衆議院

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第1号 令和2年2月21日(金曜日)

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令和二年二月二十一日(金曜日)

    午前九時開議

 出席委員

   委員長 棚橋 泰文君

   理事 井野 俊郎君 理事 後藤 茂之君

   理事 坂本 哲志君 理事 葉梨 康弘君

   理事 堀内 詔子君 理事 山際大志郎君

   理事 大串 博志君 理事 渡辺  周君

   理事 伊藤  渉君

      あべ 俊子君    秋本 真利君

      伊藤 達也君    石破  茂君

      今村 雅弘君    岩屋  毅君

      衛藤征士郎君    小倉 將信君

      小野寺五典君    大岡 敏孝君

      奥野 信亮君    鬼木  誠君

      神山 佐市君    笹川 博義君

      武部  新君    根本  匠君

      原田 義昭君    平沢 勝栄君

      藤井比早之君    古屋 圭司君

      村井 英樹君    村上誠一郎君

      山口  壯君    山本 幸三君

      山本 有二君    渡辺 博道君

      今井 雅人君    小川 淳也君

      大西 健介君    岡本 充功君

      川内 博史君    玄葉光一郎君

      後藤 祐一君    辻元 清美君

      本多 平直君    馬淵 澄夫君

      前原 誠司君    矢上 雅義君

      山川百合子君    國重  徹君

      濱村  進君    塩川 鉄也君

      宮本  徹君    杉本 和巳君

    …………………………………

   公述人

   (マネックス証券株式会社執行役員チーフアナリスト)            大槻 奈那君

   公述人

   (特定非営利活動法人情報公開クリアリングハウス理事長)          三木由希子君

   公述人

   (国土学総合研究所長)

   (一般社団法人全日本建設技術協会会長)      大石 久和君

   公述人

   (弁護士)        新里 宏二君

   公述人

   (東京財団政策研究所研究主幹)          小林慶一郎君

   公述人

   (日本労働組合総連合会会長代行)         逢見 直人君

   公述人

   (法政大学教授)     小黒 一正君

   公述人

   (昭和女子大学グローバルビジネス学部長・特命教授)            八代 尚宏君

   予算委員会専門員     鈴木 宏幸君

    ―――――――――――――

委員の異動

二月二十一日

 辞任         補欠選任

  うえの賢一郎君    村井 英樹君

  河村 建夫君     大岡 敏孝君

  岡本 充功君     山川百合子君

  本多 平直君     矢上 雅義君

  藤野 保史君     塩川 鉄也君

同日

 辞任         補欠選任

  大岡 敏孝君     武部  新君

  村井 英樹君     藤井比早之君

  矢上 雅義君     本多 平直君

  山川百合子君     岡本 充功君

  塩川 鉄也君     藤野 保史君

同日

 辞任         補欠選任

  武部  新君     河村 建夫君

  藤井比早之君     うえの賢一郎君

    ―――――――――――――

本日の公聴会で意見を聞いた案件

 令和二年度一般会計予算

 令和二年度特別会計予算

 令和二年度政府関係機関予算


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     ――――◇―――――

棚橋委員長 これより会議を開きます。

 令和二年度一般会計予算、令和二年度特別会計予算、令和二年度政府関係機関予算、以上三案について公聴会を開きます。

 この際、公述人各位に一言御挨拶を申し上げます。

 公述人各位におかれましては、御多用中にもかかわらず御出席を賜りまして、まことにありがとうございます。令和二年度総予算に対する御意見を拝聴し、予算審議の参考にいたしたいと存じますので、どうか忌憚のない御意見をお述べいただきますようお願い申し上げます。

 御意見を賜る順序といたしましては、まず大槻奈那公述人、次に三木由希子公述人、次に大石久和公述人、次に新里宏二公述人の順序で、お一人二十分程度ずつ一通り御意見をお述べいただきまして、その後、委員からの質疑にお答え願いたいと存じます。

 それでは、大槻公述人にお願いいたします。

大槻公述人 ありがとうございます。

 おはようございます。ただいま御紹介にあずかりました、マネックス証券でアナリストをしております大槻と申します。

 主な仕事といたしましては、金融システム、金融、金利等の分析及びそういった投資教育を大学でやらせていただいている次第でございます。どうぞよろしくお願いいたします。

 本日なんですけれども、主に三つのことをお話しさせていただければと考えております。

 一つ目に、世界の金融情勢、そしてその財政へのインプリケーションということであります。そして二番目に、今申し上げましたように、個人の方々にもいろいろな形で接しております。そういった個人の方々が財政及び景気に対してどういった見方をしているかということが二点目。そして最後に、僣越ではございますが、金融市場の関係者といたしまして、日本の課題、その中で今回の予算へのコメント等も少し触れさせていただきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。

 一つ目のテーマでございます。お手元の資料の三ページ目の方をごらんいただければと思います。

 こちらが、今私どもが最も気にしていることの一つでありまして、世界の債務残高、史上最多の二京円ということになっております。GDPに換算しますと二二〇%ということで、特に、右側にございますように、政府セクターでの上昇が目立っています。

 これは、足元ですと、新興国も政府セクターで増加をしておるんですけれども、特徴的なこととしては、右側は二〇〇八年のリーマン・ショック後をとっています。リーマン・ショックを一〇〇としているために、そこからの上昇で見ていただいているものなんですが、最初に増加をするのが、こういう金利ショックのときは政府セクターがさまざまな形で金融機関、そして企業を支援するために、こういった形で債務が増加するということであります。

 今は情勢が非常に安定しているために、こういった政府の債務の膨張ということは一部を除いて見られませんけれども、再びこういったことがあり得るのではないか、財政に対する負担ということを気にしている次第です。

 おめくりいただきまして、四ページ目が、金融市場の変化として、直近では、銀行が、マイナス金利の影響もありまして、余剰資金をため込んでいるということを書いています。日米合計で約六百兆円ということで試算をされています。

 そして、次のページからが、その六百兆円のいわば余剰資金、余剰資金の、ここで申し上げている定義といたしましては、預金をどれだけ集めて、それを銀行が貸出しに回せないでいるかということであります。

 これの中身として、五ページ目からがアネクドートでございます。今我々が懸念しているのは、そういった資金の偏在だということであります。ここに、利ざやがあるならどこまでも行くということで書いてありますが、一つ目、クレジットリスクでございます。

 ここにある左側のグラフをごらんいただきますと明らかなんですけれども、アメリカの国債利回りとギリシャの国債利回りを比較したものになっています。いずれも十年物です。ごらんいただきますと、普通で考えればギリシャの方がクレジットリスク的に非常に厳しいということで、上に行けば行くほどそのリスクが市場で意識されているということなので、ここでごらんいただきますと、ギリシャの方、オレンジの方が上にあるのが自然なんですが、去年以降はアメリカ国債よりも下に利回りが来ております。クレジットリスク、ギリシャのリスクということが、もちろんギリシャ自体も改善はしているのですが、それにしても、相当、投資家がこういったクレジットリスクに対して以前ほど意識していないということのあらわれだと思います。

 右側、これは今度はデュレーションリスク、期間のリスクを余り市場が意識しなくなっているということの証左としてお持ちしました。

 スウェーデンです。スウェーデンは、住宅の価格が、一九九〇年以降で見ますと、最も上昇した国のうちの一つなんですが、ここで、二年前ぐらいの法律でございますが、住宅ローンが余りにも長いものが発生したために、百五年までという規制を導入したということであります。長ければ長いほどもちろんリスクは高まるのですが、そういった形で、銀行がデュレーションリスクに対して甘くなっているということかと思います。

 もう一つだけ、アネクドートでございます。

 次のページをお開きいただきますと、今度はコーポレート、企業の方でございます。「利鞘があるならどこまでも…」という続きがございますが、クレジットリスクについてです。左側、レバレッジローン、これは投資適格でない企業に対するローンを指しますが、その中でも、コベナンツ、つまり、条件を緩くしているものの比率がじわじわじわじわと上昇して、七五%になっていると。

 右側は、BIS、国際決済銀行が出しているデータで、ごらんの方もいらっしゃるかもしれませんが、ゾンビ企業、つまり、返済をする元利金を利益では賄えないという企業がどんどんふえていて、史上最高になっているということであります。

 さて、そういったことの一つの要因がマイナス金利でございますが、七ページ目をごらんいただければと思います。今、欧州の一部では、日本ではないわけですが、いろいろな形でマイナス金利が民間に浸透しつつあります。

 一つは住宅ローンです。こちらでごらんいただいている、左側はデンマークの銀行、八月に初めて住宅ローンの絶対金利をマイナスにしております。つまり、一億円借りると、年間で三十万円とか四十万円のお小遣いが来るという形になっております。

 それと同時に、右側、これはドイツのマネー誌の表紙をとっています。ドイツでは、八百ぐらいの中小の金融機関の今や四十一の金融機関でマイナス金利を一般の個人の預金にも導入しているということで、それに対して、これは貯金箱が水面下に沈みかけていますが、どうやって自分の身を守るかと。日本のようなたんす預金も話題になっているんですが、向こうはたんすがないので、マットレス預金というのがはやっております。

 そういったひずみも出ている中で、じゃ、お金が実際どっちに行っているのかというのが、次のページでございます。お気づきのとおり、これは不動産に行っている。資産価値を上昇させているというのが典型例でございます。

 右側の方をごらんいただきますと、アメリカの主要都市、マンション価格の中央値が、一部の地域ではありますが、一億円超ということになっていまして、具体例を下に載せてございます。特にこの右下の例、これもアネクドートにすぎませんが、去年の今ごろ、実際に売買が成立したものの価値は、USドルで二百三十八ミリオン、円にすると二百六十億円ぐらいでございます。一戸です、棟ではなくて一戸。ということで、相当の資産効果を生んではいるものの、価格としては相当上昇しているというところです。

 中国について触れます。

 中国も同じように上昇していますが、少しボラティリティーが、変動が大きくなっており、かつ、問題として、空き家率というのを右側に書いてございます。日本もこれは御存じのとおり話題になっておりますが、中国の場合は、世界一かもしれないという二二%、戸数にすると五千万戸ということですので、この中国の空き家に日本の世帯がほとんど住めてしまうぐらいの空き家になっております。

 次のページ、ここからが少し、中国のリスク、それから足元の、皆さん御懸念と思います新型肺炎についての金融面のことについて述べたいと思います。

 中国の金融システム、実はここが、この件が起こる前から中小の金融機関については経営リスクが高まっておりました。左側にありますように、ストレステストを十一月に発表しておりますが、左側のグラフの八以上のところが高リスクの金融機関とされています。パーセントでは一三%で大したことはないように見えますが、数でいいますと五百八十七金融機関でございます。そして右側は、そういったところが取付けに遭ったりですとか、大きな金融機関の一部に吸収されたりといったことが起こっておるのが、既に新型肺炎以前の問題であります。

 そこへもってきまして、十一ページ目、これが直近の各種支援策でございます。左側が民間の金融機関の支援策、右側が公的な、主には金融政策でございます。

 左側をごらんいただきますと、こちらのデータは二月十一日の昼までです。その後も大きくさまざまな施策が打ち出されていると思いますが、二月一日からのわずか十日間ちょっとで、こちらでごらんいただきますように、円にしますと五・五兆円の金融支援が行われたというふうに報道されています。

 向こうのテレビでも、見ていますと、アプリベースで、わずか二時間で実際に実行されているようなローンがあるということも言われております。

 そして右側、金融政策の支援ですが、きのうも発表されましたとおり、さまざま、かなり迅速にやっているということの印象でございます。これらは、御存じのとおり、金融政策、財政政策ともに余裕を持っているからこその証左かもしれません。

 そして、金融情勢について、最後で、かつ最も重要なアメリカでございます。

 こちらのページにお示ししているのは、いかにアメリカの景気がいいかということのあらわれでございます。

 左側、御存じの方も多いと思いますが、過去最長の景気拡大期、月数でいうと百二十六カ月ということなんですが、より御注目いただきたいのは右側でございます。クレジットサイクルなんですが、企業のデフォルトが多ければ多いほど上にスパイクするという形になって、一時期はこれが十年に一度と言われておりました。それが、この赤い方の線をごらんいただきますと、順調に大体十年に一度、二〇〇八、九年のリーマン・ショックまでは発生しておりました。それ以降ということで、それとちょっと重なって〇五、六年以降のものをもう一つの線で書かせていただいています。赤い線になっているかと思います。

 こちらをごらんいただきますと、途中まではぴったり今までのサイクルどおりクレジットリスクが高まったり鎮静化したりしていたのですが、トランプ政権が発生して、その様相が大きく変わりました。御存じのとおり、税制それから金融政策等がきいているかと思います。

 ただ、十三ページ目の、次のページなんですが、もしここから何かあるとしたら、このショックは、過去も、ここのグラフでごらんいただきますように、これは世界の株価なんですが、緩やかに、サイクルというよりはショックが起こり、回復しということが何度も繰り返されているということに見えるかと思いますが、次に何かあるとしたら、前回以上のショックもあり得ると思っています。

 その理由が、次のページ、新興国でございます。

 新興国の債務は、御存じのとおりドル依存が進んでいて、新興国自体の借入れも、右側にございますように大きくなっております。ただ、十五ページ目に行きますと、それだけではクライシスが、危機が起こるとは思っておりません。危機というのは、必要条件として、十分にさまざまな要素が今申し上げたところから発生していると思うのですが、このページの下の方でございます、何か未体験のネガティブファクターがない限りは多分発生しないのではないかと思っています。そして、これが仮に起こった場合、何ができるのか、財政への影響はということを我々としては考えていかなければいけないのだと思います。

 そして、飛ばしながら、最後のところをやらせていただきます。

 一つ目、個人の不安感ということです。

 おめくりいただきまして、十八ページ目にございます。私どもの、個人のセンチメント調査でございます。

 こちらは年齢別になっておりまして、ちょっと見づらいのですが、一年前よりも家計を締めているか緩めているかということを尋ねてみますと、若年層は比較的、例えばですが、九月の時点は消費税増税のときに大きく家計を緩めており、その後また戻っているという感じでございますが、問題は高齢者の方の、ここでいうと緑色になっているかと思いますが、こちらの方々は、消費性向も上がりませんし、右側の、預金、貯金か投資ということでも、コンスタントに預金、保守的でございます。こういった年齢層がこれから増加していくことを考えると、ここのセンチメントマインドをどうやって高めていくかというのは大きな課題かと思っています。

 では、こういった状況になっていることはなぜかということで、理由を聞いているのが十九ページ目でございます。

 典型的なところとして、一つ目は、これは去年とことしなんですが、大きく数字が上がってしまっている、変化しているところがございます。

 一個目が、やはり二千万円問題といったこともあるのでしょうか、将来の年金不安というのが大きく拡大してしまっています。

 一方で、下から四つ目になります、消費税についてでございます。上がる前の去年の今ごろは、上がるから貯金にしておくということで、少し矛盾した形かもしれませんが、そういった声が聞かれたのに対して、その思い、不安感は鎮静化をしているということが注目をされると思います。

 つまり、長期的な不安である財政だったりとか年金、そういったことは長くセンチメントマインドに残るのですが、比較的短期的なところについてはマインドは変わりやすいということかなという仮説を持っておる次第です。

 そして、最後でございます。

 おめくりいただきまして、二十一ページ目になります。私の主に金融市場から見た中長期的な問題意識ということで、ここに書かせていただいています。

 一つ目は、今申し上げましたとおりの、社会全体のリスク回避志向ということでございます。個人の方は先ほど申し上げました。企業の方も、釈迦に説法ですが、どうしても内部留保にため込むということでありますが、今回取り入れていただきました税制の改正ということで、何らかの形でイノベーションに対しての投資が促進されることを期待したい次第でございます。

 それからもう一つ目、今の点にも絡むと思いますが、イノベーションの相対的なおくれと書かせていただいています。日本にもそれなりにあるということはさまざま聞いておりますが、一方で、アメリカとの格差が広がっているのではないかということを心配しています。

 ちょっと参考までに、次のページなんですけれども、マーケット的に拝見させていただきますと、イノベーションの市場活性化ということについて最近出たデータでございます。

 特に、ここの表題に書かせていただいていますが、過去九十年間、アメリカの市場ばかり上がって日本の市場がぱっとしないとよく言われますけれども、内訳を見ていますと、大抵のアメリカの銘柄は実は大したことがございません。むしろ、上位四%の銘柄が九十年間のダウの値上がりと配当分のほとんどを稼いでいます。つまり、GAFAですとかよく言われますが、そういったスター銘柄が稼いで上がってきていて活性化につながっているというのがアメリカということになります。

 だとしますと、二十一ページ目に一瞬、もう一度お戻りいただきますと、一つには、ひょっとしたら、ここにも書いてございます教育の課題ということがあるかもしれません。今回の予算でいただきました高等教育の一部無償化、こういったことは非常に効果を期待したいところでありますが、加えまして、ひょっとしたら、もっと早いうちからの教育の柔軟化、それには、予算ということに加えまして、何らかの制度の改革といったことも検討に値するのかなということを感じております。

 そして最後に、財政に対する個人のリスク認識の偏りと書かせていただいている点を述べさせていただいて、おしまいにしたいと思います。

 おめくりいただきまして、最後のページでございます。

 私も、個人にこういったお話をさせていただくときに、非常に悩ましい、難しいと思うのが、個人の正しい認識を促すことでございます。

 もちろん、先ほどごらんいただいたように、不安感といったお気持ちは持っているのだと思いますが、一方で、なかなか自分事として痛みを伴うようなことに対しては非常にネガティブに捉えられがちであると思っております。そして、時々、何年かに一度は、いや、財政についてはどんなに拡大しても結局大丈夫なんじゃないかといったような議論もいろいろなメディアで報じられるところであります。

 ということを踏まえまして、自分事としての理解ということ、そして、正確で、記憶に残りやすい数字ということを、我々もそうですし、心がけていかなければいけないのかと思っています。それが、拡散し広まっていくポイントになるかと思っています。

 そして最後に、エコーチェンバー現象、つまり、同じ人々の意見で凝り固まって増幅される、特にSNSなどの最近のメディアの特性もあり、こういった傾向を我々もよく感じるところでございます。

 それであれば、機会もあるということでありますが、一方で、そういったところに対しての発信ということを、さまざま健全化が必要であるということを訴えていく必要があるのではないかなということを感じております。

 いずれにいたしましても、これから先の日本の長い意味でのサステーナブルな将来の財政ということに関しまして、これからも期待をさせていただきたいと思っております。

 私の方からは以上にさせていただきたいと思います。御清聴ありがとうございました。(拍手)

棚橋委員長 ありがとうございました。

 次に、三木公述人にお願いいたします。

三木公述人 皆様、おはようございます。

 御紹介いただきました、NPO法人情報公開クリアリングハウスの理事長をしております三木と申します。きょうはよろしくお願いいたします。

 本日はこのような機会をいただきまして、大変感謝を申し上げております。

 私どもは、現在の法人となりましてから今年度で二十年、公的機関における情報公開、知る権利の問題に取り組んでまいりました。その前身から数えますと、今年度末で四十年、この問題に取り組んでございます。

 財政、予算を専門にしているわけではございませんが、財政、予算といいますのは、政府、国会の責任においてやっていらっしゃるということでございまして、その前提となります説明責任の問題、それはすなわち記録、公文書の問題を通じて達成されるものであるという観点から、きょうは意見を述べさせていただきたいと思います。

 初めに、お手元に資料を配らせていただきましたが、簡単なレジュメでございますが、私どもが最初に財政の問題について問題意識を強く、危機感を強く持たざるを得なくなったことをエピソードとしてお話をさせていただきたいと思います。

 それは、財政史と公文書の問題でございました。

 「昭和財政史」というのは、当時大蔵省、現在の財務省が公式な財政の歴史として編さんをして刊行しているものというものでございます。この財政史で、沖縄返還の章に不思議な引用文書があるという問題が以前から指摘をされてございました。

 資料の方に、注として、少し小さい字でございますが、その部分を引用してまいりましたけれども、注は通常、どのような文書を引用したのかという文書名がわかる形で引用するのが常識的な扱いでございます。しかし、一部の文書がファイル名のみしか書かれていないという問題がありまして、何の文書を引用したのかがわからないという引用が財政史の中にあるということで、専門家も含めてさまざまに問題を指摘する声がございました。

 それで、二〇〇六年に私どもの方で情報公開請求をしてみましたところ、廃棄済みで不存在という決定となりました。財政の歴史として財務省が公式に編さんをした文書の根拠となる行政文書が既にないということで、大変驚いたところでございます。

 これは、私どもが情報公開訴訟もしまして、争った結果わかったことであったんですけれども、財政史編さんのためには、関係行政部局から関連する行政文書を集めて、一旦編さんをし、それを用いて財政史を書いた後に、編さん終了後、また関係部署に返却をしているということでございました。返却後に保存期間満了ということで廃棄をしたので、現在はないということでございました。

 こうして、財政について重要な説明責任の機会でもある財政史の根拠がないということで、大変驚いたわけでございますし、それから、裁判所も、その点についてはやはり問題があるというふうに指摘をされたというところでございます。

 ちなみに、財政史に使われた行政文書に関しては、二〇一一年に公文書管理法が施行されて以来、歴史文書としての移管ということは決まりましたけれども、それ以前のものについては、歴史文書として残すということそのものをしていなかったということがわかったわけでございます。

 そうしますと、財政史のような公式な記録だけではなくて、一般的に、財政に関連するあるいは予算に関連する文書がどのように体系的に後世に残されていくのかということについても、やはり問題意識を持たなければいけないというふうに考えたところがございます。

 それで、予算の前提として考えるべきことということで申しますと、それは、政府の信頼性の問題であるというふうに思うわけでございます。

 昨今、公文書管理をめぐるさまざまな問題が問われておりまして、これは、公文書の問題ですとか政府の問題ということもあるんですが、基本的な部分での信頼性の問題だというふうに私どもは考えてございます。

 今問題になっているのは桜を見る会の問題でございますが、その少し前にありましたのが、調査データ問題というものがございました。働き方改革ですとか入管法の改正をめぐりまして、データに問題があるということで、そもそも政策の前提となっているデータそのものがおかしいという問題が指摘をされ、それが国会で初めて政策議論になって明らかにされるという問題があったということでございます。

 それから、毎月勤労統計がそうでございましたが、統計不正の問題があったということです。

 その前にさかのぼりますと、森友学園問題での公文書の改ざん、廃棄、隠蔽問題というものもございましたし、自衛隊の日報の廃棄、隠蔽問題というものもございました。

 こうした問題は、公文書管理の問題としても議論されてございますけれども、問われているのは、基本的には政府の信頼性の問題でございます。政府の活動を記録して根拠を持つということは、権限や立場に対する責任を明確にして仕事を行うということでございます。ここそのものが揺らいでいる、あるいはここそのものに問題があるということが、こうした問題を通じて実は問われていたということでございます。

 行政文書の扱いに問題が生じる、あるいは内容に問題が生じるということを、多くの人は、責任の回避とか根拠の創作というふうにやはり理解をせざるを得ないというところで問われていたということがございます。個別の問題は、現象としては大変政治的な問題として議論されますけれども、本質的な部分は、信頼性の問題、それから権限や立場に対する責任の明確性の問題ということであったということでございます。

 こうした議論の中で、やや行き違っていたというふうに思われますのが、手段と目的の問題であるというふうに考えてございます。

 公文書管理法や情報公開法というものがございます。これは、一般法として、行政文書を適切に管理し、その管理されている行政文書に対して広く何人にも請求権を認めて情報公開を進めるという法律でございます。これは政府が説明責任を全うするための手段として設けられているということで、この手段をどう機能させるかということが大変重要であるということでございます。

 手段が機能するために不可欠なものとして、やはり行政文書が適切に作成、保有されているということが重要である。この行政文書というものは、どのようなものが作成、保存されているかということは、実は政策立案や事業実施の質の問題であるというふうに思っております。単に行政文書がつくられていればいいということではなくて、行政が適切な政策立案や事務事業を行っていれば、おのずと文書の質もよくなるはずだという前提で実は考えるべきだろうというふうに考えています。

 この政策立案や業務プロセスの質というのは、権限のある者の責任が明確で、評価、検証が可能であるということが確保されているということが大前提だろうというふうに思うわけであります。

 先ほど個別の問題に触れましたけれども、例えば入管法の改正をめぐって、調査データに問題がある、アンケートの集計に問題があるということで、さまざまな問題が指摘されましたけれども、こうした問題というのは、そもそもの政策判断の質が問われているということであります。

 どのような根拠に基づいて政策判断をしているのか、政策立案をしているのか、その示した調査についてはどのような調査項目をもとに行ったものかという情報公開を基本的に行うとか、そういうことを、基本的な部分を欠いたまま政策を決めていく、あるいは、政策を体現していくために必要な予算を編成していくということ自体が大変問題があるということではないかというふうに考えてございます。

 それで、私どもは情報公開の問題に長く取り組んでございますけれども、次のところを見ていただきますと、私たちの実感としては、情報公開と公文書管理については、大変なジレンマを抱えながら、外から、私たちに必要な情報、政府に説明責任を全うしてほしいことを明らかにするための努力ということをしてまいりました。

 そのジレンマと申しますのは、市民というか私どもが情報公開を求める、あるいは情報を知りたいと思うときは、大体、行政機関への不信とか疑問とか問題意識とか、あるいは関心というものに基づいて情報を求めるという行為をいたします。一方で、その情報を求める先といいますのは、行政機関が行政文書を保有しており、その行政文書の作成や管理、それから情報公開請求をした場合に文書を特定するということや公開、非公開の判断というものは行政機関がみずから行うということになります。つまり、私たちにとってみると、関心や問題意識の対象に多くのことを委ねないと必要な情報が入手できない、あるいは自分たちが必要と思う情報があるかないかがわからないという状況でやってございます。

 ただし、情報公開、公文書管理は、政府の説明責任を全うするというだけではなくて、そういうことを通じて政府の信頼性を確保していくという一つのプロセスでもあります。ですので、実は、このジレンマを抱えながら、何とか前向きに、政府が信頼をされるように努力をする、私どもも、入手した情報をもとに政府によりよい政策判断や事業実施をしていただくということを、双方で努力をしないと実はうまく回らないというところがあるという仕組みであると思っています。

 今、このジレンマが負の方向に回ってしまっているということが大きな問題ではないかというふうに考えています。それを象徴する問題として、今の国会でずっと問題になっているのが桜を見る会問題ということでございます。

 これが、総理の主催の行事をどう記録するかという問題でも実はあるというところをもう少し議論をいただいた方がいいのかなと思っています。

 現在、招待者名簿があるかないかということは、行政文書との関係では大変問題になってございますけれども、少し考えてみますと、総理大臣が主催をした行事について、誰が参加をしたのかとか基本的なことが体系的に記録されていないということ自体が実は大変な問題であるということが言えるわけでございます。

 例えばということで申し上げますと、比較的資料を入手しやすいアメリカの情報自由法の利用のされ方とか記録管理のことをよく拝見するんですが、大統領の日程表というのがかなり詳細に残されていまして、それをずっと見ていきますと、一日、少ない日で数ページ、多いときは数十ページの記録が残されてございます。それを拝見しますと、夜に会合に参加しますと、出席者リストというのが一緒についてまいります。これが恐らく当然のこととして記録として残っているんだろうと思います。

 ですので、実際には、名簿を何年保存するかという問題ではなくて、本来は、総理大臣の主催した記録がどういうふうに体系的に残されて政治の記録としていくかということが問題なんだろうと思っております。

 それが、招待者名簿が一年未満で廃棄をされたということで、そもそも記録としての価値判断とか政府の責任とか政治の責任というものが今強く問われているということでございますし、それから、文書がない、廃棄をしたということによって説明責任を回避しているかのようなことが繰り広げられていることに対して、多くの人が不満を思うし、不信も思うということであります。こうした記録がないということが、実は政治的責任が実務レベルや現場レベルの責任に転嫁をされていくということになっていくわけでございます。

 本来政治が責任を果たす、説明責任を果たすべきことが、文書があるかないかとか廃棄したかということに関して言うと、政治レベルがみずから文書をつくって廃棄をするわけではないということでございますので、それを行った実務レベルの問題に転嫁をされてしまうということをこの間繰り返しているということが大変残念に思っておりますし、そこの問題をしっかり議論した上で、政治主導なり、それから政治がリーダーシップを持って予算なり財政なり政策を決めるという体制をつくっていただきたいというのが正直なところでございます。

