのがいっぱい立っているグラフがあるんですけれども、ごらんいただくと、例えば、右の方が見やすいでしょうか、グロス政府債務の対GDP比のパーセンテージが出ています。

 そもそも、政府債務というのはグロスで考えるべきなのか、ネットで考えるべきなのか、いろいろな議論があると思います。しかしながら、どの考え方をとったとしても、日本に赤字が多い、それから債務が多い、これは事実ですので、どういう考え方をとっても、私は、ここからは逃げちゃいけないんだと思っているんですね。

 そんな中で、グロス政府債務の対GDP比をごらんいただくと、日本の棒グラフはやはりずっと高いんです。それから、アメリカに関しては、恐らく、先般、税制改正が決まってきて、債務上限についても引き伸ばされましたので、引き上げられましたので、この棒グラフは少し伸びてくる、上がってくるんだと思います。なので、先進国の中で、米国と日本ぐらいが財政の問題をまだ抱えていると言ってもおかしな話ではないというふうに思います。

 こういう状況なんですが、では、ここから先、財政再建というのはしなくてよかったか、景気がよければ財政再建というのはしばらく封印しても大丈夫なのかということなんですが、次のページをごらんいただきたいと思います。

 二〇一九年十月は消費増税をするはずであるというふうにマーケットは考えています。なぜかというと、消費増税の使途が変わったからですね。使途が変更されているので、ということは、使途があるということは、もしこれは消費増税しなければ、その新しい財源をどこかから見つけてこなきゃいけなくなるわけで、それはそれで債務の負担になってくるわけですね。ですので、今回、二〇一九年十月は消費増税をやるということは、必ずやってもらいたいことであるというふうに考えています。それでも、もともとの計画対比で見たら、弱いわけですよね。ですので、消費増税をしてもらえるであろうと我々マーケットは考えている。

 その一方、右側なんですが、主要先進国のPB対、プライマリーバランス対GDP比の見通しというのを見ていただくと、やはり、将来にわたっての財政赤字がどこで解消されていくのか、相当難しい問題を抱えているなということでございます。もしかしたら二〇二〇年には財政再建、プライマリーバランスというのは均衡化されてくるはずだったんですが、これが先送りになってしまいましたよね。先送りになったらなったで、どのタイミングでどれぐらいのことができてくるのか、日本みたいなこういう国が、やはり、いつかやるということではなくて、いつまでの目標できちんとこのように財政再建をしていくということを言わなければ、世界からの信認というのが得にくくなっているというふうに思っています。

 私は、仕事柄、外国人投資家の方と会うことが多いんですが、やはり日本の財政再建に関しては懸念をしている。ところが、ここもとお目にかかるそういう投資家の方々は、懸念というよりは諦めモードになってきているというふうに感じます。どうせできないでしょう、だってこんなに多いんだものということですね。しかも、これから先は、出口戦略を金融政策の方では模索していく。金利、上がるわけですよね。債務が多い中、金利を上げてしまったら、それは大変なことになっていくということを外国人投資家の人たちは半ば諦めモードで見ている。

 こんな日本ではやはりいけないんだというふうに思うんですが、そういう外国人の投資家の方々、何に関心があるかというと、少し焦点がずれてきますけれども、同じページの下の表の左の「日本の総人口の推移と推計」というところ、この表が彼らの懸念事項です。

 日本というのは将来的に人口が減っていくということがこんなにも前提になっているのに、なぜそれに対する対策が具体的に出てこないのかということですね。金融政策も、財政政策も、いろいろなことを日本はうまくこなしていく、そんなに変なことはしないだろうという期待感が恐らくある一方で、根本的な大きな問題に手つかずだということに関しては、かなり不満を持っている外国人投資家は多うございます。

 ですので、将来にわたって人口が減っていくことに関しての何らかの方策を、政治家の先生方はそろそろ具体的に出していただくのがいいのではないかと。二〇二〇年以降の、オリンピックの後どうするかということは、もしかしたらこれとあわせて私は解決していけるんじゃないかとも思っていて、こんなところを考えている。実は投資家の人たちもそんなに短期のことばかりではなくて、中長期的にこんな目線もありますよということをきょうはお話をしたくて、この図表を見ていただいた次第でございます。

 最後、もう一つ右側の表、日本国債の格付というのを見ていただきたいと思います。

 格付というのは、まあどうでもいいじゃないか、民間会社がつけている格付というのは単なるシンボルでしょう、余りドラスチックなものではないということかもしれない、そういう考え方もできなくはないわけですね。ところが、日本国債の発行のレートですとか、さまざまな取引額、取引の金利、全部この格付によってやはりぶれていきます。

 日本国債の格付が下がれば、日本国で営業している銀行ですとか政府機関なんかの格付も下がってしまう。資金調達コストが上がることはもちろん得策ではないので、やはり日本国債の格付を下げる必要はないと思うんですね。そのためには、機動的な財政政策というのが必要になってくるというふうに思います。

 こんなところまで、今はどちらかというと財政政策に関しては諦めモードであるマーケットではありますが、ただ、日本国債の格付が下がったら困るということもやはり考えていますので、この辺、包括的に政治家の先生におかれましては見ていただけたらと思います。

 ちょうどお時間になったので、私の方からのプレゼンテーションは終わらせていただきたいと思います。御清聴ありがとうございました。(拍手)

河村委員長 中空公述人、ありがとうございました。

 次に、上西公述人、お願いいたします。

上西公述人 よろしくお願いします。法政大学の上西と申します。

 きょうは、このような機会をいただきまして、ありがとうございます。

 私は、現在の国会質疑の中でも大きな論点となっております、裁量労働制の労働時間の実態把握をめぐる問題を取り上げさせていただきます。

 予算委員会の参考人意見陳述のテーマとしてはこのテーマは狭過ぎるというふうにお感じの方もいらっしゃるかもしれません。けれども、この問題は、単にデータの不備という問題ではなくて、政府の審議会における政策立案プロセスの問題、あるいは政府の国会対応の問題を凝縮して示してみせた事例というふうに考えています。つまり、氷山の一角のように問題が顕在化した例であり、そういうふうに考えられます。単にデータをめぐる問題としてではなく、そういった広がりを持った問題として、国会議員の皆さんに、あるいは国会審議を見守ってくださっている国民の皆さんにも捉えていただきたいと思っています。

 一般の労働者に比べて企画業務型の裁量労働制の労働者の方が平均的に見れば労働時間が短いかのような安倍首相の一月二十九日の答弁は、二月の十四日に撤回をされました。十九日には厚生労働省から報告が上がり、明らかに比較すべきではないデータが比較されていたということが判明しました。

 しかしながら、昨日二十日の国会審議の中で、安倍首相と加藤大臣は、撤回した答弁で言及したデータについては、撤回するのかどうかわかりにくい答弁をしています。そして、調査結果は労政審に示されたものの、比較データは労政審には示されていたものではないとして、予定どおりの一括法案を国会に提出する姿勢を示しています。

 私は、そのような一連の政府の対応に強い疑問を抱くものです。政府の政策立案と政策の実行が適正なものであってほしい、そして、国会も正常に機能するものであってほしい、そういう気持ちで私は今ここに立っています。

 そもそも裁量労働制とはどういう働き方であるか、この点については既に午前中の質疑の中でも明らかにされていますが、あらかじめ決められたみなし労働時間について賃金を支払うものです。そのみなし労働時間を超えて働いたとしても、残業代の支払いの必要性はありません。そのような働き方を大幅に拡大しようとしているのが、今回の働き方改革の一括法案の中に含まれている裁量労働制の拡大です。

 このように裁量労働制を拡大することは、実は、違法状態の合法化につながります。サービス残業というものは現在は違法ですが、みなし労働時間を超える残業に対して残業代を支払わないことは合法です。つまり、今はサービス残業を違法に労働者に強いている企業が、同じことを合法的にできるようになります。経営者にとってはおいしい話ですが、労働者にとっては長時間労働の歯どめがなくなります。定額働かせ放題というふうに言われているゆえんです。

 にもかかわらず、政府は、長時間労働が助長される、あるいは過労死がふえる、そういった野党の指摘に対して誠実に向き合おうとしていません。健康確保措置は、医師の面接指導でもよいとされています。みなし労働時間と実労働時間が大きく乖離する場合には労働基準監督官が厳しく是正指導を行うかのような答弁もされていますが、その乖離だけをもって是正指導を行う根拠規定は、法改正の内容には盛り込まれておりません。監督官の増員も計画されておらず、厳しい指導に期待することはできないのが現実と思います。

 政府答弁では、めり張りをつけて働くことができるとか、あるいは病院に行けるようになるとか、育児との両立がしやすい、そういったイメージが広げられていますが、印象操作の域を出ないものと考えます。現行の労働時間法制のもとでも柔軟に働くことは可能です。有給休暇もより有効に活用されるべきものです。

 このように、労働者にとってはメリットが見えにくく、一方で経営者にとってはおいしい制度である裁量労働制は、一九八七年に初めて導入され、一九九八年の改正によって、企業の中枢部門のホワイトカラー労働者に拡大されました。

 現在拡大が提案されているものは、提案型の法人営業職です。高度プロフェッショナル制度とは異なり、年収要件もなく、有期契約労働者にも適用が可能な制度であるため、かなりの範囲の労働者に適用される可能性があります。

 にもかかわらず、これまで、働き方改革の中では、裁量労働制の拡大については政府は積極的に語ってきませんでした。あえて注目が集まらないように、時間外労働の上限規制と同一労働同一賃金という二枚看板を表に掲げてきたと考えます。

 この企画業務型の裁量労働制を広げようというのであれば、まずは、実態として長時間労働になっていないのか、なっているとすればそれはなぜであり、どう対処すべきなのかが、法改正に先立ってしっかりと検討されなければなりません。

 その意味で、裁量労働制のもとで働く労働者の労働時間の実態を把握することは極めて大切です。にもかかわらず、その労働時間をめぐって政府が答弁で使い続けたデータの比較が極めて不適切なものであったことが判明したというのが現在の状況です。

 裁量労働制のもとで働く労働者の労働時間を把握した調査結果は、ほかにより適切なものが存在します。野党がしばしば言及している労働政策研究・研修機構、JILPTと略称で呼ばれますが、その調査研究機関が二〇一四年に実施した調査であり、労働者と事業場それぞれに対して調査を行っています。調査結果は、調査票や基本クロス集計表とともに、このように冊子で公開されています。調査シリーズの百二十四と百二十五です。冊子の内容は、ホームページで全文をPDFで読むことができます。このJILPTは厚生労働省の所轄の調査研究機関であり、これらの調査はまさに厚生労働省の要請に基づいて行われたものです。

 この中の労働者調査の結果によれば、お手元の配付資料の二ページ目のグラフにあるように、企画業務型裁量労働制のもとで働いている労働者の一カ月の実労働時間は、通常の労働時間制のもとで働いている労働者の実労働時間よりも長い傾向が見てとれます。平均で見ても、同様に、企画業務型裁量労働制の場合は百九十四・四時間であるのに対し、通常の労働時間制の場合は百八十六・七時間と、企画業務型裁量労働制の方が労働時間が長くなっています。政府答弁の内容とは反対の傾向を示しています。

 では、他方で、政府がこれまで答弁に用いてきた比較データの方はどのようなデータであったでしょうか。

 安倍首相が一月二十九日の本予算委員会で言及し、二月十四日に答弁撤回に至ったデータは、三ページの表の平均の欄にある九時間十六分と九時間三十七分を比較して、企画業務型裁量労働制の方が、労働時間は、平均的な方で比べれば短いとするものでした。この比較データに基づいて、一月二十九日に安倍首相は次のように答弁をしています。「厚生労働省の調査によれば、裁量労働制で働く方の労働時間の長さは、平均的な方で比べれば一般労働者よりも短いというデータもあるということは御紹介させていただきたいと思います。」

 この比較データは、実は、二〇一五年に山井議員に対して、また、二〇一七年に長妻議員に対して、当時の塩崎厚生労働大臣が示したものです。また、その答弁に先立って、この比較データは、二〇一五年三月二十六日に、厚生労働省が民主党の厚生労働部門会議に初めて提供したものであったことが、最近になって厚労省から明らかにされています。

 つまり、この比較データは、二〇一五年の労基法改正、いわゆる残業代ゼロ法案と呼ばれたものですが、これの審議に向けて、野党に議論の前提になるものとして共通認識を持ってもらうために、厚生労働省から示されたデータであったというふうに私は考えています。裁量労働制が長時間労働を助長するという指摘を野党側がしにくくなるように、また、政府の反論をデータに基づく信頼できるものだと誤認させるように、野党対策としてこの比較データがつくられたのではないかと考えております。

 このあたりはぜひ検証作業を進めていただきたいですが、二〇一五年の塩崎大臣の答弁の中で「実は」とか「むしろ」という形でこのデータに言及があること、また、二〇一七年の塩崎大臣の答弁の中で、ほかの調査を「いろいろな調査」と位置づけて、こちらの方は「厚生労働省自身の調査によりますと、」と、より信頼性が高いもののように位置づけていたことも、やはり野党の指摘に対する反証データとしての使い道があったものと考えています。

 一月二十九日の安倍首相の答弁と一月三十一日の加藤大臣の答弁も、まさに長時間労働や過労死の観点から裁量労働制の拡大に反対する長妻議員や森本議員に対して、それぞれ反証として示された比較のデータでした。それぞれのファクトによって見方は異なってくるという加藤大臣の答弁は、まさにそのような狙いを示しているものと捉えることができます。

 この比較データについて、二月五日以降、野党から次々に問題の指摘が上がり、二月十四日の安倍首相による答弁撤回に至ります。十九日には、厚労省より、根本的に比較に適さないデータだったことがようやく明らかにされました。

 ここで、この比較データは何が問題なのか、簡単に紹介をさせてください。

 まず、この比較データは、厚労省の調査によればと答弁されましたが、調査結果そのものではありません。一般労働者についての九時間三十七分というデータは、公表冊子である平成二十五年度労働時間等総合実態調査には収録がされておりません。

 第二に、答弁では、あたかも平均を比べたものであるかのように紹介されましたが、これは平均的な者についてのデータでした。加藤大臣は、二月八日になってから、平均的な者と言及の仕方を変えています。本来であれば、特別な定義がある平均的な者については、二〇一五年の答弁の当初から、そのようなものとして紹介がされるべきでした。民主党に対しても同様です。にもかかわらず、いずれの場合も定義は紹介されませんでした。

 第三に、一般労働者の平均的な者の労働時間九時間三十七分とは、実労働時間ではありません。加藤大臣は一月三十一日に、これを一日の実労働時間ですがと答弁していましたが、二月九日に山井議員に対して加藤大臣が答弁したように、これは調査結果そのものではなく、一日の時間外労働の平均に法定労働時間の八時間を足し合わせた計算式によって求めた値でした。しかし、計算式によるものであるということは、民主党へのデータにも記載はなく、答弁でも言及はありませんでした。

 また、この計算式は、労働時間を捉える上では不適切なものでした。法定時間外労働の平均に八時間を足すという計算式では、例えば七時間三十分の実労働時間である者も八時間働いたものと過大にみなされてしまいます。そのような過大評価は、個票データを見直しても修正することはできません。法内残業の値を調べていないからです。したがって、この計算式によって算出した九時間三十七分という数値は、一万件のデータを精査するまでもなく、不適切なものとして撤回されるべきでした。

 さらに、十九日になって厚労省から明らかにされたところによれば、法定時間外労働の一時間三十七分という平均値は、一日の法定時間外労働の平均値と説明されていましたが、実は、最長の一日の法定時間外労働の時間を尋ねて、その平均値をとったものでした。

 二月九日に山井議員に対して加藤大臣が計算式を説明した際には、既に七日に厚労省担当者から最長であることの説明を受けていたはずですが、加藤大臣は、最長の一日のデータを使っているということを説明していませんでした。これは、いたずらに質疑を長引かせるものであり、また、虚偽答弁に相当すると私は考えます。さらに、この一日のデータは公表冊子に収録をされていないものでした。不自然な数値がそこに含まれていることも指摘がされています。

 第四として示したものは、先ほど言及したとおりです。一般労働者の平均的な者の九時間三十七分という労働時間を算出するために使われた計算式では、最長の一日のデータが使われていました。企画業務型裁量労働制の方は、最長の一日について尋ねているわけではありません。このことは配付資料に掲載した厚労省提供の調査票を見れば一目瞭然ですが、野党の追及に対して、厚労省は、この調査が臨検監督の一環であるという理由で、調査票の開示を拒んでいました。

 このように、さまざまな理由で、一般労働者の九時間三十七分という数値は実態よりも過大なものでした。それと比べて企画業務型の裁量労働制が九時間十六分で二十分ほど短いからといって、実は短いという判断を下せるものではないことは、これまでの説明で明らかでしょう。

 さらに、第五に示したように、企画業務型の裁量労働制については、把握したものは労働時間ではなく、労働時間の状況と調査結果に示されているものであり、出退勤時刻などによって把握されていた時間です。このように違うものをはかっているのですから、そもそも比較ができない不適切なものです。これも、一万件の個票データを精査するまでもなく、明らかなことでした。

 さて、このように比較データの不適切さが明らかになる中で、政府は、この比較データは労働政策審議会に示したわけではないと答弁をし、法案審議には影響を及ぼさなかったと強調しています。しかしながら、この比較データが労政審に示されなかったからといって、労政審で適切な審議が行われたと判断することはできません。