 まとめますと、問題は政治レベルの問題であるということが言えるというふうに考えてございます。

 政治レベルと実務レベルというのは大変分けにくい概念ではございますけれども、かなり雑にまとめますと、政治レベルとしては、政務三役ですとか総理大臣、官房長官ですとか、これらを補佐する役割の者、あるいは各行政機関の幹部のような人たちは、これはかなり高いレベルで政策判断、意思判断をしているわけでございます。こういう人たちの日常が、あるいは活動が記録をされていくということがなければ、これは実務レベルが動かない、あるいは実務レベルが責任を持って記録を残すという体制になっていかない、結果的に責任の所在が曖昧になるということになります。今の問題だけではなくて、将来に向けてもやはり、今政策判断をする者が責任を負うという姿勢を明確にするということが大変重要ではないかというふうに思っております。

 参考までに申し上げますと、記録されない政治レベルということでこの間わかっていることを少し御紹介を申し上げます。

 私どもが大臣の日程表というものを情報公開請求しましたところ、即日廃棄か数日で廃棄ということで、日程そのものは廃棄をされて、なくなるというのが今の状況でございます。

 これは、私どもが毎日実は情報公開請求していまして、五月以降は廃棄ができていない状態で、各行政機関が持っているかと思います。ただし、日程表に関しては具体的な記録が欠落しておりまして、誰とお会いになったかとか、何のレクを受けたのかとか、そういうことが全く記録にないということでございますので、残されているからいいという話でもないということがわかってございます。

 それから、試しに大臣の執務記録のようなものがないかということで確認をしましたところ、未作成で不存在ということで、ないということでございました。

 それから、官邸訪問予約届というものがございますけれども、これも即日廃棄ということでございます。これも、私どもが毎日情報公開請求しておりまして、四月以降は廃棄ができていないかと思います。

 それから、総理や官房長官と省庁幹部との面談記録や資料が短期間で廃棄か記録がないということで、後ろをめくっていただきますと、これは毎日新聞の記事でございますけれども、実際に情報公開請求をして確認をしたところ、総理それから官房長官に内閣官房の幹部が面談をしたことについて記録が一件もないということでございますので、どのような報告をいつお知りになったのかということそのものが記録されないという仕組みに今なっているということでございます。

 結果的に、高い政治レベルになるほど記録がないという状態が今ございまして、それは言いかえると、権限や立場に応じた責任の明確化がなされていないということではないかというふうに思っております。

 最後に、私どもが日本の調査を担当しております財政透明性指数というものを御紹介して終わらせていただきたいと思います。

 これは世界百カ国以上が参加をして調査を行っているものでございます。アメリカに本部がありますNGOが中心になって行っておりまして、一方、お配りしました資料の方で、二〇一七年調査のサマリーをお配りいたしましたので、関心のある方はぜひごらんいただければと思います。これはOECDやIMFなどのつくった財政透明性に関する基準などをもとに調査項目をつくりまして、基本的には証拠があるものをもとに評価をするということで、文書ベースでの調査を行っているものでございます。

 この財政透明性の調査というのは大変おもしろい調査だというふうに私自身は参加して思ったところでございます。

 ちょっと見にくくて申しわけないんですが、一番最後を見ていただきますと、どういうプロセスについて評価をしているのかということを簡単なフローにまとめてございます。

 まず、事前予算説明書という予算の前提となるものをつくって、それを国会で審議をするかとか、市民が参加をして、それに対して何か言えるかどうかということがまずポイントになります。

 それから、予算案について、作成をするだけではなくて、国会の審議とか、あるいは国会において予算案についてどのような評価、検討を行ったのかという報告書をつくっているのかとか、そういうことが質問項目として入っているということでございます。

 それから、予算についても、年度内に予算の執行状況にどのような報告をしているかとか、あるいは年央見直しを行っているかとか。

 そして、決算、監査ということで、決算の国会での審議、監査、これは会計検査院ということになるかと思いますけれども、会計検査院についても独立的な点検が行われているのかということについて、それぞれ文書がつくられているかと同時に、文書をもってどのようにそれを検討、審議し、評価をしているのかということ、更に申し上げますと、それをどのようなタイミングで行っているのかということを一つ一つ確認をしてスコアにしていくというのがこの調査でございます。

 日本は二〇一七年調査から初めて参加をしまして、私どもで調査を担当して評価をしましたところ、最終的に、G7国の中では、透明性調査でいいますと一番スコアが低かったという結果になったということであります。

 この財政透明性の調査は、単に透明性があるかということだけではなくて、権限のある者たちが、適切に文書を持ち、文書を作成し、それに対して検討を行っているということを評価していくというプロセスでございまして、文書の公開が単なる公開ではなくて、それを生かす、生かして適切に責任を負うということを目的としているものでございます。

 最終的には、こういうプロセスを整理することによって、文書が作成をされ、その文書をもとに評価、検討することによって、更にそれが記録をされるという循環を財政においてもつくっていただくということが重要ではないか、これは政治の責任であるというふうに思っているところでございます。

 以上でございます。ありがとうございました。(拍手)

棚橋委員長 ありがとうございました。

 次に、大石公述人にお願いいたします。

大石公述人 おはようございます。御紹介いただきました大石でございます。

 私は、防災・減災、国土強靱化の視点から、強力なインフラ整備で防災力と我が国の競争力の強化を図っていただきたいというお話をさせていただきたいと思います。

 アフガニスタンで中村哲医師が亡くなりました。彼は、百の診療所よりも一つの用水路という発言をしています。医師としての使命を果たそうと思えば、診療所をつくるよりも、まず用水路をつくることによってよい水を供給する、そして農業を振興するということがなければアフガニスタンを救えない、このように感じたからであります。

 医師である彼がこのようなインフラについて言及したということでありますが、彼は、内村鑑三の「後世への最大遺物」というのを愛読していたと聞いています。

 内村鑑三は、この本の中で、人は生涯をかけて後世のために何を残していくのかということについて書いています。その中に、これは内村鑑三の言葉を使いますと、土木という言葉が出てくるんですが、土木を残していくことは後世のためにとってもいいことではないか、それをやろうではないか、だけれども、それはみんなができることではないねといったようなことを言っているんですけれども、これを参考にしながら中村先生はアフガニスタンで頑張っておられた。その志半ばでお亡くなりになった、こういうことでございます。

 これを前置きとさせていただきまして、インフラに関することを、まず、災害からお話をさせていただきたいと思います。

 もう先生方はよく御存じのとおり、近年、大きな災害が頻発いたしております。

 二〇一七年には九州北部豪雨、これは今までに記録がなかったような流木被害をもたらしました。こんなに流木が出てくるなんというようなことは想定されていませんでした。

 二〇一八年には、西日本豪雨で、岐阜県から鹿児島県に至る広域に総雨量が六百ミリという大変な豪雨がありまして、倉敷市の真備町など、各地で多くの死者を出す大災害となりました。

 昨年の、二〇一九年の十月の台風十九号では、本州の半分になるほどの超大型に発達した台風が東日本を襲い、広範囲に記録的な大雨を降らせて多くの命を奪うとともに、百四十カ所もの堤防が決壊し、水害を引き起こしました。

 しかし、幾ら大型とはいえ、一つの台風が豪雨をもたらしただけで百四十もの堤防が決壊したのは、これは、災害外力に対する防災インフラが不十分であったということを明確に示しています。長野県の千曲川や福島県の阿武隈川などでは、決壊が多発し、多数の死者を伴う大規模な洪水被害が発生してしまいました。

 しかし、南関東では、荒川や利根川はぎりぎり危ないところではありましたが、何とか持ちこたえることができました。それは、東京など首都圏を守るための防災インフラがその機能を発揮したからであります。

 例えば、神殿と言われた大空間の調圧水槽がロケ地などによく用いられて有名な首都圏外郭放水路は、中小河川からあふれ出した水を一時的に貯留し、江戸川に放水するものでありますが、完成後二度目のフル稼働により、下流での洪水を防止しました。これは、小学校の二十五メータープールの水をわずか一秒で放流することができるだけの能力を持っていますが、この能力がフルに発揮されたわけであります。

 また、八ツ場ダムは、本体が完成して試験湛水を行っているところでありましたが、七千五百万立米もの水をためて下流への流下を阻止しましたし、渡良瀬遊水地を始めとする遊水地群も大いに働き、合計二億五千万立米もの水を貯留いたしました。

 また、横浜の鶴見川の多目的遊水地も見事に機能し、何年かに一度の遊水地機能だけではもったいないということから多機能化していたのでありますが、昨年のラグビーワールドカップの日本対スコットランド戦は、ここが遊水地機能を発揮しているときに開催されたのであります。

 広域的に大豪雨をもたらした台風十九号でしたが、南関東、東京では、インフラ整備が洪水を防ぐ機能を発揮したのでありますが、残念ながら、千曲川や阿武隈川の流域では、それが不十分だったということであります。

 この十九号台風で留意したいことが一つございます。

 この台風が、一つには、狩野川台風コースを歩む、こう言われたように、現実に、伊豆半島の狩野川流域、例えば天城湯ケ島では総降雨七百十七・七ミリという、狩野川台風以上の豪雨を経験しました。

 ところが、沼津市などの下流部では、浸水はございましたが、死者が出るとか、大災害が出るというようなことはありませんでした。それは、当然ですけれども、狩野川放水路という放水路が機能して、本川下流への流量を大きくカットできたからであります。これは、昭和二十六年に着手したんだということをぜひ想起していただきたいと思います。

 昭和三十三年の狩野川台風には間に合わなかったのでありますが、多くの国民がまだ空腹を抱えている昭和二十六年に、後世のためにと大事業を始めたわけであります。今回の台風では、その機能を見事に発揮しました。これは、まさしく、内村鑑三の言うように、過去からの贈物であります。じゃ、我々は、後世への贈物をちゃんとやっているんだろうか、十分にやっているんだろうかとの反省があっていい、このように思います。

 なお、蛇足ですが、この狩野川台風の次の年、昭和三十四年の同じ九月二十一日に伊勢湾を襲う伊勢湾台風がやってきた、これは史上最大の台風被害をもたらした台風でありましたが、ということも想起しておきたいと思います。

 こうした、これは今、防災インフラの例を紹介いたしましたが、防災インフラが見事に機能したのですが、ここで申し上げるのもなんですが、残念なことに、日本の政治がインフラの重要性について語ることはほとんどありません。

 海外では、首脳がたびたびインフラ整備の重要性に言及しております。

 その一端を御紹介させていただきたいと思いますが、二〇一八年の一般教書演説で、トランプ大統領は、アメリカ経済には、安全で信頼性が高い近代的なインフラが必要であり、国民はそれを享受する権利がある、少なくとも一兆五千億ドルのインフラ投資法案を要請する、こういう演説をしています。

 また、ことしの予算教書では、トランプ大統領は、十年間で一兆ドルのインフラ投資を提案する、その内訳は、高速道路など陸上輸送プログラムへ八千百億ドル、高速通信などのインフラへ一千九百億ドルの投資をやる、こう言っているんですね。

 これは、先生方はよく御存じのとおり、ことしは一兆ドルを超える財政赤字が出ようとしているアメリカで、二十二兆ドルを超える累積債務があるアメリカが、しかし、強いアメリカをつくるためにはインフラ投資が必要だ、このような発言をしているということであります。

 前の大統領のオバマさんも、発言するたびにインフラに言及しておりましたし、ドイツのメルケル首相も、連立の三党合意文書の中でありますが、ドイツの競争力を保障するものは質の高い交通インフラであるということを言っています。カナダのトルドー首相も、イタリアの前首相のレンツィさんも、イギリスの元首相のキャメロンさんもインフラの重要性について述べ、キャメロンは、イギリスのインフラが二流になればイギリスが二流になるんだ、このような発言もしています。

 また、ごく最近でありますが、EUも、成長を後押しする分野への投資、つまり公共投資でありますが、これは赤字の算入基準の適用外とすべきだといったような議論を行っていて、財政投資、財政出動を催しております。

 我が国の財政制度等審議会は、着実な社会資本整備により我が国の社会インフラは概成しつつあるとの認識を繰り返し表明しています。しかし、我が国は着実な整備など行ってきておりません。また、この認識の方法が間違っていると私は思います。

 この二十五年間で、アメリカは公共投資を一・九倍に伸ばし、フランスは一・五倍、ドイツは一・四倍、韓国は二・五倍に伸ばしてきた中で、我が国は、何と、先進国の中で唯一下げ続け、〇・五七というレベルに落ちています。これは、防災インフラや交通インフラの整備の速度に大きな影響を与えています。

 例えば、道路、鉄道、港湾、空港などの交通インフラは一国の経済競争力と成長力を決定づけるものでありますが、これが概成したかどうかは、我が国が経済的に競争している先進国との間で比較優位を達成できたかどうかで判断できることなのであります。

 時速百三十キロで走ることができるアウトバーンを一万三千キロも持っているドイツと、一万二千キロ程度の高速道路、そのうち本当の意味での高速自動車国道は九千百キロでありますが、を持っており、正面衝突の危険がある対向二車線で時速七十キロしか走れない区間が供用延長の三七%にもなる国と比較して、我が国の高速道路が概成したなどと言えるはずがありません。

 また、世界最大級のコンテナ船が着岸できる十八メーター水深のコンテナバースは、横浜港にワンバースあるだけであります。これで、輸出大国だ、貿易立国だと言えるかどうかということであります。

 また、新幹線でいえば、ドイツ、フランス、中国では既にネットワークになっていますが、我が国では、いまだネットワークにすらなっておりません。

 こうやって見てみますと、陸上交通で、車による移動でドイツと比較してみますと、ドイツは一時間で行ける距離が九十五キロになります。九十五キロ先まで行くことができます。ところが、日本では六十キロ先までしか行けません。これを、百八十キロ先に行くという想定でいきますと、つまり、日本は三時間かかってしまうけれども、ドイツは二時間かからずに行けるということであります。

 労働者の労働時間がどちらの方が長くなるかは明らかでありまして、したがって、ドイツ人の年間労働時間は一千三百六十時間なのに、一人当たりGDPが四万四千七百ドル稼げているのに、日本人は一千七百時間も働いているのに、一人当たり名目GDPは三万八千四百ドルであります。国民の能力を発揮させるための環境整備ができていないと言ってもいいのではないか。

 防災インフラでいえば、凶暴化する豪雨などの自然災害に対抗できるインフラができているかどうかが概成基準であります。つまり、繰り返しですけれども、着実な社会資本整備から、これは実はやってきていないんですが、概成しつつあるという認識に至ることはできない。だけれども、このような認識を述べております。洪水などの自然災害の多発が、防災インフラが概成していないことの証明であります。

 我が国では、この三十年間に、一時間に百ミリという、先が見えないような、恐怖心を催すような雨でありますが、これの発生頻度が一・六倍にふえています。また、八十ミリという雨も一・七倍にふえていますが、何と、防災事業費は半減しているんです。防災事業費は、この間半減している。

 じゃ、もう達成できているからかというと、そうではありませんで、アメリカのミシシッピ川の下流域は、五百年に一度という低頻度の雨、低発生率の洪水に対して八〇%の堤防整備率なのに対して、我が国の荒川は、二百年に一度という頻発する洪水に対して、堤防整備率は七〇%であります。とてもじゃないが、概成しているということは言えない。

 インフラが概成しているかどうかは、我が国が競争している相手国との比較、あるいは我々が、自然災害インフラでいえば、自然災害に対する力をつけたかどうか、こういうことなのだと私は思っています。

 防災・減災、国土強靱化の事業は、三カ年で強化するということでしたから、この二〇二〇年までであります。三年で日本の国土が強靱化できるはずがないと考えています。また、首都直下地震や南海トラフ地震が迫っておりますし、東京湾での大高潮、荒川、淀川などでの巨大洪水の危険が増してきていると言えます。

 長期かつ大規模な強靱化のための交通、防災インフラなどの投資が不可欠だと私は考えております。それがまたデフレからの本格的な脱却につながるのではないか、このように考えているところでございます。

 先生方におかれましては、どうぞ事情を御賢察の上、御配慮くださるようお願い申し上げまして、私のプレゼンテーションとさせていただきます。

 ありがとうございました。(拍手)

棚橋委員長 ありがとうございました。

 次に、新里公述人にお願いいたします。

新里公述人 今御紹介いただきました新里でございます。

 本日、公聴会にお呼びいただきまして、発言の機会を与えていただいたことを、大変感謝申し上げます。

 私自身は、三十八年、仙台で弁護士を行っております。長らく多重債務の問題に取り組む中で、パチンコで借金を何度もつくって、仕事や家庭、そして最後は自分の命まで失う、そんな悲劇をずっと見てまいりました。

 カジノの解禁は国のあり方に極めて大きな影響があるということで、本日は、カジノの設置に反対の立場から意見を述べさせていただきます。

 二〇一八年七月、民間賭博であるカジノの設置を認める特定複合観光施設区域の整備法が成立いたしました。IR法又はカジノ解禁法と言っておりますけれども、私自身、この前の推進法のときも含めて、衆参で二度、内閣委員会で参考人としてもカジノ解禁に反対の立場で意見を述べさせていただきました。

 今般、あきもと元IR担当副大臣の、中国企業である500ドットコム社からの収賄容疑での逮捕、起訴を受け、もう一度カジノ解禁を問い直すべきと考えておるところでございます。

 私のレジュメを一枚あけていただきましょうか。

 じゃ、今、各地でどのような状況になっているのでしょうか。

 昨年八月の二十二日、横浜市長が山下埠頭への誘致を表明しました。二〇一七年七月の市長選挙では、林市長は誘致は白紙とのことで争点を回避しながら、今回表明したということになっています。ギャンブル依存症問題などから地元横浜港運協会及び市民の間に根強い反対があり、運動が起こっております。

 じゃ、横浜以外のことはどうなっているのかと申しますと、今、カジノの設置は三カ所ということになっております。アメリカのカジノ王と言われるサンズ社は、横浜の表明に合わせて、大阪ではなく東京、横浜に参入の意向を表明しました。大阪では夢洲、東京では青海、千葉、愛知、和歌山、長崎、北海道苫小牧という声が上がっていたところでございますけれども、北海道、千葉でもカジノ誘致を断念をしたということになっております。北海道では昨年の十一月の二十九日、そして千葉では一月の七日、後で述べますけれども、カジノ管理委員会が設置されたその日でございますけれども、断念を表明をしております。

 今回、元担当副大臣の収賄容疑での逮捕は、驚きとともに、またかという思いをしたところでございます。

 二〇一八年七月の十二日の週刊文春は、米国大手カジノ事業関係者が国会議員十五名のパーティー券購入リストについて、脱法献金と報道いたしました。

 今回の逮捕は、カジノ解禁は誰のためのものなのかを考え直す重要な事件だと考えます。海外から投資するカジノ業者、建設、ゲーム事業など、カジノ事業周辺では大きな利益をもたらすでしょう。二兆円以上とも言われている投資でございます。では、そこに暮らす住民、誘致自治体の利益になるのでしょうか。

 そして、カジノ解禁法の今後の予定でございます。

 七月の二十二日に成立をした。条文は二百五十一で、政令などへの委任が三百三十一と、べらぼうに多い法律でございました。そして、カジノ管理委員会は国会の同意人事ということでございましたけれども、選挙の影響を考えたのか、臨時国会へ回り、そして、昨年の十一月の二十九日、初代の委員長に元福岡高等検察庁検事長の北村氏が起用された。そして、述べましたように、一月の七日、カジノ管理委員会が設置をされております。

 一月末までに国が基本方針を策定をするんだと言われていましたけれども、逮捕の影響もあって、三月ないし四月にずれ込むと言われております。そして、自治体が事業者を公募、選定、立地自治体での議会での議決、そして二〇二一年一月から七月まで自治体が認定申請をするとされております。そして、二二年は国の認定、二四年には開業かとも言われております。

 ただ、カジノ管理委員会の規則、これがいろいろなことを規制をかけるわけですけれども、それがまだいつできるかがわからないというような状況でございます。ただ、大阪等では行動が進んでいるということになっております。

 大阪の動きをちょっと見ていただければと思いますけれども、既に募集要項の公表がなされております。そして、四月には提案審査書類の提出期限、そして六月に選定をして、七月には基本協定の締結だと言われております。

 では、次に、この法律の目的は何だったのでしょうか。

 この法律は、我が国の経済社会の活力の向上及び持続的発展を図るためには、国内外からの観光旅客の来訪及び滞在を促進することが一層重要となっていることに鑑み、健全なカジノ事業の収益を活用して特定複合観光施設区域の整備を推進することにより、魅力ある滞在型観光を実現するため、必要な事項を定め、もって観光及び地域経済の振興に寄与するとともに、財政の改善に資することを目的とすると言われております。公共政策としてのIRとの概念が唱えられているところでございます。

 では、公共政策としてのIRの自己矛盾があるのではないかと考えているところでございます。

 公共政策としてのIRとして、経済効果の増大が至上命題となっております。巨大な投資、そうすると、投資の回収のため、IRの収益エンジンであるカジノの売上げが不可欠でございます。面積三%で八〇%の売上げを上げると言われております。カジノ事業者の売上げの総体はカジノの負けでございます。カジノ利用者は、七、八割は日本人、日本人の金融資産一千八百兆円が狙われているのではないかと私は考えているところでございます。

 そして、では地域に金が落ちるんだろうか。カジノは囲い込みです。後で述べますけれども、コンプという景品を使って囲い込む。そうすると、地域に人が出てこないんです。よく、共食い、カニバリゼーションということを言われていますけれども、地域の疲弊につながるのではないか。私も二〇一五年に韓国の江原ランドの方に視察に行ってきましたけれども、そこでの周辺地域の疲弊というのは明らかなところでございました。子育てをする世代はそこには住めないよという声も聞きました。

 そして、三百二十万人と言われるギャンブル依存症の強化、治安の乱れ、暴力団のばっこ、これまで抑え込んできた暴力団がばっこするのではないかと言われております。

 そして、何よりも、莫大な経済効果があるよといいながら、じゃ、負の影響はどうしているんですかというと、全く試算されていない。地域によるものだから決まるまではわからないでしょうと言われて、経済効果だけがひとり歩きをしているのではないでしょうか。米国や韓国では、負の影響が利益を相当上回るという報告がきちっとなされております。

 そして、カジノ面積規制の緩和。これについても、取りまとめ当初は、絶対値である一万五千平米又は三%という基準が並立していたのですけれども、法案ができて、実際は三%の基準がとられている。これについては参入業者の意向があったのではないかと言われております。

 それから、海外からの観光客増加に私はカジノは不要だと思います。皆さんも、やはり政府の取組の中で海外からの観光客が非常にふえているということを実感をして、それがかえって、今回のコロナウイルスで観光客が減ったということで、経済効果が逆に下がっていると言われているところですけれども、日本では、二〇一〇年が八百六十一万人、二〇一八年では三千百十九万人、三・六二倍ふえております。二〇一〇年にカジノを解禁したシンガポールとよく比較されますけれども、カジノのない日本の方が増加が著しいということが明らかでございます。

 さらに、旅行・観光競争力報告書、二〇一九年九月、世界経済フォーラム作成でございますけれども、日本は世界四位。スペイン、フランス、ドイツに次いでおります。じゃ、シンガポールはどうですかというと、十七位。日本は一位となっております。

 それから、不十分きわまりない入場規制について述べさせていただきます。

 カジノは三百六十五日二十四時間営業でございます。これまで公営ギャンブルではなかったことでございます。そして、入場回数制限ですけれども、七日で三回、二十八日で十回、毎年百三十回と認めるものでございまして、ギャンブル依存症を拡大する基準ではないかと考えるところでございます。

 例えば、シンガポールでの賭博依存国家評議会による横断的なカウンセリング機能を持った回数制限等の基本的なギャンブル依存症対策もございません。後で述べますけれども、特定資金貸付業務を認めることから、負けた顧客に借金してまで賭博を推奨するもので、カジノ事業者がギャンブル依存症を続発させることを容認していると言えると思います。

 次に、まさしくこの特定資金貸付業務でございます。

 これまで、公営ギャンブルで事業者がお金を貸すということは認めておりません。また、貸付けは御法度だと言われているのではないでしょうか。時代劇の中でも、賭場で負けると、きょう、ついてないですねといって、じゃ、どうぞとお金を出す。よくあることじゃないですか。これがまさしくこのカジノで認められているんです。

 そして、更に言うと、貸金業規制法の適用も排除されております。

 貸金業法の改正は、二〇〇六年、国会の中で議論されて成立した法律でございまして、多重債務者対策で非常に機能しております。その中で、収入のうち三分の一の規制ということが非常に大きな力になっておりました。しかし、それがないんです。どういうことかというと、高齢者の方が、収入はないけれども資産がある、その方に大量にお金を貸して、そして負けさせる、それができるのではないか。それの規制をするのがカジノ管理委員会規則ですけれども、まだそれができておりません。どういう内容になるかがわかっていない、その中で事実が進んでいるということでございます。

 それから、コンプ、カジノ行為関連景品類への規制。

 これについては、コンプというのは何かというと、ここに書きましたけれども、コンプリメンタリー、無料という意味だそうですけれども、カジノへのゲームに費やした金額や時間に応じて割引特典、無料特典が受けられるサービスと言われています。コンプの仕組みが集客力、カジノに関心のない者をカジノに誘導すると言われております。

 これについても、法律の中で景表法の適用が除外されております。景表法は四条で、景品は価額の十分の二とされておりますが、これをさせないということは、どこまで景品をつけることになるのか、これもわからない。これも管理委員会規則のことですけれども、まだ決まっていないということでございます。

 それから、新聞報道でしたけれども、カジノ所得課税が進むかという議論が報道されておりました。

 カジノを含む統合型リゾートで、利用者から、カジノで得た利益に課税するという政府案が示されたというふうに報道されておりました。課税案には、利用者ごとの入場時のチップ購入額と退場時の換金額に加え、個々のゲームの勝ち負けの記録を事業者が保存し、利用者に提供、申告してもらう仕組み、訪日観光客に関しては、出国すると税務調査が事実上困難になることから、源泉徴収を導入することも検討すると言われておりました。

 財務省に、これも報道ベースですけれども、米国や韓国でも、カジノ所得に対する源泉徴収の仕組みが採用されていると言われていました。しかし、これについても自民党の先生の方から懸念が出されて、明記が盛り込まれなかったというふうに言われております。

 それから、区域整備計画の認定失効による解除。

 これは国会の中でも議論がされているようですけれども、例えば大阪府では、今、区域実施方針等に基づいて、募集要項の公表がなされています。その中で、第十、事業継続が困難となった場合における設置に関する事項、二で「協定解除事由と解除時の取扱い」として、「(三)区域整備計画の認定の失効による解除」として、大阪府が認定の申請を行わない場合の補償の規定が、事業者に補償しなければならないという規定が盛り込まれております。

 この点は、首長がかわり、議会の構成が変わって、これはまずいよねといってIRを拒否すると、補償を行わなければならない。まさしく、一回協定を結んでしまうと後戻りができないという規定が盛り込まれております。

 日本では、これまで民間カジノは解禁されておりません。賭博禁止の、違法性阻却を、法務省が基準を出して議論してきたところでございます。

 これまでの法務省の違法性阻却は八要件だと言われています。目的の公益性、収益の使途が公益性のあるものに限ることを含む。運営主体の性格、官又はそれに準ずる団体に限る。収益の扱い、業務委託を受けた民間団体の不当な利潤を得ないようにするなど。射幸性の程度。運営主体の廉潔性、前科者の排除など。運営主体への公的監督。運営主体の健全性。副次的弊害、青少年への不当な影響などの防止等に着目し、意見を述べてきたところであり、カジノ規制のあり方についても同様であるとされております。この八要件から、民間賭博を法務省は認めてこなかったのでございます。

 では、このカジノ実施法で違法性が阻却されるのか。

 目的の公益性。繰り返しになりますけれども、収益の使途が公益性のあるものに限ることを含むとされております。今回の実施法では、カジノ収益が国際観光の収益エンジンであり、納付金三〇%が公益目的に使われることから、目的の公益性を満たすとされております。

 そもそも、先ほど述べたように、収益エンジンには疑問が出ていること、納付金三〇%を除く部分でカジノ事業者に多くの利益が確保され、参入カジノ事業者の株主に多額の配当が用意されることが、これまでの目的の公益性を大きく逸脱するのではないでしょうか。

 それから、射幸性の程度、副次的被害の除去。これも、繰り返しになるかもしれませんけれども、貸金業の適用除外をして総量規制を外した中で、借りさせてカジノを行う。これについても、これまでの射幸性の程度、副次的被害を大きく逸脱する、違法性阻却にならないのではないかと考えるところでございます。

 これまで述べてきましたように、カジノ参入事業者の意向から規制が骨抜きになっていないでしょうか。

 面積規制しかり、入場規制、所得課税、特定資金貸付け、コンプ規制、全てが規制緩和の方向で、世界最高のカジノ規制は実現されていないと言うべきでございます。

 そこに、参入事業者の金が政治家に渡り、規制をゆがめられたとすると、ゆゆしき事態ではないでしょうか。

 世論の動向でございます。

 本年二月実施の時事通信の世論調査で、カジノを含む統合型リゾート、IRの国内誘致について聞いたところ、反対が六二・四%、賛成が二二・八%と、大きく反対が上回っております。

 私は、人の不幸、命の問題、このカジノビジネスで日本が発展を図る必要は全くないと考えております。

 IR法の廃止をぜひ御検討を実施していただきたいと思い、これで私の発言を終わらせていただきます。(拍手)

棚橋委員長 ありがとうございました。

    ―――――――――――――

棚橋委員長 これより公述人に対する質疑を行います。

 質疑の申出がありますので、順次これを許します。奥野信亮君。

奥野(信)委員 自由民主党の奥野信亮でございます。

 きょうは、四名の公述人の御意見を聞かせていただきまして、大変気持ちを新たにした部分もあるし、ううん、ちょっと待てよというところもありました。

 それはそれとして、今、世の中を見ると、社会の変化のスピードが物すごい速いんですよね。私は実は二〇〇〇年前後に民間企業の社長、会長をしておりまして、そのときから比べると世の中が随分変わっています。しかし、アメリカに比べると全く、変化のスピードが全然違うというふうに聞いているわけですけれども、多分大方の公述人の方々もその考え方には賛同していただけると思います。その結果として、社会、あるいは経済界、金融界など、おのおのの業界もその変化にまだついていっていない、理想とするべき変化を求めて、変化が必ずしもスピーディーにいっていないというふうに感じるんです。

 特にその変化がおくれているという感じがするのが政治じゃないかな、私はそう思っております。もっと政治家も勉強をして、世界各国はこんなに進んでいるんだぞということを勉強した上で、日本の政治、社会のありようを考え直す必要があるのではないかなというふうに思うわけであります。そういう見方をすると多分野党の方も賛成していただけると思いますが、その延長線上に憲法もあるということだけ、一言つけ加えさせていただきたいと思います。

 そして、新しいものにチャレンジして、サステーナブルな新しい考え方をつくって実行していかないと、更に世界から置いてきぼりを食ってしまうんじゃないかなというような感じがしております。

 そんな中から、許される時間の中で質問をさせていただきたいと思いますけれども、大槻さん、いろいろ事実を引っ張り出していただいたことに対しては感心をしました。

 ちょっと一つお聞きしたいのは、多分、スタンスとしては、国債、債務ですね、政府債務というのは余りふやすものじゃないぞという意識がその中にあると思います。

 しかし、今、日本の国の中では、政府債務なんというのはどんどんふやしていけばいいんだと言う人もいるんですよ。これはよしあしは別にして、私は何も言いませんが、そういう見方をする人たちに言わせると、租税の徴収権は国にある、あるいは通貨発行権も国にある、自国通貨建てだよ、モデレートな国債の発行をしていく限りにおいてはハイパーインフレも回避できる、だからじゃんじゃん発行して、必要なときには発行して、そのお金をうまく使っていけばいいじゃないか、こう言っているやから、やからじゃないよね、グループがあるわけ。(発言する者あり)いや、別に野党のことを言っていないよ。

 そういう人たちもいるんだけれども、その見方に対して、大槻さんはいかがお考えですかというのが最初の質問であります。

大槻公述人 御指摘、御質問、ありがとうございました。

 私も昔、格付会社というところにおりまして、大分そのディスカッションというので攻められた経験もございます。今もそういった風潮があるというのが、先ほどの最後の方に言ったエコーチェンバー現象ということで、皆さん、そういうところの方々はそういうところの人々の意見だけを聞いて増幅されているということが問題かなと思っております。

 御指摘の点、御質問の点に戻りますと、個人的にはやはり、確かに、今々のところで、数年の単位でもって、財政が破綻して大変なことになる、金利もがんと上がってしまうと、オーバーシュートするようなことがあるというふうには全く考えてございません。

 ただ、こういった形で債務を膨張させていくことによって、次にとれるステップが明らかに少なくなっていくということを気にしております。

 先ほど中国の例も挙げましたし、ドイツも、ここへ来て、今まで財政の健全化を図っていたところから、少し財政出動のような話も出ていますが、いずれも、日本に比べるとやはり余裕があるからこそ、こういった、今私の方でお話しした、クライシスかもしれないようなことが起こったときに備えができるということだと思っております。

 債務はどこまでいっても大丈夫だということが、もちろん日本じゅう、世界じゅうの国債の投資家が思うのであれば、それが果てしなくいけるのかもしれませんが、そうでないという現状を考えると、いざというときのバッファーとして使えるお金に対してどんどん制約が出てくるという意味で、御指摘いただいた国債については、ずっと減らしていくということを、いつまでの時点でやるべきというところについては議論が分かれるかもしれませんが、方向性としては、健全化を図り、一定の枠内でやっていくということを支持したいと思っております。

 ありがとうございます。

奥野(信)委員 そこにもっと数字的な目標が出てくると経済学者としては丸だろうと思うけれども、今のようなコメントは評論家ですよね。ぜひ頑張ってください。

 現在の日本の政府の目標というのは、GDPで二%上げようじゃないか、実質で二%上げようと言っているわけですけれども、どうもなかなか上がらないし、この間の十―十二月の実質GDPの伸びを見ても、マイナス六・三%かな、年率で、そういうことですから。その上に、今度の新型コロナウイルスの話が出てきて、中国人が来なくなっちゃっている。その影響というのも、後、大きな影響が出てくると思うんですけれども。

 やはりこういう機会には、ふんだんに金を使えとは言いませんが、そういうことも考えて経済対策を打っていかなくちゃいけないんだろうけれども、やはり用意した金がうまく回るようにしていくためには、特に社会保障の領域なんかでは多いんですけれども、もっとマイナンバーを使ったらいいじゃないか、私はそう思っています。

 例えば健康保険証がやり玉に上がっていますけれども、もっとビッグデータで、所得を全部管理しちゃうとか、ちょっと表現が悪いかな、うまく使って個人の収入というものを把握するということも一つだろうし、免許証もその中に入れたらいいじゃないかとか、そんなようなことも含めてマイナンバーカードをうまく使っていくことがお金の効率的運用にはうまく使えるんだぞということは、もっともっと国民が理解しなくちゃいけないと思うんですけれども、その辺についての考え方があったら、述べてください。

大槻公述人 厳しい御指摘、ありがとうございます。

 私、マクロ経済の方全体で見ているものではございませんでして、金融の面なので、そういったところについては、おっしゃるとおり勉強したいと思っております。

 マイナンバーについてですけれども、私も全く同様の考えを持っています。保険証であるとか診察券についての議論というのは聞いておりますけれども、加えまして、結局、皆さんのポケットの中に入っている全てのクレジットカードですとか、社員証、民間のものであればそういったところも含めて、全ては自分が自分であることの証明をしているわけでありまして、それであればマイナンバーカードということが一番近い道であろうと思っておりますし、あと、今、規制改革等推進委員会もやらせていただいていますが、その中のデジタルガバメントの議論の中でも御指摘いただいたとおり、データをどういった形で活用していくかという観点で、マイナンバーの活用というのは重要だと思っています。

 今の一四%という利用率ということについては、おっしゃっていただいたように、やはり民間の方になかなかプラス効果が全く見えていないので、そこら辺の宣伝効果、そして、今回用意されるという二五%、マックス五千円というベネフィットがこれから提示されるということをどこまでアピールできるかなというふうに考えております。

奥野(信)委員 もう一人やはり質問しなくちゃいけないと思うんですが、実は大槻さんには、あなたが総理大臣だったら今何をステアリング、切るべきかと聞こうと思ったんだけれども、これはやめます。

 三木さん、私は民間企業で仕事をしていたというのはさっき申し上げたんだけれども、この世界へ入ってみて、公文書管理というのが全くなされていなかった、私がこの世界へ来たときに、そういうことを感じていたんですけれども、数年前に公文書管理法というのができて随分進んだやに見えたんですけれども、実態上は余り進んでいないというのが事実じゃないかなと私は思うんです。野党だけしか拍手してくれないけれども。民間企業と比べても、公文書というか、議事録のつくり方からして余り上手じゃないんです、この世界は。

 そういう意味で、やはりもっとあなた方のような公文書管理について一家言ある人たちは積極的に前へ出てきて、そしていろいろと指導してもらった方がいいような気がするんですけれども、何かその辺について、やってやろうというような意気込みがあったら言ってください。

三木公述人 ありがとうございます。叱咤激励とも受けとめさせていただきました。

 公文書管理は、情報公開法ができて今の形態ができまして、二〇一一年に公文書管理法が施行されまして法定化されたというのが経緯でございます。

 情報公開、公文書管理の問題をやっておりまして大変難しいなと思いますのは、制度をつくるということとそれがうまく機能するということが大分分かれているということでございます。法律で原則を書いてもそれをどう機能させるかというのが行政組織の中の問題になってくるというところで、私どもは外におりますので、外から中を見る努力をして、それに対して新しい制度をつくるとか新しく改正をするというだけではなくて、いかに既存のものを使ってうまく機能させるかということも考えながら、さまざまな提案とか、できることはやってきているつもりではございますけれども、なかなか力が及んでいないところがございまして、引き続き努力を続けたいと思っております。

 ありがとうございます。

奥野(信)委員 期待していますから、せっせとやってください。

 それから、大石さん、大石先生は建設省ですね。

 私は、今やはり日本のいろいろな施設というのが、道路を含め、橋を含め、いろいろなものがもう四十年以上たってそろそろ何とか手を入れなくちゃいけない大事なタイミングに来ていると思うんですけれども、相当、それを一斉にやろうと思ったら人もいなけりゃ金もないということですけれども、どういう順繰りでやっていきゃいいのかというようなことについてももっといろいろと示唆していただいた方が政治が動きやすくなるんじゃないかなという気がするんですけれども、何か意見があったら、ぜひおっしゃっていただきたいと思います。

大石公述人 ありがとうございます。

 御指摘がございましたように、既存のインフラも相当のストック量になってきていますから、これをどのように次の世代に引き継いでいくのかというのが、整備していくのと同様に極めて重要な課題であり、いろいろな分野の技術をこの世界に持ち込んで、今ITだとかAIだとかという技術が相当進歩していますので、公物管理の世界に持ち込めるんじゃないかといったようなことも研究していこうと考えています。(奥野(信)委員「どういう順番がいいですか」と呼ぶ)順番ですか。これはどちらが優先ということはないと思いますね。

 だから、もう管理できないから外してしまえばいいみたいなことをおっしゃる方もいますが、それを外すと確実にGDPが下がります。そうすると、GDPを維持しながら、かつ成長させながらということになると、これは簡単な問題ではないと思います。だけれども、維持も図りながら、しかし足らざるは補っていくということも必要で、イコールのウエートなのではないかと言うと、答えになっていないとお叱りを受けると思いますが。

奥野(信)委員 ありがとうございました。

棚橋委員長 奥野信亮君、恐縮ですが、申合せの時間が。

奥野(信)委員 新里さんに質問できなくて申しわけありませんでした。

 これで私の質問を終わらせていただきます。ありがとうございました。

棚橋委員長 次に、濱村進君。

濱村委員 おはようございます。公明党の濱村進でございます。

 四人の公述人の皆様、貴重な御意見を賜りまして、ありがとうございます。

 まず、大槻さんには、世界の金融市場、金融アナリストでございますので、金融市場についてお述べいただいたわけでございます。

 三木さんにおかれましては、情報公開について。公文書管理法、私も、二〇一八年に与党のワーキングチームで公文書管理に対しまして報告書を提出する際にさまざまかかわった者として、今の状態については決して満足しているわけではない、問題意識を共有するわけでございますけれども、まだまだこれから練度を高めていっていただきたいということで、役所の皆さんには期待をしている者の一人であります。

 そしてまた、きょう大石さんには、防災、減災、あるいはインフラ投資についてお聞かせいただきました。ありがとうございます。

 新里さん、内閣委員会の際にもお世話になりましたけれども、今般もまた、IRについてお述べいただいたわけでございます。

 まず冒頭、私、災害対策特別委員会にも所属している者でございますが、ちょっと防災、減災に関連いたしまして、大石先生にお伺いしたいと思います。

 今、防災・減災、国土強靱化のための三カ年緊急対策ということでやっているわけでございますけれども、昨年も非常に大きな災害があって、その中から、もとどおり直していると、また同じことが起きると同じ被害に遭ってしまうということで、そうであってはいけないだろうということで、改良復旧もしていかなきゃいけないだろうという議論が非常に多く上がってきておりまして、私も災害の現場に何度か行きましたところ、やはり改良復旧を進めたいというようなことを首長さんからもおっしゃっていただいたわけでございます。

 しかしながら、この改良復旧は、今の現状でありますと、制約がかかっていたりします。もとの工事に対してそれ以上上回ってはいけないとかというような制約がかかっていたりするわけでございますけれども、こうした考え方について大きく見直していかなければいけない時期に来ているんだと思っておりますけれども、大石先生のお考えをお聞かせください。

大石公述人 ありがとうございます。

 災害復旧ですから、復旧だというのが基本的な考え方でずっとやってまいりましたが、今先生から御指摘ございましたように、単にもとに戻すだけじゃまた同じ被災を受けてしまうんじゃないかといったようなことから、更に改良的な災害復旧があるべきだという議論が今各地で起こっていることは承知しております。

 国土交通省もそういう考え方をもっと取り入れていこうという方向で議論していると聞いておりますが、先生の御指摘のとおり、単にもとに戻すだけじゃなくて、本来の機能は何なのかといったような物の見方が重要だと私も考えています。

濱村委員 ありがとうございます。

 機能がどうであるべきなのか、ここに対してしっかり見詰めた上で、どういう要件を満たせばよいのかとかというような制度設計をこれから国土交通省にしていっていただくということであろうと私も思っております。

 さらに、もう一点お伺いしたいなと思うわけですが、今いろいろきょうの意見についてもお述べいただいたわけでございますが、財政についての考え方も少しお述べいただきたいなというふうに思っております。

 そもそも、建設国債を発行してしっかりインフラ投資を行っていくこと、私も非常に重要であると思っておりますけれども、これはストック効果というようなことも考えれば、後世にしっかりと受け継いでいく、後世への贈物というようなこともお述べいただいておるわけでございますけれども、こうした考え方からも、今、財政をしっかり出していきながら、もっと言うと、デフレの中ではなかなか民間が投資するというわけにはなりませんから、公共事業でしっかりと投資を行っていくということ、そしてまた、それによって乗数効果が上がっていくということが期待されるわけでございますけれども、今そうなってはいないんじゃないかというところも問題意識を持っております。

 こうした観点からも、財政に対する考え方、先生のお考えをもう少しお聞かせいただければと思います。

大石公述人 ありがとうございます。

 私の話の中でも紹介させていただきましたが、なぜ各国の首脳がインフラ整備についてこれだけ熱心な発言を続けているのか。彼らは、競争力の確保と経済成長のためにという言葉がついているんですね。経済成長しなければ税収は伸びませんから、そういう方向でインフラを考えているということは当然のことでありまして、我が国も、これはストックの効果として、そのような方向を目指すべきだというように思います。

 先生が今おっしゃいましたように、この国はデフレから脱却し切れたという状況ではありませんから、当然のことながら、内需の拡大が必要であります。公共事業は、大きい意味で公的固定資本形成は消費側のGDPの重要な構成要素ですから、これをふやしていくということはGDPが伸びるということでもありますし、デフレは民間がお金を使わないという状況ですから、これは政府がお金を使わなければなりません。政府まで節約していたのでは、デフレからは絶対に脱却できません。

 というような意味でいうと、それこそ後世に残るような、後世の人々が豊かに安全に暮らせるようなものを残していくということが、フローの意味でも今極めて大事だ、デフレだから極めて大事だと思いますし、ストックを構成するというその目的も果たせる、このように考えておりますので、私は、今この国はインフラ投資に積極的であるべきだ、こう考えています。

濱村委員 ありがとうございます。全く同感でございます。

 さらに、今、もう少しお述べいただきたい点について申し上げると、乗数効果の点でございます。

 なかなか、今、乗数効果については、民間の試算においてはしっかり提示をされているものもあれば、政府は少し抑制的に出ているようにも見えます。本来であれば、乗数効果というもの、どのようなことが期待されて、このような効果があるということを大石先生のお言葉でちょっとお述べいただければと思うので、よろしくお願いいたします。

大石公述人 先生御指摘のとおり、民間が発表しております乗数効果よりも政府が発表している乗数効果の方がかなり低いんですね。これは、私から見るとちょっとおかしいのではないかというような気もするんですが、御指摘のように、民間が設備投資をしないときに公共投資は乗数効果が大きくなるのは当然であります。

 したがって、民間が言っているような乗数効果があるということを前提に、経済を刺激し、内需を拡大するために今やれることは何なのかを考えると、一番わかりやすい方法の一つがインフラ投資ではないかというように思っております。

 本来はストックを目指すものですから、余り乗数効果、乗数効果とは言いたくないんですけれども、乗数効果がある、デフレのときは乗数効果が大きいというのも事実でありますので、それも強調させていただきたいと思います。

濱村委員 ありがとうございました。

 先ほど大石先生からも、しっかり政府が財政を出していくべきだということで、財政支出をしっかりやるべきだという話がございました。

 次に、ちょっと大槻先生にお伺いしたいんですが、きょうの資料の中にも、冒頭、世界で債務残高はふえていて、政府セクターで増加していますねということでございます。

 これは、世界の市場の中で見てみれば、どのような用途で何に投資しているのか。インフラ投資についてもされていると思うんですけれども、どんな状況であるのか御存じであれば、教えていただければと思います。

大槻公述人 ありがとうございます。

 私の方の資料で、三ページ目でお示しさせていただきました債務の増加ということでありますけれども、まず、政府の方は、先ほど申し上げたような、特にリーマン・ショックの後の増加が非常に激しかったことを勘案しますと、中身的に一番大きいものとしては、金融機関に対しての支援でございます。金融機関が、一旦、資本が不良債権の拡大でもって毀損しましたので、アメリカそれからヨーロッパ、相次いで百兆円単位の枠を当時設けましたので、そういったところで大きく膨らんだということであります。

 その後は、新興国の方のインフラなどの、民間の方も相応にふえております。企業の方では、やはり、おっしゃっていただいたインフラ投資。それから、家計の方は住宅ですね。圧倒的にやはり住宅に対する融資が、ここでごらんいただきましても大体二割以上はふえているという形で、これがひいては先ほど申し上げたような世界的な資産インフレを生んでいる源泉となっているなという感じがしています。

濱村委員 ありがとうございます。

 家計において、住宅に対する融資もふえているという話でございますけれども、これは非常に重要なことだとは思うんですけれども、日本でも今、当然、金利が非常に低い状況ですから、住宅投資はふえていくのではないかといいながらも、一方で家が余っている状況。これは、中国の数字も引き合いに出されながら、空き家の数は非常に大きくなっている、これは世界的な傾向なのかどうか。

 この点と、もう一つ、最後に余剰資金についてですね。

 日本だけではなくて米国でもふえております。これについては、米国での世論であったり、政策をどのようにとられようとしているのか、こうした議論についてはどのようなものがあるのか、お聞かせいただければと思います。

大槻公述人 ありがとうございます。

 まず、私の資料で申し上げると九ページ目だと思いますけれども、空き家のところでございます。

 これは地方の問題といたしましては相当深刻な問題だと思っておりますが、ただ、最近、直近のところですと、意外とこれがふえなかったということが少し話題になっております。一つには、さまざまな形で工夫をして、資金を、例えばクラウドファンディングですとかで集めて、再生するという動きが多少なりとも出てきたことが恐らくは功を奏しているんだと思います。

 ただ、まだまだこれについてはやるべきことというのが大きくあると思いますし、個人的にはやはりお金をどうやってつけていくかだと思います。金融機関が、こういった、なかなか地方で人口がふえないところに対しての資金をそう簡単に供給してくれないというところをどうやって埋めていくのか。これは、地域金融機関、地方銀行のマイナス金利下での経営に関する課題というところも関係してきているのかなと思って、ここは私も注視しているところです。

 それから、余剰資金の吸収のところでございます。特にアメリカであると思いますが、アメリカの場合は、少し金利を下げまして、同時に資金の吸収ということも機動的にやっておりまして、以前言われていたよりも、ことし、やや早くに資金の吸収をするというふうにFRBが言い始めてございますので、そういう意味では、資金の預貸ギャップあるいは資金のじゃぶじゃぶ感というのは、日本よりはややコントロールができているのかと思っております。

 ありがとうございます。

濱村委員 ありがとうございました。非常に貴重な御意見を伺うことができました。

 四人の先生方全てに御質問できず、申しわけございません。

 ありがとうございました。以上で質問を終わります。

棚橋委員長 次に、小川淳也君。

小川委員 野党会派の小川淳也と申します。

 きょうは、先生方、ありがとうございます。

 まず、私ども会派推薦の三木先生にお尋ねしたいと思います。

 政治レベルの問題を現場に押しつけている、つまり、言葉をかえれば、官僚の責任に転嫁しているという本質を射抜いた御発言、大変共感するところ大でございます。

 加えて、毎日情報請求されているという、毎日素振りしているというか、大変なこれは御努力であり、積み重ねだなと、心から敬意の気持ちです。

 端的にお尋ねします。

 公文書管理法ができて、それから森友事件というこの衝撃的な事件があって、ガイドラインが整って、器は整いつつあるような気がしますが、事態は悪化しているんじゃないかという気がしています。

 端的に、森友事件以降、事態はよくなっているか悪化しているか、その御認識、お聞きしたいと思います。

三木公述人 ありがとうございます。

 体感としましては、よくなっていないというのが率直なところです。

 確かに、行政文書管理ガイドラインの改正を行いましたし、一部、前向きな改正もあったことは事実でございますけれども、むしろ、文書の作成に当たって、より管理が行き届く、内容についても管理が行き届く改正を結果的にしておりまして、そうしますと、先ほど申し上げた、政治レベルの記録がない中で、管理が行き届いた文書の作成を実務レベルがなさるということになりますと、より政治を見た記録にならざるを得ないというのが現状ではないかということで、そこを大変懸念しております。

小川委員 ありがとうございます。

 結局、やはり政権の意向が大事ですよね。政権が出せと言えば出すはずですし、恐らく出すなと言っているから出せなくなっているという構図で、器はできているのに、むしろそれを悪用しているというのか、悪い解釈をして無理やり都合のいいように処理しているように受けとめています。

 これはお答えになれればお答えいただきたいんですが、この間さんざん予算委員会で議論になった一つの具体例として、桜の会をめぐる問題について、推薦者名簿から、真の推薦者たる総理推薦、内閣総務官室という言葉が白く塗られて出てきた、これもちょっと私ども衝撃でした。

 つまり、黒であれば、何かがあったことはわかるんです。白で塗られると、もはや、あったのかなかったのかもわからないんです。これを担当大臣は、新たな公文書の作成だと定義しています。私ども、とても認められない。ただ、野党が言っても思惑含みでどうしてもとられる。

 ちょっと専門家のお立場から、これは新たな公文書という解釈がなし得るか、なし得ないか、御答弁いただけるようであれば、お願いしたいと思います。

三木公述人 白抜きをしたものを新たな公文書といたしますと、情報公開請求をして、黒塗りになったものも新たな公文書になってしまうということでございまして、論理矛盾をしていると私は理解をしてございます。

小川委員 はっきり御答弁いただいて、ありがとうございました。言われてみれば、そうですね。白だろうと黒だろうと関係ないですね。はっきりおっしゃっていただいて、ありがとうございます。

 運用が改悪されているという意味で、ちょっと細かな、御存じであればで結構です。

 私が問題視している法解釈の論点が二つありまして、一つは、実は公文書の取得日時って、政令で翌年度の四月一日と決まっているんです、全ての公文書について。例外はあってもいいという記述があるんです。ところが、その例外は何だと公文書管理法施行令の逐条解説を読みますと、暦年管理している事業、つまり一月から十二月で事業年度を管理している事業、それから、四月―三月の通例事業年度以外の月例をもって事業年度としているもの、例えば九月から八月については、翌年度の四月一日じゃなくていいと書いています。これ以外の記述は一切ないんです。

 ところが、なぜ、例えば桜の会について言えば、四月に取得したもの、実行したものを五月に捨てられるのか。本来、取得日は翌年度の四月一日なんですね。たとえ保存期間は一年未満であってもです。なぜこれを五月一日にしているかというと、役所が、あえて言います、勝手に、一年未満の文書は、そのつくった日を取得日、起算日としていいという例外的な内部通知を発しているんです。これも、まさに法律に書いていないことを勝手にやっている。大変脱法的な行為だと私は憤っています。これが一点。

 それからもう一点は、もう国会でもさんざん議論になっているんですが、あらゆる不都合なものを、日程表同等だと。まさにいみじくもおっしゃった、その点、実はきのう議論したんですが、誰を招待したかって、事業の核心なんですよね。それなくして、この事業の定義も輪郭も解釈も成り立たないんです。ですから、事業の本体を廃棄しているに等しい。にもかかわらず、日程表同等だというあり得ない解釈で、無理やりごみ箱にぶち込んでいるんです。

 このあり得ない解釈、あり得ない解釈通知、もし具体的に御存じでしたら知見に照らしてお答えいただきたいですし、そうでなくても、今指摘した見解に対しての、少し、日ごろ取り組んでおられる観点から御答弁お願いしたいと思います。

三木公述人 先ほど最初に御質問いただきましたのが保存期間の起算日ということになるかと思うんですが、公文書管理法の基本的な考え方として、有期限というか、一年以上の保存期間については、起算日を決めて、そこから一年とか三年とかというふうに決めるということで、その起算日を決めてファイルを確定させて保存することによって、行政文書管理ファイル簿というものに載せて公開をするということを原則にしているので、そういうルーチンで回っているということだと思います。

 一年未満に関しては、そういう基本的なルーチンに乗せなくていいということになってございまして、行政文書として管理はしなければいけないんだけれども、保存期間については、随時、必要がなくなったら廃棄ができるという区分として設けてしまっているということ。

 あと、その行政文書ファイル管理簿というものそのものが、各省庁がそれぞれ随時更新をするというよりも、私が数年前に聞いた範囲なので今もそうではないかと思うんですが、データを総務省に渡して、そこで更新をするというような手順で維持管理がされているというところがございまして、気楽に登録したり削除したりということができない。

 あともう一つが、一年未満のものは基本的には内閣府の審査を経て廃棄をする対象にはなっているんですけれども、法律が施行されたときに包括的に一年未満は廃棄していいですよという同意を出しているので、特別に個別の審査をしなくても廃棄ができるんですね。

 管理簿に載せてしまいますと、審査をしないと実は廃棄ができないということになりますので、随時、特に管理されずに、明確に表に出る形で管理されずに廃棄ができる仕組みとして、一年未満はかなりその起算日も含めて曖昧な状態で運用されてきているということが実態ではないかというふうに理解をしています。

 これについて、どうしても一年未満という保存期間をなくさないのであれば、少し限定をして明確に範囲をすべきであるということでガイドラインの議論が始まったはずなんですが、そこがされていないということで、気がついてみれば招待者名簿も一年未満になっていたというところではないかと思います。

 それで、招待者名簿については日程表などと同等というふうにおっしゃっておられますけれども、同等ではなくて、はっきりと明確な意思を持って一年未満にするということで保存期間表に載せておりますので、それは明確にそう判断したというふうに考えるべきだというふうに思っております。

小川委員 ありがとうございました。

 失礼しました。招待者名簿はそうですよね。推薦名簿の一部が日程表同等なんですよね。ありがとうございます。

 政治、政府の信頼というお言葉をいただいたんですが、同時に私は、これは記録に残って公開されるという蓋然性が高まれば抑止力にもなると思うんですよね、おかしなことはできないと。そこがもうきかなくなっていることが最大の問題のような気がしています。

 大槻先生、大変恐縮です。

 これは全く私見なんですが、私ちょっと、そろそろ経済成長し続けることは無理じゃないかと思っているんです、地球環境。だから、人口増大ももうそろそろ無理。ですから、成長信仰をたたき壊さないと。ですから、これからの経済政策、社会政策は、むしろ成長信仰からの脱却、宗教改革に近いというぐらいの感覚を持っているんです。

 マクロ経済の専門ではない、金融だとおっしゃったんですが、そうはいっても世界経済全体をごらんになっている観点から、知見があればちょっとお答えをいただきたいと思います。