 そう考える理由を二点述べさせてください。

 第一に、この平成二十五年度調査の結果は、二〇一三年九月二十七日の第百三回労政審の労働条件分科会で、裁量労働制の見直しのための実態把握を行うものとして委員に示されており、今後の労働時間法制の検討の際に必要となる実態把握を行ったものというふうに位置づけられています。議論の出発点にしていただければとも紹介されています。実態把握調査を踏まえて裁量労働制の見直しを図ることは、同年の六月十四日の日本再興戦略の閣議決定に定められていることです。

 にもかかわらず、労働条件分科会では、比較データは示されなかったものの、一般労働者の平均的な者の一週の法定時間外労働のデータが最長の週のデータであることの説明がないまま、普通の週のデータであると受け取られる形で百四回の労働条件分科会に紹介されています。それはつまり、実際には過大な数値であったものが、通常の数値であるかのように紹介されたということです。その分、裁量労働制の労働時間との比較において、一般労働者の労働時間の実態に関し、不適切な情報を労政審の委員に与えたことになります。

 第二に、これは質疑の中で明らかになっていることですが、この労働条件分科会には、より詳細で、より調査設計がきちんと行われているJILPTの調査結果、こちらですね、このうち、労働者の労働時間の実態に関する部分が紹介されていません。

 加藤大臣は、逢坂議員との昨日の質疑の中で、当初に厚生労働省から平成二十五年度調査のデータを議論に資するものとして出しており、その後、委員の御議論の中で追加的な資料が必要であれば、できるだけお応えする形で運用されていたという理解を示しています。

 しかしながら、この平成二十五年度調査が紹介された百四回の分科会では、既に使用者代表委員より、企業が裁量労働制を取り入れる前と取り入れた後で働き方や労働時間の実態がどのように変化していったのかという切り口の調査が必要という指摘が行われており、事務局の村山労働条件政策課長は「承りました。」と発言していることが議事録に残っています。

 JILPTのこちらの調査はそのような変化を捉える調査ではありませんが、平成二十五年度調査よりは詳細に、裁量労働制による働き方の労働実態を通常の労働時間制のもとで働く労働者の労働実態と比較した調査であり、その結果は、さきの使用者代表委員の求めに応える上でも、当然に提示がされるべきものでした。建議までのプロセスで、既に冊子はでき上がっており、配付できる状態にありました。冊子ができ上がっていることへの言及も百十六回の議事録に残っています。

 しかし、この冊子の内容を改めて精査した上で御報告したいと村山課長がそこで説明をしていたものの、結局冊子は配付されず、委員に提供されるべき労働時間の実態に関する調査結果は、存在はしていたものの、本委員に提供されませんでした。

 私は、そのような経過に不自然なものを感じざるを得ません。裁量労働制のもとで働く労働者の労働時間は通常の労働時間制のもとで働く労働時間よりも長いという実態を審議会に示してしまえば、これを拡大するという建議を出せなくなる、だから、あえて実態調査の結果を審議会に出すことを控えた、そのように思えてなりません。

 ですので、不適切な比較データが労政審に示されなかったからといって、法案提出に問題がないとは私は考えません。裁量労働制の拡大の是非については、労政審の議論まで差し戻して、まずはこのJILPTの調査結果をそこできちんと検討し、必要があれば追加の調査を行い、そして実際に長時間労働になっているのであれば、どう実効的な歯どめがかけられるのか、そこから議論をやり直すべきです。

 現在、政府は一括法案を提出する方針を変えていないようですが、そのような姿勢は、法の制定プロセスとしての正統性を失ったまま法の制定を強行しようとするものです。また、国会審議に誠実に向き合った態度とも、姿勢とも言えません。

 もし、何も聞かずに、とにかく数の力で法案成立を強行しようとしているならば、実態調査に基づく政策立案も、政労使三者構成による政策形成プロセスも、真剣な国会審議も、全ての土台を損なうことになります。

 政策立案プロセスを正常化するためにも、また、国会審議を正常化するためにも、今、政府には、立ちどまって、裁量労働制の拡大と、さらに同種の趣旨である高度プロフェッショナル制度の創設、この二つは一括法案から外すという決断をまず行い、その上で、改めてそれらについては検討プロセスをやり直すことを求めます。また、今回の事態に至った原因究明と再発防止を求めます。

 ありがとうございました。(拍手)

河村委員長 上西公述人、ありがとうございました。

 次に、寺西公述人にお願いいたします。

寺西公述人 全国過労死を考える家族の会代表世話人をしております寺西笑子と申します。

 本日は、貴重な場を与えていただき感謝申し上げます。

 また、二〇一四年六月二十日には、全会一致で過労死等防止対策推進法を可決、成立いただき、皆様方には大変お世話になりました。ありがとうございました。これには、何より、過労死はあってはならないという過労死遺族の切実な思いと多くの国民の声を国会議員全員で受けとめていただいた結果だと捉えています。

 本日は、過労死遺族の立場、また、遺族から相談をお受けしている者の立場として意見を申し上げます。

 全国過労死を考える家族の会は、一九九一年結成以来、四半世紀以上にわたり、過労死の根絶を願って活動をしてきました。繰り返されている過労死に歯どめをかけ、過労死をなくしたい思いから、過労死防止法の制定に取り組み、制定後は、過労死等の根絶を目指して、過労死等防止対策の推進に全力を尽くしています。

 私たちは、大切な家族をある日突然に過労死で亡くしました。その最大の問題は、日本の働く社会に蔓延している長時間労働が多くの労働者の命と健康を奪っているということであります。過労死等防止対策推進法が施行された後も、一向に、過労死等はなくなるどころか、劣悪な働かせ方で過労死する人がふえています。このことは、家族の会へ相談に来られる遺族の声で確認しているところであります。

 本日は、随行席には、全国過労死家族の会東京代表の中原のり子さんです。一九九九年に小児科医だった御主人を四十四歳で過労死で亡くされました。

 勤務状況は、月に五回ないし八回の当直と救急患者、入院患者の対応をし、眠る間もなくそのまま日勤をこなし、三十二時間連続勤務という疲労こんぱいの過重労働の末の過労死でした。中原のり子さんは、二人のお子さんを抱え、御主人の労災認定がされるまで八年、民事裁判で最高裁まで闘われ、十一年間御苦労をされました。

 ドクターは患者の健康を治すのが仕事ですが、御主人の実態は、体調が崩れても休むことができず、健康管理がされないへとへとの状態で職務につかれ、過労死に追い込まれました。

 中原さんは、夫は安倍政権の狙う高度プロフェッショナル制度の先取りで過労死したと訴えられ、医師の働き方改革に励んでおられます。

 もう一人の随行席は、全国家族の会遺児の会代表の渡辺しのぶさんです。二〇〇〇年に大手の電機メーカーエンジニアで四十歳だった御主人を過労死で亡くされました。

 勤務状況は、毎日朝六時半には家を出て、終電で帰宅、土曜日は出勤、日曜は持ち帰り仕事、その合間に海外出張があり、移動は土日を使うため、帰国したら翌日から出社という、出張前後の休みなしとの状況で、御夫妻は過労死しそうだねと話したことがあったことが現実になったのです。

 亡くなった後、会社に行くと、当時の上司から、おたくの場合は労災、過労死ではない、裁量労働だったからねと言われました。課長になると裁量労働になるとは思いも寄りませんでした。なぜなら、会社から説明がなかったのです。それがどういうことなのか、本人も家族もわかっていなかったようです。会社は裁量労働制だから労働時間を管理しておらず、しのぶさんは、二人の子供を抱え、労災申請のために労働時間を算出するのに大変御苦労されました。

 三人目は、本日の資料の最後におつけしています、朝日新聞二〇一五年三月二十七日付の掲載記事の方です。Aさんの息子さんは、二十七歳の若さで過労死されました。大学院を出て、東京の大手印刷会社へ就職し、研究開発部門に配属され、入社二年目から専門業務型裁量労働制の適用対象者になりました。

 規定で二十二時以降の残業は許可が要ることで、息子さんが自主申告すると上司から殴られたそうです。息子さんは、その後、帰ったことにして仕事をしていたようです。

 友人に送ったメールは、夜中の一時に帰宅、三時に就寝、朝六時半起床、七時過ぎ出勤。友人への返信も、元気にしてない、毎日午前様で、あしたは徹夜かもという、過労死寸前の毎日深夜帰宅のメールが残されています。

 実際には、これをはるかに超える実質的な拘束時間があったものと推察されます。つまり、裁量労働制は、使用者が正しい労働時間管理をせず、本人へ過少申告を強要し、サービス残業をしないと仕事が回らないのが実情で、裁量労働制で死んでも、自己責任にされ、労災認定されない実態があります。

 最後に、私ごとですが、二十二年前の一九九六年、四十九歳だった夫は過労自死しました。飲食店の店長だった夫は、サポート体制がない中、達成困難なノルマを課せられ、成果を得るために、二週間連続勤務、一月三百二十時間から三百五十時間、年四千時間を超える勤務でした。

 必死の努力で一定の成果を上げましたが、会社が命令した右肩上がりの成果に届かなかったため、過度の叱責を受け、人格否定され、身も心もぼろぼろになり、うつ病を発症して、飛びおり自殺をしました。

 裁判でわかったことは、会社に義務づけられていた健康診断は一度も実施せず、三六協定もなく、仕事量の裁量もない、成果だけ求められる裁量労働的な長時間働かせ放題の、名ばかり店長だったことが明らかになりました。

 夫は、会社の利益のために、睡眠時間と家族と過ごす時間、自分の自由な時間を犠牲にして会社に尽くしました。その見返りが過労自死だったのです。夫は、死ぬために働いたのではなく、生きるために働きました。必死に働いてきた夫の無念を思うと、悔しくてなりません。

 過労死をなくすには、その温床になっている長時間残業を法的に規制することが急務と考えて、私たちは政府の働き方改革の動向を見守ってきました。

 現在、政府が導入しようとしている働き方改革は、三つの大きな問題点があります。

 一つは、時間外労働の上限を原則として月四十五時間、年間三百六十時間と規定するものの、六カ月は例外を設け、百時間未満、二カ月平均八十時間という過労死ラインの時間外労働を認め、それを合法化しようとするものです。

 二つ目は、高度プロフェッショナル制度の創設です。年収要件を満たす一部の専門職の労働者を労働基準法の労働時間規制から適用除外するホワイトカラーエグゼンプションであること。

 三つ目は、企画業務型裁量労働制の拡大の導入。これは、年収要件がないことで、多くの若者が定額働かせ放題のターゲットになり、劣悪な環境にさらされます。実際は、仕事量の裁量がない中で成果を求められ、その成果を得るために長時間労働をやらざるを得ないのが裁量労働制です。

 今でさえ死者が出ているのに、これ以上裁量労働制を拡大したら、更に死人がふえます。

 命より大切な仕事はありません。

 真面目で責任感が強い人を死に追いやる危険な働き方の拡大は、やめていただきたいです。会社にとっては一つの駒かもしれませんが、家族にとってはかけがえのない大切な命です。幸せな家庭を地獄に突き落とさないでください。

 国は、国民の命を守る法律をつくるところではないのでしょうか。国民の命を奪う法律をつくることは、家族会は絶対に認めません。国民の命を奪う裁量労働制の拡大は、家族会は絶対に認めません。私たちは、人の命が奪われるのが明らかな法律を黙って見過ごすわけにはいかないのです。家族が過労死して地獄の苦しみを味わった私たちは、同じような被害者をふやすわけにはいきません。

 私たちは非力ながら遺族の集まりですが、裁量労働制の拡大を阻止するために全力で行動します。私たちは、過労死がゼロになる本当の改革を実現するために全力で行動します。

 さらに、驚いたことは、裁量労働制で働いている労働時間調査結果の間違いであり、本当は著しい長時間労働の実態であることが判明したことです。安全を確認せず危険な働き方を拡大することは、死人をふやすことにつながります。

 国は人の命にかかわる問題を全く無視したことは、本末転倒であり、怒りが禁じ得ません。政府はこれまで、裁量労働制の労働時間データは一般と比べて少ないと説明してきた、その根拠がなくなったことで、法案の取下げと裁量労働制拡大の削除を求めます。

 ここで御理解いただきたいことは、多くの事業所で労働基準法や労働安全衛生法などが守られていないのが現状です。過労死をなくすには、その温床になっている長時間過重労働、パワーハラスメントをなくす対策が急務です。ところが、そうした法律よりも、身勝手な就業規則や社訓、職場慣行が優先され、会社では法律や人権など機能していません。また、上司から強制された自発性が求められ、理不尽な指示に逆らえない職場風土があります。

 その一つに、労働時間管理です。昨年一月、労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドラインが策定されましたが、まだまだ自主申告が多くあります。自主申告は、過少申告、すなわちサービス残業を強要する黙示の命令とされるものなので、罰則規定つきの厳罰化にすべしと考えます。

 過労死は、真面目で責任感が強い人が被災する極めて理不尽な出来事です。あってはなりません。過労死は人災、劣悪な働き方をすれば誰にでも起こります。特に深刻なのは、若者の自死が多いことです。日本の将来を担う若者を使い潰すようでは、日本の未来をなくします。

 今求められているのは、日本の働く社会から過労死、過労自死を根絶するとともに、労働者にゆとりのある生活時間の確保と労働時間規制であることは明らかです。そのためにも、政府の働き方改革法案の中にある、国民の命を奪う高度プロフェッショナル制度の創設、裁量労働制の拡大、この二つを削除し、まずは実態調査をして、実効性ある長時間労働規制を強く求めます。このままでは、今回の働き方改革法案は、残業代ゼロ法案です。過労死促進法です。ひいては、過労死防止法違反です。

 私たちは、これからも、働く者の命を守るために、過労死の根絶を目指して努力してまいる所存です。

 こうした内容のことをぜひ近日中に加藤厚労大臣にお伝えしたいということで、お願いをしているところであります。

 以上で私の意見陳述を終わります。御清聴ありがとうございました。(拍手)

河村委員長 寺西公述人、ありがとうございました。

 次に、藤原公述人にお願いいたします。

藤原公述人 きょうは、お招きいただきまして大変ありがとうございます。認定NPO日本再生プログラム推進フォーラムの理事長をさせていただいております藤原直哉と申します。

 きょうは、経済に関しまして、主に三点ほどお話を申し上げたいと思います。

 私、若いころは、経済企画庁で経済予測の仕事をしたり、アメリカの証券会社で、ウォール街の証券会社で数理分析の仕事をしたことがありますので、そういう知見も踏まえながらきょうはお話をしてまいりたいと思っております。

 まず、一枚めくっていただきまして、最近の金融市場と経済のことなんでございますが、ずばり一言申し上げておきたいことは、本当に管理の失敗に政府の備えはあるんですかということでございます。

 金融市場は、非常に難しいといえば難しいんですが、私は民間人でございますから俗な言葉を使わさせていただきますけれども、ばくち場というのは、胴元とお客では見る世界と考えていることが全然違うんです。

 今の国際金融市場は、やはりそれはイギリス、アメリカが運営しているマーケットなんです。そこに日本や中国は参加しておりまして、ですから、胴元が何を考えてやっているか見ていないと、物すごい失敗を招きます。

 そもそも、御承知のとおり、世界の金融システムは、もともとイギリスが始めたんです。二百年ぐらい前からイギリスを中心とするシステムができて、二十世紀にアメリカを中心とするシステムができました。

 なのに何で、二〇一六年、イギリスはEU離脱をしたんでしょうか。イギリスがEU離脱をするということは、もはやロンドンがヨーロッパから離れるわけでありますから、あそこは金融の中心としては機能できなくなりますよ。そうしたら、それは金融界にとってはどんな影響があるでしょうか。

 あるいは、トランプ大統領が誕生いたしました。トランプ大統領が選挙で勝つときのことを皆さん思い出していただくとおわかりだと思いますが、ウォール街の連中は、ほぼ一貫してクリントン候補を支持しておりました。あの選挙は、クリントンが勝つかトランプが勝つか、言ってみれば、ウォール街が勝つか負けるかの決戦だったわけですね。

 その結果、ウォール街は負けたわけでありますね。実は、それは物すごく大きな出来事で、はっきり言って、ここまで来ますと、これはアメリカの金融市場も世界の運営もなかなかままならないわけでございます。

 もともと、今から四十年以上前、変動相場制になったときがあります。一九七一年です。ドルの大暴落です。アメリカは昔から、何かあるとすぐドルを切り下げるんです。ドルを切り下げてどうしたかというと、七〇年代のことです、当時は油が高かったので、サウジの王様のところにアメリカの財務省と大手証券会社の人が行って、サウジの王様に頭を下げて、アメリカの国債を買ってくれとお願いしたんです。それで、何とかドルをアメリカに引き戻して助かったんです。

 今度、八〇年代は、日本の製造業の力が強いもので、どんどんドルが日本に来るんです。アメリカは困っちゃって、それで日本に来て日本の人たちに、どうぞアメリカの株を買ってください、債券を買ってくださいと言いました。でも、間に合いません。それで、プラザ合意で物すごい円高が来たわけです。