大槻公述人 ありがとうございます。

 いろいろな意見がある中で、最近のESG、環境に配慮することがよりサステーナブルではないかということをおっしゃる方がふえてきたのは事実だと思います。

 それともう一つの、ハピネスレシオですとか、そういった全体的な、成長ではなくて、幸せに対しての評価をするべきではないかといった意見も、最近は割と、昔に比べると主力になってきたというのも事実だと思います。

 確かに、今の潜在成長率を考えても人口減少を考えても非常に難しいところだとは思いますし、では、今の一見成長していると見える株価はどうかといったら、これは私の分野でございまして、やはり資産価値の上昇というのは金融的現象であるとすれば、本来的な意味での成長ということを既に相当程度、過去に比べたら低レベルでしか達成できないのかもしれないというのは、私も同感であります。

 ただ一方で、低成長であっても成長していくことというのは非常に重要だと思っています。それはどうしてかと申しますと、一人一人の、ミクロのレベルで見たときに、自分は次にもうちょっと頑張ればよりいい生活ができ、よりいい収入がもらえるのであるという未来志向を生じさせるためにも、成長というのは一定程度、マイナスよりはプラスに持っていかなければいけないということだと思います。

 ただ、御指摘のように、今の、大体世界の成長率で三%程度ということで、日本だと今IMFでは下げられてしまって一%も行かない状態ではありますが、そういったところであっても、マイナスに行かないような成長を続けていくということが重要だと思っております。

小川委員 まさにこの成長論戦、結構根本的なことですよね。

 私思うのは、ちょっと、経済は成長しても地球は成長しないというところの、一体どこで臨界点が来るのかということを常々感じています。ありがとうございます。

 最後に、新里先生。

 カジノの解禁は、私、これはかなり重大だと思っていまして、つまり、日本には、競馬、競輪、オートレース、競艇、宝くじ、totoくじ、もうたくさんあるんですよ、ギャンブルが。しかし、全て公設公営なんですね。だから、収益は全部、公益事業、公的事業を通して国内に還流するんです。今回、初めて民設民営なんですよ。収益の三割はある種税金、納付金ですが、七割は事業会社に吸収されます。したがって、これは、国内のお客さんが多いのか海外のお客さんが多いのかによって、まさに日本の国内の国富にストローを差した状態になるんです、外資系カジノが。

 ですから、この公設公営から民設民営へという、抜本的、根本的な賭博政策の転換だと。しかも、国内客がほとんどで、海外客は見込めない、ここが最大の問題だと思います。

 もう既に幾つか要点をおっしゃっているんですが、ただいまのその大転換という意味で、もう一言いただきたいと思います。

新里公述人 きょう私がこの予算委員会の公聴会でカジノの問題を話しているというのは、まさしく今まで、日本の賭博政策と言ったら変ですけれども、一部解禁をしてきた、公的管理をしながら八要件のもとに違法性阻却をしてきた、それの大転換であって、依存症患者をふやすだけではなくて、日本の金融資産、先ほども述べましたけれども、一千八百兆円が、カジノの収益に上がり、そして株式配当という形で外から来たカジノ業者の方に出ていってしまう、日本の資産の流出につながる、国土を弱めるのではないかという意味でも大転換であり、私は、そのようなことで活性化をする必要は全くないというふうに思っています。

小川委員 大石先生、ごめんなさい。

 ありがとうございました。終わります。

棚橋委員長 次に、塩川鉄也君。

塩川委員 日本共産党の塩川鉄也でございます。

 四人の公述人の方、貴重な御意見をいただき、ありがとうございます。

 最初に、新里さんにお尋ねをいたします。

 内閣委員会の法案審議の際にも、大変お世話になりました。

 冒頭お話しされていましたように、多重債務問題を取り組んでこられた、そういう経緯の中で、このギャンブルの問題、そして、IR、カジノの問題というふうに取り組んでこられたということを改めて受けとめました。

 そこで、最初にお聞きしたいのが、やはり特定資金貸付けを法定化する、公営ギャンブルでは認められていない事業主による貸付けを可能とする、この重大性の問題です。

 賭博の胴元が金を貸すというあり方という点でも、しかも貸金業法の総量規制を適用しないということを考えたときに、この多重債務問題に取り組んできた経験から、その重大性について御意見をいただきたいと思います。

新里公述人 ありがとうございます。

 実は、私も依頼者を叱っていたんですね。何でおまえ、また借金つくるんだいと。だけれども、病気なのですね。きちっとした治療をしなければ治らない病気だった。それに自分自身も不明を恥じるところでございましたし、やはり何人かの依頼者が首をつったりして亡くなってきた悲劇を見ているものですから、何としてでも、この借金漬けのギャンブルを国の政策の真ん中にするような政策はあるべきではないというふうに思ってきたところでございます。

 そして、それはまさしく私の経験的なところから出たことということになっていますので、まだチャンスはあるので、野党の方でも法案を出されたと聞いておりますので、まだ間に合う状況ですので、ぜひ廃止の方向を含めて御検討いただきたいというふうに思います。

塩川委員 冒頭の陳述でもお話しいただいたんですが、自治体が業者と一緒に事業を進めるといった場合に、住民の関与、自治体の関与ということが問われてくるわけですけれども、ただ、この自治体議決の、議決を要する区域整備計画は、初回が十年、その後五年ごとの認定更新ということで、自治体とカジノ業者が結ぶ実施協定は、一方で三十年から四十年の有効期間を設ける、これは大阪の例にもそのことがはっきり示されているわけです。ですから、途中で見直しをしようとしても訴訟が提起をされる、当委員会でも萩生田自民党の幹事長代行がそういう発言をしておられるということなども取り上げられたところですけれども。

 自治体が一旦カジノを導入してしまうと、撤退を望んでも後戻りが不可能な仕組みになっているんじゃないのか。そういう点での議会の議決の形骸化、住民自治そのものをないがしろにする、こういうスキームとなっている。こういう問題点などについて、お考えがありましたらお聞かせをください。

新里公述人 契約期間が三十年とか四十年になっていて、更新が十年で、あとは五年。それについては、議会の承諾をとるという格好で民意を反映させるんだということでは、表面上は非常にいい、前向きな制度だったと思います。

 ただし、先ほどお話ししましたように、大阪の実施要項の中でも、やめましょうと言ってしまったら賠償請求をされるということが、先ほど述べましたように条項の中に入っている。そうすると、一回行ってしまったらもう二度とその意味では撤退ができない、後戻りができないということが制度の中に入っている。これはどっちを向いている制度なんだろうかということからすると、やはり参入業者のための制度になっているのではないか、住民の自治、それがないがしろになっている、形骸化しているのではないかと非常に危惧を持っております。

塩川委員 ありがとうございます。

 いろいろな規制措置が行われているのが、実質、骨抜きされているんじゃないかという問題があります。

 そういう点でも、景品表示法の規制についての適用除外の問題、コンプ規制というのが、いろいろ、ホテルに泊まるとか旅行するのについてもその経費負担を軽減する、そういう中でIR、カジノに誘導するという仕組みというのが一つの事業形態として行われているわけですけれども、こういった形で、カジノに縁がないような人も誘い込むような、そういう事業スキームそのものの問題点というのはあると思うんですが、そういうことについて、お考えのところをお聞かせいただけませんか。

新里公述人 まさしく、カジノに、やろうと思っていない人でも導入させるのがコンプの仕組み。そして、そのコンプの仕組みのおかげで地域にお金がおりない。いわゆる囲い込みになって、先ほど述べましたように、カニバリゼーションというのが生じていって、地域の活性化につながらない、そういう大きな問題を抱えているというふうに思っております。

 ちょっと先ほど言い忘れたのですけれども、貸付制度のところについて、何が一番問題になるのかというと、よく高齢者のたんす預金が狙われるよねと言われていますけれども、いわゆる収入の三分の一の規制というのが外れてしまうと、じゃ、資産もベースにして貸付けの基準がつくれるのではないか。そうすると、無担保の土地があるよねということになれば、資産を当て込んで貸付けができる。

 ですから、非常に大きなお金が貸付けができて、そして最終的には、高齢者の人は取り返しのつかない被害、そこに資産がある中で、取り返しのつかない被害をつくる。その意味では、非常にこの貸付制度というのは罪な制度になっているというふうに思っていて、これでいいんでしょうかねと誰もが思うのではないかというひどい制度だと思います。

塩川委員 もう一つお聞きします。

 今言ったように、いろいろな規制措置をとって、世界最高水準のカジノ規制とかいうわけですけれども、それが実態を伴っていないんじゃないか。かえって、カジノ事業者に有利な仕組みになっていはしないのか。

 そういったときに、カジノ事業者を監督、規制するカジノ管理委員会そのものの問題点があるということで、私も当委員会でこの問題を取り上げましたけれども、実際に、これまで、カジノ管理委員会の設立準備室とIRの推進室の事務局メンバーが重なっている、併任だ。

 だから、一方で推進の人間と、一方で規制するという人間が一緒に、同じ立場で仕事をしているという点での、まさにカジノ規制がそもそも成り立っているのかということがありますし、カジノ管理委員会が発足して、その事務局構成を見ましたら、そういう中に、監査法人という形でカジノのコンサルをやっている事業者が入っていた。

 そうなりますと、やはり、カジノ事業がうまくいくようなアドバイスをするコンサルの立場であれば、カジノ事業者を優遇する仕組みになっていく。それは、結果とすれば、賭博の胴元がもうかるような仕組みにならざるを得ない。その被害を国民がこうむるということにもつながる。

 やはり、こういった管理委員会の構成そのものの問題点、そのものがカジノ事業者のための事業となっているんじゃないのかという点が問われると思うんですが、その点についてお聞かせいただけないでしょうか。

新里公述人 カジノ管理委員については中立性の要件があるんですけれども、職員についてはそういう要件がないはずです。

 そして、今おっしゃったとおりに、推進側の人が結局規制側の方に入ってくるという本当に自己矛盾になっていて、更に言うと、そこに推進側の監査法人の方から入ってきて、まあ、収入も非常に少ないみたいで、いわゆる国から出る収入が少ないわけですから、その人は兼任になっているわけですから、大もとのところからも給料をもらっている。では、誰のために働くのかということが見えてくる。

 その意味では、非常に、この管理委員会の職員の規制、規制というんですか、やはり兼任問題であったり、それから中立性が確保されないというところに大きな問題をはらんでいて、更に言うと、管理委員会、規則すらまだいつできるかわからないというのが非常に大きな問題で、事実の方が進んでいくということになっているのではないかなと思います。

塩川委員 ありがとうございます。

 三木公述人にお尋ねをいたします。

 三木さんのお書きになったものを拝見する中で、公文書管理法と情報公開法は車の両輪だ、行政文書による政府活動に関するアカウンタビリティーが果たされている状態を目指し、政府に対する主権者の基本的権利として、政府が何をしているかについて知る権利があることを基礎づけるものだというのは、まさにそのとおりだと思っています。それが、モリカケ問題で政権中枢の政治プロセスが記録になっていないという点では、権力が民主統制下に置かれていないあかしだということを述べておられました。

 そういう点で、ガイドラインについてなんですが、モリカケ問題を受けてガイドラインが改正されたんですが、そのもとで桜を見る会の問題も起こっています。改めて、このガイドラインをどう評価をするのかについて、お考えのところ、お聞かせいただけないでしょうか。

三木公述人 ガイドラインの評価はやや難しいところもあるんですけれども、先ほども少し申し上げましたが、全く全てがマイナスの改正ではないとは思っているんですが、全体を見ますと負のインパクトが大きいという評価というのが私の考えであります。

 特に問題だとずっと思っておりますのは、特に加計学園の問題で、打合せの記録が内閣府側になかったということが問題になりまして、重要な政策立案とか事業の実施に影響を与えるものについては打合せの記録をつくろうということになったというところではあるんですけれども、中身の正確性を確保するというために、発言の相手方の確認も求めましょうという仕組みになったということと、あと、この仕組みが入ったことによって、例えば、国家戦略特区も複数の省庁が関与して打合せなどが行われているんですけれども、実際に情報公開請求してどのような打合せ記録を作成しているのか確認しましたところ、各省庁それぞれつくるのではなくて、一本の記録に全て今なっているということなんですね。

 各省庁それぞれ自分たちの仕事の範囲が違いますので、力点とか必要な記録は違うはずなんですけれども、記録を見ますと、決まったこととか確認したことのみが記録されていまして、実際にどのような検討とか、それぞれの省庁がどのような問題意識を持っているのかということがわからない記録に今なってしまっている。これが、結果的にガイドラインがそういうふうに誘導してしまったところがありまして、もっとそれぞれの省庁ごとに、自分たちの仕事の範囲で必要な記録が十分つくられるというような体制になるには、今のガイドラインだと極めて不十分ということなのかなと思っております。

塩川委員 ありがとうございます。

 桜を見る会に関する不適切な公文書管理の問題で、冒頭のお話のときにも、総理主催の行事が記録されていないこと自体が問題だというのは、まさに、改めてそのとおりだと受けとめたところであります。

 一年未満の公文書の扱いの問題も極めて重大だったわけで、我が党の宮本議員が資料要求したその一時間後に廃棄をするといった経緯も含めて、公文書管理法では、情報公開請求の対象文書は請求後の廃棄を禁じています。ある意味、国会議員の資料要求というのもそれに準じて扱われるものだと思うんです。そういう点での国会の行政監視機能という点で、この政府の対応について三木さんのお考えをお聞かせいただけないでしょうか。

三木公述人 国会議員からの資料要求ですとか、それから問合せがあって確認を求められていることについて、それをきっかけに廃棄をするということは、国会そのものに対する非常にマイナスな対応ということだと思います。

 情報公開請求をしますと、確かに、廃棄期限が来たとしても、決定から一年間は廃棄ができないというふうに政令で決まっております。

 ただ、若干、議員の方の資料要求と異なりますのは、請求対象範囲をある程度特定しなきゃいけないということで、枠を決めなきゃいけないということにはなるんですね。今、国会議員の方からの資料要求は必ずしもそうではないところでなさっているところもお見受けいたしますので、そこは、要求の仕方を工夫するとか、そういうところで、確実に押さえたい行政文書とかが廃棄をしにくい、あるいはされないような対応、あるいは取組をまずされる必要があるのかもしれないというふうには思っています。

 それを踏まえて、やはり国会で必要な記録が簡単に廃棄をされるとか、あるいは、行政側の決めたルールの中で廃棄しても合法であるというような状況は、これはおかしいと思いますので、制度の問題として改善をしていく必要があるのではないかと思っております。

塩川委員 時間が参りましたので、終わります。

 ありがとうございました。

棚橋委員長 次に、杉本和巳君。

杉本委員 日本維新の会の杉本和巳です。

 きょうは、四名の公述人の先生方、本当に示唆に富むお話を、私は、質問しなきゃいけないので一生懸命聞かせていただいて、大変勉強になりました。本当にありがとうございます。

 順不同で伺いますが、まず、大石様に伺いたいんですが、中村哲さんの話をされました。私ども日本維新の会は、右でも左でもなくて、前に向かって改革を志向している政党であり、私自身もそのつもりでございますけれども、中村哲さんの著書に、「人は愛するに足り、真心は信ずるに足る」と、哲さんの著書というよりは澤地久枝さんとのインタビューの本なんですけれども、この中で、皆さんに、ぜひ、笑っている本多さんにも聞いていただきたいんですが、具体名を言って恐縮ですけれども、いい意味で本多さんは活動されていると思いますが。

 タリバンという言葉がありますけれども、タリバンという言葉はこの本の中で二つの意味を持っていて、俗に言うテロリストたちのタリバンという意味のほかに、寺子屋で学んでいる子供たちのことをタリバンというんだと。それで、この子供たちは八十人、爆撃によって亡くなっているんですけれども、タリバンが八十人死んだという報道になったりしている、これが現実だということを言われています。

 クルーズ船での、きのう、おとといでの岩田医師の発信がありましたけれども、おっしゃっていることが全て正しいとは言い切れないかもしれないですけれども、我々はそういった現場の声を参考に政治をしていかなきゃいけないということで、今、中村哲さんのお話が出たので、思い起こさせていただきました。

 そんな中で、リチャード・クーさんが「「追われる国」の経済学」というのを書かれていて、ポリシーミックスはもはや立ち行かないというか、財政と金融でまぜてやってもうまくいかないんだという話をされて、その中で、需要の不足の部分はやはり財政が出なきゃいけないともリチャード・クーさんは言われています。

 そんな中で、やはりBバイCにこだわる必要があるということで、遠隔地で、そこになぜか二つ橋がかかっているという話を聞いたりすることがあるんですけれども、BバイCという観点にどれだけこだわる必要があるか。GDP上必要だという話はわかっているんですけれども、その点だけ、端的にお答えいただければと思います。

大石公述人 ありがとうございます。

 今、公共事業はほとんどBバイCのみで可否が判断されていますが、BバイCがはかれる領域というのは極めて狭いと考えています。

 例えば、道路でいいますと、ネットワーク効果を評価する方法ではないんですね。だから、ある区間の建設費をそこから生まれる交通量で割り算して、したがって、BバイCが一を超えるか超えないかですが、その区間をつくることによってどういうネットワークが構成されるかというのは、評価の要素に入っていないんですね。だけれども、我々、道路というのは、ネットワーク物は皆そうですが、ネットワークをつくることによって意味があるんですね。

 例えば、東京と青森の間は今、六十通りぐらいの方法で高規格道路を使って結ぶことができています。しかし、この高規格道路が全部完成すると、一万四千通りで結ばれることになるんです。そうすると、東京と青森の間、北東北との間は途切れないネットワークになる。これはBバイCではカウントしていません。

 ということですから、BバイCというのは、優先順位を決めるようなときには使える評価方法かもわかりませんが、事業の可否を決めるのにこれを使い過ぎるのは問題だと私は考えています。

杉本委員 新たな視点、勉強になりました。ありがとうございます。

 次に、公文書管理のことをお伺いしたいんですが、三木参考人です。

 ちょっと昔の話をまたして恐縮なんですが、角福戦争があったときに、総裁選の後に田中角栄さんは自分の自動車電話から電話を取り上げて福田赳夫さんに、総裁選の直後ですけれども、電話をして、大蔵大臣を引き受けてくれと。大蔵大臣をその後即座に福田赳夫さんが引き受けるということがありました。ちょっと過去の政治家の方の話をして恐縮ですけれども、この話は、昨年亡くなられた相沢英之先生の著書の中にあります。

 やはり、政治家が公の意識だとか国を思う気持ちというのは本当に大事だと思うんです。それが残念ながら昨今は大分なくなってきているというのが、私は肌で感じるところなんですけれども。

 我が党は、公文書のデータ化というんですか、文字データにすると実はそんなに量をとらなくてという発想があって、永久保存でデータ管理、デジタルデータにしていけばもう全ての文書は永久保存でいいという思いを我が党はかなり共有しているんですけれども、その点について御見解を伺いたいと思います。

 おっしゃっていただいた、機能させるとか運用をどうするかという問題が必ずあることはわかっているんですけれども、逆にやはり、小川さんとの質疑でもありましたけれども、全て残すということになれば抑止力にもなるかと思うんですけれども、そんな点について、与野党を問わずそういった永久保存の合意というものができないものかというふうに思っていますので、ぜひ御意見をいただければと思います。

三木公述人 御質問ありがとうございます。

 電子データであれば永久保存ができるという議論は、一般的にもある話ではございます。

 一方で、公文書管理の仕組みは、評価、選別をして価値判断をする。そういう前提で、アーキビストを国家資格化して、ふやして、行政機関の中に入れようという動きがあるというのが今の現状だとは思うんですね。

 一番望ましい状況としましては、私は、全部を永久保存するということはなかなか難しいかなとは思っているんですけれども、今は、紙文書のボリュームを念頭に置きながら歴史文書の選別を行っているというのが現状であるとは思うんですね。

 ですので、物理的な量を考えながらどれだけ残すかという発想がどうしてもあるというのが現実ですので、今、電子文書の管理に徐々に切りかえるということを政府はするようでございますけれども、そうしますと、従来のような廃棄を必ずしもしなくても十分に保存ができるという状態にはなってくると思いますので、全部を残すかどうかというのはちょっといろいろ御意見があると思いますし、私も個人的な意見がありますけれども、残す量をふやすことができるというところからそもそも保存の基準を考えるということは非常に重要だというふうに思っております。

杉本委員 ありがとうございます。

 次に、新里先生に伺いたいんですけれども、かなり私も問題意識を整理できたかなというふうにも思っています。

 一方で、よくある議論ではあるかもしれないんですけれども、先生が冒頭おっしゃられた、パチンコで結局最後は自殺されてしまったケースがあったというふうに伺っています。

 一方で、パチンコはギャンブルではなくて遊技だという定義づけがあるやに伺っているんですけれども、このパチンコ、ギャンブル依存症対策等を含めて、パチンコに対する問題意識とか規制とか、そういったものに先生はどういうお考えをお持ちかを教えていただければと思います。

新里公述人 ありがとうございます。

 本当に、日本でどうしてこんなにギャンブル依存症の方が多いのか。三百二十万人と言われていますけれども、これの一番の原因はパチンコです。三店方式という格好で、賭博ではないということで、遊技として扱われているけれども、実際は、僕は賭博、脱法行為ではないのかなと。その意味では、きちっとした規制を更に強化しなきゃならない。

 実際、一時は利用者が三千万人という時代から、今、一千万人を欠いて、非常に少なくなってきているのではないかなという中で、どう規制を強化していくか、やはりそこらのところがないといけないのかな。これは全体として、やはりカジノ問題でこれだけ依存症の問題が考えられるとすれば、パチンコの問題についてきちっと考えて対策をとらないといけない。

 その意味では、本当はパチンコの方の規制ということが前に出なきゃならないことかもしれませんけれども、国策としてぱっと、あのカジノの問題が出てきましたので、どうしても前面がカジノになっていますけれども、背景のパチンコについてもきちっと検討しなきゃならないというふうには思っております。

杉本委員 先生、ありがとうございます。

 次に、大槻先生に伺いたいと思うんですけれども、私の問題意識は、国債マーケットというのは、日銀が買い続ければ金利は下げ続けられるというふうに思っているんですけれども、一方で、為替マーケットというのは制御不能で、単独介入したって通じなくて、今、円安に少し振れていますけれども、いつか、大きな、一ドル三百六十円時代がありましたし、その後に二百四十円があったり百八十円とかありましたけれども、想定できないような、日本の貿易にとっていいとかという議論を乗り越えて、もう日本の力がなくなったときには為替で一気にやられるという意識を私は実は持っていて、麻生財務大臣にも申し上げているんですけれども、海外資産を国家も国民一人一人も持たなきゃいけない時代で、逆にやられを小さくしてソフトランディングさせていく必要があるというところまで、実は国会でも財務金融委員会とかで申し上げさせていただいたりしているんですけれども。

 ちょっと、現状認識としてまず伺いたいのが、先生の資料にもありますけれども、日銀ですね。

 日銀が五百兆のアセットというのが海外の中央銀行と比べてどうなのかという部分と、そのアセットの中身が、国債がどんどん、まあ、少しスピードは落ちているというのは感じていますけれども、ハーモナイゼーションなのか、二%目標達成なのかはわかりませんけれども、日銀の独立性という観点、日銀の資産内容という観点、そしてその資産の中身の国債の膨らみぐあい、あるいは、株式を買っていて、実質株式を支えている一番の株主は日銀といったゆがんだ株式市場の問題。

 いろいろ問題を申し上げたんですけれども、日銀という観点から、ゆゆしき事態という表現がどちらかの資料にもあったかと思うんですけれども、ほかの先生の資料にあったと思うんですけれども、この日銀の現状をどう評価されているか、教えてください。

大槻公述人 ありがとうございます。

 中長期的に見て、あるいは長期的に見ると、確かに、ほかに財政審の委員の発表、発言にもあったかと思うのですけれども、今すぐに、どういった形で需給がバランスがとれなくなって日銀以外に買う人がいなくなる、あるいは外資系の投資家が入ってくることによって各国にボラティリティーが非常に高まるというようなことというのがいつかは来るかもしれないというのは、我々も考えているところであります。一つの可能性としては、それが格付だったりとか、そういったことで大きくバランスが崩れることがあり得ると思います。

 問題としては、その時点で価格発見機能がもう市場になくなっているということでありまして、日銀が買っている限りはもう大丈夫だろうということで、民間の方としては、今、御存じのとおり、幾らだったらば国債というのがフェアバリューかということも全く機能しなくなっているところであります。

 ただ、より問題なのは、金額としては大きくはないですけれども、それが株式、ETFのところにまで及んでいるということが、海外から見ると、より大きな問題かと思います。

 そういう意味では、ETFの買入れ、今六兆円ずつやっておりますけれども、一部の株式の銘柄ごとで申し上げれば、マジョリティーがそういった日銀のETFではないかというふうにも言われている中で、一番の資本主義としてのコアであるところの資産である株式市場のところまでもが官製市場であり、市場として民間の価格発見機能がもうなくなってから久しいというところには大きな問題があると考えております。

 仮にこれが出口に向かったときに、じゃ、誰がどういった形で正常化をしていくということを、恐らく日銀の方も既に考えつつあるところだとは思っていますけれども、果たして、それが人間のセンチメントでもって大きく左右され、オーバーシュート、アンダーシュートする市場の中でうまく正常化できるのかという軌道のところは非常に懸念をしているところであります。

杉本委員 ありがとうございます。

 引き続き質問させていただきますけれども、日本の経済規模が、まだ、世界何位とかというのは下がっていますけれども、世界の比率でシングルデジットになってきて、それがまた半分ぐらいになって、五パーとか四パーとかという規模になってきて、日本の経済規模が世界から見てどれだけ小さくなったかの状況によって、最後は、アメリカと中国が相談してトリガーを引くとかいう形で為替が大きく動いて、日本が。この後、午後の公述人で小林慶一郎先生だったかな、いらっしゃるんですけれども、彼の著書でも、二〇三五年に、モンテカルロ・シミュレーションによると破綻の可能性があるというような、彼が書いているか彼の友人が書いているかわからないんですけれども、編者なので、というようなことがございます。

 時間になってきましたけれども、最後、消費税の議論があります。

 今、先生に伺ったのは、直近の不安は下がっているというようなお話があったんですけれども、今、五%に下げるとか八%に戻すとかいう提案があって、全体をどうバランスさせていくのか、持続可能性はどうなのかという問題意識を私は相当持っていますけれども、そういった議論について、先生の御見解なり御認識はどんなところにあるか教えてください。

大槻公述人 確かに、先ほどの資料でもごらんいただいたとおり、将来的に上昇する、引き上げられるかもしれないということについての国民のアレルギー反応は極めて重大なレベルだと思います。ただ、一方で、ほかの資料でもごらんいただいたとおり、相矛盾するようでもありますけれども、中長期的な財政不安ですとかそういったことが、一番彼らが、国民の消費者の方々がお金を使わない、保守的になっている理由であります。

 その二つのどっちをどうバランスするかということだと思うんですけれども、個人的にはやはり、財政を傷めてまで短期的な利益に資することは全くないと思っております。そういう意味では、当然にして今の一〇%は上げるべくして上げていただいたと考えておりますし、これで十分かどうかということについては、プライマリーバランスがなかなか達成できないと言われている中では、もう一段踏み込んでいただく必要すら十分あると思います。

 そのときに、国民に対して、最後の方でお伝えさせていただきましたけれども、事実をしっかりと認識していく努力というものを、財政審の方でもやっていかなければいけないと思いますが、そこで欠けている、自分事ではないといったような国民の意識をどうやって変えていくか。余談かもしれませんが、ほかの国でも財政再建をクラッシュなしで、痛みを伴わずにやった国はほとんどないということを我々の方でも見たわけであります。唯一、ぎりぎりでドイツがやってきたかと思います。

 そういう中で、じゃ、痛みを伴わせるのですかといったら、我々は当然そういったことを望んではいないわけでありまして、であれば、予防注射ではないですけれども、ある程度、こういったことがあり得るかもしれないということを自分事で理解していただいた上で御納得いただいて健全化に向かっていくことが、ひいては、中長期的な不安を払拭することによって、保守的過ぎる国民のマインドセットを変えていくということになるんじゃないかと思っております。

杉本委員 時間となりました。終わります。

 ありがとうございました。

棚橋委員長 これにて公述人に対する質疑は終了いたしました。

 公述人各位におかれましては、貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。厚く御礼を申し上げます。(拍手)

 午後一時から公聴会を再開することとし、この際、休憩いたします。

    午前十一時三十四分休憩

     ――――◇―――――

    午後一時開議

棚橋委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。

 令和二年度総予算についての公聴会を続行いたします。

 この際、公述人各位に一言御挨拶を申し上げます。

 公述人各位におかれましては、御多用中にもかかわらず御出席を賜りまして、まことにありがとうございます。令和二年度総予算に対する御意見を拝聴し、予算審議の参考にいたしたいと存じますので、どうか忌憚のない御意見をお述べいただきますようお願い申し上げます。

 御意見を賜る順序といたしましては、まず小林慶一郎公述人、次に逢見直人公述人、次に小黒一正公述人、次に八代尚宏公述人の順序で、お一人二十分程度ずつ一通り御意見をお述べいただきまして、その後、委員からの質疑にお答え願いたいと存じます。

 それでは、小林公述人にお願いいたします。

小林公述人 皆さん、こんにちは。東京財団政策研究所の小林慶一郎でございます。

 きょうは、公述人としての意見陳述という大変光栄な機会をいただきまして、まことにありがとうございます。

 早速でございますが、資料としまして「経済・財政運営について」という六ページの短い紙をお配りしていると思いますので、それの資料に沿いまして、中長期的な観点から、日本の財政運営、経済運営全般についての意見を述べたいと思います。

 大体三つテーマがありまして、一つは、現状をどう認識するのか、低金利と低成長が続いているという日本経済の状況について、二番目に、その要因は何であるのかということについてお話をしまして、三番目に、これからの財政運営についてはやはり政府の信認が重要だと思うわけですが、その信認を維持するためにこれから何をしたらいいのかというようなことをお話ししたいと思います。

 まず、現状でございますが、低成長と低金利が長い間定着しているというのが日本の状況だと思います。実質のGDP成長率は、過去三十年近くにわたって一%程度、現在も一%弱の状態になっている。一方、実質金利、これは長期国債の利回りではかった安全資産の金利ですが、実質で見ると大体マイナス一%程度になってしまっているということであります。

 低い成長は財政運営にとって非常に悪いわけですが、ちょっと奇妙なことは、ここ数年定着している、金利が成長率よりも低い状態というのは、これは財政にとってややプラスの面があるわけですね。つまり、政府の借金は金利でふえていくけれども、GDPは経済成長率でふえていく。成長率の方が金利より高ければ、借金の比率というのは伸びていかないわけであります。だから、財政に対する緊張感というのもやや薄らいでいる。それが、今MMTのような議論が流行する背景にあるということだと思います。

 ただ、この状況は日本だけのことではないんですね。一ページ目にグラフを示しておりますが、これはローレンス・サマーズ・ハーバード大学教授、アメリカのもとの財務長官だった方が昨年出した研究ですけれども、OECD全体を一くくりにして経済成長率と実質金利を比べたものです。

 青い線が経済成長率、低下傾向にありますけれども、大体一・五%強の成長率がある。一方、実質利子率の方は三十年間ずっと低下しておりまして、今、OECD全体で見てもゼロ%に近い状態まで下がっている、こういう状況になっている。要するに、低成長、低金利、しかも金利の方が成長率より低いという状況がグローバルに続いているということであります。

 一ページおめくりいただきまして、では、なぜこういう低成長、低金利が続いているのかというと、一言で言うと、将来に対する不安あるいはその不確実性というものがあると思います。

 一つ目、日本にとって一番大きいのは、財政の過剰債務の問題。要するに、政府の債務は、GDP対比で二四〇%、ネットで見ても一五〇%。

 二ページ目のこのグラフですが、現在から二〇六〇年程度までの長期的な日本の財政の、要するに債務比率の推計をしたものであります。このまま現状の状態が続くと、黒い点線で描いてありますように、これから先ずっと債務比率は伸び続けて、二〇五〇年ごろになればGDPの五〇〇%を超えていく、そういう非常に巨大な水準に達してしまう。そこまでもつとはなかなか考えづらいので、その間に何かが起きるんじゃないかという不安があるわけであります。

 要するに、政府債務の過剰がどう解消されるかが不安であると。そのために投資の低迷が起きて、貯蓄が過剰になって、成長率が下がっていく、こういうことが起きているんじゃないか。要するに、これから増税が起こるのか、それとも歳出の削減が起こるのか、社会保障費が切られるのか、あるいは消費税や所得税がもっと上がるのかとか、そういう不安がどうしてもこのグラフを見ると出てくるわけですが、その結果として経済活動が停滞しているというのが一つあるんじゃないかということであります。

 二ページ目の一番下に書いておりますが、現在のグローバルな背景としましては、技術の変化というのも大きいわけですね。要するに、基幹技術と呼ばれる社会の構造を規定するような重要な技術が今大きく変わろうとしている。例えば、十九世紀は内燃機関の技術が基幹技術だった。二十世紀は電力。同じような意味で、二十一世紀は情報技術とか人工知能というものだと思いますけれども、今まだ変化の途上にあるわけであります。

 要するに、一つの基幹技術が社会に定着するまで、例えば電力の場合、八十年という時間がかかっております。それと同じような考えでいくと、情報化が社会に定着して本当の意味で成熟するためにはまだ時間がかかる。その間、将来に不安が残って、結果的に既存技術への投資が伸びない、こういうことがある。

 もう一つ、三ページ目に資料を移っていただきまして、低金利の要因というのは何だろうかといいますと、これも同じく不確実性の問題が大きい。

 これは低成長とほぼ同じような要因なんですが、サマーズが言っているのが一つありまして、それは、高齢化といいますか、先進国での長寿化、寿命が延びるという現象が想定外に起こってしまった。過去五十年間、第二次大戦以降、想定外に長寿化が起こったために、老後資金の需要が大きくなって貯蓄が増大しているということ。

 もう一つ、私が最近注目しているのは、所得格差の拡大が原因の一つではないか。所得格差の拡大は、一九八〇年代から日本でも他の先進国でも起こっておりますけれども、それは、個人の目から見ると、自分の所得の将来の不確実性が高まっているということをあらわしております。

 そうしますと、所得の不確実性に備えるために人々が貯蓄をふやして、結果的に金利が下がっていくということは、アイアガリという経済学者の理論でも示されていることでありまして、そういうことから考えると、格差の拡大というのは、実は、金利の低下、長期停滞と言われる金利の低下と関連しているんじゃないかというのが私の考えであります。

 次に、では、どうしたらいいのかということでございます。この現状で何ができるか。

 今は、財政に対する信認が保たれているので国債の金利が低くなっているということと、それから、民間の経済に、今申しましたようないろいろな不確実性があるということであります。

 もし金利が成長率よりも低い状況がこれからも長く続くのであれば、財政を機動的に使っていくという議論が可能になってくるかもしれない。例えば、成長戦略に対して財政を出してそれで生産性を上げて成長率を向上させていくとか、あるいは、全世代型の社会保障による格差の是正を財政の資源を使ってやることによって将来の不安をなくして金利を正常な水準まで上げていくとか、そういうことがあるかもしれない。あるいは、気候変動対策やインフラの更新の投資などに、より機動的に財政を使っていこうという議論があるかもしれないのですけれども、ただ、その前提として、民間の経済の不確実性は、これはどうしようもないことですが、財政への信認を維持するというのが政策の根本になければいけないんじゃないかというふうに思っております。

 そこで、二つここでは書かせていただいているんですが、政策として考えるべきことは、一つは、基礎的財政収支について、赤字に上限を設けて、その赤字の上限を超えないということに政府や財政当局がコミットするということが必要であろう。

 今現在、基礎的財政収支は改善傾向にありますけれども、今、GDPの二%程度の赤字ですが、これは、金利が成長率よりも低い状態であれば、赤字をあえて黒字に急いで変えなくても大丈夫かもしれない。ただ、もちろん、金利が成長率を超えて上がってきますと、これは二〇二五年に予定しているようなプライマリーバランスの黒字化がどうしても必要になってくる、こういう関係になっております。ですので、一つは、赤字に上限を設けるということ。

 もう一つは、政府、日銀が、財政危機のようなこと、可能性は非常に低いかもしれませんが、財政危機に対してちゃんと備えをしているんだということを明らかにする、準備して、明らかにするということが重要だろうと思います。

 要するに、財政への信認が失われれば、金利が成長率よりも上がってきて債務が急膨張していく。その結果として金利が上がっていく。金利を抑えようとすれば、日銀が国債を買い入れることで、今度はインフレがとまらなくなる。要するに、インフレが制御できなくなるか、金利が制御できなくなるかという、どちらかが起きてしまう。これは、言ってみれば財政破綻の状態になるわけであります。

 そういう危機に対してきちんと備えがある、そういうプランをつくることで、ここで書いているのは、コンティンジェンシープランといいますか財政危機対応プランを政府、日銀が準備することで対処していく、将来の不安を打ち消していくということができるのではないかということであります。

 例えば、事前に重要なのは、危機が起きたときに予算の執行ができなくなるかもしれないということに備えて、事前に歳出項目のトリアージのようなことをちゃんとやるべきじゃないか。要するに、全省庁の予算のうち、何を優先的に残すべきで何を切ることができるかというトリアージを事前に準備しておくということが必要ではないかということであります。

 四ページ目、めくっていただきますと、上に書いてある表は、私が東京財団あるいはキヤノングローバル戦略研究所というところで研究した危機対応プランの概略ですけれども、こういうような、時間軸を三つに分けて計画を準備するというようなことが必要になってくるのではないか。その中でも特に、赤い文字で書いておりますような歳出項目についてのトリアージを事前に準備しておくということが必要ではないかと思います。

 そのときに、よくある反応というか反論として、政府や日銀がこのような危機対応のプランをつくっているということがもし公になってしまうと、それがマーケットの不安をあおって財政危機を呼び寄せてしまうんじゃないかということは、よく反論で言われることであります。

 しかし、そんなことは今はないわけであります。この数年に限っていえば、金利が成長率よりも低くなっている、要するに、債務比率は上昇傾向がとまっているわけであります。このままいけば債務比率の緩やかな減少が見込まれるというような状況であるので、仮に政府が危機対応策をつくったとしても、それが市場に動揺を与える可能性はきっと少ないだろうということであります。

 もう一つ、ここで思い出さなければいけないと思うのは、一九九〇年代の不良債権問題のときの教訓であります。

 九〇年代の最初の八年間、政府、我々が有効な抜本的な対策を出せないままで、非常に不確実性といいますか不安が日本経済に広がって経済が停滞した。そして、九七年の十一月に銀行危機が起きた後、何段階かに分けてですが政府の金融危機対応策ができて、そしてようやくマーケットが鎮静化した。二〇〇五年に不良債権問題がようやく終息を見た。その段階では、こちらにいらっしゃる伊藤先生始め先生方の御尽力で危機対応策ができたわけであって、それによってマーケットの不安が払拭されたということだと思います。

 その教訓から考えますと、今、財政についての不確実性が経済活動の停滞を招いているということを考えますと、平時の今こそ、危機対応プランを検討するいい時期なのではないかということが言えると思います。

 そして、次に五ページ目でございますが、もう少し長期的な制度改革まで目を向けて、財政の信認の維持のための方策を考えてみたいと思います。二つあります。

 一つは、これはよく言われておりますが、いわゆる独立財政機関を設置して、長期的な財政見通しを中立的な立場で国会や政府に示して政策の議論の基礎とする、そういう構想であります。

 例えば、先ほどグラフにあったような、五十年程度先まで長期の財政推計をする。これも、幾つかの経済状況や財政についての仮定を置けば、五十年でも百年でも推計を描くことは可能であります。重要なことは、推計の方法について、あるいはどういう仮定を置いたのかということについて明らかにして、オープンな議論の場で出した推計をチェックすることができるようにするということが重要である。そういう意味で、オープンな情報の公開が必要になってくるということだと思います。

 そして、そのような機関を、アメリカの議会予算局のように、中立性を考えて国会の中の議院事務局に設置をするか、あるいは三条委員会のような形で政府から独立した組織にするということ、そして学界などから専門家を機動的に任用するということが必要ではないかということを考えております。

 もう一つ御紹介したいのは、フューチャーデザインという新しい政策意思決定の考え方であります。

 今我々が議論している財政の問題、財政再建というのはある意味で世代間の投資なんですね。要するに、現在世代がコストを負担して、現在世代は何も受け取らないんだけれども将来世代がリターンを得るということで、世代間の投資になっている。しかし、将来世代は、財政再建するかどうかという意思決定に加わることはできません。

 それは、民主主義というか人間社会の本質的な欠陥というか、本性なのでしようがないわけですけれども、では、将来世代が意思決定に加われないのが問題だとしたら、将来世代を連れてくればいいじゃないかというのがフューチャーデザインの考え方であります。

 それを言い出したのが、西條辰義さんという世界的に有名なミクロ経済学者で、今、高知工科大学の教授をやっていますが、その西條先生が、仮想将来世代という考え方を提唱しております。それは、五十年後に生きる将来世代になったつもりで現在の政策を議論しようじゃないかと。こういう、やや子供だましのようなロールプレーイングゲームをやろうということなんですが、これで現実に政策が動いた例がありますので、それを御紹介しますと、岩手県の矢巾町というところがあって、そこでこういう、将来世代になったつもりで議論するという実験をやってみたわけです。

 そのときに、住民討論で水道事業をどうするかという議論をしたんですが、通常の住民は水道料金の値下げを要求しているわけです。ところが、五十年先の将来世代になったつもりで議論をするというふうに促しますと、そうすると、水道管の更新だとか、あるいは浄水場の整備とかで、いろいろなインフラ整備のコストが将来かかってくるということに皆さん気がつかれて、水道料金の値上げに合意をされた。そして、二〇一七年に現実に、矢巾町では水道料金の値上げというのを実行しているということがあります。

 そういう意味で、同じような実験の結果がいろいろな自治体で出ておりますので、今、地方自治の世界でフューチャーデザインというのはやや手法として取り入れられつつあるのかな、そういう取り入れている自治体も幾つか出てきたかなというような状態であります。それは、行政であったり、あるいは議会の中に将来の世代の利益代表の院をつくるような、何かそういう発想もあり得るのではないか。

 そして、先ほど申し上げました独立財政機関というのもいわば将来世代の目で財政を検証しようという考え方ですから、これもフューチャーデザインの一つの考え方であるというふうに言えると思います。

 最後に、済みません、三十秒だけ。

 六ページ目。一言申し上げたいんですけれども、金融政策については余り述べませんでしたが、今、非常に長期的にゼロ金利が続いて、低インフレが続いております。この状況というのを見ると、実は、長期的なゼロ金利政策を継続するんだという日銀の宣言、それが、これからも景気の低迷が続くんだなというマーケットや企業の予想を生んでしまって、結果的に経済活動が萎縮してデフレあるいは低インフレの状態が強まっている。要するに、ゼロ金利の意図せざる結果としてデフレが続くんじゃないか、こういう新フィッシャー主義という考え方があります。

 こういう議論のあり方も少し見直しながら、これからの金融、財政の新しい政策のフレームワークを考えていくべきではないかというように考えております。

 長くなりましたが、以上で終わらせていただきます。

 どうも御清聴ありがとうございました。(拍手)

棚橋委員長 ありがとうございました。

 次に、逢見公述人にお願いいたします。

逢見公述人 ただいま御指名をいただきました連合の逢見でございます。

 本日は、このような場で私たち連合の意見を表明する機会をいただき、ありがとうございます。

 私からは、働く者の立場から見た我が国の経済、社会における課題を踏まえ、目指すべき社会像ととるべき政策について申し述べます。

 まず、新型コロナウイルスにつきましては、各地で感染例が相次いでおり、一日も早い終息に向けた取組が必要です。連合では、感染予防の徹底や就業上の措置に関する労使協議など、労働者保護の観点に立って職場対応を呼びかけているところです。国会、政府におかれましても、働く者を始め国民生活の安全、安心確保に向けた万全の対応をお願いしたいと思います。

 さて、私たち連合は、全ての働く仲間が将来に希望を持って働き、安心して暮らしていけるよう、私たちの未来を、次の世代に続く持続可能な社会、互いに認め支え合い誰一人取り残されることのない包摂的な社会に変えていくことを目指しております。

 お手持ちの、スライドの二枚目をごらんください。

 人口減少、超少子高齢化の進行、グローバル化やAI、IoTなど技術革新のさらなる進展など、社会経済の変化の速度が増しております。

 その一方で、パートタイム、有期契約、派遣労働などで働く人は雇用労働者の約四割を占め、年収二百万円以下の労働者も一千百万人を超えるなど、雇用の流動化と不安定化、中間所得層の地盤沈下、貧困の固定化と格差の深刻化が進行しています。その中で、私たちは、社会保障制度の持続可能性の確保や地域コミュニティー維持と、そのための国、地方の財政健全化、あるいは技術革新に対応した人材育成、能力開発、生み出される付加価値の公正な分配といった課題に直面しております。

 こうした社会の持続可能性にかかわる課題を克服し、将来に希望と安心を持てる社会としていくためには、連合が提起している社会像、連合ビジョン、働くことを軸とする安心社会、守る、つなぐ、つくり出すであります。

 守るということでいきますと、ワークルールとセーフティーネットを整備して、働く仲間一人一人を守る。つなぐということでいきますと、労働組合を結節点として、働く仲間、地域社会をつないでいく。そして、つくり出すは、一人一人の働きがい、生きがいをつくり出し、社会経済の活力を生み出すということであります。

 それらの実現のためには、雇用、労働にかかわる政策の実現はもとより、社会保障制度や教育制度、それを支える財源について、国民的な合意を積極的に形成しながら、持続可能で包摂的な仕組みとして再構築していくとともに、必要な負担を分かち合い、社会の分断を生まない再配分を進めていくことが求められております。

 また、特に経済社会の支え手となる現役世代、特に低所得層におきまして、自身のキャリア形成や子供の教育などの人的投資を十分に行えるように支援することを重視した取組が必要です。

 スライド三枚目にありますが、これは、ILOが二〇一九年の報告書で、人間中心のアジェンダを発表したものであります。このように、人間と仕事を経済社会政策及びビジネス慣行の中心に位置づけ、人間中心の成長と公平、持続可能性を推進していく必要があると考えます。

 足元の経済情勢に目を転じますと、海外経済の減速や相次ぐ自然災害、直近では感染症流行などの影響を受け、景気は停滞色を強めております。雇用情勢は数字の上では回復が続いていますが、労働分配率は低水準にとどまり、個人消費は伸び悩んでおります。その背景には、今後の景気減速の懸念に加え、超少子高齢化による社会保障制度の持続可能性への不安、所得格差の是正が進まないことが挙げられます。

 次に、国民生活の基盤である社会保障について述べたいと思います。

 社会保障は、一般会計歳出の三四・九%を占める最大の支出であり、国民生活にとって極めて重要なものです。私たちは全世代支援型社会保障の実現を求めており、その観点で幾つか述べたいと思います。

 まず、子ども・子育て支援です。

 保育所と放課後児童クラブ等の待機児童数が依然多い中で、保育士の一斉退職が各地で起きており、利用者にも影響が及んでいます。急増している企業主導型保育施設は、制度上、質の担保に課題があるほか、助成金の不正受給等が各地で報告されています。質が確保された保育所等の整備と継続的な処遇改善による保育人材確保に必要な一兆円超を早期に確保すべきと考えます。

 また、児童虐待の対応策として、子育て世代包括支援センターや子ども家庭総合支援拠点の全市区町村整備を促進すべきと考えます。

 男性の育休取得についても指摘をしたいと思います。

 依然として約五割の女性が、第一子出産を機に仕事をやめています。連合が二〇一九年に全国の有職男性一千名を対象に実施した育休取得調査では、取得割合は七・二%で、半数以上が一週間以下でした。固定的性別役割意識も根強く、育児は女性に大きく偏っています。しかし、連合調査では、取得しなかった男性の約三割が、取得したかったと答えています。

 女性の就業継続率の向上や、誰もが仕事と両立できる社会の実現に向けて、男性の育休取得促進は必要であり、そのための両立支援制度の拡充と、長時間労働の是正など職場環境の改善が課題となっております。

 二番目は、介護の問題です。

 高齢化に伴い介護需要が急増する中で、人材不足でサービス提供に支障を来す事業所も出てきております。人材確保には継続的な処遇改善が不可欠です。

 二〇一九年十月に介護職員等特定処遇改善加算が創設されました。二〇二一年度介護報酬改定に向け、更に強力な措置を導入すべきです。家族等、介護者への支援も強化して、政府方針である介護離職ゼロ社会を着実に実現していただきたいと思います。

 医療につきましては、二〇二〇年度診療報酬改定の答申で、医師の働き方改革を支援するための地域医療体制確保加算が新設され、救急や周産期を始めとする病院勤務医について、過重労働の緩和が期待されています。今後、この加算を含む診療報酬が、医療従事者の負担軽減や処遇改善などへ確実に反映されることを求めます。

 次に、年金です。

 公的年金は、老後を始め生活保障の大きな柱です。しかし、多くの、パート、有期等で働く者が社会保険に適用されていません。特に、雇用機会に恵まれなかった団塊ジュニア世代の高齢化を見据えた制度改正が急務です。

 そのような中、全世代型社会保障検討会議を始め政府・与党の検討は、社会保険の適用拡大を小規模にとどめるなど、踏み込み不足が否めません。連合は、曖昧な雇用を含む全ての働く者への社会保険の適用と、基礎年金の給付水準の底支えが緊要と考えております。まずは、事業所と労働者の確実な適用に向け、日本年金機構の体制強化を行い、適用促進を加速すべきです。

 次に、将来社会の担い手を育成する教育について述べます。

 四月から、住民税非課税世帯とそれに準ずる世帯の子供を対象に、大学などの入学金や授業料の減免、給付型奨学金の拡充により、教育の機会均等の観点から、これらは一歩前進と考えます。

 一方、スライドで四枚目のとおり、連合の調査、二〇一五年の十月調査ですが、そこでは、対象とならない年収四百万円から八百万円未満のいわゆる中間層であっても、八割以上が、大学などの教育費が重い負担であると回答しています。社会分断を招くことなく、希望する誰もがちゅうちょせずに学びたいことを学べる社会を実現すべきです。引き続き、中間層を含めた全ての子供を対象に拡充していくようお願いをいたします。

 今般の予算措置で、小中学校の全ての子供がパソコン端末を活用できる環境が整備されることになりました。学校のICT化を進めるためには、ハード面のみならず、ICT支援員や事務職員の果たすべき役割が大きいと思われます。

 一方、タイムカードによる客観的な勤務時間管理が、都道府県では六六%、政令市で七五%、市区町村では四七・四%にとどまっています。学校の働き方改革を進め、教員が授業などの本来業務に専念し、子供の学びの質を確保できるよう、全ての学校で客観的な勤務時間管理を行い、業務の削減、教職員定数の改善、給特法の抜本的な見直しを三つの柱として、着実に取組を進めていく必要があります。

 また、社会人の学び直しについても指摘をしたいと思います。

 スライド五枚目をごらんください。

 日本の労働者への教育訓練への公的支出、対GDP比は、二〇一一年のデータですが、OECD諸国平均の五分の一と低位となっています。また、右側は企業が支出する教育訓練費ですが、これについても、一九九一年以降減少傾向となり、リーマン・ショック後に更に大きく落ち込んだままで、その水準は戻っていません。

 AIやIoTの進展を踏まえれば、リカレント教育の一環として、全ての労働者に今後の安定的な雇用につながる能力開発の機会提供が必要であり、労働者が有給で訓練を受けられる教育訓練休暇制度などへの政府の支援が重要です。

 さらに、高齢期においても新しい機械、技術への対応も必要となるため、定年前の早い段階から長期の教育訓練、職業能力開発の充実が必要です。

 次に、財政の基盤である税制について触れたいと思います。

 今回の税制改革関連法案は、総じて申し上げますと、喫緊の課題である、格差是正に向けた所得再分配機能の強化や、持続可能で包摂的な社会保障制度の構築に必要な安定財源の確保に向けた改革の全体像は示されておらず、こうした課題に正面から取り組む姿勢がうかがえません。

 国民の暮らしと将来の希望を確かなものにするためには、社会保障制度や教育制度の充実とあわせ、税制の抜本改革に向けた議論を一刻も早く行うことを求めます。

 その上で、二点申し上げたいと思います。

 一点目は、税による所得再分配機能の強化と財源調達機能の回復についてです。

 我が国では、所得構造が二極化し、貧困に苦しむ国民が増加しています。所得格差の解消に向けては、税制が本来持つ所得再分配機能を有効に活用すべきですが、スライド六枚目のとおり、我が国の税制、社会保障による所得再分配効果は、先進国の中では最低レベルにあり、所得税や相続税の累進性強化、金融所得課税の強化など、抜本的な見直しが求められます。

 また、今後、社会保障給付費が増大を続ける見込みであることを踏まえ、安定財源の確保に向け、所得税の改革に加え、企業の社会的責任に見合った法人税制のあり方、社会保障の充実、機能強化に向けた安定財源としての消費税のあり方など、与党、野党にかかわらず、国会全体での徹底した論議を求めます。

 二点目は、軽減税率制度についてです。

 導入決定以降、小売業、流通業を始め、懸命に準備、対応を重ねてきたわけですが、導入以降、制度の複雑さ、煩雑さを問題視する声が多数聞こえてきております。

 加えて、スライド七枚目に記載のとおり、飲食料品の支出額は家計収入が高くなるにつれて増加することから、低所得者対策となるどころか、高所得者ほど恩恵を受ける構造となっています。これらの問題点は複数税率を導入している諸外国では以前から指摘されており、連合としても一貫して導入に反対してきました。軽減税率制度については、その政策効果や、働く現場、消費者の受けとめなどに関して不断の検証を行った上で、スライド記載の給付つき税額控除など、低所得者対策として真に効果的、効率的な制度の導入に向けた議論が必要と考えます。

 最後に、労働者の保護ルールに関しても述べたいと思います。

 働き方改革関連法は、施行から一年がたとうとしています。働き方全般にわたる指標によって達成度と課題を検証し、一層の徹底を図ることが大切です。また、中小企業においては、本年四月から時間外労働の上限規制の適用が始まります。

 一般的には中小企業の方が長時間労働になっていますが、その改善に向けては、スライド八枚目のとおり、短納期発注等の取引慣行の適正化が必要です。大企業の働き方改革によって中小企業の労働者がしわ寄せをこうむることのないよう、しわ寄せ防止のための総合対策の着実な実施をお願いするとともに、中小企業の経営環境改善に向け、下請代金支払遅延等防止法の周知徹底と、来年三月に期限を迎える消費税転嫁対策特別措置法の期限延長についても検討いただきたいと思います。

 次に、高齢者雇用の推進についてです。

 七十歳までの雇用・就業機会の確保には、希望者全員が六十五歳まで健康で安全、やりがいを持って働くことのできる環境整備が不可欠です。また、六十五歳以降の雇用によらない措置のみを選択する場合、要件となる労使合意の確実な担保が求められます。さらに、雇用によらない働き方は労働安全衛生法などによる保護が及ばないため、六十五歳以上に限らず、就業者保護の観点から広くセーフティーネットの構築を図るべきです。

 次に、就職氷河期世代への支援についてです。

 これまで支援が届かず置き去りにされてきた就職氷河期世代が、地域社会とつながりを持ったり、働きながら暮らしたり、それぞれのゴールに向かえるよう個々に寄り添った長期かつ丁寧な支援が必要です。具体的には、これからでも十分なキャリア構築ができる公的支援が必要です。また、高齢期に入っても継続して就労可能な資格の取得支援、安定就労に向けた定着支援、そして支援する側の体制の専門性の確保をお願いいたします。

 次に、外国人労働者の権利保護についてです。

 昨年四月に改正入管法が施行され、在留資格、特定技能が創設されました。日本で働く外国人労働者は過去最高を記録し続け、現在約百六十六万人の方々が日本で働いています。労働者ということで、当然、日本の労働関係法令が全て適用になるのですが、実際は、人権や労働に関する権利が十分に守られていない実態があります。百六十六万人という数字は、派遣で働く人よりも多い数字です。外国人労働者保護のために、法令遵守を徹底するとともに、現行の外国人雇用管理指針の内容を充実させ、外国人労働者のための法律を制定すべきです。

 また、外国人労働者は、仕事を離れれば地域で生活する生活者でもあります。昨年十二月に改定された外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策における共生施策を着実に実行していく必要があります。

 次に、ハラスメント対策に関してです。

 二〇一九年五月末に成立した法により、事業主には新たにパワハラの防止措置が義務づけられますが、セクハラの防止措置も徹底されていないのが現状です。今回望ましい取組とされた、就活生に対するハラスメント、顧客等からのハラスメントを含め、相談体制の整備等の対策を徹底する必要があります。