 そんな感じで、実は、国際金融市場というのは本当に、出ていくドルをどうやって集めてくるかのせめぎ合いをずっと何十年やっておりまして、だから物すごく不安定なんです。

 八七年にはブラックマンデー、大暴落。それから三年後に、アメリカの中小金融機関が次々破綻をして、お父さんのブッシュ大統領はその後始末でどえらい苦労をした。その後、今度はグローバリゼーションが始まって少しはよくなったかなと思ったら、九七年のアジア危機、八年のロシア危機でまた大暴落で。今度はITで何かもうかるかなと思ったら、二〇〇〇年、二〇〇一年のITバブル崩壊で大暴落で。今度は二〇〇六年、七年、モーゲージが物すごく暴騰しまして、そのあげくがサブプライム危機で、二〇〇八年はリーマン・ショックで。ずっとこうやって、アメリカのシステムというのは、もう暴落に次ぐ暴落で、その後始末をして今日まで来ているんです。

 はっきり言って、二〇〇八年のリーマン・ショックがとどめだったんです、あれ。ですから、あの後、世界を見ていただくとおわかりだと思いますが、それまで世界の投資を担っていた欧米の金融機関はすっかり静かになったと思いませんか。中国でも日本でもそうですけれども、昔は大手の金融機関が物すごい勢いで投資をしておりました。あれはすっかり鈍くなってきました。

 最後、決戦が、まさにアメリカの大統領選挙があった一六年だったんです。あれで結局みんな負けちゃったわけですね、ウォール街の方は。

 金融界は何をしているかというと、二〇一七年になりますと、御承知のとおり、仮想通貨の方にみんな出ていきます。日本ですと、仮想通貨は買って売ってどれだけもうかるみたいな話を皆さんするんですが、あれは世界でも千五百ぐらい出ているんです。ですから、去年は、自分で仮想通貨を発行して通貨発行益を個人が手にするという、それこそ普通は絶対ないことを結構世界の連中はやっていたわけですね。

 そして、今見ていて思うことは、どうも日本は、金融については全然安全保障がない。昔から取られる一方で、お金は、何だかんだ言われて、いいお客だみたいに取られる一方で、気がついたら向こうにお金が行っちゃっている、あるいは外資系に乗り込まれる。これを何とかしないと、多分今回の管理の失敗に私は備えられないんじゃないかと思うんですね。

 例えば、二ページ目、このグラフ、アメリカ・ドルの短期金利の動きなんです。二〇一四年ぐらいから始まりまして、直近までとっております。アメリカの短期金利はずっと上がっているのがおわかりいただけると思います。短期金利と申しますのは、企業とか国とか個人の資金繰りをつける金利です。トランプ大統領が登場してから倍以上上がっていますね。

 資金繰りをつける金利がこんなに暴騰したら、何が起こると思いますか、皆さん。それは資金繰りが詰まってくるわけであります、国でも企業でも政府でも。それで、どんどんまだ上がっているんです。ことしはあと四回利上げすると言っているんです、アメリカは。

 しかも、金利が上がりますと、アメリカでは今、個人が物すごい借金をして暮らしているんです、最近企業は少し賢くなりまして、借金したローンは転売しちゃいますから、金利が上がっても会社はやられないように大体なっているんです、だから、個人が真っ先にやられるようになっているんです。こんなに金利を上げていったら、大量の破産が出るのは時間の問題であります。

 一方、金利が上がっているのに、その次のページ、三ページを見ていただきまして、ドルが下がっているんです。これはアメリカ・ドル・インデックスと申しまして、円だけではなくてアメリカ・ドルの加重平均値でございますね。トランプ大統領が誕生しました二〇一六年の秋に、一旦ドル高にいくんですね、ちょっとグラフが上がっていますが、大統領就任のころから一貫してドル安です。

 短期金利が上がれば、普通は通貨は強くなるんです。でも、短期金利が上がっているのに、通貨がどんどん弱くなって下げどまらないんです。どういうことでしょうか。ドルの信認の崩壊以外の何物でもないと思いますよ。あるいは、ドル安政策以外の何物でもないと思います。

 私は、まず、こういうのを見たときに、何というんでしょうか、ドルがどんどん下がっていくということは円高ですから、円高になれば日本は不景気になるので、大丈夫なんですかと。しかも、金利が上がっているのにドルが下がっているんだから、これはある意味で極めて危険な事態で、トランプ大統領にちゃんと聞かなきゃいけないと思います。

 本当に、トランプさんという方は元不動産屋さんでありますから、金利が上がったら何が起こるかなんということは普通の人よりよっぽど詳しいと思います。短期金利がどんどん上がる、ことしまた四回も上がる、それなのにドル安がとまらない。どういうことになるか、それはトランプさんが一番知っているんじゃないかと思うんです。

 私は、ぜひ日本は聞くべきで、日本はアメリカ・ドルを三百兆円以上ぐらい持っているんですか、よくわからない部分もあるんですけれども、世界最大の債権国でありますから、はっきり言って、アメリカの大統領に直接、我が国は債権を持っているけれども、ドルは大丈夫なんですかと聞く権利と義務がちゃんとあると思うんです。今非常に危険な状況だと思います。

 それから三つ目、四ページ目でありますが、アメリカの財政であります。

 アメリカは今度、税制改革をやりまして、新しい予算を出してきました。十年間で七百七十兆円の赤字予算を組むというんですね。今でも大体、どうでしょう、アメリカの財政赤字というのは二千兆円以上あると思うんですけれども、これに本当に七百七十兆円足すということがもし起きれば、それは今、ムーディーズがトリプルAをつけていますけれども、アメリカの国債は、それは無理だと思います。

 金利がどんどん上がっているんです、こうやって。金利が上がっているところに更に赤字を拡大するというんだから、これはもっと上がるわけであります。金利が上がれば、当然、不動産も下がるし、実体経済は不景気になるし、そもそも政府の運営そのものが難しくなってきます。これもぜひ聞いていただきたいんです、トランプ大統領に、どういうお考えですかと。

 我々は昔のことを思い出すわけであります。トランプさんのやったことは、八〇年代のレーガン大統領のやったことによく似ているんです。減税をすれば景気がよくなる、減税をすれば財政赤字が減るといって、減税なさったんです。でも、全然財政赤字は減らないんです。それで、アメリカ経済はだんだん物価が上がってきちゃって、八五年のプラザ合意で、物すごいドル安を向こうからやってきたんです。日本も大変になりましたが、アメリカはもっと大変で、ドル安をやったら更に物価が上がって、金利まで上がって、八七年、二年後には株価大暴落ですよ。その後は、今度は金融危機ですよね。

 本当に大丈夫なんですか、この金融政策はと。仮に、円高がとまらなくなる、株がどんどん安くなる、あるいは、金利が上がってそれこそアメリカとか世界のどこかで資金ショートが起きたときに、果たして日本は耐え切れるんだろうか。相場の売り物が一気に出たときの恐ろしさというのは今回もよくわかるわけですけれども。

 これは、銀行もそうですよね。今の日本の銀行も、マイナス金利で大変だとおっしゃいます。そうでしょうけれども、じゃ、マイナス金利で大変だと言わないで、そのお金をどこかへ融資したらどうですか。産業に融資をしたり、新しいビジネスをクリエートしたり、それこそ、自分で考えてビジネスをクリエートして、融資すればいいと思います。

 そういうことをおやりになっていないわけでしょう。それで、昔ながらに、国債を買いたいんだけれども国債は高くて困るみたいなことを言っているわけですから、それも私は資産負債管理ができていない証拠なんだと思うんです。

 果たして果たして、この様子でいって、何にもないままずっといって、金融市場がいよいよ動いたときに大丈夫なんだろうか。まずこの点、私は大変懸念しております。

 それから、次の五ページ目でございます。

 日本は今、私は、すごく大きな誤解を経済界がしているように思います。なぜ日本は今、数字だけ大きくなって中身が空洞化しているのか。過労死のこともそうでありますが、財政のこともそうです。

 一千兆円の赤字を出しましたよ、過労死するほど働きましたよ、そんなふうに普通すれば、御殿が三つも四つも建つと思いませんか、皆さんは。そんなに金を出してそんなに働いたら、御殿が三つも四つも建っちゃって、それはもう百年ぐらい左うちわになったっておかしくないと思いますよ。

 一千兆出したんですよ。何でそうならないんですか。お金の使い方を間違っているのと違いますか。人の働かせ方を根本的に間違っているんじゃないんですか。そこにまず気づいて直さないと、この日本の病は私は絶対治らないと思うんです。

 実は今、世界は、縦型から横型、シェア型に大きな変化をしております。

 この絵がございまして、左側は、いわゆる、我々が普通に言う組織図と言われるものであります。会社は組織図ですよ、この組織図ということを会社だ、仕事だといったときに、仕事というものは誰が上司で誰が部下かなんです。そうですよね。お客さんはそこに出てきません、製品も出てきません、誰が上司で誰が部下かです。

 こういうところで申し上げるのは恐縮でございますが、財政資金もこの形で流すんです、上から流すんです。あるいは、もう少し言うと、毛細血管で税金を吸い上げて、上から流しているわけですよね。全部縦型でしょう。だから、この中に入ればお金は来るけれども、この中に入ればお金は来ないとか、そんなことをずっとやっているわけですね。

 これがうまくいかないことは、もう六十年ぐらい、七十年前からそうで、戦後の日本が何で復興したのかというと、この縦型のグラフの隣に横型の絵がありますね、実はこの絵なんです。実はこれは、驚くなかれ、昭和二十五年に、当時のGHQのマッカーサー司令官がアメリカから統計学者のデミング博士という方を呼んできて、当時の日本の産業界のトップに、皆さん、仕事の仕方が間違っています、こんなふうに考えを改めてやってくださいと講演したときの、その図そのものなんです。

 この右側の図を見ますと、仕事というのはどのように付加価値がつけ加わっていくかのプロセスなんです。会社の中は関係なくて、まず一番左、サプライヤーがいる、サプライヤーから物を受ける、製造する、検査する、そして出荷する物流がある、消費者がいる、消費者の考えていることを再設計、取り入れる、このループが仕事なんですよ、こういうふうに言ったわけであります。

 これはすごく重要なことで、今のように縦型をやっていると、それはいつまでも機能不全が起こります。すなわち、今の我々は、仕事が横に広がるということを実感できないわけであります。

 今やっている安値競争は、あるいはグローバリゼーションは、極端な縦型ですよね。みんな上が吸い上げちゃうわけでしょう。株主がみんな吸い上げちゃって、経営者がみんな吸い上げちゃうわけで、極端な縦型なんですよ。だから、幾ら金を出したって、下の方は白けちゃうし、それから中は空洞化するわけです。

 やはり、戦後の復興、九〇年代以降のインターネットあるいはブロックチェーンの時代というのは全部横型で、みんながシェアして参加するというのが今世界の常識なんです。要するに、大企業も中小企業も個人事業主もひとしく顧客、製品、社会の付加価値の増大にチームを組んで参加することが大切、これが今や世界の常識であります。これのとおりやらないと、日本だけいつまでも縦型で、企業の運営も財政も縦型でやっているから取り残されているんだろうと私は思うんです。

 次の六ページ目をごらんくださいませ。次の絵は、非常に私は興味深いと思うんです。

 これは、いわゆる品質管理図なんです、品質管理図をどう読むかなんです。横軸が週で、縦軸が受注から納入までの日数なんです。要するに、これは納期ですよね。納期は低い方がいいわけです。契約上、十一日以上やっちゃいけない、延びちゃいけないという契約になっておるわけですね。これを見たときにどう思うかです。

 まず、一番進歩がない組織の考え方は、最大納期さえ超えなければいい、最大納期を超えたら責任者を見つけて処分すればいい、これが実は一番まずいやり方なんです。こういうやり方をしているから、いつまでたっても組織は成長しないんです。

 そうではなくて、現場は常に革新と改善で納期を短くしようという精神を持っている、それが現場に浸透している、それを組織で共有している。積極的に新しい方法を試してみて、結果を検証するんです。結果的に最大の納期を超えてしまったら、上司が謝りに行くんです、仕事の中の一つのプロセスですから。試行錯誤の結果、納期は安定的に低下していく。

 このグラフを見ますと、右側の方は、グラフが上下しながらも、だんだん幅が狭くなって右肩下がりになっているんですね。ですから、これを見て、よくやったと言わなきゃいけないんです。あなたたちよくやった、大変だったろうけれども、ちゃんと納期が短くなったでしょうと。こういうような発想と行動がないと、製造業でもあらゆる産業でも復活することはないと思います。

 次の七ページ目でございます。

 やはり私は、余りにも水臭い政治というものが今の最大の問題だと思います。政治の核心は忠恕、真心と思いやりだと思いますね。

 例えば、地方を見てください。地方はかつて、これだけ個性的だったんです。これは昭和四十年代です。家の形も違う。産業もある。要するに、今は地方が中央に完全に食い物にされているわけですよ。地方が吸い取られちゃっているわけ。だからあんなに衰退しちゃっているわけですね。こうやって、各地域に地場産業をもう一回復活させなきゃだめですよ。

 次のページを見てください。

 働き方の問題もそうなんですが、本来、地域にはたくさんの仕事があるんです。要するに、職業というのは無数にありまして、無数にあるからこそ、どんな方でも自分に合う仕事があるんです。自分に合う仕事をその地域で見つけるためには、地域の地場産業を中心に、たくさんの企業、さまざまな仕事を用意しなければいけません。これが、その地域を繁栄させる第一歩だと思います。

 次のページで、仕事の原点です。人は野生動物なのかです。

 猫の絵があります。左上の猫は獲物をとるときの顔です。これはいかにも野生の顔をしていますよね。でも、飼い猫は餌をもらうときどうするか、皆さん御存じでしょうか。左下みたいに、ごろにゃんと飼い主に愛を示すんです。そうすると餌をもらえます。

 実は、日本でも、少なくとも農業は五千年ぐらい前から伝わったと言われています。右の上の、このお兄さんの顔を見てください。どう見たってこれは野生の動物で、餌がとれなくて死にそうな顔をしている顔に見えませんか。仕事とは餌をとってくることだと大変な誤解をしておりませんか。我々は、もう狩猟経済の時代は五千年前に終わっているはずなんですよ。

 富は自分たちの手で生み出すことができるんです。それは何も、右下のように、農業だけではありません。製造業でもあらゆる産業でも、富は自分たちで生み出すことができるんです。人の能力も自分たちで生み出すことができる、育てることができるんです。これが基本中の基本であります。

 今、だから、あらゆる経営者、特に大企業とかあるいは金融関係者は、奪ってこい、野生動物になれと言っているわけであります。だから大きな問題がとまらなくなってくるわけであります。

 中から力を出すんです。地域もそう、個人もそう、企業もそう、自分たちの中から強みを出して、それを生かせるように、世界の中で自分たちの居場所を見つける。一社じゃできなければ、一地域でできなければ横につながっていく、これがこれからの経済の正しいやり方で、そうすれば日本もいずれよみがえってくると思うんです。

 最後のページでございます。

 最後、詩がございます。これは、長野県の下伊那郡喬木村というところでお生まれになりました椋鳩十先生という、特に動物と人間の関係を書いた小説をよくお書きになって有名な先生が晩年に書かれた詩でございます。

  日本の村々に 人たちが 小さい小さい

  よろこびを

  追っかけて 生きている

  ああ 美しい

  夕方の 家々の 窓の あかりのようだ

 これこそ私は政治であり、経済の運営の原点だと思います。

 小さい小さい喜びを追っかけられる地域と家庭を守る。たとえ今、そのとき、その家族は、なかなかお金もなくて厳しいかもしれない。でも、その子供が育っていけば、その次の世代にもっとうまくいくかもしれない。今うまくいかないからといって終わりにするからうまくいかないわけでありまして、やはり未来を考えてぜひ国づくりをしていただくということが大切で、今、ちょうどその転機じゃないかと思っております。

 以上で私の陳述を終わらせていただきます。ありがとうございました。(拍手)

河村委員長 藤原公述人、ありがとうございました。

    ―――――――――――――

河村委員長 これより公述人に対する質疑を行います。

 質疑の申出がありますので、順次これを許します。橘慶一郎君。

橘委員 きょうの午後からの中央公聴会、公述人お四方には、それぞれ大変貴重なお話をいただきまして、まことにありがとうございました。

 一番最後に藤原先生の方から、このイメージ写真が合掌集落で、私の地元の写真でもあるんですが、これを見ながら、こういうほのぼのとした世界から世の中は進歩し続けているんだろうけれども、本当にきょう切実なお話もいただいたわけですが、働き方の問題、過労死の問題、いろいろな問題をやはり現代は引き続き抱えているな、そういうことも非常に痛感させられたわけであります。

 財政の問題とそれから今の働き方の問題ということで、順次、公述人の皆様方にまた追加の御意見をお伺いしたい、このように思っております。

 まず、財政再建の方から先にやらせていただきたいと思います。

 今回の総選挙、そして三十年度予算ということで、この後、財政再建の目標については、ことしの六月に向けて新しい目標に変えていくんだ、二〇二〇年ということはちょっと困難になったので、新たな目標、実効性のある、そして具体的なものをつくっていかなきゃいけないというのが、今一つ大きな、予算を超えてですが、課題になってきております。