 国際労働機関、ILOは、昨年六月に、仕事の世界における暴力とハラスメントの根絶に関する条約を採択しました。それを受けて、ILO加盟国は、条約採択から一年以内に国会に報告し、国会の承認があれば、条約批准をILO事務局長に通知することになっておりますが、現段階では、日本政府は国会への報告を行っておらず、批准に向けての消極的な状況と言わざるを得ません。あらゆるハラスメントの根絶に向けて、国会審議の場において批准を目指した議論を行っていただくことを強く希望します。

 また、昨年六月二十六日に衆参両院におきまして、全会一致で、ILO創設百周年に当たり、ILOに対する我が国の一層の貢献に関する決議が採択されました。

 その中で、中核的労働基準として世界の大多数の国が批准している八つの基本条約のうち、未批准の案件については、引き続きその批准について努力を行うことが盛り込まれています。

 特に日本が未批准の第百五号条約と第百十一号条約は、それぞれ批准、未批准の国は異なっていますが、双方ともILO加盟百八十七カ国のうち百七十五カ国が既に批准しており、批准していないのは日本を含めてたった十二カ国であります。関係省庁による課題の洗い出しはおおむね終わっております。この決議にあるとおり、一刻も早い二条約の批准に向け、取組の推進をお願いいたします。

 以上で私の発言を終わります。御清聴ありがとうございました。(拍手)

棚橋委員長 ありがとうございました。

 次に、小黒公述人にお願いいたします。

小黒公述人 法政大学で教授をしています小黒と申します。

 私は、専門として、財政と社会保障を研究してございます。

 本日、二〇二〇年度予算の審議の御参考として、簡単に私の意見を述べさせていただきます。

 まず、財政状況についてでございますけれども、消費税が一〇%に上がり、二〇〇〇年代半ばに始まりました社会保障・税の一体改革がとりあえず一回終了するということになりました。これはひとえに、先生方、皆さん方の御苦労のたまものかなと思っております。しかしながら、依然として財政は厳しい状況にあるというふうに認識してございます。

 理由は非常に単純でございまして、国、地方を合わせた政府の総債務残高、これはGDP比で見たものでございますけれども、これは今歴史的な水準に達しております。この水準は、太平洋戦争のために国の資源が全て総動員された第二次世界大戦末期、一九四四年度の水準を上回って、更に伸び続けているというような水準にあるということでございます。

 また、先ほど、いろいろ、長期金利と成長率に関する議論がございましたけれども、現実問題としまして、今、日本銀行が大規模な金融緩和を行っております。その結果、長期金利はゼロ近傍の水準で推移しているわけでございますが、それにもかかわらず、公債等残高GDP比は依然として増加の一途をたどっているという状況です。このような現実を認識するということも非常に重要ではないかというふうに考えております。

 例えば、二〇一二年度にGDP比で公債等残高は大体一八〇%でございましたけれども、これが二〇一九年度では一三%ポイント増という形で、一九二%という形まで大体伸びているという形になっております。この期間に、毎年平均しますと大体二・五%ポイントずつ、着実にその債務残高は伸びているというような現状でございます。

 その原因としましては、御承知のとおり、社会保障が膨張しているということでございまして、団塊の世代が七十五歳以上となる二〇二五年から更に社会保障費が伸びていくということを鑑みますと、この社会保障の改革に力を入れていくということで、これからが正念場ではないかというふうに考えております。

 そういった中で、非常に成長率の低い中で、他方で、先ほども御議論ございましたけれども、貧困化も一方で進んでいるという状況です。少子高齢化、人口減少が進む中で、今政治に求められているのは何かといえば、ひとえに、持続可能な社会保障をどう構築していくのかということではないか、すなわち負担と給付のバランスの抜本改革ではないかというふうに思っております。

 その際、議論の出発点となるのは、二〇一八年五月に政府が公表しました、二〇四〇年を見据えた社会保障の将来見通し(議論の素材)というものになると思われます。

 この見通しのベースラインケースでは、二〇一八年度に百二十一・三兆円であった社会保障給付費が、二〇二五年度になりますと大体百四十兆円、二〇四〇年度になりますと百九十兆円まで膨らんでいく。

 GDP比でいいますと、今、二〇一八年度では足元大体二一・五%でございますけれども、これが二〇二五年度になりますと二一・八%になるとこの試算では予測されている。そして、二〇四〇年になりますと二四%ぐらいまで膨らんでくるというふうに予測してございます。言うなれば、二〇一八年度から二〇四〇年までの二十年間で、GDP比で見ますと大体二・五%ポイント伸びていく。

 ですので、伸びとしては二十年間で二・五%ですから、ある意味で改革は急ぐ必要はないというような意見もございますが、私はそうではないというふうに思っております。

 理由はなぜかと申しますと、実は、二〇一九年度予算ベースで見た社会保障給付費は、その前の年と比べますと大体二・四兆円ぐらい伸びている、金額としては百二十三・七兆円になっております。これはGDP比でいいますと二二・一%になっておりまして、さきの、二〇四〇年の予測でいう二〇二五年度で予測していた水準、これは二一・八%であったわけですけれども、この水準をもう既に超えているというような状況にあるということが重要ではないかと思います。したがいまして、今後の膨張を考えますと、やはりきちっと改革を進めていくということが求められているのではないかと思います。

 しかしながら、名目GDP成長率で経済成長をすればどうにか財政再建ができるんじゃないかという議論がございます。歳出削減だけではなくて、増税あるいは成長というバランスをとっていくということは当然重要なわけですけれども、一つ重要なのは、過度に成長に偏った財政再建、財政健全化政策を進めていくというのは、やはり一定の限界があるのではないかというふうに思っております。

 なぜかと申しますと、例えば、一九九八年度から二〇一八年度における政府の経済見通しがございますけれども、この名目GDP成長率の予測を見ますと、実際の実績と比較した場合、過去二十一年分あるわけですけれども、実績が予測を上回ったのは六回しかございません。全体としては、合っている確率というのは、そうしますと、二十一回のうち六回ですので、大まかに申し上げれば大体三割、二八%しか、実は政府が予測していた成長率が実現できていないというような状況でございます。

 数字で申し上げれば、政府の予測では、この期間、平均一・六%だったわけですけれども、実際の実績は〇・一六%という形で、十倍も格差があるというような状況でございます。

 このような状況の中、政府としても、全精力を注ぐということで、改革の司令塔として全世代型社会保障というものをつくっている。ここで、ことしの夏までに最終報告を出すというような形になっておりますけれども、将来世代や若い世代の今後の負担を考えますと、ぜひ、負担の先送りがないように、踏み込んだ改革に努めていただければというふうに思っております。

 今、新聞報道等で消費税のインパクトについても少し議論になっておりますので、二〇一九年十月の消費税の引上げの影響について、少し簡単に説明させていただければと思います。こちらの方につきましては資料を用意してございますので、お手元の資料を見ていただければと思います。

 配付しております資料の二ページ目をごらんください。この資料は、二〇一九年二月十七日に内閣府が公表しました四半期ベースのGDPの速報から作成したものになります。今回の速報は、財務省の法人企業統計の結果が反映されていないということもありますので、あくまでも現時点での評価ということでお聞きいただければと思います。

 まず、結論から申し上げますと、表を見ていただければわかりますが、二〇一九年十月の消費税の引上げが増税期である期間に実質のGDP成長率に及ぼした影響というのは、実は、二〇一四年四月の消費税の引上げのときに及ぼしたインパクトと比較すると、それよりも小さかったということが読み取れると思います。

 テレビや新聞では、二〇一九年、この期間の十月から十二月の実質GDP成長率は年率換算でマイナス六・三%というふうに報道してございますが、これはあくまでも年間で見た数字でございます。四半期ベースで見ますと、この段にありますように一・六%というマイナスでありますから、それと比較すると少しミスリードな報道になっているのかなと思います。

 これは、政府が、与党もあわせて対策を行っていることも、かなり大きな功を奏しているのではないかと思います。

 例えば、二〇一四年四月の消費税引上げで、その増税期以後どうなっていたかといいますと、二〇一四年の四月から六月の実質GDP成長率は前期比でマイナス一・九%でしたけれども、それ以降では、例えば七月から九月では前期比〇・一%のプラスになっております。それから、十月から十二月でも前期比で〇・五%、それから一五年の一月から三月でも前期比一・四%という形で、消費税を引き上げた後、最初はインパクトがありましたけれども、徐々に回復してきたというような事実もございます。

 したがいまして、むしろ重要なのは、今回マイナスのインパクトがあったわけで、今、足元では新型肺炎のいろいろな動きもございますけれども、今回のインパクトがどうだったのかということにつきましては、今後の成長率の見通しを見ながら判断することが重要ではないかなというふうに思っております。

 なお、ちょっと御参考までに、ブルーのラインでくくっているところでございますけれども、実際に消費税のインパクトがどうだったのかということにつきましては、もともとあるトレンドの成長率と実際に引き下がった経済成長率、この差がどれぐらいあるのかということを見て判断するのが重要ではないか。

 例えば、三%の経済成長が標準的な経済で成長率がマイナス一%になった場合、これは、本当のインパクトは、三%とこのマイナス一%の差の四%分になるわけです。

 ですので、トレンドの成長率をどう見るかということはなかなか難しいわけですけれども、一段目にありますように、増税期の五期前、五年前からですね、五年間の平均的な成長率をとって、その成長率と実際の成長率の差をとってみたものが、この段にあります、増税ショックというふうに書いてあるものでございます。要するに、実際の経済成長率、実質GDP成長率とトレンド成長率の差で評価したというものでございます。

 これを見ますと、どういうふうになっているかといいますと、実は、一九八九年のトレンド成長率は一・三%で、一九九七年のトレンド成長率は〇・四四%、徐々に下がってきているというような状況でございます。

 この中で計算した増税ショックを見ますと、実は、二〇一九年の増税ショックというのは、一九九七年よりは大きいですけれども、二〇一四年若しくは一九八九年よりも小さい可能性があるというような状況が読み取れます。

 したがいまして、現時点ではまだちょっと確実な判断はできませんけれども、過去の二〇一四年等のところと比較すると、今回の増税のショックはもしかするとそんなに大きくないのかもしれないということで、冷静な判断をしていただければというふうに思います。

 最後に、建設的な観点から、税制改正のところについて評価を少し簡単に述べさせていただきます。

 税制改正につきましては、いろいろな項目が入ってございますけれども、お手元の資料の七ページを見ていただければと思います。

 限られた財源の中でどういうふうに、今、日本の問題としては、低成長で貧困化が進んで、人口減少が進んでいるわけですけれども、この状況下でどうやって本当に必要な財源を真に困った人に再分配していくのかということが求められているわけです。

 そういった中で、この七ページにありますような、今回、未婚の一人親に対する税制上の措置というものを入れたということにつきましては高く評価できるのではないかというふうに思っております。

 理由としましては、八ページ目の資料をごらんいただければわかりますけれども、この資料の出所は厚生労働省になっております。ちょっと見方を説明させていただきますと、この資料では、全体の世帯での平均の等価可処分所得を一〇〇とした場合、年齢階級別あるいは世帯構造別のそれぞれの世帯数の中で見た平均的な等価可処分所得がどう変化してきたのかということをあらわしているものになります。

 この資料の真ん中のところを少し見ていただきますと、一人親と未婚の子の世帯の相対的な等価可処分所得の推移が出ておりますけれども、これを見ていただければ一目瞭然ですが、この世帯のみが唯一トレンド的にずっと相対的な可処分所得の水準が低下してきているという状況にあったわけです。

 その中で、今回、財源に限界はありますけれども、今回みたいな政策で税制改正をするということについては、一定の意義があったのではないかというふうに思っております。

 ひとえに、再分配を行う財源にも限界があるというのは、これはもう議会でも、先生方、皆さん方よくおわかりのとおりでございますけれども、低成長で貧困化が進む我が国で、やはり最も重要な視点というのは何か。そのときは、限られた財源を、公費を、本当に困っている人に集中的に配分していくことをどうするのかということを考えていただくということではないかなと。

 ここは私の見解なので、ちょっと更に踏み込んで説明させていただくと、例えば、現行制度上、基礎年金には半分公費が入っております。例えば医療でも協会けんぽみたいなところに公費が入っておりますけれども、これは、所得の多寡若しくは資産の多寡にかかわらず公費が入っているわけです。こういった部分の公費についてどう再分配していくのかということについても、新しい視点で、政治的な哲学も含めて御議論いただければなというふうに思っております。

 先ほどの税制改正も含めて、いろいろな意見があるということは十分承知をしております。ですけれども、未婚の一人親に対する今回の税制改正というものは、今私が説明したような哲学にある意味で沿ったものになっているというふうに思っております。

 いろいろ私も、少し踏み込んで御説明させていただきましたし、意見を表明させていただきましたが、今後の御審議の参考になればということで、御清聴ありがとうございました。(拍手)

棚橋委員長 ありがとうございました。

 次に、八代公述人にお願いいたします。

八代公述人 昭和女子大学グローバルビジネス学部長の八代と申します。

 本日は、このような貴重な機会をいただきまして、ありがとうございました。

 私は、専ら今の日本の経済成長あるいは所得格差の問題に最も関係する、働き方の改革というところに焦点を絞ってお話しさせていただきたいと思います。

 まず、言わずもないことでございますが、働き方改革というのはなぜ必要なのかということでありまして、これは、一言で言えば、今の日本の働き方というのは、かつての高い経済成長の時代に成立して普及したものであって、非常に日本の経済の発展には大きな役割を果たしたわけです。

 ただ、今の日本は、急速な少子高齢化あるいは経済社会のグローバル化ということで大きく変化しているわけでありまして、過去は合理的であった日本の働き方もいろいろな問題点が生じているわけです。ですから、新しい環境に基づいた別の合理的な形に変わっていく必要があるんじゃないかということであります。

 あとは、今、急速な人口減少に日本は直面しているわけですので、女性、高齢者あるいは外国人材の効率的な活用というのは避けられないわけで、これは、個々の人材の活用だけじゃなくて、その効率的な配分、生産性の低い分野から高い分野に労働者が移動することで、本人の所得も上がりますし、社会全体としてもより高い所得が生まれるわけであります。

 それからもう一つは、やはり、働くだけじゃなくて、生活ということとバランスをとるということが大事でありまして、今、急速に発展する情報化社会で、仕事と家庭とのバランスを図るということが重要であります。これは、政府におかれましても副業とかテレワークを促進しておられるわけですが、それが、残念ながら、なかなか実態に反映されない。その原因は何なんだろうかということもお話ししたいと思います。

 一ページめくっていただきまして、経済成長の長期的な減速ということでありますが、左のグラフは戦後からの日本の経済成長率を示しているわけであります。大きく分けて、三つの時期に分かれます。一九九〇年から後は、非常に低い、平均して一%の成長率しか実現していないわけで、日本はもう少し高い成長ができる余地があるんじゃないかということが言われているわけであります。

 そのときの一つの鍵は、やはり労働力の問題でありまして、右のグラフは人口のピーク時からの減少を示しております。二〇〇〇年からの比較なわけですが、この青い棒グラフが全人口であります。

 これを見ますと、二〇二〇年現在でもわずか二百万人の減少であって、人口減少なんて大したことないじゃないかということも言われるわけです。

 しかし、これは高齢者がふえているからでありまして、働き手である二十歳から六十四歳の生産年齢人口だけを見ますと、実に、二〇〇〇年をピークにして一千万人の減少が生じているわけでありまして、一千万人減るということはやはりすさまじいインパクトでありまして、それが今の人手不足の大きな原因になっているわけですし、経済成長を抑制する大きな要因にもなっているかと思います。

 もう一ページめくっていただきまして、今の労働市場の大きな問題として、非正社員の増加というのがございます。この非正社員の増加をどうやって食いとめるのか、安定した雇用をどう実現するのかというのが大きな課題でありますけれども、なぜこんなに非正社員がふえているのかということであります。

 これは、実は、非正社員の比率というのを見ていただきますと、かつては一〇%ぐらいの水準が、今は急速に高まって、最近時点の二〇一九年では三九%に上がっております。私は、これは四〇%を超すのはもう時間の問題でありまして、場合によっては五〇%を超しても不思議はないと思います。

 それはなぜかといいますと、この非正社員の増加数を要因分解しますと、派遣社員は一三%にすぎないわけですが、パートタイムが六五%、これが大部分です。最近の大きな特徴としては、契約とか嘱託社員が急速にふえている。全体の二七%ぐらいを占めている。その七割が五十五歳以上なわけでして、はっきり言えば、これは定年退職後の再雇用の人たちなわけですね。今、団塊の世代は急速に高齢化していますから、これからどんどん定年退職者がふえてくるわけで、そういう人たちは、一年契約の再雇用を続けているわけですから、非正社員になるわけであります。

 ですから、こういう非正社員問題を考えるときに当たっては、やはり日本の正社員の働き方、それが次のページでありますけれども、日本の正社員の働き方自体と結びつけて考えないといけないわけで、何か、非正社員だけが勝手にふえているというと、そういう問題ではないわけであります。

 日本の正社員の働き方というのは、御承知のように、長期雇用保障、年功賃金、企業別組合、こういうことで象徴されているわけですが、こういう働き方というのは、実は、企業の中で熟練を形成し、あるいは長期的な関係ですので、円満な労使関係を築いてきた、ある意味で非常にメリットも大きかったわけです。

 ただ、その雇用保障の代償として労働者も大きな負担を担っているわけでありまして、例えば、長時間労働というのがもう不可欠になっている。

 なぜ、日本人がこんなに長時間労働をするのか。フランス人とかドイツ人は残業は基本的にしないのに、なぜかと考えますと、その一つの理由は、不況のときに雇用を守るための手段として労働時間の削減を使っているということがあるわけです。

 フランス人なんかの場合はふだんから残業しませんから、不況になるとレイオフ、首切りが必要になるわけですが、日本の場合はふだんから残業していますから、まずその残業をカットすることで雇用を守るということができるわけで、そういう意味で、雇用保障と長時間労働というのは切り離せない関係にあるということです。

 それからもう一つは、年齢とか勤続年数の長さで賃金を決める仕組み。これが、それなりに雇用を安定させるということなんですが、同時に画一的な定年退職制と不可分の関係にあるわけで、際限なく賃金を上げていけば当然企業は維持できないから、どこかでやめてもらわなきゃいけない。次のページをめくっていただきますと、この定年退職制というのが日本の高齢化社会では、今、最も大きなガンになっているわけです。

 つまり、同じ仕事能力を持っているにもかかわらず、六十歳とか六十五歳とか特定の年齢で画一的に解雇される、こういう野蛮な仕組みはほかの先進国では許されていないわけです。つまり、六十歳になったから解雇していいというのは、いわば黒人だから解雇していい、女性だから解雇していいと同じような、年齢による差別だという受けとめ方がされているわけです。

 これが日本では全く問題になっていないのは、定年までの雇用保障、年功賃金と包括的な契約だからでありまして、これをやはり見直す必要があるのではないかということです。

 それはなぜかと申しますと、年金との関係でありまして、今、社会保障の赤字、社会保障が膨張する大きな要因の半分ぐらいは年金なわけですけれども、この年金改革の一番大きな鍵が年金支給開始年齢の引上げなわけです。

 これはなぜかというと、OECDの諸国と比較していただきますが、日本の場合は、男性について八十一ぐらいです、今もうちょっと長くなっていますが。年金の支給開始年齢は今は六十三歳で、二〇二五年に向けて六十五歳まで引き上げられることが決まっている。六十五歳まで引き上げられたとすると、八十一歳まで、実に十六年間も年金をもらうことになる。

 ところが、ほかの国では、日本より平均寿命が短く支給開始年齢が長いので、大体十年ぐらいをもらうというのが相場なわけです。

 このように、日本の年金水準が高いか低いかの議論はありますが、もらう期間が長過ぎるということがやはり年金制度の安定性を弱める非常に大きな問題になっているわけです。

 もちろん、年金の支給開始年齢を上げるということは非常に国民の反発を生むわけで、政治的には難しいわけですけれども、ほかの先進国は全てこれをやっているわけですね。ですから、オーストラリアのように日本人とほぼ平均寿命が変わらないところでは七十というところまでやっていて、平均十年の支給期間を確保しているわけです。

 これが女性になりますと更に六歳年齢が長いので、二十二年近くももらうことになって、こういう年金制度はやはりもたないわけです。

 ですから、速やかに、高齢者がもっと働いて社会保険料を払い税金を払うことで、働き手人口と一緒になって年金を支えるという仕組みに持っていかなければ、日本の年金制度はもたないのではないか。

 そういう意味でも、定年退職というような、繰り返しますが、野蛮な制度はできるだけ廃止して、何歳になっても労働者が働けるような仕組みに変えていく必要があろうかと思います。

 もう一枚めくっていただきますと、政府もそのためにどういうことをされているかというと、高年齢者雇用安定法というのをつくってあります。済みません、年が抜けておりますので、直していただければと思います。

 この高年齢者雇用安定法というのは、定年退職はそのままにした上で六十五歳までの雇用を維持する。繰り返しますが、これは非正社員として一年契約で維持するということです。これを大体八割の労働者が受け入れているわけでありますけれども、これはある意味でいろいろな問題点があるわけです。

 確かに、六十五歳まで働けるということは、その人たちにとってはいいことでありますけれども、逆に言えば、そういう恵まれた環境でない人、例えば、中小企業だと賃金はもっと低いわけですが、大企業だと賃金が高い。一旦定年退職した再雇用のときには賃金は下がりますが、その下がり方も二割から五割と非常に大きな差がある。それから、言うまでもなく、非正社員の人はこの恩恵は受けられないわけであります。

 ですから、この高年齢者雇用安定法という考え方は、今の定年退職制度は放置した上で、いわば継ぎはぎ的に高齢者の雇用を企業の負担で賄うという考え方なわけです。

 しかも、今国会において、この高年齢者雇用安定法を更に七十まで上げる。当面は努力義務ですが、過去の経験からすれば、いずれ数年後にはこれを義務化するわけですが、それは少しやはり問題ではないか。高齢者が働けるような労働市場をつくるのは大事ですけれども、それはやはり年功カーブをフラット化していく、それから、高齢者の雇用を流動化して、能力と意欲に応じて働けるような場をつくるというのが本筋であって、日本の企業が定年制を廃止できるような環境をつくるのが政府の役割であって、ただ義務づけるというのはやはり問題ではないかと思います。

 その次のグラフでございますが、これは、今の賃金格差がどこから来ているかということでありまして、正社員と非正社員、あるいは、正社員でも男性と女性の間には非常に大きな格差がありますが、これはいずれも、若年期は小さくて中高年になると大きくなるという年功カーブから来ているわけであります。ですから、賃金格差というのは実は年功カーブの格差なわけで、年功賃金を維持したままでどうやって格差を縮められるのかというのが大きなポイントであるわけです。

 もう一枚めくっていただきまして、そういうことで、同一労働同一賃金というのが今回新しい働き方改革としてつくられたわけでして、賃金というのはもともと労使で決めるのが原則なわけですが、賃金差が余りにも大きいと問題があるということで、政府が同一労働同一賃金というのをつくったわけです。

 この同一労働同一賃金というのは、働き方の違いにかかわらず公平な賃金ということでありますが、これは、欧米では職種別労働市場とセットで議論されているわけです。職種別の労働市場では、一部の労働者が勝手に低い賃金で働くということを労働組合は許さないわけですね。そんなことをしたら自分たちの賃金に反映しますから。

 しかし、日本のような企業別組合であれば、企業の中と外の労働者の賃金格差はあっても当然なわけです。労働市場が違うわけですから。それから、企業の中でも正社員と非正社員の間には大きな賃金格差がある。先ほどのグラフで見ていただいたとおりであります。

 ですから、こういう企業別の労働市場の中で、どうやって同一労働同一賃金がそもそもできるのか、ここはきちっと議論しなきゃいけないのに、それが余り議論もされずに、日本では職種別労働市場は無理だ、だから企業の中で不合理な賃金格差は是正するという形で、今の同一労働同一賃金法ができているわけです。

 では、不合理な格差とは何かということなんですが、その定義が実はかなり問題がありまして、企業の中で同じ勤続年数であれば、無期正社員と有期非正社員との格差はあってはならない、これで非合理的な格差は是正するというガイドラインができているわけでありますが、これは余り意味がない。

 なぜならば、有期の人というのは、無期の人と違ってそんなに長い間勤続できないわけです。大体平均四、五年でかわっているわけですから、仮に正社員と同じ賃金体系を非正社員に適用したとしても、年功賃金の恩恵を受ける前にやめてしまうわけですから、依然として賃金格差は残るわけです。

 そういう意味で、こういう、勤続年数の違いで賃金を決めるのは合理的だという厚労省のガイドラインは、今の正社員と非正社員の格差をむしろ正当化するようなものであるわけです。それはおかしいんじゃないか。同じ仕事をしていれば、正社員であろうが非正社員であろうが同じ賃金をもらうというのが本来の同一労働同一賃金であって、それは年功賃金に手を入れなければ無理なわけです。

 そもそも、製造業であればともかく、今の情報化社会のもとで、勤続年数が長いから生産性が高いということが本当に言えるのかどうか、その検証が大事なわけです。

 昨年、この一番いい例として、トラック運転手が訴訟をしました。定年退職後のトラック運転手が、定年前と全く同じ距離を走っているのになぜ賃金が二割以上も低いのかといって訴えて、東京地裁では運転手が勝ったわけですが、最高裁では会社側が勝った。

 その最高裁の論理というのは、一言で言えば、これは社会慣行だと。定年退職した後賃金が下がるのは。別の言い方をすると、みんながしているからいいんだと。こんなロジックがあるかということでありまして、みんながしていれば黒人差別でもいいのか、女性差別をしてもいいのかということになるわけで、こういうところがやはり裁判所の限界だと思います。

 そういう意味では、きちっと法制化することで、本当の意味で同じ仕事をしていれば同じ賃金というのをきちっとつくらないと、勤続年数という不明瞭な指標を入れるということはやはり非常に問題になるかと思います。

 それからもう一つは、次のページでありますが、今回の同一労働同一賃金では、企業の説明義務というのが入っています。

 これは非常に大事な点なわけでして、例えば、アメリカの企業はしょっちゅう労働者から訴えられているわけですね、なぜ自分の賃金が同僚よりも低いのかと。訴えられた企業は、あなたの賃金が低いのは、別に黒人だからじゃなくて、あなたの仕事が質が低いからだということをきちっと立証しなきゃいけない。立証しなければ、結局裁判で負けるわけです。

 これが本来格差を是正するためには必要なわけですが、日本の同一労働同一賃金では結果的にどうなったかというと、要するに、説明義務はしなきゃいけない、しかしそれは、労働者が納得するかどうかは関係ないんだ、企業が説明すればいいんだと。もし労働者が納得しなくて裁判になったら、労働者は今の賃金の不合理性を証明しろ、企業は合理性を説明しろ、双方に立証責任があるという、非常に中途半端な形になったわけでありまして、これでは労働者が勝てるわけはないわけです、人事記録を持っていませんから。

 ですから、きちっとして、本来の同一労働同一賃金法を入れるなら、米国型の、企業の方がきちっと差別をしていないということを立証する責任を課さないといけないわけで、それがうやむやになってしまったということです。

 そういうことをしたら企業にとって過重な負担になるんじゃないかという批判があるわけですけれども、しかし、それは同時に、企業の中の例えば人事管理の合理化にもつながるわけでありまして、決して企業も損ではないんじゃないかということです。

 ちょっと時間がないので飛ばしますが、最後の、正社員の働き方の改革というのを見ていただきたいと思います。

 ですから、非正社員だけをいじるんじゃなくて、本来正社員と非正社員の格差を是正するためには、正社員の働き方も変えなきゃいけない。どういうふうに変えなきゃいけないかというと、今の、雇用保障をするかわりに、何でも働け、どんな仕事でもどこでもやれ、こういう無限定な働き方というやり方を変えて、できるだけ職種を限定する、地域を限定する、そういう欧米型の働き方に正社員を変えていく。

 右側に単身赴任比率というのがありますが、これは単身赴任の数です。これは今でもふえ続けています。こんなふうに会社の命令で家族が引き裂かれる、こんなことは外国の労働組合は絶対受け入れないことでありますが、日本の労働組合はこれは雇用保障のためにやむを得ないということで受け入れているわけでありして、やはりそれはやめなければいけないわけで、そういう意味では、きちっと限定正社員というのをもっとふやしていく必要があるんじゃないかということです。