 しかしまた、きょうお話がありましたように、マーケットあるいはアメリカのお話もいただきました、いろいろな問題また懸念もあるわけであります。

 どれくらいの時間軸が私どもにはあるのか。もちろん、うまずたゆまず、一歩一歩前進させていかなきゃいけないとはいえ、この時間軸がどれくらいあるのか。そしてまた、財政再建だけではなかなか、これ一本やりではいけない。また、経済も成長した方がいいし、国民の皆さんにも分配できた方がいいし、そういったものの調和ということも大事であろうと思います。

 歳入歳出、いろいろな問題があるわけですけれども、冒頭、中空公述人と藤原公述人におかれて、この財政再建、肝といいますか、こういう部分をしっかりというところをまずお話しいただければ幸いです。

中空公述人 ありがとうございます。

 財政再建に与えられる時間がどれくらいあるかということだったんですが、正直、待ったなしということだと思います。なので、一刻も時間がないというふうに考えていただかないといけないというふうに思っています。

 できないものはできないじゃないか、先送りしたものはしたので、だとすると、じゃ、どの辺が妥協点かということになりますが、マーケットは別に無理なことを要求するわけではありません。現実的にどれくらいのことができるかという政府の意思を見せていただいて、その意思に対して着実な動きがあれば、それが二年後であっても三年後であってもそれはいいんだと思うんです。

 ただ、じゃ、十年後ですと言われたときに、いつまでやっているんだという話には多分なるはずなので、それはよく、ビジブル、見える、可視範囲の状態でこんなことをやっていくという意思がはっきりと示されれば、それが今度は新しいコミットになっていくというふうに思います。

 ただ、政治家の先生方におかれましては、ほかがあるからいいんだというのではなくて、財政再建そのものにつきましてはもう一秒も時間がないという気持ちで取り組んでいただきたいというふうに切に願います。

 これでお答えになっているでしょうか。ありがとうございます。

藤原公述人 お答え申し上げます。

 私は、実際に今の予算を予算編成の作業を通じて小さくするというのはかなり大変なことだろうと思いますから、まず初めに、市場のショックみたいなのは残念ながら来ると思うんですね。

 日本の国債は、結構外国人も買ったりしております。普通は売ることはないんですが、市場が不安定になってきますと売り物が出てくることは、それは大いにあり得ます。そのときに、果たして日銀が全部買い取れるんだろうか。私は非常に危ういものを感じております。

 したがって、いきなり金利が上がってしまうリスクというのは、ことしも結構あると思います。やはりその一番の引き金となるのは、アメリカがまだあと四回も金融引締めをやると言っているわけであります。金を締めていっちゃったら、市場はどこかおかしくなるわけです。

 こうなりましたら、私は、銀行に眠っているマネーあるいは企業が持っているマネーをもっと有効に使ってくださいと企業にお願いすべきだと思います。トランプ大統領も、何だかんだ言いながら、企業に、あなたたち、減税するから、その金を賢く使ってアメリカの成長につなげてくださいと言っていますよね。ああいう政策がないともはや無理ではないかと思っております。

 以上でございます。

橘委員 どうもありがとうございました。

 今ほどお答えいただいた中空公述人は外資系証券のアナリスト、そしてまた、藤原さんもいろいろなことを自分で身をもって経験をされている、体験をされている、そういう方々であります。

 今度は上西先生それから寺西先生にまたお伺いをしたいと思うんですが、過労死の問題。

 お話があったとおり、過労死を防止しようというのは、全会一致で、この国会の意思として決めた法律であります、こういうことがあってはならないんだと。

 しかし、いろいろな新聞の報道を見ても、悲しい事件は幾つも出ておりますし、この委員会の場でもいろいろな資料を各議員の方々が出してこられるのを見ていても、それこそ広告産業であったり、テレビ界であったり、印刷業であったり、あるいはお医者さんの話もありました。非常に専門的な職業というか、いろいろなキャリアを積んでいろいろな知識を持った方々がお勤めになる、そういう、言ってみれば、こんな仕事もしてみたいなと思われるような、花形と言われるような職業に今こういった問題がいろいろ出ているように私なりには思っております。もちろん、これは、それが全てということではないのかもしれませんが、ここが非常に気になるところであります。

 いわゆる花形と言われる、そういった割と憧れられるような職業の中で、どうしてそういう働き方が求められてしまうのか、これが一点ですね。

 それから、当然、使用者の方と雇用者の方の人間関係のお話も、いろいろ皆さんお感じになっていると思います。そこで、どういう形にしていかなきゃいけないのかといったところを、いろいろと実態を感じていらっしゃるお二人の公述人に順次お話をお伺いしたいと思います。

上西公述人 まず最初に、花形と呼ばれるようなところで過労死が起きてしまうのはなぜかという御質問だったと思うんですけれども、電通の高橋まつりさんのお母さんのお話を私は東大のシンポジウムで伺ったことがあります。

 高橋まつりさんは東大の卒業生で、自分で望んで電通に入られて、厳しい仕事だということもわかっていたけれども、自分はストレス耐性があるということで、それをPRして入られました。

 なんだけれども、頑張っているうちにだんだん無理が重なってきて、自分では死のうと思っているわけではないんだけれども自死を選んでしまったということに対して、高橋まつりさんのお母さんのお話では、その場にいらっしゃった東大の学生さんたちにこれは知っておいてほしいという話をしていて、皆さんにとって、頑張り続けるということと、その頑張るというところから方針転換をしてやめるということを比べると、きっとやめるということの方が難しいだろう。頑張ってしまうというのは、自分としてやはりやりたいことだから、一生懸命になっちゃうんですね。それに対して、やめるというのは物すごく大きな決断だし、頑張れない自分みたいなことになってしまう。

 でも、これも過労死の川人博先生とかがおっしゃっていることですけれども、要は、心身の健康が損なわれていくと、判断力が働かないまま自死に至ってしまう。そういう危険性というのはやはり私たちは知っておかなければいけなくて、高橋まつりさんのお母さんがおっしゃったのも、やはり、そういうふうに、やめるって結構大変なんですよ、自分で決断力が必要になる、だから、そういう決断力がまだ残っているうちに、ここで頑張り続けたらまずいなと思ったら、ぜひそこで方針転換してくださいみたいなことをおっしゃったんですね。

 そこまでの究極の選択みたいなことを求めること自体が私は酷な働き方だと思うんですけれども、往々にしてそういう花形のところというのは、長時間労働で働くのは当たり前だ、そこで頑張って実力を発揮していくんだというふうになっているのが今の日本かと思います。

 本来は、働き方改革というのは、そういう働き方を変えていく。きちんと余裕を持った中で、自分の限界で働くのではなくて、余裕を持った中でいいアウトプットを出していく、そういうふうに日本の働き方というのは変えていかなければいけないと思っています。

 ごめんなさい、二点目はいいですか。ちょっと時間の関係で、済みません。

寺西公述人 ありがとうございます。

 どうして過労死が起こるのかということなんですけれども、まず二点あります。

 やはり、先ほどの話の中でも触れましたけれども、労働基準法、労働安全衛生法、会社が、使用者が守らなければならない法律が守られていない。守られていなくても、なかなか、やはり事が起こらないと調査にも入らない。抜き打ち調査という方法もありますが、これには、行政の監督官の人数が少ないことで、本当に三十年に一回しか抜き打ち調査には行けないというような実情を聞いております。

 そうした法律的な問題と、もう一つは意識の問題です。大企業であっても、また中小零細企業であっても、やはり年功を重ねた人は、自分たちの若いときはもっと長時間労働してきたとか、根性論をおっしゃるわけなんですね。ですから、やる気があったら頑張れる、やり抜くということを押しつけられるわけです。先ほど申しましたように、間違った就業規則であるとか職場慣行であるとか、そういうものが法律を上回る、優先されるべきことなんですね。

 ですから、先ほども言いましたが、法律の厳罰化、そして意識を変えていく、この二つが徹底されれば、今よりかは安全な働き方になるのではないか。それには、やはり国が示す方針が私は大事だと思います。よろしくお願いします。

橘委員 ありがとうございました。

 若い方々が将来に漠たる不安を持っているという話もよく伺います。私どもと世代がまた一つ違う部分があるわけで、そういったこともよく私どもは認識しなきゃいけないとも思っております。

 だんだん時間が限られてまいりましたので、中空公述人にもう一つお伺いしておきたいと思います。

 金融緩和、異次元と言われて進めてきたわけですが、先ほど、幾つかのデータにおいて変化がいろいろ出てきている、いろいろなところに、また、ポートフォリオリバランスというようなお話もございました。よく地域金融機関に一番厳しくなってきているんじゃないかというお話もございますが、お感じになっているところをお話しいただければと思います。

中空公述人 ありがとうございます。

 地域金融機関には、私は割とよく頻繁に訪れるんです。地域金融機関の人たちは、やはり大変苦労をしているというふうに思っています。

 まず、日本というのは預金量がすごく多いんですね。世界と比べて、例えばアメリカや欧州はどうなんだというのがあると思うんですが、アメリカや欧州というのは預金量が日本ほどはありません。なので、銀行側から見た余資、預金をとってそれを全部貸し出せたら、別に有価証券なんか買わなくてもいいんですが、貸出をするよりもすごくたくさんの預金がある日本においては全部貸し切れない。特に地域においては、先ほど藤原先生の方からも御指摘がありました、地方自体が少し元気がなくなっている中で、貸出をしようと思っても本当に貸出先があるかという問題もある。無理に貸し出して貸し倒れられても困るわけですよね。

 ということもあるので、銀行としては、じゃ、新しいものを創造しようと。でも、藤原先生がおっしゃっていたような新しいものというのはそんなに方々にあるわけではないので、じゃ、現実的には何ができるかということになってくると、有価証券の投資というのは一つの重要な私は正攻法だと思っています。

 この正攻法が、残念ながら金融緩和のためになかなかうまく収益を上げられなくなってきているのが現実でして、このままいくと運転資本も稼げなくなっていくんじゃないかということが簡単に計算上は出てきてしまう。つまり、いろいろなこと、貸出をしても、預金の金利も低くなっているので、マージンそのものは、まだ残っているんですが、どんどん減っているんですね。このマージンでは、自分たちが毎日営業するだけの資本金、運転資本だって出てこないということになってきやすくなっています。

 言い方をかえると、今の金融政策が余りこれからずっと長く続くと、金融機関に対してそういった経営の問題を起こさせることになりかねないということだと思っています。なので、大変大きな問題を抱えている。

 それは、地域金融機関が努力をしていないということもあるのかもしれないんですが、それだけではなくて、環境が無理にそうさせてしまっている、それから、もともとの日本の特性でそうなっているという面を先生方には御理解いただきたいというふうに思います。

 以上です。ありがとうございます。

橘委員 どうもありがとうございました。

 金融緩和の問題にしても、財政再建の問題にしても、一歩一歩ではあるんだけれども、どこかでやはりビジブルにしてターゲットというものを見つけていかなきゃいけないんだなということを感じました。

 そして、ぜひ、藤原先生の最後にあったこういう椋鳩十の世界、こういうようなものがよみがえるような働き方になるようにということも願いながら、お四方にお礼を申し上げて、終わらせていただきます。

 どうもありがとうございました。

河村委員長 次に、濱村進君。

濱村委員 公明党の濱村進でございます。

 きょうは、四名の公述人の皆様、お忙しい中お越しいただきまして、ありがとうございます。

 大変貴重なお話をお伺いすることができました。そしてまた、特に寺西代表からは、私も過労死防止議連の一員でございますけれども、議員立法をさせていただくときに、さまざま御指導をいただき、そしてまた、私個人でいえば、兵庫の地元で活動している者とすれば、兵庫からお越しになられている方もおられます。そういう意味で、議連の中で兵庫の方もおられて、議連というか、この寺西さんの過労死を考える家族の会ですね、家族の会の皆様のお話を聞いてきたその一人としても、ちゃんとした議論をしていかなければいけないということを思っております。

 そういう意味では、非常に鬼気迫るお話もあったというふうに思っておりますが、きょうは、せっかく四名の先生方にお越しいただいておりますので、少しずつお話を聞いていければというふうに思っております。

 また、上西先生におかれましては、我々公明党の二〇一五年の会合でブラックバイトについて御講演をいただいたりもしておるわけでございます。さまざま御指導を賜っているわけでございますが、しっかりと、それも含めて承ってまいったところだと思っております。

 そして、中空公述人におかれましては、私、実はBNPパリバの方だとばかり思っておったんですが、もともと野村総合研究所におられたと。実は私もそうでございまして、時期はかぶっておりませんが、一応私はシステムの方をやっておりましたので、そういう意味では、同じような働く環境にいた人間であるということでございますけれども、さまざま、きょうお話をいただいたわけでございますので、またお話をお伺いできればと思っております。

 その上で、まず最初にお伺いしたいのが、今、景気が上がって金利が上がっている、しかしながら、株価はなかなか下がっていますねというようなお話がございました。アメリカでFRBが金利引上げを行っていくよというようなお話があって、それを受けるような形で株価の反応が見られているわけでありますけれども、これは日本においても多少反応しているように見えるんですが、一方で、資金需要自体についてちょっとお伺いしたいんです。

 需要自体は、まだまだ私は減っていないというふうに思っていまして、資金需要は旺盛だというふうに思っておるんですが、需要がなければ、貸してもらえるところが減っていくということもありますので、影響もあろうかと思いますが、別にそういうわけではないんじゃないかという仮説を持っておるんです。その点についてちょっと、どうお考えか、御意見をお伺いできればと思います。

    〔委員長退席、柴山委員長代理着席〕

柴山委員長代理 どなたを御指名されますか。

濱村委員 中空公述人でございます。

中空公述人 ありがとうございます。では、私の方が先輩なんですね。済みません、ありがとうございます。

 いただきました御質問は、資金需要がまだあるんじゃないかということだったんですが、資金需要そのものは、多分、探し出せばあるんでしょうねと思います。しかしながら、ごめんなさい、きょうデータや統計は持ち合わせていないんですが、資金需要がもしすごく旺盛であれば、もう少し設備投資が伸びていい。

 よくこういった議論の中で、企業が内部留保をため過ぎであるというのがあると思うんです。では、企業は努力をしないで内部留保をため切って、何も次の革新的なことをしていないのかというと、決してそうではないはずなんです。それはなぜかというと、内部留保をためておいた方が今いいという判断があるから、私は内部留保になっているんだと思うんですね、言い方をかえますと。

 なので、資金需要がたくさんあって設備投資をたくさんしたい状況なのかということは、かなり私は疑問に思っているんです。成熟した社会にあって、次から次へとお金が欲しい状況ではない。もうずっと、ほぼほぼゼロの金利で来ましたが、マイナス金利になっても、貸出しががあっと伸びたかというと、私は、正直そうではないと思っています。

 例えば、日銀が出してくるような統計だと貸出金は伸びて見えるんですけれども、不動産が多いですよねという話になってくる。なので、本当の意味で設備投資をふやす資金需要をより呼び覚ますような政策を抜本的に皆様にとっていただきたいというふうに思っています。

 以上です。

濱村委員 ありがとうございます。

 おっしゃられたとおりだというところもあるんですが、一方で、内部留保があるというところについては、次なる事業に対して企業買収を考えていたり、そのための資金であったり、あるいは株式であったりとか、そういう資産のものも込みで考えていく必要があるんだろうと思っておりますが、まだまだそこが活発化していっていないという現状はしっかりと受けとめていかなければいけませんし、それを促すような政策が必要なのであろうというふうに思っておりますが、さまざま、税制改正等でも与党としてもやってまいったところでありますが、更に推進してまいりたいというふうに思っております。

 そしてもう一点、先ほど、格付は無視できないというようなお話がございました。それはそのとおりだと思っているんです。

 ただ、その上で、物価目標についてもちょっとお伺いしたいんです。二・〇を堅持すること自体についてどのようにお考えであるのかと。

 マーケットの期待感とかを考えると、二・〇、二・〇ということをずっと持っておかないとなかなかしんどいというようなことも言えるのかなと思ったりはするんですけれども、この点について、中空公述人の御意見をお伺いしたいと思います。

中空公述人 ありがとうございます。

 オオカミ少年という話がありましたが、言い続けてもなかなか達成しないとき、あるいは、それはもう人は信用しなくなってくる。なので、二・〇%、二・〇%と言ってもなかなか二・〇%に達しなかった場合、果たして二・〇%を堅持し続けることがいいことかどうかということは、恐らく多くの人たちが考えていることだというふうに思うんです。

 でも一方で、世界じゅうの中央銀行が二・〇%を目標としているときに、日本だけ、いや、現実に合わせて一%にしますと言うことが許されるのかどうかということについては、私は、一市場参加者ということになりますけれども、相当疑問だというふうに思います。

 なので、目標というのは掲げてもいいんだと思いますが、ただし一方で、どんどん金融緩和ではなくて金融の引締めの方に向かわなきゃいけない中でいつまでも固執する必要があるかということについては、柔軟性は必要であろうと。

 それからもう一つ、今回の二・〇%をやった理由というのは、期待インフレ率を上げていこうと期待に働きかけようとしたわけです。では、この期待というのはみんな持っているかどうかですね。二・〇%と言うことによって、みんながきっと物価は上がるだろうと思っているかというと、かなり希薄になってきたなという気はいたします。

 なので、物価に働きかけることはうまくいかなかったんだということは素直に認めた上で、ただし、現実的にどういう対話をマーケットにしていくのか、どういうことをやっていけばいいのかということが明確に示されるべきかなというふうに思います。

 二・〇%を急速に取り下げるというのは私はどうかとは思うんですけれども、それは、世界の、グローバルの視野から考えてですね。とはいえ、目標に達成できないものをいつまでも言っていること自体にも信用力というのはなくなってくると思うので、そこは対話をうまくしながらコントロールしていただきたいというふうに考えています。

 私、きょう、足をけがしましたと言いましたけれども、ギブスをはめると、やはり外すときには手間暇かかるんだと思います。すごいがんじがらめになったギブスをはめた金融市場ですので、ゆっくりと外していくようなことを工夫していただかないといけない。その意味で、二・〇%はかなりメルクマールというか、注目を浴びてしまうと思っているんですが、でも、そうはいってもそれ以上のものではないので、余りそれに固執することなく、マーケットの対話の中で考えていただければというふうに思います。

 以上です。ありがとうございます。

濱村委員 ごめんなさい。もう一点、お伺いしたいことがございます。

 先ほど、海外投資家の方から諦めムードというようなお話がありました。そこで、人口減少問題があるのにもかかわらず、なかなか具体的な政策が出てこないというような御不満があるという御指摘だったんですけれども、実は、私はそこで、そうだったかなとちょっと思いまして、人づくり革命とか言いながら、幼児教育無償化であったり、保育の受皿をつくっている。

 これは、結婚しない方々のハードルを一つずつ取り除いていく、そしてまた、現役世代の若い世帯の方々でお子さんを持ちやすい環境をつくっていくということにおいては非常に貢献するだろうというふうに思っておりますので、こうした施策はやっているというふうに思っておるんです。

 その点、それをやっている上でも不満があるのか、あるいは、不満を持っている状況の中でこの施策がいよいよ出てきたというふうにお考えなのか、あるいは、ほかにどのような点で御不満をお持ちなのか、直接御意見を伺っていらっしゃる中空さんにお伺いしたいと思います。

中空公述人 ありがとうございます。

 一回、濱村先生にも皆さんに会っていただきたいというふうに思うんですが……(濱村委員「ぜひお願いします」と呼ぶ)ええ、よろしくお願いします。

 不満というか、日本が人が減っていくというものに対して何とかしようという、そこの部分についてはかなり理解をしています。何も手つかずでいるわけではないので、そこは理解した上で、ただ、抜本的に、人が減っていくよねというシナリオは今まだ変わっているわけではありません。

 そうなってくると、人が多いと、やはり景気はよくなる、パイは大きくなるのは道理ですので、そこの部分に対しては何か政策がというと、多分わかりよいのは移民政策だったりするわけですね。

 移民政策そのものをやらなくても、実際に多くの外国人の方々は既にいらっしゃるじゃないかという話もあるので、ここは見せ方の問題でもあると思っているんですが、ドラスチックにそういった今までタブーと言われてきた問題に日本政府が取り組むことによって、かなり日本政府に対する開かれたイメージを外国人投資家は持たれるんじゃないかなというふうに思っています。

 私は、移民政策を推進すべきともすべきでないとも思わないんですが、そこについては、少しちょっと距離を置き過ぎている感はあるかなというふうに考えています。

 以上です。

濱村委員 今、移民政策というところまで踏み込んでおられるかどうかというのは非常にうまいおっしゃい方をされたなと思っておるんですが、そこで、ちょっと藤原先生にお伺いしたいと思っております。

 私は、日本のよさというのを理解するためには海外文化にも触れる必要があるんだろうというふうにも思っております。その上で、客観的に日本のよさというのを知る必要があるんだろうと。

 そういう意味で、今の政府の取組において欠けている視点、日本のよさをもう一度見詰め直すに当たって欠けている視点、先生から何か御指摘をいただければと思います。

藤原公述人 お答え申し上げます。

 まず、移民問題でございますが、移民として来る方の立場を考えればよくわかるんですが、やはり、自分の国が豊かで自分の国で仕事ができれば、余り来たいとは思わないんじゃないかなと思います。

 海外によりおもしろい仕事がある、国内でも十分食べられるけれどももっと大きなチャレンジをしていくというのは、これはいい方なんですが、いや、国内で食べられないし、国内にいたのでは家も建てられないから出稼ぎで来ましたというのを私はいいことだと余り思わないんです。いずれ、その国が豊かになったら来ないと思います。

 ですから、言ってみれば、言い方はちょっとあれですが、食べられないから日本に来ます、日本で仕事をしたいという人を積極的に導入するというのは、かえって向こうの国にも失礼なことではないかなと前から思っておる次第でございます。

 日本のよさでございますが、御承知のとおり、観光とか、今すごくそれは盛んでございまして、先ほど椋鳩十の詩を御紹介させていただきましたけれども、日本は実は、都心も含めて、地方に行きましても、何かみんなで共同体をつくって楽しく暮らしているところがございます。観光の最大の資源は、そこに暮らす人たちがその土地の衣食住を満喫して楽しそうに暮らしている、その後光が差すような楽しそうに暮らしている光が本当の観光資源なんです。

 そういう意味で申しますと、観光の最大のポイントは、地域おこしであり、いかに定住者をふやすかということでございますから、まずそこは大事。

 二つ目は、わざの問題でございます。

 私、これは一番危険だと思っていますのは、最近、日本はわざがどんどん衰退している。先ほど御紹介いたしました品質管理図のとおりでございます。悪いことをした人を罰する。あと、何もしない。こんなことをやっているからわざがいつまでも衰退し続けるわけでございまして、わざの復活ということをやるともっと日本はより好まれますから、その辺は、官民一体となってわざの復活にぜひ取り組んでいただきたいと思っております。

 以上でございます。

濱村委員 今の、わざがとても大事だと私は思っているんですね。

 もっと付言すれば、画一的なレールに乗って、優秀な成績で大学を出て、いい企業に勤めてという価値観しか、今何かいい価値観として残っていないような、そういうところがあると思うんです。そうではありませんよねと。

 例えば、技能がある方においても、その技能をしっかりと生かせる、そういう働いている現場であったり、日本の多様な文化というのが損なわれつつあると思っているんです。そこをもう一度豊かにしていくことこそが今求められているんじゃないかというふうに思っております。それこそが、働くということが非常に魅力あることにつながると思っております。

 きょう、四人の公述人の皆様、お越しいただいたんですが、全ての方にお答えいただくことができなかったので、これは残念に思っておりますが、また機会を見て、お話をお伺いできればと思います。

 以上で終わります。ありがとうございました。

柴山委員長代理 次に、岡本あき子さん。

岡本(あ)委員 きょうは、お四方、貴重な時間、お越しいただきまして、ありがとうございます。私からもお話を伺わせていただきたいと思います。

 時間が限られておりますので、私から、まずは働き方改革の問題、今まさに国会で議論になっているさなかですので、まずそこからお伺いしたいと思います。

 上西先生にまずお伺いしたいと思います。

 今回の平成二十五年度の労働時間等総合実態調査、このデータの取扱いについて非常に疑義がある、集計の仕方とか、いろいろと問題があるんじゃないかという御指摘がありました。お言葉の中に、野党対策として捏造したんではないか、あるいはつくられたんではないかという表現もありました。

 改めて、このデータ、使われ方自体も問題だという御指摘があるんですが、データのとり方自体、データ自体もいろいろと指摘される部分があるんじゃないかという議論が行われています。各県の労働基準監督官が事業所に出向いていって調べたという中で、どういう調査をされたのかということ自体も、私も、調査票をもらえないかと言ったら、もう黒塗りの、何も、何を聞いているのかもわからないような状況で報告がされた中で、このデータの信憑性、調査のとり方、あるいはそれが検証できるようになっていないということについて、御意見があればお聞かせください。

上西公述人 御質問いただきましてありがとうございます。

 先ほどはちょっと時間がなくて十分説明ができなかったんですけれども、今回の問題というのは、もともとの平成二十五年度労働時間等総合実態調査、この調査に内在する問題と、これを加工して比較をしたということについての問題と、切り分ける必要が本来はあるんですね。

 切り分けたこちらの方については、この間の検証で、問題があったということは明らかになっていると思うんです。

 では、こちらの方についてはどうかといいますと、今、調査票が開示がされなかったというのは、私も合同ヒアリングに同席させていただきまして、同じ、何でという思いはあったんですけれども。

 これは、恐らくは、臨検監督の一環、臨検的な調査みたいなことをお話しされていますけれども、要は、事業所に調査ということで入って、その中で、長時間労働の実態がある場合には、賃金台帳とかを見ながら、適正にそれが管理がされているか、つまり、三六協定を超えていないかとか、あるいはちゃんと時間外労働の実態に対して適正な割増し賃金を払っているか、そこを調べることにもともと主眼があるような調査だと思うんですね。二十五年度の前の十七年度とほぼ、恐らく同じやり方でやっているんですよ。

 なので、そういう目的であれば、これは別に、そういう目的でやるのは構わないんですけれども、ただ、今回は、そういう目的のものを踏襲しつつ、それが労働時間の実態を捉えるものも兼ねるような形で行われた。でも、本来、兼ねるようなものではないんですね。なので、本来は、閣議決定のところで実態調査をやりなさいと言われているのであれば、それに基づいて調査設計してやらないと、やはり調査というのは、捉えたいものに対する適切な調査設計がないとできないんですよ。

 先ほどお配りした配付資料の中で、実は、前後関係が不思議だなと思うところがありまして、配付資料の七ページなんですけれども、閣議決定が二〇一三年の六月十四日で、そこで企画業務型の裁量労働制を総合的に検討するために実態調査をやりなさいということが書いてあるんですが、それよりもさかのぼる、同じ年の四月にもう既にこの調査が実施されているんですね。

 ということは、当然、政府の中ですから、いろいろな流れは横にらみにしながら動いているんでしょうけれども、ただ、実態調査をするというときに、もう既にそういう十七年度調査があるから、それと同じようなことをとにかくやって、それで実態調査をやったことにしてしまおうというようなことがあるんだとしたら、臨検調査としての調査はふさわしくても、これが実態調査を兼ねるというところでやはり問題があったと思うんです。

 先ほど、こちらの方は、全文が公開されていて、調査票も公開されているというふうに言いましたけれども、やはり政府が政策立案のためにやる調査というのは、何を聞いたのか、こちらは全部書いてあるんですね。どのぐらいの回収票があったのか。こちらは、どこに行ったかは書いてあるけれども、どれだけの回収票があったかも書いていないんですよ。基本的なクロス集計なんかも、ありますけれども、実数のところはないので、いろいろな意味で検証ができない。

 外部から見て、これが正しいかどうかわからないというような形のものが実態調査として実施されるということは、本来、余りふさわしくないあり方だと思っています。

岡本(あ)委員 重ねてお答えいただきたいと思います。

 今、調査のとり方自体問題があるんじゃないかという御指摘がありました。あわせて、JILPTの調査、これも厚生労働省が要請をして、要は、厚生労働省が必要だということでJILPTさんにお願いをして、労働の実態調査をされている、実労働時間も調べていらっしゃると思います。

 同じ厚労省が必要だと判断して監督官から調べたデータ、一方で、外部に委託はしていますけれども厚労省として必要とした、とったはずの調査があるにもかかわらず、一方のデータしか労政審にかけていない。それ以外のことは、あることは知っているけれども、実労働時間として用いることをせずに労政審にかけていらっしゃる。

 そこから出た答申ということは、今まで国会の中にも、それはそれで答申として受けて、方向性としては大きな影響がないんだという答弁をいただいておりますが、私はやはり、根拠になっているデータあるいは同じ厚労省が必要だと思ってとったデータに関して、手元にありながら一方しか使っていない、しかも、それが疑義があるという中での労政審の審議のあり方、それから、答申を受けているということについて、労政審の中にやはり影響があったのではないかと思いますが、この労政審での審議に対する影響に対して御意見をお聞かせください。

上西公述人 ありがとうございます。

 先ほど、こちらの方が臨検的な調査というふうに申し上げたんですけれども、誰がどう聞くかというのはやはり大切で、質疑の中でもこれまでも出ていると思いますが、労働基準監督官が実態を調べに来たというふうになったら、やはり警戒する部分というのはあると思うんですね。なので、裁量労働制について、みなし労働時間と明らかにかけ離れたようなものが平均的な時間ですよみたいなものは出しにくいみたいなこともあるかもしれないので、やはり、聞くことに対してどういう調査設計をするかというのは大切だと考えています。

 こちらの方は、事業場と労働者とそれぞれに聞いていて、それぞれに聞いてみると、例えば出退勤の時間が決められているかどうかなんていうのは、全く違う結果が出てきたりするんですね。今回、労働時間については個人に聞いているんですよ。個人に聞いていて、事業場から裁量労働制の方二人ずつ、専門と企画業務型と二人ずつ調査票を配って、その調査票は直接JILPTの方に返送するというふうになっているので、ある意味、監視の目が入らない、自分の実態を答えられるというような利点がありますので、本来やはりこちらの方もあわせて……

柴山委員長代理 こちらの方というのは、JILPT。

上西公述人 ごめんなさい。JILPTの調査もあわせて労政審の審議の材料にすべきだったというふうに考えています。

 労働政策審議会というのは、厚生労働省は事務局という位置づけなんですけれども、ただ、実際はやはり、事務局が日程を決めたり、出す資料を決めたり、次はここまでというようなことを決めたり、かなり道筋をつける部分というのはあると思うんですね、私も傍聴に行ったことは何度もありますけれども。そういう意味では、その中で事務局が何の情報を出しているかということは、やはり労政審全体の意思決定に影響を与えていると考えます。

岡本(あ)委員 ありがとうございます。

 上西先生、その前に寺西さんにもお伺いしたいと思います。

 労政審で、裁量労働の対象拡大も、労政審の中でもおおむね妥当だという方向で出ているんだという答申がありました。私も、労政審、全部を見たわけではないんですが、要は、裁量労働制の労働時間の問題については余り議論されていないんですね。

 反対の御意見は明確に示されている委員がいることはあるんですが、労働時間が長いんじゃないかという危惧をされている中で、もう既に、今現在ある裁量労働制の方においても非常に警鐘を鳴らしていらっしゃる中で、そこの検証がされないままに、対象だけは自由があっていいんじゃないかみたいな方向に議論がなされているということについて、寺西さんの方から、今現在で起きている現状、それから、それを前提にせずに対象拡大の議論だけが進んでいくということに対して、御意見をお聞かせください。

寺西公述人 御質問ありがとうございます。

 私も何度か労政審の傍聴は行かせていただきました。

 ただ、思いますに、私も詳しい専門ではありませんので、もしかすると間違っているかもわかりませんが、この労政審という、昨年審議された中身につきましては、これは働き方改革実現会議の中の中身だというふうに認識しています。

 高度プロフェッショナル制度と裁量労働制については既に、二年ほど前でしたか、もうその時点で出ていたものというふうに認識しています。それによって、本日の資料であります私たちの声明についても、一五年度の資料になっているわけなんですね。

 ですから、言ったら、裁量労働制と高プロにつきましては働き方実現会議の中に練り込んだ、潜り込んだ、どう言ったらいいのか、後からつけたみたいな、それもわからない、十分な説明もしないまま結果的にセットにしたというふうに、私はそういう理解でいます。

 ですから、やはり裁量労働制というのは、国会議員の先生方は詳しく御存じかもわかりませんが、一般の方とか会社の人とかも十分わからないんですね。ですから、先ほど遺族の事例を御紹介しましたけれども、その中の一つの私の場合も、会社は、裁量労働制だと言わんばかりの裁量があったんだということを言ったんですね。随行席の渡辺しのぶさんについてもそういう見解でした。ですから、今労政審で審議されている、国会で、裁量労働制、高度プロフェッショナル制度、それにつきましても、本当に十分な説明、詳細な説明がなされているのかということが疑問に思います。

 労政審の中でも、やはりその二点については、労働者代表の連合さんの方からその二点については反対だというような趣旨のことが、私も確認しました。だけれども、そういうことを聞き入れず、おおむね妥当という、本当に何か労政審まで数の力で押し切られたような印象を持っているところであります。

 ですから、もっともっと、やはり国会で法案として通すのであれば、詳細な説明と詳細な根拠のもとで、それでやはり全ての皆さんにわかってもらえる手段が必要じゃないかというふうに思います。やはり働く人側の有利な形が望ましいので、やはり使用者側が、働かす側が積極的に出してきたということは、ちょっと本末転倒な内容であると私は考えています。

岡本(あ)委員 最後、お二方、上西先生、寺西さん、もう一言ずついただければと思います。

 上西先生には、やはりこの労政審、もう一度きちんと、ちゃんとしたデータをもとに労働時間の実態を把握した上で労政審で審議をしてもらうべきだと私は考えているんですが、そのことについて御意見を。

 それから、寺西さんにつきましては、この後厚労省にも要望に行かれると。厚労省においては、やはりしかるべき人にきちんと、政府側としてもしかるべき人がきちんと受けて、その前提で審議を始めるべきだと思います。

 一言ずついただけますでしょうか。

柴山委員長代理 時間が過ぎております。一言ずつでお願いいたします。

上西公述人 私も、先ほどの寺西さんと同じで、今の労政審で、高度プロフェッショナルと裁量労働制については、議論は実質的にしていないんです。上限規制の話をして建議を出して、その後の諮問の段階で一緒になったのが出てきているということなので、まずは、全くしていないので、そこでやるべきだと思います。