 それから、副業というものも今は原則解禁になっておりますけれども、副業を普及するということは、労働者が特定の企業に依存する働き方を変える上でも極めて重要なわけです。労働条件の悪い、賃金の低い企業から労働者が自由に転職できるような環境をつくるというのが最大の労働者保護ではないかと思っております。

 テレワークについても、時間と場所に制約されない働き方をぜひ推進する必要があろうかと思います。

 最後に一言だけ、今話題になっています男性の育児休業の取得についてコメントさせていただきます。

 女性だけじゃなくて男性も育児休業をとるということは非常に大事なことですが、なかなか進まない。政府は二〇二〇年度から国家公務員についても一カ月以上の育休の取得を義務づけるということで、これは大変結構なことですけれども、本当にできるのかということです。

 つまり、今なぜ男性の育休が進まないかというと、上司が無理解だからだ、こういう非常に単純な分析がされているわけなんですが、本当にそうだろうか。国家公務員であろうが民間であろうが、男性が育児休業をとりにくいのは、やはり、自分の仕事に責任を持って、ほかの人ではできない仕事を任されている面があって、女性と同じように完全に職場から切り離された休業を何カ月もとるというのは非常に難しいわけです。

 ですから、今の育児休業法を規制緩和して、やはり、パートタイムの就業をしても不利にならないような仕組みをとっていく、それによって男性の育児休業、女性も管理職のような人はそういう形をとると思いますが、もう少し、何でも規制で対応するのではなくて、人々の行動様式を考えた上で弾力的な制度にすることによって、もっと育児休業の取得率を高めるということが大事ではないかと思います。

 御清聴どうもありがとうございました。(拍手)

棚橋委員長 ありがとうございました。

    ―――――――――――――

棚橋委員長 これより公述人に対する質疑を行います。

 質疑の申出がありますので、順次これを許します。山口壯君。

山口(壯)委員 きょうは四人の先生方に、貴重な意見陳述、本当にありがとうございました。

 自由民主党の山口壯です。よろしくお願いします。

 最初に小林先生ですけれども、先生の方から、財政危機についてのいろいろな示唆に富む話もありました。また、金利が低下していることによって格差が拡大しているんだという話もありました。

 先生が、二〇二〇年ですからことしの二月十三日付で日経の記事に書かれた「格差是正、停滞脱出のカギ」、これでやはり格差というものをどういうふうに捉えるかということが今とても大事なんじゃないかと思います。

 四人の先生方に共通して所得格差の話は出てきました。今の資本主義というものがどこまでうまくいくのかという議論の中で、この格差の問題というのが先進工業諸国において特に問題になっている。このことが中間層の没落を招き、また民主主義の危機にまで議論がいっている。

 考えてみれば、中国にも似たようなことがあるんですね。中国は、赤い資本主義ということで突っ走って、今、格差が拡大している、それで共産党の危機ということもしばしば言われている。

 考えてみたら、テロリズムというのも、未来に希望が見えないと現状を破壊してしまおうかという意味では、そこに格差の問題というのが隠されていると思うんです。

 その意味では、小林先生の目から見て、二〇二〇年度のこの予算案、格差是正という観点から見るとどういうふうに評価されるのか、そのことについて一言コメントをいただければと思います。

小林公述人 御質問をどうもありがとうございます。

 二〇二〇年度のということでございましたけれども、格差の拡大というのは、先ほども資料の中で述べた金利の低下と関連しておりまして、グローバルな現象ではあるわけですね。一九八〇年代から、アメリカ、ヨーロッパ、日本、いろいろな国で格差の拡大というのが起きてきていて、その背景にあるのはテクノロジーの変化が格差の是正の根本的な原因なんだろうというふうに、私や何人かの新古典派の経済学者はそういう見方をしております。

 ですので、本質的な是正というのは、情報化の技術とか人工知能のような新しい技術が社会の中に定着をして、その結果、社会構造が変わることで中間層が新しく生まれてくるということなんだと思います。ですので、ある意味で、イノベーションを社会全体が受け入れられるような方向に導く政策というのが必要とされていて、そのためのいろいろな政策をこれから考えていくべきかなというふうに思っています。

 今の予算は、もちろん全世代型の社会保障を目指しているということで、大変、方向性としては、問題に対して対処しようといういい方向に行っているのではないかというふうに考えております。

山口(壯)委員 ありがとうございます。

 逢見先生は、きょうは連合の代表としてお越しいただいていて、確かに、年収二百万円以下の方が千百万人いる、これは大変なことだと思うんです。また、ただ、教育について、一部、高等教育について格差を是正するというものも入っているけれども、税制の中で必ずしも全体像が示されていないんじゃないかという問題意識もあったと思うんです。

 働く仲間の代表としていろいろと考えられる中で、やはりこの二〇二〇年度の予算案について、きょうは相当いろいろ多岐にわたって詳細のコメントもいただいたわけですけれども、この二〇二〇年度の予算案について、逢見先生として、格差をなくしていくという観点から、改めてどういうふうに評価されますですか。

逢見公述人 格差の問題につきましては、冒頭の陳述でも幾つか述べさせていただきましたけれども、政府としてやるべきことは、一つは、税と社会保障の所得再分配機能をきちんと働かせるということだと思いますが、それについて言うと、私の印象としてはまだまだ不十分であるということです。

 個別には、例えば教育の問題について、無償化を進めるとか、あるいは給付型の奨学金を入れるとかということで改善している部分はあります。しかしながら、まだ課題はいろいろありまして、低所得者層に限られているので、中間層でもあずかれていない人たちがいるということ。

 それから、年金についても、基礎年金部分が、今後、マクロ経済スライドが導入されていくと低下していくことがあって、そういう点で格差を拡大しかねない問題があるんですが、そういうところの対策がまだ不十分であるというようなことがあります。

山口(壯)委員 ありがとうございます。

 また、小黒先生の陳述の中でも、社会保障改革が正念場はこれからだというコメントもありました。

 持続可能な社会保障という用語を使われる中で、一つ例として、一人親の、未婚の一人親に対する税制の措置、それは非常に肯定的に評価していただいたと思うし、また、限られた財源をどういうふうに困った人に集中的に配分するべきかというコメントもいただきました。

 先生として、この二〇二〇年度の予算案、格差を是正するという観点からどういうふうに評価されるか。この一人親の、未婚の一人親の措置のみならず、全般的に評価いただけるとしたら、どうなりますですか。

小黒公述人 先生、御質問ありがとうございます。

 格差是正という観点から見ますと、予算案だけではなくて、政府が持っている制度としては、大きく三つあると思っております。

 一つは、社会保障の仕組みです。もう一つは、税制で、もう一つは、意外にそういうふうに思われていないかもしれませんけれども、やはり国と地方の中での再分配、例えば地方交付税みたいなものを通じた格差の是正であるかなと。

 その場合、一度に全ての格差をならすということはなかなか難しいとは思うんですけれども、例えば、一つ税制の話で私がお話ししたところでは、やはり未婚の一人親、例えば母子家庭みたいなところが多分ターゲットになると思いますけれども、これは余りにも格差という観点から今まで対応がされてこなかった。その部分について今回対応するというような措置をとったということは、これは本当に、繰り返しになりますが、すばらしいことだと思います。

 他方で、社会保障の方はどうかというと、これは、今、全世代型社会保障の方でいろいろ議論されている内容と関連すると思いますけれども。

 例えば医療の窓口負担を一つとったとしても、これは十分難しいことは承知した上でちょっと一応発言させていただければ、年齢別で、本当に所得の多寡、資産の高低を含めて困っている方々がどうのこうのという問題よりも、やはり今、現役世代の中でも非正規の方々が相当ふえてくるという中で、生活保護世帯も全体としては二百万人ぐらいまでふえているということで、これは非常にふえているわけです。その中で、確かに高齢者の方々も多いですけれども、半分ぐらいが高齢者だと思いますが、半分ぐらいは実は現役になっているということを考えると、やはりこの部分についてどうしていくのかというようなことも重要なのかなと。これは今、与党と政府の方で七十五歳以上の自己負担のところについて議論されている、一定割合、一割のところを二割に変えていくというふうな議論もありますので、そこが今後どうなっていくのかということも一つ重要なのかなと。

 あとは、先ほど年金の議論もございましたけれども、年金については、二〇一九年の財政検証の中で、基礎年金が、例えばケース3ですと三〇%ぐらいマクロ経済スライドで今後目減りするというふうな話もある中で、この部分をどうしていくのかということについて、これは今の話ではないと思いますけれども、今後議論いただければというふうに思います。

 最後に、地方の方ですけれども、こちらの方についてはいろいろ地方創生の方でまた対応しているということを認識しておりますので、そういう意味でも、一定程度対応されているんじゃないかというふうに思っております。

山口(壯)委員 ありがとうございます。

 八代先生に更にお伺いしたいわけですけれども、先生の方から賃金格差についての言及もあって、同一労働同一賃金というものの捉え方の話もいただきました。

 先生は、二〇一一年に本を出されていて、「新自由主義の復権」ということで、日本経済はなぜ停滞しているのかということを論じられて、確かに、先生がずっときょうおっしゃっておられたこともその文脈の中でいろいろとまた解釈させていただいたんですけれども。また、二〇一六年にシルバー民主主義という用語も使われて、高齢者優遇のシルバー民主主義というものの結果、年金の支給額というのがなかなか抑制できずに、その意味で保育とか次世代向けの支出がなかなか伸びない、こういうシルバー民主主義をどういうふうに打開すべきかということもいろいろと論じられていて興味深かったんですけれども。また、多分同趣旨だと思うんです、二〇一八年に、脱ポピュリズム国家ということで改革が先送りされてしまっているということも論じられていると思うんです。

 そんな中で、二〇二〇年度の予算案の中で、先生がいろいろと言われている、新自由主義というふうに言われるのは先生は多分好まれないと思うし、その意味では必要な改革をすべきだということを多分おっしゃっておられるので、そのことについて私自身ももちろん共有するんですけれども、そういう目から見て、二〇二〇年度の予算案について、これは格差につながっていく話だと思うんです、格差をどう捉えるか、それをどういうふうに是正するかにもつながっていく話だと思うんですけれども、先生の目から見てどういうふうに評価されますですか。

八代公述人 御質問どうもありがとうございました。

 格差の問題は非常に大事でございまして、先ほども小林参考人の方から税制の問題ということを言われたんですが、もう一つ、やはり社会保障の構成に私は問題があると思うんですね。

 日本の社会保障費の実は九割近くが社会保険、年金とか医療、介護保険で賄われていて、これはいわば水平的な再分配をする機能で、本当の垂直的な再分配、貧しい人に集中的に投じられるのは福祉であって、この比率が日本は非常に低いわけですね。

 だから、やはりもう少し社会保険の給付を抑制して福祉の方をふやす。その点、今回は一人親とか母子世帯の方にある程度の給付がふえたことは非常にいいことだと思いますが、やはり私は、大事なのは生活保護費の改革、改革というと減らす方ばかりなんですが、生活保護というのは最も基礎的な所得再分配の手段であって、これを重視するということがやはり日本の所得再分配機能を高める非常に大きな要素だと思います。

 そんな財源がどこにあるかということなんですが、私がかつて規制改革会議にいたとき、こういう提案をしたことがあります。今の生活保護費の半分は医療扶助なんですよね。医療扶助を国民健康保険から賄ってもらえばいいと。つまり、生活保護の人に国民健康保険の保険料を扶助して、それから利用者負担も補助する。介護保険はそうなっているんですよね。ですから、そうすると医療保険の、国保の方は大変だと言いますけれども、それは規模が大きいので、今の生活保護費が半分で済むということは、今の生活保護費の予算を倍にできるわけですね、医療費以外は。

 こういうような、かなり構造改革を伴うことによって、政府の財源全体に大きな負担をかけずにより所得再分配的な効果ができるかと思います。

 それから、全世代型社会保障ということの点は、もう少し高齢者の方に負担をしてもらって、若年者生活世帯に回す。今、所得格差が拡大する一つの大きな要因は、もちろん先ほど言われたようなイノベーションなんですが、もう一つの大きな要因は高齢化なんですよね。

 つまり、高齢者層というのは最も所得格差が大きなグループであって、この人たちの比率が高まることによって日本全体の所得格差が高まるというのは、阪大の大竹教授が昔証明されたとおりでありまして、そうであれば、所得再分配というのは、むしろ、豊かな高齢者から貧しい高齢者に再分配機能を強化するというのが最も効率的な所得再分配政策で、そのためには、高齢者の抵抗がありますけれども、しかしそこはきちっと説得するということで、やはり実現することでより効果的な所得再分配ができるんじゃないかと思っております。

山口(壯)委員 どうも、きょうは四人の先生方、貴重な意見、ありがとうございます。

 格差を是正して、そのことによって中間層をしっかり支えて民主主義を守っていく、日本の政治もそういうことでしっかり頑張っていきますので、またいろいろと御示唆ください。

 どうもありがとうございます。

棚橋委員長 次に、濱村進君。

濱村委員 公明党の濱村進でございます。

 四人の公述人の皆様、さまざま貴重な御意見を頂戴いたしまして、ありがとうございました。

 まず、小林先生からは、経済財政運営についてということで、フューチャーデザインの話も引かれながら、非常に興味深いお話を聞けたなと思っております。まさにこのフューチャーデザインの考え方、社会保障を議論するに当たって、この考え方を取り入れていかなければならないんじゃないかという実感をしたところでございます。

 そして、その次に、逢見さんからは、私が農水の政務官時代にも、農水省に連合さんのさまざまな施策、御要請についてお越しいただいたわけでございますけれども、多岐にわたる論点できょうお話をいただきました。

 その中で一つ、軽減税率の話もございましたけれども、支出額について、おっしゃっていることは私もよく理解をいたします。その上で申し上げるならば、よく我々も言うのが、支出における割合だというような話もいたします。ただ、大事なことは、これ自体の反省点。制度の欠陥、あるいは制度としてパーフェクトなものはないんだろうと思っておりますけれども、今、社会の要請からしてどのような選択肢があるのかということで選んだということは重大なことであると思っております。

 給付つき税額控除についても、確かに分配機能としてはすぐれている観点があるわけでございまして、ただ、残念ながら直ちに実装することができないという欠点もございました。これが解決できれば、十分に選択肢になり得るんじゃないかと個人的には考えております。

 小黒先生には、財政、社会保障についてさまざまいただいた上で、さらには一人親の件についてもお触れいただいたわけでございますし、八代先生には、働き方改革、トラック運転手の方の賃金引下げの件、これは社会慣行だということで最高裁の判決が出た。これはなかなか、社会慣行というのは、社会のあり方というのは一朝一夕には変えられないですし、それを乱暴に変えていくというのは余り望ましいことではないと思っておりますけれども、今そうも言っていられない状況もあるんじゃないかというのは一方で思うところもございます。

 その上で、ちょっとさまざまお伺いしていきたいと思っておりますが、まず小黒先生にお伺いをしたいと思います。

 小林先生からもございましたが、財政への信認を維持していくことということは非常に重要だと私も思っております。その一方で、公共投資をしっかりと行っていくことも重要だと思っておるんですが、社会保障の伸びを抑制しながら公共投資を行っていかなければいけないと思っているんですけれども、そうなりますと、どの程度の公債等残高を維持していきながら、その上で、上限はどの程度まで目安にして残高を伸ばしていっていいものかしらというところが、なかなか私も確証を持って言えないなというふうに思っております。

 財政の観点からどのようにお考えになるか、小黒先生にお伺いしたいと思います。

小黒公述人 御質問ありがとうございます。

 これは、正直申し上げまして、公債等残高GDP比が今大体二〇〇%ぐらいになっておりますが、これが、では、何%ぐらいまでになったときに本当に財政が危機的な状況になるのかということについては、多分、誰も明言はできないという状況であると思います。

 しかしながら、ある程度目安みたいなものはあるのではないかなというふうに思ってございます。

 例えば、公債等残高GDP比が四〇〇%とか、あるいは五〇〇%という水準にまでなっていくということになると、やはりこれは相当もう難しいだろうと。

 昔、ラインハート、ロゴフが、日本語の洋書名ですと「国家は破綻する」というやつで出していましたけれども、その中に出ているいろいろなデータとかを見ましても、やはり過剰債務がGDP比で三〇〇%ぐらいになると、サンプル数は少ないんですけれども、その三分の一ぐらいは後々見ると危機的な状態になる、要するに、債務のいろいろな再編をしなければいけないという状況になるというような表も載ってございます。ですので、そういう意味では、やはり、いっても三〇〇%ぐらいか、それぐらいかというのが何となく目安としてはあるのかなと。

 では、その場合、日本の財政で、一つ指標でとった場合、財政赤字のGDP比みたいなものがございますけれども、これをどれぐらいの水準まで引き下げればいいのかということも重要だと思います。

 その場合、最近、直近で出しました内閣府の中長期試算がございますが、これの比較的現実的なベースラインケースで見た場合、二〇二九年度の財政赤字のGDP比は、国、地方合わせて大体二・六%ぐらいの赤字になるというような水準になってございます。

 ちょっとここでは資料をお持ちしていないんですけれども、いわゆるドーマー命題と呼ばれるものがございまして、平均的に、今後、GDPの名目成長率がこれぐらいでいく、他方で財政赤字のGDP比がこれぐらいでいくとした場合に、名目成長率で財政赤字のGDP比を割り込むと、長期的に債務残高GDP比がどれぐらいにいくかというような計算ができる簡易試算がございます。

 今、名目GDPはどれぐらいの水準かと申しますと、一九九五年度から現在、直近までの平均をとりますと、実は〇・四%ちょっとぐらいしかない、いっても〇・五%ぐらいだと。ただ、今、いろいろ政権で苦労される中でも、やはり名目成長率は徐々に上がってきているということもありますので、仮に一%ぐらいだとしますと、二・六%の赤字を一%で割りますと二六〇%。仮に〇・五%だと、要はもう四〇〇%を超える、〇・五%で二・六%を割ると大体五二〇%ぐらいになっちゃいますので。

 そういう意味では、一つは、成長率を少し上げながら、やはり財政赤字のGDP比を最低でも二%レンジぐらいまで赤字幅を縮小していくというような努力をしていただくということが重要ではないかなというふうに思っております。

濱村委員 大変参考になりました。ありがとうございます。

 社会保障の伸びを抑制するために、ちょっと踏み込んだ議論ということで御発言があった、基礎年金の公費負担の話もございました。これは先ほど山口先生のときにもお話があったので、ちょっとこれはさまざま議論していかなければいけないなと私も思っております。

 そして、あともう一つ、等価可処分所得が一人親と未婚の子のみ世帯では一貫して低下している。低下し続けてきているところに、ちゃんと今回の、一人親に対しての控除を広げたということ自体は非常に重要なことだと思っておりますが、まず、そもそもこの低下してきた点における原因というものが、何かしら小黒先生の方で分析なり、こういう傾向があるんじゃないか等ございますれば御教示いただければと思いますが、いかがでございましょうか。

小黒公述人 一言で申しますと、データを見ますと、全世帯平均での等価可処分所得は上昇してきているということはございます。

 他方で、やはり今、いろいろな意味で労働環境も変わってきているという中で、非正規雇用、特に働きながら子供を育てるということは相当大変でございますので、なかなか所得が上がらない。

 この二つの要因で、これはあくまでも平均的な、全体の等価可処分所得に対して母子家庭の中での平均的な等価可処分所得、母子家庭ってごめんなさい、一人親のです、未婚、これがどうなってきたのかということで、ここが余り上がらない中で全体が上がってきているという中で、低下してきているということでございます。

濱村委員 ありがとうございます。

 もう一点、ちょっとこれは逢見さんにお伺いしたいと思います。

 確かに、教育無償化はまだまだ不十分な点はあるというふうに思っております。中間層を含めて恩恵があるようにということでございますけれども、一歩前進したという評価をしていただいている部分もございますけれども、私はまだまだこれは進めなければいけないと思っております。

 今回、一応、国で水準をつくって、中間層の方々になかなか行き渡っていないということはございますけれども、これまでも各地方自治体において取組があったわけでございます。そういう地方自治体ならではの取組というのは、ある一定の、基礎自治体等を含めての財政の支出があったわけでございますけれども、こうしたものが、今回国が制度導入することによって浮いてくるわけでございます。これを活用して、更に対象となる所得水準を引き上げていこうというような取組を自治体の方でやっているということも実際問題としてあると思っております。

 私は、こうした格差解消といいますか、地方にも分配していくという観点でいうと非常にいい傾向だと思っておりますが、地域に応じてこのような取組をやっている点についてどのような評価をされておられるのか、御意見を伺いたいと思います。

逢見公述人 質問ありがとうございます。

 基本的には、教育というのは普遍的なものであって、どこに住んでいても権利は同じものが受けられるというのがベースだと思います。

 もちろん、地方自治体がそれぞれの財源の中で暮らしやすい環境づくりのためにいろいろな部分に予算を使うという中に、教育についての負担軽減というのも選択肢としてはあると思います。

 しかし、それが余りに差がつき過ぎますと、住んでいる地域でこんなにも違うのかというのがありますので、そこの程度問題であるというのと同時に、その地域で住むことの魅力をいかに発信するかという、そこの兼ね合いで判断すべき問題だと思います。

濱村委員 ありがとうございます。

 おっしゃるとおり、国でしっかりと、どこの地域に住んでいるからといって差があってはいけないという御指摘は、非常に重要な御指摘だと思っております。

 引き続きしっかり取り組んでまいりたいと思いますが、最後に、小林先生に一つだけ。

 財政への信認を維持するために重要なこと、PB赤字に上限を設定とか、あるいはコンティンジェンシープランを作成するといった具体的なお話もいただいております。私、非常に重要だと思っておりますけれども、一方で、市中の投資には、その実行力に限りがあると思います。人が必要であったりとかさまざま、設備であったりとか、投入量については限界があるわけでございますので、自然とキャップははまってくるんじゃないかというふうに思っております。

 そういう観点からすれば、無尽蔵に赤字になるというようなことはないんじゃないかと私は思っておりますが、先生の御意見を伺えればと思います。

小林公述人 御質問ありがとうございます。

 おっしゃるとおりでありまして、プライマリーバランスは今、赤字が減少傾向になっていて、そういう意味では改善の兆しがあるわけですので、無制限にどんどん赤字がふえていくということはこれからも考えにくいのかなと。ただ、何らかの経済危機のようなことが、またリーマン・ショックのようなことが起こったときには大幅に下がる可能性もありますので、それに備えて、なるべくであれば赤字を今よりも更に縮める、あるいは約束どおりプライマリーバランスの黒字化を達成するということが、大事な、目指すべき目標ではないかなというふうに考えております。

 どうもありがとうございます。

濱村委員 ありがとうございます。

 本当に何かあった場合、危機に対応するためには、コンティンジェンシープランに即して歳出を削減していくということ、非常に示唆のあるお話であったなと思っております。

 八代先生、本当はお聞きしたかったこともあったんですが、時間でございますので、きょうはこれで終わりにさせていただきます。

 ありがとうございました。

棚橋委員長 次に、岡本充功君。

岡本(充)委員 きょうは、大変示唆に富むお話を四人の公述人の皆様にいただきました。

 岡本でございます。ありがとうございます。

 限られた時間ですので、それぞれにちょっと御質問させていただきながら、意見交換させていただければと思います。

 まず、小林公述人の方にお尋ねしたいんです。

 確かに、実質GDPの成長率と実質金利との関係というのは、極めて大きな、財政的に、そしてまた将来にわたって日本のとるべき経済政策にも影響があるということはわかるわけでありますが、資料の三ページの方でお示しをいただいた、現状と言われる金利とGDPのあの比を見たときに、金利の方が低いときにはこれでいいよねと。でも、いやいや、金利が上がってきてしまった場合には、より厳しいプライマリーバランスの黒字化が必要であり、なおかつ、場合によっては、インフレか、どちらかが制御不能にという大変刺激的な表現が使われておったわけであります。

 このrがでかいかgがでかいかという転換は、あらかじめ予測として必ずしもわかるものではないんじゃないかと思ったりもするわけでありますが、そう機動的にころころ変えるわけにもいかないという中で、やはりベーシックにやっていかなきゃいけないことというのがあるんじゃないか、こう思うわけですが、それはやはりプライマリーバランスの黒字化を目指していく、そういった考え方は、どちらが大きかろうと目指していくべき、こういうお考えだという理解でよろしいでしょうか。

小林公述人 御質問ありがとうございます。

 おっしゃるとおりでありまして、将来的な危機のようなことに備えるためにも、プライマリーバランスの黒字化は目指すべきだろうと思います。

 ただ、金利が今現在、成長率よりも低い状態であって、それがかなり、これから先の将来もしばらくは続きそうであるという見込みがあるということは、多少余裕ができてきた、数年前は金利の方が高かったものですから、そのときに比べると財政再建のスピードについて多少余裕ができてきたという程度の違いはあろうかと思いますけれども、最終的には黒字を目指していくべきだろうというふうに思います。

岡本(充)委員 常にその目指していく方向性にあるということであって、余裕が出てきたからといって野方図に使ってはいけない、こういう御示唆でありますね。うなずいていただいている、ありがとうございます。ぜひ私もそういうことを心がけて政策は立てていくべきじゃないかなと思っているわけであります。

 続いて、給付つき税額控除についてお伺いをしたいと思います。

 いろいろな方法で消費税のいわゆる逆進性対策をとっていくという議論があるわけでありますが、まずは逢見公述人にお尋ねしたいと思いますけれども、給付つき税額控除について、具体的にどのような制度とするべきだ、こういうふうにお考えなのかということをお答えいただければと思います。

逢見公述人 御質問ありがとうございます。

 具体的には、連合としては二つの提言がございます。

 一つは、消費税の還付制度の導入であります。

 イメージとしては、合計所得が課税最低限の人に対して、扶養者数に応じて、最低限の基礎的消費にかかる消費税負担相当分を定額で還付するというものであります。そして、課税最低限の水準から徐々に低減していって、いずれかのレベルになればそこで消失するという制度もあわせて講じていくということでございます。

 二点目は、就労支援給付制度というものでありまして、これは、給与所得が五十五万円から二百万円で社会保険料や雇用保険料を負担している雇用者世帯、約一千五百万人ぐらいいると見込まれておりますが、こうした人たちの社会保険料や雇用保険料の半額に相当する金額、本人負担分になるわけですから、これを所得税から控除するということであります。

 こうしたことによって、低額所得者の消費税における逆進的な負担の部分を緩和することができると思います。

 いずれの制度も、適切な所得捕捉が原則、大前提となります。マイナンバー制度を信頼の置ける制度として国民の間にこれを定着して、こうした給付制度についても活用していくことが求められると思います。

岡本(充)委員 ありがとうございます。

 私も、かねてより給付つき税額控除の必要性を訴えてきたわけでありますが。いずれにしても、どの政党も、その逆進性の緩和が必要だという中で何を選んでいくかという選択肢になるわけでありますけれども。

 今回、小黒先生にもお越しをいただいているんですが、これまでも各種委員会等で御意見を伺ったことがあるわけですけれども、この給付つき税額控除について先生はどのようにお考えなのかということをちょっと教えていただければと思います。

小黒公述人 ありがとうございます。

 限られた財源を、必要な、例えば所得の面それから資産の面でも本当に困っている方々に集中的に再分配をしていくという仕組みとしては、かなりすぐれたものだろうというふうには思っております。

 先ほどでは、カナダとイギリスの事例みたいなものが少し出ていたと思うんですけれども、やはりそのためには、まずマイナンバーをきちっと国民に多く使っていただいて、全体の所得を把握するという環境をどうつくっていくかということがまず一番に重要なことになろうと思います。

 現状では、一応、通知カードみたいなものについてはある程度持っている方々もいますけれども、やはりなかなかマイナンバーについては今まだ持っていない方もいらっしゃるということで、ここをどうしていくのかということがやはり一番課題かなというふうに思います。

 今、政府の方では、昨年のたしか十一月ぐらいだと思いますけれども、マイナポータルAP、これは今までアンドロイドしか出ていなかったものを、iPhoneでも出すようにしております。

 例えば、そういったものの中に、これは私のアイデアなんですけれども、横軸に例えば課税前の所得があるもので、縦軸にその課税後の所得があったときに、何らかのインセンティブで、例えば企業の方ですけれども、今、給与の明細書とかを送っていますけれども、これはe―Taxとかも連携していますので、例えば給与の明細書みたいなものを、今、ちょっと細かな話ですけれども、e―私書箱みたいなものを野村総研がエストニアのX―Roadみたいな形で入れ始めております。なので、例えば給与明細書みたいなものをここに連動して入れて、それが、個人個人の給与明細がそこにたまっていく、国民のデータで、ある程度たまっていけば、どういう再分配というか、課税前と課税後の所得になっているか、点で見るような形もできるんだと思うんですね。

 なるべくそういう形で、いろいろな形で所得を把握していくということをしていただいて、最終形としてはやはりそういう給付つき税額控除みたいなものに向かって改革をしていく、国民の皆さん方にも現状がどうなっているのかということを見ていただくということが重要ではないかなというふうに思っております。

岡本(充)委員 ある意味それは、全体で、グロスでどういう課税になっているかというのが見えるようにして公平性を図っていく、それをある意味ITやさまざまな先進的な技術を取り入れてやっていく、こういう御指摘だというふうに理解しました。

 続いて、ちょっと男性の育休についてお尋ねしたいと思いますけれども。

 連合さんはかねてより男性の育休取得に大変熱心にお取り組みだと理解をしておりますが、その一方で義務化の動きがあるというふうにも聞いておりますけれども、こういった義務化について連合の考え方はどのようになっているか、教えていただければ幸いであります。逢見公述人、お願いいたします。

逢見公述人 男性の育休取得促進ということは我々連合でも強く主張しているところですが、これはあくまでも権利の行使であるというふうに思っておりまして、義務づけというのは、これは使用者がいわば強制的にとらせるということになるんですが、これは、それぞれの子育てをどのように家庭の中でやっていくかという中で、権利として誰がいつどのように行使するかということはやはり本人の選択に任せるべきだと思います。

 ただ、取得しやすい環境をつくるということによって男性も取得できるような環境、これは制度的環境もあるし社内の風土的な環境もありますが、そういったものを改善するということが必要だというふうに私は思っております。

岡本(充)委員 ありがとうございます。

 やはり権利でありますから、もちろん義務化ということをするというのはなかなか難しいと私も思っています。

 私などは、自分が所属する国民民主党の社会保障調査会でこれまでも、育休取得のためのいわゆる給付金、休業給付金の引上げ、それはもちろん今の水準を上げていく、短期間でも上げていって男性がより給与的なギャップを小さくしていくことができないか、こういうことを提言をしてきたわけでありますけれども。

 きょう八代参考人も最後に、男性の育児休業取得率引上げを御指摘をされています。こうした休業給付金の引上げというような手法についてはどのようにお考えになられるかということについて、教えていただければと思います。

八代公述人 ありがとうございました。

 もちろん今育児休業をとりますと雇用保険の方から一定の比率で給付されるんですが、やはり働いていたときよりは少ないわけで、そういう意味で、生活が苦しい家庭では給料の高い夫がとることが困難になるということは当然あり得るかと思います。その意味で、給付金の引上げというのも一つの手だと思いますが、私はそれだけでは無理だと思うんですね。

 先ほど言いましたように、義務化するかしないにかかわらず、今の育児休業法というのは暗黙のうちに女性がとることを想定しているわけでして、女性の場合は、授乳とか、いろいろな場合で完全に休業した方がいいわけですが、男性の場合は、先ほど言いましたように、パートタイムで育児休業をとれるような現実的なやり方をすることによっていろいろな責任を持つ人もとりやすくなる。だから、義務化するかしないにかかわらず、こういう男性がとりやすいような仕組みにしていくということが私は最も重要だと思うんですね。

 ただ、ここには実は障害がありまして、これに対しては反対論があるんですよね。つまり、なぜかというと、育児休業中に働けるような仕組みをすると、使用者がこれを悪用して、育児休業中でも一部は働け、そういうおそれがあるということがあって、それはそうなんですが、しかし、そういうふうに厳格に、休むのならもうとにかく徹底的に休まなきゃいけないというしゃくし定規な形にすると、なかなか男性の育児休業は進まない。このあたりをどうするかというところが非常に難しい点だと思います。

岡本(充)委員 介護休業なども時間単位でとれるようにしようという話、まさにこの時間単位でとれるというのが、先生がおっしゃるパートで働けるということの裏返しではないか、こう思うわけですけれども。おっしゃるように、しっかりとした休業をするということでより安定的に子育てに取り組める、そういう側面もあるんじゃないかということもあって、おっしゃるように、どのように取得しやすい環境をつくるかというのは本当に課題でして、私もそこはまだまだ工夫をしていきたいと思っています。

 最後に、もう一度、小黒公述人にお聞きしたいと思います。

 この間の消費税増税の経済への影響をお話しいただきました。

 これから先、消費税を更に増税をしていくというような議論が起こったときには、これまでのトレンドを見る中で、経済的影響という観点から見たときに、引き上げるのはなかなか難しい状況に入っていくのではないか、そういうお考えをお持ちではないかと思うんですが、そこら辺はいかがでしょうか。

小黒公述人 御質問ありがとうございます。

 今は、人口もだんだん減少してきている、他方で地方も非常に経済的に厳しい状況になっているという中で、経済成長率そのものに出ているわけですけれども、消費税を一%引き上げたときのインパクトというのは、先ほどお配りした資料の中でも出ておりますけれども、低いときは大体〇・六%ぐらい、一%当たりでショックがある。現在は、先ほどの資料を見ていただければわかりますけれども、軽減税率を入れておりますが、これでも〇・九三%ぐらいになっている。

 ちょっとこれはラフな計算ですので、当然今は、景気の認定の関係で政府の方ではいろいろありますけれども、ただ、CI一致指数で見るとやはりかなり景気は下降局面にあるという中での話ですから、もしかすると変わるかもしれませんが、やはりインパクトが少し大きくなってきているかなという認識は少し持っております。

 ただ、GDPギャップで見ますと、日本銀行のやつですけれども、これはまだ需要サイドの方が供給よりも大きい。それにもかかわらず、やはり少しインパクトが大きくなってきているということを考えると、今後引き上げるのは、やはり相当、だんだん難しくなってくるなと。そういう意味で、ぜひなるべく早くいろいろな改革を進めていただければというふうに思っております。

岡本(充)委員 もう少しお伺いしたかったんですけれども、限られた時間でありまして、時間が参りました。

 それぞれの先生方の御意見を大変参考にしながら、これからも予算委員会の審議を進めていきたいと思います。

 本日はありがとうございました。

棚橋委員長 次に、宮本徹君。

宮本委員 日本共産党の宮本徹です。

 本日は、四人の公述人の皆さん、大変貴重な御意見をありがとうございます。

 まず、逢見公述人にお伺いしたいと思いますが、先ほどのお話で、雇用によらない働き方に対して幅広いセーフティーネットが必要だというお話がございました。

 本委員会でも、ウーバーイーツの皆さんの問題を我が会派でも取り上げさせていただきましたけれども、連合の皆さんもこの問題に一生懸命取り組まれていると思うんですが、雇用によらない働き方が広がる中で、どういう保護が具体的に必要だというふうにお考えになっているのか、御意見をお聞かせいただきたいと思います。

逢見公述人 ありがとうございます。

 連合としても、この雇用によらない働き方の問題は非常に、これからのデジタル経済化が進む中で更にふえてくるんじゃないかということが予想されますので、しっかりした対応をすべきというふうに思っています。

 方法としては、三つほどあると思います。

 一つは、形式的に自営業、雇用ではないという形になっているけれども、しかし、実際の働き方を見るとこれは雇用と分類されるべき働き方ではないか。こういう誤った分類、誤分類というふうに言っていますが、この誤分類のところは、例えば裁判判例などを通じて、雇用労働者であるということの立証が必要だというふうに思っていまして、これは連合としても、個別裁判も含めて全面的に支援して、こうした誤分類判断を正していくということはやっていっております。

 それから、現行の労働法制がカバーし切れているのかということがありまして、そうした新しい働き方に対応した労働法制の見直し、ワークルールの見直しをすることによって、こうした労働法制からカバーし切れない人たちをなくしていくということをやっていかなきゃいけないと思います。

 それから、それでもなお雇用労働者には当たらないという人たちもあると思います。フリーランスで、みずから自由な働き方を選んでいるという人もいます。ただ、こういうところについては、労働法制ではなくてもカバーし得る、例えば経済法でカバーするとか、あるいは協同組合法でカバーするとかですね、そういう形で、労働法でカバーし切れない人たちについても、保護という視点からカバーする法律をつくるべきだというふうに考えております。

宮本委員 ありがとうございます。

 次に、小黒公述人にお伺いしたいと思いますが、先ほど、消費税増税のインパクト、ショックが一%当たりで見ればだんだん大きくなってきているというお話がございましたが、その原因についてはどういうふうに分析されているんでしょうか。

小黒公述人 ちょっと繰り返しになりますけれども、先ほどの資料に基づいて説明させていただきます。

 二〇一九年度十月ですけれども、このときに増税したインパクトというのは一%当たりマイナス〇・九三%。二〇一四年の四月時点での、若干ラフな計算ですけれども、このときの一%当たりのショックというのはマイナス〇・七七%ということで、一%当たりで見ると、少し大きくなってきているような感じはしております。

 ですけれども、ここはちょっと気をつけなければいけないのは、地方が疲弊しているということも当然ありますけれども、まず一つは、二〇一四年時点と二〇一七年時点では、景気の下降局面か、そうじゃないかというところもかなり影響を与えている可能性もあるのではないか。もし仮にこれがもう少し前の二〇一七年であるとか一八年の増税であったら、もしかしたら違うかもしれないということもありまして。一つ、これはまだ断定はできないんですけれども、これは最後のタイミングで増税するところだったとは思うんですね、これ以上行きますと、多分もう明らかに景気後退局面に入るので難しかったので、もうここしかなかったと思うんですが、やはり、この部分がきいている可能性がまず一番大きいかなと。

 ただ、ちょっと繰り返しになりますけれども、財務省の法人企業統計も盛り込んでおりませんので、その結果を盛り込んだ結果はどうなるのかということについては、ちょっと現時点ではお答えできないということだと思います。

宮本委員 ありがとうございます。

 もう一点、小黒公述人にお伺いいたします。

 持続可能な社会保障制度にしていかなければならないというお話がございました。同時に、持続可能な国民の暮らしを守っていかなければならないと。そういう点でいえば、基礎年金が今三割減ってしまうという事態は、やはり政治としては何としても解決しなければならないということだと思うんですが。小黒公述人は国民年金と厚生年金の財政統合ということなんかも提唱されておりますが、その効果について、わかりやすく説明していただけるでしょうか。

小黒公述人 先生、御質問ありがとうございます。

 二〇一九年の財政検証によりますと、これは幾つかケースがございますけれども、全部で六つのケースがございます。その中の真ん中のケース3でございますけれども、今、二〇一九年度の所得代替率が大体六一・七%でございますが、これが、大体二〇四七年ぐらいにマクロ経済スライドの調整が終わって、そのときの所得代替率は五〇%ちょっとぐらいになる。このとき、モデル世帯でやっておりますので、基礎年金の部分について大体三割ぐらい実は所得代替率が下がって、厚生年金の二階部分については三%ぐらいしか実はカットされないというような形になっております。

 今、政府の方でも、適用拡大という形で、なるべく国民年金から厚生年金に移っていただいて、厚生年金の方に入ってくるという形をとっておりますけれども、これは、ある意味で、国民年金というのは非常に規模が小さい家みたいな形になっている一方で、厚生年金というのはバランスシートを見ても非常に大きな形になっておりますので、もし仮にこれを両方統合することができれば、私の試算では、大体、基礎年金の一階の部分と二階の部分を含めて、ともに八%ぐらいのカットで済むような形になるのではないかというふうに推計してございます。

宮本委員 ありがとうございました。

 八代公述人にもお伺いしたいというふうに思います。

 今国会は、この予算委員会でも、安倍政権のもとで税金が私物化されている、こういう、桜を見る会の問題、議論になっております。また、検察の定年延長についても、国会で当初説明されていた法令の解釈が変えられてしまうということなども議論になっているわけです。

 それで、私は、安倍政権のもとで行政がゆがめられたという点で忘れられないのは、やはり加計学園のときの問題であります。

 八代公述人は、国家戦略特区のワーキンググループの一員だったというふうに思います。そして、獣医学部新設の議論にも参加されていたというふうに思います。

 あのとき、加計学園と同時に京都産業大学も手を挙げて、ワーキンググループでのヒアリングもやられていたわけです。私たちも京都産業大学の環境の話なんかも当時からお伺いしていましたけれども、かなり早い段階から京都産業大学も準備を始められて、加計学園が構造改革特区に手を挙げるよりも前から準備をされておられたわけであります。

 ところが、二〇一八年四月開学という条件が最後につけられたことによって、京都産業大学は断念に追い込まれる。十年にわたって、わざわざ十年ぐらい前から鳥インフルエンザ対策の権威であった大槻教授を招聘して準備されていた方が諦めざるを得ないという事態になったわけですよね。

 そこで、せっかくの機会なのでお伺いしたいんですけれども、議事録を改めて見ますと、八代公述人は、当時、獣医学部は多ければ多いほどいいというふうに発言をされておられます。そして、京都の話と今治の話、両方聞かれていたわけですけれども、率直に、その二つの、両方のお話を聞かれて、どっちの提案がいいなというふうに感じられていましたか。

八代公述人 御質問ありがとうございました。

 かなり古い話で、私もそれほど真面目に特区の委員会に出ていたわけじゃないので全ては存じませんけれども、私が獣医学部は多い方がいいというのはそのとおりです。

 なぜかというと、文科省の極めてひどい規制によって、獣医学部というのは新設の届出自体ができないという全くおかしな仕組みがあるわけですね。これは獣医学会の既得権そのものによるわけでして、特区というのはそういう既得権を打ち破るためのものでありますから、獣医学部に限らず、少なくとも届出は認める、認めた上で、本当にそれが正しいかどうかというのをきちっと文科省の委員会で審査する。それを、届出も認めないで門前払いするという、物すごい利権があったわけですよね。

 ですから、それは、私自身はどっちがいいかというのはよく覚えていませんが、どっちも、それから三つ目もたしかあったと思いますが、獣医学部というのは今非常に必要とされているんですね。つまり、加計か京都かどっちか忘れましたけれども、獣医学部というのは別にペットのお医者さんをつくるところだけじゃないわけで、渡り鳥がやってくるといつもウイルスの感染が起こる、だから、そういうまさに渡り鳥対策としてプロの獣医が必要である。これが一つと、あと、新しい薬をつくるときに、今は実験動物にネズミ、ラットを専ら使っているんですが、できれば豚とかもう少し大きな実験動物を使えば、もっと効率的に薬がつくれる。そのためには獣医さんが必要なんです。

 ですから、獣医さんが必要とされているのに、そういう利権の巣によって、獣医学会の長が現に講演でこう言っておられるんですね、私の力で一つにさせたと言っておられるわけでして、なぜ獣医学会のすさまじい利権の方が全く問題にならなくて特区の方だけが問題なのか、私はこれは全く理解できません。

宮本委員 今御紹介があった、ライフサイエンスの話だとか豚を実験にするだとか渡り鳥の対策は、恐らく全部、京都の側の話だったんじゃないかなというふうに思いますが。

 私、総理ともここで当時議論したんですけれども、私たちが問題にしたのは、獣医学部をつくることがいいか悪いかという話じゃなくて、獣医学部をつくるときに、なぜ加計学園しか通れない条件をつくったのかということなんですね。

 二〇一八年四月、これはスケジュール感を事前に共有していた加計学園だけが準備できたわけですよ。それを知らされていなかった京都産業大学は、もっと早くから準備していたのに、できなかったわけであります。

 この二〇一八年四月に限るという条件というのは、八代公述人は、相談があったんでしょうか。こういう条件についてはどう思われるでしょうか。

八代公述人 私は、特区ワーキンググループは、決して大物じゃなくて、とてもそんな大事なことは相談にあずかった覚えはございません。

 それから、繰り返し言いますが、一つにしろというのは獣医学会の方が言ったわけで、特区ワーキンググループは、私も含め、できるだけたくさん同時につくりたい、今まで長年の、利権を守るために獣医学部の新設が阻まれていた、これを国家戦略特区で打ち破ることが何より大事なんだということがあったわけです。

 よろしいでしょうか。

宮本委員 獣医学会が言っていたわけだけじゃなくて、この二〇一八年四月に限るという条件はどこから出てきたのか、全く私も幾ら聞いてもわからないんですよ。まさに、幾らでもたくさんつくったらいいじゃないか、そういう話が、二〇一八年四月に限ると。

 いろいろな内部文書が当時出てきました。与党の皆さん、政治家の発言も出てきました。総理の御意向だとか、そういうものも出てきました。ですから、ワーキンググループの皆さんの意見とも関係ないところで、加計学園だけが通れる条件がつくられていったということが、きょうのお話を聞いても大変よくわかったところでございます。

 時間になりましたので……(発言する者あり)わからないという方がいるので、じゃ、もう少しお話しさせていただきますが……(発言する者あり)時間、回っていますか。いますので、わからないというんだったら、また今度、国会で議論させていただきます。

 どうもありがとうございました。

棚橋委員長 次に、杉本和巳君。

杉本委員 最後の質問者でございますが、維新の杉本和巳です。

 四人の公述人の先生方には、示唆に富むお話、本当に、同僚議員とともに改めて学ばせていただきました。

 小林先生から、財政への信認というお話がありましたけれども、財政ニアリーイコール政府ということで、政府の信認という意味で、もうちょっと広い意味で信頼されないと、財政破綻のお話も含めて、我々は緊張感を持ってやっていかなきゃいけないんじゃないかと、ちょっと冒頭申し上げておきます。

 それと、いつぞやか、私、本会議場で、総理、副総理に、質問だったか討論だったかは覚えていないんですけれども、シェークスピアの「ハムレット」を引用させていただいて、借金になれると倹約がばかばかしくなるといったようなお話をさせていただいた覚えがありますので。

 またもう一点、これは財金で私申し上げたかもしれないんですが、一九七六年にイギリスはIMF危機を迎えております。OECD、先進国であっても危機が起きる、アルゼンチンとか南米の国々とかそういった国、あるいはギリシャとかに限らないという認識を我々持たなきゃいけないなということを冒頭申し上げたいと思います。

 ちょっと相前後するんですが、財政の話は後段でさせていただいて、まず、八代先生にお伺いしたいんですが、先生の資料の中に、オーストラリアの年金支給開始年齢が七十歳になるというのがあるんですけれども、これはよく読むと、引上げ時期が二〇三五年という大分先に、これは法案を与野党が合意して通したという、本当に政治として立派な国会運営がなされて、この平均受給期間が九・五年というような。

 先生、前、私どもの維新の勉強会で、年金というのは死なない保険だ、最後の十年のための保険だみたいな御示唆のお話があったかと思うんですが、このオーストラリアの、引上げ時期を大分先にしているけれども支給開始を七十歳にしたという話を、少し国会議員の同僚の皆様にも共有いただきたいので、ちょっと御指導いただけないでしょうか。

八代公述人 御質問ありがとうございました。

 まさしく、おっしゃるとおりで、年金の支給開始年齢を上げるというのは国民生活に極めて大きな影響をもたらしますから、来年から上げるということはあり得ないわけですね。だから、日本でもかなり余裕を持って二〇二五年から引き上げるということになっておりますし、オーストラリアとかほかの国もそれより後の時期から上げるということになっているわけです。

 大事なことは、しかし、政府がこれをコミットするということなんですね。つまり、社会保障の赤字というか、社会保障の保険料と給付のギャップというのは年々高まっていくわけで、これが実は財政赤字の一番大きな要因になっている。だから、社会保障の改革を進めなければ財政再建というのはほとんど不可能なわけです。

 ですから、その意味で、今すぐではないけれども、少なくとも政府は二〇三五年とか二〇三〇年のときから上げますよということを今のうちにコミットしておくということが極めて重要な政策なので、日本も仮に七十に上げるんだったら、多分、三五年とか、そういう、かなり余裕を持ってやることになると思いますが、今、全くその議論を封印しているというのが大事な問題なわけですね。議論すらしない。専らマクロ成長スライドの方ばかりやっているんですが、これは先ほども別の公述人の方から言われていましたように、非常にこれは厳しい政策なんですね。貧しい方にも一律にカットするわけで、このスライドの方は。

 この支給開始年齢を引き上げるということは、ある意味で自分で選べるわけです。もっと長く働いてもいいし、もっと早くからもらって減額年金を受け取ることもできる。それだけ選択肢が広いということは、極めて、そういう意味では、国民が自分で決められるということが大事なわけで、一律にマクロ成長スライドを強いられるということよりははるかにいい政策だと思っております。

杉本委員 ありがとうございます。

 次に移りたいと思いますが、今度は、働き方改革、給料のあり方みたいなところ、あるいは解雇ルールみたいなところを連合の逢見さんと八代先生に短くちょっとお答えいただきたいんですが。

 いわゆる国家公務員なんかも、人事院の仕組みがあって、いわゆる労使交渉ができないというような状況があったりします。一方で、年功序列で、何かきょうも予算委員会理事会で、国家公務員の定年延長の法案の準備をいろいろしているというお話がちょっと出てきたんですけれども、えっと思ってはいるし、自民党の中でも、国家公務員の皆さんだけ年をとってもどんどんどんどん上がっていって、民間はそうではないというようなのがあっていいのかというようなことを塩崎先生が提起されていたりというようなことがありますけれども。

 ちょっと話が長くなりましたが、この給与のあり方、いわゆる実績給のようなものをもうちょっと重視していくべきではないかと私は思っていますけれども、そんな点とか、あるいは解雇のルールは、人材の流動化、お話にあった、単身赴任者がどんどんふえていっているというような実情とか人事院の仕組みとか、こんな点について逢見公述人、八代公述人の順で御答弁いただければと思います。

逢見公述人 質問ありがとうございます。

 公務員の定年延長につきましては、民間も、今、六十五歳までの雇用ということになっていますが、定年延長という選択肢だけではなくて、雇用延長とか定年をなくすという選択肢もあって、実態として、六十歳で雇用を打ち切って、その後、再雇用なり雇用継続になっているというのが多くて、その際に賃金が大幅に下がっているということがあって、こちらはこちらで是正していかなきゃいけない点もあるんですが、公務員については、定年延長というのは、基本的にはこれを進めていく必要があると思っています。

 あとは、賃金の処遇の問題ですので、これは民間準拠というのが基本ではありますが、民間の六十歳以降の賃金のあり方についてはいろいろと課題もありますので、そういったところは現状とそれからあるべき姿をよくよく検証していく必要があると思います。

 よく年功賃金と言われますけれども、いわゆるエスカレーター的に、勤続年数がふえれば自動的に上がるという仕組みをとっている企業は民間ではもう極めて少なくて、能力や熟練度の高まりを評価しながらその中で上げていくということで、一律に上がる年功賃金というイメージはもはや過去のものと言っていいと思います。

 それから、解雇ルールの問題については、今も厚労省の中でも検討しておりますけれども、我々は、雇用についてのいわゆる金銭解決ですね、これを、もともと解雇有効であるか無効であるかを争って、解雇が無効であれば復帰しなきゃいけないわけですね。有効であれば、そこでやった解雇はそれでいいということになるんですが、解雇無効であっても金銭を払えば解雇できるということは、裁判の上でもあるいは働く人たちのモラルの上でも非常に問題があるというふうに思っていまして、こうした点については、やはり働く人たちのモラルダウンにならないような方針をとるべきだというふうに思っております。

八代公述人 時間もありませんので、後の方だけちょっとお答えさせていただきます。解雇の金銭補償の方で。

 今、逢見委員がおっしゃったのはそのとおりなんですが、多くの場合、解雇無効になったときに、職場復帰ではなくて、そこで和解して金銭補償を、事実上の金銭補償を受けているというケースがかなりあるわけでして、そのときに解雇ルールがないために、金銭補償の水準は企業の払える額に応じて青天井になっている、少ない方は少ないわけですけれども。そういう意味で、極めて不公正みたいなものが存在する。

 それから、そもそも、そういう裁判に訴えられるのは、やはりそれだけの裁判の費用とかその間の所得保障ができる強い組合に支えられている労働者はそれでいいわけなんですが、多くの中小企業の労働者はそんな余地がありませんから、もう労働基準法に決められた一カ月の解雇手当をもらってしか、解雇されてしまうということがあるわけで、この解雇の金銭補償ルールというのは、そういう裁判に訴えなくても、中小企業の労働者であってもしかるべき補償が受けられるという面がほとんど議論されていない。

 ですから、そういう意味で、これは解雇される労働者にとっても、いい面もあるんだということを、ぜひ、特に中小企業の労働者の場合はこういうことをきちっと議論する必要があるかと思います。

杉本委員 ありがとうございます。大変示唆に富むお二人のお話、ありがとうございます。

 次に、ちょっと財政の問題を伺いたいんですが、小林先生が編者で、小黒先生が一番上に名前が書いてある「財政破綻後 危機のシナリオ分析」ということで、「もはや「最悪の事態」を想定しない限り、真の危機は回避できない。経済・財政、社会保障の専門家が、様々な角度から示す“衝撃の論考”。」というのがあって、この書物の中、もう一通り読んで、何度も読んでいるんですけれども、八十八ページから八十九ページにかけてモンテカルロ・シミュレーションの話がありまして、ここで財政の破綻確率について考えてみようと。ちょっと飛ばしまして、二〇二五年の破綻確率はベースラインの九%弱である、他方、二〇三五年の財政破綻確率は衝撃的だ、同年の確率はおおむね一〇〇%に上るというくだりが実はあって、この二〇三五年あたりが危ないのかなというふうに、私は実は、このモンテカルロ・シミュレーションの結果、意識し始めておるんですが。この間ちょっと茂木外務大臣にお話ししたら、一生懸命メモしてくださいましたけれども。済みません、話が長くなったんですが。

 この破綻の定義と破綻の時期、可能性、この点について、小林先生と小黒先生に伺いたいんですけれども、時間があれば、ぜひお願いします。

小林公述人 御質問ありがとうございます。

 モンテカルロ・シミュレーションは小黒先生がやられた研究ですけれども、破綻の確率を理論的に示すということは、これは不可能というか、今の経済学のモデルではまだできていない。まさにこれから知見を深めて、理論をつくっていかなきゃいけないというような段階であります。

 きょうの前半の私の話のように、金利が低い状態が、成長率の低い状態が続くのであれば、しばらくはもつだろうということは言えるんですけれども、では、それがいつ反転するのかということはなかなか予想がつかないので、わからないということが現状だということで御理解いただけるかと思います。

小黒公述人 シミュレーションですので、そのときにシミュレーションしたときの経済それから財政の前提で延長していったもので推計している。例えば一つは、GDP比で見た債務残高がこれぐらいの水準を超えたらさすがに難しいだろう、あるいは、一国全体、日本全体の家計の金融資産に対して債務残高がこのぐらいの水準を超えたら難しいだろうというような一定の前提を置いた上で金利と成長率の不確実性を加味して、モンテカルロ・シミュレーションして、それが一定の閾値を超えるのかどうかということをやっているものでございます。

 まず、一つ大きく環境が変わったのは、その当時のシミュレーションと大きく違うのは、まず、消費税が確実に上がっている。もう一つは、プライマリーバランスについてもある程度改善してきているということもございますので、今、推計をし直すとちょっと数値は変わってくるんだろうと思います。

 ただ、やってみないとわかりませんが、それでも今の日本の財政が置かれている現状というのはやはり相当厳しい状況であるということは間違いないと思います。

杉本委員 まだ時間があるようなので……(発言する者あり)ないんですか。終わりましたと来ないんですけれども。終わりですか。もう時間ですか。

棚橋委員長 いや、まだ、もう少しだけございます。

杉本委員 ちょっと、私の個人的な意見としては、今、日銀の資産の中身が相当危機的だという点を申し上げておいて。

 財政の話じゃなくて、もう一点、消費税。

 連合の逢見さんに伺いたいんですが、五%に下げるとか八%に下げるとかゼロにするとかという議論が出ていますけれども、連合さんの御所見はどんな状況か、確認させていただきたいと思います。

逢見公述人 今回の一〇%は、税と社会保障の一体改革の中で、一〇%にすることを見込んで、それに見合う給付の充実というのもやってまいりましたので、これは必要な施策だというふうに思っております。

 今後を考えると、やはり社会保障の財源というのは更に必要になってくるわけです。消費税は社会保障だけに使うという目的税化されているわけです。そういった意味で、やはり今後の社会保障を考える上で、消費税の今後の負担のあり方というのも当然議論していくべきテーマになると思います。

杉本委員 時間となりました。

 以上で終わります。ありがとうございました。

棚橋委員長 これにて公述人に対する質疑は終了いたしました。

 公述人各位におかれましては、貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございます。厚く御礼を申し上げます。(拍手)

 以上をもちまして公聴会は終了いたしました。

 次回は、来る二十六日午前九時から委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。

    午後三時三十九分散会


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