 以上です。

寺西公述人 全てやはり、もとの振出しから、一から進めていって、働く人を真ん中に持ってきた進め方をしていただきたいというふうに考えています。

岡本(あ)委員 ありがとうございました。

柴山委員長代理 次に、山井和則君。

山井委員 十五分間質問をさせていただきます。

 四人の公述人の皆さん、まことにありがとうございます。

 まことに済みませんが、限られた時間ですので、働き方改革について主に質問をさせていただきたいと思います。

 きょうも、過労死の家族の会の皆様が数多く傍聴にお越しをいただいております。そして、寺西さんの後ろには渡辺さん、そして中原さんもお座りをいただいております。

 今回の虚偽データ問題、私、非常に深刻だと思いますのは、私も当事者中の当事者で、二〇一五年三月二十六日、過労死家族の会の方々が、裁量労働制には反対ですという声明を発表されました。ちょうどその日に、当時の民主党が開いた厚生労働部門会議に、裁量労働制の方が労働時間が短いという、まあ反論とも言えるデータが提出されて、そのときの民主党の厚生労働部門の座長は私でした。

 そういう意味では、たまたま野党に提出されたのではなくて、過労死の御遺族の方々が裁量労働制や高度プロフェッショナルを拡大したら人が死にますということを切々たる思いで言っているのに対して、過労死の御遺族の思いを封じる意味でこのデータが出され、三年間その虚偽はばれずに、今回、政府みずからが認めたのではなく、野党や上西先生から追及されて、渋々うそのデータであったということを認めました。

 命にかかわるデータ、ミスのはずはないと思っております。これは一歩間違えば、薬害エイズや薬害肝炎のように厚生労働省の不作為によって人の命が失われるという、このまま裁量労働制や高度プロフェッショナルを導入して、残念ながら人が死ぬ、そうなると、これは下手したら国は訴訟されることにもなりかねませんよ。

 不十分な審議で、反対論が御遺族から出ているのを押し切って、死ぬ方が出るのをわかっていながら強行する、そんなことが国会であり得るんでしょうか、法治国家において。人の命を奪う法律を強行して成立させる、本当にあり得ない話だと思います。

 そこで、お伺いしたいと思います。上西さん、寺西さんにお伺いしたいんですが、先ほどの寺西さんの話の中でも、裁量労働制の拡大などを実現すると本当にお亡くなりになる方が出るんじゃないかという話がありました。お二人の方々に、なぜ裁量労働制を拡大すると過労死がふえて、お亡くなりになる方が出るのか、もう一度御説明をいただければと思います。

    〔柴山委員長代理退席、委員長着席〕

上西公述人 裁量労働制の場合は、今回、普通の時間規制の方に上限を入れるという話がありますけれども、上限が実質なくなるわけですよね。今もないといえばないんですけれども、でも、今は一応三六協定という上限があり、そして、きちんと残業代を払わなければいけないという法律があるので、それが歯どめになっている。かつ、一応、時間管理もガイドラインで適正にやらなければいけないというふうになっているので、そういう歯どめがあって、そこに更に歯どめとして上限を入れようとしているわけです。

 だけれども、せっかく上限を入れるのに、その上限の実質的な対象外である。みなしについては上限は入りますけれども、実質のところでの上限はかからないものというのをあえて広げようとしている。それは、ある意味、政府のメッセージとして、働き方改革と言うけれども、表に上限というのを出しているけれども、実は、こっちへ行ってもいいよと言っているようなものだと思うんですね。

 こちらについては、柔軟な働き方あるいはめり張りのある働き方のような答弁だけがあって、過剰に経営者側がただで働かせることができてしまうという問題に対して、何も注意喚起もなければ、対策というのも余り積極的に語られない。それで、普通の若い人も恐らく知らないですね。

 そういう状況の中で、じゃ、いざというときも、労働基準監督官なんかも、対象業務については、時間管理と違って範囲が、境界が区切れないじゃないですか。八時間を超えるみたいなものは客観的に範囲が区切れますけれども、ここまでが対象範囲なのか、ここまでなのか、ここまでなのかというのはわからないですよね。なので、明らかに違うもの以外のグレーゾーンが非常に広いというところも、裁量労働制の難しいところだと思っています。

寺西公述人 裁量労働制は、今の法案が通るとなれば拡大される。そうなれば、今までも曖昧な形で運用されています。さらに、事業場外の仕事であったりとか営業職の方であったりとか、範囲が広がることによって、また若い人たちが適用されてしまう。そこで、労働時間管理が曖昧になり、そして、残業もつかないし、使用者側も管理もしない、自己申告になっているのが今の現状なんですね。それも、先ほど事例を言いましたように、正直に書けば上司から殴られたというような今現状であります。

 そういうことで、働く人が、労働時間を管理せず、一人親方みたいなようなそうした働き方というのが、法律も認められない、職場の中でも立場が弱くて物も言えない、そして命令が下れば断ることはできない、そうした環境の中で本当に働く人が守られるのかということが、私たちの大きな疑問であり、危機を感じているところであります。

 ですから、やはりこうした働かせ方は、特に若年層の方、入社して数カ月、また、一年、二年目からという決まりがあるようですけれども、まず濫用されているのが今現状であります。ですから、やはり一からのスタート、一からの調査、そして安全を確保した上での、それから導入を考えるべきだというふうに考えています。

山井委員 今でも過労死が続出しているわけだから、まずは実態調査して、規制を強化した上でその次のことを考えるべきだという、本当に当然の御意見だと思います。

 そのとおりだと思いますし、今の上西先生の話の中でも、残業上限を決める働き方改革だと表向きは言いながら、実は高度プロフェッショナルと裁量労働制の拡大で残業上限青天井法案ということに実際はなるわけで、百時間を超える人は。多くの人がもう裁量労働制と高度プロフェッショナルに移管されるのは目に見えておりますし、寺西さんがおっしゃるように、それは、管理職にできない、三十五歳ぐらいになれない、若い真面目な、言えば夜中まで働いてくれる人たちを、残業代を払わずに夜中まで働かせることができる。本当に若者の命を奪いかねない、恐ろしい法案ではないかと思います。

 そこで、報道によりますと、安倍総理と加藤厚労大臣がきょう会ってこの裁量労働制の拡大の施行の一年延期ということを決めるのではないかということが、今、報道で流れております。法案審議の延期ではありません。法案は予定どおり成立さすけれども、実施を一年、裁量労働制だけおくらせる、そういうことで今回のことに対して対応しようという案が、今、報道によると浮上しております。

 急なことですけれども、このような政府の対応、まだ確定ではありませんけれども、報道で今流れておりますので、そのことについて、上西先生、寺西さんの御感想、御意見をお聞きできればと思います。

上西公述人 同一労働同一賃金とか上限規制については、企業の側が今より厳しくなるので、対応が必要になりますね。同一労働同一賃金だったら、賃金の体系をどうしようとか、いろいろなことを考えることがあるので、それなりに、その法律が成立してから施行の日までに実施の日程が必要だというのはわかるんですけれども、高度プロフェッショナルと裁量労働制については、ある意味、企業は待っている側、待っているだけで、対応するために一生懸命何かをやらなければいけないことではないので、それを延ばしたからといって、延ばす意味はないですし、単に何か世間の批判をかわすためのようにしか私には今のところ思えてなりません。

寺西公述人 私は、白紙撤回、削除を求めています。施行が一年延びたからといって、それは、ほとぼりが冷めればという意味にとれます。あくまで削除です。

山井委員 私も、この裁量労働制や労働時間把握が不十分な中で過労死された方、また、その御遺族の方々のお話を何度も何度もお聞きしたことがあります。私は怖いなと思いますのは、上西先生おっしゃるように、はっきり言って、労働組合のない会社も多いわけであって、もうやりたい放題なんですよ。本人自体が裁量労働制と知らなかった。みなし労働時間分残業代がもらえるというけれども、そのみなし労働時間がそもそも八時間なのに、夜中十二時まで働かされている。一種の無法地帯なんですね。

 ですから、これは一年施行が延期されようが、この裁量労働制の拡大という法案が提出された瞬間に、私は、日本じゅうの会社は残念ながらもう動き出すと思います。つまり、働き方改革で、政府が裁量労働制を推奨しているんだ。それは企業は、もう法案が通ろうが通るまいが、施行されようが、もうその方向に日本の政府がやれと言っているわけですから、それは先取りして、拡大解釈でやりますよ。となれば、私は、法案が成立するかどうか、施行されるかどうか以前で、残念ながら、過労死は激増する危険性があるんじゃないかと本当に心配しています。

 この点について、この裁量労働拡大や高度プロフェッショナルが含まれている法案が、成立とか施行以前の問題で、提出されることの社会に与える影響について、上西先生、寺西さん、お聞きできればと思います。

上西公述人 今回の働き方改革関連一括法案は、一括法案なんですよね。同一労働同一賃金と労働時間にかかわるものは別問題ですし、雇用対策のことも別問題ですし、そしてその労働時間にかかわるところで、一方では規制を強化するといいながら、一方では規制を緩和する。全てを一括でやることによって何とか通そうとしているということだと思いますので、そういう形での出し方というのは、もうこれだけ問題が表面化している以上、もともとそれが表面化しなくてもですけれども、これだけ表面化している中で一括法案として出してくるというのはもうごり押しでしかないので、別々の審議をするべきです。

寺西公述人 本当に許せない思いでいます。こうした働き方改革というのは、本当に、何か、どう考えているのかというふうに思えてなりません。

 やはり、一年延びたところで、すると決まれば、山井先生がおっしゃったように、もう働かす側は、使用者側はその準備に入ると思います。そうしたものが広まっていくということが、私たちが考え、活動している、過労死をなくす、そうした理念法を進めていく中で、こういう雰囲気、空気が広まることによって、私たちが周知啓発、そして調査研究、そうした過労死をなくす対策が本当に何かかき消されるのではないかというふうに考えます。

 ぜひそれは、一年施行を先延ばしにするということは、まだ法案が通っていないのにどういうことかと。まるで私たちの意見を無視したかのような方針を立てるということ自体、本当に許せない思いでいます。

山井委員 最後に一問、寺西さんにお伺いしたいんですが、以前、寺西さんの御自宅、京都ですので、私もお伺いして、彰さんの御仏前で手を合わせさせていただいたことがありました。本当にすごくすてきな方であります。本当に無念であられたと思います。

 ちょっとこんなことを聞くと本当に失礼かもしれませんが、本当に天国の彰さんは、今、日本の国がこういうことをやろうとしているということに関して、どう思っておられるでしょうか。もう本当に失礼な質問かもしれませんけれども、もしコメントがあれば、よろしくお願いします。

寺西公述人 ありがとうございます。

 恐らく悲しんでいるというふうに思います。

 私たちは、大切な家族を亡くして、当然ながら、二度と繰り返さない、会社の謝罪とかを求めていますが、やはり一番皆さんに知っていただきたいのは、亡くなったことを教訓にしてほしいという思いであります。

 きょうも、たくさん遺族、家族の会の仲間が来ていますが、皆さん、亡くなった家族のことを人前で話すのはつらいんですよ。だけれども、その働く現状が全く変わらない、そのことに対して、亡くなったことへの教訓を皆さんで考えてほしい。過労死をしたことを人ごとと思っている限りは、日本の改善はありません。

 皆さんも御家族がいらっしゃるはずです。そうした御家族の、身近な人が長時間労働で命まで奪われる、そうしたことを我が事のように考えていただかないと、この過労死問題はなくならないと思います。

 ですから、当然、労災認定、企業責任、それも大事です。だけれども、もっと大事なのが、過労死した実態を皆さんで考え、取り組んでいただきたい。そのことを皆さんが人ごとに考えていらっしゃるようでは、日本の過労死はなくならないんです。

 私は、この間、海外からも取材を受けました。一番恥ずかしいのは、日本人はなぜそんな長時間労働をするのか、幾ら説明しても受けとめていただけません。日本は先進国でありながら、私はその答えをするのに恥ずかしい思いをしました。

 これだけ、四半世紀以上、毎年過労死が起こっています。そうした働き方、既にデータ、調査、全部あるはずです。それを改善すれば、なくなるんです。そこをこの国会の先生方、立法の先生方に本当に真剣に考えていただきたいというふうにお願いをしたいところです。

 ありがとうございます。

山井委員 どうもありがとうございました。

 全員の方にお話をお聞きできなくて、本当に申しわけございません。お後ろにきょうは中原さん、渡辺さんもお越しいただいておりますし、多くの御遺族の方々もお越しをいただいております。本当でしたら、皆さんお話ししたいことがたくさんあったのではないかと思いますが、きょうは代表して寺西さんにお話をいただきました。

 本来、こういう一番心傷ついている御遺族の方々が国会まで来て必死になって訴えないと政府も国会議員もわからないというのは、おかしいと思うんですよ。何回御遺族の方々に切々たる苦しい苦しい思いを話させないと日本の国は目が覚めないのか。そういう意味では、私も本当に謙虚に反省しながら、党派を超えて、過労死をなくすために、きょうのこの公聴会を大きな契機として取り組んでまいりたいと思います。

 本当にありがとうございました。

河村委員長 次に、原口一博君。

原口委員 民進党の原口一博でございます。

 無所属の会として、四人の公述人の皆さんに心からお礼を申し上げたいと思います。

 まず、寺西さんにお礼を申し上げたいと思います。

 労働法制は、生きることそのものです。私ごとで恐縮ですが、私も四年前に妻を亡くしました。宿舎におったんですが、私の場合は、過労死ではなくて、労働の規制緩和でした。非常勤の看護師さんに熱中症と間違えられまして、五分あれば着く虎の門病院に三時間かけて、帰らぬ人となりました。

 衆議院宿舎はS医療という医療会社と契約をしているんですけれども、そのS医療は、医療という名前がございますけれども、医者はおらず、契約をしていた赤坂病院は五年前に廃院になっておりました。自民党、公明党さんから、当時私たちは民主党ですけれども、共産党さんまで、議会運営委員会というところで追及をしていただいてわかりました。つまり、労働法制というのは生きることそのものだ、そこをないがしろにすれば、全ての人の命が奪われるということです。

 そこで、すごいなと思います。私もこの四年間、自分を責めて生きてきました。国会議員にならなければ、あの宿舎にいなければ、早く救急車を呼んでいればと、ずっと自分を責めてきました。残された家族のケアというのは、これはもうどれほどかと思います。そういうものを乗り越えて、こうして社会のために国会まで来ていただいて陳述をされる、どんなにおつらいことかと思います。だからこそ、私たちは、残された方の、家族のケアも、心のケアも含めて頑張っていかないかぬというふうに思います。

 そこで、上西先生と寺西さんに質問ですが、上西先生が出していただいた資料の三ページ、これが、当時の私たち民主党の部会に厚労省が出したものですね。そして、いろいろ赤とか青とかで描いてありますけれども、左から四番目の数字、九・一六と九・三七というこの数字をもとに、これは比べていけないものをもとに、裁量労働よりも一般労働者の方が労働時間が長いというふうに言っていたわけです。この数字なんです。

 労政審の議論を見てみると、では労政審は何のデータをもとに一般労働者と裁量労働者を比べていたかというと、何のデータもないんですよ。データもないどころか、これを比べる議論さえしていないと思うんですが、先生、どのように認識されていますでしょうか。

上西公述人 私も、当時の二〇一五年の議事録を全て見たわけではないので、正確なところは申し上げられないんですけれども、当時の議事録を見ていますと、先ほど閣議決定という話がありましたけれども、規制改革会議の方で、企画業務型裁量労働制というのを見直すんだ、要は広げるんだという方針が出て、それに沿った形で労政審の方が進まざるを得ない。労政審がやっているのに、一方でまた規制改革の方のことで同じようなことが進んでいるということに対して、労働側の委員が、批判というか抗議というか、ということを繰り返し語っていたりするんですね。

 なので、労政審というところが、本来は、先ほどもお話しいただいたように、働く人の命と健康を守る、命と健康を守りながら、そして子育てと世代的な再生産もできるような、ゆとりのある働き方で高付加価値を生み出していくような、そういうための労働法制であるべきなんだけれども、それを審議するための労働政策審議会というところは何かすごく形骸化して、事務局としての適切な資料が出されないで、既定方針を追認するような形になってしまっていた。

 今もそうだと思うんです。今もやはり労働政策審議会のメンバーではないところで、働き方改革だって結局そうです。あれは、労働政策審議会の方と別にもう方針が決められて、そこの結論を労政審が下請的にやらなければいけなかったというようなことがありますので、それでは本来の命と健康を守りながらというところができないと思いますので、労政審のあり方そのものも今回のことを契機に見直していただきたいなと思っています。

原口委員 ありがとうございます。

 まさにおっしゃるとおり、単なるデータの問題ではなくて、これは政策決定プロセスの問題で、厚労省や労政審が議論をする一方で、規制改革会議や経済財政諮問会議で結論ありきの、ここで新自由主義者と目されるような人たちが、本来、労働規制というのは強化しなきゃいかぬ、人の命、人間の尊厳ですから。だけれども、それを緩和すると。緩和をすることによって、かえって日本の競争力も弱くなる。それどころか、たくさんの不幸を生み出す、こういう構造だと思います。

 あす集中審議ですので、お二人というか、きょう来られておられる皆さんの思いも含めて、総理と議論をしたいと思います。

 さてそこで、藤原公述人とそれから中空公述人、もうおっしゃるとおりだと思います。この間、日銀総裁と議論をしましたけれども、中央銀行、私、バブルだと思っています。

 こちらに起債というか借金をこしらえて、そのこしらえた分で新たな価値をつくる、このやり方がもう破綻をしている。藤原公述人がよくおっしゃるように、株が半値、八掛け、二割引きになってしまえば何が起きるかというと、こちらの価値は半値、八掛け、二割引きになって、こっちは債務だけが残りますから、純債務だらけになってくる、こういう危険な状況。

 これは今の働き方にも関係するんですけれども、バーチャルなマネーが世界を吹き荒れて、そして三年に一回金融危機が起こり、それを何とかするために中央政府は財政を出動させて、財政が真っ赤っかになった上に、それぞれの先進国もそうですけれども、国民は倒産と失業とそれから生活の悪化に見舞われる。

 この負の連鎖をどう断ち切るかということが大事だと思うんですが、お二人に御意見を伺いたいと思います。

藤原公述人 お答え申し上げたいと思います。

 日銀の政策でございますが、公述人でございますから建前を言ってもしようがないわけで、どんどんお金を出して、そのうち民間が買ってくれると思っていたんだと思うんですね。二%とか、まあ何でもいいんですけれども、目標は。とにかくどんどん金融緩和して、政府もどんどんはやし立てれば、ドルを買ってくれるし、株を買ってくれるし。買ってくれる人がいたら売り抜けて、まあとりあえずよかったなとしようと思ったら、どこまでつり上げても誰も買ってくれない。アメリカもそうですね。今さらもう進退きわまっちゃったというのが本当のところだと思うんですね。

 まず、この間に私が言えますことは、やはり民間の設備投資というか、民間の金融の人たちが余りにも世の中の投資について疎過ぎる。本来は、明治、大正、昭和の初めを見ていただいたらわかりますが、ほんのわずかな金を苦心惨たんして、物すごい苦労して投資して、産業をつくって、地域おこしをしていったわけであります。その時代から比べたら、こんなに金があるのに何にも投資をしない。国債を買うとか株を買うとか、そんなことを言っているわけで、まず私は、現下のこの金融が行き詰まっている最大の原因は、金融をやっている人たちの余りにもひどい不見識にあるとはっきり申し上げたいと思います。

 二つ目は、金融政策ということを考えたときに、やはり日本なんかはまだ余裕がある方でございます、世界最大の債権国でございますから。だから、何かあれば、日本は支えざるを得ない立場に今あります。だから、非常に私は危険だと思うんです。

 今後、世界の金融が、いろいろな問題が起きてくる。相場というのは、上がるものは下がります。特に、上がる過程の中で買う人が余りいない。誰かが一方的に買って上がったものというのは、下がり出したら、そこで買う人がいないので、本当に暴落するんですね。そのときに日本は、日本が助けてくださいということを世界から更に言われるんじゃないんだろうか。アメリカやヨーロッパや中国、韓国からも、ちょっと日本、助けてくださいと言われるんじゃないんだろうか。私は、その懸念を非常に強くするんです。

 そういう意味で申しますと、日本として、今後どこまでお金を出す気なのか、その後どうするのか、この処理をどうするのか。やはり本物の国家戦略を今からちゃんとつくっておかないと、どうにもならないときが来ると思っております。

 以上でございます。

中空公述人 ありがとうございます。

 別に藤原先生に盾突くわけじゃないんですが、金融機関にいる者として、金融機関が本当に何もしていないのかというと、そうではないというふうに思っています。

 設備投資をするというのが本節であったとしても、設備投資するものがない。設備投資して、もうからなかったらもうからなかったで、それはきっとどこかでお叱りがある。MアンドAというのも簡単にいくわけでもありません。当然ですが、企業というのは収益を求めて動きますので、収益が上がると思ったら動くはずなんです。動けない理由があるから内部留保という形になっているという、このどうしようもないジレンマがあるということです。

 誰かが悪くて置いてあるわけではないと私は思っています。その中で、いたし方なく、消去法的には投資するというのは当然の選択。なので、金融機関が何も手をこまねいているわけではないというふうには思っているんですね。

 ただし、今の状況で放っておいたら財政赤字がどんどんふえていく、債務がふえていくよねと。原口先生が御指摘になった、結局、純債務というのはふえるじゃないかということに関しては、そのとおりだと思います。

 いろいろなギミックを使って、例えば統合バランスシートだとかいろいろなことを言う人がいますが、債務は債務です。金利が上がってくる中で債務が残ってしまえば、誰が苦しむかといったら日本人が苦しむ、そして将来の日本人が苦しんでいくという構図ですから、ここは何とかしなきゃいけない。

 では、どうやって断ち切るのかということでしたが、それがわかったら私も皆様と一緒に立候補するんですが、なかなかそれがわからなくて。ただ、私が思うのは、構造改革、これを口で言うのは簡単ですが、やっていただくしかないというふうに思います。

 構造改革といっても、あるいは規制緩和といっても、たくさんのことをやっておられるので、それが今きいていないということだと思うんですが、マーケットが変わるときというのは不連続が起きないといけない。例えば、あしたから急に全自動車がEVですと言われたら世の中変わってくると思うんですね。なので、やはり不連続が起きるような規制緩和というのが起きない限り、でも、逆に言うと、今の状況は継続してしまうんじゃないか。その中でいかにうまく動いていくかということを考えるのが、現実の金融機関の対応であるということに戻ってしまいます。

 なので、皆様におかれましては、規制緩和ということを、では何をしたらいいんだということもあると思うんですが、抜本的にやっていただいて、不連続をぜひつくり上げていただきたいというふうに思います。

 以上です。ありがとうございます。

原口委員 お二人、ありがとうございます。

 まさに金利が低くなり過ぎていて、そして日銀がJGBを買い占めている。つまり、鯨が川の中に入っていて、もう魚が泳ぐ余地がない。だから、私たちはやはり自由の領域を広げていく、これが大事なんだと思います。

 そこで、藤原公述人に伺いたいと思うんですが、トランプさんのツイッターをフォローしていると、きょうおっしゃったように、ドルを一ドル五十円ぐらいにデフォルトさせてしまうんじゃないかというような感じを受けます。そうすると、今、中空先生がおっしゃったように、世界最大の債権国である日本は、まさにその債権の価値そのものをプラザ合意やあるいはドルショックと同じように損なってしまう。この危険に対して、まさに金融の安全保障という形で国家戦略を持っておかなきゃいかぬというふうに思うんですが、先生の御所見を伺いたいと思います。

藤原公述人 お答え申し上げます。

 ちょうど、私、八五年のプラザ合意の当日、経済企画庁の経済研究所で日本経済の予測の仕事をやっておりましたので、よく覚えております。あの当時、そんな物すごい円高が来るということを誰一人予測した人はいませんでした、役所の中でも、もちろん政治も、それから民間におきましても。

 アメリカは、このように突然平気で切下げをするということが過去何度かあります。ですから、日本はドル債権を大変持っているわけでありますから、トランプ大統領登場以来、物すごいドル安の流れはとまっていないので、これについては本当に、私は、はっきり本人に確かめていただきたいと思います。

 あの方は不動産屋をやっているから金融は詳しいはずです。こんなに金利を上げてどうするんですか、七百七十兆円も十年間で赤字を出すとトリプルAを落ちますよ、トリプルAを落ちたらモーゲージ担保証券は値下がりしますよ、そうしたらリーマン・ショックのときみたいに、中国は怒り出すし、みんな怒り出すし、大混乱が起きますよ、果ては、アメリカから金が抜け出してドル安になっちゃって、ドル安がとまらなくなりますよ、どういうふうに考えて政策を打っているんですか、うちは世界最大の債権国だからぜひ聞かせていただきたい、これぐらいのことを言っていただかないと困ると思います。

 とにかく非常に危険であって、ウォール街のアウトサイダーだと思うんですね、あのトランプ大統領は。ですから、本当に政治判断でやっているように見えますので、ぜひそこのところはしっかり確かめて、向こうの真意を確かめた上で行動する必要が本当にあると私は思っております。

 以上でございます。

原口委員 時間が来ましたのでこれで終わりますが、世界の二百年以上続いている会社のうち、八千社あるらしいんですが、そのうちの約半分が日本の会社。そういう会社は、ここに藤原先生が忠恕という言葉を出していただいていますが、働く人たちを大事にする、永続性を大事にする、だから、こういう過労死なんという話はない。

 藤原先生は、人間性回復経営者会議ですか、そういったものをつくられて、経営者のマインドから変えていこうと。私たちは、この労働法制、これをしっかり逆に強化に向かうことで頑張りたいと思いますが、経営者のマインドをどのように変えようとされているのか、最後に伺って、質問を終えたいと思います。

藤原公述人 お答え申します。

 私ども、人間性尊重経済人連盟という連盟を発足させております。これは任意の団体でございます。

 過去二十年以上にわたります新自由主義の時代に一番欠けていたのは、非人間性で、経営も非人間的であるがゆえの混乱、もちろん過労死、業績の悪化、それから不正、あらゆる問題がそこから噴き出しているわけであります。

 まず、どこから直すのか。お金を入れても始まらない、法律を変えたって抜け道がある。やはりまず経営者が、自分のところの社員を大事にして、取引先を大事にする。中から、人の中から競争力を引き出す気にならなければ、何も始まらない。そうしないと、いつまでも今のような、まるで野生の動物のように周りを見回して富を奪いに行く、こういうやり方が消えないと思うんです。

 私どもは、人間性尊重経済人連盟というものを発足させました。こうやってぜひ経営者の人たちにはっきりと、ビジネスマンの人たちに、時代が変わったんだ、人間性尊重でやってほしいということを訴えていこう、こういう趣旨でございます。

 以上でございます。

原口委員 ありがとうございます。

 終わります。

河村委員長 次に、藤野保史君。

藤野委員 日本共産党の藤野保史です。

 公述人の皆様、本日は、大変御多忙の中、貴重なお話をお聞かせいただきまして、本当にありがとうございます。今後の国会審議に深くかかわる、大きな影響を与える公述だったと感じております。

 まず、寺西公述人にお話をお聞きしたいと思います。

 本当におつらい中で思いを聞かせていただきまして、その上更にということで大変恐縮なんですけれども、お聞きをさせていただきたいと思います。

 寺西さんは、二〇一七年七月十四日付の朝日新聞のインタビューで、こうおっしゃっております。「過労自殺には、「自ら死を選んだ」という無理解があります。私自身、最初は「家族のことは考えなかったんか」と夫に怒りをぶつけました。でも、違うんです。疲労困憊になると、ダメージは心臓や脳だけでなく、精神を襲うこともある。あんなに家族思いだったのに、正常な判断力を奪われ、選ぶ余地なく死に追い込まれた夫に、今はねぎらいの言葉しかありません。」こういう言葉であります。

 そして、さらに別のインタビューでは、こうもおっしゃっています。「夫の自殺から五年後に労災認定されました。その後、会社を相手に民事訴訟を提起し地裁で勝訴、高裁において会社側が夫と遺族へ謝罪する和解が成立しました。終わってみれば夫の真相解明と名誉回復に十年以上もかかりました。 もとより、労災認定されても裁判勝利しても、亡くなった夫は二度と生き返ってくることはありません。死んでからでは遅い、取り返しがつかないことを痛感しました。生きているときに救えなかった自責の念を持ち続けることになり、どうすれば夫は死なずに済んだのか、考え行動することが私のライフワークになりました。」こういうお話であります。

 ぜひ、こうした御本人としての、御遺族としての思いを私たち国会にいる者に改めて教えていただければと思います。

寺西公述人 ありがとうございます。本当に、インタビューをお読みいただいて感謝申し上げます。

 実は私、今こうした活動で、人前であったり報道であったり、いろいろな立場でお受けしていますが、やはり当初四年間というのは、人前で、またマスコミの報道とか、受けられませんでした。

 と申しますのは、先ほどおっしゃっていただきましたように、やはり長時間労働はしていました、だけれども、何で自殺なのかというのがわからなかったんですね。ですから、当時、二十二年前、今もそうなんですけれども、自殺の遺族への偏見というのは、遺族への偏見じゃなくて亡くなった人への偏見というのは根強くあります。特に地方に行けばそういう強いものがあるんですね。でも、それはやはり事実がわからなかったから、みずから死んでいったということで見られるんです。私自身の中にもそういう偏見がありました。

 だけれども、労災申請や裁判の中でいろいろな事実がわかりました。そのわかった中で、夫は自殺を選んだのではなくて自殺に追い込まれたのだということが、客観的証拠、職場の証言によって解明されたわけなんですね。だけれども、それには十年九カ月かかりました。そこまで闘う遺族も少ないです。

 毎年、厚生労働省は労災申請数、認定数を発表されていますが、これは氷山の一角であります。なぜなら、やはり条件がそろわないと労災申請できない。できなくはないんですけれども、事実を出さないと、会社へ調査に入られた場合、全く違う根拠のものを出されてしまう、それが事実となって評価されてしまうということがあるのです。

 ですから、やはり遺族は、労災や裁判に対する労力、客観的証拠、証言、そういう集める労力、そして、裁判や闘いは長引けば長引くほど財力も必要になってきます。そして、争点を争うことによって、片や仕事が原因だった、片や仕事以外が原因だった、そういうものを指摘されることによる自分の中の精神力も必要になってきます。そうしたことで、闘われる遺族、当事者は本当に氷山の一角であるということなんですね。

 ですから、本当に罪な亡くなり方だと思います。だけれども、追い込まれた事情があるんだということをやはり周りの方も御理解いただきたい。偏見や先入観だけで判断してほしくないという思いがあります。

 一点、ちょっと長くなっていいですかね。済みません。

 この氷山の一角についてですが、自殺対策基本法という法律が成立しています。そこで、自殺の場合は全て警察が管理するために、比較的数字としては正確なんですね。やっと、三万を超える中から、今は一万ほど減って二万五千人。それでもたくさんの方が自死されています。その中で、労働が原因というのは約一割いらっしゃるんです。二千五百人程度いらっしゃるんです。その中で、労災申請されている精神疾患の自死遺族の方というのは、昨年度百九十八人、約一割に満たないんですよね。

 労働が原因ということが警察の調書でわかっているのに、労災申請されている方はその約一割です。ほかの方は全部泣き寝入りされているのです。それは、やはり自死への偏見であったり、これは自分で死んでいったんだという諦めであったり、また証拠がなかったり、いろいろな事情で表に出てこないんです。

 やはりこれ一つ取り上げても、大きな氷山の一角である証明だと思います。脳や心臓の方は本当にどれだけの被災者というのが調べようがない、難しいんですけれども、そうした方々も本当に毎年八百人程度、千人弱いらっしゃいます。

 自殺の申請数を比較してみると、その約十倍となれば、本当に大きな数が毎年命を奪われているわけなんです。ということをぜひ御承知おきいただければありがたいと思います。

 長くなりまして。

藤野委員 ありがとうございます。

 まさに、みずから選んだのではなく、追い込まれていった。今回の働き方改革なる法案というのは、その追い込まれる状況を更に悪化させていく、絶対に許すわけにはいかないと改めて強く思いました。

 次に、上西公述人にお伺いしたいんですが、上西公述人は、「ひろばユニオン」という雑誌の中で幾つか御指摘をいただいていまして、一つは、こういう記述があるんです。「私たちは「働き方改革」という言葉を、「自分が聞きたい文脈で聞いてしまう」ことに注意が必要です。多くの皆さんは、今の働き方を良しとはしていないでしょう。なんらか、変えたいと願っている点があるでしょう。 「働き方改革」という言葉は、そのような一人ひとりの期待に応える改革であるかのような響きを持っています。」

 こういう御指摘なんですけれども、この点について、もう少し詳しくお話しいただけますか。

上西公述人 ありがとうございます。

 これがまさに一括法案の怖いところで、先ほども言いましたけれども、多様で柔軟な働き方というふうに言うと、私たちは、やはり自分が好きなように働きたい、自由に柔軟に働きたいという思いがあるから、そういうふうに聞いてしまうんですね。

 なんだけれども、多様で柔軟というのは、先ほども原口先生がお話しされたように、労働法制というのは基本的なラインは崩しちゃいけないわけですよ。ここのところを崩してしまうと、それこそ、働く命と健康、世代的な再生産、あるいは子育てのための生活時間とか、いろいろなものが崩されていくので、そこを多様性とか柔軟性というので崩してはいけないんですね。

 なんだけれども、長妻先生と安倍首相のやりとりの中でありましたけれども、労働法制を岩盤規制だとみなして穴をあける、ドリルで穴をあけるというのは間違った労働法制観だと長妻先生がおっしゃったときに、私、あれはちょっとびっくりしたんですけれども、安倍首相が、すごく素の言葉で、岩盤に穴をあけるというのは、内閣総理大臣である私が穴をあけなければならないわけでありますからというようなお話をされて、そこに穴をあけるというのはどういう意味だということをわかった上でお話をされているのかというのを私はすごく疑問に思ったんですね。

 過労死という話について言っても、やはり、自分で頑張って働くというのは、やりがいがあったら頑張って働きたい人もいるわけですよ。無理やり働かされている人もいるけれども、頑張って働きたい人もいる。ただ、頑張って働いているうちに、いつの間にか自分の心身の健康が損なわれていくということもあるので、それについてもやはりきちんと法律でラインは、ここはこれ以上働かせてはいけないというラインというのはつくらなければいけなくて、そのあたりが、ごめんなさい、話がちょっとそれちゃって申しわけないんですけれども。

 もう一つ、先ほど、多様で柔軟というのと、労基法の歴史七十年の大改革だというお話も安倍首相がされるんですけれども、あれも実は表と裏の意味があって、初めて上限規制が入ると同時に、やはりその労基法の労働時間法制に大きな穴をあける、その両方の意味というのがあるんですね。それも私たちが気をつけて聞かなければいけないところだと思っています。

藤野委員 今、穴をあけるというお話がありました。

 それで、もう一点、上西公述人にお聞きしたいんですが、その同じ本の中でこうもおっしゃっているんですね。法律が変わっても自分の働き方には関係がない、今回の法改正は自分には関係がないと考えていらっしゃる方もいるでしょうが、本当にそうでしょうかということで、三つの場合、違法な状況が常態化している場合と労働組合がしっかり機能している場合、そして法改正の対象外である場合、それぞれ挙げられて御指摘をいただいておりますが、この点についても改めて御指摘いただければと思います。

上西公述人 対象外というところだけ申し上げますけれども、高度プロフェッショナルについて、これは一千七十五万円以上だから、数%だからというので、いかにも関係ないというふうな話に持っていこうとしていましたね。

 裁量労働制の方は高プロの陰に隠れて余り見えませんでしたけれども、関係ないかというと、高プロもやはり年収要件が下げられていくことはありますし、裁量労働制というのは、そもそも普通の人にとってなじみがないから関心がないだけで、いきなり、あなたも裁量労働制ね、えっ、何ですかそれというふうに言われる可能性があります。

 それから、そういう働き方が広がるということは、上限規制というのが、何か今回の法改正によって、私たちにとって上限規制が初めてできるんだ、よかったなというふうに思いますけれども、むしろ自分の側に降りかかってくるのは裁量労働制で、上限規制とか、あなた、そんなに守られたいのみたいになっていく可能性もあると思うんですね。

 なので、午前中に伊藤圭一さんが、非正規の人の処遇の低さというのは、実は正社員の働き方についてもダンピングになるんだというようなお話をされていましたけれども、一方の方に穴があいてしまうと、一方の方で守られているかのように見えるけれども、実はその人たちも守られなくなる。そういうことは、やはり両面を見ていかないといけないと思います。

藤野委員 ありがとうございます。

 次に、藤原公述人にお聞きしたいんですが、公述人がお書きになった「ゼロ原発 民衆力 大爆裂!」という本を私も拝読させていただきました。この百六十六ページにも核のごみの問題が指摘をされておりまして、「三十万年間、「高レベル汚染」の危険を残す」というふうにあります。

 この問題も含めて、今、再稼働反対あるいは原発要らないという世論はもう揺るぎがないというふうに思っております。先日は、原自連という団体も即時原発ゼロの提案も行いました。私たちは全面歓迎しているわけですが、この原発ゼロ、ゼロ原発という点につきましての御見解を教えていただければと思います。

藤原公述人 お答え申し上げます。

 これは、当NPOの理事長としてというよりも、私個人の見解ということでございますが、私は、原発は即時ゼロにすべきであると思います。それは危機管理ができないからです。何かあったら一大事でございます。

 本当に、今回の福島の事故を見てもそうでございますが、あれは制御棒が入ったからいいですよ。入らなかったら大変なことになっていたわけで、地震とか津波はその都度姿が変わるわけでございますから。

 私は、原発は非常に不幸なもので、原子力物理学者がつくったものの、原子力物理学者が処理をできないという非常に困ったものだと思うんですね。ですから、みんなが安心して暮らしていけるためにも、これはもうとめるしかないですよ。そんな、理屈をつけて、こういう条件なら大丈夫ですとか言っていますけれども、大自然というのはそんな甘いものじゃないし、地震だってよく予知していないところで起きますよね。そのときに、本当に困ってしまうわけであります。

 そういう意味でいいますと、こういう危険なものは動かさない、それを前提にほかを考えるしかない、私はこのように考えております。

 以上でございます。

藤野委員 ありがとうございます。

 もう時間が来ましたので終わりますが、中空公述人には大変失礼をいたしました。

 先ほどの公述で寺西公述人が、全力でこの裁量労働制の改悪を許さない、全力でと四回も五回もおっしゃったことが、本当に重く重く受けとめております。私どもも本当に心一つに頑張りたいというふうに思います。きょうは本当にありがとうございました。

 終わります。

河村委員長 次に、串田誠一君。

串田委員 日本維新の会の串田誠一です。

 きょうの最後ということで、お疲れでしょうが、質問をさせていただきます。

 まず最初に、中空先生と藤原先生にお聞きをしたいと思いますが、きょう、この委員会で聞いていらっしゃる方々、普通の表情ではありますけれども、実はお二人の話を聞いて大変ショックを受けているのではないか。

 特に、藤原先生のお話ですと、何か近いうちに大変な大暴落が起きるのではないか、中空先生におきましても、バブルは間違いないというようなお話であったんですが、最初に藤原先生、そして次に中空先生に、現実に、本当に大暴落というか、大変なことが起きるのかどうか、それに対して我が国はどんな備えをしておけばいいのか、そんなヒントを教えていただければと思います。

藤原公述人 お答え申します。

 暴落というのは、本当に過去何度も起きております。先ほど申しましたように、一九八〇年代後半から数年に一遍起きておりますから、起きないということはないわけでございます。問題は、起きたときに何が起きるか、どう対処できるかということでございまして、その意味でいいますと、今は非常に危険なんです。

 なぜかと申しますと、各国ともに金融財政政策は出すだけ出してしまっております。それから、物すごく実はみんな今楽観論が強いんです。例えば、企業への貸出しが大きいのも、ある意味でいうと、あれは楽観的過ぎる部分が結構あるんです。もっとそれは金利を高くしないと危ないよというのも、貸出し競争で随分低い金利で貸したりすることがありまして、こういうのをよく、まあ、楽観論が度が過ぎると申します。

 今、ですから、金融市場は結構楽観論が度が過ぎておりまして、政府、中央銀行も、相場は崩したくないですから一生懸命支えるんでしょうけれども、支え切れる保証がないわけでございます。

 私が申し上げたいのは、暴落は過去何度も起きていますから、起きないということはあり得ないわけで、起きたときの危機管理、今の時代は、負債と資産が両方積み上がってきますから、暴落すると資産だけおっこって、巨大な負債が残るんですね。それがとんでもない不景気を引き起こしますから、この点について十分民間とも海外とも詰めて、その対策を考えておくことが、今一番の政府としての政策上の急務だ、私はかように考えております。

 以上でございます。

中空公述人 ありがとうございます。

 暴落するかしないかと言われると、やはり、藤原さんがおっしゃったように、暴落はする可能性はあるということだと思います。価格は、上がり過ぎるとどこかで調整をするというのが普通だからです。しかしながら、それをきっかけにリーマン・ショックのようなクラッシュが起きてくるかというと、話は違うんだと思っているんですね。

 なので、金融システム不安というのを呼び覚ますようなことになるのか、呼び起こすようなことになるのかというと、私は、今回、今の現状ではそこまでだと思っておりません。そういうことでいけば、金融システムは耐えるだけの力があるというふうに思っています。

 ただ、私のプレゼンの中でもお話をしたんですけれども、現状でお金を一番動かしているのは、金融機関とかではなくて、シャドーバンクなんです。なので、シャドーバンクというところで話が、いろいろなことが勃発したとしても、実際に、では日本の政府や日本の金融機関当局が手を下して、何か処理をしていけるか。これまで何回も、法的な整理をしようとか、いろいろな法制案ができてきていますが、それで足りるかどうかというと、非常に疑問が残るというふうに思っています。

 なので、今この時点で、クラッシュシナリオといって世の中を騒がせる気は全くないというのが現状だと思っていて、そのためには、中央銀行は、先ほど、やはりゆっくりと変えていかないとだめだという話をしましたけれども、そういう気を使った、いろいろなところに気を使った、ゆっくりとした金融政策の変更というのがあると、私は今の状況は崩れにくいとは思っています。

 しかし、いざ何か起こったときには、今まで見たことのない景色が起きる可能性はやはりできてきているので、そういう意味でいくと、今の時点から、正常化に向けての対応策というのは、先生方には考えておいていただきたいというふうに思います。

 以上です。

串田委員 見たことのない景色というのもちょっと怖いなとは思ったんですが、中空先生に、先ほどの説明の中で、不連続を続けてほしいと。ちょっと言葉として非常に、何というか、言葉自体に矛盾があるような感じなんですが、不連続というのを続けるというのはどんなことなのか、ちょっとヒントを教えていただければと思います。

中空公述人 ありがとうございます。

 不連続を続けると言ったんだとしたらちょっと間違えているかもしれないんですが、不連続の政策を打ち出していっていただきたいということなんですね。

 不連続というのは、今までと同じようなことをしていない、そういうマーケットにならない限りは、私は、実は残念ながら、世界じゅうが低成長、低金利という構造問題に入り込んでいるんだと思っているんです。なので、どれだけ頑張って金融緩和をしても、それがドラスチックに景気を上げたり状況を変えていったりできないんだというふうに思っているんですね。

 なので、この低成長、低金利という構造をすっかりと変えるためには、今まで私たちが体験していない不連続が起きないといけないと思っているんです。小さいときに、例えばドラえもんの漫画を読んで、すごい、未来ってこんななのかなと思ったと思うんですが、全然そんな未来は来ていなくて、今も私が生まれたときとそんなに変わらない。車は走っていますし、電話が辛うじて携帯になってきましたけれども、それぐらいじゃないかな。なので、大きく変わる不連続というのを起こしていただかない限りは、正直言って、今と同じようですよと。

 なので、そういうふうに申し上げましたけれども、不連続の政策を次々出すというのはかなり難しいというふうに思います。では、どんなことがあったらいいのと言われても、私も答えを用意しておりませんので、ここは御容赦いただきたいと思いますが、申し上げたかったのはそういうことでございます。

 以上です。ありがとうございます。

串田委員 上西先生に次は御質問させていただきたいと思うんですが、きょうの資料は、本当によく時系列によってまとめられておられまして、大変な重要な資料ということで、あすからの集中審議においても非常に審議がはかどるのではないかなと思って、感謝しております。

 ところで、今、不連続というものの一つを打ち出す必要があるということなんですが、今、我が国においては、少子高齢化ということもあって、労働力が非常に下がっている、劇的に下がっているという中で、働き方改革も、ある意味では政府の打ち出した不連続の一つなのかなというふうな見方もできるとは思うんですね。働き手をふやすとか、出生率を上げる、労働生産性を上げる。

 先ほど御質問された中にも、ちょっと文献の名前は聞き逃してしまいましたが、先生の方から、皆さんも現状に満足はしていないんじゃないか、変えていかなければならないんじゃないかというようなこともお書きになられているということなんですけれども、全く何もしていいということではないとは思うんです。この今の状況の中で、先生のお書きになられているような、現在の働き方改革については問題があるという御指摘だと思うんですが、それ以外、こういうことであれば、要するに不連続を打ち出すというような形での解決策ということになるのではないかというようなことがあれば、御披露いただきたいと思います。

上西公述人 その不連続という意味を私はちょっと理解できていないので、お話がかみ合うかどうかわからないんですけれども、働き方改革というお言葉は、安倍首相が打ち出して、世の中にこれだけ浸透した。いろいろな会社が働き方改革という言葉を掲げて、誰でも知っている、裁量労働制という言葉は知らなくても、働き方改革という言葉はほとんどの人が知っているというのは、やはり多くの人は今の働き方をよしとしていない。

 そういう意味では、最初に安倍首相が長時間労働の是正、同一労働同一賃金、要するに非正規の処遇改善ですね、それを打ち出したことというのは、多くの人に問題意識を呼び覚ましたんだと思うんですよ。その呼び覚ましたものに沿った法案が出てくればいいんですけれども、そうではなかったというのが私たちにとって非常に残念なことなんです。

 なので、長時間労働の是正というのは、あれは少子高齢化、労働力の不足という中で、女性が子育てをしながらでも働けるためには、今はパートタイムで働かざるを得ない、けれども、残業がなければフルタイムでも働ける。子育ての経験のある人はわかると思いますけれども、何時まで残業があるかわからなかったら保育園のお迎えとかはできないわけですね。なので、定時できちんと帰れるんだったら女性もフルタイムで働ける、そういうような方向性としては、私はそれはすごく正しいと思うんですよ。

 それを何か、でも女性はそっちに行ってね、従来の男性はもっともっと働いてねみたいに分かれちゃっているのが問題で、男性も同じように定時で帰れるというのを基本にして、そうすると、男性も女性も共働きができる。そうじゃないと、高プロの方の働き方、あるいは裁量労働制で男性が働いていると、どうしても女性の方が家事、育児を全部担わなきゃいけないんですよ。そうならないような働き方というのを、政府お任せにしないで、私たち自身も考えていかなければいけないなと思っています。

串田委員 次に、寺西代表世話人にお聞きしたいと思うんですが、私は午後もう何人目かということなので、法律に対する思いというのは大変お聞きさせていただきまして、ちょっと視点の変わったところで、実体験した方しか知ることができないようなことをちょっと教えていただきたいんです。

 現在、ちょっと景気がいいということもありまして、就職先というものをかえようと思ったらば、まあ、悪いときにはかえられないから歯を食いしばってそこにいるということもあるんでしょうけれども、今、景気がいいということで、企業を移るというようなことも可能かとは思うんですが、過労死されるような現状の中で、このような、会社をかえるというような発想につながっていくものかどうかということをお聞きしたい。

 もう一つは、家族として、そういう過労死というようなことが、裏についている新聞を読ませていただいたんですが、時間やでと起こして、それが自分も過労死の共犯じゃないか、そういう後悔されているのを読ませていただいて、本当につらく読ませていただいたんですけれども、家族というのはなかなか気がつかないのかもしれないんですが、何かそこにシグナルというか、こういったことを気をつけてほしいということがあれば、ちょっと教えていただきたいと思います。

寺西公述人 ありがとうございます。

 転職についてですが、まだまだ日本は、勤務して数カ月、また一年、二年で次の会社に移るということの世間の評価は、やはり昔の印象で、石の上にも三年であるとか、辛抱が足らぬとか、退職したことによる評価は、まだまだそうした偏見や先入観があるのではないでしょうか。

 私たちは今、過労死防止法の活動の一環で、中、高、大学へ行ってこうした経験を聞いていただいて、ワークルールの活動をしていますが、その中で、職場について、僕はこれはおかしいなと思った時点で、心や体が病む前に気づいて相談に行ってくださいということをお伝えしています。

 私の場合は二十二年前でしたから、まだまだやはりその当時はそうした偏見があったと思いますし、大体、被災される方は、亡くなるちょっと前に、やめたいというところがあるんです。でも、やはり、ではそこをやめたら次どこがあるということがありますので、若い人であっても、今、先生は景気回復したとおっしゃっていますが、私の周りを見る限り、そんな実感は全く湧きません。ですから、ではそこを、正規の職をやめて次いいところがすぐ見つかるかというと、なかなかやはり正職はつけない、非正規やパートタイムとか、そういうところになってしまうのかなというふうに考えます。

 ですから、それはやはり、転職することによってスキルが上がるというのは、日本はまだまだおくれているというふうに私は感じているところであります。

 もう一点、家族について何ができるのかということです。

 私も全く、そう書いたように、やはり、まさか死ぬとは思っていませんでした。お父さん、いつか、そんな長時間労働をしてたら倒れるでという話はしてきました。だけれども、本人が、休めないから行かざるを得ないと。毎朝、お父さん、きょうも休めないのか、休んだらどうなんという話を毎朝してきました。だけれども、夫は、人がおらぬから出ていかな仕方ないという繰り返しでした。それ以上言ってしまうと、家庭の中の雰囲気がおかしくなります。ですから、やはり家族というのは、家から出て、帰ってきて、いつでもお風呂、御飯を用意しておくぐらいのことしかできないんです。

 だけれども、今は、私たちは過労死防止法活動をしていますので、そうした相談体制であるとか、また、厚生労働省もいろいろな機関でそういう相談を受けることをしていただいています。徐々にですけれども、おかしいと気づけば、そういう受皿がある、相談体制がある。私たちの小さい家族の会の組織ですけれども、そこにもやはり相談が来ます。ですから、私は、そうした、おかしいことをおかしいと気づく、そういううちに次の手段を考える。ですから、そこには相談の受皿の体制が、もっと充実した形でしていくことが大事かなというふうに思っています。

 なかなか、何十年もかかって築き上げられた世の中をすぐには変えられないです。でも、一歩ずつ、徐々に徐々にですけれども前進していきたいというふうに思いまして、私たちも今活動に加わっているところですので、ぜひ応援をいただきたいと思います。

 ありがとうございました。

串田委員 大変勉強になりました。ありがとうございました。

 終わります。

河村委員長 これにて公述人に対する質疑は終了いたしました。

 公述人各位におかれましては、貴重な御意見をいただきまして、ありがとうございました。厚くお礼を申し上げます。(拍手)

 以上をもちまして公聴会は終了いたしました。

 公聴会は、これにて散会いたします。

    午後四時九分散会


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